説明

センサーチップ、センサーチップの製造方法、検出装置

【課題】高感度なセンサーチップを実現する。
【解決手段】センサーチップ10は、基板20と、基板20の表面に格子状に配列して形成される凸部22,23,…,と凸部間の凹部24とから構成される凹凸構造と、凹凸構造の互いに隣り合う凸部22,23それぞれの上部稜線22a,23aによって表面プラズモン共鳴を生じる微小間隙を有して配列される金属ナノ粒子30と、を備える。金属微粒子間にレーザー光を照射させることにより局在表面プラズモン共鳴がより効率的に生じる。その結果、表面増強ラマン散乱を取り出し、高感度に物質を検出することが可能なセンサーチップを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーチップと、センサーチップの製造方法、このセンサーチップを用いた検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や飲食物の検査などに用いられるセンサーの需要が増大しており、小型で高速にセンシング可能なセンサー及び検出装置の開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々な形式のセンサーが検討されている。これらの中で、集積化が可能であり、低コストで、さらに測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
【0003】
このような背景から、センサー感度の向上を目的として、金属微粒子や金属ナノ構造を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を利用したセンサーが提案されている。例えば、表面に金属微粒子が膜状に固定された透明基板に対して光を照射し、金属微粒子を透過した光の吸光度を測定することにより、金属微粒子近傍の媒質の変化を検出し、標的物質(被検出物質)の吸着や堆積を検出するものがある。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような特許文献1では、金属微粒子のサイズ(大きさや形状)を均一に作製すること、及び金属微粒子を規則正しく配列することは困難であった。金属微粒子のサイズや配列が制御できないと、表面プラズモン共鳴で生じる吸収や共鳴波長にもばらつきが生じる。このことより、吸光度スペクトルの幅が広くなり、ピーク強度が低下してしまう。従って、金属微粒子近傍の媒質の変化を検出する信号変化が低く、センサー感度を向上させるにも限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係るセンサーチップは、基板と、前記基板の表面に格子状に配列して形成される凹凸構造と、前記凹凸構造の互いに隣り合う凸部の上部稜線に接して支持される複数の金属微粒子と、を備え、前記複数の金属微粒子の少なくとも一部は、隣り合う金属微粒子との間に間隙を有することを特徴とする。
【0008】
本適用例は、ナノメートルオーダーの大きさの金属微粒子にレーザー光を照射することで発生する表面プラズモン共鳴を利用したラマン散乱を測定するものである。本適用例によれば、金属微粒子を、基板表面に形成される凸部の間隔に応じて配列することになるため、金属微粒子間に形成される微小な間隙の方向が揃って配列される。従って、金属微粒子間にレーザー光を照射させることにより表面増強プラズモン共鳴が発現し、高感度に物質を検出することが可能なセンサーチップを実現できる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に係るセンサーチップは、前記間隙は、表面プラズモン共鳴を生じる微小間隙であり、前記基板が、誘電体であることが好ましい。
ここで、誘電体としては、例えば、石英、水晶、硼珪酸ガラスなどのガラス、シリコンなどが適している。なお、入射する光を基板側に設定する場合には、入射する光に対して透明な基板が適しており、入射する光を金属微粒子側に設定する場合には、必ずしも透明である必要はない。
【0010】
上記適用例は、金属微粒子間の間隙は、表面プラズモン共鳴を生じる微小間隙を有しており、金属微粒子の周囲に発生する局在表面プラズモン共鳴による増強電場により、ラマン散乱光を増強し、さらに検出感度を向上させることができる。また、基板を誘電体にすることによって、金属微粒子の周囲の媒体の電場への影響を排除することができ、スペクトルのピーク強度を損なうことがない。
【0011】
[適用例3]上記適用例に係るセンサーチップは、前記金属微粒子の平均粒径が、入射する光の波長よりも小さく、表面プラズモン共鳴による増強電場を形成する大きさであることが好ましい。
【0012】
入射する光の波長よりも小さな金属微粒子に対して光を照射する場合には、金属微粒子の表面に存在する自由電子が、入射光の電場によって作用を受け共鳴することになり、金属微粒子の周囲には自由電子による電気双極子が揃った状態になり、入射光の電場よりも強い増強電場を形成することができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例に係るセンサーチップは、前記凹凸構造の互いに隣り合う凸部間の距離は、前記金属微粒子の平均粒径よりも小さいことが好ましい。
【0014】
このようにすれば、金属微粒子は、凹部内に脱落することなく、凸部の上部稜線によって適切な間隙を有して配列させることができる。
【0015】
[適用例5]上記適用例に係るセンサーチップは、前記金属微粒子が、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、もしくはこれらの合金又は複合体であることが好ましい。
【0016】
金属微粒子として、上記材質のものを用いれば、表面プラズモン共鳴(SPR)、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)、表面増強ラマン散乱(SERS)、を発現させることができ、特に、AuまたはAgは、これらの特性を強く発現させることができ、被検出物質を高感度で検出することが可能となる。
【0017】
[適用例6]本適用例に係るセンサーチップの製造方法は、基板表面に格子状に配列される凹凸構造を形成する工程と、分散媒に金属微粒子が分散された分散液を、前記凹凸構造の上部に吐出する工程と、前記分散媒を除去する工程と、を含むことを特徴とするセンサーチップの製造方法。
【0018】
凹凸構造は、例えば、レーザー干渉露光法とエッチング法等を用いて形成する。このことによって凹凸の配列を、例えば1次元的または2次元的なパターンに形成することができる。そして、分散液を凹凸形状の上部に吐出すると、金属微粒子が凸部の上部稜線に沿って配列され、分散媒を蒸発(乾燥または加熱乾燥)して除去する過程で、金属微粒子を形成された凹凸構造のパターンに沿って配列させることができる。
【0019】
[適用例7]上記適用例に係るセンサーチップの製造方法は、前記分散液を前記凹凸構造の上部に吐出する工程が、インクジェット法であることが好ましい。
【0020】
従来の金属微粒子の配列方法としては、分散液の液滴を基板上に滴下して、スピンコーターのような装置で遠心力により薄く均一に広げる方法が知られている。このような方法では、分散媒よりも比重の大きな金属微粒子もいっしょに遠心力で外側へ広がっていまい、結果として多くの金属微粒子が無駄になってしまうという課題があった。それに対して本発明では、インクジェット法により分散液に含まれる金属微粒子をそっくり凹凸構造上に残すことが可能になるため、効率的に製造することが可能になる。
【0021】
[適用例8]上記適用例に係るセンサーチップの製造方法は、上記分散液を吐出した後の広がりの大きさが、前記凹凸構造の形成領域よりも小さいことが望ましい。
【0022】
基板上のほぼ中央部に、凹凸構造を形成した領域がセンサー部であり、センサー部のほぼ中央部分に金属微粒子を含んだ分散液を液滴として吐出する。吐出直後は、液滴がセンサー部に対して表面張力によって盛り上がるように付着する。その後、凹凸構造の凹部に分散媒が浸透しながら徐々に乾燥する。その過程で、分散されている金属微粒子の多くが凹凸構造の凹部に捉えられる。これは、分散媒の蒸発と、凹凸構造部の凹部を伝わって分散媒が外側で染み出すことによる作用によって生じる。その結果、分散液に含まれる金属微粒子の大部分を凹凸構造に残すことができ、無駄を生じさせることなく効率的に製造することができる。
【0023】
[適用例9]本適用例に係る検出装置は、気体状の被検出物質をセンサーチップ上に輸送する吸引手段及び排出手段と、ラマン散乱を励起する手段と、レイリー散乱光を除去する光学手段と、ラマン散乱光を分光する分光手段と、分光された光を電気信号に変換する受光手段と、電気信号に変換されたラマン情報を信号処理、制御する信号処理・制御手段と、が、備えられ、前記センサーチップ上の金属微粒子間に発生する局在表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を用いて前記被検出物質を検出することを特徴とする。
【0024】
本適用例によれば、センサーチップ上には、ナノメートルオーダーの大きさの金属微粒子が、微小な間隙で揃って配列されており、金属微粒子にレーザー光を照射することで励起される局在表面プラズモン共鳴がより効率的に生じることになる。その結果、表面増強ラマン散乱がなされ、高感度に物質を検出することが可能な検出装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1に係るセンサーチップの1部を示す斜視図。
【図2】実施例1に係るセンサーチップの断面図。
【図3】実施例2に係るセンサーチップの1部を示す平面図。
【図4】ラマン分光の説明図。
【図5】被検出物質をアセトアルデヒドとしたときの測定例を示すスペクトル図。
【図6】金属ナノ粒子に光を照射した時に形成される増強電場の説明図。
【図7】実施例3に係るセンサーチップの1部を示す断面図。
【図8】変形例に係る金属ナノ粒子に光を照射した時に形成される増強電場の説明図。
【図9】センサーチップの主たる製造工程を示す断面図。
【図10】センサーチップの主たる製造工程を示す断面図。
【図11】紫外レーザーを使った光干渉露光装置の概要を示すシステム説明図。
【図12】センサー基板上のセンサーチップの配置構成を示す配置図。
【図13】検出装置の構成の1例を示す構成図。
【図14】検出装置に係る制御系の構成を示すブロック図。
【図15】従来技術によりセンサーチップ上に配設された金属ナノ粒子の状態。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(センサーチップ・実施例1)
【0027】
図1は、実施例1に係るセンサーチップの1部を示す斜視図、図2はセンサーチップの断面図である。図1、図2において、センサーチップ10は、基板20の表面に形成された凹凸構造と、多数の金属微粒子30の集合体から構成されている。これら凹凸構造と金属微粒子の構成領域をセンサー部11とする。基板20の材質としては、誘電体からなり、石英、水晶、硼珪酸ガラスなどのガラス、シリコンなどが適している。入射する光を基板20側に設定する場合には、入射する光に対して透明な基板が適しており、入射する光を金属微粒子側に設定する場合には、必ずしも透明な基板である必要はない。
【0028】
凹凸構造は直線的な格子状に形成されており、基板20の上面21からエッチング法等により凹部24を掘り下げることで凸部22,23,…,が形つくられて形成されている。凸部22,23,…,は、図1に示す例では、基板20上面対してほぼ垂直(Z方向)に、それぞれがY方向に直線的に、X方向に平行に突設された1次元構造となっている。なお、凹凸構造は、図示したような直線的な配列に限らず、同心円のサークル状、渦線状であってもよい。
【0029】
金属微粒子30の材質としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、もしくはこれらの合金又は複合体などが適している。金属微粒子30の平均粒子径は、後述する分散媒との混合において重力による沈降が起こり難く、入射する光の波長よりも小さい200nm以下が好ましく、10nm〜100nmがより好ましい。よって、以降、金属微粒子30を金属ナノ粒子30と表し説明する。本実施例では、表面プラズモン共鳴(SPR)、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)、表面増強ラマン散乱(SERS)を強く発現させる特性を有するAuまたはAgを用いる。なお、金属ナノ粒子30は、粒径が10nm〜100nmの範囲であれば、同じ大きさに揃っていなくてもよい。
【0030】
また、凹凸構造の互いに隣り合う凸部間の距離W1(凹部24の幅)は、金属ナノ粒子30の平均粒径D1よりも小さく設定される。従って、金属ナノ粒子30は、互いに隣り合う凸部22の上部稜線22aと凸部23の上部稜線23aによって大部分が支持され、凹部24内には配設されない構造となっている。
【0031】
そして、金属ナノ粒子30は、図1に示すように各凹部に沿ってY方向に配列されている。この際、X方向に互いに隣り合う金属ナノ粒子30の間の間隙L1は、表面プラズモン共鳴による増強電場を形成するのに適した大きさとなるように、金属ナノ粒子30の平均粒径D1、及び凸部間の距離W1が設定される。
(センサーチップ・実施例2)
【0032】
続いて、センサーチップの実施例2について図面を参照して説明する。実施例2は、凹凸構造が2次元構造の格子状に形成されていることを特徴としている。
図3は、実施例2に係るセンサーチップの1部を示す平面図である。なお、断面構造は図2と同様に表すことが可能であるので省略する。図3において、凹凸構造は、縦横方向それぞれに凸部と凹部とが配列されている。ここで、一つの金属ナノ粒子を例示して説明すると、金属ナノ粒子30は、柱状の凸部25,26,27,28の各稜線が交わる4つの角部によって支持配列される。つまり、凸部25,26,27,28の各稜線が交わる4つの交点によって支持される金属微粒子30との組み合わせを1ユニットとして、基板20の縦・横に配列されている。なお、凸部25,26,27,28以外の部分(図示、白抜きの部分)は凹部であるが、これら凸部と凹部とを置き換えた凹凸構造としてもよい。このような構成では、凸部25,26,27,28の稜線によって金属微粒子30が支持される。また、凸部の平面視形状は、四角形でも円形でもよい。
【0033】
金属ナノ粒子の平均粒径D1と、凸部間の距離W1と、金属ナノ粒子間の距離L1とは、前述した実施例1と同じ関係となるように設定される。
(センシングの原理)
【0034】
次に、前述したセンサーチップを用いたセンシングの原理について図面を参照して説明する。
図4はラマン分光の説明図、図5は被検出物質をアセトアルデヒドとしたときの測定例を示すスペクトル図、図6は金属ナノ粒子に光を照射した時に形成される増強電場の説明図である。
図4に示すように、被検出物質である標的分子に入射光(波長ν)が照射されると、多くはレイリー散乱光として波長が変化せず散乱される。一部に標的分子の分子振動の情報を含んだラマン散乱光(波長ν−ν‘)が散乱される。そのラマン散乱光には、図5に示すような標的分子(ここではアセトアルデヒド分子を例示)の指紋スペクトルが得られることになる。
【0035】
図5は、被検出物質をアセトアルデヒドとしたときのスペクトルの測定例であって、横軸にラマンシフト(単位:cm-1)、縦軸に信号強度を表している。この指紋スペクトルによって、検出した物質がアセトアルデヒド分子と特定することが可能である。しかしながら、ラマン散乱光(ラマン信号)は非常に微弱であり、微量にしか存在しない物質を検出することは困難であった。そこで、表面プラズモン共鳴を利用して増強電場を発生させてラマン信号を強くする。
【0036】
図6は、金属ナノ粒子に光を照射した時に形成される増強電場の説明図である。表面プラズモン共鳴とは、物質表面の固有の境界条件により光とカップリングを起こす電子波の振動モードである。具体的には図6に示すように、入射する波長よりも小さな金属ナノ粒子に対して光を照射する場合には、金属ナノ粒子の表面に存在する自由電子が、入射光の電場によって作用を受け共鳴する。金属ナノ粒子近傍には自由電子による電気双極子が揃った状態になった結果、入射光の電場よりも強い増強電場が形成される。この現象は、光の波長よりも小さな金属粒子に特有の現象である。ところで、金属表面に伝播型の表面プラズモンが存在する一方、金属ナノ粒子には局在型の表面プラズモンが存在する。局在型の表面プラズモン、つまり、表面の微細構造上に局在する表面プラズモンが励起された際には、著しく増強された電場が誘起される。この現象を局在表面プラズモン共鳴と称する。
【0037】
上述した実施例では、基板20上に金属ナノ粒子を配列させ、金属ナノ粒子間の間隙に増強電場を形成するように配置している。ここで被検出物質である標的分子が入り込むと、そのラマン散乱光は増強電場で増強されて強いラマン信号が得られることになる。このようなラマン散乱光を表面増強ラマン散乱光と呼ぶ。結果として、微量に存在する標的分子であっても、ラマン分光ができることになる。これが、微量の標的分子を高感度に検出できる原理である。
【0038】
以上説明した実施例1及び実施例2によるセンサーチップ10は、局在表面プラズモン共鳴、及び表面増強ラマン散乱を利用して被検出物質を検出するためのセンサーである。従って、実施例1及び実施例2によれば、金属ナノ粒子30が、基板20表面20aに形成される凸部22,23(または凸部25,26,27,28)の間隔に応じて、金属ナノ粒子間に形成される微小な間隙の方向が揃って配列される。従って、局在表面プラズモン共鳴がより効率的に生じることになる。その結果、高感度を実現する表面増強ラマン散乱がなされ、高感度に物質を検出することが可能なセンサーチップを実現できる。
【0039】
また、基板20は、誘電体である。上記実施例では、金属ナノ粒子間の間隙に周囲に発生する局在表面プラズモン共鳴による増強電場により、表面増強ラマン散乱を増強し、その被検出物質の指紋スペクトルを検出するものである。従って、基板20の材質を誘電体にすることによって、金属ナノ粒子周囲の媒体による電場への影響を排除することができ、スペクトルのピーク強度を損なうことがない。
【0040】
また、金属ナノ粒子30の平均粒径D1は、入射する光の波長よりも小さく、表面プラズモン共鳴による増強電場を形成する大きさである。入射する光の波長よりも小さな金属ナノ粒子に対して光を照射する場合には、金属ナノ粒子の表面に存在する自由電子が、入射光の電場によって作用を受け共鳴することになり、金属ナノ粒子の周囲には自由電子による電気双極子が揃った状態になり、入射光の電場よりも強い増強電場を形成することができる。
【0041】
また、凹凸構造の互いに隣り合う凸部間の距離W1は、金属ナノ粒子30の平均粒径D1よりも小さい。このようにすれば、金属ナノ粒子は、凹部24内に脱落することなく、凸部22,23の上部稜線22a,23aによって適切な間隙を有して配列させることができる。
【0042】
さらに、金属ナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、もしくはこれらの合金又は複合体で形成される。金属ナノ粒子として、上記材質のものを用いれば、表面プラズモン共鳴(SPR)、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)、表面増強ラマン散乱(SERS)、を発現させることができ、特に、AuまたはAgは、これらの特性を強く発現させることができ、被検出物質を高感度で検出することが可能となる。
(センサーチップ・実施例3)
【0043】
続いて、実施例3に係るセンサーチップについて図面を参照して説明する。実施例3は、実施例1及び実施例2に対して凹凸構造の断面形状が異なることを特徴とする。従って、相違箇所について説明する。
図7は、実施例3に係るセンサーチップの1部を示す断面図である。図7において、凹凸構造の凹部は、基板20の上面21に対して底の方が狭い傾き(テーパ)を有して形成されている。このような形状は、前述した実施例1の1次元構造、実施例2の2次元構造にも応用可能である(図示は実施例1の場合)。金属ナノ粒子30は、凸部22と凸部23によって保持され、所定の配列構造を有する。
【0044】
このようにしても、実施例1及び実施例2と同様な効果が得られる。また、凹部24をエッチング法等で形成する場合、凹部24はテーパ形状になることがあるが、凹凸構造の互いに隣り合う凸部間の距離W1、金属ナノ粒子30の平均粒径D1、金属ナノ粒子間の距離L1の関係を、前述した実施例1及び実施例2と同じようにすれば、製造し易くなるという利点がある。
(センサーチップ・変形例)
【0045】
続いて、センサーチップの変形例について図面を参照して説明する。変形例は、基板20の上面21にインクジェット法を用いて金属ナノ粒子を配列させることを特徴とする。
図8は、変形例に係る金属ナノ粒子に光を照射した時に形成される増強電場の説明図である。センサーチップ10は、基板表面20aに金属ナノ粒子30がほぼ1層となるように配列されている。金属ナノ粒子30は、分散媒に混合された分散液を基板表面20aにインクジェット法を用いて滴下させ、分散媒を蒸発させることで、基板20に吸着させることができる。
【0046】
このような構成では、図8に示すように、基板20上に金属ナノ粒子30を形成し、その間隙に増強電場が形成できるように配置しておく。ここで、被検出物質(標的分子)が金属ナノ粒子間に入り込むと、そのラマン散乱光は増強電場で増強されて強いラマン信号が得られることになる。この構造では、実施例1及び実施例2のように、金属ナノ粒子を凹凸構造によって配列させる場合に比べて、検出感度は若干低下するものの、分散媒と金属ナノ粒子30の混合割合を適宜調整することで、金属ナノ粒子間の距離L1を局在表面プラズモン共鳴が発現するように配設させることが可能となる。
(センサーチップの製造方法)
【0047】
次に、センサーチップの製造方法について図面を参照して説明する。
図9、図10は、はセンサーチップの主たる製造工程を示す断面図である。基板20としては、石英、水晶、硼珪酸ガラスなどのガラス、シリコン等を用いることができるが、ここでは石英板を例示して説明する。まず、図9(a)に示すように、清浄な基板20の表面に、レジスト40をスピンコーターなどの装置で塗布し乾燥させる。そこへ、所望の凹凸パターンを作るために、レーザー干渉露光する。
【0048】
本実施例では、金属ナノ粒子及び凹凸構造の寸法は、照射する光の波長(ここでは可視光から近赤外光の領域)のより小さい寸法であるから、露光装置としては、電子ビーム露光法や紫外レーザーを使った光干渉露光法などが使用することができる。電子ビーム露光法は、露光の自由度が高い反面、量産性には限界がある。そこで、量産性に優れている紫外レーザーを使った光干渉露光装置を用いた。
【0049】
図11は、紫外レーザーを使った光干渉露光装置の概要を示すシステム説明図である。レーザー装置から出たレーザー光は、シャッター101を経由してミラー102で折り返し、ハーフミラー103で2方向に分岐する。分岐されたそれぞれの紫外線レーザーをミラー104,105で折り返し、対物レンズ106,107とピンホールを経由させ、ビームを広げる。そして、広がった紫外レーザーをマスク109に照射させ干渉縞を作り、レジスト40(図9(a)、参照)を塗布した基板20に照射させる。この時、干渉縞の露光構成によって色々なパターンの露光が可能になる。
【0050】
本実施例では、干渉露光の光源として連続発振のYVO4レーザー(波長266nm、最大出力200mW)を用いた。ポジ型レジストを使用し、レジスト膜厚は1μmとした。レジストの露光パターンは、一方のパターンを格子状とし、他方のパターンも格子状として、両者の交差する角度によって色々なパターンが形成することができ、レーザーの波長の半分の大きさまで小さくすることが可能である。両者の干渉縞の潜像をレジスト40に形成し、レジストを現像して所望のパターンを形成する(図9(b))。
【0051】
その後、レジストパターンで保護されていない部分をエッチングして、基板20に凹部24を形成する(図9(c))。さらに、基板20上に残ったレジスト40を除去する(図9(d))。このようにして、凸部22,23,…,と、凹部24とからなる凹凸構造を形成する。ここで、隣り合う凸部間の距離W1(凹部24の幅)は、金属ナノ粒子30の平均粒径D1よりも小さく設定される。
【0052】
次に、インクジェット法を用いて金属ナノ粒子30を凹凸構造上に配列させる。図10(e)に示すように、基板20のほぼ中央部に、凹凸構造を形成した部分がセンサー部11であり、そこのほぼ中央部分に金属ナノ粒子を含んだ分散液80をインクジェット装置を用いて吐出する。なお、凹凸構造上に吐出した後の分散液の広がりの大きさが、凹凸構造の形成領域よりも小さくなるように吐出を行う。
【0053】
吐出直後は、図10(f)に示すように分散液が、センサー部11に対して表面張力によって盛り上がるように着弾する。その後、凹凸構造の凹部24に分散媒が浸透しながら、分散媒が徐々に乾燥することで除去される。
【0054】
なお、分散媒を加熱乾燥によって除去してもよい。分散媒の蒸発過程で、分散されている金属ナノ粒子の多くが凹凸構造の凸部22,23の上部稜線22a,23aによって、凹部24に捉えられる。金属ナノ粒子30の凹凸構造への吸着は、分散媒の上面からの蒸発と、凹凸構造の凹部24を伝わって分散媒が外側で染み出すことによる作用によって生じる。
【0055】
次に、金属ナノ粒子の製造方法の1例について説明する。なお、図示は省略する。まず、回転可能な真空チャンバー内に、低蒸気圧のアルキルナフタレンと親油性界面活性剤であるポリアミンからなる液体を真空チャンバーの内壁に循環させながら真空にする。真空度は102(Pa)程度である。その中にある加熱手段(抵抗加熱又は誘導加熱)によって、坩堝に入っている金属を蒸発させることができる蒸着源から、金属ナノ粒子が蒸発さし真空チャンバーの内壁に循環している液体に捉えられ、回転と共に真空チャンバーの下部に液体として蓄積する。金属ナノ粒子としては、Au、Ag、Al、Cu、Pd、Cr、Ptなどが適している。その粒子径は、重力による沈降が起こり難く、入射する光の波長よりも小さい200nm以下が好ましく、10nm〜100nmがより好ましい。
【0056】
具体例として、SPR、LSPR、SERSを強く発現させる特性を有するAgナノ粒子の製造方法について説明する。銀ナノ粒子は、クエン酸ソーダの存在下で硝酸銀溶液に硫酸第一鉄を添加して銀イオンを還元し、生成した平均粒径100nm以下の銀ナノ粒子を用いると良い。硫酸第一鉄とクエン酸ソーダをあらかじめ混合しておき、室温下、この混合溶液に硝酸銀溶液を投入し、硝酸銀を還元するとよい。硝酸銀溶液の銀濃度は1g/L〜200g/Lが適当であり、硫酸第一鉄の量は硝酸銀を十分に還元できる量であれば良い。
【0057】
また、クエン酸ソーダの量は銀のモル数の2倍から7倍が適当である。硝酸銀溶液と硫酸第一鉄溶液の混合は,供給ノズル一つにつき5ml〜20ml/分で投入するのが好ましい。混合後、攪拌して均一に反応させる。この反応によって銀が還元され、粒径がナノメートルサイズの銀超微粒子(銀ナノ粒子)を含む銀コロイド液が得られる。この銀コロイド液を固液分離し、分離した固形分をクエン酸ソーダで洗浄し、銀ナノ粒子が分散した銀コロイド液を得ることができる。
【0058】
銀ナノ粒子の分散液は、例えば、原料微粒子を適当な分散媒に分散させて分散液を得、この分散液中にチオール化合物を添加することにより製造することができる。金属ナノ粒子の分散媒に対する濃度は、1重量%〜50重量%であることが好ましく、4重量%〜20重量%がより好ましい。金属ナノ粒子の重量%は、あまり少ないと形成された金属ナノ粒子の密度が少なく、局在表面プラズモン共鳴による増強電場が弱くなってしまう。逆にあまり多いと液滴の吐出が不安定になる。
【0059】
分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ぺンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類(パラフィン系炭化水素類)、シクロへキサン、メチルシクロへキサン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキシルベンゼン、ヘブチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、デシルベンゼン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼンのような長鎖アルキル基を有するベンゼン類(アルキルベンゼン誘導体)等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環類、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。但し、蒸気圧の高い分散媒は、ノズル近傍で分散媒が蒸発し易く、ノズルが詰まり易いので、液滴を吐出する時以外はノズルに蒸発防止のキャップなどをして工夫する必要がある。
【0060】
これらの分散媒に金属ナノ粒子を分散させる手法としては、ビーズミル、ロッキングミルやホモジナイザー等、機械的な衝撃、せん断によって分散させる手法、超音波や高圧ホモジナイザー等のキャビテーション力によって分散させる手法等がある。これらの中で、超音波装置、特に超音波ホモジナイザーによる分散手法がよく用いられる。超音波を印加し分散する場合、周波数の範囲は2kHz〜100kHzの範囲であることが好ましく、2kHz〜50kHzの範囲であることがより好ましく、10kHz〜40kHzの範囲であることが特に好ましい。超音波の照射は連続でも不連続でもよいが、照射時間が長くなる場合は不連続であるほうが好ましい。これは、超音波の長時間の連続照射による加熱が粒子の分散に悪影響を与えることが懸念されるためである。
【0061】
インクジェット法には、色々な種類の方式が提案されている。大きくは、静電方式、ピエゾ方式と膜沸騰インクジェット方式である。静電方式はアクチュエーターである静電ギャップに駆動信号を与えるとキャビティ内の振動板が変位してキャビティ内に圧力変化を生じ、その圧力変化でインク滴がノズルから吐出されるという原理である。ピエゾ方式はアクチュエーターであるピエゾ素子に駆動信号を与えるとキャビティ内の振動板が変位してキャビティ内に圧力変化を生じ、その圧力変化でインク滴がノズルから吐出されるという原理である。一方、膜沸騰インクジェット方式はキャビティ内に微小ヒーターあり、瞬間的に300℃以上に加熱されてインクが膜沸騰状態となり気泡が生成し、その圧力変化によってインク滴がノズルから吐出されるという原理である。本発明では、いずれの方式のインクジェット記録装置にも適用できる。
【0062】
なお、本実施例では、センサーチップ10は、大判のセンサー基板に多数のセンサーチップを配列してバッチ処理によって製造する。
図12は、センサー基板上のセンサーチップの配置構成を示す配置図である。センサー基板70に、前述した方法(図8、参照)で、多数の凹凸構造を形成する。これら凹凸構造の一つ一つの集合がセンサー部11である。凹凸構造を形成した後、インクジェット装置を用いて、凹凸構造上に、金属ナノ粒子が分散された分散液を吐出し、センサーチップ10を形成する。
【0063】
センサー基板70は、インクジェット装置のXYステージに固定されており、そのセンサー基板70には、図11に示すようにセンサーチップ10が多数配列されている。XYステージをセンサーチップ10の中央部に分散液が吐出される位置に1つずつ移動させて位置決めをして一旦静止させ、選択されたノズルから分散液を吐出する。そして、次のセンサーチップ10の中央部へXYステージを移動させて同様に分散液を吐出する。この動作を繰り返して全てのセンサーチップ10(センサー部11)に分散液を吐出する。その後、分散媒を乾燥させて、金属ナノ粒子を、凹凸構造に配列させる。
【0064】
センサー基板70にセンサーチップ10を形成した後、ダイシング装置等を用いて、一つ一つに切断し、センサーチップ10に個片化し、図1、図2に示すようなセンサーチップ10が形成される。
【0065】
従って、本実施例による製造方法によれば、凹凸構造は、レーザー干渉露光法とエッチング法等を用いて形成する。このような方法によって凹凸の配列を、例えば1次元構造または2次元構造のパターンに形成することができる。そして、分散液を凹凸構造の上部に吐出すると、金属ナノ粒子30が各凸部の上部稜線に沿って配列され、分散媒を乾燥(または加熱乾燥)除去する過程で、形成された凹凸構造のパターンに沿って金属ナノ粒子を配列させる。
【0066】
本実施例では、金属ナノ粒子30を分散媒に分散させた分散液を、凹凸構造の上部に吐出する工程は、インクジェット装置を用いて行う。従来の金属ナノ粒子の配列方法としては、分散液の液滴を基板上に滴下して、スピンコーターのような装置で遠心力により薄く均一に広げる方法が知られている。ここで、従来技術によりセンサーチップ上に配設された金属ナノ粒子の状態を図15に表す。この方法では分散媒よりも比重の大きな金属ナノ粒子も一緒に遠心力で外側へ広がっていまい、結果として多くの金属ナノ粒子が無駄になってしまうという課題があった。それに対して本実施例では、インクジェット法により分散液に含まれる金属ナノ粒子をそっくり凹凸構造上に残すことが可能になるため、効率的に製造することが可能になる。
【0067】
また、図10(e),(f)に示すように、分散液80を吐出した後の広がりの大きさを、凹凸構造の形成領域よりも小さくしている。吐出直後は、分散液がセンサー部に対して表面張力によって盛り上がるように付着する。その後、凹凸構造の凹部に分散媒が浸透しながら、分散媒が徐々に乾燥する。その過程で、分散されている金属ナノ粒子の多くが凹凸構造の凹部に捉えられる。これは、分散媒の蒸発と、凹凸構造部の凹部を伝わって分散媒が外側で染み出すことによる作用によって生じる。その結果、分散液に含まれる金属ナノ粒子の大部分を凹凸構造に残すことができ、無駄を生じさせることなく効率的に製造することができる。
(検出装置)
【0068】
続いて、検出装置について図面を参照して説明する。
図13は、検出装置の構成の1例を示す構成図である。検出装置200は、センサーチップ10、及び吸引流路220などの検出のたびに交換する消耗品と、繰り返し使用可能な本体部と、から構成されている。
【0069】
本体部の主要構成は、消耗品を格納及び交換できるように開閉可能なセンサー部カバー201、排出手段203、本体の筐体204、光源205、レンズ206,207,209、フィルター210、分光器211、受光素子212などを含む検出部と、検出された信号を処理し、検出部の制御をする信号処理・制御部213、電力を供給する電力供給部214、外部とのインターフェイスを取るための接続部215、接続部216などから構成される。
【0070】
排出手段203を作動させると、吸引流路220、センサーチップ10内の流路及び排出流路221内が負圧になり吸引口202から検出すべき被検出物質(標的物質)を含んだ気体試料が吸引される。吸引流路220の入り口には除塵フィルター230があり、比較的大きな粉塵や一部の水蒸気などが除去される。気体試料は吸引流路220を通り、センサーチップ10内の流路を経由して排出流路221から排出される。その際に、標的物質がセンサーチップ10の表面付近を通過しセンサーチップ10に吸着又は散乱されて検出できる状態となる。
【0071】
気体試料を吸引及び排出する経路形状については、外部からの光がセンサー部に入らないように、且つ、気体状の試料に対する流体抵抗が小さくなるように、夫々考慮されたものなっている。外部からの光がセンサー部に入らないようにすることで、ラマン散乱光以外の雑音となる光が入らず、信号のS/N比が向上する。流路形状と共に、流路を形成する材料も、光を反射し難いような材料、色、表面形状を選択することが必要となる。
【0072】
また、気体試料に対する流体抵抗が小さくなるようにすることで、この検出装置200の近傍の気体試料が多く収集でき、高感度な検出が可能になる。これら流路の形状は、できるだけ角部をなくし滑らかな形状にすることで、気体試料の滞留がなくなる。また、排出手段203としては、流路抵抗に応じた静圧、風量のファンモーターやポンプを選択することも必要である。
【0073】
このセンサーチップ10に対して、単一波長で直線偏光の光源(レーザー光源)205からの光が照射され、センサーチップ10からはSERS(表面増強ラマン散乱)光が放射され、レンズ207で集光されてハーフミラー208によって受光素子212へ入る。この光には、光源からの入射光の波長と同じ波長のレイリー光とSERS光などが含まれているので、フィルター210によってレイリー光を除去して、分光器211へ入る。分光器211と受光素子212によって、標的物質特有の指紋スペクトルが得られ、予め保持するデータと照合することで、標的物質と特定することができる。
【0074】
1回の標的物質の検出を終了すると、標的物質が自然に拡散し排出されるが、排出手段203を用いて積極的に排出を促し、次の検出に備えて使用済みのセンサーチップ10などを交換する、という方法で次の検出にそなえる。ここでは、センサーチップ10を交換する方法について説明する。センサーチップ10の交換のために、センサー部カバー201を開き、センサーチップ10と吸引流路220、除塵フィルター230などが一体となった消耗品を取り外す。そこへ新しい消耗品の吸引口の封止部を解除してから、センサーチップ10の部の位置決め部材に沿ってセットすると、センサーチップ検出器240が作動して、検出可能な状態と判断される。
【0075】
また、電力供給部には、1次電池又は2次電池を使用することができる。1次電池の場合には本体の筐体204の下部に電池交換用の開口部(図示せず)があり、本体表示部(図示せず)に電池容量終了が表示されたら、電池を交換することができる。2次電池の場合には本体表示部に電池容量終了が表示されたら、本体の筐体204の下部に接続部215があり、充電器を接続することで2次電池が充電され、充電終了が表示されたら、充電器をはずして再度使用することができる。
【0076】
次に、この検出装置200の制御系の構成及び作用についてブロック図を参照して説明する。
図14は、検出装置に係る制御系の構成を示すブロック図である。なお、図13も参照する。検出装置200の表面には、操作パネル250、表示部251、外部とのインターフェイスのための接続部215、電力供給部214が具えられている。電力供給部214が2次電池の場合には、充電のための接続部216を具える。本体の上部のセンサー部カバー201の内部にはセンサーチップ10と、センサーチップ10の有無を検出し、センサーチップ10のコードを読み取るためのセンサーチップ検出器240があり、センサーチップ検出回路234を経由してその情報が信号処理・制御部213を構成するCPU(Central Processing Unit)に送られて判断される。この状態は、検出の準備ができた状態なので、CPUから表示部251へ準備OKの表示信号を出す。それを見た操作者は、検出開始を操作パネル250から指示信号をCPUへ出す。
【0077】
検出開始の信号をCPUが受けると、先ず光源ドライバー回路231に光源作動の信号を出して、光源205を作動させる。光源205には、温度センサーや光量センサーが内蔵されており、その情報がCPUへ送られて安定したかを判断する。その判断がOKなら、次には検出すべき標的物質を含んだ気体試料をセンサーチップ10の表面近傍へ導くために、排出手段203を作動させる信号がCPUから吸引手段ドライバー回路235へ指示がいき、気体試料は吸引口202から吸引流路220、センサーチップ空間、排出流路221を経由して外部へ排出される。
【0078】
検出系の作動は、単一波長で直線偏光の安定な光を放射する光源205(レーザー光源)があり、CPUからの信号により光源ドライバー回路231により駆動され、レーザー光を放射する。このレーザー光がセンサーチップ10に照射されてレイリー光とSERS(表面増強ラマン散乱)光がレンズ206,207やハーフミラー208を経由して受光側へ入ってくる。
【0079】
先ず、レイリー光を遮断するためのフィルター210を経由することで、SERS光だけが分光器211へ入る。分光器211は分光器ドライバー回路232によって制御される。分光器211として、ファブロペリー共振を利用したエタロンを採用する場合には、透過する光の帯域(λ1〜λ2)と半値幅とが設定されており、λ1から始まって半値幅ずつ順次透過する波長を変化させて、λ2まで繰返し受光素子212でその半値幅の光信号の強度を受光回路233で電気信号へ変換する。そうすることで、検出されたSERS光のスペクトルが得られることになる。
【0080】
こうして得られた標的物質のSERS光のスペクトルは、信号処理・制御部213のROMに格納されているスペクトルデータと比較して、目的の物質かどうかを判定して、物質の特定をする。その判定結果を操作者に知らせるため、CPUから表示部251へその結果情報が表示される。得られた物質特定の結果を、外部へ情報として送信する場合には、予め決められたインターフェイス規格に基づいて接続部215から送られることになる。
【0081】
電力供給部214として、1次電池、2次電池などが利用できる。1次電池の場合には、規定の電圧以下になったことを、CPUがROMに格納されている情報と得られ1次電池の電圧情報を比較判断して規定以下であれば、電池交換の表示を表示部251に表示する。操作者は、その表示を見て、1次電池を交換し、再度使用することができる。
【0082】
2次電池の場合には、規定の電圧以下になったことを、CPUがROMに格納されている情報と得られ2次電池の電圧情報を比較判断して規定以下であれば、充電要の表示を表示部251に表示する。操作者は、その表示を見て、接続部216に充電器を接続して規定の電圧になるまで、充電をすることで繰返し使用することができる。
【0083】
このような検出装置200は、センサーチップ10上には、ナノメートルオーダーの大きさの金属ナノ粒子が、微小な間隙の方向に揃って配列されており、金属ナノ粒子にレーザー光を照射することで励起される局在表面プラズモン共鳴がより効率的に生じることになる。その結果、表面増強ラマン散乱がなされ、高感度に物質を検出することが可能な検出装置を実現できる。
【0084】
以上説明したセンサーチップ10及び検出装置200によれば、様々な被検出物質の検出が可能である。以下に被検出物質を例示する。
セキュリティー分野では、空港・港湾・交通機関などで行われる麻薬や爆発物の探知、及び可燃性危険物の探知が可能である。
【0085】
医療・健康の分野では、インフルエンザに代表される感染病の原因である各種ウィルスの検出、口腔ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドを検出し歯周病の有無を判定、呼気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)を検出することで喘息の検査をする。あるいは、呼気ガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC)を検出することでがんのスクリーニング検査、呼気ガスに含まれるアセトンを検出することで脂肪燃焼モニター、呼気に含まれるイソプレンを検出することでコレステロールモニター等が可能である。
【0086】
また、室内の空気に含まれる揮発性有機化合物(VOC)であるベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒドなどを検査することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
10…センサーチップ、11…センサー部、20…基板、22,23…凸部、24…凹部、22a,23a…凸部の上部稜線、30…金属ナノ粒子(金属微粒子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面に格子状に配列して形成される凹凸構造と、
前記凹凸構造の互いに隣り合う凸部の上部稜線に接して支持される複数の金属粒子と、
を備え、
前記複数の金属粒子の少なくとも一部は、隣り合う金属微粒子との間に間隙を有することを特徴とするセンサーチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサーチップにおいて、
前記間隙は、表面プラズモン共鳴を生じる微小間隙であり、
前記基板が、誘電体であることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセンサーチップにおいて、
前記金属微粒子の平均粒径が、入射する光の波長よりも小さく、表面プラズモン共鳴による増強電場を形成する大きさであることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のセンサーチップにおいて、
前記凹凸構造の互いに隣り合う凸部間の距離は、前記金属微粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴とするセンサーチップ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のセンサーチップにおいて、
前記金属微粒子が、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、もしくはこれらの合金又は複合体であることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項6】
基板表面に格子状に配列される凹凸構造を形成する工程と、
分散媒に金属微粒子が分散された分散液を、前記凹凸構造の上部に吐出する工程と、
前記分散媒を除去する工程と、
を含むことを特徴とするセンサーチップの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のセンサーチップの製造方法において、
前記分散液を前記凹凸構造の上部に吐出する工程が、インクジェット法であることを特徴とするセンサーチップの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のセンサーチップの製造方法において、前記分散液を吐出した後の広がりの大きさが、前記凹凸構造の形成領域よりも小さいことを特徴とするセンサーチップの製造方法。
【請求項9】
気体状の被検出物質をセンサーチップ上に輸送する吸引手段及び排出手段と、
ラマン散乱を励起する手段と、
レイリー散乱光を除去する光学手段と、
ラマン散乱光を分光する分光手段と、
分光された光を電気信号に変換する受光手段と、
電気信号に変換されたラマン情報を信号処理、制御する信号処理・制御手段と、
が、備えられ、
前記センサーチップ上の金属微粒子間に発生する局在表面プラズモン共鳴及び表面増強ラマン散乱を用いて前記検出物質を検出することを特徴とする検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−132875(P2012−132875A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287189(P2010−287189)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】