説明

セレンインク、並びにその製造方法および使用方法

【課題】セレン含有半導体物質及び相変化合金の製造に使用するためのヒドラジンを含まず、ヒドラジニウムを含まないセレン含有インクを提供する。
【解決手段】液体媒体中に安定に分散されたセレンを含むセレンインクであり、当該セレンインクはヒドラジンを含まず、ヒドラジニウムを含まない。このセレンインクを製造する方法、およびこのセレンインクを使用して、様々なカルコゲナイド含有半導体物質、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)、発光ダイオード(LED);および、光応答デバイス(例えば、エレクトロフォトグラフィ(例えば、レーザープリンタおよびコピー機)、整流器、写真用露出計および太陽電池)、並びに、カルコゲナイド含有相変化メモリデバイスの製造に使用するための基体上にセレンを堆積する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体媒体中に安定に分散されたセレンを含むセレンインクに関する。本発明は、さらに、セレンインクを製造する方法、およびセレンインクを使用して基体上にセレンを堆積する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なカルコゲナイド含有半導体物質、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)、発光ダイオード(LED);および光応答デバイス[例えば、エレクトロフォトグラフィ(electrophotography)(例えば、レーザープリンタおよびコピー機)、整流器、写真用露出計(photographic exposure meters)、および太陽電池]において使用するための基体上にセレンは堆積される。相変化メモリデバイスにおいて使用するための相変化合金の製造において使用するための基体上にもセレンは堆積される。
【0003】
ある非常に有望なセレンの用途は、太陽光の電気への変換のための太陽電池の製造におけるものである。特に、第1a−1b−3a−6a族の混合金属カルコゲナイド物質、例えば、二セレン化−銅−インジウム(CuInSe)、二セレン化−銅−ガリウム(CuGaSe)、および二セレン化−銅−インジウム−ガリウム(CuIn1−xGaSe)などをベースとした太陽電池の製造におけるセレンの使用は、その太陽エネルギーの電気エネルギーへの高い変換効率のために、著しい興味のあるものである。第1a−1b−3a−6a族の混合金属カルコゲナイド半導体は、総称的に、CIGS物質と称される場合がある。従来のCIGS太陽電池は裏面電極、次にモリブデンの層、CIGS吸収体層、CdS接合パートナー層、および透明導電性酸化物層電極(例えば、ZnOまたはSnO)を含み、このモリブデン層は裏面電極上に堆積され、CIGS吸収体層はモリブデン層とCdS接合パートナーとの間に入れられ、CdS接合パートナーはCIGS吸収体層と透明導電性酸化物層電極との間に入れられる。
【0004】
光起電力素子において使用されるCIGS吸収体層は、その層の他の構成要素と比べて過剰のセレンを含む。セレンのこの有望な用途についての1つの試みはCIGS物質を生産するためのコスト効果的な製造技術の開発である。セレンを堆積させる従来の方法は、典型的には、真空ベースのプロセス、例えば、真空蒸発、スパッタリングおよび化学蒸着などの使用を伴う。このような堆積技術は低いスループット能力と高いコストを示す。セレン含有半導体物質(特に、CIGS物質)の大スケール、高スループット、低コストの製造を容易にするために、溶液系のセレン堆積技術を提供することが望まれる。
【0005】
CIGS物質の製造においてセレンを堆積させる溶液堆積方法の1つは、ミツィー(Mitzi)らによって、アドバンストマテリアルズ(ADVANCED MATERIALS)、第20巻、3657−62ページ(2008年)、高効率の溶液堆積薄膜光起電力素子(A High−Efficiency Solution−Deposited Thin−Film Photovoltaic Device)(Mitzi I)に開示されている。Mitzi Iはヒドラジンを含むセレンインクの、特に、薄膜CIGS層の製造におけるセレンの堆積のための液体ビヒクルとしての使用を開示する。しかし、ヒドラジンは高毒性および爆発性の物質である。よって、Mitzi Iのプロセスは、セレン含有半導体デバイスの大規模製造における使用のためには、限定された価値しか有しない。
【0006】
Mitzi Iに記載されるヒドラジン含有セレンインクの代替物が、Mitziらによって、アドバンストマテリアルズ、第17巻、1285〜89ページ(2005年)、高機動性スピンコートカルコゲナイド半導体を使用する低電圧トランジスタ(Low−Voltage Transistor Employing a High−Mobility Spin−Coated Chalcogenide Semiconductor)(Mitzi II)に開示されている。Mitzi IIは、セレン化インジウムを堆積し、薄膜トランジスタのセレン化インジウムチャネル形成のための、ヒドラジニウム前駆体物質の使用を開示する。Mitzi IIはさらに、そのヒドラジニウムアプローチは、SnS2−XSe、GeSeおよびInSeシステム以外に、他のカルコゲナイドにおそらく拡張可能であることを述べる。
【0007】
Mitzi IIによって開示されるヒドラジニウム前駆体物質は、セレン含有半導体膜を生産するための製造工程からヒドラジンを除く。にもかかわらず、Mitzi IIはヒドラジンについての必要性を除いていない。むしろ、Mitzi IIは、ヒドラジニウム前駆体物質の製造において、依然として、ヒドラジンを利用する。さらに、ヒドラジニウムイオン前駆体は、エッカートW.シュミット(Eckart W.Schmidt)によって、彼の本、ヒドラジンおよびその誘導体:製造、特性および用途(Hydrazine and Its Derivatives: Preparation, Properties, and Applications)、ジョンウイリーアンドサンズ(JOHN WILEY&SONS)、第392〜401ページ(1984年)に記載されるように、かなりの爆発の危険性を有している。多くの金属イオンの存在は、ヒドラジン爆発または爆轟の危険性を深刻にする。残留するヒドラジニウム塩は、製造中にプロセス装置内に蓄積することができ、許容できない安全上のリスクを生じさせるので、このことは問題であり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mitziらによる、アドバンストマテリアルズ(ADVANCED MATERIALS)、第20巻、3657−62ページ(2008年)、高効率の溶液堆積薄膜光起電力素子(A High−Efficiency Solution−Deposited Thin−Film Photovoltaic Device)
【特許文献2】Mitziらによる、アドバンストマテリアルズ、第17巻、1285〜89ページ(2005年)、高機動性スピンコートカルコゲナイド半導体を使用する低電圧トランジスタ(Low−Voltage Transistor Employing a High−Mobility Spin−Coated Chalcogenide Semiconductor)
【特許文献3】エッカートW.シュミット(Eckart W.Schmidt)による、ヒドラジンおよびその誘導体:製造、特性および用途(Hydrazine and Its Derivatives: Preparation, Properties, and Applications)、ジョンウイリーアンドサンズ(JOHN WILEY&SONS)、第392〜401ページ(1984年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、セレン含有半導体物質および相変化合金の製造に使用するための、ヒドラジンを含まず、ヒドラジニウムを含まない、セレン含有インクについての必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある形態においては、1重量%以上のセレン;トレースレス還元剤;および液体キャリア;の反応生成物を含むセレンインクであって、安定な分散物であり、ヒドラジンを含まず、ヒドラジニウムを含まない、セレンインクが提供される。
本発明の別の形態においては、液体キャリア中に分散されたカウンターイオン−セレニド複合体を含むセレン化インクであって;前記カウンターイオン−セレニド複合体は、アンモニウムカウンターイオンおよびアミンカウンターイオンから選択されるカウンターイオンと複合体を形成した1重量%以上セレンを含み;当該セレンインクは、安定な分散物であり、ヒドラジンを含まず、かつヒドラジニウムを含まない;セレンインクが提供される。
本発明の別の形態においては、基体を提供し;請求項1に記載のセレンインクを提供し;セレンインクを基体に適用して、基体上にセレン前駆体を形成し;セレン前駆体を処理して液体キャリアを除去し、セレンを基体上に堆積させる;ことを含み、基体上に堆積されたセレンはSeとSe1−との混合物である;基体上にセレンを堆積する方法が提供される。
本発明の別の形態においては、基体を提供し;場合によっては、ナトリウムを含む第1a族ソースを提供し;第1b族ソースを提供し;第3a族ソースを提供し;場合によっては、第6a族硫黄ソースを提供し;第6a族セレンソースを提供し、第6aセレンソースは本発明のセレンインクを含み;第1a族ソースを使用してナトリウムを基体に場合によって適用すること、第1b族ソースを使用して第1b族物質を基体に適用すること、第3a族ソースを使用して第3a族物質を基体に適用すること、第6a族硫黄ソースを使用して硫黄物質を基体に場合によって適用すること、および第6a族セレンソースを使用してセレン物質を基体に適用することにより、第1a−1b−3a−6a族前駆体物質を基体上に形成し;前駆体物質を処理して、式NaSe[式中、Xは銅および銀から選択される少なくとも1種の第1b族元素であり;Yはアルミニウム、ガリウムおよびインジウムから選択される少なくとも1種の第3a族元素であり;0≦L≦0.75;0.25≦m≦1.5;nは1であり;0≦p<2.5;0<q≦2.5;並びに、1.8≦(p+q)≦2.5]を有する第1a−1b−3a−6a族物質を形成する;ことを含む、第1a−1b−3a−6a族物質を製造する方法が提供される。
本発明の別の形態においては、基体を提供し;銅ソースを提供し;場合によっては、インジウムソースを提供し;場合によっては、ガリウムソースを提供し;場合によっては、硫黄ソースを提供し;本発明のセレンインクを提供し;銅ソースを用いて基体上に銅物質を堆積すること、インジウムソースを用いて基体上にインジウム物質を場合によって堆積すること、ガリウムソースを用いて基体上にガリウム物質を場合によって堆積すること、硫黄ソースを用いて基体上に硫黄物質を場合によって堆積すること、およびセレンインクを用いて基体上にセレン物質を堆積することにより、CIGS前駆体物質を基体上に形成し;CIGS前駆体物質を処理して、式CuInSe[式中、0.5≦v≦1.5(好ましくは、0.88≦v≦0.95)、0≦w≦1(好ましくは、0.68≦w≦0.75、より好ましくはwは0.7である)、0≦x≦1(好ましくは、0.25≦x≦0.32、より好ましくは、xは0.3である)、0<y≦2.5;0≦z<2.5;並びに、1.8≦(y+z)≦2.5]を有するCIGS物質を形成する;ことを含む、CIGS物質を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、セレンインクに関する言及における用語「安定な」とは、セレンインク中に分散されたカウンターイオン−セレニド複合体((counterion)selenide complex)が有意な成長または凝集を受けないことを意味する。本発明の安定なセレンインクにおけるカウンターイオン−セレニド複合体は、セレンインクの製造後少なくとも3週間の間、停滞または目詰まりなしで、1.2ミクロンガラスマイクロファイバーシリンジフィルター(例えば、ワットマン(Whatman)6886−2512)を通してろ過されることができ、かつ液体キャリア中で分散したままである。好ましくは、本発明の安定なセレンインクにおけるカウンターイオン−セレニド複合体は、セレンインクの製造後少なくとも2ヶ月の間、停滞または目詰まりなしで、0.45ミクロンPTFEシリンジフィルターを通してろ過されることができ、かつ液体キャリア中に分散したままである。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、セレンインクに関する言及における用語「ヒドラジンを含まない」とは、セレンインクが100ppm未満しかヒドラジンを含まないことを意味する。
【0013】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、セレンインクに関する言及における用語「ヒドラジニウムを含まない、または(Nを含まない」とは、セレンと複合体を形成したヒドラジニウムをセレンインクが100ppm未満しか含まないことを意味する。
【0014】
本発明はセレンインク、セレンインクの製造、およびセレン含有デバイス、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)、発光ダイオード(LED);メモリデバイスに使用するための相変化合金;および光応答デバイス[例えば、エレクトロフォトグラフィ(例えば、レーザープリンタおよびコピー機)、整流器、写真用露出計、および太陽電池]の製造におけるセレンインクの使用に関する。以下の詳細な記載は、太陽電池における使用のために設計されたCIGS物質の製造における、本発明のセレンインクの使用に焦点を当てる。
【0015】
本発明のセレンインクは、1重量%以上のセレン;トレースレス(traceless)還元剤;および液体キャリア;の反応生成物を含み、このセレンインクは安定な分散物であり、かつこのセレンインクはヒドラジンを含まず、ヒドラジニウムを含まない。理論に拘束されるのを望むものではないが、この反応生成物は、液体キャリア中に分散されたカウンターイオン−セレニド複合体を含むと考えられる。
【0016】
セレンは連鎖結合する傾向を示す。その結果、セレンは、様々なサイズのポリセレニドイオン(例えば、Se2−82−)を形成することができる。本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、用語「形式的に1−価のセレン、または(Se1−)」は、ポリセレニドイオン内での、1−価を示す個々のセレン原子をいう。例えば、周知のポリセレニドジアニオン種は、Se1−−Se−Se−Se1−であり、ここで、セレン原子の2つが1−価を示すと見なされ、他の2つのセレン原子が価を示すと見なされる。カウンターイオン−セレニド複合体におけるSe原子のSe1−原子に対する平均比率は、カウンターイオン−セレニド複合体の製造において使用されるトレースレス還元剤に対するセレンの比率、および反応条件の選択を通じて変更されうる。Se1−原子のシェルによって囲まれているSe原子のコアを有するセレンのナノ粒子が本発明のセレンインク中に存在することができると考えられることに留意されたい。このようなナノ粒子の存在は、様々な光散乱技術によって決定されうる。このようなナノ粒子は、線状ポリセレニド種について予想されるであろうものよりも高い、SeのSe1−に対する比率を示す場合がある。にもかかわらず、セレンインクにおけるSeのSe1−に対する平均比率は、セレンインクの製造において使用されるトレースレス還元剤の種類および量の選択を通じて制御されうる。よって、ナノ粒子のセレン種(線状ポリセレニド種について予想されるSeのSe1−に対する比率よりも高い、SeのSe1−に対する比率を有する)が存在する場合には、予想されるのよりも低いSeのSe1−に対する比率を有する他のセレン種も存在するであろう。本発明のいくつかのセレンインクにおいては、2−価を有する単一のセレン原子(すなわち、Se2−)が存在することができることに留意されたい。カウンターイオン−セレニド複合体の電荷を中性に維持するために、ポリセレニドアニオンはカチオンまたはカチオンの組み合わせと配位する。例えば、カウンターイオン−セレニド複合体が含むポリセレニドジアニオン種であるSe1−−Se−Se−Se1−は、合計で2+価を示すカチオンまたはカチオンの組み合わせと配位するであろう。このようなカチオン種には、2つのモノカチオン種または1つのジカチオン種が挙げられ得る。
【0017】
ポリセレニド種は溶液中でまたは固体状態で再配列しうることが知られている。例えば、Se1−−Se−Se1−は再配列して、Se2−とSe環とを生じることができる。このSe環は、他のポリセレニド種との会合によって溶解されたままであることができるか、または沈殿して、固体セレンを形成することができる。この現象をさらに説明するために、2つのアミンカウンターイオン(すなわち、(HNR2+)およびSe1−−Se−Se1−ポリセレニド種を含むカウンターイオン−セレニド複合体を考える。このカウンターイオン−セレニド複合体を加熱すると、2NRが放出され、HSe(すなわち、H−Se−Se−Se−Se−Se−Se−Se−Se−H)を残すか;または、HSeとSe環とを残すであろう。異なる価数のセレン種と移動可能なH種の存在とに基づいた、Se種のとは異なるメカニズムによって、H−Se1−結合は、CIGS物質のアニーリングプロセスに関与しうると考えられる。
【0018】
本発明のセレンインクにおけるカウンターイオン−セレニド複合体は、好ましくは、Se2−を含む;ここで、aは1〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜8である(例えば、a=6の場合、Se−1−Se−Se−Se−Se−Se1−である)。
【0019】
本発明のセレンインクのセレニド含有量は、必要とされる具体的な用途、並びに所定の基体にセレンインクを適用するのに使用される処理技術および装置に適合するように、選択的に提供されることができる。場合によっては、セレンインクは、セレンインクの重量を基準にして、1〜50重量%;1〜5重量%;4〜15重量%;および5〜10重量%から選択されるセレニド含有量を示す。場合によっては、セレンインクは、セレンインクの重量を基準にして1〜50重量%のセレニド含有量を示す。場合によっては、セレンインクは、セレンインクの重量を基準にして1〜5重量%のセレニド含有量を示す。場合によっては、セレンインクは、セレンインクの重量を基準にして4〜15重量%のセレニド含有量を示す。場合によっては、セレンインクは、セレンインクの重量を基準にして5〜10重量%のセレニド含有量を示す。
【0020】
本発明のセレンインクに含まれるカウンターイオン−セレニド複合体の平均粒子サイズは、必要とされる具体的な用途、並びに所定の基体にセレンインクを適用するのに使用される処理技術および装置に適合するように、選択的に提供されることができる。カウンターイオン−セレニド複合体の平均粒子サイズは、セレンインクの製造における成分を一緒にするのに使用される方法、および出発物質の選択を通じて、セレンインクの製造中に目標にされうる。例えば、ナノ−もしくは分子スケールのカウンターイオン−セレニド複合体は、充分な混合を伴った完全で徹底した反応を通じて生産されうる。場合によっては、カウンターイオン−セレニド複合体の平均粒子サイズは完全で徹底した反応の手前で、反応を停止させ、未反応のトレースレス還元剤を残し、これと共に、依然としてコロイド的に安定で、より大きな粒子のカウンターイオン−セレニド複合体を残すことにより制御されることができる。場合によっては、カウンターイオン−セレニド複合体は、0.05〜10ミクロン;0.05〜1ミクロン;0.05〜0.4ミクロン;0.1〜0.4ミクロン;および1ミクロン未満から選択される平均粒子サイズを示す。場合によっては、カウンターイオン−セレニド複合体は、0.05〜10ミクロンの平均粒子サイズを示す。場合によっては、カウンターイオン−セレニド複合体は、0.05〜1ミクロンの平均粒子サイズを示す。場合によっては、カウンターイオン−セレニド複合体は、0.05〜0.4ミクロンの平均粒子サイズを示す。場合によっては、カウンターイオン−セレニド複合体は、0.4ミクロンの平均粒子サイズを示す。カウンターイオン−セレニド複合体の平均粒子サイズは、例えば、CIGS成分の緊密な混合を容易にするように、CIGS物質の製造において、Cu、InおよびまたはGaインクと共堆積する場合には、小さな粒子サイズのカウンターイオン−セレニド複合体の堆積を容易にするように;目詰まりなしにセレンインクを噴霧するのを容易にするように;またはセレンインクの寿命を延ばすのを容易にするように;選択されうる。
【0021】
場合によっては、本発明のセレンインクは電荷安定化懸濁物である。すなわち、セレンインクは不均一な流体であり、カウンターイオン−セレニド複合体は1ミクロンを超える平均粒子サイズを有する複数の粒子を含む。好ましくは、時間と共に沈降する電荷安定化懸濁物に含まれるカウンターイオン−セレニド複合体の粒子は容易に再分散可能である。本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、セレンインクに関する言及における、用語「容易に再分散可能」とは、時間の経過と共に沈降するセレンインクの物質が攪拌または超音波処理で再分散されうる(すなわち、沈降した物質は永続的な凝集体を形成しない)ことを意味する。
【0022】
場合によっては、セレンインクはゾルである。すなわち、セレンインクはコロイド分散物であり、カウンターイオン−セレニド複合体は1〜500nmの平均粒子サイズを有する複数の粒子を含む。
【0023】
本発明のセレンインクの製造に使用されるトレースレス還元剤は(a)≧35および(b)<35から選択される分子量を有し;<35の分子量を有するトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する。場合によっては、使用されるトレースレス還元剤は、(a)35〜10,000;および(b)1〜<35(好ましくは、10〜<35);から選択される分子量を有し;10〜<35の分子量を有するトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する。場合によっては、本発明のセレンインクの製造において使用されるトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する。好ましくは、本発明のセレンインクの製造において使用されるトレースレス還元剤は、ギ酸;ギ酸アンモニウム;シュウ酸アンモニウム;シュウ酸;ホルムアミド(例えば、ジメチルホルムアミド);ラクタート;一酸化炭素;水素;イソアスコルビン酸;二酸化硫黄;アセトアルデヒド;アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、エチルアルデヒド、プロピルアルデヒド、ヘプタアルデヒド);およびこれらの組み合わせ;から選択される。より好ましくは、使用されるトレースレス還元剤はギ酸アンモニウム、ギ酸、シュウ酸アンモニウム、ヘプタアルデヒドおよびシュウ酸から選択される。最も好ましくは、使用されるトレースレス還元剤はギ酸アンモニウムおよびギ酸から選択される。
【0024】
理論に拘束されるのを望むものではないが、セレンインクの分解の際に基体上に堆積されるSeのSe1−に対する比率は、セレンインクを製造する場合に使用されるトレースレス還元剤のセレンに対するモル当量数の慎重な選択を通じて操作されうることが考えられる。本発明のセレンインクの製造において、使用されるトレースレス還元剤のセレンに対するモル当量数は、セレンインクを用いて製造される半導体フィーチャーの電気的特性を最適化するように選択される。好ましくは、セレンインクは、セレンインクの分解の際に、基体上にSeおよびSe1−の組み合わせを堆積させうる。理論に拘束されるのを望むものではないが、マイナス荷電のセレン(例えば、Se2−、Se1−)とSeとの間で切り替わる場合に、CIGS物質の形成に使用されるアニーリングメカニズムは異なると考えられる。マイナス荷電のセレン種はアニーリングプロセスにおいて有利さを提供しうると考えられる。場合によっては、本発明のセレンインクの製造に使用されるトレースレス還元剤のセレンに対するモル当量数は2〜40である。場合によっては、本発明のセレンインクの製造に使用されるトレースレス還元剤のセレンに対するモル当量数は2〜20である。
【0025】
本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアは好ましくは窒素含有溶媒である。場合によっては、液体キャリアは式NR[式中、各Rは独立して、H、C1−10アルキル基、C6−10アリール基およびC1−10アルキルアミノ基から選択される]を有する液体アミンである。場合によっては、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチル−1−ヘキシルアミン、3−アミノ−1−プロパノール、ピリジン、ピロリジンおよびテトラメチルグアニジンから選択される。好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、n−ヘキシルアミン、ピロリジンおよびn−ブチルアミンから選択される。より好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピロリジンおよびn−ブチルアミンから選択される。最も好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアはエチレンジアミンおよびジエチレントリアミンから選択される。
【0026】
本発明のセレンインクは、場合によっては、補助溶媒をさらに含むことができる。本発明において使用するのに好適な補助溶媒は液体キャリアと混和性である。好ましい補助溶媒は、液体キャリアの沸点の30℃以内の沸点を示す。
【0027】
本発明のセレンインクは、場合によっては、分散剤、湿潤剤、ポリマー、バインダー、消泡剤、乳化剤、乾燥剤、充填剤、増量剤、膜コンディショニング剤、酸化防止剤、可塑剤、保存剤、増粘剤、フロー制御(flow control)剤、レベリング剤、腐蝕抑制剤、およびドーパント(例えば、CIGS物質の電気的特性を向上させるためのナトリウム)から選択される、少なくとも1種の任意の添加剤をさらに含むことができる。場合によっては、例えば、延長した寿命を容易にするために、フロー特性を向上させるために、基体への適用方法(例えば、印刷、噴霧)を容易にするために、基体上へのインクの濡れ/展着特性を変更するために、基体上に他の成分(例えば、CIGS物質の他の構成成分、例えば、Cu、In、GaおよびS)を堆積させるのに使用される他のインクとセレンインクとの適合性を増大させるために、並びにセレンインクの分解温度を変えるために、任意の添加剤は本発明のセレンインクに組み込まれることができる。
【0028】
本発明のセレンインクを製造する方法は、セレンを提供し;トレースレス還元剤を提供し;液体キャリアを提供し;セレン、トレースレス還元剤および液体キャリアを一緒にして、カウンターイオン−セレニド複合体を形成する;ことを含み、カウンターイオン−セレニド複合体は液体キャリア中で安定に分散されており;セレンインクはヒドラジンを含まず、かつヒドラジニウムを含まない。理論に拘束されるのを望むものではないが、セレン、トレースレス還元剤および液体キャリアの間の反応は次のように進むと考えられる:
セレン+トレースレス還元剤+液体キャリア→[カチオン]2+[Se1−−Se−Se1−2−
例えば、
セレン+[ギ酸]+[NR]→[HNR2+[Se1−−Se−Se1−2−
セレンインクの製造中での、トレースレス還元剤のセレンに対するモル当量数の選択は、生産されるSeおよびSe1−の量の制御をもたらす。理論に拘束されるのを望むものではないが、ギ酸は2つの異なるプロセスによって分解し、2つの電子還元剤として機能しうる。1つのプロセスにおいては、ギ酸は分解して、COとHを生じさせ、2電子還元能力を提供する。1つのプロセスにおいては、ギ酸は分解して、COおよびHOを生じさせ、2電子還元能力を提供する。理論に拘束されるのを望むものではないが、あるトレースレス還元剤と液体キャリアとの組み合わせ(例えば、ギ酸、シュウ酸または一酸化炭素トレースレス還元剤とアミン液体キャリア)を用いて、この反応がソノダ型(Sonoda−type)メカニズム(N.Sonoda,Selenium Assisted Caronylation with Carbon−Monoxide,PURE AND APPLIED CHEMISTRY,第65巻、699−706ページ)に従って進行しうる可能性があると考えられる。ソノダ型メカニズムを用いて、(アンモニウムカウンターイオン)(Se−CO−NRのような種が形成され、これは別のアミン分子との反応後に、尿素NR−CO−NRの喪失を通じて、効果的に(アンモニウムカウンターイオン)セレニド複合体に分解しうる。
【0029】
好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用されるセレンはセレン粉体である。
【0030】
好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用されるセレンは、生産されるセレンインクの1〜50重量%、1〜20重量%、1〜5重量%、4〜15重量%、または5〜10重量%に寄与する。
【0031】
場合によっては、本発明のセレンインクを製造する方法は、さらに、補助溶媒を提供し;並びに、液体キャリアと補助溶媒とを一緒にすることを含む。
【0032】
場合によって、本発明のセレンインクを製造する方法においては、さらに、少なくとも1種の任意の添加剤を提供し;並びに、少なくとも1種の任意の添加剤を液体キャリアと一緒にすることを含み、少なくとも1種の任意の添加剤は、分散剤、湿潤剤、ポリマー、バインダー、消泡剤、乳化剤、乾燥剤、充填剤、増量剤、膜コンディショニング剤、酸化防止剤、可塑剤、保存剤、増粘剤、フロー制御剤、レベリング剤、腐蝕抑制剤およびドーパントから選択される。
【0033】
好ましくは、本発明のセレンインクを製造する方法は、セレンおよび液体キャリアが、液体キャリアをセレンに添加することにより一緒にされる。より好ましくは、セレンおよび液体キャリアは、不活性技術、次いで連続攪拌および加熱を使用して一緒にされる。選択される攪拌の方法は、製造されるセレンインク中に生じたカウンターイオン−セレニド複合体の粒子サイズに影響しうる。使用される攪拌の方法は、場合によっては、ウェットミリング、高剪断分散および超音波処理から選択されうる。好ましくは、液体キャリアは、液体キャリアとセレン粉体とを一緒にする際に、20〜240℃の温度に維持される。場合によって、液体キャリアとセレンとは、一緒にするプロセス中に、セレンの融点(220℃)より高く加熱されうる。
【0034】
好ましくは、本発明のセレンインクを製造する方法においては、トレースレス還元剤の添加のタイミングは、使用されるトレースレス還元剤の物理的状態に依存する。固体のトレースレス還元剤については、固体のトレースレス還元剤は、好ましくは、液体キャリアの添加前にセレンと一緒にされる。液体トレースレス還元剤については、液体トレースレス還元剤は、好ましくは、一緒にされたセレンおよび液体キャリアに添加される。
【0035】
液体トレースレス還元剤を使用する場合には、本発明のセレンインクを製造する方法は、場合によっては、液体トレースレス還元剤を添加する前に、一緒にされたセレンおよび液体キャリアを加熱することをさらに含む。好ましくは、本発明のセレンインクを製造する方法は、場合によっては、液体トレースレス還元剤の添加前および添加中に、一緒にされた液体キャリアおよびセレン粉体を加熱することをさらに含む。より好ましくは、一緒にされた液体キャリアおよびセレン粉体は、トレースレス還元剤の添加中に20〜240℃の温度に維持される。場合によっては、一緒にされたセレンおよび液体キャリアに、液体トレースレス還元剤を、連続攪拌、加熱および還流を行いつつ、徐々に添加することにより、一緒にされたセレンおよび液体キャリアに、液体トレースレス還元剤が添加される。
【0036】
好ましくは、本発明のセレンインクを製造する方法においては、使用されるトレースレス還元剤は、(a)≧35および(b)<35から選択される分子量を有する還元剤から選択され;<35の分子量を有するトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する。より好ましくは、使用されるトレースレス還元剤は、(a)35〜10,000;および(b)10〜<35;から選択される分子量を有し;10〜<35の分子量を有するトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する。場合によっては、使用されるトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する。好ましくは、セレンインクの製造において使用されるトレースレス還元剤は、ギ酸;ギ酸アンモニウム;シュウ酸アンモニウム;シュウ酸;ホルムアミド(例えば、ジメチルホルムアミド);ラクタート;一酸化炭素;水素;イソアスコルビン酸;二酸化硫黄;アセトアルデヒド;アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、エチルアルデヒド、プロピルアルデヒド、ヘプタアルデヒド);およびこれらの組み合わせ;から選択される。より好ましくは、使用されるトレースレス還元剤はギ酸アンモニウム、ギ酸、シュウ酸アンモニウム、ヘプタアルデヒドおよびシュウ酸から選択される。最も好ましくは、使用されるトレースレス還元剤はギ酸アンモニウムおよびギ酸から選択される。理論に拘束されるのを望むものではないが、トレースレス還元剤は、揮発性副生成物を生産しつつ、セレンを還元するように機能することが考えられる。例えば、ギ酸およびシュウ酸は、化合物を還元しつつ、水、CO、HおよびCOを生じさせる。一酸化炭素は、O=C=Seを生じさせる。アルデヒドは揮発性カルボキシラートを生じさせる。
【0037】
本発明のセレンインクを製造する方法においては、使用される液体キャリアは窒素含有溶媒である。場合によっては、本発明のセレンインクを製造する方法においては、使用される液体キャリアは式NR[式中、各Rは独立して、H、C1−10アルキル基、C6−10アリール基およびC1−10アルキルアミノ基から選択される]を有する液体アミンである。場合によっては、本発明のセレンインクを製造する方法においては、使用される液体キャリアは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチル−1−ヘキシルアミン、3−アミノ−1−プロパノール、ピリジン、ピロリジンおよびテトラメチルグアニジンから選択される。好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、n−ヘキシルアミン、ピロリジンおよびn−ブチルアミンから選択される。より好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピロリジンおよびn−ブチルアミンから選択される。最も好ましくは、本発明のセレンインクの製造に使用される液体キャリアはエチレンジアミンおよびジエチレントリアミンから選択される。
【0038】
本発明のセレンインクは、セレンを含む様々な半導体物質(例えば、薄層トランジスタ、太陽電池、エレクトロフォトグラフィ部品、整流器、写真用露出計)の製造に、およびカルコゲナイド含有相変化メモリデバイスの製造に使用されうる。
【0039】
本発明のセレンインクを用いて基体上にセレンを堆積する方法は、基体を提供し;本発明のセレンインクを提供し;セレンインクを基体に適用して基体上にセレン前駆体を形成し;セレン前駆体を処理して液体キャリアを除去し、セレンを基体上に堆積させる;ことを含み、基体上に堆積されたセレンはSeとSe1−との混合物である。場合によっては、基体上に堆積されたセレンはSe1−を5〜50重量%含む。
【0040】
本発明のセレンインクは、従来の処理技術、例えば、湿潤コーティング、噴霧コーティング、スピンコーティング、ドクターブレードコーティング、接触印刷、トップフィード(top feed)反転印刷、ボトムフィード(bottom feed)反転印刷、ノズルフィード反転印刷、グラビア印刷、マイクログラビア印刷、反転マイクログラビア印刷、コマダイレクト(comma direct)印刷、ローラーコーティング、スロットダイコーティング、マイヤーバー(meyerbar)コーティング、リップダイレクトコーティング、デュアルリップダイレクトコーティング、キャピラリーコーティング、インクジェット印刷、ジェット堆積および噴霧堆積を使用して基体上に堆積されうる。
【0041】
好ましくは、セレン前駆体を処理して液体キャリアを除去する場合には、セレン前駆体は液体キャリアの沸点温度より高い温度に加熱される。場合によっては、セレン前駆体は5〜200℃の温度に加熱される。場合によっては、セレン前駆体は、真空下で5〜200℃の温度に加熱される。場合によっては、セレン前駆体は、220℃より高い温度に加熱され、セレンを溶融しかつ液体キャリアを揮発させて、その除去を容易にする。
【0042】
第1a−1b−3a−6a族物質を製造する本発明の方法は、基体を提供し;場合によっては、ナトリウムを含む第1a族ソースを提供し;第1b族ソースを提供し;第3a族ソースを提供し;場合によっては、第6a族硫黄ソースを提供し;第6a族セレンソースを提供し、第6a族セレンソースは本発明のセレンインクを含み;第1a族ソースを使用してナトリウムを基体に場合によって適用すること、第1b族ソースを使用して第1b族物質を基体に適用すること、第3a族ソースを使用して第3a族物質を基体に適用すること、第6a族硫黄ソースを使用して硫黄物質を基体に場合によって適用すること、および第6a族セレンソースを使用してセレン物質を基体に適用することにより、第1a−1b−3a−6a族前駆体物質を基体上に形成し;前駆体物質を処理して、式NaSe[式中、Xは銅および銀から選択される少なくとも1種の第1b族物質であり、好ましくは銅であり;Yはアルミニウム、ガリウムおよびインジウムから、好ましくはインジウムおよびガリウムから選択される少なくとも1種の第3a族物質であり;0≦L≦0.75;0.25≦m≦1.5;nは1であり;0≦p<2.5;0<q≦2.5]を有する第1a−1b−3a−6a族物質を形成することを含む。好ましくは、0.5≦(L+m)≦1.5、および1.8≦(p+q)≦2.5である。好ましくは、Yは(In1−bGa)[式中、0≦b≦1]である。より好ましくは、第1a−1b−3a−6a族物質は、式、NaCuIn(1−d)Ga(2+e)(1−f)Se(2+e)f[式中、0≦L≦0.75;0.25≦m≦1.5;0≦d≦1;−0.2≦e≦0.5;0<f≦1;0.5≦(L+m)≦1.5;および1.8≦{(2+e)f+(2+e)(1−f)}≦2.5]に従う。場合によっては、第1a族ソース、第1b族ソース、第3a族ソース、第6a族硫黄ソースおよび本発明のセレンインクの1種以上が一緒にされる。前駆体物質の成分は公知の方法によって処理されることができ、式、NaSeを有する第1a−1b−3a−6a族物質を形成することができる。前駆体物質の成分は個々に、または様々な組み合わせで処理されることができる。例えば、本発明のセレンインクおよび第1b族物質ソースが基体上に逐次的に堆積されることができ、または基体上に共堆積されることができ、次いで200〜650℃の温度に0.5〜60分間加熱され、次いで、本発明の追加のセレンインクおよび少なくとも1種の第3a族物質ソースを基体上に堆積し、次いで、200〜650℃の温度に0.5〜60分間加熱することができる。別のアプローチにおいては、第1a、1b、3aおよび6a族物質は全て、アニーリング前に、基体に適用される。0.5〜60分のアニーリング時間で、アニーリング温度は200〜650℃の範囲であることができる。場合によっては、本発明のセレンインク、セレン粉体およびセレン化水素ガスの少なくとも1つの形態で、アニーリングプロセス中に、追加の第6a族物質が導入されうる。前駆体物質は、場合によっては、素早い熱処理プロトコルの使用によって、例えば、高出力石英ランプ、レーザーまたはマイクロ波加熱方法の使用によって、アニーリング温度に加熱されることができる。前駆体物質は、場合によっては、従来の加熱方法を用いて、例えば、炉内でアニーリング温度に加熱されうる。
【0043】
CIGS物質を製造する本発明の方法は、基体を提供し;銅ソースを提供し;場合によっては、インジウムソースを提供し;場合によっては、ガリウムソースを提供し;場合によっては、硫黄ソースを提供し;本発明のセレンインクを提供し;銅ソースを用いて基体上に銅物質を堆積すること、インジウムソースを用いて基体上にインジウム物質を場合によって堆積すること、ガリウムソースを用いて基体上にガリウム物質を場合によって堆積すること、硫黄ソースを用いて基体上に硫黄物質を場合によって堆積すること、並びにセレンインクを用いて基体上にセレン物質を堆積することにより、少なくとも1つのCIGS前駆体層を基体上に形成し;少なくとも1つのCIGS前駆体層を処理して、式、CuInSe[式中、0.5≦v≦1.5(好ましくは、0.88≦v≦0.95)、0≦w≦1(好ましくは、0.68≦w≦0.75、より好ましくはwは0.7である)、0≦x≦1(好ましくは、0.25≦x≦0.32、より好ましくは、xは0.3である)、0<y≦2.5;並びに0≦z<2.5]を有するCIGS物質を形成することを含む。好ましくは、(w+x)=1、および1.8≦(y+z)≦2.5である。より好ましくは、製造されたCIGS物質は式、CuIn1−bGaSe2−c[式中、0≦b≦1および0≦c<2]を有する。CIGS前駆体層の成分は公知の方法によって処理されることができ、式CuInSeを有するCIGS物質を形成することができる。複数のCIGS前駆体層が適用される場合には、この層は個々に、または様々な組み合わせで処理されうる。例えば、本発明のセレンインクおよび銅ソースは、基体上に逐次的に堆積されることができ、または基体上に共堆積されることができ、CIGS前駆体層を形成し、次いで前駆体層を200〜650℃に0.5〜60分間加熱し、次いで、本発明のさらなるセレンインクおよび少なくとも1種のインジウムソースおよびガリウムソースを使用して、別のCIGS前駆体層を基体上に堆積し、次いで、200〜650℃の温度で0.5〜60分間加熱することができる。別のアプローチにおいては、CIGS前駆体層の成分は全て、アニーリング前に、基体に適用される。0.5〜60分のアニーリング時間で、アニーリング温度は200〜650℃の範囲であることができる。場合によっては、本発明のセレンインク、セレン粉体およびセレン化水素ガスの少なくとも1つの形態で、アニーリングプロセス中に、追加のセレンが導入されうる。CIGS前駆体層は、場合によっては、素早い熱処理プロトコルの使用によって、例えば、高出力石英ランプ、レーザーまたはマイクロ波加熱方法の使用によって、アニーリング温度に加熱されることができる。CIGS前駆体層は、場合によって、従来の加熱方法を用いて、例えば、炉内でアニーリング温度に加熱されうる。
【0044】
場合によっては、銅ソース、インジウムソース、ガリウムソース、硫黄ソースおよびセレンインクの少なくとも2種が、これらを用いて物質を基体上に物質を堆積させる前に、一緒にされうる。場合によっては、銅ソース、インジウムソース、ガリウムソース、硫黄ソースおよびセレンインクの少なくとも3種が、これらを用いて物質を基体上に堆積させる前に、一緒にされうる。場合によっては、銅ソース、インジウムソース、ガリウムソース、硫黄ソースおよびセレンインクは、これらを用いて物質を基体上に堆積させる前に、一緒にされる。
【0045】
場合によっては、銅物質、インジウム物質、ガリウム物質、硫黄物質およびセレン物質の少なくとも2種は、望まれるCIGS物質組成を提供するように基体上に共堆積される。本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、用語「共堆積される(codeposited)」とは、基体上に共堆積されるものである、銅物質、インジウム物質、ガリウム物質、硫黄物質およびセレン物質が、対応する物質のソースをあらかじめ一緒にすることなく、基体上で同時に堆積されることを意味する。
【0046】
基体上への堆積前に2種以上の物質のソースを一緒にするのを容易にするために、または2種以上の物質のソースの共堆積するのを容易にするために、使用される物質のソースは好ましくは、類似の分解温度を示すように配合される。好ましくは、一緒にされるまたは共堆積される物質のソースの分解温度(すなわち、物質のソースにおける液体キャリアおよび液体ビヒクルの沸点温度)は50℃以内、より好ましくは25℃以内である。
【0047】
本発明に従って使用するのに好適な第1a族ソースは、液体堆積技術、真空蒸発技術、化学蒸着技術、スパッタリング技術またはナトリウムを基体上に堆積させるための任意の他の従来のプロセスを用いて、基体上にナトリウム(第1a族物質)を堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。好ましくは、第1a族ソースは、第1b族ソース、第3a族ソース、第6a族硫黄ソースまたは第6a族セレンソースの1種以上に組み込まれうる。すなわち、ナトリウムは、第1b族ソース、第3a族ソース、第6a族硫黄ソースまたは第6a族セレンソースの1種以上に組み込まれうる。あるいは、ナトリウムは別の第1a族ソースを使用して基体上に堆積されうる。例えば、基体上への堆積のために、好適な液体キャリア中でナトリウム塩が懸濁されうる。ナトリウム塩は、NaSe、NaS、NaSe、NaHS、NaHSeおよび金属カルコゲナイドクラスターのナトリウム塩から選択されうる。
【0048】
本発明に従って使用するのに好適な第1b族ソースは、液体堆積技術、真空蒸発技術、化学蒸着技術、スパッタリング技術または第1b族物質を基体上に堆積させるための任意の他の従来のプロセスを用いて、基体上に第1b族物質を堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。好ましくは、第1b族物質には、銅および銀の少なくとも1種、より好ましくは銅が挙げられる。本発明に従って使用するのに好適な銅ソースは、従来の銅堆積プロセスを使用して、基体上に銅金属を堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。好ましくは、銅ソースには、液体ビヒクルと、懸濁されたCu金属、Cuナノ粒子、セレン化銅化合物、硫化銅化合物、酸化銅、酸化第一銅、Cu−Se結合を含む有機金属化合物、Cu−S結合を含む有機金属化合物、Cu−O結合を含む有機金属化合物、アンモニウム−銅複合体、銅アミジナート(amidinate)複合体、銅グアニジナート(guanidinate)複合体、ギ酸銅、ギ酸第一銅、銅アセチルアセトナート、銅エチルへキサノアートおよび銅ヘキサフルオロアセチルアセトナートの少なくとも1種、好ましくはギ酸銅とを含む銅インクが挙げられる。
【0049】
本発明に従って使用するのに好適な第3a族ソースは、液体堆積技術、真空蒸発技術、化学蒸着技術、スパッタリング技術または第3a族物質を基体上に堆積させるための任意の他の従来のプロセスを用いて、基体上に第3a族物質を堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。好ましくは、第3a族物質には、ガリウム、インジウムおよびアルムニウムの少なくとも1種、より好ましくはガリウムおよびインジウムの少なくとも1種が挙げられる。場合によっては第3a族ソースは、ガリウムソース、インジウムソースおよびアルミニウムソースから選択される、好ましくは、ガリウムソースおよびインジウムソースから選択される、2種以上の第3a族ソースを含む。本発明に従って使用するのに好適なガリウムソースは、従来のガリウム堆積プロセスを使用して、基体上にガリウム金属を堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。好ましくは、ガリウムソースには、液体ビヒクルと、懸濁されたガリウム金属、ガリウムナノ粒子、セレン化ガリウム化合物、硫化ガリウム化合物、酸化ガリウム化合物、Ga−Se結合を含む有機金属化合物、Ga−S結合を含む有機金属化合物、Ga−O結合を含む有機金属化合物、アンモニウム−ガリウム複合体、ガリウムアミジナート、ガリウムアセチルアセトナート、ガリウムエチルへキサノアートおよびガリウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの少なくとも1種とを含むガリウムインクが挙げられる。本発明に従って使用するのに好適なインジウムソースは、従来のインジウム堆積プロセスを使用して、基体上にインジウムを堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。好ましくは、インジウムソースには、液体ビヒクルと、懸濁されたインジウム金属、インジウムナノ粒子、セレン化インジウム化合物、硫化インジウム化合物、酸化インジウム化合物、In−Se結合を含む有機金属化合物、In−S結合を含む有機金属化合物、In−O結合を含む有機金属化合物、アンモニウム−インジウム複合体、インジウムアミジナート、インジウムアセチルアセトナート、インジウムエチルへキサノアートおよびインジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの少なくとも1種とを含むインジウムインクが挙げられる。
【0050】
銅ソース、ガリウムソースおよびインジウムソースに使用される液体ビヒクルには、アミン、アミド、アルコール、水、ケトン、不飽和炭化水素、飽和炭化水素、鉱酸、有機酸、有機塩基が挙げられ、好ましくは、アルコール、アミン、アミド、水、ケトン、エーテル、アルデヒド、およびアルケンが挙げられる。
【0051】
本発明に従って使用するのに好適な第6a族硫黄ソースは、液体堆積技術、真空蒸発技術、化学蒸着技術、スパッタリング技術または硫黄を基体上に堆積させるための任意の他の従来のプロセスを用いて、基体上に硫黄を堆積させるための任意の従来のビヒクルを含む。場合によっては、第6a族硫黄ソースには、液体ビヒクルに溶解した硫黄を含む硫黄インクが挙げられる。例えば、硫黄はアミン溶媒に容易に溶解し、硫黄インクを形成する。場合によっては、第6a族硫黄ソースは、第1b族ソース、第3a族ソースまたは第6a族セレンソースの1種以上に組み込まれることができる。例えば、溶液系の硫黄の前駆体には、金属硫化物、例えば、硫化銅、硫化インジウムおよび硫化ガリウムが挙げられる。よって、所定のソースは第6a族硫黄ソースと、第1b族ソース(例えば、硫化銅インク)または第3a族ソース(例えば、硫化インジウムインク、硫化ガリウムインク)との双方を含むことができる。場合によっては、硫黄を堆積させるための第6a族硫黄ソースとして、硫黄のナノ粒子が形成され、使用されうる。
【0052】
使用される基体は、セレンを含む半導体の製造に伴い、またはカルコゲナイド含有相変化メモリデバイスに伴い使用される従来の物質から選択されうる。いくつかの用途における使用のためには、基体はモリブデン、アルミニウムおよび銅から好ましくは選択されうる。光起電力素子における使用のためのCIGS物質の製造における使用のためには、基体は最も好ましくはモリブデンである。ある用途においては、モリブデン、アルミニウムまたは銅基体はキャリア物質、例えば、ガラス、ホイルおよびプラスチック(例えば、ポリエチレンテレフタラートおよびポリイミド)上の塗膜であり得る。場合によっては、基体は光起電力素子における使用のためのCIGS物質のロールツーロール生産を容易にするのに充分に柔軟である。
【0053】
基体上にCIGS物質を形成するための本発明の方法においては、1〜20のCIGS前駆体層が基体上に堆積され、CIGS物質を形成する。好ましくは2〜8のCIGS前駆体層が基体上に堆積され、CIGS物質を形成する。個々のCIGS前駆体層はそれぞれ、銅、銀、ガリウム、インジウム、硫黄およびセレンの少なくとも1種を含む。場合によっては、CIGS前駆体層の少なくとも1つは、銅および銀から選択される少なくとも1種の第1b族物質;ガリウムおよびインジウムから選択される少なくとも1種の第3a族物質;並びに、硫黄およびセレンから選択される少なくとも1種の第6a族物質を含む。
【0054】
本発明のセレンを堆積する方法を使用すると、セレンを含む均一なまたは段階的な半導体膜(例えば、CIGS物質)を提供することが可能である。例えば、段階的CIGS物質は、様々な濃度の堆積成分を堆積させることにより(すなわち、異なる組成の前駆体物質の複数層を堆積させることにより)製造されうる。CIGS物質の製造においては、(例えば、Ga濃度に関して)段階的な膜を提供することが場合によっては望まれる。光によって生じた電荷キャリアの分離の向上を容易にするために、および裏面接触(back contact)での組み替えの低減を容易にするために、光起電力素子に使用するためのCIGS物質の深さに応じて段階的なGa/(Ga+In)比を提供することが従来のものである。よって、所望のゲイン構造および最も高い効率の光起電力素子特性を達成するようにCIGS物質組成を調整することが望ましいと考えられる。
ここで、本発明のいくつかの実施形態が以下の実施例において詳細に説明される。
【実施例】
【0055】
実施例1−12:セレンインク合成
セレンインクは以下の方法を用いて、表1に特定された成分および量を用いて製造された。セレン粉体は、空気中で反応容器に秤量された。固体トレースレス還元剤(例えば、ギ酸アンモニウム)を使用した実施例については、固体トレースレス還元剤は、次いで、反応容器に秤量された。反応容器は、次いで、窒素でパージされた。次いで、グローブボックス内で不活性技術を使用して、攪拌することなく、反応容器に液体キャリアが添加された。液体キャリアの添加後に、磁気攪拌棒を使用して攪拌が開始された。液体トレースレス還元剤を使用した実施例については、液体トレースレス還元剤は、次いで、不活性技術を使用して(すなわち、ゴム隔壁を通したシリンジを介して)反応容器に添加された。次いで、反応容器の内容物は表1に示された反応条件下で処理された。セレンインクの形成は、液体キャリアにおける特徴的な褐色の形成、および反応容器の底の固体の消失によって示された。形成されたセレンインクは安定であった(すなわち、合成の後に攪拌することなくオーバーナイト、〜16時間静置した後で、その容器の底に集まる固体が観察されなかった)。さらに、形成されたセレンインクは、目詰まりまたは観察される残留固体を示すことなく、1.2ミクロンガラスシリンジフィルタ、および0.45ミクロンPTFEシリンジフィルタを通して容易にろ過された。セレンインクは空気感受性であり、空気に曝露されると分解することに留意されたい。よって、セレンインクは窒素雰囲気下で製造され貯蔵された。
【0056】
【表1】

【0057】
A.反応容器および内容物を、120℃にセットされたホットプレート上で6.5時間加熱し;次いで、ホットプレート設定温度を130℃に上げて、さらに2時間加熱を続けた。
B.全ての固体が溶解するまで還流しつつ攪拌を続けた。
C.120℃にセットされたホットプレート上で反応容器の内容物を6時間加熱した。
D.反応の完了時に、反応容器の底に残っている固体は観察されなかった。
E.還流しつつ2時間攪拌を続けた。
F.還流しつつ3時間攪拌を続けた。
G.反応は完了しなかったが、幾分かのセレンの溶解が観察された。
H.反応の完了時に、反応容器の底に残っている固体は観察されなかった。生成物のセレンインクはかなり粘稠であった。
【0058】
実施例13−26:ろ過
実施例に従って製造されたセレンインクは表2に示され、これは、インクの合成の後で、表2に示された期間、室温および常圧で、攪拌することなく棚の上に静置した後、表2に示されるように1.2ミクロンガラスシリンジフィルタおよび0.45ミクロンPTFEシリンジフィルタを通してろ過された。表2には結果が示される。
【0059】
【表2】

【0060】
I.示された保持期間の後で凝集または沈降は観察されなかった。セレンインクは停滞なくフィルタを通過した(すなわち、全ての物質がフィルタを通過した)。
K.約1〜2重量%がフィルタ内に停滞した。ろ過中に抵抗は感じられなかった。
L.約5から10重量%がフィルタ内に停滞した。ろ過中に幾分かの抵抗が感じられた。
【0061】
実施例27:銅基体上でのセレン化銅膜の製造
手順は窒素雰囲気下でグローブボックス内で行われた。銅ホイル基体が、100℃にセットされたホットプレート上で予備加熱された。実施例4に従って製造されたセレンインクが数滴、予備加熱した銅ホイル基体上に堆積された。次いで、ホットプレートの設定温度を220℃に上げて、そこに5分間保持し、次いで、298℃に上げて、そこに5分間保持した。次いで、ホットプレートから基体が取り出され、冷却された。生成物は、Rigaku D/MAX2500を用いて、ニッケルフィルターを通した銅Kα線の50kV/200mAで、x−線回折(2シータスキャン)によって分析された。サンプルは0.03度のステップで、0.75度/分で、5〜90度の2θでスキャンされた。反射配置が使用され、サンプルは20RPMで回転させられた。次いで、スキャン出力は、標準結晶学データベースにおける化合物についてのスキャンと比較されて、セレン化銅が基体の表面上に形成されたことを確かめた。
【0062】
実施例28:モリブデン基体上のセレン化銅膜の製造
手順は窒素雰囲気下でグローブボックス内で行われた。モリブデンホイル基体が、100℃にセットされたホットプレート上で予備加熱された。1.59gのギ酸銅(II)を、ギ酸銅(II)が溶解するまで40℃で攪拌しつつ、7.37gのn−ブチルアミンに溶解することにより、銅インクが製造された。実施例4に従って製造されたセレンインク3滴が、2滴の銅インクと共に、モリブデンホイル基体上に堆積された。次いで、ホットプレートの設定温度を220℃に上げて、そこに5分間保持し、次いで、298℃に上げて、そこに5分間保持した。次いで、ホットプレートから基体が取り出され、冷却された。生成物は、実施例27に示されたのと同じ装置およびセッティングを用いて、x−線回折(2シータスキャン)によって分析された。次いで、スキャン出力は、標準結晶学データベースにおける化合物についてのスキャンと比較されて、セレン化銅が基体の表面上に形成されたことを確かめた。
【0063】
実施例29:モリブデン基体上のセレン化銅膜の製造
手順は窒素雰囲気下でグローブボックス内で行われた。モリブデンホイル基体が、100℃にセットされたホットプレート上で予備加熱された。0.35gの銅(II)エチルへキサノアートを、銅(II)エチルへキサノアートが溶解するまで40℃で攪拌しつつ、6.65gのヘキシルアミンに溶解することにより、銅インクが製造された。実施例4に従って製造されたセレンインク1滴が、4滴の銅インクと共に、モリブデンホイル基体上に堆積された。次いで、ホットプレートの設定温度を220℃に上げて、そこに5分間保持し、次いで、298℃に上げて、そこに5分間保持した。次いで、ホットプレートから基体が取り出され、冷却された。生成物は、実施例27に示されたのと同じ装置およびセッティングを用いて、x−線回折(2シータスキャン)によって分析された。次いで、スキャン出力は、標準結晶学データベースにおける化合物についてのスキャンと比較されて、セレン化銅が基体の表面上に形成されたことを確かめた。
【0064】
実施例30:モリブデン基体上のセレン化銅膜の製造
手順は窒素雰囲気下でグローブボックス内で行われた。モリブデンホイル基体が、100℃にセットされたホットプレート上で予備加熱された。0.5gの銅(II)アセチルアセトナートを、銅(II)アセチルアセトナートが溶解するまで40℃で攪拌しつつ、9.5gのエチレンジアミンに溶解することにより、銅インクが製造された。実施例4に従って製造されたセレンインク1滴が、4滴の銅インクと共に、モリブデンホイル基体上に堆積された。次いで、ホットプレートの設定温度を220℃に上げて、そこに5分間保持し、次いで、298℃に上げて、そこに5分間保持した。次いで、ホットプレートから基体が取り出され、冷却された。生成物は、実施例27に示されたのと同じ装置およびセッティングを用いて、x−線回折(2シータスキャン)によって分析された。次いで、スキャン出力は、標準結晶学データベースにおける化合物についてのスキャンと比較されて、セレン化銅が基体の表面上に形成されたことを確かめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量%以上のセレン;
トレースレス還元剤;および
液体キャリア;
の反応生成物を含むセレンインクであって、
安定な分散物であり、ヒドラジンを含まず、ヒドラジニウムを含まない、セレンインク。
【請求項2】
トレースレス還元剤が≧35および<35から選択される分子量を有し、<35の分子量を有するトレースレス還元剤は1以下の窒素原子を有する分子式を有する、請求項1に記載のセレンインク。
【請求項3】
トレースレス還元剤が、ギ酸;ギ酸アンモニウム;シュウ酸アンモニウム;シュウ酸;ホルムアミド;ラクタート;一酸化炭素;水素;イソアスコルビン酸;二酸化硫黄;アセトアルデヒド;アルデヒド;およびこれらの組み合わせ;から選択される、請求項1に記載のセレンインク。
【請求項4】
液体キャリアが、式NR[式中、各Rは独立して、H、C1−10アルキル基、C6−10アリール基およびC1−10アルキルアミノ基から選択される]を有する液体アミンである、請求項1に記載のセレンインク。
【請求項5】
液体キャリアが、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチル−1−ヘキシルアミン、3−アミノ−1−プロパノール、ピリジン、ピロリジンおよびテトラメチルグアニジンから選択される、請求項1に記載のセレンインク。
【請求項6】
反応生成物が、液体キャリア中に分散されたカウンターイオン−セレニド複合体であって、当該カウンターイオン−セレニド複合体が、アンモニウムカウンターイオンおよびアミンカウンターイオンから選択されるカウンターイオンと複合体を形成したセレンを含む、請求項1に記載のセレンインク。
【請求項7】
セレンを提供し;
トレースレス還元剤を提供し;
液体キャリアを提供し;
セレンおよび液体キャリアを一緒にし;
一緒にされたセレンおよび液体キャリアに、トレースレス還元剤を添加して混合物を形成し;
混合物を攪拌しつつ加熱して、セレンをカウンターイオン−セレニド複合体に変換し、セレンインクを形成する;ことを含み、
カウンターイオン−セレニド複合体は液体キャリア中で安定に分散されており;かつセレンインクはヒドラジンを含まず、かつヒドラジニウムを含まない;
セレンインクを製造する方法。
【請求項8】
セレンに対して2〜40モル当量のトレースレス還元剤が提供される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基体を提供し;
請求項1に記載のセレンインクを提供し;
セレンインクを基体に適用して、基体上にセレン前駆体を形成し;
セレン前駆体を処理して液体キャリアを除去し、セレンを基体上に堆積させる;
ことを含み、基体上に堆積されたセレンはSeとSe1−との混合物である、
基体上にセレンを堆積する方法。
【請求項10】
基体を提供し;
場合によっては、ナトリウムを含む第1a族ソースを提供し;
第1b族ソースを提供し;
第3a族ソースを提供し;
場合によっては、第6a族硫黄ソースを提供し;
請求項1に記載のセレンインクを含む第6a族セレンソースを提供し;
第1a族ソースを使用してナトリウムを基体に場合によって適用すること、第1b族ソースを使用して第1b族物質を基体に適用すること、第3a族ソースを使用して第3a族物質を基体に適用すること、第6a族硫黄ソースを使用して硫黄物質を基体に場合によって適用すること、および第6a族セレンソースを使用してセレン物質を基体に適用することにより、少なくとも1種の第1a−1b−3a−6a族前駆体物質を基体上に形成し;
前記前駆体物質を処理して、式NaSe
[式中、Xは銅および銀から選択される少なくとも1種の第1b族元素であり;Yはアルミニウム、ガリウムおよびインジウムから選択される少なくとも1種の第3a族元素であり;0≦L≦0.75;0.25≦m≦1.5;nは1であり;0≦p<2.5;0<q≦2.5;並びに、1.8≦(p+q)≦2.5]を有する、第1a−1b−3a−6a族物質を形成する;
ことを含む、第1a−1b−3a−6a族物質を製造する方法。

【公開番号】特開2011−29624(P2011−29624A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−145545(P2010−145545)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】