説明

タービン制御装置

【課題】ガバナ運転とロードリミッタ運転との切り替え時に切替開始前の負荷に対して変動幅が大きくなっても、切替動作異常によるロードドラッキングの発生を防止することが可能なタービン制御装置を提供する。
【解決手段】タービンの負荷制御運転を負荷制限器1によるロードリミッタ運転とガバナ2によるガバナ運転とに切り替え可能としているタービン制御装置において、非選択側を運転側に切り替える際に、負荷が切替開始前の値に対して所定の変動巾を超えている間は、負荷制限器1またはガバナ2に与えられる制御信号を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式タービン制御機構を備えたタービン発電機の制御装置に関し、ガバナと負荷制限器による運転モードの切替えが可能なタービン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等のタービン発電機を回転駆動するタービンの負荷制御方式には、負荷変動を調速装置の作用によって吸収する運転、即ち、負荷が変動した場合でも常に一定の回転速度を維持するべくタービン加減弁を開閉制御して蒸気流量を調整する「ガバナ運転 」と、タービンの回転速度には関係なく負荷制御を行う運転、即ち、周波数が変動しても、ある設定負荷以上にならないように負荷制限器によって加減弁開度を制限する「ロードリミッタ運転 」とがある(特許文献1参照)。
【0003】
ガバナ運転によれば、タービンの回転速度が常に定格回転速度に維持されるため、なんらかの原因で系統の負荷が変動すると、この変動分を吸収するようにタービン加減弁が調節されて蒸気の供給が増減され、出力が制御される。また、ロードリミッタ運転によれば、タービン加減弁の変動が抑えられるので(補助パイロット弁の開度が限定されるので)系統の周波数によって変動するガバナの影響がなくなり、発電機の出力が一定に抑えられる。
【特許文献4】特開平6−266442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したガバナ運転とロードリミッタ運転は、電力需要に応じて手動又は自動で切替えられるが、コールド起動後に行う切替時には、負荷変動が大きくなる場合があり、また、ガバナ運転とロードリミッタ運転との自動切替に用いられる補助パイロット弁によるタービン起動直後の検出ズレにより、負荷変動が大きくなる場合もある。このため、従来においては、切替開始前の負荷に対して変動幅が規定値を超えるような場合には、切替異常により自動切替動作を停止させるインターロックが生じてロードトラッキングが発生するようになっていた。
【0005】
このようなロードトラッキングが一旦発生すると、正常に制御を復帰させるためには、オペレータによる手動操作が必要となるため、オぺレータにとっては負担が大きいものである。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ガバナ運転とロードリミッタ運転との切り替え時に切替開始前の負荷に対して変動幅が大きくなっても、切替動作異常によるロードドラッキングの発生を防止することが可能なタービン制御装置を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明に係るタービン制御装置は、タービンの負荷制御運転を負荷制限器によるロードリミッタ運転とガバナによるガバナ運転とに切り替え可能としている構成において、非選択側を運転側に切り替える際に、負荷が切替開始前の値に対して所定の変動巾を超えている間は、前記負荷制限器または前記ガバナに与えられる制御信号を遮断する負荷制御手段を設けたことを特徴としている。
【0008】
したがって、ガバナ運転とロードリミッタ運転との切り替え中に負荷が切替開始前の値に対して所定の変動巾を超えるような場合が生じても、負荷制御手段により所定の変動巾を超える期間中は負荷制限器またはガバナに与えられる制御信号が遮断されるので、切替異常により自動切替動作が停止するインターロックを防ぐことが可能となる。
【0009】
ここで、負荷制限手段としては、非選択側を運転側に切り替える際に、切替直前の発電機出力を記憶する記憶手段と、運転モードの切替時に前記記憶手段で記憶された切替直前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差が所定範囲内であるか否かを判定する偏差判定手段と、前記偏差判定手段により切替直前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差が所定範囲を超えたと判定されている間は前記偏差の極性により前記負荷制限器または前記ガバナのいずれかに与えられる制御信号を遮断する遮断手段とを具備するようにしてもよい。
【0010】
このような構成によれば、記憶手段により切替直前の発電機出力が記憶され、この偏差判定手段により運転モードの切替時に前記記憶手段で記憶された切替直前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差が所定範囲内であるか否かが判定され、切替直前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差が所定範囲を超えたと判定されている間は偏差の極性に応じて遮断手段により負荷制限器またはガバナのいずれかに供給される制御信号が遮断されるので、切替異常により自動切替動作が停止するインターロックを防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明に係るタービン制御装置によれば、タービンの負荷制御運転を負荷制限器によるロードリミッタ運転とガバナによるガバナ運転とに切り替える際に、負荷が切替前の値に対して所定の変動巾を超えている間は負荷制限器またはガバナに供給する制御信号を遮断するようにしたので、ガバナ運転とロードリミッタ運転との切り替え中に負荷の変動が大きくなっても、切替異常により自動切替動作が停止するインターロックが生じることを防ぐことが可能となり、ロードドラッキングの発生を防止することが可能となる。このため、ロードドラッキングが発生した状態から正常に復帰させるために必要であったオペレータによる手動操作が不要となり、オぺレータの負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1において、タービン制御装置の系統図が示されている。同図の1は負荷制限器、2はガバナであり、負荷制限器1とガバナ2との出力は、低値優先機構3によりいずれか低い方が蒸気加減弁4に与えられ、この蒸気加減弁4によりボイラ5で発生した蒸気の供給量を調整し、タービン6及び発電機7の出力を調節するようにしている。負荷制限器1の出力と低値優先機構3の出力は補助パイロット弁8に与えられ、この補助パイロット弁8は、負荷制限器1と低値優先機構3の出力を機構的に比較してその差を電気信号に変換して出力するようになっている。補助パイロット弁8から出力された電気信号は、切替え器9に入力され、この信号の極性により切替え点を判定し、負荷制限器1のアクチュエータ11、又は、ガバナ2のアクチュエータ12に与えられる後述する制御信号を切替接点13a,13b,14a,14bによって切替えるようにしている。また、負荷制限器1によってタービンを制御するか、ガバナ2によってタービンを制御するかは選択スイッチ15a,15bにより選択されるようになっている。
【0014】
このような構成において、タービン制御装置は、減算器16により発電機出力指令(MWデマンド)と発電機出力(MW)との偏差を演算し、PI制御部17によりPI演算して位置指令信号を形成している。通常時において、この位置指令信号を切替器18を介して選択スイッチ15a,15bにより選択されたアクチュエータへ出力し,選択されていない側のアクチュエータへは切替器9が位置制御信号を出力するようにしている。この切替器9から出力される位置制御信号は、選択スイッチ15a,15bの切替え操作により選択された補助パイロット弁8の出力信号と、ガバナ2の実位置(65位置)と負荷制限器1の実位置(77位置)との差を求める減算器19の出力信号とのいずれかをベースにして切替器9に入力される余裕値設定を加算した信号であり,この余裕値程度高い位置で自動追従するようにしている。
【0015】
また、メモリ20、減算器21、PI制御部22を有して構成される負荷制限回路が切替器18に接続されている。このメモリ20は、切替時において切替接点24が閉成すると、発電機出力(MW)の切替開始時の値を記憶し、切替中はこの記憶した値を出力するようにしている。したがって、切替時においては、メモリ20により切替開始時の負荷である発電機出力(MW)がメモリされ、その値を目標負荷指令として減算器21によりこの目標負荷指令と現時点での発電機出力(MW)との偏差が演算され、この偏差をPI制御部22によりPI演算して切替時の位置指令信号を形成し、この位置指令信号を切替器18を介して出力するようにしている。尚、PI制御部17は、切替中はトラッキングモードとなり、PI出力信号は固定値となっている。よって、切替中においては、メモリ20に記憶された値を目標値としてこれに発電機出力を収束させる制御を行うようにしている。
【0016】
そして、切替器18から出力される位置指令信号は、減算器25において、ガバナ2の実位置(65位置)又は負荷制限器1の実位置(77位置)との偏差が演算され、この偏差をPI演算部26でPI演算し、制御信号として出力するようにしている。
【0017】
このような構成において、減算器21の出力は、偏差制御部27にも入力され、減算器21で演算された偏差が所定範囲内であるか否かが判定される。即ち、負荷が切替開始前の値に対して所定の変動巾を超えているか否か、より詳しくは、運転モードの切替時にメモリ20で記憶された切替直前の発電機出力と現時点での実際の発電機出力との偏差が所定範囲内であるか否かを判定し、負荷が切替開始前の値に対して所定の変動巾を超えている間、即ち、切替直前の発電機出力と現時点での実際の発電機出力との偏差が所定範囲を超えたと判定されている間は、切替接点13a,14aと負荷制限器1のアクチュエータ11との間、及び、切替接点13b,14bとガバナ2のアクチュエータ12との間に設けられた作動接点30,31のいずれかを前記切替前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差の極性により開成し、負荷制限器1またはガバナ2に与えられる制御信号を遮断するようにしている。
【0018】
より具体的には、切替前の発電機出力より実際の発電機出力が大きい場合はガバナまたは負荷制限器のいずれかに与えられる位置上昇信号を遮断し,切替前の発電機出力より実際の発電機出力が小さい場合はガバナまたは負荷制限器のいずれかに与えられる位置降下信号を遮断するようにしている。ガバナまたは負荷制限器のいずれの信号を遮断するかは、ガバナから負荷制限器への切替動作か負荷制限器からガバナへの切替動作かによって異なる。
【0019】
したがって、以上の構成において、切替え時には、切替直前の発電機出力(MW)と実発電機出力との偏差が零となるような位置指令信号が形成されると共に、位置指令信号と負荷制限器1またはガバナ2の実位置との偏差が零となるような制御信号が形成されるが、負荷が切替前の値(メモリ20に記憶された値)に対して所定の変動巾を超えている間は、偏差制御部27により作動接点30,31のいずれかが開成され、負荷制限器1またはガバナ2に供給される制御信号が遮断されるので、切替時の動作異常を生じことがなくなる。
【0020】
その後、負荷が切替前の値(メモリ20に記憶された値)に対して所定の変動巾以内となれば、偏差制御部27により作動接点30,31が閉成されるので、前述した制御信号が負荷制限器1のアクチュエータ11またはガバナ2のアクチュエータ12に出力されることとなる。
そして、このように動作しているうちに切替器9により切替接点13a,13b,14a,14bが切り替えられこととなる。
【0021】
よって、負荷が切替前の値に対して所定の変動巾を超えている間は負荷制限器1またはガバナ2へ供給される制御信号が遮断されるので、ガバナ運転とロードリミッタ運転との切り替え時に負荷の変動が大きくなっても、切替異常により図示しない機構により自動切替動作が停止するインターロックが生じることを防ぐことができ、ロードドラッキングの発生を防止することが可能となる。
このため、ロードドラッキングが発生した状態から正常に復帰させるために必要であったオペレータによる手動操作が不要となり、オぺレータの負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に係るタービン制御装置の系統図を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 負荷制限器
2 ガバナ
20 メモリ
21 減算器
22 PI制御部
27 偏差制御部
30,31 作動接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンの負荷制御運転を負荷制限器によるロードリミッタ運転とガバナによるガバナ運転とに切り替え可能としているタービン制御装置において、
非選択側を運転側に切り替える際に、負荷が切替開始前の値に対して所定の変動巾を超えている間は前記負荷制限器または前記ガバナに与えられる制御信号を遮断する負荷制御手段を設けたことを特徴とするタービン制御装置。
【請求項2】
前記負荷制限手段は、
非選択側を運転側に切り替える際に、切替直前の発電機出力を記憶する記憶手段と、
運転モードの切替時に前記記憶手段で記憶された切替直前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差が所定範囲内であるか否かを判定する偏差判定手段と、
前記偏差判定手段により切替直前の発電機出力と実際の発電機出力との偏差が所定範囲を超えたと判定されている間は前記偏差の極性により前記負荷制限器または前記ガバナのいすれかに与えられる制御信号を遮断する遮断手段と
を具備することを特徴とする請求項1記載のタービン制御装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−144601(P2009−144601A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322655(P2007−322655)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】