説明

タンク部品の締結構造

【課題】十分な大きさの締結荷重を伝達し、さらには保持することを可能とする。
【解決手段】口金部2に形成された座面6とタンク部品3に形成された座面5との間に挟持され、これら座面5,6を互いに離れさせた状態で当該座面5,6のそれぞれに接触する介在部材7を備える。介在部材7は、弾性変形し難い材料によって形成することができる。また、座面5,6と介在部材7とが接触し合う領域の少なくとも一方に、当該表面における摩擦係数を低下させる表面処理が施されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク部品の締結構造に関する。さらに詳述すると、本発明は、水素等の貯蔵に利用される高圧タンクにおいてねじを利用してバルブアッセンブリ等の部品を締結するための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等の貯蔵に利用される高圧タンクとして、タンク開口部に設けられた口金部にバルブアッセンブリ(高圧バルブ等を内蔵した部品)を取り付ける構造のものが利用されている。また、口金部にバルブアッセンブリ等のタンク部品を取り付けるにあたっては、口金部のめねじ部分にバルブアッセンブリのおねじ部分を螺合させるというような単純なねじ構造を利用した締結構造が多く利用されている。
【0003】
このようなタンク部品の締結構造の場合、例えば口金部とバルブアッセンブリのそれぞれに形成された座面どうしを接触させた状態でスラスト方向の軸力管理を行うものがある。これは、座面どうしが接触した状態で更にねじ締結部を締め込んだときに作用する反力(軸力)で締付け力を調整するというものであり、この場合、バルブアッセンブリを一定のトルクで回転させた場合に一定の締付け力が得られる構造となっていることが望ましい。また、このような締結構造でのシール性の向上を図るものとして、口金部の端面(座面)とバルブアッセンブリとの間にOリングを挟み込むというシール構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−349796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような構造の高圧タンクにおいては、例えば35MPa場合によって70MPaにも至るような高い内圧をねじ締結部だけでなく座面でも受けることになるため、これに起因して問題が生じることがある。すなわち、バルブアッセンブリの締結荷重を十分に大きくする必要があるが、その一方で、上述のようなOリングを利用した従来構造では当該締結荷重を十分に伝達し、あるいは保持することが難しいといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、十分な大きさの締結荷重を伝達し、さらには保持することを可能としたタンク部品の締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、本発明者は種々の検討を行った。現状においては、重量の嵩みがちな高圧タンクの重量を少しでも軽減するという観点、さらには加工という面からのコスト削減という観点から、当該高圧タンクの口金部分やバルブアッセンブリにアルミニウム材料を適用することがある。ところが、これによれば軽量化等が図れる反面、バルブアッセンブリの締め付け時に接触面(具体的には例えば口金部の座面と当該バルブアッセンブリの座面)に傷が付いてしまい、場合によっては再利用できなくなる点で問題である。また、このような場合、従来構造だともはや締結荷重を十分に伝達し、あるいは保持することが難しいことがある。このような点につき、本発明者は、締結荷重の伝達や保持という観点からさらに検討を重ね、かかる課題の解決に結びつく技術を知見するに至った。
【0007】
本発明はかかる知見に基づくものであり、高圧タンクの口金部に締結されるタンク部品の締結構造であって、前記口金部と締結されるためのねじ締結部と、前記口金部に形成された座面と前記タンク部品に形成された座面との間に挟持され、これら座面を互いに離れさせた状態で当該座面のそれぞれに接触する介在部材と、を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
タンク部品(例えばバルブアッセンブリ)におけるスラスト方向の締付け力は一定に保たれていることが望ましい。この点、バルブアッセンブリを一定のトルクで締め付けることにより一定の締付け力が得られるようにしたトルク管理が一般に多く行われている。しかし、例えば検査のためにバルブアッセンブリを一度取り外し再び取り付けたような場合、座面間に異物が介在してしまったりあるいは当該座面に傷が付いていたりすることがあり、そのままバルブアッセンブリを締め付けて一定のトルクを与えたとしても締付け力が一定に保たれなくなることがある。これに対し、本発明にかかる締結構造によれば、口金部の座面とタンク部品の座面との間に挟持される介在部材が両座面を離した状態とし、直接接触したり摺接したりしないようにする。こうした場合、座面どうしを接触させたままねじ締結部を強く締め込んだときのように表面に傷が付いたりするようなことが回避されるから、トルク管理のときにおいて一定の締付け力が得られやすい。このため、十分な大きさの締結荷重を伝達しやすく、さらには保持しやすい締結構造とすることが可能となる。
【0009】
このような締結部材における前記介在部材は、弾性変形し難い材料によって形成されていることが好ましい。弾性変形し難い部材が両座面間に介在している場合、十分に大きな締結荷重を伝達しやすい。
【0010】
また、前記座面と前記介在部材とが接触し合う領域の少なくとも一方に、当該表面における摩擦係数を低下させる表面処理が施されていることが好ましい。例えば介在部材の両面を処理する等して座面−介在部材間の接触面に生じる摩擦力を低減させれば、摩擦係数を低下させることができる。こうした場合、介在部材の表面と座面との間における摩擦係数(特に動摩擦係数)が少なくなり、互いの表面が滑りやすくなるから、例えば口金部やバルブアッセンブリの座面に生じることのあった同心円状の傷を抑制することが可能となる。
【0011】
さらに、かかる締結構造において、当該タンク部品と前記口金部との隙間を封止することによって前記高圧タンクの内部から外部へと貯留ガスが漏出するのを抑えるシール部材が、当該タンク部品におけるねじ締結部よりも先端側に設けられていることが好ましい。
【0012】
また、前記介在部材がさらばねであることも好ましい。座面の間に介在するさらばねによっても、各座面に傷が付くのを抑制し、トルク管理のときに一定の締付け力が得られやすくなるようにすることができる。しかも、座面の間に介在したさらばねは、ばね力を利用してスラスト方向への反力を発揮する。したがってこの締結構造においては、当該反力(軸力)を利用して締付け力を付与し調整することが可能である。
【0013】
また、かかる締結構造において、前記介在部材を構成する材料の硬度が、前記口金部または当該タンク部品を構成する材料の硬度よりも小さいことが好ましい。この場合、介在部材と口金部等とが摺接しても相対的に介在部材のほうに傷が付きやすいから、口金部等の表面に同心円状といった傷が生じるのを抑制することができる。
【0014】
さらに、前記口金部あるいは当該タンク部品に対して相対的に回転するのを抑えるための回り止めが前記介在部材に設けられていることも好ましい。この場合には、当該タンク部品の座面側に設けられた第一のワッシャと、前記口金部の座面側に設けられた第二のワッシャとで構成されていることがさらに好ましい。このような締結構造の場合、第1のワッシャと第二のワッシャ間で傷を生じさせやすく、座面に傷が付くのを抑制することが可能である。
【0015】
また、前記ねじ締結部が、前記口金部に形成されたフランジと当該タンク部品に形成されたフランジとを挟み込んで締付け力を付与する締結手段によって構成されていることも好ましい。このような締結構造においては、口金部やタンク本体に対して当該タンク部品を相対回転させることなく取り付けたり取り外したりすることが可能である。また、タンク部品自体に形成されるねじ部(ねじ締結部)を省略することが可能となるから、当該タンク部品を短縮・小型化し、その分だけ高圧タンクにおける水素等のガス貯蔵量増加を図ることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば十分な大きさの締結荷重を伝達し、さらには保持することが可能な締結構造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1〜図4に本発明にかかるタンク部品の締結構造の実施形態を示す。本発明にかかるタンク部品の締結構造は、高圧タンク1の口金部2に取り付けられる例えばバルブアッセンブリなどのタンク部品(以下、バルブアッセンブリともいう)3を締結するためのものである。以下では、このようなバルブアッセンブリ(タンク部品)3の締結構造の一実施形態として、本発明を燃料電池自動車用の高圧水素タンクに適用した場合について説明することにする。
【0019】
まず、本実施形態における燃料電池システムの概略について示す(図1参照)。この燃料電池システム10は、燃料電池20と、酸化ガスとしての空気(酸素)を燃料電池20に供給する酸化ガス配管系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池20に供給する燃料ガス配管系40と、システム全体を統括制御する制御部70と、を備えたシステムとして構成されている。
【0020】
燃料電池20は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造を備えている。燃料電池20の単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有している。一方のセパレータの燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、他方のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池20は電力を発生する。
【0021】
酸化ガス配管系30は、燃料電池20に供給される酸化ガスが流れる供給路11と、燃料電池20から排出された酸化オフガスが流れる排出路12と、を有している。供給路11には、フィルタ13を介して酸化ガスを取り込むコンプレッサ14と、コンプレッサ14により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15と、が設けられている。排出路12を流れる酸化オフガスは、背圧調整弁16を通って加湿器15で水分交換に供された後、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0022】
燃料ガス配管系40は、燃料供給源としての高圧の水素タンク(本明細書では高圧タンクという)1と、高圧タンク1から燃料電池20に供給される水素ガスが流れる供給路22と、燃料電池20から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路22の合流点Aに戻すための循環路23と、循環路23内の水素オフガスを供給路22に圧送するポンプ24と、循環路23に分岐接続された排出路25と、を有している。
【0023】
高圧タンク1は、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能に構成されている。高圧タンク1の主止弁26を開くと、供給路22に水素ガスが流出する。その後、水素ガスは、インジェクタ29により流量及び圧力を調整された後、さらに下流において機械式の調圧弁27その他の減圧弁により、最終的に例えば200kPa程度まで減圧されて、燃料電池20に供給される。主止弁26及びインジェクタ29は、図1において破線の枠線で示すバルブアッセンブリ3に組み込まれ、バルブアッセンブリ3が高圧タンク1に接続されている。
【0024】
供給路22の合流点Aの上流側には、遮断弁28が設けられている。水素ガスの循環系は、供給路22の合流点Aの下流側流路と、燃料電池20のセパレータに形成される燃料ガス流路と、循環路23とを順番に連通することで構成されている。排出路25上のパージ弁33が燃料電池システム10の運転時に適宜開弁することで、水素オフガス中の不純物が水素オフガスと共に図示省略した水素希釈器に排出される。パージ弁33の開弁により、循環路23内の水素オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環供給される水素オフガス中の水素濃度が上がる。
【0025】
制御部70は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、インジェクタ29の流量制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御部70は、ガス系統(30,40)や図示省略の冷媒系統に用いられる各種の圧力センサや温度センサなどの検出信号を入力し、各構成要素に制御信号を出力する。
【0026】
続いて、本実施形態にかかるタンク部品の締結構造について説明する(図2等参照)。
【0027】
高圧タンク1は、当該高圧タンク1のボディを構成する密閉円筒状の本体の一端に口金部2が設けられた構造となっている(図2参照)。本体は、ガスが外部へ透過するのを抑制する内側の樹脂ライナ1aと、この樹脂ライナ1aの外側を覆う例えばCFRPあるいはGFRPからなるシェル1bとの二層構造となっている。また、高圧タンク1の本体内部は水素ガスを高圧で貯蔵する貯蔵空間1cとなっている(図2参照)。
【0028】
口金部2は、例えばアルミニウム合金で形成され、タンク本体の球面状をした端壁部の中心に設けられている。また、この口金部2の内周面に形成されためねじを介して、バルブアッセンブリ3が当該口金部2にねじ込まれて着脱可能な状態で締結されるようになっている。本実施形態ではこの口金部2を筒状(パイプ状)としているが(図2、図3参照)、これは一例に過ぎず特にこのような形状に限定されることはない。
【0029】
バルブアッセンブリ3は、高圧タンク1におけるガス排出部を構成している部品である。図中では特に示していないが、直列に配置された高圧バルブやインジェクタを内蔵した構造となっている。また、このバルブアッセンブリ3のハウジングはアルミニウム合金製である。これらも特に図示していないが、このハウジングには、インジェクタ等以外に、安全弁(リリーフ弁、溶栓弁)や逆止弁など他のバルブが設けられてもよい。
【0030】
また、このようなバルブアッセンブリ3を高圧タンク1に締結するための構造は、口金部2と締結されるためのねじ締結部4と、バルブアッセンブリ3に形成されている座面5と、口金部2に形成されている座面6と、を備えたものとなっており、これにより、当該バルブアッセンブリ7を高圧タンク1に着脱可能な状態で締結することを可能としている(図2等参照)。
【0031】
ねじ締結部4は、バルブアッセンブリ3を口金部2に締結するために形成されているもので、より具体的には、口金部2の内周面のめねじに螺合するよう当該バルブアッセンブリ3の外周面に形成されたおねじである。例えば本実施形態の場合、バルブアッセンブリ3の一部は口金部2の内側に収まる細径部となっており、この細径部の途中に上述のようなねじ締結部4が形成されている(図2、図3参照)。
【0032】
座面5、座面6は、バルブアッセンブリ3を口金部2に締結させた際にいずれかの部材と接触するもので、このように各座面5,6がいずれかの部材と接触した状態で更にねじ締結部4を締め込むことによりバルブアッセンブリ3に反力(軸力)が作用する。口金部2側の座面6は、例えば本実施形態においては、上述のごとく筒状に形成された当該口金部2の上端面に環状に形成されている。一方、バルブアッセンブリ3側の座面5は、当該バルブアッセンブリ3の下面であって、口金部2側の座面6と対向するような環状面に形成されている(図3等参照)。
【0033】
さらに、例えばバルブアッセンブリ3と口金部2の隙間を封止することによって高圧タンク1の内部から外部へと貯留ガスが漏出するのを抑えるシール部材8が適宜設けられる。この場合、シール部材8は、バルブアッセンブリ3におけるねじ締結部4よりも先端側(高圧タンク1側)に設けられていることが好ましい(図3参照)。バルブアッセンブリ3と口金部2との隙間間隔が狭小だと、口金部2に対してバルブアッセンブリ3を取り付けたり取り外したりするとき当該バルブアッセンブリ3が僅かに傾いただけでその先端部が口金部2の内周に接触するおそれがあるが、このように先端側にシール部材8を設けている場合にはバルブアッセンブリ3の先端部と口金部2の内周とが接触するのを回避しうるという利点がある。
【0034】
ここで、本実施形態においては、さらに介在部材7を設けることとしている(図2、図3参照)。介在部材7は、口金部2に形成された座面6とバルブアッセンブリ3に形成された座面5との間に挟持され、これら座面5,6を互いに離れさせた状態にして当該座面5,6のそれぞれに接触する部材である。このような介在部材7は、口金部2の座面6とバルブアッセンブリ3の座面5との間に挟持されて、両座面5,6を離した状態として直接接触したり摺接したりしないようにする。例えば座面5,6どうしを接触させたままねじ締結部4を強く締め込むと両座面5,6に傷が付くことがあるのに対し、上述のように介在部材7を配置する本実施形態の締結構造によれば、従来のようにして両座面5,6に傷が付くようなことを回避することが可能となる。このため、トルク管理のときに一定の締付け力が得られやすい。
【0035】
このような介在部材7は、弾性変形し難い材料、例えば変形し難い形状とされた金属材料によって形成されていることが好ましい。例えば本実施形態では環状の金属製ワッシャを介在部材7として用いることとしている(図2、図3参照)。また、ここでは弾性変形し難い材料として金属材料を例示したが、より好ましくは、かかる介在部材7を構成する材料の硬度が口金部2またはバルブアッセンブリ3を構成する材料の硬度よりも小さいことである。こうした場合には、介在部材7と口金部2やバルブアッセンブリ3とが摺接しても相対的に介在部材7のほうに傷が付きやすいから、口金部2等の表面に同心円状といった傷が生じるのを抑制することが可能である。一例として、アルミニウム合金製の口金部2やバルブアッセンブリ3を用いている本実施形態の場合には、展性・延性に富む銅製の介在部材7を採用することができる。例えば銅ワッシャ等の介在部材7を採用した場合、傷が生じたとしても銅ワッシャの方に集中することになるから、結果として座面5,6に傷が付くのを抑制することが可能となる。また、傷の付いた銅ワッシャを新品に交換するだけで初期とほぼ同様の状態に戻すことができるという利点もある。
【0036】
なお、弾性変形し難い材料の一例としてここでは金属材料を例示したがこれに限られることはなく、これ以外にも例えばセラミック、カーボン、硬めのナイロンなど、あるいは硬化樹脂などを適用することが可能である。上述したような弾性変形し難い部材を両座面5,6間に介在させた場合には、バルブアッセンブリ3と口金部2の間で大きな締結荷重を伝達しやすいという利点もある。
【0037】
また、座面5,6と介在部材7とが接触し合う領域の少なくとも一方には、当該表面における摩擦係数を低下させる表面処理を施すことがさらに好ましい。例えば介在部材7の両面を処理して座面5,6と介在部材7間の接触面に生じる摩擦力を低減させれば、摩擦係数を低下させることができる。こうした場合には、介在部材7の表面と座面5,6との間における摩擦係数、特に動摩擦係数が少なくなり、互いの表面が滑りやすくなるから、座面5,6に生じることのあった同心円状の傷を抑制することが可能となる。例えば本実施形態においては介在部材(金属製ワッシャ)7の両面に処理を施すこととしているが、この代わり座面5や座面6に表面処理を施すようにしてもよい。
【0038】
ここで上述のような表面処理の具体例を挙げると以下のとおりである。アルミニウム合金などの金属表面における摩擦係数μは通常0.3〜0.4程度であるが、例えばフッ素系樹脂をコーティングした場合には摩擦係数μを0.2以下、場合によっては0.1以下程度にまで低下させることが可能である。あるいは、ポリエチレンワックスを含有した樹脂等によっても摩擦係数を低下させることが可能である。また、これらのようにコーティングを施す場合の当該コーティング厚さは例示すれば数〜数十μm程度である。
【0039】
さらに、口金部2あるいはバルブアッセンブリ3に対して介在部材7が相対的に回転するのを抑えるため、回り止め9を設けることも好ましい(図4参照)。回り止め9によって相対回転を抑えることにより、バルブアッセンブリ3の着脱時、介在部材7がいわゆる共回りをするのを抑えることができる。このような回り止め9の具体的な構造や形状は特に限定されるものではなく、例示すれば、ボルトを利用して介在部材7を口金部2に固定する構造とすることができる(図4参照)。こうした場合、介在部材7は口金部2と一体的となり相対回転しないから、互いに擦れ合うのは、バルブアッセンブリ3の座面5および当該座面5に接する介在部材7の上面だけということになる。したがって、この場合には当該バルブアッセンブリ3の座面5、および介在部材7の上面だけを表面処理すれば足りるから、処理対象となる領域が少なくて済むという利点がある。なお、以上は例示に過ぎず、介在部材7を逆にバルブアッセンブリ3に一体化してもいいことはいうまでもない。
【0040】
以上のような締結構造を備えた本実施形態の高圧タンク1においては、バルブアッセンブリ3を締結する際の締付けトルクが安定するという利点がある。すなわち、タンク部品(例えばバルブアッセンブリ)3におけるスラスト方向の締付け力は一定に保たれていることが望ましく、通常は、当該バルブアッセンブリ3を一定のトルクで締め付けることにより一定の締付け力が得られるようにしている(いわゆるトルク管理)。その一方で、例えば検査のためにバルブアッセンブリ3を一度取り外し、再び取り付けたような場合、座面5,6に傷が付くことがあり、そのままバルブアッセンブリ3を締め付けると一定のトルクを与えたとしても締付け力が一定に保たれなくなることがある。この点、本実施形態の高圧タンク1によれば座面5,6どうしを直接接触させないようにして傷付きを抑制するから、締結時に作用するトルクが変わるのを抑えて締付け力を安定させることが可能である。このため、締付け力を保持してトルク管理を継続して行うことが可能となる。また、タンク部品(バルブアッセンブリ)3を着脱しても再利用することが可能となる。
【0041】
また、高圧タンク1やタンク部品においては、例えば35MPa場合によって70MPaにも至るような高い内圧をねじ締結部4だけでなく座面5,6でも受けることになる。この点、本実施形態の高圧タンク1では座面5,6間に弾性変形し難い介在部材(例えば銅等からなる金属ワッシャ)7を介在させていることから、高い締結荷重を作用させた場合に当該締結荷重を十分に伝達することが可能である。つまり、例えばOリングといった弾性材料を介在させていた従来の締結構造と比較して締結荷重を十分に伝達しやすい構造となっている。
【0042】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では口金部2に形成された座面6とバルブアッセンブリ3に形成された座面5との間に、弾性変形し難い材料(例えば銅)からなる介在部材7を挟持することとしたが、これとは逆に、弾性変形しうる介在部材7を挟持させることも可能である。以下、本発明の別の実施形態として説明する(図5〜図7参照)。
【0043】
図5等に示す実施形態においては、座面5と座面6との間にさらばね(皿バネ)を挟持することとしている(図5等参照)。このような介在部材(さらばね)7によっても、バルブアッセンブリ3の座面5と口金部2の座面6とを互いに離した状態とすることができるから座面5,6どうしが擦れ合ったときのように円周状の傷が付くのを回避することが可能である。したがって、トルク管理のときに一定の締付け力が得られやすくなるようにすることができる。しかも、座面5,6の間に挟持された介在部材(さらばね)7は、ばね力を利用してスラスト方向への反力を発揮する。したがってこの締結構造においては、当該反力(軸力)を利用して締付け力を付与し調整することが可能である。つまり、先述の締結構造の場合には座面5,6どうしが接触した状態で更にねじ締結部4を締め込んだときに作用する反力(軸力)で締付け力を得るのに対し、図5等に示す締結構造の場合には、これに加えて、介在部材7自体の弾性を利用して更なる反力(軸力)を確保することが可能である。これによれば、座面5,6への傷付きを抑えて締結力を安定させるのみならず、介在部材7自体の反力をも利用し、更なる軸力を確保したうえでスラスト方向の軸力管理を行うことが可能である。別の表現をすれば、両座面5,6を互いに付き合わせた状態でトルクを作用させて締め付けるといういわばトルク管理型の締結構造に対し、さらに別の軸力を作用させることが可能な締結構造を実現することができる。
【0044】
また、ねじ締結部4を主として締付け力を生じさせるばかりでなく、これ以外の構造のよってスラスト方向への締付け力を得ることもできる。例えば、図7においては、口金部2とバルブアッセンブリ3にそれぞれフランジを形成し(フランジ2a、フランジ3a)、同心円上に等間隔に配置した複数のボルト17およびナット18からなる締結手段によってこれらフランジ2a,3aにスラスト方向の締付け力を付与している(図7参照)。このような締結構造においては、当該バルブアッセンブリ3を相対回転させることなく口金部2に対して着脱することが可能である。また、この締結構造においてはバルブアッセンブリ3に形成されていたねじ部(ねじ締結部4)を省略することが可能であるから、バルブアッセンブリ3を短縮・小型化し、その分だけ高圧タンク1における水素等のガス貯蔵量増加を図ることも可能である。なお、以上のようなフランジ方式の締結構造(フランジ2a,3aやボルト17およびナット18を利用したもの)は、さらばねからなる介在部材7と同時に適用した場合に、さらばねが発揮する軸力をも調整可能という点で好ましいが(図7参照)、介在部材7がさらばね以外のものである締結構造に適用しても好適である。
【0045】
さらに別の実施形態として、回り止め9付きの介在部材7を複数設けることも好ましい。例えば図8〜図11に示す締結構造は、バルブアッセンブリ3側に配置される介在部材7(7a)と、口金部2側に配置される介在部材7(7b)とを両座面5,6で挟持しているものである(図10等参照)。このような介在部材7としては、例えば90度おきに4つの回り止め9が形成された環状のワッシャを用いることができる(図8、図9参照)。各回り止め9は例えば折り曲げ可能な爪からなるものであり、バルブアッセンブリ3の頭部あるいは口金部2の外周部に引っ掛かるように形成されている。この場合、口金部2やバルブアッセンブリ3には、各回り止め9が引っ掛かりやすく尚かつ介在部材7が相対回転し難くなるようにするための溝2b,3bが形成されていることが好ましい(図11参照)。
【0046】
以上のような締結構造においては、介在部材7を共回りさせずにバルブアッセンブリ3を取り付け、あるいは取り外すことが可能である。すなわち、一方の介在部材7aは回り止め9によってバルブアッセンブリ3と一体化し、尚かつ他方の介在部材7bは回り止め9によって口金部2と一体化しているために、バルブアッセンブリ3の着脱時に擦れ合うのは両介在部材7a,7bの接触面のみである。換言すれば、バルブアッセンブリ3側の介在部材7aによって座面5を保護し、口金部2側の介在部材7bによって座面6を保護した状態でバルブアッセンブリ3を着脱することが可能である。これによれば、座面5,6にはなんら傷を付けることなくバルブアッセンブリ3を取り付けあるいは取り外すことが可能であるから、締結時に作用するトルクが変わるのを抑えて締付け力を安定させることができる。しかも、表面に傷が付いた介在部材7a,7bは容易に交換することが可能なものであるから、タンク部品(バルブアッセンブリ)3を交換するよりも手間とコストがかからないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態における燃料電池システムの概略を示す構成図である。
【図2】本発明にかかる締結構造の一実施形態を示す高圧タンクの縦断面図である。
【図3】図2に示した高圧タンクの口金部付近の拡大図である。
【図4】介在部材の回り止めが併設された高圧タンクの口金部付近の拡大図である。
【図5】本発明の別の実施形態を示す高圧タンクの縦断面図である。
【図6】図5に示した高圧タンクの口金部付近の拡大図である。
【図7】口金部とバルブアッセンブリに形成したフランジをボルトおよびナットで締め付けるようにした締結構造の一例を拡大して示す縦断面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施形態における介在部材(ワッシャ)の平面図である。
【図9】図8に示した介在部材(ワッシャ)の正面図である。
【図10】本発明のさらに別の実施形態における締結構造の一例を拡大して示す縦断面図である。
【図11】図10に示した締結構造の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1…高圧タンク、2…口金部、2a…フランジ、3…バルブアッセンブリ(タンク部品)、3a…フランジ、4…ねじ締結部、5…タンク部品側の座面、6…口金部側の座面、7…介在部材、8…シール部材、9…回り止め、17…ボルト(締結手段)、18…ナット(締結手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクの口金部に締結されるタンク部品の締結構造であって、
前記口金部と締結されるためのねじ締結部と、
前記口金部に形成された座面と前記タンク部品に形成された座面との間に挟持され、これら座面を互いに離れさせた状態で当該座面のそれぞれに接触する介在部材と、
を備えている
ことを特徴とするタンク部品の締結構造。
【請求項2】
前記介在部材は、弾性変形し難い材料によって形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項3】
前記座面と前記介在部材とが接触し合う領域の少なくとも一方に、当該表面における摩擦係数を低下させる表面処理が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項4】
当該タンク部品と前記口金部との隙間を封止することによって前記高圧タンクの内部から外部へと貯留ガスが漏出するのを抑えるシール部材が、当該タンク部品におけるねじ締結部よりも先端側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項5】
前記介在部材がさらばねであることを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項6】
前記介在部材を構成する材料の硬度が、前記口金部または当該タンク部品を構成する材料の硬度よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項7】
前記口金部あるいは当該タンク部品に対して相対的に回転するのを抑えるための回り止めが前記介在部材に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項8】
当該タンク部品の座面側に設けられた第一のワッシャと、前記口金部の座面側に設けられた第二のワッシャとで構成されていることを特徴とする請求項7に記載のタンク部品の締結構造。
【請求項9】
前記ねじ締結部が、前記口金部に形成されたフランジと当該タンク部品に形成されたフランジとを挟み込んで締付け力を付与する締結手段によって構成されていることを特徴とする請求項1〜3および5〜8のいずれかに記載のタンク部品の締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−278473(P2007−278473A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109015(P2006−109015)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】