説明

センサ情報の統合方法と装置

【課題】誤差と計算量を増大させずに複数のセンサ情報を統合することができる方法と装置を提供する。
【解決手段】新たに受信したセンサ情報Ynを、観測時刻の順に記録し、各センサ情報に対し、第1条件を満たすか否かを判定する(S3)。第1条件は、「そのセンサ情報の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報がすべてのセンサから受信されていること」である。第1条件を満たす場合に、第1条件を満たす各センサ情報6を観測時刻順に用いて、内部状態を予測し、第1推定値X1を予測した内部状態に更新して記憶し、第2推定値X2を更新した第1推定値X1で上書きし、更新に用いたセンサ情報を削除する(S4,S5,S7,S8)。第1条件を満たさない場合に、新たに受信したセンサ情報Ynを用いて、内部状態を予測し、第2推定値X2を予測した内部状態に更新して記憶する(S9)第2推定値X2を対象物の内部状態として出力する(S10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット、計測器など複数のセンサを使う装置におけるセンサ情報の統合方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物をロボットでハンドリングする自動装置や、センサで周囲を計測しながら移動する移動ロボットなどでは、対象物やロボットの位置や速度などを計測する計測手段を複数備えていることが多い。例えば移動ロボットの場合、以下の複数のセンサを搭載していることが一般的である。
(a)移動ロボットの車輪の回転量を計測するエンコーダと、(b)ロボットの周囲にあるランドマークの位置を計測するカメラ。
【0003】
一般的に、複数のセンサ情報を統合する手段として、カルマンフィルタ、情報フィルタ、パーティクルフィルタなどのベイズフィルタが挙げられる。
ベイズフィルタを使った複数センサ情報の統合方法は、以下のようになる。
(1)新たなセンサ情報(どのセンサの結果でも良い)が得られたら、観測時刻における内部状態を予測する予測処理。
(2)予測した内部状態をセンサ情報と比較し修正する更新処理。
ここで内部状態とは、計測対象に関する様々な情報を事前に定義したものである。例えば、ロボットの位置を計測したい場合、ロボットの位置、姿勢、速度、角速度などを内部状態として定義する。
【0004】
上述の処理(1)(2)によって修正された内部状態は、観測時刻時の値となる。したがって、センサ情報がY1,Y2,Y3・・・と得られた場合、内部状態の時刻も、Y1の時刻,Y2の時刻,Y3の時刻・・・のように変化する。
【0005】
センサが複数ある場合、センサの処理時間やセンサとの通信遅延時間が異なる影響でセンサ情報が観測時刻の順番通りに得られない。例えば、情報を統合処理する装置上で、センサ情報がY1,Y2,Y3・・・と得られたとき、Y3の観測時刻がY2の観測時刻よりも古い場合がある。
ベイズフィルタの予測処理は、予測時間幅(Y2の時刻−Y1の時刻、・・・)に応じて推定の確度が減少する(推定誤差が増える)。したがって、センサ情報を観測時刻の順番通りに処理しないと、予測時間幅が長くなるため、内部状態の推定誤差が増加してしまう。
ベイズフィルタは、前回のステップでの推定結果を、次のステップの推定処理に使う。したがって、推定誤差が増加すると、以降の推定にも影響する。
【0006】
上述した問題を解決するために、種々の手段が既に提案されている(例えば、非特許文献1,2、特許文献1)。
【0007】
非特許文献1の方法は、センサ情報が得られるたびに内部状態を逐次更新する。前回処理したセンサ情報よりも古い時刻のセンサ情報(Y)が得られたとき、Yの時刻の内部状態を予測し修正するものである。
特許文献1の手段は、センサごとに計測結果を蓄積し、遅れの大きいセンサについて計測データの履歴から以降の計測値を予測する。予測値と遅れの小さいセンサ情報を統合するものである。
非特許文献2の手段は、一定時間分のセンサ情報を観測時刻順に並べ替えて蓄積し、ステップごとに蓄積したデータを全て処理するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】前山祥一,大矢晃久,油田信一,「移動ロボットのための遡及的現在位置推定法 処理時間を要する外界センサデータの利用」 日本ロボット学会誌,vol.15,No.7,pp.1075−1081,1997
【非特許文献2】鏡 慎吾,石川正俊,「通信遅延を考慮したセンサ選択手法」 電子情報通信学会論文誌 Vol.J88−A,No.5,pp.577−587,2005
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3367461号公報、「移動体姿勢角検出装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1の方法は、観測時刻の順番通りに推定処理しないため、統合結果の誤差が大きくなる。この文献では、古い時刻のセンサ情報を最新時刻の推定結果に統合する方法を示している。しかしこの統合方法は、この文献が対象とする移動ロボットに対してのみ有効な方法である。また、統合の際、近似処理をするため、誤差が大きくなる。
【0011】
特許文献1の手段は、遅延の大きいセンサが分かっていることが前提となる。したがって、各センサの遅延時間が不確定な場合に適用できない。
【0012】
非特許文献2の方法は、蓄積する時間(許容時間)をあらかじめ設定する必要があり、許容時間を超える遅延のあるセンサ情報は推定に反映されない。また、蓄積したデータを毎回全て処理するため、許容時間に応じて、計算量が増大する。そのため、許容時間に制約がある。
【0013】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、センサが複数あり、各センサの遅延時間が不確定であり、各センサからのセンサ情報が観測時刻の順番通りに得られない場合であっても、誤差と計算量を増大させずに複数のセンサ情報を統合することができる方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、複数のセンサからセンサ情報をランダムに受信し、複数のセンサ情報を統合して対象物の内部状態を予測し出力するセンサ情報の統合方法であって、
(A)データ記憶部により、新たに受信したセンサ情報を、観測時刻の順に記録し、
(B)制御部により、データ記憶部に記録された各センサ情報に対し、第1条件を満たすか否かを判定し、
第1条件:そのセンサ情報の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報がすべてのセンサから受信されていること、
(C)第1条件を満たす場合に、第1条件を満たす各センサ情報を観測時刻順に用いて、予測部により内部状態を予測し、第1推定値記憶部により第1推定値を予測した内部状態に更新して記憶し、第2推定値記憶部により第2推定値を更新した第1推定値で上書きし、更新に用いたセンサ情報を削除し、
(D)第1条件を満たさない場合に、新たに受信したセンサ情報を用いて、予測部により内部状態を予測し、第2推定値記憶部により第2推定値を予測した内部状態に更新して記憶し、
(E)第2推定値記憶部の第2推定値を対象物の内部状態として出力する、ことを特徴とするセンサ情報の統合方法が提供される。
【0015】
また本発明によれば、複数のセンサからセンサ情報をランダムに受信し、複数のセンサ情報を統合して対象物の内部状態を予測し出力するセンサ情報の統合装置であって、
受信したセンサ情報をその観測時刻の順に記録するデータ記憶部と、
センサ情報から対象物の内部状態を予測する予測部と、
内部状態を更新する更新部と、
内部状態の第1推定値を記憶する第1推定値記憶部と、
内部状態の第2推定値を記憶する第2推定値記憶部と、
データ記憶部、予測部、更新部、第1推定値記憶部及び第2推定値記憶部を制御する制御部とを備え、
(A)新たに受信したセンサ情報を、観測時刻の順にデータ記憶部に記録し、
(B)データ記憶部に記録された各センサ情報に対し、第1条件を満たすか否かを判定し、
第1条件:そのセンサ情報の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報がすべてのセンサから受信されていること、
(C)第1条件を満たす場合に、第1条件を満たす各センサ情報を観測時刻順に用いて、内部状態を予測し、第1推定値を予測した内部状態に更新して第1推定値記憶部に記憶し、第2推定値を更新した第1推定値で上書きし、更新に用いたセンサ情報を削除し、
(D)第1条件を満たさない場合に、新たに受信したセンサ情報を用いて、内部状態を予測し、第2推定値を予測した内部状態に更新して第2推定値記憶部に記憶し、
(E)第2推定値記憶部の第2推定値を対象物の内部状態として出力する、ことを特徴とするセンサ情報の統合装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明の方法と装置によれば、第1条件を満たす場合には、そのセンサ情報の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報がすべてのセンサから受信されているので、非特許文献2の手段と同様に、第1推定値記憶部の第1推定値は観測時刻の順にセンサ情報を処理した推定結果となる。したがって、第2推定値を第1推定値で上書きして、対象物の内部状態として出力することにより、高い精度で複数のセンサ情報を統合することができる。
【0017】
第1条件を満たさない場合には、新たに受信したセンサ情報を用いて内部状態を予測し、第2推定値を予測した内部状態に更新して、対象物の内部状態として出力することにより、最新のセンサ情報に基づき複数のセンサ情報を統合することができる。
この場合は、時刻の古いセンサ情報を処理する場合があるため、一時的に精度が低くなることがあるが、この誤差は、第1条件を満たしたときに、精度の高い第1推定値で上書きされることで全て解消され、以降の推定に影響しない。したがって、第1条件を満たさない場合でも、第2推定値の推定結果は、非特許文献1の方法よりも精度が高くなる。
【0018】
また、蓄積したデータを毎回全て処理するわけではなく、第1条件を満たしたタイミングでのみ処理するため、非特許文献2よりも計算量が少ない。
また、第1条件を満たす場合に処理することで、事前に許容時間を設定することなく、各センサの遅延時間が不確定でも、必ず観測時刻順にセンサ情報を処理できる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による統合装置を備えたロボットシステムの構成図である。
【図2】本発明による統合装置を有する計測装置の構成図である。
【図3】本発明による統合装置の構成図である。
【図4】本発明による統合方法を示すフローチャートである。
【図5】3つのセンサによる計測状態を示す説明図である。
【図6】3つのセンサから統合装置への入力順序を示す説明図である。
【図7】3つのセンサで計測した場合の、データ記憶部のセンサ情報の推移を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明による統合装置を備えたロボットシステムの構成図である。
この図において、1は移動ロボット、2は移動ロボット1に搭載されたロボット上カメラ、3は外部カメラである。この例では、移動ロボット1の位置、姿勢、速度、角速度などを、ロボット上カメラ2、外部カメラ3又はレーザレーダを使って計測するようになっている。
以下、ロボット上カメラ2、外部カメラ3、レーザレーダ、およびその他の計測手段を総称して「センサ」と呼び、センサで計測された情報を「センサ情報」と呼ぶ。
【0022】
図2は、本発明による統合装置を有する計測装置の構成図である。
この図において、本発明の統合装置10は状態推定装置であり、複数のセンサ5からセンサ情報6が入力され、内部状態7の推定値を出力するようになっている。
複数のセンサ5によって得られたセンサ情報6は、逐次、状態推定装置10に入力される。センサ情報6は、センサ5の計測値や、観測した時刻(観測時刻)、センサデバイスIDなどの情報をまとめたデータである。
状態推定装置10は、入力されたセンサ情報6に基づいて、対象物1(図1の例では移動ロボット1)の位置、姿勢、速度、角速度などの内部状態7を推定する。
この場合、計測のタイミング、計測処理、伝送方法がセンサ5ごとに異なるため、状態推定装置10に入力されるセンサ情報6は、観測時刻の順ではない。
【0023】
図3は、本発明による統合装置の構成図である。
本発明による統合装置10は状態推定装置であり、データ記憶部12、予測部14、更新部16、第1推定値記憶部17、第2推定値記憶部18、及び制御部20を備える。
【0024】
本発明による統合装置10は、複数のセンサ5からセンサ情報6をランダムに受信し、複数のセンサ情報6を統合して対象物1の内部状態7を予測し出力する装置である。
【0025】
データ記憶部12は、受信したセンサ情報6をその観測時刻の順に記録する。
予測部14は、センサ情報6から対象物1の内部状態7を予測する。
更新部16は、内部状態7を更新する。
第1推定値記憶部17は、内部状態7の第1推定値X1を記憶する。
第2推定値記憶部18は、内部状態7の第2推定値X2を記憶する。
制御部20は、データ記憶部12、予測部14、更新部16、第1推定値記憶部17及び第2推定値記憶部18を制御する。
【0026】
第1推定値X1と第2推定値X2は、センサ情報6に基づいて推定された、対象物1の位置、姿勢、速度、角速度などである。内部状態7の内訳は、統合結果を使う目的に合わせて適宜設定する。
予測部14と更新部16には、従来技術で挙げたベイズフィルタの予測処理と更新処理が実装される。
データ記憶部12は、得られたセンサ情報6を一時的に蓄積する機能を持つ。以下、蓄積されたセンサ情報6のうち、観測時刻の最も古いものをYb、最も新しいものをYtとする。
【0027】
図4は、本発明による統合方法を示すフローチャートである。この図に示すように本発明の統合方法は、S1〜S10の各ステップ(工程)からなる。
【0028】
新たなセンサ情報Ynが入力されたとき、S1において、データ記憶部12の中で観測時刻が最も古いセンサ情報Ybと新たなセンサ情報Ynを比較し、新たなセンサ情報Ynの観測時刻の方が古い場合(NO)、推定処理を行わず、S10で第2推定値記憶部18に記憶された第2推定値X2をそのまま出力する。
なおこの手順が発生するのは、後述するS3において第2条件又は第3条件が満たされる場合のみである。
【0029】
S1において、新たなセンサ情報Ynの観測時刻が最も古いセンサ情報Ybよりも新しい場合(YES)、S2において新たなセンサ情報Ynをデータ記憶部12に観測時刻の順に記録する。
なお図3に示したように、新たなセンサ情報Ynの観測時刻が最も新しいとは限らない。
【0030】
S3において、データ記憶部12から観測時刻の古い順にセンサ情報6を取り出し、以下の第1条件、第2条件、第3条件のいずれかを満たすか否かを判定する。
第1条件:そのセンサ情報6の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報6がすべてのセンサ5から受信されていること。
第2条件:そのセンサ情報6の観測時刻が、現在時刻に対して予め設定した設定時間以上古い時刻であること。
第3条件:そのセンサ情報6の観測時刻よりも新しいセンサ情報6が、予め設定した設定数以上記録されていること。
【0031】
第1条件において、「すべてのセンサ5から受信されている」ことを判定するために、使用するセンサ5を登録したセンサリストを用意し、稼働中にセンサリストを変更してもよい。例えば、計測開始時は、A,B,C,Dの4つのセンサ5を使い、途中からA,B,Cの3つのみに変更してもよい。変更後は,A〜Cのセンサ情報が受信されていれば第1条件を満たす。
また、センサリストの異なる複数の統合装置を使用してもよい。例えば、システム全体ではA,B,C,Dの4つのセンサ5があるが、統合装置1はA,B,Cのみを判定し、統合装置2はA,B,C,Dで判定するようにしてもよい。
【0032】
最も古いセンサ情報Ybが第1条件を満たす場合、最も古いセンサ情報Ybよりも観測時刻の古いセンサ情報が今後入力されることはない。したがって、第1条件を満たす最も古いセンサ情報Ybのみ処理すれば、内部状態7の時刻を、過去から未来へ順方向に進めながら予測処理と更新処理ができる。
【0033】
第1条件のみでは、センサ5の処理時間や通信遅延が大きいと、蓄積されるセンサ情報6が増えて、記憶領域が不足する場合がある。そこで、第2条件と第3条件を適宜組み合わせる。
例えば、第1条件と第2条件のみとの組み合わせ、又は第1条件と第3条件のみとの組み合わせであってもよい。
第2条件と第3条件を満たす最も古いセンサ情報Ybを処理した場合、これ以降に最も古いセンサ情報Ybより古い時刻のセンサ情報が入力されても、推定処理に使われない(S1→S10参照)。
【0034】
しかし、対象物1の位置と姿勢が時々刻々と変化する場合などでは、新しいセンサ情報6の方が重要である。したがって、第2条件のように、一定時間以上古い時刻のセンサ情報は推定に使わなくても問題にならないことが多い。第2条件の設定時間は、正常状態においてすべてのセンサ5から受信される時間間隔より長く、かつ遅れが許容できる範囲で設定するのがよい。
【0035】
また、第3条件を満たす最も古いセンサ情報Ybを処理することで、蓄積されているセンサ情報6の数が必ず一定数以下になるので、データ記憶部12の容量を超えないことを保証できる。第3条件の設定数は、データ記憶部12の容量を超えない範囲で設定するのがよい。
【0036】
S3において、処理する(YES)と判定した場合、S4において、最も古いセンサ情報Ybを使って、内部状態7の第1推定値X1について、次のように推定処理する。
まず、現在記録されている第1推定値X1を使って、最も古いセンサ情報Ybの観測時刻における内部状態7を予測する。次に、最も古いセンサ情報Ybの計測値と予測した内部状態7を比較して内部状態7を更新する。更新後の内部状態7を新たな第1推定値X1とする。
【0037】
推定処理(予測処理、更新処理)には、従来技術であるカルマンフィルタ、情報フィルタ、パーティクルフィルタなどのアルゴリズムを用いる。
【0038】
S5において、S4で処理した最も古いセンサ情報Ybをデータ記憶部12から削除する。S3〜S5を繰り返して、処理条件を満たすセンサ情報6を全て推定処理する。
【0039】
S3〜S5で第1推定値X1を更新しなかった場合(S6でNO)は、S9において新たなセンサ情報Ynを使って、第2推定値X2に対して推定処理し、S10で第2推定値X2を出力する。
【0040】
S3〜S5で第1推定値X1を更新した場合(S6でYES)は、S7で第2推定値X2を第1推定値X1で上書きし、S8で残りのセンサ情報6を全て使って、第2推定値X2について推定処理し、S10で第2推定値X2を出力する。
【0041】
以下、上記の動作フローの第1条件によって、センサ情報を蓄積し処理する例を示す。
【0042】
図5は、3つのセンサA,B,Cによる計測状態を示す説明図であり、図6は、3つのセンサA,B,Cから統合装置10への入力順序を示す説明図である。
【0043】
図5において、3つのセンサA,B,Cはそれぞれ、センサ情報A1,A2,A3,A4、B1,B2,B3、C1,C2を順次出力する。この時、3つのセンサA,B,Cの処理時間、通信遅延などによって、状態推定装置10に入力されるセンサ情報6の順番は図6のようになる。
図6におけるステップ1〜5は、状態推定装置10における処理の中間段階を示している。
【0044】
図7は、3つのセンサA,B,Cで計測した場合の、データ記憶部12のセンサ情報6の推移を示す説明図である。
図6の例において、一連の処理によって、データ記憶部12内のセンサ情報6は、図7のように推移する。
【0045】
ステップ1までは、センサCの情報がないため、第1推定値X1は更新されない。その間、状態推定装置10は、A1→B1→A2の順にセンサ情報6を使って、第2推定値X2を推定処理する。
【0046】
ステップ2の時点で、センサ情報A1,C1は第1条件を満たす。したがって、第1推定値X1をセンサ情報A1→C1を使って更新し、センサ情報A1,C1は削除される。第2推定値X2は第1推定値X1で上書きされ、残りのデータを全て使って推定処理される。したがって、第2推定値X2は、センサ情報A1→C1→B1→A2と観測時刻順に処理された結果となる。
この結果、データ記憶部12内のセンサ情報6は、センサ情報B1,A2のみとなる。
【0047】
ステップ3までは、第1条件を満たすデータはなく、新たなセンサ情報B2,B3のみを用いて第2推定値X2のみを逐次処理する。この場合、センサ情報B1,A2を処理しない分、非特許文献2の方法より計算量が少ない。
【0048】
ステップ4でも、新たなセンサ情報A3のみを用いて第2推定値X2のみを処理する。この時新たに加わったセンサ情報A3は、センサ情報B3よりも古い時刻なので、第2推定値X2の推定精度は一時的に低下する。
【0049】
ステップ5にて、センサ情報B1,A2,B2,A3が第1条件を満たすため、第1推定値X1を更新する。第2推定値X2の最終出力は、センサ情報をA1→C1→B1→A2→B2→A3→C2→B3のように観測時刻順に処理した結果となる。この結果、ステップ4で発生した誤差が解消される。
【0050】
データ記憶部12にセンサ情報Ynを記録する際、観測時刻が同一のセンサ情報6がある場合は、計測値の統計値をとって、1つのセンサ情報6に統合することができる。例えば、計測値の平均値をとる、或いは、非特許文献2の方法のように情報フィルタによって統合する。こうすることで、データ記憶部12に記録するセンサ情報6を減らすことができ、消費メモリや計算量を減らすことができる。
【0051】
上述した本発明の方法と装置によれば、第1条件を満たす場合には、そのセンサ情報6の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報6がすべてのセンサから受信されているので、非特許文献2の手段と同様に、第1推定値記憶部17の第1推定値X1は観測時刻の順にセンサ情報6を処理した推定結果となる。したがって、第2推定値X2を第1推定値X1で上書きして、対象物1の内部状態7として出力することにより、高い精度で複数のセンサ情報6を統合することができる。
【0052】
第1条件を満たさない場合には、新たに受信したセンサ情報6を用いて内部状態7を予測し、第2推定値X2を予測した内部状態7に更新して、対象物1の内部状態7として出力することにより、最新のセンサ情報6に基づき複数のセンサ情報6を統合することができる。
この場合は、時刻の古いセンサ情報6を処理する場合があるため、一時的に精度が低くなることがあるが、この誤差は、第1条件を満たしたときに、精度の高い第1推定値X1で上書きされることで全て解消され、以降の推定に影響しない。したがって、第1条件を満たさない場合でも、第2推定値X2の推定結果は、非特許文献1の方法よりも精度が高くなる。
【0053】
また、蓄積したデータを毎回全て処理するわけではなく、第1条件を満たしたタイミングでのみ処理するため、非特許文献2よりも計算量が少ない。
また、第1条件を満たす場合に処理することで、事前に許容時間を設定することなく、各センサ5の遅延時間が不確定でも、必ず観測時刻順にセンサ情報6を処理できる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0055】
1 移動ロボット(対象物)、2 ロボット上カメラ、3 外部カメラ、
5 センサ、6 センサ情報、7 内部状態、
10 統合装置(状態推定装置)、
12 データ記憶部、14 予測部、16 更新部、
17 第1推定値記憶部、18 第2推定値記憶部、20 制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサからセンサ情報をランダムに受信し、複数のセンサ情報を統合して対象物の内部状態を予測し出力するセンサ情報の統合方法であって、
(A)データ記憶部により、新たに受信したセンサ情報を、観測時刻の順に記録し、
(B)制御部により、データ記憶部に記録された各センサ情報に対し、第1条件を満たすか否かを判定し、
第1条件:そのセンサ情報の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報がすべてのセンサから受信されていること、
(C)第1条件を満たす場合に、第1条件を満たす各センサ情報を観測時刻順に用いて、予測部により内部状態を予測し、第1推定値記憶部により第1推定値を予測した内部状態に更新して記憶し、第2推定値記憶部により第2推定値を更新した第1推定値で上書きし、更新に用いたセンサ情報を削除し、
(D)第1条件を満たさない場合に、新たに受信したセンサ情報を用いて、予測部により内部状態を予測し、第2推定値記憶部により第2推定値を予測した内部状態に更新して記憶し、
(E)第2推定値記憶部の第2推定値を対象物の内部状態として出力する、ことを特徴とするセンサ情報の統合方法。
【請求項2】
第2条件:そのセンサ情報の観測時刻が、現在時刻に対して遅れが許容できる設定時間以上古い時刻であること、又は
第3条件:そのセンサ情報の観測時刻よりも新しいセンサ情報が、データ記憶部の容量を超えない設定数以上記録されていること、が満たされる場合に第1条件と同様に処理する、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ情報の統合方法。
【請求項3】
使用するセンサを登録した複数のセンサリストを用意し、稼働中にセンサリストを変更し、前記第1条件を満たすか否かを判定する、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ情報の統合方法。
【請求項4】
複数のセンサからセンサ情報をランダムに受信し、複数のセンサ情報を統合して対象物の内部状態を予測し出力するセンサ情報の統合装置であって、
受信したセンサ情報をその観測時刻の順に記録するデータ記憶部と、
センサ情報から対象物の内部状態を予測する予測部と、
内部状態を更新する更新部と、
内部状態の第1推定値を記憶する第1推定値記憶部と、
内部状態の第2推定値を記憶する第2推定値記憶部と、
データ記憶部、予測部、更新部、第1推定値記憶部及び第2推定値記憶部を制御する制御部とを備え、
(A)新たに受信したセンサ情報を、観測時刻の順にデータ記憶部に記録し、
(B)データ記憶部に記録された各センサ情報に対し、第1条件を満たすか否かを判定し、
第1条件:そのセンサ情報の観測時刻と同じかそれよりも新しいセンサ情報がすべてのセンサから受信されていること、
(C)第1条件を満たす場合に、第1条件を満たす各センサ情報を観測時刻順に用いて、内部状態を予測し、第1推定値を予測した内部状態に更新して第1推定値記憶部に記憶し、第2推定値を更新した第1推定値で上書きし、更新に用いたセンサ情報を削除し、
(D)第1条件を満たさない場合に、新たに受信したセンサ情報を用いて、内部状態を予測し、第2推定値を予測した内部状態に更新して第2推定値記憶部に記憶し、
(E)第2推定値記憶部の第2推定値を対象物の内部状態として出力する、ことを特徴とするセンサ情報の統合装置。
【請求項5】
使用するセンサを登録したセンサリストをデータ記憶部に記録する複数の統合装置を使用し、各統合装置により対応するセンサリストに登録されたセンサから前記第1条件を満たすか否かを判定する、ことを特徴とする請求項4に記載のセンサ情報の統合装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−50852(P2013−50852A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188480(P2011−188480)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】