説明

タッチプローブの接触検出方法及び装置

【課題】測定圧が低く、広い測定角度のタッチプローブの接触検出方法及び装置を提供。
【解決手段】一定の励起周波数(f)で正弦波振動させられた触針部5aと、触針部の振動波形を測定出力するセンサユニット7を有するタッチプローブの接触検出方法であって、センサユニットによって出力された振動波形を周波数分布に変換し、励起周波数の整数(n)倍の所定の高調波(n×f)の値があらかじめ定められた閾値以上となった時に、タッチプローブが被測定対象物に接触したと判定する。また、所定の高調波は励起周波数(f)の二倍の高調波(2×f)である。さらには、励起周波数(f)は触針部の固有振動数とは異なるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密、超精密計測分野で使用される3次元測定機や超精密変位測定器、形状測定器における触針部と測定対象との接触を検出するタッチプローブの接触検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接触式変位測定器において、タッチプローブが使用されている。タッチプローブの接触検出方法は、例えば測定対象とプローブの先端との接触によって生じる変位を測定したり、変位により接点を機械的に開閉したものがある。しかし、これ等のものは、検出分解能と接点開閉に必要な力すなわち測定圧とが互いに関係しあうものであるので、測定対象への損傷を和らげるために測定圧を下げようとする検出が不安定になり、それを避けるために測定圧を上げると測定対象物に損傷を与えるという問題があった。また、測定方向毎検出機構が一組必要なことが多く、プローブ形状が大きくなる。このような短所は被測定物が小さくなるほど顕著に測定結果に影響することとなる。また、原則的に触針部は測定対象物の測定面に垂直に接触するように設計されており、測定面の傾きが増加すると測定誤差を生じたり、測定不能に陥るなどの問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1等においては、タッチプローブの触針を振動させ、その振動波形を検出するようにし、触針が被測定物に接触したときの振動波形の変化を検出することにより、接触したと判断している。振動波形の変化は共振周波数の変化や、振幅の変化をとらえている。また、特許文献2においては、触針の加振を触針の固有振動数で振動させ振幅を大きくして感度をあげ、ハウジング等の固有振動数(基本周波数及びその高調波成分)と異ならせることにより外乱の影響を減少させている。
【0004】
一方、特許文献3においては、触針の先端と被測定側との間に交流電圧を印加し、その結果生ずる触針の二倍高調波振動を検出して、表面電位、電荷、誘電率等の電気情報を得て、非接触による電気力プローブ顕微鏡操作方法が提案されている。このものは、試料−探針間の距離と板バネの二倍高調波振動振幅との関係をあらかじめ計測し、これにより適当な試料−探針間の距離となる板バネの二倍高調波振動振幅の設定値を定め、探針を試料上の測定点に近づけてこの設定値になったところで、幾種類かの電気的情報を収集した後、探針を試料から離し、次の試料上の測定点に移動させ、同様な操作で電気的情報を収集して、試料の形状を測定するものである。
【特許文献1】特開昭48−60653号公報
【特許文献2】特許第2625364号公報
【特許文献3】特開平8−220110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2のものでは、振幅の変化の感度を上げようとすると、接触圧を大きくする必要がある。また、触針と被測定物との接触角度によっても振幅が変化するので、接触角度が小さくなると感度が低下してしまい、大きな角度範囲にわたって安定して振幅変化をとらえることはできないという問題が依然として残る。また、ノイズの影響を下げたり感度を上げるためには励起周波数をプローブの固有振動数にするのがよいが、固有振動数では振幅が大きくなり接触圧を減じることは困難となり、いわんや接触圧を任意に設定するのは困難であるという問題があった。
【0006】
また、特許文献3のものは、被測定物と探針との間に生ずる電気的な高調波の値を非接触で測定するものであるが、被測定物と探針との距離と高調波の振幅とをあらかじめ測定しなければならず、非常に調整が面倒であり、接触タイプのような簡便さに欠けるという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、かかる従来の問題点に鑑みて、測定圧が低く測定対象が光学面であっても有害な損傷を与えず、さらには測定対象面が水平な場合のみならず、相当な角度で傾いている場合においても、触針部と測定対象物との接触が確実に検出できるタッチプローブの接触検出方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、一定の励起周波数(f)で正弦波振動させられた触針部と、前記触針部の振動波形を測定出力するセンサユニットと、を有するタッチプローブの接触検出方法であって、前記センサユニットによって出力された振動波形を周波数分布に変換し、前記励起周波数の整数(n)倍の所定の高調波(n×f)の値があらかじめ定められた閾値以上となった時に、前記タッチプローブが被測定対象物に接触したと判定するタッチプローブの接触検出方法を提供することにより前述した課題を解決した。
【0009】
即ち、周波数fの正しい正弦波で振動している触針の周波数特性は、周波数成分がfのみの線スペクトルとなる。この触針が測定対象物(被測定物)に接触した場合、振幅に目立った変化が現れる前に、周波数特性には顕著な高調波成分n×fが現れる。本発明は、この性質を利用したものである。従来の振幅の変化をとらえるものでは、接触した時の振幅の変化量はゼロからスタートして徐々に大きくなるので、検出すべき振幅変化の度合いが緩やかであり検出誤差を生じやすい。しかし、本発明においては高調波の発生という全く振動数の異なる振動の発生を検出するので、検出しやすく誤差も少ない。さらに、被測定物と触針の接触角度の制約が緩いため、傾斜した面に対しても検出感度を保つことができる。なお、ノイズ等の影響を避けるため、あらかじめ定められた閾値を設けて振動の発生を検出するようにした。
【0010】
また、請求項2に記載の発明においては、前記所定の高調波は前記励起周波数(f)の二倍の高調波(2×f)とした。二倍の高調波の振幅がもっとも大きくなるからである。さらに、請求項3に記載の発明においては、前記励起周波数(f)は触針部の固有振動数とは異なるようにした。固有振動数と同じであると、触針の振幅が大きくなり、感度は高くなるが、接触圧が大きくなるとともに、外乱として高調波が発生しやすいからである。さらに、固有振動数に限定されることなく励起周波数が任意に選べるので所望の測定圧を得ることができる。
【0011】
かかるタッチプローブの検出方法は、次のような装置にて実施できる。すなわち、請求項4に記載の発明においては、被測定物に接触可能にされた触針と、前記触針を一定の励起周波数(f)で振動させる振動子と、前記触針部の振動波形を測定出力するセンサユニットと、を有するタッチプローブの接触検出装置であって、前記センサユニットによって出力された振動波形から周波数分布を求める周波数解析器と、前記周波数分析の励起周波数の整数(n)倍の所定の高調波(n×f)を出力する出力器と、前記出力器からの出力をあらかじめ定めた閾値と比較しON−OFF信号を出力する比較器と、を有するタッチプローブの接触検出装置を提供する。
【0012】
また、請求項5に記載の発明においては、前記所定の高調波は前記励起周波数(f)の二倍の高調波(2×f)であるタッチプローブの接触検出装置とするのがよい。さらに、請求項6に記載の発明においては、前記励起周波数(f)は触針部の固有振動数とは異なるようにされているタッチプローブの接触検出装置とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、高調波の発生を検出することにより、触針の被測定物への接触を判断するようにしたので、感度が良好なものとなった。また、傾斜した面に対しても検出感度を保つことができるので、半球面のほぼ全領域が測定可能となり、マイクロレンズ等のような小型で、湾曲した部分の測定等が可能になった。さらに、閾値により高調波の発生を検出するのでノイズの影響も少なく、接触を確実に検出できるものとなった。
【0014】
また、請求項2、5に記載の発明においては、高調波を励起周波数(f)の二倍の高調波(2×f)として感度を向上させた。さらに、請求項3、6に記載の発明においては、励起周波数(f)を触針部の固有振動数とは異ならせ、接触圧を小さくすることができるので、被測定面の損傷を少なくできるものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態を示すタッチプローブの接触検出装置のシステムの概念図である。図1に示すように、本発明タッチプローブ接触検出装置1は、被測定物2に対して進退可能にされた移動体3に垂直に板バネ4が固定されている。また、板バネ4の板面4a,4bは移動体の移動方向に向けられ、板バネが移動体の移動方向に振動するように取り付けられている。先端5aが鋭利にされた棒状のプローブ(触針)5が板バネの被測定物2側の板面4bに対し垂直に固定され所謂カンチレバー4′を形成している。板バネ4を挟んでプローブ5の反対側に圧電素子(振動子)6がその変位方向が板バネの板面4aに対して垂直方向となるように取り付けられている。さらに、プローブ5又は圧電素子6の近傍に板バネ4の振動波形を測定出力するセンサユニット7が板バネの板面4bに取り付けられている。圧電素子6には増幅器8を介して正弦波関数発生器(FFTアナライザ等でもよい)9が接続され、正弦波関数発生器より与えられる正弦波信号(励起周波数(f))により圧電素子を介してプローブ5が正弦波振動するようにされている。
【0016】
センサユニット7からの出力信号は増幅器10、アナログデジタル変換器(以下「A/D変換器」という)11を介してパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)12に入力される。PCに入力されたセンサユニット7からの出力信号はプログラムにより周波数解析(フーリエ変換)され、周波数分析によって励起周波数fの2倍の高調波(2×f)の強度を出力し、この出力とあらかじめ設定された閾値と比較しON−OFF信号を内部出力するようにされている。なお、PCに代えて、センサユニットによって出力された振動波形を周波数分布に変換する周波数解析器と、周波数分析の励起周波数の2倍の所定の高調波(2×f)の強度を出力する出力器と、出力器からの出力をあらかじめ定めた閾値と比較しON−OFF信号を出力する比較器を設けるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0017】
移動台3は基台20の案内面20aを移動するようにされ、基台と移動台間に移動台移動装置21が取り付けられている。また、移動台3と基台20との間にリニアスケール22が取り付けられ移動台と基台との距離を測定可能にされている。移動装置21は圧電素子にされ、PCからデジタルアナログ変換器(以下「D/A変換器」という)23、増幅器24を介して電圧が印可され数μm〜数百μmの変位が可能にされている。さらに、リニアスケール22からの出力信号は増幅器25、A/D変換器26を介してPCにフィードバック入力され、PC内で、移動装置のリニアスケールによるフィードバック制御を行うようにされている。
【0018】
かかるタッチプローブ接触検出装置の使用方法は例えば、次にようにされる。正弦波関数発生器9から出力された正弦波信号を増幅器8を通して、振動子6に入力し板バネ4を片持ち梁振動させる。板バネ4の振動をセンサユニット7で読み取り、増幅器10、A/D変換器11を介してPC12内に取り込み、PC内で周波数解析を行い、励起周波数fの2倍高調波の値が所定の閾値以上であるかどうか監視する。一方、PC12よりステップ信号を出力し、D/A変換器23、増幅器24を通して、移動装置(圧電素子)21に印可し、移動台3を被測定物2側に近づける。同時に移動台3の変位をリニアスケール22で読み取り、増幅器25、A/D変換器26を介してPCにフィードバック入力される。励起周波数fの2倍高調波の値が所定の閾値以上となった時に、プローブ5が被測定物2と接触していると判断し、その時のリニアスケール22の値を読み取ることにより位置測定を行う。
【0019】
本実施の形態では、接触したときの高調波について詳述する。図2は前述した装置を用いて、振動子6の励起周波数を200Hzとしたときの未接触状態での周波数解析結果、図3は接触状態での周波数解析結果である。図2に示すように、全体の周波数に渡りノイズがあるものの、未接触状態では、周波数が200Hzでピークが現れているが、その他の周波数では特にピークはない。これに対し図3に示すように、接触状態では、周波数が200Hzでピークがあり、さらに励起周波数の2倍高調波である400Hzで小さなピークが発生していることがわかる。ノイズが無ければ、この400Hzでのピークの有無のみを判定するだけで良いが、実際にはノイズがあるので、閾値を設けて、接触・非接触を判定するのがよいことがわかる。
【0020】
また、接触角を45度斜め方向で接触するようにして、同様な測定を行った。図4は45度の接触角での接触状態での周波数解析結果である。図4に示すように、前述した図3よりノイズが若干大きくなるも、接触時にはほぼ同程度の高調波が発生していることがわかる。このように、本発明によれば、接触角の影響も非常に少なくできることがわかる。
【0021】
このように、本実施の形態によれば、測定波形の振幅の変位等の常に発生している測定値の変化を測定して、接触・非接触を判定するのではなく、高調波の発生という質的な変化をとらえて接触・非接触を判定するので、ノイズの影響が少なく、誤差もすくない高精度の判定ができ、接触角も広い範囲でカバーできることがわかる。
【0022】
次に、本発明の測定圧について述べる。前述したような片持ち梁による振動においては、振動振幅a、振動周波数f、振動質量m、測定圧Nとすると、
N=a・(2πf)2・m となる。したがって、振動周波数fにより測定圧Nを調節できることになる。
また、振動数が固有振動数fnであれば、板バネのバネ常数kとして、
(2πfn)2=k/m であるので、
N=a・k となる。
【0023】
このように、固有振動数を用いた際は、振動振幅及び板バネのバネ常数で測定圧が決まってしまう。請求項3,6のように、本発明においては励起周波数を固有振動数に限定することなく、任意の周波数を選んでも容易に接触・非接触の判定が可能であるので、所望の測低圧、より低い測低圧で接触・非接触の判定が可能である。
【0024】
なお、本発明の実施の形態においては、板バネ等を用いた例で説明したが、その他の振動体、振動方向でもよい。また、関数発生器、振動子、測定素子等、種々のものが使用、適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態を示すタッチプローブの接触検出装置のシステムの概念図である。
【図2】振動子の励起周波数を200Hzとしたときの未接触状態での周波数解析結果である。
【図3】振動子の励起周波数を200Hzとしたときの接触状態での周波数解析結果である。
【図4】振動子の励起周波数を200Hzとし、接触角を45度としたときの接触状態での周波数解析結果である。
【符号の説明】
【0026】
1 タッチプローブの接触検出装置
2 被測定対象物
5 タッチプローブ
5a 触針部
6 振動子
7 センサユニット
12 PC、周波数解析器、出力器、比較器
f 励起周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の励起周波数(f)で正弦波振動させられた触針部と、前記触針部の振動波形を測定出力するセンサユニットと、を有するタッチプローブの接触検出方法であって、前記センサユニットによって出力された振動波形の周波数分布を求め、前記励起周波数の整数(n)倍の所定の高調波(n×f)の値があらかじめ定められた閾値以上となった時に、前記タッチプローブが被測定対象物に接触したと判定することを特徴とするタッチプローブの接触検出方法。
【請求項2】
前記所定の高調波は前記励起周波数(f)の二倍の高調波(2×f)であることを特徴とする請求項1記載のタッチプローブの接触検出方法。
【請求項3】
前記励起周波数(f)は触針部の固有振動数とは異なるようにされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のタッチプローブの接触検出方法。
【請求項4】
被測定物に接触可能にされた触針と、前記触針を一定の励起周波数(f)で正弦波振動させる振動子と、前記触針部の振動波形を測定出力するセンサユニットと、を有するタッチプローブの接触検出装置であって、前記センサユニットによって出力された振動波形の周波数分布を求める周波数解析器と、前記周波数分析の励起周波数の整数(n)倍の所定の高調波(n×f)を出力する出力器と、前記出力器からの出力をあらかじめ定めた閾値と比較しON−OFF信号を出力する比較器と、を有することを特徴とするタッチプローブの接触検出装置。
【請求項5】
前記所定の高調波は前記励起周波数(f)の二倍の高調波(2×f)であることを特徴とする請求項4記載のタッチプローブの接触検出装置。
【請求項6】
前記励起周波数(f)は触針部の固有振動数とは異なるようにされていることを特徴とする請求項4又は5に記載のタッチプローブの接触検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−132890(P2007−132890A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328555(P2005−328555)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】