説明

チップ、および微量分析法

【課題】 マイクロチップを用いて、微量成分の濃縮が再現性よく行えるようにする。
【解決手段】 シリコン基板11の表面に、ICP加工で、流路13を形成する。流路13内に堰部14を設け、堰部14で分断される流路13a、13b連絡する連絡流路15を堰部14内に複数設ける。堰部14の前には、活性炭等の吸着剤からなる吸着部16が形成される。かかる構成の流路13を設けたシリコン基板11は、ガラス板12aと陽極接合されてマイクロチップ10として構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板上に化学物質を通す流路が1mm以下のμmレベルの幅で形成されるマイクロチップ等のチップ技術に関し、特に微量化学物質の精度の高い濃縮等に適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する技術は、本発明を完成するに際し、本発明者によって検討されたものであり、その概要は次のとおりである。
【0003】
近年、大気中の微量化学物質が健康等に影響を及ぼすとして、その環境問題が注目を集めている。かかる微量化学物質としては、常温で揮発性の揮発性有機物質(VOC)が、その代表として取り上げられる。例えば、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等、種々の化学物質がVOCとして例示される。
【0004】
かかるVOCについては、大気中に含まれる量が微量なため、その実体を把握することが難しく十分な注意が払われてこなかった。しかし、近年、ハウスシック症候群等で、にわかに注目を集めることとなった。例えは、VOCの一つであるアルデヒド、ベンゼン等の化学物質は、極身近な処では、建材として使用される合成材から大気中に揮発される例もある。
【0005】
かかるVOCに関しては、その種類、濃度等については、上記の如く、その量が極微量なため、その分析が難しく、十分な解明に至っていないのが現状である。特に、定量分析が難しい状況である。
【0006】
VOCの分析には、多種成分の定性、定量分析に一般的に使用されるガスクロマトグラフ法が適用されている。しかし、かかるガスクロマトグラフ法を用いても、室内環境汚染物質として厚生労働省より測定対象とされているスチレンについては、溶媒脱着−ガスクロマト法で測定する場合、捕集量と空気中の湿度によりその回収率が変動し、結果の再現性が十分ではないことが指摘されている。文献1には、かかる点についての指摘と、その対策法について一つの提言がなされている。
【0007】
また、トリクロロエチレン(TCE)や、テトラクロロエチレン(PCE)等のように、製造工場で溶剤、脱脂洗浄剤として大量に使用される物質では、かかる物質による地下水汚染が問題となっている。しかし、かかる物質による人体への摂取量は、汚染された地下水を飲料水として使用する場合よりも、大気から呼吸することにより摂取する場合の方が多いとの報告がある。
【0008】
非特許文献2では、かかる点を踏まえ、大気中のTCE等の有機ハロゲン化合物を、ガスクロマトグラフ法で簡易定量し得る技術を提案している。
【0009】
一方、特許文献1には、大気中のVOCのガスクロマトグラフ法での定量に際して、微量サンプルをガスクロマトグラフ法にて定量する前に、適切に濃縮する技術が提案されている。
【非特許文献1】鈴木義浩、外3名、「活性炭管を用いたスチレン測定についての考察」、環境管理学会、室内環境学会合同研究発表会要旨、2004年10月、p.52
【非特許文献2】長谷川敦子、「大気中有機ハロゲン化合物の定量」、安全工学、1993年、第32巻、第2号、p.113−115
【特許文献1】特表2003−521688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の如く、VOCの定量技術については、従来、種々問題が提起され、それに対応した解決技術が提案されているが、未だ十分とは言えないのが現状である。かかる中、本発明者も、VOCの分析技術の研究に携わってきた。
【0011】
ガスクロマトグラフ法でのVOCの定量に際しては、前述の如く、その微量試料の濃縮が必要であるが、本発明者は、その濃縮技術について種々研究を重ねてきた。近年、流路径/骨格比が大きいため注目を集めているモノリスカラムを用いて、VOCサンプルの濃縮の効率化を試してみたが、実験からは、粒子充填型のカラムを用いた方がよい事実を見出した。
【0012】
併せて、本発明者は、微量サンプルの取り扱いに有利なマイクロチップを用いて、VOCの定量分析の効率化を図る研究を行ってきた。しかし、マイクロチップを用いた分析実験では、実験毎の定量結果の再現性が十分ではなかった。また、マイクロチップ毎の実験結果の再現性も十分ではなかった。
【0013】
かかる点についての検討の結果、マイクロチップ自体の構造に問題があるのではないかと、本発明者は着想した。マイクロチップは、例えば、数cm四方のチップ基板に、幅がμmオーダーレベルの流路が形成され、かかる流路内に化学物質を通すことができる構成を有している。通常のフラスコ等の理化学容器を用いた反応レベルとは異なり、効率的な反応が可能と近年注目を集めている技術である。
【0014】
かかるマイクロチップの製造では、半導体ウエハの微細加工技術が適宜適用されているが、本発明者は、マイクロチップ毎の流路の加工状況にかなりの不均一性が存在し、これがこのマイクロチップを用いた分析結果の再現性に大きな影響を与えているものと考えた。
【0015】
マイクロチップは、試料の取扱い量が極微量であるため、微量試料の分析には有効であるが、反面、試料を通す微細幅の流路状況に大きな影響を受け易いのではないかと考えられる。例えば、流路面が粗な場合と、平滑な場合とでは、状況がかなり異なるものと考えた。マクロスケールでは、かかる微細の差異は、誤差の内に埋没してしまうが、ミクロスケールでは、全く様子が異なる。
【0016】
また、かかる微細流路には、化学物質を供給する口と排出する口とが設けられるが、かかる出入り口での供給、排出時にも問題があることが分かった。例えば、試料を微細流路に供給する場合において、これまではマイクロチップを治具で固定しながら、流路上方に試料供給用の微細チューブを取り付ける等の方法を採用してきた。
【0017】
しかし、操作対象が微細なため、手作業では十分に細かな作業が行えず、試料の液漏れ等が再三発生していた。実験の都度、かかる治具を用いての試料供給においては、その再現性が極めて悪い状態であることが確認された。かかる液漏れ等に関しては、試料の出口でも同様の状況であった。
【0018】
本発明の目的は、マイクロチップを用いて、微量成分の濃縮が再現性よく行えるようにすることにある。
【0019】
本発明の目的は、流路への出入り口をも含めて、微量成分の濃縮再現性に影響を与えるマイクロチップにおける流路構造の均一性を確保することにある。
【0020】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0022】
本発明は、基板上に化学物質を通す1mm以下の幅の流路が形成されたチップであって、前記流路内に前記化学物質の吸脱着を行う吸着部が設けられていることを特徴とする。かかる構成において、前記吸着部は、前記流路内に形成された堰部により吸着剤がせき止められて形成され、前記堰部には、前記堰部で前後に分離された前記流路を連絡する連絡流路が設けられていることを特徴とする。前記連絡流路は、前記流路の幅で形成された前記堰部に複数形成されていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記流路は、シリコン基板の表面に形成されていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記流路は、ICP加工により形成されていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記吸着部は、活性炭により形成されていることを特徴とする。
【0023】
尚、本明細書では、流路の幅、深さがともに1mm以下のものを、特にマイクロチップと呼ぶこととし、単にチップと言う場合には、かかるマイクロチップをも含めて、マイクロチップサイズよりも大きなサイズのものも包含するものとする。
【0024】
本発明は、微量の化学物質の分析を行う微量分析法であって、前記化学物質を、基板に形成した1mm以下の流路内で、前記流路内に設けた吸着剤により濃縮し、濃縮後の試料について分析を行うことを特徴とする。かかる構成において、前述のいずれかの構成のチップが、前記化学物質の濃縮に使用されることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記化学物質とは、大気中のVOCであることを特徴とする。
【0025】
尚、本明細書では、本発明に係る微量分析という場合の微量とは、濃度として1ppm以下の場合を言うものとする。
【0026】
本発明では、上記構成を採用したので、例えば、マイクロチップにおける流路形成に際しては、例えば、流路形成基板材料としてシリコン基板を用い、誘導結合プラズマ(ICP)を用いて加工することで、マイクロチップ内の流路構造の均一性を確保することができる。
【0027】
かかる構造の均一性を確保した流路内に堰部を設けることで流路内に吸着剤を留め置き、かかる吸着剤を通過させてVOC等の微量サンプルの濃縮を、例えば、マイクロチップサイズでも効率的に行えるようにした。かかる構造の均一性を確保した流路では、その出入り口に、治具を用いないで自立できる構造を採用することで、分析結果等に影響を与える出入り口に纏わる不均一性の解消をも図ることができた。
【発明の効果】
【0028】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0029】
VOC等の微量サンプルを効率的に、再現性よく濃縮することで、その後のガスクロマトグラフ法を用いた定量分析の精度向上と、その再現性向上とを、図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0031】
本発明は、大気中のVOC等の微量定量分析を、ガスクロマトグラフ法において行うに際し、マイクロチップを用いた試料の濃縮技術を提供するものである。かかる技術において、定量分析結果の精度向上、再現性の向上を図るに際して、使用するマイクロチップの構造の均一性を、使用する基板材料と加工技術との組み合わせ、試料出入り口での治具を用いない自立構成とを採用することで可能とするものである。
【0032】
本実施の形態では、大気中のVOCのガスクロマトグラフ法による定量分析におけるVOC試料の濃縮で用いマイクロチップの基本構成について説明する。
【0033】
図1(a)に示すように、マイクロチップ10は、例えば、30mm×24mm四方の矩形に形成されている。かかるマイクロチップ10は、図1(b)に示すように、例えば、厚さ525μmのシリコン基板11と、厚さ1mmのガラス板12a等のガラス12とが、積層された構造に形成されている。かかるガラス板12aとシリコン基板11とは、陽極接合によって強固に接合されている。ガラス12およびガラス板12aの材料としては、たとえばホウ珪酸ガラスや石英ガラスを利用することができ、具体的には、一般にパイレックス(登録商標)という商品名で市販されているものを使用することができる。
【0034】
シリコン基板11の表面には、図1(a)に示すように、流路13が形成されている。
流路13内には、堰部14(図中黒塗り潰し表示)が設けられている。堰部14は、流路13の下手側に、すなわち流下方向(図中矢印で示す)に沿って下流側に設けられている。図1(a)に示す場合には、流路13は、堰部14によって、上流側の流路13a(13)と、下流側の流路13b(13)とに分けられている。流路13aは、流路13bよりも短く設定されている。
【0035】
堰部14には、図2(a)の堰部14の部分拡大図に示すように、流路13aと流路13bとを連絡する連絡流路15が設けられている。連絡流路15は、図2(a)では、黒色塗り潰しで示した。かかる連絡流路15は、流路13より狭い幅に設定されている。図2(a)に示す場合には、例えば、流路13の幅500μmに対して、等間隔に30μmの幅で複数形成されている。
【0036】
連絡流路15の断面状況を、図2(a)のA−A’線での切断状況を示す図2(b)に部分的に示した。
【0037】
また、上流側の流路13aには、堰部14に隣接して吸着部16(図中斜線表示)が設けられている。吸着部16は、例えば、活性炭を流路13a内に充填した活性炭吸着部16aに形成されている。充填されている活性炭の平均粒径は、連絡流路15の流路幅より大きく設定され、活性炭が連絡流路15に流れ出さないように構成されている。
【0038】
また、かかる構成の流路13には、図3に示すように、その両端側に流路13内に流す物質の供給口17a、排出口17bがそれぞれ設けられる円形部13c、13dが形成されている。
【0039】
このように堰部14を設けた流路13は、図4(a)に示すステップにより、シリコン基板11上に形成される。図4(b)には、図4(a)に示した製造フローに合わせて、ステップの様子を模式的に図示した。
【0040】
マイクロチップ10は、図4(a)のステップS100、図4(b)に示すように、シリコン基板11上に、スパッタリング等の手段で所定層厚にCrを堆積させてCr膜21を形成する。その後、Cr膜21上に、感光性物質であるフォトレジストを所定層厚で塗布してフォトレジスト膜22を形成する。
【0041】
ステップS200で、フォトリソグラフィーにより、シリコン基板11上に流路13等を形成するマスクを作成する。先ず、流路形成用のマスクを用意し、ステップS100で形成したフォトレジスト膜22上に、所定波長の光を露光する。その後、現像処理してフォトレジスト膜22のパターニングを行う。さらにかかるパターニングされたフォトレジスト膜22をマスクとして、Cr膜21をパターニングする。このようにして、図4(c)に示すように、シリコン基板11用のマスクを形成する。
【0042】
ステップS300で、ICPマルチビーム加工装置等を用いて、プラズマガスとしてSFを照射し、パターニングされたCr膜21をマスクとして、シリコン基板11をドライエッチングし、図4(d)に示すように、流路13に相当する溝を形成する。かかるドライエッチングに際して、流路13内に設ける連絡流路15も併せて形成する。
【0043】
ステップS400で、図4(e)に示すように、流路13の形成にマスクとして使用したフォトレジスト膜22、Cr膜21を除去する。このようにして、シリコン基板11上に、均一構造の複数の流路13が形成されることとなる。
【0044】
流路形成用の基板としてシリコン基板11を選択し、かかるシリコン基板11にICP加工で流路13を形成すると、高精度で、アスペクト比の高い流路が、流路毎の不均一性が十分に抑制されて均一に形成される。
【0045】
ステップS500で、図4(f)に示すように、所定層厚のガラス板12aを、流路13が形成されたシリコン基板11の表面に重ね、その状態で陽極接合することで、マイクロチップ10を形成する。かかる陽極接合を採用することで、シリコン基板11とガラス板12aとの接合を、高強度とすることができる。さらに、陽極接合では、ピッチが狭くても十分に接合強度を確保することができる。
【0046】
このようにして、マイクロチップ10を形成した後に、シリコン基板11内に形成した流路13内に通じる供給口17a、排出口17bを形成することとなる。ガラス板12aには、図5に示すように、陽極接合に際して、事前に、流路13の両端に形成された円形部13c、13dに合わせた口径の孔18が開けられている。ステップS500の陽極接合後に、かかる孔18を利用して、供給口17a、排出口17bを設けることとなる。
【0047】
図5に示すように、ガラス12a側に開けられた孔18に、ガラス管19を差し込み、ガラス管19の外周縁に、例えば2液性のエポキシ樹脂19aを塗布し、ガラス管19とガラス板12aとの両者を接合して、供給口17aを形成する。排出口17bにおいても同様に構成する。このガラス管19の材料としても、前記ガラス12およびガラス板12aと同様に、たとえばホウ珪酸ガラスや石英ガラスを利用することができ、具体的には、一般にパイレックス(登録商標)という商品名で市販されているものを使用することができる。
【0048】
かかる構成を採用することで、治具を用いないマイクロチップ-ジョイント一体型の設計となり、さらに送液口のデッドボリュームの低減、サンプルの供給時、あるいは排出時の液漏れの心配もなく簡便に取り外しが可能であり、供給作業、排出作業の再現性を確保することができる。
【0049】
尚、このようにして供給口17aの構成をガラス管19を用いて形成した後に、例えば平均粒径40〜60μmの活性炭を供給口17aから流路13内に液体と共に流し込む。流し込まれた活性炭は、流路13内を流れ、堰部14でせき止められ、活性炭吸着部15aを形成することとなる。
【0050】
これまでは、例えば、図6に示すように、治具30を用いてマイクロチップ100の流路110への送液口を都度形成するようにしていた。すなわち、治具30は、上下一対の上治具30a、下治具30bから構成されている。かかる上治具30a、下治具30bは、内側に矩形開口部を形成した額縁状の枠体に形成されている。上治具30aの枠体部には、マイクロチップ100の送液口形成部120に符合する個所に、予め孔31が設けられている。
【0051】
マイクロチップ100の送液口形成部120の開口部に合わせて所定径のOリング33を置き、かかるOリング33に孔31を合わせた状態で、上治具30a、下治具30bの両枠体部でマイクロチップ100の外周縁側を挟み込む。この状態で、上治具30a、下治具30bは、上下締結ネジ32で所定間隔に維持されている。
【0052】
さらに、孔31に、内側に試料供給用のキャピラリー34aを内挿したフッ素樹脂ネジ34をねじ込み、フッ素樹脂ねじ34の底部でOリング33を押し付けて、送液口を形成していた。しかし、かかる操作は、全て手作業となるため、数センチ四方のマイクロチップ100での送液口の形成は、Oリング33の位置がずれたり等し、液漏れ等が発生しやすかった。かかる治具30を用いた送液口の形成作業は、かなりの熟練度が要求される仕事であった。
【0053】
また、作業が十分に行われても、Oリング33自体がゴム等の合成品であるため、送液口から流す薬品で劣化、あるいは膨潤等して、液漏れが発生する場合もあった。このように従来の構成では、治具30を使用することに起因する液漏れ等種々の不都合が指摘されていたが、図5に示すように、本発明では、ガラス管19を接続する簡単な構成で、かかる問題点の解消が図れる。
【0054】
このようにして液漏れ等の懸念がなく、ガラス管19の取り付けで済む、いわばワンタッチで形成された供給口17a、排出口17bがそれぞれ設けられたマイクロチップ10を使用して、大気中のVOCガスの測定を行った。図7に、模式的に、測定システムの概要構成を示した。
【0055】
図7に示すように、測定システムは、試料を供給するガスタイトシリンダ50と、前記説明のVOC濃縮用のマイクロチップ10と、濃縮されたVOCの定性、定量を行うガスクロマトグラフ60a等の分析機器60から構成されている。
【0056】
VOC等の分析対象のサンプリング済の試料は、ガスタイトシリンダ50から、試料供給用のキャピラリー51で前記説明の本発明に係るマイクロチップ10へ供給される。キャピラリー51は、図5に示したマイクロチップ10のガラス板12aに設けたガラス管19に接続されている。このようにしてキャピラリー51から、所定量の試料が所定圧力で、マイクロチップ10の供給口17a側に送られる。
【0057】
キャピラリー51により供給口17aに送られた試料は、マイクロチップ10のシリコン基板11側に形成した流路13内を下流側に流れ、活性炭吸着部16aに至る。活性炭吸着部16aでVOCガスは一旦吸着される。このようにして活性炭吸着部16aで、VOCを一旦吸着させた後、所定量の溶離液を所定圧力で試料の代わりに供給口17aから流路13内に流す。活性炭吸着部16aに吸着されていたVOCガスは、溶離液により活性炭吸着部16aから溶離され、堰部14に構成した連絡流路15を通って、流路13bに流れ、排出口17bから、試料供給用のキャピラリー52を通って、ガスクロマトグラフ60aに至り、VOCの定性、定量が行われる。
【0058】
次に、本発明に係るマイクロチップ10を用いることで、微量な化学物質の分析が有効に行えることについて、実施例を挙げて説明する。以下の説明では、大気中のVOCの分析、特に、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)の分析例を挙げて説明する。
【0059】
先ず、上記TCE、PCEの分析に使用する試料は、ガスタイトシリンジで土壌中ガスの成分が変わらない程度(例えば10mL)吸引することによって採取した。かかる採取試料は、ガスタイトシリンダ50を利用して、一定速度(例えば1.5ml/min)の条件で本発明に係るマイクロチップ10に供給した。
【0060】
マイクロチップ10に設けた堰部14は、長さ24mmの流路13に、長さ1mmで設けた。また、堰部14で分離される流路13a、13bの長さは、それぞれ20mm、3mmであった。堰部14内に設ける連絡流路15は、それぞれ同一幅の8本から構成されている。堰部14により形成された活性炭吸着部16aは、例えば、平均粒径40〜60μmの活性炭を流路13内に流し、堰部14でせき止めて形成した。活性炭吸着部16aの長さは20mmに設定した。
【0061】
採取試料を10mL通した後に、ヘキサンを溶離液として1mLの量を用いて活性炭吸着部16aに吸着させたVOCを溶離させ、ガスクロマトグラフ法で定量、定性分析を行った。かかるガスクロマトグラフ法の分析条件は、例えば、DB-1(30×0.25mm)カラムを用い、昇温条件30 ℃(5min)−5 ℃/min→140 ℃−10 ℃/min→250 ℃で行った。
【0062】
以上の条件下での実験結果を、TCEについては図8に、PCEについては図9にそれぞれ結果を示した。
【0063】
図8、9からは、極めて低濃度の場合でも有効にTCE、PCEが検出できることが確認された。因みに、TCEについては、変動係数10%として、検出限界1.3ppbで、定量限界は4.2ppbであった。PCEについては、変動係数21%として、検出限界1.5ppbで、定量限界は4.9ppbであった。
【0064】
かかる結果は、従来行われている検知管を用いた場合の測定範囲が0.2〜3.0ppmであることに比べて、40〜50倍の高感度での微量分析が可能となることを示し、本発明の有効性を具体的に示すものである。
【0065】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0066】
例えば、上記説明では、TCE、PCEについてその具体例を挙げて有効性について説明したが、本発明にかかる微量分析法は、かかる化学物質に限定されるものではない。VOCの分析においては、例えば、ベンゼンやシス-1,2-ジクロロエチレン等に有効に適用できることはいうまでもない。また、分析対象の化学物質は、VOCに限定されるものではなく、例えば、窒素酸化物等のガス成分からダイオキシン等溶液中の物質にも有効に適用できるものである。
【0067】
また、前記説明では、本発明に係るチップを、ガスクロマトグラフ法との関係で説明したが、本発明に係るマイクロチップを用いた濃縮技術は、質量分析法、分光法等の微量分析に有効に適用できることは言うまでもない。
【0068】
本発明に係るチップは、前記実施の形態では、数センチ角の微小サイズのマイクロチップに構成した場合を例に挙げて説明したが、しかし、大量に濃縮が必要である場合には、かかるマイクロチップの小型サイズにこだわることなく、大きなサイズの基板面に1mm以下の幅を有す本発明に係る流路を多数形成しても一向に構わない。
【0069】
前記説明では、吸着部を活性炭吸着部に構成した場合について説明したが、濃縮対象とする物質に対応して、活性炭とは異なる他の吸着剤を使用しても構わない。例えば、水中のビスフェノールAには、スチレン-ジビニルベンゼンの吸着剤を使用する等しても構わない。
【0070】
前記説明では、基板に形成した流路を直線状に形成したが、曲線状に形成しても構わない。さらには、3次元的に流路構成を行っても構わない。シリコン基板とガラス板との構成からなる単層チップを、複数層積層する構成としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、VOC等の微量成分の定性、定量における試料濃縮技術として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】(a)は本発明に係るマイクロチップの概略構成を模式的に示す平面図であり、(b)はその断面図である。
【図2】(a)は堰部の構成を模式的に示す平面図であり、(b)は(a)のA−A‘線で切断した場合の断面状況を示す説明図である。
【図3】流路の両端部に形成される円形部の状況を示す説明図である。
【図4】(a)はマイクロチップの製造方法の主要工程を示すフロー図であり、(b)〜(f)は(a)の各ステップの状況を模式的に示す工程説明図である。
【図5】送液口の構成状況を示す断面説明図である。
【図6】従来構成の送液口の構成状況を示す断面説明図である。
【図7】本発明に係るマイクロチップを用いたVOCの測定システムの概要構成を模式的に示す説明図である。
【図8】本発明を適用してTCEを定量分析した結果を示す説明図である。
【図9】本発明を適用してPCEを定量分析した結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
10 マイクロチップ
11 シリコン基板
12 ガラス
12a ガラス板
13 流路
13a 流路
13b 流路
13c 円形部
13d 円形部
14 堰部
15 連絡流路
16 吸着部
16a 活性炭吸着部
17a 供給口
17b 排出口
21 Cr膜
22 フォトレジスト膜
30 治具
30a 上治具
30b 下治具
31 孔
32 上下締結ねじ
33 Oリング
34 フッ素樹脂ねじ
34a キャピラリー
50 ガスタイトシリンダ
51 キャピラリー
52 キャピラリー
100 マイクロチップ
110 流路
120 送液口形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、化学物質を通す1mm以下の幅の流路が形成されたチップであって、
前記流路内に前記化学物質の吸脱着を行う吸着部が設けられていることを特徴とするチップ。
【請求項2】
請求項1記載のチップにおいて、
前記吸着部は、前記流路内に形成された堰部により吸着剤がせき止められて形成され、前記堰部には、前記堰部で前後に分離された前記流路を連絡する連絡流路が設けられていることを特徴とするチップ。
【請求項3】
請求項2に記載のチップにおいて、
前記連絡流路は、前記流路の幅で形成された前記堰部に複数形成されていることを特徴とするチップ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチップにおいて、
前記流路は、シリコン基板の表面に形成されていることを特徴とするチップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のチップにおいて、
前記流路は、ICP加工により形成されていることを特徴とするチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のチップにおいて、
前記吸着部は、活性炭により形成されていることを特徴とするチップ。
【請求項7】
微量の化学物質の分析を行う微量分析法であって、
前記化学物質を、基板に形成した1mm以下の流路内で、前記流路内に設けた吸着剤により濃縮し、濃縮後の試料について分析を行うことを特徴とする微量分析法。
【請求項8】
請求項7記載の微量分析法において、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のチップが、前記化学物質の濃縮に使用されることを特徴とする特徴とする微量分析法。
【請求項9】
請求項7または8記載の微量分析法において、
前記化学物質とは、大気中のVOCであることを特徴とする微量分析法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−329777(P2006−329777A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152797(P2005−152797)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(592187040)フォトプレシジョン株式会社 (2)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【出願人】(598160029)
【出願人】(505194273)
【Fターム(参考)】