説明

ダイカスト用金型及びその製造方法

【課題】耐溶損性及び耐焼付き性と、耐ヒートチェック性とを兼ね備えたダイカスト用金型及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】金型基材2aと、金型基材2aの表面の少なくとも一部分に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなり、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であり、厚みが1〜30μmである第1層3aと、第1層3aの上に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる第2層4aと、第2層4aの上に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層5aとを備えたダイカスト用金型1a及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用金型及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐ヒートチェック性、耐溶損性、及び耐焼付き性を兼ね備えたダイカスト用金型及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト用金型は、一般に、熱間工具鋼(例えば、SKD61)により製造されている。ダイカスト用金型は、主にヒートチェック、溶損、及び焼付きの3つの形態で損傷を受ける。ヒートチェックとは、金型が溶融金属に接したときの加熱と、離型剤噴霧時の冷却とを繰り返し受けることにより発生する熱応力により、表面に亀裂が発生することをいう。金型表面に亀裂が発生すると、製品の肌荒れを引き起こす。また、溶損とは、金型を構成する元素(主としてFe)が溶湯と反応し、溶湯中に溶け出すことをいう。溶損は、金型損耗による製品形状の変化を引き起こす。さらに、焼付きとは、溶湯が金型表面に凝着することをいう。金型表面に鋳造品が凝着したまま型抜きを行うと、製品の変形や損傷を引き起こす。従って、ダイカスト金型の寿命を延長させるためには、ヒートチェック、溶損、及び焼付きを抑制することが重要となる。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、SKD61製の鋳抜きピンの表面に浸炭窒化層を形成し、さらにその上にTiN層を形成する鋳造用金型の表面処理方法が開示されている。
同文献には、母材との密着性に優れた浸炭窒化層の上に、溶湯との濡れ性が悪いTiN層を形成することによって、高温溶湯が高速で直撃しても容易にTiN層及び浸炭窒化層が剥離しない点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、SKD61材を窒化処理することによってCrNを主体とする窒化層を形成し、さらに水蒸気を含まない酸素ガスを用いて酸化処理することによって窒化層の上に酸化層を形成した耐アルミ浸食性材料が開示されている。
同文献には、CrNを主体とする窒化層は酸化層に対するアルミ溶湯の衝撃を緩和するために設けられる点、及び、窒化層の上に酸化層を形成することによって、耐アルミ浸食性が飛躍的に改善される点が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−33734号公報
【特許文献1】特開2005−28398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Al、Zn、Mg等をダイカストする場合において、これらの金属の溶湯との反応性の低いコーティングや濡れ性の低いコーティングを金型表面に形成すると、溶損や焼付きを抑制することができる。
しかしながら、これらのコーティングに用いられる炭化物、窒化物等は、一般に、金型材料より熱膨張係数が小さく、また非常に硬くて脆性的な性質を持つ。そのため、使用時に冷熱サイクルを受けるとコーティングと金型の界面に応力が発生し、被膜の剥離やヒートチェックの発生を招くという問題がある。コーティング層に剥離や亀裂が生ずると、その部分から溶湯が浸入し、溶損や焼き付きを起こす場合がある。
すなわち、コーティング層の形成は、耐溶損性及び耐焼付き性の向上には有効であるが、耐ヒートチェック性は悪化する傾向にあり、これらの特性の両立が課題となっていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐溶損性及び耐焼付き性と、耐ヒートチェック性とを兼ね備えたダイカスト用金型及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るダイカスト用金型は、
金型基材と、
前記金型基材の表面の少なくとも一部分に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなり、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であり、厚みが1〜30μmである第1層と、
前記第1層の上に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる第2層と、
前記第2層の上に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層と、
を備えていることを要旨とする。
本発明に係るダイカスト用金型において、前記第2層と前記第3層の間に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる第4層をさらに備えていても良い。また、前記第3層は、前記第4層の表面を酸化処理することにより得られるものが好ましい。
【0009】
本発明に係るダイカスト用金型の製造方法は、
金型基材の表面の少なくとも一部分に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなり、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であり、厚みが1〜30μmである第1層を形成する第1層形成工程と、
前記第1層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる第2層を形成する第2層形成工程と、
前記第2層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層を形成する第3層形成工程と、
を備えていることを要旨とする。
本発明に係るダイカスト用金型の製造方法において、
前記第2層と前記第3層の間に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる第4層を形成する第4層形成工程をさらに備えていても良い。また、第3層形成工程は、前記第4層の表面を酸化処理するものが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
IVa〜VIa族元素を含む金属又は合金は、炭化物、窒化物等に近い熱膨張係数と、炭化物、窒化物等よりも高い靱性を持つ。そのため、金型基材と炭化物、窒化物等からなる第2層との間に、IVa〜VIa族元素を含む金属又は合金からなる第1層を介在させると、第2層及び第3層の剥離やヒートチェックを抑制することができる。また、炭化物、窒化物等からなる第2層は、耐溶損性の向上に有効であり、酸化物からなる第3層は、Al等の溶湯との濡れ性が低いので、耐焼き付き性の向上に有効である。そのため、第1層〜第3層をこの順で形成することによって、耐溶損性及び耐焼付き性と、耐ヒートチェック性とを両立させることができる。
さらに、第2層と第3層との間に、IVa〜VIa族元素を含む金属又は合金からなる第4層を形成すると、より過酷な条件下で使用される場合であっても、耐溶損性及び耐焼付き性と、耐ヒートチェック性とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. ダイカスト用金型(1)]
初めに、本発明の第1の実施の形態に係るダイカスト用金型について説明する。図1に、本発明の第1の実施の形態に係るダイカスト金型の断面模式図を示す。図1において、本実施の形態に係るダイカスト用金型1aは、金型基材2aと、第1層3aと、第2層4aと、第3層5aとを備えている。
【0012】
[1.1. 金型基材]
本発明において金型基材2aの組成は、特に限定されるものではなく、Al、Zn、Mg等のダイカストに一般に用いられている各種の材料を用いることができる。
金型基材2aに用いられる材料としては、具体的には、SKD4、SKD5、SKD6、SKD7、SKD8、SKD61、SKD62等の熱間工具鋼などがある。
金型基材2aは、通常、焼入れ焼戻しを行い、硬さを調質した状態で使用される。金型基材2aは、焼入れ焼戻しのみを行ったものでも良く、あるいは、焼入れ焼戻し後に表面の窒化処理を行ったものでも良い。金型基材2aの表面を予め窒化処理すると、表面の熱膨張係数が低下するので、第1層3a〜第3層5aの剥離や亀裂の発生を抑制することができる。また、Al、Zn、Mg等をダイカストする場合において、これらの金属の溶湯と溶けにくくなるので、例えば、ピンホールができた場合でも溶損が起きにくくなる。窒化処理は、少なくとも第1層3a〜第3層5aが形成される表面に対して行われていれば良い。
【0013】
[1.2. 第1層]
第1層3aは、金型基材2aの表面の少なくとも一部分に形成される。第1層3aは、金型基材2aの全面に形成しても良いが、少なくとも溶損や焼付きの著しい部分に形成すれば良い。溶損や焼付きの著しい部分としては、金型のキャビティの表面、キャビティに連通する湯道の表面、キャビティに隣接する表面などがある。
【0014】
第1層3aは、IVa族元素(22Ti、40Zr、72Hf)、Va族元素(23V、41Nb、73Ta)、及びVIa族元素(24Cr、42Mo、74W)から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる。第1層3aは、IVa〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
第1層3aを構成する合金としては、具体的には、TiAl、TiAlSi、CrAlなどがある。
第1層3aは、単層でも良く、あるいは、複層でも良い。「複層」とは、組成の異なる2種以上の層の積層体をいう。第1層3aを複層とすると、金型側と表面側との位置に応じて、硬さを調節できるので、高い応力緩和効果が得られる。
【0015】
第1層3aの硬さが高くなりすぎると、金型に冷熱サイクルが加わったときに塑性変形による応力緩和が不十分となる。耐ヒートチェック性を向上させるためには、第1層3aは、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であるものが好ましい。
一般に、第1層3aの硬さが低くなるほど、高い応力緩和効果が得られる。しかしながら、第1層3aの上に形成される第2層4a及び第3層5aは靱性に乏しいので、第1層3aの硬さが低くなりすぎると、僅かな外力によって第1層3aが大きく変形し、第2層4a及び第3層5aの剥離や亀裂の発生を助長するおそれがある。従って、第1層3aのマイクロビッカース硬さは、400Hv以上が好ましい。第1層3aのマイクロビッカース硬さは、さらに好ましくは、600Hv以上である。
なお、第1層3aが複層からなる場合、第1層3a全体の硬さが上述の範囲であればよい。
【0016】
第1層3aの厚さが薄くなりすぎると、第1層3aによる応力緩和効果が不十分となる。耐ヒートチェック性を向上させるためには、第1層3aの厚さは、1μm以上が好ましい。
一方、第1層3aの厚さが厚くなりすぎると、外力が作用したときに生ずる第1層3aの変形量が大きくなり、第2層4a及び第3層5aの剥離や亀裂の発生を助長するおそれがある。従って、第1層3aの厚さは、30μm以下が好ましい。
なお、第1層3aが複層からなる場合、第1層3a全体の厚さが上述の範囲であればよい。
【0017】
[1.3. 第2層]
第2層4aは、第1層3aの上に形成される。
第2層4aは、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる。第2層4aは、IVa〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
第2層4aを構成する材料しては、具体的には、
(1) VC、Mo2C、WC、TiC、TaCなどの炭化物、
(2) TiN、ZrN、HfN、NbN、TaN、CrN、TiAlN、TiAlSiNなどの窒化物、
(3) TiCNなどの炭窒化物、
などがある。
第2層4aは、単層でも良く、あるいは、複層でも良い。第2層4aを複層とすると、金型側と表面側との位置に応じて、硬さを調節できるので、高い応力緩和効果が得られる。
【0018】
第2層4aの厚さは、目的に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。第2層4aは、主として耐溶損性の向上に有効であるが、第2層4aが薄くなりすぎると、十分な耐溶損性が得られない。従って、第2層4aの厚さは、1μm以上が好ましい。第2層4aの厚さは、さらに好ましくは、2μm以上である。
一方、第2層4aの厚さが厚くなりすぎると、第2層4aが剥離しやすくなる。従って、第2層4aの厚さは、10μm以下が好ましい。第2層4aの厚さは、さらに好ましくは8μm以下、さらに好ましくは6μm以下、さらに好ましくは4μm以下である。
なお、第2層4aが複層からなる場合、第2層4a全体の厚さが上述の範囲であればよい。
【0019】
[1.4. 第3層]
第3層5aは、第2層4aの上に形成される。
第3層5aは、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる。第3層5aは、IVa〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
第3層5aを構成する酸化物しては、具体的には、TiO2、Cr23、ZrO2、HfO2、V25、Nb25、Ta25、MoO3、WO3、SiO2、Al23などがある。
第3層5aは、単層でも良く、あるいは、複層でも良い。
【0020】
第3層5aは、主として耐焼付き性の向上に有効であるが、第3層5aが薄くなりすぎると、十分な耐焼付き性が得られない。一方、第3層5aの厚さが厚くなりすぎると、第3層5aが剥離しやすくなる。従って、第3層5aは、目的に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。
【0021】
[2. ダイカスト用金型(2)]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るダイカスト用金型について説明する。図2に、本発明の第2の実施の形態に係るダイカスト金型の断面模式図を示す。図2において、本実施の形態に係るダイカスト用金型1bは、金型基材2bと、第1層3bと、第2層4bと、第4層6bと、第3層5bとを備えている。これらの内、金型基材2b、第1層3b、及び第2層4bについては、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0022】
[2.1. 第4層]
第4層6bは、第2層4bと第3層5bの間に形成される。
第4層6bは、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる。第4層6bは、IVa〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
第4層6bを構成する合金としては、具体的には、TiAl、TiAlSi、CrAlなどがある。
第4層6bは、単層でも良く、あるいは、複層でも良い。
【0023】
第4層6bの厚さが薄くなりすぎると、第4層6bを酸化させた際に酸化物層形成が不十分となる。焼付き防止の効果を得るためには、第4層6bの厚さは、1μm以上が好ましい。
一方、第4層6bの厚さが厚くなりすぎると、外力が作用したときに生ずる第4層6bの変形量が大きくなり、第4層6b上の酸化被膜の剥離や亀裂の発生を助長し、焼付きが生ずる。従って、第4層6bの厚さは、30μm以下が好ましい。
なお、第4層6bが複層からなる場合、第4層6b全体の厚さが上述の範囲であればよい。
【0024】
[2.2. 第3層]
第3層5bは、第4層6bの上に形成される。第3層5bの形成方法としては、具体的には、
(1) 第4層6bの上に、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いて第3層5bを形成する第1の方法、
(2) 第4層6bを形成した後、第4層6bの表面のみを酸化処理する第2の方法、
などがある。特に、第2の方法は、緻密で第4層6bとの密着性に優れた第3層5bが得られるので、第3層5bの形成方法として、特に好適である。第3層5bに関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0025】
[3. ダイカスト用金型の製造方法(1)]
次に、本発明の第1の実施の形態に係るダイカスト用金型の製造方法について説明する。本発明の第1の実施の形態に係るダイカスト用金型の製造方法は、窒化処理工程と、第1層形成工程と、第2層形成工程と、第3層形成工程とを備えている。
【0026】
[3.1. 窒化処理工程]
窒化処理工程は、金型基材の少なくとも第1層が形成される表面を窒化処理する工程である。金型基材は、通常、焼入れ焼戻しによって硬さを調質したものを用いる。窒化処理方法は特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。窒化処理方法としては、具体的には、ガス窒化法、液体窒化法、イオン窒化法などがある。
なお、窒化処理は、省略しても良い。しかしながら、第1層を形成する前に金型基材表面の窒化処理を行うと、金型基材表面の硬さが増すと同時に、表面の熱膨張係数が低下するので、耐ヒートチェック性がさらに向上し、金型寿命をさらに延ばすことができるという利点がある。
【0027】
[3.2. 第1層形成工程]
第1層形成工程は、必要に応じて窒化処理を施した後、金型基材の表面の少なくとも一部分に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなり、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であり、厚みが1〜30μmである第1層を形成する工程である。第1層は、IVa族元素〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
【0028】
第1層の形成方法は特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。第1層の形成方法としては、具体的には、電解金属メッキ法、蒸着法、イオンプレーティング法などがある。第1層が複層からなる場合、各層は、同一の方法を用いて形成しても良く、あるいは、異なる方法を用いて形成しても良い。
第1層の厚さは、処理時間等により制御することができる。また、第1層の組成は、電解液組成、ターゲット組成等により制御することができる。さらに、第1層の硬さは、第1層の組成や形成方法の最適化等により制御することができる。
【0029】
[3.3. 第2層形成工程]
第2層形成工程は、第1層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる第2層を形成する工程である。第2層は、IVa族元素〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
【0030】
第2層の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。第2層の形成方法としては、具体的には、
(1) 第1層の上に、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いて第2層を直接形成する方法、
(2) 第1層を形成した後、周知の方法を用いて第1層の表面を炭化、窒化、又は炭窒化する方法、
などがある。第2層が複層からなる場合、各層は、同一の方法を用いて形成しても良く、あるいは、異なる方法を用いて形成しても良い。
第2層の厚さは、処理時間等により制御することができる。
【0031】
[3.4. 第3層形成工程]
第3層形成工程は、第2層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層を形成する工程である。第3層は、IVa族元素〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
【0032】
第3層の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。第3層の形成方法としては、具体的には、
(1) 第2層の上に、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いて第3層を形成する第1の方法、
(2) 第2層を形成した後、第2層の表面のみを酸化処理する第2の方法、
などがある。特に、第2の方法は、緻密で第2層との密着性に優れた第3層が得られるので、第3層の形成方法として、特に好適である。
第3層が複層からなる場合、各層は、同一の方法を用いて形成しても良く、あるいは、異なる方法を用いて形成しても良い。
第3層の厚さは、処理時間等により制御することができる。
【0033】
第2層の酸化処理方法としては、具体的には、
(1) 500〜600℃の酸化性雰囲気の炉内で試料を保持する方法、
(2) 500〜600℃のソルトバス中に試料を浸漬する方法、
などがある。
いずれの酸化処理方法を用いる場合であっても、加熱温度が低すぎると、酸化が不十分となり、耐焼付き性を改善できない。従って、加熱温度は、500℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、金型の硬度が低下するだけでなく、酸化層が劣化して耐焼付き性が低下する。従って、加熱温度は、600℃以下が好ましい。
【0034】
[4. ダイカスト用金型の製造方法(2)]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るダイカスト用金型の製造方法について説明する。本発明の第2の実施の形態に係るダイカスト用金型の製造方法は、窒化処理工程と、第1層形成工程と、第2層形成工程と、第4層形成工程と、第3層形成工程とを備えている。これらの内、窒化処理工程、第1層形成工程、及び第2層形成工程については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0035】
[4.1. 第4層形成工程]
第4層形成工程は、第2層と第3層の間に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる第4層を形成する工程である。第4層は、IVa族元素〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
第4層形成工程のその他の点については、第1層形成工程と同様であるので、説明を省略する。
【0036】
[4.2. 第3層形成工程]
第3層形成工程は、第4層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層を形成する工程である。第3層は、IVa族元素〜VIa族元素のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて1種又は2種以上の他の元素を含むものでも良い。他の元素としては、具体的には、Si、Alなどがある。
【0037】
第3層の形成方法としては、具体的には、
(1) 第4層の上に、イオンプレーティング法、スパッタリング法等を用いて第3層を形成する第1の方法、
(2) 第4層を形成した後、第4層の表面のみを酸化処理する第2の方法、
などがある。特に、第2の方法は、緻密で第4層との密着性に優れた第3層が得られるので、第3層の形成方法として、特に好適である。
第3層形成工程に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0038】
[5. 本発明に係るダイカスト用金型及びその製造方法の作用]
次に、本発明に係るダイカスト用金型及びその製造方法の作用について説明する。
IVa〜VIa族元素を含む金属又は合金は、炭化物、窒化物等に近い熱膨張係数と、炭化物、窒化物等よりも高い靱性を持つ。そのため、金型基材と炭化物、窒化物等からなる第2層との間に、IVa〜VIa族元素を含む金属又は合金からなる第1層を介在させると、第2層及び第3層の剥離やヒートチェックを抑制することができる。また、炭化物、窒化物等からなる第2層は、耐溶損性の向上に有効であり、酸化物からなる第3層は、Al等の溶湯との濡れ性が低いので、耐焼き付き性の向上に有効である。そのため、第1層〜第3層をこの順で形成することによって、耐溶損性及び耐焼付き性と、耐ヒートチェック性とを両立させることができる。
また、第2層と第3層との間に、IVa〜VIa族元素を含む金属又は合金からなる第4層を形成すると、より過酷な条件下で使用される場合であっても、耐溶損性及び耐焼付き性と、耐ヒートチェック性とを両立させることができる。
さらに、金型基材に予め窒化処理を施すと、金型表面の硬度が増すと同時に、表面の熱膨張係数を低下させることができる。そのため、耐ヒートチェック性がさらに向上し、金型の寿命を延ばすことが可能となる。
【実施例】
【0039】
(実施例1〜35、比較例1〜24)
[1. 試料の作製]
SKD61からなる円柱状(φ11×70mm)及びリング状(φ15.5×φ3.5穴×5.5mm)の試験片を用意し、焼入れ(1020℃に加熱後、油冷)及び焼戻し(620℃×1hr)を施すことにより、硬さを44HRCに調質した。その後、円柱状(φ10×60mm)及びリング状(φ15×φ3.5穴×5mm)に精加工を行った。一部の試験片に対して、さらにラジカル窒化処理を施した。ラジカル窒化条件は、20vol%NH3ガス−80vol%H2ガス中、500℃×3hrとした。
次に、各試料の表面に、イオンプレーティングにより、単層又は複層の第1層及び第2層、並びに、必要に応じて第4層を形成した。各層の厚さは、電界電圧及び処理時間を調節することにより制御した。また、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成する場合には、反応容器内に反応ガス(メタン、窒素など)を導入した。反応ガスの分圧は、1〜10Paとした。
さらに、第2層又は第4層を形成した後、大気炉又はソルトバス中において、第2層又は第4層の酸化処理を行った。
【0040】
[2. 試験方法]
[2.1. ビッカース硬さ]
試験片表面に第1層を形成した後、第1層のビッカース硬さを測定した。測定荷重は、0.098Nとした。
なお、実施例18、19のビッカース硬さは、複層をコーティングした後の硬さである。
【0041】
[2.2. 溶損率]
図3に示すアルミ溶損試験機を用いて、溶損率を測定した。図3において、アルミ溶損試験機10は、フロアFLから垂直に立設する支柱11と、支柱11にスライダ12を介して昇降自在に支持されたアーム13と、アーム13の先端付近から垂下し、モータMによって回転される回転軸14と、回転軸14の下端に固定された円板15とを備えている。円板15の下面には、円板15の中心から偏心した位置に試験片を下向きに固定し、試験片の根本をアルミ溶湯から保護するためのホルダ16が設けられている。円板15の下方には、アルミニウム合金溶湯Lが保持された保持炉17が設けられている。保持炉17の外周面にはヒータhがらせん状に巻き付けられ、保持炉17は、断熱槽18内に収められている。
表面処理を施したφ10試験片pをホルダー16に先端30mmを出した状態で取り付けた。この状態でスライダ12を下降させ、750℃に加熱した鋳造用アルミニウム合金(JIS ADC12)溶湯Lに試験片pの先端30mmを浸漬し、円板15を200rpmで5時間回転させた。
試験前後の各試験片pの重量を測定し、溶損率(試験前後の重量差割合)を算出した。
【0042】
[2.3. 焼付き性]
750℃に加熱した鋳造用アルミニウム合金(JIS ADC12)溶湯中に、表面処理を施したφ10試験片を30秒間浸漬した。試験片を溶湯から引き上げ、室温まで冷却した後、表面に付着したアルミニウム合金の凝固膜をウェスで可能な限り除去した。焼付き性は、凝固膜が残るか否かを目視で観察することにより評価した。
【0043】
[2.4. ヒートチェック試験]
図4(a)に示すヒートチェック試験機を用いて、ヒートチェック試験を行った。試験片には、図4(b)に示すリング状試験片を用いた。ヒートチェック試験機20の支持部21の細径部24を試験片Pの貫通孔に挿入し、上下からホルダ22、23で試験片Pを挟んで固定した。試験片Pの外周面を高周波コイルCにより700℃まで4secで加熱した後、放水パイプ(図示せず)により試験片Pに冷却水を吹き付け、試験片Pを約80℃まで冷却するサイクル試験を行った(図5参照)。これを1000回繰り返した。
試験終了後、試験片の外周を目視により観察し、皮膜の剥離の有無を評価した。剥離は、試験片外周全面に存在する長さ・幅のどちらか一方でも100μmを超える剥離があった場合は、「剥離有り」と判定した。
また、サイクル試験終了後、試験片を半分に横断した。これを樹脂に埋め込み、研磨して、外周全面に存在するクラック本数を顕微鏡で観察して数えた。
【0044】
[3. 結果]
表1〜表3に、試験結果を示す。なお、表1〜表3には、第1層、第2層及び第4層の組成、厚さ、酸化処理条件、並びに、基材窒化の有無も併せて示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
比較例1〜4、8、10〜13は、第1層が炭化物、窒化物、又は炭窒化物からなるために、いずれも被膜に剥離が生じ、クラック本数も多く、溶損率は6%を超えていた。比較例5〜7、9は、いずれも第1層がCrであるが、第1層のビッカース硬さが1000Hvを超えているため、第1層の厚さが薄すぎるため、あるいは、第1層の厚さが厚すぎるために、クラック本数が多く、溶損率も高い。
さらに、比較例14〜24は、酸化処理を行わなかったために、いずれも焼き付きが生じた。また、第1層が窒化物のみからなる比較例18〜21は、クラック本数が著しく多く、溶損率も高い。
これに対し、実施例1〜35は、いずれも第1層が所定の厚さ及び硬さを有する金属層からなるので、剥離がなく、クラック本数も著しく少ない。また、第1層の上に炭化物等からなる第2層が形成されているので、溶損率も少ない。さらに、酸化処理によって表面に第3層が形成されているので、耐焼付き性にも優れている。
特に、酸化処理温度が500〜600℃である実施例1〜33は、極めて良好な耐焼き付き性を示した。また、基材の窒化処理を行った実施例20〜23、28〜33は、溶損率が著しく小さい。さらに、第2層と第3層の間に第4層を形成した実施例24〜31は、クラック本数が著しく少ない。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るダイカスト用金型及びその製造方法は、Al、Mg、Zn等のダイカストに用いられるダイカスト用金型及びその製造方法として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るダイカスト用金型の断面模式図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るダイカスト用金型の断面模式図である。
【図3】アルミ溶損試験機の概略構成図である。
【図4】図4(a)は、ヒートチェック試験機の概略構成図であり、図4(b)は、ヒートチェック試験片の概略構成図である。
【図5】ヒートチェック試験の1サイクルを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1a、1b ダイカスト用金型
2a、2b 金型基材
3a、3b 第1層
4a、4b 第2層
5a、5b 第3層
6b 第4層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型基材と、
前記金型基材の表面の少なくとも一部分に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなり、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であり、厚みが1〜30μmである第1層と、
前記第1層の上に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる第2層と、
前記第2層の上に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層と、
を備えたダイカスト金型。
【請求項2】
前記金型基材は、少なくとも前記第1層が形成される表面が窒化処理されている請求項1に記載のダイカスト金型。
【請求項3】
前記第3層は、前記第2層の表面を酸化処理することにより得られるものからなる請求項1又は2に記載のダイカスト金型。
【請求項4】
前記第2層と前記第3層の間に形成され、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる第4層をさらに備え、
前記第3層は、前記第4層の表面を酸化処理することにより得られるものからなる
請求項1又は2に記載のダイカスト金型。
【請求項5】
金型基材の表面の少なくとも一部分に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなり、マイクロビッカース硬さが1000Hv以下であり、厚みが1〜30μmである第1層を形成する第1層形成工程と、
前記第1層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物の単層又は複層からなる第2層を形成する第2層形成工程と、
前記第2層の上に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む酸化物の単層又は複層からなる第3層を形成する第3層形成工程と、
を備えたダイカスト金型の製造方法。
【請求項6】
前記第3層形成工程は、前記第2層の表面を酸化処理するものである請求項5に記載のダイカスト金型の製造方法。
【請求項7】
前記第2層と前記第3層の間に、IVa族元素、Va族元素及びVIa族元素から選ばれるいずれか1以上の元素を含む金属若しくは合金の単層又は複層からなる第4層を形成する第4層形成工程をさらに備え、
前記第3層形成工程は、前記第4層の表面を酸化処理するものである
請求項5に記載のダイカスト金型の製造方法。
【請求項8】
前記第1層を形成する前に、前記金型基材の少なくとも前記第1層が形成される表面を窒化処理する窒化処理工程をさらに備えた請求項5から7までのいずれかに記載のダイカスト金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−101385(P2009−101385A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275777(P2007−275777)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(592199593)大同アミスター株式会社 (14)
【Fターム(参考)】