説明

ダイシング用粘着シート

【課題】 炭素−炭素二重結合を側鎖に導入した放射線反応性ポリマーをベースポリマーとして含有する再剥離型粘着剤からなる粘着剤層が基材フィルム上に設けられているダイシング用粘着シートであって、ウエハ等とシート界面へのエッチング液や切断水等の浸入を防止でき、またチッピングの問題のないダイシング用粘着シートを提供すること。
【解決手段】 官能基aを側鎖に有するポリマー(A)と、当該官能基aと反応性を有する官能基bおよび炭素−炭素二重結合を有する化合物(B)を反応させて得られる放射線反応性ポリマーを主成分として含有する再剥離型粘着剤からなる粘着剤層が基材フィルム上に設けられているダイシング用粘着シートにおいて、前記化合物(B)が2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートであり、前記放射線反応性ポリマーの分子量10万以下の成分の割合が10重量%以下であることを特徴とするダイシング用粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再剥離型粘着剤および当該粘着剤により形成された粘着剤層が設けられている再剥離型粘着シートに関する。再剥離型粘着シートは各種半導体の製造工程のうち半導体ウエハの裏面を研削する研削工程においてウエハの表面を保護するために用いる保護シートや、半導体ウエハを素子小片に切断・分割し、該素子小片をピックアップ方式で自動回収するダイシング工程においてウエハの裏面に貼付するダイシング用粘着シートなどとして有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウエハの大型化、ICカード用途などのウエハの薄型化が進んでおり、これを加工する際に使用する保護シートとしては軽剥離化のため、放射線硬化型粘着シートを用いる場合が増えてきている。
【0003】
一般に、放射線硬化型粘着シートの粘着剤層を形成する放射線硬化型粘着剤は、ベースポリマーと呼ばれる高分子化合物に、重量平均分子量2万以下で分子内に炭素−炭素二重結合を有する放射線重合性化合物(放射線反応性オリゴマー等)、放射線重合性開始剤、さらには架橋剤などの種々の添加剤を適宜に加えて調製される。そして、通常、放射線照射後に粘着力が大きく低下するという特性を付与するため、放射線重合性化合物としては、1分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有するいわゆる多官能化合物が多く用いられている。このような放射線硬化型粘着剤に放射線を照射すると、放射線重合性化合物が反応して三次元網状構造が速やかに形成され、粘着剤全体が急激に反応・硬化し、粘着力が低下するものとされている。しかしながら、この反応・硬化は粘着剤の大幅な体積収縮を伴い、これにより生じる収縮応力が、放射線照射により粘着剤自体が収縮し、この際の収縮力がウエハを湾曲させるため、製造工程内での搬送が困難になるという問題が発生している。同時に半導体素子を切断・分離後、これをピックアップする工程、いわゆるダイシング工程においても、大きな体積収縮を伴う粘着剤で構成された粘着シートを用いた場合には、シートを十分にエキスパンドできず、ダイシングストリートが拡張されないため、ピックアップに支障をきたすという問題があった。そこで、放射線硬化型粘着剤として、特定の炭素−炭素二重結合を側鎖に導入した放射線反応性ポリマーをベースポリマーとしたものを粘着剤層とする保護シートが提案されている(特許文献1)。かかる保護シートによれば前記問題を解消できる。
【0004】
前記問題とは別に、大型化ウエハや薄型化ウエハを加工する際には、エッチング処理を施す場合があり、エッチング液や研削水が保護シートとウエハの間に浸入し、ウエハへの汚染や研削時の割れなどの問題があることから、前記保護シートにはそのエッチング液からウエハを保護できることも要求される。また、半導体素子をチップに切断・分離後、さらにこれをピックアップする工程、いわゆるダイシング工程においても、切断水がチップと保護シートの間に浸入し、チッピングが多発するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−355678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、炭素−炭素二重結合を側鎖に導入した放射線反応性ポリマーをベースポリマーとして含有する再剥離型粘着剤であって、ウエハ等とシート界面へのエッチング液や切断水等の浸入を防止でき、またチッピングの問題のない再剥離型粘着剤を提供すること、さらには当該粘着剤からなる粘着剤層が設けられているダイシング用粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す再剥離型粘着剤およびダイシング用粘着シートにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、官能基aを側鎖に有するポリマー(A)と、当該官能基aと反応性を有する官能基bおよび炭素−炭素二重結合を有する化合物(B)を反応させて得られる放射線反応性ポリマーを主成分として含有する再剥離型粘着剤からなる粘着剤層が基材フィルム上に設けられているダイシング用粘着シートにおいて、前記化合物(B)が2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートであり、前記放射線反応性ポリマーの分子量10万以下の成分の割合が10重量%以下であることを特徴とするダイシング用粘着シート、に関する。
【0009】
上記本発明の再剥離型粘着剤は、放射線硬化型粘着剤において、未反応の放射線重合性化合物やベースポリマー中の低分子量成分が、エッチング液や切断水などの浸入によってウエハの保持性を著しく低下させる要因になっていることを見出し、かかる結果から炭素−炭素二重結合を側鎖に導入した放射線反応性ポリマーとして、分子量10万以下の成分の割合が10重量%以下のものを用いたものである。これによりウエハとシートの界面へのエッチング液や切断水などの浸入を防いで汚染を防止している。また、ウエハとシートの界面へ液浸入を防止することで研削時の割れやダイシング時のチッピングが抑えられている。また、本発明の再剥離型粘着剤を用いた粘着シートは、剥離後におけるウエハ表面へ粘着剤の残存がなくウエハの汚染を防止することもできる。さらには、本発明の粘着剤は、前記炭素−炭素二重結合を側鎖に導入した放射線反応性ポリマーをベースポリマーとしているため、体積収縮に伴う問題もない。
【0010】
前記放射線反応性ポリマーの分子量10万以下の成分の割合は少ないほど好ましく、8重量%以下、さらには5重量%以下であるのがより好ましい。なお、分子量10万以下の成分の割合は、GPC(ゲルパーミションクロマトグラフィー)法に測定して得られた積分分子曲線から、分子量10万以下の成分の全体に占める割合(面積)を算出することにより求めた。
【0011】
前記再剥離型粘着剤において、放射線反応性ポリマーに形成されている、炭素−炭素二重結合を有する側鎖鎖長が原子数で6個以上であることが好ましい。
【0012】
側鎖鎖長の原子数が6個以上の場合には、側鎖が長いため硬化反応に起因する収縮力が極端に軽減され、硬化後の粘着剤層の収縮力を30MPa以下にすることができる。6個未満の場合には、側鎖鎖長が短いため、放射線硬化反応後のポリマーが剛直となり、収縮力が大きくなる傾向がある。収縮力は特開2000−355678号公報に記載の方法により測定される。
【0013】
なお、ポリマー分子内の側鎖鎖長とは、当該側鎖において、水素原子以外の原子(炭素原子、酸素原子、窒素原子などの、他の原子又は原子団2個以上と結合し得る原子等)の結合数が最大となるような直鎖部の該原子の数をいう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ダイシング用粘着シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
再剥離型粘着剤の主成分である放射線反応性ポリマーは、官能基aを側鎖に有するポリマー(A)と、当該官能基aと反応性を有する官能基bおよび炭素−炭素二重結合を有する化合物(B)を反応させて得られる。ポリマー(A)の官能基aと化合物(B)の官能基bは、化合物(B)の及び炭素−炭素二重結合を維持したまま反応(縮合、付加反応等)できるものが好ましい。
【0016】
官能基a及び官能基bとしては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、アジリジン基などがあげられ、これらの中から互いに反応可能な組み合わせを適宜選択して使用できる。例えば、官能基aと官能基bの組み合わせには、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、ヒドロキシル基とイソシアネート基、カルボキシル基とヒドロキシル基などが含まれる。これらの組み合わせにおいて、左右の何れが官能基a(又は官能基b)であってもよい。官能基aと官能基bの組み合わせの中でも、特に反応追跡の容易さの点から、ヒドロキシル基とイソシアネート基の組み合わせが好適に用いられる。
【0017】
官能基aを側鎖に有するポリマー(A)は、たとえば、粘着性を発現可能なものであれば特に制限されないが、分子設計の容易さからアクリル系ポリマーが好ましい。
【0018】
前記アクリル系ポリマーは、例えば、例えばメチル基、エチル基、プルピル基、イソプルピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、へキシル基、ヘプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、ドデシル基等の炭素数1〜30、特に炭素数4〜18の直鎖または分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル{(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルをいい、本発明の(メタ)とは全て同様の意味である}の1種または2種以上を主成分とし、これに官能基aを有するモノマーを共重合することにより得られる。
【0019】
官能基aを有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルアクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどのヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマー等があげられる。これら官能基aを有するモノマーは、1種又は2種以上使用できる。これら官能基aを有するモノマーの使用量は、全モノマー成分の50重量%以下が好ましい。
【0020】
前記アクリル系ポリマーには、凝集力、耐熱性などの改質を目的として、必要に応じ、前記モノマーに加えてスチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどのリン酸基含有モノマー;アクリロニトリルなどのシアノ基含有モノマー;アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有モノマー;N−アクリロイルモルホリン;酢酸ビニルなどのビニルエステル類;スチレンなどの芳香族ビニル化合物;ビニルエチルエーテルなどのビニルエーテル類などが挙げられる。これらのモノマー成分は1種又は2種以上使用できる。酢酸ビニルなどのビニルエステル類をコモノマー成分とした場合には、モノマーを重合後、ケン化して、ポリマー側鎖にヒドロキシル基を導入することもできる。
【0021】
さらに、前記アクリル系ポリマーは、架橋処理を目的に、多官能性モノマーなども、必要に応じて共重合用モノマー成分として含むことができる。このような多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどがあげられる。これらの多官能性モノマーも1種又は2種以上用いることができる。多官能性モノマーの使用量は、粘着特性等の点から、全モノマー成分の30重量%以下が好ましい。
【0022】
前記官能基aを側鎖に有するアクリル系ポリマー(A)の調製は、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の何れの重合方法によっても行うことができる。
【0023】
前記ポリマー(A)の官能基aと反応性を有する官能基bおよび炭素−炭素二重結合を有する化合物(B)は、官能基aに反応する官能基bを有するものを適宜に選択して用いる。たとえば、官能基aがヒドロキシル基の場合には、化合物(B)としてメタクリロイルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等の分子内に(メタ)アクロイル基を有するイソシアネート化合物;m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等の分子内にビニル基含有芳香環を有するイソシアネート化合物などがあげられる。また官能基aがカルボキシル基の場合には、化合物(B)として(メタ)アクリル酸グリシジルなどの炭素−炭素二重結合を有するエポキシ化合物があげられる。
【0024】
放射線反応性ポリマー中の炭素−炭素二重結合の量は、粘着剤の保存性を考慮すると、JIS K−0070によるヨウ素価で30以下、さらにはヨウ素価0.5〜20とするのが好ましい。
【0025】
なお、化合物(B)の有する、炭素−炭素二重結合の個数は1個であることが望ましい。化合物(B)は炭素−炭素二重結合を2個以上有することも可能であるが、その場合放射線硬化反応により過度の三次元網状構造が形成され、硬化後ポリマー分子が剛直となり、収縮力が大きくなる傾向があり好ましくない。
【0026】
放射線反応性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは 15万〜150万、さらに好ましくは30万〜120万である。放射線反応性ポリマーの低分子量成分を低減させる方法は特に制限されないが、たとえば、得られた放射線反応性ポリマーを再沈殿法等により精製し低分子量成分を除去する方法等があげられる。これらの方法は、化合物(B)と反応させる前のポリマー(A)について行うこともできる。また金属の酸化・還元反応を利用したリビングラジカル重合、サマリウム錯体を開始剤とする配位重合等の開始、成長反応を制御しながら重合反応が進行するリビング重合法等を採用することにより調製したポリマー(A)を用いることにより低分子量成分を低減した放射線反応性ポリマーを得ることができる。
【0027】
再剥離型粘着剤は、X線、紫外線、電子線等の放射線を照射して硬化させるが、粘着剤層を紫外線等により硬化させる場合には光重合開始剤を含有させる。光重合開始剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α´−ジメチルアセトフェノン、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系化合物;べンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタールなどのケタール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1―プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソンなどのチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナートなどがあげられる。
【0028】
光重合開始剤の配合量は、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、反応性を考慮すると0.1重量部以上、さらには0.5重量部以上とするのが好ましい。また、多くなると粘着剤の保存性が低下する傾向があるため、15重量部以下、さらには5重量部以下とするのが好ましい。
【0029】
また、再剥離型粘着剤には、架橋剤を添加して粘着剤層の架橋密度を制御することができる。前記架橋剤としては、例えば多官能イソシアネート系化合物やエポキシ系化合物、メラミン系化合物や金属塩系化合物、金属キレート系化合物やアミノ樹脂系化合物や過酸化物などがあげられる。架橋剤を使用する場合、その使用量は特に制限されず、一般的には、ベースポリマーである放射線反応性ポリマー100重量部に対して、一般的には、上記ベースポリマー100重量部に対して、0.1〜5重量部程度配合するのが好ましい。
【0030】
また、再剥離型粘着剤には、本発明の目的を損なわない範囲内であれば、放射線反応性オリゴマー、モノマー等を含んでいてもよい。放射線反応性オリゴマーとしては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系など種々のオリゴマーを適宜選択して使用できる。これらの放射線反応性オリゴマーは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
さらに、再剥離型粘着剤には、必要により、前記成分のほかに、従来公知の各種の粘着付与剤、老化防止剤、可塑剤、加硫剤などの添加剤を用いてもよい。
【0032】
以下、本発明の再剥離型粘着シートを図1を参照しつつ詳細に説明する。図1に示すように、本発明の再剥離型粘着シートは、基材フィルム1上に、粘着剤層2が設けられている。また、必要に応じて、粘着剤層2上にはセパレータ3を有する。図1では、基材フィルム1の片面に粘着剤層2を有するが、これらは基材フィルム1の両面に形成することもできる。再剥離型粘着シートは基盤やウエハ等の被切断体の平面形状に対応した形状や連続シートなどの適宜な形態とすることができ、またシートを巻いてテープ状とすることもできる。
【0033】
基材フィルム1の材料は、特に制限されるものではないが、所定以上のエネルギー線を少なくとも一部透過するものを用いるのが好ましい。例えば、一般にウエハ研削用途には、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、セルロース系樹脂及びこれらの架橋体などのポリマーがあげられる。またウエハ切断・分離用途には、上記の各種フィルムに加えてポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンを用いた軟質ポリ塩化ビニルが多く用いられる。
【0034】
基材フィルム1の厚みは、適用用途での操作性や作業性を損なわない範囲で適宜選択できるが、通常500μm程度以下、好ましくは3〜300μm程度、さらに好ましくは5〜250μm程度である。基材フィルム1は、従来より公知の製膜方法により製膜できる。例えば、湿式キャスティング法、インフレーション押出し法、Tダイ押出し法などが利用できる。基材フィルム1は、無延伸で用いてもよく、必要に応じて一軸または二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。また、基材フィルム1の表面には、必要に応じてクロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的または物理的処理、下塗剤(例えば、後述する粘着物質)によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0035】
粘着剤層2の厚さは適宜選定してよいが、一般には1〜300μm程度以下、好ましくは3〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。粘着剤層の粘着力についても使用目的等に応じて適宜に決定してよいが、一般には半導体ウエハに対する密着維持性やウエハよりの剥離性などの点より、放射線照射前の粘着力(23℃、180゜ピール値、剥離速度300mm/min)が1N/25mmテープ幅以上、放射線照射後の粘着力が0.4N/25mmテープ幅以下が好ましい。
【0036】
本発明の再剥離型粘着シートの作製は、たとえば、基材フィルム1に、再剥離型粘着剤を塗布して粘着剤層2を形成する方法により行なうことができる。また、別途、粘着剤層2をセパレータ3に形成した後、これを基材フィルム1に貼り合せる方法等を採用することができる。
【0037】
再剥離型粘着シートの粘着剤層2には、保管時や流通時における汚染防止等の点から半導体ウエハなどの被切断物に接着するまでの間、前記セパレータ3により被覆保護することが好ましい。セパレータ3の構成材料としては、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム等があげられる。セパレータ3の表面には剥離性を高めるため、必要に応じてシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理等の離型処理が施されていても良い。セパレータ3の厚みは、通常10〜200μm、好ましくは25〜100μm程度である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
実施例1
(アクリル系共重合ポリマーの調製)
アクリル酸エチル0.59モル、アクリル酸ブチル0.59モル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.26モルおよび2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2ミリモルを25℃の状態でステンレス製の内容量が500mlの高圧容器に全体が200gとなるように配合して投入し、白斑羽根により撹拌しながら除所に高純度二酸化炭素を流し込み2MPaの圧力に一旦保持した。数秒後排出口から二酸化炭素を排出し高圧タンク中に残存する空気を二酸化炭素で置換した。上記操作の後、同様にして25℃の状態で高純度二酸化炭素を投入し一旦7MPaの圧力に保持した。その後、容器を加圧して内部の温度を60℃まで上昇させた。温度が60℃に到達した時点でもう一度高純度二酸化炭素を投入し内部の圧力を20MPaに調節した。この状態で約12時間保持して重合を行いポリマー溶液を得た。
【0040】
(放射線反応性ポリマーの調製)
続いて前記アクリル系共重合ポリマーに対し、0.21モルの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加反応させ、ポリマー分子内側鎖に炭素−炭素二重結合を導入した放射線反応性ポリマーを得た。ポリマー分子内の側鎖鎖長は原子数で13個であった。得られた放射線反応性ポリマーのGPC法により測定される重量平均分子量は80万、分子量が10万以下の成分は5.2重量%であった。
【0041】
(再剥離型粘着シートの作製)
前記放射線反応性ポリマー100重量部に対して、さらにポリイソシアネート系架橋剤1重量部およびアセトフェノン系光重合開始剤3重量部を混合して得られた再剥離型粘着剤を、離型処理されたフィルム上に塗布することで30μm厚さの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を厚さ100μmのポリオレフィン系フィルム上に塗布し再剥離型粘着シートを得た。
【0042】
実施例2
(アクリル系共重合ポリマーの調製)
温度計、撹拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた内容量が500mlの三つ口型反応器内に、アクリル酸エチル0.59モル、アクリル酸n−ブチル0.59、アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル0.26モル、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2ミリモルおよびトルエンを全体が200gとなるように配合して投入し、窒素ガスを約1時間導入しながら撹拌し、内部の空気を窒素で置換した。その後内部の温度を60℃にし、この状態で約6時間保持して重合を行いポリマー溶液を得た。
【0043】
(放射線反応性ポリマーの調製)
続いて前記アクリル系共重合ポリマーに対し、0.21モルの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加反応させ、ポリマー分子内側鎖に炭素−炭素二重結合を導入した放射線反応性ポリマーを得た。ポリマー分子内の側鎖鎖長は原子数で16個であった。得られた放射線反応性ポリマーをメタノール再沈殿法により精製し、低分子量成分を除去した。この放射線反応性ポリマーのGPC法により測定される重量平均分子量は60万、分子量が10万以下の成分は7.3重量%であった。なお、以降は実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0044】
実施例3
アクリル酸2−エチルへキシル0.59モル、N−アクリロイルモルホリン0.59モル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.26モルおよび2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2ミリモルを25℃の状態でステンレス製の内容量が500mlの高圧容器に全体が200gとなるように配合して投入し、白斑羽根により撹拌しながら除所に高純度二酸化炭素を流し込み2MPaの圧力に一旦保持した。数秒後排出口から二酸化炭素を排出し高圧タンク中に残存する空気を二酸化炭素で置換した。上記操作の後、同様にして25℃の状態で高純度二酸化炭素を投入し一旦7MPaの圧力に保持した。その後、容器を加圧して内部の温度を60℃まで上昇させた。温度が60℃に到達した時点でもう一度高純度二酸化炭素を投入し内部の圧力を20MPaに調節した。この状態で約12時間保持して重合を行いポリマー溶液を得た。
【0045】
以降は実施例1と同様に放射線反応性ポリマーを調製した。ポリマー分子内の側鎖鎖長は原子数で10個であった。得られた放射線反応性ポリマーのGPC法により測定される重量平均分子量は120万、分子量が10万以下の成分は4.1重量%であった。また、実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0046】
実施例4
(アクリル系共重合ポリマーの調製)
温度計、撹拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた内容量が500mlの三つ口型反応器内に、アクリル酸エチル0.59モル、アクリル酸n−ブチル0.59モルおよびアクリル酸0.26モル、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2ミリモルおよびトルエンを全体が200gとなるように配合して投入し、窒素ガスを約1時間導入しながら撹拌し、内部の空気を窒素で置換した。その後内部の温度を60℃にし、この状態で約6時間保持して重合を行いポリマー溶液を得た。
【0047】
(放射線反応性ポリマーの調製)
続いて前記アクリル系共重合ポリマーに対し、0.21モルのグリシジルメタクリレートを付加反応させ、ポリマー分子内側鎖に炭素−炭素二重結合を導入した放射線反応性ポリマーを得た。ポリマー分子内の側鎖鎖長は原子数で9個であった。得られた放射線反応性ポリマーをメタノール再沈殿法により精製し、低分子量成分を除去した。この放射線反応性ポリマーのGPC法により測定される重量平均分子量は75万、分子量が10万以下の成分は8.8重量%であった。
【0048】
なお、以降は実施例1において、ポリイソシアネート系架橋剤1重量部の代わりにエポキシ系架橋剤0.1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0049】
実施例5
実施例1の再剥離型粘着シートの作製において、放射線反応性ポリマーとして実施例3において得られた放射線反応性ポリマーを用い、粘着剤層の厚さを10μm、基材としてのポリオレフィン系フィルムの厚みを70μmとしたこと以外は実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0050】
比較例1
(アクリル系共重合ポリマーの調製)
温度計、撹拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた内容量が500mlの三つ口型反応器内に、アクリル酸エチル0.59モル、アクリル酸n−ブチル0.59モルおよびアクリル酸2−ヒドロキシエチル0.26モル、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2ミリモルおよび酢酸エチルを全体が200gとなるように配合して投入し、窒素ガスを約1時間導入しながら撹拌し、内部の空気を窒素で置換した。その後内部の温度を60℃にし、この状態で約9時間保持して重合を行いポリマー溶液を得た。
【0051】
以降は実施例1と同様に放射線反応性ポリマーを調製した。この放射線反応性ポリマーのGPC法により測定される重量平均分子量は50万、分子量が10万以下の成分は32.2重量%であった。また、実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0052】
比較例2
(アクリル系共重合ポリマーの調製)
温度計、撹拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた内容量が500mlの三つ口型反応器内に、アクリル酸エチル0.59モル、アクリル酸n−ブチル0.59モルおよびアクリル酸6−ヒドロキシエチル0.26モル、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2ミリモルおよび酢酸エチルを全体が200gとなるように配合して投入し、窒素ガスを約1時間導入しながら撹拌し、内部の空気を窒素で置換した。その後内部の温度を60℃にし、この状態で約6時間保持して重合を行い、さらに80℃に昇温し、この状態で約2時間保持してポリマー溶液を得た。
【0053】
以降は実施例1と同様に放射線反応性ポリマーを調製した。このポリマーのGPC法により測定される重量平均分子量は65万、分子量が10万以下の成分は18.8重量%であった。また、実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0054】
比較例3
実施例1の再剥離型粘着シートの作製において、放射線反応性ポリマーとして比較例2において得られた放射線反応性ポリマーを用い、粘着剤層の厚さを10μm、基材としてのポリオレフィン系フィルムの厚みを70μmとしたこと以外は実施例1と同様にして再剥離型粘着シートを得た。
【0055】
実施例および比較例で得られた再剥離型粘着シートについて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(エッチング液による水の浸入距離)
実施例1〜4および比較例1〜2で得られた再剥離型粘着シートをウエハ研削用粘着シートとして用い、エッチング処理・研削後のウエハの端部からの液浸入距離を光学顕微鏡(×200倍)により計測した。エッチング条件、ウエハ裏面の研削条件、紫外線照射条件等は以下の通りである。
【0057】
<エッチング条件>
エッチング液濃度:HF/HNO3 /CH3 COOH=1/3/1(重量比)
浸漬時間:3min
方法:ディッピング法
エッチング量:50μm
<ウエハ研削条件>
研削装置:ディスコ社製DFG−840
ウエハ:6 インチ径(600μmから200μmに裏面研削)
スクライブライン深さ:10μm
ウエハの貼りあわせ装置:DR−8500II(日東精機(株)製)
紫外線(UV)照射装置:NEL UM−110 (日東精機(株)製)
紫外線照射積算光量:500mJ/cm2
【0058】
(チッピングによる不良率)
実施例5および比較例3で得られた再剥離型粘着シートをダイシング用粘着シートとして用い、以下のダイシング条件でダイシング後、任意のウエハチップ1000個をピックアップ(剥離)し、ウエハチップ側面のチッピングを観察した。0.075mmの三角のチッピングの観察されたものを不良として、その割合を算出した。
【0059】
<ウエハダイシング条件>
ダイシング装置:ディスコ社製DFD651
ダイシング速度:100mm/sec
ダイシングブレード:ディスコ社製2050HEDD
ダイシングブレード回転数:40000rpm
ダイシングテープ切り込み深さ:30μm
ウエハチップサイズ:10mm×10mm
ウエハ径:6インチ
【0060】
(対ウエハ有機物汚染)
実施例及び比較例で作製した再剥離型粘着シート片をアルミ蒸着ウエハに貼付け、40℃中に1日間放置後、テープ片を剥離し、ウエハ上に転写した有機物をESCA(model 5400 アルバックファイ社製)を用いて測定した。全くテープを貼り付けていないウエハも同様に分析し、検出された炭素原子の増加量により有機物の転写量により汚染の有無を以下の基準で評価した。
【0061】
なし:転写量の増加が5%以下の場合
あり:転写量の増加が5%より大きい場合
【0062】
【表1】

【符号の説明】
【0063】
1:基材フィルム
2:粘着剤層
3:セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基aを側鎖に有するポリマー(A)と、当該官能基aと反応性を有する官能基bおよび炭素−炭素二重結合を有する化合物(B)を反応させて得られる放射線反応性ポリマーを主成分として含有する再剥離型粘着剤からなる粘着剤層が基材フィルム上に設けられているダイシング用粘着シートにおいて、前記化合物(B)が2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートであり、前記放射線反応性ポリマーの分子量10万以下の成分の割合が10重量%以下であることを特徴とするダイシング用粘着シート。
【請求項2】
前記放射線反応性ポリマーに形成されている、炭素−炭素二重結合を有する側鎖鎖長が原子数で6個以上であることを特徴とする請求項1記載のダイシング用粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197248(P2009−197248A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140395(P2009−140395)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【分割の表示】特願2001−201614(P2001−201614)の分割
【原出願日】平成13年7月3日(2001.7.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】