タンパク質の結晶化法
【課題】三相系において高分子を結晶化する方法、適切な装置、三相系、および自動結晶化法でのその使用方法の提供。
【解決手段】下部水相と、中間相と、下部水相よりも低い密度を有する上部疎水性相と、を含有する容器を用いて、三相系において高分子を結晶化する方法であって、高分子の水溶液を中間相に添加して、第4相を形成し、続いてインキュベートする方法。具体的な高分子物質としては、リゾチーム、グルコースイソメラーゼおよびキシラナーゼの結晶化。
【解決手段】下部水相と、中間相と、下部水相よりも低い密度を有する上部疎水性相と、を含有する容器を用いて、三相系において高分子を結晶化する方法であって、高分子の水溶液を中間相に添加して、第4相を形成し、続いてインキュベートする方法。具体的な高分子物質としては、リゾチーム、グルコースイソメラーゼおよびキシラナーゼの結晶化。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相系において高分子を結晶化する方法、適切な装置、三相系、および自動結晶化法でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子の三次元構造についての知識は、現代のバイオテクノロジーの進歩および疾患の治療的処置のどちらにも劇的な影響を及ぼす。したがって、例えば、標的タンパク質の三次元構造を決定することによって、それぞれの標的タンパク質と相互作用する新規な活性物質を同定かつ開発するための重要な情報を得ることができる。
【0003】
生体高分子の三次元構造の解明は、X線構造解析によって最も正確に行われる。構造解明のための前提条件は、タンパク質またはその複合体などの高分子が単結晶として入手可能であることである。
【0004】
さらに、結晶化法は、組換え活性物質の結晶性製剤の誘導および生成に貢献し、結晶形態は、製剤の薬物動態学的特性に著しい影響を及ぼし得る。合成または天然由来の低分子量化合物の多形の検査は、結晶化実験により実現することもできる。結晶化のその他の応用分野は、生体高分子ならびに低分子量化合物の精製方法としてのその特性である。結晶化法は、小規模でも大規模でも行うことができる。
【0005】
通常、相当する塩またはポリマー(ポリエチレングリコール等)の濃厚溶液の存在下で、高度に精製されたタンパク質の飽和溶液から結晶を得ようとする。溶解性に必要な水は、特定の時間経過の間にタンパク質溶液から多少取り除かれ、その結果、異なるサイズの会合がタンパク質分子の変動から形成し得る。核の形成は、結晶形成の前提条件である。これらのプロセスは通常、多パラメーターの問題である、様々なイオン強度条件、pH値、バッファー、ポリマー、有機溶媒、温度等の下で、異なるタンパク質濃度、異なる塩を選択することによって実験的に調べられる(マクファーソン(McPherson),A.,Crystallization of Biological Macromolecules,Cold Spring Harbor Press,New York,1999)。
【0006】
様々な結晶化法が利用可能である。いわゆるバッチ法において、結晶化すべきタンパク質を濃厚溶液として、予め貯蔵されていた水溶液に添加するか、または適切な試料支持体において、その逆に添加する(チャイエン(Chayen),N.E.;スチュワート(Stewart),P.D.S.;メーダー(Maeder),D.L.;ブロウ(Blow),D.M.;J.アップル(Appl).クリスト(Cryst).,1990,23,297−302;チャイエン(Chayen),N.E.;J.Crystal Growth,1999,196,434−41)。この系では、長時間にわたって沈殿剤の濃縮はないが、タンパク質溶液が加えられた時に、最終濃度が直接的に設定されることから、これは「バッチ法」と呼ばれる。この方法では、状態図の準安定領域へ連続的に移行することはできない。したがって、古典的な結晶化法の最大の利点が失われる(動力学的特性および動的(dynamic)終点の決定、図1参照)。
【0007】
バッチ法の改良法は、純粋なパラフィン油の代わりに、例えばポリ(ジメチルシロキサン)(DMS)が添加されているパラフィン油を使用し、その結果、溶液からの水の連続的な拡散が起こる方法である(ダーシー(D’Arcy)A.;エルモア(Elmore),C.;スチール(Stihle),M.;ジョンストン(Johnston),J.E.;J.Crystal.Growth.1996,168,175−80)。しかしながら、この方法では、系が閉じた系ではないため、終点を設定することができない。大きな欠点は、タンパク溶液が特定の時間の間に完全に乾燥するであろうという事実である。したがって、結晶生成に条件付きでのみ使用することができる(図1参照)。
【0008】
それとは異なり、古典的方法(ハンギング/シッティング・ドロップ)では、タンパク質溶液1滴を(添加されたリザーバー溶液と共に)、空気が排除された、所定の高濃度の水溶液リザーバーを有する密封容器内でインキュベートする。時間が経つにつれて、水が液滴から蒸発し、その結果、タンパク質の濃度が連続的に増大する。液滴がリザーバーと平衡状態になった時に終点に達する。このように、過剰なリザーバーの濃度によって、終点を設定することができる。
【0009】
しかしながら、構造解明に適した結晶の準備は、大きな困難を伴うか、あるいは公知の方法によって全く不可能であることが多い。理由は分からないが、規則正しい結晶化が生じないということがしばしば起こる。結晶生成中に起こる物理化学的プロセスの相互作用は、結晶化が結果的な分析を免れることから、今のところはっきりと述べられていない。結晶が得られた場合、それらは十分なサイズまたは品質でない場合が多い。
【0010】
新規かつ自動化された方法による遺伝子およびタンパク質配列の解明/同定において近年達成された大きな進歩を考慮して、現在発現させることができる多数の新規なタンパク質を、自動化された方法を用いた系統的試験にかけることが望まれている。近年、X線構造解析のサブセクションもまた、莫大な効率の向上を経験している。特に、高輝度のX線源(シンクロトロン)を準備することによって、およびデータを解釈するための効率的なハードウェアおよびソフトウェアを準備することによって、貢献がなされた。しかしながら、今までのところ、生体高分子を結晶化する公知の方法は自動化高処理法として、満足のいくように実施することができなかった(チャイエン(Chayen),N.E.,およびサリダキス(Saridakis),E.;Acta Cryst.2002,D58,921−27)。したがって、容易に自動化され、それと同時に入手可能になるタンパク質のスクリーニングおよび結晶の系統的製造を可能にする、タンパクの結晶化方法が大いに必要とされている。
【0011】
ハンギング・ドロップ法またはシッティング・ドロップ法に従った自動化拡散実験において、閉じた系は、例えばシリコンガラスのカバーによって、または粘着性透明シートによって密封される。ハンギング・ドロップ法では、カバーの底面、逆さにされたカバーそれぞれに、液滴をピペッティングし、液滴に悪影響を及ぼすことなく、液体リザーバー上に置かなければならず、気密封止が達成されなければならない。ロボットについては、これは比較的多くの単調な操作と関係がある。かかる自動化された方法は、コスト、速度および再現性の点から魅力のあるものではなく、極小の試料体積では容易に実現されない(チャイエン(Chayen)およびサリダキス(Saridakis),2002も参照のこと)。
【0012】
特に、極小の試料体積が用いられる場合、例えば粘着性シートまたはカバーを適用することによって、つまり機械的に系が密封されている間は、溶液を枯渇させる蒸発から保護するように注意しなければならない。
【0013】
生体高分子を結晶化するための多くの異なる装置が存在する。このように、例えば米国特許第5,096,676号には、例えば粘着性シートを使用することによって密封することができるシッティング・ドロップ法で結晶化する装置が開示されている。他の装置が、米国特許第5,130,105号;同第5,221,410号;同第5,400,741号;同第5,419,278号;同第6,039,804号、および特許出願番号:US−2002/0141905;US−2003/0010278、WO−00/60345、WO−01/88231およびWO−02/102503に記載されている。
【0014】
これらすべての装置によって、古典的な蒸気拡散結晶化の実験が可能となり、これらの装置は、例えば粘着性シートを使用することによって、機械的に密封しなければならない。
【0015】
自動化バッチ法において、ロボットが、例えばパラフィン油の下に、相当するスクリーニングのセットアップで使用される溶液を配置する(チャイエン(Chayen),N.E.,およびブロウ(Blow),D.M.;J.Crystal Growth,1992,122,176−80)。このように、その水溶液は、枯渇させる蒸発から直接保護される。特に、極小の試料体積を用いた場合に、水がごくわずかに減少したとしても、設定濃度が著しく変化し、このため再現性に影響が及ぶ(干渉源(interference source))ことから、これは重要である。このような自動化された方法は、濃度の変化がないため、バッチ法の通常の不利点と関連があり、濃度の変化がある場合には、終点を設定することができない。しかしながら、統計的解析に基づく、適応性のある結晶化法の適用には、最終濃度の正確な知識が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来技術の方法の公知の欠点を克服する結晶化法を提供する問題に基づく。特に、比較的安い費用で、かつ成功する確率が比較的高く、できる限り均一かつ大きな高分子の結晶を得ることを可能にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による方法は、結晶化セットアップのスクリーニングの自動化法としても適しているはずである。特に、本発明による自動化法は、比較的少ない操作でロボットにより容易に行われ、自動化された結晶化法の上述の欠点を克服するはずである。
【0018】
本発明の目的は驚くべきことに、下部水相と、中間相と、下部水相よりも低い密度を有する上部疎水性相とを含有する容器を用いて、三相系において高分子を結晶化する方法であって、その高分子の水溶液は中間相に添加され、第4の相が形成され、続いてインキュベートされる方法によって達成される。
【0019】
本発明は、請求項1〜16に記載の方法、請求項18〜23のいずれかに記載の装置、請求項24および25に記載の三相系、請求項17に記載の結晶、請求項26に記載の使用、および請求項27に記載の構造にも関する。
【0020】
本発明は、三相系の提供および使用に基づく。高分子の水溶液は、下相とすぐに混合しない第4相を形成する。一般に、第4相は、液滴を形成するような量で添加される。好ましくは、第4相は、容器中に導入された後に、下相と中間相との界面に移動するだろう。水相でもある下相との混合は起こらない。むしろ、第4相は、少なくとも結晶化プロセスが始まるまで、系に残る。代替の実施形態において、第4相は、中間相と上相と界面に、または中間相内に位置するようになる。重要なことは、下部水相との混合がすぐに起こらないことである。「第4相」という用語は一般に、たとえ下相、上相および中間相からなる三相系がまだ完全に形成していないとしても、高分子の水溶液を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】状態図における物理化学的関連性を示す。
【図2】三相系の概略構造を示す。
【図3】3つの三相系の写真を示す。
【図4】高分子の溶液の拡大図を示す。
【図5】図4における配列から得られる結晶のクローズアップ図を示す。
【図6】特定の実施形態を示す。
【図7】3つのくぼみが1つのリザーバー上に配置されている、本発明による系の写真を示す。
【図8】例として、グルコースイソメラーゼおよびキシレンに対する異なる条件の比較を示す。
【図9】本発明による試料支持体を示す。
【図10】本発明による試料支持体を通る垂直断面を示す。
【図11】本発明による試料支持体の実施形態を示す。
【図12】図11による試料支持体を通る垂直断面の側面図を概略的に示す。
【図13】本発明による試料支持体内での試料の位置を示す。
【図14】図13による試料支持体を通る対角線断面の側面図を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
図1は、状態図における通常の結晶化法の異なる挙動を簡単かつ概略的に示している。L、MおよびUはそれぞれ、状態図の可溶領域、準安定領域および不安定領域を示す。
【0023】
図2は、上相と中間相との界面で局在化した液滴状の第4相を有する、本発明による三相系の概略構造を示す。本発明によれば、水の上方拡散は起こらない。I、IIおよびIIIはそれぞれ、上相、中間相および下相に相当する。
【0024】
図3は、本発明による3つの三相系の写真を示し、三相系において高分子の溶液はそれぞれ、下相と中間相との間に液滴状で局在化する。
【0025】
図4は、中間相と下相との界面に位置する高分子の溶液のクローズアップ図を示す。
【0026】
図5は、図4と同じセットアップに対して、本発明による三相系において形成される結晶のクローズアップ図を示す。リゾチーム結晶を偏光および90度シフトされた検光子(analyzer)で検出することができる。
【0027】
結晶化系の相は図2によって概略的に示され、図3によって写真で示される。図3において、液滴状の第4相は、中間相と上相との界面に位置する。図3において界面ははっきりと見えないが、図4は、中間相と下相との界面にある第4相のクローズアップ図を示す。この準安定状態では、第4相は長時間にわたってとどまり、下部水相に侵入しない。
【0028】
結晶化が第4相において、または第4相との界面で始まるまで、第4相は下相と完全に混合しないだろう。第4相は、少なくとも6、12または24時間、さらに好ましくは少なくとも2、4、6、14、21または30日間区別できることが好ましい。
【0029】
好ましい実施形態において、用いられる容器は、第4相が下相と接触することができないように設計される。次いで、第4相は機械的に安定化される。この場合には、第4相は好ましくは、側壁によって残りの試料容器から区切られるサブセクション中に局在化する。このように、第4相は、くぼみまたはコンパートメントに局在化する。図6は、かかる実施形態を本発明に従っていかに実現することができるかを図示している。この実施形態において、容器内のくぼみは、高分子の溶液がさらに下相の方に移動しないようにする。H2Oは、矢印の方向に拡散する。I、II、およびIIIはそれぞれ、上相、中間相および下相に相当する。
【0030】
物理的な障壁のために、液滴は下相に到達することができない。本発明に従って、1種類を超える高分子の溶液を三相系において別々の相として結晶化するように誘導することが可能である。図7は、これらのくぼみを有する本発明による容器の実施形態を示す。本発明による系上への上面図を有する写真が示されており、3つのくぼみが通常1つのリザーバーに配置されている。中央のくぼみでは、はっきりと見える結晶が形成した。くぼみは、H2Oがその相を通してリザーバーに拡散することができる、連続中間相を介してリザーバーとつながっている。中央のくぼみでは、下相から隔てて区切られた第4相がある。本発明に従って、かかる実施形態は、多数の試料を同時にかつ逐次的に調べることを可能にする、マルチウェルプレートとしても実現することができる。
【0031】
更なる実施形態において、下部水相は、高分子の溶液に対して水を抜き取る吸湿性を有する相と置き換えるか、その相で補足してもよい。吸湿性物質は本質的に固体および/または液体であり得る。バッチ法とは異なり、水の抜取りによって、終点を含む系において濃度の変化が生じ、それは、吸湿性物質の性質および量の選択によっても異なる。
【0032】
好ましい実施形態において、三相系は、第4相が加えられる前に確立される。更なる実施形態では、第4相は、残りの試料容器から区切られるサブセクションにおいて最初に装入され、続いて三相系が確立される。スクリーニング試験において、次いで、水性第4相のタンパク質溶液が、1つのサブセクションに加えられ、再びH2Oの抜取りによって下相と平衡に達することができる。更なる実施形態において、上相は、試料容器のエッジを超えて加えられ、下相は各試料容器に加えられる。したがって、系は最初から、蒸発から守られる。次いで、液滴を下相から取り上げ、区切られたサブセクションに加えることができる。次いで、タンパク質溶液を、区切られたサブセクション中の液滴に加え、続いて、個々の試料容器のエッジを超えることなく、第2相が各試料容器に添加される。
【0033】
好ましい実施形態では、くぼみまたは区画および/またはそれらの側壁(1つまたは複数)は異なるレベルにあり、そのため、第2相の適用される量に応じて、1つのみまたはそうでなければいくつかのくぼみまたは区画が、第2相を介して、下相、リザーバー溶液と平衡化することができる。下相と通じるくぼみまたは区画は、古典的な蒸気拡散法と同様に挙動する。リザーバー溶液と平衡化しないくぼみは、例えばパラフィン油によって囲まれるために、古典的なミクロバッチ法と同様に挙動する。したがって、古典的なセットアップとミクロバッチ式セットアップの両方を試料支持体の1つの試料位置で、1つの操作で実現することが可能である。
【0034】
本明細書で示すアプローチから、結晶化実験のセットアップは多種多様な変形形態で実現することができる。結晶化プロセスの間ずっと、上相を介して、容器からのH2Oの拡散は本質的にない。好ましい実施形態では、上相はパラフィン油を含有する。しかしながら、上相として系から水の蒸発を制限することのできる、他のいずれかの油または他のいずれかの液体を使用してもよい。更なる実施形態において、上相は、系から水の蒸発を制限することができるシートまたはカバーである。
【0035】
中間相は、第4相から下相へH2Oが拡散するように選択される。したがって、第4相中の高分子の濃度は継続的に増加する。系全体が本質的に全く水を失わないことから、下相および第4相が平衡状態にある結晶化の終点は、水性下相の組成を選択することによって設定することができる。
【0036】
中間相は、例えば異なる粘度および/または化学的性質の複合混合物からなってもよい。さらに、中間相は、上相の拡散抑制特性を不均衡に低下させないこともある。
【0037】
好ましい実施形態において、中間相は、ヒドロキシ末端ポリ(ジメチルシロキサン)および/またはフェニルメチルポリシロキサン、特にフェニルメチルジメチルポリシロキサンを含有する。中間相に用いられる液体の選択では、特にその粘度、フェニルメチルシリコーン油の場合には、メチル基とフェニル基との比が重要である。
【0038】
下部水相は、塩、緩衝物質、ポリマーおよび/または有機溶媒を含有することが好ましい。
【0039】
好ましい実施形態では、高分子の水溶液は、塩、緩衝物質、ポリマーおよび/または有機溶媒を含有する。
【0040】
1つの好ましい実施形態では、高分子の水溶液は、高分子を除いては、下部水相と同じ成分を、より低い濃度で含有する。
【0041】
1つの好ましい実施形態において、高分子の水溶液は、一定体積の下相を一定体積の高分子水溶液と合わせることによって調製される。
【0042】
1つの好ましい実施形態において、第4相は、1pl〜10μl、好ましくは100pl〜2μl、さらに好ましくは10〜500nlの体積を有する。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明に従って結晶化される第4相の高分子は、タンパク質、DNA、RNA、高分子の複合体、タンパク質複合体、タンパク質/リガンド複合体、DNA/リガンド複合体、タンパク質/RNA複合体、タンパク質/DNA複合体、ウイルスまたはウイルス断片である。一般に、高分子ならびに生物由来または合成由来の他の大きな分子を本発明に従って結晶化することができる。
【0044】
本発明は、本発明による方法によって製造された高分子の結晶にも関する。本発明の方法は、高分子の結晶の製造法でもある。
【0045】
本発明は、本発明による方法によって製造された結晶を調べることによって証明される構造にも関する。
【0046】
本発明は、高分子を結晶化するための三相系にも関し、その系において、3つの相は1つの容器において互いの上にあり、これらの相は下部水相、中間相および下部水相よりも低い粘度を有する上部疎水性相である。例えばマイクロ流体系において、それに相が並置される容器もまた考えることができる。3つの相は液体であることが好ましい。しかしながら、異なる実施形態もまた、本発明に従って実施することができる。したがって、下相は、例えばゲル状または固体であってもよい。本発明による三相系(第4相のある、またはない)は、多種多様な方法で確立することができる。このように、例えば、下部水相を最初に装入するか、または後に他の相の下に挿入してもよい。可能な限りはっきりと相が互いに分けられた、結晶化のための本質的に安定な系を得ることが、本発明にとって唯一必須なことである。
【0047】
本発明による方法によって、比較的均一かつ大きな結晶を得ることが可能となる。この方法は、実施するのが簡単であり、速く、非常に再現性があり、使用されるタンパク質の量が少ない場合でさえ、蒸発の問題が避けられる。実施形態によっては、核生成速度が低くなり、そのため結晶が大きくなる、試料支持体との壁の接触は全く、またはほとんどない。タンパク質液滴は均一な形を有し、古典的な方法と比較すると、低い攪乱作用を示し、画像記録および画像評価の方法が簡略化される。第2相が存在するために、古典的方法においてしばしば形成し、かつ液滴を取り囲むスキンが避けられ、それによって、より簡単に結晶を取り扱い、単離することが可能となる。中間相を選択することにより、核生成速度を共同決定する、終点の設定の動力学に関するその他のパラメーターが得られる。
【0048】
実施形態に応じて、特定量の水を、例えばリザーバー溶液としての下相に添加することによって、核生成現象が観察された後に、過飽和状態から系が取り出される。これは特に、更なる核の形成を防ぎ、その結果、大きなタンパク質結晶が生じる。平衡状態を達成することによって、初期の結晶化の核(1つまたは複数)の結晶成長が遅くなった後、回復した核生成が開始することなく、リザーバー溶液中に沈殿剤または吸湿性物質の濃縮物を添加することによって、結晶成長は徐々に再開され、さらに促進することができる。この結果、かなりのサイズの単結晶が得られる。既に記載の方法(チャイエン(Chayen),N.E.;J.Crystal Growth,1999,196,434−41))と異なり、密封された系の面倒な開放は、相が液体の性質であるため、もはや必要ない。さらに、一実施形態において、本明細書に記載の結晶成長は、第2のビリアル係数の決定など、溶液パラメーターの特徴付けに加えて、核の決定に役立つ連続的なモニタリングを用いて実現することができる。古典的な画像解析法の他には、特に動的光散乱法が、非常に早く核を検出することができるため、核生成現象の検出に適している(ローゼンベルク(Rosenberger),F.;ヴェキロフ(Vekilov),P.G.;ムスコール(Muschol),M.;トーマス(Thomas),B.R.;Journal of Crystal Growth,1996,168,1−27;サリダキス(Saridakis),E.;ディルクス(Dierks),K.;モレノ(Moreno),A.;ディークマン(Dieckmann),M.W.;チャイエン(Chayen),N.E.;Acta Crystallographica,2002,D58,1597−1600;スプラゴン(Spraggon),G.;レスレイ(Lesley),S.A.;クロイッシュ(Kreusch),A.;プリーストリー(Priestle),J.P.;Acta Crystallographica,2002,D58,1915−1923)。
【0049】
さらに、拡散プロセスは、十分な量の中間相を抜き取ることにより中間相をピペットで除去し、リザーバーにおいて第4相および下相を形成する液滴間の液体伝達を乱すことによって止めることもできる。好ましい実施形態では、初期の溶液パラメーターを決定し、続いて上相下の中間相を加えることによって拡散プロセスを開始することができる。
【0050】
特に、第2ビリアル係数など、初期の溶液パラメーターの決定は、濃度の変化が溶液パラメーターに影響を及ぼさないように実現しなければならない。第2ビリアル係数によって、その浸透圧に対する溶液の非理想性の基礎である、高分子間の分子間相互作用についての結論を導き出すことが可能となる。正のビリアル係数は反発的相互作用を示すのに対して、負のビリアル係数は、吸引的相互作用を示す。わずかに負のビリアル係数は結晶化を促進する場合が多いが、高度に負の値では、あまり規則正しくない沈殿が生じることが知られている(ジョージ(George),A.;ウィルソン(Wilson),W.W.;Acta Crystallographica,1994,D50,361−365;ジョージ(George),A.;チャン(Chiang),Y.;グオ(Guo),B.;アラブシャヒ(Arabshahi),A.;チャイ(Cai),Z.,ウィルソン(Wilson),W.W.;Methods in Enzymology,1997,276,100−110)。第2ビリアル係数を決定するために、静的レーザー光散乱測定が、一定の塩濃度およびpHなどの定義された溶液パラメーターにて、一連の濃度の高分子にわたって実現されることから、溶液パラメーターは、いくつかの測定の間に一定のままであり、かつリザーバー溶液への水分子の拡散によって影響を受けないままであることが重要である。これは、新規な方法の初期のバッチ式において可能であり、それにしたがって、拡散プロセスは、第2相を添加することによって試料配列内のすべての測定を終了した後のみに開始される。
【0051】
特に、本発明は、自動結晶化または自動スクリーニングのための、本発明による方法、装置および/または三相系の使用にも関する。本発明による方法は、自動ロボット補助法の範囲内での使用に非常に適している。古典的な方法と比較して、必要とされる操作は極めて少ない。ロボットは単に、溶液を連続的にピペッティングしなければならないだけである。好ましい実施形態では、溶液は予めピペッティングされ、高分子の溶液を添加する必要があるだけである。ガラスカバーの適用、カバーの回転、プラスチックシート等での系の密封はもはや必要ない。にもかかわらず、結晶化には、動的に設定可能な終点が必要である。
【0052】
本発明は、複数の試料容器が試料支持体を形成するように配置される、高分子を結晶化するための装置にも関し、前記試料支持体は、試料容器の開口部よりも高く伸びる、途切れないエッジを有する。試料容器内において、中間相の層によって下部水相がカバーされる。試料支持体は高いエッジを有するため、すべての試料容器は、1つの操作で上相の層によって同時にカバーすることができる。上相は各試料容器を上向きに密封し、試料支持体全体を通る単一隣接相を上に形成する。このように、もはや個々の試料容器に上相を適用する必要はない。一実施形態において、2つ以上の試料容器は、例えば2つ以上の試料容器の側方境界に切込みを入れることによって第2層を介して通じることができる。この実施形態において試料容器1つのみに下相を加え、他の試料容器内の下相が例えば中間相によって置き換えられる場合、次いで、終点決定の動力学、したがって核生成速度は、試料容器までの距離に応じて、下相によって影響を受け得る。これによって、タンパク質単結晶の量に対する、終点決定の動力学の影響をスクリーニングすることが可能となる。
【0053】
好ましい実施形態では、試料容器の残り部分から側壁によって区切られるサブセクション(くぼみ)が各試料容器に存在し、その側壁は試料容器の側壁よりも低い。かかる実施形態を図11〜14に示す。
【0054】
図11は、試料容器(6)と、試料容器の側壁(4)と、高いエッジ(2)とを有する、本発明による試料支持体(1)を示す。試料容器(6)において、側壁(3)により試料容器の残り部分から区切られるサブセクション(5)が存在する。
【0055】
かかる試料支持体は、例えば公知の射出成形法によって、試料支持体の本体を最初に作製することによって容易に実現することができ、その本体は、ガラス板を除いて試料支持体のすべての部分を含有する。各試料支持体内の低い内側のくぼみは、上相の単一適用によって外側の区画の充填が可能となるように設計された小さなランド(land)によって保持されるべきである。試料支持体の寸法安定性が、製造プロセスで形成される際にいかに維持されるかは、当業者には公知である。次いで、完成された試料支持体は、本体の底部にガラス板を接着剤により接着することによって得られる。第4相との親水性相互作用を抑えるために、シリコン処理またはシラン処理など、公知の表面処理法によって、ガラス板を修飾することができる。
【0056】
図12は、図11による試料支持体を通る垂直断面の側面図を概略的に示している。図1〜6は、図11と同様に実現される。高分子の水相(第4相、8)は、試料容器(6)の区切られたサブセクション(5)に添加される。結晶の形成は、装置(9)、例えば試料支持体の下に備えられる顕微鏡でモニターされる。概略的な図からの逸脱では、第4相は通常、球形の液滴(楕円ではなく)を有し、容器の側面に触れない。
【0057】
図13は、本発明に従って、試料支持体の試料位置を示す。試料位置に応じて、4つまでの結晶化実験を実現することができる。試料位置の中央に、リザーバー溶液の区画がある。中央位置およびリザーバーのサイズのために、それは複合体沈殿剤を混合するために容易に使用することができる。第4相の4つの区画は、試料支持体の本体におけるくぼみを通るリザーバー域と通じる。試料支持体の底部は、プラスチックまたはガラスで作られている。プラスチックの場合には、試料支持体の本体は、穴(bore)によって実現することができる。沈殿剤の中央位置と区画との間の連結は、位置間のランドをミリング(milling)することによって実現することができる。寸法はミリメートルで示され、例示的な値としての役割を果たすだけである。
【0058】
図14は、図13による本発明の試料支持体の試料位置を通る対角線断面の側面図を概略的に示している。
【0059】
図11および12において、サブセクションの側壁は、サブセクションが試料容器の中央に円を形成するようにリングを形成する。試料容器の外側部分に、サブセクションの側壁のレベルより下のレベルまで下相を添加し、続いて、サブセクション(1つまたは複数)に液滴を添加する。三相系が確立される前または後に、高分子(第4相)の水溶液をサブセクションに添加する。サブセクションが中間相で充填され、サブセクションの環状の側壁が中間相の層によってカバーされるように、中間相が加えられる。したがって、水分子は、中間相を通じて第4相から、三相系の下相中に拡散することができる。
【0060】
好ましい実施形態において、サブセクションの側壁の上部エッジは斜面(bevel sloping)を内側に備えており、そのため第4相は加えると、サブセクションへと方向付けられる。
【0061】
更なる実施形態において、くぼみまたは区画の側壁は、異なる高さによって区別される。
【0062】
更なる実施形態において(図13および14)、タンパク質溶液のサブセクションは、下相に対する中央リザーバーの周りに提供される。特に最初の操作では、この設計によって、下相に対する液体の混合を簡略化することが可能となる。次いで、記述されているように、三相系が確立される。
【0063】
更なる実施形態において、サブセクション(5)の底部(1)は、試料容器(6)の底部と同じレベルにある。更なる実施形態では、サブセクションは、試料容器の底部に対して高い。その高い領域は、試料容器の開口部よりも下にある。更なる好ましい実施形態において、試料容器はそれぞれ、少なくとも1つの高いくぼみを有する。本発明のこれらの実施形態は図10によって示される。それは、試料容器(16)を有する、本発明による試料支持体(1)を通る垂直断面の一部を示す。示される実施形態において、高分子の溶液がそれに、またはそれを介して適用される容器の底部よりも高いくぼみ(15)が、個々の試料容器(16)に存在し、そのうち3つが一列に示される。試料支持体は、個々の試料容器を中間相で充填することを可能にし、上相の隣接相によって中間相をカバーすることを可能にする、高いエッジ(2)によって特徴付けられる。これは、本発明による三相系を提供するプロセスを大幅に簡略化する。くぼみ(15)は、側壁(13)によって残りの試料容器から区切られる分離されたサブセクションである。サブセクションの側壁(13)の上部は、試料容器の側壁(14)よりも低い。くぼみは、ベース(17)上に位置付けられる。寸法および関係は概略的に示される。特にロボットシステムが用いられる場合には、適切な寸法を有する試料支持体が選択されるだろう。
【0064】
更なる実施形態において、サブセクションは試料容器の底部よりも高く、サブセクションではなく、試料容器の残りの部分は、底部で一部または完全に開いており、そのため、すべての下相は相互につながっている。この場合には、下相、中間相および上相の1回のみの適用を行わなければならない。この実施形態は、高分子の異なる溶液が、定義された単一下相に関して調べられる場合に用いられる。この実施形態は、本発明による高いエッジを有する試料支持体において、試料支持体の安定性によって、必要とされる場合に、例えばグリッドを介してそれらが互いに単に連結されるように、試料容器が高いエッジよりも下の定義されたレベルで位置付けられる場合にも、実現することができる。かかる試料支持体において、次いで、下相の液滴の他に、試験すべきそれぞれの水溶液(第4相)の液滴が加えられる。
【0065】
好ましくは、試料支持体の底部は光学的に均一である。ガラスの底部が好ましい。したがって、マイクロ写真の他に、更なる光学測定法を、例えば濃度、サイズ、サイズ分布を決定するために、第2ビリアル係数などの熱力学的性質パラメーターおよび/または流体力学パラメーターもまた決定するために、種々の光散乱法(例えば、弾性光散乱、準弾性光散乱および/または非弾性散乱)などの溶液パラメーターおよび/または生体高分子の特徴付けに繰り返し行うことができる。さらに、真性または外因性蛍光体を用いた、蛍光異方性/蛍光脱分極などの分光法および/または更なる偏光分光法(ウィンター(Winter),R.,およびノール(Noll),F.;Methoden der biophysikalischen Chemie,Teubner Studienbucher Chemie,Teubner Verlag,ISBN:3−519−03518−9)が利用可能である。この目的のために、本明細書に示される方法で実現される液滴は、体積1μlを保持し、古典的なシッティング・ドロップ実験において200nlの液滴とおよそ同じ上面図を保持するというポジティブな特性を有する。したがって、それらがスフェロイド(spheroid)のトポグラフィーを有するため、本発明で示される方法の液滴は、特に共焦点測定幾何学を用いた上記の方法の適用に、より良い条件を示す。さらに、ガラス底部および光学的に均一な中間相および上相は、プラスチックシートで密封された系と比較して、上記の方法の適用により良い条件を示す。光学的に均一なカバーの使用を省くことができる。さらに、本明細書で用いられる中間相の多くの液体の屈折率は1.4〜1.5の範囲内であり、それは上記の方法の適用において更なる利点となる。
【0066】
さらに、得られた写真画像および他のパラメーターをデータベースにファイリングして、その後に結晶化実験をコンピューターで解析し、かつ/または微分画像解析(differential image analysis)などの公知の画像解析法および/またはエッジ検出を適用することが可能となる。沈殿物のモフォロジーを評価する公知の方法ならびに適合された核磁気共鳴および超音波に基づく方法も用いることができる。次いで、実現された結晶化実験の様々なパラメーターを評価することによって、統計的評価後に、改善された新しい結晶化条件を系統的に導くことが可能となる。さらに、顕微鏡を用いて、写真画像および他のパラメーターをデータベースにファイリングし、その後に結晶化実験をコンピューターで解析し、かつ/または微分画像解析などの公知の画像解析法および/またはエッジ検出を適用することが可能となる。
【0067】
本発明は、高分子を結晶化するための装置(1)であって、その装置には、残りの試料容器から側壁(3)により区切られる少なくとも1つのサブセクション(5)が各試料容器(6)に存在する、試料支持体を形成するように、多数の試料容器(6)が配置され、側壁(3)の上部が試料容器(4)の壁よりも低く、試料支持体の底部が光学的に均一であり、かつサブセクション(5)の底部(1)が試料容器(6)の底部と同じレベルにあることを特徴とする装置にも関する。試料支持体のトポグラフィーのために、装置を囲む高いエッジは、この実施形態において省くことができる。試料支持体は、簡単な方法で製造することができ、古典的な結晶化実験を実施するのにも適しており、既存の試料支持体と比較して、光学的に均一な底部を有するコストの低い変形形態である。蒸気拡散の実験に使用される古典的な高処理の試料支持体と比べて、光学的に均一な底部は、ポリマーの複屈折効果がないために、結晶の検出が、偏光を用いた非立方対称性を有する結晶の検出を非常に容易にするという利点を有する。
【0068】
本発明による装置は特に、ロボットを用いた自動化に適している。任意の数の試料容器を1つの試料支持体上に配置することができる(図9において、96個の試料が配置される)。図9は、高いエッジ(2)と、試料容器(16)と、試料容器間のセクション(14)とを有する、結晶化法の自動化実施のための本発明による試料支持体(1)の上面図を示す。
【0069】
試料支持体は、高いエッジによって特徴付けられる。これによって、ロボットにより補助されるその方法の実施が簡略化される:下部水相を各試料容器に添加する。その後、くぼみのレベルを超え、個々の試料容器のエッジより下に、すべての試料容器を充填することが好ましい、中間相の層によって、それはカバーされる。これに続いて、上相の層で系全体がカバーされる。これは、表面上で干渉するメニスカス効果(meniscus effect)を防ぐ。好ましくは、本発明による装置は、現在のロボット形式によってそれを使用することができるようなデザインを有する。これは、例えば試料支持体が、標準の96穴形式で9mmのピッチを有する8×12個の試料容器を有する場合に当てはまる。Society of Biomolecular Sciences(SBS;www.sbsonline.org)と同様な基準は当業者には公知である。
【0070】
試料支持体のエッジは、上相を収容するのに十分に高い。好ましくは、試料支持体の高さ全体における高いエッジの割合は、2〜50%、好ましくは5〜30%、さらに好ましくは10〜20%である。
【0071】
この方法を自動化した場合には、個々の試料容器は、側壁によって区切られるサブセクション(図10によるくぼみ、または図12および13による区画)を有し得る。試料容器には、1つまたは複数のかかるサブセクションが存在し、例えば図7では3つのくぼみが存在する。複数のくぼみおよび/または区画をリザーバーの横に配置することもできる。
【0072】
本発明によるこれらの実施形態は、多くの操作を省くことができ、それによって自動化プロセスとしてのその使用が非常に容易になる。この方法の自動化実施は、従来技術によるバッチ法の実施と同様に簡単であるが、終点および準安定状態の動的(dynamic)な設定が可能となる。さらに、数種類のタンパク質に対してタイムシフト試験法を実現することができ、その試験法では、水溶液(第4相)を既に装入しておいたくぼみに、タンパク質が添加される。これによって、化学薬品および試料支持体の消費を減らすことができる。
【0073】
本発明による三相系が確立される前に、はっきりとした界面が得られるように、かつ特に接着力および凝集力によって相の所望の配列(下相/中間相/上相)が得られるように、中間相および上相を選択する必要がある。
【0074】
上相は、高分子の溶液よりも低い密度でなければならず、H2Oの拡散を抑える特性を持っていなければならない。パラフィン油が特に適している。
【0075】
中間相を試験するために、中間相の個々の液体は、全く同じ量の上相の相によって、それぞれカバーされ、室温でインキュベートされる。適切な液体は、長時間にわたって安定な界面を形成するだろう。
【0076】
中間相の透湿性を試験するために、既知の高分子結晶化を、中間相の層によって(上相なしで)カバーされた下部高分子水溶液を有する開いた系において調べる。高分子の希釈溶液を濾過し、結晶化容器に入れ、試験すべき中間相によってカバーする。続いて、そのセットアップを数時間から数日の間にわたって観察する。中間相によって、高分子の溶液から水分子が拡散することが可能となる場合には、拡散に対する開放性(openness)および層の厚さに応じて、結晶が形成する。中間相によって、水の拡散が可能とならず、したがって本発明によれば適切ではない場合、数日後にも結晶は形成しないだろう。
【0077】
高分子の溶液が主に電解質溶液をベースとすることから、さらに、中間相に使用される液体が本質的に非混和性であるが、水相とは相溶性であることを確実にするために、水相に対して中間相の挙動を評価する必要がある。
【0078】
上相の拡散抑制特性に対する、拡散に対して開放されている中間相の影響を試験するために、中間相の層と少なくとも同じ厚さであるべき、パラフィン油の層によって、系をさらにカバーする。中間相が上相の拡散抑制特性に実質的に影響を与えない場合、タンパク質結晶の形成は認められないか、または少なくとも著しく遅れる。
【実施例】
【0079】
実施例1:上相における中間相の溶解性の試験
パラフィン油(パラフィン、低粘度、メルク社;注文番号:1.07174.1000)を上相として使用し、相溶性の中間相を調べる。パラフィン油の代わりに、拡散抑制特性および適切な密度を有する他の液体を使用してもよい。
【0080】
表1は、様々なポリシロキサン、ランダム共重合体およびブロック共重合体を含む検査済みの液体の例としての一覧を含む。
【0081】
【表1】
【0082】
内径6.5mmを有する丸底ガラス容器に、試験すべき液体をそれぞれ500μl添加し、それぞれパラフィン油500μlによってカバーし、室温でインキュベートする。最初に、すべての液体がパラフィンに向かって明確な界面を形成する。2種類の液体が互いに拡散したことによって、2時間後には、液体IVおよびXの界面は既に明確ではなくなった。24時間後には、このことは液体Iにも一部あてはまる。したがって、液体II、III、V、VI、VII、VIII、IX、XI、XII、XIII、XIV、XVおよびXVIが、本明細書に記載の方法の中間相の可能性のある候補である。液体IV、Xおよび条件付きでIは、本明細書で示される選択プロセスから却下される。液体Xについては、パラフィン油に添加して、拡散に対してそれをさらに開放する、改良されたバッチ法で使用されるポリジメチルシロキサン(DMS)であることから、驚くべきことではない。液体Xは例示的な方法において企図された。
【0083】
実施例2:中間相の拡散特性についての試験
試験すべき中間相を水で飽和させる。したがって、水5%(v/v)を試験すべき液体に添加し、混合し、遠心機にかけ、数日間インキュベートする。この飽和は、試験すべき中間相から水を取り除くことによってタンパク質結晶の形成を防ぐのに役立つ。液体XIII、XIVおよびXVIは、水とほとんど相溶性ではないことが分かった。
【0084】
リゾチーム溶液(25mg/ml)を以下のように調製する:リゾチーム(リゾチーム、Sigma;注文番号:L−7651)50mgを水1mlに完全に溶解し、濾過し、以下の:5%NaCl、100mM NaOAc、pH4.0、0.02%NaN3の溶液1mlと混合する。
【0085】
96穴マイクロタイタープレートに、試料容器1個当たりに、リゾチーム溶液10μlを装入し、実施例1に記載の液体番号II、III、V、VI、VII、VIIIおよびIX80μlそれぞれによってカバーする。2通りのセットアップを調製し、さらにラフィン油100μlによってカバーする。どちらのセットアップも22℃でインキュベートし、数週間にわたって観察する。試験すべき液体の選択では、可能性のある、低価格の液体を選択した。
【0086】
以下の表には、その後にリゾチームを観察することができた時間(日)を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
このように、液体のそれぞれの拡散特性を特徴付けることができ、パラフィン油の拡散特性に対するそれらの影響は除外される。
【0089】
実施例3:ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンの拡散特性
実施例2に記載のマイクロタイタープレートの代わりに、内径6.5mmを有するガラス容器を使用し、実施例1に記載の液体番号VII、VIIIまたはIX100μlで充填する。2通りのセットアップを調製し、さらにパラフィン油100μlによってカバーする。続いて、実施例2に記載のリゾチーム溶液5μlをガラス管に添加する。それは容器の底に移動する。数時間以内に、パラフィンでカバーされたセットアップにおいて、液体VIIでわずかな濁りが認められる。数時間後、かかる濁りは、パラフィン油でカバーされた液体VIIIおよびIXにおいても目に見える。かかる濁りは、パラフィン油でカバーされていないセットアップでは生じない。パラフィン油でカバーされたセットアップに水相が添加されない場合には、濁りは認められない。リゾチーム溶液の代わりに純水を使用した場合、同様な挙動が認められる。実施例2に従って行われる液体の飽和は、ヒドロキシ末端ジメチルシロキサンには特に重要である。
【0090】
実施例4:4相系におけるリゾチームの結晶化:
4相系の構造:下相として、5%NaCl、100mM NaOAc、pH4.0、0.02%NaN3の溶液をそれぞれ500μl、内径6.5mmを有するガラス容器に添加する。したがって、その溶液によって、リゾチームの結晶化の終点が決定される。続いて、実施例1に記載の液体番号V100μlを中間相として添加する。上相としてパラフィン油100μlで全体をカバーする。
【0091】
ピペットを用いて、パラフィン/空気界面より下の三相系に、実施例2によるリゾチーム溶液1μlを添加し、密度の差のために、それはシリコーン油/パラフィン油界面に移動する。続いて、そのタンパク質溶液は下相/シリコーン油界面にゆっくりと移動し、通常、安定な第4相として、そこに液滴の形でとどまる。濃度の終点は、下相の組成によって決定される。時折、下相と第4相との望ましくない一体化が観察される。タンパク質の結晶が形成する(図4)。液体VIをVの代わりに使用した場合、液滴は通常、パラフィン油/シリコーン油界面で安定化するだろう。これは特に<1μlの液滴にあてはまる。タンパク質の結晶もまた形成する。
【0092】
この実施例に記載の液体番号VおよびVIはコポリマーである。それらは粘度が異なり、したがって、それぞれのポリマー鎖の長さ分布が異なる。このように、フェニルメチルシロキサンの長さおよび長さ分布ならびにタンパク質溶液の体積は、系の挙動に著しい影響を及ぼす。用途に応じて、これらのパラメーターは調節および最適化することができる。この系は、添加剤(例えば、安定剤、ブロック共重合体、特にジおよび/またはトリブロック共重合体)を使用することによってさらに最適化することもできる。
【0093】
ガラス管およびガラス毛管を使用した場合には、タンパク質結晶の複屈折を検出に用いることができる。したがって、90度シフトされた検光子を用いて、偏光を全消光にかけ、非立方対称性の結晶はそれらの配向に応じて光シグナルを示す(図5)。光路が通り抜ける試料容器の部分は光学的に均一でなければならない。図5による装置において、側壁を通して測定を行った。特に多数の試料容器を有する試料支持体の場合には、光学的に均一な容器の底を通した測定を実施することは有利である。さらに、ガラスを使用した場合、下相/中間相および中間相/上相の界面でくぼんだメニスカスが形成し、その結果、液滴の中心位置が得られる(図4参照)。これは、結晶化実験の分析に有利である。このようにして、容器の表面特性は、その方法に有利に影響するように選択することができる。
【0094】
実施例5:下相からのタンパク質溶液の遠隔分離を有する、4相系における結晶化:
上述のように、三相系は96穴結晶化プレート(Greiner Bio−One、タンパク質結晶化プレート、96穴;注文番号609120)において確立される。下相はくぼみを越えて伸びないことが重要である(図6参照)。次いで、試料位置の全セクションがカバーされるまで、中間相が加えられる。続いて、パラフィン油でのカバーを実施する(上相、図6参照)。中間相は、上相の後に加えてもよい。
【0095】
以下の体積はガイドラインとして見なされる:沈殿剤300μl(下相、実施例4参照)、中間相90μl、パラフィン油120μl、およびタンパク質溶液2μl。
【0096】
タンパク質液滴の安定化に関して、中間相から要求される条件は、実施例4よりも厳しくない。実施例2に記載のリゾチーム2μlを容器のくぼみに位置付けるように、またはくぼみに移動するように加える。それは、中間相および容器壁によって囲まれる液滴を形成する。図7は、液体IXを中間相として使用した結晶化実験を示す。液体IXの場合には、2日後にタンパク質の結晶が形成する。ヒドロキシ末端ポリシロキサン(液体VII、VIIIおよびIX)を使用した場合、特に低体積のパラフィン油を使用した場合には、上部パラフィン層の乱れが認められる場合が多い。しかしながら、本明細書で使用される結晶化プレートは、大量のパラフィン油を適用することができない。それと異なり、高いエッジを有する試料支持体を使用することによって、試料支持体全体にわたって十分な層のパラフィン油を適用することが可能となる。
【0097】
実施例6:その他の酵素:グルコースイソメラーゼおよびキシラナーゼの比較としての結晶化
この方法は、2種類の市販の酵素、すなわちグルコースイソメラーゼ(Hampton Research、グルコースイソメラーゼ、注文番号:HR7−100)およびキシラナーゼ(Hampton Research、キシラナーゼ、注文番号:HR7−106)を用いて実現した。どちらのタンパク質も濃度15mg/mlにて、確立され、かつ市販の沈殿剤のキット(Hampton Research、crystal screen、HR2−110)を用いて試験した(ジャンカリック(Jancarik),J.,およびキム(Kim),S.H.;Sparse matrix sampling;:a screening method for crystallization of proteins;J.Appl.Cryst.1991,24,409−11に従って)。沈殿剤は、どちらも未希釈および50%希釈で使用した。タンパク質溶液を濾過した。
【0098】
三相系は、高いエッジを有する96穴結晶化プレート(Greiner Bio−One、タンパク質結晶化プレート、96穴;注文番号609120)において実現される。エッジは、約2cmのプラスチック片を接着剤で接着することによって形成し、ホットメルト接着剤で封止した。三相系は、試料支持体全体にわたってパラフィン油を最初に適用し、続いてリザーバーそれぞれに、異なる沈殿剤をそれぞれ添加することによって確立される。続いて、体積1.5μlを有する沈殿剤の液滴をリザーバーから3つのくぼみそれぞれにピペットで移す。次いで、試料位置のエッジを超えないが、各試料位置のセクション全体がカバーされるまで、必要とされる量の実施例1の液体VIIIを添加することによって、相IIが適用される。続いて、そのプレートを2時間インキュベートする。その次に、タンパク質水溶液1.5μlを各くぼみに添加する。この実験と並行して、古典的なハンギング・ドロップ実験をセットアップする。18時間後、セットアップの写真を撮った。図8は、三相系の方法とハンギング・ドロップ法との比較を示す。50%を超える実例において、三相の方法ははっきりと、より良く形成された結晶を示す。さらに、実施例1からの液体VIIIを用いた三相系の構造は、スクリーンの50種の溶液すべてと相溶性であることが示された。沈殿剤は、タンパク質の結晶化で通常使用される物質の選択からなり、有機溶媒も含む。
【0099】
図8は、3つの条件の例により、新規な方法(左のカラム)と古典的なハンギング・ドロップ法(右のカラム)との、実施例6で得られた結果の比較を示す。第1列および第2列は、グルコースイソメラーゼの結果を表し、最後の列は、キシラナーゼの結果を表す。本明細書で示される実施例から、古典的な方法と比較して、新規な方法からより良い結果が得られる場合が多いことが実証されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相系において高分子を結晶化する方法、適切な装置、三相系、および自動結晶化法でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子の三次元構造についての知識は、現代のバイオテクノロジーの進歩および疾患の治療的処置のどちらにも劇的な影響を及ぼす。したがって、例えば、標的タンパク質の三次元構造を決定することによって、それぞれの標的タンパク質と相互作用する新規な活性物質を同定かつ開発するための重要な情報を得ることができる。
【0003】
生体高分子の三次元構造の解明は、X線構造解析によって最も正確に行われる。構造解明のための前提条件は、タンパク質またはその複合体などの高分子が単結晶として入手可能であることである。
【0004】
さらに、結晶化法は、組換え活性物質の結晶性製剤の誘導および生成に貢献し、結晶形態は、製剤の薬物動態学的特性に著しい影響を及ぼし得る。合成または天然由来の低分子量化合物の多形の検査は、結晶化実験により実現することもできる。結晶化のその他の応用分野は、生体高分子ならびに低分子量化合物の精製方法としてのその特性である。結晶化法は、小規模でも大規模でも行うことができる。
【0005】
通常、相当する塩またはポリマー(ポリエチレングリコール等)の濃厚溶液の存在下で、高度に精製されたタンパク質の飽和溶液から結晶を得ようとする。溶解性に必要な水は、特定の時間経過の間にタンパク質溶液から多少取り除かれ、その結果、異なるサイズの会合がタンパク質分子の変動から形成し得る。核の形成は、結晶形成の前提条件である。これらのプロセスは通常、多パラメーターの問題である、様々なイオン強度条件、pH値、バッファー、ポリマー、有機溶媒、温度等の下で、異なるタンパク質濃度、異なる塩を選択することによって実験的に調べられる(マクファーソン(McPherson),A.,Crystallization of Biological Macromolecules,Cold Spring Harbor Press,New York,1999)。
【0006】
様々な結晶化法が利用可能である。いわゆるバッチ法において、結晶化すべきタンパク質を濃厚溶液として、予め貯蔵されていた水溶液に添加するか、または適切な試料支持体において、その逆に添加する(チャイエン(Chayen),N.E.;スチュワート(Stewart),P.D.S.;メーダー(Maeder),D.L.;ブロウ(Blow),D.M.;J.アップル(Appl).クリスト(Cryst).,1990,23,297−302;チャイエン(Chayen),N.E.;J.Crystal Growth,1999,196,434−41)。この系では、長時間にわたって沈殿剤の濃縮はないが、タンパク質溶液が加えられた時に、最終濃度が直接的に設定されることから、これは「バッチ法」と呼ばれる。この方法では、状態図の準安定領域へ連続的に移行することはできない。したがって、古典的な結晶化法の最大の利点が失われる(動力学的特性および動的(dynamic)終点の決定、図1参照)。
【0007】
バッチ法の改良法は、純粋なパラフィン油の代わりに、例えばポリ(ジメチルシロキサン)(DMS)が添加されているパラフィン油を使用し、その結果、溶液からの水の連続的な拡散が起こる方法である(ダーシー(D’Arcy)A.;エルモア(Elmore),C.;スチール(Stihle),M.;ジョンストン(Johnston),J.E.;J.Crystal.Growth.1996,168,175−80)。しかしながら、この方法では、系が閉じた系ではないため、終点を設定することができない。大きな欠点は、タンパク溶液が特定の時間の間に完全に乾燥するであろうという事実である。したがって、結晶生成に条件付きでのみ使用することができる(図1参照)。
【0008】
それとは異なり、古典的方法(ハンギング/シッティング・ドロップ)では、タンパク質溶液1滴を(添加されたリザーバー溶液と共に)、空気が排除された、所定の高濃度の水溶液リザーバーを有する密封容器内でインキュベートする。時間が経つにつれて、水が液滴から蒸発し、その結果、タンパク質の濃度が連続的に増大する。液滴がリザーバーと平衡状態になった時に終点に達する。このように、過剰なリザーバーの濃度によって、終点を設定することができる。
【0009】
しかしながら、構造解明に適した結晶の準備は、大きな困難を伴うか、あるいは公知の方法によって全く不可能であることが多い。理由は分からないが、規則正しい結晶化が生じないということがしばしば起こる。結晶生成中に起こる物理化学的プロセスの相互作用は、結晶化が結果的な分析を免れることから、今のところはっきりと述べられていない。結晶が得られた場合、それらは十分なサイズまたは品質でない場合が多い。
【0010】
新規かつ自動化された方法による遺伝子およびタンパク質配列の解明/同定において近年達成された大きな進歩を考慮して、現在発現させることができる多数の新規なタンパク質を、自動化された方法を用いた系統的試験にかけることが望まれている。近年、X線構造解析のサブセクションもまた、莫大な効率の向上を経験している。特に、高輝度のX線源(シンクロトロン)を準備することによって、およびデータを解釈するための効率的なハードウェアおよびソフトウェアを準備することによって、貢献がなされた。しかしながら、今までのところ、生体高分子を結晶化する公知の方法は自動化高処理法として、満足のいくように実施することができなかった(チャイエン(Chayen),N.E.,およびサリダキス(Saridakis),E.;Acta Cryst.2002,D58,921−27)。したがって、容易に自動化され、それと同時に入手可能になるタンパク質のスクリーニングおよび結晶の系統的製造を可能にする、タンパクの結晶化方法が大いに必要とされている。
【0011】
ハンギング・ドロップ法またはシッティング・ドロップ法に従った自動化拡散実験において、閉じた系は、例えばシリコンガラスのカバーによって、または粘着性透明シートによって密封される。ハンギング・ドロップ法では、カバーの底面、逆さにされたカバーそれぞれに、液滴をピペッティングし、液滴に悪影響を及ぼすことなく、液体リザーバー上に置かなければならず、気密封止が達成されなければならない。ロボットについては、これは比較的多くの単調な操作と関係がある。かかる自動化された方法は、コスト、速度および再現性の点から魅力のあるものではなく、極小の試料体積では容易に実現されない(チャイエン(Chayen)およびサリダキス(Saridakis),2002も参照のこと)。
【0012】
特に、極小の試料体積が用いられる場合、例えば粘着性シートまたはカバーを適用することによって、つまり機械的に系が密封されている間は、溶液を枯渇させる蒸発から保護するように注意しなければならない。
【0013】
生体高分子を結晶化するための多くの異なる装置が存在する。このように、例えば米国特許第5,096,676号には、例えば粘着性シートを使用することによって密封することができるシッティング・ドロップ法で結晶化する装置が開示されている。他の装置が、米国特許第5,130,105号;同第5,221,410号;同第5,400,741号;同第5,419,278号;同第6,039,804号、および特許出願番号:US−2002/0141905;US−2003/0010278、WO−00/60345、WO−01/88231およびWO−02/102503に記載されている。
【0014】
これらすべての装置によって、古典的な蒸気拡散結晶化の実験が可能となり、これらの装置は、例えば粘着性シートを使用することによって、機械的に密封しなければならない。
【0015】
自動化バッチ法において、ロボットが、例えばパラフィン油の下に、相当するスクリーニングのセットアップで使用される溶液を配置する(チャイエン(Chayen),N.E.,およびブロウ(Blow),D.M.;J.Crystal Growth,1992,122,176−80)。このように、その水溶液は、枯渇させる蒸発から直接保護される。特に、極小の試料体積を用いた場合に、水がごくわずかに減少したとしても、設定濃度が著しく変化し、このため再現性に影響が及ぶ(干渉源(interference source))ことから、これは重要である。このような自動化された方法は、濃度の変化がないため、バッチ法の通常の不利点と関連があり、濃度の変化がある場合には、終点を設定することができない。しかしながら、統計的解析に基づく、適応性のある結晶化法の適用には、最終濃度の正確な知識が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来技術の方法の公知の欠点を克服する結晶化法を提供する問題に基づく。特に、比較的安い費用で、かつ成功する確率が比較的高く、できる限り均一かつ大きな高分子の結晶を得ることを可能にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による方法は、結晶化セットアップのスクリーニングの自動化法としても適しているはずである。特に、本発明による自動化法は、比較的少ない操作でロボットにより容易に行われ、自動化された結晶化法の上述の欠点を克服するはずである。
【0018】
本発明の目的は驚くべきことに、下部水相と、中間相と、下部水相よりも低い密度を有する上部疎水性相とを含有する容器を用いて、三相系において高分子を結晶化する方法であって、その高分子の水溶液は中間相に添加され、第4の相が形成され、続いてインキュベートされる方法によって達成される。
【0019】
本発明は、請求項1〜16に記載の方法、請求項18〜23のいずれかに記載の装置、請求項24および25に記載の三相系、請求項17に記載の結晶、請求項26に記載の使用、および請求項27に記載の構造にも関する。
【0020】
本発明は、三相系の提供および使用に基づく。高分子の水溶液は、下相とすぐに混合しない第4相を形成する。一般に、第4相は、液滴を形成するような量で添加される。好ましくは、第4相は、容器中に導入された後に、下相と中間相との界面に移動するだろう。水相でもある下相との混合は起こらない。むしろ、第4相は、少なくとも結晶化プロセスが始まるまで、系に残る。代替の実施形態において、第4相は、中間相と上相と界面に、または中間相内に位置するようになる。重要なことは、下部水相との混合がすぐに起こらないことである。「第4相」という用語は一般に、たとえ下相、上相および中間相からなる三相系がまだ完全に形成していないとしても、高分子の水溶液を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】状態図における物理化学的関連性を示す。
【図2】三相系の概略構造を示す。
【図3】3つの三相系の写真を示す。
【図4】高分子の溶液の拡大図を示す。
【図5】図4における配列から得られる結晶のクローズアップ図を示す。
【図6】特定の実施形態を示す。
【図7】3つのくぼみが1つのリザーバー上に配置されている、本発明による系の写真を示す。
【図8】例として、グルコースイソメラーゼおよびキシレンに対する異なる条件の比較を示す。
【図9】本発明による試料支持体を示す。
【図10】本発明による試料支持体を通る垂直断面を示す。
【図11】本発明による試料支持体の実施形態を示す。
【図12】図11による試料支持体を通る垂直断面の側面図を概略的に示す。
【図13】本発明による試料支持体内での試料の位置を示す。
【図14】図13による試料支持体を通る対角線断面の側面図を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
図1は、状態図における通常の結晶化法の異なる挙動を簡単かつ概略的に示している。L、MおよびUはそれぞれ、状態図の可溶領域、準安定領域および不安定領域を示す。
【0023】
図2は、上相と中間相との界面で局在化した液滴状の第4相を有する、本発明による三相系の概略構造を示す。本発明によれば、水の上方拡散は起こらない。I、IIおよびIIIはそれぞれ、上相、中間相および下相に相当する。
【0024】
図3は、本発明による3つの三相系の写真を示し、三相系において高分子の溶液はそれぞれ、下相と中間相との間に液滴状で局在化する。
【0025】
図4は、中間相と下相との界面に位置する高分子の溶液のクローズアップ図を示す。
【0026】
図5は、図4と同じセットアップに対して、本発明による三相系において形成される結晶のクローズアップ図を示す。リゾチーム結晶を偏光および90度シフトされた検光子(analyzer)で検出することができる。
【0027】
結晶化系の相は図2によって概略的に示され、図3によって写真で示される。図3において、液滴状の第4相は、中間相と上相との界面に位置する。図3において界面ははっきりと見えないが、図4は、中間相と下相との界面にある第4相のクローズアップ図を示す。この準安定状態では、第4相は長時間にわたってとどまり、下部水相に侵入しない。
【0028】
結晶化が第4相において、または第4相との界面で始まるまで、第4相は下相と完全に混合しないだろう。第4相は、少なくとも6、12または24時間、さらに好ましくは少なくとも2、4、6、14、21または30日間区別できることが好ましい。
【0029】
好ましい実施形態において、用いられる容器は、第4相が下相と接触することができないように設計される。次いで、第4相は機械的に安定化される。この場合には、第4相は好ましくは、側壁によって残りの試料容器から区切られるサブセクション中に局在化する。このように、第4相は、くぼみまたはコンパートメントに局在化する。図6は、かかる実施形態を本発明に従っていかに実現することができるかを図示している。この実施形態において、容器内のくぼみは、高分子の溶液がさらに下相の方に移動しないようにする。H2Oは、矢印の方向に拡散する。I、II、およびIIIはそれぞれ、上相、中間相および下相に相当する。
【0030】
物理的な障壁のために、液滴は下相に到達することができない。本発明に従って、1種類を超える高分子の溶液を三相系において別々の相として結晶化するように誘導することが可能である。図7は、これらのくぼみを有する本発明による容器の実施形態を示す。本発明による系上への上面図を有する写真が示されており、3つのくぼみが通常1つのリザーバーに配置されている。中央のくぼみでは、はっきりと見える結晶が形成した。くぼみは、H2Oがその相を通してリザーバーに拡散することができる、連続中間相を介してリザーバーとつながっている。中央のくぼみでは、下相から隔てて区切られた第4相がある。本発明に従って、かかる実施形態は、多数の試料を同時にかつ逐次的に調べることを可能にする、マルチウェルプレートとしても実現することができる。
【0031】
更なる実施形態において、下部水相は、高分子の溶液に対して水を抜き取る吸湿性を有する相と置き換えるか、その相で補足してもよい。吸湿性物質は本質的に固体および/または液体であり得る。バッチ法とは異なり、水の抜取りによって、終点を含む系において濃度の変化が生じ、それは、吸湿性物質の性質および量の選択によっても異なる。
【0032】
好ましい実施形態において、三相系は、第4相が加えられる前に確立される。更なる実施形態では、第4相は、残りの試料容器から区切られるサブセクションにおいて最初に装入され、続いて三相系が確立される。スクリーニング試験において、次いで、水性第4相のタンパク質溶液が、1つのサブセクションに加えられ、再びH2Oの抜取りによって下相と平衡に達することができる。更なる実施形態において、上相は、試料容器のエッジを超えて加えられ、下相は各試料容器に加えられる。したがって、系は最初から、蒸発から守られる。次いで、液滴を下相から取り上げ、区切られたサブセクションに加えることができる。次いで、タンパク質溶液を、区切られたサブセクション中の液滴に加え、続いて、個々の試料容器のエッジを超えることなく、第2相が各試料容器に添加される。
【0033】
好ましい実施形態では、くぼみまたは区画および/またはそれらの側壁(1つまたは複数)は異なるレベルにあり、そのため、第2相の適用される量に応じて、1つのみまたはそうでなければいくつかのくぼみまたは区画が、第2相を介して、下相、リザーバー溶液と平衡化することができる。下相と通じるくぼみまたは区画は、古典的な蒸気拡散法と同様に挙動する。リザーバー溶液と平衡化しないくぼみは、例えばパラフィン油によって囲まれるために、古典的なミクロバッチ法と同様に挙動する。したがって、古典的なセットアップとミクロバッチ式セットアップの両方を試料支持体の1つの試料位置で、1つの操作で実現することが可能である。
【0034】
本明細書で示すアプローチから、結晶化実験のセットアップは多種多様な変形形態で実現することができる。結晶化プロセスの間ずっと、上相を介して、容器からのH2Oの拡散は本質的にない。好ましい実施形態では、上相はパラフィン油を含有する。しかしながら、上相として系から水の蒸発を制限することのできる、他のいずれかの油または他のいずれかの液体を使用してもよい。更なる実施形態において、上相は、系から水の蒸発を制限することができるシートまたはカバーである。
【0035】
中間相は、第4相から下相へH2Oが拡散するように選択される。したがって、第4相中の高分子の濃度は継続的に増加する。系全体が本質的に全く水を失わないことから、下相および第4相が平衡状態にある結晶化の終点は、水性下相の組成を選択することによって設定することができる。
【0036】
中間相は、例えば異なる粘度および/または化学的性質の複合混合物からなってもよい。さらに、中間相は、上相の拡散抑制特性を不均衡に低下させないこともある。
【0037】
好ましい実施形態において、中間相は、ヒドロキシ末端ポリ(ジメチルシロキサン)および/またはフェニルメチルポリシロキサン、特にフェニルメチルジメチルポリシロキサンを含有する。中間相に用いられる液体の選択では、特にその粘度、フェニルメチルシリコーン油の場合には、メチル基とフェニル基との比が重要である。
【0038】
下部水相は、塩、緩衝物質、ポリマーおよび/または有機溶媒を含有することが好ましい。
【0039】
好ましい実施形態では、高分子の水溶液は、塩、緩衝物質、ポリマーおよび/または有機溶媒を含有する。
【0040】
1つの好ましい実施形態では、高分子の水溶液は、高分子を除いては、下部水相と同じ成分を、より低い濃度で含有する。
【0041】
1つの好ましい実施形態において、高分子の水溶液は、一定体積の下相を一定体積の高分子水溶液と合わせることによって調製される。
【0042】
1つの好ましい実施形態において、第4相は、1pl〜10μl、好ましくは100pl〜2μl、さらに好ましくは10〜500nlの体積を有する。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明に従って結晶化される第4相の高分子は、タンパク質、DNA、RNA、高分子の複合体、タンパク質複合体、タンパク質/リガンド複合体、DNA/リガンド複合体、タンパク質/RNA複合体、タンパク質/DNA複合体、ウイルスまたはウイルス断片である。一般に、高分子ならびに生物由来または合成由来の他の大きな分子を本発明に従って結晶化することができる。
【0044】
本発明は、本発明による方法によって製造された高分子の結晶にも関する。本発明の方法は、高分子の結晶の製造法でもある。
【0045】
本発明は、本発明による方法によって製造された結晶を調べることによって証明される構造にも関する。
【0046】
本発明は、高分子を結晶化するための三相系にも関し、その系において、3つの相は1つの容器において互いの上にあり、これらの相は下部水相、中間相および下部水相よりも低い粘度を有する上部疎水性相である。例えばマイクロ流体系において、それに相が並置される容器もまた考えることができる。3つの相は液体であることが好ましい。しかしながら、異なる実施形態もまた、本発明に従って実施することができる。したがって、下相は、例えばゲル状または固体であってもよい。本発明による三相系(第4相のある、またはない)は、多種多様な方法で確立することができる。このように、例えば、下部水相を最初に装入するか、または後に他の相の下に挿入してもよい。可能な限りはっきりと相が互いに分けられた、結晶化のための本質的に安定な系を得ることが、本発明にとって唯一必須なことである。
【0047】
本発明による方法によって、比較的均一かつ大きな結晶を得ることが可能となる。この方法は、実施するのが簡単であり、速く、非常に再現性があり、使用されるタンパク質の量が少ない場合でさえ、蒸発の問題が避けられる。実施形態によっては、核生成速度が低くなり、そのため結晶が大きくなる、試料支持体との壁の接触は全く、またはほとんどない。タンパク質液滴は均一な形を有し、古典的な方法と比較すると、低い攪乱作用を示し、画像記録および画像評価の方法が簡略化される。第2相が存在するために、古典的方法においてしばしば形成し、かつ液滴を取り囲むスキンが避けられ、それによって、より簡単に結晶を取り扱い、単離することが可能となる。中間相を選択することにより、核生成速度を共同決定する、終点の設定の動力学に関するその他のパラメーターが得られる。
【0048】
実施形態に応じて、特定量の水を、例えばリザーバー溶液としての下相に添加することによって、核生成現象が観察された後に、過飽和状態から系が取り出される。これは特に、更なる核の形成を防ぎ、その結果、大きなタンパク質結晶が生じる。平衡状態を達成することによって、初期の結晶化の核(1つまたは複数)の結晶成長が遅くなった後、回復した核生成が開始することなく、リザーバー溶液中に沈殿剤または吸湿性物質の濃縮物を添加することによって、結晶成長は徐々に再開され、さらに促進することができる。この結果、かなりのサイズの単結晶が得られる。既に記載の方法(チャイエン(Chayen),N.E.;J.Crystal Growth,1999,196,434−41))と異なり、密封された系の面倒な開放は、相が液体の性質であるため、もはや必要ない。さらに、一実施形態において、本明細書に記載の結晶成長は、第2のビリアル係数の決定など、溶液パラメーターの特徴付けに加えて、核の決定に役立つ連続的なモニタリングを用いて実現することができる。古典的な画像解析法の他には、特に動的光散乱法が、非常に早く核を検出することができるため、核生成現象の検出に適している(ローゼンベルク(Rosenberger),F.;ヴェキロフ(Vekilov),P.G.;ムスコール(Muschol),M.;トーマス(Thomas),B.R.;Journal of Crystal Growth,1996,168,1−27;サリダキス(Saridakis),E.;ディルクス(Dierks),K.;モレノ(Moreno),A.;ディークマン(Dieckmann),M.W.;チャイエン(Chayen),N.E.;Acta Crystallographica,2002,D58,1597−1600;スプラゴン(Spraggon),G.;レスレイ(Lesley),S.A.;クロイッシュ(Kreusch),A.;プリーストリー(Priestle),J.P.;Acta Crystallographica,2002,D58,1915−1923)。
【0049】
さらに、拡散プロセスは、十分な量の中間相を抜き取ることにより中間相をピペットで除去し、リザーバーにおいて第4相および下相を形成する液滴間の液体伝達を乱すことによって止めることもできる。好ましい実施形態では、初期の溶液パラメーターを決定し、続いて上相下の中間相を加えることによって拡散プロセスを開始することができる。
【0050】
特に、第2ビリアル係数など、初期の溶液パラメーターの決定は、濃度の変化が溶液パラメーターに影響を及ぼさないように実現しなければならない。第2ビリアル係数によって、その浸透圧に対する溶液の非理想性の基礎である、高分子間の分子間相互作用についての結論を導き出すことが可能となる。正のビリアル係数は反発的相互作用を示すのに対して、負のビリアル係数は、吸引的相互作用を示す。わずかに負のビリアル係数は結晶化を促進する場合が多いが、高度に負の値では、あまり規則正しくない沈殿が生じることが知られている(ジョージ(George),A.;ウィルソン(Wilson),W.W.;Acta Crystallographica,1994,D50,361−365;ジョージ(George),A.;チャン(Chiang),Y.;グオ(Guo),B.;アラブシャヒ(Arabshahi),A.;チャイ(Cai),Z.,ウィルソン(Wilson),W.W.;Methods in Enzymology,1997,276,100−110)。第2ビリアル係数を決定するために、静的レーザー光散乱測定が、一定の塩濃度およびpHなどの定義された溶液パラメーターにて、一連の濃度の高分子にわたって実現されることから、溶液パラメーターは、いくつかの測定の間に一定のままであり、かつリザーバー溶液への水分子の拡散によって影響を受けないままであることが重要である。これは、新規な方法の初期のバッチ式において可能であり、それにしたがって、拡散プロセスは、第2相を添加することによって試料配列内のすべての測定を終了した後のみに開始される。
【0051】
特に、本発明は、自動結晶化または自動スクリーニングのための、本発明による方法、装置および/または三相系の使用にも関する。本発明による方法は、自動ロボット補助法の範囲内での使用に非常に適している。古典的な方法と比較して、必要とされる操作は極めて少ない。ロボットは単に、溶液を連続的にピペッティングしなければならないだけである。好ましい実施形態では、溶液は予めピペッティングされ、高分子の溶液を添加する必要があるだけである。ガラスカバーの適用、カバーの回転、プラスチックシート等での系の密封はもはや必要ない。にもかかわらず、結晶化には、動的に設定可能な終点が必要である。
【0052】
本発明は、複数の試料容器が試料支持体を形成するように配置される、高分子を結晶化するための装置にも関し、前記試料支持体は、試料容器の開口部よりも高く伸びる、途切れないエッジを有する。試料容器内において、中間相の層によって下部水相がカバーされる。試料支持体は高いエッジを有するため、すべての試料容器は、1つの操作で上相の層によって同時にカバーすることができる。上相は各試料容器を上向きに密封し、試料支持体全体を通る単一隣接相を上に形成する。このように、もはや個々の試料容器に上相を適用する必要はない。一実施形態において、2つ以上の試料容器は、例えば2つ以上の試料容器の側方境界に切込みを入れることによって第2層を介して通じることができる。この実施形態において試料容器1つのみに下相を加え、他の試料容器内の下相が例えば中間相によって置き換えられる場合、次いで、終点決定の動力学、したがって核生成速度は、試料容器までの距離に応じて、下相によって影響を受け得る。これによって、タンパク質単結晶の量に対する、終点決定の動力学の影響をスクリーニングすることが可能となる。
【0053】
好ましい実施形態では、試料容器の残り部分から側壁によって区切られるサブセクション(くぼみ)が各試料容器に存在し、その側壁は試料容器の側壁よりも低い。かかる実施形態を図11〜14に示す。
【0054】
図11は、試料容器(6)と、試料容器の側壁(4)と、高いエッジ(2)とを有する、本発明による試料支持体(1)を示す。試料容器(6)において、側壁(3)により試料容器の残り部分から区切られるサブセクション(5)が存在する。
【0055】
かかる試料支持体は、例えば公知の射出成形法によって、試料支持体の本体を最初に作製することによって容易に実現することができ、その本体は、ガラス板を除いて試料支持体のすべての部分を含有する。各試料支持体内の低い内側のくぼみは、上相の単一適用によって外側の区画の充填が可能となるように設計された小さなランド(land)によって保持されるべきである。試料支持体の寸法安定性が、製造プロセスで形成される際にいかに維持されるかは、当業者には公知である。次いで、完成された試料支持体は、本体の底部にガラス板を接着剤により接着することによって得られる。第4相との親水性相互作用を抑えるために、シリコン処理またはシラン処理など、公知の表面処理法によって、ガラス板を修飾することができる。
【0056】
図12は、図11による試料支持体を通る垂直断面の側面図を概略的に示している。図1〜6は、図11と同様に実現される。高分子の水相(第4相、8)は、試料容器(6)の区切られたサブセクション(5)に添加される。結晶の形成は、装置(9)、例えば試料支持体の下に備えられる顕微鏡でモニターされる。概略的な図からの逸脱では、第4相は通常、球形の液滴(楕円ではなく)を有し、容器の側面に触れない。
【0057】
図13は、本発明に従って、試料支持体の試料位置を示す。試料位置に応じて、4つまでの結晶化実験を実現することができる。試料位置の中央に、リザーバー溶液の区画がある。中央位置およびリザーバーのサイズのために、それは複合体沈殿剤を混合するために容易に使用することができる。第4相の4つの区画は、試料支持体の本体におけるくぼみを通るリザーバー域と通じる。試料支持体の底部は、プラスチックまたはガラスで作られている。プラスチックの場合には、試料支持体の本体は、穴(bore)によって実現することができる。沈殿剤の中央位置と区画との間の連結は、位置間のランドをミリング(milling)することによって実現することができる。寸法はミリメートルで示され、例示的な値としての役割を果たすだけである。
【0058】
図14は、図13による本発明の試料支持体の試料位置を通る対角線断面の側面図を概略的に示している。
【0059】
図11および12において、サブセクションの側壁は、サブセクションが試料容器の中央に円を形成するようにリングを形成する。試料容器の外側部分に、サブセクションの側壁のレベルより下のレベルまで下相を添加し、続いて、サブセクション(1つまたは複数)に液滴を添加する。三相系が確立される前または後に、高分子(第4相)の水溶液をサブセクションに添加する。サブセクションが中間相で充填され、サブセクションの環状の側壁が中間相の層によってカバーされるように、中間相が加えられる。したがって、水分子は、中間相を通じて第4相から、三相系の下相中に拡散することができる。
【0060】
好ましい実施形態において、サブセクションの側壁の上部エッジは斜面(bevel sloping)を内側に備えており、そのため第4相は加えると、サブセクションへと方向付けられる。
【0061】
更なる実施形態において、くぼみまたは区画の側壁は、異なる高さによって区別される。
【0062】
更なる実施形態において(図13および14)、タンパク質溶液のサブセクションは、下相に対する中央リザーバーの周りに提供される。特に最初の操作では、この設計によって、下相に対する液体の混合を簡略化することが可能となる。次いで、記述されているように、三相系が確立される。
【0063】
更なる実施形態において、サブセクション(5)の底部(1)は、試料容器(6)の底部と同じレベルにある。更なる実施形態では、サブセクションは、試料容器の底部に対して高い。その高い領域は、試料容器の開口部よりも下にある。更なる好ましい実施形態において、試料容器はそれぞれ、少なくとも1つの高いくぼみを有する。本発明のこれらの実施形態は図10によって示される。それは、試料容器(16)を有する、本発明による試料支持体(1)を通る垂直断面の一部を示す。示される実施形態において、高分子の溶液がそれに、またはそれを介して適用される容器の底部よりも高いくぼみ(15)が、個々の試料容器(16)に存在し、そのうち3つが一列に示される。試料支持体は、個々の試料容器を中間相で充填することを可能にし、上相の隣接相によって中間相をカバーすることを可能にする、高いエッジ(2)によって特徴付けられる。これは、本発明による三相系を提供するプロセスを大幅に簡略化する。くぼみ(15)は、側壁(13)によって残りの試料容器から区切られる分離されたサブセクションである。サブセクションの側壁(13)の上部は、試料容器の側壁(14)よりも低い。くぼみは、ベース(17)上に位置付けられる。寸法および関係は概略的に示される。特にロボットシステムが用いられる場合には、適切な寸法を有する試料支持体が選択されるだろう。
【0064】
更なる実施形態において、サブセクションは試料容器の底部よりも高く、サブセクションではなく、試料容器の残りの部分は、底部で一部または完全に開いており、そのため、すべての下相は相互につながっている。この場合には、下相、中間相および上相の1回のみの適用を行わなければならない。この実施形態は、高分子の異なる溶液が、定義された単一下相に関して調べられる場合に用いられる。この実施形態は、本発明による高いエッジを有する試料支持体において、試料支持体の安定性によって、必要とされる場合に、例えばグリッドを介してそれらが互いに単に連結されるように、試料容器が高いエッジよりも下の定義されたレベルで位置付けられる場合にも、実現することができる。かかる試料支持体において、次いで、下相の液滴の他に、試験すべきそれぞれの水溶液(第4相)の液滴が加えられる。
【0065】
好ましくは、試料支持体の底部は光学的に均一である。ガラスの底部が好ましい。したがって、マイクロ写真の他に、更なる光学測定法を、例えば濃度、サイズ、サイズ分布を決定するために、第2ビリアル係数などの熱力学的性質パラメーターおよび/または流体力学パラメーターもまた決定するために、種々の光散乱法(例えば、弾性光散乱、準弾性光散乱および/または非弾性散乱)などの溶液パラメーターおよび/または生体高分子の特徴付けに繰り返し行うことができる。さらに、真性または外因性蛍光体を用いた、蛍光異方性/蛍光脱分極などの分光法および/または更なる偏光分光法(ウィンター(Winter),R.,およびノール(Noll),F.;Methoden der biophysikalischen Chemie,Teubner Studienbucher Chemie,Teubner Verlag,ISBN:3−519−03518−9)が利用可能である。この目的のために、本明細書に示される方法で実現される液滴は、体積1μlを保持し、古典的なシッティング・ドロップ実験において200nlの液滴とおよそ同じ上面図を保持するというポジティブな特性を有する。したがって、それらがスフェロイド(spheroid)のトポグラフィーを有するため、本発明で示される方法の液滴は、特に共焦点測定幾何学を用いた上記の方法の適用に、より良い条件を示す。さらに、ガラス底部および光学的に均一な中間相および上相は、プラスチックシートで密封された系と比較して、上記の方法の適用により良い条件を示す。光学的に均一なカバーの使用を省くことができる。さらに、本明細書で用いられる中間相の多くの液体の屈折率は1.4〜1.5の範囲内であり、それは上記の方法の適用において更なる利点となる。
【0066】
さらに、得られた写真画像および他のパラメーターをデータベースにファイリングして、その後に結晶化実験をコンピューターで解析し、かつ/または微分画像解析(differential image analysis)などの公知の画像解析法および/またはエッジ検出を適用することが可能となる。沈殿物のモフォロジーを評価する公知の方法ならびに適合された核磁気共鳴および超音波に基づく方法も用いることができる。次いで、実現された結晶化実験の様々なパラメーターを評価することによって、統計的評価後に、改善された新しい結晶化条件を系統的に導くことが可能となる。さらに、顕微鏡を用いて、写真画像および他のパラメーターをデータベースにファイリングし、その後に結晶化実験をコンピューターで解析し、かつ/または微分画像解析などの公知の画像解析法および/またはエッジ検出を適用することが可能となる。
【0067】
本発明は、高分子を結晶化するための装置(1)であって、その装置には、残りの試料容器から側壁(3)により区切られる少なくとも1つのサブセクション(5)が各試料容器(6)に存在する、試料支持体を形成するように、多数の試料容器(6)が配置され、側壁(3)の上部が試料容器(4)の壁よりも低く、試料支持体の底部が光学的に均一であり、かつサブセクション(5)の底部(1)が試料容器(6)の底部と同じレベルにあることを特徴とする装置にも関する。試料支持体のトポグラフィーのために、装置を囲む高いエッジは、この実施形態において省くことができる。試料支持体は、簡単な方法で製造することができ、古典的な結晶化実験を実施するのにも適しており、既存の試料支持体と比較して、光学的に均一な底部を有するコストの低い変形形態である。蒸気拡散の実験に使用される古典的な高処理の試料支持体と比べて、光学的に均一な底部は、ポリマーの複屈折効果がないために、結晶の検出が、偏光を用いた非立方対称性を有する結晶の検出を非常に容易にするという利点を有する。
【0068】
本発明による装置は特に、ロボットを用いた自動化に適している。任意の数の試料容器を1つの試料支持体上に配置することができる(図9において、96個の試料が配置される)。図9は、高いエッジ(2)と、試料容器(16)と、試料容器間のセクション(14)とを有する、結晶化法の自動化実施のための本発明による試料支持体(1)の上面図を示す。
【0069】
試料支持体は、高いエッジによって特徴付けられる。これによって、ロボットにより補助されるその方法の実施が簡略化される:下部水相を各試料容器に添加する。その後、くぼみのレベルを超え、個々の試料容器のエッジより下に、すべての試料容器を充填することが好ましい、中間相の層によって、それはカバーされる。これに続いて、上相の層で系全体がカバーされる。これは、表面上で干渉するメニスカス効果(meniscus effect)を防ぐ。好ましくは、本発明による装置は、現在のロボット形式によってそれを使用することができるようなデザインを有する。これは、例えば試料支持体が、標準の96穴形式で9mmのピッチを有する8×12個の試料容器を有する場合に当てはまる。Society of Biomolecular Sciences(SBS;www.sbsonline.org)と同様な基準は当業者には公知である。
【0070】
試料支持体のエッジは、上相を収容するのに十分に高い。好ましくは、試料支持体の高さ全体における高いエッジの割合は、2〜50%、好ましくは5〜30%、さらに好ましくは10〜20%である。
【0071】
この方法を自動化した場合には、個々の試料容器は、側壁によって区切られるサブセクション(図10によるくぼみ、または図12および13による区画)を有し得る。試料容器には、1つまたは複数のかかるサブセクションが存在し、例えば図7では3つのくぼみが存在する。複数のくぼみおよび/または区画をリザーバーの横に配置することもできる。
【0072】
本発明によるこれらの実施形態は、多くの操作を省くことができ、それによって自動化プロセスとしてのその使用が非常に容易になる。この方法の自動化実施は、従来技術によるバッチ法の実施と同様に簡単であるが、終点および準安定状態の動的(dynamic)な設定が可能となる。さらに、数種類のタンパク質に対してタイムシフト試験法を実現することができ、その試験法では、水溶液(第4相)を既に装入しておいたくぼみに、タンパク質が添加される。これによって、化学薬品および試料支持体の消費を減らすことができる。
【0073】
本発明による三相系が確立される前に、はっきりとした界面が得られるように、かつ特に接着力および凝集力によって相の所望の配列(下相/中間相/上相)が得られるように、中間相および上相を選択する必要がある。
【0074】
上相は、高分子の溶液よりも低い密度でなければならず、H2Oの拡散を抑える特性を持っていなければならない。パラフィン油が特に適している。
【0075】
中間相を試験するために、中間相の個々の液体は、全く同じ量の上相の相によって、それぞれカバーされ、室温でインキュベートされる。適切な液体は、長時間にわたって安定な界面を形成するだろう。
【0076】
中間相の透湿性を試験するために、既知の高分子結晶化を、中間相の層によって(上相なしで)カバーされた下部高分子水溶液を有する開いた系において調べる。高分子の希釈溶液を濾過し、結晶化容器に入れ、試験すべき中間相によってカバーする。続いて、そのセットアップを数時間から数日の間にわたって観察する。中間相によって、高分子の溶液から水分子が拡散することが可能となる場合には、拡散に対する開放性(openness)および層の厚さに応じて、結晶が形成する。中間相によって、水の拡散が可能とならず、したがって本発明によれば適切ではない場合、数日後にも結晶は形成しないだろう。
【0077】
高分子の溶液が主に電解質溶液をベースとすることから、さらに、中間相に使用される液体が本質的に非混和性であるが、水相とは相溶性であることを確実にするために、水相に対して中間相の挙動を評価する必要がある。
【0078】
上相の拡散抑制特性に対する、拡散に対して開放されている中間相の影響を試験するために、中間相の層と少なくとも同じ厚さであるべき、パラフィン油の層によって、系をさらにカバーする。中間相が上相の拡散抑制特性に実質的に影響を与えない場合、タンパク質結晶の形成は認められないか、または少なくとも著しく遅れる。
【実施例】
【0079】
実施例1:上相における中間相の溶解性の試験
パラフィン油(パラフィン、低粘度、メルク社;注文番号:1.07174.1000)を上相として使用し、相溶性の中間相を調べる。パラフィン油の代わりに、拡散抑制特性および適切な密度を有する他の液体を使用してもよい。
【0080】
表1は、様々なポリシロキサン、ランダム共重合体およびブロック共重合体を含む検査済みの液体の例としての一覧を含む。
【0081】
【表1】
【0082】
内径6.5mmを有する丸底ガラス容器に、試験すべき液体をそれぞれ500μl添加し、それぞれパラフィン油500μlによってカバーし、室温でインキュベートする。最初に、すべての液体がパラフィンに向かって明確な界面を形成する。2種類の液体が互いに拡散したことによって、2時間後には、液体IVおよびXの界面は既に明確ではなくなった。24時間後には、このことは液体Iにも一部あてはまる。したがって、液体II、III、V、VI、VII、VIII、IX、XI、XII、XIII、XIV、XVおよびXVIが、本明細書に記載の方法の中間相の可能性のある候補である。液体IV、Xおよび条件付きでIは、本明細書で示される選択プロセスから却下される。液体Xについては、パラフィン油に添加して、拡散に対してそれをさらに開放する、改良されたバッチ法で使用されるポリジメチルシロキサン(DMS)であることから、驚くべきことではない。液体Xは例示的な方法において企図された。
【0083】
実施例2:中間相の拡散特性についての試験
試験すべき中間相を水で飽和させる。したがって、水5%(v/v)を試験すべき液体に添加し、混合し、遠心機にかけ、数日間インキュベートする。この飽和は、試験すべき中間相から水を取り除くことによってタンパク質結晶の形成を防ぐのに役立つ。液体XIII、XIVおよびXVIは、水とほとんど相溶性ではないことが分かった。
【0084】
リゾチーム溶液(25mg/ml)を以下のように調製する:リゾチーム(リゾチーム、Sigma;注文番号:L−7651)50mgを水1mlに完全に溶解し、濾過し、以下の:5%NaCl、100mM NaOAc、pH4.0、0.02%NaN3の溶液1mlと混合する。
【0085】
96穴マイクロタイタープレートに、試料容器1個当たりに、リゾチーム溶液10μlを装入し、実施例1に記載の液体番号II、III、V、VI、VII、VIIIおよびIX80μlそれぞれによってカバーする。2通りのセットアップを調製し、さらにラフィン油100μlによってカバーする。どちらのセットアップも22℃でインキュベートし、数週間にわたって観察する。試験すべき液体の選択では、可能性のある、低価格の液体を選択した。
【0086】
以下の表には、その後にリゾチームを観察することができた時間(日)を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
このように、液体のそれぞれの拡散特性を特徴付けることができ、パラフィン油の拡散特性に対するそれらの影響は除外される。
【0089】
実施例3:ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンの拡散特性
実施例2に記載のマイクロタイタープレートの代わりに、内径6.5mmを有するガラス容器を使用し、実施例1に記載の液体番号VII、VIIIまたはIX100μlで充填する。2通りのセットアップを調製し、さらにパラフィン油100μlによってカバーする。続いて、実施例2に記載のリゾチーム溶液5μlをガラス管に添加する。それは容器の底に移動する。数時間以内に、パラフィンでカバーされたセットアップにおいて、液体VIIでわずかな濁りが認められる。数時間後、かかる濁りは、パラフィン油でカバーされた液体VIIIおよびIXにおいても目に見える。かかる濁りは、パラフィン油でカバーされていないセットアップでは生じない。パラフィン油でカバーされたセットアップに水相が添加されない場合には、濁りは認められない。リゾチーム溶液の代わりに純水を使用した場合、同様な挙動が認められる。実施例2に従って行われる液体の飽和は、ヒドロキシ末端ジメチルシロキサンには特に重要である。
【0090】
実施例4:4相系におけるリゾチームの結晶化:
4相系の構造:下相として、5%NaCl、100mM NaOAc、pH4.0、0.02%NaN3の溶液をそれぞれ500μl、内径6.5mmを有するガラス容器に添加する。したがって、その溶液によって、リゾチームの結晶化の終点が決定される。続いて、実施例1に記載の液体番号V100μlを中間相として添加する。上相としてパラフィン油100μlで全体をカバーする。
【0091】
ピペットを用いて、パラフィン/空気界面より下の三相系に、実施例2によるリゾチーム溶液1μlを添加し、密度の差のために、それはシリコーン油/パラフィン油界面に移動する。続いて、そのタンパク質溶液は下相/シリコーン油界面にゆっくりと移動し、通常、安定な第4相として、そこに液滴の形でとどまる。濃度の終点は、下相の組成によって決定される。時折、下相と第4相との望ましくない一体化が観察される。タンパク質の結晶が形成する(図4)。液体VIをVの代わりに使用した場合、液滴は通常、パラフィン油/シリコーン油界面で安定化するだろう。これは特に<1μlの液滴にあてはまる。タンパク質の結晶もまた形成する。
【0092】
この実施例に記載の液体番号VおよびVIはコポリマーである。それらは粘度が異なり、したがって、それぞれのポリマー鎖の長さ分布が異なる。このように、フェニルメチルシロキサンの長さおよび長さ分布ならびにタンパク質溶液の体積は、系の挙動に著しい影響を及ぼす。用途に応じて、これらのパラメーターは調節および最適化することができる。この系は、添加剤(例えば、安定剤、ブロック共重合体、特にジおよび/またはトリブロック共重合体)を使用することによってさらに最適化することもできる。
【0093】
ガラス管およびガラス毛管を使用した場合には、タンパク質結晶の複屈折を検出に用いることができる。したがって、90度シフトされた検光子を用いて、偏光を全消光にかけ、非立方対称性の結晶はそれらの配向に応じて光シグナルを示す(図5)。光路が通り抜ける試料容器の部分は光学的に均一でなければならない。図5による装置において、側壁を通して測定を行った。特に多数の試料容器を有する試料支持体の場合には、光学的に均一な容器の底を通した測定を実施することは有利である。さらに、ガラスを使用した場合、下相/中間相および中間相/上相の界面でくぼんだメニスカスが形成し、その結果、液滴の中心位置が得られる(図4参照)。これは、結晶化実験の分析に有利である。このようにして、容器の表面特性は、その方法に有利に影響するように選択することができる。
【0094】
実施例5:下相からのタンパク質溶液の遠隔分離を有する、4相系における結晶化:
上述のように、三相系は96穴結晶化プレート(Greiner Bio−One、タンパク質結晶化プレート、96穴;注文番号609120)において確立される。下相はくぼみを越えて伸びないことが重要である(図6参照)。次いで、試料位置の全セクションがカバーされるまで、中間相が加えられる。続いて、パラフィン油でのカバーを実施する(上相、図6参照)。中間相は、上相の後に加えてもよい。
【0095】
以下の体積はガイドラインとして見なされる:沈殿剤300μl(下相、実施例4参照)、中間相90μl、パラフィン油120μl、およびタンパク質溶液2μl。
【0096】
タンパク質液滴の安定化に関して、中間相から要求される条件は、実施例4よりも厳しくない。実施例2に記載のリゾチーム2μlを容器のくぼみに位置付けるように、またはくぼみに移動するように加える。それは、中間相および容器壁によって囲まれる液滴を形成する。図7は、液体IXを中間相として使用した結晶化実験を示す。液体IXの場合には、2日後にタンパク質の結晶が形成する。ヒドロキシ末端ポリシロキサン(液体VII、VIIIおよびIX)を使用した場合、特に低体積のパラフィン油を使用した場合には、上部パラフィン層の乱れが認められる場合が多い。しかしながら、本明細書で使用される結晶化プレートは、大量のパラフィン油を適用することができない。それと異なり、高いエッジを有する試料支持体を使用することによって、試料支持体全体にわたって十分な層のパラフィン油を適用することが可能となる。
【0097】
実施例6:その他の酵素:グルコースイソメラーゼおよびキシラナーゼの比較としての結晶化
この方法は、2種類の市販の酵素、すなわちグルコースイソメラーゼ(Hampton Research、グルコースイソメラーゼ、注文番号:HR7−100)およびキシラナーゼ(Hampton Research、キシラナーゼ、注文番号:HR7−106)を用いて実現した。どちらのタンパク質も濃度15mg/mlにて、確立され、かつ市販の沈殿剤のキット(Hampton Research、crystal screen、HR2−110)を用いて試験した(ジャンカリック(Jancarik),J.,およびキム(Kim),S.H.;Sparse matrix sampling;:a screening method for crystallization of proteins;J.Appl.Cryst.1991,24,409−11に従って)。沈殿剤は、どちらも未希釈および50%希釈で使用した。タンパク質溶液を濾過した。
【0098】
三相系は、高いエッジを有する96穴結晶化プレート(Greiner Bio−One、タンパク質結晶化プレート、96穴;注文番号609120)において実現される。エッジは、約2cmのプラスチック片を接着剤で接着することによって形成し、ホットメルト接着剤で封止した。三相系は、試料支持体全体にわたってパラフィン油を最初に適用し、続いてリザーバーそれぞれに、異なる沈殿剤をそれぞれ添加することによって確立される。続いて、体積1.5μlを有する沈殿剤の液滴をリザーバーから3つのくぼみそれぞれにピペットで移す。次いで、試料位置のエッジを超えないが、各試料位置のセクション全体がカバーされるまで、必要とされる量の実施例1の液体VIIIを添加することによって、相IIが適用される。続いて、そのプレートを2時間インキュベートする。その次に、タンパク質水溶液1.5μlを各くぼみに添加する。この実験と並行して、古典的なハンギング・ドロップ実験をセットアップする。18時間後、セットアップの写真を撮った。図8は、三相系の方法とハンギング・ドロップ法との比較を示す。50%を超える実例において、三相の方法ははっきりと、より良く形成された結晶を示す。さらに、実施例1からの液体VIIIを用いた三相系の構造は、スクリーンの50種の溶液すべてと相溶性であることが示された。沈殿剤は、タンパク質の結晶化で通常使用される物質の選択からなり、有機溶媒も含む。
【0099】
図8は、3つの条件の例により、新規な方法(左のカラム)と古典的なハンギング・ドロップ法(右のカラム)との、実施例6で得られた結果の比較を示す。第1列および第2列は、グルコースイソメラーゼの結果を表し、最後の列は、キシラナーゼの結果を表す。本明細書で示される実施例から、古典的な方法と比較して、新規な方法からより良い結果が得られる場合が多いことが実証されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の試料容器(6,16)が試料支持体を形成するように配置された、高分子を結晶化する装置であって、前記支持体が、試料容器の開口部よりも高い隣接エッジ(2)を有し、側壁(3,13)により残りの試料容器から区切られた少なくとも1つのサブセクション(5,15)が各試料容器(6,16)中に存在し、前記サブセクションを残りの試料容器から区切る側壁(3,13)の上部が試料容器の側壁(4,14)よりも低い、装置。
【請求項2】
サブセクション(5)の底部(1)が、試料容器(6)の底部の一部である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
試料支持体の底部が複屈折効果がない、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
試料支持体の底部が複屈折効果がなく、かつサブセクション(5)の底部(1)が試料容器(6)の底部の一部であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
多数の試料容器(6)が試料支持体を形成するように配置された、高分子を結晶化する装置であって、側壁(3)により残りの試料容器から区切られた少なくとも2つのサブセクション(5)が各試料容器(6)中に存在し、前記サブセクションを残りの試料容器から区切る側壁(3)の上部が試料容器(4)の側壁よりも低く、少なくとも1つのサブセクションの側壁(1つまたは複数)が異なる高さを有する、装置。
【請求項6】
試料支持体の底部が複屈折効果がなく、かつサブセクション(5)の底部(1)が試料容器(6)の底部の一部であることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項1】
多数の試料容器(6,16)が試料支持体を形成するように配置された、高分子を結晶化する装置であって、前記支持体が、試料容器の開口部よりも高い隣接エッジ(2)を有し、側壁(3,13)により残りの試料容器から区切られた少なくとも1つのサブセクション(5,15)が各試料容器(6,16)中に存在し、前記サブセクションを残りの試料容器から区切る側壁(3,13)の上部が試料容器の側壁(4,14)よりも低い、装置。
【請求項2】
サブセクション(5)の底部(1)が、試料容器(6)の底部の一部である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
試料支持体の底部が複屈折効果がない、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
試料支持体の底部が複屈折効果がなく、かつサブセクション(5)の底部(1)が試料容器(6)の底部の一部であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
多数の試料容器(6)が試料支持体を形成するように配置された、高分子を結晶化する装置であって、側壁(3)により残りの試料容器から区切られた少なくとも2つのサブセクション(5)が各試料容器(6)中に存在し、前記サブセクションを残りの試料容器から区切る側壁(3)の上部が試料容器(4)の側壁よりも低く、少なくとも1つのサブセクションの側壁(1つまたは複数)が異なる高さを有する、装置。
【請求項6】
試料支持体の底部が複屈折効果がなく、かつサブセクション(5)の底部(1)が試料容器(6)の底部の一部であることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−220618(P2010−220618A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106145(P2010−106145)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2005−506071(P2005−506071)の分割
【原出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【出願人】(505035851)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2005−506071(P2005−506071)の分割
【原出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【出願人】(505035851)
【Fターム(参考)】
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