説明

タービンブレードの製造方法

【課題】鍛造のための所要工数及びタービンブレードの機械加工のための所要工数及び所要時間を短くすることができ、タービンブレードを効率的に製造することのできるタービンブレードの製造方法を提供する。
【解決手段】タービンブレードとしての2つの動翼10,12を長手方向に一体の連結状態で鍛造する鍛造工程と、鍛造工程の後において、2つの動翼10,12を連結状態で熱処理する熱処理工程と、熱処理工程の後において、動翼10,12を一体の連結状態で機械加工する機械加工工程と、機械加工工程の後において、動翼10,12を個々に分離する分離工程と、を経て動翼10,12を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はタービンブレードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンブレードの製造方法として、従来、角材からタービンブレードの1つ1つを削り出して製造する方法が一般に行われている。
しかしながら角材からタービンブレードを削り出す場合、加工量が多く、材料の歩留りが悪いとともに、加工に長時間を要し、生産性を高めることが難しい問題がある。
【0003】
一方、タービンブレードの単体を鍛造によって成形し、製造する方法も公知である。
例えば下記特許文献1,特許文献2にタービンブレードを単体で鍛造成形する点が開示されている。
しかしながらこのようにタービンブレードを単体で鍛造して、それぞれを機械加工する場合、鍛造のための所要工数が多くなるとともに、その後の機械加工の工数も多くなってしまう。
【0004】
具体的には、鍛造したタービンブレードを機械加工する場合、機械加工のための段取り作業を行って、その後に機械加工を行い、しかる後加工品の取出しを行うが、機械加工のためのこれら一連の工程を、鍛造した各タービンブレードごとに行わなければならず、機械加工に際して多くの手間と時間とを要してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−80149号公報
【特許文献2】特開昭63−112039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、鍛造のための所要工数及びタービンブレードの機械加工のための所要工数及び所要時間を節減することができ、タービンブレードを効率的に製造することのできるタービンブレードの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して請求項1の製造方法は、(a)複数のタービンブレードを長手方向に一体の連結状態で鍛造する鍛造工程と、(b)該鍛造工程の後において、該複数のタービンブレードを前記連結状態で熱処理する熱処理工程と、(c)該熱処理工程の後において、前記複数のタービンブレードを前記一体の連結状態で機械加工する機械加工工程と、(d)該機械加工工程の後において、前記複数のタービンブレードに分離する分離工程と、を経てタービンブレードを製造することを特徴とする。
【0008】
請求項2のものは、請求項1において、前記鍛造工程では、各タービンブレードの互いに隣接した端と端との間に、それら各端を繋ぐ余肉部分としての繋ぎ部分を設け、該繋ぎ部分を介して該タービンブレードを長手方向に一体に連結する状態に鍛造することを特徴とする。
【0009】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記鍛造工程では、翼部に対して厚肉をなす厚肉部が、隣接する2つのタービンブレードの長手方向の両端に位置するように鍛造を行うことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0010】
以上のように本発明では、タービンブレードを鍛造にて成形し、その際に複数のタービンブレードを長手方向に一体の連結状態で鍛造する。
このようにすることで、1つの鍛造素材から複数のタービンブレードを同時に鍛造成形することができ、鍛造加工の加工工数を少なくし得て、鍛造効率を高めることができる。
また鍛造に際してのバリの発生量を少なくし得る等によって、タービンブレードを単体で鍛造する場合に比べて、材料歩留りを高めることができる。
【0011】
本発明では、その後に鍛造されたタービンブレードに対し、所望硬さを発現するための熱処理を行う。
通常はその熱処理として焼入れ、焼戻し処理を行う。
この熱処理に際して、本発明では複数のタービンブレードを上記の一体の連結状態で行う。
この場合、複数一体の連結状態で熱処理を行うために、熱処理工程の効率を高めることができる。また図1に示す如く2つの翼部の捩れを打ち消しあう方向に連結すれば、熱処理での変形(曲り、捩れ)発生を抑制できる効果がある。
【0012】
本発明では、上記の熱処理工程の後において、タービンブレードを所望の最終形状、寸法とするための機械加工(切削加工)を行う。
その際、本発明では複数のタービンブレードを一体の連結状態を保持したまま機械加工を行う。
連結状態の複数のタービンブレードを、先ず個々のタービンブレードに分離しておいて、それぞれのタービンブレードを個別に機械加工するといったことも可能であるが、この場合、機械加工の工数が多くなり、また所要時間も長くなってしまう。
しかるに本発明に従って複数のタービンブレードを連結状態で機械加工するようにすれば、機械加工の工数、手間を低減でき、また所要時間も短縮化することができる。
【0013】
例えば2つのタービンブレードを単体状態で個々に機械加工する場合、先ず1つのタービンブレードについて機械加工のための段取りをした上で機械加工を行い、その後に加工後のものを機械加工装置から取り外し、その後また別のタービンブレードについて機械加工のための段取り作業及び機械加工を行い、更にその後に取外しを行うこととなり、機械加工のための段取り及び取外しの回数が2回必要となる。
【0014】
これに対して、例えば2つのタービンブレードを連結状態で同時に機械加工するようにすれば、加工のための段取り,取外しの各工程を1回行うだけでよく、全体としての機械加工のための工数及び所要時間を短くすることができ、機械加工の効率を効果的に高めることができる。
以上のようにして一体の連結状態で機械加工された各タービンブレードは、その後に分離工程にて個々のタービンブレードに分離される。
【0015】
本発明では、上記鍛造工程において、各タービンブレードの互いに隣接した端と端との間に、それら各端を繋ぐ余肉部分としての繋ぎ部分を設け、その繋ぎ部分を介して各タービンブレードを長手方向に一体に連結状態に鍛造することができる(請求項2)。
【0016】
このようにタービンブレードとタービンブレードとの間に余肉部分としての繋ぎ部分を設けておけば、鍛造後において各タービンブレードを連結状態で機械加工する際に、その繋ぎ部分を機械加工装置のチャックで掴んだ状態で機械加工を行うことができ、そのことによって、連結状態で長くなったタービンブレードが加工中に振れを生じるのを効果的に防いで、精度高く機械加工を行うことが可能となる。
【0017】
本発明ではまた、上記の鍛造工程において、翼部に対して厚肉をなす厚肉部が、隣接する2つのタービンブレードの長手方向の両端に位置するように鍛造を行うことができる(請求項3)。
このようにすれば、鍛造後に複数のタービンブレードを一体に連結した状態のまま機械加工を行う際、2つのタービンブレードの長手方向の両端に位置する厚肉部を、機械加工装置のチャックにて把持することで、連結状態にある隣接した一対のタービンブレードを剛性高く強固に掴み、保持することができ、加工中のタービンブレードの振れを抑えて、それらタービンブレードを精度高く同時に機械加工することができる。
【0018】
特に回転側の動翼の場合、これを単体状態で機械加工する場合には、長手方向の一端側については厚肉部である翼根をチャックにて把持することができるものの、他端側については薄肉の翼部自体をチャックで把持して機械加工を行うこととなり、この場合、チャックによる翼部の把持した部分を後に切除することが必要となる。
【0019】
しかるに請求項3に従って、隣接する2つのタービンブレードを何れも動翼とし、厚肉部としての翼根が長手方向の両端に位置するように、長手方向の向きを逆向きとして鍛造を行うようにすれば、長手方向の両端に位置する2つの厚肉部としての翼根をチャックにて把持した状態で隣接する2つの動翼を機械加工することが可能となり、チャックによる薄肉の翼部自体に対する把持を不要化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の製造方法の適用対象の一例であるタービンブレードとしての動翼を単体状態と連結状態で示した図である。
【図2】本発明の実施形態の製造方法の工程説明図である。
【図3】図2の要部を実施形態に対する比較例とともに示した図である。
【図4】本発明の他の実施形態の要部を同実施形態に対する比較例とともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1(B)において、10,12は本実施形態の適用対象としてのタービンブレード、具体的にはここではガスタービン用の動翼で、それぞれ肉厚の薄い翼部14,16と、厚肉部としての翼根18,20を一体に有している。
ここで動翼10,12としては材質がJIS SUS410J1等が好適に用いられる。
この実施形態において、動翼10,12は段数の異なる異種類のものである。但しその段数の違いは1段のみで、大形の動翼10はn段の、小形の動翼12は(n+1)段のものである。
従って形状的には動翼10と12とは近似した形状のものである。
【0022】
これら動翼10,12は、厚肉部としての翼根18,20においてロータのディスクに固定され、ロータと一体に回転運動する。
尚、薄肉の翼部14,16はねじれ形状をなしており、図1(B)に示しているように長手方向に互いに逆向きに向き合った状態で、それら翼部14,16のねじれの方向は逆方向となる。
【0023】
図2は、これら動翼10,12を製造する本実施形態の製造方法の工程を示している。
同図において、22は材質がJIS SUS410J1から成る(但し他の材質であっても良い)棒状の鍛造素材で、本実施形態ではこの鍛造素材22を用いて先ず工程(I)で鍛造が行われる。
この工程(I)では、工程(I-1)で荒地鍛造が行われ、この荒地鍛造によって鍛造素材22が両端に厚肉部を有する予備成形品24に成形される。
【0024】
次いで工程(I-2)で、予備成形品24に対して仕上鍛造が施され、動翼10と12とが長手方向に一体に連結した状態の連結体26が、バリ28付きの状態で仕上鍛造品として得られる。
その後、工程(I-3)でバリ抜きが行われて、連結体26からバリ28が分離除去される。
【0025】
図1(A)及び図2に示しているように、ここではタービンブレードとしての2つの動翼10,12が、長手方向に一体に連結した連結体26として、1つの金型にて同時に鍛造される。
ここで動翼10,12は、それぞれの厚肉部としての翼根18,20を、連結体26における長手方向の両端に位置させるように、長手方向の向きを逆向きとして一体に鍛造される。
【0026】
連結体26において、30は動翼10の端と12の端との間に設けた、動翼10及び12の各端を繋ぐ余肉部分としての繋ぎ部分で、動翼10,12はこの繋ぎ部分30を介して互いに連結状態で一体に鍛造される。
【0027】
本実施形態では、その後において工程(II)で動翼10,12に硬さを発現させるための熱処理が行われる。具体的にはここでは熱処理として焼入れ、焼戻し処理が行われる。
このとき、2つの動翼10,12が繋ぎ部分30を介して互いに連結した一体の連結体26として熱処理される。
この工程(II)では、併せて熱処理に伴う酸化スケールの除去処理、即ち脱スケール処理が行われる。具体的にはここではショットブラスト処理が行われる。
【0028】
そしてその後、工程(III)で動翼10,12に対して全面に亘り機械加工(切削加工)が行われる。
この機械加工においても、動翼10,12は互いに連結された状態、即ち連結体26の状態で機械加工される。
このとき、連結体26は長手方向両端に、翼部16に対して厚肉をなす翼根18,20が位置しているため、機械加工装置のチャックにてこれら剛性の高い翼根18,20を掴むことで、2つの動翼10,12即ち連結体26を、強固にしっかりと保持することができる。
【0029】
加えてこの連結体26は、長手方向の中間部に繋ぎ部分30を有しているため、機械加工装置のチャックにて、この繋ぎ部分30をも把持することができ、チャックによる連結体26の保持をより強固に行うことができる。
【0030】
而してこの実施形態では、機械加工装置のチャックにより連結体26の長手方向の両端部と中間部とを掴み、全体をしっかりと強固に保持した状態で機械加工することができるため、加工に際して動翼10,12の振れを効果的に防いで、高精度で機械加工を行うことができる。
尚この工程(III)では、併せて連結体26に対する研磨が行われる。
【0031】
この工程(III)の機械加工を行うに際し、動翼10,12は一体の連結体26を成しているため、それら2つの動翼10,12を同時に機械加工することができる。
従って2つの動翼10,12を機械加工するに際し、機械加工のための段取り及び加工後の取出しを1回で済ませることができる。
【0032】
以上のようにして機械加工及び研磨を終えたら、次に工程(IV)において繋ぎ部分30を連結体26から切除し、2つの動翼10,12を分離する(図1参照)。
ここにおいて単体のタービンブレードとしての動翼10,12が得られる。
【0033】
以上のような本実施形態では、1つの鍛造素材22から2つの動翼10,12を同時に鍛造成形することができ、鍛造加工の加工工数を少なくし得て、鍛造効率を高めることができる。
また鍛造に際してのバリ28の発生量を少なくし得る等によって、動翼10,12を単体で鍛造する場合に比べて、材料歩留りを高めることができる。
【0034】
また本実施形態では、動翼10,12を一体の連結状態で熱処理を行うことができ、熱処理工程の効率を高めることができる。
【0035】
本実施形態ではまた、動翼10,12を一体の連結状態を保持したまま機械加工を行う。
これにより機械加工の工数、手間を低減でき、また所要時間も短縮化することができる。
【0036】
以上は動翼についての例であるが、本発明は固定側である静翼の製造にも適用することが可能である。
図4中32,34は静翼で、ここでは静翼32と34とは段数の異なったものとされている。具体的にはここでは静翼32と34とは段数が1段異なっている。
36は静翼32の翼部を、38は静翼34の翼部をそれぞれ表している。
【0037】
静翼32は、図中右端側にタービンケーシングに固定される厚肉部としての翼根(図示省略)が一体に設けられており、また静翼34は、同様に翼部38の図中左端側にタービンケーシングに固定される厚肉の翼根(図示省略)を一体に有している。
【0038】
これら静翼32,34の場合、翼根とは反対側の端部に、即ちタービンケーシングへの固定状態で内周側の端部に、ロータの軸周りに環状をなす環状部材に固定されるシュラウド40,42を一体に有している。
44はこれら静翼32,34を長手方向の向きを逆向きとして一体に連結した連結体を表している。
即ちここでも静翼32,34は長手方向の向きを逆向きとして、その長手方向に一体に連結されて連結体44を構成している。
【0039】
また隣合うシュラウド40と42とが、上記実施形態と同様に繋ぎ部分50によって互いに繋がれている。
尚、2つの静翼32,34を連結体44として鍛造する際の工程及び手順、更にその後における熱処理,機械加工,2つの静翼32と34とに分離する工程は、基本的に図2に示す動翼の製造の場合と同様である。
【0040】
この実施形態に従って、2つの静翼32,34を連結体44として鍛造した場合においても、長手方向両端の翼根を機械加工装置のチャックにて把持して機械加工を行うことができる。
また併せて、中間部分の繋ぎ部分50をチャックにより把持して機械加工を行うことができる。
【0041】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上例では段数が1段だけ異なった異種類の2つのタービンブレードを連結状態に鍛造し、また機械加工して製造する場合の例であるが、本発明は段数が2段以上異なったもの同士を連結状態で鍛造し、また機械加工して製造するようになすことも可能である。
更に上記の例は2つのタービンブレードを連結状態とする場合の例であるが、特にサイズの小さいタービンブレードを製造する場合において、動翼,静翼何れについても3つ以上の複数を連結状態で鍛造し、またその連結状態で機械加工するようになすことも可能である。
その他本発明はガスタービン以外のタービン用のブレードの製造に適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0042】
10,12 動翼(タービンブレード)
14,16,36,38 翼部
30,50 繋ぎ部分
32,34 静翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複数のタービンブレードを長手方向に一体の連結状態で鍛造する鍛造工程と、
(b)該鍛造工程の後において、該複数のタービンブレードを前記連結状態で熱処理する熱処理工程と、
(c)該熱処理工程の後において、前記複数のタービンブレードを前記一体の連結状態で機械加工する機械加工工程と、
(d)該機械加工工程の後において、前記複数のタービンブレードに分離する分離工程と、
を経てタービンブレードを製造することを特徴とするタービンブレードの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記鍛造工程では、各タービンブレードの互いに隣接した端と端との間に、それら各端を繋ぐ余肉部分としての繋ぎ部分を設け、該繋ぎ部分を介して該タービンブレードを長手方向に一体に連結する状態に鍛造することを特徴とするタービンブレードの製造方法。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記鍛造工程では、翼部に対して厚肉をなす厚肉部が、隣接する2つのタービンブレードの長手方向の両端に位置するように鍛造を行うことを特徴とするタービンブレードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19294(P2013−19294A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152494(P2011−152494)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】