説明

ダンパー取付構造

【課題】粘弾性ダンパーと摩擦ダンパーとを効果的に作用させる。
【解決手段】複数のアーム部材3を互いに枢支連結したダンパー本体Dを備えるとともに、当該ダンパー本体Dの両端部を建物の異なる構造部材2に各別に枢支連結し、ダンパー本体Dおよび構造部材2のうち互いに連結される部材どうしに亘って装着され、部材どうしの連結枢支軸7の径方向の相対変位、及び、相対回転を粘弾性力によって抑制する粘弾性ダンパー5と、互いに連結される部材どうしに亘って装着され、部材どうしの相対回転を摩擦力によって抑制する摩擦ダンパー6とを、アーム部材3どうしの枢支連結部4、および、ダンパー本体Dと構造部材2との枢支連結部4のうち、少なくとも二つの枢支連結部4に各別に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアーム部材を互いに連結したダンパー本体を備えるとともに、当該ダンパー本体の両端部を建物の異なる構造部材に各別に連結し、前記アーム部材どうしの連結部に、部材どうしの相対変位を抑制するダンパーを介在させてあるダンパー取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダンパー取付構造(以後、単に第1従来例という)としては、図5に示すように、建物の架構空間に対角線上にダンパー本体Dを配置して、両端部を建物の異なる構造部材2に対して剛接合してあるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
前記ダンパー本体Dは、三つのアーム部材3を長手方向に沿って一直線上に配置するとともに、隣接するアーム部材3どうしを長手方向に沿ってスライド可能な状態に連結して構成してある。また、アーム部材3どうしの連結部のうち、一方の連結部には粘弾性ダンパー20を、他方の連結部には摩擦ダンパー21を、それぞれ連結してある両アーム部材3の摺接面の間に介在させてある。更に、粘弾性ダンパー20の変形の上限を規制するストッパ22も設けてあった。
従って、外力を受けることで建物の架構が変形し、前記構造部材2どうしが相対的に遠近方向に変位するような場合に、小さい変形に対しては粘弾性ダンパー20のみが変形してダンパー効果を発揮する一方、大きい変形に対しては、前記ストッパ22によって粘弾性ダンパー20の変形を規制すると共に摩擦ダンパー21が変形してダンパー効果を発揮するように構成してあった。
また、異なる従来例(以後、単に第2従来例という)としては、図6に示すように、二つのアーム部材3を枢支連結して構成されているダンパー本体Dが設けられ、その両端部を、建物の異なる構造部材2に対してそれぞれ枢支連結してあるものがあった(例えば、特許文献2参照)。
また、前記ダンパー本体Dの両端部の枢支連結部4、及び、ダンパー本体Dの長手方向における中間部の枢支連結部4(アーム部材3どうしの枢支連結部4)のそれぞれに、粘弾性ダンパー23が介在させてあった(例えば、特許文献1参照)。
この従来例は、各枢支連結部4に介在させた粘弾性ダンパー23によって、建物の変位を抑制するように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−257674号公報(図1)
【特許文献2】特開平11−6536号公報(図24)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したダンパー取付構造の第1従来例によれば、例えば、建物が風荷重を受けた場合のように、比較的小さな変位しか発生しない状態では、粘弾性ダンパーのみが作用して、建物振動の減衰を図ることができる。また、例えば、地震のように大きな変位が発生する状態では、粘弾性ダンパーの変位がストッパによって規制された後、摩擦ダンパーが作用して、地震による建物振動の減衰を図るように構成されている。
即ち、前記第1従来例によれば、粘弾性ダンパーと摩擦ダンパーとが並行して作用することがなく、両ダンパーの効果を同時に発揮させることができない問題点がある。
また、この問題点を解消するために、ストッパを機能させないようにすれば、前記構造部材どうしの相対的な遠近変位は、その大きさとは無関係に、変形し易い粘弾性ダンパーに集中的に作用することになり、前記遠近変位が大きくなれば、摩擦ダンパが作動しないまま粘弾性ダンパーが破壊する危険性が高い。
一方、上述したダンパー取付構造の第2従来例によれば、粘弾性ダンパーのみの効果しか発揮させることができず、地震等の変位量の大きな場合には適用できない問題点がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、粘弾性ダンパーと摩擦ダンパーとを効果的に作用させることができるダンパー取付構造を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、複数のアーム部材を互いに枢支連結したダンパー本体を備えるとともに、当該ダンパー本体の両端部を建物の異なる構造部材に各別に枢支連結し、前記ダンパー本体および前記構造部材のうち互いに連結される部材どうしに亘って装着され、前記部材どうしの連結枢支軸の径方向の相対変位、及び、相対回転を粘弾性力によって抑制する粘弾性ダンパーと、前記互いに連結される部材どうしに亘って装着され、前記部材どうしの相対回転を摩擦力によって抑制する摩擦ダンパーとを、前記アーム部材どうしの枢支連結部、および、前記ダンパー本体と前記構造部材との枢支連結部のうち、少なくとも二つの枢支連結部に各別に設けてあるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、各枢支連結部とアーム部材とのリンク機構によって、ダンパー本体の設置形状を、アーム部材の枢支連結部や構造部材との枢支連結部において屈曲形状となるようにでき、建物の架構変形による前記異なる構造部材どうしの遠近変位を、枢支連結部でのアーム部材どうしの相対回転(角変位)によって吸収することができる。
また、枢支連結部の何れかに設置してある前記粘弾性ダンパーの構成は、前記部材どうしの連結枢支軸の径方向の相対変位、及び、相対回転を粘弾性力によって抑制する形式のものであるから、ダンパー本体のリンク機構の変形が生じない状態でも、前記部材どうしの径方向の相対変位を粘弾性ダンパーで抑制することができる。従って、例えば、風圧のように建物の変位量が小さい場合には、粘弾性ダンパーのみの作用によって、前記径方向の相対変位の抑制を図ることができる。一方、地震のように建物の変位量が大きい場合には、ダンパー本体のリンク機構の変形を伴うことで、粘弾性ダンパーと摩擦ダンパーとを同時に作用させたダンパー効果を発揮することができる。
その結果、両ダンパーを、効果的に作用させることができる。
一方、粘弾性ダンパーは、建物の変位量の大小を通じて作動するから、摩擦ダンパーが作動し始めるときにも作動しており、摩擦ダンパー作動時の衝撃の緩和を、前記粘弾性ダンパーで図ることができ、建物の居住性の向上を図ることができる。
また、ダンパー本体をリンク機構で構成してあることで、前記第1従来例のように、ダンパー本体を、建物架構の対角線に沿った直線状のものとして形成してあるのに比べて、架構空間の一方側にダンパー本体を寄せた構造を採用し易くなり、架構空間をより広く確保することが可能となる。更には、各アーム部材は、両端がピン接合となるから、大きな曲げ力が作用し難く、前記第1従来例のものに比べて、断面をより小さくすることができる。その結果、経済性の向上を図ることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記摩擦ダンパーは、前記両構造部部材どうしの相対的な移動に伴って、装着された部材どうしの相対角変位が最大となる枢支連結部に設置してあるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、より強力なダンパー効果を発揮させ易い摩擦ダンパーを、前記相対角変位が最大となる枢支連結部に配置することで、ダンパー本体の全体としたダンパー効果をも最大限に期待することが可能となる。
更には、粘弾性ダンパーは、前記アーム部材どうしの間に介在させた粘弾性体のセン断抵抗によってダンパー作用を発揮するように構成してあるから、前記相対角変位が小さい枢支連結部に配置されていることで限度を超えたセン断力が作用するのを緩和でき、破断し難くできる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記ダンパー本体は、二つのアーム部材を備えて構成してあり、中間部の枢支連結部に摩擦ダンパーが設置してある一方、両端部の枢支連結部に粘弾性ダンパーが設置してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、二つという最少数のアーム部材によってリンク機構が構成してあるから、建物の架構変形に伴ってリンク機構が変位する際、いずれの枢支連結部においても確実に前記相対角変位が生じ、中間部の摩擦ダンパーと両端部の粘弾性ダンパーのそれぞれを並行して無駄なく作動させることができる。
従って、最小の部品点数によって経済的にダンパー効果を発揮できると共に、そのダンパー効果は、一つの摩擦ダンパーと二つの粘弾性ダンパーによって、より効率的に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
【0013】
図1は、本発明のダンパー取付構造を採用した建物Bの要部を示すもので、建物Bは、柱1Aと梁1Bとを備えた架構1に、ダンパー本体Dを取り付けて構成されている。図には示していないが、前記架構1は、上下左右に連設されている。
【0014】
前記架構1は、間隔をあけて立設した柱1Aと、隣接する柱1Aにわたって設けられた梁1Bとで構成してあり、柱1Aと梁1Bとで囲まれた架構空間Vに、前記ダンパー本体Dが設置されている。
柱1Aと梁1Bとの接合部には、前記ダンパー本体Dを連結するガセットプレート(構造部材の一例)2が一体に形成されている。
ガセットプレート2は、前記架構空間Vの対角線上で対向する一対の入隅部に設けてある。
【0015】
前記ダンパー本体Dは、二つのアーム部材3を枢支連結して正面視の形状が『く』字形状となるように構成してある。その両端部は、前記ガセットプレート2に各別に枢支連結してあり、リンク機構が構成されている。
従って、風圧や地震力等の作用で建物Bが横揺れを起こし、それに伴って、前記架構1が平行四辺形となるような変形をおこした場合、当該アーム部材3は、各枢支連結部4における部材どうしの相対回転によって、前記変形に追従することができる。
当該実施形態においては、ダンパー本体Dの両端部の枢支連結部4A、4Cに、粘弾性ダンパー5が設置してある一方、ダンパー本体Dの中間部の枢支連結部4Bに、摩擦ダンパー6が設置してある。
因みに、前記二つのアーム部材3のうちで、4Aと4Bとの記号を付した枢支連結部間に位置するアーム部材3Aは、図2に示すように、二枚の金属帯板で構成してあり、4Bと4Cとの記号を付した枢支連結部間に位置するアーム部材3Bは、一枚の金属帯板で構成してある。
また、前記一対のガセットプレート2のうちで、4Aの記号を付した枢支連結部を備えたガセットプレート2Aは、一枚の金属板で構成してあり、4Cの記号を付した枢支連結部を備えたガセットプレート2Bは、二枚の金属板で構成してある。
【0016】
前記各枢支連結部4は、建物Bの横揺れに伴って生じる相対角変位が異なっており、当該実施形態のように、二つのアーム部材3でできたリンク機構の場合は、図3に示すように、中間部の枢支連結部4Bが最大の相対角変位を示す。
即ち、中間部の枢支連結部4Bに設置されている摩擦ダンパー6が、両端部の枢支連結部4A、4Cに設置されている粘弾性ダンパー5より大きな相対角変位によってダンパー効果を発揮できるように構成されている。また、粘弾性ダンパー6には、限度を超えた大きな相対角変位が作用しないように構成されている。
【0017】
前記粘弾性ダンパー5は、図1、図2、図4に示すように、前記ガセットプレート2とアーム部材3との連結枢支軸7の径方向の相対変位、及び、相対回転(角変位)を、ガセットプレート2とアーム部材3との間に介在させた粘弾性体5aの粘弾性変形によって抑制するように構成されている。
因みに、粘弾性体5aは、例えば、ゴムや、その他の合成樹脂等で構成されている。
このような性能を備えた粘弾性ダンパー5であれば、採用の対象となり得るものであり、具体的な構造の一例を挙げると、図2に示すように、ガセットプレート2A(又は、アーム部材3B)に形成された大径の貫通孔H1と、アーム部材3A(又は、ガセットプレート2B)に形成された小径の貫通孔H2に挿通された連結枢支軸7との間に、リング状の粘弾性体5aを介在させて構成することができる。
この構造によれば、貫通孔H1のなかで、前記連結枢支軸7がその径方向に動いたり、軸芯周りに回転するような場合、前記粘弾性体5aの粘弾性変形によって、それらの動きを抑制することが可能となる。
勿論、粘弾性ダンパー5の構造は、ここで説明したものに限るものではない。
【0018】
前記摩擦ダンパー6は、二枚のアーム部材3Aと、その間に介在したアーム部材3Bとの摺接面に作用する摩擦力によって、部材どうしの相対回転(角変位)を抑制するように構成されている。
具体的な構造の一例を挙げると、図2に示すように、両アーム部材3A、3Bに形成されたボルト挿通孔H3に、ボルトで構成された連結枢支軸8を挿通し、螺合させたナット9を締め付けることで、両アーム部材3A、3Bとを挟み込み、両者の摺接面に摩擦力が作用するように構成することができる。
この構造によれば、連結枢支軸8の周りに両アーム部材3A、3Bどうしが相対回転するような場合、前記摩擦力によって、それらの動きを抑制することが可能となる。
勿論、摩擦ダンパー6の構造は、ここで説明したものに限るものではない。
【0019】
本実施形態のダンパー取付構造によれば、例えば、風の作用によって小さい横揺れが建物に作用したような場合には、ダンパー本体の屈曲変形が生じる前に、粘弾性ダンパーの径方向のダンパー作用を発揮することができる(図4(a)参照)。
地震のように建物の変位量が大きい場合には、ダンパー本体のリンク機構の変形を伴うことで、粘弾性ダンパーと摩擦ダンパーとを同時に作用させたダンパー効果を効率的に発揮することができる(図4(b)参照)。
また、粘弾性ダンパーの作用によって、摩擦ダンパー作動時の衝撃の緩和をも図ることができ、建物の居住性の向上を図ることができる。
そして、より強力なダンパー効果を発揮させ易い摩擦ダンパーを、前記相対回転が最大となる枢支連結部に配置することで、ダンパー本体の全体としてのダンパー効果をも最大限に期待することが可能となる。
更には、粘弾性ダンパーは、相対回転が小さい枢支連結部に配置されていることで限度を超えたセン断力が作用するのを緩和でき、破断し難くできる。
【0020】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0021】
〈1〉 前記ダンパー本体は、先の実施形態で説明した二つのアーム部材3で構成してあるものに限るものではなく、例えば、三つ以上備えて構成してあってもよい。
〈2〉 前記粘弾性ダンパーや、摩擦ダンパーの構造は、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、他の形態のものを採用することも可能である。
また、粘弾性ダンパー、及び、摩擦ダンパーの設置数や、設置個所は、先の実施形態で説明したものに限るものではなく、例えば、粘弾性ダンパーと摩擦ダンパーとを一ヵ所ずつに設けるものであってもよい。
〈3〉 前記構造部材は、先の実施形態で説明した架構の四隅に形成されたガセットプレートに限るものではなく、例えば、梁の中間部や、柱の中間部に形成されたガセットプレートであってもよい。また、ダンパー本体が取付可能であれば、ガセットプレートに限るものではない。
【0022】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ダンパー取付構造を示す正面図
【図2】ダンパー取付構造を示す分解斜視図
【図3】ダンパー本体の変形を示す模式図
【図4】ダンパー本体の変形を示す正面図
【図5】従来のダンパー取付構造を示す正面図
【図6】従来のダンパー取付構造を示す正面図
【符号の説明】
【0024】
2 ガセットプレート(構造部材の一例)
3 アーム部材
4 枢支連結部
5 粘弾性ダンパー
6 摩擦ダンパー
7 連結枢支軸
D ダンパー本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアーム部材を互いに枢支連結したダンパー本体を備えるとともに、
当該ダンパー本体の両端部を建物の異なる構造部材に各別に枢支連結し、
前記ダンパー本体および前記構造部材のうち互いに連結される部材どうしに亘って装着され、前記部材どうしの連結枢支軸の径方向の相対変位、及び、相対回転を粘弾性力によって抑制する粘弾性ダンパーと、
前記互いに連結される部材どうしに亘って装着され、前記部材どうしの相対回転を摩擦力によって抑制する摩擦ダンパーとを、
前記アーム部材どうしの枢支連結部、および、前記ダンパー本体と前記構造部材との枢支連結部のうち、少なくとも二つの枢支連結部に各別に設けてあるダンパー取付構造。
【請求項2】
前記摩擦ダンパーは、前記両構造部部材どうしの相対的な移動に伴って、装着された部材どうしの相対角変位が最大となる枢支連結部に設置してある請求項1に記載のダンパー取付構造。
【請求項3】
前記ダンパー本体は、二つのアーム部材を備えて構成してあり、中間部の枢支連結部に摩擦ダンパーが設置してある一方、両端部の枢支連結部に粘弾性ダンパーが設置してある請求項1または2に記載のダンパー取付構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−7249(P2010−7249A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164528(P2008−164528)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】