説明

ターボチャージャの軸受装置

【課題】コンプレッサハウジング側に配設された第1浮動ブッシュ軸受と、タービンハウジング側に配設された第2浮動ブッシュ軸受とにおいて、タービンロータの高回転時の振動安定性を向上させると共に、部品点数を減少させて加工および組立ての容易化を図ることを目的とする。
【解決手段】ターボチャージャ1の軸受ハウジング13と、該軸受ハウジング13内を貫通するロータ軸16と、軸受ハウジング13とロータ軸16との間に介装され、コンプレッサハウジング12側に配設され第1浮動ブッシュを備えた第1浮動ブッシュ軸受17と、該第1浮動ブッシュ軸受17と同形状でタービンハウジング11側に配設され第2浮動ブッシュ20を備えた第2浮動ブッシュ軸受18とを備え、該第1、第2浮動ブッシュの内側軸受幅Liを外側軸受幅Loより同一比率で小さく形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャなどの高速回転軸を有する回転機械に好適である浮動ブッシュ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
浮動ブッシュ軸受は、回転軸と軸受ハウジングとの隙間に浮動ブッシュを回転可能に介装させ、軸受ハウジングから供給される加圧された潤滑油を軸受ハウジング内周面と浮動ブッシュの外周面との間に供給すると共に、浮動ブッシュに設けた半径方向の給油路によって、浮動ブッシュ内周面と回転軸との隙間に供給する。
そして、これらの隙間に形成された潤滑油膜の減衰効果によって回転軸の振動を抑制しながら安定した支持をして、且つ焼付きを防止するように構成されている。
【0003】
図5に、ターボチャージャなどの高速回転機械の回転軸を回転可能に支持する浮動ブッシュ軸受の詳細図を示す。
図5において、ターボチャージャ0100は、一対の羽根車0102a及び0102bとこれらを一体的に連結するロータ軸0104からなる。浮動ブッシュ軸受0110は、軸受ハウジング0112と、該軸受ハウジング0112とロータ軸0104との間に介装されて、ロータ軸0104を回転可能に支持する浮動ブッシュ0114とから構成されている。
【0004】
軸受ハウジング0112及び浮動ブッシュ0114には、夫々油路0116及び0118が設けられている。そして、潤滑油は軸受ハウジング0112から油路0116及び0118を通って、軸受ハウジング0112の内周面と浮動ブッシュ0114の外周面の隙間、及び浮動ブッシュ0114の内周面とロータ軸0104との隙間に供給される。
浮動ブッシュ0114は回転可能に配設され、ロータ軸0104との摺動抵抗によりロータ軸0104より遅い速度で連れ回りする。
潤滑油がこれらの隙間に油膜を形成することで、該隙間の摺動面に発生する焼付き、損傷(磨耗)を防止している。
【0005】
また、特開2009−156333号公報(特許文献1)においては、コンプレッサ側浮動ブッシュ軸受の内側軸受幅Lcをタービン側浮動ブッシュ軸受の内側軸受幅Ltよりも小さく(Lc<Lt)することによって、コンプレッサ側浮動ブッシュ軸受が有する油膜によるバネ定数が、タービン側浮動ブッシュ軸受が有する油膜によるバネ定数より小さくなるため、軸受荷重の大きいタービン側浮動ブッシュ軸受に対するロータ軸の偏心率が大きくならず、タービン側浮動ブッシュ軸受とコンプレッサ側浮動ブッシュ軸受との間で釣合いが保たれ、高振動数域の自励振動における固有振動数が低くなり、騒音低減を図ったものである。
【0006】
更に、特開2007−46642号公報(特許文献2)においては、フルフロートベアリングの内周面及び外周面の少なくとも一方に螺旋溝が設けられて、フルフロートベアリングが回転すると内周面及び外周面の少なくとも一方に設けられた螺旋溝により、内周面及び外周面が流体(潤滑油)から受ける圧力の分布が軸方向に沿って変化する。この変化によってフルフロートベアリングが安定状態となりにくく、自励振動を抑制するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−156333号公報
【特許文献2】特開2007−46642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては、コンプレッサ側浮動ブッシュ軸受の内側軸受幅Lcをタービン側浮動ブッシュ軸受の内側軸受幅Ltよりも小さく(Lc<Lt)することにより、高振動数域の自励振動における固有振動数を低くして、騒音低減を図っているが、コンプレッサ側浮動ブッシュ軸受とタービン側浮動ブッシュ軸受との形状が異なるため、部品点数が多くなり、管理コストが高くなると共に、誤組立のリスクも高くなる不具合を有している。
更に、特許文献2においては、フルフロートベアリングの内周面及び外周面の少なくとも一方に螺旋溝が設けられている構造である。従って、溝、特に内周面に設ける溝の加工は、タービンロータのロータ軸が嵌入する部分の内径は小さいので加工が複雑で、加工工数が増加して、部品のコストが高くなる不具合がある。
【0009】
そこで、本発明はこのような不具合に鑑みなされたもので、コンプレッサハウジング側に配設された第1浮動ブッシュ軸受と、タービンハウジング側に配設された第2浮動ブッシュ軸受とを略同形状とするとともに、夫々の浮動ブッシュ軸受の外側軸受幅Loより内側軸受幅Liを第1浮動ブッシュ及び、第2浮動ブッシュ共に同一比率で小さくして、タービンロータの高回転時の振動安定性を向上させると共に、部品点数を減少させて加工および組立ての容易化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はかかる目的を達成するもので、内燃機関の燃焼室への給気を加圧するターボチャージャのタービンハウジングとコンプレッサハウジングとの間に介装された軸受ハウジングと、該軸受ハウジング内を貫通するタービンロータのロータ軸と、前記軸受ハウジングと前記ロータ軸との間に介装されると共に、外周面と内周面を連通する給油路を設け、前記軸受ハウジングからの潤滑油を前記外周面と前記内周面に供給される前記コンプレッサハウジング側に配設され第1浮動ブッシュを備えた第1浮動ブッシュ軸受と、該第1浮動ブッシュ軸受と同形状で前記タービンハウジング側に配設され第2浮動ブッシュを備えた第2浮動ブッシュ軸受と、を備え、
前記第1、第2浮動ブッシュ共に内側軸受幅Liは外側軸受幅Loより同一比率で小さく形成されたことを特徴とする。
【0011】
かかる発明において、第1及び第2浮動ブッシュ夫々の内側軸受幅Liを外側軸受幅Loより小さくすることにより、ロータ軸の高速回転時における夫々の浮動ブッシュ軸受の連れ回り量を低くでき、高速回転時の振動安定性を向上させ騒音低減効果を得る。
また、第1及び第2浮動ブッシュ夫々の内側軸受幅と外側軸受幅との比を同形状にしたので、第1及び第2浮動ブッシュに生じる潤滑油の粘性抵抗が同じになり、ロータ軸の支軸が安定する。
また、第1及び第2浮動ブッシュ夫々は同形状のため、部品点数を減少させて加工および組立を容易化し、誤組立のリスクを低減するとともに、加工品質の安定およびコスト低減を図ることができる。
更に、外側の軸受幅を内側より大きくすることにより浮動ブッシュ軸受とハウジングとのダンピング効果を維持することができる。
【0012】
また、本願発明において好ましくは、潤滑油路径φを含めた内周側の必要最小軸受幅をLxとし、前記外側軸受幅Loと内側軸受幅Liとの比率Li/Loの関係が、次の範囲を満たすように設定されるとよい。
Lx/Lo < Li/Lo <0.5 (1)
【0013】
このような構成にすることにより、ロータ軸の高速回転時における夫々の浮動ブッシュの連れ回り量をロータ軸の回転数に対し適正回転数に保ち、回転振動の安定性を向上させ騒音低減効果を得ることができる。
また、最小側の幅を連通孔φより小さくすると、円錐形状の傾斜面によって給油路の先端部が削られ、潤滑油が連通孔φからロータ軸の軸線方向へ直接流れるため、浮動ブッシュ軸受とロータ軸との潤滑油によるダンピング効果が半減する。
【0014】
また、本願発明において好ましくは、前記浮動ブッシュの外周面には低摩擦処理を設けるとよい。
【0015】
また、本願発明において好ましくは、前記低摩擦処理として、浮動ブッシュの軸受外周面に、DLC(Diamond Like Carbon)又は、二硫化モリブデン入りの固体潤滑材をコーティングするとよい。
【0016】
また、本願発明において好ましくは、前記低摩擦処理として浮動ブッシュの軸受外周面に、表面テクスチャ(ディンプルまたは微小な凹部)を形成するとよい。
【0017】
このような構成によると、浮動ブッシュ軸受の外周面に低摩擦処理を設けたことにより、浮動ブッシュの軸受外周面と軸受ハウジングとの摩擦抵抗を小さくして、ロータ軸の低回転域における浮動ブッシュの早期回転開始を行わせるようにして、ロータ軸の回転抵抗を減少させることができる。
【0018】
また、本願発明において好ましくは、前記低摩擦処理は浮動ブッシュ外周面に、前記給油孔に連通した溝を円周状に配設するとよい。
【0019】
潤滑油路から送油された潤滑油は端部溝を介して浮動ブッシュの下側に流れ、浮動ブッシュと軸受ハウジングとの間を潤滑油で満たすことにより、浮動ブッシュの回転起動時の摩擦抵抗を軽減するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1及び第2浮動ブッシュは夫々の外側軸受幅より内側軸受幅を小さくすることにより、ロータ軸の高速回転時における夫々の浮動ブッシュの連れ回り量をロータ軸の回転数に対し適正回転数に保ち、回転振動の安定性を向上させ騒音低減効果を得る。
また、ロータ軸は外側の軸受幅を内側より大きくすることにより浮動ブッシュ軸受とハウジングとのダンピング効果を維持することができる。
また、第1及び第2浮動ブッシュ夫々は同形状のため、部品点数を減少させて加工および組立を容易化し、誤組立のリスクを低減するとともに、加工品質の安定およびコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態にかかるターボチャージャの軸受装置の拡大断面図を示す。
【図2】実施形態にかかるタービンロータ軸及び浮動ブッシュの拡大断面図を示す。
【図3】実施形態にかかるブッシュの内外幅比に対する振動安定性を表わす減衰比の特性図を示す。
【図4A】は浮動ブッシュ外周部に設けた低摩擦処理の第1実施形態図を示す。
【図4B】は浮動ブッシュ外周部に設けた低摩擦処理の第2実施形態図を示す。
【図4C】(C1)は浮動ブッシュ外周部に設けた低摩擦処理の第3実施形態を示し、(C2)は(C1)の径方向の縦断面図を示す。
【図4D】(D1)は浮動ブッシュ外周部に設けた低摩擦処理の第4実施形態を示し、(D2)は(D1)の径方向の縦断面図を示す。
【図5】は従来技術の説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明を実施したターボチャージャの高速回転を回転可能に支持する浮動ブッシュ軸受の詳細図を示す。
図1において、ターボチャージャ1は、内燃機関(以後「エンジン」と称す)の排ガスによって駆動される排気タービン14と、該排気タービン14を覆うタービンハウジング11と、排気タービン14の駆動力によってエンジンへの給気を加圧するコンプレッサインペラ15と、該コンプレッサインペラ15を覆うコンプレッサハウジング12と、排気タービン14とコンプレッサインペラ15とを一体的に連結するロータ軸16と、タービンハウジング11とコンプレッサハウジング12と、の間に介装され該ロータ軸16を軸支する軸受ハウジング13と、ロータ軸16のスラスト荷重を受けるスラストベアリング16bと、コンプレッサインペラ15側からの締結部材(図示省略)による締付に対し該コンプレッサインペラ15の位置決めをするスリーブ16cとで構成されている。
【0023】
軸受ハウジング13には、該ロータ軸16のコンプレッサインペラ15側を支軸する第1浮動ブッシュ軸受17と、排気タービン14側を支軸する第2浮動ブッシュ軸受18と、が配設されている。
第1浮動ブッシュ軸受17は、軸受ハウジング13に形成された軸受部13dと、該軸受部13dに内嵌し、内部にロータ軸16が配設される第1浮動ブッシュ19とで構成されている。
第1浮動ブッシュ19は環状に形成され、外周面から内周面に貫通した給油路19aが配設されている。
また、第2浮動ブッシュ軸受18は、軸受ハウジング13に形成された軸受部13dと、該軸受部13dに内嵌し、内部にロータ軸16が配設される第2浮動ブッシュ20とで構成されている。
第2浮動ブッシュ20は環状に形成され、外周面から内周面に貫通した給油路20aが配設されている。
【0024】
浮動ブッシュ軸受17及び、18には軸受ハウジング13の連結口13aに連結された配管(図示省略)によって潤滑油が送油されている。
コンプレッサ側潤滑油路13cは第1浮動ブッシュ軸受17側に連結口13aから直線状に傾斜させた油路になっている。第1浮動ブッシュ軸受17側に送油された潤滑油は、第1浮動ブッシュ軸受17と、該第1浮動ブッシュ軸受17とスラストベアリング16bとの間にも送油されて、当該部の潤滑と冷却を行っている。
一方、タービン側潤滑油路13bは第2浮動ブッシュ軸受18側に連結口13aから直線状に傾斜させた油路になっており、第2浮動ブッシュ軸受18側に送油された潤滑油は、第2浮動ブッシュ軸受18と、ロータ軸16の排気タービン14側の拡径部16dに送油されて当該部の潤滑と冷却を行っている。
【0025】
そして、第1浮動ブッシュ軸受17に送油された潤滑油は、軸受部13dと第1浮動ブッシュ19の隙間を満たし、第1浮動ブッシュ19の外周側から内周側に貫通した給油路19aを通り、第1浮動ブッシュ19とロータ軸16の支軸部16aとの間に供給される。
また、第2浮動ブッシュ軸受18に送油された潤滑油は、軸受部13dと第2浮動ブッシュ20の隙間を満たし、第2浮動ブッシュ20の外周側から内周側に貫通した給油路20aを通り、第2浮動ブッシュ20とロータ軸16の支軸部16aとの間に供給される。
そして、浮動ブッシュ19及び、20とロータ軸16夫々を軸受ハウジング13に対し潤滑油の油膜にて浮動支持させた構成になっている。
尚、説明上混乱を避けるため、第1浮動ブッシュ軸受17(含む第1浮動ブッシュ19)と第2浮動ブッシュ軸受18(含む第2浮動ブッシュ20)は同形状になっているにも係わらず区別して説明した。
従って、以後は説明の重複を避けるため、「第1浮動ブッシュ軸受17」及び、「第1浮動ブッシュ19」を代表させて「浮動ブッシュ軸受17」、「浮動ブッシュ19」として説明する。
【0026】
図2に本発明の浮動ブッシュ軸受17を示し、図2に基づいて説明する。
浮動ブッシュ軸受17を構成する浮動ブッシュ19は軸受ハウジング13の軸受部13dと浮動ブッシュ19の外周面19bとの間に油膜を形成するための隙間αを有するように配置されている。
浮動ブッシュ19の内周面19cとロータ軸16の支軸部16aとの間に油膜を形成するための隙間βを有して遊嵌している。
これらの隙間α、βには、軸受ハウジング13内のコンプレッサ側潤滑油路13c(タービン側潤滑油路13bも同様)を通って潤滑油が圧送されてくる。
潤滑油は隙間αを満たしながら、浮動ブッシュ19の給油路19aを通って、浮動ブッシュ19の内周面19cと支軸部16aとの隙間βを満たし、ロータ軸16は潤滑油の油膜によって浮いた状態に支持される。
【0027】
浮動ブッシュ19は、該浮動ブッシュ19の内周面の内周軸受幅Liを外周面の外周面の外周軸受幅Loより小さくしてある。浮動ブッシュ19の内周面19cの内周軸受幅Liは、該浮動ブッシュ19の両端部を外側から内方に向け円錐状に切削してある。本実施形態の場合は、両端部の切削量を同じにして、給油路19aを中心にして両端対称になっている。
対称にすることにより浮動ブッシュ19の内周面の給油路19aを中心とした軸受幅部と、支軸部16aとの間隔の均一性が保たれ、支軸の安定性が向上する。
本実施形態の場合、給油路19aの径φ(潤滑油路径φ)を含めた内周側の必要最小軸受幅をLxとした。
そして、必要最小軸受幅Lxとは、内周面19cで支軸部16aを支軸するのに必要な油膜を形成するための最小の軸受幅である。
Lx(必要最小軸受幅)=必要最小接触幅+給油路19aの径φ は、排気タービン14、コンプレッサインペラ15及び、ロータ軸16の重量、回転バランス等が影響するので、ターボチャージャ1の仕様に沿って決定すればよい。
【0028】
図3は、浮動ブッシュ19の内外幅比Li/Loに対するロータ軸16の支軸安定性を表わす減衰比%を実験結果により算出したものである。
横軸に内外幅比Li/Lo、縦軸に油膜による減衰特性を表わすパラメータとして減衰比%を表わしてある。減衰比が高い方がロータ軸16の支持安定性が良いことを示している。
そして、浮動ブッシュ19は高速で連れ回りすると、ロータ軸16の支持が不安定になる傾向がわかっており、高速で連れ回りするのを防止するため、浮動ブッシュ19の内側軸受幅Liを外側軸受幅Loより小さくしていた。(図3のテストケース1)
しかし、ターボチャージャ1の耐久性、過給圧向上及び振動騒音低減等の性能向上のため、最適な内外幅比Li/Loの範囲が今回の実験結果から判明した。
【0029】
即ち、図3に示すように、浮動ブッシュ19の内外幅比Li/Loを
Lx/Lo < Li/Lo <0.5
但し、Lxは、前述のようにLx(必要最小軸受幅)=必要最小接触幅+給油路19aの径φとする。
この範囲の上限であるLi/Lo>0.5になると、ロータ軸16が高速回転したときに、浮動ブッシュ19の連れ回りが大きく(回転数)なり、浮動ブッシュ19の外周面19bが主に軸受摺動面となり、ロータ軸16の支持が不安定になる傾向が現れ、騒音、ロータ軸16の回転抵抗が大きくなる。
Li/Loが0.5の時、減衰比も従来の2%→3.5%に上昇しており、大きく改善される。
一方、下限側について、内周面19cの軸受幅Liは給油路19aの孔径φと油膜を形成するのに必要な最小軸受幅をLxとした。
【0030】
そして、本実施形態においては、浮動ブッシュ19をLx/Lo<Li/Lo<0.5に形成したので、ロータ軸16の高速回転域における浮動ブッシュ19の連れ回り量が適正化するようになる。
従って、ロータ軸16の高速回転時において、浮動ブッシュ19に与える連れ回り力を適正化し、連れ回り量(回転量)を小さく(適正化)することでロータ軸16による主な回転軸受摺動面が浮動ブッシュ19の内周面19cとロータ軸16との間の油膜になり、ロータ軸16の回転摺動抵抗、振動が少なくなると共に、ロータ軸16の回転振動の安定性を向上させることができる。
また、第1浮動ブッシュ軸受17と第2浮動ブッシュ軸受18を同一形状としたので、第1及び第2浮動ブッシュに生じる潤滑油の粘性抵抗が同じになり、ロータ軸16の支軸が安定すると共に、誤組立のリスクが低減することにより、品質が安定しコスト低減が可能となる。
更に、ターボチャージャ1の耐久性、過給圧向上及び振動騒音低減等の性能向上効果を有している。
【0031】
高速回転時のロータ軸16の支軸を安定させるに浮動ブッシュ19の外周軸受幅Loと、内周軸幅Liとの比をLx/Lo < Li/Lo <0.5 としたが、ターボチャージャの全回転域における性能向上を図るためには、低速回転時の過給圧向上を図る必要がある。ターボチャージャの低速回転時には、浮動ブッシュ19の連れ回り起動を早い時期に行わせることが有効であるため、ロータ軸16の回転抵抗を減少させて、ターボチャージャ1の立ち上り性能向上の必要がある。
【0032】
図4Aは低摩擦処理を施した第1実施形態を示し、ロータ軸16の低回転域における浮動ブッシュ19の連れ回り起動を早期に行わせるため、浮動ブッシュ19の外周部に低摩擦処理を設けた拡大断面図を示す。
浮動ブッシュ19の外周面には低摩擦処理であるDLC(Diamond Like Carbon)コーティング19dが施されている。
尚、使用されるDLCとしては、金属含有DLC(WC;炭化タングステンや、Si;珪素)、又は、水素含有DLCなどを使用すると良い。
DLCの形成方法は、化学気相蒸着法(CVD)が多く用いられるが、特に限定するものではない。
また、DLC皮膜は硬く脆いため、基材(浮動ブッシュ)との密着性をよくするために、基材(浮動ブッシュ)とDLC皮膜の間に下地材としてCr(クロム)、CrN(窒化クロム)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、炭化タングステン(WC)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、窒化鉄(FeN)、珪素(Si)及び、炭化シリコン(SiC)などを単層もしくは複数層組合せて用いるとよい。また基材自体を窒化して下地材として用いても良い。
【0033】
浮動ブッシュ19の外周面を低摩擦処理19d(例えばDLCコーティング)とすることにより、軸受部13dとの間に介在する油膜と外周面との摺動抵抗を小さくするものである。
従って、ロータ軸16の回転数が比較的低い時期(早期)から浮動ブッシュ19の連れ回り生起させて、ターボチャージャ1が低速回転域においても浮動ブッシュ19とロータ軸16との回転抵抗を小さくして、ターボチャージャ1の過給圧力の向上効果を得ることができる。
【0034】
図4Bは低摩擦処理の第2実施形態を示し、浮動ブッシュ27の外周面に低摩擦処理としてディンプル27aを設けたもので、ディンプル27aの凹部に潤滑油を保持させて、軸受部13dとの間に介在する油膜と外周面との摺動抵抗を小さくするものである。
ディンプル27aの形成方法は、例えば微粒子ショットにより形成することができるが、これに限定するものではない。
図4(B)では半球状のディンプルとしたが、三角錐等、ディンプル部分に潤滑油が保持されて、摩擦係数が低減できる形状であれば、特に規定するものではない。
【0035】
図4C(C1)は浮動ブッシュ30の低摩擦処理の第3実施形態を示し、図4C(C2)は(C1)の径方向の縦断面を示す。浮動ブッシュ30には、該浮動ブッシュ30の外周面30aの軸受幅略中央で、外周面30aから内周面30bへ貫通した給油孔30cに連通した中央溝30dが全周にわたり配設されている。
そして、図4C(C2)に示すとおり、潤滑油路13cから送油された潤滑油は中央溝30dを介して、浮動ブッシュ30の下側に流れ、浮動ブッシュ30と軸受部13dとの間を潤滑油で満たすことにより、浮動ブッシュ30の回転起動時の摩擦抵抗を軽減するものである。
【0036】
図4D(D1)は低摩擦処理の第4実施形態を示し、図4D(D2)は(D1)の径方向の縦断面を示す。浮動ブッシュ35には、該浮動ブッシュ35の外周面35aの軸受幅略中央で、外周面35aから内周面35bへ貫通した給油孔35cが配設されている。
外周面35aの給油孔35cを軸受幅方向に挟んで、全周にわたり端部溝35d、35dが2本形成されている。該2本の端部溝35d、35dには、該端部溝35d、35dと給油孔35cとを連通する横断溝35eが給油孔35c毎に配設されている。
そして、図4D(D2)に示すとおり、潤滑油路13cから送油された潤滑油は端部溝35d、35dを介して浮動ブッシュ35の下側に流れ(矢印)、浮動ブッシュ35と軸受部13dとの間を潤滑油で満たすことにより、浮動ブッシュ30の回転起動時の摩擦抵抗を軽減するものである。
【0037】
本願発明によると、浮動ブッシュ19(20)夫々の内側軸受幅を外側軸受幅より小さくすることにより、高速回転時における浮動ブッシュの連れ回り量を低くでき、回転振動の安定性を向上させ騒音低減効果を得る。
更に、浮動ブッシュ19(20)の外周部に低摩擦処理を施すことにより、ロータ軸16の低速回転時における摺動抵抗を改善できる。
また、浮動ブッシュ19(20)は内側軸受幅Liと外側軸受幅Loとの比を同形状にしたので潤滑油の粘性抵抗が同じになり、ロータ軸16の支軸が安定すると共に、浮動ブッシュ19(25)の誤組立が無くなり品質が安定し、コスト低減が可能となる。
更に、外側軸受幅Loと内側軸受幅Liとの比率Li/LoをLx/Lo<Li/Lo<0.5とすることにより、浮動ブッシュ19(20)のロータ軸16の回転数に対する連れ回り回転数が適正化されるので、ロータ軸の高速回転時における夫々の浮動ブッシュの連れ回り量を低くでき、回転振動の安定性を向上させ騒音低減効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
高速回転する回転軸の軸受として好適であり、簡素かつ低コストで浮動ブッシュ内周面への潤滑油供給を良好に保持でき、回転軸の安定支持による騒音、回転抵抗の減少をはかるターボチャージャ等の回転機械に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ターボチャージャ
11 タービンハウジング
12 コンプレッサハウジング
13 軸受ハウジング
13a 連結口
13b、13c 潤滑油路
13d 軸受部
14 排気タービン
15 コンプレッサインペラ
16 ロータ軸
16a 支軸部
17 第1浮動ブッシュ軸受(浮動ブッシュ軸受)
18 第2浮動ブッシュ軸受
19、27、30,35 第1浮動ブッシュ(浮動ブッシュ)
19a 潤滑油路
19b、27b、30c、35c 外周面
19c 内周面
19d DLCコーティング(低摩擦処理)
20 第2浮動ブッシュ
30d 中央溝(低摩擦処理)
Lo 外周軸受幅
Li 内周軸受幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室への給気を加圧するターボチャージャのタービンハウジングとコンプレッサハウジングとの間に介装された軸受ハウジングと、
該軸受ハウジング内を貫通するタービンロータのロータ軸と、
前記軸受ハウジングと前記ロータ軸との間に介装されると共に、外周面と内周面を連通する給油孔を設け、前記軸受ハウジングからの潤滑油を前記外周面と前記内周面に供給される前記コンプレッサハウジング側に配設され第1浮動ブッシュを備えた第1浮動ブッシュ軸受と、
該第1浮動ブッシュ軸受と同形状で前記タービンハウジング側に配設され第2浮動ブッシュを備えた第2浮動ブッシュ軸受と、を備え、
前記第1、第2浮動ブッシュの内側軸受幅Liは外側軸受幅Loより同一比率で小さく形成されたことを特徴とするターボチャージャの軸受装置。
【請求項2】
潤滑油路径φを含めた内周側の必要最小軸受幅をLxとし、前記外側軸受幅Loと内側軸受幅Liとの比率Li/Loの関係が、次の範囲を満たすように設定されたことを特徴とする請求項1記載のターボチャージャの軸受装置。
Lx/Lo < Li/Lo <0.5
【請求項3】
前記浮動ブッシュ軸受の外周面には低摩擦処理を施したことを特徴とする請求項1記載のターボチャージャの軸受装置。
【請求項4】
前記低摩擦処理は浮動ブッシュ外周面に、DLC(Diamond Like Carbon)又は、二硫化モリブデンをコーティングしてなることを特徴とする請求項3記載のターボチャージャの軸受装置。
【請求項5】
前記低摩擦処理は浮動ブッシュ外周面に、ディンプルを形成してなることを特徴とする請求項3記載のターボチャージャの軸受装置。
【請求項6】
前記低摩擦処理は前記浮動ブッシュ外周面に、前記給油孔に連通した溝を円周状に配設してなることを特徴とする請求項3記載のターボチャージャの軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−11331(P2013−11331A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145797(P2011−145797)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】