説明

タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体、当該複合焼結体の製造方法、及び当該複合焼結体を備えた成形体

【課題】緻密な構造であり、高周波特性に優れ、熱膨張係数が小さいとともに、簡便な手段で製造できるタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体、当該複合焼結体の製造方法、及び当該複合焼結体を備えた成形体を提供すること。
【解決手段】本発明は、タングステン酸ジルコニウム粉体と酸化ケイ素の焼結粉体からなり、ゾル・ゲル法により得られたタングステン酸ジルコニウ粉体と酸化ケイ素のアモルファス粉体を混合し、放電プラズマ焼結して複合化することにより得ることができる。かかる複合焼結体は、緻密な構造となり、熱膨張係数が小さく加熱に対する寸法安定性に優れるとともに、低誘電損失であるため高周波特性にも優れるため、機能性セラミックス材料として、優れた高周波特性を必要とし、熱膨張の制御が課題とされる高周波デバイス・機器分野に加え、光学分野、熱エネルギー分野、電子材料分野等において適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体、当該複合焼結体の製造方法、及び当該複合焼結体を備えた成形体に関する。更に詳しくは、高周波特性に優れ、高周波デバイス・機器分野、光学分野、熱エネルギー分野、電子材料分野で有用なタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体、当該複合焼結体の製造方法、及び当該複合焼結体を備えた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材料における熱膨張挙動は、加熱により体積が増えることにより変形をもたらし、
異物質の接合界面における剥離ないし破壊等の大きな原因となる。特に、高い精度を要求
する精密機械部品や光学部品では、かかる熱膨張をどのようにして抑制するかが大きな課
題になっており、熱膨張を制御し、可能な限りゼロにしたいという要望がある。
【0003】
一方、温度の上昇とともに体積が連続的に減少する挙動を「負の熱膨張(負膨張)」と
いい、このような負膨張を示す材料(負膨張材料)として近年注目されているのがタング
ステン酸ジルコニウム(ZrW)である。このタングステン酸ジルコニウムは、0.3〜1050Kという広い温度範囲で等方的に負の熱膨張を示す材料であるため、正の熱膨張を示す材料との複合化により熱膨張を抑制・制御できる。それゆえ、熱膨張制御が課題となっている電子材料、精密機械部品、構造材料等の種々の分野への応用が期待されている。具体的な応用例としては、例えば、高周波基板、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイスといった高周波誘電体材料のほか、回折格子、光ファイバー用フェルール、光ファイバー・グレーティング用基板、光ファイバー用被覆体、燃料電池のセパレータ等が挙げられる。
【0004】
この中でも、高周波誘電体材料としては、材料の熱膨張を抑制・制御できることに加えて、低誘電損失である(誘電損失(tanδ)が低い、すなわち品質係数(Q値)の高い)ことが要求される。材料が低誘電損失であることは、基板(誘電体)中へ熱として放出される電流の損失が少なくなるため、基板における回路がより効率的に動作することを意味し、高周波誘電体材料としては必須の特性となる。このように、構造材料として熱膨張を抑制・制御するとともに、高周波誘電体材料として、低誘電損失であり、高周波特性に優れた電子材料が求められている。このようなことから、熱膨張係数の小さいタングステン酸ジルコニウムの高周波特性を向上させるべく、タングステン酸ジルコニウムと他の材料との複合化が求められ、種々の検討がなされている(例えば、特許文献1または特許文献2を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−238232号公報
【特許文献2】特開2005−67993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のタングステン酸ジルコニウムを含む複合材料は、急冷法を用いて得られる場合が多く、その場合にあっては、三酸化タングステン(WO)と酸化ジルコニウム(ZrO)への分解、熱歪みによる応力の発生等の問題があり、緻密な焼結体を得ることが難しかった。また、材料の特性としても、高周波領域における品質係数(Q値)が小さく、誘電損失が高くなるという問題があった。加えて、熱膨張係数の絶対値が5.0×10−6/℃以上となってしまう場合が多く、性能上満足のいくものが得られていないのが実情であった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、緻密な構造であり、高周波特性に優れ、熱膨張係数が小さいとともに、簡便な手段で製造できるタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体、当該複合焼結体の製造方法、及び当該複合焼結体を備えた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体は、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の焼結粉体であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体は、前記請求項1において、25℃〜400℃における熱膨張係数が−9.0×10−6/℃〜−2.0×10−6/℃の範囲であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造方法は、タングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物をゾル・ゲル法によりタングステン酸ジルコニウムを得る第1の工程と、ケイ素を含むケイ素化合物とアルコールをゾル・ゲル法により酸化ケイ素のアモルファス粉体を得る第2の工程と、前記タングステン酸ジルコニウム粉体と前記酸化ケイ素のアモルファス粉体を混合し、放電プラズマ焼結させる第3の工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造方法は、前記請求項3において、前記第2の工程が、酸性触媒を用いてゾル・ゲル法を実施することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る成形体は、前記した請求項1または請求項2に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る成形体は、前記請求項5において、高周波基板、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、光ファイバー用フェルール、光ファイバー・グレーティング用基板、光ファイバー用被覆体、または燃料電池用セパレータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体は、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の焼結粉体であるので、構造が緻密となり、また、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素という2種類の材料により熱膨張挙動が相殺され、温度上昇に対する寸法安定性が良好な機能性セラミックス材料となる。また、低誘電率・低誘電損失であり高周波特性に優れる無機材料である酸化ケイ素をタングステン酸ジルコニウムと併用して複合材料とすることにより、低誘電率・低誘電損失の高周波特性に優れた機能性セラミックス材料となる。
【0015】
本発明の請求項2に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合体は、室温(25℃)〜400℃における熱膨張係数を−9.0×10−6/℃〜−2.0×10−6/℃という特定の範囲とするので、温度の変化によって寸法に変化が現れにくくなり、温度上昇に対する寸法安定性に優れた機能性セラミックス材料となる。
【0016】
本発明の請求項3に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合体の製造方法は、ゾル・ゲル法によりタングステン酸ジルコニウム粉体等を調製しているので、焼結体の構成材料となるタングステン酸ジルコニウム粉体等を、他の一般的な方法と比較して低温で容易に作製することができるとともに、後工程の放電プラズマ焼結で酸化ケイ素との複合焼結体を製造する際にも、タングステン酸ジルコニウムの分解温度である777℃以下での焼結が可能となる。また、負膨張材料であるタングステン酸ジルコニウムと、熱膨張係数の小さい酸化ケイ素を放電プラズマ焼結により焼結させて複合体としているので、両者の熱膨張係数の違いに起因するクラックの発生を効率よく防止し、複合焼結体の密度を向上させ、緻密な構造の複合焼結体を得ることができる。そして、ゾル・ゲル法と放電プラズマ焼結を併用することにより、後工程の放電プラズマ焼結における保持時間や加熱時間の負荷を低減し、前記した効果を備えた粉末状の複合焼結体を低温・短時間で簡便に調製することが可能となる。
【0017】
本発明の請求項4に係るタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合体の製造方法は、酸化ケイ素のアモルファス粉体を製造する第2の工程について、酸性触媒を用いてゾル・ゲル法を実施するようにしているので、他の触媒を使用する場合と比較して、得られる酸化ケイ素粉末のかさ密度を高くすることができ、また、酸性触媒で合成したかさ密度の高いアモルファス酸化ケイ素粉末を複合材料として用いることで、高密度のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の調製が可能となる。
【0018】
本発明の請求項5に係る成形体は、前記本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を備えたことを特徴とするので、前記した効果を享受する、低誘電損失であり、高周波特性に優れ、かつ、熱膨張係数が小さく、温度上昇に対する寸法安定性に優れた成形体となる。
【0019】
本発明の請求項6に係る成形体は、SAWデバイスや高周波基板といった高周波誘電体材料、光ファイバー用フェルール、光ファイバー・グレーティング用基板、光ファイバー用被覆体、または燃料電池用セパレータとして適用することにより、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体(以下、単に「複合焼結体」とすることもある。)は、負膨張材料であるタングステン酸ジルコニウム粉体と、熱膨張係数が極めて小さい(5.5×10−7/℃)酸化ケイ素粉体との焼結複合材料としているので、熱膨張挙動が相殺され、温度上昇に対する寸法安定性が良好な機能性セラミックス材料である。
【0021】
本発明の複合焼結体を構成するタングステン酸ジルコニウム(ZrW)は、ZrOの八面体の頂点にWOの四面体が結合した結晶構造となっており、加熱によりWOが内側にねじれ込み、そのため負の熱膨張を示す。また、タングステン酸ジルコニウムは、温度の変化により、2つの相に転移することが知られており、一般的には、常温でα相が安定であるが、120〜160℃の温度において、α相からβ相に転移する。かかるα相とβ相は、結晶構造及び格子間隔が異なるため、その熱膨張係数に違いがある。α相は立方晶であり、−273〜120℃の温度範囲で、概ね−5.0×10−6〜−9.0×10−6/℃程度の熱膨張係数を有する。β相も立方晶であり、170〜400℃の温度範囲で−3.0×10−6〜−7.0×10−6/℃程度の熱膨張係数を有する。
【0022】
一方、酸化ケイ素(SiO)は、誘電率は3.75(20℃、1MHz)、誘電損失は0.0004(20℃、1MHz)と低誘電率・低誘電損失であり高周波特性に優れる無機材料である。また、熱膨張係数は5.5×10−7/℃と極めて小さいので、酸化ケイ素をタングステン酸ジルコニウムと併用して複合材料とすることにより、低誘電率・低誘電損失であるとともに、熱膨張係数の小さい、温度上昇に対する寸法安定性に優れた材料となる。また、非晶質の酸化ケイ素を用いることで、誘電特性に異方性が無く、等方的な熱膨張を付与することが可能となり、複合材料として適している。
【0023】
本発明の複合焼結体における熱膨張係数は、焼結条件や焼結状態にもよるが、負膨張材料であるタングステン酸ジルコニウムと、熱膨張係数が極めて小さい酸化ケイ素の組成バランスにより左右される。室温(25℃)〜400℃における熱膨張係数の絶対値は、概ね5.0×10−6/℃以下であれば好ましい。また、−9.0×10−6/℃〜−2.0×10−6/℃の範囲であることがさらに好ましく、−8.5×10−6/℃〜−3.5×10−6/℃の範囲であることが特に好ましい。かかる熱膨張係数の範囲であれば、温度の変化によって寸法に変化が現れにくくなり、温度上昇に対する寸法安定性に優れた材料となる。また、かかる熱膨張係数の範囲とするためには、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の組成比を、体積比でタングステン酸ジルコニウム/酸化ケイ素=99/1〜60/40の範囲内とすることが好ましく、90/10〜70/30の範囲内とすることがさらに好ましく、85/15〜80/20の範囲内とすることが特に好ましい。
【0024】
本発明の複合焼結体を構成するタングステン酸ジルコニウム粉体の平均粒径は、概ね
0.05〜10μm程度とすることが好ましく、0.05〜1.0μm程度とすることが特に好ましい。また、酸化ケイ素は、アモルファス粉体を用いて前記したタングステン酸ジルコニウム粉体と焼結させることが好ましく、その平均粒径は概ね0.05〜10μm程度とすることが好ましく、0.05〜1.0μm程度とすることが特に好ましい。平均粒径がかかる範囲のタングステン酸ジルコニウム粉体と酸化ケイ素粉体を組み合わせて複合焼結体とすることにより、密度が緻密な(理論値に対して概ね95%以上、好ましくは98%以上の)タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体となる。
【0025】
そして、かかる複合焼結体は、例えば、タングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物をゾル・ゲル法によりタングステン酸ジルコニウムを得る第1の工程と、ケイ素を含むケイ素化合物とアルコールをゾル・ゲル法により酸化ケイ素のアモルファス粉体を得る第2の工程と、得られたタングステン酸ジルコニウム粉体と酸化ケイ素のアモルファス粉体を混合し、放電プラズマ焼結させる第3の工程を含むタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造方法を採用することにより、簡便にかつ効率よく得ることができる。
【0026】
ここで、ゾル・ゲル法とは、一般に、金属の有機化合物や無機化合物等の出発原料を溶媒に溶かして溶液として、溶液中の加水分解や縮重合等の化学反応を経て、溶液を金属酸化物または水酸化物の微粒子が溶解したゾル溶液を調製する。また、かかるゾル溶液の反応をさらに進行させて、ゾル溶液が凝集したゲル化物を形成し、かかるゲル化物を熱処理することで内部に残された溶媒を取り除き、さらに必要により焼結処理等で緻密化を促進させることにより、ガラスやセラミックスを得る手段である。本発明にあっては、かかるゾル・ゲル法を用いて、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素を製造することにより、後工程で適用する放電プラズマ焼結における加熱時間や保持温度の負荷を効率よく低減できる。
【0027】
本発明において、ゾル・ゲル法でタングステン酸ジルコニウム粉体を合成することにより、反応系の溶液中で酸素を介したZr−O−Wの結合が生成することとなり、WOとZrOへ分解することがない、単相で高密度なZrW焼結体が得られることになる。これにより、後工程(第3の工程)の放電プラズマ焼結で、酸化ケイ素との複合焼結体を製造する際にも、ZrWの分解温度である777℃以下での焼結が可能となる。なお、タングステン酸ジルコニウムの複合材料としては、急冷法を用いたZrO−ZrW系の報告例があるが、急冷法によりZrO−ZrW複合焼結体を作製した場合には、WOとZrOへの分解や熱歪みによる応力の発生等の問題がある。また、相対密度が95%以上かつ緻密な焼結体を得るのは困難である。
【0028】
さらに、酸化ケイ素も、ゾル・ゲル法で合成する粉体はアモルファス(非晶質)となるため、等方的な性質を示す。一方、結晶化した石英(酸化ケイ素)は、573℃に低温型の石英と高温型の石英に関する転移が存在し、1.6%程度の体積変化を伴う。したがって、複合化する際にはゾル・ゲル法で合成したアモルファス粉体が有効であると考えられる。
【0029】
(1)ゾル・ゲル法によるタングステン酸ジルコニウムの製造(第1工程):
本発明の製造方法を構成する第1工程は、タングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物を、ゾル・ゲル法を用いてタングステン酸ジルコニウム粉体を製造する工程である。
【0030】
かかる第1工程にあっては、タングステンを含むタングステン化合物を、不活性ガス中でアルコールに溶解させ、溶液(以下、「第1の溶液」とすることもある。)として加水分解を進行させる。タングステンを含むタングステン化合物としては、例えば、六塩化タングステン(WCl)、タングステンのアルコキシドであるW(OC、W(O−i−C等が挙げられるが、材料の安定性という点で、六塩化タングステンを使用することが好ましい。
【0031】
また、タングステン化合物を溶解させるためのアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物や多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明にあっては、タングステン化合物を、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で、当該アルコール中に溶解させて第1の溶液とすればよい。
【0032】
ジルコニウムを含むジルコニウム化合物は、アルコールと酸に溶解させて溶液(以下、「第2の溶液」とすることもある。)として、加水分解を進行させる。ジルコニウムを含む第2の出発物質としては、オキシ塩化ジルコニウム・八水和物(塩化酸化ジルコニウム・八水和物ともいう。ZrOCl・8HO)、ZrCl、ZrO(NO・2HO等、Zr(OC等のジルコニウムのアルコキシドが挙げられる。この中では、材料の安定性という点で、オキシ塩化ジルコニウム・八水和物(ZrOCl・8HO)を使用することが好ましい。
【0033】
ジルコニウム化合物を溶解させるためのアルコールとしては、タングステン化合物を溶解させるアルコールと同様、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物や多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。また、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等を使用することができる、これらの酸は、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0034】
次に、タングステン化合物を溶解した第1の溶液と、ジルコニウム化合物を溶解した第2の溶液を混合・撹拌することにより、タングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物のゾル溶液を調製する。かかるゾル溶液の調製に際しては、第1の溶液と第2の溶液を、室温で好ましくは24〜96時間、更に好ましくは
48〜72時間混合・撹拌して、混合溶液とする。そして、かかる混合溶液は、静置処理を施してもよく、室温で好ましくは24〜96時間、更に好ましくは48〜72時間静置することにより、溶液中のタングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物の縮重合が起こり、ゾル溶液が形成される。
【0035】
かかるゾル溶液は、加熱による乾燥処理を施すことにより、溶液中のタングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物の縮重合が更に進行し、溶媒が除去されることにより、タングステン酸ジルコニウム前駆体(ZrW(OH)(HO))のゲル化物が形成される。かかる乾燥処理によりZrW(OH)(HO)のゲル化物を確実に得るためには、オイルバス、ホットプレート等の公知の加熱手段を用いて、加熱温度を60〜130℃とすることが好ましく、100〜130℃とすることが更に好ましい。なお、加熱による乾燥処理において、加熱温度が60〜80℃程度では、タングステン酸ジルコニウム前駆体(ZrW(OH)(HO))の非晶質(Zr−O−Wを有している青色粉末)が得られ、加熱温度が100〜130℃では、結晶質の前駆体の白色粉末が得られると考えられる。また、加熱時間は、48〜168時間とすることが好ましく、72〜96時間とすることが更に好ましい。
【0036】
そして、得られたタングステン酸ジルコニウムの前駆体を仮焼結処理(いわゆる仮焼きと同意。以下同。)することにより、平均粒径が0.05〜1.0μm程度のタングステン酸ジルコニウム粉体を得ることができる。かかる仮焼結処理は、電気炉や管状炉等の公知の加熱手段により、加熱温度を450〜500℃とすることが好ましく、450〜460℃とすることが特に好ましい。また、加熱時間は、6〜15時間とすることが好ましく、8〜12時間とすることが特に好ましい。
【0037】
なお、得られるタングステン酸ジルコニウム前駆体(ZrW(OH)(HO))は、非晶質(アモルファス)あるいは結晶質の粉体であるが、仮焼結処理にて得られたタングステン酸ジルコニウム粉体は、仮焼結処理の加熱温度により左右されるが、非晶質(アモルファス)、あるいは結晶質と非晶質(アモルファス)の混在する粉体である。
【0038】
(2)ゾル・ゲル法による酸化ケイ素のアモルファス粉体の製造(第2工程):
本発明の製造方法を構成する第2工程は、ケイ素を含むケイ素化合物とアルコールを、ゾル・ゲル法を用いて酸化ケイ素のアモルファス粉体を製造する工程である。
【0039】
ここで、かかる第2工程にあっては、ケイ素を含むケイ素化合物を、不活性ガス中でアルコールに溶解させ溶液(以下、「第3の溶液」とすることもある。)として、加水分解及び縮重合を実施する。出発物質となるケイ素化合物としては、ケイ酸メチル、ケイ酸エチル等の金属アルコキシドを用いることが望ましい。
【0040】
ケイ素化合物を溶解し、加水分解及び縮重合を行うためのアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物や多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明にあっては、ケイ素化合物を、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で、当該アルコール中に溶解させて第3の溶液とするようにすればよい。
【0041】
かかる縮重合に際しては、触媒を用いることが好ましい。触媒としては、酸性触媒、塩基性、あるいは酸・塩基性触媒等を使用することができる。酸性触媒としては、塩酸、酢酸等が挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等が挙げられる。第2工程における酸化ケイ素のアモルファス粉体の製造にあっては、酸性触媒を使用することにより、他の触媒を使用する場合と比較して、塩基触媒より500℃も低い700℃という低温で、溶融石英と同等の密度を有する、すなわちかさ密度の高いアモルファス酸化ケイ素粉末を得ることができる。ゆえに、酸性触媒で合成したかさ密度の高いアモルファス酸化ケイ素粉末を複合材料として用いることで、高密度のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の作製が可能となる。
【0042】
第2工程にあっては、ケイ素化合物をアルコールの混合溶液に加え、必要により触媒を加えた第3の溶液を混合・撹拌することにより、加水分解及び縮重合を進行させてゾル溶液を調製する。かかるゾル溶液の調製に際しては、第3の溶液を、室温(25℃)で好ましくは10分〜2時間、更に好ましくは20〜1時間混合・撹拌することにより、溶液中のケイ素化合物とアルコールの加水分解及び縮重合が進行して、ゾル溶液が形成される。
【0043】
得られたゾル溶液は、加熱による乾燥処理を施すことにより、縮重合が更に進行して、溶媒が除去されることにより、酸化ケイ素のゲル化物が形成される。かかる乾燥処理によるゲル化物の形成は、オイルバス、ホットプレート等の公知の加熱手段を用いて、加熱温度を好ましくは50〜80℃、更に好ましくは70〜80℃として、加熱時間を好ましくは24〜120時間、更に好ましくは48〜72時間として、加熱による乾燥処理を施せばよい。
【0044】
そして、得られた酸化ケイ素のゲル化物を仮焼結処理することにより、平均粒径が0.05〜1.0μmの酸化ケイ素のアモルファス粉体を得ることができる。かかる仮焼結処理は、電気炉や管状炉等といった公知の加熱手段を用いて、加熱温度を好ましくは500〜1100℃、更に好ましくは600〜800℃として、加熱時間を好ましくは1〜5時間、更に好ましくは2〜4時間とすればよい。
【0045】
(3)放電プラズマ焼結によるタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造(第3工程):
本発明の製造方法を構成する第3工程は、第1の工程で得られたタングステン酸ジルコ
ニウム粉体と、第2の工程で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体を混合し、放電プラズマ焼結により焼結・複合化させる工程である。これにより、粉末状のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を得ることができる。
【0046】
第1の工程で得られたタングステン酸ジルコニウム粉体と第2の工程で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体を混合するには、湿式混合や乾式混合等の公知の混合手段を採用することができる。このうち、湿式混合における溶媒としては、水あるいは非水系の溶剤、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤や、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤等を使用することができる。放電プラズマ焼結は不活性ガス雰囲気中で行うため、有機物の残留する可能性が低い水を溶媒として用いることがさらに好ましい。溶剤の使用量は、例えば、スラリー粘度として概ね5Pa・s程度になるようにすればよい。また、湿式混合や乾式混合にあっては、通常の撹拌処理に加えて、例えば、ボールミル、振動ミル、遊星ミル等の公知のミル装置を用いて混合するようにしてもよい。
【0047】
本発明の第3工程にあっては、前記のようにして混合されたタングステン酸ジルコニウ
ム粉体と酸化ケイ素のアモルファス粉体の混合物を放電プラズマ焼結で焼結、結晶化させる。放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering:SPS法ともよばれる。)は、粉体の圧縮成形体に低電圧で直流パルス電圧を投入し、火花放電現象により粉体の間隙で瞬時に発生する数千から1万℃程度の放電プラズマの高エネルギーを熱拡散・電界拡散等へ効果的に適用させて、粉体の焼結を行う方法である。
【0048】
本発明にあっては、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の複合化に際して加圧圧縮した状態でパルス通電を行うことにより、粉体間をパルス大電流が通過することによる粉体表面の急激なジュール加熱、原料合金微粉間隙で生じる放電プラズマによる表面活性化、クリーニング作用、放電点及びジュール発熱点の移動等によって、原料合金微粉の表面付近のみが急速に発熱し、加熱されることになる。本発明の製造方法として放電プラズマ焼結を採用することにより、一般的な焼結と比較してはるかに急速な昇温が可能であり、複合体の焼結密度を格段に向上でき、また、負膨張材料であるタングステン酸ジルコニウムと、酸化ケイ素を焼結・結晶化させて複合体とするに際し、両者の熱膨張係数の違いに起因するクラックの発生を効率よく防止することができる。放熱プラズマ焼結を実施する装置としては、例えば、放電プラズマ焼結装置(ドクターシンターSPS−1050:SPSシンテックス(株)製)等を使用することができる。
【0049】
放電プラズマ焼結は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、あるいはグラファイト製の型が劣化しない酸素濃度の範囲、例えば10〜15%の酸素濃度雰囲気下で行うことが好ましい。特に、タングステン成分の還元を抑制する上で、酸素濃度を10〜15%の酸素濃度雰囲気下で焼結を行うことがより好ましい。また、放電プラズマ焼結におけるプレス圧力としては、40〜80MPaとすることが好ましく、40〜70MPaとすることが更に好ましい。
【0050】
保持温度としては、タングステンの分解温度(777℃)を考慮して、600〜680℃とすることが好ましく、600〜660℃とすることが更に好ましい。本発明の製造方法にあっては、前工程でゾル・ゲル法により緻密な構造のタングステン酸ジルコニウム粉体及び等方性の酸化ケイ素のアモルファス粉体を調製しているので、タングステン酸ジルコニウム粉体におけるWOとZrOへの分解、熱歪みによる応力の発生、そして酸化ケイ素粉体における体積変化等を防止することができ、前記したような比較的低温で焼結させることが可能である。なお、保持温度を600〜660℃とすれば、得られる複合焼結体を確実に緻密とすることができ、密度の高い複合焼結体を提供可能とする。
【0051】
また、かかる温度の保持時間としては、5分以上とすることが好ましく、10分以上とすることが更に好ましく、10〜30分とすることが特に好ましい。昇温速度としては50〜200℃/分とすることが好ましく、60〜100℃/分とすることが更に好ましい。
【0052】
なお、放電プラズマ焼結により得られた複合焼結体は、研磨処理を施すことにより、表面変質層を除去することができる。研磨処理は、例えば、ラップ盤等を用いて行うことができる。ラップ番の番目としては、最初は200〜400番程度で、仕上げは800〜1800番程度で行うようにすればよい。
【0053】
また、研磨処理を施した複合焼結体は、加工歪みを除去するためや複合焼結体を構成するタングステンの還元を戻す(酸化する)ために、アニール(アニーリング)処理を施すことが好ましい。加工歪みを処理するためには、200〜300℃で10〜30分程度保持するようにすればよく、タングステンの還元を戻すためには、500〜650℃で6〜20時間程度保持するようにすればよい。なお、アニール処理は、複数回行うようにしてもよい。
【0054】
かかる本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造方法は、ゾル・ゲル法によりタングステン酸ジルコニウム粉体及び酸化ケイ素のアモルファス粉体を調製しているので、焼結体の構成材料となるこれらタングステン酸ジルコニウム等を、他の一般的な方法と比較して低温で容易に作製することが可能となる。また、タングステン酸ジルコニウムがZrOとWOへ分解することを防止することができ、また、酸化ケイ素も、等方的で体積変化を抑制できるアモルファス粉体となるため、放電プラズマ焼結で、酸化ケイ素との複合焼結体を製造する際にも、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)の分解温度である777℃以下での焼結が可能となる。
【0055】
さらに、負膨張材料であるタングステン酸ジルコニウムと、熱膨張係数の小さい酸化ケイ素を放電プラズマ焼結により焼結させて複合体としているので、両者の熱膨張係数の違いに起因するクラックの発生を効率よく防止して、複合焼結体の密度を向上させ、緻密な構造の複合焼結体を得ることができる。そして、ゾル・ゲル法と放電プラズマ焼結を併用することにより、後工程の放電プラズマ焼結における保持時間や加熱時間の負荷を低減し、前記した効果を備えた粉末状の複合焼結体を低温・短時間で簡便に調製することが可能となる。
【0056】
本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体は、緻密な構造となり、また、熱膨張係数が小さく加熱に対する寸法安定性に優れるとともに、低誘電損失であるため高周波特性にも優れるため、機能性セラミックス材料(機能性セラミックス複合材料)として用いることができる。よって、当該粉状の複合焼結体を成形ないしは焼結成形して備えるようにした成形体は、優れた高周波特性を必要とし、熱膨張の制御が課題とされる高周波デバイス・機器分野に加え、熱膨張の制御が重要な課題となっている光学分野、熱エネルギー分野、電子材料分野等において適用することができる。具体的には、高周波基板、SAWデバイスや、光ファイバー用フェルール、光ファイバー・グレーティング等の光フィルター、光ファイバー用被覆体、半導体部品,精密電子部品,光導波路等の精密デバイス、または燃料電池用セパレータ等の熱電変換材料、精密光学部品、光学素子等に使用することができる。
【0057】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0058】
例えば、本発明の複合体の製造方法における、タングステン酸ジルコニウムのアモルファス粉体や酸化ケイ素粉体を得る手段としてのゾル・ゲル法は、前記の内容には限定されず、タングステン化合物とジルコニウム化合物よりタングステン酸ジルコニウム粉体を、また、ケイ素化合物とアルコールにより酸化ケイ素のアモルファス粉体を得ることができるゾル・ゲル法を採用するのであれば、特に制限はない。
【0059】
なお、本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を製造するにあっては、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、焼結助剤、結合剤(バインダー)等を適宜添加することができる。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び参考例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造:
下記(1)〜(3)により、本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を製造した。
【0062】
(1)ゾル・ゲル法によるタングステン酸ジルコニウム粉体の製造:
オキシ塩化ジルコニウム・八水和物(キシダ化学(株)製、純度99%)と六塩化タングステン(三津和化学薬品(株)製、純度99%)を、ジルコニウムとタングステンのモル比が1/2になるように、オキシ塩化ジルコニウム・八水和物を10.2131g、六塩化タングステン25.1967g秤量した。秤量後、六塩化タングステンを、六塩化タングステンを大気中で10℃以下に冷却したアルコール類(エタノール250mL)に攪拌しながら溶解させて第1の溶液とした。一方、オキシ塩化ジルコニウム・八水和物は、大気中でアルコール類(2−ブタノール100mLとエタノール50mLの混合溶液)とイオン交換水50mLの混合溶液に入れ、攪拌・溶解させて、第2の溶液とした。
【0063】
得られた第1の溶液と第2の溶液を混合し、室温で3日間(72時間)攪拌した後、さらに130℃で4日間加熱して乾燥処理を行い、結晶性のタングステン酸ジルコニウム前駆体であるZrW(OH)(HO)粉体を合成した。
【0064】
そして、合成したタングステン酸ジルコニウム前駆体ZrW(OH)(HO)粉体を460℃×12時間の焼成条件で、空気フロー下で仮焼することにより、平均粒径が0.1μm程度であるタングステン酸ジルコニウム粉体を得た。
【0065】
得られたタングステン酸ジルコニウム前駆体ZrW(OH)(HO)のX線回折スペクトルを図1中の(a)、タングステン酸ジルコニウムZrWのX線回折スペクトルを図1中の(b)に示す。なお、このX線回折スペクトルの横軸は、X線源としてCuKαを用いた時の回折角であり、縦軸は、回折X線の強度(無次元)を示す。また、後記する他のX線回折スペクトルについても、同様である。図1の(a)に示すように、得られた前駆体は結晶性のZrW(OH)(HO)粉体であることが確認できた。また、図1中の(b)に示すように、得られたタングステン酸ジルコニウム粉体は、非晶質から結晶質へ遷移途中の、アモルファスライクな(アモルファスと結晶質が混在した)タングステン酸ジルコニウム粉体であることが確認できた。
【0066】
また、得られたタングステン酸ジルコニウム粉体のTG−DTAの結果を図2に示す。なお、このTG−DTAの横軸は、温度[℃]であり、縦軸は重量変化率[%]である。測定温度範囲は室温から800℃、昇温速度10℃/分、試料量は40mgで行った。図2に示すように、95℃付近で吸着水の脱離、250℃付近で結合水の脱離と思われる吸熱のピークとTGの重量減が見られた。また、タングステンの融点である777℃付近で酸化ジルコニウム(ZrO)とWOへの分解と思われる発熱のピークが確認できた。
【0067】
(2)ゾル・ゲル法による酸化ケイ素のアモルファス粉体の製造:
ケイ酸エチル(キシダ化学(株)製、純度99%)13.0mLをエタノール21.4mL(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)に溶解・攪拌して、ケイ酸エチルとエタノールの混合溶液とした。
【0068】
次に、1mol/Lの塩酸(キシダ化学(株)製、f=1.006)をイオン交換水9.0mLで希釈し、この希釈塩酸溶液を先に調製した混合溶液に少量ずつ添加、混合・攪拌した。希釈塩酸溶液を添加した混合溶液を70℃で2日間加熱して乾燥処理を行い、管状炉を用いて850℃で3時間の焼成条件で、空気フロー下で仮焼をし、平均粒径が0.5μm程度の酸化ケイ素のアモルファス粉体を得た。
【0069】
得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体のX線回折スペクトルを図3に示す。図3に示したX線回折スペクトルより、得られた粉体は単相のアモルファスの酸化ケイ素(SiO)であることが確認できた。
【0070】
(3)タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造:
(1)で得られたタングステン酸ジルコニウム粉体と、(2)で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体を、体積比でタングステン酸ジルコニウム/酸化ケイ素=85/15(実施例1(a))、70/30(実施例1(b))となるようにそれぞれ乾式混合し、放電プラズマ焼結(SPS)させて、10μm〜50μm程度の酸化ケイ素が分散したタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素(ZrW−SiO)の複合焼結体を得た。
【0071】
ここで、放電プラズマ焼結(SPS)とは、グラファイト等で作られた金型に充填された原料粉体を、真空または不活性ガス雰囲気中で加圧しながら直流パルス電圧を印加し、その直流パルス電圧により金型内の原料粉体にプラズマ放電を起こさせ、局所的に高温状態とし、該原料粉体を焼結させる方法である。本実施例では、グラファイト製金型(冶具径20mmφ)の中に(1)で得られたタングステン酸ジルコニウム粉体と、(2)で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体を充填し、1気圧の窒素ガス雰囲気下、放電プラズマ放電焼結装置(ドクターシンターSPS−1050:SPSシンテックス(株)製)を用いて、下記の条件を用いて放電プラズマ焼結した後、装置内で室温まで放冷することにより焼結させ、粉末状のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素の複合焼結体を得た。
【0072】
(放電プラズマ焼結の条件)
プレス圧力 : 45MPa
保持温度 : 650℃
保持時間 : 10分
昇温速度 : 59.1℃/分
【0073】
なお、得られた複合焼結体は、ラップ盤を用いて研磨処理を行った。番目は400番から開始し、最終仕上げは1800番にて行った。研磨処理後、加工歪みを除去するため、250℃で10分保持のアニールを2回行い、さらに、タングステンの還元を戻すため、600℃で8時間保持のアニールを1回行った。
【0074】
得られた実施例1(a)及び実施例1(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のX線回折スペクトルを図4に示す。ここで、図4中、(a)は実施例1(a)、(b)は実施例1(b)の結果である。また、実施例1(a)のSEM写真を図5(図5Aは倍率 100倍、図5Bは倍率 500倍)に、実施例1(b)のSEM写真を図6(図6Aは倍率 100倍、図6Bは倍率 500倍)にそれぞれ示す。図4に示すように、実施例1(a)及び実施例1(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体にあっては、単相のZrWの回折スペクトルに加えて、アモルファスSiOのハローパターンが確認でき、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の複合焼結体が生成されていることが確認できた。
【0075】
また、図5及び図6に示すように、実施例1(a)及び実施例1(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体にあっては、10μm〜50μm程度の酸化ケイ素が分散していることが確認できた。
【0076】
また、得られた焼結体の密度を表1に示す。測定はアルキメデス法を用いて行った。なお、タングステン酸ジルコニウム及び酸化ケイ素の理論密度は、それぞれ5.08g/cm、2.2g/cmである(以下、実施例2及び実施例3について同様。)。表1に示すように、実施例1(a)及び実施例1(b)の複合焼結体の相対密度は90%以上であり、焼結が良好になされ緻密な構造を備えた高密度ZrW−SiO複合焼結体が得られたことが確認できた。
【0077】
(密度)
【表1】

【0078】
そして、得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の熱膨張挙動を確認した。熱膨張挙動は、TMA(TMA4000S:MAC SCIENCE(株)製)を用いて確認し、昇温(降温)速度は5℃/分、標準試料として石英を用いて行った。複合焼結体についての40℃から400℃の熱膨張率を図7に、熱膨張係数を表2にそれぞれ示す。なお、図7において、(a)、(b)とも、グラフにおけるサイクルの下側は加熱サイクル(太線で示している)、グラフにおけるサイクルの上側は冷却サイクル(細線で示している)となる。
【0079】
(熱膨張係数)
【表2】

【0080】
図7及び表2に示すように、得られた焼結体は、40℃から120℃の範囲はもちろん、200℃から400℃の範囲においても、−3.5×10−6/℃以下の負の低熱膨張を示すことが確認できた。
【0081】
[試験例1]
高周波特性評価:
実施例1(a)及び実施例1(b)で得られた焼結体についての高周波特性を表3に示す。参照(参考例1)として、市販されるアルミナ−ホウケイ酸ガラス系(Al−B−SiO系)焼結体(BSC:日本山村硝子(株)製)を用いた。誘電率測定は同軸導波管変換器(5C303:島田理化工業(株)製)を用いた導波管法により、ネットワークアナライザ(8720ES S−PARAMETER NETWORK ANALYZER 50MHz−20GHz:Agilent(株)製)を用いて行った。結果を表3に示す。なお、表3中、fは周波数[GHz]、εは誘電率を示す。
【0082】
(高周波特性)
【表3】

【0083】
表3に示すように、実施例1(a)及び実施例1(b)で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体は、8GHz帯において、参照として測定した参考例1のアルミナ−ホウケイ酸ガラス系(Al−B−SiO系)焼結体よりも低誘電率を示すことが確認できた。
【0084】
[実施例2]
タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造:
実施例1に示した方法において、実施例1の「(3)タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造」における放電プラズマ焼結温度を650℃から640℃、昇温速度を59.1℃/分から58.2℃/分に変更した以外は、実施例1と同様な方法を用いて、タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を製造した。なお、乾式混合に際しては、実施例1と同様、タングステン酸ジルコニウム粉体と、酸化ケイ素のアモルファス粉体の体積比を、タングステン酸ジルコニウム/酸化ケイ素=85/15(実施例2(a))、70/30(実施例2(b))となるようにした。
【0085】
得られた実施例2(a)及び実施例2(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のX線回折スペクトルを図8に示す。ここで、図8中、(a)は実施例2(a)、(b)は実施例2(b)の結果である。図8に示すように、実施例2(a)及び実施例2(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体においても、実施例1と同様、単相のZrWの回折スペクトルに加えて、アモルファスSiOのハローパターンが確認でき、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の複合焼結体が生成されていることが確認できた。
【0086】
また、実施例2で得られた焼結体の密度を表4に示す。測定はアルキメデス法を用いて行った。実施例2(a)及び実施例2(b)の複合焼結体の相対密度は99%以上であり、焼結が良好になされ緻密な構造を備えた、高密度なタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体が得られることが確認できた。
【0087】
(密度)
【表4】

【0088】
[試験例2]
高周波特性評価:
試験例1と同様な方法を用いて、実施例2で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の高周波特性を測定した。結果を表5に示す。なお、表5中、fは周波数[GHz]、εは誘電率を示す。

【0089】
(高周波特性)
【表5】

【0090】
表5に示すように、実施例2で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体は、8GHz帯において、参照として測定した市販のアルミナ−ホウケイ酸ガラス系(Al−B−SiO系)焼結体よりも低誘電率を示すことが確認できた。
【0091】
[実施例3]
タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造:
下記(1)〜(3)により、本発明のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を製造した。
【0092】
(1)タングステン酸ジルコニウム粉体の製造:
実施例1の「(1)ゾル・ゲル法によるタングステン酸ジルコニウム粉体の製造」において、乾燥処理における加熱温度を130℃から120℃、仮焼温度を460℃から450℃に変更した以外は、実施例1(1)と同様な方法を用いて、平均粒径が0.05〜1.0μmであるタングステン酸ジルコニウム粉体を得た。
【0093】
得られたタングステン酸ジルコニウム粉体の前駆体であるZrW(OH)(HO)のX線回折スペクトルを図9中の(a)、タングステン酸ジルコニウムZrWのX線回折スペクトルを図9中の(b)に示す。(a)に示すように、前駆体は結晶性のZrW(OH)(HO)粉体であることが確認できた。また、(b)に示すように、得られたタングステン酸ジルコニウム粉体は、アモルファスのタングステン酸ジルコニウム粉体であることが確認できた。
【0094】
(2)ゾル・ゲル法による酸化ケイ素のアモルファス粉体の製造(触媒として塩基性触媒を使用):
ケイ酸エチル(キシダ化学(株)製、純度99%)13.0mLをエタノール21.4mL(和光純薬工業(株)製、純度99.5%)に溶解・攪拌して混合溶液を調製した。
【0095】
次に、塩基性触媒として28質量%のアンモニア水(キシダ化学(株)製、精密分析用)をイオン交換水9.0mLで希釈して希釈アンモニア溶液とした。この希釈アンモニア溶液を、先に調製した混合溶液に少量ずつ添加、混合・攪拌した。希釈アンモニア溶液を添加した混合溶液を70℃で2日間熱処理(乾燥処理)を行い、管状炉を用いて800℃で4時間の焼成条件で、空気フロー下で仮焼をし、酸化ケイ素のアモルファス粉体を得た。
【0096】
得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体のX線回折スペクトルを図10に示す。図10に示したX線回折スペクトルより、得られた粉体は単相のアモルファスの酸化ケイ素(SiO)であることが確認できた。
【0097】
(1)で得られたタングステン酸ジルコニウム粉体と、(2)で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体を、体積比でタングステン酸ジルコニウム/酸化ケイ素=95/5(実施例3(a))、90/10(実施例3(b))となるようにそれぞれ乾式混合し、放電プラズマ焼結(SPS)させて、タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素(ZrW−SiO)の複合焼結体を得た。
【0098】
なお、本実施例では、実施例1等と同様、グラファイト製金型(冶具径20mmφ)の中に(1)で得られたタングステン酸ジルコニウム粉体と、(2)で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体を充填し、1気圧の窒素ガス雰囲気下、放電プラズマ放電焼結装置(ドクターシンターSPS−1050:SPSシンテックス(株)製)を用いて、下記の条件を用いて放電プラズマ焼結した後、装置内で室温まで放冷することにより焼結させ、タングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素の複合焼結体を得た。
【0099】
(放電プラズマ焼結の条件)
プレス圧力 : 40MPa
保持温度 : 600℃
保持時間 : 10分
昇温速度 : 71.4℃/分(500℃まで)
33.3℃/分(500℃〜600℃)
【0100】
なお、得られた複合焼結体は、ラップ盤を用いて研磨処理を行った。番目は400番から開始し、最終仕上げは1800番にて行った。研磨処理後、加工歪みを除去するため、250℃で10分保持のアニールを2回行い、さらに、タングステンの還元を戻すため、600℃で6時間保持のアニールを1回行った。
【0101】
得られた実施例3(a)及び実施例3(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のX線回折スペクトルを図11に示す。ここで、図11中、(a)は実施例3(a)、(b)は実施例3(b)の結果であり、参考として、実施例3(1)で得られたタングステン酸ジルコニウムを、実施例3(3)と同じ条件で焼結したタングステン酸ジルコニウムの焼結粉体(参考例2)を(c)として載せた。図11に示すように、実施例3(a)及び実施例3(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のいずれも、単相のZrWの回折スペクトルに加えて、アモルファスSiOのハローパターンが確認でき、タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の複合焼結体が生成されていることが確認できた。
【0102】
また、得られた焼結体の密度を表6に示す。測定はアルキメデス法を用いて行った。実施例3(a)及び実施例3(b)の複合焼結体の相対密度は90%以上であり、焼結が良好になされ緻密な構造を備えた、高密度なZrW−SiO複合焼結体が得られたことが確認できた。
【0103】
(密度)
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、高周波デバイス・機器分野、光学分野、熱エネルギー分野、電子材料分野等で有利に使用するとことができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施例1で得られたタングステン酸ジルコニウム前駆体及びタングステン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルを示した図である。
【図2】実施例1で得られたタングステン酸ジルコニウム粉体のTG−DTAの結果を示した図である。
【図3】実施例1で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体のX線回折スペクトルを示した図である。
【図4】実施例1で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のX線回折スペクトル示した図である。
【図5A】実施例1(a)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のSEM写真を示した図である(倍率 100倍)。
【図5B】実施例1(a)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のSEM写真を示した図である(倍率 500倍)。
【図6A】実施例1(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のSEM写真を示した図である(倍率 100倍)。
【図6B】実施例1(b)のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のSEM写真を示した図である(倍率 500倍)。
【図7】実施例1で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の熱膨張率(40℃から400℃)を示した図である。
【図8】実施例2で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のX線回折スペクトルを示した図である。
【図9】実施例3で得られたタングステン酸ジルコニウム前駆体及びタングステン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルを示した図である。
【図10】実施例3で得られた酸化ケイ素のアモルファス粉体のX線回折スペクトルを示した図である。
【図11】実施例3で得られたタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体のX線回折スペクトル示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸ジルコニウムと酸化ケイ素の焼結粉体であるタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体。
【請求項2】
25℃〜400℃における熱膨張係数が−9.0×10−6/℃〜−2.0×10−6/℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体。
【請求項3】
タングステンを含むタングステン化合物とジルコニウムを含むジルコニウム化合物をゾル・ゲル法によりタングステン酸ジルコニウムを得る第1の工程と、
ケイ素を含むケイ素化合物とアルコールをゾル・ゲル法により酸化ケイ素のアモルファス粉体を得る第2の工程と、
前記タングステン酸ジルコニウム粉体と前記酸化ケイ素のアモルファス粉体を混合し、放電プラズマ焼結させる第3の工程を含むことを特徴とするタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程が、酸性触媒を用いてゾル・ゲル法を実施することを特徴とする請求項3に記載のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のタングステン酸ジルコニウム−酸化ケイ素複合焼結体を備えたことを特徴とする成形体。
【請求項6】
高周波基板、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、光ファイバー用フェルール、光ファイバー・グレーティング用基板、光ファイバー用被覆体、または燃料電池用セパレータであることを特徴とする請求項5に記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2009−67619(P2009−67619A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235996(P2007−235996)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】