説明

ダッシュパネルの防振構造

【課題】センタダッシュ部を備えたダッシュパネルにおいて、部品点数が少なく構造簡素かつ低コストで、生産性の良好な防振構造を提供すること。
【解決手段】車両のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル1の幅方向中央部にエンジンを回避して車室側へ膨出するセンタダッシュ部11を備えたダッシュパネル1において、上記センタダッシュ部11の上面部12と、その直上位置で、車幅方向に延在する車体の剛性部材たるカウルトップ2の下面部23とを制振材4を介して接合せしめ、カウルトップ2によりセンタダッシュ部11を上方から押さえ込むように構成して、センタダッシュ部11の振動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のダッシュパネルの防振構造、特に幅方向中央部にエンジンを回避して車室側へ膨出するセンタダッシュ部を備えたダッシュパネルの防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルは、エンジン振動の影響を受けやすく、エンジン支持部および足まわり部材からの振動が伝わって振動し、車室のこもり音の発生原因となる。そこで従来では、ダッシュパネルのパネル面に、アスファルトシート等の制振材とこれを保持するパネル材を設けた積層構造として制振作用を高めたり、更にはダッシュパネルにマスダンパを取付けて振動を抑制することがなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
下記特許文献2に記載されたように、エンジンが車両前後方向に沿って縦置きに搭載されたセミボンネットタイプのワゴン車には、図3,図4に示すように、車室側へ張り出すエンジンEの後端を回避するように、ダッシュパネル1Bの幅方向中央部に車室側へ膨出するセンタダッシュ部11Bが設けられたものがある。センタダッシュ部11Bはその上縁が車体の剛性部材たる車幅方向のカウルトップ2の前縁と結合され、センタダッシュ部11Bはカウルトップ2の下方位置で、カウルトップ2よりも車室側へ突出するように形成されている。図3のSHはセンタダッシュ部11Bに形成されたサービスホール、図4の5は吸音材のインシュレータで、センタダッシュ部11Bのエンジンルーム側のパネル面に貼着されている。
【0004】
ところでセンタダッシュ部11BはエンジンEに近いうえ、上面がほぼ平板状のため振動しやすい。そこで従来のセンタダッシュ部11Bでは、その上面に帯状をなす複数のアスファルトシート6,6を互いに間隔をおいて設置するとともに、上から両アスファルトシート6,6を保持するように凹凸波形断面形状の保持プレート7がセンタダッシュ部11Bの上面に重合結合され、アスファルトシート6,6および保持プレート7によりセンタダッシュ部11Bのパネル面を補強して振動を抑制することが行われている。
【特許文献1】特開平10−45024号公報
【特許文献2】特開平9−39837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のセンタダッシュ部11Bの防振構造では、複数のアスファルトシート6,6やこれらを保持する別体のプレート7が設けられているので部品点数が多いうえ、アスファルトシート6を裁断する抜き型や、保持プレート7の成形金型も必要で生産コストが大きい。またセンタダッシュ部11Bの上面にアスファルトシート6,6や保持プレート7を組付ける作業手間がかかるといった問題があった。
【0006】
そこで本発明は、センタダッシュ部を備えたダッシュパネルにおいて、部品点数を削減した構造簡素かつ低コストにでき、組付け作業手間がかからない生産性の良好な防振構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車両のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルの幅方向中央部にエンジンを回避して車室側へ膨出するセンタダッシュ部を備えたダッシュパネルにおいて、上記センタダッシュ部の上面部と、その直上位置で、車幅方向に延在する車体の剛性部材たるカウルトップの下面とを制振材を介して接合せしめ、上記センタダッシュ部の振動を抑制する(請求項1)。センタダッシュ部のの振動を車体の剛性部材たるカウルトップとの間で制振材がセンタダッシュ部を押さえ付けるように作用して振動を減衰させ高い制振性能を発揮できる。従来構造のように別体のプレートを使用しないので、構造簡素で、作業手間もかからない。
【0008】
上記センタダッシュ部の上面部には、制振材を回避して上方へ突出する先細り形状の突出部を形成し、上記突出部を上記カウルトップの下面に溶接せしめる(請求項2)。センタダッシュ部の上面部を突出部により直接的にカウルトップの下面に結合したのでセンタダッシュ部の剛性が強化され高い防振性能を発揮する。
【0009】
上記制振材を、マスチックシーラで構成する(請求項3)。ペースト状のマスチックシーラを、センタダッシュ部の上面部またはカウルトップの下面に塗布すればよく作業手間がかからないうえ、アスファルトシートのようにこれを裁断する抜き型が不要で経済的である。マスチックシーラは適度な弾力を備え反発性が低いので制振材に適している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、センタダッシュ部を備えたダッシュパネルの防振構造を、部品点数が少なく、構造簡素かつ低コストにでき、組付け作業手間のかからない生産性の良好な構造にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
幅方向中央部に、エンジンを回避するように車室側へ突出するセンタダッシュ部を備えたセミボンネットタイプのワゴン車のダッシュパネルに本発明を適用した実施形態を説明する。図1は本実施形態のダッシュパネル1の中央部の縦断面図である。ダッシュパネル1には、運転席または助手席に対向する左右両側位置に、運転席または助手席に着座した乗員の足元空間を構成するように縦壁部10が形成してある。縦壁部10にはその下縁から屈曲して後方へ延びる下端部101が設けてあり、下端部101の後縁は車室のフロアパネル3の前縁と溶接結合してある。
【0012】
ダッシュパネル1の左右両側の縦壁部10の中間位置には、車室側へ膨出するセンタダッシュ部11が形成してある。センタダッシュ部11はエンジンの後方上部を覆うようにほぼ方形状をなす。センタダッシュ部11の車室側への膨出量は、縦壁部10の下端部101の前後長とほぼ同一である。センタダッシュ部11の上面部12は平坦な水平面をなし、その高さ位置は、従来構造のセンタダッシュ部のそれよりも高くしてあり、ダッシュパネル1の上縁14に近い位置に配置してある。センタダッシュ部11の後面部13はほぼ垂直面をなし、その下縁が縦壁部10の下端部101の後縁と一体にフロアパネル3の前縁と溶接結合してある。
【0013】
ダッシュパネル1は上縁14が車幅方向に延びる車体の剛性部材たるカウルトップ2に結合してある。カウルトップ2はカウルアッパ21とカウルロア22とからなる閉断面構造をなす。カウルアッパ21とカウルロア22は、カウルアッパ21の前面部の下縁とカウルロア22の前縁とが溶接結合してあり、カウルアッパ21の後縁とカウルロア22の後面部の上縁とが溶接結合してある。そしてダッシュパネル1の上縁14が、カウルアッパ21の前面部の下縁とカウルロア22の前縁との結合部と一体に溶接結合してある。
【0014】
カウルトップ1の下面部23は平坦な水平面をなし、センタダッシュ部11の上面部12の直上位置で、上面部12との間に上下に間隙をおいて近接対向している。そして、カウルトップ1の下面部23とセンタダッシュ部11の上面部12との間隙に制振材としてマスチックシーラ4が充填してある。マスチックシーラ4はカウルトップ1の下面部23とセンタダッシュ部11の上面部12との間隙を埋めるように硬化して両者を接着するとともに、硬化しても適度な弾力を備えており反発性も低く制振材の役割を果たす。図1中、5はセンタダッシュ部のエンジンルーム側の内面に貼着したエンジンノイズ等の吸音材たるインシュレータである。
【0015】
このように構成した本実施形態のダッシュパネル1は、センタダッシュ部11の上面部12をマスチックシーラ4を介して、カウルトップ2の下面に接合せしめたので、センタダッシュ部12の振動が、カウルトップ2との間でマスチックシーラ4により上からセンタダッシュ部12を押さえ付ける押さえ付け作用により減衰され、制振効果が発揮されて振動が防止される。
【0016】
また、従来構造のように制振材を保持する専用の別体のプレートが要らないので、ダッシュパネル1を構成する部品点数および取付け作業工数を削減でき生産性が良好である。
【0017】
制振材として用いたマスチックシーラ4はペースト状であり、アスファルトシートのように所定の大きさ、形状に裁断する抜き型が必要なく、ダッシュパネル1とカウルトップ2とを結合する前に、予めセンタダッシュ部11の上面部12またはカウルトップ2の下面部23に塗布すればよく、アスファルトシートに比べて組付け作業性および生産性が良好である。尚、マスチックシーラ4は、ダッシュパネル1とカウルトップ2とを結合する車体組付け工程で塗布され、その後の工程で車体を塗装、乾燥するときに硬化してセンタダッシュ部11の上面部12とカウルトップ2の下面部23とを結合する。
【0018】
センタダッシュ部11は、従来構造に比べて、高さ寸法を大きくしたので、その分、エンジンルーム側のセンタダッシュ部11内部が拡大し、有効に利用することができ、例えばより大型のエンジンに対応することができる。
【0019】
次に、図2に基づいて本発明の他の実施形態を説明する。本実施形態の基本構造は、先の実施形態のそれとほぼ同じで、相違点を中心に説明し、図において同一部材は同一符号で示す。ダッシュパネル1Aには、幅方向中央部に車室側へ膨出するほぼ方形状のセンタダッシュ部11Aが形成してある。センタダッシュ部11Aには、その上面部12Aの前後中間位置に、上方へ突出する先細り形状の断面ほぼ台形状をなす突出部15が形成してある。突出部15は上面部12Aの横幅方向のほぼ全幅に渡って長尺状に形成してある。突出部15の頂面部は平坦な水平面としてある。
【0020】
一方、カウルトップ2Aには、下面部23の前後中間位置に、上記突出部15に対応して、下面部23のパネル面をカウルトップ2A内部側へ凹ませて突出部15の頂面部を挿入可能な浅い溝状の凹部24が形成してある。凹部24の底面は平坦な水平面をなす。
【0021】
ダッシュパネル1Aとカウルトップ2Aとは、ダッシュパネル1Aの上縁14と、カウルトップ2Aのカウルアッパ21およびカウルロア22の前縁の結合部とを一体に溶接結合するとともに、センタダッシュ部11Aの突出部15の頂面部と、カウルトップ2Aの凹部24の底面とが溶接結合してある。突出部15の頂面部と凹部24の底面との溶接は、長手方向に沿って複数個所がスポット溶接してある。そして、突出部15と凹部24との結合部の前方位置および後方位置にはそれぞれ、センタダッシュ部11Aの上面部12Aとカウルトップ2Aの下面部23との間隙にマスチックシーラ4a,4bが充填してある。
【0022】
本実施形態によれば、先の実施形態同様にマスチックシーラ4a,4bによりセンタダッシュ部11Aの制振作用が発揮されるうえ、センタダッシュ部11Aとカウルトップ2Aとを、突出部15と凹部24により部分的に直接結合せしめたのでセンタダッシュ部11A自体の剛性が強化されて防振作用が発揮され、マスチックシーラ4a,4bの制振作用と直接結合による防振作用が相まって、高い防振効果を発揮する。尚、突出部15と凹部24とを横方向に延びる長尺状に形成したが、これに限らず、センタダッシュ部の上面部に複数の円柱状の突出部を形成するとともに、これらに対応してカウルトップの下面部に複数の逆すり鉢状の凹部を設け、複数の突出部と複数の凹部とを溶接結合するようにしてもよい。
【0023】
本発明ではいずれの実施形態においても、制振材としてマスチックシーラを用いたがこれに限らず、制振材として発泡アスファルトシートを用いてもよいが、上述したように生産性の観点からマスチックシーラのほうが経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のダッシュパネルの防振構造を示す要部縦断面図である。
【図2】本発明の他のダッシュパネルの防振構造を示す要部縦断面図である。
【図3】セミボンネットタイプのワゴン車のダッシュパネルを示す斜視図である。
【図4】従来のダッシュパネルの防振構造を示す要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1,1A ダッシュパネル
11,11A センタダッシュ部
12,12A 上面部
15 突出部
2,2A カウルトップ
23 下面部(下面)
4 マスチックシーラ(制振材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルの幅方向中央部にエンジンを回避して車室側へ膨出するセンタダッシュ部を備えたダッシュパネルにおいて、
上記センタダッシュ部の上面部と、その直上位置で、車幅方向に延在する車体の剛性部材たるカウルトップの下面とを制振材を介して接合せしめ、上記センタダッシュ部の振動を抑制するようになしたことを特徴とするダッシュパネルの防振構造。
【請求項2】
上記センタダッシュ部の上面部には、上記制振材が設置されていない位置に上方へ突出する先細り形状の突出部を形成し、上記突出部を上記カウルトップの下面に溶接せしめた請求項1に記載のダッシュパネルの防振構造。
【請求項3】
上記制振材を、マスチックシーラで構成した請求項1または2に記載のダッシュパネルの防振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−168652(P2006−168652A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367030(P2004−367030)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】