説明

センサ制御装置

【課題】複数の近接目標の追尾における相関性能を向上するためのセンサ制御を行う。
【解決手段】複数センサから得られる観測値を追尾処理し目標航跡を生成する際使用センサを決定するセンサ制御装置であって、複数の相関仮説を生成しながら目標航跡と観測値の相関を決定する相関決定部11、対応付けられた観測値を用い各航跡の運動諸元を計算するフィルタ処理部12、相関決定状況からセンサ制御を実施するべきか否か判定するセンサ制御要否判定部21、センサ制御を実施するべきと判定された場合に相関決定部が生成した航跡相関行列から競合を解消すべき航跡群を抽出する競合航跡抽出部22、競合を解消すべき航跡群の誤差共分散行列よりセンサの観測方向の誤差を算出する誤差楕円重なり計算部23、算出されるセンサの観測方向の誤差に基づいてセンサの観測方向の重なりを解消するセンサの選択とセンサ使用回数の決定を行う使用センサ決定部24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のセンサを用いて目標追尾を行う際のセンサ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在センサにより目標を観測して得られた観測値を使って目標を追尾する技術については、すでに多くの論文、特許等の文献で取り挙げられており、その装置および方法については様々な提案がなされている。
【0003】
近接多目標を追尾する場合やクラッタ等の不要信号環境下で目標を追尾する場合、相関の決定方法は追尾性能を左右する重要な部分である。相関とは、観測時刻で複数の観測値が得られた場合、「どの観測値を同じ目標と見なすか」を示すものである。
【0004】
この相関決定の方法については、特許文献1にその一例の詳細が説明されている。この方式は、相関決定について、複数の仮説を生成し、維持しながら追尾を行う。この相関決定方式が出力する相関の精度、即ち、正しさは目標に割り当てられるセンサ資源の配分に大きく依存する。相関の精度が高まる様な資源配分をセンサ側に指示できれば、相関性能の向上が図れる。
【0005】
また、追尾状況に応じてセンサの資源配分を決定する方法の一例が、特許文献2に記述されている。この従来技術では、追尾目標の航跡の個々の追尾状況、例えば誤差楕円の大きさ、探知抜け回数、目標距離や目標速度、複数目標間の距離等の運動諸元に応じて優先度を設定する。その優先度が高い目標の航跡について、優先的にセンサ資源が割り当てられる。
【0006】
図12は、特許文献2の従来技術を特許文献1の方式に適用した場合の構成図である。この装置の動作を、センサ制御の機能のみに限定して以下で説明する。特許文献2ではフィルタの動作を決定するパラメータの制御についても記載されているが、ここではその機能は使わないとする。また、同文献ではクラッタ発生地域の情報などの観測条件が得られることを想定しているが、ここではその様な情報は得られないとする。また、追尾状況を基にセンサの割り当てを決定する機能のみに絞って説明する。そのため、図12には以下の説明では使われないブロックも存在する。
【0007】
センサ群Sは、センサ群指示部が出力する動作条件によって指定された時刻に指定された目標を観測し、その観測情報を出力する。観測情報融合部3は、センサ群の何れかのセンサから観測情報を受け取ると、上記の動作条件より、該当する目標の運動諸元を推定する追尾フィルタに対して目標観測値を出力する。
【0008】
追尾フィルタは、対応する目標の追尾計算を実行することにより、各目標の位置および速度の推定および予測を行い、目標の追尾情報を更新する。追尾情報抽出部8は、追尾フィルタ群が出力する目標の追尾情報から目標の運動諸元(例えば位置、速度)の推定値に関する情報として推定誤差範囲である誤差楕円(誤差共分散行列)を抽出し、その情報を目標状態評価部6に出力する。
【0009】
目標状態評価部6は、各目標に対して、センサ割り当ての優先度に相当する評価値を設定する。追尾フィルタからは推定誤差範囲が得られるため、それが広い目標に対しては誤差を縮小する目的で評価値を大きく設定する。
【0010】
次に、資源配分方式作成部10は、目標状態評価部6から評価値を受け取ると、追尾データベースを参照しながら、目標状態評価部6が出力する評価値に基づいて、各目標に対するセンサの割り当てとその配分効果についての評価値を複数組算出して出力する。即ち、目標状態評価部6が出力する評価値である各目標の追尾状態に基づいて、目標に対して割り当てるセンサ及び観測時刻を決定する。この割り当ては候補として複数作り、各々について、各目標の追尾精度が割り当てられたセンサの観測によってどれだけ向上するかについての期待値を目標状態評価値の大きさで重み付けした配分効果評価値を算出する。
【0011】
次に、資源管理計算部11は、資源配分方式作成部10から各資源の複数のセンサ割り当てと配分効果評価値を受け、また、センサ群の現在の動作状況を受けると資源データベースを参照しながら、各センサ割り当てが実行可能であるかどうか、センサ群に及ぼす放射エネルギー等の負荷がどの位になるかについて考慮して、配分効果評価値が大きいセンサ割り当てを選択する。
【0012】
センサ群指示部は、資源管理計算部11が最適な配分方式を決定するとそれに従ってセンサ群を構成するセンサの動作指示を行う。
【0013】
以上がこの資源管理装置のセンサ制御の手順であるが、この装置では、センサの観測値が追尾方式に入力される時点でどの観測値がどの追尾目標に対応しているかについてある程度既知であることが前提となっており、個々の追尾目標の推定誤差を基にセンサの割り当てを決定している。すなわち、誤差がより大きい目標について、またセンサ観測による改善効果がより高い目標とセンサの組合せについて優先的にセンサ資源を割り当てている。例えば、図13の例の様に目標1と目標2の各々の誤差楕円を比較すると目標2の方が大きい場合、目標2に優先的にセンサ資源を割り当てる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3145893号明細書
【特許文献2】特許第4014785号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1の追尾方式の相関性能を最適化するためのセンサ制御を行おうとした場合、特許文献2の従来技術では相関決定における観測値の競合を考慮していないため不十分である。この従来技術では、個々の追尾航跡の品質を向上させるのには役立つが、相関の重なりを効率的に解消することはできない。例えば、図14の様に近接する複数の目標を同時に追尾する場合、個々の目標の推定誤差の範囲が比較的狭いため、従来技術ではセンサ割り当ては必要ないと判断されるが、二つ誤差楕円に重複する領域があってその中で観測値が得られる場合には相関処理が困難となる。すなわち、得られた観測値をどちらの追尾目標に割り当てるべきかについての決定が困難となる。
【0016】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、複数の近接目標の追尾における相関性能を向上するためのセンサ制御を行うことができるセンサ制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るセンサ制御装置は、複数センサから得られる観測値を追尾処理して目標航跡を生成する際、観測に使用するセンサを決定するセンサ制御装置であって、複数の相関仮説を生成しながら目標航跡と観測値の相関を決定する相関決定部と、前記相関決定部により対応付けられた観測値を用いて各航跡の運動諸元を計算するフィルタ処理部と、前記相関決定部の相関決定状況からセンサ制御を実施するべきか否か判定するセンサ制御要否判定部と、前記センサ制御要否判定部によりセンサ制御を実施するべきと判定された場合に、前記相関決定部が生成した航跡相関行列から競合を解消すべき航跡群を抽出する競合航跡抽出部と、競合を解消すべき航跡群の誤差共分散行列よりセンサの観測方向の誤差を航跡毎に算出する誤差楕円重なり計算部と、前記誤差楕円重なり計算部により算出されるセンサの観測方向の誤差に基づいてセンサの観測方向の重なりを解消するセンサを選択すると共にセンサ使用の回数を決定する使用センサ決定部とを備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、相関決定部が生成した仮説に応じて相関決定が容易となる様なセンサ制御を決定するため、近接多目標を追尾する場合や不要信号環境下の追尾する場合に、必要最小限なセンサ資源で効率的で追尾性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1に係るセンサ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すセンサ制御装置によるセンサ制御決定の処理手順図である。
【図3】図1に示す相関決定部11が生成した相関に関する第1位の仮説H1と第2位の仮説H2の信頼度の推移の例を示す説明図である。
【図4】最終的に維持する仮説数mを事前設定のパラメータとした場合の第m位の仮説Hmと第m+1位の仮説Hm+1の信頼度の推移の例を示す説明図である。
【図5】ある観測時刻において第1位の仮説H1と第2位の仮説H2があったとし、各々の子孫の信頼度の推移の例を示す説明図である。
【図6】ゲート内外判定行列と第1位と第2位の仮説に対応する航跡相関行列の例を示す説明図である。
【図7】競合軌跡の誤差楕円の例を示す説明図である。
【図8】競合軌跡の各方向についての相関可能範囲の例を示す説明図である。
【図9】誤差楕円の重なりの例を示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係るセンサ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図11】図10に示すセンサ制御装置によるセンサ制御決定の処理手順図である。
【図12】特許文献2の従来技術を特許文献1の方式に適用した場合の従来例の構成図である。
【図13】複数目標とその誤差楕円の例を示す説明図である。
【図14】近接する複数目標とその誤差楕円の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るセンサ制御装置について図面を参照しながら説明する。
この実施の形態1では、以下の2つのセンサによる観測を想定する。
・距離観測情報と角度観測情報が得られるセンサ
・角度観測情報のみで距離観測情報は得られないが、角度観測情報はレーダに比べて精度が良い光学センサ
この二つのセンサは同一位置に配置されているとする。また、通常はこの二つのセンサをあらかじめ決められた一定時間間隔をおいて観測し、定期的に得られる観測値を用いて追尾処理を行う。ただし、追尾状況に応じて、具体的には相関決定が困難となった時点でセンサ制御を行い、特定の目標および領域に一時的にセンサ資源を重点的に割り当てる。
【0021】
図1は、この発明の実施の形態1に係るセンサ制御装置の構成を示すブロック図である。また、図2は、この装置によるセンサ制御決定の処理手順図である。図2に示す手順は、観測値の定期的な1観測時刻分の処理の流れであり、観測の度にこの図の全体の処理が1回行われる。以下ではこの手順図に従ってセンサ制御決定の処理内容を説明する。
【0022】
最初に、「1観測時刻分(=1フレーム分)の追尾処理」ステップS1で、センサ群Sから得られる観測値が多目標追尾処理部1に入力され、多目標追尾処理部1は、その観測値を用いて目標追尾処理を行う。この多目標追尾処理部1は2つの部分に分けられ、まず、どの観測値がどの目標航跡に対応するかを示す相関の決定を、相関決定部11が前述した特許文献1に示された複数の仮説を生成して並行処理する方式に従って行う。次に、フィルタ処理部12は、相関決定部11によって決定された相関に基づいて、観測値から雑音を除去して目標の運動諸元を計算する。
【0023】
次に、「センサ制御要否判定」ステップS2で、センサ指示部2のセンサ制御要否判定部21がある特定のセンサの使用頻度を一時的に上げるべきかどうか判定する。この判定は、相関決定部11での相関決定が困難な状況になっているかどうかにより決まり、具体的には、以下の(1)〜(3)の何れか方法で判定する。
【0024】
(1)相関決定部11が生成した相関に関する仮説のうち、第1位の仮説H1と第2位の仮説H2の信頼度の差が閾値thを超える、すなわち、
rel(H1)−rel(H2)≧th
である場合は、相関決定が困難でないとする。反対に、
rel(H1)−rel(H2)<th
である場合は、相関決定が困難であるとする。
【0025】
図3に、第1位の仮説H1と第2位の仮説H2の信頼度の推移の例を示す。(a)、(b)の観測時刻では、二つの仮説の信頼度の差は閾値thを上回るため、相関決定が困難ではないと判定される。(c)の観測時刻では、二つの仮説の信頼度の差が閾値thを下回るため、相関決定が困難であると判定される。
【0026】
(2)相関決定部11では、最終的に維持する仮説数mを事前設定のパラメータとする場合がある。このパラメータが指定されている場合に、第m位の仮説Hmと第m+1位の仮説Hm+1の信頼度の差が閾値を超える、すなわち、
rel(Hm)−rel(Hm+1)≧th
である場合は、相関決定が困難でないとする。反対に、
rel(Hm)−rel(Hm+1)<th
である場合は、相関決定が困難であるとする。
【0027】
図4に、第m位の仮説Hmと第m+1位の仮説Hm+1の信頼度の推移の例を示す。(a)、(b)の観測時刻では、二つの仮説の信頼度の差は閾値thを上回るため相関決定が困難ではないと判定される。(c)の観測時刻では、二つの仮説の信頼度の差が閾値thを下回るため相関決定が困難であると判定される。
【0028】
(3)相関決定部11が生成した仮説のうち、第1位と第2位の仮説の子孫の順位が前観測時刻から入れ替わったら相関決定が困難であるとする。なお、仮説について、参照する航跡の親子関係に従って、親子関係を定義することができる。例えば、ある観測時刻t1における航跡T1を採択する仮説H1があり、その後の観測時刻t2において航跡T1の子孫であるT11を採択する仮説H11がある場合に、仮説H11は仮説H1の子孫である。
【0029】
図5に、ある観測時刻において第1位の仮説H1と第2位の仮説H2があったとし、各々の子孫の信頼度の推移の例を示す。(a)、(b)の観測時刻では、二つの子孫の間で信頼度の順位は入れ替わっていないため、相関決定が困難ではないと判定される。一方(c)の観測時刻では、H2の子孫の信頼度がH1の子孫の信頼度を上回るため、相関決定が困難であると判定される。
【0030】
次に、「センサ制御要否判定」ステップS2において、特定のセンサの使用頻度を一時的に上げるべきと判定された場合は、次の「競合航跡抽出」ステップS3に移行する。特定のセンサの使用頻度を上げる必要がないと判定された場合は、そのまま処理を終了する。
【0031】
「競合航跡抽出」ステップS3において、競合航跡抽出部22は、使用頻度を上げるセンサの観測対象を、相関決定部11が「1観測時刻分(=1フレーム分)の追尾処理」ステップS1の処理の途中に作成した航跡相関行列から抽出する。この航跡相関行列は、ゲート内外判定行列を元にして、仮説毎に1つずつ生成される。図6に、ゲート内外判定行列と第1位と第2位の仮説に対応する航跡相関行列の例を示す。
【0032】
ゲート内外判定行列は、図6に示す様に、その要素が「0」または「1」の行列であり、行が観測値、列が航跡に相当する。この要素が「1」である場合、要素の行の観測値が列の航跡に対応可能である、すなわち、観測値が航跡のゲート内であることを示す。要素が「0」の場合、観測値と航跡は対応付けできない、すなわち、観測値が航跡のゲート外であることを示す。例えば、図6の例では、航跡1と観測値1は対応付けが可能であるが、航跡2と観測値1は対応付けができない。
【0033】
相関決定では、各観測値について対応する航跡を一意に割り当てて航跡相関行列を形成することによって仮説を決定する。この航跡相関行列が全ての行について1つの要素に「1」が設定される。ただし、「1」が設定された要素は、ゲート内外判定行列の同位置の要素が「1」となっていなければならないという制約がある。
【0034】
本ステップでは、第1位の仮説に対応する航跡相関行列と第2位の仮説に対応する航跡相関行列で相関決定が異なる部分により、競合している航跡を抽出する。図6の例では、二つの航跡相関行列は観測値1,3,4,6に対応付けられた航跡は一致している。すなわちこれらの航跡については、相関決定は容易であることを示す。しかし、観測値2,5については航跡3,5との対応が二つの仮説で逆となっている。これは、航跡3,5についての相関決定が困難であることを示している。よって、この例では、競合航跡として3,5が抽出される。
【0035】
ただし、上記は「センサ制御要否判定」ステップS2で判定を(1)または(3)に従って行った場合の抽出方法である。「センサ制御要否判定」ステップS2で判定を(2)に従って行った場合、第m位の仮説と第m+1位の仮説に相当する航跡相関行列を上記と同様に比較して競合航跡を抽出する。
【0036】
次の「誤差楕円の重なり計算」ステップS4では、抽出された航跡群の誤差楕円、すなわち、誤差共分散行列を図7の例に示すセンサの観測方向、すなわち、距離方向と角度方向を軸とする座標に変換する。追尾フィルタの運動モデルで想定する座標上での航跡3の誤差共分散行列をP、航跡5の誤差共分散行列をPとする。距離方向、角度方向を軸とする座標への変換行列を航跡3についてT3r、航跡5についてT5rとすると、誤差共分散行列は以下の計算により変換する。
3LOS=T3r3r
5LOS=T5r5r
【0037】
変換された二つの誤差共分散行列P3LOS、P5LOSの対角成分の平方根が、各方向の推定誤差の標準偏差となる。各航跡の推定位置を中心とする上記の推定誤差の標準偏差分の広がりが誤差範囲となるが、その範囲を追尾パラメータであるゲートサイズ倍した範囲が相関可能範囲となる。これを距離成分、角度成分について、二つの航跡で比較した例を図8に示す。二つの成分について航跡の相関可能範囲の重なりの大きさを比較すると、この例では、距離方向の重なりが大きくなっている。よって、この例では、距離方向の推定誤差を改善する必要があることが分かる。
【0038】
次の「使用センサの決定」ステップS5では、上記によって判定された改善が必要な方向の推定誤差削減に最も寄与の高いセンサをまず選択する。上記の例では、距離の改善が必要となるため、距離観測情報が得られるレーダが選択される。
【0039】
次に、このレーダの航跡に対する観測回数を決定する。航跡3と航跡5の距離の推定誤差の標準偏差をp3R、p5Rとする。また、レーダの距離観測誤差の標準偏差をσとする。レーダの連続n回の観測によって航跡が改善された後の推定誤差の標準偏差は、観測間隔が0に近い場合、以下の様に近似できる。
【0040】
【数1】

【0041】
この改善によって、相関可能範囲の重なりは縮小される。この縮小によって、図6の様に相関可能範囲の重なりが0となるための最小のnを、レーダでの観測回数と決定する。図9は。誤差楕円の重なりの例を示し、左が観測前、右が観測後を示す。
【0042】
以上のように、この実施の形態1で説明した発明によれば、相関決定部11が生成した仮説に応じて相関決定が容易となる様なセンサ制御を決定するため、近接多目標を追尾する場合や不要信号環境下で追尾する場合に、必要最小限なセンサ資源で効率的で追尾性能を向上させることができる。
【0043】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に関わる多目標追尾装置について図面を参照しながら説明する。この実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、レーダと光学センサの2つのセンサによる観測を想定する。この二つのセンサは同一位置に配置されているとする。また、通常はこの二つのセンサをあらかじめ決められた一定時間間隔をおいて観測し、得られた観測値を用いて追尾処理を行う。ただし、追尾状況に応じて、具体的には相関決定が困難となった時点でセンサ制御を行い、特定の目標および領域に一時的にセンサ資源を重点的に割り当てる。
【0044】
以下はセンサ制御決定方法である。図10は、この発明の実施の形態2に係るセンサ制御装置の構成を示すブロック図である。また、図11は、この装置によるセンサ制御決定の処理手順図である。図11に示す手順は、観測値の1観測時刻分の処理の流れであり、観測の度にこの図の全体の処理が1回行われる。以下ではこの手順図に従ってセンサ制御決定の処理内容を説明する。
【0045】
最初に、「1観測時刻分の追尾処理」ステップS1において、センサ群Sから得られる観測値が多目標追尾処理部1に入力され、多目標追尾処理部1は、その観測値を用いて目標追尾処理を行う。この処理は2つの部分に分けられ、まず、どの観測値がどの目標航跡に対応するかを示す相関の決定を、相関決定部11が前述した特許文献1に示された複数の仮説を生成して並行処理する方式に従って行う。次に、フィルタ処理部12が相関決定部11によって決定された相関に基づいて、観測値から雑音を除去して目標の運動諸元を計算する。
【0046】
次に、「誤差楕円の重なり度合計算」ステップS6において、誤差楕円重なり度合計算部25は、同一仮説内に含まれる可能性のある任意の航跡の組合せについてその互いの誤差楕円を、図7の例に示すセンサの観測方向、すなわち、距離方向と角度方向を軸とする座標に変換して比較する。ここで、任意の航跡の組合せが同一仮説内に含まれる可能性があるかについては、過去に平滑処理に用いた観測値で共通のものがあるか否かで判断する。すなわち、共通の観測値があれば同一仮説内に含まれる可能性はなく、共通の観測値がなければ同一仮説内に含まれる可能性がある。
【0047】
この可能性がある航跡3,5の組合せについて誤差楕円の重なり度合を計算する方法を以下で述べる。追尾フィルタの運動モデルで想定する座標上での航跡3の誤差共分散行列をP、航跡5の誤差共分散行列をPとする。距離方向、角度方向を軸とする座標への変換行列を航跡3についてT3r、航跡5についてT5rとすると、誤差共分散行列は以下の計算により変換する。
3LOS=T3r3r
5LOS=T5r5r
【0048】
変換された二つの誤差共分散行列P3LOS、P5LOSの対角成分の平方根が、各方向の推定誤差の標準偏差となる。各航跡の推定位置を中心とする上記の推定誤差の標準偏差分の広がりが誤差範囲となるが、その範囲を追尾パラメータであるゲートサイズ倍した範囲が相関可能範囲となる。これを距離成分、角度成分について、二つの航跡で比較した例を図8に示す。二つの成分について航跡の相関可能範囲の重なりの大きさの積をこの組合せにおける重なり度合とする。
【0049】
「競合航跡抽出」ステップS7では、競合航跡抽出部26が「誤差楕円の重なり度合計算」ステップにおいて、計算された誤差楕円の重なり度合のうち、あらかじめ設定されたパラメータである閾値を超えるものを抽出する。上記で閾値を超える航跡の組合せが存在する場合は、その組合せを競合航跡として、次の「使用センサの決定」ステップS8に移行する。競合航跡がない場合は、そのまま処理を終了する。
【0050】
次の「使用センサの決定」ステップS8では、使用センサ決定部27が上記によって判定された競合航跡について、改善が必要な方向の推定誤差削減に最も寄与の高いセンサをまず選択する。上記の例で航跡3,5の組合せが競合航跡として抽出された場合、距離方向の改善が必要となるため、距離観測情報が得られるレーダが選択される。
【0051】
次に、このレーダの、航跡に対する観測回数を決定する。航跡3と航跡5の距離の推定誤差の標準偏差をp3R、p5Rとする。また、レーダの距離観測誤差の標準偏差をσとする。レーダの連続n回の観測によって航跡が改善された後の推定誤差の標準偏差は、観測間隔が0に近い場合、以下の様に近似できる。
【0052】
【数2】

【0053】
この改善によって、相関可能範囲の重なりは縮小される。この縮小によって図6の様に相関可能範囲の重なりが0となるための最小のnを、レーダでの観測回数と決定する。
【0054】
以上のように、この実施の形態2で説明した発明によれば、フィルタ処理部が計算した誤差楕円の互いの重なり具合から相関決定が困難になりそうな航跡群を抽出してセンサ制御を決定するため、過去に観測値の競合がなくても将来競合の可能性のある航跡群の競合が防止できる。
【符号の説明】
【0055】
S センサ群、1 多目標追尾処理部、2 センサ指示部、11 相関決定部、12 フィルタ処理部、21 センサ制御要否判定部、22 競合航跡抽出部、23 誤差楕円重なり計算部、24 使用センサ決定部、25 誤差楕円重なり度合計算部、26 競合航跡抽出部、27 使用センサ決定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数センサから得られる観測値を追尾処理して目標航跡を生成する際、観測に使用するセンサを決定するセンサ制御装置であって、
複数の相関仮説を生成しながら目標航跡と観測値の相関を決定する相関決定部と、
前記相関決定部により対応付けられた観測値を用いて各航跡の運動諸元を計算するフィルタ処理部と、
前記相関決定部の相関決定状況からセンサ制御を実施するべきか否か判定するセンサ制御要否判定部と、
前記センサ制御要否判定部によりセンサ制御を実施するべきと判定された場合に、前記相関決定部が生成した航跡相関行列から競合を解消すべき航跡群を抽出する競合航跡抽出部と、
競合を解消すべき航跡群の誤差共分散行列よりセンサの観測方向の誤差を航跡毎に算出する誤差楕円重なり計算部と、
前記誤差楕円重なり計算部により算出されるセンサの観測方向の誤差に基づいてセンサの観測方向の重なりを解消するセンサを選択すると共にセンサ使用の回数を決定する使用センサ決定部と
を備えるセンサ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ制御装置において、
前記センサ制御要否判定部は、相関仮説の第1位と第2位の信頼度の差があらかじめ設定されたパラメータである閾値以下の場合にセンサ制御が必要と判断する
ことを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のセンサ制御装置において、
前記センサ制御要否判定部は、過去一定観測期間内に起こった相関仮説の第1位と第2位の仮説の入れ替わりの回数があらかじめ設定されたパラメータである閾値以上の場合にセンサ制御が必要と判断する
ことを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のセンサ制御装置において、
前記センサ制御要否判定部は、相関仮説の維持数をmとした場合、第m位と第m+1位の仮説の信頼度の差があらかじめ設定されたパラメータである閾値以下の場合にセンサ制御が必要と判断する
ことを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項5】
複数センサから得られる観測値を追尾処理して目標航跡を生成する際、観測に使用するセンサを決定するセンサ制御装置であって、
複数の創刊仮説を生成しながら目標航跡と観測値の相関を決定する相関決定部と、
前記相関決定部によって対応付けられた観測値を用いて各航跡の運動諸元を計算するフィルタ処理部と、
同一仮説を構成する可能性のある航跡の組合せについて誤差楕円の重なり度合を計算する誤差楕円重なり度合計算部と、
誤差楕円の重なり度合とあらかじめ設定されたパラメータである閾値を比べ競合およびその可能性を解消すべき航跡群を抽出する競合航跡抽出部と、
競合航跡群のセンサの観測方向の重なりを解消するセンサを選択すると共にセンサ使用の回数を決定する使用センサ決定部と
を備えるセンサ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−190869(P2010−190869A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38401(P2009−38401)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】