セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ及びその製造方法
【課題】インクの滞留、インク漏れ、あるいは、電極にかかる短絡、マイグレーション等の問題発生につながる要素を徹底的に排除したインクジェットプリントヘッドに好適に用いられる圧電/電歪アクチュエータを提供すること。
【解決手段】2つの側壁6と、その2つの側壁6を接続する天井壁7及び底壁2と、を含む壁部により形成された1又は複数のセル3を具備し、少なくとも2つの側壁6が圧電/電歪作動部4で構成され、その圧電/電歪作動部4の変位によってセル3の容積が変化するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータである。このセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、天井壁7に2つの微小孔8が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜17が形成されているところに特徴があり、このアクチュエータをインクジェットプリントヘッドに適用することにより課題が解決される。
【解決手段】2つの側壁6と、その2つの側壁6を接続する天井壁7及び底壁2と、を含む壁部により形成された1又は複数のセル3を具備し、少なくとも2つの側壁6が圧電/電歪作動部4で構成され、その圧電/電歪作動部4の変位によってセル3の容積が変化するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータである。このセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、天井壁7に2つの微小孔8が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜17が形成されているところに特徴があり、このアクチュエータをインクジェットプリントヘッドに適用することにより課題が解決される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁部によって形成されたセルを有し、その壁部の少なくとも一部を構成する圧電/電歪作動部の発生変位によってそのセルの容積変化を生じさせ、所定のはたらきを実現するセル駆動型の圧電/電歪アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、コピー機、その他の印刷機器に、インクジェットプリントヘッドが採用されるようになって久しい。近時は、特に小型のプリンタの殆どにノンインパクト方式が採用され、高性能なインクジェットプリントヘッドによって銀塩写真の如く鮮明な画像が紙の上に再現されるようになってきている。
【0003】
ノンインパクト方式の印刷機器とは、インクをノズルから吐出して印字媒体(主に紙)に印刷する機器であり、インクを吐出するインクジェットプリントヘッドの形式によって、主に圧電方式とサーマル(バブルジェット(登録商標)等)方式とが知られている。このうち圧電方式とは、インクジェットプリントヘッドとして圧電/電歪アクチュエータが用いられる印刷機器であり、インクジェットプリントヘッドは、主に、ノズルと、インク供給路に連通するインク室と、そのインク室に容積変化を生じさせる圧電/電歪素子と、から構成される。圧電方式の印刷機器は、インクジェットプリントヘッドが圧電/電歪素子に駆動電圧を印加してインク室に容積変化を発生させインクをノズルから吐出させることにより、印字、印刷を行う。圧電方式のインクジェットプリントヘッドは、サーマル方式がインクを加熱するに比してそれを行わないため、インク選択の自由度が高く、制御性が優れる、という長所を有する。
【0004】
例えば、特許文献1にインクジェット(記録)ヘッドの開示がなされている。特許文献1の図1に示されるように、提案されたインクジェットプリントヘッドは、圧電/電歪体基体(プレート)に、保護膜で被覆された電極をその内面に有し上側が蓋(トッププレート)で覆われた溝を形成し、その溝を、1本おきに、インクを充填したインク室(インクチャネル)とインクを充填しないダミー室(ダミーチャネル)とし、インク室に連通するノズルを有するノズル板(ノズルプレート)を備え、インク室を構成する両側の圧電/電歪体側壁(電極が形成された圧電/電歪素子)に変位を発生させ変形させて、インクをノズルから吐出させるインクジェットプリントヘッドである。このインクジェットプリントヘッドは、蓋はダミー室の上にノズル板まで貫通するスリットを有し、且つダミー室の深さがインク室の深さより大きく、インク室を構成する圧電/電歪体側壁の変形によってダミー室の底部のすべり変形が発生しない深さであるため、クロストークが低減され、安定したインク滴の吐出動作を実現したものである。
【特許文献1】特許第3217006号公報
【特許文献2】特許第3412090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のインクジェットプリントヘッドには改善すべき点があると考えられた。インクジェットプリントヘッドにおいて、インクとして導電性液体を採用する場合には、電極を絶縁するために保護膜の形成が不可欠であり、駆動極性によっては、インクが導電性を有するか否かに関わらず、インクの電気分解防止のために保護膜の形成が必要となる。特許文献1に開示されたインクジェットプリントヘッドでは、その保護膜を形成した後に、ポリイミド等からなるトッププレートを接着剤で接合したものであるため、長期の稼動で側壁の変形が繰り返されることにより、側壁とトッププレートとの間の接合信頼性が低下するおそれがある。又、インクによる接着剤の腐食や接着剤からの脱ガスによりインク室内に気泡が滞留し吐出不良を招くおそれもある。
【0006】
一方、側壁とトッププレートとの間に隙間が生じるとインクが滞留し印字品質の低下を招来し、極端な場合にはインク漏れに至るおそれがある。又、保護膜の機能が低下すると、短絡、マイグレーション等の問題が発生するおそれがある。インクジェットプリントヘッドには長期信頼性が求められており、このような問題発生につながる要素は徹底的に排除しておくことが望ましい。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の抱える課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、インクの滞留、インク漏れ、あるいは、電極にかかる短絡、マイグレーション等の問題発生につながる要素を徹底的に排除したインクジェットプリントヘッドに好適に用いられるアクチュエータを提供することである。検討が重ねられた結果、以下に示すアクチュエータをインクジェットプリントヘッドとして適用することにより、上記目的が達成されることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によってセルの容積が変化するアクチュエータであって、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているセル駆動型圧電/電歪アクチュエータが提供される(第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータともいう)。
【0009】
本明細書において、セルとは、壁部に備わる微小孔を除き密閉された小空間を意味する。又、セル内面とは、空間であるセルを形成する壁部の面であって、セルに接している面を指し、セル外面とは、空間であるセルを形成する壁部の面であって、セルに接していない面を指す(ダミーセルに接している場合がある)。
【0010】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいて、微小孔は、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上設けられていればよく、限定されるものではないが、天井壁又は底壁の何れかに1つ乃至2つの微小孔が備わることが好ましく、その大きさは、径として好ましくは200μm以下、より好ましくは20乃至150μmである。微小孔は円形であれば好ましいが、限定されるものではない。本明細書において、微小孔の径は、円形の場合には直径、円形ではない場合には内接円の直径を指す。
【0011】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜、電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一の単層膜又は二以上の多層膜で構成されることが好ましい。
【0012】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜と電極膜とを含む多層膜で構成され、壁部の表面から、少なくともバリア膜、電極膜の順に成膜されていることが好ましい。
【0013】
更に、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、1層以上のシームレスな薄膜が、少なくとも電極膜を含み、更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一以上の膜を含む、二以上の多層膜で構成され、前記壁部の表面から、少なくとも電極膜、絶縁膜の順、少なくとも電極膜、保護膜の順、少なくとも電極膜、防湿膜の順、の何れかによって成膜されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、1層以上のシームレスな薄膜が電極膜を含む場合において、その電極膜が金属又は酸化物で形成されることが好ましい。
【0015】
又、1層以上のシームレスな薄膜がバリア膜を含む場合において、そのバリア膜が酸化物又は窒化物で形成されることが好ましい。
【0016】
更に、1層以上のシームレスな薄膜が絶縁膜、保護膜、及び防湿膜を含む場合において、それら絶縁膜、保護膜、及び防湿膜が、酸化物、窒化物、又は炭化物で形成されることが好ましい。
【0017】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、2つの側壁、天井壁及び底壁を含む壁部が、焼成一体化されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、変位を発現する圧電/電歪作動部は圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とで構成されるので圧電/電歪素子とも表現出来るが、本明細書では、セルを形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部とよぶ。
【0019】
その圧電/電歪作動部の態様は限定されるものではないが、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の高さ方向に交互に積層をされた層状の圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの縦効果により前記変位を発生することが好ましい。
【0020】
この態様の場合に、層状の圧電/電歪体の数は限定されず、1乃至複数であってよい。圧電/電歪作動部の最小構成は、1層の圧電/電歪体を挟んで一対の駆動電極が形成される態様であるが、変位効率を向上させるためには、圧電/電歪体は、より薄く、多層であることが好ましい。層状の圧電/電歪体、と表現されるが、板状の圧電/電歪体、と対比させて表したものであり、層状及び板状の語が圧電/電歪体の厚さを限定するわけではない。又、側壁の高さ方向、と表現されるが、側壁の幅方向、と対比させ相対的な方向として表したものであり、高さ及び幅の語が絶対的な方向を示すわけではない。即ち、必ずしも重力方向の反対方向が高さ方向ではない。
【0021】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の幅方向に交互に積層をされた板状の前記圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの横効果により前記変位を発生することが好ましい。駆動電極が側壁の幅方向に圧電/電歪体と積層をされてその側壁を構成するから、積層の最外層に現れた駆動電極がセル内面(及びセル外面)にあたる場合があり、このときには、少なくともセル内面において駆動電極は上記したシームレスな電極膜として形成される。
【0022】
又、この態様の場合には、1つの壁部あたりの板状の圧電/電歪体の数は限定されず、1又は複数であってよい。圧電/電歪作動部の最小構成は、1枚の圧電/電歪体を挟んで、その両側面に一対の駆動電極が形成される態様である。圧電/電歪体が複数備わる場合には側壁の幅方向に積層され、複数の圧電/電歪体の間の面にも電極が形成される。既に述べたように、板状の圧電/電歪体と表現されるが、圧電/電歪体の厚さを限定するわけではない。限定されるものではないが、板状の圧電/電歪体は複数備わることが好ましい。変位効率が向上するからである。板状の圧電/電歪体が複数備わる場合には、駆動電極は圧電/電歪体の側面に形成され、圧電/電歪体と圧電/電歪体との間の面にも形成されるので、圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とが、側壁の幅方向に交互に積層をされる態様となる。
【0023】
尚、電界誘起歪みの縦効果とは、分極方向に電界を加えたときに同じ方向に伸縮するような圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変形をいい、電界誘起歪みの横効果とは、分極方向に電界を加えたときに垂直方向に伸縮するような圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変形をいう。
【0024】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成されればよく、セルを形成する残りの壁部である天井壁及び底壁は変位を生じないものであってもよいが、天井壁及び底壁の何れか又は両方が圧電/電歪作動部で構成される態様であってもよい。
【0025】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、圧電/電歪と称しているが、電界によって誘起される歪みを利用するアクチュエータであって、狭義の意味での、印加電界に概ね比例した歪み量を発生する圧電効果又は印加電界の二乗に概ね比例した歪み量を発生する電歪効果を利用するアクチュエータに限定されるものではなく、強誘電体材料全般にみられる分極反転、反強誘電体材料にみられる反強誘電相−強誘電相転移、等の現象を利用するアクチュエータも含まれる。本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいて、より好ましいものは材料強度面に優れるセラミックアクチュエータである。又、分極にかかる処理が行われるか否かについては、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータを構成する圧電/電歪作動部の圧電/電歪体に用いられる圧電/電歪材料の性質に基づいて適宜決定される。
【0026】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、壁部によって形成されるセルの形状は限定されるものではなく、側壁、天井壁、底壁を平面ではなく曲面で構成し、種々のセル形状としてもよい。より好ましいセルの形状は、長手方向の断面において高さに比して幅の狭い角筒形を表す形状、即ちスリット状である。即ち、スリット状のセルとは、それを形成する壁部の構成要素のうち、相対的に2つの側壁が長く天井壁及び底壁が短いことを表す。より具体的には、1つのセルを形成する2つの側壁間の最短距離(セル幅という)に対する底壁と天井壁との最短距離(セル高という)の比(セルのアスペクト比という)が、概ね2〜100であるセルが好ましい。又、セル幅は概ね60μm以下であることが好ましい。より好ましくは、セルのアスペクト比が概ね10〜50、セル幅が50μm以下である。
【0027】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、側壁(圧電/電歪作動部)の厚さに対する側壁の高さ(セル高に等しい)の比(側壁(圧電/電歪作動部)のアスペクト比という)が、概ね2〜100であることが好ましい。より好ましくは、側壁のアスペクト比が概ね10〜50である。これらの条件のうち少なくとも何れか1つの条件に適うアクチュエータであれば、更に好ましくは全ての条件が適うアクチュエータであれば、より高出力化を図ることが容易であるとともに、高密度化が図れ、よりコンパクトなアクチュエータを実現することが可能である。
【0028】
本明細書において、壁部がそれぞれ、側、天井、底、の語で修飾され表現されるが、絶対的な、方向乃至位置関係を示すものではない。即ち、例えば必ずしも重力方向に位置する壁部が底壁であるわけではない。又、本明細書において、側壁が圧電/電歪作動部で構成され、と表現されるが、側壁の一部が圧電/電歪作動部で構成される場合を含む。より好ましくは、側壁全体が圧電/電歪作動部を構成する態様である。
【0029】
上記したセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは何れも液体吐出装置に適用することが出来る。本発明によれば、上記した何れかのセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いた液体吐出装置が提供される。
【0030】
このセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いた液体吐出装置は、セルが液体加圧室を構成し、圧電/電歪作動部の変位によってセルの容積が変化して、セルに充填された、粒子が含まれる液体を、吐出させ得る液体吐出装置であって、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜のうち、セル内面に対面する最外層の表面電位が、液体に含まれる粒子の表面電位と同じ極性であることが好ましい。
【0031】
例えば、液体吐出装置のうちインクジェットプリンタでは、近年、印刷物の長寿命化を図るために顔料系インクが用いられることが多い。そして、この顔料系インクは、着色するための顔料粒子を含んだ液体となっている。液体中に含まれる顔料粒子の表面電位とセル内壁面の表面電位とを同じ極性とすることにより、互いに反発させ、顔料粒子が壁部に化学吸着するのを抑制し、安定した吐出性能を維持することが可能になる。又、液体吐出装置のうちイオン化溶液等を吐出するデバイスにおいても、同様の原理で化学吸着を低減出来、装置の洗浄性を飛躍的に向上させることが出来る。バイオ・医療分野で適用される微量液体吐出装置では、様々な液体を扱う必要があり、装置の洗浄性の良し悪しは重要な課題である。尚、表面電位はゼータ電位を測定することで把握出来、液体の物性を予め把握しておくことで、吐出性能を最適化した装置設計が可能である。
【0032】
次に、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、壁部のうち少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成し且つ圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を設け、セルを形成した後に、所定の成膜手段により、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行い、壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法が提供される(セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法、又は単に第1の製造方法ともいう)。この方法では、最終的に2つの側壁を圧電/電歪作動部で構成するために、圧電/電歪体を含んで構成した2つの側壁に駆動電極を形成するタイミングは限定されない。2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものであるか、又は、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものであるかにより、駆動電極を形成するに好ましいタイミングが異なる場合があるので、適切なタイミングで行えばよい。
【0033】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、成膜材料が、気体であることが好ましい。そして、この場合には、成膜手段が、CVD法、蒸着重合法のうちの何れかであることが好ましい。
【0034】
又、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、成膜材料が、液体であることも好ましい。この場合には、成膜手段が、メッキ法であることが好ましい。
【0035】
更に、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、セルを形成する際に、壁部のセル内面に電極を露出させ、成膜手段として電気泳動法を用いて、微小孔を通じてセルの中へ液体の成膜材料の導入を行い少なくとも電極へ堆積させた後に、成膜材料の軟化点温度以上の温度で熱処理を行う工程を有することが好ましい。
【0036】
この場合には、熱処理が2回以上行われることが好ましい。尚、1回の熱処理とは、成膜材料を流動化させ得る処理をいい、熱処理の区切りは、冷却を行うことにより示される。又、電極は、駆動電極が該当するが、他の成膜手段により先にセル内面に形成された電極膜であってもよい。
【0037】
又、この場合(成膜手段として電気泳動法を用い熱処理を行う工程を有する場合)には、成膜材料が2種以上であり、上記した熱処理によってその2種以上の成膜材料を混合して複合材料を得て、その複合材料によりシームレスな薄膜を形成することが好ましい。
【0038】
例えば、成膜材料として無機材料を用いる場合に、2種以上の複数の材料を用いて複合化することにより、薄膜と壁部(基材)との熱膨張率を整合させることが可能である。より具体的には、壁部の材料としてジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を用いる場合に、PZTの熱膨張率は3×10-6/Kであり、その熱膨張率に合わせた成膜材料としてガラス粉末を選択するのは困難である。成膜材料を流動化させる熱処理の温度は、拡散防止の観点から、より低いことが望ましく、具体的には500〜600℃であることが求められる。このような低い温度で熱処理が可能であり(ガラス転移点が低く)、且つ、低熱膨張率であるガラス粉末を作製することは難しい。通常の低ガラス転移温度材料の熱膨張率は5〜7×10-6/K程度である。このため、ガラス粉末の中に、熱膨張率が非常に小さいシリカ(0.5×10-6/K)を分散させた材料を作製することにより、壁部を構成するPZTに合ったガラス絶縁膜を作製することが出来る。
【0039】
又、成膜材料として有機材料を用いる場合に、例えばアクリル系樹脂とエポキシ系樹脂の複合化を行うことが出来る。絶縁性、耐食性に優れたエポキシ系樹脂と、壁部(基材)との密着性に優れたアクリル系樹脂のハイブリッド化により、優れた薄膜を成膜することが可能である。
【0040】
更に、成膜手段として電気泳動法を用い熱処理を行う工程を有する場合には、シームレスな薄膜と壁部との間に、成膜材料の成分と壁部を構成する材料の成分とを反応させて反応層を形成することが好ましい。例えば、壁部(基材)がジルコン酸チタン酸鉛(PZT)のようなPb成分を含む材料で構成される場合に、成膜材料としてシリコン(Si)を含む材料を選択することで、熱処理時に、成膜材料の成分(Pb)と、壁部を構成する材料の成分(Si)とを反応させて反応層を形成することが出来、これにより、薄膜と壁部との密着性を格段に強固にすることが出来る。
【0041】
又、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、壁部のうち少なくとも2つの側壁を圧電/電歪作動部で構成し且つ圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を設け、セルを形成し、アクチュエータとして駆動可能とした後に、側壁を構成する圧電/電歪作動部を駆動させ(側壁を伸縮させて)セルの容積を変化させながら、所定の成膜手段により、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行い、壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法が提供される(セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第2の製造方法、又は単に第2の製造方法ともいう)。この方法では、第1の製造方法と異なり、壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する前にアクチュエータとして駆動可能にする必要があるから、少なくともセルを形成した時点で、2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成されていることを要する。即ち、セルを形成した時点で、2つの側壁が圧電/電歪体を含んで構成され且つ駆動電極が形成されている必要がある。但し、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものであるか、又は、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものであるか、は限定されず、何れでもよい。
【0042】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法及び第2の製造方法において(両方を指して単に本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法ともいう)、微小孔の径が、200μm以下であることが好ましい。より好ましくは20乃至150μmである。尚、微小孔は、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に1つ以上備わればよく、限定されないが、天井壁又は底壁の何れかに1つ乃至2つの微小孔が備わることが、より好ましい。
【0043】
又、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法では、少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成すればよく、天井壁及び底壁は圧電/電歪体を含んで構成してもよく、そうでない材料であってもよい。より好ましくは、少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成するために、セルを形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁及び底壁を作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる。この方法では、天井壁は別途作製し後付けする。又、より好ましくは、セルを形成する壁部のうち2つの側壁、底壁、及び天井壁の全てを作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる。この方法では、セルを形成する壁部の全てが一体化する。
【0044】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法において、製造対象であるアクチュエータが液体吐出装置に用いられる場合において、微小孔が液体を吐出するノズルを兼ねることが好ましい。液体吐出装置の一例がインクジェットプリントヘッドである。
【0045】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法においては、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を形成する手段、工程は限定されず、何れかの方法で、セルの中へ成膜材料を導入する前に、形成しておけばよい。
【0046】
次に、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によってセルの容積が変化するアクチュエータであって、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に1つ以上の微小孔が備わるとともに、2つの側壁のセル内面、及び、2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続部分のセル内面、を覆う1層以上の薄膜が形成されていることにより、2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続信頼性を向上させたセル駆動型圧電/電歪アクチュエータが提供される(第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータともいう)。
【0047】
尚、本明細書において、単に本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータというときは、この第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを指す。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、セルを形成する壁部のセル内面に、そのセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているものである。シームレスであるため薄膜が破壊され難く、微小孔を介して通じるセルの内と外とが、その微小孔部分を除いて完全に仕切られ隔離性が向上している。又、セル内面に流体の溜まりとなるような部分が形成され難い。更には、セル内面、即ち空間であるセルを形成する壁部の面であってセル(空間)に接している面、に薄膜が形成されているため、従来技術の如く壁部の構成要素の間(例えば側壁と天井壁(又は底壁)の間)に接着部を介在させずに、それらを、直接、接合させることが出来る。従って、壁部の構成要素がたとえ接着剤で接合されている場合でも、長期の稼動により繰り返される側壁の変形に対して、壁部の構成要素間の接合信頼性を高く保つことが出来る。加えて、薄膜自体の破壊のおそれ、乃び、少なくとも本来有していた膜の機能を低下させるおそれ、が小さい。
【0049】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの好ましい態様は、壁部が焼成一体化されたものである。この態様では、壁部の構成要素間の接合に接着剤を用いないため、セルを形成する壁部自体の機械的強度が増すとともに、接着剤に起因して生じる壁部の構成要素間の接合信頼性の低下を完全に排除出来る。又、薄膜が接する壁部に界面が現れないため、壁部と薄膜との密着性が向上するとともに、長期間の使用におけるシームレスな薄膜に対する影響(化学的な変化、物理的な応力)がより小さくなり、薄膜の劣化が抑制される。
【0050】
従って、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータをインクジェットプリントヘッドとして適用した場合に、セルの中でインクが滞留し難く、インク漏れに至るおそれは殆どなくなる。印字品質の低下やその他のトラブルが起き難くなり、短絡、マイグレーション等の問題が抑制される。即ち、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いたインクジェットプリントヘッドは、優れた長期信頼性を備えたものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ及びその製造方法について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0052】
先ず、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータについて説明する。図1(a)は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1を切断線100で切断したときの断面図である。図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1は、図中において上面に、1つのセル3毎に、ノズルとして利用可能な2つの微小孔8を有しており、圧電/電歪方式の印刷機器のインクジェットプリントヘッドや各種の液体吐出装置に利用可能なものである。
【0053】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1は、2つの側壁6と、その2つの側壁6を接続する天井壁7及び底壁2と、を含む壁部を有し、その壁部により形成された概ねスリット状の直方体形をなすセル3を複数備えている。2つの微小孔8は、セル3の中と外とを通じ、天井壁7に開いている。個々のセル3毎に、2つの側壁6は圧電/電歪作動部4として構成され、その圧電/電歪作動部4の変位によって、セル3の容積が変化する。複数のセル3の間の空間は、ダミーセル15として構成され、一のセル3と他のセル3とは完全に独立している。
【0054】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、セルのアスペクト比は1つのセル毎に決まり、側壁のアスペクト比は1つの側壁毎に決まる。図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1において、側壁6(圧電/電歪作動部4)のアスペクト比は、その厚さTと高さ(セルの深さDに相当)で表され(=D/T)、概ね15程度である。セルの幅Wとセルの深さD(側壁の高さに相当)で示されるセルのアスペクト比(=D/W)は5程度である。
【0055】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1には、図1(b)に示されるように、壁部のセル内面(セル3を形成する壁部の面のうち空間であるセル3に接している面)に、そのセル内面を全てを覆うシームレスな薄膜17が形成されている。そして、壁部は、2つの側壁6、天井壁7、及び底壁2を含む全ての構成要素が焼成一体化されて出来たものであり、壁部には接着剤による接合部分が存在せず、壁部もシームレスであるということが出来る。即ち、空間であるセル3は、微小孔8部分を除いては、薄膜17により囲われ、更にその外側で壁部に囲われるという二重のシームレスな仕切手段で形成されている。セル3の中からみれば連続した薄膜17の面しか存在せず、流体の溜まりになり得る部分がみられない。又、薄膜が破壊されるおそれが殆どない。
【0056】
尚、焼成一体化された壁部は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの必須要件ではないが、より好ましい態様である。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1は、インクジェットプリントヘッドとして適用される場合には、セル3がインク室(液体加圧室)になり、圧電/電歪作動部4(側壁6)が(図1(b)中における上下方向に)伸縮し、セル3の容積を変化させ、セル3に充填されたインク(液体)を吐出させることが出来る。
【0057】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1では、微小孔8が天井壁7に開いているが、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、微小孔は壁部のうち圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く部分であれば限定されるものはない。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1と同様にセルがスリット状の直方体形をなす場合には、壁部の構成要素として短手方向の側壁が存在することになるが、その短手方向の側壁に微小孔を設けてもよく、あるいは、底壁であってもよい。
【0058】
図16は、図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1の1つのセル3及びそれを形成する壁部のみを示しセル3を透視して表した斜視図である。図示されるように、スリット状の直方体形をなすセル3を形成する壁部は、長手方向の側壁である2つの側壁6、天井壁7、底壁2の他に、短手方向の側壁である2つの側壁5によって形成されており、微小孔8は天井壁7に開いている。一方、図17に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、スリット状の直方体形をなすセル3を形成する壁部は、同様に、長手方向の側壁である2つの側壁6、天井壁7、底壁2の他に、短手方向の側壁である2つの側壁5によって形成されているが、微小孔8は短手方向の側壁5に開いている。
【0059】
ところで、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、2つの側壁、天井壁、底壁を含む壁部によりセルを形成したものであり、そのセルは微小孔を除いて密閉された空間であるが、セルは上記したような直方体形に限定されるわけではない。図18は、1つのセル及びそれを形成する壁部のみを表した斜視図であり、セルが直方体形ではない場合の実施形態を示す図である。セルが図示されるような船形をしている場合においても、セルが微小孔を除き密閉された空間であるためには、図17に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおける短手方向の側壁5のように平面の壁ではないがそれに相当する壁部構成要素55が存在する。そして、この部分の態様はセルによって変わり得るため、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、その形態は、微小孔を除いて密閉された空間であるセルを具備すること、及び、そのセルが2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含む壁部により形成されること、により特定される。尚、本明細書において、単に側壁というときには圧電/電歪作動部で構成される長手方向の側壁を指す。
【0060】
図1(b)では、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1の圧電/電歪作動部4の具体的態様は示されていない。本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、圧電/電歪作動部が変位を生じる圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とからなるものであるが、その具体的な態様を限定せず、圧電/電歪作動部には種々の態様があり得る。例えば、圧電/電歪体の積層態様、あるいは変位を生じる圧電/電歪作動部として機能させるべく圧電/電歪体に電界をかけるための駆動電極の形成態様、等によって分類することが出来る。又、1層以上のシームレスな薄膜も、その圧電/電歪作動部の態様によって、あるいは、セルの中に充填され薄膜と接する流体の性状によって、例えば電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜等のうちの一の単層膜乃至二以上の多層膜で構成される種々の態様になり得る。
【0061】
以下、圧電/電歪作動部及び薄膜の具体的態様を表したセル駆動型圧電/電歪アクチュエータについて、図2〜図7を参酌しながら説明を続ける。図2〜図7では、1つのセル及びそれを形成する壁部のみが示されるが、これらはそれぞれセルが複数備わるものであって、図2〜図7に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの、微小孔やダミーセル等を含むアクチュエータとしての全体構成は、図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1に準じる。
【0062】
図2、図3、図4、図5に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110,130,140,120は、側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の高さ方向に交互に積層をされた、層状の圧電/電歪体と一対の駆動電極とを有する態様をなし、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものである。他方、図6、図7に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80,90は、側壁を構成する圧電/電歪作動部が、板状の圧電/電歪体とその圧電/電歪体の側面に形成された一対の駆動電極とを有する態様であり、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものである。
【0063】
図2は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部34で構成され、その圧電/電歪作動部34は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
【0064】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110では、駆動電極28,29が層状を呈し、それらの端部は、両方とも圧電/電歪体114の積層断面に露出している。又、それぞれ複数の駆動電極28,29を、それぞれ接続する配線は、側壁6の表面に外部電極として形成されておらず、(図示しないが)圧電/電歪体114自体の中に設けられている。具体的には、圧電/電歪作動部34に変位を生じさせるための外部から駆動電極28,29のそれぞれに電源を供給する配線は、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
【0065】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110では、駆動電極28,29の端部が圧電/電歪体114の積層断面に露出しているため、セル3に導電性液体が充填されると短絡してしまうので、側壁6のセル内面及びセル外面に、薄膜として、絶縁膜117が形成されている。薄膜は、セル3に充填される液体の性状等によっては、絶縁膜の代わりに保護膜、防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0066】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110において、層状の圧電/電歪体114は、例えば駆動電極28から駆動電極29へ向けた方向(図2中において上下方向(縦方向))に分極されている(挟まれる駆動電極により各圧電/電歪体114毎に分極方向は異なる)。そして、図示されない配線を介して、駆動電極28側を正、駆動電極29側を負にして駆動電極28,29間に電圧を印加することにより、先に記した分極方向と同じ方向の電界が形成される。換言すれば、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は、分極が互いに反対方向の圧電/電歪体114が駆動電極28,29を挟んで積層され、各々の圧電/電歪体114においては、分極と駆動電界とが同一方向になっている。その結果、圧電/電歪体114に電界誘起歪みが発現し、その電界誘起歪みの縦効果による変位に基づき、圧電/電歪作動部34は、駆動電極28,29で挟まれる圧電/電歪体114が図2中において概ね上下方向に(側壁6の高さ方向と同じ方向に)伸縮し、セル3の容積を変化させる。
【0067】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110では、圧電/電歪体114の変位が電界誘起歪みを直接利用するものであるので、その変位の発生力が大きく応答速度も速い。個々の圧電/電歪体114が発現する変位量は大きなものではないが、積層数に比例した変位量となるので、積層数を増やすことによって大変位を得ることが可能である。又、圧電/電歪体114の1層当たりの厚さを、好ましくは100μm以下、より好ましくは10乃至80μmとすることによって、より低電圧で駆動出来るようにすることも可能である。
【0068】
図3は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部44で構成され、その圧電/電歪作動部44は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
【0069】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130では、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110と同様に、それぞれ複数の駆動電極28,29をそれぞれ接続する配線は、圧電/電歪体114自体の中に設けられ、例えば、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
【0070】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130は、側壁6に備わる圧電/電歪作動部44の駆動電極28,29の両方の端部が、圧電/電歪体114内に埋設されているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110と異なる。側壁6は焼成一体化されたものであり且つその表面に駆動電極が露出していないため、通常、セル3に導電性液体が充填した場合でも駆動電極の短絡等の問題が生じない。従って、例えばインクジェットプリントヘッドとして利用する場合に、セルに充填されるインク材料を制限することがない。又、必ずしも側壁6に絶縁等の目的で薄膜を形成する必要はないが、アクチュエータの長期にわたる信頼性を保持するためセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130ではセル内面及びセル外面に保護膜177が形成されている。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0071】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130は、分極、駆動電界、駆動動作、変位(発生力、低電圧)等については、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110に準じる。
【0072】
図4は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部64で構成され、その圧電/電歪作動部64は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。天井壁7には微小孔8が備わる。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
【0073】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140では、それぞれ複数の駆動電極28,29をそれぞれ接続する配線が外部電極として側壁6に形成されている。その外部電極は、側壁6のセル内面に形成された共通電極(配線)としての電極膜18、及び、側壁6のセル外面に形成された個別電極(配線)としての電極膜19である。セル内面に形成された電極膜18はセル内面を全て覆うシームレスな膜である。層状を呈する駆動電極28,29は、それぞれの端部が、それぞれ一方において圧電/電歪体114内に埋設され、他方において圧電/電歪体114から露出し、駆動電極28は電極膜18と接続され、駆動電極29は電極膜19と接続される。
【0074】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140では、側壁6のセル内面及びセル外面には、電極膜18,19の上に、保護膜177が形成されている。セル内面側の保護膜177は、(電極膜18の上から)セル内面を全て覆うシームレスな保護膜として形成され、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140において、電極膜18とともに、本発明にいうセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜を構成する。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0075】
尚、図示しないが、側壁6には電極膜18,19より先に(下面に)導電性のバリア膜が形成されてもよい。勿論、そのバリア膜のうち、少なくともセル内面に形成されるバリア膜は、セル内面を全て覆うシームレスなバリア膜として形成されていることが好ましい。そうすると、例えば、電極膜18,19を形成した後に、その上に更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜の何れか一の単層膜又は二以上の多層膜を形成した場合に、加熱により電極膜の成分が圧電/電歪体の中へ拡散したり逆に圧電/電歪体の成分が電極膜へ拡散することがなく、圧電/電歪特性の低下が生じ難くなる。
【0076】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140は、分極、駆動電界、駆動動作、変位(発生力、低電圧)等については、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110,130に準じる。
【0077】
図5は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部54で構成され、その圧電/電歪作動部54は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において14層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計15層(14対)積層されている。
【0078】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120では、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110,130と同様に、それぞれ複数の駆動電極28,29をそれぞれ接続する配線は、圧電/電歪体114自体の中に設けられ、例えば、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
【0079】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120は、側壁6に備わる圧電/電歪作動部54の駆動電極28,29の端部のうちセル内面側の端部のみが、圧電/電歪体114内に埋設されているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110と異なる。側壁6は焼成一体化されたものであり且つその表面に駆動電極が露出していないため、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130と同様に、通常、セル3に導電性液体が充填した場合でも駆動電極の短絡等の問題が生じない。従って、例えばインクジェットプリントヘッドとして利用する場合に、セルに充填されるインク材料を制限することがない。又、必ずしも側壁6に絶縁等の目的で薄膜を形成する必要はないが、アクチュエータの長期にわたる信頼性を保持するためセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120ではセル内面及びセル外面に保護膜177が形成されている。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0080】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120は、分極、駆動電界、駆動動作、変位(発生力、低電圧)等については、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110等に準じる。
【0081】
図6は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部4で構成され、その圧電/電歪作動部4は、側壁6の幅方向(図6中において横方向)に交互に積層をされた板状の圧電/電歪体14及び一対の駆動電極28,29を有し、電界誘起歪みの横効果により圧電/電歪体14が変位を発生し、セル3の容積を変化させる。
【0082】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90では、一対の駆動電極28,29が側壁6のセル内面及びセル外面に形成されている態様になり、セル内面に形成された駆動電極28がセル内面を全て覆うシームレスな電極膜として形成されている。側壁6のセル内面及びセル外面には、駆動電極28,29の上に、保護膜177が形成されている。セル内面側の保護膜177は、(駆動電極28(電極膜)の上から)セル内面を全て覆うシームレスな保護膜として形成され、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90において、駆動電極28とともに、本発明にいうセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜を構成する。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0083】
尚、図示しないが、側壁6には駆動電極28,29より先に(下面に)バリア膜が形成されてもよい。勿論、そのバリア膜のうち、少なくともセル内面に形成されるバリア膜は、セル内面を全て覆うシームレスなバリア膜として形成されることが好ましい。そうすると、例えば、駆動電極28,29を形成した後に、例えば、その上に更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜の何れか一の単層膜又は二以上の多層膜が形成される場合に、圧電/電歪体14及び駆動電極28,29が加熱されて電極膜の成分が圧電/電歪体の中へ拡散したり逆に圧電/電歪体の成分が電極膜へ拡散し得るが、そのような現象を排除出来、圧電/電歪特性の低下を防止することが可能である。
【0084】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90において、板状の圧電/電歪体14は、例えば駆動電極28から駆動電極29へ向けた方向(図6中において左右方向(横方向))に分極されている。そして、駆動電極28側を正、駆動電極29側を負にして駆動電極28,29間に電圧を印加することにより、先に記した分極方向と同じ方向の電界が形成される。即ち、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90では、分極と駆動電界とが同一方向になっている。その結果、圧電/電歪体14に電界誘起歪みが発現し、その電界誘起歪みの横効果による変位に基づき、圧電/電歪作動部4は、駆動電極28,29で挟まれる圧電/電歪体14が図6中において概ね上下方向に(側壁6の高さ方向と同じ方向に)伸縮し、セル3の容積を変化させる。
【0085】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90では、圧電/電歪体114の変位が電界誘起歪みを直接利用するものであるので、その変位の発生力が大きく応答速度も速い。
【0086】
図7は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80は、2つの側壁6を構成する板状の圧電/電歪体14が2層であり、その2層の圧電/電歪体14は、それぞれ駆動電極28,29に挟まれて側壁6の幅方向(図7において横方向)に積層をされ圧電/電歪作動部24を形成しているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90と異なるが、側壁6のセル内面及びセル外面において駆動電極28,29の上に、薄膜として保護膜177が形成されているところその他についてはセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90と共通する。
【0087】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80では、側壁6の厚さ(幅)が同じセル駆動型圧電/電歪アクチュエータと比較すると、1層あたりの圧電/電歪体14をより薄くすることが出来、一定の駆動電圧あたりに、より大きな変位量、より高い発生力を発現することが出来る。尚、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、板状の圧電/電歪体を2層以上にすることも好ましく、圧電/電歪体の積層数を増やすことによって側壁の強度、剛性が向上し、より高速応答可能なアクチュエータとすることが出来る。圧電/電歪体の1層当たりの厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは10乃至30μmとする。こうすると、よりアクチュエータの低駆動電圧化、高強度化、高集積化が可能である。又、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80は、図7に示される如く合板状の側壁6を有するものになるので、機械強度が向上し、耐久性が高められる。更に、セル内の露出する駆動電極29を共通電極とする場合、板状の圧電/電歪体の層数を偶数とすることで、セル内外に露出する電極をどちらも共通電極とすることが出来、個別電極である駆動電極28が露出しないことになるので、短絡等の電気的不具合を回避出来、アクチュエータの信頼性が向上し得る。
【0088】
以上、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータについて説明したが、次に、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法について説明する。
【0089】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法が対象とするものは、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータであり、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータに相当するものである。
【0090】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法は、シームレスな薄膜を形成する工程に特徴があり、以下のようにその工程は行われる。先ず、2つの側壁、天井壁、及び底壁を含む壁部によりセルを形成する。このとき、壁部のうち少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体で構成し、且つ、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を設ける。次いで、所定の成膜手段により、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行い、壁部のセル内面に薄膜を形成する。セルの中と外とを通じる微小孔が存在するものの、先に微小孔を除き密閉された空間であるセルを形成し、その後に、そのセルの中へ成膜材料の導入をするので、形成される薄膜は、セル内面の全てを覆うシームレスな膜となる。
【0091】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法において、壁部によりセルを形成する手段は限定されない。好ましい方法としてはセラミックグリーンシート積層法を挙げることが出来る。そして、壁部を構成する側壁、天井壁、及び底壁を焼成一体化させる工程を採用することが好ましい。
【0092】
以下、最初に、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法のうちセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法について、その一例を掲げ具体的に説明する。図10(a)〜図10(c)は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法の概略工程の一例を示す説明図である。作製対象は、図2に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110である。既に記したようにセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は、微小孔やダミーセル等を含むアクチュエータとしての全体構成は、図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1に準じた複数のセルを具備する構成であり、液体をセルから吐出するためのノズル乃至液体をセルへ入れるための導入孔として天井壁に備わる微小孔を利用し、インクジェットプリントヘッド等の液体吐出装置に適用可能なものである。
【0093】
先ず、圧電/電歪材料を主成分とする所定枚数のセラミックグリーンシートを用意する。セラミックグリーンシートは、従来知られた方法により作製出来る。例えば、圧電/電歪材料粉末を用意し、これにバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法等のグリーンシート成形法によって、セラミックグリーンシートを形成することが可能である。尚、本明細書において、セラミックグリーンシートを、単にグリーンシートとも記す。
【0094】
得られたセラミックグリーンシートに対し、例えばパンチとダイによる打抜加工により、図10(a)に示されるような、グリーンシート602,615,619を得る。グリーンシート602,619は各1枚でよく、グリーンシート615は複数枚用意する。グリーンシート615は、のちに側壁(圧電/電歪作動部)のうちの圧電/電歪体になるものであり、のちにセルを構成するスリット孔605と、のちにダミーセルを構成するスリット孔625と、のちに個別配線用のビアホールを構成する円孔628と、のちに共通配線用のビアホールを構成する円孔629とが形成されたグリーンシートである。グリーンシート602は、のちに底壁を構成するものであり、のちにダミーセルを構成するスリット孔625が形成されたグリーンシートである。グリーンシート619は、のちに天井壁を構成するものであり、のちにダミーセルを構成するスリット孔625と、のちにセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110の微小孔8(図10(c)参照)を構成する微円孔608とが形成されたグリーンシートである。尚、微円孔608は、その径が200μm以下になるように加工される。又、各1枚作製するグリーンシート602とグリーンシート619については、圧電/電歪材料ではない別の材料を用いてもよい。
【0095】
次に、図10(b)に示されるように、複数枚のグリーンシート615の円孔628,629を導電性材料で埋めてビアホール128,129を形成するとともに、そのグリーンシート615の半々ずつに、ビアホール128に接続される導体膜(導電性材料を主成分とする膜)318、及びビアホール129に接続される導体膜319を形成して、それぞれ複数枚のグリーンシート614,616を得る。尚、導体膜は、スクリーン印刷、フォトリソグラフィ等の手段により所定のパターンで形成出来る。
【0096】
グリーンシート614,616において、5つのスリット孔605はのちにセルを構成する孔であり、スリット孔625に対し相対的に大きく開けられる。6つのスリット孔625は、のちにセルとセルとの間の空間であるダミーセルを構成する孔であり、スリット孔605を挟むように配置される。スリット孔605とスリット孔625との間のグリーンシート実体部分が、のちに側壁を構成する。導体膜318は、その一部がのちに一の駆動電極になり、且つその一部が個別配線として用いられるものであり、導体膜319は、その一部がのちに他の駆動電極になり、且つその一部が共通配線として用いられるものである。導体膜318,319は、ともに、のちにセルを構成するスリット孔605を形成する面、及び、のちにダミーセルを構成するスリット孔625を形成する面に、それぞれ露出されるように設けられる。
【0097】
次に、グリーンシート602を最下層、グリーンシート619を最上層として、それらの間に、セルを形成するために複数のグリーンシート614,616を交互に積層しつつ、グリーンシート602,614,616,619を圧着して所定の厚さを有するセラミックグリーン積層体を得て、それを焼成一体化して焼成積層体を得る(図示しない)。この焼成積層体は、グリーンシート614,616のスリット孔605を連通させてなる5つのセルと、そのセルに通じる微小孔と、グリーンシート602,614,616,619のスリット孔625を連通させてなる6つのダミーセルと、を備えたものになっている。
【0098】
次いで、焼成積層体に対して、所定の成膜手段を用いて、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料を導入し、セル内面の全ての面に保護膜を形成する。併せて、セル外面のうちダミーセルを形成する面にも保護膜を形成する。成膜手段は限定されない。尚、セル外面の保護膜のパターニングは、予めフォトレジストを塗布し露光することで行ってもよいし、セル外面の全ての面に成膜した後に不必要な部分を研削等の手法により切除してもよい。
【0099】
そして、必要に応じて、外部配線接続、圧電/電歪体の分極処理等を行えば、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110が得られる(図10(c))。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110において、ダミーセル15と微小孔8は外観に現れるが、セルは内部に形成され露わになっていない。尚、得られたセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は複数のセルを具備するアクチュエータであるが、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータはセルが1つでもよく、そのようなセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、上記製造工程に従って、複数のセルを具備するアクチュエータを得た後に、加工により分断するか、又は、上記製造工程において、グリーンシート615のスリット孔605(のちにセルを構成するもの)を1つにして、グリーンシート602,615,619のスリット孔625(のちにセルを構成するもの)を2つにすることにより、作製することが出来る。
【0100】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、最も好ましい成膜手段はCVD(化学気相成長)法である。又、成膜材料が気体である場合には、CVD法の他に蒸着重合法を好ましい手段として採用出来る。蒸着重合法とは、基板上に、両末端に官能性を有する複数のモノマーを気相で蒸着、反応させ、高分子の薄膜を形成する方法であり、化学構造のみならず条件設定により、分子鎖が高度に配向、配列した有機薄膜を作製出来る。例えば、ポリイミド、ポリ尿素などが成膜可能な方法である。更に、成膜材料が液体である場合には、メッキ法、電気泳動法を、好ましい手段として採用出来る。上記した成膜手段を組み合わせて薄膜を形成することも好ましい。このような成膜手段により、上記工程にかかる保護膜の形成の他に、電極膜、バリア膜、絶縁膜、防湿膜の形成も行うことが可能である。
【0101】
以下、成膜手段のうち、先ずCVD法について説明する。例えば、絶縁膜として酸化タンタル(Ta2O5)膜を、バリア膜としては窒化チタン(TiN)膜を、電極膜としては銅(Cu)膜を、それぞれ形成する場合の条件について、以下に記載する。
【0102】
これは、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80,90,140(図7,6,4参照)のように、セル内面に、壁部(圧電/電歪体)の表面から好ましくはバリア膜、電極膜、絶縁膜の順に成膜されているアクチュエータを製造する際の成膜手段に該当する。
【0103】
図11は、CVD法に使用されるMOCVD(有機金属化学気相成長法)成膜装置の概略の構成図である。CVD法は、成膜を施す上記焼成積層体をリアクタ204に格納し、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料を導入し、セル内面の全ての面に保護膜を形成する。併せて、セル外面にも保護膜を形成する。MOCVD成膜装置200では、キャリアガスとしてアルゴン(Ar)、窒素(N2)が使用され、反応ガスとして酸素(O2)、アンモニア(NH3)が使用される。各薄膜用の原料は、各々ステンレス製容器に封入され、温度制御された別々のオーブン201,202,203に蓄えられる。リアクタ204は、石英製の2重管構造となっており、インナー管205は横型の構成である。基板206はヒーター209により加熱され、排気はロータリーポンプ207とターボ分子ポンプ208により行われる。
【0104】
各薄膜用の原料である成膜材料は、具体的には、オーブン201にはTa系材料が、オーブン202にはTi系材料が、オーブン203にはCu系材料が、それぞれ蓄えられている。オーブン201,202,203とリアクタ204とは独立した配管で接続されており、各薄膜用の原料は、それぞれの配管を経由し、インレット211,212,213によりリアクタ204へ、それぞれ導入される。
【0105】
(絶縁膜の形成)Ta系材料としては、ペンタエトキシタンタル(Ta(OC2H5)5)が使用される。MOCVD成膜装置200において、115℃に加熱されたオーブン201内に装着されたTa系材料は、アルゴンガスにより搬送され、インレット211からリアクタ204へ導入される。反応ガスとしては酸素が使用される。成膜温度は400℃、成膜圧力は200Pa、成膜時間は2時間である。このとき絶縁膜の厚さは例えば2μmである。
【0106】
(バリア膜の形成)Ti系材料としては、テトラキスジエチルアミドチタニウム(TDEAT Ti[N(C2H5)2]4)が使用される。MOCVD成膜装置200において、オーブン202に装着されたTi系材料は、マスフローコントローラー214と、100℃に加熱した気化器215とにより、リアクタ204へ供給される。キャリアガスとしてN2を、反応ガスとしてNH3が使用される。成膜温度は350℃、成膜圧力は10Pa、成膜時間は5分である。このとき絶縁膜の厚さは例えば50nmである。尚、バリア膜として、TiN膜以外に、窒化タンタル(TaN)膜、窒化ニオブ(NbN)膜等を採用することが出来る。
【0107】
(電極膜の形成)Cu系材料としては、銅ヘキサフルオロアセチルアセテートトリメチルビニルシラン(Cu(hfac)(tmvs))が使用される。MOCVD成膜装置200において、オーブン203に装着されたCu系材料は、マスフローコントローラー214と気化器215とにより、リアクタ204へ供給される。キャリアガスとしてはArが用いられる。成膜温度は210℃、成膜圧力は200Pa、成膜時間は20分である。このとき絶縁膜の厚さは例えば2μmである。
【0108】
次に、成膜手段の電気泳動法について説明する。図8(a)〜図8(d)は、電気泳動法による成膜工程の一例を説明するための図である。この方法は、電気泳動法によって電極(例えば駆動電極)に成膜材料を堆積させた後に、熱処理を施してその成膜材料を流動化させ、その電極を含む面全体に成膜する方法である。尚、電気泳動法により電極に成膜材料の堆積を行った後に熱処理によってその成膜材料を流動化させる先行技術として特許文献2が挙げられる。
【0109】
この方法は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110(図2参照)のように、セル内面において、壁部(圧電/電歪体)の表面から駆動電極が露出していて、それを覆うための絶縁膜が成膜されているアクチュエータを製造する際の焼成積層体に対して行う成膜手段として利用される。但し、電気泳動法では、電極に堆積させる成膜材料の量を一定以上確保する必要があることから、成膜の対象である焼成積層体は、セル内面において電極が占める割合が高いものであることが望ましい。図8(a)は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造過程において得られ、電気泳動法により成膜される焼成積層体の断面図であるが、この焼成積層体181は、図示されるように、天井壁7及び底壁2のセル内面に、駆動電極28(電極膜)が形成され、セル内面において電極が占める割合が高くなっているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110の如き態様とは異なるものである。尚、焼成積層体181では、複数の駆動電極28はビアホールを介して導通しており、駆動電極29も同様である。
【0110】
例えば、絶縁膜としてガラス膜を形成する場合の条件について、以下に記載する。電気泳動法において、先ず、焼成積層体181を、ガラス粉末を分散させた懸濁液182に浸漬させ、駆動電極28,29と接続した電着電極184と参照電極185(プラチナ)と電源183とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図8(b)参照)。そうすると、ガラス粉末186が電界に沿って移動し、駆動電極28,29が露出した部分及びその近傍に電着する(図8(c)参照)。その後、ガラス粉末186が電着した焼成積層体181を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件(ガラス粉末の軟化点温度以上の温度)で熱処理し、ガラス粉末186を流動化させて平らなガラス層を形成し、冷却して固体化させ、焼成積層体181にガラス絶縁膜187を形成する(図8(d)参照)。得られるガラス絶縁膜187は、例えば2μm程度の厚さである。尚、図8(b)において、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液182は、焼成積層体181の微小孔8を通じて、セル3の中へ導入される。
【0111】
ガラス粉末として、例えば、ビスマス−亜鉛−硼珪酸ガラス粉末が採用出来る。懸濁液を調製するに際しては、溶媒はイソプロピルアルコールを用いることが可能であり、溶質濃度は例えば10質量%とし、分散剤をガラス粉末に対し2質量%添加するとよい。懸濁液は、ガラス粉末が均一に分散するように、マグネティックスターラーを用いて、よく攪拌することが好ましい。
【0112】
又、絶縁膜としてガラス以外の材料からなる膜を電気泳動法により形成することも可能である。ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の電着液を使用し、重合化のための熱処理を加えることにより。これら有機材料の被膜を形成することが出来る。
【0113】
図12(a)〜図12(d)は、電気泳動法による成膜工程の他例を説明するための図である。この成膜工程は、図8(a)〜図8(d)に準じた工程であるが、成膜される焼成積層体の態様及び熱処理が2回行われるところが異なる。図12(a)に、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造過程において得られ、電気泳動法により成膜される焼成積層体の断面図が示されるが、図8(a)の焼成積層体181とは異なり、図示される焼成積層体281は、天井壁7及び底壁2のセル内面に、駆動電極28(電極膜)が形成されていない。
【0114】
上記した例と同様に、例えば、絶縁膜としてガラス膜を形成する場合の条件について、以下に記載する。先ず、焼成積層体281を、ガラス粉末を分散させた懸濁液に浸漬させ、駆動電極28,29と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液は焼成積層体281の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のガラス粉末186が電界に沿って移動し、駆動電極28,29が露出した部分及びその近傍に電着する(図12(b)参照)。その後、ガラス粉末186が電着した焼成積層体281を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粉末186を流動化させる。このとき、例えば底壁2を重力方向に向けて配置し、一定時間放置すると、流動化したガラス粉末が移動して、底壁2のセル内面を含んで、平らなガラス層が形成される。そして、冷却して固体化させると、焼成積層体281の天井壁7のセル内面を除き、ガラス絶縁膜187が形成される(図12(c)参照)。そして、再び、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粉末186を流動化させる。このとき、今度は、天井壁7を重力方向に向けて配置し、一定時間放置すると、流動化したガラス粉末が移動して、天井壁7のセル内面を含んで、平らなガラス層が形成される。そして、冷却して固体化させると、焼成積層体281の全てのセル内面に、ガラス絶縁膜187が形成される(図12(d)参照)。尚、ガラス絶縁膜187は底壁2との間で反応層を形成するから、再び流動化させても、最初の熱処理及び冷却で底壁2のセル内面に形成されたガラス絶縁膜187が消失することはない。
【0115】
以上、電気泳動法による成膜工程を2例説明したが、その他に、上記2例と同様に、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液を焼成積層体の微小孔を通じてセルの中へ導入し、駆動電極が露出した部分及びその近傍に電着させた後に、焼成積層体を回転させ、生じた遠心力によって、流動化したガラス粉末を移動させ、全てのセル内面に平らなガラス層を形成することも可能である。そして、冷却して固体化させれば、焼成積層体の全てのセル内面に、ガラス絶縁膜を形成することが出来る。
【0116】
又、成膜手段として電気泳動法を用いる場合には、駆動電極が露出した部分に、電極の極性毎に、異なる成膜材料を堆積させた後に、熱処理によって、それら材料を混合し複合材料として、その複合材料でシームレスな薄膜を形成することが可能である。このような手段で薄膜を形成することにより、薄膜の熱膨張率を調整したり、各成膜材料の性質を併せ持った薄膜を形成することが出来、有用である。
【0117】
図14(a)〜図14(c)は、異なる成膜材料を用い、それらの複合材料でシームレスな薄膜を形成する工程を示す説明図である。この成膜工程は、図8(a)〜図8(d)に準じた工程であるが、2種類の成膜材料を使用するところが異なる。例えば、絶縁膜としてシリカを分散させたガラス膜(複合膜)を形成する場合の条件について、以下に記載する。
【0118】
先ず、焼成積層体381を、ガラス粉末を分散させた懸濁液に浸漬させ、駆動電極28と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液は焼成積層体381の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のガラス粉末285が電界に沿って移動し、駆動電極28が露出した部分及びその近傍に電着する(図14(a)参照)。
【0119】
次に、焼成積層体381を、シリカ粒子を混合した懸濁液に浸漬させ、駆動電極29と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるシリカ粒子を含む懸濁液は焼成積層体381の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のシリカ粒子286が電界に沿って移動し、駆動電極29が露出した部分及びその近傍に電着する(図14(a)参照)。その後、ガラス粉末285及びシリカ粒子286が電着した焼成積層体381を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粉末285を流動化させ混合し複合材料にする。そして、その流動化している複合材料が移動して、平らな層として形成される。そして、冷却して固体化させると、焼成積層体381のセル内面に、複合膜287が形成される(図14(b)参照)。図14(c)は、図14(b)のA部分を拡大した図である。図示されるように、セル内面に形成された複合膜287は、ガラス膜288の中にシリカ289が分散した膜になっている。
【0120】
成膜手段として電気泳動法を用いる場合には、シームレスな薄膜と壁部(側壁、天井壁、底壁)との間に、成膜材料の成分と壁部を構成する材料の成分とを反応させて、反応層を形成することが可能である。このような手段で反応層を形成することにより、薄膜と壁部との密着性を格段に強固にすることが出来、有用である。
【0121】
図15(a)〜図15(c)は、成膜材料の成分と壁部を構成する材料の成分とを反応させて反応層を形成する工程を示す説明図である。この成膜工程は、図8(a)〜図8(d)に準じた工程であるが、壁部を構成する材料の成分と反応して反応層を形成する成分を含むものを、成膜材料として選定するところに特徴がある。例えば、鉛(Pb)とシリコン(Si)による反応層を形成する場合の条件について、以下に記載する。
【0122】
先ず、焼成積層体481の全ての壁部(側壁、天井壁、底壁を含む)を、鉛(Pb)が含まれるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)材料で構成しておく。そして、その焼成積層体481を、元素成分としてシリコンを含むガラス懸濁液に浸漬させ、駆動電極28,29と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるシリコンを含むガラス懸濁液は焼成積層体481の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のガラス粒子385が電界に沿って移動し、駆動電極28,29が露出した部分及びその近傍に電着する(図15(a)参照)。その後、ガラス粒子385が電着した焼成積層体481を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粒子385を流動化させて平らなガラス層を形成し、冷却して固体化させると、焼成積層体481のセル内面に、元素成分としてシリコンを含むガラス絶縁膜387が形成される(図15(b)参照)。図15(c)は、図15(b)のB部分を拡大した図である。図示されるように、セル内面に形成されたシリコンを含むガラス絶縁膜387は、その一部が、自らに含まれるSi(シリコン)と壁部に含まれるPb(鉛)とが反応して形成された反応層388を構成する。
【0123】
ところで、成膜手段として電気泳動法を用い、熱処理を2回乃至それ以上行う場合には、熱処理にかかる温度、乃至、天井壁あるいは底壁を重力方向に向けて配置し放置する時間を調整すること等によって、ガラス粉末の流動度(流れ具合)を調節することが出来る。
【0124】
図13は、ガラス粉末の流動度を小さくすることによって得られるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの態様を示す図であり、1つのセル及びそれを形成する壁部を表した断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ230は、本発明に係る第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施態様であり、2つの側壁6と、それらを接続する天井壁7及び底壁7と、を含む壁部により形成された(複数の)セル3を具備し、上記2つの側壁6が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によってセル3の容積が変化するアクチュエータである。天井壁7には微小孔8が備わり、壁部のセル内面の一部分を覆うガラス絶縁膜187(薄膜)が形成されている。そのガラス絶縁膜187は、ガラス粉末の流動度を小さくした結果、天井壁7のセル内面及び底壁7のセル内面を全て覆っておらず、シームレスな薄膜になっていない。
【0125】
しかし、ガラス絶縁膜187は、側壁6と天井壁7、及び、側壁6と底壁2、の各々の接続部分近傍には形成されており、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ230は、変位を生じる圧電作動部である側壁6と、変位を生じない固定部である天井壁7又は底壁2と、の接合の強化が図れる点で、好ましい態様になっている。圧電作動部である側壁6と、固定部である天井壁7乃至底壁2との接続部分は、アクチュエータの駆動時に最も応力がかかる部分だからである。この態様により、2つの側壁6とそれらを接続する天井壁7及び底壁7が焼成一体化されていなくても、一定の接合信頼性の向上が認められ得るが、勿論、それら壁部が焼成一体化されることで、更に接合信頼性が高められることはいうまでもない。更に、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ230を、セル3に液体が充填される液体吐出装置として用いた場合に、その液体の漏洩防止の観点からも重要な意味を有する。
【0126】
次に、成膜手段のメッキ法について説明する。図9(a)〜図9(c)は、メッキ法による成膜工程を説明するための図である。この方法は、例えば無電解メッキ法によって、金属イオンを含む電解溶液中に、焼成積層体を浸漬させ、化学反応によりその金属を還元し析出させて電極膜を形成する方法である。メッキ法は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140(図4参照)の如く、一対の駆動電極の端部がそれぞれ一方において圧電/電歪体内に埋設され他方において圧電/電歪体から露出しているアクチュエータを製造する際に、製造過程で得られる焼成積層体に対して、一の駆動電極とセル外面で接続され他の駆動電極とセル内面で接続される電極膜を形成する成膜手段として利用される。図9(a)は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造過程において得られ、メッキ法により成膜される焼成積層体の断面図であるが、この焼成積層体191は、電極膜、絶縁膜を形成する前のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140に概ね等しい態様を表し、一対の駆動電極28,29の端部がそれぞれ一方において圧電/電歪体114内に埋設され他方において圧電/電歪体114から露出しているものである。
【0127】
例えば、電極膜としてニッケル膜を形成する場合の条件について、以下に記載する。メッキ法では、メッキを行う前に前処理を施す。前処理は、先ず、成膜の対象である焼成積層体191に付着している主に油脂性の汚れを除去するために脱脂処理を行う。焼成積層体191を、例えば脱脂溶液を投入した50℃の超音波浴に5分間浸漬させることで脱脂処理出来る。次に、焼成積層体191を、例えば25℃のホウフッ酸溶液に5分間浸漬させて、表面のエッチング処理を行う。そして、焼成積層体191を、例えば25℃の希硫酸溶液に1分間浸漬させて、酸中和処理を行い、その後、センシタイザー・アクチュベータ法によりパラジウム核付け処理(25℃、各5分)を行う。
【0128】
以上の前処理が施された焼成積層体191について、例えば無電解ニッケルメッキ法にて、電極膜を形成する。無電解ニッケルメッキ法では、例えば、ニッケル塩、錯化剤、還元剤等を含みpH調整されたメッキ液192を用意し、これを40℃に加熱し、焼成積層体191を、超音波を併用して、そのメッキ液192中に120分間浸漬する(図9(b)参照)。その後、純水洗浄する。以上の処理により、焼成積層体191の所望の表面に、例えば厚さが2μmのニッケル膜197を形成することが出来る(図9(c)参照)。ニッケル膜197は、一対の駆動電極に相当する電極膜であり、本発明にいう薄膜である。
【0129】
続いて、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第2の製造方法について説明する。本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第2の製造方法は、第1の製造方法にも共通してシームレスな薄膜を形成する工程に特徴があり、第2の製造方法では、その薄膜を形成する前に、アクチュエータとして駆動可能な状態にしておき、側壁を構成する圧電/電歪作動部を駆動させ、換言すれば、圧電/電歪作動部の一対の駆動電極間に電圧をかけ側壁を伸縮させて、セルの容積を変化させ、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行う工程を行うところが、第1の製造方法と異なる。このように、セル内面に薄膜を形成するにあたり、対象となるアクチュエータを駆動させながら行うと、成膜材料を導入する微小孔が極小さく、それに対し液体の表面張力が大きく、セル内に成膜材料を導入することが容易でない場合に、成膜を容易にすることが可能である。又、セル内での化学反応により発生したガスをセル外に排出することが出来る観点からも、好適な手段であるといえる。化学反応を用いた成膜手段の場合、副生成物として発生する気体を除去し、反応速度を維持することが高品質な薄膜を製造する際に重要な因子となるからである。尚、このとき、具体的な成膜手段としては成膜材料として液体を用いるメッキ法、電気泳動法、陽極酸化法を採用出来る。
【0130】
上記の特有な工程以外は限定されず、上記した本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法に準じた工程で構成することが可能である。第2の製造方法では、薄膜の形成前にアクチュエータを駆動するので、薄膜が、例えばセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80,90,140(図7,6,4参照)における電極膜にあたる場合には適用出来ないが、薄膜の形成前にアクチュエータを駆動することが出来る限りにおいて、態様を問わず何れのセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを作製する手段として利用することが可能である。
【0131】
第2の製造方法は、具体的には、先ず、第1の製造方法に従って、セラミックグリーンシート積層法により焼成積層体を得る。この第1の製造方法に従う焼成積層体を得る工程は、図10(a)〜図10(c)を参照して既に説明した工程であり、作製対象をセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110(図2参照)とする製造方法を指す。そして、得られた焼成積層体に対し、必要に応じ圧電/電歪体の分極処理を行う。この焼成積層体は、内部に、駆動電極、共通配線、及び個別配線になる導体膜318,319が積層され、ビアホール128,129により導通させているから(図10(b)参照)、ビアホール128とビアホール129との間に仮の外部配線等で電源を接続すれば、駆動可能なものである。そして、その焼成積層体を駆動させ側壁を伸縮させて、セルの容積を変化させれば、セル内の圧力変化によって、微小孔8(図10(c)参照)を通じてセルの中へ成膜材料を導入することが出来、セル内面にシームレスな薄膜を形成することが可能である。
【0132】
以上、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法について説明したが、次に、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ及び本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法に用いられる材料について説明する。
【0133】
先ず、圧電/電歪体の材料(圧電/電歪材料)について説明する。圧電/電歪材料は、圧電効果若しくは電歪効果等の電界誘起歪みを起こす材料であれば、問われるものではない。結晶質でも非晶質でもよく、又、半導体セラミックスや強誘電体セラミックス、あるいは反強誘電体セラミックスを用いることも可能である。用途に応じて適宜選択し採用すればよい。又、分極処理が必要な材料であっても必要がない材料であってもよい。具体的には、好ましい材料として、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、チタン酸ビスマスネオジウム(BNT)、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス、銅タングステンバリウム、鉄酸ビスマス、あるいはこれらのうちの2種以上からなる複合酸化物を挙げることが出来る。
【0134】
又、これらの材料には、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ、銅等の酸化物が固溶されていてもよい。更に、上記材料等に、ビスマス酸リチウム、ゲルマン酸鉛等を添加した材料、例えば、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、及びマグネシウムニオブ酸鉛の複合酸化物に、ビスマス酸リチウム乃至ゲルマン酸鉛を添加した材料は、圧電体の低温焼成を実現しつつ高い材料特性を発現出来るので好ましい。尚、圧電材料の低温焼成化は、ガラス(例えば珪酸塩ガラス、硼酸塩ガラス、燐酸塩ガラス、ゲルマン酸鉛ガラス、又はそれらの混合物)の添加によっても実現させることが出来る。但し、過剰な添加は、材料特性の劣化を招くため、要求特性に応じて添加量を決めることが望ましい。
【0135】
次に、電極の材料としては、導電性の金属及び酸化物が採用される。例えば、電極の材料としては一般には、室温で固体であって、導電性の金属が採用され、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、又は鉛等の金属単体又はこれら2種類以上からなる合金、例えば、銀−白金、白金−パラジウム、銀−パラジウム等を1種単独で又は2種類以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。又、これらの材料と、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、又は圧電/電歪材料等との混合物、サーメットであってもよい。これらの材料の選定にあたっては、圧電/電歪材料の種類に応じて選択することが好ましい。酸化物電極としては酸化インジウムスズ(ITO)、酸化イリジウム、酸化ルテニウムを使用することが出来る。尚、ここでいう電極とは、主に電極膜、駆動電極等として表現されるものを指し、電極の材料は、製造方法の説明においてのちに電極になる導体膜を構成する材料にあたる。又、ビアホールや、必要な電極端子、配線等を構成する材料も、上記電極の材料に準じた材料を採用出来る。
【0136】
保護膜の材料としては、上記したビスマス−亜鉛−硼珪酸ガラスの他に、二酸化珪素、窒化珪素、硼酸−燐酸−珪酸ガラス(BPSG)、燐酸−珪酸ガラス(PSG)等が用いられる。絶縁膜の材料としては、上記した酸化タンタルの他に、酸化アルミナ、酸化チタン等が用いられ、防湿膜の材料としては、二酸化珪素、窒化珪素等が用いられる。バリア膜の材料としては、上記した窒化チタンの他に、窒化タンタル、窒化ニオブ等が用いられる。
【0137】
CVD法により成膜可能な有機材料としてはパリレン樹脂がある。パリレン樹脂は常温で成膜可能であり、絶縁性、耐薬品性、撥水性に優れた材料であることから、本発明にかかる絶縁膜、保護膜、耐湿膜としての機能を併せ持つ好適な材料である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明に係る第1及び第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、印刷機器のインクジェットプリントヘッドとして適用される他に、マイクロポンプ、バイオテクノロジー分野における微量液体の混合・反応操作や遺伝子構造の解析に必要なDNAチップの製造や半導体製造用のコーティング工程において用いられる微小液体吐出装置、あるいは医療分野における各種検査に用いられる試薬の微量投入装置等のアクチュエータとして、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1(a)は、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを切断線で切断した場合の断面図である。
【図2】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図3】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図4】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図5】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図6】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図7】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図8】図8(a)〜図8(d)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図9】図9(a)〜図9(c)は、メッキ法による成膜工程の説明図である。
【図10】図10(a)〜図10(c)は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法の概略工程の一例を示す説明図である。
【図11】成膜手段のCVD法に使用されるMOCVD成膜装置の概略構成図である。
【図12】図12(a)〜図12(d)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図13】本発明に係る第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図14】図14(a)〜図14(c)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図15】図15(a)〜図15(c)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図16】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セル及びそれを形成する壁部のみを示しセルを透視して表した斜視図である。
【図17】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セル及びそれを形成する壁部のみを示しセルを透視して表した斜視図である。
【図18】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セル及びそれを形成する壁部のみを示しセルを透視して表した斜視図である。
【符号の説明】
【0140】
1,80,90,110,120,140,230…セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ、2…底壁、3…セル、4,24,34,44,54,64…圧電/電歪作動部、5…(短手方向の)側壁、6…側壁、7…天井壁、8…微小孔、14,114…圧電/電歪体、17…薄膜、18,19…電極膜、28,29…駆動電極、55…壁部構成要素、100…切断線、117…絶縁膜、128,129…ビアホール、177…保護膜、181…焼成積層体、182…懸濁液、183…電源、184…電着電極、185…参照電極、186…ガラス粉末、187…ガラス絶縁膜、191…焼成積層体、192…メッキ液、197…ニッケル膜、200…MOCVD成膜装置、201,202,203…オーブン、204…リアクタ、205…インナー管、206…基板、207…ロータリーポンプ、208…ターボ分子ポンプ、209…ヒーター、211,212,213…インレット、214…マスフローコントローラー、215…気化器、281…焼成積層体、285…ガラス粉末、286…シリカ粒子、287…複合膜、288…ガラス膜、289…シリカ、318,319…導体膜、381…焼成積層体、385…ガラス粒子、387…ガラス絶縁膜、388…反応層、481…焼成積層体、602,614,615,616,619…セラミックグリーンシート、605,625…スリット孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁部によって形成されたセルを有し、その壁部の少なくとも一部を構成する圧電/電歪作動部の発生変位によってそのセルの容積変化を生じさせ、所定のはたらきを実現するセル駆動型の圧電/電歪アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、コピー機、その他の印刷機器に、インクジェットプリントヘッドが採用されるようになって久しい。近時は、特に小型のプリンタの殆どにノンインパクト方式が採用され、高性能なインクジェットプリントヘッドによって銀塩写真の如く鮮明な画像が紙の上に再現されるようになってきている。
【0003】
ノンインパクト方式の印刷機器とは、インクをノズルから吐出して印字媒体(主に紙)に印刷する機器であり、インクを吐出するインクジェットプリントヘッドの形式によって、主に圧電方式とサーマル(バブルジェット(登録商標)等)方式とが知られている。このうち圧電方式とは、インクジェットプリントヘッドとして圧電/電歪アクチュエータが用いられる印刷機器であり、インクジェットプリントヘッドは、主に、ノズルと、インク供給路に連通するインク室と、そのインク室に容積変化を生じさせる圧電/電歪素子と、から構成される。圧電方式の印刷機器は、インクジェットプリントヘッドが圧電/電歪素子に駆動電圧を印加してインク室に容積変化を発生させインクをノズルから吐出させることにより、印字、印刷を行う。圧電方式のインクジェットプリントヘッドは、サーマル方式がインクを加熱するに比してそれを行わないため、インク選択の自由度が高く、制御性が優れる、という長所を有する。
【0004】
例えば、特許文献1にインクジェット(記録)ヘッドの開示がなされている。特許文献1の図1に示されるように、提案されたインクジェットプリントヘッドは、圧電/電歪体基体(プレート)に、保護膜で被覆された電極をその内面に有し上側が蓋(トッププレート)で覆われた溝を形成し、その溝を、1本おきに、インクを充填したインク室(インクチャネル)とインクを充填しないダミー室(ダミーチャネル)とし、インク室に連通するノズルを有するノズル板(ノズルプレート)を備え、インク室を構成する両側の圧電/電歪体側壁(電極が形成された圧電/電歪素子)に変位を発生させ変形させて、インクをノズルから吐出させるインクジェットプリントヘッドである。このインクジェットプリントヘッドは、蓋はダミー室の上にノズル板まで貫通するスリットを有し、且つダミー室の深さがインク室の深さより大きく、インク室を構成する圧電/電歪体側壁の変形によってダミー室の底部のすべり変形が発生しない深さであるため、クロストークが低減され、安定したインク滴の吐出動作を実現したものである。
【特許文献1】特許第3217006号公報
【特許文献2】特許第3412090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のインクジェットプリントヘッドには改善すべき点があると考えられた。インクジェットプリントヘッドにおいて、インクとして導電性液体を採用する場合には、電極を絶縁するために保護膜の形成が不可欠であり、駆動極性によっては、インクが導電性を有するか否かに関わらず、インクの電気分解防止のために保護膜の形成が必要となる。特許文献1に開示されたインクジェットプリントヘッドでは、その保護膜を形成した後に、ポリイミド等からなるトッププレートを接着剤で接合したものであるため、長期の稼動で側壁の変形が繰り返されることにより、側壁とトッププレートとの間の接合信頼性が低下するおそれがある。又、インクによる接着剤の腐食や接着剤からの脱ガスによりインク室内に気泡が滞留し吐出不良を招くおそれもある。
【0006】
一方、側壁とトッププレートとの間に隙間が生じるとインクが滞留し印字品質の低下を招来し、極端な場合にはインク漏れに至るおそれがある。又、保護膜の機能が低下すると、短絡、マイグレーション等の問題が発生するおそれがある。インクジェットプリントヘッドには長期信頼性が求められており、このような問題発生につながる要素は徹底的に排除しておくことが望ましい。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の抱える課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、インクの滞留、インク漏れ、あるいは、電極にかかる短絡、マイグレーション等の問題発生につながる要素を徹底的に排除したインクジェットプリントヘッドに好適に用いられるアクチュエータを提供することである。検討が重ねられた結果、以下に示すアクチュエータをインクジェットプリントヘッドとして適用することにより、上記目的が達成されることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によってセルの容積が変化するアクチュエータであって、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているセル駆動型圧電/電歪アクチュエータが提供される(第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータともいう)。
【0009】
本明細書において、セルとは、壁部に備わる微小孔を除き密閉された小空間を意味する。又、セル内面とは、空間であるセルを形成する壁部の面であって、セルに接している面を指し、セル外面とは、空間であるセルを形成する壁部の面であって、セルに接していない面を指す(ダミーセルに接している場合がある)。
【0010】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいて、微小孔は、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上設けられていればよく、限定されるものではないが、天井壁又は底壁の何れかに1つ乃至2つの微小孔が備わることが好ましく、その大きさは、径として好ましくは200μm以下、より好ましくは20乃至150μmである。微小孔は円形であれば好ましいが、限定されるものではない。本明細書において、微小孔の径は、円形の場合には直径、円形ではない場合には内接円の直径を指す。
【0011】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜、電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一の単層膜又は二以上の多層膜で構成されることが好ましい。
【0012】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜と電極膜とを含む多層膜で構成され、壁部の表面から、少なくともバリア膜、電極膜の順に成膜されていることが好ましい。
【0013】
更に、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、1層以上のシームレスな薄膜が、少なくとも電極膜を含み、更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一以上の膜を含む、二以上の多層膜で構成され、前記壁部の表面から、少なくとも電極膜、絶縁膜の順、少なくとも電極膜、保護膜の順、少なくとも電極膜、防湿膜の順、の何れかによって成膜されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、1層以上のシームレスな薄膜が電極膜を含む場合において、その電極膜が金属又は酸化物で形成されることが好ましい。
【0015】
又、1層以上のシームレスな薄膜がバリア膜を含む場合において、そのバリア膜が酸化物又は窒化物で形成されることが好ましい。
【0016】
更に、1層以上のシームレスな薄膜が絶縁膜、保護膜、及び防湿膜を含む場合において、それら絶縁膜、保護膜、及び防湿膜が、酸化物、窒化物、又は炭化物で形成されることが好ましい。
【0017】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいては、2つの側壁、天井壁及び底壁を含む壁部が、焼成一体化されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、変位を発現する圧電/電歪作動部は圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とで構成されるので圧電/電歪素子とも表現出来るが、本明細書では、セルを形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部とよぶ。
【0019】
その圧電/電歪作動部の態様は限定されるものではないが、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の高さ方向に交互に積層をされた層状の圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの縦効果により前記変位を発生することが好ましい。
【0020】
この態様の場合に、層状の圧電/電歪体の数は限定されず、1乃至複数であってよい。圧電/電歪作動部の最小構成は、1層の圧電/電歪体を挟んで一対の駆動電極が形成される態様であるが、変位効率を向上させるためには、圧電/電歪体は、より薄く、多層であることが好ましい。層状の圧電/電歪体、と表現されるが、板状の圧電/電歪体、と対比させて表したものであり、層状及び板状の語が圧電/電歪体の厚さを限定するわけではない。又、側壁の高さ方向、と表現されるが、側壁の幅方向、と対比させ相対的な方向として表したものであり、高さ及び幅の語が絶対的な方向を示すわけではない。即ち、必ずしも重力方向の反対方向が高さ方向ではない。
【0021】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の幅方向に交互に積層をされた板状の前記圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの横効果により前記変位を発生することが好ましい。駆動電極が側壁の幅方向に圧電/電歪体と積層をされてその側壁を構成するから、積層の最外層に現れた駆動電極がセル内面(及びセル外面)にあたる場合があり、このときには、少なくともセル内面において駆動電極は上記したシームレスな電極膜として形成される。
【0022】
又、この態様の場合には、1つの壁部あたりの板状の圧電/電歪体の数は限定されず、1又は複数であってよい。圧電/電歪作動部の最小構成は、1枚の圧電/電歪体を挟んで、その両側面に一対の駆動電極が形成される態様である。圧電/電歪体が複数備わる場合には側壁の幅方向に積層され、複数の圧電/電歪体の間の面にも電極が形成される。既に述べたように、板状の圧電/電歪体と表現されるが、圧電/電歪体の厚さを限定するわけではない。限定されるものではないが、板状の圧電/電歪体は複数備わることが好ましい。変位効率が向上するからである。板状の圧電/電歪体が複数備わる場合には、駆動電極は圧電/電歪体の側面に形成され、圧電/電歪体と圧電/電歪体との間の面にも形成されるので、圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とが、側壁の幅方向に交互に積層をされる態様となる。
【0023】
尚、電界誘起歪みの縦効果とは、分極方向に電界を加えたときに同じ方向に伸縮するような圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変形をいい、電界誘起歪みの横効果とは、分極方向に電界を加えたときに垂直方向に伸縮するような圧電/電歪作動部(圧電/電歪体)の変形をいう。
【0024】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成されればよく、セルを形成する残りの壁部である天井壁及び底壁は変位を生じないものであってもよいが、天井壁及び底壁の何れか又は両方が圧電/電歪作動部で構成される態様であってもよい。
【0025】
本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、圧電/電歪と称しているが、電界によって誘起される歪みを利用するアクチュエータであって、狭義の意味での、印加電界に概ね比例した歪み量を発生する圧電効果又は印加電界の二乗に概ね比例した歪み量を発生する電歪効果を利用するアクチュエータに限定されるものではなく、強誘電体材料全般にみられる分極反転、反強誘電体材料にみられる反強誘電相−強誘電相転移、等の現象を利用するアクチュエータも含まれる。本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおいて、より好ましいものは材料強度面に優れるセラミックアクチュエータである。又、分極にかかる処理が行われるか否かについては、本発明に係る圧電/電歪アクチュエータを構成する圧電/電歪作動部の圧電/電歪体に用いられる圧電/電歪材料の性質に基づいて適宜決定される。
【0026】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、壁部によって形成されるセルの形状は限定されるものではなく、側壁、天井壁、底壁を平面ではなく曲面で構成し、種々のセル形状としてもよい。より好ましいセルの形状は、長手方向の断面において高さに比して幅の狭い角筒形を表す形状、即ちスリット状である。即ち、スリット状のセルとは、それを形成する壁部の構成要素のうち、相対的に2つの側壁が長く天井壁及び底壁が短いことを表す。より具体的には、1つのセルを形成する2つの側壁間の最短距離(セル幅という)に対する底壁と天井壁との最短距離(セル高という)の比(セルのアスペクト比という)が、概ね2〜100であるセルが好ましい。又、セル幅は概ね60μm以下であることが好ましい。より好ましくは、セルのアスペクト比が概ね10〜50、セル幅が50μm以下である。
【0027】
又、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、側壁(圧電/電歪作動部)の厚さに対する側壁の高さ(セル高に等しい)の比(側壁(圧電/電歪作動部)のアスペクト比という)が、概ね2〜100であることが好ましい。より好ましくは、側壁のアスペクト比が概ね10〜50である。これらの条件のうち少なくとも何れか1つの条件に適うアクチュエータであれば、更に好ましくは全ての条件が適うアクチュエータであれば、より高出力化を図ることが容易であるとともに、高密度化が図れ、よりコンパクトなアクチュエータを実現することが可能である。
【0028】
本明細書において、壁部がそれぞれ、側、天井、底、の語で修飾され表現されるが、絶対的な、方向乃至位置関係を示すものではない。即ち、例えば必ずしも重力方向に位置する壁部が底壁であるわけではない。又、本明細書において、側壁が圧電/電歪作動部で構成され、と表現されるが、側壁の一部が圧電/電歪作動部で構成される場合を含む。より好ましくは、側壁全体が圧電/電歪作動部を構成する態様である。
【0029】
上記したセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは何れも液体吐出装置に適用することが出来る。本発明によれば、上記した何れかのセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いた液体吐出装置が提供される。
【0030】
このセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いた液体吐出装置は、セルが液体加圧室を構成し、圧電/電歪作動部の変位によってセルの容積が変化して、セルに充填された、粒子が含まれる液体を、吐出させ得る液体吐出装置であって、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜のうち、セル内面に対面する最外層の表面電位が、液体に含まれる粒子の表面電位と同じ極性であることが好ましい。
【0031】
例えば、液体吐出装置のうちインクジェットプリンタでは、近年、印刷物の長寿命化を図るために顔料系インクが用いられることが多い。そして、この顔料系インクは、着色するための顔料粒子を含んだ液体となっている。液体中に含まれる顔料粒子の表面電位とセル内壁面の表面電位とを同じ極性とすることにより、互いに反発させ、顔料粒子が壁部に化学吸着するのを抑制し、安定した吐出性能を維持することが可能になる。又、液体吐出装置のうちイオン化溶液等を吐出するデバイスにおいても、同様の原理で化学吸着を低減出来、装置の洗浄性を飛躍的に向上させることが出来る。バイオ・医療分野で適用される微量液体吐出装置では、様々な液体を扱う必要があり、装置の洗浄性の良し悪しは重要な課題である。尚、表面電位はゼータ電位を測定することで把握出来、液体の物性を予め把握しておくことで、吐出性能を最適化した装置設計が可能である。
【0032】
次に、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、壁部のうち少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成し且つ圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を設け、セルを形成した後に、所定の成膜手段により、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行い、壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法が提供される(セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法、又は単に第1の製造方法ともいう)。この方法では、最終的に2つの側壁を圧電/電歪作動部で構成するために、圧電/電歪体を含んで構成した2つの側壁に駆動電極を形成するタイミングは限定されない。2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものであるか、又は、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものであるかにより、駆動電極を形成するに好ましいタイミングが異なる場合があるので、適切なタイミングで行えばよい。
【0033】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、成膜材料が、気体であることが好ましい。そして、この場合には、成膜手段が、CVD法、蒸着重合法のうちの何れかであることが好ましい。
【0034】
又、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、成膜材料が、液体であることも好ましい。この場合には、成膜手段が、メッキ法であることが好ましい。
【0035】
更に、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、セルを形成する際に、壁部のセル内面に電極を露出させ、成膜手段として電気泳動法を用いて、微小孔を通じてセルの中へ液体の成膜材料の導入を行い少なくとも電極へ堆積させた後に、成膜材料の軟化点温度以上の温度で熱処理を行う工程を有することが好ましい。
【0036】
この場合には、熱処理が2回以上行われることが好ましい。尚、1回の熱処理とは、成膜材料を流動化させ得る処理をいい、熱処理の区切りは、冷却を行うことにより示される。又、電極は、駆動電極が該当するが、他の成膜手段により先にセル内面に形成された電極膜であってもよい。
【0037】
又、この場合(成膜手段として電気泳動法を用い熱処理を行う工程を有する場合)には、成膜材料が2種以上であり、上記した熱処理によってその2種以上の成膜材料を混合して複合材料を得て、その複合材料によりシームレスな薄膜を形成することが好ましい。
【0038】
例えば、成膜材料として無機材料を用いる場合に、2種以上の複数の材料を用いて複合化することにより、薄膜と壁部(基材)との熱膨張率を整合させることが可能である。より具体的には、壁部の材料としてジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を用いる場合に、PZTの熱膨張率は3×10-6/Kであり、その熱膨張率に合わせた成膜材料としてガラス粉末を選択するのは困難である。成膜材料を流動化させる熱処理の温度は、拡散防止の観点から、より低いことが望ましく、具体的には500〜600℃であることが求められる。このような低い温度で熱処理が可能であり(ガラス転移点が低く)、且つ、低熱膨張率であるガラス粉末を作製することは難しい。通常の低ガラス転移温度材料の熱膨張率は5〜7×10-6/K程度である。このため、ガラス粉末の中に、熱膨張率が非常に小さいシリカ(0.5×10-6/K)を分散させた材料を作製することにより、壁部を構成するPZTに合ったガラス絶縁膜を作製することが出来る。
【0039】
又、成膜材料として有機材料を用いる場合に、例えばアクリル系樹脂とエポキシ系樹脂の複合化を行うことが出来る。絶縁性、耐食性に優れたエポキシ系樹脂と、壁部(基材)との密着性に優れたアクリル系樹脂のハイブリッド化により、優れた薄膜を成膜することが可能である。
【0040】
更に、成膜手段として電気泳動法を用い熱処理を行う工程を有する場合には、シームレスな薄膜と壁部との間に、成膜材料の成分と壁部を構成する材料の成分とを反応させて反応層を形成することが好ましい。例えば、壁部(基材)がジルコン酸チタン酸鉛(PZT)のようなPb成分を含む材料で構成される場合に、成膜材料としてシリコン(Si)を含む材料を選択することで、熱処理時に、成膜材料の成分(Pb)と、壁部を構成する材料の成分(Si)とを反応させて反応層を形成することが出来、これにより、薄膜と壁部との密着性を格段に強固にすることが出来る。
【0041】
又、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、壁部のうち少なくとも2つの側壁を圧電/電歪作動部で構成し且つ圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を設け、セルを形成し、アクチュエータとして駆動可能とした後に、側壁を構成する圧電/電歪作動部を駆動させ(側壁を伸縮させて)セルの容積を変化させながら、所定の成膜手段により、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行い、壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法が提供される(セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第2の製造方法、又は単に第2の製造方法ともいう)。この方法では、第1の製造方法と異なり、壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する前にアクチュエータとして駆動可能にする必要があるから、少なくともセルを形成した時点で、2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成されていることを要する。即ち、セルを形成した時点で、2つの側壁が圧電/電歪体を含んで構成され且つ駆動電極が形成されている必要がある。但し、2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものであるか、又は、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものであるか、は限定されず、何れでもよい。
【0042】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法及び第2の製造方法において(両方を指して単に本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法ともいう)、微小孔の径が、200μm以下であることが好ましい。より好ましくは20乃至150μmである。尚、微小孔は、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に1つ以上備わればよく、限定されないが、天井壁又は底壁の何れかに1つ乃至2つの微小孔が備わることが、より好ましい。
【0043】
又、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法では、少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成すればよく、天井壁及び底壁は圧電/電歪体を含んで構成してもよく、そうでない材料であってもよい。より好ましくは、少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成するために、セルを形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁及び底壁を作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる。この方法では、天井壁は別途作製し後付けする。又、より好ましくは、セルを形成する壁部のうち2つの側壁、底壁、及び天井壁の全てを作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる。この方法では、セルを形成する壁部の全てが一体化する。
【0044】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法において、製造対象であるアクチュエータが液体吐出装置に用いられる場合において、微小孔が液体を吐出するノズルを兼ねることが好ましい。液体吐出装置の一例がインクジェットプリントヘッドである。
【0045】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法においては、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を形成する手段、工程は限定されず、何れかの方法で、セルの中へ成膜材料を導入する前に、形成しておけばよい。
【0046】
次に、本発明によれば、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によってセルの容積が変化するアクチュエータであって、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に1つ以上の微小孔が備わるとともに、2つの側壁のセル内面、及び、2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続部分のセル内面、を覆う1層以上の薄膜が形成されていることにより、2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続信頼性を向上させたセル駆動型圧電/電歪アクチュエータが提供される(第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータともいう)。
【0047】
尚、本明細書において、単に本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータというときは、この第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを指す。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、セルを形成する壁部のセル内面に、そのセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているものである。シームレスであるため薄膜が破壊され難く、微小孔を介して通じるセルの内と外とが、その微小孔部分を除いて完全に仕切られ隔離性が向上している。又、セル内面に流体の溜まりとなるような部分が形成され難い。更には、セル内面、即ち空間であるセルを形成する壁部の面であってセル(空間)に接している面、に薄膜が形成されているため、従来技術の如く壁部の構成要素の間(例えば側壁と天井壁(又は底壁)の間)に接着部を介在させずに、それらを、直接、接合させることが出来る。従って、壁部の構成要素がたとえ接着剤で接合されている場合でも、長期の稼動により繰り返される側壁の変形に対して、壁部の構成要素間の接合信頼性を高く保つことが出来る。加えて、薄膜自体の破壊のおそれ、乃び、少なくとも本来有していた膜の機能を低下させるおそれ、が小さい。
【0049】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの好ましい態様は、壁部が焼成一体化されたものである。この態様では、壁部の構成要素間の接合に接着剤を用いないため、セルを形成する壁部自体の機械的強度が増すとともに、接着剤に起因して生じる壁部の構成要素間の接合信頼性の低下を完全に排除出来る。又、薄膜が接する壁部に界面が現れないため、壁部と薄膜との密着性が向上するとともに、長期間の使用におけるシームレスな薄膜に対する影響(化学的な変化、物理的な応力)がより小さくなり、薄膜の劣化が抑制される。
【0050】
従って、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータをインクジェットプリントヘッドとして適用した場合に、セルの中でインクが滞留し難く、インク漏れに至るおそれは殆どなくなる。印字品質の低下やその他のトラブルが起き難くなり、短絡、マイグレーション等の問題が抑制される。即ち、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いたインクジェットプリントヘッドは、優れた長期信頼性を備えたものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ及びその製造方法について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0052】
先ず、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータについて説明する。図1(a)は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1を切断線100で切断したときの断面図である。図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1は、図中において上面に、1つのセル3毎に、ノズルとして利用可能な2つの微小孔8を有しており、圧電/電歪方式の印刷機器のインクジェットプリントヘッドや各種の液体吐出装置に利用可能なものである。
【0053】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1は、2つの側壁6と、その2つの側壁6を接続する天井壁7及び底壁2と、を含む壁部を有し、その壁部により形成された概ねスリット状の直方体形をなすセル3を複数備えている。2つの微小孔8は、セル3の中と外とを通じ、天井壁7に開いている。個々のセル3毎に、2つの側壁6は圧電/電歪作動部4として構成され、その圧電/電歪作動部4の変位によって、セル3の容積が変化する。複数のセル3の間の空間は、ダミーセル15として構成され、一のセル3と他のセル3とは完全に独立している。
【0054】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、セルのアスペクト比は1つのセル毎に決まり、側壁のアスペクト比は1つの側壁毎に決まる。図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1において、側壁6(圧電/電歪作動部4)のアスペクト比は、その厚さTと高さ(セルの深さDに相当)で表され(=D/T)、概ね15程度である。セルの幅Wとセルの深さD(側壁の高さに相当)で示されるセルのアスペクト比(=D/W)は5程度である。
【0055】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1には、図1(b)に示されるように、壁部のセル内面(セル3を形成する壁部の面のうち空間であるセル3に接している面)に、そのセル内面を全てを覆うシームレスな薄膜17が形成されている。そして、壁部は、2つの側壁6、天井壁7、及び底壁2を含む全ての構成要素が焼成一体化されて出来たものであり、壁部には接着剤による接合部分が存在せず、壁部もシームレスであるということが出来る。即ち、空間であるセル3は、微小孔8部分を除いては、薄膜17により囲われ、更にその外側で壁部に囲われるという二重のシームレスな仕切手段で形成されている。セル3の中からみれば連続した薄膜17の面しか存在せず、流体の溜まりになり得る部分がみられない。又、薄膜が破壊されるおそれが殆どない。
【0056】
尚、焼成一体化された壁部は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの必須要件ではないが、より好ましい態様である。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1は、インクジェットプリントヘッドとして適用される場合には、セル3がインク室(液体加圧室)になり、圧電/電歪作動部4(側壁6)が(図1(b)中における上下方向に)伸縮し、セル3の容積を変化させ、セル3に充填されたインク(液体)を吐出させることが出来る。
【0057】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1では、微小孔8が天井壁7に開いているが、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、微小孔は壁部のうち圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く部分であれば限定されるものはない。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1と同様にセルがスリット状の直方体形をなす場合には、壁部の構成要素として短手方向の側壁が存在することになるが、その短手方向の側壁に微小孔を設けてもよく、あるいは、底壁であってもよい。
【0058】
図16は、図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1の1つのセル3及びそれを形成する壁部のみを示しセル3を透視して表した斜視図である。図示されるように、スリット状の直方体形をなすセル3を形成する壁部は、長手方向の側壁である2つの側壁6、天井壁7、底壁2の他に、短手方向の側壁である2つの側壁5によって形成されており、微小孔8は天井壁7に開いている。一方、図17に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、スリット状の直方体形をなすセル3を形成する壁部は、同様に、長手方向の側壁である2つの側壁6、天井壁7、底壁2の他に、短手方向の側壁である2つの側壁5によって形成されているが、微小孔8は短手方向の側壁5に開いている。
【0059】
ところで、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、2つの側壁、天井壁、底壁を含む壁部によりセルを形成したものであり、そのセルは微小孔を除いて密閉された空間であるが、セルは上記したような直方体形に限定されるわけではない。図18は、1つのセル及びそれを形成する壁部のみを表した斜視図であり、セルが直方体形ではない場合の実施形態を示す図である。セルが図示されるような船形をしている場合においても、セルが微小孔を除き密閉された空間であるためには、図17に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータにおける短手方向の側壁5のように平面の壁ではないがそれに相当する壁部構成要素55が存在する。そして、この部分の態様はセルによって変わり得るため、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、その形態は、微小孔を除いて密閉された空間であるセルを具備すること、及び、そのセルが2つの側壁とその2つの側壁を接続する天井壁及び底壁とを含む壁部により形成されること、により特定される。尚、本明細書において、単に側壁というときには圧電/電歪作動部で構成される長手方向の側壁を指す。
【0060】
図1(b)では、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1の圧電/電歪作動部4の具体的態様は示されていない。本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、圧電/電歪作動部が変位を生じる圧電/電歪体と少なくとも一対の駆動電極とからなるものであるが、その具体的な態様を限定せず、圧電/電歪作動部には種々の態様があり得る。例えば、圧電/電歪体の積層態様、あるいは変位を生じる圧電/電歪作動部として機能させるべく圧電/電歪体に電界をかけるための駆動電極の形成態様、等によって分類することが出来る。又、1層以上のシームレスな薄膜も、その圧電/電歪作動部の態様によって、あるいは、セルの中に充填され薄膜と接する流体の性状によって、例えば電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜等のうちの一の単層膜乃至二以上の多層膜で構成される種々の態様になり得る。
【0061】
以下、圧電/電歪作動部及び薄膜の具体的態様を表したセル駆動型圧電/電歪アクチュエータについて、図2〜図7を参酌しながら説明を続ける。図2〜図7では、1つのセル及びそれを形成する壁部のみが示されるが、これらはそれぞれセルが複数備わるものであって、図2〜図7に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの、微小孔やダミーセル等を含むアクチュエータとしての全体構成は、図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1に準じる。
【0062】
図2、図3、図4、図5に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110,130,140,120は、側壁を構成する圧電/電歪作動部が、側壁の高さ方向に交互に積層をされた、層状の圧電/電歪体と一対の駆動電極とを有する態様をなし、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生するものである。他方、図6、図7に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80,90は、側壁を構成する圧電/電歪作動部が、板状の圧電/電歪体とその圧電/電歪体の側面に形成された一対の駆動電極とを有する態様であり、電界誘起歪みの横効果により変位を発生するものである。
【0063】
図2は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部34で構成され、その圧電/電歪作動部34は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
【0064】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110では、駆動電極28,29が層状を呈し、それらの端部は、両方とも圧電/電歪体114の積層断面に露出している。又、それぞれ複数の駆動電極28,29を、それぞれ接続する配線は、側壁6の表面に外部電極として形成されておらず、(図示しないが)圧電/電歪体114自体の中に設けられている。具体的には、圧電/電歪作動部34に変位を生じさせるための外部から駆動電極28,29のそれぞれに電源を供給する配線は、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
【0065】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110では、駆動電極28,29の端部が圧電/電歪体114の積層断面に露出しているため、セル3に導電性液体が充填されると短絡してしまうので、側壁6のセル内面及びセル外面に、薄膜として、絶縁膜117が形成されている。薄膜は、セル3に充填される液体の性状等によっては、絶縁膜の代わりに保護膜、防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0066】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110において、層状の圧電/電歪体114は、例えば駆動電極28から駆動電極29へ向けた方向(図2中において上下方向(縦方向))に分極されている(挟まれる駆動電極により各圧電/電歪体114毎に分極方向は異なる)。そして、図示されない配線を介して、駆動電極28側を正、駆動電極29側を負にして駆動電極28,29間に電圧を印加することにより、先に記した分極方向と同じ方向の電界が形成される。換言すれば、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は、分極が互いに反対方向の圧電/電歪体114が駆動電極28,29を挟んで積層され、各々の圧電/電歪体114においては、分極と駆動電界とが同一方向になっている。その結果、圧電/電歪体114に電界誘起歪みが発現し、その電界誘起歪みの縦効果による変位に基づき、圧電/電歪作動部34は、駆動電極28,29で挟まれる圧電/電歪体114が図2中において概ね上下方向に(側壁6の高さ方向と同じ方向に)伸縮し、セル3の容積を変化させる。
【0067】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110では、圧電/電歪体114の変位が電界誘起歪みを直接利用するものであるので、その変位の発生力が大きく応答速度も速い。個々の圧電/電歪体114が発現する変位量は大きなものではないが、積層数に比例した変位量となるので、積層数を増やすことによって大変位を得ることが可能である。又、圧電/電歪体114の1層当たりの厚さを、好ましくは100μm以下、より好ましくは10乃至80μmとすることによって、より低電圧で駆動出来るようにすることも可能である。
【0068】
図3は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部44で構成され、その圧電/電歪作動部44は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
【0069】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130では、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110と同様に、それぞれ複数の駆動電極28,29をそれぞれ接続する配線は、圧電/電歪体114自体の中に設けられ、例えば、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
【0070】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130は、側壁6に備わる圧電/電歪作動部44の駆動電極28,29の両方の端部が、圧電/電歪体114内に埋設されているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110と異なる。側壁6は焼成一体化されたものであり且つその表面に駆動電極が露出していないため、通常、セル3に導電性液体が充填した場合でも駆動電極の短絡等の問題が生じない。従って、例えばインクジェットプリントヘッドとして利用する場合に、セルに充填されるインク材料を制限することがない。又、必ずしも側壁6に絶縁等の目的で薄膜を形成する必要はないが、アクチュエータの長期にわたる信頼性を保持するためセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130ではセル内面及びセル外面に保護膜177が形成されている。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0071】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130は、分極、駆動電界、駆動動作、変位(発生力、低電圧)等については、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110に準じる。
【0072】
図4は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部64で構成され、その圧電/電歪作動部64は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。天井壁7には微小孔8が備わる。圧電/電歪体114は、側壁6において9層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計10層(9対)積層されている。
【0073】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140では、それぞれ複数の駆動電極28,29をそれぞれ接続する配線が外部電極として側壁6に形成されている。その外部電極は、側壁6のセル内面に形成された共通電極(配線)としての電極膜18、及び、側壁6のセル外面に形成された個別電極(配線)としての電極膜19である。セル内面に形成された電極膜18はセル内面を全て覆うシームレスな膜である。層状を呈する駆動電極28,29は、それぞれの端部が、それぞれ一方において圧電/電歪体114内に埋設され、他方において圧電/電歪体114から露出し、駆動電極28は電極膜18と接続され、駆動電極29は電極膜19と接続される。
【0074】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140では、側壁6のセル内面及びセル外面には、電極膜18,19の上に、保護膜177が形成されている。セル内面側の保護膜177は、(電極膜18の上から)セル内面を全て覆うシームレスな保護膜として形成され、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140において、電極膜18とともに、本発明にいうセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜を構成する。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0075】
尚、図示しないが、側壁6には電極膜18,19より先に(下面に)導電性のバリア膜が形成されてもよい。勿論、そのバリア膜のうち、少なくともセル内面に形成されるバリア膜は、セル内面を全て覆うシームレスなバリア膜として形成されていることが好ましい。そうすると、例えば、電極膜18,19を形成した後に、その上に更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜の何れか一の単層膜又は二以上の多層膜を形成した場合に、加熱により電極膜の成分が圧電/電歪体の中へ拡散したり逆に圧電/電歪体の成分が電極膜へ拡散することがなく、圧電/電歪特性の低下が生じ難くなる。
【0076】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140は、分極、駆動電界、駆動動作、変位(発生力、低電圧)等については、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110,130に準じる。
【0077】
図5は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部54で構成され、その圧電/電歪作動部54は、側壁6の高さ方向に交互に積層をされた、複数の層状の圧電/電歪体114と駆動電極28,29とを有し、電界誘起歪みの縦効果により変位を発生する。圧電/電歪体114は、側壁6において14層備わり、その圧電/電歪体114を挟んで極性の異なる駆動電極28,29が合計15層(14対)積層されている。
【0078】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120では、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110,130と同様に、それぞれ複数の駆動電極28,29をそれぞれ接続する配線は、圧電/電歪体114自体の中に設けられ、例えば、圧電/電歪体114の内部にビアホール等により引き回すことで、圧電/電歪体114の所望の位置に、別途、形成することが出来る。
【0079】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120は、側壁6に備わる圧電/電歪作動部54の駆動電極28,29の端部のうちセル内面側の端部のみが、圧電/電歪体114内に埋設されているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110と異なる。側壁6は焼成一体化されたものであり且つその表面に駆動電極が露出していないため、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ130と同様に、通常、セル3に導電性液体が充填した場合でも駆動電極の短絡等の問題が生じない。従って、例えばインクジェットプリントヘッドとして利用する場合に、セルに充填されるインク材料を制限することがない。又、必ずしも側壁6に絶縁等の目的で薄膜を形成する必要はないが、アクチュエータの長期にわたる信頼性を保持するためセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120ではセル内面及びセル外面に保護膜177が形成されている。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0080】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ120は、分極、駆動電界、駆動動作、変位(発生力、低電圧)等については、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110等に準じる。
【0081】
図6は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90は、2つの側壁6の各々が圧電/電歪作動部4で構成され、その圧電/電歪作動部4は、側壁6の幅方向(図6中において横方向)に交互に積層をされた板状の圧電/電歪体14及び一対の駆動電極28,29を有し、電界誘起歪みの横効果により圧電/電歪体14が変位を発生し、セル3の容積を変化させる。
【0082】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90では、一対の駆動電極28,29が側壁6のセル内面及びセル外面に形成されている態様になり、セル内面に形成された駆動電極28がセル内面を全て覆うシームレスな電極膜として形成されている。側壁6のセル内面及びセル外面には、駆動電極28,29の上に、保護膜177が形成されている。セル内面側の保護膜177は、(駆動電極28(電極膜)の上から)セル内面を全て覆うシームレスな保護膜として形成され、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90において、駆動電極28とともに、本発明にいうセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜を構成する。セル3に充填される液体の性状等によっては、保護膜の代わりに防湿膜等であってもよく、又はそれらの多層膜でもよい。
【0083】
尚、図示しないが、側壁6には駆動電極28,29より先に(下面に)バリア膜が形成されてもよい。勿論、そのバリア膜のうち、少なくともセル内面に形成されるバリア膜は、セル内面を全て覆うシームレスなバリア膜として形成されることが好ましい。そうすると、例えば、駆動電極28,29を形成した後に、例えば、その上に更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜の何れか一の単層膜又は二以上の多層膜が形成される場合に、圧電/電歪体14及び駆動電極28,29が加熱されて電極膜の成分が圧電/電歪体の中へ拡散したり逆に圧電/電歪体の成分が電極膜へ拡散し得るが、そのような現象を排除出来、圧電/電歪特性の低下を防止することが可能である。
【0084】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90において、板状の圧電/電歪体14は、例えば駆動電極28から駆動電極29へ向けた方向(図6中において左右方向(横方向))に分極されている。そして、駆動電極28側を正、駆動電極29側を負にして駆動電極28,29間に電圧を印加することにより、先に記した分極方向と同じ方向の電界が形成される。即ち、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90では、分極と駆動電界とが同一方向になっている。その結果、圧電/電歪体14に電界誘起歪みが発現し、その電界誘起歪みの横効果による変位に基づき、圧電/電歪作動部4は、駆動電極28,29で挟まれる圧電/電歪体14が図6中において概ね上下方向に(側壁6の高さ方向と同じ方向に)伸縮し、セル3の容積を変化させる。
【0085】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90では、圧電/電歪体114の変位が電界誘起歪みを直接利用するものであるので、その変位の発生力が大きく応答速度も速い。
【0086】
図7は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80は、2つの側壁6を構成する板状の圧電/電歪体14が2層であり、その2層の圧電/電歪体14は、それぞれ駆動電極28,29に挟まれて側壁6の幅方向(図7において横方向)に積層をされ圧電/電歪作動部24を形成しているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90と異なるが、側壁6のセル内面及びセル外面において駆動電極28,29の上に、薄膜として保護膜177が形成されているところその他についてはセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ90と共通する。
【0087】
セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80では、側壁6の厚さ(幅)が同じセル駆動型圧電/電歪アクチュエータと比較すると、1層あたりの圧電/電歪体14をより薄くすることが出来、一定の駆動電圧あたりに、より大きな変位量、より高い発生力を発現することが出来る。尚、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータでは、板状の圧電/電歪体を2層以上にすることも好ましく、圧電/電歪体の積層数を増やすことによって側壁の強度、剛性が向上し、より高速応答可能なアクチュエータとすることが出来る。圧電/電歪体の1層当たりの厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは10乃至30μmとする。こうすると、よりアクチュエータの低駆動電圧化、高強度化、高集積化が可能である。又、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80は、図7に示される如く合板状の側壁6を有するものになるので、機械強度が向上し、耐久性が高められる。更に、セル内の露出する駆動電極29を共通電極とする場合、板状の圧電/電歪体の層数を偶数とすることで、セル内外に露出する電極をどちらも共通電極とすることが出来、個別電極である駆動電極28が露出しないことになるので、短絡等の電気的不具合を回避出来、アクチュエータの信頼性が向上し得る。
【0088】
以上、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータについて説明したが、次に、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法について説明する。
【0089】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法が対象とするものは、2つの側壁と、その2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータであり、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータに相当するものである。
【0090】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法は、シームレスな薄膜を形成する工程に特徴があり、以下のようにその工程は行われる。先ず、2つの側壁、天井壁、及び底壁を含む壁部によりセルを形成する。このとき、壁部のうち少なくとも2つの側壁を圧電/電歪体で構成し、且つ、圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に微小孔を設ける。次いで、所定の成膜手段により、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行い、壁部のセル内面に薄膜を形成する。セルの中と外とを通じる微小孔が存在するものの、先に微小孔を除き密閉された空間であるセルを形成し、その後に、そのセルの中へ成膜材料の導入をするので、形成される薄膜は、セル内面の全てを覆うシームレスな膜となる。
【0091】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法において、壁部によりセルを形成する手段は限定されない。好ましい方法としてはセラミックグリーンシート積層法を挙げることが出来る。そして、壁部を構成する側壁、天井壁、及び底壁を焼成一体化させる工程を採用することが好ましい。
【0092】
以下、最初に、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法のうちセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法について、その一例を掲げ具体的に説明する。図10(a)〜図10(c)は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法の概略工程の一例を示す説明図である。作製対象は、図2に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110である。既に記したようにセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は、微小孔やダミーセル等を含むアクチュエータとしての全体構成は、図1(a)、図1(b)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ1に準じた複数のセルを具備する構成であり、液体をセルから吐出するためのノズル乃至液体をセルへ入れるための導入孔として天井壁に備わる微小孔を利用し、インクジェットプリントヘッド等の液体吐出装置に適用可能なものである。
【0093】
先ず、圧電/電歪材料を主成分とする所定枚数のセラミックグリーンシートを用意する。セラミックグリーンシートは、従来知られた方法により作製出来る。例えば、圧電/電歪材料粉末を用意し、これにバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法等のグリーンシート成形法によって、セラミックグリーンシートを形成することが可能である。尚、本明細書において、セラミックグリーンシートを、単にグリーンシートとも記す。
【0094】
得られたセラミックグリーンシートに対し、例えばパンチとダイによる打抜加工により、図10(a)に示されるような、グリーンシート602,615,619を得る。グリーンシート602,619は各1枚でよく、グリーンシート615は複数枚用意する。グリーンシート615は、のちに側壁(圧電/電歪作動部)のうちの圧電/電歪体になるものであり、のちにセルを構成するスリット孔605と、のちにダミーセルを構成するスリット孔625と、のちに個別配線用のビアホールを構成する円孔628と、のちに共通配線用のビアホールを構成する円孔629とが形成されたグリーンシートである。グリーンシート602は、のちに底壁を構成するものであり、のちにダミーセルを構成するスリット孔625が形成されたグリーンシートである。グリーンシート619は、のちに天井壁を構成するものであり、のちにダミーセルを構成するスリット孔625と、のちにセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110の微小孔8(図10(c)参照)を構成する微円孔608とが形成されたグリーンシートである。尚、微円孔608は、その径が200μm以下になるように加工される。又、各1枚作製するグリーンシート602とグリーンシート619については、圧電/電歪材料ではない別の材料を用いてもよい。
【0095】
次に、図10(b)に示されるように、複数枚のグリーンシート615の円孔628,629を導電性材料で埋めてビアホール128,129を形成するとともに、そのグリーンシート615の半々ずつに、ビアホール128に接続される導体膜(導電性材料を主成分とする膜)318、及びビアホール129に接続される導体膜319を形成して、それぞれ複数枚のグリーンシート614,616を得る。尚、導体膜は、スクリーン印刷、フォトリソグラフィ等の手段により所定のパターンで形成出来る。
【0096】
グリーンシート614,616において、5つのスリット孔605はのちにセルを構成する孔であり、スリット孔625に対し相対的に大きく開けられる。6つのスリット孔625は、のちにセルとセルとの間の空間であるダミーセルを構成する孔であり、スリット孔605を挟むように配置される。スリット孔605とスリット孔625との間のグリーンシート実体部分が、のちに側壁を構成する。導体膜318は、その一部がのちに一の駆動電極になり、且つその一部が個別配線として用いられるものであり、導体膜319は、その一部がのちに他の駆動電極になり、且つその一部が共通配線として用いられるものである。導体膜318,319は、ともに、のちにセルを構成するスリット孔605を形成する面、及び、のちにダミーセルを構成するスリット孔625を形成する面に、それぞれ露出されるように設けられる。
【0097】
次に、グリーンシート602を最下層、グリーンシート619を最上層として、それらの間に、セルを形成するために複数のグリーンシート614,616を交互に積層しつつ、グリーンシート602,614,616,619を圧着して所定の厚さを有するセラミックグリーン積層体を得て、それを焼成一体化して焼成積層体を得る(図示しない)。この焼成積層体は、グリーンシート614,616のスリット孔605を連通させてなる5つのセルと、そのセルに通じる微小孔と、グリーンシート602,614,616,619のスリット孔625を連通させてなる6つのダミーセルと、を備えたものになっている。
【0098】
次いで、焼成積層体に対して、所定の成膜手段を用いて、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料を導入し、セル内面の全ての面に保護膜を形成する。併せて、セル外面のうちダミーセルを形成する面にも保護膜を形成する。成膜手段は限定されない。尚、セル外面の保護膜のパターニングは、予めフォトレジストを塗布し露光することで行ってもよいし、セル外面の全ての面に成膜した後に不必要な部分を研削等の手法により切除してもよい。
【0099】
そして、必要に応じて、外部配線接続、圧電/電歪体の分極処理等を行えば、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110が得られる(図10(c))。セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110において、ダミーセル15と微小孔8は外観に現れるが、セルは内部に形成され露わになっていない。尚、得られたセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110は複数のセルを具備するアクチュエータであるが、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータはセルが1つでもよく、そのようなセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、上記製造工程に従って、複数のセルを具備するアクチュエータを得た後に、加工により分断するか、又は、上記製造工程において、グリーンシート615のスリット孔605(のちにセルを構成するもの)を1つにして、グリーンシート602,615,619のスリット孔625(のちにセルを構成するもの)を2つにすることにより、作製することが出来る。
【0100】
本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法において、最も好ましい成膜手段はCVD(化学気相成長)法である。又、成膜材料が気体である場合には、CVD法の他に蒸着重合法を好ましい手段として採用出来る。蒸着重合法とは、基板上に、両末端に官能性を有する複数のモノマーを気相で蒸着、反応させ、高分子の薄膜を形成する方法であり、化学構造のみならず条件設定により、分子鎖が高度に配向、配列した有機薄膜を作製出来る。例えば、ポリイミド、ポリ尿素などが成膜可能な方法である。更に、成膜材料が液体である場合には、メッキ法、電気泳動法を、好ましい手段として採用出来る。上記した成膜手段を組み合わせて薄膜を形成することも好ましい。このような成膜手段により、上記工程にかかる保護膜の形成の他に、電極膜、バリア膜、絶縁膜、防湿膜の形成も行うことが可能である。
【0101】
以下、成膜手段のうち、先ずCVD法について説明する。例えば、絶縁膜として酸化タンタル(Ta2O5)膜を、バリア膜としては窒化チタン(TiN)膜を、電極膜としては銅(Cu)膜を、それぞれ形成する場合の条件について、以下に記載する。
【0102】
これは、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80,90,140(図7,6,4参照)のように、セル内面に、壁部(圧電/電歪体)の表面から好ましくはバリア膜、電極膜、絶縁膜の順に成膜されているアクチュエータを製造する際の成膜手段に該当する。
【0103】
図11は、CVD法に使用されるMOCVD(有機金属化学気相成長法)成膜装置の概略の構成図である。CVD法は、成膜を施す上記焼成積層体をリアクタ204に格納し、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料を導入し、セル内面の全ての面に保護膜を形成する。併せて、セル外面にも保護膜を形成する。MOCVD成膜装置200では、キャリアガスとしてアルゴン(Ar)、窒素(N2)が使用され、反応ガスとして酸素(O2)、アンモニア(NH3)が使用される。各薄膜用の原料は、各々ステンレス製容器に封入され、温度制御された別々のオーブン201,202,203に蓄えられる。リアクタ204は、石英製の2重管構造となっており、インナー管205は横型の構成である。基板206はヒーター209により加熱され、排気はロータリーポンプ207とターボ分子ポンプ208により行われる。
【0104】
各薄膜用の原料である成膜材料は、具体的には、オーブン201にはTa系材料が、オーブン202にはTi系材料が、オーブン203にはCu系材料が、それぞれ蓄えられている。オーブン201,202,203とリアクタ204とは独立した配管で接続されており、各薄膜用の原料は、それぞれの配管を経由し、インレット211,212,213によりリアクタ204へ、それぞれ導入される。
【0105】
(絶縁膜の形成)Ta系材料としては、ペンタエトキシタンタル(Ta(OC2H5)5)が使用される。MOCVD成膜装置200において、115℃に加熱されたオーブン201内に装着されたTa系材料は、アルゴンガスにより搬送され、インレット211からリアクタ204へ導入される。反応ガスとしては酸素が使用される。成膜温度は400℃、成膜圧力は200Pa、成膜時間は2時間である。このとき絶縁膜の厚さは例えば2μmである。
【0106】
(バリア膜の形成)Ti系材料としては、テトラキスジエチルアミドチタニウム(TDEAT Ti[N(C2H5)2]4)が使用される。MOCVD成膜装置200において、オーブン202に装着されたTi系材料は、マスフローコントローラー214と、100℃に加熱した気化器215とにより、リアクタ204へ供給される。キャリアガスとしてN2を、反応ガスとしてNH3が使用される。成膜温度は350℃、成膜圧力は10Pa、成膜時間は5分である。このとき絶縁膜の厚さは例えば50nmである。尚、バリア膜として、TiN膜以外に、窒化タンタル(TaN)膜、窒化ニオブ(NbN)膜等を採用することが出来る。
【0107】
(電極膜の形成)Cu系材料としては、銅ヘキサフルオロアセチルアセテートトリメチルビニルシラン(Cu(hfac)(tmvs))が使用される。MOCVD成膜装置200において、オーブン203に装着されたCu系材料は、マスフローコントローラー214と気化器215とにより、リアクタ204へ供給される。キャリアガスとしてはArが用いられる。成膜温度は210℃、成膜圧力は200Pa、成膜時間は20分である。このとき絶縁膜の厚さは例えば2μmである。
【0108】
次に、成膜手段の電気泳動法について説明する。図8(a)〜図8(d)は、電気泳動法による成膜工程の一例を説明するための図である。この方法は、電気泳動法によって電極(例えば駆動電極)に成膜材料を堆積させた後に、熱処理を施してその成膜材料を流動化させ、その電極を含む面全体に成膜する方法である。尚、電気泳動法により電極に成膜材料の堆積を行った後に熱処理によってその成膜材料を流動化させる先行技術として特許文献2が挙げられる。
【0109】
この方法は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110(図2参照)のように、セル内面において、壁部(圧電/電歪体)の表面から駆動電極が露出していて、それを覆うための絶縁膜が成膜されているアクチュエータを製造する際の焼成積層体に対して行う成膜手段として利用される。但し、電気泳動法では、電極に堆積させる成膜材料の量を一定以上確保する必要があることから、成膜の対象である焼成積層体は、セル内面において電極が占める割合が高いものであることが望ましい。図8(a)は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造過程において得られ、電気泳動法により成膜される焼成積層体の断面図であるが、この焼成積層体181は、図示されるように、天井壁7及び底壁2のセル内面に、駆動電極28(電極膜)が形成され、セル内面において電極が占める割合が高くなっているところが、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110の如き態様とは異なるものである。尚、焼成積層体181では、複数の駆動電極28はビアホールを介して導通しており、駆動電極29も同様である。
【0110】
例えば、絶縁膜としてガラス膜を形成する場合の条件について、以下に記載する。電気泳動法において、先ず、焼成積層体181を、ガラス粉末を分散させた懸濁液182に浸漬させ、駆動電極28,29と接続した電着電極184と参照電極185(プラチナ)と電源183とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図8(b)参照)。そうすると、ガラス粉末186が電界に沿って移動し、駆動電極28,29が露出した部分及びその近傍に電着する(図8(c)参照)。その後、ガラス粉末186が電着した焼成積層体181を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件(ガラス粉末の軟化点温度以上の温度)で熱処理し、ガラス粉末186を流動化させて平らなガラス層を形成し、冷却して固体化させ、焼成積層体181にガラス絶縁膜187を形成する(図8(d)参照)。得られるガラス絶縁膜187は、例えば2μm程度の厚さである。尚、図8(b)において、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液182は、焼成積層体181の微小孔8を通じて、セル3の中へ導入される。
【0111】
ガラス粉末として、例えば、ビスマス−亜鉛−硼珪酸ガラス粉末が採用出来る。懸濁液を調製するに際しては、溶媒はイソプロピルアルコールを用いることが可能であり、溶質濃度は例えば10質量%とし、分散剤をガラス粉末に対し2質量%添加するとよい。懸濁液は、ガラス粉末が均一に分散するように、マグネティックスターラーを用いて、よく攪拌することが好ましい。
【0112】
又、絶縁膜としてガラス以外の材料からなる膜を電気泳動法により形成することも可能である。ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の電着液を使用し、重合化のための熱処理を加えることにより。これら有機材料の被膜を形成することが出来る。
【0113】
図12(a)〜図12(d)は、電気泳動法による成膜工程の他例を説明するための図である。この成膜工程は、図8(a)〜図8(d)に準じた工程であるが、成膜される焼成積層体の態様及び熱処理が2回行われるところが異なる。図12(a)に、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造過程において得られ、電気泳動法により成膜される焼成積層体の断面図が示されるが、図8(a)の焼成積層体181とは異なり、図示される焼成積層体281は、天井壁7及び底壁2のセル内面に、駆動電極28(電極膜)が形成されていない。
【0114】
上記した例と同様に、例えば、絶縁膜としてガラス膜を形成する場合の条件について、以下に記載する。先ず、焼成積層体281を、ガラス粉末を分散させた懸濁液に浸漬させ、駆動電極28,29と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液は焼成積層体281の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のガラス粉末186が電界に沿って移動し、駆動電極28,29が露出した部分及びその近傍に電着する(図12(b)参照)。その後、ガラス粉末186が電着した焼成積層体281を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粉末186を流動化させる。このとき、例えば底壁2を重力方向に向けて配置し、一定時間放置すると、流動化したガラス粉末が移動して、底壁2のセル内面を含んで、平らなガラス層が形成される。そして、冷却して固体化させると、焼成積層体281の天井壁7のセル内面を除き、ガラス絶縁膜187が形成される(図12(c)参照)。そして、再び、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粉末186を流動化させる。このとき、今度は、天井壁7を重力方向に向けて配置し、一定時間放置すると、流動化したガラス粉末が移動して、天井壁7のセル内面を含んで、平らなガラス層が形成される。そして、冷却して固体化させると、焼成積層体281の全てのセル内面に、ガラス絶縁膜187が形成される(図12(d)参照)。尚、ガラス絶縁膜187は底壁2との間で反応層を形成するから、再び流動化させても、最初の熱処理及び冷却で底壁2のセル内面に形成されたガラス絶縁膜187が消失することはない。
【0115】
以上、電気泳動法による成膜工程を2例説明したが、その他に、上記2例と同様に、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液を焼成積層体の微小孔を通じてセルの中へ導入し、駆動電極が露出した部分及びその近傍に電着させた後に、焼成積層体を回転させ、生じた遠心力によって、流動化したガラス粉末を移動させ、全てのセル内面に平らなガラス層を形成することも可能である。そして、冷却して固体化させれば、焼成積層体の全てのセル内面に、ガラス絶縁膜を形成することが出来る。
【0116】
又、成膜手段として電気泳動法を用いる場合には、駆動電極が露出した部分に、電極の極性毎に、異なる成膜材料を堆積させた後に、熱処理によって、それら材料を混合し複合材料として、その複合材料でシームレスな薄膜を形成することが可能である。このような手段で薄膜を形成することにより、薄膜の熱膨張率を調整したり、各成膜材料の性質を併せ持った薄膜を形成することが出来、有用である。
【0117】
図14(a)〜図14(c)は、異なる成膜材料を用い、それらの複合材料でシームレスな薄膜を形成する工程を示す説明図である。この成膜工程は、図8(a)〜図8(d)に準じた工程であるが、2種類の成膜材料を使用するところが異なる。例えば、絶縁膜としてシリカを分散させたガラス膜(複合膜)を形成する場合の条件について、以下に記載する。
【0118】
先ず、焼成積層体381を、ガラス粉末を分散させた懸濁液に浸漬させ、駆動電極28と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるガラス粉末を含む懸濁液は焼成積層体381の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のガラス粉末285が電界に沿って移動し、駆動電極28が露出した部分及びその近傍に電着する(図14(a)参照)。
【0119】
次に、焼成積層体381を、シリカ粒子を混合した懸濁液に浸漬させ、駆動電極29と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるシリカ粒子を含む懸濁液は焼成積層体381の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のシリカ粒子286が電界に沿って移動し、駆動電極29が露出した部分及びその近傍に電着する(図14(a)参照)。その後、ガラス粉末285及びシリカ粒子286が電着した焼成積層体381を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粉末285を流動化させ混合し複合材料にする。そして、その流動化している複合材料が移動して、平らな層として形成される。そして、冷却して固体化させると、焼成積層体381のセル内面に、複合膜287が形成される(図14(b)参照)。図14(c)は、図14(b)のA部分を拡大した図である。図示されるように、セル内面に形成された複合膜287は、ガラス膜288の中にシリカ289が分散した膜になっている。
【0120】
成膜手段として電気泳動法を用いる場合には、シームレスな薄膜と壁部(側壁、天井壁、底壁)との間に、成膜材料の成分と壁部を構成する材料の成分とを反応させて、反応層を形成することが可能である。このような手段で反応層を形成することにより、薄膜と壁部との密着性を格段に強固にすることが出来、有用である。
【0121】
図15(a)〜図15(c)は、成膜材料の成分と壁部を構成する材料の成分とを反応させて反応層を形成する工程を示す説明図である。この成膜工程は、図8(a)〜図8(d)に準じた工程であるが、壁部を構成する材料の成分と反応して反応層を形成する成分を含むものを、成膜材料として選定するところに特徴がある。例えば、鉛(Pb)とシリコン(Si)による反応層を形成する場合の条件について、以下に記載する。
【0122】
先ず、焼成積層体481の全ての壁部(側壁、天井壁、底壁を含む)を、鉛(Pb)が含まれるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)材料で構成しておく。そして、その焼成積層体481を、元素成分としてシリコンを含むガラス懸濁液に浸漬させ、駆動電極28,29と接続した電極と参照電極と電源とを接続し、例えば30Vで5分間という条件で電圧を印加する(図は省略、図8(b)に準じる)。そうすると、成膜材料であるシリコンを含むガラス懸濁液は焼成積層体481の微小孔8を通じてセル3の中へ導入され、懸濁液の中のガラス粒子385が電界に沿って移動し、駆動電極28,29が露出した部分及びその近傍に電着する(図15(a)参照)。その後、ガラス粒子385が電着した焼成積層体481を乾燥させ、更に、例えば600℃で10分という条件で熱処理し、ガラス粒子385を流動化させて平らなガラス層を形成し、冷却して固体化させると、焼成積層体481のセル内面に、元素成分としてシリコンを含むガラス絶縁膜387が形成される(図15(b)参照)。図15(c)は、図15(b)のB部分を拡大した図である。図示されるように、セル内面に形成されたシリコンを含むガラス絶縁膜387は、その一部が、自らに含まれるSi(シリコン)と壁部に含まれるPb(鉛)とが反応して形成された反応層388を構成する。
【0123】
ところで、成膜手段として電気泳動法を用い、熱処理を2回乃至それ以上行う場合には、熱処理にかかる温度、乃至、天井壁あるいは底壁を重力方向に向けて配置し放置する時間を調整すること等によって、ガラス粉末の流動度(流れ具合)を調節することが出来る。
【0124】
図13は、ガラス粉末の流動度を小さくすることによって得られるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの態様を示す図であり、1つのセル及びそれを形成する壁部を表した断面図である。図示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ230は、本発明に係る第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施態様であり、2つの側壁6と、それらを接続する天井壁7及び底壁7と、を含む壁部により形成された(複数の)セル3を具備し、上記2つの側壁6が圧電/電歪作動部で構成され、その圧電/電歪作動部の変位によってセル3の容積が変化するアクチュエータである。天井壁7には微小孔8が備わり、壁部のセル内面の一部分を覆うガラス絶縁膜187(薄膜)が形成されている。そのガラス絶縁膜187は、ガラス粉末の流動度を小さくした結果、天井壁7のセル内面及び底壁7のセル内面を全て覆っておらず、シームレスな薄膜になっていない。
【0125】
しかし、ガラス絶縁膜187は、側壁6と天井壁7、及び、側壁6と底壁2、の各々の接続部分近傍には形成されており、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ230は、変位を生じる圧電作動部である側壁6と、変位を生じない固定部である天井壁7又は底壁2と、の接合の強化が図れる点で、好ましい態様になっている。圧電作動部である側壁6と、固定部である天井壁7乃至底壁2との接続部分は、アクチュエータの駆動時に最も応力がかかる部分だからである。この態様により、2つの側壁6とそれらを接続する天井壁7及び底壁7が焼成一体化されていなくても、一定の接合信頼性の向上が認められ得るが、勿論、それら壁部が焼成一体化されることで、更に接合信頼性が高められることはいうまでもない。更に、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ230を、セル3に液体が充填される液体吐出装置として用いた場合に、その液体の漏洩防止の観点からも重要な意味を有する。
【0126】
次に、成膜手段のメッキ法について説明する。図9(a)〜図9(c)は、メッキ法による成膜工程を説明するための図である。この方法は、例えば無電解メッキ法によって、金属イオンを含む電解溶液中に、焼成積層体を浸漬させ、化学反応によりその金属を還元し析出させて電極膜を形成する方法である。メッキ法は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140(図4参照)の如く、一対の駆動電極の端部がそれぞれ一方において圧電/電歪体内に埋設され他方において圧電/電歪体から露出しているアクチュエータを製造する際に、製造過程で得られる焼成積層体に対して、一の駆動電極とセル外面で接続され他の駆動電極とセル内面で接続される電極膜を形成する成膜手段として利用される。図9(a)は、セル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造過程において得られ、メッキ法により成膜される焼成積層体の断面図であるが、この焼成積層体191は、電極膜、絶縁膜を形成する前のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ140に概ね等しい態様を表し、一対の駆動電極28,29の端部がそれぞれ一方において圧電/電歪体114内に埋設され他方において圧電/電歪体114から露出しているものである。
【0127】
例えば、電極膜としてニッケル膜を形成する場合の条件について、以下に記載する。メッキ法では、メッキを行う前に前処理を施す。前処理は、先ず、成膜の対象である焼成積層体191に付着している主に油脂性の汚れを除去するために脱脂処理を行う。焼成積層体191を、例えば脱脂溶液を投入した50℃の超音波浴に5分間浸漬させることで脱脂処理出来る。次に、焼成積層体191を、例えば25℃のホウフッ酸溶液に5分間浸漬させて、表面のエッチング処理を行う。そして、焼成積層体191を、例えば25℃の希硫酸溶液に1分間浸漬させて、酸中和処理を行い、その後、センシタイザー・アクチュベータ法によりパラジウム核付け処理(25℃、各5分)を行う。
【0128】
以上の前処理が施された焼成積層体191について、例えば無電解ニッケルメッキ法にて、電極膜を形成する。無電解ニッケルメッキ法では、例えば、ニッケル塩、錯化剤、還元剤等を含みpH調整されたメッキ液192を用意し、これを40℃に加熱し、焼成積層体191を、超音波を併用して、そのメッキ液192中に120分間浸漬する(図9(b)参照)。その後、純水洗浄する。以上の処理により、焼成積層体191の所望の表面に、例えば厚さが2μmのニッケル膜197を形成することが出来る(図9(c)参照)。ニッケル膜197は、一対の駆動電極に相当する電極膜であり、本発明にいう薄膜である。
【0129】
続いて、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第2の製造方法について説明する。本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第2の製造方法は、第1の製造方法にも共通してシームレスな薄膜を形成する工程に特徴があり、第2の製造方法では、その薄膜を形成する前に、アクチュエータとして駆動可能な状態にしておき、側壁を構成する圧電/電歪作動部を駆動させ、換言すれば、圧電/電歪作動部の一対の駆動電極間に電圧をかけ側壁を伸縮させて、セルの容積を変化させ、微小孔を通じてセルの中へ成膜材料の導入を行う工程を行うところが、第1の製造方法と異なる。このように、セル内面に薄膜を形成するにあたり、対象となるアクチュエータを駆動させながら行うと、成膜材料を導入する微小孔が極小さく、それに対し液体の表面張力が大きく、セル内に成膜材料を導入することが容易でない場合に、成膜を容易にすることが可能である。又、セル内での化学反応により発生したガスをセル外に排出することが出来る観点からも、好適な手段であるといえる。化学反応を用いた成膜手段の場合、副生成物として発生する気体を除去し、反応速度を維持することが高品質な薄膜を製造する際に重要な因子となるからである。尚、このとき、具体的な成膜手段としては成膜材料として液体を用いるメッキ法、電気泳動法、陽極酸化法を採用出来る。
【0130】
上記の特有な工程以外は限定されず、上記した本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法に準じた工程で構成することが可能である。第2の製造方法では、薄膜の形成前にアクチュエータを駆動するので、薄膜が、例えばセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ80,90,140(図7,6,4参照)における電極膜にあたる場合には適用出来ないが、薄膜の形成前にアクチュエータを駆動することが出来る限りにおいて、態様を問わず何れのセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを作製する手段として利用することが可能である。
【0131】
第2の製造方法は、具体的には、先ず、第1の製造方法に従って、セラミックグリーンシート積層法により焼成積層体を得る。この第1の製造方法に従う焼成積層体を得る工程は、図10(a)〜図10(c)を参照して既に説明した工程であり、作製対象をセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ110(図2参照)とする製造方法を指す。そして、得られた焼成積層体に対し、必要に応じ圧電/電歪体の分極処理を行う。この焼成積層体は、内部に、駆動電極、共通配線、及び個別配線になる導体膜318,319が積層され、ビアホール128,129により導通させているから(図10(b)参照)、ビアホール128とビアホール129との間に仮の外部配線等で電源を接続すれば、駆動可能なものである。そして、その焼成積層体を駆動させ側壁を伸縮させて、セルの容積を変化させれば、セル内の圧力変化によって、微小孔8(図10(c)参照)を通じてセルの中へ成膜材料を導入することが出来、セル内面にシームレスな薄膜を形成することが可能である。
【0132】
以上、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法について説明したが、次に、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ及び本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法に用いられる材料について説明する。
【0133】
先ず、圧電/電歪体の材料(圧電/電歪材料)について説明する。圧電/電歪材料は、圧電効果若しくは電歪効果等の電界誘起歪みを起こす材料であれば、問われるものではない。結晶質でも非晶質でもよく、又、半導体セラミックスや強誘電体セラミックス、あるいは反強誘電体セラミックスを用いることも可能である。用途に応じて適宜選択し採用すればよい。又、分極処理が必要な材料であっても必要がない材料であってもよい。具体的には、好ましい材料として、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、チタン酸ビスマスネオジウム(BNT)、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス、銅タングステンバリウム、鉄酸ビスマス、あるいはこれらのうちの2種以上からなる複合酸化物を挙げることが出来る。
【0134】
又、これらの材料には、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ、銅等の酸化物が固溶されていてもよい。更に、上記材料等に、ビスマス酸リチウム、ゲルマン酸鉛等を添加した材料、例えば、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、及びマグネシウムニオブ酸鉛の複合酸化物に、ビスマス酸リチウム乃至ゲルマン酸鉛を添加した材料は、圧電体の低温焼成を実現しつつ高い材料特性を発現出来るので好ましい。尚、圧電材料の低温焼成化は、ガラス(例えば珪酸塩ガラス、硼酸塩ガラス、燐酸塩ガラス、ゲルマン酸鉛ガラス、又はそれらの混合物)の添加によっても実現させることが出来る。但し、過剰な添加は、材料特性の劣化を招くため、要求特性に応じて添加量を決めることが望ましい。
【0135】
次に、電極の材料としては、導電性の金属及び酸化物が採用される。例えば、電極の材料としては一般には、室温で固体であって、導電性の金属が採用され、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、又は鉛等の金属単体又はこれら2種類以上からなる合金、例えば、銀−白金、白金−パラジウム、銀−パラジウム等を1種単独で又は2種類以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。又、これらの材料と、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化セリウム、ガラス、又は圧電/電歪材料等との混合物、サーメットであってもよい。これらの材料の選定にあたっては、圧電/電歪材料の種類に応じて選択することが好ましい。酸化物電極としては酸化インジウムスズ(ITO)、酸化イリジウム、酸化ルテニウムを使用することが出来る。尚、ここでいう電極とは、主に電極膜、駆動電極等として表現されるものを指し、電極の材料は、製造方法の説明においてのちに電極になる導体膜を構成する材料にあたる。又、ビアホールや、必要な電極端子、配線等を構成する材料も、上記電極の材料に準じた材料を採用出来る。
【0136】
保護膜の材料としては、上記したビスマス−亜鉛−硼珪酸ガラスの他に、二酸化珪素、窒化珪素、硼酸−燐酸−珪酸ガラス(BPSG)、燐酸−珪酸ガラス(PSG)等が用いられる。絶縁膜の材料としては、上記した酸化タンタルの他に、酸化アルミナ、酸化チタン等が用いられ、防湿膜の材料としては、二酸化珪素、窒化珪素等が用いられる。バリア膜の材料としては、上記した窒化チタンの他に、窒化タンタル、窒化ニオブ等が用いられる。
【0137】
CVD法により成膜可能な有機材料としてはパリレン樹脂がある。パリレン樹脂は常温で成膜可能であり、絶縁性、耐薬品性、撥水性に優れた材料であることから、本発明にかかる絶縁膜、保護膜、耐湿膜としての機能を併せ持つ好適な材料である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明に係る第1及び第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータは、印刷機器のインクジェットプリントヘッドとして適用される他に、マイクロポンプ、バイオテクノロジー分野における微量液体の混合・反応操作や遺伝子構造の解析に必要なDNAチップの製造や半導体製造用のコーティング工程において用いられる微小液体吐出装置、あるいは医療分野における各種検査に用いられる試薬の微量投入装置等のアクチュエータとして、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1(a)は、本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示されるセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを切断線で切断した場合の断面図である。
【図2】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図3】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図4】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図5】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図6】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図7】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図8】図8(a)〜図8(d)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図9】図9(a)〜図9(c)は、メッキ法による成膜工程の説明図である。
【図10】図10(a)〜図10(c)は、本発明に係るセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの第1の製造方法の概略工程の一例を示す説明図である。
【図11】成膜手段のCVD法に使用されるMOCVD成膜装置の概略構成図である。
【図12】図12(a)〜図12(d)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図13】本発明に係る第2のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セルの断面図である。
【図14】図14(a)〜図14(c)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図15】図15(a)〜図15(c)は、電気泳動法による成膜工程の説明図である。
【図16】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セル及びそれを形成する壁部のみを示しセルを透視して表した斜視図である。
【図17】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セル及びそれを形成する壁部のみを示しセルを透視して表した斜視図である。
【図18】本発明に係る第1のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの一実施形態を示す図であり、セル及びそれを形成する壁部のみを示しセルを透視して表した斜視図である。
【符号の説明】
【0140】
1,80,90,110,120,140,230…セル駆動型圧電/電歪アクチュエータ、2…底壁、3…セル、4,24,34,44,54,64…圧電/電歪作動部、5…(短手方向の)側壁、6…側壁、7…天井壁、8…微小孔、14,114…圧電/電歪体、17…薄膜、18,19…電極膜、28,29…駆動電極、55…壁部構成要素、100…切断線、117…絶縁膜、128,129…ビアホール、177…保護膜、181…焼成積層体、182…懸濁液、183…電源、184…電着電極、185…参照電極、186…ガラス粉末、187…ガラス絶縁膜、191…焼成積層体、192…メッキ液、197…ニッケル膜、200…MOCVD成膜装置、201,202,203…オーブン、204…リアクタ、205…インナー管、206…基板、207…ロータリーポンプ、208…ターボ分子ポンプ、209…ヒーター、211,212,213…インレット、214…マスフローコントローラー、215…気化器、281…焼成積層体、285…ガラス粉末、286…シリカ粒子、287…複合膜、288…ガラス膜、289…シリカ、318,319…導体膜、381…焼成積層体、385…ガラス粒子、387…ガラス絶縁膜、388…反応層、481…焼成積層体、602,614,615,616,619…セラミックグリーンシート、605,625…スリット孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部の変位によって前記セルの容積が変化するアクチュエータであって、
前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項2】
前記1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜、電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一の単層膜又は二以上の多層膜で構成される請求項1に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項3】
前記1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜と電極膜とを含む多層膜で構成され、前記壁部の表面から、少なくともバリア膜、電極膜の順に成膜されている請求項1に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項4】
前記1層以上のシームレスな薄膜が、少なくとも電極膜を含み、更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一以上の膜を含む、二以上の多層膜で構成され、前記壁部の表面から、少なくとも電極膜、絶縁膜の順、少なくとも電極膜、保護膜の順、少なくとも電極膜、防湿膜の順、の何れかによって成膜されている請求項1に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項5】
前記1層以上のシームレスな薄膜が前記電極膜を含む場合において、前記電極膜が金属又は酸化物で形成される請求項2〜4の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項6】
前記1層以上のシームレスな薄膜が前記バリア膜を含む場合において、前記バリア膜が酸化物又は窒化物で形成される請求項2又は3に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項7】
前記1層以上のシームレスな薄膜が前記絶縁膜、保護膜、及び防湿膜を含む場合において、前記絶縁膜、保護膜、及び防湿膜が、酸化物、窒化物、又は炭化物で形成される請求項2又は4の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項8】
前記シームレスな薄膜と前記壁部との間に、前記薄膜を構成する材料の成分と前記壁部を構成する材料の成分との反応に基づく反応層が形成されている請求項1〜7の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項9】
前記2つの側壁、天井壁及び底壁を含む壁部が、焼成一体化されている請求項1〜8の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項10】
前記2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、前記側壁の高さ方向に交互に積層をされた層状の圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの縦効果により前記変位を発生する請求項1〜9の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項11】
前記2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、前記側壁の幅方向に交互に積層をされた板状の前記圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの横効果により前記変位を発生する請求項1〜9の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いた液体吐出装置。
【請求項13】
前記セルが液体加圧室を構成し、前記圧電/電歪作動部の変位によって前記セルの容積が変化して、前記セルに充填された、粒子が含まれる液体を、吐出させ得る液体吐出装置であって、
前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜のうち、セル内面に対面する最外層の表面電位が、前記液体に含まれる粒子の表面電位と同じ極性である請求項12に記載の液体吐出装置。
【請求項14】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、
前記壁部のうち少なくとも前記2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成し且つ前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に前記微小孔を設け、前記セルを形成した後に、
所定の成膜手段により、前記微小孔を通じて前記セルの中へ成膜材料の導入を行い、前記壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項15】
前記成膜材料が、気体である請求項14に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項16】
成膜手段が、CVD法、蒸着重合法のうちの何れかである請求項15に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項17】
前記成膜材料が、液体である請求項14に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項18】
成膜手段が、メッキ法である請求項17に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項19】
前記セルを形成する際に、前記壁部のセル内面に電極を露出させ、
成膜手段として電気泳動法を用いて、前記微小孔を通じて前記セルの中へ液体の成膜材料の導入を行い少なくとも前記電極へ堆積させた後に、
前記成膜材料の軟化点温度以上の温度で熱処理を行う工程を有する請求項14に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項20】
前記熱処理が、2回以上行われる請求項19に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項21】
前記成膜材料が2種以上であり、前記熱処理によってその2種以上の成膜材料を混合して複合材料を得て、その複合材料により前記シームレスな薄膜を形成する請求項19又は20に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項22】
前記シームレスな薄膜と前記壁部との間に、前記成膜材料の成分と前記壁部を構成する材料の成分とを反応させて反応層を形成する請求項19〜21の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項23】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、
前記壁部のうち少なくとも前記2つの側壁を圧電/電歪作動部で構成し且つ前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に前記微小孔を設け、前記セルを形成し、アクチュエータとして駆動可能とした後に、
前記側壁を構成する圧電/電歪作動部を駆動させセルの容積を変化させながら、所定の成膜手段により、前記微小孔を通じて前記セルの中へ成膜材料の導入を行い、前記壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項24】
前記微小孔の径が、200μm以下である請求項12〜23の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項25】
前記セルを形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁及び底壁を作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる請求項12〜24の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項26】
前記セルを形成する壁部のうち2つの側壁、底壁、及び天井壁の全てを作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる請求項12〜24の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項27】
アクチュエータが液体吐出装置に用いられる場合において、前記微小孔が液体を吐出するノズルを兼ねる請求項12〜26の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項28】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部の変位によって前記セルの容積が変化するアクチュエータであって、
前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に1つ以上の微小孔が備わるとともに、
前記2つの側壁のセル内面、及び、前記2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続部分のセル内面、を覆う1層以上の薄膜が形成されていることにより、前記2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続信頼性を向上させたセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項1】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部の変位によって前記セルの容積が変化するアクチュエータであって、
前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項2】
前記1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜、電極膜、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一の単層膜又は二以上の多層膜で構成される請求項1に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項3】
前記1層以上のシームレスな薄膜が、バリア膜と電極膜とを含む多層膜で構成され、前記壁部の表面から、少なくともバリア膜、電極膜の順に成膜されている請求項1に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項4】
前記1層以上のシームレスな薄膜が、少なくとも電極膜を含み、更に、絶縁膜、保護膜、防湿膜からなる膜群から選ばれる一以上の膜を含む、二以上の多層膜で構成され、前記壁部の表面から、少なくとも電極膜、絶縁膜の順、少なくとも電極膜、保護膜の順、少なくとも電極膜、防湿膜の順、の何れかによって成膜されている請求項1に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項5】
前記1層以上のシームレスな薄膜が前記電極膜を含む場合において、前記電極膜が金属又は酸化物で形成される請求項2〜4の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項6】
前記1層以上のシームレスな薄膜が前記バリア膜を含む場合において、前記バリア膜が酸化物又は窒化物で形成される請求項2又は3に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項7】
前記1層以上のシームレスな薄膜が前記絶縁膜、保護膜、及び防湿膜を含む場合において、前記絶縁膜、保護膜、及び防湿膜が、酸化物、窒化物、又は炭化物で形成される請求項2又は4の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項8】
前記シームレスな薄膜と前記壁部との間に、前記薄膜を構成する材料の成分と前記壁部を構成する材料の成分との反応に基づく反応層が形成されている請求項1〜7の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項9】
前記2つの側壁、天井壁及び底壁を含む壁部が、焼成一体化されている請求項1〜8の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項10】
前記2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、前記側壁の高さ方向に交互に積層をされた層状の圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの縦効果により前記変位を発生する請求項1〜9の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項11】
前記2つの側壁を構成する圧電/電歪作動部が、前記側壁の幅方向に交互に積層をされた板状の前記圧電/電歪体及び少なくとも一対の駆動電極を有し、電界誘起歪みの横効果により前記変位を発生する請求項1〜9の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータを用いた液体吐出装置。
【請求項13】
前記セルが液体加圧室を構成し、前記圧電/電歪作動部の変位によって前記セルの容積が変化して、前記セルに充填された、粒子が含まれる液体を、吐出させ得る液体吐出装置であって、
前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜のうち、セル内面に対面する最外層の表面電位が、前記液体に含まれる粒子の表面電位と同じ極性である請求項12に記載の液体吐出装置。
【請求項14】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、
前記壁部のうち少なくとも前記2つの側壁を圧電/電歪体を含んで構成し且つ前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に前記微小孔を設け、前記セルを形成した後に、
所定の成膜手段により、前記微小孔を通じて前記セルの中へ成膜材料の導入を行い、前記壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項15】
前記成膜材料が、気体である請求項14に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項16】
成膜手段が、CVD法、蒸着重合法のうちの何れかである請求項15に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項17】
前記成膜材料が、液体である請求項14に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項18】
成膜手段が、メッキ法である請求項17に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項19】
前記セルを形成する際に、前記壁部のセル内面に電極を露出させ、
成膜手段として電気泳動法を用いて、前記微小孔を通じて前記セルの中へ液体の成膜材料の導入を行い少なくとも前記電極へ堆積させた後に、
前記成膜材料の軟化点温度以上の温度で熱処理を行う工程を有する請求項14に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項20】
前記熱処理が、2回以上行われる請求項19に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項21】
前記成膜材料が2種以上であり、前記熱処理によってその2種以上の成膜材料を混合して複合材料を得て、その複合材料により前記シームレスな薄膜を形成する請求項19又は20に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項22】
前記シームレスな薄膜と前記壁部との間に、前記成膜材料の成分と前記壁部を構成する材料の成分とを反応させて反応層を形成する請求項19〜21の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項23】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に、1つ以上の微小孔が備わるとともに、前記壁部のセル内面を全て覆う1層以上のシームレスな薄膜が形成されているアクチュエータを製造する方法であって、
前記壁部のうち少なくとも前記2つの側壁を圧電/電歪作動部で構成し且つ前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に前記微小孔を設け、前記セルを形成し、アクチュエータとして駆動可能とした後に、
前記側壁を構成する圧電/電歪作動部を駆動させセルの容積を変化させながら、所定の成膜手段により、前記微小孔を通じて前記セルの中へ成膜材料の導入を行い、前記壁部のセル内面に、その全てを覆うシームレスな薄膜を形成する工程を有するセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項24】
前記微小孔の径が、200μm以下である請求項12〜23の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項25】
前記セルを形成する壁部のうち少なくとも2つの側壁及び底壁を作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる請求項12〜24の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項26】
前記セルを形成する壁部のうち2つの側壁、底壁、及び天井壁の全てを作製するにあたり、圧電/電歪材料を主成分とする複数のセラミックグリーンシートを孔加工し、積層し、焼成一体化する工程を有するグリーンシート積層法を用いる請求項12〜24の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項27】
アクチュエータが液体吐出装置に用いられる場合において、前記微小孔が液体を吐出するノズルを兼ねる請求項12〜26の何れか一項に記載のセル駆動型圧電/電歪アクチュエータの製造方法。
【請求項28】
2つの側壁と、前記2つの側壁を接続する天井壁及び底壁と、を含む壁部により形成された1又は複数のセルを具備し、少なくとも前記2つの側壁が圧電/電歪作動部で構成され、前記圧電/電歪作動部の変位によって前記セルの容積が変化するアクチュエータであって、
前記圧電/電歪作動部で構成される2つの側壁を除く壁部に1つ以上の微小孔が備わるとともに、
前記2つの側壁のセル内面、及び、前記2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続部分のセル内面、を覆う1層以上の薄膜が形成されていることにより、前記2つの側壁と天井壁及び底壁との各々の接続信頼性を向上させたセル駆動型圧電/電歪アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−13411(P2006−13411A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249798(P2004−249798)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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