説明

タウ機能不全を伴う神経障害を処置するための新規な治療ターゲットとしてのFKBP52−タウ相互作用

本発明は、全般に、タウ機能不全を伴う神経障害(アルツハイマー病が含まれる)における神経保護および修復に関する。本発明は、タンパク質FKBP52とタウとの間の直接相互作用を記載し、包含する。さらに具体的には、本発明は、以下のステップを含む、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための薬物をスクリーニングするための方法に関する:a)候補化合物がタウポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの間の相互作用をモデュレーションする能力を決定すること、およびb)該相互作用をモデュレーションする候補化合物を正に選択すること。本発明は、最終的には、タウ機能不全を伴う神経障害の診断アッセイ、予後アッセイおよびモニタリングアッセイに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、全般に、タウ機能不全を伴う神経障害(アルツハイマー病が含まれる)における神経保護および修復に関する。本発明は、タンパク質FKBP52とタウとの間の直接相互作用を記載する。本発明は、病原性タウの有害作用をモデュレーションするための、FKBP52−タウ相互作用に作用する分子についてのスクリーニング法に関する。本発明は、最終的には、タウ機能不全を伴う神経障害の治療的診断アッセイ、予後アッセイ、およびモニタリングアッセイに関する。
【0002】
発明の背景:
タウタンパク質は、中枢神経系、主にニューロンに広く発現され、そこで微小管動態、軸索輸送および神経突起伸長の調節に重要な役割を果たす主要な微小管関連タンパク質(MAP)である。タンパク質タウは、17番染色体上に局在する独自の遺伝子の一次転写物のエクソン2、3および10の選択的スプライシングによって生成する6種の異なるアイソフォームで成体ヒト脳に存在する。それらの配列長は、352から441個のアミノ酸まで変動する。ますます増える証拠から、「凝集した」タウ(ネイティブな未フォールディングのタンパク質)の異常集合が、アルツハイマー病、ピック病、脳皮質基底核変性症、軽度認知機能不全、進行性核上性麻痺、および17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症が含まれる、タウオパチーまたはタウ機能不全を伴う神経障害とまとめて呼ばれる一連のヒト認知疾患の特徴であることが示唆される。過剰リン酸化、突然変異、短縮化および「濃縮体(tangle)」への凝集などのタウの異常が、病原過程の要因でありうる。今日まで、神経変性疾患の誘導にタウ改変が果たす役割は、完全には理解されていないことから、タウの構造/機能をコントロールする分子メカニズムを解釈することは、大いなる関心対象であり、これらの疾患のための新規な治療アプローチを見出すことを助ける可能性がある。
【0003】
本発明は、タウタンパク質(全てで6種のアイソフォーム)がイムノフィリンFKBP52(FK506−結合タンパク質)と特異的および直接的に結合するという発見に基づく。FKBPは、強力な免疫抑制薬FK506およびラパマイシンに対する、遍在性発現される細胞内レセプターファミリーであることから、イムノフィリンとして知られている大きな群のタンパク質の中に位置づけられる。これらのタンパク質は、広い分布を示し、特に神経系に豊富に存在することから、それらの免疫調節作用とは異なる、新規で予想外の機能が示唆される。加えて、FK506の神経保護作用が報告されている。これらの後者の観察は、FKBPタンパク質ファミリーについての新しい見通しならびに神経系の病変および疾患を処置するための新しい治療アッセイを考案するための要因としてのFK506およびその非免疫抑制性誘導体分子についての特別な関心を提供した。
【0004】
ステロイドレセプター結合型として最初に同定およびクローニングされたFKBP52(Lebeau et al., 1992)は、4個の個別で機能的なドメインを含むモジュラー構成を示す(Callebaut et al., 1992)。タンパク質のN末端部分に局在するFKBP52のFK506結合部位(ドメインI)(aa1〜149)は、全てのイムノフィリンタンパク質ファミリーの特徴であるペプチジルプロリル−イソメラーゼ(PPIase)活性を含有する(Chambraud et al., 1993)。ドメインII(aa149〜267)は、ドメインIと構造相同性を共有しが、PPIase活性は残余的で、それはFK506と結合しない(14,15);ドメインIIの注目すべき局面は、コンセンサスATP−GTP結合配列である(16)。ドメインIIIおよびIVにわたるC末端ドメインには、推定上のカルモジュリン結合部位が含まれ(Massol et al., 1992)、C末端ドメインは、その3個のテトラトリコペプチドリピート(TPR)(aa273〜389)によってそのタンパク質とHSP90との相互作用を仲介する(Radanyi et al., 1994)。HSP90は、ステロイドレセプター複合体の構成成分でもある(Catelli et al., 1980, Tai et al., 1986; Renoir et al., 1990)。加えて、HSP90とのFKBP52の結合活性は、特異的にFKBP52をリン酸化するカゼインキナーゼIIによって調節される(Myata et al., 1997)。
【0005】
最近、FKBP52が微小管と相互作用し、チューブリンの重合を防止することが報告されている(Chambraud et al., 2007)。今までに得られた結果により、FKBP52によるこのチューブリン重合阻害が、FKBP52によるチューブリンの隔離または曲げなどのその構造の改変に起因しうるだけでなく、微小管へのチューブリンの集合に必要とされる別の重要な因子が関与しうることが示唆される。
【0006】
本発明者らは、今回本明細書において、微小管関連タンパク質(MAP)などの一つまたは複数の微小管安定化因子の介入が、FKBP52によるチューブリン重合阻害を説明できると仮定する。古典的な生化学および細胞アプローチを使用して、本発明者らは、FKBP52がタウの機能に果たす役割への堅固な根拠を立証し、FKBP52とタウとの間の直接の特異的相互作用を発見する。このFKBP52−タウ相互作用は、チューブリン重合(FKBP52はこの機能を阻害する)、タウ蓄積(FKBP52はこの蓄積を阻害する)および神経突起伸長などの公知のタウ介在性細胞機能のモデュレーションを招く。
【0007】
発明の概要:
本発明者らは、イムノフィリンFKBP52と微小管関連タンパク質タウ(過剰リン酸化されているか、またはされていないその公知の全てのアイソフォームに属する)との間に直接的で特異的なタンパク質−タンパク質相互作用を発見した。本発明は、FKBP52−タウ相互作用が、タウ機能不全を伴う神経障害の新規な治療アプローチのために、特にアルツハイマー病のために好都合に使用されうる新しいターゲットを提供することを立証する。
【0008】
したがって本発明は、FKBP52−タウ相互作用をモデュレーションし、したがってタウ機能不全を伴う神経障害の有害作用に有益に作用する分子を同定するための方法を提供する。
【0009】
タウとFKBP52との間の相互作用をモデュレーションする能力について、本発明の方法により確認された分子は、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための、特にアルツハイマー病のための薬物候補である。
【0010】
本発明は、また、潜在的に診断、予後、臨床フォローアップに関与する生物学的マーカーをFKBP52−タウ相互作用が提供することを立証する。
【0011】
発明の詳細な説明:
本発明のスクリーニング法:
本発明の第一の目的は、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための薬物をスクリーニングするための方法であって、以下のステップを含む方法から成る:
a)候補化合物がタウポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの間の相互作用をモデュレーションする能力を決定すること、および
b)該相互作用をモデュレーションする候補化合物を正に選択すること。
【0012】
本明細書に使用されるような「タウ機能不全を伴う神経障害」という用語には、非限定的にアルツハイマー病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症およびピック病としても知られている前頭側頭葉変性症、ならびに将来的にタウを必要とすることが証明されうる、例えばパーキンソン病などの全ての神経障害が含まれる。
【0013】
本発明の文脈において、本明細書に使用されるような「処置する」または「処置」という用語は、そのような用語が適用される障害もしくは状態、またはそのような障害もしくは状態の一つもしくは複数の症状の進行を後退、軽減、または阻害することを意味する。
【0014】
本明細書に使用されるような「予防」という用語は、その疾患または状態が発生することを、それを有するとまだ診断されていない対象において予防することを表す。
【0015】
本明細書に使用されるような「FKBP52とタウとの間の相互作用をモデュレーションする化合物」という表現は、タンパク質タウとタンパク質FKBP52との間の相互作用を阻害、減弱または増強する性能を有する任意の化合物を表す。
【0016】
ステップa)でタンパク質−タンパク質相互作用のスクリーニングに適切な任意の方法が、適切である。
【0017】
スクリーニング法のステップa)の態様がたとえ何であろうと、完全なタウタンパク質および完全なFKBP52タンパク質を結合パートナーとして使用することができる。または、相互作用部位を含むタウタンパク質およびFKBP52タンパク質のフラグメントを結合パートナーとして使用することができる。
【0018】
したがって一態様では、本発明のスクリーニング法のステップa)は、以下のステップから成る:
− a1)被験候補化合物を、第一タウポリペプチドまたはその実質的に相同もしくは実質的に類似のアミノ酸配列と、(2)第二FKBP52ポリペプチドまたはその実質的に相同もしくは実質的に類似のアミノ酸配列との混合物と接触させること、および
− a2)該候補化合物が、該タウポリペプチドと該第二FKBP52ポリペプチドとの間の結合をモデュレーションする能力を決定すること。
【0019】
「ポリペプチド」という用語は、本明細書において特定の長さを有さないアミノ酸ポリマーを意味する。したがって、ペプチド、オリゴペプチドおよびタンパク質は、「ポリペプチド」の定義の中に含まれ、これらの用語は、本明細書にわたり、そのうえ特許請求の範囲において、互換的に使用される。「ポリペプチド」という用語は、非限定的にリン酸化、アセチル化、グリコシル化などが含まれる翻訳後修飾を除外しない。特にその用語には、ポリペプチドの全てのリン酸化型が含まれる(例えばタウまたはFKBP52の全てのリン酸化型)。同様に、「ポリペプチド」のこの定義に包含されるのは、そのホモログである。
【0020】
したがって、「タウポリペプチド」という用語は、タウタンパク質、またはFKBP52タンパク質との相互作用部位を含むそのフラグメントを表す。同じように、「FKBP52ポリペプチド」という用語は、FKBP52タンパク質、またはタウタンパク質との相互作用部位を含むそのフラグメントを表す。
【0021】
アミノ酸の80%超、好ましくは85%超、好ましくは90%超が同一であるか、または約90%超、好ましくは95%超が類似(機能的に同一)である場合、二つのアミノ酸配列は、「実質的に相同」または「実質的に類似」である。「配列同一性」という用語は、二つのペプチドの間の同一性を表す。配列間の同一性は、比較のためにアライメントされうる各配列中の位置を比較することによって決定することができる。比較される配列中の位置が同じ塩基またはアミノ酸によって占有される場合、その配列はその位置で同一である。核酸配列の間の配列同一度は、これらの配列によって共有される位置で同一なヌクレオチドの数の関数である。アミノ酸配列間の同一度は、これらの配列の間で共有される同一なアミノ酸配列の数の関数である。二つのアミノ酸配列または二つの核酸の同一率を決定するために、それらの配列は、最適な比較のためにアライメントされる。例えば、第二アミノ酸配列または第二核酸配列との最適なアライメントのために、第一アミノ酸配列または第一核酸配列の配列中にギャップを導入することができる。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置でアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。第一配列中の位置が、第二配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有される場合、その分子は、その位置で同一である。二つの配列の間の同一率は、それらの配列によって共有される同一な位置の数の関数である。この比較において、それら配列は、同じ長さでありうるか、または長さが異なることがある。比較ウインドウを決定するための配列の最適なアライメントは、SmithおよびWaterman(J. Theor. Biol., 91 (2) pgs. 370-380 (1981)の局所相同性アルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch(J. Miol. Biol., 48(3) pgs. 443-453 (1972))の相同性アライメントアルゴリズムによって、PearsonおよびLipman(PNAS, USA, 85(5) pgs. 2444-2448 (1988))の方法による類似性検索によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装によって(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetic Computer Group, 575, Science Drive, Madison, Wis.のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)または観察によって行うことができる。「配列類似性」という用語は、同じ機能を保持しながらアミノ酸を改変することができることを意味する。アミノ酸がその側基の性質に応じて分類され、塩基性アミノ酸などの一部のアミノ酸が基本機能を維持しながら相互に交換できることは、公知である。
【0022】
一態様では、ステップa2)は、該候補化合物が該第一ポリペプチドと該第二ポリペプチドとの間で相互作用をモデュレーションする能力を例示するかまたは例示しない物理値を生成すること、および該値を、該候補化合物の不在下で行われた同アッセイで得られた標準物理値と比較することにある。上に言及された「物理値」は、行われた結合アッセイに応じて様々な種類でありうるが、顕著には吸光度値、放射性シグナルおよび蛍光シグナル強度値を包含する。その物理値を標準物理値と比較した後に、該候補化合物が該第一ポリペプチドと該第二ポリペプチドとの間の結合をモデュレーションすることが決定されたならば、その候補は、ステップb)で正に選択される。
【0023】
(i)タウポリペプチドと(ii)FKBP52ポリペプチドとの間の相互作用をモデュレーションする化合物は、タウポリペプチドまたはFKBP52ポリペプチドのいずれかに結合する化合物を包含するが、但し、関心が持たれる該化合物の結合が、今度はタウとFKBP52との間の相互作用をモデュレーションすることを条件とする。
【0024】
本発明のポリペプチドは、非限定的に任意の化学的、生物学的、遺伝的または酵素的技法などの、当技術分野において本質的に公知の任意の技法の単独または組合せによって、製造することができる。
【0025】
所望の配列のアミノ酸配列が分かると、当業者は、ポリペプチドを製造するための標準的な技法によって該ポリペプチドを容易に製造することができる。例えばそれらは、周知の固相法を使用して、好ましくは市販のペプチド合成装置(Applied Biosystems, Foster City, California製のものなど)を製造業者の説明書に従って使用して合成することができる。
【0026】
または本発明のポリペプチドは、当技術分野において今日周知であるようなリコンビナントDNA技法によって合成することができる。例えば、これらのフラグメントは、所望の(ポリ)ペプチドをコードするDNA配列を発現ベクターに組込み、そのようなベクターを、所望のポリペプチドを発現する適切な真核または原核生物ホストに導入した後にDNA発現産物として得ることができ、後になってそこから周知の技法を使用してそれらのフラグメントを単離することができる。
【0027】
多様なホスト/発現ベクターの組合せが、本発明のポリペプチドをコードする核酸の発現に採用される。使用されうる有用な発現ベクターには、例えば染色体性、非染色体性および合成DNA配列のセグメントが含まれる。適切なベクターには、非限定的にSV40およびpcDNAの誘導体ならびにcol EI、pCR1、pBR322、pMal−C2、pET、pGEX、pMB9などの公知の細菌プラスミドおよびその誘導体、RP4などのプラスミド、NM989などのファージIの多数の誘導体などのファージDNA、加えてM13および糸状1本鎖ファージDNAなどの他のファージDNA;2ミクロンプラスミドまたは2ミクロンプラスミドの誘導体などの酵母プラスミド、加えて動原体および組込み型酵母シャトルベクター;昆虫または哺乳動物細胞に有用なベクターなどの、真核細胞に有用なベクター;ファージDNAまたは発現コントロール配列を採用するように改変されたプラスミドなどのプラスミドとファージDNAとの組合せ由来のベクターなどが含まれる。
【0028】
結果として、哺乳動物細胞、典型的にはヒト細胞、ならびに細菌、酵母、真菌、昆虫、線虫および植物細胞が本発明に使用され、本明細書において同義の核酸またはリコンビナントベクターによってトランスフェクションされることがある。適切な細胞の例には、非限定的にVERO細胞、ATCC番号CCL2などのHELA細胞、ATCC番号CCL61などのCHO細胞系、COS−7細胞およびATCC番号CRL1650細胞などのCOS細胞、W138、BHK、HepG2、ATCC番号CRL6361などの3T3、A549、PC12、K562細胞、293T細胞、ATCC番号CRL1711などのSf9細胞ならびにATCC番号CCL70などのCv1細胞が含まれる。本発明に使用できる他の適切な細胞には、非限定的にEscherichia coli(例えばDH5−[α]株)、Bacillus subtilis、Salmonella typhimurium、またはPseudomonas、StreptomycesおよびStaphylococcus属の株のような原核ホスト細胞株が含まれる。本発明に使用できるさらなる適切な細胞には、Saccharomyces cerevisiaeなどのSaccharomyces細胞などの酵母細胞が含まれる。
【0029】
一態様では、本発明の任意のタウ由来ポリペプチドまたはFKBP52ポリペプチドは、スクリーニング目的のために検出可能な分子でラベルされている。
【0030】
本発明によると、該検出可能な分子は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段によって検出可能な任意の化合物または物質から成りうる。例えば、有用で検出可能な分子には、放射性物質(32P、25S、3H、または125Iを含むものが含まれる)、蛍光色素(5−ブロモデソシルジン(bromodesosyrudin)、フルオレセイン、アセチルアミノフルオレンまたはジゴキシゲニンが含まれる)、蛍光タンパク質(GFPおよびYFPが含まれる)、または検出可能なタンパク質またはペプチド(ビオチン、ポリヒスチジン尾部またはHA抗原などの他の抗原タグ、FLAG抗原、c−myc抗原およびDNP抗原が含まれる)が含まれる。
【0031】
本発明によると、検出可能な分子は、該ポリペプチドの間または候補化合物と任意の該ポリペプチドとの間の結合についての任意のアーチファクトを最小化または防止するために、関心が持たれる該アミノ酸配列外側に位置するアミノ酸残基に局在するか、または結合している。
【0032】
別の特定の態様では、本発明のポリペプチドは、GSTタグ(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)と融合される。この態様では、該融合タンパク質のGST部分は、検出可能な分子として使用されることがある。該融合タンパク質において、GSTは、N末端またはC末端のいずれかに局在しうる。GSTが検出可能な分子が、続いてラベル化抗GST抗体を含めた抗GST抗体と接触されると、その分子を検出することができる。様々な検出可能な分子でラベルされた抗GST抗体は、商品として容易に入手可能である。
【0033】
別の特定の態様では、本発明のポリペプチドは、ポリヒスチジンタグと融合される。該ポリヒスチジンタグは、通常、少なくとも4個の連続するヒスチジン残基を含み、一般に少なくとも6個の連続するヒスチジン残基を含む。そのようなポリペプチドタグは、また、最大で20個の連続するヒスチジン残基を含みうる。該ポリヒスチジンタグは、N末端またはC末端のいずれかに局在しうる。この態様では、ポリヒスチジンタグを、続いてラベル化抗ポリヒスチジン抗体を含めた抗ポリヒスチジン抗体と接触させると、それを検出することができる。様々な検出可能な分子でラベルされた抗ポリヒスチジン抗体は、商品として容易に入手可能である。
【0034】
さらなる態様では、本発明のポリペプチドは、転写因子のDNA結合ドメインまたは活性化因子ドメインのいずれかから成るタンパク質部分と融合される。転写の該タンパク質部分ドメインは、N末端またはC末端のいずれかに局在しうる。そのようなDNA結合ドメインは、E. Coli由来LexAタンパク質の周知のDNA結合ドメインから成ることがある。さらに、転写因子の該活性化因子ドメインは、酵母由来の周知のGal4タンパク質の活性化因子ドメインから成ることがある。
【0035】
本発明によるスクリーニング法の一態様では、上記の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドは、転写因子の部分を含む。該アッセイでは、第一部分と第二部分が一緒になる結合によって、特異的調節性DNA配列に結合する機能的転写因子が生成され、それが今度はレポーターDNA配列の発現を誘導し、該発現がさらに検出および/または測定される。該レポーターDNA配列の発現の陽性検出は、該第一タウポリペプチドと第二FKBP52ポリペプチドポリペプチドが一緒になる結合が原因で活性転写因子が形成されることを意味する。
【0036】
通常ツーハイブリッドアッセイにおいて、転写因子の第一および第二部分は、それぞれ(i)転写因子のDNA結合ドメインおよび(ii)転写因子の活性化因子ドメインから成る。いくつかの態様では、DNA結合ドメインおよび活性化因子ドメインは、共に同じ天然転写因子に由来する。いくつかの態様では、DNA結合ドメインおよび活性化因子ドメインは、別個の天然因子に由来するが、一緒に結合するとこれら二つの部分は、活性転写因子を形成する。転写因子について本明細書において使用される場合の「部分」という用語は、多タンパク質転写因子に関与する完全タンパク質、および完全転写因子タンパク質の特定の機能的タンパク質ドメインを包含する。
【0037】
したがって、本発明の一態様では、本発明のスクリーニング法のステップa)は、以下のステップを含む:
(1)
− (i)上記のタウポリペプチドと(ii)転写因子の第一タンパク質部分との間の第一融合ポリペプチド
− (i)上記のFKBP52ポリペプチドと(ii)転写因子の第二部分との間の第二融合ポリペプチド
を発現しているホスト細胞を提供すること
ここで、第一および第二タンパク質部分が一緒に結合している場合、該転写因子は、DNAのターゲット調節配列に対して活性であり、
該ホスト細胞は、(i)該活性転写因子によって活性化されうる調節DNA配列および(ii)該調節配列に作動連結されているDNAレポート配列を含む核酸も含有する、
(2)ステップ1)で提供された該ホスト細胞を被験候補化合物と接触させること、
(3)該DNAレポーター配列の発現レベルを決定すること。
【0038】
上記ステップ(3)で決定された該DNAレポーター配列の発現レベルが、ステップ(2)が省略された場合の該DNAレポーター配列の発現と比較される。候補化合物の存在下での該DNAレポーター配列の異なる発現レベルは、該候補化合物がタウポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの間の結合を効果的にモデュレーションすること、および該候補化合物がスクリーニング法のステップb)で正に選択されうることを意味する。
【0039】
適切なホスト細胞には、非限定的に、原核細胞(細菌など)および真核細胞(酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など)が含まれる。しかしながら、好ましいホスト細胞は酵母細胞であって、より好ましくはSaccharomyces cerevisiae細胞またはSchizosaccharomyces pombe細胞である。
【0040】
類似な系のツーハイブリッドアッセイは、当技術分野において周知であることから、本発明によるスクリーニング法を行うために使用することができる(Fields et al. 1989 ; Vasavada et al. 1991; Fearon et al. 1992; Dang et al., 1991, Chien et al. 1991、米国特許第5,283,173号、米国特許第5,667,973号、米国特許第5,468,614号、米国特許第5,525,490号および米国特許第5,637,463号参照)。例えば、これらの文書に記載されているようにGal4活性化因子ドメインは、本発明によるスクリーニング法を行うために使用することができる。Gal4は、一方がDNA結合ドメインとして作用し、他方が転写活性化ドメインとして機能する二つの物理的に別個のモジュラードメインから成る。前述の文書に記載された酵母発現系は、この性質を利用する。Gal4活性化プロモーターのコントロール下のGal1−LacZレポーター遺伝子の発現は、タンパク質−タンパク質相互作用を介したGal4活性の再構成に依存する。相互作用性ポリペプチドを含有するコロニーは、β−ガラクトシダーゼに対する発色基質を用いて検出される。タンパク質−タンパク質相互作用を確認するための競合キット(MATCHMAKER(商標))が、Clontechから市販されている。
【0041】
そこで一態様では、上記の第一タウポリペプチドは、Gal4のDNA結合ドメインと融合され、上記の第二FKBP52ポリペプチドは、Gal4の活性化ドメインと融合される。
【0042】
該検出可能なマーカー遺伝子の発現は、産生された、対応する特異的mRNAの量を定量することによって評価することができる。しかしながら通常は、検出可能なマーカー遺伝子配列は検出可能なタンパク質をコードするので、結果として該検出可能なマーカー遺伝子の発現レベルは、産生された対応タンパク質の量を定量することによって評価される。mRNAまたはタンパク質の量を定量するための技法は、当技術分野において周知である。例えば、調節配列のコントロール下に置かれた検出可能なマーカー遺伝子は、上記β−ガラクトシダーゼから成ることがある。
【0043】
別の一態様では、ステップa)は、上記と同義の第一タウポリペプチドと第二FKBP52ポリペプチドとの混合物を被験候補化合物と共に、またはそれなしにゲル泳動アッセイに供し、次に該ポリペプチドの間に形成した複合体の検出を行うことによって該ポリペプチド全体の結合を測定するステップを含む。ゲル泳動アッセイは、当業者によって公知のように実施することができる。
【0044】
したがって、本発明の一態様では、本発明のスクリーニング法のステップa)は、以下のステップを含む:
(1)上記の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドを提供すること、
(2)被験候補化合物を該ポリペプチドと接触させること、
(3)ステップ(2)で得られたような該ポリペプチドおよび該候補化合物を用いて適切な泳動基材上でゲル泳動アッセイを行うこと、
(4)ステップ(3)を行われた泳動アッセイで該ポリペプチドの間に形成した複合体を検出および定量すること。
【0045】
次に、ポリペプチドの間に形成した複合体の存在または量は、そのアッセイが被験候補化合物の不在下で行われた場合に得られた結果と比較される。
【0046】
第一ポリペプチドと第二ポロペプチドとの間で形成した複合体が特定の見かけの分子量を有することから、前記の二つのポリペプチドの間で形成した複合体の検出は、適切な色素で泳動ゲルを染色すること、および次に分析されたタンパク質に対応するタンパク質バンドを決定することによって容易に行うことができる。ゲル中のタンパク質の染色は、当技術分野で周知の任意の方法を使用して行うことができる。適切なゲルは、当技術分野において周知であるが、非変性剤ゲルを使用することが好ましい。一般的な方法では、ウエスタンブロットアッセイが、当技術分野において周知であり、広く記載されている(Rybicki et al., 1982; Towbin et al. 1979; Kurien et al. 2006)。
【0047】
特定の態様では、ゲル泳動アッセイにかけられたポリペプチドに対応するタンパク質のバンドは、特異的抗体によって検出することができる。タウポリペプチドに対する抗体とFKBP52ポリペプチドに特異的に対する抗体との両方を使用することができる。
【0048】
別の態様では、該二つのポリペプチドは、上記のような検出可能な抗原でラベルされている。したがって、該検出可能な抗原に対する特異的抗体によってタンパク質のバンドを検出することができる。好ましくは、タウポリペプチドとの検出可能な抗原のコンジュゲートは、FKBP52ポリペプチドとコンジュゲーションされた抗原とは異なる。例えば、第一タウポリペプチドを、GSTが検出可能な抗原と融合させることができ、第二FKBP52ポリペプチドを、HA抗原と融合させることができる。次に、二つのポリペプチドの間に形成したタンパク質複合体は、それぞれGSTおよびHA抗原に対する抗体を用いて定量および決定することができる。
【0049】
別の態様では、ステップa)には、Edwardsら(1997)または同じくSzaboら(1995)によって記載されたような光学バイオセンサーの使用が含まれる。この技法は、ラベルされた分子の必要なしに分子間相互作用のリアルタイム検出を可能にする。この技法は、実は表面プラズモン共鳴(SPR)現象に基づく。簡潔には、第一タンパク質パートナーを表面(カルボキシメチルデキストランマトリックスなど)に結合させる。次に、第二タンパク質パートナーを、予め固定化された第一パートナーと共に被験候補化合物の存在下または不在下でインキュベーションする。次に、該タンパク質パートナー間の結合レベルを含めた結合、または結合の不在を検出する。このために、被験試料を含有しない側の基材の表面領域に光学ビームを向け、該表面によって反射させる。SPR現象は、角度および波長の組合せを用いて反射光の強度に減少を引き起こす。第一タンパク質パートナーと第二タンパク質パートナーとの結合は、基材表面上での屈折率の変化を引き起こし、その変化が、SPRシグナルの変化として検出される。
【0050】
本発明の別の一態様では、スクリーニング法には、アフィニティークロマトグラフィーの使用が含まれる。
【0051】
上記スクリーニング法に使用するための候補化合物は、また、上記と同義の(i)第一タウポリペプチドまたは(ii)第二FKBP52ポリペプチドが予め固定化されている任意のクロマトグラフィー基材を当業者に周知の技法により使用して、任意の免疫アフィニティークロマトグラフィー技法によって選択することができる。簡潔には、上記と同義のタウポリペプチドまたはFKBP52ポリペプチドは、アガロース、Affi Gel(登録商標)、または当業者に熟知されている他のマトリックスなどの適切なカラムマトリックスへの化学カップリングを含めた従来の技法を使用して、カラムに結合させることができる。この方法のいくつかの態様では、アフィニティーカラムは、上記と同義のタウポリペプチドまたはFKBP52ポリペプチドがグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)と融合されているキメラタンパク質を含有する。次に、該第一ポリペプチドおよび第二ポリペプチドのうちもう一方のポリペプチドの前に、同時にまたは後に候補化合物をアフィニティーカラムのクロマトグラフィー基材と接触させる。洗浄後に、クロマトグラフィー基材を溶離し、収集された溶離液を、前記のその後に適用された第一または第二ポリペプチドを検出および/または定量することによって分析し、候補化合物が(i)第一タウポリペプチドと(ii)第二FKBP52ポリペプチドとの間の結合をモデュレーションしたかどうか、および/またはどの程度モデュレーションしたかを決定する。
【0052】
本発明によるスクリーニング法の別の一態様では、上記と同義の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドは、蛍光分子または基質でラベルされている。したがって、上記と同義の第一タウポリペプチドと第二FKBP52ポリペプチドとの間の結合に及ぼす被験候補化合物の潜在的変化作用は、蛍光定量によって決定される。
【0053】
例えば、上記と同義の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドを、上記のGFPまたはYFPのような自己蛍光ポリペプチドと融合させることができる。上記と同義の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドは、また、蛍光エネルギー移動(FRET)アッセイを使用して該ポリペプチドの間の結合について蛍光検出および/または定量を行うために適した蛍光分子でラベルすることができる。上記と同義の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドを、GFPまたはYFPのような蛍光分子との共有化学結合によってその蛍光分子で直接ラベルすることができる。上記と同義の第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドは、例えば、該ポリペプチドと蛍光分子の間の非共有結合によって該蛍光分子で間接的にラベルすることもできる。実際に、上記と同義の該第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドをレセプターまたはリガンドと融合させ、該蛍光分子を対応するリガンドまたはレセプターと融合させることが可能な結果として、その蛍光分子を該第一タウポリペプチドおよび第二FKBP52ポリペプチドと非共有的に結合させることができる。適切なレセプター/リガンド対は、ビオチン/ストレプトアビジンペアを形成したメンバーのことがあるか、または抗原/抗体ペアを形成したメンバーから選択されることがある。例えば、本発明によるポリペプチドをポリヒスチジン尾部と融合させることが可能であり、蛍光分子をポリヒスチジン尾部に対する抗体と融合させることが可能である。
【0054】
すでに明記されたように、本発明によるスクリーニング法のステップa)は、候補化合物が上記と同義のタウポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの間の相互作用をモデュレーションする能力を、FRETを使用した蛍光アッセイにより決定することを包含する。したがって特定の態様では、上記と同義の第一タウポリペプチドは、第一フルオロフォア物質でラベルされており、第二FKBP52ポリペプチドは、第二フルオロフォア物質でラベルされている。第一フルオロフォア物質は、第二フルオロフォアの励起波長値に実質的に等しい波長値を有することにより、該第一ポリペプチドと第二ポリペプチドとの間の結合は、第二フルオロフォア物質の発光波長で発光された蛍光シグナル強度を測定することによって検出されることがある。または、第二フルオロフォア物質もまた、第一フルオロフォアの発光波長の値を有することにより、該ポリペプチドと第二ポリペプチドとの間の結合は、第一フルオロフォア物質の波長で発光された蛍光シグナル強度を測定することによって検出されることがある。
【0055】
使用されるフルオロフォアは、周知のランタニドキレートなどの様々な適切な種類でありうる。これらのキレートは、化学的安定性、バイオコンジュゲーション後の長寿命蛍光(寿命が0,1msよりも大きい)および特異的バイオアフィニティーアッセイにおける顕著なエネルギー移動を有すると記載されている。文書である米国特許第5,162,508号は、ビピリジンクリプテートを開示している。TEKES型光増感剤(EP0203047A1)およびテルピリジン型光増感剤(EP0649020A1)を有するポリカルボキシレートキレート剤が公知である。国際公開公報第96/00901号の文書は、増感剤としてカルボスチリルを使用したジエチレントリアミン五酢酸(DPTA)キレートを開示している。他の増感剤および他のトレーサー金属との追加的なDPTキレートは、診断応用またはイメージング応用のために公知である(例えばEP0450742A1)。
【0056】
好ましい態様では、スクリーニング法のステップa)で行われる蛍光アッセイは、国際公開公報第00/01663号または米国特許第6,740,756号の文書(両文書の内容全体は、参照により本明細書に組入れられる)に記載されているようなホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイから成る。HTRFは、TRF(時間分解蛍光)とFRETとの両方の原理を使用するTR−FRETベースの技法である。さらに具体的には、当業者は、Leblancら(2002)に記載されているような時間分解増幅クリプテート発光(TRACE)技法に基づくHTRFアッセイを使用することができる。HTRFドナーフルオロフォアは、クリプテート封入の安定性と一緒になったランタニドの長寿命発光を有するユーロピウムクリプテートである。紅藻類から精製された改変アロフィコシアニンであるXL665は、HTRF一次アクセプターフルオロフォアである。これらの二つのフルオロフォアが生体分子相互作用によって一緒にされると、励起の間にクリプテートによって捕獲されたエネルギーの一部が620nmでの蛍光発光によって放出される一方で、残りのエネルギーはXL665に移動する。次にこのエネルギーは、XL665によって665nmで特異的蛍光として放出される。665nmの光はユーロピウムを用いたFRETによってのみ発光される。ユーロピウムクリプテートは、常にアッセイに存在するので、620nmの光は、生体分子相互作用がXL665を近接させない場合であっても検出される。
【0057】
したがって一態様では、スクリーニング法のステップa)は、したがって以下からなるステップを含みうる:
(1)
− 第一抗原と融合された第一タウポリペプチド、
− 第二抗原と融合された第二FKBP52ポリペプチド、
− 被験候補化合物
を含むアッセイ前試料を接触させること、
(2)ステップ(2)の該アッセイ前試料に:
− 特異的に該第一抗原に対する、ユーロピアン(European)クリプテートでラベルされた少なくとも一つの抗体、
− 該第二抗原に対する、XL665でラベルされた少なくとも一つの抗体
を添加すること、
(3)ステップ(2)のアッセイ試料を該ユーロピアンクリプテートの励起波長で照射すること、
(4)XL665の発光波長で発光された蛍光シグナルを検出および/または定量すること、
(5)ステップ(4)で得られた蛍光シグナルを、ステップ(1)のアッセイ前試料が被験候補化合物の不在下で調製されたときに得られた蛍光と比較すること。
【0058】
上記ステップ(5)で蛍光シグナルの強度値が、ステップ(1)のアッセイ前試料が被験候補化合物の不在下で調製された場合に見出される蛍光シグナルの強度値と異なる(低いまたは高い)ならば、その候補化合物を、スクリーニング法のステップb)で正に選択することができる。
【0059】
ユーロピアンクリプテートまたはXL665でラベルされた抗体は、GST、ポリヒスチジン尾部、DNP、c−myx、HA抗原およびFLAGを含めた、関心が持たれる、異なる抗原に対する可能性があり、それらには含まれる。そのような抗体は、CisBio(Bedfors, MA, USA)から市販されている抗体、顕著にはそれぞれ61GSTKLAまたは61HISKLBと呼ばれる抗体を包含する。
【0060】
特定の態様では本発明の方法は、さらに候補化合物がアミロイド前駆タンパク質(APP)ポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの間の相互作用をモデュレーションする能力を決定することから成るステップを含みうる。実際に最近の研究は、FKBP52がAPPのFK506相互作用ドメインを介してAPPと安定な複合体を形成したことを実証している。この研究は、Aβペプチドの毒性のモデュレーションにFKBP52が果たす新規な役割を確認するものである(Sanokawa-Akakura R, Cao W, Allan K, Patel K, Ganesh A, Heiman G, Burke R, Kemp FW, Bogden JD, Camakaris J, Birge RB, Konsolaki M. Control of Alzheimer's amyloid beta toxicity by the high molecular weight immunophilin FKBP52 and copper homeostasis in Drosophila. PLoS One. 2010 Jan 13;5(1):e8626)。したがって、タウとFKBP52との相互作用およびAPPとFKBP52との相互作用の両方をモデュレーションする化合物が、アルツハイマー病の処置に有用でありうる。
【0061】
本発明のin celluloスクリーニング法:
本明細書前記のin vitroスクリーニングの任意の一態様の終わりに正に選択された候補化合物は、タウ介在性細胞機能(チューブリン重合など)、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変に関するその性質をさらにアッセイすることを考慮してさらなる選択ステップに供することができる。このために、上記の全般的in vitroスクリーニング法を用いて正に選択された候補化合物は、さらに、それらがタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変をモデュレーションする能力について選択することができる。
【0062】
したがって、本発明の別の局面は、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための薬物をスクリーニングするための方法であって、以下のステップを含む方法に関する:
i)請求項1〜6のいずれか記載のin vitroスクリーニング法を行うことによって、タウとFKBP52タンパク質との間の相互作用をモデュレーションする化合物についてスクリーニングすること、および
ii)ステップi)の終わりに正に選択された化合物を、それらのタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変についてスクリーニングすること。
【0063】
上記スクリーニング法のある好ましい態様では、該スクリーニング法のステップii)は、以下のステップを含む:
(1)細胞を、ステップi)の終わりに正に選択された化合物と接触させること、
(2)化合物がタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変をモデュレーションする潜在能力を決定すること、
(3)ステップ(2)で決定されたタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変を、ステップ(1)が前記の正に選択された化合物の不在下で行われた場合に決定されたタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変と比較すること。
【0064】
ステップ(1)を行うために、任意の細胞が適切でありうるが、ニューロンが好ましい。
【0065】
上記のステップ(1)は、ある量の被験候補化合物を培地に添加することによって行うことができる。漸増する量の被験候補化合物を別個の培養試料に添加するために、通常は複数の培養試料が調製される。一般に、候補化合物を有さない少なくとも一つの培養試料も、さらなる比較のための陰性対照として調製される。場合により、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および翻訳後タウ改変をモデュレーションする既に公知の薬剤を有する少なくとも一つの培養試料も、方法の標準化のための陽性対照として調製される。
【0066】
したがって、ステップ(3)は、被験候補化合物と共にインキュベーションされた細胞培養物について得られた、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変がモデュレーションされた細胞の率を、該候補化合物なしの陰性対照細胞培養物について得られた、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変がモデュレーションされた細胞の率と比較することによって行うことができる。例証的に、候補化合物の効率は、(i)候補化合物と共にインキュベーションされた細胞培養物から測定された、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変がモデュレーションされた細胞の率を、(ii)タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変をモデュレーションする公知の薬剤と共にインキュベーションされた細胞培養物の上清から測定された、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変がモデュレーションされた細胞の率と比較することによって評価することができる。さらに例証的に、候補化合物の効率は、細胞培養物に添加された候補化合物の量についてタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変がモデュレーションされている細胞の率が、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変をモデュレーションする公知の薬剤と共に測定された、タウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変がモデュレーションされた細胞の率に近いか、またはそれよりも高いことを決定することによって評価することができる。
【0067】
本発明の候補化合物:
本発明の一態様によると、候補化合物は、ペプチド、ペプチド模倣体、有機小分子、抗体、アプタマーまたは核酸から成る群より選択されることがある。例えば、本発明による候補化合物は、予め合成された化合物のライブラリー、または構造がデータベースから決定された化合物のライブラリー、またはde novo合成された化合物のライブラリーから選択することができる。
【0068】
特定の態様では、候補化合物は、有機小分子より選択することができる。
【0069】
本明細書に使用されるような「有機小分子」という用語は、一般に医薬品に使用される有機分子に匹敵するサイズの分子を表す。この用語は、生体巨大分子(例えば;タンパク質、核酸など)を除外し;好ましい有機小分子は、最大2000daのサイズの範囲であり、最も好ましくは最大約1000Daである。
【0070】
本発明による候補化合物は、その合成、翻訳およびリガンド/基質/産物の結合を妨害することによってFKBP52のPPIase活性を中和する分子より選択することができる。
【0071】
好ましい態様では、分子は、タンパク質FKBP52のドメインIのPPIaseリガンド、好ましくはタンパク質FKBP52のドメインIのPPIase活性を防止、遮断または阻害するPPIaseリガンドより選択される。
【0072】
有利には、本発明の分子は、免疫抑制活性を誘導せずにタンパク質FKBP52のドメインIのPPIase活性を防止/阻害/遮断することがある。
【0073】
第一シリーズの分子は、免疫抑制活性を欠如するFK506誘導体である。FK506は、下記のように表される:
【0074】
【化1】

【0075】
分子の特に好ましい一ファミリーは、VA−10367(Vertex, Inc)とも名付けられた下記ニューロフィリン化合物の新規アナログから成りうる:
【0076】
【化2】

【0077】
他の例には、国際特許出願公開WO2005084673に記載されたようなメリダマイシン(Meridamycin)などの、免疫抑制活性を欠如するラパマイシン誘導体が含まれる。他のラパマイシン誘導体には、WYE−592またはILS−290などの、Ruan B.ら(Ruan B, Pong K, Jow F, Bowlby M, Crozier RA, Liu D, Liang S, Chen Y, Mercado ML, Feng X, Bennett F, von Schack D, McDonald L, Zaleska MM, Wood A, Reinhart PH, Magolda RL, Skotnicki J, Pangalos MN, Koehn FE, Carter GT, Abou-Gharbia M, Graziani EI. Binding of rapamycin analogs to calcium channels and FKBP52 contributes to their neuroprotective activities. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Jan 8;105(1):33-8. Epub 2007 Dec 27)に記載された誘導体が含まれる:
【0078】
【化3】

【0079】
本発明の分子は、技術者に周知の任意の従来法によって合成されることがある。
【0080】
別の特定の態様では、本発明による候補化合物は、特異的にタンパク質タウとタンパク質FKBP52との間の相互作用部位に対する抗体、またはFKBP52−タウ相互作用および/もしくはその機能的細胞機能に影響する抗体でありうる。
【0081】
「抗体」という用語は、特異的にタウとのFKBP52の相互作用部位に対することを特徴とする抗体またはその機能的誘導体に関し、上記抗体は、好ましくはモノクローナル抗体;またはそれの、F(ab’)2の、または1本鎖Fv型の、またはそれ由来の任意の種類のリコンビナント抗体の抗原結合性フラグメントに関する。本発明のこれらの抗体には、タウとのFKBP52の相互作用部位に対して調製された特異的ポリクローナル抗血清が含まれる。
【0082】
例えば、タウとFKBP52との間の相互作用に関与するペプチド配列またはその任意の機能的誘導体に対して免疫処置された動物、特にマウスまたはラットの脾臓細胞と、ミエローマ細胞系の細胞とから古典法にしたがって形成され易い任意のハイブリドーマであって、そのハイブリドーマが、動物の免疫処置のために最初に使用された、タウとFKBP52との間の相互作用に関与するペプチド配列またはその任意の機能的誘導体を認識するモノクローナル抗体を産生する能力によって選択され易いハイブリドーマによって、本発明の抗体を産生させることができる。本発明のこの態様による抗体は、HおよびL鎖をコードするマウスおよび/またはヒトゲノムDNA配列またはHおよびL鎖をコードするcDNAクローンから出発してリコンビナントDNA技法により製造されたマウス抗体のヒト化バージョンでありうる。
【0083】
または、本発明のこの態様による抗体は、ヒト抗体でありうる。そのようなヒト抗体は、例えばPCT/EP99/03605に記載されたような重症複合型免疫不全(SCID)マウスのヒト末梢血リンパ球(PBL)再増殖によって、または米国特許第5,545,806号に記載されたようなヒト抗体を産生可能なトランスジェニック非ヒト動物を使用することによって調製される。また、Fab、F(ab)’2および(「1本鎖可変部フラグメント」)などのこれらの抗体由来のフラグメントは、それらが本来の結合性を保持したという条件で、本発明の一部を形成する。そのようなフラグメントは、例えばパパイン、ペプシン、または他のプロテアーゼで抗体を酵素消化することによって通例生成される。モノクローナル抗体またはそのフラグメントを様々な用途のために改変できることは、当業者に周知である。酵素、蛍光、または放射性型の適切なラベルは、本発明に関与する抗体をラベルすることができる。
【0084】
別の特定の態様では、本発明による候補化合物は、アプタマーより選択されることがある。アプタマーは、分子認識に関して抗体の代替となる分子クラスである。アプタマーは、事実上任意のクラスのターゲット分子を高い親和性および特異性で認識する能力を有するオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C.およびGold L.(1990)に記載されているようなランダム配列ライブラリーの指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化(SELEX)によって単離されることがある。ランダム配列ライブラリーは、DNAのコンビナトリアル化学合成によって得ることが可能である。このライブラリーの中で、各メンバーは、場合により化学的に改変された独自配列の線状オリゴマーである。この分子クラスの可能性のある改変、用途および利点は、Jayasena S.D.(1999)に総説されている。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド法によるコンビナトリアルライブラリーより選択される、E. coliチオレドキシンAなどのプラットフォームタンパク質によって表示される立体構造的に制約された抗体可変領域から成る(Colas et al., 1996)。
【0085】
別の態様では、候補分子は、タンパク質FKBP52の合成を遮断する分子より選択されることがある。
【0086】
合成とは、FKBP52遺伝子の転写が意味される。小分子は、FKBP52のプロモーター領域上に結合して転写因子の結合を阻害することができるか、またはこれらの分子は、転写因子と結合してFKBP52−プロモーターへの結合を阻害することにより、FKBP52の発現がないようにすることができる。
【0087】
同様に本発明の範囲内に入るのは、FKBP52 mRNAの翻訳を阻害するように機能するアンチセンスRNAおよびDNA分子およびリボザイムが含まれるオリゴリボヌクレオチド配列の使用である。アンチセンスRNAおよびDNA分子は、ターゲティングされたmRNAに結合しタンパク質の翻訳を防止することによってmRNAの翻訳を直接遮断するように作用する。アンチセンスDNAに関して、オリゴデオキシリボヌクレオチドは、翻訳開始部位から得られる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒可能な酵素的RNA分子である。リボザイムの作用機序は、相補的ターゲットRNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションに続くエンドヌクレアーゼ的切断を伴う。
【0088】
FKBP52の遺伝子または遺伝子産物の活性を阻害するために、三つの異なる種類のターゲット、すなわちDNA、RNAおよびタンパク質に向けた受注生産技法が利用可能であり、例えばFKBP52の遺伝子または遺伝子産物は、相同組換えによって変化させることができ、遺伝コードの発現は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉性RNA(RNAi)またはリボザイムによってRNAレベルで阻害することができ、タンパク質機能は抗体または薬物によって変化させることができる。
【0089】
本発明の別の態様は、神経原線維変化におけるタウ凝集または沈着の障害の予防または治療を必要とする対象においてそれを予防または治療する薬物を製造するための、FKBP52の発現を阻害する分子、好ましくはアンチセンス分子、RNAiおよびリボザイムから成るリストより選択される、FKBP52の発現を阻害する分子の使用である。
【0090】
本発明の処置方法:
さらなる局面では、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための方法であって、それを必要とする対象にタウとFKBP52タンパク質との間の相互作用をモデュレーションする化合物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。該化合物は、本発明のスクリーニング法によって確認されることがある。
【0091】
さらに具体的には、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療に使用するための、タウとFKBP52タンパク質との間の相互作用をモデュレーションする化合物に関する。
【0092】
本発明の方法は、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症およびピック病としても知られている前頭側頭葉変性症、ならびに将来的にタウを必要とすることが証明されうる、例えばパーキンソン病などの全ての神経障害を含めた、タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療に有用である。
【0093】
本発明によると、「患者」または「それを必要とする患者」という用語は、タウ機能不全を伴う神経障害に冒されているか、または冒される見込みのあるヒトまたは非ヒト哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、ウマなど)が意図される。
【0094】
本発明の化合物の「治療有効量」とは、タウ機能不全を伴う神経障害を、任意の医学処置に適用可能な合理的便益/リスク比で処置するために十分な化合物の量が意味される。しかしながら、本発明の化合物および本発明の組成物の合計1日使用量が担当の医師によって健全な医学的判断の範囲内で決定されることが了解されている。任意の特定患者についての特定治療有効用量レベルは、処置される障害およびその障害の重症度;採用される特定化合物の活性;採用される特定組成物;患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別および食事;採用される特定化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度;処置の持続期間;採用される特定化合物と組合せてまたは同時に使用される薬物;医学分野において周知の類似の要因などを含めた多様な要因に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために必要な用量よりも低いレベルで化合物の用量を始めること、および所望の効果が達成されるまで薬用量を徐々に増加させることは、十分に当技術分野の技術の範囲内である。
【0095】
本発明のタウとFKBP52タンパク質との間の相互作用をモデュレーションする化合物は、薬学的に許容されうる賦形剤と組合されることがある。「薬学的に」または「薬学的に許容されうる」は、必要に応じて哺乳動物、特にヒトに投与される場合に、有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物を表す。薬学的に許容されうる担体または賦形剤は、無毒の固形、半固形または液体の増量剤、希釈剤、封入物質または任意の種類の製剤補助剤を表す。
【0096】
さらなる局面では、本発明は、アルツハイマー病の予防および治療のための方法であって、それを必要とする対象にタウとFKBP52タンパク質との間の相互作用およびFKBP52とAPPとの間の相互作用の両方をモデュレーションする化合物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0097】
本発明の診断法:
本発明のさらなる局面は、診断アッセイ、予後アッセイ、およびモニタリングアッセイに関係する。
【0098】
したがって特定の態様では、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害を有するかまたは有する素因があると考えられる対象を試験する方法であって、FKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体のレベルを測定するために該対象から得られた関心が持たれる試料を分析するステップを含む方法に関する。
【0099】
本明細書に使用されるような「関心が持たれる試料」という用語は、対象から得られた多様な試料の種類を包含し、診断アッセイに使用することができる。本明細書における試料は、任意の細胞試料、血液、血清、尿、髄液などを含めた生体液、または対象の組織から得られた任意の生検試料などの任意の種類の試料でありうる。好ましい態様では、関心が持たれる試料は、髄液試料である。
【0100】
特定の態様では、本発明の方法は、関心が持たれる試料を、その関心が持たれる試料中に存在するFKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体と選択的に相互作用可能な結合パートナーと接触させることを含む。別の特定の態様では、本発明の方法は、関心が持たれる試料を、その関心が持たれる試料中に存在するFKBP52タンパク質と選択的に相互作用可能な結合パートナーおよびタウタンパク質と選択的に相互作用可能な別の結合パートナーと接触させることを伴うことがある。
【0101】
本発明による結合パートナーは、ポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナルでありうる抗体でありうる。別の態様では、結合パートナーは、アプタマーでありうる。
【0102】
抗体またはアプタマーなどの本発明の結合パートナーは、蛍光分子、放射性分子または当技術分野で公知の任意の他のラベルなどの検出可能な分子または物質でラベルされていることがある。一般に(直接または間接的に)シグナルを提供するラベルが、当技術分野において公知である。
【0103】
抗体に関して本明細書において使用されるような「ラベルされた」という用語は、放射性薬剤またはフルオロフォア(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))などの検出可能な物質を抗体またはアプタマーにカップリング(すなわち物理的に連結)することによる、その抗体またはアプタマーの直接ラベル化、および検出可能な物質との反応性によるプローブまたは抗体の間接ラベル化を包含することが意図される。本発明の抗体またはアプタマーは、当技術分野において公知の任意の方法によって放射性分子でラベルされていることがある。例えば放射性分子には、非限定的にI123、I124、In111、Re186、Re188などのシンチグラフィー研究用放射性原子が含まれる。
【0104】
前記アッセイは、全般に固体基材中での結合パートナー(すなわち抗体またはアプタマー)の結合を伴う。本発明の実施に使用することができる固体基材には、ニトロセルロース(例えば、メンブランまたはマイクロタイターウェルの形態のもの);ポリビニルクロリド(例えば、シートまたはマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えば、ビーズまたはマイクロタイタープレート);フッ化ポリビニリジン(polyvinylidine);ジアゾ化紙;ナイロンメンブラン;活性化ビーズ、磁気応答性ビーズなどの物質が含まれる。
【0105】
FKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体のレベルは、競合、直接反応、またはサンドイッチ型アッセイなどのイムノアッセイを含めた標準的な免疫診断技法を使用することによって測定されることがある。そのようなアッセイには、非限定的に凝集検査;ELISAなどの酵素ラベルおよび酵素介在性イムノアッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降が含まれる。
【0106】
さらに具体的には、マイクロタイタープレートのウェルが本発明による1組の結合パートナーでコーティングされるELISA法を使用することができる。次に、FKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体を含有するかまたは含有する疑いのある、関心が持たれる試料を、そのコーティングされたウェルに加える。抗体−抗原複合体を形成させるために十分なインキュベーション時間の後に、プレートを洗浄して未結合の部分を除去し、検出可能にラベルされた二次結合分子を加えることができる。二次結合分子を、任意の捕獲された試料マーカータンパク質と反応させ、プレートを洗浄し、二次結合分子の存在を、当技術分野において周知の方法を使用して検出する。
【0107】
または、免疫組織化学(IHC)法が好ましいことがある。IHCは、組織検体中のターゲットをin situで検出する方法を特異的に提供する。したがって、IHCでは関心が持たれる試料の全体的な細胞完全性は維持され、よってFKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体の存在および局在の両方の検出が可能になる。典型的には、試料はホルマリンで固定され、パラフィン中に包埋され、切片にされ、染色およびその後の光学顕微鏡検査に供される。IHCの現法は、直接ラベル化または二次抗体ベースもしくはハプテンベースのラベル化のいずれかを使用する。公知のIHC系の例には、例えば、EnVision(商標)(DakoCytomation)、Powervision(登録商標)(Immunovision, Springdale, AZ)、NBA(商標)キット(Zymed Laboratories Inc., South San Francisco, CA)、HistoFine(登録商標)(Nichirei Corp, Tokyo, Japan)が含まれる。
【0108】
特定の態様では、組織切片を本発明の結合パートナーと共にインキュベーション後にスライドまたは他の基材上にマウントすることができる。次に、適切な固体基材上にマウントされた試料の顕微鏡検査を行うことができる。顕微鏡写真の作製のために、試料を含む切片をガラススライドまたは他の平面基材上にマウントし、関心が持たれるタンパク質の存在を選択的に染色することによって強調することができる。
【0109】
したがって、IHC試料には、例えば:(a)細胞試料または組織試料を含む調製物、(b)固定および封入された該細胞ならびに(c)該細胞試料中のFKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体を検出することが含まれうる。いくつかの態様では、IHC染色手順は、組織を切断およびトリミングすること、固定、脱水、パラフィン浸潤、薄切片に切断すること、ガラススライド上にマウントすること、焼成、脱パラフィン、再水和、抗原賦活化、ブロッキングステップ、一次抗体を適用すること、洗浄、二次抗体(場合により適切な検出可能ラベルにカップリングしたもの)を適用すること、洗浄、対比染色、および顕微鏡観察などのステップを含みうる。
【0110】
一態様では、本発明の方法は、さらにFKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体のレベルを、予め決定されたしきい値と比較するステップを含みうる。該比較は、対象がタウ機能不全を伴う神経障害を有するか、または有する素因があると考えられるかどうかを示す。その予め決定された値は、対象の全般集団または選択集団から得られた、関心が持たれる試料中のFKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体の量を表しうる。例えば、選択集団は、タウ機能不全を伴う神経障害の存在を示す徴候または症状を以前に全く有したことのない個体などの、見かけ上健康な対象から構成されることがある。別の例では、予め決定された値は、タウ機能不全を伴う神経障害が立証された対象から構成されることがある。予め決定された値は、カットオフ値または範囲でありうる。予め決定された値は、見かけ上健康な対象とタウ機能不全を伴う神経障害が立証された対象との間の比較測定に基づき確立することができる。
【0111】
さらに、理論に縛られることを望むわけではないが、本発明者らは、FKBP52の異常な発現もしくは活性、および/または特にそれがタウと結合する能力がそれにより、個体がタウ機能不全を伴う神経障害を患うかまたはタウ機能不全を伴う神経障害を発生するリスクがあるかどうかを決定することを確信する。
【0112】
したがって特定の態様では、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害を有するかまたは有する素因があると考えられる対象を試験する方法であって、該対象から得られた関心が持たれる試料を、FKBP52タンパク質および/またはその関連プロモーターをコードする遺伝子における突然変異の存在を検出するために分析するステップを含む方法に関する。
【0113】
FKBP52タンパク質をコードする遺伝子における突然変異を検出するための典型的な技法には、制限フラグメント長多型、ハイブリダイゼーション技法、DNAシーケンシング、エキソヌクレアーゼ耐性、マイクロシーケンシング、ddNTPを使用した固相伸長、ddNTPを使用した溶液中伸長、オリゴヌクレオチドアッセイ、動的アレル特異的ハイブリダイゼーションなどの一塩基多型検出法、ライゲーション連鎖反応、ミニシーケンシング、DNA「チップ」、PCRまたは分子ビーコンとマージされた、単一または二重ラベル化プローブを用いたアレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション他が含まれうる。
【0114】
別の特定の態様では、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害を有するかまたは有する素因があると考えられる対象を試験する方法であって、FKBP52タンパク質をコードする遺伝子の発現を分析するために該対象から得られた関心が持たれる試料を分析するステップを含む方法に関する。
【0115】
FKBP52タンパク質をコードする遺伝子の発現を分析することは、転写された核酸または翻訳されたタンパク質の発現を検出するための多種多様な周知の方法のいずれかによって評価されることがある。
【0116】
好ましい態様では、FKBP52タンパク質をコードする遺伝子の発現は、該遺伝子の新生RNAなどのmRNA転写物またはmRNA前駆体の発現を分析することによって評価される。該分析は、対象からの関心が持たれる試料中の細胞からmRNA/cDNAを調製すること、およびそのmRNA/cDNAを参照ポリヌクレオチドとハイブリダイゼーションさせることによって評価することができる。調製されたmRNA/cDNAは、非限定的にサザンまたはノーザン分析、定量PCR(TaqMan)などのポリメラーゼ連鎖反応分析、およびGeneChip(商標)DNAアレイ(AFFYMETRIX)などのプローブアレイが含まれるハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイに使用することができる。
【0117】
好都合には、FKBP52タンパク質をコードする遺伝子から転写されたmRNAの発現レベルの分析は、例えばRT−PCR(米国特許第4,683,202号に示される実験態様)、リガーゼ連鎖反応(BARANY, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.88, p: 189-193, 1991)、自家持続配列複製(GUATELLI et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.57, p: 1874-1878, 1990)、転写増幅系(KWOH et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.86, p: 1173-1177, 1989)、Q−βレプリカーゼ(LIZARDI et al., Biol. Technology, vol.6, p: 1197, 1988)、ローリングサークル複製(米国特許第5,854,033号)または他の任意の核酸増幅法による核酸増幅プロセスに続く、当業者に周知の技法を使用した増幅分子の検出を伴う。核酸分子が非常に低い数で存在する場合、これらの検出スキームは、そのような分子の検出に特に有用である。本明細書に使用されるように、増幅プライマーは、遺伝子の5’または3’領域(それぞれプラスおよびマイナス鎖またはその逆)にアニーリングすることができる核酸分子ペアであって、その間に短鎖の領域を含有する核酸分子ペアであると定義される。一般に、増幅プライマーは、10〜30ヌクレオチド長であり、約50〜200ヌクレオチド長の領域に隣接する。適切な条件下で適切な試薬を用いて、そのようなプライマーは、プライマーに隣接するヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を許す。
【0118】
別の特定の態様では、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害を有するかまたは有する素因があると考えられる対象を試験する方法であって、FKBP52タンパク質の濃度を測定するために該対象から得られた関心が持たれる試料を分析するステップを含む方法に関する。
【0119】
FKBP52タンパク質の濃度の測定は、上記結合パートナー、さらに具体的には抗体(例えば、放射性ラベルされた、発色団ラベルされた、フルオロフォアラベルされた、または酵素ラベルされた抗体)、抗体誘導体(例えば、基質との、またはタンパク質/リガンドペア(例えばビオチン−ストレプトアビジン)のタンパク質もしくはタンパク質のリガンドとの抗体コンジュゲート)、またはFKBP52タンパク質に特異的に結合する抗体フラグメント(例えば、1本鎖抗体、単離された抗体超可変部ドメインなど)を使用することによって評価されることがある。
【0120】
該分析は、非限定的に酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット分析および酵素結合免疫吸着アッセイ(RIA)を含めた、当業者に周知の多様な技法によって評価することができる。
【0121】
本発明の方法は、対象からの関心が持たれる試料中のFKBP52タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルまたはFKBP52タンパク質の濃度を、予め決定されたしきい値と比較することを含みうる。予め決定された値は、対象の全般集団または選択集団から得られた、関心が持たれる試料中の発現レベルまたは測定された濃度を表しうる。例えば選択集団は、タウ機能不全を伴う神経障害の存在を示す任意の徴候または症状を以前に有したことのない個体などの、見かけ上健康な対象から構成されうる。別の例では、予め決定された値は、タウ機能不全を伴う神経障害が立証された対象から構成されうる。予め決定された値は、カットオフ値または範囲でありうる。予め決定された値は、見かけ上健康な対象と、タウ機能不全を伴う神経障害が立証された対象との間の比較測定に基づき確立することができる。
【0122】
別の特定の態様では、本発明は、タウ機能不全を伴う神経障害を有するかまたは有する素因があると考えられる対象を試験する方法であって、FKBP52タンパク質の翻訳後改変を検出するために該対象から得られた関心が持たれる試料を分析するステップを含む方法に関する。
【0123】
FKBP52タンパク質の翻訳後改変には、非限定的にリン酸化、アセチル化、グリコシル化などが含まれる。FKBP52タンパク質の翻訳後改変の検出は、翻訳後型FKBP52タンパク質に特異的な結合パートナーを使用することによって評価することができる。上記のように、結合パートナーは、抗体(例えば、放射性ラベルされた、発色団ラベルされた、フルオロフォアラベルされた、または酵素ラベルされた抗体)、抗体誘導体(例えば基質と、またはタンパク質/リガンドペア(例えばビオチン−ストレプトアビジン)のタンパク質もしくはタンパク質のリガンドとの抗体コンジュゲート)、または特定形態のFKBP52タンパク質に特異的に結合する抗体フラグメント(例えば、1本鎖抗体、単離された抗体超可変部ドメインなど)でありうる。該分析は、非限定的に酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット分析および酵素結合免疫吸着アッセイ(RIA)を含めた、当業者に周知の多様な技法によって評価することができる。
【0124】
次に上記方法は、タウ機能不全を伴う神経障害によって特徴づけられるまたはそれに関連する臨床徴候の開始前に対象に予防的処置を施すために、予後または予測目的のために特に適切でありうる。臨床徴候には、非限定的に任意のCNS活動性の任意の種類の機能不全(運動/知覚活動性、睡眠障害、うつ状態、健忘症など)が含まれうる。さらに具体的には、本発明の方法は、タウ機能不全を伴う神経障害を患う対象の処置をモニタリングするためにも有用でありうる。
【0125】
本発明は、さらに、以下の図面および実施例によって例示される。しかしながら、これらの実施例および図面は、何らかの方法で本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】脳内FKBP52を示す図である。異なる成体ラット脳領域由来サイトゾルタンパク質20μgを、抗FKBP52抗体761を使用したウエスタンブロッティングによって分析した。アクチンをローディング対照として役立てた。
【図2】FKBP52とタウタンパク質との間の結合を示す図である。A)GSTプルダウンアッセイ:GSTタグ付けされたFKBP52、または対照としてGST単独と共にインキュベーションされた可溶性微小管抽出物タンパク質の結合を示す、タウについてのイムノブロット(IB)。B)免疫共沈アッセイ:可溶性微小管抽出物を、免疫精製された抗FKBP52抗体、または対照として使用された免疫処置前血清を用いた免疫沈降(IP)に供した。上清(S)および沈殿(P)を抗タウ抗体(クローンDC25)で免疫ブロットした。C)タウタンパク質がFKBP52と直接結合する能力をドットブロットアッセイによってモニタリングした。異なる量のリコンビナント−タウ(hT40)をニトロセルロースメンブラン上にスポットし、次に結合しているFKBP52(0.5μg)について抗FKBP52抗体を使用してアッセイした。ニトロセルロースメンブラン上にスポットされたGST 5μgを対照として使用した。定量:100%は、ミルク飽和前のFKBP52 0.5μgのロードに対応し、0%は、ミルク飽和後のFKBP52 0.5μgのロードに対応する。バックグラウンドは、hT40の代わりにGSTがロードされた場合のシグナルとして定義される。hT40によって捕獲されたFKBP52のレベルを、バックグラウンドの減算後に計算した。
【図3】タウとFKBP52との相互作用についてのタウリン酸化の関連性を示す図である。A)リコンビナントタウ(hT40)、P−タウおよびHP−タウをSDS−Pageによって分析した。HT40のリン酸化および過剰リン酸化は、抗タウ抗体(クローンDC25)を用いた免疫ブロット(IB)で示されたようなリコンビナント−タウのゲル移動度の顕著な減少を招いた。B)2.2μgのHP−タウ(1)、P−タウ(2)、純粋なリコンビナントhT40(3)、P−タウまたはHP−タウを生成させるために使用されたものと同量のサイトゾルがスポットの直前に添加されたhT40(それぞれ4または5)を用いたドットブロットアッセイ。ドット6は、GST(5μg)のロードを表す。
【図4】初代皮質ニューロンおよびPC12細胞におけるFKBP52およびタウの共局在を示す図である。A)50nM NGFで5日間処理された初代皮質ニューロンおよびPC12細胞の免疫蛍光染色。タウおよびFKBP52についての二重染色は、細胞骨格結合を証明するためにサイトゾル抽出後に行った。矢印は、神経細胞軸索遠位部分における、およびPC12細胞神経突起末端での、両タンパク質の優先的共局在を示す。B)初代皮質ニューロンの共焦点像。二重染色は、(A)と同様に行った。0.5μmスライスの分析は、軸索遠位部分における優先的共局在を確認するものである(矢じり印参照)。
【図5】リコンビナントタウのアイソフォームによって誘導されたチューブリン重合に及ぼすFKBP52の作用を示す図である。チューブリン重合を、4℃から37℃に試料をスイッチすることによって行い、濁度変化を345nmで15分間モニタリングした。ラット脳から精製されたチューブリン(1mg/ml)を1.7μM(HT40に関して23μg)の異なるヒト−タウアイソフォームの不在下(◆)または存在下でFKBP52(◇)なしに、または3.5μM(55μg)FKBP52(▲)と共にインキュベーションした。タウ−アイソフォームは、微小管結合メインにおけるリピート数およびN末端における挿入が相互に異なる。タウアイソフォームの名称付けは、公表された命名法を使用する(28)。G:FKBP52の代わりに3.5μM GST(▲)が使用されたことを除いて(A)と同様にこの対照実験を実施した。
【図6】FKBP52の過剰発現がタウ蓄積および神経突起伸長に及ぼす作用を示す図である。A)1μg/ml Dox(ドキシサイクリン)の不在下または存在下でNGF(50nM)で処理されたかまたは処理されていないPC12細胞。抗FKBP52抗体761を使用したウエスタンブロットによって10μgの総タンパク質抽出物をFKBP52レベルについて分析した。B)Doxで処理されたかまたは処理されていないH7C2細胞から(A)と同様にFKBP52レベルを決定した。外因性タンパク質としてのウサギFKBP52の使用は、内因性ラットタンパク質とのゲル移動度の小さな差を説明する。C)H7C2およびPC12細胞を1週間のDoxの存在下または不在下でNGFで5日間処理したかまたは処理しなかった。抽出物50μgをSDS−PAGEに供し、抗タウ(抗体クローンDC25)で免疫ブロットした。ロード対照としてアクチンを使用した。D)Doxを有するまたは有さないNGF(50nM)存在下の代表的なH7C2細胞。ランダムな写真から神経突起長を定量した(材料および方法を参照のこと)。3回の別々の実験で類似の結果が得られた。**:P<0.01(Student-Newman-Keuls検定、Anova)。
【図7】タウ重合の遠心沈降およびウエスタンブロット分析を示す図である:(A)酸化条件: Ox、(B)還元条件:Red。S:上清、P:ペレット。
【図8】酸化条件におけるタウ重合の遠心沈降およびウエスタンブロット分析を示す図である。1:単独、2:FKBP52と共の、3:GSTと共の、0,5mg/mlリコンビナントタウ。S:上清、P:ペレット。
【図9】酸化条件におけるFKBP52およびタウ重合の遠心沈降およびウエスタンブロット分析を示す図である:1:単独または、2:1mg/ml、3:0,5mg/ml、4:0,25mg/ml、5:0,125mg/mlのFKBP52存在下の0,5mg/mlリコンビナント−タウ。S:上清、P:ペレット。
【図10A−1】アルツハイマー病および対照脳内におけるFKBP52の発現レベルを示す図である。正常およびアルツハイマー病からの可溶性均一画分中のFKBP52のウエスタンブロット分析。GAPDHをロード対照として使用した。化学発光強度をImage-Jソフトウェアで定量した。
【図10A−2】アルツハイマー病および対照脳内におけるFKBP52の発現レベルを示す図である。正常およびアルツハイマー病からの可溶性均一画分中のFKBP52のウエスタンブロット分析。GAPDHをロード対照として使用した。化学発光強度をImage-Jソフトウェアで定量した。
【図10B−1】アルツハイマー病および対照脳内におけるFKBP52の発現レベルを示す図である。正常およびアルツハイマー病からの可溶性均一画分中のFKBP52のウエスタンブロット分析。GAPDHをロード対照として使用した。化学発光強度をImage-Jソフトウェアで定量した。
【図10B−2】アルツハイマー病および対照脳内におけるFKBP52の発現レベルを示す図である。正常およびアルツハイマー病からの可溶性均一画分中のFKBP52のウエスタンブロット分析。GAPDHをロード対照として使用した。化学発光強度をImage-Jソフトウェアで定量した。
【図11】アルツハイマー病および対照におけるmRNA FKBP52の発現レベルを示す図である。mRNA GAPDHで基準化後にmRNA FKBP52の定量を実施した。
【0127】
実施例1:タウタンパク質機能に果たすFKBP52の役割
材料および方法
抗体および試薬:抗タウmAB(クローンDC25)および抗タウmAB(Tau5)は、それぞれSigmaおよびCalbiochem製であった。抗FKBP52 pAB761は、記載の通りであった(9)。GTPはSigma製であり、ドキシサイクリンはClontech製であった。
【0128】
チューブリンの調製および微小管集合アッセイ:雄性成Sprague-Dawleyラット(体重約250g)を、Janvier(Le Genest-St.-Isle, France)から得た。それらを施設のガイドラインに沿って断頭によって屠殺し、直ちに全脳を使用して記載(9)の通りチューブリンを調製した。微小管集合アッセイは、(9)と同様に行った。
【0129】
タンパク質の精製および異なるタウアイソフォームおよびFKBP52タンパク質の過剰発現:E.coliにおいてヒト脳タウの6種のアイソフォームをクローンhT40、hT39、hT37、hT34、hT24、hT23から発現させ、記載のように精製した(28)。完全長FKBP52を(23)のようにアフィニティー精製した。チューブリン重合アッセイのために、グルタチオン−セファロースビーズ(GE Healthcare)に結合したFKBP52を、2ユニットのトロンビン(GE Healthcare)を用いて4℃で一晩切断し、10%グリセロールを有する緩衝液L(0.1M Mes、1mM EGTA、1mM MgCL、0.1mM EDTA)で透析し、1mM GTPおよび1mM DTTおよび10μM PPACK(トロンビンの強力不可逆阻害剤)(Biomol)まで補充してから使用した。
【0130】
リコンビナントタウのリン酸化および過剰リン酸化:記載のように(18)、ラット脳抽出物をキナーゼ活性源として使用した。簡潔には、オカダ酸の存在下または不在下でリコンビナントhT40を成体ラット脳のサイトゾルと共にインキュベーションしてそれぞれHP−タウ(過剰リン酸化タウ)およびP−タウ(リン酸化タウ)を得た。
【0131】
タンパク質結合アッセイ:GST−プルダウンアッセイ:1nmol GST−FKBP52または1nmol GSTを予備ロードされたグルタチオン−セファロースビーズ100μlを緩衝液A 500μl(1mM DTTおよび1mM GTPを補充された緩衝液L)で4回洗浄し、次にタンパク質微小管抽出物を含有する同緩衝液中に再懸濁した。1/1000希釈した抗体抗タウ(クローンDC25)を使用したSDS/PAGEウエスタンブロット分析によって、タンパク質をタウアイソフォームの存在について分析した。
【0132】
免疫共沈アッセイ:記載のように(12)、1mgのサイトゾル微小管抽出物を用いて実施した。
【0133】
ドットブロットアッセイ:異なる量のhT40を含有する緩衝液A 100μlをニトロセルロースメンブランに適用し、0.1% Tween20を含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)(PBS−T)に溶かした5%脱脂ミルクで室温でブロッキングし、PBS−Tおよび緩衝液Aで洗浄し、続いて0.5μgのリコンビナントFKBP52を含有する緩衝液A 100μlと共に室温で2時間インキュベーションした。メンブランを緩衝液IP(50mM Tris(pH7.5)/150mM NaCl/2mM MgCl/0.1% Brij97(Sigma)/10%グリセロール/プロテアーゼ阻害剤)およびPBS−Tで洗浄した。PBS−Tに溶かしたミルクでブロッキング後に、メンブランを抗FKBP52 761抗体と共にインキュベーションした。FKBP52の存在をECLによって明らかにした。16ビットCCDカメラを装備するChemidoc XRSを使用したQuantity-oneソフトウェア(Biorad)を用いて定量を行った。
【0134】
細胞系および安定DNAトランスフェクション:
H7C2細胞の生成:pTRE2−FKBP52を得るために、ウサギFKBP52をコードするcDNAをpTRE2ベクター(Clontech)のHindIIIおよびAccI制限部位に挿入した。リバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子を発現する市販のPC12 Tet−on細胞系(Clontech)においてリポフェクタミン(商標)(Invitrogen)を使用して100μgのpTR2−FKBP52および10μgのpTK−ヒグロマイシンのトランスフェクションを実施した。安定にトランスフェクションされた細胞を、100μg/mlヒグロマイシンを用いて選択し、個別にスクリーニングした。
【0135】
細胞培養:PC12細胞およびH7C2細胞を、10%(v/v)ウマ血清および5%(v/v) FBS(Invitrogen)を含有するDMEMに入れて90% O/10% CO中で37℃で成長させた。神経成長因子(NGF)(Invitrogen)を5日間添加することによって、10μg/mlポリ(L)−リシン(Sigma)をコーティングされたプラスチック皿上に成長した、細胞の分化ニューロン表現型を誘導した。ラット胎生17日胎仔の脳皮質由来初代培養を実施した。ポリ(L−オルニチン)がコーティングされたカバーガラス上に解離された細胞を蒔き(細胞50,000個/ml)、合成培地に入れて95% O/5% CO中で37℃で培養した。
【0136】
免疫組織化学検査:12ウェル組織培養プレート中で予備コーティングされたカバーガラス上に細胞を成長させた。0.05% トリトンを有するPEM緩衝液(80mM PIPES、1mM MgCl、2mM EGTA、pH6.9)中で初代細胞およびPC12細胞をそれぞれ2.5分間および3分間インキュベーションし、温トリトン不含PEMですすぎ、メタノールを用いて−20℃で5分間固定し、アフィニティー精製された抗FKBP52 761(1/1000)、および抗タウ5(1/100)と共にインキュベーションした。抗ウサギAlexa Fluor 488−コンジュゲーション型(Invitrogen)、抗マウスFITC−コンジュゲーション型またはCy(商標)3レッド−コンジュゲーション型(GE-Healthcare)抗体をそれぞれ1/500および1/1000で使用した。×63対物レンズを備えるZeiss axioplan顕微鏡を使用した落射蛍光または共焦点顕微鏡法(Zeiss, Thornwood, NY, USA)のいずれかによってカバーガラスを検査した。
【0137】
神経突起伸長の定量:3個のウェルのそれぞれの中のPC12およびH7C2細胞のランダム場の写真をNeuron Jソフトウェアで分析した。ランダムに選択された少なくとも200個の細胞の最長神経突起を測定することによって、平均神経突起長を決定した。
【0138】
結果
タウFKBP52の結合:いくつかの脳領域由来のサイトゾルタンパク質のウエスタンブロットによって示されるように、FKBP52は脳内に広く分布する(図1)。微小管安定性に及ぼすFKBP52の作用にMAPが関与しうるかどうかを検討するために(9)、セファロースビーズに結合したGST−FKBP52を、成体ラット脳から調製された微小管サイトゾルと共にインキュベーションしてGSTプルダウンアッセイを実施した。特異的に結合したタンパク質を、MAP1b、MAP2およびタウに対する抗体を使用した免疫ブロッティングによって分析した。これらの実験条件において、MAP1bまたはMAP2についての免疫反応性は観察されず、タウの免疫反応性が存在した(図2A)。ラット脳ホモジェネートにおいて、タウは、様々なリン酸化度を有する、異なるスプライスアイソフォームを表す複数のバンドとして現れる。いくつかのタウ種は、GST−FKBP52を使用したラット脳サイトゾル微小管のプルダウン実験でも見出された。タウの免疫反応性は、精製GSTを使用した対照では検出されなかった(図2A)。この結合の特異性を確認するために、成体ラット脳サイトゾルの微小管を、FKBP52に対するポリクローナル抗体と共に免疫沈降させた。モノクローナルタウ抗体を用いたウエスタンブロッティングによって免疫沈降物を分析した。タウは、免疫前血清ではなくFKBP52と共に免疫共沈した(図2B)。したがって、タウとFKBP52とは、ラット脳内で複合体を形成する。これらの実験は、FKBP52へのタウの結合が直接的であるかどうかにも、それが追加的な因子を必要とするかどうかにも取組むものではない。これを検討するために、リコンビナントタウ(hT40、E. coliにおいて発現および精製された最長のアイソフォーム)をニトロセルロース上にスポットし、精製リコンビナントFKBP52と共にインキュベーションした。次に、タウによって隔離されたタンパク質を、FKBP52に対するポリクローナル抗体を用いて検出した。図2Cに示すように、FKBP52は、GSTによってではなくタウによって用量依存的に保持された。これらの結果から、FKBP52とタウとの間の直接相互作用が示される。
【0139】
それとFKBP52との相互作用に及ぼすタウリン酸化の作用:タウのリン酸化がそれとFKBP52との結合をモデュレーションするかどうかを確定するために、リコンビナントリン酸化タウ(P−タウ)および過剰リン酸化タウ(HP−タウ)を使用してドットブロット実験を行った(18)(図3A)。FKBP52とP−タウまたはHP−タウとの間の相互作用の特異性を、スポットの直前に、これらのリン酸化ht40、非リン酸化hT40、またはリン酸化または過剰リン酸化hT40を得るために使用されたものと同量のサイトゾルタンパク質が添加されたhT40のいずれかをベイトとして使用した実験によって決定した。図3Bに示されるように、タウによって動員されるFKBP52の量は、そのリン酸化状態に依存する。73%(±7)のFKBP52が2.2μgのHP−タウによって保持され、一方で同量のhT40および対照として使用されたサイトゾルタンパク質の存在下のhT40によって、それぞれわずか3.5%および6.6%が保持された。P−タウがベイトとして使用された場合、わずか41%(±15)のFKBP52が捕獲された。FKBP52への結合におけるHP−タウとP−タウとの間のこの差は、特定部位での異なる程度のタウリン酸化または全般量のタウリン酸化または両メカニズムの組合せによって説明できる(図3A)。どの場合でもこれらの結果は、それがFKBP52に結合することに関するタウリン酸化の重要性を明確にするものである。
【0140】
初代皮質ニューロンおよびPC12細胞におけるタウおよびFKBP52の共局在:ラット初代皮質ニューロンを用いた免疫蛍光実験によって、タウおよびFKBP52の細胞内局在を調べた。6日培養および未結合のサイトゾルタンパク質を選択的に除去する一方で細胞骨格に結合したタンパク質を保持する穏やかな抽出の後で、モノクローナル抗体タウ5およびアフィニティー精製されたポリクローナル抗FKBP52抗体を用いてニューロンに二重染色を行った。以前の報告に一致して(19)、タウは、軸索遠位部分および成長円錐ネックに濃縮されており、そこでFKBP52の強い蓄積も観察された(図4)。FKBP52およびタウの共局在および蓄積も、PC12細胞の成長円錐に見出された(図4)。ごく最近になって、タウが選択的に軸索先端に豊富に存在すること、およびこれがその特異的アンカリングが原因でありうることが報告されている(20)。本発明者らの結果により、FKBP52がタウのトラップに関与しうることによってその細胞内分布に影響できることが示唆される。
【0141】
FKBP52は、in vitroでタウによって誘導されるチューブリン重合を阻害する:タウとFKBP52との間の機能的相互作用を実証するために、微小管動態アッセイを設定した。精製ラット脳チューブリン単独を用いた実験では、微小管は形成せず、一方でリコンビナントヒト−タウアイソフォームを用いた実験では、微小管の集合を反映する吸光度増加が観察された(図5)。しかし、精製リコンビナントFKBP52の存在下でチューブリンにタウを添加すると、微小管の形成は防止されたが、一方でGSTは無効であった。ヒトタウの6種のアイソフォームで類似の結果が得られた(図5)。本発明者らは、FKBP52がタウによる微小管集合促進を阻害すると結論した。
【0142】
FKBP52は、PC12細胞においてタウ蓄積および神経突起伸長を防止する:安定的にトランスフォーメーションされたPC12細胞系の生成を可能にするテトラサイクリン応答エレメントに基づくFKBP52誘導性発現系を使用して(21)、FKBP52についての細胞的役割を決定した。PC12細胞に及ぼすFKBP52の過剰発現の作用を検討するために、そしてさらにFKBP52とタウとの間の可能性のある関係を検討するために、試験結果が陽性となったクローンのうち一つのクローン、いわゆるH7C2を選択して使用した。基本条件下でH7C2細胞は内因性FKBP52を発現し、Dox(ドキシサイクリン)処理は、リコンビナントFKBP52タンパク質発現の顕著な増加を招いた(図6A)。H7C2細胞におけるFKBP52誘導は、5日間のDox処理後に約4倍であった。
【0143】
タウの蓄積にFKBP52が及ぼす作用を次に調査した。タウタンパク質の量は、Dox存在下または不在下でNGF(50nM)で5日間処理されたか、またはされていないPC12細胞またはH7C2細胞いずれかの培養物からの抽出物のウエスタンブロッティングによって決定した。PC12細胞において、NGFを用いた処理後にFKBP52の発現は不変であった(図6B)。予想通り、PC12およびH7C2細胞の両方においてNGF処理後にタウの増加が観察された。しかしながら、そのようにFKBP52を過剰発現しているNGFに加えてDoxをH7C2細胞に曝露すると、タウタンパク質の追加的な蓄積は起こらなかった。タウタンパク質の増加は、NGFおよびDoxで処理されたPC12細胞でもなお観察され、Doxがタウ減少の欠如の原因であったことを排除している(図6C)。結論として、FKBP52は、PC12細胞においてNGFによって誘導されるタウ蓄積を防止した。
【0144】
タウの一つの役割が神経突起の伸長を刺激することであるので(12)、本発明者らは、PC12およびH7C2細胞の両方でFKBP52の過剰発現が神経突起成長に及ぼす結果を検討した。NGFの不在下で、H7C2細胞をDoxで1週間処理してもしなくても、H7C2細胞において神経突起の伸長は観察されなかった。しかし、50nM NGFおよびDoxで処理されたH7C2細胞では、対照(Doxで処理されていないH7C2)に比べて神経突起長に40%(±7)の減少が観察された(図6D)。神経突起長に及ぼすDoxの同じ作用が、10または20nM NGFで処理されたH7C2細胞で観察された。Dox処理されたP12細胞と処理されていないP12細胞との間で神経突起長に差が観察されなかったことから、Doxがそれ自体神経突起伸長過程に関与することは排除できなかった。FKBP52の過剰発現に起因する神経突起伸長阻害は、PC12細胞におけるFKBP52欠如が神経突起伸長の形成を招くことを示す以前の報告と一致する(9)。神経突起長に及ぼすFKBP52の作用は、微小管からタウを除去する、FKBP52へのタウの結合によって説明することができた。加えて、FKBP52の過剰発現によるタウ蓄積防止は、神経突起長の減少と矛盾せず、タウの機能にこのイムノフィリンが果たす潜在的役割を誘起する。
【0145】
考察
本発明者らは、この新たに発見されたFKBP52の「抗タウ」活性のおかげで、本来ホルモンステロイドレセプターのモデュレーターとして確認およびクローニングされた(8,22)このタンパク質の機能を再調査することになる。FKPB52は、ペプチジルプロリルイソメラーゼ(「ロタマーゼ」)セグメントを包含する多モジュールタンパク質であって、その機能は、FK506(23)、ラパマイシンおよびいくつかの関係する非免疫抑制誘導体によって遮断される。FKBP52とPin1と(両タンパク質は、ペプチジル−プロリルイソメラーゼ(PPIase)活性および特異的タンパク質−タンパク質相互作用ドメイン(7)を有する)の間には、顕著な構造類似性がある。Pin1 PPIase活性は、アルツハイマー病モデルにおいてリン酸化タウタンパク質の機能を回復させるので(7)、タウとFKBP52との間に観察された相互作用は、アルツハイマー病を含めたタウオパチーの病原にとって意味をもつ可能性がある。FKBP12とは異なり(24)、FKBP52はカルシニューリンと結合しないことから(25)、FKBP52がFK506の免疫抑制能を仲介しないことも忘れてはならない。したがって、非免疫抑制性FK506/ラパマイシン誘導体によるFKBP52のロタマーゼ活性の薬理学的モデュレーションは、ミスフォールディングしたタウの病原作用を防止/軽減するための新規なアプローチを提供する可能性がある。
【0146】
そのペプチジルプロリルイソメラーゼ活性に加えて、FKBP52は、分子シャペロンとして役立つ。この活性は、分子シャペロンHSP90および他のタンパク質が結合する、そのテトラトリコペプチドリピートドメイン(26)に依存する。シャペロン−コシャペロンタンパク質複合体が、タウ蓄積を特徴とする神経変性疾患に重大な役割を果たすことが既に述べられている(27)。本発明者らは、今回、FKBP52がタウの機能/蓄積を減少させるおそれがあることを報告し、したがって、これらの記載されたコシャペロン系にそれが関与している可能性が示唆される(27)。
【0147】
本発明者らの結果は、タウの機能にFKBP52が果たす役割を立証するものである。FKBP52の有効な薬理学的ターゲッティングが近い将来現実になりそうであることから、本報告に記載された相互作用は、今すぐさらに研究する価値がある。
【0148】
実施例2:in vitroのタウオリゴマー化に及ぼすFKBP52の作用
タウタンパク質凝集物は、複数の神経変性疾患の特徴である。(Delacourte A and Bue L, 2000)。in vitroタウ凝集に関する条件の研究は、酸化条件、ヘパリンなどのポリアニオンおよびアラキドン酸などの脂肪酸による誘導を含めた、異なる実験系につながっている(Barghorn S and Mandelkow E, 2002)。
【0149】
タウのオリゴマー化にFKBP52が及ぼす作用を検討するために、本発明者らは、リコンビナントFKBP52の存在下または不在下でリコンビナントタウタンパク質(本明細書では最長のアイソフォームを使用)が酸化条件で重合する能力を沈降アッセイによってモニタリングした。タウ(0.5mg/ml)を10mMトリス(pH7.4)中で4℃で一晩透析し、14000rpmで遠心分離後に、定量ウエスタンブロッティングを使用してタウタンパク質の重合をモニタリングした。DTTの存在下で実施された実験(検出可能な、ペレット形成可能なタウポリマーが得られなかった)に反して、この条件での沈降分析は、ペレット画分中のタウの存在を明らかにした(図7)。この実験は、タウが酸化条件で自己重合することを意味し、既に報告されたように、タウオリゴマー化過程の第一ステップにおけるシステインの重要性を確認するものである(Schweers et al 1995)。
【0150】
酸化的媒質中でタウとFKBP52との同時インキュベーションがタウオリゴマー化過程に及ぼす作用をモニタリングした。図8に示すように、等モルのFKBP52の存在下で透析を行ったときに、ペレット画分中に検出可能なタウが存在することを観察することはできず、ここで、対照として使用されたGSTの存在下で同時インキュベーションを実施した場合にペレット形成可能なタウポリマーを観察することができた。
【0151】
しかしながら、タウ濃度を一定(0.5mg/ml)にしてFKBP52の濃度を変動させることで(1〜0.1mg/ml)沈降分析実験を実現した場合、0.1または0.25mg/mlでFKBP52が存在するとペレット中に漸増するタウポリマーが生じ、タウに対して等モルまたは2倍量のFKBP52が存在すると、ペレット形成可能なタウポリマーの存在が防止される(図9)。これらの結果から、FKBP52にとっての二つの役割が示唆される。第一に、タウに対するFKBP52の立体構造活性が、おそらくFKBP52のペプチジルプロリルイソメラーゼ活性を必要として、有利な凝集促進型のタウにつながること;第二に、タウがジスルフィド架橋の形成を介してオリゴマー化する能力を、FKBP52が可能性のある立体障害によって防ぐことである。
【0152】
実施例3:アルツハイマー病患者の脳内FKBP52タンパク質のダウンレギュレーション
National BrainBank(GIE NeuroCEB)の利用により得られたヒト前脳前皮質を、10mMトリス、0.32Mサッカロース、1mM DTTおよびプロテアーゼ阻害剤のカクテルを含有する5容量の緩衝液中で均一化した。そのホモジェネートを、14000RPMで4℃で5分間遠心分離した。上清を可溶性画分として使用した。同条件で均一化することによってペレットを可溶化し、不溶性画分として使用した。可溶性画分および不溶性画分中のFKBP52レベルをウエスタンブロッティングによって分析した。可溶性画分および不溶性画分中のFKBP52レベルは、総FKBP52のそれぞれ80%および20%に相当する。
【0153】
FKBP52タンパク質の発現レベルが患者の脳内で変化しうるかどうかを解明する目的で、本発明者らは、正常な対照(n=3)およびアルツハイマー病患者(n=12)の前脳前皮質におけるその発現を比較した。図10に示すように、アルツハイマー病脳内のFKBP52の顕著な減少が可溶性画分から観察される。GAPDH(グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ)で正規化後に、アルツハイマー病脳の可溶性画分中に見出されるFKBP52の発現レベルは、対照の35%(±24)に相当する。不溶性画分からは、FKBP52のタンパク質発現レベルの改変は検出不可能であった。この最後の観察から、FKBP52がタウ凝集物中にトラップされないことが示唆される。
【0154】
続いて、ヒト脳疾患および対照の前脳前皮質におけるFKBP52遺伝子のmRNA発現レベルをリアルタイム定量RT−PCR(QPCR)によって分析した。図11に示すように、対照に比べて脳疾患におけるFKBP52 mRNAレベルの改変は、観察されない。これらの結果は、患者脳内のFKBP52タンパク質の発現減少が転写後メカニズムに起因することを示す。
【0155】
参考文献:
本出願にわたり、様々な参考文献が、本発明が属する技術の現状を説明している。これらの参考文献の開示は、本明細書によって参照により本開示に組入れられる。
【0156】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための薬物をスクリーニングするための方法であって、以下のステップ:
a)候補化合物がタウポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの間の相互作用をモデュレーションする能力を決定すること、および
b)該相互作用をモデュレーションする候補化合物を正に選択すること
を含む方法。
【請求項2】
ステップa)が、以下のステップ:
a1)被験候補化合物を、第一タウポリペプチドまたはその実質的に相同もしくは実質的に類似のアミノ酸配列と、第二FKBP52ポリペプチドまたはその実質的に相同もしくは実質的に類似のアミノ酸配列との混合物と接触させること、
a2)該候補化合物が、該タウポリペプチドと該第二FKBP52ポリペプチドとの間の結合をモデュレーションする能力を決定すること
から成る、請求項1記載の方法。
【請求項3】
タウポリペプチドまたはFKBP52ポリペプチドが、検出可能な分子でラベルされている、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
タウポリペプチドが、第一フルオロフォア物質でラベルされており、FKBP52ポリペプチドが、第二フルオロフォア物質でラベルされている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
タウポリペプチドとFKBP52ポリペプチドとの結合が、第二フルオロフォア物質の発光波長値で発光された蛍光シグナル強度を測定することによって検出されるように、第一フルオロフォア物質が、該第二フルオロフォア物質の励起波長値に感知可能に等しい発光波長値を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
候補化合物が、ペプチド、ペプチド模倣体、有機小分子、抗体、アプタマーまたは核酸から成る群より選択される、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療のための薬物をスクリーニングするための方法であって、以下のステップ:
i)請求項1〜6のいずれか記載のin vitroスクリーニング法を行うことによって、タウとFKBP52タンパク質との間の相互作用をモデュレーションする化合物についてスクリーニングすること、および
ii)ステップi)の終わりに正に選択された化合物を、該化合物のタウ介在性細胞機能、タウ蓄積、タウ凝集および全ての翻訳後タウ改変についてスクリーニングすること。
を含む方法。
【請求項8】
タウ機能不全を伴う神経障害の予防および治療に使用するための、タウとFKBP52タンパク質との間の相互作用をモデュレーションする化合物。
【請求項9】
タウ機能不全を伴う神経障害を有するか、または有する素因があると考えられる対象を試験する方法であって、該対象から得られた関心が持たれる試料を以下:
i)FKBP52タンパク質とタウタンパク質との間の複合体のレベルを測定すること、ならびに/または
ii)FKBP52タンパク質および/もしくはその関連プロモーターをコードする遺伝子における突然変異の存在を検出すること、ならびに/または
iii)FKBP52タンパク質をコードする遺伝子の発現を分析すること、
iv)FKBP52タンパク質の濃度を測定すること、ならびに/または、
v)FKBP52タンパク質の翻訳後改変を検出すること
について分析するステップを含む方法
【請求項10】
関心が持たれる試料が、細胞試料、血液、血清、尿、髄液を含めた生体液または対象の組織から得られた生検試料から成る群より選択される、請求項9記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10A−1】
image rotate

【図10A−2】
image rotate

【図10B−1】
image rotate

【図10B−2】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2013−506120(P2013−506120A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530269(P2012−530269)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064115
【国際公開番号】WO2011/045166
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】