説明

チエノピリジン系化合物の香料における使用、および新規チエノピリジン系化合物

本発明は、チエノピリジン系化合物を添加してなる新規な香料組成物、食品、飼料および香粧品を提供する。
本発明は下記一般式I


(式中、R1〜R6はHまたはCHまたはCHCHを表す。)で示される化合物の香料への使用に関する発明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、香料成分や香気増強剤として有用なチエノピリジン系化合物を添加してなる香料組成物とその使用に関するものである。また、本発明は該チエノピリジン系化合物において、新規な化合物に関するものであり、さらには新規チエノピリジン系化合物のうち、5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
従来、食品等の香気や香味を増強させたり、食品等に特徴的な香気を付与させるためには、食品等に香料や天然抽出物を添加している。例えば、コーヒーの香気を増強させたり、コーヒーに特徴的な香気を付与させるためには、コーヒーに穀類、豆類または殻果類の乾留留出物を添加する方法(特許文献1参照)、コーヒー抽出液をポーラス型イオン交換樹脂に通液させ、脱着濃縮した抽出液をコーヒーに添加する方法(特許文献2参照)、および調合香料をコーヒーに添加するなどの方法が知られている。しかしながら今まで、ある一種類の化合物の添加で、コーヒーに強く特徴的な焙煎香気を付与できるような化合物は報告されておらず、また現在使用されている調合香料、コーヒー抽出物またはその他天然抽出物では、深煎りコーヒーのように強く特徴的な焙煎感のある香気をコーヒーに付与することができなかった。
また従来、チエノピリジン系化合物として、4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,3−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4,6−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、および4,7−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンが知られているが、これらのチエノピリジン系化合物はいずれも医薬品などの部分構造としてか、もしくは合成中間体であって、当該化合物自体の香料などへの使用は、全く示唆されていなかった。
【特許文献1】 日本特開2000−333635号公報
【特許文献2】 日本特開2000−166474号公報
【特許文献3】 国際公開WO99/54303号公報
【特許文献4】 国際公開WO99/33804号公報
【発明の開示】
本発明の目的は、特に飲食品に有用な新規香料組成物を提供することであり、より具体的には、チエノピリジン系化合物を添加した香料組成物および、それを添加した食品、飼料、香粧品を提供することである。さらには、香料化合物や合成原料などに有用な新規チエノピリジン系化合物を提供すること、また、更にそれら新規チエノピリジン系化合物のうち、特に5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、コーヒーに深煎りコーヒーのような強く特徴的な焙煎感を与えうる香気化合物について鋭意研究を進めていたところ、高焙煎コーヒー豆の抽出物から、今までにない特徴的焙煎香気を付与することの可能な新規チエノピリジン系化合物を見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の一般式I
[一般式I]

(式中、R1〜R6はHまたはCHまたはCHCHを表す。)で示されるチエノピリジン系化合物の少なくとも1種を添加してなる香料組成物である。
また、本発明におけるチエノピリジン系化合物は新規の化合物を含む。すなわち、本発明の新規化合物は下記の一般式II
[一般式II]

(式中、R1〜R6は、HまたはCHまたはCHCHを表す。ただし、R1からR6のすべてがH、R2がCHでその他がH、RがCHでその他がH、R4がCHでその他がH、R5がCHでその他がH、R6がCHでその他がH、R1とR4がCHでその他がH、R2とR4がCHでその他がH、およびR5とR6がCHでその他がHのものは除く。)で示されるチエノピリジン系化合物である。
さらには、本発明の新規チエノピリジン系化合物は、下記の化学式I
[化学式I]

で示される3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、および下記の化学式II
[化学式II]

で示される2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンである。
また、本発明の他の好ましい態様は、これらのチエノピリジン系化合物を添加してなる香料組成物を添加してなる食品、飼料および香粧品である。
更にそれら新規チエノピリジン系化合物のうち、特に下記の一般式III
[一般式III]

(式中、R3は、CHまたはCHCHを表す。)で示される、5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンは、下記の反応式Iにより容易に製造することが出来る。
[反応式I]

(式中、R3は、CHまたはCHCHのいずれかを表す。)
具体的に、上記の反応式Iにおいて、式(1)で示される1−アルキル−4−ピペリドンと式(2)の示されるピルビックアルデヒドジメチルアセタールを、塩基の存在下に反応させて式(3)で示される化合物を得、次いでこれを脱水反応させて式(4)で示される化合物とし、これに水素添加して式(5)で示される化合物を得た後に、チオフェン化することにより、式(6)で示される5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンを製造することができる。
また、更に2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンや5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンは、それ自体公知の方法[国際公開WO99/33804号公報]で入手可能な2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンや4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンを、下記の反応式IIのようにメチル化することにより、容易に製造することが出来る。
[反応式II]

(式中R6はCH又はHを表す。)
本発明のチエノピリジン系化合物は、今までにない特徴的焙煎香気および香気増強効果を有している。したがって、このチエノピリジン系化合物を有効香気成分とした香料組成物および香気増強剤を提供することができる。また、これらのこのチエノピリジン系化合物や香料組成物を食品、飲料、飼料および香粧品に添加することによって、それらの香気を増強することができる。更にそれら新規チエノピリジン系化合物のうち、特に5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンは、有機合成の手法により容易に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明者らは、焙煎コーヒー豆を有機溶剤にて抽出し、抽出された抽出液を濃縮し、得られた溶剤抽出物を蒸留し、蒸留された蒸留液を酸・アルカリにより液−液分配した後、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー処理することで、チエノピリジン系化合物が約20%まで濃縮された成分を得ることができることを見いだした。
本発明の新規チエノピリジン系化合物は、下記の一般式II
[一般式II]

(式中、R1〜R6は、HまたはCHまたはCHCHを表す。ただし、R1からR6のすべてがH、R2がCHでその他がH、R3がCHでその他がH、R4がCHでその他がH、R5がCHでその他がH、R6がCHでその他がH、R1とR4がCHでその他がH、R2とR4がCHでその他がH、およびR5とR6がCHでその他がHのものは除く。)で示されるチエノピリジン系化合物である。
また、本発明の香料組成物は、下記の一般式I
[一般式I]

(式中、R1〜R6は、HまたはCHまたはCHCHを表す。)で示されるチエノピリジン系化合物を1種または2種以上含有する香料組成物である。
本発明の上記式で示されるチエノピリジン系化合物としてより具体的には、例えば、7−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,4−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,6−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,7−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,4−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,6−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,7−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5,6−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5,7−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6,7−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、7−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−エチル−4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−エチル−5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−エチル−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−エチル−7−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−エチル−4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−エチル−5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−エチル−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−エチル−7−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−エチル−5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−エチル−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−エチル−7−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−エチル−4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−エチル−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−エチル−7−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−エチル−4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−エチル−5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−エチル−7−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、7−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、7−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、7−エチル−4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、7−エチル−5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、7−エチル−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,3−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,4−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,5−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,6−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,7−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,4−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,5−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,6−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3,7−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4,5−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4,6−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4,7−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5,6−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5,7−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、および6,7−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン等が挙げられ、これらは新規化合物である。
また、4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,3−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、4,6−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、および4,7−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンは化合物としては公知であるが、香料への用途は本発明者らの研究によって初めて見いだされたものである。
本発明のこれらのチエノピリジン系化合物は、特に飲食物に添加することで強く特徴的な焙煎香気を付与することができる。
本発明の上記チエノピリジン系化合物の中でも、特に注目すべき化合物として、下記の化学式I
[化学式I]

で示される、3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンと、下記の化学式II
[化学式II]

で示される、2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンと、下記の化学式III
[化学式III]

で示される5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンを挙げることができる。これらの化合物は、特に焙煎香気を増強する効果が大きい。
本発明のチエノピリジン系化合物は、焙煎コーヒー豆に含まれている成分であり、コーヒーオイルから、次のようにして得ることができる。使用するコーヒー豆は、焙煎度が高いものがより好ましく、例えば、エスプレッソ用やアイスコーヒー用などの深煎り豆を使用することが好ましい。本発明におけるコーヒーオイルは、焙煎豆を圧搾して得られるプレスオイルでもよいが、焙煎コーヒー豆から液体ないし超臨界の二酸化炭素抽出するか、もしくは有機溶剤で抽出することもできる。
コーヒーオイルの溶剤抽出に用いられる有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、およびエタノールなどが挙げられ、中でも酢酸エチルやエタノールなど、極性の高い溶剤が好ましく用いられる。また、使用される溶剤の量は、コーヒー豆の質量比で2〜5倍量程度であり、十分にコーヒー中の成分を抽出するためには、3回程度の繰り返し抽出を実施することが望ましい。抽出法としては、浸漬抽出および撹拌抽出等が用いられる。
このようにして得られた溶剤抽出液から溶剤を留去して得られた溶剤抽出物は、単蒸留または薄膜蒸留等により減圧蒸留することによって、揮発性成分を得ることができる。蒸留条件は蒸留法により異なるが、このチエノピリジン系化合物は高沸点化合物であるため、単蒸留の場合、蒸留釜加熱温度を150〜250℃とし、そして圧力を67〜13Pa程度とすることが好ましい。なお、蒸留工程を省略して溶剤抽出物をそのまま液−液分配することも可能であるが、液−液分配の前に溶剤抽出物を蒸留し、揮発性成分を抽出する方が好ましい。
得られた揮発性成分は、1規定塩酸とジエチルエーテルで液−液分配し、その塩酸層を水酸化ナトリウム水溶液で中和し、弱アルカリ性にした後に、再度ジエチルエーテルで液−液分配したジエチルエーテル層を回収・濃縮して、揮発成分中のチエノピリジン系化合物を濃縮すことができる。
さらに、得られたチエノピリジン系化合物濃縮成分を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供することで、チエノピリジン系化合物濃度を約20質量%まで濃縮することができる。なお溶出溶剤としては、ヘキサン100容積%〜ジエチルエーテル100容積%までの適当なグラジェントを用いることで、効率的に目的のチエノピリジン系化合物を濃縮することができる。クロマトグラフィー分画物中、チエノピリジン系化合物はジエチルエーテル100容積%の画分に溶出するため、この画分を分取することにより、チエノピリジン系化合物が濃縮された試料を得ることができる。
本発明のチエノピリジン系化合物は、必ずしもそれ自体を単離精製する必要はなく、前記のチエノピリジン濃縮成分をチエノピリジン系化合物として使用することもできる。例えば、これらチエノピリジン系化合物濃縮成分は、香気増強剤として使用することができ、また、他の香料材料と調合された香料組成物として使用することもできる。このように、本発明のチエノピリジン系化合物は、化合物として使用することもでき、他の香料材料と調合された香料組成物として使用することもできる。
本発明の好ましい態様において、香料組成物としては、下記の一般式I
[一般式I]

(式中、R1〜R6はHまたはCHまたはCHCHを表す。)で示されるチエノピリジン系化合物の少なくとも1種を添加してなる香料組成物が挙げられる。
本発明のチエノピリジン系化合物や香料組成物が添加される好適な使用対象品としては、特に香ばしさなどの焙煎香気が求められる、コーヒー、ココアなどの嗜好飲料、クッキーなどの焼き菓子、ソース、たれなどの調味料、およびスープなどの調理食品などの飲食物が挙げられる。また、本発明のチエノピリジン系化合物や香料組成物は、焙煎しない飲食物に添加しても、風味にアクセントを与えたり風味を増強させることができる。
その他、食品以外にも、本発明のチエノピリジン系化合物や香料組成物は、香粧品に添加し香気にアクセントを与えたり、その特徴を生かし、燃料ガス用付臭剤、炭酸ガス消火剤用付臭剤および犯罪対策用付臭剤への利用も可能である。
本発明のチエノピリジン系化合物濃縮成分を他の香料と調合する場合は、香料組成物の総量に対してチエノピリジン系化合物の濃度が約0.01%〜0.001%の割合で配合することが好ましい。また、食品への添加量は、添加する食品の性質や目的に応じて適宜決定されるが、通常はチエノピリジン系化合物が食品に約0.01ppm〜1ppm程度の範囲内で含有されることが好ましく、より好ましくは0.01ppm〜0.1ppmである。また、芳香剤などの香粧品への添加量も適宜決定されるが、通常0.2ppb〜0.5ppm程度の範囲で含有されることが好ましい。また、燃料ガス用付臭剤として使用する場合は、通常20〜60mg/m3程度の添加が好ましい。
次に、それら新規チエノピリジン系化合物のうち、特に下記の一般式III
[一般式III]

(式中、R3は、CHまたはCHCHを表す。)で示される、5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの有機合成の手法による製造について説明する。その合成ルートは、以下に示す反応式Iのとおりである。
[反応式I]

(式中、R3は、CHまたはCHCHのいずれかを表す。)
上記反応式Iの第一工程において、式(1)で示される1−アルキル−4−ピペリドンと式(2)で示されるピルビックアルデヒドジメチルアセタールとを、塩基の存在下で反応させることにより、式(3)で示される化合物が主成分として得られる。
式(1)の1−アルキル−4−ピペリドンに対して、式(2)のピルビックアルデヒドジメチルアセタールの使用量は、好ましくは0.5から2当量であり、より好ましくは0.9から1.2当量である。
この際に用いられる塩基としては、通常アルドール縮合に用いることができるものなら限定はないが、特にはリチウムジイソプロピルアミドが好ましく用いられる。その塩基の使用量は、上記式(1)の1−アルキル−4−ピペリドンに対して、好ましくは0.5から2当量であり、より好ましくは0.9から1.2当量である。
上記第一工程の反応温度は、好ましくは−80から50℃であり、反応の選択性および目的物の安定性の点でより好ましい反応温度は−80から−50℃である。
反応溶媒としては通常アルドール縮合に用いることができるものなら限定はないが、特にはTHFが好ましく用いられる。その反応溶媒の使用量は、上記式(1)の1−アルキル−4−ピペリドンに対して、好ましくは3から50重量倍であり、より好ましくは5から15重量倍である。
また、式(1)の1−メチル−4−ピペリドンを、一旦シリルエノールエーテルとした後、ルイス酸存在下で反応させる向山アルドール反応を用いることも可能である。
上記反応式Iの第二工程において、式(3)の化合物はシリカゲルカラムなどにより精製してから用いても、そのまま精製せずに用いても良い。次に、式(3)の化合物を脱水反応させることにより、式(4)で示される化合物が得られる。脱水は、一般的に用いられる酸およびアルカリを用いた方法を用いることも出来るが、ピリジン溶媒中にチオニルクロリドを反応させることにより、高選択的かつ高収率で目的物の式(4)の化合物が得られる。
反応に用いられるチオニルクロリドの使用量は、式(3)の化合物に対して、好ましくは1から10当量であり、より好ましくは1.5から5当量である。また、溶媒のピリジンの使用量は、チオニルクロリドに対して、好ましくは2から40当量であり、より好ましくは10から20当量である。
上記第二工程の反応温度は、好ましくは−10から50℃であり、より好ましくは−5℃から10℃である。上記式(4)の反応物は、それ自体公知の方法である蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどによって精製することができる。
次に、上記反応式Iの第三工程において、式(4)の化合物を水素添加反応することにより、式(5)の化合物が得られる。第三工程の反応で用いられる触媒としては、Pd−C、Pd−AlおよびPd−BaSOなどのPd系の触媒が好ましく、特に5%Pd−Cが好ましく使われる。触媒の使用量は、上記式(4)の化合物に対して好ましくは0.01〜2重量倍使用され、反応速度の面からより好ましくは0.1から1重量倍使用される。
第三工程の反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノールおよび酢酸エチル等が挙げられるが、特にエタノールが好ましく使用される。溶媒の使用量は、式(4)の化合物に対して好ましくは1から50重量倍であり、より好ましくは5から20重量倍使用される。
第三工程において、反応温度は好ましくは0から200℃であり、通常は室温程度で十分に反応が進行する。また、反応圧力は好ましくは常圧から0.5MPaであり、通常は常圧で十分に反応が進行する。
式(5)の化合物は、反応後は触媒を濾過して溶媒を濃縮することにより、次の反応に用いることが出来るが、それ自体公知の方法である蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどによって精製することができる。
次に、上記反応式Iの第四工程において、式(5)の化合物は、一旦脱アセタール化反応して1,4−ジカルボニル化合物とした後に、Paal法によりチオフェン化することも可能であるが、アセタールのまま直接チオフェン化することにより、工業的にはより有利に目的物である式(6)の化合物を得ることができる。
チオフェン化剤としては、Paal法チオフェン化で使用されるP、PおよびPなどの無機硫黄化合物や、ローソン試薬〔2,4−ビス(4−メトキシフェニル)−1,2,3,4−ジチアジホスフェタン2,4−ジスルフィド〕などが用いられ、反応選択性の高さや取扱の容易さなどから、ローソン試薬が好ましく使用される。ローソン試薬の使用量は、式(5)の化合物に対して、好ましくは1から5当量であり、より好ましくは2から3当量である。
第四工程における反応溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、DMEおよびクロロホルムなどが挙げられるが、特にトルエンが好ましく用いられる。溶媒使用量は、上記式(5)の化合物に対して、好ましくは5から50重量倍であり、より好ましくは10から20倍である。第四工程の反応温度は、好ましくは0から200℃であり、より好ましくはトルエンの還流温度である。得られた反応物は、それ自体公知の方法である蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどによって精製することができる。
次に、2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンおよび5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの合成に関して説明する。なお、原料とする2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンおよび4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンは、それ自体公知の方法[国際公開WO99/33804号公報]で入手可能である。2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンおよび5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンは、原料の2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンおよび4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンを、下記の反応式IIのようにメチル化することにより、容易に得ることが出来る。
[反応式II]

(式中R6はCH又はHを表す。)
用いられるメチル化剤としては、ヨウ化メチル、臭化メチルおよび塩化メチルなどのハロゲン化メチルが挙げられる。メチル化剤の使用量は、原料の2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンに対して好ましくは0.5から3当量であり、より好ましくは1.0から1.5当量である。
上記のメチル化反応には、溶媒としてジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルホキシドなどを用いることができるが、好ましくはジエチルエーテルを使用する。溶媒の使用量は、チエノピリジンに対し、好ましくは5から100重量倍でありより好ましくは10から30重量倍である。また、上記メチル化に際し、炭酸ナトリウムを添加することにより反応を促進させることができる。炭酸ナトリウムの添加量は、チエノピリジンに対して好ましくは1から10当量であり、より好ましくは1から3当量である。
メチル化反応の反応温度は、好ましくは−20から100℃であり、通常は室温で撹拌するだけで反応が進行する。得られた反応物は、それ自体公知の方法である蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィーや洗浄などによって精製することができる。
次に、本発明のチエノピリジン系化合物の調製法を実施例に基づいて説明する。ただし、以下の内容についていかなる意味でも、本発明を限定的に解釈してはならない。
【実施例】
[実施例1]
焙煎コーヒー豆3kgを、酢酸エチル9kgを用いて1回、そして酢酸エチル6kgを用いて2回、計3回常温下で浸漬抽出した。固液分離して得られた酢酸エチル抽出液をエバポレーターにて減圧濃縮し、得られた抽出物485gを、圧力40Pa、蒸留釜加熱温度200℃で単蒸留し、留出した香気成分4.75gを得た。次に、この香気成分を1規定塩酸溶液120mLに溶解した後、ジエチルエーテル50mLで2回洗浄した。この1規定塩酸溶液層を水酸化ナトリウム溶液でpH9に調整した後、ジエチルエーテル60mLで3回抽出した。ジエチルエーテル層を無水硫酸マグネシウムで脱水後減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー処理(Silicagel 60、70−230Mesh、40g、ヘキサン/ジエチルエーテル=100/0、95/5、90/10、80/20、50/50、0/100各320mL、流速300mL/時間)を行い、チエノピリジン系化合物を約20%含有する香気成分45mgを得た。
チエノピリジン系化合物濃縮成分は、キャピラリー分取ガスクロマトグラフィー(J&W社製キャピラリーカラムDB−1、30m ×0.53mm×1.30μm、オーブン温度100℃〜250℃(10℃/分 昇温))用いて、単離・精製を行うことで、下記の化学式I
[化学式I]

で示される3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンを、純度90質量%以上で得た。
上記の化学式Iで示されるチエノピリジン系化合物について、1H−NMR、13C−NMR、DEPT45・90・135、H−H COSY、HMBC、NOESY、EI−MSを測定し、構造を決定した。以下、1H−NMR、13C−NMR、EI−MSのスペクトルデータを示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl)δ2.08(3H,s,3−CH),2.50(3H,s,5−CH),2.72(2H,t,6),2.89(2H,t,7),3.38(2H,s,4),6.69(1H,s,2)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ13.6(3−CH),25.9(7),45.8(5−CH),52.5(6),54.3(4),117.8(2),133.2,133.5,134.4(3 or 3a or 7a)
MS:167(M+,44),124(100),97(4),91(7),42(8)
上記実施例1で得られた本発明のチエノピリジン系化合物をコーヒーに添加することで、コーヒーにエスプレッソコーヒーのような深煎りコーヒーに特徴的な焙煎感を付与する効果がみられた。
[実施例2]
以下に、本発明のチエノピリジン系化合物の香気成分および香気増強剤としての効果を確認した試験例を示す。
インスタントコーヒー粉末1.5gとグラニュー糖7gをコーヒーカップに入れ、これにお湯120gを注いでコーヒーサンプルNo.1(コーヒーベース液)とした。また、同量のコーヒーベース液に、焙煎コーヒーを常法により含水エタノールで抽出したコーヒーエキスを0.1質量%加えたものをコーヒーサンプルNo.2とした。そして、通常コーヒー飲料用香料に、実施例1で得られた化学式IIで示されるチエノピリジン系化合物が1ppmの濃度になるよう添加した香料0.1質量%を加えたものをコーヒーサンプルNo.3とした。
良く訓練された20名のパネルメンバーを選び、香料無添加のコーヒーサンプルNO.1、通常コーヒー飲料用香料を添加したコーヒーサンプルNO.2、および実施例1で得られた化学式Iで示されるチエノピリジン系化合物を加えたコーヒー飲料用香料を添加したコーヒーサンプルNo.3の香味について、それぞれ比較官能検査を行なった。その結果は、次表1のとおりであった。

本発明の化学式Iで示されるチエノピリジン系化合物を添加したものは、通常香料添加品および無添加品に比べ、良好な焙煎感、風味を示した。
[実施例3]
3−(1−ヒドロキシ−2,2−ジメトキシ−1−メチル−エチル)−1−メチル−ピペリジン−4−オンの合成
リチウムジイソプロピルアミド(1.8M in heptane、THF、ethylbenzene;アルドリッチ社製)100ml(0.18mol)を量り取り、−60℃以下の温度に冷却した。これに、1−メチル−4−ピペリドン20.37g(0.18mol)をTHF108gで希釈した溶液を、−60℃以下の温度で30分間で滴下した。続いてピルビックアルデヒドジメチルアセタール21.14g(180mol)のTHF108gで希釈した溶液を、−60℃以下の温度で34分間で滴下した。そのまま、4時間反応させた。飽和食塩水220gと20%水酸化ナトリウム水溶液24gの混合物を氷浴で冷却したものに、上記で得られた反応液を全量注ぎ失活した。ジエチルエーテルで抽出し、有機層をショートカラムに通した後に濃縮し、反応クルード29.6gを得た。GC分析したところ、目的物の3−(1−ヒドロキシ−2,2−ジメトキシ−1−メチル−エチル)−1−メチル−ピペリジン−4−オンが、61.6%(異性体込み)含まれていた。
[実施例4]
3−(2,2−ジメトキシ−1−メチル−エチリデン)−1−メチル−ピペリジン−4−オンの合成
実施例3で得られた反応クルード29.5gを、ピリジン465.7g(5.88mol)に溶解した。氷浴で冷却しながら、これにチオニルクロリド33.51g(0.28mol)を25分間で滴下し、そのまま4時間反応させた。飽和食塩水340gと30%水酸化ナトリウム水溶液159gの混合物を氷浴で冷却したものに、上記で得られた反応液を全量注ぎ失活した。ジエチルエーテルで抽出し、有機層をショートカラムに通した後に濃縮し、反応クルード16.86gを得た。これをシリカゲルカラムクロマトで精製し、GC純度65.5%(異性体込み)の精製物9.05gを得た。
[実施例5]
3−(2,2−ジメトキシ−1−メチル−エチル)−1−メチル−ピペリジン−4−オンの合成
実施例4で得られた精製物8.61gを、エタノール15gに溶解した。これに、5%Pd−C8.00gを添加した後、室温、常圧で水素ガスと接触させた。4時間反応させた後、GC分析したところ、原料の3−(2,2−ジメトキシ−1−メチル−エチリデン)−1−メチル−ピペリジン−4−オンは消費されていた。減圧濾過により触媒を取り除き、溶媒を濃縮したところ、GC純度60.3%の反応クルード7.07gが得られた。これをシリカゲルカラムクロマトで精製し、GC純度75.1%(異性体込み)の精製物5.09gを得た。
[実施例6]
3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの合成
実施例5で得られた精製物4.79gをトルエン82gに溶解した。これに、ローソン試薬7.87g(19.46mol)を添加し、1時間還流させた。反応液を冷却後、これに30%水酸化ナトリウム水溶液27.8gを滴下し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層をショートカラムに通した後に濃縮し、反応クルード6.24gを得た。これをシリカゲルカラムクロマトで精製し、GC純度98.2%の精製物1.35gを得た。このものの1H−NMR、13C−NMR、GC−MSを測定した結果、天然物処理物と完全に一致した。以下に、1H−NMR、13C−NMR、MSのスペクトルデータを示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl)δ2.08(3H,s),2.50(3H,s),2.72(2H,t),2.89(2H,t),3.37(2H,s),6.69(1H,s)
13C−NMR(100MHz,CDCl)δ13.7(3−CH),25.9(7),45.8(5−CH),52.5(6),54.3(4),117.7(2),133.2,133.5,134.4(3 or 3a or 7a)
MS:167(M+,46),124(100),97(5),91(8),42(10)
上記のようにして得られた精製物を実施例2のコーヒーサンプルNo.2に添加した結果、0.1ppm添加では、ミドルからベースにかけて自然なコーヒー感とビター感が増加し、全体的にボリューム感がアップし、実施例1のコーヒー由来の3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンと同等の効果を確認することができた。また、0.01ppm添加では、インパクトは弱いが後残りのコーヒー感の持続性が良かった。
[実施例7]
2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの合成
2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン 1.53g(10mmol)のジエチルエーテル溶液(15ml)を室温で撹拌し、これに、ヨウ化メチル1.42gのジエチルエーテル(15ml)溶液をゆっくり滴下した。これに、飽和炭酸ナトリウム水溶液12mlを添加し、6時間室温で撹拌混合した。有機層を取り、洗浄後に溶媒濃縮して反応混合物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトにより精製し、GC純度97%の精製物0.69gを得た。以下に、1H−NMR、MSのスペクトルデータを示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl)δ2.32(3H,s),2.36(3H,s),2.62(2H,t),2.74(2H,t,7),3.32(2H,s),6.28(1H,s)
MS:MS:167(M+,50),124(100),91(8),42(8)
上記のようにして得られた精製物を、実施例2のコーヒーサンプルNo.2に0.1ppm添加した結果、ミドルからベースにかけて自然なコーヒー感とビター感が増加し、全体的にボリューム感がアップし、実施例7の3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンと同等の効果を確認できた。
[実施例8]
5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの合成
4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン 1.39g(10mmol)のジエチルエーテル溶液(15ml)を室温で撹拌し、これに、ヨウ化メチル1.42gのジエチルエーテル(15ml)溶液をゆっくり滴下した。これに、飽和炭酸ナトリウム水溶液12mlを添加し、6時間室温で撹拌混合した。有機層を取り、洗浄後に溶媒濃縮して反応混合物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトにより精製し、GC純度97%の精製物0.76gを得た。以下に、1H−NMR、MSのスペクトルデータを示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl)δ2.45(3H,s),2.70(2H,t),2.89(2H,t),3.48(2H,s),6.70(1H,d),7.04(1H,d)
MS:153(M+,56),110(100),84(6),66(6),42(10)
上記のようにして得られた精製物を実施例2のコーヒーサンプルNo.2に0.1ppm添加した結果、ミドルからベースにかけて自然なコーヒー感とビター感が増加し、全体的にボリューム感がアップし、実施例7の3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンと同等の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
本発明の新規チエノピリジン系化合物は、今までにない特徴的香気を付与し、特に焙煎香気を有意に増強する特性をもつ。これらは、主にロースト臭を持つ飲食物(コーヒー、お茶、ココアなどの嗜好飲料、クッキーなどの焼き菓子、ソース、たれなどの調味料、スープなどの調理食品等)、香粧品、燃料ガス用付臭剤、炭酸ガス消火剤用付臭剤、犯罪対策用付臭剤としてなど、香料および香気増強剤として広い分野での利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式I
[一般式I]

(式中、R1〜R6はHまたはCHまたはCHCHを表す。)で示されるチエノピリジン系化合物の少なくとも1種を添加してなる香料組成物。
【請求項2】
下記の一般式II
[一般式II]

(式中、R1〜R6はHまたはCHまたはCHCHを表す。ただし、R1からR6すべてがH、R2がCHでその他がH、R3がCHでその他がH、R4がCHでその他がH、R5がCHでその他がH、R6がCHでその他がH、R1とR4がCHでその他がH、R2とR4がCHでその他がH、およびR5とR6がCHでその他がHのものは除く。)で示されるチエノピリジン系化合物。
【請求項3】
下記の化学式I
[化学式I]

で示される3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン。
【請求項4】
下記の化学式II
[化学式II]

で示される、2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン。
【請求項5】
請求項2記載のチエノピリジン系化合物の少なくとも1種を添加してなる香料組成物。
【請求項6】
5−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジン、2,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンおよび3,5−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンから選ばれる少なくとも1つの化合物を配合してなる香料組成物。
【請求項7】
請求項1、請求項5および請求項6のいずれかに記載の香料組成物を添加してなる食品、飼料および香粧品。
【請求項8】
下記の反応式I
[反応式I]

(式中、R3は、CHまたはCHCHを表す。)に示されている1−アルキル−4−ピペリドンとピルビックアルデヒドジメチルアセタールとを塩基の存在下に反応させ、次いで脱水反応後、水素添加した後にチオフェン化することを特徴とする、下記の一般式III
[一般式III]

(式中、R3は、CHまたはCHCHを表す。)で示される5−アルキル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2−c]ピリジンの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/012310
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512610(P2005−512610)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011409
【国際出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【Fターム(参考)】