説明

チオール変性単量体、その製造方法及び用途

【課題】 各種性能、特に分散性能に著しく優れ、セメント混和剤等の各種用途に有用な成分を与え得るチオール変性単量体及びその製造方法、該単量体を用いて得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体、これらを含む分散剤及びセメント混和剤、並びに、セメント組成物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)又は(2):
[化1]


で表される構造を有し、該(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、該R及び/若しくはRで表される有機残基が、カルボニル基側末端に第三級以上の炭素原子を有するチオール変性単量体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール変性単量体、その製造方法及び用途に関する。より詳しくは、分散剤やセメント混和剤等の各種用途に有用なチオール変性単量体及びその製造方法、それを用いて得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体、これらを用いた分散剤及びセメント混和剤、並びに、セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプト基(チオール基、SH基)は特異な反応性を有し、有機合成上有用な官能基であるため、分子中に少なくとも1個以上のメルカプト基を有するチオール化合物は、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して種々様々な用途に使用されている。例えば、従来、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、各種重合体への柔軟性付与成分用途等に有用であった(ポリ)アルキレングリコールの適用分野を拡大するものとして、(ポリ)アルキレングリコールにメルカプト基を導入して得られるポリアルキレングリコールのチオール変性体が注目されている。
【0003】
ところで、(ポリ)アルキレングリコールの適用分野として、近年では、セメント組成物、すなわち例えば、セメントに水を添加したセメントペースト、セメントペーストに細骨材である砂を混合したモルタル、モルタルに粗骨材である小石を混合させたコンクリート等に添加されるセメント混和剤用途が検討されている。このようなセメント混和剤は、通常、減水剤等として用いられ、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を発揮させることを目的として使用されている。
【0004】
従来のセメント混和剤としては、ナフタレン系やポリカルボン酸系等のセメント混和剤が知られており、例えば、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体とを共重合させて得られるセメント混和剤用共重合体が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このセメント混和剤用共重合体においては、不飽和カルボン酸系単量体に由来するカルボキシル基がセメント粒子に吸着する吸着基となり、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体に由来するポリアルキレングリコール鎖がセメント粒子を分散させる分散基として作用し、このポリアルキレングリコール鎖の立体反発によって、ある程度高い分散性能を発揮するセメント混和剤を与えることが可能となっている。
しかしながら、セメント混和剤の使用量をより低減するために、更に高い分散性能を発揮することができるセメント混和剤の開発が求められていた。
【0005】
また従来の(ポリ)アルキレングリコールのチオール変性体としては、例えば、両末端又は片末端に二重結合を有するポリエーテルにチオカルボン酸を付加させた後、生成するチオエステル基を分解して得られる両末端又は片末端にメルカプト基を有するポリエーテル(例えば、特許文献2参照。)や、洗剤ビルダーに用いる生分解性水溶性重合体として、メルカプト基を有する化合物をポリエーテル化合物にエステル反応で導入した変性ポリエーテル化合物に対し、モノエチレン性不飽和単量体成分をブロック又はグラフト重合させて得られる重合体(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。
しかしながら、これらの重合体は、昨今要望される極めて高度のセメント分散性(減水性)を充分に発揮できる程度には至っていない。したがって、セメント混和剤の用途にも好適なものとすることによって、より多くの分野に有用な化合物とするための工夫の余地があった。また、このような有用な化合物を、より効率よく製造できるようにするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2001−220417号公報
【特許文献2】特公平7−13141号公報
【特許文献3】特開平7−109487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、各種性能、特に耐加水分解性能及び分散性能に著しく優れ、分散剤やセメント混和剤等の各種用途に有用な成分を与え得るチオール変性単量体及びその製造方法、該単量体を用いて得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体、これらを含む分散剤及びセメント混和剤、並びに、セメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する重合体を得る際に用いられる成分について種々検討したところ、(ポリ)アルキレングリコール鎖と少なくとも1個以上のメルカプト基とがカルボニル基を含む基を介して結合した構造のチオール変性単量体を用いると、高度の分散性能を発現できる重合体を与えることができ、しかも該単量体自らも優れた分散性能を発揮できることを見いだした。そして、このような単量体において、(a)(ポリ)アルキレングリコール鎖の末端の少なくとも一単位を、炭素数3以上のオキシアルキレン基とするか、又は、(b)カルボニル基を含む基を、カルボニル基側末端に第三級以上の炭素原子を有するものとすると、該単量体に極めて優れた耐加水分解性が付与され、種々の用途において該単量体の構造に由来する作用効果を充分に発現できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、このようなチオール変性単量体を得る方法として、(ポリ)アルキレングリコールに、1分子中にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化反応させる工程を含む製造方法を採用すれば、高分子量のチオール変性単量体を低コストで、簡便かつ高純度で効率よく得ることができることを見いだした。
【0008】
更にこのようなチオール変性単量体の存在下、不飽和カルボン酸系単量体及び/又は不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体を含む不飽和単量体成分を重合して得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体が、チオール変性単量体の特定構造に由来して耐加水分解性を発揮し、長期にわたって安定して高い分散性能を発揮することができることを見いだした。中でも、特にセメント分散性能に優れることを見いだし、このようなチオール変性単量体又は重合体をセメント混和剤として使用すれば、セメント組成物を調製する際にその配合量を著しく低減することができるため、コンクリートを取り扱う土木・建設分野等で極めて有用なものとなることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、下記一般式(1)又は(2):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。nは、オキシアルキレン基の平均モル数を表し、1〜1000の整数である。Rは、水素原子又は有機残基を表す。)で表される構造を有するチオール変性単量体であって、上記(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、上記R及び/若しくはRで表される有機残基が、カルボニル基側末端に第三級以上の炭素原子を有するチオール変性単量体である。
【0012】
本発明はまた、上記チオール変性単量体を製造する方法であって、上記製造方法は、(ポリ)アルキレングリコールに、1分子中にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化反応させる工程を含むチオール変性単量体の製造方法でもある。
【0013】
本発明はまた、上記チオール変性単量体の存在下で、不飽和カルボン酸系単量体及び/又は不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体を含む不飽和単量体成分を重合して得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体でもある。
本発明は更に、上記チオール変性単量体及び/又は上記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体を含む分散剤並びにセメント混和剤でもある。
本発明はそして、セメントと、上記チオール変性単量体及び/又は上記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体とを含むセメント組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明のチオール変性単量体は、上記一般式(1)又は(2)で表される構造を有するものであるが、上記一般式(1)で表されるチオール変性単量体(ジチオール変性体)では、一端のチオール基(メルカプト基)と他端のチオール基とが充分な原子間距離を持って保持されることから、分子内でチオール基が接近しにくくなる。また、上記一般式(2)で表されるチオール変性単量体(モノチオール変性体)であれば、分子間でチオール基が接近しにくくなる。
【0015】
上記一般式(1)及び(2)において、R及びRは、同一又は異なって、有機残基を表し、例えば、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖アルキレン基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等の芳香族基等が挙げられる。中でも、反応性の観点からは、炭素数1〜8の炭化水素基を含む基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基を含む基であり、更に好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基であり、特に好ましくは炭素数1〜6の分岐アルキレン基又は炭素数6の芳香族基である。また耐加水分解性の観点からは、炭素数2以上であることが好ましい。最も好ましくは、炭素数2〜6の分岐アルキレン基又は炭素数6の芳香族基であり、例えば、メルカプトイソブチル酸又はチオサリチル酸由来の2価の有機残基である。
なお、上記R及びRは、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等で一部置換されていてもよい。
上記R及びRはまた、末端基が炭化水素基であることが好適である。この場合、上記R及びRで表される有機残基中の炭素原子と上記一般式(1)中のカルボニル基中の炭素原子とが結合することになる。
【0016】
また後述するように、上記チオール変性単量体を、(ポリ)アルキレングリコールに、1分子中にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化して行う場合には、該R及びRは、メルカプトカルボン酸残基(メルカプト基とカルボキシル基を除いた二価の有機残基)となり得る。
【0017】
上記一般式(2)において、Rは、水素原子又は有機残基を表すが、有機残基としては、より具体的には炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、炭素数3〜20の脂環式アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記Rはまた、セメント粒子の分散性の観点から親水性基であることが好ましく、具体的には、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることが好適である。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
【0018】
上記一般式(1)及び(2)において、AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表し、特に限定されるものではない。また、(AO)nが2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合には、これらのオキシアルキレン基はブロック状に導入されていても、ランダム状に導入されていてもよい。
【0019】
上記AOで表されるオキシアルキレン基としては、炭素数2〜18のオキシアルキレン基であればよいが、例えば、セメント混和剤に配合した場合にセメント粒子の分散性や親水性をより向上させる観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のオキシアルキレン基であることが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、更に好ましくは、主として炭素数2のオキシアルキレン基(オキシエチレン基)から(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖が構成されることであり、これにより、本発明のチオール変性単量体がより高い親水性を有することとなる。
ここでいう「主として」とは、例えば、(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、オキシエチレン基が、50モル%以上となることが好ましい。より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。
なお、以下では、(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖を「(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)」ともいう。
【0020】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)においては、例えばセメント混和剤に配合してセメント組成物を製造した場合に、その粘性やこわばり感を低減できる等の観点から、該鎖中に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入することが好適である。これにより、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)にある程度の疎水性が付与され、セメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらすことが可能となる。
【0021】
この場合、上記炭素数3以上のオキシアルキレン基の含有割合は、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上、特に好ましくは7モル%以上である。また、炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入しすぎると、得られる単量体やそれを用いてなる重合体の疎水性が高くなりすぎ、例えば、セメント粒子の分散性能をより充分に高めることができないおそれがあるため、50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。
【0022】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、導入の容易さ、セメント粒子との親和性等の観点から、炭素数3〜8のオキシアルキレン基が好適である。より好ましくは、炭素数3のオキシプロピレン基や炭素数4のオキシブチレン基等である。
また上記炭素数3以上のオキシアルキレン基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよいが、(炭素数2以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖)−(炭素数2以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖)のようにブロック状に導入されることが好ましい。これにより、より高い分散性を発揮することが可能になる。
【0023】
上記チオール変性単量体において、オキシアルキレン基の平均付加モル数n((ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の鎖長)は、1〜1000の数であるが、セメント混和剤に配合した場合にセメント粒子をより効果的に分散させる観点から、10モル以上であることが好適である。より好ましくは20モル以上、更に好ましくは45モル以上、更に好ましくは70モル以上、更に好ましくは80モル以上、更に好ましくは90モル以上、更に好ましくは100モル以上、より更に好ましくは110モル以上、特に好ましくは120モル以上、最も好ましくは140モル以上である。また、500モル以下であることが好適である。より好ましくは400モル以下、更に好ましくは350モル以下、更に好ましくは300モル以下、更に好ましくは280モル以下、より更に好ましくは250モル以下、特に好ましくは220モル以下、最も好ましくは200モル以下である。
【0024】
本発明のチオール変性単量体はまた、(a)上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、(b)上記一般式(1)又は(2)中のR及び/若しくはRで表される有機残基が、カルボニル基側末端に第三級以上の炭素原子を有するものである形態、の(a)又は(b)のいずれか1以上の形態であることが適当である。
【0025】
上記(a)の形態とは、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の末端基の少なくとも一つのアルキレングリコール単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基である形態である。上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、例えば、炭素数3〜18のオキシアルキレン基であることが好ましく、中でも、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基、アルキルグリシジルエーテル残基等が好適である。より好ましくは、製造の容易さからオキシプロピレン基、オキシブチレン基である。
【0026】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の末端に位置する炭素数3以上のオキシアルキレン基はまた、第二級アルコール残基に由来するものが好ましい。中でも、当該第二級アルコール残基に由来する第三級以上の炭素原子と、上記一般式(1)若しくは(2)で表される構造中のエステル結合の片方又はその両方とが、結合した形態であることが好適である。これによって、更に優れた耐加水分解性が付与されることになる。
なお、上記一般式(1)又は(2)で表される構造中のエステル結合とは、上記一般式(1)、(2)中の「−R−COO−」で表される基中のエステル結合(−COO−)、又は、上記一般式(1)中の(AO)nで表される末端酸素原子と「−OC−R−」部位とから構成されるエステル結合(−COO−)を意味する。
【0027】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基の導入量としては、求められる耐加水分解性の程度によるが、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の両末端の存在数を100モル%とすると、50モル%以上であることが好ましい。より好ましくは100モル%以上であり、更に好ましくは150モル%以上であり、特に好ましくは200モル%以上である。
【0028】
上記(b)の形態においては、上記R及び/又はRで表される2価の有機残基が、上記一般式(1)又は(2)中のカルボニル基(−CO−)側末端に第三級以上の炭素原子を有することになるが、このような有機残基としては、炭素数2〜6の分岐アルキレン基又は炭素数6の芳香族基であることが好ましい。より好ましくは、メルカプトイソブチル酸又はチオサリチル酸由来の2価の有機残基である。
ここでいう「一般式(1)又は(2)中のカルボニル基」とは、一般式(1)、(2)における「−R−COO−」中の「CO」基、及び/又は、一般式(1)における「−OC−R−」中の「CO」基を意味する。
【0029】
本発明のチオール変性単量体の特に好ましい形態は、上記(a)及び(b)の形態の中でも、上記一般式(1)若しくは(2)で表される構造中のエステル結合の片方又はその両方が、R、R、及び、(AO)nからなる群より選択される少なくとも1種の基中の第三級以上の炭素原子と結合してなる形態である。
すなわち、上記一般式(1)又は(2)中の「−R−COO−」部位中のエステル結合(−COO−)、及び、上記一般式(1)中の(AO)nで表される末端酸素原子と「−OC−R−」部位とから構成されるエステル結合(−COO−)のうち、少なくとも一つのエステル結合が、R、R、及び、(AO)nからなる群より選択される少なくとも1種の基に含まれる第三級以上の炭素原子と結合してなる形態であることが好ましい。
このような形態に特定することによって、耐加水分解性が更に向上され、本発明のチオール変性単量体に由来する種々の作用効果が更に発揮されることになる。
【0030】
上記チオール変性単量体はまた、上記一般式(1)、(2)中のR及び/又はRやnを適宜調整することにより、(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)が、チオール変性単量体100質量%中、50質量%以上占めるようにすることが好適である。これにより、チオール変性単量体中におけるAOの寄与率が高くなることから、本発明のチオール変性単量体の特性を、AOを適宜選択することによって容易に調節することが可能となる。より好ましくは80質量%以上である。
【0031】
ここで、チオール基は、特にアルカリ条件下で酸化されて多量化物を形成し易く、該多量化物としては、例えば、下記一般式(1’) :
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、R1、R2、AO及びnは、上記一般式(1)と同様である。rは、2以上の整数を表す。)で表されるジエステル化合物のr量体や、下記一般式(2’):
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、R1、R、AO及びnは、上記一般式(2)と同様である。)で表されるモノエステル化合物の二量体等が挙げられる。
【0036】
そこで、本発明のチオール変性単量体には、単量体の多量化を防ぐために酸化防止剤が添加されていることが好ましい。
上記酸化防止剤としては、通常使用される酸化防止剤を使用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、フェノチアジン及びその誘導体;ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、メトキノン、ブチルハイドロキノン、ブチルカテコール、ナフトハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、トコトリエノール、カテキン等のフェノール系化合物;トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジフェニルピクリルヒドロジン、ピクリン酸等のニトロ化合物;ニトロソベンゼン、クペロン等のニトロソ化合物;ジフェニルアミン、ジ−p−フルオロフェニルアミン、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド等のアミン系化合物;TEMPOラジカル(2,2,6,6−tetramethyl−1−piperidinyloxyl)、ジフェニルピクリルヒドラジル、ガルビノキシル、フェルダジル等の安定ラジカル;アルコルビン酸やエリソルビン酸及びその塩又はエステル;ジチオベンゾイルジスルフィド;塩化銅(II);メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、グルタチオン等のチオール類;Tris(2-carboxyethyl)phosphine塩酸塩等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、ラジカル捕捉剤や重合禁止剤としての機能をより有効に発揮できる化合物である、フェノチアジン及びその誘導体、フェノール系化合物、アスコルビン酸やエリソルビン酸及びそのエステルが好適であり、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンがより好適である。
【0037】
上記酸化防止剤の添加量は、チオール変性単量体の多量化を効果的に防止できれば特に限定されるものではないが、少なすぎると効果が発揮されず、多過ぎるとチオール変性単量体の性能が充分とはならなかったり着色を招くおそれがある。そのため、チオール変性単量体の質量(固形分)に対し、酸化防止剤が質量で10ppm以上であることが好ましく、より好ましくは20ppm以上、更に好ましくは50ppm以上、特に好ましくは100ppm以上であり、また、5000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下である。
【0038】
上記チオール変性単量体としてはまた、アルキレングリコール基を含む有機残基を有する化合物に、1分子中にカルボキシル基又は水酸基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化反応させて得られるものであることが好適である。より好ましくは、(ポリ)アルキレングリコールに、1分子中にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化反応させて得られるものであることであり、このようなエステル化反応工程を含む製造方法もまた、本発明の1つである。
【0039】
ところで、日本化学会編「第4版 実験化学講座24」(丸善株式会社、p320−331)によれば、チオールの合成法として、下記(i)〜(iii)の3手法が挙げられている。
(i)第一級、第二級のアルキルハロゲン化物やスルホン酸エステルと各種の硫黄化剤とによる置換反応を利用する合成法。
(ii)二重結合にチオ酢酸、チオ安息香酸を付加した後、加水分解してチオールを得る方法(付加反応を利用する合成法)。
(iii)ジスルフィド等の還元反応を利用する合成法。
【0040】
しかしながら、上記(i)の合成法によって本発明のチオール変性単量体を合成しようとすれば、合成段階が反応、精製、還元、精製と多いうえ、硫黄化剤についても高価なものが多く、工業的な実施には非常にコストがかかる。また、原料として、1〜2個のハロゲン基、スルホン酸エステル基のような置換可能な官能基を持つポリアルキレンオキシド化合物(以下、単に「原料化合物1」ともいう。)が必要となるが、本発明のように比較的分子量の大きいチオール変性単量体を得るための原料化合物1を純度よく得ることは非常に困難であり、また、得られたチオール変性単量体を望ましい純度まで精製することも非常に困難である。
【0041】
また上記(ii)の合成法によって本発明のチオール変性単量体を合成しようとすれば、ポリアルキレングリコールの両末端にアリル基等の二重結合を有する化合物(以下、単に「原料化合物2」ともいう。)に、チオ酢酸、チオ安息香酸等のチオカルボン酸を付加させた後、アルカリ加水分解を行う必要がある。しかし、上記(ii)の合成法においては、チオ酢酸やチオ安息香酸を二重結合に対して大過剰に用いなければならないところ、かかるチオ酢酸やチオ安息香酸は高価であり、また、チオ酢酸やチオ安息香酸及びその分解物が猛烈な臭気を持つため、合成と精製に特別の設備が必要となる。その結果、本発明のチオール変性単量体を得るためのコストが非常に高くなるという課題もある。
【0042】
更に上記(iii)の合成法によって本発明のチオール変性単量体を合成しようとすれば、上記(i)の合成法と同様に、原料として1〜2個のハロゲン基、スルホン酸エステル基のような置換可能な官能基を持つポリアルキレンオキシド化合物(原料化合物1)が必要となるが、上述の通り、本発明のように高分子量のチオール変性単量体を得るための原料化合物1を入手・合成することは困難である。
【0043】
これに対し、上述した本発明のチオール変性単量体の製造方法を採用すれば、高分子量のチオール変性単量体を低コストで、簡便かつ効率よく得ることができる。以下、本発明のチオール変性単量体の製造方法について更に説明する。
上記チオール変性単量体の製造方法において、アルキレングリコール基を含む有機残基を有する化合物(以下、単に「アルキレングリコール基含有化合物」ともいう。)としては、(ポリ)アルキレングリコールや、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール、アミノキシ(ポリ)アルキレングリコール、又は、それらの化合物の(ポリ)アルキレングリコールにカルボキシル基を導入した化合物等が挙げられる。好ましくは、(ポリ)アルキレングリコールである。
【0044】
上記(ポリ)アルキレングリコールは、市販のものを使用してもよいし、アルキレンオキシドの1種以上を水又はアルコールと反応させて合成して得てもよい。
上記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコールが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
上記アルキレンオキシドと水又はアルコールとの反応は、通常の手法で行えばよく、例えば、特開2002−173593号公報に記載の方法が挙げられる。具体的には、通常触媒の存在下、アルキレンオキシドと水又はアルコールとの混合溶液を加圧下で50〜200℃に加熱することによって行われる。この際、全てのアルキレンオキシドを一時に仕込んだ後に反応を行ってもよいし、予め水又はアルコールとアルキレンオキシドの一部を仕込んだ反応容器に、残りのアルキレンオキシドを連続添加又は逐次添加しながら反応を行ってもよい。
【0046】
上記(ポリ)アルキレングリコールにカルボキシル基を導入した化合物としては、(ポリ)アルキレングリコール(又は、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール若しくはアミノキシ(ポリ)アルキレングリコール)に、通常の手法でカルボキシル基を導入した化合物を用いることができる。導入手法としては、例えば、(ポリ)アルキレングリコールが有する水酸基を酸化する方法、モノクロル酢酸でエーテル化する方法、多価カルボン酸でエステル化する方法等が挙げられる。
【0047】
上記チオール変性単量体の製造方法において、1分子中にカルボキシル基又は水酸基とメルカプト基とを有する化合物(以下、「チオール基含有化合物」ともいう。)としては、アルキレングリコール基含有化合物中にメルカプト基を導入することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトイソブチル酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等のメルカプト基含有カルボン酸(メルカプトカルボン酸)や、メルカプトエタノール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、1分子中にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物、すなわちメルカプトカルボン酸が好適であり、特に、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトイソブチル酸、チオサリチル酸が好ましい。
【0048】
ここで、本発明のチオール変性単量体が上記(a)を満たすものである場合には、例えば、上述したチオール変性単量体の製造方法において、アルキレングリコール基含有化合物として、上記(ポリ)アルキレングリコール(又は、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール、アミノキシ(ポリ)アルキレングリコール、若しくは、それらの化合物の(ポリ)アルキレングリコールにカルボキシル基を導入した化合物が有する(ポリ)アルキレングリコール)に、炭素数3以上のアルキレンオキシドを付加してなる化合物を用いることにより製造することができる。
なお、付加反応の際には、炭素数3以上のオキシアルキレン基(より好ましくは第二級アルコール残基)の導入率を高めるために、触媒としてアルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの酸化物又は水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
また付加反応の際の反応温度は、これらの基の導入率を高めるために50〜200℃であることが好ましい。より好ましくは70〜170℃、更に好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0049】
ここで、上述したように、上記(a)の形態のチオール変性単量体の特に好ましい形態は、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の末端の少なくとも一単位が、第二級アルコール残基に由来する炭素数3以上のオキシアルキレン基であり、かつ該第二級アルコール残基に由来する第三級以上の炭素原子と、上記一般式(1)若しくは(2)で表される構造中のエステル結合の片方又はその両方とが、結合してなる形態である。このようなチオール変性単量体は、上記付加反応において、炭素数3以上のアルキレンオキシドとして第二級アルコール残基に由来するものを使用し、触媒として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を用いて、低温で反応させることにより、優先的に製造することができる。用いる触媒としては、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。また、反応温度は50〜200℃であることが好ましい。より好ましくは70〜170℃、更に好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0050】
また上記チオール変性単量体が上記(b)を満たすものである場合には、上述した本発明のチオール変性単量体の製造方法において、チオール基含有化合物として、カルボキシル基側に第三級以上の炭素原子を有するメルカプトカルボン酸を用いることにより製造することができる。このようなメルカプトカルボン酸としては、例えば、メルカプトイソブチル酸、チオサリチル酸が好適である。
【0051】
上記製造方法においては、上記アルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物とをエステル化反応させることになるが、エステル化反応は、通常の液相中におけるエステル反応の常法を用いて行うことができる。更に、例えば減圧したり、キシレン等のエントレーナーを用いて行ってもよい。また、必要により、硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用いて行ってもよい。
上記エステル化の反応時間は、用いる酸触媒の種類や量、アルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物との混合比、及び、溶液濃度等に応じて適宜設計すればよい。
【0052】
上記アルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物との混合比は、望まれるチオール変性単量体の純度やコスト、合成法に応じて下記のように選択すればよい。
(1)アルキレングリコール基含有化合物由来の反応に供される水酸基、カルボキシル基等の官能基量に対して、チオール基含有化合物由来の水酸基やカルボキシル基をモル比で大過剰とする。具体的には、反応速度の観点から、モル比は好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、製造コストの観点から、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下である。この方法により、短時間で純度良くチオール変性単量体を得ることができる。反応後の粗生成物はそのまま用いてもよいが、必要に応じて精製し、未反応物を除去してもよい。
【0053】
(2)アルキレングリコール基含有化合物由来の反応に供される水酸基、カルボキシル基等の官能基量に対して、チオール基含有化合物由来の水酸基やカルボキシル基をモル比で2倍以下とする。具体的には、収率の観点から、モル比は好ましくは0.3倍以上、より好ましくは0.5倍以上、更に好ましくは0.7倍以上、更に好ましくは0.8倍以上であり、未反応物の残存量の観点から、好ましくは1.8倍以下、より好ましくは1.6倍以下、更に好ましくは1.4倍以下、更に好ましくは1.3倍以下である。反応後の粗生成物は必要に応じて精製してもよいが、この方法では未反応のチオール基含有化合物が少ないため、これを除去する操作を省略できることが多く、製造工程をより簡略化することができる。
【0054】
ここで、得られるチオール変性単量体において、上記一般式(2)で表されるチオール変性単量体(モノチオール変性体)の含有量を多くしたい場合には、例えば、アルキレングリコール基含有化合物の一方の末端のカルボキシル基又は水酸基をアルキル基等で保護し、他方の末端のカルボキシル基又は水酸基に、チオール基含有化合物をエステル化させればよい。なお、アルキレングリコール基含有化合物の一方の末端に付加させたアルキル基等の保護基は、必要に応じて脱離させればよい。
【0055】
上記チオール変性単量体の製造方法においてはまた、エステル化反応後の反応溶液のpHを調整する工程を含んでもよく、これにより、生じたエステルが脱溶媒工程によって加水分解されることを充分に防ぐことができる。pHの調整は、上記エステル化反応によって得られた反応溶液中に、例えばNaOH水溶液を投入することによって行うことができる。加水分解反応を抑制するためには、反応溶液のpHとしては、3以上とすることが好ましく、より好ましくは4以上である。また、8以下とすることが好ましく、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下であり、特に好ましくは5.5以下である。
【0056】
上記エステル化反応により得られた反応粗生成物(本発明のチオール変性単量体を含むもの)は、エステル反応を行った後の反応溶液(すなわち、pH未調整の反応溶液)又はpH調整後の反応溶液を室温まで冷却することによって固化することが好適である。これにより、反応溶液から反応粗生成物(上記チオール変性単量体を含むもの)を容易に取得することができる。
得られた反応粗生成物の固化物は、そのまま乾燥してチオール変性単量体として用いてもよいが、得られた反応粗生成物に未反応のチオール基含有化合物等の不純物が含まれ、これらを除去して本発明のチオール変性単量体を精製する必要がある場合には、例えば、反応粗生成物の固化物を乾燥・粉砕した後、チオール基含有化合物等の不純物は溶解するもののチオール変性単量体は溶解しない溶剤、例えばジエチルエーテル等を用いて固化物を洗浄してもよい。
なお、作業工程が増えることによる製造コストの高騰、及び、溶剤の使用による環境への負荷を考慮すると、上記溶剤を用いた洗浄作業は避けることが好ましい。このため、上述したように、原料化合物であるアルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物との混合比は、アルキレングリコール基含有化合物由来の反応に供される水酸基やカルボキシル基等の官能基量に対して、チオール基含有化合物由来の水酸基やカルボキシル基をモル比で2倍以下となるように行うことが好適である。未反応物の残存量の観点から、好ましくは1.8倍以下、より好ましくは1.6倍以下、更に好ましくは1.4倍以下、更に好ましくは1.3倍以下である。
【0057】
ところで、本発明者らは、反応粗生成物の固化物を乾燥して乾燥固化物としたり、この乾燥固化物に更にジエチルエーテル等を用いて洗浄したりして反応粗生成物からチオール変性単量体を取得する際に、チオール変性単量体が多量化する場合があることを見いだした。そして、鋭意検討した結果、かかるチオール変性単量体の多量化は、チオール変性単量体を含む反応粗生成物の固化物を乾燥することに原因があることを見いだした。このため、反応粗生成物の固化物は、乾燥しないように取り扱うことが好ましく、これにより、多量化物の生成を効果的に抑制することができることが分かった。
【0058】
上記チオール変性単量体の製造方法においてはまた、酸化防止剤を添加する工程を含むことが好適であり、これにより、例えばチオール変性単量体が溶解された溶液を加熱した場合であっても、単量体の多量化を充分に抑制することが可能となる。なお、これは以下の理由によるものと考えられる。
すなわち、原料のアルキレングリコール基含有化合物とチオール基含有化合物の反応には、通常加熱が必要である。一方、反応混合物を加熱すれば、反応混合物中のチオール変性単量体のチオール基から熱ラジカルが発生し、多量化が起こり得る。そこで、ラジカル捕捉能を持つ酸化防止剤を添加することによって、かかる多量化を効果的に抑制するのである。
上記酸化防止剤の添加は、いずれの製造段階でなされてもよく、例えば、エステル化反応の際や、反応溶液から反応粗生成物の固化物を得る際等が挙げられる。
上記酸化防止剤の具体例及び好適な化合物については、上述したとおりである。
上記酸化防止剤の添加量は、チオール変性単量体の多量化を効果的に防止できれば特に限定されるものではなく、チオール変性単量体中における酸化防止剤の含有量が上述した範囲内となるように設定することが好適である。
【0059】
上述したとおり、チオール変性単量体の固化物は、乾燥させると多量化し易い傾向が見受けられる。このため、本発明のチオール変性単量体は、溶液状態で保存することが好ましく、水溶液状態でpH4以上で保存することが好適である。より好ましくはpH5以上、更に好ましくはpH6以上で保存することであり、また、pH7以下で保存することが好ましい。
【0060】
上記チオール変性単量体の製造方法においてはまた、チオール変性単量体が容易に多量化し易く、本発明のチオール変性単量体にも多量化物が含まれるため、チオール変性単量体から多量化物を取り除く工程を含んでいてもよい。多量化物を取り除く方法としては、例えば、透析や限外ろ過、GPC分取法といった分子量分画法等が挙げられる。
なお、多量化物を取り除く工程の追加は製造コストの高騰を招くこととなることから、多量化物を含有するチオール変性単量体をそのまま、例えば、後述する重合体の調製等に利用してもよい。
【0061】
本発明はまた、上記チオール変性単量体の存在下で、不飽和カルボン酸系単量体(以下、「単量体(a)」ともいう。)及び/又は不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(以下、「単量体(b)」ともいう。)を含む不飽和単量体成分を重合して得られる(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体でもある。
このような重合体は、上記チオール変性単量体由来の(ポリ)アルキレングリコール鎖((ポリ)アルキレングリコール鎖(1))と、該(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の少なくとも一端に硫黄原子含有基を介して結合した不飽和単量体成分由来の構成単位を含むポリマー部位とを有する構造を持つことになり、極めて高い分散性能を発揮できることとなる。この場合、例えば、下記一般式(3)又は(4):
【0062】
【化4】

【0063】
(式中、P、P及びPは、同一又は異なって、不飽和カルボン酸系単量体及び/又は不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体を含む不飽和単量体成分由来の構成単位を含むポリマー部位を表す。R及びRは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。nは、オキシアルキレン基の平均モル数を表し、1〜1000の整数である。Rは、水素原子又は有機残基を表す。)で表される構造を有する重合体であることが好ましい。
【0064】
このような構造に関し、例えば、上記不飽和単量体成分として不飽和カルボン酸系単量体(a)を少なくとも用いる場合には、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の両末端又は片末端に該単量体(a)由来のカルボキシル基を有するため、セメント粒子に対してカルボキシル基を介して付着し、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の立体反発によって、セメント粒子を効果的に分散させることができると考えられる。また、上記不飽和単量体成分として不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(b)を少なくとも用いる場合には、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の両末端又は片末端に該単量体(b)由来の(ポリ)アルキレングリコール鎖(以下、「(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)」ともいう。)を有するため、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の立体反発に、(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)の立体反発が加わって、その相乗効果により、セメント粒子を分散させる性能が向上すると考えられる。
【0065】
上記不飽和単量体成分において、不飽和カルボン酸系単量体(a)(単量体(a))としては、例えば、下記式(5):
【0066】
【化5】

【0067】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は(CHCOOM(ここで、−(CHCOOMは、−COOM又は他の−(CHCOOMと無水物を形成していてもよい。)を表す。xは、0〜2の整数である。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、一価金属、二価金属、三価金属、第4級アンモニウム塩基又は有機アミン塩基を表す。)で表される化合物が好ましい。
【0068】
上記一般式(5)で表される単量体(a)の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体;これらのカルボン酸の無水物又は塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、三価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの塩が好ましく、中でも、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩がより好ましい。
【0069】
上記不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(b)(単量体(b))としては、例えば、下記式(6):
【0070】
【化6】

【0071】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。R10は、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す(ここで、2種以上のオキシアルキレン基は、ブロック状に導入されていてもランダム状に導入されていてもよい。)。yは、0〜2の整数である。zは0又は1である。pは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の整数である。)で表される化合物が好適である。
【0072】
上記一般式(6)において、R10は、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表すが、該炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、炭素数3〜20の脂環式アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記R10はまた、セメント粒子の分散性の観点から親水性基であることが好ましく、具体的には、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることが好適である。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
【0073】
また上記一般式(6)において、−(AO)−で表される(ポリ)アルキレングリコール鎖は、上述した(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)に相当するが、AOで表されるオキシアルキレン基としては、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を構成する該基と同様であることが好ましい。また、セメント混和剤に配合した場合にセメント粒子を効果的に分散させる観点から、より高い親水性を有することが好適であり、主として炭素数2のオキシアルキレン基(オキシエチレン基)であることが好ましい。この場合のオキシエチレン基の含有量については、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の説明において上述したとおりである。
また上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)と同様に、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)中に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入することが好適であり、その好ましい形態等についても上述したとおりである。
【0074】
上記一般式(6)におけるpは、オキシアルキレン基の平均付加モル数((ポリ)アルキレングリコール鎖(2)の鎖長)を表し、1〜300の整数である。好ましくは4モル以上、より好ましくは10モル以上、更に好ましくは15モル以上、より更に好ましくは20モル以上、特に好ましくは25モル以上、最も好ましくは30モル以上である。また、好ましくは250モル以下、より好ましくは200モル以下、更に好ましくは150モル以下、より更に好ましくは125モル以下、特に好ましくは100モル以下、最も好ましくは75モル以下である。
【0075】
上記一般式(6)で表される単量体(b)の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール類、アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、オレイルアルコール等の炭素数3〜20の不飽和脂肪族アルコール類、シクロヘキサノール等の炭素数3〜20の脂環式アルコール類、フェノール、フェニルメタノール(ベンジルアルコール)、メチルフェノール(クレゾール)、p−エチルフェノール、ジメチルフェノール(キシレノール)、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、フェニルフェノール、ナフトール等の炭素数6〜20の芳香族アルコール類のいずれかに、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加することによって得られるアルコキシポリアルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸やクロトン酸とのエステル化物;炭素数2〜18のアルキレンオキシドを重合したポリアルキレングリコール類と(メタ)アクリル酸、クロトン酸とのエステル化物;等を挙げることができ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの不飽和エステル類のうち、(メタ)アクリル酸のアルコキシポリアルキレングリコール類のエステルが好ましい。
【0076】
上記単量体(b)の具体例としてはまた、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オール、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等の不飽和アルコールに、アルキレンオキシドを1〜300モル付加した化合物を挙げることができ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの不飽和エーテル類のうち、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールを用いた化合物が好ましい。
なお、上記不飽和エステル類及び不飽和エーテル類において、アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等の炭素数2〜18のアルキレンオキシドから選択される1種又は2種以上のアルキレンオキシドを用いることが好適である。2種以上のアルキレンオキシドを付加させる場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれであってもよい。
【0077】
上記不飽和単量体成分としてはまた、上記単量体(a)及び/又は単量体(b)の他に、共重合可能な単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)を含んでいてもよい。上記単量体(c)としては、以下の1種又は2種以上を用いることができる。
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と、炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコール、又は、炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加してなるアルキレンオキシドの付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレンオキシドとのモノエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と、炭素数1〜20のアルキルアミン及び炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物、又は、これらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールの片末端アミノ化物とのモノアミド、ジアミド類;
【0078】
アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸類と、炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコール、又は、炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加してなるアルキレンオキシドの付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレングリコールとのエステル類;
上記不飽和モノカルボン酸と、炭素数1〜20のアルキルアミン及び炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物、又は、これらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールの片末端アミノ化物とのアミド類;
【0079】
スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、2−メチルプロパンスルホン酸メタクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、これらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;
アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリルアルキルアミド、メタクリルアルキルアミド等の不飽和アミド類;
ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の不飽和アミノ化合物類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等の炭素数3〜20のアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
スチレン等の芳香族ビニル類;等。
【0080】
上記不飽和単量体成分における単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の質量比((a)/(b)/(c)の質量比率)としては、単量体(a)が主成分である場合には、50〜99/50〜1/0〜40であることが好ましく、より好ましくは55〜95/45〜5/0〜40、更に好ましくは60〜90/40〜10/0〜40、特に好ましくは65〜85/35〜15/0〜40である。また、単量体(b)が主成分である場合には、1〜50/99〜50/0〜40であることが好ましく、より好ましくは2〜40/98〜60/0〜40、更に好ましくは5〜30/95〜70/0〜40、特に好ましくは7.5〜25/92.5〜75/0〜40である。
ある。
【0081】
上記チオール変性単量体と、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量との関係は、(単量体(a)+単量体(b)+単量体(c))の和を100%とした際の上記チオール変性単量体の比率(単位は質量%)として表すと、単量体(a)が主成分である場合には、50〜99であることが好ましく、より好ましくは55〜95、更に好ましくは60〜90、特に好ましくは65〜85である。また、単量体(b)が主成分である場合には、0.5〜50であることが好ましく、より好ましくは1〜45、更に好ましくは2〜40、より更に好ましくは3〜35、特に好ましくは4〜30、最も好ましくは5〜25である。
【0082】
上記重合反応は、上述した本発明のチオール変性単量体の存在下で行われることになるが、当該単量体の使用により、上記重合体中に(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)(上記一般式(1)又は(2)中の−(AO)n−で表される部分)が導入されることになる。
ここで、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の量と、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量との関係は、(単量体(a)+単量体(b)+単量体(c))の和を100%とした際の(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の比率(単位は質量%)として表すと、単量体(a)が主成分である場合には、50〜99であることが好ましく、より好ましくは55〜95、更に好ましくは60〜90、特に好ましくは65〜85である。また、単量体(b)が主成分である場合には、0.5〜50であることが好ましく、より好ましくは1〜45、更に好ましくは2〜40、より更に好ましくは3〜35、特に好ましくは4〜30、最も好ましくは5〜25である。
【0083】
上記重合反応に上記チオール変性単量体を用いることによって、チオール基(メルカプト基)から熱、光、放射線等を使用して発生したラジカル、若しくは、必要に応じて別に使用した重合開始剤によって発生したラジカルが、チオール基に連鎖移動するか、又は、ジスルフィド結合を開裂させ、オキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の片末端又は両末端に硫黄原子(硫黄原子含有基)を介して単量体が次々に付加して重合体が形成されることになる。
【0084】
この場合、n個のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の片末端又は両末端に、硫黄原子(硫黄原子含有基)を介して、単量体(a)由来のカルボキシル基を有する構成単位と、単量体(b)由来のp個のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)を有する構成単位と、単量体(c)を使用した場合には更に単量体(c)由来の構成単位とを有する重合体が主として生成する。それ以外に、上記重合体の構造が2回又はそれ以上繰り返されている重合体や、単量体(a)由来のカルボキシル基を有する構成単位と、単量体(b)由来のp個のオキシアルキレン基からなる(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)を有する構成単位と、単量体(c)を使用した場合には更に単量体(c)由来の構成単位とを有する重合体が副次的に生成する。更に、単量体(a)と単量体(b)との重合体や、単量体(a)と単量体(b)と単量体(c)との重合体が生成することもある。
【0085】
上記重合反応には、上記チオール変性単量体以外に、通常使用されるラジカル重合開始剤を併用してもよい。ラジカル重合開始剤としては、既知のあらゆるラジカル重合開始剤が使用可能である。
上記重合開始剤の使用量は、上記チオール変性単量体の種類や量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、ラジカル重合開始剤が重合する単量体に対して少なすぎると、ラジカル濃度が低すぎて重合反応が遅くなり、逆に多すぎると、ラジカル濃度が高すぎて、メルカプト基やジスルフィド結合からの重合より単量体からの重合が優先し、ブロックポリマーの収率が充分とはならないおそれがある。それゆえ、ラジカル重合開始剤の使用量は、不飽和単量体成分100モル%に対して、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、更に好ましくは0.1モル%以上、特に好ましくは0.2モル%以上であり、また、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは2モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0086】
上記重合反応において、水を溶媒に用いて溶液重合を行う場合には、重合後に不溶成分を除去する必要がないため、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが好適である。
例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ開始剤;等が使用される。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの重合開始剤のうち、メルカプト基やジスルフィド結合からラジカルを発生させやすい水溶性アゾ開始剤が好適である。
【0087】
この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜リン酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩若しくはエステル等の促進剤(還元剤)を併用することもできる。これらの促進剤(還元剤)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。特に、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせが好ましく、有機系還元剤としては、L−アスコルビン酸又はその塩、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸又はその塩、エリソルビン酸エステル等が好適である。なお、促進剤(還元剤)の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、併用される重合開始剤100モル%に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、また、好ましくは1000モル%以下、より好ましくは500モル%以下、更に好ましくは400モル%以下である。
【0088】
上記重合反応において、低級アルコール類、芳香族若しくは脂肪族炭化水素類、エステル類、ケトン類を溶媒に用いて溶液重合を行う場合、又は、塊状重合を行う場合には、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等のアゾアミド化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物;等がラジカル重合開始剤として使用される。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの重合開始剤のうち、メルカプト基やジスルフィド結合からラジカルを発生させやすいアゾ開始剤が好適である。
【0089】
この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。なお、促進剤の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、併用する重合開始剤100モル%に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、また、好ましくは1000モル%以下、より好ましくは500モル%以下、更に好ましくは400モル%以下である。
【0090】
上記重合反応において、水と低級アルコールとの混合溶媒を用いる場合には、上記ラジカル重合開始剤、又は、上記ラジカル重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して用いることができる。
【0091】
上記重合反応にはまた、上記チオール変性単量体以外に、連鎖移動剤を併用してもよい。使用可能な連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩;等の通常使用される親水性連鎖移動剤が挙げられる。
【0092】
上記連鎖移動剤としてはまた、疎水性連鎖移動剤を使用することもできる。疎水性連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等の炭素数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を用いることが好ましい。
なお、上記連鎖移動剤としては、1種又は2種以上使用することができ、また、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0093】
上記連鎖移動剤の使用量は、上記チオール変性単量体の種類や量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、不飽和単量体成分の合計モル数100モル%に対して、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.25モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上であり、また、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0094】
上記重合反応としては、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶液重合は、回分式でも連続式でもそれらの2種以上の組み合せでも行うことができる。また、重合の際、必要に応じて使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
上記重合反応において、重合温度は、使用する溶媒や重合開始剤の種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、また、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下である。
また不飽和単量体成分の反応容器への添加方法としては特に限定されず、例えば、全量を反応容器に初期に一括投入する方法;全量を反応容器に分割又は連続投入する方法;一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割又は連続投入する方法;のいずれであってもよい。また、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また、目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0096】
上記重合反応において、所定の分子量の共重合体を再現性よく得るには、重合反応を安定に進行させることが必要であることから、溶液重合する場合には、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは4ppm以下、更に好ましくは2ppm以下、最も好ましくは、1ppm以下である。なお、溶媒に単量体を添加後、窒素置換等を行う場合には、単量体をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とすることが好ましい。
【0097】
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよいが、溶媒中の酸素を追い出す方法としては、例えば、下記の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間激しく攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
【0098】
上記重合反応により得られた重合体は、取り扱い性の観点から、水溶液状態で弱酸性以上のpH範囲に調整しておくことが好ましい。より好ましくは、pH4以上、更に好ましくはpH5以上、特に好ましくはpH5.5以上である。一方、重合反応をpHが7を超える条件で行ってもよいが、その場合、重合率の低下が起こると同時に、重合性が充分とはならず分散性能が低下するため、酸性から中性のpH範囲で共重合反応を行うことが好ましい。より好ましくはpH7以下である。このように重合系がpH7以下になる好ましい重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物等の水溶性アゾ開始剤、過酸化水素、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせを用いることが好ましい。
従って、低いpHで重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してより高いpHに調整することが好ましい。
【0099】
好適な実施形態として、具体的には、pH6未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法;pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH5以上に調整する方法;pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法等が挙げられる。pHの調整は、例えば、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミン等のアルカリ性物質を用いて行うことができる。また、pHを下げる必要がある場合、特に、重合の際にpHの調整が必要な場合は、例えば、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸等の酸性物質を用いてpHの調整を行うことができ、これらの酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等からリン酸が好ましい。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
【0100】
上記重合反応により得られる重合体の分子量としては、重量平均分子量で10000以上であることが好ましく、より好ましくは20000以上、更に好ましくは30000以上、特に好ましくは40000以上である。また、300000以下であることが好ましく、より好ましくは200000以下、更に好ましくは150000以下、特に好ましくは100000以下である。
なお、重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0101】
上記重合反応により得られた重合体は、必要に応じて、個々の重合体を単離する工程に付してもよいが、作業効率や製造コスト等の観点から、個々の重合体を単離することなく、例えば、分散剤(特にセメント混和剤)等の各種用途に使用することができる。
なお、このように上記チオール変性単量体及び/又は上記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体を含む分散剤、並びに、セメント混和剤もまた、本発明に含まれる。
以下、代表的な分散剤として、セメント混和剤について説明する。
【0102】
本発明のセメント混和剤において、上記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体の配合量としては、所望の分散性能に応じて適宜調節すればよいが、例えば、固形分換算で、セメント混和剤の全質量100質量%に対して、50質量%以上であることが好適である。より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
上記セメント混和剤には、必要に応じて、上記重合体以外にポリカルボン酸系重合体を配合してもよい。その際、配合量は、上記重合体/ポリカルボン酸系重合体の比率(単位は質量%)で、90/10〜10/90とすることが好適である。より好ましくは80/20〜20/80、更に好ましくは70/30〜30/70、特に好ましくは60/40〜40/60である。
【0103】
また上記セメント混和剤が単量体成分を含むものである場合、上記チオール変性単量体の含有量は、例えば、固形分換算で、セメント混和剤の全質量100質量%に対して、50質量%以上であることが好適である。より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
この場合にも、ポリカルボン酸系重合体を配合してもよい。その際、配合量は、上記チオール変性単量体/ポリカルボン酸系重合体の比率(単位は質量%)で、90/10〜10/90とすることが好適である。より好ましくは80/20〜20/80、更に好ましくは70/30〜30/70、特に好ましくは60/40〜40/60である。
なお、上記セメント混和剤が、上記重合体及びチオール変性単量体を含む場合、その含有量は、これらの総量として上述した範囲となることが好適であり、また、ポリカルボン酸系重合体との配合量も、これらの総量として上述した範囲となることが好ましい。
【0104】
上記セメント混和剤にはまた、必要に応じて、消泡剤((ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物やジエチレングリコールヘプチルエーテル等)や、ポリアルキレンイミン(エチレンイミンやプロピレンイミン等)等のポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を配合することができる。
【0105】
上記セメント混和剤には更に、従来公知のセメント混和剤の1種又は2種以上含んでもよい。従来公知のセメント混和剤としては、従来公知のポリカルボン酸系混和剤及び分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤が好ましい。これらの従来公知のセメント混和剤を併用することにより、セメントの銘柄やロット番号によらず、安定した分散性能を発揮するセメント混和剤となる。
【0106】
上記スルホン酸系混和剤は、主にスルホン酸基によってもたらされる静電的反発によりセメントに対する分散性を発現する混和剤であって、従来公知の各種スルホン酸系混和剤を用いることができるが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系等の各種スルホン酸系混和剤が挙げられる。水/セメント比が高いコンクリートの場合には、リグニンスルホン酸塩系の混和剤が好適に使用され、一方、より高い分散性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートの場合には、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系等の混和剤が好適に使用される。なお、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0107】
上記セメント混和剤としてはまた、上記のスルホン酸系混和剤以外に、オキシカルボン酸系化合物を併用することができる。オキシカルボン酸系化合物を含有させることにより、高温の環境下においても、より高い分散保持性能を発揮することができる。
上記オキシカルボン酸系化合物としては、炭素数4〜10のオキシカルボン酸又はその塩が好ましく、オキシカルボン酸系化合物としてグルコン酸又はその塩を使用することが好ましい。
【0108】
上記セメント混和剤としては更に、必要に応じて、下記の(1)〜(11)に例示するような従来公知のセメント添加剤(材)と併用してもよい。
(1)水溶性高分子物質
(2)高分子エマルジョン
(4)早強剤・促進剤
(5)オキシアルキレン系以外の消泡剤
(6)AE剤
(7)その他界面活性剤
(8)防水剤
(9)防錆剤
(10)ひび割れ低減剤
(11)膨張材
【0109】
その他の従来公知のセメント添加剤(材)としては、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤等を挙げることができる。これらの従来公知のセメント添加剤(材)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0110】
本発明のセメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよいし、また、反応後にカルシウム、マグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置又はベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したり、スプレードライヤーによって乾燥固化させたりすることにより粉体化して使用してもよい。また、粉体化した本発明のセメント混和剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウト等に用いるプレミックス製品として使用してもよいし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
【0111】
上記セメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわち、セメントや石膏等のセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、更に必要に応じて、細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物の具体例としては、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。
【0112】
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、該セメント組成物としては、本発明のセメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含有することが好適である。このようなセメント組成物もまた、本発明の1つである。すなわち、セメントと、上記チオール変性単量体及び/又は上記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体とを含むセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0113】
本発明のセメント組成物において、セメントとしては特に限定されず、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられ、更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
【0114】
上記セメント組成物において、その1m当りの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比としては、単位水量が好ましくは100kg/m以上、185kg/m以下、より好ましくは120kg/m以上、175kg/m以下であり、使用セメント量が好ましくは200kg/m以上、800kg/m以下、より好ましくは250kg/m以上、800kg/m以下であり、水/セメント比(質量比)が好ましくは0.1以上、0.7以下、より好ましくは0.2以上、0.65以下であり、貧配合から富配合まで幅広く使用可能である。本発明のセメント混和剤は、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15以上、0.5以下(好ましくは0.15以上、0.4以下)といった水/セメント比の低い領域においても使用可能である。更に、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリートや、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0115】
上記セメント組成物における本発明のチオール変性単量体及び/又は(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体の配合割合としては、例えば、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、これらの総量として、固形分換算でセメント質量の0.01質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。これにより、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。0.01%未満であると、性能的に充分とはならないおそれがあり、また、10質量%を超えると、分散性を向上させる効果が実質的に飽和することに加え、必要以上に本発明のセメント混和剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。より好ましくは、0.02質量%以上、5質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以上、3質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以上、2質量%以下である。
【0116】
上記セメント組成物は、高減水率領域においても高い分散性と分散保持性能を有し、かつ、低温時においても充分な初期分散性と粘性低減性とを発揮し、優れたワーカビリティを有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【発明の効果】
【0117】
本発明のチオール変性単量体は、上述の構成よりなるので、各種性能、特に耐加水分解性能及び分散性能に著しく優れるものである。また、このような単量体の存在下、不飽和カルボン酸系単量体や不飽和ポリオキシアルキレングリコール系単量体を重合して得られる重合体は、極めて高度の分散性能を有するものであるため、分散剤やセメント混和剤に特に有用なものであり、コンクリートを取り扱う土木・建設分野等で多大の貢献をなすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0118】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとし、また、表中の「−」は測定・分析していないこと、又は、表記の成分を使用していないことを意味するものとする。
本明細書に記載の各略号について、表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
まず、ポリアルキレングリコール(「PAG」とも称す。)、チオール変性単量体(「PAGチオール」とも称す。)、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体及び比較重合体のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析条件・解析条件及び液体クロマトグラフィー(LC)分析条件・解析条件について説明する。また、PAGチオール、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体及び比較重合体の固形分を求める測定法についても説明する。
【0121】
<GPC分析法>
原料PAGは、下記条件で数平均分子量(Mn)を分析し、このMnから、PAG中のオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数(AO繰り返し単位数)を算出した。また、実施例で得た本発明重合体及び比較例で得た比較重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、以下のような測定条件を用いて測定した。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSK guard column SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液を使用した。
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した。
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(PAG、PAGチオールは試料濃度0.4質量%、重合体は試料濃度0.5質量%の溶離液溶液)
【0122】
<GPC解析条件(重合体の分析:G−3)>
得られたRIクロマトグラムにおいて、ポリマー溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ポリマーを検出・解析した。ただし、単量体、単量体由来の不純物、PAGチオール由来と思われる低分子量体ピーク等がポリマーピークに一部重なって測定された場合、それらとポリマーの重なり部分の最凹部において垂直分割して重合体部と単量体部とを分離し、重合体部のみの分子量・分子量分布を測定した。重合体部とそれ以外が完全に重なり分離できない場合はまとめて計算した。
重合体純分の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
重合体純分=(重合体ピーク面積)/(重合体ピーク面積+重合体以外のピーク面積)
【0123】
<LC分析法>
LCによる分析法の一例を示す。但し、PAGチオールの構造によってはこの条件で分析できないものがあり、その際は適宜LCカラムや溶離液等の条件を変更して分析を行った。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
カラム:GLサイエンス Inertsil ODS−2 ガードカラム+カラム(内径4.6mm×250mm×3本)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4.0に調整した溶液を使用した
流量:0.6mL/min
カラム温度:40℃
試料液注入量:100μL(試料濃度1質量%の溶離液溶液)
【0124】
<LC解析条件:PAGチオールの分析>
総エステル化率の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
総エステル化率=(モノエステルピーク面積+ジエステルピーク面積)/(原料PAG面積+モノエステルピーク面積+ジエステルピーク面積)
ジエステル/総エステル比の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
ジエステル/総エステル比=(ジエステルピーク面積)/(モノエステルピーク面積+ジエステルピーク面積)
なお、ここでのモノエステルとは、モノチオール変性単量体であり、ジエステルとは、ジチオール変性体である。
【0125】
<固形分の測定法>
試料約0.5gをアルミ皿に量り採り、水約1gで希釈して均一に広げた。窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥させ、デシケーター中で放冷した後、乾燥後質量を量った。乾燥前後の質量差により固形分(不揮発分)濃度を計算した。
PAGチオールや、重合体の水溶液の濃度としては、特に断りがない限り、上記の手順で測定した固形分を用いた。
【0126】
(PAG)
原料PAG(PAG No.G−3、G−12、G−13及びG−14)について、表2に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
表2中、「PEG」とはポリエチレングリコールを意味する(以下、同様である。)。また、「(EO)/(AO)wt」とは、PAGを構成する全アルキレンオキシド(AO)100質量%中のエチレンオキシドの質量割合を意味し、「末端2級OH率」とは、PAGの末端に位置する第2級アルコール残基に由来する水酸基数を、PAGの全末端の水酸基数で除した値(%)、すなわち「末端2級OH率(%)=末端第2級OH基数/全末端のOH基数」を意味し、NMRで分析可能である。
ここで、PAGの末端が第2級アルコール残基に由来する基である場合の構造を模式的に示すと、例えば、下記式:
HO−(C(R)−C−O)−(C−C−O)−(C−C−O)−・・・
(Rは、有機残基を表す。)となり、また、PAGの末端が第1級アルコール残基に由来するものである場合の構造は、例えば、下記式:
HO−(C−C(R)−O)−(C−C−O)−(C−C−O)−・・・
のように示される。
【0129】
表2中、G−12〜G−14のPAGは、特開2002−173593号公報に記載の方法によって合成した。すなわち、以下のようにして合成した。なお、原料アルコールの沸点が低く減圧脱水できない場合は、別途アルコールの一部をナトリウムアルコキシドに調整して反応を行った。また、AO(アルキレンオキシド)付加数が多く反応が1段で終了できないポリアルキレングリコールについては、所定のAO付加数になるまで同様の手順を繰り返して合成した。
(1)ポリアルキレングリコールの合成法(エチレンオキシドの付加)
原料アルコール、及び、仕上がり重量に対して500ppmの水酸化ナトリウム(30%水溶液)を、攪拌器を備えた耐圧反応容器に仕込んだ。オイルバスを用いて反応系内を100℃に加温し、系内に窒素をゆっくりとバブリングしながら、真空ポンプで2時間100Torrに減圧し、水分を留去した。反応器内を150℃に加温し、窒素を導入して内圧を0.2MPaに調整した。反応器内温を150±2℃に保ちながら、所定量のエチレンオキシドを添加した。但し、反応器内圧は0.8MPaを超えないように、反応器内のエチレンオキシド分圧は50%を超えないようにした。エチレンオキシドの添加終了後、反応器内を1時間150℃に保ち、反応を完結させた。
(2)ポリアルキレングリコールの合成法(プロピレンオキシド、ブチレンオキシドの付加)
反応温度を125℃とした以外は、(1)と同様の手順で行った。
【0130】
比較例P13、実施例P26〜P30
(PAGチオールの製造)
表4−1〜4−2に示すように、所定のPAG、チオール基含有化合物(1分子中にカルボキシル基又は水酸基とメルカプト基とを有する化合物)、酸触媒及び酸化防止剤を原料として、所定の仕込み量(単位:g)を仕込み、所定の反応温度・反応時間で、チオール変性単量体(PAGチオール)を調製した。得られた生成物の主成分の構造等を表4−4に示す。
また表4−1中の製法1は、以下の通りである。
【0131】
<製法1>
(1)エステル化工程
ジムロート冷却管付の水分定量受器、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に原料を仕込んだ。水分定量受器をシクロヘキサン(溶媒)で満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら所定時間加温し、脱水エステル化反応を行った。
なお、反応時間は、理論脱水量への到達及びLCとGPCの分析結果により決定した。
(2)脱溶媒工程
エステル化工程後、固化しないように撹拌しながら反応溶液を60℃以下に放冷した後、所定量の30%NaOH水溶液と水の混合物を速やかに反応器内に投入した。次に、この反応溶液を約70℃まで昇温し、還流が落ち着いてから徐々に約100℃まで加温してシクロヘキサンを留去した。溶媒留去後、加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロヘキサンを除去し、チオール変性単量体(PAGチオール)の水溶液を得た。
(3)H−NMR分析
PAGチオールのエステル化工程後のサンプルを一部採取し、溶媒を重クロロホルムに置換してH−NMRスペクトルを測定した。
(i)測定条件
機器:Varian 400MHz−NMR Unity plus
溶媒:CDCl(TMSを0.05vol%含有)
温度:30℃
積算:32回
(ii)結果
下記表3のようになった。
【0132】
【表3】

【0133】
表3より、原料由来のピーク位置が一部シフトし、エステル結合由来のピークが生成したことから、目的物であるPEGと3−MPAのエステル化物が生成したことを確認した。
なお、表3では、比較例P13で得たT−9についての解析結果しか記載していないが、実施例P26〜P30で得た生成物も同様の解析結果となる。
【0134】
比較例P13、実施例P26〜P30について、エステル化工程後の反応粗生成物の総エステル化率、ジエステル/総エステル、及び、チオール変性単量体純分をそれぞれ分析した。また、脱溶媒工程後に得られたチオール変性単量体(PAGチオール)の総エステル化率、ジエステル/総エステル、及び、チオール変性単量体純分をそれぞれ分析した。その結果を表4−3に示す。
【0135】
【表4−1】

【0136】
【表4−2】

【0137】
【表4−3】

【0138】
【表4−4】

【0139】
比較例F93、実施例F95〜F97
((ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール重合体)
次に、比較例P13、実施例P26、P28又はP29で得られたチオール変性単量体(PAGチオール)を用いて、不飽和カルボン酸系単量体としての(メタ)アクリル酸と、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体としてのポリアルキレンエチレングリコール系モノマー(以下、「PEGモノマー」ともいう。)とを重合して得られる重合体の実施例及び参考例について説明する。
表5−1〜5−2に記載する重合条件で重合体を合成した。各重合体についての分析結果は表5−1に記載する通りである。
なお、これらの実施例及び比較例では、重合体の組成は、SMAA換算(不飽和カルボン酸系単量体をNaOHで完全中和した場合)の質量比で表しており、PAGチオールは外割で考慮しているので、合計は100%になっていない。
【0140】
【表5−1】

【0141】
【表5−2】

【0142】
また表中の製法F−1は、以下の通りである。
<製法F−1>
単量体溶液として、所定量の単量体、PAGチオール、水酸化ナトリウムの水溶液を調製した。開始剤溶液として、所定量の開始剤水溶液を調製した。
ジムロート冷却管、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素ガス導入管、温度センサーを備えたガラス製反応器内に所定量の水を仕込み、250rpmで撹拌下、窒素ガスを100〜200mL/minで導入しながら所定温度まで加温した。続いて、所定量の単量体溶液を4時間、開始剤溶液を5時間かけて反応器内に滴下し、滴下完了後、所定温度で1時間保持して重合反応を完結させた。室温まで冷却後、必要に応じて、30%NaOH水溶液を加えてpHを調整し、重合体の水溶液を得た。
【0143】
なお、上述した製法F−1において得られた重合体は、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の両末端に硫黄原子含有基を介して結合したポリマー部位を有し、該ポリマー部位が不飽和カルボン酸系単量体(メタクリル酸)由来のカルボキシル基と、不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)由来の(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)とを有する重合体(iii)を主成分とし、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の片末端に硫黄原子含有基を介して結合したポリマー部位(前記と同様の構造)を有する重合体(i)と、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)の片末端に硫黄原子含有基を介して結合したポリマー部位(前記と同様の構造)を有する構成単位を、繰り返して有する重合体(ii)と、ポリマー部位(前記と同様の構造)の両末端に硫黄原子含有基を介して結合した(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を有する重合体(iv)とを、少量含む混合物であった。
【0144】
比較例F93及び実施例F95〜F97で得た重合体について、以下のようにして加水分解性能(保存安定性能)を評価した。
<加水分解性(60℃)試験方法>
比較例F93で得た比較重合体B−136、実施例F95で得た重合体B−138、実施例F96で得た重合体B−139、又は、実施例F97で得た重合体B−140を45質量%含む水溶液を各々準備し、該重合体水溶液のpH値を、5.5、6又は7の3段階に設定した。この1重合体につき3種類の重合体水溶液について、液温60℃にて0〜135日間保存した場合の重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mp)、数平均分子量(Mn)及び重合体純分を経時的に測定した。また、pH調整直後(保存0日)を基準とする重量平均分子量(Mw)の低下率を算出した。保存期間中、重合体水溶液の液温は60℃に維持した。結果を表6−1〜6−4に示す。また、表6−1〜6−4に記載のMw低下率をpH値ごとに対比したグラフを図1〜3に示す。
【0145】
【表6−1】

【0146】
【表6−2】

【0147】
【表6−3】

【0148】
【表6−4】

【0149】
ここで、エステル結合を有する重合体においては、エステル結合部分の加水分解を進むと、分子量(Mw等)が低下することになる。具体的に上記一般式(3)で表される重合体を例にして説明すると、例えば、
−S−R−COO−(AO)n−OC−R−S−P
→ P−S−R−COO−(AO)n−H
→ P
のようになり、分子量(Mw等)が低下することになる。そのため、重量平均分子量(Mw)の低下率が小さいほど、耐加水分解性が高いといえる。
この観点から、表6−1〜6−4及び図1〜3よりMw低下率を比較すると、本発明のチオール変性単量体を用いて得た重合体B−138(実施例F95)、重合体B−139(実施例F96)及びB−140(実施例F97)はいずれも、比較重合体B−136(比較例F93)に比較してMw低下率が著しく小さい。その差は、例えば、135日経過後において、pH=5.5で10%以上、pH=6で20%以上、pH=7で約30%以上もある。この結果から、本発明のチオール変性単量体を用いることによって、重合体の耐加水分解性が顕著に改善され、よって、長期にわたってより安定的に性能を発揮できることが分かった。
【0150】
比較例F1
(比較用重合体)
次に、PAGチオールの非存在下で、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコール系モノマー(以下「PEGモノマー」ともいう。)とを重合して得られる比較重合体の比較例について説明する。
表7−1〜7−2に記載する重合条件で、重合体を合成した。各重合体についての分析結果は表7−1に記載する通りである。
【0151】
【表7−1】

【0152】
【表7−2】

【0153】
これらの表では、重合体の組成は、SMAA換算(不飽和カルボン酸系単量体をNaOHで完全中和した場合)の質量比で表している。
表中の製法F−4は、以下の通りである。
<製法F−4>
単量体/連鎖移動剤溶液として、所定量の単量体及び連鎖移動剤を含む水溶液を調製した。また、開始剤溶液として、所定量の開始剤水溶液を調製した。
ジムロート冷却管、テフロン(登録商標)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素ガス導入管、温度センサーを備えたガラス製反応器内に所定量の水を仕込み、200rpmで撹拌下、窒素ガスを100〜200mL/minで導入しながら所定温度まで加温した。続いて、所定量の単量体溶液を4時間、開始剤溶液を5時間かけて反応器内に滴下し、滴下完了後、所定温度で1時間保持して重合反応を完結させた。室温まで冷却後、必要に応じて、30%NaOH水溶液を加えてpHを調整し、比較重合体の水溶液を得た。
得られた比較重合体は、不飽和カルボン酸系単量体(メタクリル酸)由来のカルボキシル基と不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)由来の(ポリ)アルキレングリコール鎖(2)とを有するが、(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を有しない重合体である。
【0154】
(分散剤、セメント混和剤)
試験例1−1〜5−3
次に、実施例F95〜F97で得た本発明の重合体及び比較例F93で得た比較重合体の分散性能等の評価を行った試験例について説明する。
なお、試験例2−1〜5−3で用いた重合体については、上述した比較例F93又は実施例F95〜F97で重合体水溶液を得た後、表8に示すpH値に調整した直後(すなわち、重合体の加水分解前)に、以下のモルタル試験を行った。
【0155】
<分散性能の評価方法:モルタル試験>
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で行った。
モルタル配合は、C/S/W=550/1350/220(g)とした。ただし、
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:セメント強さ試験用標準砂(セメント協会製)
W:本発明重合体又は比較重合体、及び、消泡剤のイオン交換水溶液
Wとして、表8に示した添加量の重合体水溶液を量り採り、消泡剤MA−404(ポゾリス物産製)を有姿でポリマー固形分に対して10質量%加え、更にイオン交換水を加えて所定量とし、充分に均一溶解させた。表8において重合体の添加量は、セメント重量に対する重合体固形分の重量%で表されている。
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、Wを投入し、1速で30秒間混練した。更に1速で混練しながら、Sを30秒かけて投入した。S投入終了後、2連で30秒間混練した後、ミキサーを停止し、15秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、75秒間静置した。75秒間静置後、更に60秒間2速で混練を行い、モルタルを調製した。
【0156】
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフローテーブル(JIS R5201−1997に記載)に置かれたフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補い、フローコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を0打フロー値とした。0打フロー値を測定後、直ちに15秒間に15回の落下運動を与え、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を15打フロー値とした。また、必要に応じてモルタル空気量の測定も行った。
なお、15打フロー値は、数値が大きいほど、分散性能が優れている。また、この条件で重合体等の分散剤なしでモルタルを調製すると、充分混練ができずモルタルに流動性が出ない。0打フロー値は105mm前後、15打フロー値は145mm前後となる。
【0157】
【表8】

【0158】
表8において、「実施例」とは、実施例に相当する試験例であることを意味し、「比較例」とは、比較例に相当する試験例であることを意味する。なお、15打フロー値が大きいほど、重合体によるモルタル分散性能が高いことを示す。
表8より以下のことが確認された。
本発明の重合体(B−138〜B−140)を用いた試験例3−1〜5−3では、いずれも、試験例1−1及び1−2(比較重合体F−1)よりも少ない重合体添加量で同等のフロー値を達成できることが分かる。同等のフロー値で重合体添加量を比較すると、本発明の重合体は、比較重合体の添加量100質量%に対し、82.4(=0.07/0.085)〜87.5(=0.07/0.08)質量%と計算され、本発明の重合体がより少ない添加量で高分散性を発揮できることが明らかである。
【0159】
また試験例2−1〜2−3(比較重合体B−136)と試験例3−1〜5−3(B−138〜B−140)とを比較すると、これらの性能差は殆どない。これは、比較重合体B−136が、B−138〜B−140が有する構造(上記一般式(3)又は(4)で表される構造)に類似した構造を有し、主鎖に(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を有することに起因するものと考えられる。なお、比較重合体F−1は、このような(ポリ)アルキレングリコール鎖(1)を持たない通常の重合体、すなわち、上記一般式(3)又は(4)中のP、P又はP部位のみに相当する重合体である。
しかし、上述したように、比較重合体B−136は経時的に加水分解しやすいのに対し、本発明の重合体(B−138〜B−140)は耐加水分解性が著しく高いため、長期にわたってより安定して高い分散性能を発揮できるという点で、本発明の重合体が極めて優れた効果を有するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】図1は、表6−1〜6−4に記載のpH=5.5での重量平均分子量(Mw)の経時低下率を、グラフ化したものである。
【図2】図2は、表6−1〜6−4に記載のpH=6での重量平均分子量(Mw)の経時低下率を、グラフ化したものである。
【図3】図3は、表6−1〜6−4に記載のpH=7での重量平均分子量(Mw)の経時低下率を、グラフ化したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2):
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。nは、オキシアルキレン基の平均モル数を表し、1〜1000の整数である。Rは、水素原子又は有機残基を表す。)で表される構造を有するチオール変性単量体であって、
該(AO)nで表される(ポリ)アルキレングリコール鎖の末端の少なくとも一単位が、炭素数3以上のオキシアルキレン基であるか、又は、該R及び/若しくはRで表される有機残基が、カルボニル基側末端に第三級以上の炭素原子を有する
ことを特徴とするチオール変性単量体。
【請求項2】
前記一般式(1)若しくは(2)で表される構造中のエステル結合の片方又はその両方が、R、R、及び、(AO)nからなる群より選択される少なくとも1種の基中の第三級以上の炭素原子と結合してなる
ことを特徴とする請求項1に記載のチオール変性単量体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のチオール変性単量体を製造する方法であって、
該製造方法は、(ポリ)アルキレングリコールに、1分子中にカルボキシル基とメルカプト基とを有する化合物をエステル化反応させる工程を含む
ことを特徴とするチオール変性単量体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のチオール変性単量体の存在下で、不飽和カルボン酸系単量体及び/又は不飽和(ポリ)アルキレングリコール系単量体を含む不飽和単量体成分を重合して得られる
ことを特徴とする(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のチオール変性単量体及び/又は請求項4に記載の(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む
ことを特徴とする分散剤。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載のチオール変性単量体及び/又は請求項4に記載の(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体を含む
ことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項7】
セメントと、請求項1若しくは2に記載のチオール変性単量体及び/又は請求項4に記載の(ポリ)アルキレングリコール鎖含有チオール系重合体とを含む
ことを特徴とするセメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70687(P2010−70687A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241571(P2008−241571)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】