説明

ダイヤフラム型アクチュエータ

【課題】この発明は、ダイヤフラム型アクチュエータの動作速度を速くして、過渡状態等において高い応答性を実現することを目的とする。
【解決手段】ダイヤフラム型アクチュエータ10は、ハウジング12、ダイヤフラム14、駆動軸20及び戻しばね22と、弾性材料により袋状に形成されたバルーン部材24とを備える。バルーン部材24は、供給口26から制御圧が供給されることにより、潰れた状態から膨張してダイヤフラム14を第1の空間16に向けて押圧し、これによりアクチュエータ10が作動する。また、アクチュエータ10を停止させるときには、バルーン部材24を大気開放する。これにより、バルーン部材24は、自らの復元力によって内部の圧力を放出しつつ急速に収縮し、停止時の潰れた状態に戻る。従って、バルーン部材24の復元力を利用してアクチュエータ10の動作速度を速めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御圧を供給することにより撓み変形するダイヤフラムを備えたダイヤフラム型アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(実開平4−50777号公報)に開示されているように、内燃機関のバルブを駆動するダイヤフラム型アクチュエータが知られている。従来技術では、ハウジング内に撓み変形可能なダイヤフラムが設けられており、このダイヤフラムは、ハウジング内に2つの圧力室を画成している。そして、アクチュエータの作動時には、一方の圧力室に制御圧が供給されると、ダイヤフラムが他方の圧力室に向けて撓み変形する。これにより、ダイヤフラムに取付けられた駆動ロッドが変位し、バルブ等が駆動される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−50777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術では、アクチュエータを停止させる場合に、ハウジング内の圧力室に供給した制御圧を外部に開放することにより、ダイヤフラムを元の位置(停止位置)に復帰させる。しかしながら、制御圧の開放動作を開始してから、制御圧が十分に抜けるまでの間には、ある程度のタイムラグが存在する。このため、従来技術では、アクチュエータの停止時に応答遅れが生じ易くなり、これを用いた制御の応答性が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、動作速度が速く、過渡状態等において高い応答性を実現することが可能なダイヤフラム型アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、中空状に形成されたハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、前記ハウジング内に第1,第2の空間を画成すると共に該各空間に向けてそれぞれ撓み変形することが可能なダイヤフラムと、
一端側が前記ダイヤフラムに固定された状態で他端側が前記ハウジングから外部に突出して駆動対象に連結され、前記ダイヤフラムの撓み変形量に応じて変位する可動部材と、
前記ダイヤフラムを前記第2の空間に向けて付勢する付勢手段と、
弾性材料により自由状態では収縮した袋状に形成されて前記第2の空間内に設けられ、制御圧が供給されることにより膨張して前記ダイヤフラムを前記第1の空間に向けて押圧するバルーン部材と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、ダイヤフラム型アクチュエータを、内燃機関に搭載し、前記制御圧として内燃機関の排気圧を用いる構成としている。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、ダイヤフラム型アクチュエータを停止させる場合には、例えばバルーン部材の一部を大気開放するだけで、バルーン部材を自らの復元力(張力)によって急速に収縮させ、その内部圧力を瞬間的に放出させることができる。これにより、従来技術と比較してダイヤフラムを停止位置へと速やかに変位させることができ、アクチュエータを作動状態から停止状態に切換えるときの動作速度を速くすることができる。従って、過渡状態等においても高い応答性をもつダイヤフラム型アクチュエータを実現することができ、これを用いた制御の応答性も高めることができる。また、アクチュエータを作動させるための作動ガスがダイヤフラムに直接接触しないので、ダイヤフラムを作動ガスとの接触による劣化等から保護することができ、耐久性を高めることができる。
【0009】
第2の発明によれば、作動ガスがダイヤフラムに直接接触しないので、高温な排気ガスを作動ガスとして使用した場合でも、ダイヤフラムを熱劣化等から保護することができる。そして、作動ガスとして排気ガスを用いることにより、アクチュエータに作動ガスを供給するためのポンプや加圧タンク等を内燃機関に搭載する必要がないので、システム構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1によるダイヤフラム型アクチュエータを示す断面図である。
【図2】ダイヤフラム型アクチュエータが作動した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1によるダイヤフラム型アクチュエータを適用したエンジンのシステム構成を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1によるダイヤフラム型アクチュエータを示す断面図である。図1は、ダイヤフラム型アクチュエータを、その中心に配置された駆動軸20の軸線に沿って破断したものである。図1に示すように、ダイヤフラム型アクチュエータ(以下、場合によっては単にアクチュエータと称する)10は、ハウジング12、ダイヤフラム14、駆動軸20、戻しばね22、バルーン部材24等を備えている。ハウジング12は、金属材料等により中空状に形成され、ハウジング本体12aの開口部にキャップ12bを嵌合することにより組立てられている。
【0012】
ダイヤフラム14は、例えばゴム、樹脂等の可撓性を有する材料により膜状に形成され、ハウジング12内に配置されている。そして、ダイヤフラム14の周縁部は、ハウジング本体12aとキャップ12bとの嵌合部に全周にわたって挟持されている。これにより、ハウジング12内には、ハウジング本体12a側に位置する第1の空間16と、キャップ12b側に位置する第2の空間18とが画成されている。この状態で、ダイヤフラム14は、各空間16,18に向けてそれぞれ撓み変形することが可能となっている。
【0013】
駆動軸20は、ロッド状に形成された可動部材であり、その一端側はダイヤフラム14の中央部に固定されている。駆動軸20の他端側は、ハウジング本体12aから外部に突出しており、その先端側は駆動対象に連結される。また、戻しばね22は、例えばコイルスプリング等により構成され、第1の空間16内に圧縮状態で設けられている。そして、戻しばね22は、ダイヤフラム14を第2の空間18に向けて常時付勢しており、本実施の形態の付勢手段を構成している。
【0014】
バルーン部材24は、例えばゴム、樹脂等の弾性材料により気密性を有する袋状(風船状)に形成されており、第2の空間18内に設けられている。また、バルーン部材24には、その内部に制御圧を供給するための供給口26が設けられている。そして、バルーン部材24は、その内部に制御圧が供給されていない状態(自由状態)において、収縮した(潰れた)状態となっている。また、バルーン部材64は、その内部に制御圧(正圧)が供給されたときに、第2の空間18内で膨張し、ダイヤフラム14を第1の空間16に向けて押圧するように構成されている。
【0015】
次に、図1及び図2を参照して、ダイヤフラム型アクチュエータの作動について説明する。ここで、図1は、アクチュエータが停止した状態を示す断面図であり、図2は、アクチュエータが作動した状態を示す断面図である。まず、アクチュエータが停止した状態では、バルーン部材24に制御圧が供給されていないので、バルーン部材24は、図1に示すように、第2の空間18内で潰れた状態に保持されている。これにより、ダイヤフラム14は、戻しばね22のばね力によって駆動軸20と共に停止位置に保持されている。
【0016】
一方、アクチュエータ10を作動させるときには、供給口26からバルーン部材24の内部に制御圧が供給される。これにより、バルーン部材24は、図2に示す如く、第2の空間18を拡大させるように膨張し、ダイヤフラム14を第1の空間16に向けて押圧する。この結果、ダイヤフラム14が撓み変形し、その撓み変形量に応じて駆動軸20が矢示A方向に変位する。従って、アクチュエータ10は、駆動軸20によりバルブ等の駆動対象を駆動することができる。
【0017】
また、アクチュエータ10を停止させるときには、バルーン部材24に対する制御圧の供給を停止する。具体的には、例えば供給口26を大気開放する。この結果、バルーン部材64は、弾性体である自らの復元力(張力)によって内部の圧力を放出しつつ急速に収縮し、停止時の潰れた状態に戻る。これにより、ダイヤフラム14は、戻しばね22のばね力によって駆動軸20と共に図2中の矢示B方向に変位し、停止位置に復帰する。
【0018】
次に、図3を参照して、ダイヤフラム型アクチュエータの具体的な使用例について説明する。図3は、本発明の実施の形態1によるダイヤフラム型アクチュエータを適用したエンジンのシステム構成を示す全体構成図である。この図に示すように、内燃機関であるエンジン30の各気筒には、ピストン32により燃焼室34が画成されている。燃焼室34には、吸入空気を吸込む吸気通路36と、排気ガスを排出する排気通路38とが接続されており、吸気通路36には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ40等が設けられている。また、各気筒には、燃料噴射弁42、点火プラグ44、吸気バルブ46、排気バルブ48等が設けられている。
【0019】
また、エンジン30には、排気圧を利用して吸入空気を過給する過給機50が搭載されている。過給機50は、排気通路38に設けられたタービン50aと、吸気通路36に設けられたコンプレッサ50bとを備えている。そして、タービン50aは、排気圧を受けて回転することによりコンプレッサ50bを駆動し、これによりコンプレッサ50bは、吸入空気を圧縮して各気筒に供給する。また、排気通路38には、タービン50aをバイパスするバイパス通路52と、バイパス通路52の流路面積を調整するウェイストゲートバルブ(WGV)54とが設けられている。WGV54は、ダイヤフラム型アクチュエータ10により開閉駆動される駆動対象であり、アクチュエータ10の停止時に閉弁状態となる常閉(ノーマルクローズ)型の弁として構成されている。そして、WGV54は、リンク機構56を介してアクチュエータ10の駆動軸20に連結されている。
【0020】
また、アクチュエータ10(バルーン部材24)の供給口26は、制御圧供給通路58を介して排気通路38に接続されている。制御圧供給通路58には、電磁駆動式の三方弁等により構成された制御弁60が設けられている。制御弁60は、エンジン30の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)62により制御され、アクチュエータ10の供給口26を排気通路38に接続する作動位置と、供給口26を大気開放する停止位置の何れかに切換えられるものである。
【0021】
このように構成されたエンジン30では、過給圧センサ等により検出した吸気通路36内の圧力(過給圧)に基いて過給圧制御を実行する。過給圧制御では、過給圧が所定の制限値を超えたときに、ECU62により制御弁60が停止位置から作動位置に切換えられる。これにより、アクチュエータ10のバルーン部材24には、制御圧としてエンジン30の排気圧が供給されるので、アクチュエータ10が作動し、リンク機構56を介してWGV54が開弁される。この結果、排気ガスの一部がバイパス通路52を流れるようになり、タービン50aに作用する排気圧が低下するので、過給圧を制限値以下に抑えることができる。一方、WGV54を閉弁させるときには、ECU62により制御弁60を停止位置に切換え、アクチュエータ10の供給口26を大気開放する。これにより、アクチュエータ10は、前述したように速やかに停止状態となるので、これに伴ってWGV54が即座に閉弁される。
【0022】
以上詳述した通り、本実施の形態では、ダイヤフラム型アクチュエータ10にバルーン部材24を搭載する構成としたので、アクチュエータ10を作動状態から停止状態へと速やかに切換えることができる。即ち、アクチュエータ10を停止させる場合には、例えば供給口26を大気開放するだけで、バルーン部材64を自らの復元力(張力)によって急速に収縮させ、その内部圧力を瞬間的に放出させることができる。これにより、従来技術と比較してダイヤフラム14(駆動軸20)を停止位置へと速やかに変位させることができ、その動作速度を速くすることができる。従って、過給圧制御の実行中には、過渡運転時等においても、アクチュエータ10によりWGV54を即座に閉弁させることができ、制御の応答性を高めることができる。
【0023】
また、本実施の形態によれば、アクチュエータ10を作動させるための作動ガスをバルーン部材24の内部に供給することができ、この作動ガスの圧力によりバルーン部材24を介してダイヤフラム14を押圧することができる。即ち、排気ガス等の高温な作動ガスを用いた場合でも、作動ガスがダイヤフラム14に直接接触しないので、ダイヤフラム14を熱劣化等から保護することができ、耐久性を高めることができる。また、作動ガスとして排気ガスを用いることにより、排気通路38に制御圧供給通路58と制御弁60とを付設するだけで、アクチュエータ10の駆動系統を容易に実現することができる。これにより、アクチュエータ10に作動ガスを供給するためのポンプや加圧タンク等をエンジン30に搭載する必要がないので、システム構成を簡略化することができる。
【0024】
さらに、バルーン部材24が収容される第2の空間18を、気密性を有する圧力室として形成すれば、アクチュエータ10の信頼性をより高めることができる。即ち、仮にバルーン部材24に孔が開いた場合でも、アクチュエータ10の作動時には、バルーン部材24から漏れ出る圧力を第2の空間18内に充填し、この圧力によりダイヤフラム14を押圧することができる。従って、本実施の形態によれば、バルーン部材24とダイヤフラム14により形成された2重構造の圧力室内に作動ガスを供給することができ、圧力漏れ等に対して信頼性を向上させることができる。また、例えばアクチュエータ10の停止時にバルーン部材24の収縮速度(内部圧力の低下速度)が遅くなった場合には、バルーン部材24に孔等の損傷が生じたものと判定して故障検知を行うことができる。
【0025】
なお、前記実施の形態1では、ダイヤフラム型アクチュエータ10の制御圧として、エンジン30の排気圧を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、排気圧に限定されるものではなく、ダイヤフラム型アクチュエータに用いる制御圧としては、ポンプ等を含む任意の圧力源から供給される正圧を用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 ダイヤフラム型アクチュエータ
12 ハウジング
12a ハウジング本体
12b キャップ
14 ダイヤフラム
16,18 第1,第2の空間
20 駆動軸(可動部材)
22 戻しばね(付勢手段)
24 バルーン部材
26 供給口
30 エンジン(内燃機関)
36 吸気通路
38 排気通路
40 スロットルバルブ
50 過給機
50a タービン
50b コンプレッサ
52 バイパス通路
54 ウェイストゲートバルブ(駆動対象)
56 リンク機構
58 制御圧供給通路
60 制御弁
62 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状に形成されたハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、前記ハウジング内に第1,第2の空間を画成すると共に該各空間に向けてそれぞれ撓み変形することが可能なダイヤフラムと、
一端側が前記ダイヤフラムに固定された状態で他端側が前記ハウジングから外部に突出して駆動対象に連結され、前記ダイヤフラムの撓み変形量に応じて変位する可動部材と、
前記ダイヤフラムを前記第2の空間に向けて付勢する付勢手段と、
弾性材料により自由状態では収縮した袋状に形成されて前記第2の空間内に設けられ、制御圧が供給されることにより膨張して前記ダイヤフラムを前記第1の空間に向けて押圧するバルーン部材と、
を備えることを特徴とするダイヤフラム型アクチュエータ。
【請求項2】
内燃機関に搭載され、前記制御圧として内燃機関の排気圧を用いる構成とした請求項1に記載のダイヤフラム型アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−169298(P2011−169298A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36351(P2010−36351)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】