説明

セルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法及びフィルムの製造方法

【課題】 フィルムベースに形成されている高級脂肪酸エステルを含有する下塗り層を除去する。
【解決手段】 有機溶媒12,TAC13及び添加剤15からドープ16を調製する。ドープ16を流延工程21,乾燥工程22を行うことでTACからなるフィルムベースを得る。フィルムベースの表面には下引き層を裏面にはバッキング層を塗布工程23で塗布し、後乾燥工程24で乾燥させて形成してフィルム26を得る。フィルム26に機能性層を付与して写真感光材料などの製品フィルム28を得る。フィルム26,製品フィルム28を洗浄液により処理工程30を行い高級脂肪酸エステル除去する。高級脂肪酸エステルが除去されているTACは再生TAC14としてドープ16の原料として再利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を用いて形成された製品フィルムからセルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する方法及び回収された前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を再利用するフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース低級脂肪酸エステル樹脂、その中でも特にセルロースアシレート、さらには57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(TAC)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルムベースとして利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、通常溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法は、溶融製膜などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れるフィルムを製造することができる。溶液製膜方法は、ポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。そのドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成する。流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、この膜を湿潤フィルムと称する)として剥ぎ取り、乾燥させた後にフィルムとして巻き取る(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
前記TACフィルム写真感光材料のフィルムベースとして用いる場合には、写真感光層の塗布が容易に行われるように下引き層が塗布されたフィルムとして用いられる。写真感光材料を作製する場合には、フィルム上にハレーション防止層,中間層,赤感性乳剤層,中間層,緑感性乳剤層,イエローフィルタ層,青感性乳剤層そして保護層が形成されるように多層塗布が行われる。
【0005】
近年ではTACフィルムなどのプラスチック製品の処理方法として埋め立てや焼却などの処理が困難になりつつある。また、環境保護並びに環境保全の観点から製品の再利用、再生リサイクル化などが必須の要件となっている。そこで、TACフィルムを再利用するために前記乳剤層を酸化ハロゲン化合物又は過酸化物を含む10℃〜40℃の水溶液で処理する。その後に酸化ハロゲン化合物又は過酸化物を含む50℃〜100℃の水溶液で処理する方法が知られている。前記処理を行うことで、TACフィルムを再生することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、前述したようにTACフィルムは、液晶表示装置の様々な部材に用いられている。代表的な例としては、偏光板の保護フィルムとして用いる例があげられる。偏光板からのTACフィルムの再生は、偏光板を粉砕,断裁により所望のサイズのチップ(例えば、0.1mm〜20mm)とした後にpHが7以上の水溶液でTACフィルムと偏光膜とを剥離分離している。また、偏光膜はヨウ素や二色性色素で染色するため、前記水溶液で剥離分離を行った際に、TACフィルムが着色されているおそれがある。このような場合には、還元剤を用いて脱色する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【特許文献1】特開2004−29407号公報
【特許文献2】特開2003−3009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フィルムベースの表面には機能性層を形成して用いられることが多い。写真感光材料用フィルムベースでは、例えば乳剤層を塗設する面に、乳剤層との密着性を付与する層を形成する。また、反対側の面、すなわち裏面(バック面)にバッキング層(バック層)を形成することにより、フィルム裏面の耐擦傷性、帯電防止、ハレーション防止、カールの防止、乳剤とバック面との接着防止などの効果を有する。また、このバッキング層形成用溶液には、表面の潤滑性を付与するために高級脂肪酸エステル(ワックス)を使用することがある。この場合、バインダーとしてDAC(セルロースジアセテート)などが用いられている。
【0009】
高級脂肪酸エステルは、前記特許文献1の方法により洗浄除去することは困難である。また、特許文献2の方法では、複数のフィルムが接着されているものを剥離する方法であり、フィルムベースに塗布され形成されているバッキング層の除去には効果的でない。
【0010】
本発明の目的は、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を基材とするプラスチック製品から、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を基材とするフィルムから、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂以外の成分、特に高級脂肪酸エステルを除去して、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を前記フィルムの原料として再利用するフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法は、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を基材とするプラスチック製品から、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する方法において、下記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で前記プラスチック製品を処理し、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する。
【化1】

式中Aはスルホン酸、リン酸から選ばれる酸またはその金属塩を表わし、R1は少なくとも炭素数10以上の分岐脂肪族基を表わし、Lは2価の基を表わし、JはR1−LとAとを連結するn+m価の連結基を表わし、nは1から6の整数を表わし、mは1から3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数のAは同じであっても異なっていてもよい。但し、R1(nが2以上のとき全てのR1の総和)の総炭素数は20以上である。
【0013】
前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂が、セルロースアシレートであることが好ましく、より好ましくはセルロースアセテートであり、最も好ましくはセルローストリアセテートである。
【0014】
前記プラスチック製品がその表面または裏面の少なくとも一面側に機能性層を有するものであって、前記機能性層に高級脂肪酸エステルが含まれていることが好ましい。前記水溶液で前記プラスチック製品を処理する際に、前記水溶液の温度を30℃以上200℃以下とすることが好ましく、より好ましくは50℃以上120℃以下であり、最も好ましくは70℃以上100℃以下である。前記プラスチック製品を溶解または膨潤させる有機溶媒を前記水溶液中に1重量%以上30重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは10重量%以上30重量%以下の範囲とすることである。
【0015】
前記水溶液中に前記一般式(1)の化合物を0.005重量%以上1重量%以下の濃度で含有させることが好ましく、より好ましくは0.01重量%以上0.5重量%以下の範囲であり、最も好ましくは0.03重量%以上0.3重量%以下の範囲とすることである。また、前記プラスチック製品が、プラスチックフィルムであることが好ましい。
【0016】
本発明のフィルムの製造方法は、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂と有機溶媒とを含むドープを流延乾燥してフィルムベースを製造した後に、前記フィルムベースに機能性層を形成してフィルムを製造する方法において、下記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で前記フィルムを処理し、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収し再生して、前記ドープの原料とする。
【化1】

式中Aはスルホン酸、リン酸から選ばれる酸またはその金属塩を表わし、R1は少なくとも炭素数10以上の分岐脂肪族基を表わし、Lは2価の基を表わし、JはR1−LとAとを連結するn+m価の連結基を表わし、nは1から6の整数を表わし、mは1から3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数のAは同じであっても異なっていてもよい。但し、R1(nが2以上のとき全てのR1の総和)の総炭素数は20以上である。
【0017】
前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂が、セルロースアシレートであることが好ましく、より好ましくはセルロースアセテートであり、最も好ましくはセルローストリアセテートである。
【0018】
前記機能性層に高級脂肪酸エステルが含まれていることが好ましい。前記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で処理する際に、前記水溶液の温度を30℃以上200℃以下とすることが好ましく、より好ましくは50℃以上120℃以下であり、最も好ましくは70℃以上100℃以下である。前記フィルムを溶解または膨潤させる有機溶媒を前記水溶液中に1重量%以上30重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは10重量%以上30重量%以下である。前記水溶液中に前記一般式(1)の化合物を0.005重量%以上1重量%以下の濃度で含有させることが好ましく、より好ましくは0.01重量%以上0.5重量%以下であり、最も好ましくは0.03重量%以上0.3重量%以下である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法によれば、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を基材とするプラスチック製品から、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する方法において、前記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で前記プラスチック製品を処理することによって、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収するから前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂以外の不純物を除去できる。
【0020】
前記プラスチック製品がその表面または裏面の少なくとも一面側に機能性層を有するものであって、前記機能性層に高級脂肪酸エステルが含まれていても、前記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で洗浄処理することによって、前記高級脂肪酸エステルを容易に除去することができる。また、前記プラスチック製品を溶解または膨潤させる有機溶媒を前記水溶液中に1重量%以上30重量%以下の範囲で含有させると、前記高級脂肪酸エステルを除去する効果がさらに向上する。
【0021】
本発明のフィルムの製造方法によれば、セルロース低級脂肪酸エステル樹脂と有機溶媒とを含むドープを流延乾燥してフィルムベースを製造した後に、前記フィルムベースに機能性層を形成してフィルムを製造する方法において、前記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で前記フィルムを処理し、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収し再生して、前記ドープの原料とするから廃棄物を減少させることが可能となる。
【0022】
また、前記機能性層に高級脂肪酸エステルが含まれていても、本発明に係る前記一般式(1)を含む洗浄液で前記フィルムを洗浄することで容易にフィルムから前記高級脂肪酸エステルを除去することができ、前記高級脂肪酸エステルが除去された前記セルロース低級脂肪酸エステルを前記ドープの原料として用いることが可能となる。なお、前記フィルムを溶解または膨潤させる有機溶媒を前記水溶液中に1重量%以上30重量%以下の範囲で含有させると、前記高級脂肪酸エステルを除去する効果がより向上する。以上の方法を行うことで、ドープに不純物が混入することを防止でき光学特性に優れるフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[原料]
本発明に係るプラスチック製品は、セルロースの低級脂肪酸エステルを基材とするものである。プラスチック製品の中には、セルロースの低級脂肪酸エステルと低級アルキルエーテル(50重量%未満)とが複合したものも含まれる。本発明において低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、好ましくは4以下であり、セルロースアシレートを用いることが好ましい。
【0024】
本発明において、前記低級アルキルエーテルの低級アルキルとは、炭素原子数が4以下のアルキル基を意味する。本発明の方法は、製膜用ドープに用いる有機溶媒(例えばメチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒)に完全に溶解しうるようなプラスチック製品に対しても有効である。
【0025】
セルロースアシレートは、セルロースの水酸基への置換基が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースアシレートを用いることが好ましい。以下、下記式を満たすセルロースアシレートをTACと称する。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)0≦A≦3.0
(III)0≦B≦2.9
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対する炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。TACの90質量%以上が、0.1mm〜4mmの粒子を用いることが好ましい。本発明においては、製造されるプラスチック製品(例えば、フィルム)から基材であるTACを取り出して再利用を行う。この点については、後に詳細に説明する。また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0026】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液、分散液を意味している。
【0027】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0028】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。通常、これらを適宜混合して用いる。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0029】
セルロースアシレートの詳細については、特願2003−319673号の[0141]段落から[0192]段落に記載されている。これらの記載は本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤が同じく特願2003−319673号の[0193]段落から[0513]段落に詳細に記載されている。
【0030】
[洗浄液用化合物]
一般式(1)で表わされる洗浄液用化合物について詳細に説明する。
【0031】
【化1】

【0032】
一般式(1)中、Aはスルホン酸、リン酸、カルボン酸から選ばれる酸またはそれらの金属塩を表わす。Aとしては好ましくはスルホン酸、リン酸またはそれらの金属塩であり、より好ましくはスルホン酸またはその金属塩である。好ましい金属原子としてはアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウムなど)であり、より好ましくはアルカリ金属であり、特に好ましくはナトリウム、カリウムである。AとJとの結合は、Aがカルボン酸である場合は炭素原子で結合するが、スルホン酸、リン酸である場合は硫黄原子またはリン原子で結合してもよく、また酸素原子を介して結合していてもよい。
【0033】
1は炭素数10以上の分岐状脂肪族基を表わす。分岐形態は、前記脂肪族基を形成する炭素原子の一部または可能な限りの炭素原子が分岐していても良く、例えば、2−ヘキシルデシル基、2,2,4,4,7−ペンタメチルオクチル基、8−エチル−2,2,4,4−テトラメチルデシル基、オキソアルキル基(ノルマルアルキル基に分岐としてメチル基が3つ結合したものの混合物)などが挙げられる。また、前記脂肪族基を形成する水素原子がハロゲン原子(例えば、フッ素原子,塩素原子など)で置換されていても良く、酸素原子などの2価の基が途中に入っていても良い。さらにJを介して一般式(1)を構成単位とするポリマーの形態であってもよい。R1として好ましい炭素数はC11以上であり、より好ましくはC12以上である。R1として好ましい分岐形態は分岐がより多い脂肪族基であり、オキソアルキル基が特に好ましい。
【0034】
一般式(1)中、Lは2価の基を表わし、例えば−COO−(結合の方向はどちらでもよい)、−CHR2−、−O−、−CO−、−OCOO−(結合の方向はどちらでもよい)、−CONR2−(結合の方向はどちらでもよい)、−NR2CONR3−、−SO2−、−SO2NR2−(結合の方向はどちらでもよい)、−S−が挙げられる。R2,R3は水素原子またはアルキル基を表わす。
【0035】
Lとして好ましくは、−COO−(結合の方向はどちらでもよい)、−CHR2−、−O−、−CO−(結合の方向はどちらでもよい)、−COO−(結合の方向はどちらでもよい)であり、特に好ましくは−COO−(結合の方向はどちらでもよい)、−O−である。
【0036】
一般式(1)中、Jは連結基を表わし、LとAを連結する基であれば如何なるものであってもよい。L、J、Aの結合様式の例としては以下のものを挙げることができる。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
一般式(1)中、nは1〜6の整数を表わし、好ましくは2〜6である。一般式(1)中、mは1〜3の整数を表わし、好ましくは1である。
【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
一般式(1)で表わされる化合物はフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、もしくはそれらの酸無水物などより一般的なエステル化、スルホン化などにより合成することができる。なお、化学式中の(oxo)は、ノルマルアルキル基に分岐としてメチル基が3つ結合したものの混合物を意味している。
【0045】
本発明に係るセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法及び前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を再利用するフィルムの製造方法について、図1に示す製品フィルム製造工程図10に従い説明する。
【0046】
[ドープ調製工程]
始めに、ドープ調製工程11を行う。前記原料を用いてドープを製造する。溶解タンクに温度調整を可能とするジャケット、攪拌翼などが設けられている。ジャケット内に伝熱媒体を供給して溶解タンク内を所望の温度とする。また、攪拌翼を回転させることにより、溶解タンク内の液を攪拌して均一なものとする。溶解タンクに有機溶媒12、TAC13及び再生TAC14を入れて分散液を得る。なお、再生TAC14については後に説明する。その後に、可塑剤などの添加剤15を加える。これを攪拌機で攪拌してTACが溶媒中で膨潤している膨潤液を得る。
【0047】
前記膨潤液を加熱装置に送る。なお、加熱装置は膨潤液を加圧できる構成であるものを用いることが好ましい。膨潤液を加熱装置で加熱(例えば、60℃〜190℃)または加熱加圧条件下(例えば、60℃〜190℃、絶対圧力0.2MPa〜30MPa)でTACなどの溶質を溶媒に溶解させてドープ16を得る。このようなドープ16の調製方法を加熱溶解法と称する。また、膨潤液を−100℃〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法でドープ16を調製することも可能である。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択することでTACを溶媒に充分に溶解しているドープ16を得ることができる。
【0048】
前記のように膨潤液を調製した後に、その膨潤液をドープとする方法は、TACの濃度を上昇させるほど時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。その場合には、目的とするTAC濃度よりも低濃度のドープを調製し、その後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程を行うことが好ましい。濃縮方法は公知のいずれの方法を行うことができる。例えば、フラッシュ濃縮装置を用いる方法が挙げられる。フラッシュ装置内にドープを供給して、装置内でドープの溶媒の一部を蒸発させる。その溶媒は、凝縮器(コンデンサ)で凝縮液化して液体として回収する。この方法によりドープの溶質(特に、TAC)の濃度を上昇させることができる。さらに、ドープ中に発生している気泡を抜くための泡抜(脱泡)処理を行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法を適用しても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。脱泡処理がなされたドープはストックタンクに入れられる。
【0049】
TACフィルムを得る溶液製膜法での、ドープの素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特願2003−319673号の[0514]段落から[0608]段落に詳細に記載されている。これらの記載も本発明には適用できる。
【0050】
[フィルム製造工程]
次に、フィルム製造工程20が行われる。フィルム製造工程20は、流延工程21、乾燥工程22、塗布工程23、後乾燥工程24、フィルム耳端部切断工程25などの工程が順次行われる。
【0051】
始めに流延工程21を行う。流延工程21で用いられるフィルム製造ラインには、流延ダイと支持体とが備えられている。なお、支持体としては、流延バンドや回転ドラム(流延ドラム)が用いられる。例えば、流延バンドは、回転ローラに掛け渡されて無端で走行するものである。ドープ16は、ポンプにより濾過装置に送られて濾過される。流延ダイから流延ビードを形成して回転ドラム上に流延されて流延膜が形成される。流延時のドープの温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定に形成させるために、流延ビードの背面を減圧チャンバにより所望の値に減圧させることが好ましい。
【0052】
そして、流延膜を乾燥させる乾燥工程22を行う。流延膜は、回転ドラムの回転とともに移動する。このときに回転ドラムの周囲に設けられている乾燥機から乾燥風を流延膜に送風することが好ましい。流延膜が自己支持性を有するものとなった後に、フィルム(以下、湿潤フィルムと称する)として剥取ローラで支持しながら回転ドラムから剥ぎ取る。その後に多数のローラが設けられている渡り部を搬送させた後にテンタ式乾燥機に送り込む。渡り部では、送風機から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルムの乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルムにドローテンションを付与させることができる。
【0053】
その後に湿潤フィルムは、テンタ式乾燥機に送られる。テンタ式乾燥機では、湿潤フィルムの両縁がクリップで把持される。そして、湿潤フィルムは搬送されながら乾燥される。テンタ式乾燥機の内部を区画分割して、その区画毎に乾燥条件を調整することが好ましい。また、テンタ式乾燥機を用いて湿潤フィルムを幅方向に延伸させることもできる。
【0054】
テンタ式乾燥機から送り出される湿潤フィルムは乾燥が進行している。以下、これをフィルムベースと称する。次にフィルムベースに塗布工程23を行い所望の層を形成させる。フィルムベースの形成させる層の1つに下引き層の形成が挙げられる。下引き層は、TACからなる疎水性フィルムベースに親水性なハロゲン化銀ゼラチン乳剤層を強固に接着させるために設ける。下引き層には、ゼラチン,酢酸などをアセトンとメタノールとの混合溶媒に溶解した溶液が用いられる。
【0055】
また、フィルムベースで乳剤層が形成されない面(以下、裏面と称する)側にバッキング層を形成する。バッキング層の目的は多種多様である。バッキング層は、ハレーション防止,静電気防止,耐傷性,潤滑性付与,乳剤面とバック面との接着防止などを目的として形成される。なお、バッキング層には高級脂肪酸エステルなどのワックスが用いられている。前記塗布工程により塗布された下引き層、バッキング層などは後乾燥工程24により乾燥がなされ、フィルム原反が得られる。そして、フィルム耳部切断工程25によりフィルムの両縁(以下、フィルム耳部と称する)27を切断して商品としてのフィルム26が得られる。なお、フィルム耳部27の処理については、後に詳細に説明する。
【0056】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体(流延ベルト)などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング法、カール、平面性矯正後の巻き取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法までは、特願2003−319673号の[0610]段落から[0842]段落に詳細に記載されている。
【0057】
フィルム26として製造されたものにおいても、商品として適さないものがある。また、フィルム26を商品形態に応じて切断すると、切り残りが生じる。これらは後に詳細に説明する処理工程30を経て再生TAC14としてドープ調製用原料として用いる。
【0058】
[製品フィルム]
フィルム26から様々な製品フィルム28が得られる。製品フィルム28として写真感光材料を例にあげて説明するが、本発明に係る製品フィルムはそれに限定されるものではない。
【0059】
製品フィルム28として図2に示すようにカラーネガフィルムの例をあげる。フィルムベース40には、下引き層41と反対側面にバッキング層42とが形成されてフィルム26となっている。このフィルム26上にハレーション防止層43、中間層44、赤感性乳剤層(含赤色シアンカプラー)45、中間層46、緑感性乳剤層(含イエロー色マゼンタカプラー)47、中間層48、イエローフィルタ層49、青感性乳剤層(含無色イエローカプラー)50、保護層51の順に多層が形成されている。これら各層を形成させるためにそれぞれの塗布液を調製する。
【0060】
各乳剤(写真乳剤、感光乳剤とも称される)は、ハロゲン化銀の非常に微細な結晶粒子を媒体であるゼラチンに分散させてある。それぞれの乳剤には、カプラー(発色剤)を含有させてあり、現像処理後にそれぞれ発色する。
【0061】
ハレーション防止層液は、ゼラチン溶液を染料で染色されているか、ゼラチン溶液に黒色コロイド銀を分散させた液である。なお、ハレーションとは乳剤層と支持体(フィルムベース)、支持体と空気とのような屈折率の異なる界面で反射した光により乳剤層中のハロゲン化銀結晶が感光し画像のにじみとなる現象である。
【0062】
中間層液は、ゼラチン溶液にハイドロキノン誘導体、ヒドラジン誘導体などの還元性化合物や無呈色カプラーが添加されたものである。中間層は、現像主薬の酸化体が他の感光層に移動して他の層を発色させることを防止する。
【0063】
イエローフィルタ層液は、コロイド銀またはイエロー染料をゼラチン溶液に混合されたものである。イエローフィルタ層は、緑感層と赤感層に届く青色光をカットし、色分離を良くするために形成させる。
【0064】
保護層液は、ゼラチン溶液にシリカのような無機物質やポリマービーズ、アルカリ可溶性マット剤などが添加されている。感光層を保護するために形成させる。写真感光材料を製造中、あるいは製品として容器の中で製品フィルムの表面と裏面とが直接接触している際に剥がれ難くなることをも防止する。
【0065】
前記各塗布液は、公知の塗布方法によりフィルム26上に塗布される。塗布装置としては、特に限定されるものではないが、スライドホッパー塗布装置やカーテン塗布装置などが好ましく用いられる。
【0066】
前記方法により製造される製品フィルム28は、製品に応じて裁断などが行われ、切り残りが生じる。この切り残りは、少資源化やコスト低減のために再生させることが好ましい。また、製造された製品フィルム28を他の特性を有する製品フィルムとする場合もある。このときには、ベースフィルムに形成されている機能性層を除去する必要が生じる。
【0067】
[処理工程]
本発明に係るプラスチック製品としては、例えば写真フィルム、中でもカラーネガフィルムやカラーリバーサルフィルムなどを例に挙げることができる。これらのフィルムには、カメラや現像処理機などでのキズ、走行性といった性能を損ねないためにバッキング層42に高級脂肪酸エステルのワックスにより滑り性が付与されることがある。本発明に係るセルロース低級脂肪酸エステルの回収方法は、これら高級脂肪酸エステルが付与されているフィルムに特に有効である。また、製品フィルム28となる前のフィルム26においても、切り残りや製造トラブルにおける廃棄物が発生するおそれがある。そのような場合にも環境保護などの点からフィルム26の基材であるセルロース低級脂肪酸エステル樹脂(例えば、TAC)を再利用することが好ましい。また、前記フィルム耳部27を構成しているセルロース低級脂肪酸エステル樹脂を再利用することが好ましい。
【0068】
本発明のセルロース低級脂肪酸エステルの回収方法を実施する場合、フィルム26,フィルム耳部27及び製品フィルム28は、1mmないし10cm以下角、好ましくは5mmないし3cm角のチップに裁断し、そのチップについて回収処理を実施することが好ましい。以下、これら回収処理がされるものをチップと称する。
【0069】
(前処理工程)
製品フィルム28が写真感光材料など多層の機能性層を有するものである場合には、本発明に係る処理工程30を行う前に前処理工程31を行う。前処理工程31は膨潤処理、ゼラチン含有層(感光層)除去処理、酸化分解処理、必要により有機溶媒処理や安定化処理、乾燥などの複数の処理工程を組み合わせて行う。また、これら各処理を終えた後には、水洗を行うことがより好ましい。また、各処理を行う際に用いられる処理液には界面活性剤を添加しても良い。
【0070】
製品フィルム28の機能性層(例えば、乳剤層など)を膨潤処理する。膨潤処理は、アルカリまた酸処理により行うことができる。製品フィルム28をアルカリ性水溶液または酸性水溶液に浸漬する。膨潤処理は、室温〜70℃、特に30℃〜60℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、処理時間は10分間〜100分間であることが好ましい。処理中は、水溶液を攪拌し続けて行うことが好ましい。この膨潤処理により製品フィルムに形成されている乳剤層45,47,50、中間層44,46,48、下引き層41などが膨潤または軟化する。
【0071】
また、製品フィルム28に乳剤層45,47,50のようにゼラチン含有層が形成されている場合には、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)による分解処理を行う。ここで、用いられるプロテアーゼは、特に限定されるものではない。プロテアーゼは、通常は0.001重量%〜20重量%の水溶液として使用する。水溶液のpHは、使用されるプロテアーゼが最も機能するpHに調整する。ゼラチン層(乳剤層)除去処理は、室温〜70℃、特に好ましくは30℃〜60℃の温度範囲で10分間〜200分間、攪拌しつつ処理することが好ましい。
【0072】
セルラーゼ処理は、製品フィルム28をセルラーゼの水溶液に製品フィルム28を浸漬して行う。水溶液中のセルラーゼの濃度は特に限定されるものではないが、0.01g/100mL〜10g/100mLの範囲であることが好ましい。処理温度は20℃〜70℃であることが好ましく、30℃〜60℃の温度範囲であることがより好ましい。また、製品フィルム28をセルラーゼ水溶液中に浸漬した後に処理している間は攪拌することが好ましい。好ましい処理時間は、10分以上であり、さらに好ましくは10分間〜90分間であり、最も好ましくは10分間〜60分間である。セルラーゼは、他の分解酵素(例えば、プロテアーゼ、アミラーゼ,リパーゼなど)、特にプロテアーゼと併用することが好ましい。この場合における、プロテアーゼの使用条件は、前記ゼラチン層除去処理と同一条件で行うことができる。
【0073】
回収されるTACの保存性を維持するため、必要により低脂肪酸のアルカリ金属塩で処理することが好ましい。具体的には、低脂肪酸のアルカリ金属塩の水溶液に製品フィルム28を浸漬して行うことができる。低級脂肪酸のアルカリ金属塩の例としては、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びギ酸ナトリウムなどを挙げることができる。以上のように前処理工程31により処理されている製品フィルム28を前処理済フィルム28aと称する。
【0074】
フィルム耳部27、フィルム26,前処理済フィルム28aは、処理工程30により処理がなされる。前記化合物一般式(1)を含む水溶液(以下、洗浄液と称する)中における化合物一般式(1)の濃度は、洗浄液に対して0.001重量%〜5重量%、好ましくは0.005重量%〜1重量%の範囲がよい。洗浄液は本発明の化合物(1)を含む水溶液において、処理する際の水溶液の温度は常温でも良いし、加熱して高温としてもよいが、特に高温で処理することによって高級脂肪酸エステルなどを除去する効果を顕著に得ることができる。具体的には液温として50℃以上100℃以下、好ましくは70℃以上100℃以下である。
【0075】
本発明に用いられる洗浄液に、プラスチック製品を溶解または膨潤せしめる有機溶媒を含有させて処理することによって高級脂肪酸エステルを除去する効果をさらに顕著に得ることができる。具体的な有機溶媒としては、例えばセルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する際においては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、酢酸エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなど)を挙げることができる。その使用量としては洗浄液中に1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜30重量%含有させると良い。
【0076】
本発明に用いられる洗浄液において、その洗浄液中に酵素を添加してもよい。酵素としては、例えば、リパーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼなどの分解酵素を挙げることができる。またこれらの酵素を同時に併用してもよい。これらの酵素は、通常は0.001重量%〜20重量%の水溶液として使用する。水溶液のpHは各酵素の機能が発現するpHに調整する。処理時間としては10分間〜200分間、攪拌しながら実施することが好ましい。
【0077】
本発明に係るセルロース低級脂肪酸エステルの回収方法に際して、セルロース低級脂肪酸エステルを基材とするプラスチック製品に形成されている高級脂肪酸エステルの除去方法は、プラスチック製品の構成に応じて膨潤処理、ゼラチン含有層除去処理、酸化分解処理、必要により有機溶媒処理や安定化処理、乾燥などの複数の処理工程と組み合わせて実施してもよい。これらの工程との組み合わせ例として、膨潤処理、ゼラチン含有層除去処理、本発明による高級脂肪酸エステル除去処理、必要により有機溶剤処理、安定化処理さらに乾燥処理を順に行なう場合を挙げることができる。これらの各処理工程後には、それぞれ水洗を実施することが好ましい。本発明の高級脂肪酸エステル除去処理以外の工程においては、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が特に好ましい。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールエーテル系の界面活性剤、具体的には高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルを挙げることができる。界面活性剤は0.001重量%〜5重量%の範囲で洗浄液に添加することが好ましい。
【0078】
前記チップを乾燥工程32により乾燥させることが好ましい。乾燥条件は特に限定されるものではない。しかしながら、乾燥温度は、50℃〜150℃、好ましくは80℃〜125℃の範囲で行うことが好ましい。
【0079】
チップから、洗浄液及び/または除去された不純物(例えば、高級脂肪酸エステルなど)を除去するために、水洗工程33を行うことがより好ましい。水洗工程33は、洗浄容器中でチップと流水とを攪拌しながら、シャワー状の流水によりチップに付着する洗浄液及び水不溶性の不純物を洗い流す。シャワー水洗により、最小限の水量で、並存する水不溶性の不純物を伴わずに、高品質のTACを回収することができる。このTACを再生TAC14としてドープ16の調製用原料として用いることができる。
【0080】
本発明に係るセルロース低級脂肪酸エステルの回収方法は、写真フィルム、偏光フィルムなどの光学材料用フィルムの様々な分野に使用されているプラスチック製品、特にセルロース誘導体(特にTAC)の成形品に広く適用することができる。回収した再生TACのチップの品質評価は、チップを製膜用ドープに用いる有機溶媒(例えばジクロロメタン:メタノール=9:1の混合溶媒)に完全に溶解してドープを調製する。そのドープの光透過率や白濁またはゲル状物の存在を検査することにより行うことができる。また、高級脂肪酸エステルが残存している程度については、再生チップ表面の水接触角測定によって評価できる。本発明によれば、このような評価方法で不溶解物がなく、高級脂肪酸エステルが除去された良質なチップを回収することができ、再生TAC14としてドープ16の原料として用いることができる。
【0081】
本発明に係る再生TAC14を用いてドープ16を調製する。そのドープ16を用いて製造されるフィルムベース40、フィルム26は、高級脂肪酸エステルのように高温高湿の条件下で分解する成分を含まないので、長時間保存しても安定である。従って本発明により回収される再生TAC(セルロース低級脂肪酸エステル)14は、新しい原料TAC13と同様に、写真フィルムなどのフィルムベース40、フィルム26、各種の製品フィルム28を製造することが可能となる。
【0082】
以下に実施例1及び実施例2を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、割合、操作などは、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。なお、説明は、実施例1では実験1で詳細に行い、その他の実験で同一条件の箇所の説明は省略する。また、実施例2では、実験1と同一条件の箇所以外の説明は、実験15で説明を詳細に行う。その他の実験で実験15と同一条件の箇所の説明は省略する。
【実施例1】
【0083】
(膨潤並びにゼラチン層除去処理)
実験1では、カラーネガフィルムを用いた。カラーネガフィルムには、有機染料で着色されたTACを基材としたベースフィルムの表面に片面ゼラチンを含む乳剤層を設けた。またベースフィルムの裏面の最外層には、高級脂肪酸エステルからなるワックスをバッキング層として形成した。そして、カラーネガフィルムを露光させた後に0.5cm〜2cm角に相当するチップに裁断した。このフィルムチップ1000gに温水(50℃)3リットルを加え、炭酸ナトリウム1.5gと高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル(エマルゲン106(商品名)、花王製)0.1gを加えて、50℃で約10分間膨潤させた。次いで、耐アルカリ性プロテアーゼ0.2gを添加して、55℃で20分間攪拌した。チップを処理液から取り出して水切りした後に、水洗して前処理済フィルムを得た。
【0084】
(高級脂肪酸エステル除去処理)
前処理済チップに化合物(K−1)を15g含み、温度が70℃の洗浄液3リットル用いて、30分間攪拌した。その後、水切りし、シャワー状の流水にて水洗した。この除去処理を施した各チップを105℃の乾燥器中に約40分間放置して乾燥した。
【0085】
(チップ表面の水接触角評価)
乾燥した各チップのバッキング層が塗設されていた面の水接触角を測定し、高級脂肪酸エステル滑り剤の除去度合いについて調べた。水接触角の値が小さいほど滑り剤が除去されたことを表わす。実験1では64度であった。
【0086】
(ドープのゲル物質発生状況の評価)
乾燥した各チップ10gを採取し、ドープ調製用有機溶媒(ジクロロメタン:メタノール=9:1(重量比))に溶解してドープを得た。そのドープ中のゲル発生物質の程度を調べたところ、ゲルの発生は見られなかった(ゲル無を○で表記)。チップ表面の水接触角評価とドープのゲル状物質発生状況の評価からドープ調製用の再生TACが得られたことが分かった(○)。
【0087】
実験2ないし実験7では、洗浄液を化合物(K−1),洗浄液温度80℃(実験2)、化合物(K−1),洗浄液温度90℃(実験3)、化合物(K−3),洗浄液温度70℃(実験4)、化合物(K−7),洗浄液温度90℃(実験5)、化合物(K−13),洗浄液温度80℃(実験6),化合物(K−22),洗浄液温度90℃(実験7)とした以外は実験1と同一条件で実験を行った。
【0088】
比較例である実験10では、バッキング層に高級脂肪酸エステル滑り剤を使っていないカラーネガフィルムを使用した。また、洗浄液による処理工程30を行わすに、回収チップを作製して再生TACとした。実験9では、洗浄液に一般式(1)で表わされる化合物を含有させないで処理工程30を行い再生TACを得た。
【0089】
洗浄液に含有させる化合物に高級アルコール硫酸エステルナトリウム塩(第一工業製薬,モノゲン)を用いた実験10を行った。洗浄液に含有させる化合物に高級アルコールポリエチレングリコールエーテル(花王(株)製,エマルゲン106)を用いた実験11を行った。さらに、洗浄液に含有させる化合物に下記の化合物W−1(実験12)、W−2(実験13)、W−3(実験14)を用いた実験を行った。
【0090】
【化8】

【0091】
【表1】

【0092】
水接触角測定の結果、本発明の一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で処理した実験1ないし実験7で得られた再生TACは、洗浄液による処理工程30を行わない実験9で得られた再生TACに対して顕著に水接触角が低下しており、高級脂肪酸エステルを効果的に除去できることが明らかになった。また、従来より知られている化合物を使用して洗浄液を調製して処理工程を行った実験10ないし実験14で得られた再生TACでは。水接触角が大きかったり、再生TACを用いて調製したドープ中にはゲル状物質が生成されたりしたため好適な再生TACを得ることができなかった(×)。
【実施例2】
【0093】
実験15では、実験1と同一条件で製品フィルムを作製した。洗浄液に酢酸エチルが20wt%となるように混合させて処理工程30を行った。また、実験16では洗浄液調製用化合物として化合物(K−15)を用い、さらにアセトンを30wt%となるように混合させて処理工程30を行った。実験17では洗浄液調製用化合物として化合物(K−22)を用い、さらにメチルエチルケトンを10wt%となるように混合させて処理工程3
0を行った。
【0094】
比較例である実験18では、実験8と同様に処理工程を行わなかった。また、実験19では洗浄液調製用化合物として実験10で用いた高級アルコール硫酸エステルナトリウム塩を用い、さらに酢酸エチルを20wt%含有させた洗浄液で処理工程を行った。実験20では洗浄液調製用化合物として実験11で用いた高級アルコールポリエチレングリコールエーテルを用い、さらにメタノールを30wt%含有させた洗浄液で処理工程を行った。実験21では化合物(W−1)を用い、さらにメタノールを10wt%含有させた洗浄液を用いた。また、実験22では化合物(W−2)を用い、さらにメタノールを10wt%含有させた洗浄液を用いた。実験23では化合物(W−3)を用い、さらにアセトンを20wt%含有させた洗浄液を用いた。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例1及び実施例2の比較から洗浄液に有機溶媒を含有させることで、より効果的に本発明の効果、すなわち高級脂肪酸エステルの除去を行うことができることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に係るセルロース低級脂肪酸エステルの回収方法を説明する工程図である。
【図2】本発明に係るフィルムを用いて構成されている写真感光材料の断面図である。
【符号の説明】
【0098】
10 製品フィルム製造工程図
12 有機溶媒
13 TAC
14 再生TAC
16 ドープ
20 フィルム製造工程
26 フィルム
28 製品フィルム
30 処理工程
40 フィルムベース
42 バッキング層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を基材とするプラスチック製品から、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収する方法において、
下記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で前記プラスチック製品を処理し、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収することを特徴とするセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【化1】

式中Aはスルホン酸、リン酸から選ばれる酸またはその金属塩を表わし、R1は少なくとも炭素数10以上の分岐脂肪族基を表わし、Lは2価の基を表わし、JはR1−LとAとを連結するn+m価の連結基を表わし、nは1から6の整数を表わし、mは1から3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数のAは同じであっても異なっていてもよい。但し、R1(nが2以上のとき全てのR1の総和)の総炭素数は20以上である。
【請求項2】
前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂が、セルロースアシレートであることを特徴とする請求項1記載のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【請求項3】
前記プラスチック製品がその表面または裏面の少なくとも一面側に機能性層を有するものであって、
前記機能性層に高級脂肪酸エステルが含まれていることを特徴とする請求項1または2記載のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【請求項4】
前記水溶液で前記プラスチック製品を処理する際に、
前記水溶液の温度を30℃以上200℃以下とすることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【請求項5】
前記プラスチック製品を溶解または膨潤させる有機溶媒を前記水溶液中に1重量%以上30重量%以下の範囲で含有させることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【請求項6】
前記水溶液中に前記一般式(1)の化合物を0.005重量%以上1重量%以下の濃度で含有させることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つ記載のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【請求項7】
前記プラスチック製品が、プラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1つ記載のセルロース低級脂肪酸エステル樹脂の回収方法。
【請求項8】
セルロース低級脂肪酸エステル樹脂と有機溶媒とを含むドープを流延乾燥してフィルムベースを製造した後に、前記フィルムベースに機能性層を形成してフィルムを製造する方法において、
下記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で前記フィルムを処理し、前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂を回収し再生して、前記ドープの原料とすることを特徴とするフィルムの製造方法。
【化1】

式中Aはスルホン酸、リン酸から選ばれる酸またはその金属塩を表わし、R1は少なくとも炭素数10以上の分岐脂肪族基を表わし、Lは2価の基を表わし、JはR1−LとAとを連結するn+m価の連結基を表わし、nは1から6の整数を表わし、mは1から3の整数を表わし、nが2以上のとき、複数のAは同じであっても異なっていてもよい。但し、R1(nが2以上のとき全てのR1の総和)の総炭素数は20以上である。
【請求項9】
前記セルロース低級脂肪酸エステル樹脂が、セルロースアシレートであることを特徴とする請求項8記載のフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記機能性層に高級脂肪酸エステルが含まれていることを特徴とする請求項8または9記載のフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記一般式(1)で表わされる化合物を含む水溶液で処理する際に、
前記水溶液の温度を30℃以上200℃以下とすることを特徴とする請求項8ないし10いずれか1つ記載のフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記フィルムを溶解または膨潤させる有機溶媒を前記水溶液中に1重量%以上30重量%以下の範囲で含有させることを特徴とする請求項8ないし11いずれか1つ記載のフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記水溶液中に前記一般式(1)の化合物を0.005重量%以上1重量%以下の濃度で含有させることを特徴とする請求項8ないし12いずれか1つ記載のフィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−51637(P2006−51637A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233518(P2004−233518)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】