説明

チップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物及び電子回路

【課題】電磁波遮蔽機能と難燃性を有し、流動性の低下を抑制できるチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び無機充填材を含有し、無機充填材としてソフトフェライトを含有し、難燃剤としてシラン系カップリング剤で表面処理された金属水和物を含有する。樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量は50〜85質量%が好ましく、金属水和物は水酸化アルミニウムが好ましい。チップインダクタが搭載された電子回路は、前記チップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物により封入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物及びそれによりチップインダクタが封入された電子回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、チップインダクタは、フェライトやセラミック等のコアに巻かれた導線に電流を流すことにより発生する電磁気の作用を利用したインピーダンス素子であり、種々の電子回路に搭載される回路部品である。インピーダンス素子は、外部環境からの保護、外部ノイズのシールド、大量生産等を目的に、例えばトランスファ成形等により樹脂組成物で封入されるのが通例である。従来、この種のチップインダクタ封入用の樹脂組成物としては、例えばo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を含む一般的な半導体封止用のエポキシ樹脂組成物が用いられている。
【0003】
特許文献1には、そのような半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、MFe又はMO・nFe(nは整数、MはMn、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Mg)で表される磁性体粉末(ソフトフェライト)を含有することにより電磁波遮蔽機能を有すること、及び、M1−x(OH)(xは0.01〜0.5の正数、MはMg、Ca、Sn、Ti、QはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)で表される複合化金属水酸化物を難燃剤として含有することが記載されている。
【0004】
しかし、このような磁性体粉末及び複合化金属水酸化物を含有するエポキシ樹脂組成物は、流動性の低下がみられ、成形品にボイドが多くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3916889号公報(段落0013、0019、0034、0035、0045)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、電磁波遮蔽機能のためにソフトフェライトを含有し、難燃性のために金属水酸化物を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物において、流動性の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、エポキシ樹脂及び無機充填材を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物であって、無機充填材としてソフトフェライトを含有し、難燃剤としてシラン系カップリング剤で表面処理された金属水和物を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物である。
【0008】
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに硬化剤及び硬化促進剤を含有することが好ましい。
【0009】
前記エポキシ樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量は、硬化剤及び硬化促進剤をさらに含有する場合(つまり、エポキシ樹脂、無機充填材、硬化剤及び硬化促進剤を含有する場合)で、50〜85質量%が好ましい。
【0010】
前記金属水和物は、水酸化アルミニウムが好ましい。
【0011】
本発明の他の一局面は、電子回路に搭載されたチップインダクタが前記チップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物により封入された電子回路である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電磁波遮蔽機能のためにソフトフェライトを含有し、難燃性のために金属水酸化物を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物において、流動性の低下が抑制される。したがって、成形性の低下が抑制され、ボイドの発生が低減された樹脂成形品によりチップインダクタが封入された電子回路が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、チップインダクタ封入用のエポキシ樹脂組成物である。この樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び無機充填材を含有し、好ましくは、さらに硬化剤及び硬化促進剤を含有する。この樹脂組成物は、常温で固体(粉状や粒状)である。この樹脂組成物は、無機充填材としてソフトフェライトを含有し、かつ難燃剤としてシラン系カップリング剤で予め表面処理された金属水和物を含有する。このエポキシ樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量は、硬化剤及び硬化促進剤をさらに含有する場合(つまり、エポキシ樹脂、無機充填材、硬化剤及び硬化促進剤を含有する場合)で、50〜85質量%が好ましい。また、前記金属水和物は、水酸化アルミニウムが好ましい。本実施形態に係る電子回路は、電子回路に搭載されたチップインダクタが前記チップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物により封入された電子回路である。
【0014】
本実施形態において用いられるエポキシ樹脂としては、従来より封止用エポキシ樹脂組成物の分野で一般に用いられているエポキシ樹脂を特に限定なく用いることができる。そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェニレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本実施形態において用いられる硬化剤としては、従来より封止用エポキシ樹脂組成物の分野で一般に用いられている硬化剤を特に限定なく用いることができる。そのような硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等、各種の多価フェノール化合物又はナフトール化合物等が挙げられる。これらのうち、フェノールノボラック樹脂が特に好ましい。これらは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本実施形態において用いられる硬化促進剤としては、従来より封止用エポキシ樹脂組成物の分野で一般に用いられている硬化促進剤を特に限定なく用いることができる。そのような硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の有機ホスフィン類;1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;等が挙げられる。これらのうち、トリフェニルホスフィン、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本実施形態において、無機充填材としては、ソフトフェライトを必須成分として用いる。これにより、ノイズシールド特性に優れるエポキシ樹脂組成物が得られる。そのため、電子回路に搭載されたチップインダクタ等のインピーダンス素子がこのエポキシ樹脂組成物で封入された場合には、インピーダンス素子が外部ノイズから高度にシールドされる。
【0018】
ソフトフェライトとは、MO・Fe(Mは例えばMn、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Mg等のうちの1種又は2種以上)で表される金属酸化物である。鉄の酸化物を含んだ結晶体であり、酸化鉄を主成分とする磁性材料である。結晶構造によって、スピネルフェライト、六方晶フェライト、ガーネットフェライト等がある。ソフトフェライトはスピネルフェライトが多い。マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト等が好ましい。酸化鉄を主原料にしてバリウムやストロンチウム等を微量加えて焼き固めた後、1μm程度の粒子に粉砕し、成形、焼結した窯業製品(すなわちセラミックス)の1種である。軟磁性を示し、外部磁界が加わると(磁石に触れると)磁石となるが、外部磁界がなくなると磁力を失う。コイルや変圧器、磁気ヘッド等の電子部品の磁心やコピートナー等に使用される。
【0019】
本実施形態において用いられるソフトフェライト以外の無機充填材としては、従来より封止用エポキシ樹脂組成物の分野で一般に用いられている無機充填材を特に限定なく用いることができる。そのような無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素等、各種の無機微粒子が挙げられる。これらのうち、流動性の観点から、溶融シリカ微粒子が特に好ましい。また、球状のもの、真球状に近いものがより好ましい。これらは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本実施形態においては、エポキシ樹脂と硬化剤との配合比は、エポキシ当量と水酸基当量との当量比(エポキシ基と水酸基との個数比)で、0.5〜1.5が好ましく、0.8〜1.2がより好ましい。この配合比とすることにより、硬化剤が過多とならず、経済的な面で好ましい。また、硬化剤が過少とならず、樹脂硬化の面で好ましい。
【0021】
本実施形態においては、エポキシ樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量は、エポキシ樹脂組成物がエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び無機充填材を含有する場合で、50〜85質量%が好ましく、60〜75質量%がより好ましい。この含有量とすることにより、ソフトフェライトが過多とならず、流動性の面で好ましい。また、ソフトフェライトが過少とならず、ノイズシールド性の面で好ましい。
【0022】
本実施形態において、難燃剤としては、シラン系カップリング剤で予め表面処理された金属水和物(金属水酸化物)を必須成分として用いる。これにより、ハロゲンフリー、アンチモンフリーで難燃性に優れるエポキシ樹脂組成物が得られる。そのため、環境問題が抑制されたエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0023】
本実施形態において用いられる金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる、これらのうち、難燃効果の観点から、水酸化アルミニウムが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本実施形態において用いられるシラン系カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
金属水和物をシラン系カップリング剤で予め表面処理しているので、電磁波遮蔽機能のためにソフトフェライトを含有し、難燃性のために金属水和物を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物であっても、流動性の向上が図られ、流動性の低下が抑制される。したがって、成形性の低下を抑制しつつ、ソフトフェライト等の無機充填材の含有量を十分多くすることができる。また、金属水和物をシラン系カップリング剤で表面処理することにより、金属水和物と樹脂との剥離が抑制され、硬化後の樹脂の強度の向上が図られる。
【0026】
金属水和物をシラン系カップリング剤で予め表面処理する方法としては、例えば、金属水和物をスーパーミキサー中で攪拌しながらシラン系カップリング剤を均一に噴霧し、攪拌を継続した後、加熱乾燥する方法が挙げられる。
【0027】
本実施形態においては、金属水和物とシラン系カップリング剤との配合比は、質量比で、25:1.5〜75:1.5が好ましく、40:1.5〜60:1.5がより好ましい。この配合比とすることにより、シラン系カップリング剤が過多とならず、硬化後の樹脂の強度の面で好ましい。また、シラン系カップリング剤が過少とならず、流動性の面で好ましい。
【0028】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、その他の材料として、例えば、カルナバワックス、モンタンワックス、ステアリン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン等の離型剤、カーボンブラック等の着色剤、シリコーン可とう剤等をさらに含有してもよい。
【0029】
本実施形態に係るチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物は、例えば次のようにして調製される。すなわち、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、難燃剤、及びその他の材料をそれぞれ所定の量づつ配合し、ミキサーやブレンダー等を用いて均一に混合した後、ニーダーやロール等を用いて加熱、混練する。そして、混練後に冷却固化し、必要に応じて粉砕して、粉状又は粒状のエポキシ樹脂組成物とする。
【0030】
本実施形態に係る電子回路は、例えば次のようにして製造される。すなわち、チップインダクタを搭載した電子回路をトランスファ成形の金型のキャビティ形成面に配置した後、型締めし、形成されたキャビティ内に溶融状態のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物を所定の圧力で注入し、キャビティ内に充満させる。このときの注入圧力は、例えば4〜7MPa、金型温度は、例えば160〜190℃、成形時間は、例えば45〜300秒等に設定される。次に、金型を閉じたまま後硬化(ポストキュア)を行った後、型開きし、樹脂成形品を取り出す。このときの後硬化条件は、例えば160〜190℃で2〜8時間等に設定される。
【0031】
以上のように、本実施形態に係るチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び無機充填材を含有し、無機充填材としてソフトフェライトを含有し、難燃剤としてシラン系カップリング剤で予め表面処理された金属水和物を含有するので、ノイズシールド特性に優れ、かつ、ハロゲンフリー、アンチモンフリーで難燃性に優れる。そのうえで、電磁波遮蔽機能のためにソフトフェライトを含有し、難燃性のために金属水和物を含有していても、金属水和物をシラン系カップリング剤で予め表面処理していることにより、流動性の向上が図られ、流動性の低下が抑制される。
【0032】
また、本実施形態に係るチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物は、さらに硬化剤及び硬化促進剤を含有するので、樹脂の硬化反応が確実に進行する。
【0033】
また、本実施形態に係るチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、無機充填材、硬化剤及び硬化促進剤を含有する場合で、ソフトフェライトを50〜85質量%含有するので、ソフトフェライトが過多とならず、流動性の面で好ましく、かつ、ソフトフェライトが過少とならず、ノイズシールド性の面でも好ましい。
【0034】
また、本実施形態に係るチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物は、金属水和物として水酸化アルミニウムを含有するので、より一層優れた難燃効果が得られる。
【0035】
本実施形態に係る電子回路は、電子回路に搭載されたチップインダクタが本実施形態に係るチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物により封入されているので、ノイズシールド特性に優れ、かつ、ハロゲンフリー、アンチモンフリーで難燃性に優れる。そのうえで、成形性の低下が抑制され、ボイドの発生が低減された樹脂成形品によりチップインダクタが封入された電子回路が得られる。
【0036】
以下、実施例を通して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
表1に示す配合(質量部)にて、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、難燃剤、及びその他の材料をブレンダーを用いて30分間混合し、均一化した後、80℃に加熱したニーダーを用いて混練、溶融させて、押し出し、冷却後、粉砕機で所定粒度に粉砕して、粒状のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物を調製した。表1に示す配合の合計量は、いずれの試験番号においても500質量部である。
【0038】
用いた材料は以下の通りである。
エポキシ樹脂:o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製の「N665EXP」)
エポキシ樹脂:ブロム含有ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製の「YDB400」)
硬化剤:フェノールノボラック樹脂(群栄化学社製の「PSM6200」)
硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学社製の「TPP」)
無機充填材:ソフトフェライト(ニッケル亜鉛フェライト、日立金属社製)
無機充填材:溶融シリカ(電気化学工業社製の「FB7SDC」)
シラン系カップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製の「KBM403」)
難燃剤:金属水和物(水酸化アルミニウム、昭和電工社製の「HP360」)
難燃剤:三酸化アンチモン
離型剤:カルナバワックス(大日化学社製の「F1−100」)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学社製の「MA600MJ」)
【0039】
試験番号1〜5は、難燃剤として、シラン系カップリング剤で予め表面処理された金属水和物を用いた。すなわち、水酸化アルミニウムをスーパーミキサー中で攪拌しながらγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを均一に噴霧し、15分間攪拌を継続した後、150℃で3時間加熱乾燥することにより、シラン系カップリング剤で予め表面処理された金属水和物を得、これを用いた。これに対し、試験番号6〜10は、シラン系カップリング剤と金属水和物とを別々に用いた。
【0040】
各試験のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
(スパイラルフロー)
ASTM D3123に準じたスパイラルフロー測定金型を使用し、金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、成形時間90秒の成形条件にて、エポキシ樹脂組成物の成形を行い、流動距離(cm)を測定した。
【0042】
(ゲルタイム)
電気機能材料工業会規格(EIMS)の半導体封止用成形材料の試験方法に準じ、トルク計測法で、加熱環境の下で、エポキシ樹脂組成物がゲル化するまでの時間(秒)を計測した。
【0043】
(誘電率)
ノイズシールド特性を評価するため、樹脂成形品の誘電率を測定した。すなわち、エポキシ樹脂組成物を用いて、トランスファ成形により、直径100mm、厚み3mmの円盤状のテストピースを成形した。成形条件は、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒とした。後硬化(ポストキュア)条件は、175℃、6時間とした。得られたテストピースの表面に銀ペーストを塗布して乾燥させた後、各テストピースの誘電率をLFインピーダンスアナライザーを用いて測定した。
【0044】
(難燃性)
エポキシ樹脂組成物を用いて、トランスファ成形により、127mm×27mm、厚み3.2mmの短冊状のテストピースを成形した。成形条件は、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒とした。後硬化(ポストキュア)条件は、175℃、6時間とした。得られたテストピースについて、耐炎性試験規格UL−94(垂直燃焼試験:V−0)に準じた試験を行い、V−0の基準を満たしたものを「○」と評価し、満たさなかったものを「×」と評価した。
【0045】
(成形性)
流動性を評価するため、樹脂成形品の成形性を評価した。すなわち、ミニモールド評価金型を使用し、エポキシ樹脂組成物を用いて、トランスファ成形により、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間90秒の成形条件にて成形を行い、得られた樹脂成形品について、超音波探査装置を用いて、未充填部分やボイドの有無を確認し、未充填部分やボイドの発生が確認された樹脂成形品の個数(10000個当たり)を計測した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から明らかなように、難燃剤として、シラン系カップリング剤で予め表面処理された金属水和物を含有する試験番号1〜5(実施例)は、シラン系カップリング剤と金属水和物とを別々に含有する試験番号6〜10(比較例)に比べて、成形性の評価結果が良かった。
【0048】
試験番号1〜5のうちでも、エポキシ樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量が50質量%である試験番号3は、45質量%である試験番号2に比べて、誘電率の評価結果が良かった。
【0049】
試験番号1〜5のうちでも、エポキシ樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量が85質量%である試験番号4は、87質量%である試験番号5に比べて、成形性の評価結果が良かった。
【0050】
試験番号1〜5のうちでも、金属水和物とシラン系カップリング剤との配合比が質量比で75:1.5である試験番号2は、80:1.5である試験番号1に比べて、成形性の評価結果が良かった。
【0051】
なお、試験番号11は、ソフトフェライトも金属水和物も含有しない参考例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂及び無機充填材を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物であって、
無機充填材としてソフトフェライトを含有し、
難燃剤としてシラン系カップリング剤で表面処理された金属水和物を含有するチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
硬化剤及び硬化促進剤をさらに含有する請求項1に記載のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂組成物中におけるソフトフェライトの含有量が50〜85質量%である請求項2に記載のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
金属水和物が水酸化アルミニウムである請求項1〜3のいずれか1項に記載のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
電子回路に搭載されたチップインダクタが請求項1〜4のいずれか1項に記載のチップインダクタ封入用エポキシ樹脂組成物により封入された電子回路。

【公開番号】特開2012−67262(P2012−67262A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215676(P2010−215676)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】