説明

タグ通信装置、タグ移動方向検知システム及びタグ移動方向検知方法

【課題】RFIDタグが付された移動体の移動方向を、簡易な処理により検知可能であるとともに、その移動速度が速くなっても容易に移動方向の検知が可能なタグ通信装置、タグ移動方向検知システム及びタグ移動方向検知方法を提供する。
【解決手段】スキャンアンテナ4は、送信する電波のビームMをRFIDタグ2付き荷物5が運搬されるベルトコンベア6に向けてスキャンする。RFIDタグ2からIDを読み取り、読取NO.とスキャン角αあるいはβを関連付けて測定データテーブルT2に記録するとともにプロットデータを生成する。このプロットデータをXY座標系にプロットPしてプロットグラフGを生成するとともに、このプロットグラフGから線形近似直線Lを求め、この傾き値Sから荷物5の移動方向を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知可能なタグ通信装置、タグ移動方向検知システム及びタグ移動方向検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、RFID(Ratio Frequency Identification)タグを荷物に貼付し、このRFIDタグとリーダライタが無線通信を行うことにより荷物管理を行うという手法が用いられている。この手法によれば、例えば、ベルトコンベアなどにより運搬される荷物に付されたRFIDタグから自動的にID(Identification)等のデータを読み取ることができるので物流業務の効率化が図れるが、その荷物の運搬される方向までは検知することはできず、入庫であるのか出庫であるのかを自動的に検知することはできないという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する公知技術として、例えば特許文献1に開示された技術がある。この特許文献1の技術は、例えば図23(a)の位置にあるRFIDタグ200が同図(b)の位置まで移動して、リーダライタ300においてRFIDタグ200からの応答信号が弱くなったら、同図(c)のようにリーダライタ300のアンテナの指向性を制御する、すなわちリーダライタ300のアンテナから放射される電波のビームを両側に振り、一方側へ電波のビームを振ったときのRFIDタグ200との通信結果と、他方側へ電波のビームを振ったときのRFIDタグ200との通信結果とを見比べて、RFIDタグ200の移動方向を検知するものである。また、RFIDタグ200が複数ある場合には、時分割に各RFIDタグ200にビームを振ることで、各RFIDタグ200の移動方向を検知する。
【0004】
しかしながら、この特許文献1の技術によると、RFIDタグ200の数が増大すれば増大するほど、その処理は複雑になり、各RFIDタグ200の動きを追うのが難しくなる。また、RFIDタグ200が高速で移動している場合には、他のRFIDタグ200を追っている間に、再度もとのRFIDタグ200の位置を検出するのが難しくなる、あるいは、検出できたとしても検出するまでに多大な時間がかかってしまうという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−345198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、RFIDタグが付された移動体の移動方向を、簡易な処理により検知可能であるとともに、その移動速度が速くなっても容易に移動方向の検知が可能なタグ通信装置、タグ移動方向検知システム及びタグ移動方向検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置であって、上記タグ通信装置は、複数のアンテナ素子を有するとともに、送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンするスキャンアンテナと、上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成するデータ生成手段と、上記データ生成手段の生成したデータを用いて、上記スキャン角と上記経時情報の間の関係を示す線形近似直線を求め、この線形近似直線の傾きから上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する移動方向検知手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置であって、上記タグ通信装置は、複数のアンテナ素子を有するとともに、送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンするスキャンアンテナと、上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成するデータ生成手段と、上記データ生成手段の生成したデータを用いて、上記移動体の移動軌跡を求めることにより上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する移動方向検知手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、タグ移動方向検知システムであって、上記タグ通信装置と無線通信を行う少なくとも1つのRFIDタグと、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、タグ移動方向検知方法であって、移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置のスキャンアンテナから送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンし、上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成し、上記生成したデータを用いて、上記スキャン角と上記経時情報の間の関係を示す線形近似直線を求め、この線形近似直線の傾きから上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、タグ移動方向検知方法であって、移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置のスキャンアンテナから送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンし、上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成し、上記生成したデータを用いて、上記移動体の移動軌跡を求めることにより上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する
ことを特徴とする。
【0012】
上記「移動体」としては、他の力を借りて移動するもの、例えば、ベルトコンベアなどの運搬手段により運搬される荷物、物品であり、この場合、ベルトコンベアが移動経路となる。また、この「移動体」には、自身の力で移動するもの、例えば、人間や動物なども含まれる。
【0013】
また、上記「RFIDタグ」としては、例えば、電池などの電源を有しておらず、リーダライタから電波で送電された電力によって回路が動作し、リーダライタと無線通信を行うパッシブタイプのRFIDタグや、電池などの電源を有するアクティブタイプのRFIDタグが含まれる。
【0014】
また、上記「タグ通信装置」とは、例えば、RFIDタグと通信可能なリーダライタあるいはリーダ、ライタである。
【0015】
上記「スキャンアンテナ」は、例えば、電子的制御によって送信する電波のビームを高速にスキャン可能なフェーズドアレイアンテナからなり、複数のアンテナ素子と、この複数のアンテナ素子のそれぞれに接続された複数の位相器と、この複数の位相器のすべてに接続された1つの分配合成器から構成されている。分配合成器に入力された電波は、それぞれのアンテナ素子ごとの位相器に分配され、各位相器にて所望の位相変化がなされた後、各アンテナ素子から放射され、この際位相後の各電波がすべて同相となるような方向、すなわち正弦波の位相が一致する方向に強く電波が放射される。この最も強い電波が本発明における「送信する電波のビーム」、例えば、メインローブであり、この方向は、位相器の設定により任意に変化させることができる。
【0016】
また、上記複数のアンテナ素子は、パッチアンテナから構成されていてもよく、更に、
上記複数のアンテナ素子は、2次元配列されており、上記スキャンアンテナは、上記移動体の移動経路に対して2次元スキャンするようにしてもよい。パッチアンテナから複数のアンテナを構成すれば、スキャンアンテナを薄く製造できるし、製造コストも低く抑えられるので好適である。また、複数のアンテナを2次元配列、例えば、複数のアンテナ素子を同一平面上に円形状、マトリクス状などに配列すれば、円を描くようにスキャンすることができるので、移動体の移動方向が2次元的に検知することができる。すなわち、移動体がXY平面上を移動する場合には、X方向への移動と、Y方向への移動とが同時に検知可能となる。
【0017】
また、上記「移動体の移動経路上の空間」とは、例えば、ベルトコンベアによりRFIDタグ付きの荷物が運搬されるような場合には、このベルトコンベア上の空間である。物理的に見れば、RFIDタグはベルトコンベア上の空間をベルトコンベアと平行に移動することとなるので、この空間に向けてスキャンすれば、リーダライタはRFIDタグと無線通信が可能となる。この場合、RFIDタグはベルトコンベア上を軌跡を描いて移動することとなるので、この軌跡の一部をスキャンアンテナによりスキャンできるようにしておけば、スキャンアンテナの設置箇所は任意に設定可能である。
【0018】
上記「RFIDタグからの受信情報」とは、RFIDタグを識別するためのタグNO.からなるID(Identification)などであり、「何が」移動したかを検知するうえでこのIDが利用される。また、本発明においては、この受信情報を経時情報に関連付ける。この経時情報は、RFIDタグとタグ通信装置が無線通信した時点を特定する時間情報であり、例えば、RFIDタグを読み取った順番などである。
【0019】
また、上記「スキャン角」とは、スキャンアンテナが送信する電波のビームをスキャンする際に、そのビームの放射方向を示す角度である。例えば、複数のアンテナ素子がリニアに配列されたフェーズドアレイアンテナをスキャンアンテナに用いた場合には、ブロードサイド方向を基準に測定したビームの傾斜角である。
【0020】
物や人が移動すれば、位置の時間的変化が生ずるから、少なくとも時間情報と位置情報があれば、移動を検知することができる。そこで、本発明においては、時間情報としての「経時情報」と位置情報としての「スキャン角」の組からなるデータを複数個生成するように構成している。
【0021】
また、本発明においては、この生成されたデータを用い、次のような手法を利用して移動体の移動方向を検知する。
【0022】
すなわち、一の手法は、上記スキャン角と上記経時情報の間の関係を示す線形近似直線を求めるとともに、その傾きを算出することにより移動方向を検知する手法であり、この手法は特に移動体の1次元の移動を検知するのに好適である。他の手法は、上記移動体の移動軌跡を算出することにより移動方向を検知する手法であり、この手法は特に移動体の2次元の移動を検知するのに好適である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、RFIDタグ付きの移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンアンテナが送信する電波のビームをスキャンさせるとともに、スキャン角と経時情報の組を複数個生成し、生成したデータを用いて移動方向を検知する構成とした。これにより、特許文献1に開示の技術のようにスキャンアンテナの複雑なスキャン制御を要することなく簡易にRFIDタグが貼付された移動体の移動方向が検知可能となる。また、移動体の運搬が高速に行なわれる場合には、その速度に応じてスキャンの速度を調節するだけで、RFIDタグの読み取り回数を増やすことができ、その結果、移動方向の検知の精度も容易に向上させ得るなどの作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1(a)〜(c)は、本発明を適用したRFID通信システムの第1の実施形態の概要を示す説明図である。同図のRFID通信システム1は、ベルトコンベア6で運搬される多数の荷物5(移動体)の入出庫管理を行うものであり、荷物5にそれぞれ取り付けられたRFIDタグ2に対し、リーダライタ3が無線通信を行ってデータの読み書きを行うものである。
【0026】
本実施形態の概要を説明すると、図1においては簡略化して記載しているが、リーダライタ3は、スキャンアンテナ4を備えている。スキャンアンテナ4は、ベルトコンベア6に沿って直線状に配列された3個のアンテナ素子40A、40B、40Cを有しており、外部に送信する電波のビームMの方向を図1(a)〜(c)に示すように繰り返しスキャンさせている。他方、荷物5にはRFIDタグ2が貼付されており、この荷物5はベルトコンベア6により図1(a)中矢印A方向に運搬される。この運搬の際、RFIDタグ2とリーダライタ3とが無線通信を行うとともに、この通信結果に基づいて荷物5の移動方向、すなわち、図1(a)中矢印A方向に移動しているのか、あるいは矢印B方向に移動しているのかを検知する。
【0027】
以下詳細に説明する。
【0028】
図2は、RFIDタグ2の概略構成を示すブロック図である。同図に示すようにRFIDタグ2は、アンテナ部20と無線通信IC21とを備える構成である。この種のRFIDタグ2としては、例えば、上述したパッシブタイプやアクティブタイプのものが使用される。
【0029】
アンテナ部20は、リーダライタ3からの電波を無線通信IC21を動作させる電力源として受け取るものである。また、アンテナ部20は、リーダライタ3から受信した電波を無線信号に変換して無線通信IC21に送信するとともに、無線通信IC21からの無線信号を電波に変換してリーダライタ3に送信するものである。アンテナ部20には、アンテナ、共振回路などが使用される。
【0030】
無線通信IC21は、リーダライタ3からアンテナ部20を介して受信した信号に基づいて、リーダライタ3からのデータを記憶したり、記憶されたデータをアンテナ部20を介してリーダライタ3に送信したりするものである。この無線通信IC21は、図2に示すように、電源部211、無線処理部212、制御部213、およびメモリ部214を備える構成である。
【0031】
電源部211は、アンテナ部20が電波を受信することにより発生する誘起電圧を整流回路にて整流し、電源回路にて所定の電圧に調整した後、無線通信IC21の各部に供給するものである。電源部211には、ブリッジダイオード、電圧調整用コンデンサなどが使用される。
【0032】
無線処理部212は、外部からアンテナ部20を介して受信した無線信号を元の形式に変換し、変換したデータを制御部213に送信するとともに、制御部213から受信したデータを無線送信に適した形式に変換し、変換した無線信号をアンテナ部20を介して外部に送信するものである。無線処理部212には、A/D(Analog to Digital)変換回路、D/A(Digital to Analog)変換回路、変復調回路、RF回路などが使用される。
【0033】
制御部213は、無線通信IC21内における上述した各種構成の動作を統括的に制御するものである。制御部213は、論理演算回路、レジスタなどを備え、コンピュータとして機能する。そして、各種構成の動作制御は、制御プログラムをコンピュータに実行させることによって行なわれる。このプログラムは、例えばメモリ部214のROM(Read Only Memory)などにインストールされたものを読み込んで使用する形態であってもよいし、リーダライタ3からアンテナ部20および無線処理部212を介して上記プログラムをダウンロードしてメモリ部214にインストールして実行する形態であってもよい。
【0034】
特に、制御部213は、リーダライタ3からアンテナ部20および無線処理部212を介して受信したデータに基づいて、リーダライタ3からのデータをメモリ部214に記憶したり、メモリ部214に記憶されたデータを読み出して、無線処理部212およびアンテナ部20を介してリーダライタ3に送信したりする。
【0035】
メモリ部214は、上記したROMや、SRAM(Static RAM)、FeRAM(強誘電体メモリ)などの半導体メモリによって構成される。このメモリ部214に記憶される内容としては、上記した制御プログラム、およびその他各種のプログラム、ならびにIDなどの各種データが挙げられる。なお、無線通信IC21は、リーダライタ3から送信される電波を電力源としているため、ROMなどの不揮発性メモリや、SRAM、FeRAMなどの消費電力の少ないメモリを使用することが望ましい。
【0036】
次に、リーダライタの構成について、図3〜図7を参照して説明する。図3はリーダライタの概略構成を示すブロック図、図4はスキャンアンテナの概要を示す模式図、図5はスキャンアンテナのスキャンの状態を示す模式図、図6はスキャンパターンテーブルを示す図、図7は測定データテーブルを示す図である。
【0037】
なお、図3には、スキャンアンテナ4を介してRFIDタグ2と無線通信を行っている状態も併せて模式的に示されている。
【0038】
リーダライタ3は、外部通信部31、タグ通信制御部32、送信部33、受信部34、スキャンアンテナ制御部35、記録部36、移動方向推定部37及びスキャンアンテナ4を備えており、RFIDタグ2と無線通信可能に構成されている。なお、タグ通信制御部32、記録部36及び移動方向推定部37がメイン処理部30となって、RFIDタグ2が貼付された荷物5の移動方向の検知処理がなされる。
【0039】
外部通信部31は、リーダライタ3において読み出されたRFIDタグ2のID(Identification)、移動方向推定部37により算出されたRFIDタグ2が貼付された荷物5の移動方向情報、及びRFIDタグ2への書込みが成功したか否かを示す情報などのRFIDタグ2との通信結果を、パーソナルコンピュータ等の外部装置に送信したり、RFIDタグ2に対する外部装置からの書込み情報(送信コマンド情報)や外部装置からのコマンド(命令)を受信するよう構成されている。また、外部装置とのインタフェース規格としては、USB(Universal Serial Bus)、IEE1394、Ethernet(登録商標)、などが挙げられる。
【0040】
タグ通信制御部32は、外部装置から外部通信部31を介して送信された送信コマンド情報を受信し、送信部33に送信する。また、タグ通信制御部32には、図6に示すスキャンパターンテーブルT1が格納されている。
【0041】
このスキャンパターンテーブルT1には、スキャンアンテナ4の各アンテナ素子40A、40B、40Cの電力と位相を定義したデータが含まれており、各アンテナ素子40A、40B、40Cについてそれぞれ定義された電力、位相を電気的に設定することで、スキャンアンテナ4のスキャンパターンが生成される。
【0042】
すなわち、このスキャンパターンテーブルT1により、スキャンアンテナ4のスキャン角が設定される。このスキャン角とは、図5に示すように、ブロードサイド方向(アンテナ素子40A、40B、・・・40Kの配列方向に垂直な方向)を基準に測定したビームMの傾斜角である。本実施形態においては、図中右回り方向(α)を+値とし、左周り方向(β)を−値としている。なお、このスキャンテーブルT1は、スキャン角α、βとテーブルNO.とを関連付けるものとして機能し、このテーブルNO.(0、1)は、後述する移動方向判定グラフG(プロットグラフ)における縦軸となる。
【0043】
また、タグ通信制御部32は、スキャンテーブルT1からスキャン角情報を読み出すとともに、このスキャン角情報をスキャンアンテナ制御部35に送信する。ここでは、スキャン角情報として、スキャン角α、βがスキャンパターンテーブルT1に設定されているので、タグ通信制御部32は、スキャン角α、βを順次繰り返しスキャンアンテナ制御部35に対し送信する。タグ通信制御部32は、スキャンアンテナ4がRFIDタグ2から取得したIDを受信するとともに、このIDを受信した際のスキャンアンテナ4のスキャン角(αあるいはβ)をこのIDに関連付けした後、記録部36に送信する。なお、スキャン角α、βは、2つに限定されるものではなく、使用者において任意に設定するようにしてもよい。
【0044】
送信部33は、タグ通信制御部32から送信される送信コマンド情報を無線送信に適した形式に変換し、変換した無線信号(送信コマンド)をスキャンアンテナ4を介して外部に送信するものであり、送信コマンド情報の変調、増幅などの処理を行なう。受信部34は、外部からスキャンアンテナ4を介して受信した無線信号(受信データ)を元の形式に変換し、変換したデータをタグ通信制御部32に送信するものであり、受信データの増幅、復調などの処理を行なう。
【0045】
スキャンアンテナ制御部35は、タグ通信制御部32からスキャン角情報を受信するとともに、この受信したスキャン角情報に基づいてスキャン制御信号をスキャンアンテナ4に送信し、スキャンアンテナ4から放射される電波のビームMの方向を制御するものである。ここでは、スキャンパターンテーブルT1において、スキャン角α、βに設定されているので、このスキャン角情報を、スキャンアンテナ4から放射される電波のビームMが、順次スキャン角α、スキャン角βの方向に向くようにするためのスキャン制御信号に変換し、スキャンアンテナ4に対し送信する処理を行なう。
【0046】
記録部36は、タグ通信制御部32から送信された、上記のように関連付けされたRFIDタグ2のIDとスキャン角(α、β)を図7に示す測定データテーブルT2に記録するとともに、この記録されたRFIDタグ2のIDとスキャン角情報とを移動方向推定部37に送信する処理を行なう。測定データテーブルT2は、読取NO.、読取時刻、RFIDタグNO.、テーブルNO.から構成されており、スキャンアンテナ4においてRFIDタグ2のIDを読み取った順番に記録される。読取NO.は、RFIDタグ2のIDを読み取った順番を示し、読取時刻は、RFIDタグ2のIDを読み取った時刻情報であり、記録部が有する時計により記録される。なお、ここでは、測定データテーブルT2には、読取NO.が記録されるとしているが、読取時刻だけで読み取った順番は判断できるので、この読取NO.が測定データテーブルT2に記録されないような実施態様も適用し得る。
【0047】
また、RFIDタグNO.は、RFIDタグ2のメモリ部214からスキャンアンテナ4が読み取ったIDである。テーブルNO.は、スキャンパターンテーブルT1においてスキャン角α、βに対応付けて設定されたものであり、後述する移動方向判定グラフGにおける縦軸となるものである。図7においては、複数の荷物5が運搬され複数のRFIDタグ2からIDを読み取った場合が示されている。例えば、RFIDタグNO.が「0X00011D8C」のRFIDタグ2は、スキャンアンテナ4から放射される電波のビームMの方向がスキャン角βのときに読み取られており、読取NO.は「1」すなわち、後述する読取り処理において最初に読み取られている。
【0048】
移動方向推定部37は、測定データテーブルT2に記録された読取NO.とIDとテーブルNO.などの情報を受信するとともに、この受信した情報から後述する移動方向判断処理を行ない、その結果算出された移動方向情報とIDとを外部通信部31に送信するように構成されている。
【0049】
図4は、スキャンアンテナ4の概要を示す説明図である。このスキャンアンテナ4は、複数のアンテナ素子40を直線状に配列し、各アンテナ素子40に可変位相器(位相器)41を接続した構成である。図1においては、アンテナ素子40は3個であるが、アンテナ素子40の個数は3個に限定されるものではない。また、このアンテナ素子40は直線状配列に限定されるものではなく、2次元配列状に配置してもよい。このアンテナ素子40の個数を増やすと、ビームMの幅が細くなる。なお、この図4においては、このアンテナ素子40の個数は任意の数としており、同図を参照して以下にスキャンアンテナ4におけるビーム方向のスキャンの方法について説明する。
【0050】
全てのアンテナ素子40A、40B、・・・40Kが同じ位相で電波を送信する場合には、スキャンアンテナ4から放射される電波はブロードサイド方向(アンテナ素子40A、40B、・・・40Kの配列方向に垂直な方向)の平面波として伝搬する。一方、電波の伝播方向を、ブロードサイド方向から測って角度θ(rad)だけ傾斜させるためには、次式を満たすように各アンテナ素子40A、40B、・・・40Kが送信する電波の位相をずらせばよい。
【0051】
図4に示すように、送信または受信する電波の波長をλ(m)とし、基準となるアンテナ素子40Aとk番目のアンテナ素子40Kとの距離をd(m)とし、図4に破線で示される等位相面のうち、基準となるアンテナ素子40Aを通る等位相面と、k番目のアンテナ素子40Kとの距離をl(m)とすると、基準となるアンテナ素子40Aの位相に対するk番目のアンテナ素子40Kの位相のずれψは次式となる。
【0052】
ψ=(l/λ)×2π=(d×sinθ/λ)×2π
【0053】
このように、スキャンアンテナ4は、各位相器41A、41B、・・・41Kが、上式を満たすように信号の位相をずらすことにより、目的の方向に電波のビームMを向けることができる。一方、電波を受信する場合には、各アンテナ素子40A、40B、・・・40Kの位相のずれを検出することにより、受信した電波の方向を判別することができる。
【0054】
次に、図8(a)、(b)を参照して、このように構成されたRFID通信システム1の動作説明をする。図8(a)はスキャン処理と移動方向判断処理を示すフローチャートであり、(b)はこのうちの移動方向判断処理を示すフローチャートである。RFID通信システム1における動作の概要は、まず、スキャンアンテナ4をスキャンさせるべくスキャン処理を行い、次にそのスキャンした結果に基づき移動方向判断処理を行い、RFIDタグ2の移動方向が検知される。以下詳細に説明する。
【0055】
<スキャン処理>
スキャン処理は、タグ通信制御部32が、外部装置から送信された送信コマンド情報を、外部通信部31を介して受信するとスタートする。このスキャン処理がスタートすると、タグ通信制御部32がスキャンパターンテーブルT1に基づいてスキャンアンテナ4に対しスキャン角情報を送信する。本実施形態では、スキャン角は、αとβの2つとしている。
【0056】
具体的には、まず、スキャン角情報として、スキャンアンテナ制御部35にタグ通信制御部32からスキャン角=αが送信されると(S801)、スキャンアンテナ制御部35は、スキャンアンテナ4から送信される電波のビームMがスキャン角=αの方向に向くようスキャンアンテナ4にスキャン制御信号を送信し、該信号を受信したスキャンアンテナ4はビームMをスキャン角=αに向けて放射する読取り処理を行う(S802)。この読取り処理の結果、RFIDタグ2が有るか否かを調べ、すなわち、RFIDタグ2からのIDの読み取りがあるか否かを調べ(S803)、有った場合には(S803のY)、そのIDとスキャン角情報(スキャン角α)を関連付けて測定データテーブルT2に読取NO.とともに記録する(S804)。そして、スキャン角=βに切り替え、以下同様の処理を所定の間繰り返す。その後、移動方向判定処理に移行する。
【0057】
他方、RFIDタグ2が無かった場合、すなわち、上記読取り処理を行なった結果RFIDタグ2からの受信情報がなかった場合、もしくは、正常にタグからの信号を受信できなかった場合には(S803のN)、スキャン角情報をβに切り替えて上記(S801〜S804)と同様の処理を行なう(S805〜808)。これらの処理を所定の間繰り返すと、荷物5の移動方向を検知すべく次に移動方向判断処理に移行する。このスキャン処理から移動方向判断処理の移行の時期は、例えば、測定データテーブルT2にIDが最初に記憶されたときから20個目のIDが記録された時点等、IDの記録個数によって決定してもよいし、また、最初のIDを記録した時点から150ms経過時点等、経過時間によって決定してもよく、この移行の時点は予め記録部36に設定しておく、あるいは、PC等の外部装置から送信されるコマンドとして受け付けても良い。
【0058】
なお、スキャン処理と移動方向判断処理は並列処理であり、移動方向判断処理を行なっているときでも、スキャン処理は繰り返し行なわれている。なお、本実施形態においては、高速処理を可能とするため、上記のようにスキャン処理と移動方向判断処理は並列処理としているが、このように並列処理に限定するものではなく、スキャン処理と移動方向判断処理とが直列的に処理される構成も適用可能である。
【0059】
<移動方向判断処理>
上記スキャン処理により最初のIDが測定データテーブルT2に記録されてから、所定の時間経過する若しくは所定回数処理が実行されると、この移動方向判断処理がスタートする。この処理がスタートすると、移動方向推定部37により記録部36に記録された測定データテーブルT2の読み出しが行なわれ(S810)、この読み出された測定データテーブルT2は一時的にバッファなどに記憶され、この記憶された測定データテーブルT2の情報に基づいて移動方向計算が行なわれる(S811)。
【0060】
この移動方向計算は、次のようにして行なう。測定データテーブルT2から読み出した情報のうち読取NO.とテーブルNO.とから、図9(a)に示す第1の移動方向算出テーブルT3を生成する。この移動方向算出テーブルT3は、x(読取NO.)と、y(テーブルNO.)と、これらx、yの乗算値x*yと、xの2乗値のx*xとからなる。そしてこの第1の移動方向算出テーブルT3を用いて第2の移動方向算出テーブルT4を生成する。この第2の移動方向算出テーブルT4は、xの第1項(読取NO.1)から第20項(読取NO.20)までの数値の和であるΣx、yの1行目から20行目までの数値の和であるΣy、x*yの1行目から20行目までの数値の和であるΣx*y、xの最終行の読取NO.の値である20とΣx*yとの積である20*Σx*y、x*xの1行目から20行目までの数値の和であるΣx*x、xの最終行の読取NO.の値である20とΣx*xとの積である20*Σx*xとからなる。
【0061】
この第2の移動方向算出テーブルT4の各値を、下記の移動方向算出式に代入して計算すると図9(b)に示す0.0639という値が算出される。下記移動方向算出式により算出された値である傾き値Sは、後述する線形近似直線Lの傾きを求めた値となる。
【0062】
【数1】

【0063】
なお、上記した移動方向計算の説明においては、読取NO.を1〜20、すなわち、リーダライタ3がRFIDタグ2から20回IDを読み取った場合としているが、これに限定されるものではなく、その読み取った回数に応じて、上記移動方向計算式のNをその回数として傾きを求めればよい。
【0064】
ここで、この傾き値Sを求めるというのは、データ上、図10に示すような移動方向判定グラフGを生成し、このグラフから線形近似直線Lを求め、この求められた線形近似直線Lの傾きを求めることを意味する。具体的には、この移動方向判定グラフGは、テーブルNO.であるyを縦軸にし、読取NO.であるxを横軸にしたxy座標系に、移動方向算出テーブルT3の各xの値、yの値をそれぞれxy座標としてこのxy座標系にプロットして生成される。そしてこの移動方向判定グラフGから線形近似直線Lを求め、この線形近似直線Lの傾きを算出する。図10に示す線形近似直線Lの傾きが図10中右肩上がりなら傾き値Sはプラスの値になり、他方、左肩上がりなら傾き値Sはマイナスの値となる。そして、予め、この傾き値Sの値がプラスの値なら図1中→A方向に、一方、マイナスの値なら←B方向に、それぞれ荷物5が移動していると定義づけておけば、この傾き値Sを算出することにより荷物5の移動方向が検知可能となる。
【0065】
上記のようにして移動方向計算を行い、その移動方向が検知されると、その算出された移動方向が、移動方向推定部37から外部通信部31を介して外部装置に通知され(S812)、移動方向判断処理が終了する。
【0066】
上記移動方向計算により算出された移動方向情報、すなわち、傾き値Sがマイナスの値あるいはプラスの値は、例えば、マイナスの値の場合は0、プラスの値の場合は1に変換され、この変換された1、0の情報は、移動方向推定部37に一時的に記憶された測定データテーブルT2の各RFIDタグ2のIDに関連付けられて、この関連付けられたIDが外部通信部31を介して外部装置に送信される。
【0067】
従って、外部装置においては、どの荷物5がどちらの方向に移動しているかを検知することができる。
【0068】
次に、本発明者は、RFID通信システム1を利用してRFIDタグ2の移動方向を実際に検知してみたので、その実験結果について図11〜図15を参照して説明する。
【0069】
本発明者は、図11に示すように、スキャンアンテナ4と荷物5に貼付されたRFIDタグ2との距離が約0.5m、1.5mあるいは2.5m離間してベルトコンベア6上を運搬されるように設定した後、RFID通信システム1を利用して荷物5の移動方向の検知、すなわち、図1中→A方向に移動しているのか、←B方向に移動しているのかの検知を行なった。
【0070】
また、ベルトコンベア上を荷物5が1個単独で運搬される場合と、荷物5が複数まとまって運搬される場合を想定し、RFIDタグ2の枚数が1枚、5枚、15枚の3パターンについて実験を行なった。スキャンパターンを決定するためのスキャン角は、α=35°、β=−35°に設定したが、RFIDタグ2が1枚のみの場合には、α=20°、β=−20°に設定した場合についても実験を行ない、この設定したスキャン角を繰り返しスイープさせた。速度は、RFIDタグ2がスキャンアンテナ4の前を駆け抜ける速さに設定し、移動方向判断処理への移行時期は、最初にIDを読み取った時点から50ms経過後に設定した。実験には、Mono−Staticリーダライタをリーダライタ3として使用した。
【0071】
図12〜図15においては、上段にはRFIDタグ2の移動方向が→A方向の場合を示し、下段にはその移動方向が←B方向の場合を示している。これらの図を参照すると、スキャンアンテナ4とRFIDタグ2との距離が近い方が、プロットPが多く、またRFIDタグ2の枚数が多い方がプロットPが多いことが分かる。Mono−Staticリーダライタは通信距離が3m程度なため、2.5m程度になるRFIDタグ2の読み取り回数が少なくなる。
【0072】
また、これら実験のほかに、移動速度を遅くした場合や移行時期までの時間を長く設定した場合についても実験を行なった。移動速度を遅くした方がプロットPが増え、傾きの判定の信頼度が増すことがわかった。また、移動速度を速くすると、この傾きは急になることが分かった。他方、移行時期についても長く設定した方が、プロットPは増えるがその分、移動方向が算出されるまでに時間が余計にかかってしまうことも分かった。
【0073】
以上のように、本発明を適用したRFID通信システム1においては、スキャンアンテナ4は繰り返しスキャンしていればよく、このスキャンによりRFIDタグ2からIDの読み取りがあれば、その移動方向を検知するという構成とした。これにより、特許文献1に開示の技術のようにスキャンアンテナ4の複雑なスキャン制御を要することなく簡易にRFIDタグ2が貼付された荷物5の移動方向が検知可能となる。
【0074】
また、移動方向は、読取NO.とテーブルNO.とから生成されたプロットデータを利用して線形近似直線Lを求め、その傾き値Sを算出することにより検知することとした。すなわち、RFIDタグ2から読み取ったIDに関係なく移動方向を検知可能とした。これにより、例えば複数の荷物5が同時に運搬され、その中のRFIDタグ2を1回しか読み取れなかったとしても、他のRFIDタグ2からIDを読み取れれば、移動方向が検知できるので、移動方向の判定が誤ったものとはならない。
【0075】
更に、荷物5の運搬が高速に行なわれる場合には、その速度に応じてスキャンの速度を調節するだけで、RFIDタグ2の読み取り回数を増やすことができ、その結果、移動方向の検知の精度も容易に向上させ得る。
【0076】
次に本発明を適用したRFID通信システムの他の実施形態について図16〜図22を参照して説明する。図16はRFID通信システム100の概要を示す説明図、図17はスキャンアンテナ4から送信される電波のビームMの方向を模式的に示す説明図、図18はスキャンアンテナ4のアンテナ素子40の配列例を模式的に示す正面図、図19はスキャンの様子を上方から見た模式図、図20は測定データテーブルを示す図、図21は移動方向判定グラフを示す図、図22はRFIDタグ2の移動検知例を示す模式図である。
【0077】
この実施形態におけるRFID通信システム100は、図16に示すように、工場などの天井にリーダライタ3´を設置するとともに、下方(床面方向)に送信する電波のビームMが放射されるようスキャンアンテナ4´を設置している。なお、他の実施形態として、床面にアンテナを配置し、天井方向に向けビームを発射するように構成してもよい。他方、フォークリフト7には、複数の荷物5が載置されており、各荷物5にはRFIDタグ2がそれぞれ貼付されており、このフォークリフト7がスキャンアンテナ4´のスキャンエリアSA(図19参照)内を通過すると、スキャンアンテナ4´によりRFIDタグ2からIDが読み取られ、その後移動方向の検知が行なわれる。以下に詳細に説明する。
【0078】
RFIDタグ2の構成は、上記第1の実施形態におけるRFIDタグ2と同様の構成である。
【0079】
リーダライタ3´の構成も図3に示す構成と略同一であるが、本実施形態においては、移動方向推定部37における移動方向計算の手法と、スキャンアンテナ4´の構成が上記第1の実施形態と異なる。
【0080】
スキャンアンテナ4´は、図4に示すように複数の位相器41A、41B、・・・と複数のアンテナ素子40A、40B、・・・と、図示しない分配合成器から構成されており、送信するビームMをスキャンさせる原理については、上記第1の実施形態で説明したのと同様である。ただし、本実施形態においては、上記第1の実施形態と異なり、図18(a)〜(c)に示すように、複数のアンテナ素子40が2次元的に配列されており、2次元スキャン可能に構成されている。すなわち、床面をXY平面とすると、スキャンアンテナ4´から放射されるビームMをX方向側にもY方向側にもスキャンさせることが可能に構成されている。例えば、この複数のアンテナ素子40の配列を図18(a)〜(c)に示すが、この配列に限定されるものではなく、他の配列も適用可能であり、ビームMをX方向側Y方向側の双方向にスキャン可能な配列であればよい。
【0081】
本実施形態のスキャンアンテナ4´は、図18(b)のようにアンテナ素子40が配列されており、図16に示すように、電波のビームMをブロードサイド方向を中心として円を描くように下方に向けてスキャンするよう構成している。図19は、このスキャンの様子を上方から見た模式図であり、図中aは、図16に示すブロードサイド方向を中心軸としてビームMが瞬間的にスキャンしている方向を模式的に示すものであり、本実施形態においては、スキャン角を順次切り替えることにより、スキャン方向Cのように円形状にスキャン可能となっている。このようにスキャンさせるとスキャンエリアSA、すなわち、スキャンアンテナ4´がRFIDタグ2からIDを読み取れるエリアは、床面方向に対し円形状に形成されることとなる。
【0082】
ここで、本実施形態におけるビームMの方向を設定するスキャン角について図17を用いて説明する。図17は、あるスキャン角に設定されたスキャンアンテナ4´がビームMを放射している状態を模式的に示しており、XY平面状に置かれたスキャンアンテナ4´がZ軸方向(上向き)に中心角φの傾斜をもってビームMを放射した状態を示している。本実施形態においては、上記のようにビームMを円形状に2次元スキャンさせることから、その方向は次のようなパラメータにより決定される。すなわち、Z軸(ブロードサイド方向)からの傾斜である中心角φと、XY平面に対する回転角θの2つのパラメータからビームMの放射方向が設定され、この中心角φと回転角θとで構成されたものがスキャン角となる。
【0083】
このように定義づけられたスキャン角をαとして、本実施形態においては、α1、α2、・・・α10と順次切り替えて繰り返しスキャンさせ、スキャンの結果、RFIDタグ2からIDを読み取った場合には、第1の実施形態と同様に図20に示す測定データテーブルT5が生成される。但し、テーブルNO.の代わりにスキャン角が記憶される。
【0084】
このスキャン処理が終了すると、測定データテーブルT5を移動方向推定部37が読み出し、読み出したスキャン角αと時刻情報tとからプロットデータを生成し、このプロットデータに基づいて、スキャン角αを縦軸、時刻tを横軸とする座標系に順次プロットし、移動軌跡を算出する。この移動軌跡から荷物5に貼付されたRFIDタグ2の移動方向を検知することができる。なおこの移動軌跡から移動方向を算出する方法としては、公知の技術を利用すればよく、例えば、特開平11−66319号公報に記載の技術などがある。
【0085】
このようにして移動軌跡により移動方向を求めた結果、RFIDタグ2の移動方向は例えば、図22に記載のようになる。この図22には、RFIDタグ2AとRFIDタグ2Bの移動方向を上方から見た模式図が示されており、黒点QはそれぞれのRFIDタグ2A、2BがスキャンエリアSA内において、スキャンアンテナ4´によりIDを読み取られた地点を示している。そしてRFIDタグ2A、2Bの移動方向はそれぞれ図中の矢印の方向である。
【0086】
以上のように、本発明を適用したRFID通信システム100においては、スキャンアンテナ4´は繰り返しスキャンしていればよく、このスキャンによりRFIDタグ2からIDの読み取りがあれば、その移動方向を検知するという構成とした。これにより、特許文献1に開示の技術のようにスキャンアンテナ4´の複雑なスキャン制御を要することなく簡易にRFIDタグ2が貼付された荷物5の移動方向が検知可能となる。
【0087】
また、移動方向は、スキャン角αと読取時刻tとから生成されたプロットデータを利用して移動軌跡を求めることにより検知することとした。すなわち、RFIDタグ2から読み取ったIDに関係なく移動方向を検知可能とした。これにより、例えば複数の荷物5が同時に運搬され、その中のRFIDタグ2を1回しか読み取れなかったとしても、他のRFIDタグ2からIDを読み取れれば、移動方向が検知できるので、移動方向の判定が誤ったものとはならない。
【0088】
更に、荷物5の運搬が高速に行なわれる場合には、その速度に応じてスキャンの速度を調節するだけで、RFIDタグ2の読み取り回数を増やすことができ、その結果、移動方向の検知の精度も容易に向上させ得る。
【0089】
その上、スキャンアンテナ4´の送信するビームMを円形状など2次元スキャンさせるようにするとともに、移動軌跡によりRFIDタグ2が貼付された荷物5の移動方向を検知するようにした。これにより、RFIDタグ2が付された荷物5の2次元的な移動、すなわち、XY平面においてX方向への移動もY方向への移動も同時に検知することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、スーパーマーケットやCDショップ等の出入り口に、スキャンアンテナ4を設置しておき、各商品にRFIDタグ2を貼付しておけば、不正な持ち出し(盗難)等を防止することができる。また、レンタルスペースなどの出入り口にスキャンアンテナ4を設置しておき、人や動物にRFIDタグ2を付しておけば、人や動物の入退出を検知することができ、レンタルスペースの時間貸しなどのシステムにも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明を適用したRFID通信システムの概要を示す説明図。
【図2】RFIDタグの概略構成を示すブッロク図。
【図3】リーダライタの概略構成を示すブロック図。
【図4】スキャンアンテナの概要を示す模式図。
【図5】スキャンアンテナのスキャンの状態を示す模式図。
【図6】スキャンパターンテーブルを示す図。
【図7】測定データテーブルを示す図。
【図8】(a)は、スキャンアンテナにおけるスキャン処理を示すフローチャート、(b)は、移動方向判断処理を示すフローチャート。
【図9】移動方向算出テーブルを示す図。
【図10】移動方向判定グラフを示す図。
【図11】移動方向検知実験におけるスキャンアンテナとRFIDタグとの距離を示す図。
【図12】移動方向検知実験の結果を示す移動方向判定グラフを示す図。
【図13】移動方向検知実験の結果を示す移動方向判定グラフを示す図。
【図14】移動方向検知実験の結果を示す移動方向判定グラフを示す図。
【図15】移動方向検知実験の結果を示す移動方向判定グラフを示す図。
【図16】本発明を適用したRFID通信システムの他の実施形態の概要を示す説明図である。
【図17】スキャンアンテナから送信される電波のビームの方向を模式的に示す説明図。
【図18】(a)〜(c)は他の実施形態におけるスキャンアンテナのアンテナ素子の配列例を模式的に示す正面図。
【図19】他の実施形態におけるスキャンの様子を示す模式図。
【図20】他の実施形態における測定データテーブルを示す図。
【図21】他の実施形態における移動方向判定グラフを示す図。
【図22】他の実施形態におけるタグの移動検知例を示す模式図。
【図23】特許文献1に開示された公知技術の説明図。
【符号の説明】
【0092】
1、100 RFID通信システム
2、2A、2B RFIDタグ
3、3´ リーダライタ
32 タグ通信制御部
36 記録部
37 移動方向推定部
4、4´スキャンアンテナ
40A、40B、・・・40K アンテナ素子
41A、41B、・・・41K 位相器
5 荷物
6 ベルトコンベア
7 フォークリフト
G、G´ 移動方向判定グラフ(プロットグラフ)
T1 スキャンパターンテーブル
T2、T5 測定データテーブル
T3 第1の移動方向算出テーブル
T4 第2の移動方向算出テーブル
L 線形近似直線
P、P´ プロット
M ビーム
α、β スキャン角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置であって、
上記タグ通信装置は、
複数のアンテナ素子を有するとともに、送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンするスキャンアンテナと、
上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成するデータ生成手段と、
上記データ生成手段の生成したデータを用いて、上記スキャン角と上記経時情報の間の関係を示す線形近似直線を求め、この線形近似直線の傾きから上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する移動方向検知手段と、を備える
ことを特徴とするタグ通信装置。
【請求項2】
移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置であって、
上記タグ通信装置は、
複数のアンテナ素子を有するとともに、送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンするスキャンアンテナと、
上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成するデータ生成手段と、
上記データ生成手段の生成したデータを用いて、上記移動体の移動軌跡を求めることにより上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する移動方向検知手段と、を備える
ことを特徴とするタグ通信装置。
【請求項3】
上記複数のアンテナ素子は、2次元配列されており、
上記スキャンアンテナは、上記移動体の移動経路に対して2次元スキャンする
ことを特徴とする請求項2に記載のタグ通信装置。
【請求項4】
上記複数のアンテナ素子は、
パッチアンテナからなる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタグ通信装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタグ通信装置と、
上記タグ通信装置と無線通信を行う少なくとも1つのRFIDタグと、を備える
ことを特徴とするタグ移動方向検知システム。
【請求項6】
移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置のスキャンアンテナから送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンし、
上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成し、
上記生成したデータを用いて、上記スキャン角と上記経時情報の間の関係を示す線形近似直線を求め、この線形近似直線の傾きから上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する
ことを特徴とするタグ移動方向検知方法。
【請求項7】
移動体に付されたRFIDタグと電波を介して無線通信を行うタグ通信装置のスキャンアンテナから送信する電波のビームを上記移動体の移動経路上の空間に向けてスキャンし、
上記RFIDタグからの受信情報を経時情報に関連付けるとともに、この受信情報を受信した際の上記スキャンアンテナのスキャン角と上記経時情報の組を複数個生成し、
上記生成したデータを用いて、上記移動体の移動軌跡を求めることにより上記RFIDタグが付された移動体の移動方向を検知する
ことを特徴とするタグ移動方向検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−303935(P2007−303935A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131894(P2006−131894)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】