説明

ダクトダンパ

【課題】ダクト内におけるガスの流通を遮断し、ガスのリークを完全に止めることができるダクトダンパを提供する。
【解決手段】このダクトダンパ10は、ガスが流通する開口21を備えた弁座部20と、開口21を開閉する弁体部30と、弁体部30を駆動する駆動部40とを備えている。弁座部20は、開口21の周りを囲んで形成された水槽22を備え、弁体部30は、水槽22内の全周に渡って挿入されるシール板32を備えている。水槽22は、用水の供給口、排出口及び溢流口を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダクト内におけるガスの流通を遮断するためのダクトダンパに関し、特に、大量のガスを処理する排ガス処理装置等において、密閉時にガスのリークを完全に止めることができるダクトダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中に含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物等を除去するために、炭素質吸着材が充填された吸着塔を用いる乾式排ガス処理装置が用いられている。一般に、排ガス処理装置は、排ガス発生源設備と煙突との間に、バイパスダクトを含めて
設けられることが多い。また、排ガス処理装置は、既設の発生源設備に後から追加して建設されることが多く、設置スペースに大きな制約を受けることが少なくない。
【0003】
例えば図5に示すように、既設の設備は、発生源設備50から発生される排ガスをMBL(主ブロワ)52で吸引して、ダクト51を経由して煙突53に送るものである。排ガス処理装置60は、ダクト51の一部を改造すると共に、追加して建設される。そして、排ガス処理装置60には、吸着塔61、BUF(昇圧ファン)62及び3つのダンパ54、55、56等が含まれる。
【0004】
通常運転時には、入口ダンパ54及び出口ダンパ55を開とし、バイパスダンパ56を閉とする。そして、発生源設備50からの排ガスを排ガス処理装置60で処理し、クリーンとなった排ガスを煙突53から排出する。このとき、バイパスダンパ56が密閉されないと、リークした排ガスのために、有害物質の除去率が低下することになる。特に、高い除去率が要求される場合には、バイパスダンパ56のリークを減らすことが重要となる。
【0005】
排ガス処理装置60にトラブルが生じた場合等には、入口ダンパ54及び出口ダンパ55を閉とし、バイパスダンパ56を開として、吸着塔61に排ガスが流れないようにする。しかしながら、入口ダンパ54及び出口ダンパ55の気密性を維持することは非常に困難である。このために、リークにより漏れ込んでくるガス中の酸素によって吸着塔61内に充填された炭素質吸着材がホットスポットを起こす確率が高くなる。そして、実際にホットスポットを起こすことが少なくない。
【0006】
ホットスポットは、吸着塔61の充填層に通常の流量でガスが流れているときは発生しない。流れているガスによって吸着材の熱が奪われるために、吸着材の温度がガスの温度よりも著しく上昇することはないからである。これに対して、リーク等による僅かなガスが充填層に流れているときは、これによって吸着材が酸化し、周囲への放熱量が小さいために蓄熱されて、部分的に著しく高温になってホットスポットが発生する。
【0007】
ダクトダンパとしては、ルーバーダンパ、バタフライダンパ、ギロチンダンパ等がある。例えば、特許文献1にはギロチンダンパに関する発明が記載されている。図6に示すように、このダクトダンパ70は、ゲート71の周縁をシート72によりスライド可能に挟む構造としている。そして、ゲート71の先端を挟むシート72の部分に、異物を排出する異物排出口73が設けられ、ゲート71が常にシート72に完全に挿入されるようになっている。
【0008】
しかしながら、これらのダクトダンパは、大口径になると加工上の精度不良、熱による変形、スケールの付着等により密閉することが困難であり、必ずリークを生ずる。そして、入口ダンパ54や出口ダンパ55にこのようなダクトダンパを使用した場合には、リークを補完するために窒素ガスの封入が必要となり、莫大な量の窒素ガスを使用することとなる。また、確実に密閉するために、ダクトのフランジ部に差し板を挿入することも行われているが、多くの人手と日数を要する大工事となる。
【0009】
ガス流を遮断する他の方法として、ダクトをU字型に曲げて水を貯める水封方式がある。特許文献2には、排ガスダクトの湾曲部に水封用水を貯留してガス流を遮断する水封装置に関する発明が記載されている。この装置は、高炉、コークス炉、転炉等から発生する可燃性ガスを再利用する際に使用されている。図7に示すように、この水封装置80は、オーバーフローした剰余水を貯水タンク82に貯留し、貯水タンク82から循環ポンプ83で湾曲部81に剰余水を循環させることによって、使用する工業用水の低減を図っている。
【0010】
このような水封装置は、ガスのリークを完全に無くすることができる。しかしながら、この改良例においても、ダクトの内径が1.5mの場合、初期充填として12m3 の工業用水を必要としている。前述の排ガス処理装置60で使用するダンパ54、55、56等ではさらに大型となり、例えば、一辺の長さが5mの角ダクトで300m3 の工業用水を使用することが考えられる。
【0011】
大量の水を使用するために、給水設備や排水設備が必要となる。また、湾曲部のダクトは、特別な強度を必要とすることになる。さらに、最大の問題点は、水封装置は広い設置スペースを必要とするので、設置スペースに大きな制約を受ける排ガス処理装置においては、通常使用することができないことである。
【特許文献1】特開平10−267137号公報
【特許文献2】特開2007−263435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、排ガス処理装置等で使用するダクトダンパであって、密閉時にリークを生じないダクトダンパを提供することである。また、加工上の精度不良、熱による変形、スケールの付着等の影響を受け難く、密閉時に確実に作動して、リークを生じないダクトダンパを提供することである。
【0013】
また、多量の用水を使用することなく、比較的狭いスペースに設置することができるダクトダンパを提供することである。さらに、炭素質吸着材を用いる乾式排ガス処理装置であって、トラブル等により停止した際に、吸着塔内に充填されている炭素質吸着材が、ホットスポットを起こすことのない排ガス処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に記載するものである。
【0015】
〔1〕 ガスが流通する開口を備えた弁座部と、前記開口を開閉する弁体部と、前記弁体部を駆動することにより開口を開閉する駆動部とを備えるダクトダンパであって、前記弁座部が、前記開口の全周縁に沿って形成された水槽を備え、前記弁体部が、前記弁座部に対向する弁体部の表面の周縁に沿って突出して形成されたシール板を有してなり、ダクトダンパの閉時には前記シール板が前記弁座部の前記水槽内に挿入されることによりダクトダンパを水封状態にすることを特徴とするダクトダンパ。
【0016】
〔2〕 前記水槽が、用水の供給口、排出口及び溢流口を備えていることを特徴とする〔1〕に記載のダクトダンパ。
【0017】
〔3〕 前記シール板が、その先端に切欠を備えていることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のダクトダンパ。
【0018】
〔4〕 前記弁体部が、前記弁座部とヒンジで回動自在に連結される〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載のダクトダンパ。
【0019】
〔5〕 炭素質吸着材を用いる乾式排ガス処理装置において、排ガスの入口ダンパ、出口ダンパ又はバイパスダンパの何れかに、〔1〕乃至〔4〕の何れかに記載のダクトダンパを用いたことを特徴とする乾式排ガス処理装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダクトダンパは、前記の構成を有することにより、従来の水封方式と同様に、密閉時にリークを生じないダクトダンパとすることができる。そして、加工上の精度不良、熱による変形、スケール付着等の影響を受け難く、確実に作動させて密閉することができる。
【0021】
また、比較的狭いスペースに設置することが可能であり、使用する用水の量は、従来の水封方式の数十分の一以下に低減することが可能である。さらに、本発明の乾式排ガス処理装置は、排ガスの入口ダンパ又は出口ダンパに、本発明のダクトダンパを使用することにより、ホットスポット発生の問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1及び図2は、この発明によるダクトダンパ10を示し、ガスの出入り口としてダクトに接続されるフランジ部18a、18bを備えた弁箱19内に、ガスが流通する開口21を備えた弁座部20と、開口21を開閉する弁体部30と、弁体部30を駆動する駆動部40とを備えている。
【0023】
開口21を備えた弁座部20は、ほぼ水平となるように配置されており、ガスは開口21をほぼ垂直方向に流通するようになっている。開口21を開から閉の状態とする際には、ワイヤー42を緩めることにより、弁座部20の開口21の周縁に沿って形成された水槽22に上方から、弁体部30のシール板32が差し込まれ、これによってダクトダンパ10を完全な水封状態とすることができる。
【0024】
弁座部20は、開口21の全周縁に形成された水槽22を備えており、水槽22内に用水を貯留することが可能となっている。すなわち、ガスの流通を遮断するときには、水槽22内に用水を貯留した弁座部20と弁体部30とにより、水封装置を形成するようになっている。
【0025】
水槽22の内周壁23は、下方に延長されてフランジ部18bのネック部分を形成している。内周壁23と外周壁24との間隔は、弁体部30の開閉に支障のない範囲で接近させることができる。内周壁23及び外周壁24の高さは、ほぼ同じとすることが好ましく、密閉時における水封に必要な差圧、弁体31のシール板32の高さ等を考慮して決定する。
【0026】
弁体部30は、開口21の全体を覆うことができる形状と大きさを備えた板状の弁体31と、前記弁体31が弁座部20と対向する弁体表面の周縁に沿って、弁体表面から垂直に突出して形成されたシール板32とからなる。弁体31は、
平板を適宜補強して形成することができる。シール板32は、その先端に切欠33を形成することが好ましい。切欠33を設けて、この切欠33で水路を形成することにより、水槽22内におけるシール板32内外への給水及び排水を円滑に行うことができる。
【0027】
図2に示すように、水槽22は、用水の供給口25、排水口26及び溢流口27を備えていることが好ましい。用水は、供給口25から水槽22内に導入される。一定量の用水が貯留されると、それ以上導入された用水は溢流口27から排出される。水槽22内に貯留された用水は、排水口26から完全に排出することができる。なお、図2において、溢流口27は外周壁24に設けられているが、内周壁23に設けることもできる。
【0028】
ガス流に伴う煤塵が水槽22内に堆積して、排水口26又は溢流口27を閉塞する可能性がある。この対策の一つとして、排水口26及び溢流口27から用水又はパージガスを水槽22内に供給できるようにしておくことが好ましい。パージガスとしては圧縮空気、窒素等のガスを利用することができる。用水を供給することによって管路内を逆洗して、また、パージガスを供給することで水槽22内の煤塵をパージして、閉塞を解除することができる。
【0029】
弁体部30は、駆動部40によって駆動され、開口21を開閉するようになっている。図1は、弁体部30が開口21を閉じた状態(a)と開口21を開いた状態(b)とを示している。駆動部40は、弁体部30を適宜駆動することができれば、どのような形式のものでも良い。
【0030】
図1の例では、弁体部30が、弁座部20とヒンジ34で連結されて回動可能となっている。そして、駆動部40は、自動又は手動のウインチ41及びワイヤー42を備え、ワイヤー42の端部が弁体31の留具35に固定されている。
【0031】
弁体31の移動範囲を制限するために、適宜ストッパー43を設ける。また、ワイヤー42を適切にガイドして張架するために、適宜ローラー44を設ける。このように構成された駆動部40は、ウインチ41でワイヤー42を巻き上げたり、緩めたりすることにより、弁体部30が回動し、開口21を開閉することができる。
【0032】
ガスの流れは、開口21において、下向きであっても良いし、上向きであっても良い。このダクトダンパ10を開から閉とするときは、供給口25から水槽22内に給水し、溢流口27からオーバーフローした水が流出することを確認してから、ウインチ41を緩めてシール板32を水槽22の中に完全に挿入することで、作業を終了する。このとき、供給口25、排水口26又は溢流口27を介して、ダクトダンパ10の内外にガスが流通することのないように注意する。
【0033】
ダクトダンパ10が閉の状態において、弁体部30の上下でガスの流れを遮断することができる。水槽22において、シール板32の内側と外側との圧力差に相当する水頭が形成される。例えば、弁体部30の上側が下側よりも高い圧力である場合には、内周壁23とシール板32との間の水面が、シール板32と外周壁24との間の水面よりも高くなる。そして、ガスの圧力差が、水頭とバランスすることにより、ガスの流れが遮断されリークを起こすことがない。
【0034】
逆に、このダクトダンパ10を閉から開とするときは、水槽22内の水を排水口26から全て排出する。次に、ウインチ41を巻き上げて開口21を全開として、作業を終了する。この場合も、供給口25、排水口26又は溢流口27を介して、ダクトダンパ10の内外にガスが流通することのないように注意する。
【0035】
図1に示したダクトダンパ10は、排ガス処理装置における吸着塔の出口又は入口に設置する場合を想定したものである。そして、ガスの流れが水平から垂直へ(又は垂直から水平へ)変化する場合に使用するものであり、垂直ダクトの上部に設置されるものである。これに対して、図3に示すダクトダンパ11は、垂直ダクトの下部に設置されるものを示している。また、図4に示すダクトダンパ12は、ガスの流れが水平なダクトに使用するものを示している。
【0036】
本発明のダクトダンパは、従来の水封装置と同様に、ダクト内におけるガスの流通を遮断し、ガスのリークを完全に止めることができる。また、その構造において精密さを要求される部分がないので、加工上の精度不良、熱による変形、スケール付着などにより、密閉時にリークを起こしたり、開閉時の作動不良を起こしたりすることもない。また、ダクトの大きさと比較して若干大きくなる程度であり、狭い設置スペースに設置することが可能である。
【0037】
したがって、炭素質吸着材を用いる乾式排ガス処理装置において、図5で説明した入口ダンパ54、出口ダンパ55及びバイパスダンパ56として使用することができる。本発明のダクトダンパを、入口ダンパ54及び出口ダンパ55として使用した場合には、窒素ガスの封入を必要とすることなく、ホットスポットの発生を防止することができる。また、本発明のダクトダンパを、入口ダンパ54又は出口ダンパ55の何れか片方のみに使用した場合は、窒素ガスの封入を併用することが好ましいが、窒素ガスの使用量は従来よりも著しく低減することができる。
【0038】
また、バイパスダンパ56におけるリーク防止も重要であり、排ガス処理装置の運転中にバイパスダンパ56から排ガスの1%がリークすると、煙突53から排出される排ガスについて、有害物質の除去率が1%低下することになる。したがって、有害物質の除去率を維持するためにも、本発明のダクトダンパをバイパスダンパ56に使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明によるダクトダンパの一例を示し(A)は縦断面図、(B)はA−A矢視の横断面図である。
【図2】図1のダクトダンパの水槽部分を示す拡大説明図である。
【図3】本発明によるダクトダンパの他の例を示す縦断面図である。
【図4】本発明によるダクトダンパの、また他の例を示す縦断面図である。
【図5】排ガス処理装置におけるガスの流れを示す流れ図である。
【図6】従来のダクトダンパの一例を示す概略図で(A)は平面図、(B)はB−B矢視断面図、(C)はC−C矢視断面図である。
【図7】従来の水封装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0040】
10、11、12、70 ダクトダンパ
18 フランジ部
19 弁箱
20 弁座部
21 開口
22 水槽
23 内周壁
24 外周壁
25 供給口
26 排水口
27 溢流口
30 弁体部
31 弁体
32 シール板
33 切欠
34 ヒンジ
35 留具
40 駆動部
41 ウインチ
42 ワイヤー
43 ストッパー
44 ローラー
50 発生源設備
51 ダクト
52 MBL
53 煙突
54 入口ダンパ
55 出口ダンパ
56 バイパスダンパ
60 排ガス処理装置
61 吸着塔
62 BUF
71 ゲート
72 シート
73 異物排出口
80 水封装置
81 湾曲部
82 貯水タンク
83 循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが流通する開口を備えた弁座部と、前記開口を開閉する弁体部と、前記弁体部を駆動することにより開口を開閉する駆動部とを備えるダクトダンパであって、
前記弁座部が、前記開口の全周縁に沿って形成された水槽を備え、
前記弁体部が、前記弁座部に対向する弁体部の表面の周縁に沿って突出して形成されたシール板を有してなり、ダクトダンパの閉時には前記シール板が前記弁座部の前記水槽内に挿入されることによりダクトダンパを水封状態にすることを特徴とするダクトダンパ。
【請求項2】
前記水槽が、用水の供給口、排出口及び溢流口を備えていることを特徴とする請求項1に記載のダクトダンパ。
【請求項3】
前記シール板が、その先端に切欠を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のダクトダンパ。
【請求項4】
前記弁体部が、前記弁座部とヒンジで回動自在に連結される請求項1乃至3の何れかに記載のダクトダンパ。
【請求項5】
炭素質吸着材を用いる乾式排ガス処理装置において、排ガスの入口ダンパ、出口ダンパ又はバイパスダンパの何れかに、請求項1乃至4の何れかに記載のダクトダンパを用いたことを特徴とする乾式排ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−71381(P2010−71381A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239321(P2008−239321)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507052429)ジェイパワー・エンテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】