説明

チトクロームcアセチル化の検出及び調節

本発明は、チトクロームcアセチル化の検出及び調節に関する。本発明は神経変性障害及び癌の診断上及び治療上の用途を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、引用をもってその全文をここに援用することとする、2008年10月23日に提出された標題「チトクロームcアセチル化の検出及び調節」の米国仮出願第61/107,841号に基づく米国特許法第119条(e)による優先権を主張するものである。
【0002】
政府の利益
本発明は、米国衛生研究所の支給する政府助成金AG027916の下でなされた。
【0003】
発明の分野
本発明は、神経変性疾患及び癌の診断及び処置の方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
チトクロームcは内側のミトコンドリア膜内のヘム含有タンパク質であり、そこでそれは電子輸送鎖の成分である。またチトクロームcは内因性アポトーシス経路の一部でもある。アポトーシスを行っている最中の細胞内では、チトクロームcはミトコンドリア膜から放出されてアポトーシス性プロテアーゼ活性か因子1(APAF1)と相互作用し、アポプトソームを形成し、このアポプトソームが細胞死の媒介に関与するカスパーゼ・プロテアーゼを活性化する。
【0005】
チトクロームcの放出、そしてアポトーシスへの細胞委任は高度に調節されたプロセスであり、アポトーシスに関連する障害の標的調節ステップとなっている。チトクロームc活性は、BCL2ファミリー・メンバー、カスパーゼ、熱ショックタンパク質、ミトコンドリアの分裂/融合、カルシウム・レベル、チトクロームcのレドックス状態の調節、ニトロシル化、ヒストンH1.2、及び細胞質ゾルp53に影響を与えるタンパク質を含む複数の因子を通じて調節されることが示されている (Ow et al., (2008) Nat Rev Mol
Cell Biol 9:532-542)。
【発明の概要】
【0006】
発明の概要
ここでは、アセチル化の調節に関与する、チトクロームcを調節するための新規なアプローチを解説する。チトクロームcアセチル化はアポトーシス中の細胞に関係することが明らかになっている。従って、チトクロームcのアセチル化のレベルの検出は神経変性障害の診断にとって用途を有し、チトクロームcの脱アセチル化は神経変性障害を処置するための治療的アプローチとなる。更に、チトクロームcのアセチル化を通じたアポトーシスの誘導やチトクロームc・レベルの観察は、癌の診断及び治療上の用途を有する。
【0007】
本発明の数局面は、対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルを検出することにより、該対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法に関し、このとき対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが所定値に比較して高いことは、神経変性障害のリスク上昇の指標である。試料中のアセチル化チトクロームcのレベルは、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体を用いたり、及び/又は、質量分析法の使用を通じたりするなど、当業者に公知のいずれの手段によっても、検出することができる。
【0008】
本発明のいくつかの実施態様では、対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法は、対象由来の試料中で完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40に相当するリジン残基のアセチル化を検出するステップを含み、このとき、前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40に相当するリジン残基にアセチル化が存在することは、前記対象が神経変性障害のリスク上昇を有することの指標である。いくつかの実施態様では、リジン残基K40のアセチル化は質量分析法により検出される。
【0009】
本発明のいくつかの実施態様では、対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法は、対象由来の試料中で完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K74に相当するリジン残基のアセチル化を検出するステップを含み、このとき、前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K74に相当するリジン残基にアセチル化が存在することは、前記対象が神経変性障害のリスク上昇を有することの指標である。いくつかの実施態様では、リジン残基K74のアセチル化は質量分析法により検出される。
【0010】
本発明のいくつかの実施態様では、対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法は、対象由来の試料中で完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基のアセチル化を検出するステップを含み、このとき、前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基にアセチル化が存在することは、前記対象が神経変性障害のリスク上昇を有することの指標である。いくつかの実施態様では、リジン残基K40及びK74のアセチル化は質量分析法により検出される。
【0011】
本発明の数局面は、対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルを検出するステップを含む、該対象の神経変性障害を診断する方法に関し、このとき対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが所定値に比較して高いことは、神経変性障害の指標である。いくつかの実施態様では、対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルは、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体を用いる、及び/又は、質量分析法を用いることで、検出することができる。
【0012】
本発明の更なる局面は、対象由来の試料中のチトクロームcのアセチル化のレベルを検出するステップを含む、神経変性障害のある該対象における治療法の効験を評価する方法に関し、このとき、所定値と比較したときの、該対象由来の試料中のチトクロームcのアセチル化のレベルは、前記治療法に効験があるかどうかの指標である。いくつかの実施態様では、該対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルは、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体を用いる、及び/又は、質量分析法を用いることで、検出される。
【0013】
更にここでは、神経変性障害を有する対象を処置する方法が解説され、本方法は、対象のアセチル化チトクロームcのレベルを所定値未満に減少させるために、このような処置を必要とする対象に有効量の化合物を投与するステップを含み、このとき前記化合物は、サーチュインを活性化する化合物である。いくつかの実施態様では、本発明は、チトクロームcを脱アセチル化する作用物質に細胞を接触させることにより、中でチトクロームcがアセチル化した細胞のアポトーシスを阻害するステップを含む。チトクロームcを脱アセチル化する作用物質は、サーチュインなどの脱アセチル化酵素タンパク質であってよい。いくつかの実施態様では、当該のサーチュインはSIRT3である。
【0014】
本発明の更なる局面は、ある癌患者をチトクロームcをアセチル化する作用物質で処置すべきかどうかを、ある患者が、完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基の脱アセチル化を示す癌を有するかどうかを判定する検定を行うことにより、判定する方法に関し、このとき、前記患者が、完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基の脱アセチル化を示す癌を有するのであれば、前記患者は、チトクロームcをアセチル化する組成物による処置の候補である。
【0015】
ここで解説されるのは、中のチトクロームcが脱アセチル化されている細胞において、前記細胞を、チトクロームcをアセチル化する作用物質に接触させて前記細胞のアポトーシスを誘導することにより、アポトーシスを誘導する方法である。いくつかの実施態様では、前記細胞はin vivoであり、前記方法は、付加的な治療薬に前記細胞を接触させるステップを更に含む。本発明のいくつかの実施態様は、癌細胞の生存率を低下させるのに有効量の、チトクロームcをアセチル化する作用物質に、チトクロームcの脱アセチル化を示す癌細胞を接触させることにより、チトクロームcの脱アセチル化を示す前記癌細胞の生存率を下げる方法を含む。いくつかの実施態様では、前記細胞はin vivoであり、前記方法は、付加的な治療薬に前記細胞を接触させるステップを更に含む。
【0016】
更にここでは、アセチル化チトクロームcポリペプチドのエピトープに特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合フラグメントが解説されるが、このとき、前記エピトープは、完全長の野生型ヒトチトクロームcアミノ酸配列中の残基K40に相当するアセチル化残基を含む。いくつかの実施態様では、 前記単離抗体又はその抗原結合フラグメントは前記エピトープに約1 x 10-6 M、1 x 10-7 M、1 x 10-8 M、1 x 10-9 M、1 x 10-10 M、5 x 10-10 M、又は1 x 10-11 M 以下の結合親和性で特異的に結合する。いくつかの実施態様では、前記抗体又はその抗原結合フラグメントを、検出可能な標識に付着させる。さらにここでは、このような抗体をコードする核酸分子、これらの核酸分子を含有するハイブリドーマ、及び、このような抗体を産生するハイブリドーマ細胞株も含まれる。また本発明の数局面は、ここで解説する前記抗体又は抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子を含む発現ベクター、このような発現ベクターで形質転換させた又はこのような発現ベクターをトランスフェクトしたホスト細胞、及び、ここで解説する前記抗体又はその抗原結合部分産生するプラスミド、を含む。いくつかの実施態様では、本発明は、ここで解説する前記抗体又は抗原結合フラグメントを含む組成物に関する。
【0017】
更にここでは、アセチル化チトクロームcポリペプチドのエピトープに特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合フラグメントも解説され、このとき前記エピトープは、完全長の野生型ヒトチトクロームcアミノ酸配列中の残基K74に相当するアセチル化残基を含む。いくつかの実施態様では、前記単離抗体又はその抗原結合フラグメントは前記エピトープに約1 x 10-6 M、1 x 10-7 M、1 x 10-8 M、1 x 10-9 M、1 x 10-10 M、5 x 10-10 M、又は1 x 10-11 M以下の結合親和性で特異的に結合する。いくつかの実施態様では、前記抗体又はその抗原結合フラグメントを、検出可能な標識に付着させる。さらにここでは、このような抗体をコードする核酸分子、これらの核酸分子を含有するハイブリドーマ、及び、このような抗体を産生するハイブリドーマ細胞株も含まれる。また本発明の数局面は、ここで解説する前記抗体又は抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子を含む発現ベクター、このような発現ベクターで形質転換させた又はこのような発現ベクターにトランスフェクトさせたホスト細胞、及び、ここで解説する前記抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するプラスミド、を含む。いくつかの実施態様では、本発明は、ここで解説する前記抗体又は抗原結合フラグメントを含む組成物に関する。
【0018】
更にここでは、SIRT3の脱アセチル化酵素活性を調節する化合物を同定する方法も解説する。このような方法は、アセチル化チトクロームcポリペプチド基質及び SIRT3脱アセチル化酵素を検査化合物の存在下で接触させるステップと、前記検査化合物の存在下における前記チトクロームcポリペプチド基質のアセチル化のレベルを判定するステップとを含む。いくつかの実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は、完全長の野生型チトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する、少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含む。コントロールに比較したときの、前記検査化合物の存在下での前記チトクロームcポリペプチド基質のアセチル化のレベルの低下は、SIRT3脱アセチル化酵素活性を増加させる化合物の指標である。コントロールに比較したときの、前記検査化合物の存在下での前記チトクロームcポリペプチド基質のアセチル化のレベルの上昇は、SIRT3脱アセチル化酵素活性を減少させる化合物の指標である。
【0019】
いくつかの実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質プールのアセチル化のレベルは質量分析法により判定される。いくつかの実施態様では、前記質量分析法は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析法又はマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI) 質量分析法である。
【0020】
前述の方法のいくつかの実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は単一のポリペプチド種を含み、他方、他の実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は二種以上のポリペプチド種の混合を含む。
【0021】
いくつかの実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は完全長チトクロームcポリペプチドを含む。他の実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する少なくとも一つのリジン残基を含むチトクロームcのフラグメントである。更に他の実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は、完全長の野生型ヒト
チトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する少なくとも一つのリジン残基を含むチトクロームcの断片の融合体である。
【0022】
いくつかの実施態様では、前記検査化合物は有機低分子などの低分子である。いくつかの実施態様では、前記検査化合物は分子ライブラリーであるが、このライブラリーは、いくつかの実施態様では、有機低分子などの低分子を含んでいてもよい。
【0023】
いくつかの実施態様では、前記SIRT3脱アセチル化酵素は細胞又は組織ライセート由来である。
【0024】
いくつかの実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は細胞中にある。
【0025】
いくつかの実施態様では、前記SIRT3は、アセチル化K40及び/又はK74を含むチトクロームc基質をNAD+ 又はNAD+ 類似体の存在下で脱アセチル化することのできる、完全長(ヒト)SIRT3の触媒活性フラグメントである。
【0026】
更にここでは、SIRT3の活性を判定する際に用いられるアセチル化ポリペプチド基質も解説される。前記基質は、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK70に相当する少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含むチトクロームcのフラグメントを含む。いくつかの実施態様では、前記ポリペプチド基質は、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含むチトクロームcの断片の融合体である。更にここでは、前述のアセチル化ポリペプチド基質を含むキットも提供される。
【0027】
本発明のこれら及び他の局面や、それらの多様な実施態様は、本発明の図面及び詳細な説明を参照されればより明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
添付の図面は実寸に描かれるように意図されてはいない。明晰性という目的のために、すべての要素がすべての図面でラベルされている訳ではない。同図面において:
【図1】図1は、チトクロームc中のアセチル化部位を同定した、質量分析法の結果を示す表を提供する。図1に示されたマウスチトクロームcのタンパク質配列をSEQ ID NO:1に提供する。
【図2】図2は、トランスフェクトされたhSIRT3の非存在下でチトクロームcのアセチル化部位を同定した、質量分析法の結果を示す表を提供する。
【図3】図3は、チトクロームcがSIRT3の存在下で脱アセチル化されることを示す、トランスフェクトされたhSIRT3の存在下における質量分析法の結果を示す表を提供する。
【図4】図4は、多様な種におけるチトクロームcタンパク質の配列アライメントを提供する。ヒト、マウス、ドゥロソフィラ及びS.セレビジエのチトクロームcタンパク質のタンパク質配列を、それぞれSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:3 及びSEQ ID NO:4 として提供する。
【図5】図5は、K74のアセチル化は抗PAN抗体を用いて検出することができることを示すウェスタン・ブロットを提供する(マサチューセッツ州ビバリー、セル・シグナリング・テクノロジー社)。
【図6】図6は、チトクロームcがSIRT3と相互作用することを示す免疫沈降実験の結果を示すウェスタン・ブロットを提供する。
【図7】図7は、SIRT3が内因性チトクロームcを脱アセチル化することができることを示す脱アセチル化検定の結果を示すウェスタン・ブロットを提供する。
【図8】図8は、SIRT3ノックアウト・マウスで行われた行動実験の実験手法を示す概略図を提供する。
【図9】図9は、野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスにおける初代小脳顆粒神経細胞上のカイニン酸の効果を示すグラフ及び概略図を提供する。
【図10】図10は、野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスにおける体重変化を示すグラフを提供する。
【図11】図11は、メスの野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスにおける学習時間を示すグラフを提供する。
【図12】図12は、オスの野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスにおける学習時間を示すグラフを提供する。
【図13】図13は、恐怖条件付け実験の実験手法を示す概略図を提供する。
【図14】図14は、カイニン酸注射によって引き起こされた海馬及び扁桃体の神経細胞の消失を示すグラフを提供する。
【図15】図15は、SIRT3ノックアウト・マウスでの文脈的恐怖条件付け実験の結果を示すグラフを提供する。
【図16】図16は、恐怖条件付け実験での活性レベルを示すグラフを提供する。
【図17】図17は、マウスの歩行活動をオープン・フィールド・テストを用いて検査するために従った実験手法を示す概略図を提供する。
【図18】図18は、オープン・フィールド・テスト及び水迷路テストで検査された野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスの体重を示すグラフを提供する。
【図19】図19は、オープン・フィールド・テストで野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスが移動した距離を示すグラフを提供する。
【図20】図20は、オープン・フィールド・テストにおける野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスの運動速度を示すグラフを提供する。
【図21】図21は、野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスで行われた、旗で印した眼に見えるプラットホームを用いた水迷路実験の第1日目の結果を示すグラフを提供する。
【図22】図22は、野生型マウスに対する水迷路実験のプローブ試験2の結果を示す概略図を提供する。
【図23】図23は、SIRT3ノックアウト・マウスに対する水迷路実験のプローブ試験2の結果を示す概略図を提供する。
【図24】図24は、水迷路実験のプローブ試験1で野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスが異なる4分の1区に費やした時間を示すグラフを提供する。
【図25】図25は、水迷路実験のプローブ試験1で野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスが異なる4分の1区に費やした時間のパーセンテージを示すグラフを提供する。
【図26】図26は、水迷路実験のプローブ試験2で野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスが異なる4分の1区に費やした時間を示すグラフを提供する。
【図27】図27は、水迷路実験のプローブ試験2で野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスが異なる4分の1区に費やした時間のパーセンテージを示すグラフを提供する。
【図28】図28は、野生型及びSIRT3ノックアウト・マウスの海馬ライセートからPAN抗体(マサチューセッツ州ビバリー、セル・シグナリング・テクノロジー社、アセチル化リジン抗体)を用いて行った免疫沈降実験の結果を示し、SIRT3ノックアウト・マウスの海馬におけるタンパク質の超アセチル化を明らかにした、ゲル画像を提供する。
【図29】図29は、本発明に関連するキットの概略図を提供する。図29に示すキット(10)は、SIRT3を活性化するための化合物など、一つ又は複数の化合物(12)又は(14)を収容する一式の容器を含む。前記キットは選択的には指示(20)も収容する。更なる要素を前記キットに含めてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも部分的には、チトクロームcが少なくとも二つのリジン(K)残基、K40及びK74でアセチル化するという驚くべき発見に基づく。チトクロームcの脱アセチル化は、細胞死から神経細胞を防御することに関与していることがここで示される、脱アセチル化酵素SIRT3との相互作用を通じて媒介されることが明らかになっている。チトクロームcのアセチル化の観察及び調節は、細胞死に関連する疾患を含め、多種の疾患の診断上及び治療上の資源となる。
【0030】
本発明の数局面は、前記チトクロームcポリペプチドのアセチル化の発見に関係する。ここで用いられる場合の用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」は交換可能に用いられており、従ってポリペプチドという用語は、完全長ポリペプチドを言うために用いられている場合もあり、また完全長ポリペプチドの一フラグメントを言うために用いられている場合もある。用語「アセチル化チトクロームcポリペプチド」とは、一つ以上のリジン残基でアセチル化するチトクロームcポリペプチドを意味する。いくつかの実施態様では、二つ以上のリジン(K) 残基をアセチル化する。いくつかの実施態様では、一つだけのリジン残基をアセチル化する。いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドは、野生型の完全長のヒトチトクロームcポリペプチドのK40残基に相当する残基でのみ、アセチル化させてもよい。いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドは、野生型の完全長のヒトチトクロームcポリペプチドのK74残基に相当する残基でのみ、アセチル化させてもよい。いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドは、野生型の完全長のヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び残基K74に相当する残基で、アセチル化させてもよい。いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドは、野生型の完全長のヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び残基K74に相当する残基と、一つ以上の他のリジン残基とで、アセチル化させてもよい。いくつかの実施態様では、アセチル化させるK40 及び/又は K74他のリジン位置を、本発明の方法及び/又は生成物で用いてもよい。
【0031】
野生型の完全長ヒトチトクロームcポリペプチドの位置40の残基はリジンであるが、当該の野生型の完全長ヒトポリペプチド中のこのリジンと、フラグメント中、そして変異型のチトクロームc中のこの位置に相当する残基が、ここでは「K40」と呼ばれる場合がある。K40残基がアセチル化しているチトクロームcをここでは「K40-アセチル化チトクロームc」と呼ぶ場合がある。
【0032】
野生型の完全長ヒト チトクロームcポリペプチドの位置74の残基はリジンであるが、当該の野生型の完全長ヒトポリペプチド中のこのリジンと、フラグメント中、そして変異型のチトクロームc中のこの位置に相当する残基が、ここでは「K74」と呼ばれる場合がある。K74残基がアセチル化しているチトクロームcをここでは「K74-アセチル化チトクロームc」と呼ぶ場合がある。
【0033】
野生型の完全長ヒトチトクロームcポリペプチドは、Genbank受託番号No.
NP_061820として記載したアミノ酸配列を有する。アセチル化野生型の完全長ヒトチトクロームcポリペプチドは更に、Genbank受託番号No. NP_061820として記載したアミノ酸配列を有するが、そのリジン残基の一つ以上でアセチル化している。ヒト野生型の完全長チトクロームcをコードする核酸配列をGenbank 受託番号No. NM_018947として記載した。マウスチトクロームcの核酸及びタンパク質配列は、それぞれGenbank受託番号Nos. X01756 及びCAA25899 に相当する。
【0034】
野生型チトクロームcポリペプチド配列及び/又は変異型チトクロームcポリペプチド 配列を含め、本発明のチトクロームcポリペプチド 配列には対立遺伝子間のばらつきがあるであろう。ここで用いられる場合の用語「対立遺伝子バリアント」とは、同じ染色体上の位置にある遺伝子の二つ以上の代替的形のいずれをも意味する。対立遺伝子間のばらつきは、突然変異を通じて天然で生じ、集団内での多型につながることもある。遺伝子変異はサイレント(コードされたポリペプチドに何の変化もない)であることも、あるいは、アミノ酸配列の変化したポリペプチドをコードしていることもある。あるポリペプチドの対立遺伝子バリアントとは、ある遺伝子の対立遺伝子バリアントにコードされたポリペプチドである。当業者であれば、このような対立遺伝子間のばらつきは完全長の野生型及び
変異型チトクロームcポリペプチドにも、そして野生型及び変異型ポリペプチド中のフラグメントにも起き得ることは理解されよう。本発明のチトクロームcポリペプチドは野生型チトクロームc又は変異型チトクロームcポリペプチド 配列の対立遺伝子バリアントであるかも知れない。当業者であれば、野生型及び変異型チトクロームcポリペプチドのバリアントのどの残基が、野生型チトクロームcポリペプチドの残基に相当するかを、慣例的な方法を用いて特定できるであろう。
【0035】
フラグメント
いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドのうちの一フラグメント中のアセチル化リジン残基を、そのフラグメントが完全長チトクロームcポリペプチドでなくとも、アセチル化K40 残基又はK74残基と呼ぶ。当業者であれば、チトクロームcポリペプチド配列(野生型もしくは変異型)中のアセチル化残基の、完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の一残基との相関性を、慣例的な配列比較法を用いて容易に判断することができる。
【0036】
いくつかの局面では、本発明は、アセチル化完全長チトクロームcポリペプチド又はそのアセチル化フラグメントの合成を含むであろう。本発明の合成法には、例えば既存の天然又は合成チトクロームcポリペプチドのアセチル化、又は、合成中のチトクロームcポリペプチドへのアセチル化リジン残基の導入など、当業で公知の合成法が含まれよう。アセチル化リジンの導入には、リジンのイプシロン-アミノ基で起きる、以下のアセチル化ステップが含まれよう。
リジン+アセチル-CoA -> アセチル−リジン + H2O
【0037】
ポリペプチド、タンパク質又はそれらのフラグメントに関してここで用いられる場合、「単離された」とは、その天然環境から分離され、その同定又は使用が可能なように充分な量、存在することを意味する。タンパク質又はポリペプチドについて言う場合、単離された、とは、例えば:(i)発現クローニングによって選択的に生成された、又は(ii)クロマトグラフィー又は電気泳動法により、精製された、ことを意味する。単離されたタンパク質又はポリペプチドは、実質的に純粋であってもよいが、必ずしもそうである必要はない。用語「実質的に純粋」とは、当該のタンパク質又はポリペプチドが、生成時、天然、又はin vivo系で、それらが一緒に見つかることのある他の物質から、それらに意図された用途にとって実際的かつ適切に概ね切り離されていることを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、天然で得られる場合や、あるいは、ここで解説する方法を用いて作製される場合があり、また、当業で公知の技術で精製される場合もある。単離されたタンパク質を、例えば医薬製剤中の薬学的に許容可能な担体など、製剤中の治療的成分と混合してもよく、当該のタンパク質は製剤の重量でいってごく僅かなパーセンテージしか成していないこともある。しかしそれでも尚、当該のタンパク質は、生きた系中でそれが結び付いていることのある物質から分離されている、即ち、他のタンパク質から単離されているという点で、単離されているのである。
【0038】
本発明のいくつかの局面では、完全長の野生型もしくは変異型チトクロームcポリペプチドのフラグメントを提供する。本発明のフラグメントは、好ましくは、当該のポリペプチドの個別の機能的能力を保持したフラグメントであるとよい。フラグメント内に保持することのできる機能的能力には、アセチル化、抗体との相互作用、及び他のポリペプチドもしくはそのフラグメントとの相互作用、がある。ポリペプチド・フラグメントは、当業で公知の方法を用いて合成することができ、ここで例示する方法を用いて機能について検査することができる。
【0039】
アセチル化チトクロームcポリペプチドのフラグメントは、野生型ヒトチトクロームcポリペプチド又は、ここで解説する通りの改変されたチトクロームcポリペプチド配列に見られる、連続した配列を有する少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、102個又はそれ以上(それぞれの間の整数を含む)の連続した、チトクロームcポリペプチドのアミノ酸を含むであろう。いくつかの実施態様では、フラグメントは、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドのK40及び/又はK74に相当するリジン残基を含む。K40及びK74に相当する残基はアセチル化していても、又はしていなくてもよい。アセチル化チトクロームcポリペプチドのフラグメントは、当業で公知の合成法を用いて調製することができるが、あるいは、アセチル化チトクロームcポリペプチドの天然のフラグメントであってもよい。このようなフラグメントは、合成及び天然でアセチル化したチトクロームcポリペプチドに特異的に結合する分子の調製、及び、競合的結合免疫検定法を含む、当業者に公知の免疫検定法を含め、多様な目的にとって有用である。いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcのフラグメントを用いて、SIRT3活性を検定する、あるいはSIRT3活性を阻害することができよう。
【0040】
当業者であれば、完全長の野生型もしくは変異型 チトクロームcポリペプチドのフラグメントをどのように調製するかを理解されよう。完全長の野生型もしくは変異型
チトクロームcポリペプチドのアセチル化フラグメントは、野生型の完全長ヒト
チトクロームcポリペプチドのK40及び/又はK74リジンに相当するアセチル化リジン、及び/又は、野生型の完全長ヒト チトクロームcポリペプチドの異なるリジンに相当するアセチル化リジンを含むであろう。更に、本発明のいくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドのフラグメントは、K40 及び/又は K74残基と、一つ以上の更なるリジン残基とを含んでもよく、これらリジンの一つ、それぞれ、いくつかをアセチル化させても、又はいずれもアセチル化させなくともよい。
【0041】
当業者であれば、ヒトチトクロームcの機能的相同体は複数の種で存在するのは知るところである。ヒトチトクロームcに機能的に相同な、他の種を由来とする完全長タンパク質及び完全長タンパク質のフラグメントを含むアセチル化ポリペプチドは、本発明にとって適合性がある。当業者であれば、相同タンパク質中で、ヒトチトクロームc中の残基K40もしくはK74に機能的に相同な残基を同定する技術は知るところである。例えば、図4は、多様な種のチトクロームcタンパク質の配列アライメントを挙げたものである。ヒトチトクロームcK74は各種で保存されてはいるが、いくつかの種においては、この残基はその種の前記チトクロームcタンパク質の位置74にはない。しかしながら、配列アライメントや、当業者に公知の他の方法に基づけば、ある種由来の前記チトクロームcポリペプチド中でどの残基がヒトチトクロームc中の残基K74に機能的に相同であるか、明白であろう。
【0042】
本発明の数局面は、ヒト野生型の完全長チトクロームcタンパク質のアセチル化を検出すること、そして更には、ヒトチトクロームcタンパク質のフラグメント、バリアント及び変異型の中でチトクロームcタンパク質のアセチル化を検出することも包含することは理解されよう。更に、本発明の数局面は、いずれか他の種由来の野生型の完全長チトクロームcのアセチル化の検出を含め、いずれか他の種由来のチトクロームcタンパク質のアセチル化の検出、及び、いずれか他の種由来のチトクロームcタンパク質のフラグメント、バリアント及び変異型のアセチル化の検出も包含する。
【0043】
「改変された」野生型もしくは変異型チトクロームcポリペプチドもしくはそのフラグメントには、欠失、点変異、トランケーション、アミノ酸置換及び/又はアミノ酸もしくは非アミノ酸部分の追加が含まれよう。本発明のポリペプチドの改変は、当該ポリペプチドをコードする核酸の改変によって行われてもよく、あるいは代替的には、改変は、切断、リンカー分子の追加、ビオチンなどの検出可能な部分の追加、担体分子の追加等、ポリペプチドに対して直接的に行われてもよい。また改変は、当該ポリペプチドのアミノ酸配列の全て又は一部を含む融合タンパク質も包含する。
【0044】
概略的には、改変されたチトクロームcポリペプチドには、あるポリペプチドの生理活性に無関係な当該ポリペプチドの特徴を特異的に変化させるために改変されたポリペプチドが含まれる。例えば、望ましくないジスルフィド結合を防ぐために、システイン残基は置換するか又は欠失させることができる。ポリペプチドの改変は、アミノ酸置換、欠失、及び/又は追加を選択することで行うことができ、そして改変されたポリペプチドは、当業で公知の方法を用いて合成してもよい。その後、改変されたポリペプチドを、一つ以上の活性(例えば抗体結合、抗原性等)について検査することで、どの改変が、所望の特性を持つ改変されたポリペプチドを提供するかを判定することができる。
【0045】
また当業者であれば、保存的アミノ酸置換をポリペプチドに行って、機能的に等価のポリペプチド、即ち、野生型もしくは変異型
チトクロームcポリペプチドの機能的能力を保持した改変されたチトクロームcポリペプチドを提供しようとしてもよいことは理解されよう。ここで用いられる「保存的アミノ酸置換」とは、このアミノ酸置換を行うタンパク質の相対的電荷又はサイズ上の特徴を変えないアミノ酸置換を言う。改変されたチトクロームcポリペプチドは、ポリペプチド配列を変更するための、このようなものとして当業者に公知の方法に従って調製することができる。機能的に等価のチトクロームcポリペプチドの例には、チトクロームcポリペプチドもしくはそのフラグメントの保存的アミノ酸置換がある。アミノ酸の保存的置換には、以下のグループ: (a) M、I、L、V; (b) F、Y、W; (c) K、R、H; (d) A、G; (e) S、T; (f) Q、N; 及び(g) E、D内のアミノ酸の中で行われる置換がある。
【0046】
チトクロームcポリペプチド中の保存的アミノ酸置換は、典型的には、当該ポリペプチドをコードする核酸の変更によって行われる。このような置換は当業者に公知の多様な方法により行うことができる。例えば、アミノ酸置換は、当該チトクロームcポリペプチドをコードする遺伝子のPCR-指定変異、部位指定変異誘発法、又は化学合成によって、行えよう。アミノ酸置換をポリペプチドの小さなフラグメントに行う場合、その置換は、当該ポリペプチドを直接合成することにより、行うことができる。チトクロームcポリペプチドの機能的に等価なフラグメントの活性は、開示された通り、変更後のポリペプチドをコードする遺伝子を細菌性又は哺乳動物発現ベクター内にクローニングし、このベクターを適したホスト細胞内に導入し、変更後のポリペプチドを発現させ、そして当該ポリペプチドの機能上の能力について検査することにより、検査することができる。
【0047】
上述したように、完全長の野生型もしくは変異型チトクロームcポリペプチドのフラグメントは合成ポリペプチドであってもよい。ここで用いられる場合の用語「合成」とは、人工的に作製されたことを意味する。合成ポリペプチドとは、合成されたポリペプチドであり、天然で生じるポリペプチド分子ではない(例えば動物又は生物で生じたものではない)。天然ポリペプチド(例えば内因性ポリペプチド)の配列は合成ポリペプチドの配列に同一である場合もあるが、後者は少なくとも一つの合成ステップを用いて作製されたものであろうことは理解されよう。
【0048】
ここで用いられる場合の合成アセチル化ポリペプチドとは、限定はしないが本発明の方法であってもよい合成法でアセチル化させたポリペプチドである。本発明のアセチル化ポリペプチドは天然でアセチル化したポリペプチド(例えば内因性のアセチル化ポリペプチド)であっても、あるいは合成アセチル化ポリペプチドであってもよい。合成アセチル化ポリペプチドは天然アセチル化ポリペプチドとは異なるかも知れないが、本発明の合成ポリペプチドに対して生じた抗体は、生じた相手である合成ポリペプチドエピトープに高い親和性で特異的に結合すると共に、あるポリペプチド中の天然エピトープにも高い親和性で特異的に結合するであろう。このように、合成ポリペプチドのアセチル化エピトープがアミノ酸配列において天然アセチル化ポリペプチドの同じエピトープと僅かに異なっていても、本発明の合成アセチル化エピトープに対して生じた抗体は、天然アセチル化エピトープと合成アセチル化エピトープに、大半の場合高い親和性で、特異的に結合する。合成アセチル化ポリペプチドを用いて作製された本発明の抗体は、天然及び合成アセチル化ポリペプチドに、大半の場合高い親和性で特異的に結合し、天然(異種)のアセチル化及び非アセチル化ポリペプチド間を識別することができ、また合成アセチル化及び合成非アセチル化ポリペプチド間も識別することができる。
【0049】
SIRT3によるチトクロームc脱アセチル化
ヒストン脱アセチル化酵素タンパク質(HDAC)は四つの異なるクラスを構成する。NAD+-依存的脱アセチル化酵素であるクラスIII HDACはサーチュインとして知られる。サーチュインはヒストンと、ヒストン以外の両者の細胞内標的を脱アセチル化する保存されたタンパク質である。ヒトでは7種のサーチュインが同定されており(SIRT1-7)、個々のサーチュインタンパク質は別個の細胞レベル下局在及び機能を示す。SIRT3タンパク質は核及びミトコンドリアの両方での局在を示すことが報告されており、SIRT3 機能は代謝及び長寿と関連付けられている。
【0050】
実施例の項では、SIRT3がチトクロームcに結合して脱アセチル化することを実証する。更に、SIRT3機能がノックアウトされたマウスは細胞生存の低下を示すことも実証されており、神経保護におけるSIRT3の機能が示唆される。更に、SIRT3は記憶の形成及び恐怖の条件付けで役割を果たすこともここで示される。
【0051】
本発明の数局面は、チトクロームcのアセチル化及び脱アセチル化を調節することに関する。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、チトクロームcのアセチル化を低減させるために、SIRT3などのサーチュインの活性又はタンパク質レベルを上昇させることを含む。いくつかの実施態様では、SIRT3などのサーチュインの活性又はタンパク質レベルを、サーチュイン遺伝子又はタンパク質を投与することを通じて、上昇させる。いくつかの実施態様では、SIRT3などのサーチュインの活性又はタンパク質レベルを、サーチュインのタンパク質レベルを上昇させる、又はその活性を上昇させる、化合物を投与することを通じて、上昇させる。サーチュインを活性化する方法や、サーチュインを活性化する化合物の非限定的な例は、言及をもってその全文をここに援用することとする米国特許公報2006/0025337の式1−25、30、及び32−65で提供される。サーチュインを調節する方法及び化合物は、すべて言及をもってその全文をここに援用することとする米国特許公報:2007/0043050、2007/0037865、2007/0037827、2007/0037809、2007/0014833、2006/0276416、2006/0276393 及び2006/0229265、並びに米国特許第7,345,178号にも紹介されている。
【0052】
更に本発明は、SIRT3などのサーチュインを調節する化合物を同定するためのスクリーニング法も包含する。SIRT3などのサーチュインの活性を調節する化合物は、いくつかの実施態様では、核酸(例えばアプタマー)、ポリペプチド、又は低分子、例えば低有機分子など、であろう。サーチュイン活性を調節する化合物の非限定的な例は、言及をもってその全文をここに援用することとする米国特許公報2006/0025337に提供されており、例えば式1−25、30、及び32−65又はこれらの類似体などである。幅広い化合物及び/又は化合物ライブラリーが、ここで解説するスクリーニング法に適していることは理解されるはずである。
【0053】
アッセイは細胞ベースのフォーマットで行われても、又は無細胞のフォーマットで行われてもよい。例えばあるアッセイは、SIRT3などのサーチュインと検査化合物とを、サーチュインを活性化することが公知の化合物によってサーチュインが活性化できる条件下でインキュベートする(又は接触させる)ステップと、検査化合物の非存在下に比較したときの、検査化合物の存在下でのサーチュインの活性化のレベルを観察する又は判定するステップを含むかも知れない。サーチュインの活性化レベルは、基質を脱アセチル化するその能力を判定することによって、判定することができる。基質の例はアセチル化ポリペプチド、又はポリペプチドのライブラリーもしくはプールである。いくつかの実施態様では、基質はチトクロームcポリペプチドである。いくつかの実施態様では、基質は単一のポリペプチドを含有するが、他方、他の実施態様では、それは二種以上のポリペプチド種の混合物を含有する。いくつかの実施態様では、基質は、一つ以上のアセチル化残基を有する一種以上のチトクロームcポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、基質は、残基K40 及び/又は K74に相当するアセチル化リジン残基を有する一種以上のチトクロームcポリペプチドを含む。ポリペプチドの基質には、例えば完全長タンパク質及び/又はタンパク質フラグメント及び/又は異種融合体を単独又は組合せを含めることができる。ポリペプチドは多様な長さのものであってよい。いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチド基質は、残基K40 及び/又は K74に相当する少なくとも一つのリジン残基を含むチトクロームcのフラグメントの融合体を含む。チトクロームcのフラグメントの融合体には、いずれか他のポリペプチドのフラグメントに融合させた、チトクロームcポリペプチドのいずれかのフラグメントが包含され得る。いくつかの実施態様では、前記チトクロームcポリペプチド基質は細胞内にある。スクリーニング・アッセイで用いられる基質は、いくつかの実施態様では、蛍光発生性であってよい。
【0054】
ここで解説する方法及び組成物には、完全長SIRT3タンパク質又はその一部分が包含され得ることは理解されるはずである。いくつかの実施態様では、SIRT3の生物学的に活性な部分を、ここで解説する方法に従って用いてもよい。SIRT3の生物学的に活性な部分とは、例えば残基K40 及び/又は K74に相当する少なくとも一つのリジン残基を含むチトクロームc又はチトクロームcのフラグメントなど、アセチル化した基質をニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD+) 又はNAD+ 類似体の存在下でアセチル化する能力など、生物学的活性を有するタンパク質部分を言う。SIRT3の生物学的に活性な部分は、いくつかの実施態様では、NAD+結合ドメイン及び/又は基質結合ドメインを包含する。他の実施態様では、SIRT3 の生物学的に活性な部分は、ミトコンドリア・マトリックス・プロセッシングペプチダーゼ(MPP) 及び/又はミトコンドリア中間体ペプチダーゼ (MIP)による切断で生じたSIRT3タンパク質のフラグメントであってもよい。ここで解説する方法で用いるSIRT3脱アセチル化酵素は細胞由来でも、又は組織ライセート由来でもよい。ここで解説するアッセイを用いて、SIRT3のある一部分がSIRT3の生物学的に活性な部分であるかを判定することができる。
【0055】
いくつかの実施態様では、反応を約30分間、行い、ニコチンアミドなどで停止させてもよい。HDAC蛍光活性アッセイ/薬物発見キット(AK-500、BIOMOLリサーチ・ラボラトリーズ社)に解説されたものに同様なアッセイを用いても、アセチル化のレベルを判定できよう。同様なアッセイはBitterman et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:45099に解説されている。アッセイにおけるサーチュインの活性化レベルを、陽性又は陰性のコントロールとした一つ以上の(別々に又は同時に)化合物の存在下におけるサーチュインの活性化レベルに比較してもよい。アッセイで用いるサーチュインは完全長SIRT3タンパク質であっても、又はその生物学的に活性な部分であってもよい。いくつかの実施態様では、アッセイで用いるタンパク質には、SIRT3のN末端部分が含まれる。SIRT3などのサーチュインを調節する化合物を求めるスクリーニングの方法を、言及により米国特許第7,544,497号、及び米国特許公報2009/0221020、2008/0293081及び2006/0252076から援用することとする。
【0056】
方法は、(i)SIRT3などのサーチュインを含む細胞をチトクロームcポリペプチド基質に、サーチュインが前記ポリペプチドを脱アセチル化するのに適した条件下で接触させるステップと、(ii)前記ポリペプチドのアセチル化のレベルを判定するステップとを含み、このとき、コントロール(例えば検査化合物の非存在下)に比較したときに、検査化合物の存在下における前記ポリペプチドのアセチル化のレベルが異なることは、前記検査化合物がin vivoでサーチュインの活性を調節することの指標である。チトクロームcの他の基質も、サーチュインの活性を調節する化合物を同定するためのこのようなアッセイで適合性があることは理解されるはずである。
【0057】
ある実施態様では、スクリーニング・アッセイは(i)SIRT3などのサーチュインを検査化合物及びアセチル化基質に、検査化合物の非存在下でサーチュインが前記基質を脱アセチル化するのに適した条件下で接触させるステップと、(ii)前記基質のアセチル化のレベルを判定するステップと、を含み、このとき、検査化合物の非存在下に比較したときに、検査化合物の存在下における前記基質のアセチル化のレベルが低いことは、前記検査化合物がサーチュインによる脱アセチル化を刺激することの指標であり、他方、検査化合物の非存在下に比較したときに、検査化合物の存在下における前記基質のアセチル化のレベルが高いことは、前記検査化合物がサーチュインによる脱アセチル化を阻害することの指標である。
【0058】
in vivoにおいてSIRT3などのサーチュインを、例えば刺激又は阻害するなど調節する化合物を同定する方法は、(i)細胞を、検査化合物と、クラスI及びクラスII HDACの阻害剤の存在下で細胞内に進入することができる基質とに、前記検査化合物の非存在下でサーチュインが前記基質を脱アセチル化するのに適した条件下で接触させるステップと、(ii)前記基質のアセチル化のレベルを判定するステップと、を含んでもよく、このとき検査化合物の非存在下に比較したときに、検査化合物の存在下における前記基質のアセチル化のレベルが低いことは、前記検査化合物がサーチュインによる脱アセチル化を刺激することの指標であり、他方、検査化合物の非存在下に比較したときに、検査化合物の存在下における前記基質のアセチル化のレベルが高いことは、前記検査化合物がサーチュインによる脱アセチル化を阻害することの指標である。好適な基質はアセチル化ポリペプチドであるが、このアセチル化ポリペプチドは更に蛍光発生性であってもよい。本方法は更に、基質のアセチル化のレベルを判定するために細胞を溶解させるステップを含んでもよい。いくつかの実施態様では、前記基質を細胞に約1μM 乃至約10mM、好ましくは約10μM乃至1mM、更により好ましくは例えば約200μMなど、約100μM乃至1mMの範囲の濃度で加えてもよい。
【0059】
いくつかの実施態様では、SIRT3などのサーチュインを活性化する化合物を同定する方法は、以下に更に論じる質量分析法を含むであろう。脱アセチル化酵素タンパク質の活性を調節する化合物を同定するために質量分析法を用いる方法を、米国特許公報2009/0221020の言及をもってここに援用することとする。質量分析法を用いると、チトクロームc、又はSIRT3などのサーチュインのいずれか他の基質のアセチル化のレベルを明らかにすることができる。いくつかの実施態様では、脱アセチル化酵素を活性化する化合物を同定する方法は、チトクロームcポリペプチドを、SIRT3などのサーチュイン又はその生物学的に活性な部分に検査化合物の存在下で接触させるステップであって、このとき前記チトクロームcポリペプチドが少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含む、ステップと、前記チトクロームcポリペプチドのアセチル化のレベルを、質量分析法を用いて判定するステップとを含み、このときコントロールに比較したときに検査化合物の存在下における前記ポリペプチドのアセチル化のレベルが減少していることは、脱アセチル化酵素を活性化する化合物の指標である。質量分析法は、いくつかの実施態様では、エレクトロスプレーイオン化 (ESI) 質量分析法 及び/又はマトリックス支援レーザー脱離/イオン化 (MALDI) 質量分析法を包含する。
【0060】
いくつかの実施態様では、サーチュインなどの脱アセチル化酵素の活性を判定する方法は、脱アセチル化酵素を含む細胞又は組織ライセートにポリペプチドを接触させるステップであって、このとき前記ポリペプチドは少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含む、ステップと、前記ポリペプチドのアセチル化のレベルを質量分析法を用いて判定するステップであって、前記ポリペプチドのアセチル化のレベルが減少していることは、脱アセチル化酵素活性の指標である、ステップとを含む。前記脱アセチル化酵素はSIRT3 であってよく、細胞又は組織ライセート中にあってよい。前記チトクロームcポリペプチドは細胞内にあってよい。
【0061】
いくつかの実施態様では、前記ポリペプチド基質の濃度は、そのポリペプチド基質に対するSIRT3などのサーチュインのKm
未満である。例えばポリペプチド基質の濃度は、そのポリペプチド基質に対するサーチュインのKm の少なくとも2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、7分の1、8分の1、9分の1、10分の1、11分の1、12分の1、13分の1、14分の1、15分の1、又はそれ未満である。
【0062】
ここで解説するスクリーニング法を行う、又は同スクリーニング法によって同定される化合物は、例えば有機低分子などの低分子であってもよい。このような低分子は当業で公知である。このような分子の例をここで紹介するが、例えばUS 7,544,497及びUS 2009/0221020などの公開文献にもある。本発明の数局面は、このような化合物又はその類似体を調製するステップと、そしていくつかの実施態様では、前記化合物又はその類似体の、動物における効験及び毒性に関する治療プロファイリングを行うステップとを含む。治療プロファイリングを行う方法は当業者に公知である。いくつかの局面では、方法は標準的な方法を用いて化合物を医薬調合物に調合するステップを含む。本発明は、ここで解説する化合物、又はここで解説する方法を用いて同定された化合物、あるいはこれらの類似体、を含有すると共に適した動物毒性プロファイルを有する医薬製剤を製造するステップを包含する。ここで解説する化合物、又はここで解説する方法を用いて同定された化合物、あるいはこれらの類似体、を含有すると共に適した動物毒性プロファイルを有する医薬製剤は、保健業者に市販することができる。様々な量の、ある化合物又はその類似体を調製する方法、前記化合物又はその類似体の治療プロファイリングを行う方法、化合物を医薬調合物に調合する方法、そして化合物を含有する医薬製剤を製造する方法は、米国特許第7,544,497号及び米国特許公報2009/0221020の言及をもってここに援用することとする。
【0063】
更に本発明の数局面は、SIRT3の活性を判定する際に用いられる、残基K40 及び/又は K74に相当する少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含むチトクロームcのフラグメントを含むアセチル化ポリペプチド基質に関する。当該のポリペプチド基質は、残基K40 及び/又は K74に相当する少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含むチトクロームcのフラグメントの融合体であってもよい。このようなポリペプチドは化学合成することも、組換えにより作製することも、あるいは当業で慣例的に用いられるいずれか他の方法によって作製することもできる。ポリペプチドは当業で慣例的に実施されている標準的な方法に従ってアセチル化することができる。また本発明の数局面は、このようなアセチル化ポリペプチド基質を含むと共にここで解説するスクリーニング方法で用いることのできるキットにも冠する。
【0064】
神経変性障害
本発明の数局面は障害の診断及び処置に関する。ここで用いられる場合の「障害」とは、チトクロームcアセチル化の増加又は減少に関連するいずれかの病的状態を言う。いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcの増加に関連する障害又は状態は神経変性障害である。ここで用いられる場合の用語「神経変性障害」とは、神経系の細胞及び組織成分の劣化によって引き起こされる障害、疾患又は状態を言う。
【0065】
神経変性障害のいくつかの非限定的な例には、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、脳室周囲白質軟化症 (PVL)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS、「ルー・ゲーリック病」)、グアムのALS-パーキンソン−痴呆症候群、フリードライヒ運動失調症、ウィルソン病、多発性硬化症、脳性麻痺、進行性核上麻痺(スティール−リチャードソン症候群)、延髄性及び偽延髄性麻痺、糖尿病性網膜症、多重梗塞性痴呆、黄斑部変性症、ピックズ病、びまん性レーヴィ小体病、クロイツフェルトヤコブ病などのプリオン病、ゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー病、クールー病及び致死性家族性不眠症、原発性側索硬化症、変性運動失調症、マチャド−ジョセフ病/脊髄小脳運動失調症タイプ3及びオリーブ橋小脳変性、脊髄及び脊髄延髄性筋萎縮(ケネディー病)、家族性痙性対麻痺、ウォルファルト‐クーゲルベルク‐ウェランダー病、テイ‐サックス病、多重系変性(シャイ−ドレーガー症候群)、ジル・ド・ラ・ツレット病、家族性自律神経障害(ライリー−デイ症候群)、クーゲルベルク-ヴェランデル病、亜急性硬化性全脳炎、ウェルドニグ-ホフマン病、シヌクレイノパシー(原語:synucleinopathies )(多系統萎縮症を含む)、サンドホフ病、皮質性基底性変性、痙性不全対麻痺、原発性進行性失語症、進行性多病巣性白質脳症、線条体黒質変性症、家族性痙性疾患、神経変性に関連する慢性てんかん状態、ビンスバンガー病、及び痴呆(痴呆の全基礎病因を含む)がある。
【0066】

本発明の数局面は癌の診断及び処置にも関する。ここで用いられる場合の用語「癌」とは、身体の器官及び系の正常な機能に干渉することのある、細胞成長の制御不能を言い、その中には原発性及び転移性腫瘍の両者が含まれる。元の場所から移動して重要な器官に播種する原発性腫瘍又は癌は最終的には罹患器官の機能悪化を通じて対象の死につながることがある。転移は原発腫瘍位置とは別個の癌細胞又は癌細胞群であり、原発腫瘍から身体の他の部分へと癌細胞が内転移することから生じる。転移は最終的には対象を死に至らしめることがある。
【0067】
ここで用いられる場合の用語「癌」には、限定はしないが、以下の種類の癌が含まれる:乳癌(in situの癌腫を含む)、胆道癌;膀胱癌;グリア芽腫及び髄芽腫を含む脳の癌;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮体癌;食道癌、食道癌;胃癌;急性リンパ球性及び骨髄性白血病を含む造血系の新生物;T細胞球性リンパ芽球性白血病/リンパ腫;へアリー細胞白血病;慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫;AIDS随伴白血病及び成人T細胞白血病リンパ腫;ボウエン病及びペーチェット病を含む上皮内新生物;肝臓癌;肺癌;ホジキン病及びリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;中皮腫、神経芽腫;扁平細胞癌腫を含む口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞及び間葉細胞から生じるものを含む卵巣癌;膵臓癌;前立腺癌;腎癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、及び骨肉腫を含む肉腫;黒色腫、メルケル細胞癌腫、カポジ肉腫、基底細胞癌腫、及び扁平細胞癌を含む皮膚癌;精上皮腫、非精上皮腫(奇形腫、絨毛癌)、間質腫瘍、及び生殖細胞の腫瘍などの胚細胞の腫瘍を含む精巣癌;甲状腺腺癌及び髄様癌腫を含む甲状腺癌;並びに腺癌及びウィルムス腫瘍を含む腎癌がある。前癌状態の非限定的な例には、異形成症、前癌病変、腺腫性結腸ポリープ、及び、in situ腺管癌(DCIS)などのin situ癌腫などがある。本発明の方法で処置することができる他の癌は当業者に公知であろう。いくつかの実施態様では、当該の癌は黒色腫である。いくつかの実施態様では、当該の癌は腺癌である。いくつかの実施態様では、当該の癌は充実腫瘍癌である。本発明の方法を用いて処置又はアッセイできると思われる癌には、更に、乳癌、肺癌、前立腺癌、中皮腫等も含まれよう。
【0068】
チトクロームcのアセチル化を測定する
本発明は、いくつかの局面では、アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを測定し、特定の残基(例えばK40 及び/又はK74)におけるチトクロームcのアセチル化を検出するための多様なアッセイを含む。細胞、組織、対象、及び試料(例えば対象由来、培養株中の、など)中のアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを判定するために有用な、本発明の方法には、限定はしないが:アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを用いるなどの特異的結合アッセイを含む結合アッセイ;ゲル電気泳動法;質量分析法;NMR;等がある。イムノアッセイを、限定はしないが、サンドイッチ型アッセイ、競合結合アッセイ、ワン・ステップ直接検査及びツーステップ検査等で本発明に従って用いてもよい。更に、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体の結合の評価を、vivo 、即ち当業で公知の検出可能な標識を用いて生きた対象で、そして適したin vivo 法で、行ってもよい。
【0069】
本発明の方法及びアッセイ(例えば結合アッセイ、ゲル電気泳動法;質量分析法;NMR;等)を用いて、細胞試料及び/又は対象中のチトクロームcアセチル化のレベルの経時的な変化や、あるいは、細胞試料及び/又は対象中のチトクロームcの特定の残基のアセチル化の経時的変化を観察してもよい。ここで解説するチトクロームcのアセチル化測定法は、上述したように、SIRT3活性などのサーチュイン活性の調節剤をスクリーニングする方法にも適用することができる。
【0070】
質量分析法
チトクロームcのアセチル化を質量分析法で測定してもよい。質量分析法は、タンパク質及びペプチドの同定において、そしてタンパク質及びペプチド内の修飾残基の同定において、重要なツールである。いくつかの実施態様では、質量分析法を用いてチトクロームcのアセチル化のレベルを判定する。いくつかの実施態様では、質量分析法を用いて、チトクロームcが特定の残基でアセチル化しているかどうかを判定する。
【0071】
ESI又はMALDI-MSなどの質量分析法を用いると、ペプチドを、気相及び精確に測定されたそれらの質量にインタクトで電離させることができる。この情報に基づき、これらの測定された質量がタンパク質データベースから得られた予測値に比較されるタンパク質質量マッピング又はペプチド・マッピングを用いてタンパク質を容易に同定することができる。更なる配列情報を、タンデムMS実験で個々のペプチドをフラグメントにすることによっても得ることができる。
【0072】
配列特異的データベース又は特定の化学的開裂剤を用いると、標的タンパク質から一組のペプチドが得られ、この一組のペプチドをその後質量分析する。タンパク質分解後のフラグメントの観察質量を、配列データベースに上がった全てのタンパク質の理論上の「in silico」の消化産物と比較する。次にそのマッチ又は「ヒット」を統計学的に評価し、確立が最も高いものに従って印を付ける。
【0073】
タンデム質量分析法実験により、個々のペプチドのフラグメント・パターンを生じさせることでペプチド同定が可能である。ペプチド・マッピング実験と同様に、実験で得られるフラグメント化パターンを、理論的に作製されるMS/MSフラグメント化パターンに、検索されたデータベースに含まれた各タンパク質から生じる多様なタンパク質分解性ペプチドについて、比較することができる。その結果を統計学的に評価し、Sequest (ThermoFinnigan 社) 及びMASCOT (Matrix
Science社) などの検索エンジンを用いたアルゴリズムを採点すると、ベスト・マッチの特定が容易となる。タンデムMS実験に含まれた部分的な配列情報は、ペプチドの質量を単に用いるよりもより具体的である。なぜなら、アミノ酸含有量は同一であるが配列の異なる二つのペプチドは異なるフラグメント化パターンを示すことになるからである。タンデム質量分析法の、これらのイオンに対してフラグメント化を誘導して連続的に質量分析法実験を行う能力が、フラグメント化を通じた構造情報を得るために広く用いられている。
【0074】
フラグメント化を開始するプロセスの一つは、衝突誘発性解離(CID)として知られる。CIDは質量分析器で目的のイオンを選択し、その後、そのイオンを中性原子又は分子と衝突させることにより、達成される。選択されたイオンはアルゴンなどの衝突気体と衝突し、イオンのフラグメントとなり、このフラグメントがその後質量分析される。CIDは多種の装置で達成することができるが、最も多くは三重四極子、四極子イオン・トラップ、フーリエ変換イオン・シクロトロン共鳴(FT-ICR) 質量分析法 (FTMS)、飛行時間リフレクトロン及び四極子飛行時間質量分析器が用いられる。エレクトロスプレーを組み合わせた三重四極子及び四極子イオン・トラップが、ペプチド構造データを作製する通常の手段であるが、それはこれらが、高い感受性で妥当な量のフラグメント化情報を生成できるからである。飛行時間リフレクトロン及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴と組み合わせたMALDI もまた、構造情報の通常のソースである。
【0075】
質量分析法によるペプチド配列情報を得るためには、元々の化合物の構造上の特徴を反映したイオンのフラグメントを生成せねばならない。大半のペプチドは線形の分子であるため、フラグメント化データを比較的に簡単に解釈することができる。そのプロセスは、ペプチド・イオンから出た運動エネルギーのいくらかを振動エネルギーに変換することによって開始される。これは、通常は(M+H)又は(M+H)n+ イオンである、選択されたイオンを、中性 Ar、Xe、又はHe原子と衝突する衝突セルに導入してフラグメント化させることで達成される。次にこのフラグメントを質量分析で観察する。タンデム質量分析法によって、分析対象のペプチドを非均質に分解することができ、目的のイオンを衝突セルでろ過することで、構造上の情報を、複雑な混合物から出た各ペプチドについて得ることができる。
【0076】
タンデム質量分析法を用いて完全な配列情報を得るためにはいくつかの制限がある。例えばあるペプチドのアミノ酸配列を決定する際には、ロイシン及びイソロイシンは同じ質量を有するため、これらを識別することはできない。同じ困難は、同じ公称質量を有するリジン及びグルタミンでも起きるであろうが、高分解能タンデム分析器(四極子-TOF 及びFTMS)であればこれらのアミノ酸を識別することができる。
【0077】
いくつかの好適な実施態様では、タンパク質試料(又はタンパク質分解消化産物中のペプチド)をゲル電気泳動法又は液体クロマトグラフィーで、質量分析の前に分離する。
【0078】
ゲル電気泳動法は、インタクトタンパク質を分離するために最も幅広く用いられている技術の一つである。時には一次元ゲル電気泳動法とも呼ばれるドデシル硫酸−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)においては、タンパク質を変性界面活性剤SDSで処置し、ゲルに載せる。ゲルに電位を印加すると、タンパク質は、それらの大きさに反比例する速度で陽極に向かってゲルを通って泳動する。分離終了すると、タンパク質を数多くの様々な着色剤(クーマシー、Sypro ルビー又はシルバー)のいずれかを用いて視覚化でき、個々のバンドをゲルから物理的に切り出す。これらの切り出された点に、除染、還元的アルキル化、ゲル中消化、ペプチド抽出、及び最終的には質量分析を行って、タンパク質を同定する。
【0079】
SDS-PAGE電気泳動と等電点電気泳動法の組合せでも、同様な質量のタンパク質を分離することができる。二次元ゲル電気泳動法(2D-GE)では、タンパク質をまず、固定したpH勾配を含有する溶液又はゲルを通じた電気泳動法でそれらの等電点(pI) に従って分離し、各タンパク質を、その等電点に応じたpH勾配にある位置に泳動させる。等電点電気泳動ステップが完了したら、SDS-PAGE と同様のゲル電気泳動法を直交する方向で行って、タンパク質を大きさで分離する。1Dゲルと同様、2Dゲルの点を切り出し、酵素消化し、質量を分析してタンパク質を同定する。この技術を用いると、数千種のタンパク質を同時に分離し、取り出して同定することができる。
【0080】
ゲル除染、アルキル化/還元、ゲル中消化、ペプチド抽出、及びMALDI 標的プレーティングを含め、ペプチド・マッピング実験用の全ての試料調製ステップを行う自動化液体操作ロボットが開発されている。
【0081】
質量スペクトルデータ取得システムも同様に、数多くの試料のスペクトルを取得し、生データを処理し、データベース検索を行うために自動化されている。1,000を超えるマッピング実験をたった2時間で行うことのできる市販のMALDI-TOF システムを利用することもできる。これらのシステムは、自動較正を行ったり、レーザーエネルギーを変更したり、そしてシグナルを最大にするためにレーザー照射位置を調節したりすることができ、全データ取得処理にはほぼ30秒未満しか要さない。同様に、自動データ処理システムは適したシグナルを認識し、単一等電ピークを特定し、サマリー・ピーク・リストを検索エンジンに直接送ることができる。
【0082】
このような高スループットのプロテオミクス・システムにより、ゲルから得たものなどの複数の未知の試料を一度に調査することができる。加えて、自動取得及びデータ解析ソフトウェアの柔軟性により、全試料バッチを迅速に再取得及び/又は
再解析することができ、ユーザの努力は最小限である。しかし自動システムには、提供されたデータ次第であるという点で制限がある。例えば低いシグナル対ノイズ比を示す種の検出及び精確な質量割り出しはしばしば苦手である。このような問題は、データ取得後処理の開発にもつながってきた。これらの処理における向上により、通常得られるものに等しいか、又はそれより上の同定「ヒット」率を達成するための高スループットの自動化システムが可能となってきた。
【0083】
ゲル電気泳動技術の代替的アプローチは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分析的分離法の使用を含む。ゲル電気泳動技術はインタクトタンパク質を分離するが、液体クロマトグラフィーは、タンパク質分解性のペプチドに対して行うことができる。ペプチドLC-MS/MSを行う手段の一つは、 LCをエレクトロスプレーイオン化界面を通じてイオン・トラップ質量分析器に直接接続することを含む。これらの実験に適した他の質量分析器には、三重四極子及び四極子飛行時間がある。
【0084】
いくつかの実施態様では、質量分析法を用いて、チトクロームcがアセチル化しているかどうか、そしてどの特定の残基でチトクロームcがアセチル化しているかを判定する。質量分析法を用いてタンパク質内のリジン残基のアセチル化を特定することが、言及をももってその全文をここに援用することとするZhang et al., (2002) Mol Cell
Proteomics 1:500-508 及びDormeyer et al., (2005) Mol Cell
Proteomics 4:1226-1239に更に論じられている。
【0085】
神経変性障害及び癌のリスクの診断及び特徴づけ
ここで論じるものなど、チトクロームcのアセチル化を検出するための方法及びアッセイにより、チトクロームc活性に関連する障害のリスクがあると考えられる対象におけるアセチル化チトクロームcポリペプチド・レベルを観察することができ、また、チトクロームc活性に関連する障害を有することが既知の対象を観察することもできる。
【0086】
本発明の数局面は、チトクロームcのアセチル化を特徴とする神経変性障害を診断する方法、あるいは、対象における、チトクロームcのアセチル化を特徴とする神経変性障害のリスクを特徴付ける方法、に関する。本発明の更なる局面は、チトクロームcの脱アセチル化を特徴とする癌を診断する方法、あるいは、対象における、チトクロームcの脱アセチル化を特徴とする癌のリスクを特徴付ける方法、に関する。
【0087】
方法は、対象由来の試料中のアセチル化のレベル of チトクロームcポリペプチドのアセチル化のレベルを検出するステップと、チトクロームcの前記アセチル化のレベルを、コントロール試料又は所定値に比較するステップを含む。タンパク質のアセチル化状態は、ここで解説する方法のいずれによって判定してもよい。細胞及び/又は対象中のアセチル化チトクロームcのレベルの検出に基づくアッセイには、対象における神経変性障害又は癌の発症、進行及び/又は退行を判定するステップ;対象における神経変性障害又は癌のための処置を選択するステップ;及び、対象におけるチトクロームcポリペプチドアセチル化状態のための処置を評価するステップを含む。このように、本発明のアッセイを用いて、対象を特徴づけ、処置計画を観察し、処置を選択肢、疾患状態をより良好に理解することができる。アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを、対象における神経変性障害又は癌の状態と相関させてもよい。
【0088】
本発明の局面の一つは、アセチル化チトクロームcポリペプチドもしくはそのフラグメントを in vitro 又はin vivo 試料で検出すること(例えば組織又は細胞標本、リアルタイムin vivo アッセイ、生検等)、そして具体的には、試料又は対象中の非アセチル化チトクロームcのレベルからアセチル化チトクロームcのレベルを識別することに関する。いくつかの実施態様では、この方法は、アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントを提供するステップを含む。前記抗アセチル化チトクロームc抗体を、アセチル化チトクロームcポリペプチドの検出を可能にする標識に結合させてもよい。いくつかの実施態様では、試料を標識済み抗アセチル化チトクロームc抗体に、この抗アセチル化チトクロームc抗体が試料中のアセチル化チトクロームcポリペプチドに結合できる有効な条件下で接触させてもよい。試料中のアセチル化チトクロームcの存在は、標識を検出することによって検出できよう。いくつかの実施態様では、抗アセチル化チトクロームc抗体と試料との接触は、対象由来の試料中で行われる。いくつかの実施態様では、抗アセチル化チトクロームc抗体と試料との接触を対象中で行ってもよい。本発明の方法を適用することのできる試料には、組織試料、細胞培養試料を含む細胞試料、対象の試料、in vivo 試料等がある。いくつかの実施態様では、 質量分析法を用いてチトクロームcのアセチル化を特定する。
【0089】
チトクロームcのアセチル化を検出するためのアッセイは、培養株由来の細胞、溶液中の細胞、対象から得られた試料及び/又は対象中の試料(in vivo 試料)で行われてよい。ここで用いられる場合の対象とはヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、又はげっ歯類である。いくつかの実施態様では、ヒトの対象が好適である。ここで用いられる試料にはいずれかの細胞又は組織試料が含まれ、また神経細胞及び/又は組織試料が含まれよう。
【0090】
本発明を適用することのできる特に重要な対象は、神経変性障害のある対象である。「神経変性障害のある対象」という用語は、ここで用いられる場合、試料採取時に、神経変性障害を有すると診断された個体を意味する。また本発明の方法を用いて、神経変性障害があるとまだ診断されていない対象の、異常なレベルのチトクロームcポリペプチドアセチル化を検出してもよい。神経変性障害の発症、進行及び/又は退行は、本発明の方法及び抗体を用いても観察できよう。
【0091】
本発明を適用することのできる特に重要な対象は、癌のある対象である。「癌のある対象」という用語は、ここで用いられる場合、試料採取時に、癌を有すると診断された個体を意味する。また本発明の方法を用いて、癌があるとまだ診断されていない対象の、異常なレベルのチトクロームcポリペプチドアセチル化を検出してもよい。癌の発症、進行及び/又は退行は、本発明の方法及び抗体を用いても観察できよう。
【0092】
いくつかの実施態様では、本発明の局面は、アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベル増加の存在に関連する疾患について対象をスクリーニングすることに関する。ここで用いられる場合の「増加」という用語は、コントロール・レベルに比較して増加しているなど、高いことを意味する。いくつかの実施態様では、神経変性障害の状態及び/又は段階は、神経変性障害を有する対象又は培養株由来の試料中でアセチル化チトクロームcのレベルを評価することにより、判定される。本発明の抗体は、ある対象が神経変性障害を有するかどうかを識別するためのアッセイで有用である。なぜなら、本発明の抗アセチル化チトクロームc抗体を用いると、神経変性障害を有する対象、又は、神経変性障害のリスクがある対象、の細胞及び組織中のアセチル化チトクロームcポリペプチドの量を定量できるからである。上述したように、質量分析法のアプローチを用いると、対象由来の試料中で、特定のアセチル化したチトクロームc残基を特定することもできる。試料中のアセチル化チトクロームcポリペプチドの存在、及び/又は、試料中のチトクロームcの特定の残基のアセチル化の検出、を用いて、細胞、細胞培養株又は対象における神経変性障害の存在及び/又は状態を判定することができる。本発明の方法を用いると、疾患の発症及び/又は進行の初期指標を提供することで有用な予後情報を得ることができる。いくつかの実施態様では、当該の障害は癌であり、対象はアセチル化チトクロームcのレベル低下又はアセチル化チトクロームcのレベル増加を示す。
【0093】
アセチル化チトクロームcポリペプチド(例えばK40もしくはK74-アセチル化チトクロームcポリペプチド)のレベルは、本発明の多様な方法を行うときに数多くの方法で判定することができる。ある測定では、アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルは、非アセチル化(又は脱アセチル化)チトクロームcポリペプチドに関連して測定される。このように、当該の測定は、例えば総チトクロームcポリペプチドのパーセンテージとして表すことのできる、相対的尺度であってもよい。当業者であれば、アセチル化及び非アセチル化チトクロームcポリペプチドの相対量は、アセチル化チトクロームcポリペプチドの相対量、又は、非アセチル化チトクロームcポリペプチドの相対量のいずれかを測定することにより判定され得ることは理解されよう。言い換えれば、ある個体のチトクロームcポリペプチドの90%が非アセチル化チトクロームcポリペプチド(又は還元型アセチル化チトクロームcポリペプチド)であれば、その個体のチトクロームcポリペプチドの10%はアセチル化チトクロームcポリペプチドであろう。
【0094】
アセチル化チトクロームcのレベルの別の尺度は、チトクロームcポリペプチドアセチル化の絶対的レベルの尺度である。これは、例えば細胞又は組織の単位当りのアセチル化チトクロームcポリペプチドで表されよう。アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルの別の尺度は、アセチル化チトクロームcポリペプチド の経時的なレベル変化の尺度である。これは絶対量で表されても、あるいは、経時的な増加率又は減少率で表されてもよい。
【0095】
本発明の数局面は、対象又は試料(例えば細胞培養株)中のアセチル化チトクロームcポリペプチドの絶対量又は相対量の経時的変化を観察することにより、チトクロームcポリペプチドアセチル化レベルを特徴付けることに関する。いくつかの実施態様では、0.1%より大きい、相対的又は絶対的アセチル化チトクロームcポリペプチドの変化を、異常の指標としてもよい。好ましくは、異常の指標となる、アセチル化チトクロームcポリペプチド・レベルの変化は、0.2%より大きい、5%より大きい、1.0%、2.0%、3.0% 、4.0%、5.0%、7.0%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%より大きい、又は更にそれより大きい。
【0096】
アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルは、本発明に従って判定し、コントロールと比較することができる。コントロールは所定値であってもよく、該所定値は多種の形を採ることができる。それは中間値又は平均値など、単一のカットオフ値であってもよい。それを、例えば正常量のチトクロームcアセチル化を有する群と、異常量のチトクロームcアセチル化を有する群など、比較群に基づいて設定することができる。比較群の別の例は、神経変性障害の症状を有する群と、神経変性障害を有さない群であってもよい。別の比較群は、神経変性障害の家族歴を有する群と、このような家族歴を有さない群でああってもよい。いくつかの実施態様では、定義されたある一つの群でのリスクが、定義された別の群のリスクの二倍である。所定値はアレンジすることができ、例えば検査された集団が、均等に(又は不均等に)、例えば低リスク群、中リスク群、及び高リスク群又は4分割又は5分割などに、分割されている場合は、最低の4分又は5分群は最低リスクかつ最低量のアセチル化チトクロームcポリペプチドを有する個体であり、そして最高の4文又は5分群は、最高リスクかつ最高量のアセチル化チトクロームcポリペプチドを有する個体である。
【0097】
所定値は、もちろん、選択された特定の集団に依るであろう。例えば明らかに健康な集団は、異常なチトクロームcポリペプチドアセチル化に関連する状態を有することが既知の集団とは異なる「正常な」範囲を有するであろう。従って、選択される所定値は、個体又は細胞の入るカテゴリーが考慮に入れられるであろう。適した範囲及びカテゴリーは当業者によってごく慣例的な実験で選択することができる。ここで用いられる場合の「異常な」とは、コントロールに比較して正常でないことを意味する。異常に高いとは、選択されたコントロールに比較して高いことを意味する。典型的には、コントロールは、適した年齢層の明らかに健康で正常な個体、又は明らかに健康な細胞に基づくであろう。
【0098】
本発明でのコントロールとは、所定値に加え、実験材料と並行して検査された材料の試料であってもよいことも理解されよう。例には、実験試料と並行して検査されることになる、製造を通じて作製されたコントロール集団又はコントロール試料がある。
【0099】
治療法の効験を評価する
更に本発明の方法を用いて、神経変性障害又は癌の治療的処置の効験を評価したり、多様な時点でのアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを評価したりしてもよい。例えば、対象のアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルは、治療計画(神経変性障害又は癌の予防的に、又は、処置として)の開始前に得ることも、処置計画中に得ることも、及び/又は、処置計画後に得ることもでき、こうして患者における計画の有効性について情報を提供することができる。候補治療剤の効験の評価は、例えば候補治療剤を評価するためのスクリーニング・アッセイなど、培養株由来の細胞で本発明のアッセイを用いることでなされてもよい。
【0100】
治療計画は、対象の神経変性障害又は癌の予防的なもの、又は処置的なもののいずれでもよいことは理解されよう。このように、本発明の方法は、神経変性障害又は癌について対象に提供された予防的治療及び/又は処置に対する対象の応答を観察するために用いられよう。本発明の方法(例えば結合アッセイ、ゲル電気泳動法;質量分析法;NMR; 等々)は、対象における神経変性障害又は癌の発症、進行、又は退行を観察するためにも、有用であろう。アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルは、別々の時点で対象から得られた二つ、三つ、四つ、五つ、又はそれ以上の試料で判定されてもよい。試料中のアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを比較し、経時的なレベル変化を用いて、対象における神経変性障害又は癌の状態又は段階、及び/又は、対象における神経変性障害又は癌の処置戦略の効果、を評価してもよい。
【0101】
本発明の数局面は、対象における治療を観察する、又は、治療の効験を評価することに関する。本方法は、治療中の対象のアセチル化チトクロームcのレベルを得るステップを含む。アセチル化チトクロームcのレベルは、アセチル化チトクロームcのコントロール・レベル(例えば明らかに健康な集団中)に相当する所定値に比較される。アセチル化チトクロームcのレベルが所定レベルか、所定レベル未満か、又は所定レベルを越えるかどうかの判定は、その対象にとって同じ治療法による治療継続が有益であるか、又は治療法の変更が有益であるかどうかの指標に寄与することになる。保健担当医は、その対象にとって、予測される正味の利益に基づいて、処置のための治療計画を選択する。正味の利益はリスク対利益比から得られる。本発明により、その対象にとって治療継続が有益であるか、又は治療法の変更が有益であるかどうかの判定が可能となるため、治療法を選択する医師の助けとなる。利益は典型的には、神経変性障害又は癌の徴候及び症状又は合併症の減少である。神経変性障害及び癌の徴候、症状、症状発現及び合併症は当業者に公知である。いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcのレベルが所定レベルであるか、又は所定レベル未満であるという判定は、対象にとって同じ治療法による治療継続が有益であることの指標となるであろう。いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcが所定レベルである、又は所定レベルを超えるという判定は、その対象にとって治療法変更が有益であろうという指標となるであろう。いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcのレベルを得るステップは、対象の経時的なアセチル化チトクロームcのレベルを観察できるように繰り返される。
【0102】
いくつかの実施態様では、対象は少なくとも1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日又はそれ以上の日数、当該治療法を受けていてもよい。いくつかの実施態様では、対象は、少なくとも1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、12週又はそれ以上の間、当該治療法を受けていてもよい。いくつかの実施態様では、対象は当少なくとも3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月又はそれ以上の間、当該治療法を受けていてもよい。
【0103】
いくつかの実施態様では、治療継続が有益であろう対象とは、アセチル化チトクロームcの治療中レベルが特定の所定値に達する対象、又は、アセチル化チトクロームcのレベルが減少中の対象である。いくつかの実施態様では、治療法変更が有益であろう対象とは、アセチル化チトクロームcの治療中レベルが特定の所定値に達しなかった対象、又は、アセチル化チトクロームcの治療中レベルが減少していない対象である。
【0104】
いくつかの実施態様では、治療継続が有益であろう対象とは、アセチル化チトクロームcの治療中レベルが特定の所定値に達する対象、又は、アセチル化チトクロームcのレベルが増加中の対象である。いくつかの実施態様では、治療法変更が有益であろう対象とは、アセチル化チトクロームcの治療中レベルが特定の所定値に達しなかった対象、又は、アセチル化チトクロームcの治療中レベルが増加していない対象である。
【0105】
ここで用いられる場合の「治療法変更」とは、既存の治療法の用量の増加又は減少、ある治療法から別の治療法への切り換え、既存の治療法への別の治療法の追加、又はこれらの組合せ、を言う。ある治療法から別の治療法への切り換えには、高リスクプロファイルがあるが、予測される利益の可能性も増加するであろう治療法への切り換えも含めてもよい。いくつかの実施態様では、好適な治療法はアセチル化チトクロームcのレベルを減少させる治療法である。いくつかの実施態様では、好適な治療法は、アセチル化チトクロームcのレベルを増加させる治療法である。既存の治療法の用量を増加させることによる治療法変更が有益であろう対象とは、例えば治療を受けている最中であるが、当該治療法の最大許容用量又は最大許可用量を受けておらず、アセチル化チトクロームcのレベルが特定の所定値に達していない対象である。このような場合、既存の治療法の用量を、アセチル化チトクロームcのレベルが特定の所定値に達するまで、増加させる。場合によっては、既存の治療法の用量は、既存の用量から、その治療法の最大許容用量でも最大許可用量でもないより多量の用量に増加させる。また他の場合では、当該の用量を、その治療法の最大許容又は最大許可用量に増加させる。既存の治療法の用量を減少させることによる治療法変更が有益であろう対象とは、例えばアセチル化チトクロームcの治療中レベルが、当該治療法のより少量でも特定の所定値に達するか、又は達することができる対象である。
【0106】
ある治療法から別の治療法への切り換えが有益であろう対象とは、例えば、当該治療法の最大許容用量又は最大許可用量を受けたが、アセチル化チトクロームcのレベルが特定の所定値に達しなかった対象である。別の例は、当該治療法の最大許容又は最大許可用量を受けていなかったが、別の治療法が有益である可能性が高いと保健担当医に判断された対象である。このような判断は、例えば、最初の治療に対する望ましくない副作用が対象に起きたことや、あるいは、最初の治療法への応答がないことに基づく。
【0107】
既存の治療法に別の治療量を加えることによる治療法変更が有益であろう対象とは、例えば、ある治療を受けているが、アセチル化チトクロームcのレベルが特定の所定値に達しなかった対象である。このような場合、別の治療法を既存の治療法に加える。既存の治療法に加えられる治療法は、既存の治療法とは異なる、アセチル化チトクロームcのレベルを減少させる作用機序を有することができる。場合によっては、上述の治療法変更の組合せを用いてもよい。
【0108】
当業者であれば、候補治療薬の同様な評価は、神経変性障害の処置用の候補薬に当該細胞を接触させたときに応答して生じるチトクロームcアセチル化のいずれかの変化を評価することにより、in vitroで検査することができることは、認識されよう。
【0109】
本発明の数局面は、対象における結果を向上させるために処置の指針とする、アセチル化チトクロームcレベルの測定に関する。アセチル化チトクロームcのレベルは、神経変性障害又は癌のある対象の死亡リスクを低減させる処置への応答の予測値を有する。本発明のこの局面が有益であろう対象とは、(例えば神経変性障害又は癌による)死亡リスクを低減するための治療法を受けている対象である。治療中の対象とは、神経変性障害又は癌があると既に診断されており、治療法による処置の経過中である対象である。治療法は神経変性障害又は癌の処置で用いられる治療薬のいずれであってもよい。神経変性障害又は癌の処置で用いられる治療薬は、当業者に公知である。治療法はまた非薬物処置であってもよい。いくつかの実施態様では、当該の治療法は、アセチル化チトクロームcのレベルを減少させる、又は、脱アセチル化チトクロームcのレベルを増加させるものである。いくつかの実施態様では、当該の治療法は、アセチル化チトクロームcのレベルを増加させる、又は、脱アセチル化チトクロームcのレベルを減少させるものである。チトクロームcのアセチル化状態を明らかにするための、本発明に関連する方法を用いて、対象の神経変性障害又は癌の診断を表す尺度を得ることができる。場合によっては、対象は神経変性障害又は癌の薬物治療を既に受けていてもよく、また場合によっては、対象は神経変性障害又は癌の治療を現在受けていなくてもよい。
【0110】
処置の量は、例えば薬理学的薬剤又は治療用組成物の量を増減させたり、投与される治療用組成物を変更したり、投与経路を変更した、投薬のタイミングを変更するなどにより、変更できよう。
【0111】
処置の対象を選択する
ここで用いられる場合の処置、処置する、又は処置中であるという用語は、障害に関して用いられる場合、疾患発症に対する対象の耐性を増加させる、言い換えれば、対象が疾患を発症する可能性を減じる予防的処置や、対象が疾患を発症した後に、その疾患と戦う又はその疾患が悪化するのを防ぐための処置を言う。「処置」という用語は、障害又は状態の防止、並びに、既存の障害及び状態の阻害及び/又は緩和を包含する。対象に障害又は状態を発症するリスクがあると判断されたため、又は代替的には、対象がこのような障害又は状態を有するかも知れないために、その対象が処置を受けてもよい。従って、処置は、障害又は状態を防ぐ、軽減する又は消失する、あるいはそれが悪化するのを防ぐものでもよい。
【0112】
ここで用いられる場合の用語「対象」とは、ヒト又はヒト以外の哺乳動物もしくは動物を言う。ヒト以外の哺乳動物には、家畜、ペット、研究用動物、及びヒト以外の霊長類が含まれる。ヒト以外の対象に更に具体的には、限定はしないが、ニワトリ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ミンク、及びウサギが含まれる。本発明のいくつかの実施態様では、対象は患者である。ここで用いられる場合の「患者」とは、医師又は他の保健従事者に相談した、医師又は他の保健従事者からアドバイスを受けた、又は処方を受けたものを含め、医師又は他の保健従事者の監督下にある対象を言う。
【0113】
本発明の数局面は、異常なアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを有する、処置の対象を選択することに関する。処置には、チトクロームcのアセチル化又は脱アセチル化を媒介することとなる薬剤の投与が含まれよう。このような対象は、神経変性障害又は癌を処置するための薬物を既に受けていてもよい。いくつかの実施態様では、対象は、神経変性障害のための処置は現在、受けていないが、チトクロームcポリペプチド アセチル化レベルを、本発明の方法及び/又は抗体を用いて観察すると、チトクロームcの脱アセチル化を増加させる処置及び/又はチトクロームcポリペプチドのアセチル化を減少させる処置の候補として、対象が特定されるかも知れない。いくつかの実施態様では、対象は、癌のための処置は現在、受けていないが、チトクロームcポリペプチドアセチル化レベルを、本発明の方法及び/又は抗体を用いて観察すると、チトクロームcのアセチル化を増加させる処置及び/又はチトクロームcポリペプチドの脱アセチル化を減少させる処置の候補として、対象が特定されるかも知れない。このように、チトクロームcのアセチル化状態を判定するアッセイの結果として、対象が選択され、より高レベルの同じ薬物で、又は異なる治療法で、処置され得る。
【0114】
本発明によると、対象の中には、処置の必要な症状がないものがいるかも知れないが、抗チトクロームcポリペプチドアセチル化抗体などの本発明の方法を用いて検査すると、その対象に処置が必要だと判明するかも知れない。このことは、本発明の前記抗体又はその抗原結合フラグメントを用いてアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを評価することなしでは、対象は本願出願日の時点の従来法では、特定の治療法による処置が必要な症状がないかも知れない。対象の有するアセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルの測定の結果、その対象が、治療法による処置の候補となり得る。
【0115】
処置
本発明の更に別の局面では、チトクロームcのアセチル化のレベルを減少させる化合物を、細胞のアポトーシスを阻害するため、並びに、神経変性障害を防止及び/又は処置するために、投与してもよい。いくつかの実施態様では、脱アセチル化したK40及びK74残基を含有するチトクロームcのペプチド又はポリペプチドを投与することができる。
【0116】
チトクロームcのアセチル化のレベルを減少させるために有用であり、かつ、神経変性障害のための処置として投与してもよい化合物には、限定はしないが、脱アセチル化酵素タンパク質がある。いくつかの実施態様では、前記脱アセチル化酵素タンパク質はサーチュインである。いくつかの実施態様では、前記サーチュインはSIRT3である。
【0117】
異常に高い、チトクロームcポリペプチドのアセチル化のレベルを有すると判断された対象においては、処置(例えばチトクロームcポリペプチドのアセチル化のレベルを減少させる化合物など)は、対象のチトクロームcのアセチル化のレベルを減少させるのに有効、あるいは、対象の脱アセチル化の量を増加させるのに有効な量であり、それぞれ、処置前のレベルに比較して、アセチル化チトクロームcポリペプチドのレベルを減少させるであろう。このように、チトクロームcポリペプチド(例えばSIRT3)の脱アセチル化レベルを増加させる化合物を、アポトーシスを阻害するため、そして神経変性障害を防止及び/又は処置するために有効量、投与してもよい。典型的には、アセチル化チトクロームc(例えばSIRT3、又はSIRT3の発現又は活性を増加させる化合物)のレベルを減少させる化合物の有効量は、臨床治験において、検査集団対コントロール集団について有効な用量を盲検で設定することで、判定されるであろう。いくつかの実施態様では、有効量は、所望の応答を生じる量、例えば神経変性障害の症状を減じる又は消失させる量など、であろう。特定の疾患又は状態を処置する場合には、所望の応答とは、その疾患又は状態の進行の阻害である。これには、一時的な当該疾患の進行を遅らせるのみも含まれようが、より好ましくは、当該疾患の進行を永久に停止させることを含むとよい。これは、いずれか特定の疾患について当業者に公知の慣例的な診断法によって観察することができる。疾患又は状態の処置に対する所望の応答はまた、その疾患又は状態の発症を遅らせること、又は、発症を防止することであってもよい。
【0118】
治療用化合物又は組成物(それぞれここでは医薬又は治療的化合物又は組成物と言及する場合がある)の有効量は、投与後の疾患症状の減少など、細胞又は対象に対する、投与の生理学的効果を評価することによっても、判定できよう。他のアッセイは当業者に公知であり、また処置への応答のレベルを測定するために利用することができる。処置の量は、例えば治療用組成物の量を増減させる、投与される治療用組成物を変更する、投与経路を変更する、投薬タイミングを変更する等々によって、変更できよう。有効量は、処置しようとする特定の状態、処置する対象の年齢及び身体条件、状態の重篤度、処置の期間、並行治療法の(ある場合)性質、具体的な投与経路等々の因子によって、保健医師の知見及び専門意見の範囲内で変更されることになるであろう。例えば有効量は、ある個体が、異常に高いレベルの、チトクロームcポリペプチドのアセチル化を有するレベルに依るであろう。
【0119】
医薬化合物の投薬量を、個々の医師又は獣医によって、具体的にいずれかの合併症がある場合に、調節してもよい。治療上有効量は、典型的には、0.01 mg/kg 乃至約 1000 mg/kg、好ましくは約 0.1 mg/kg 乃至約 200 mg/kg、そして最も好ましくは約0.2 mg/kg 乃至約 20 mg/kgを一日当り一回又はそれ以上の回数の用量投与で、一日以上、と様々であってよい。
【0120】
絶対量は、投与に選択された材料、投与が一回又は複数回の用量かどうか、そして、年齢、身体条件、体格、体重、及び疾患もしくは状態の段階を含む個々の対象のパラメータを含め、多様な因子に依るであろう。これらの因子は当業者には公知であり、ごく慣例的な実験で対処することができる。
【0121】
本発明の更なる局面は、脱アセチル化チトクロームcを示す細胞のアポトーシスを誘導することに関する。上で論じたように、アセチル化チトクロームcはアポトーシスに関連する。従って、チトクロームcのアセチル化又は脱アセチル化を誘導する薬剤に細胞を接触させることは、細胞のアポトーシスを誘導する方法を表す。いくつかの実施態様では、脱アセチル化チトクロームcに関連する当該の疾患又は状態は癌である。いくつかの実施態様では、癌患者が処置に選択され、その癌患者が、完全長野生型ポリペプチドのK40及び/又はK74に相当するリジン残基の脱アセチル化を示す癌を有していれば、チトクロームcをアセチル化する、又は、チトクロームcの脱アセチル化を妨げる、薬剤又は組成物で処置される。いくつかの実施態様では、アセチル化K40及びK74残基を含有する、チトクロームcのペプチド又はポリペプチドを投与することができる。
【0122】
抗体
本発明は、一局面では、合成及び天然アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体、並びにそれらの精製及び使用法を含む。本発明は、部分的には、限定はしないがK40- 及びK-74-アセチル化チトクロームcポリペプチドを含む、アセチル化チトクロームcポリペプチドを調製する方法を含む。アセチル化チトクロームcポリペプチドを、アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する抗体を作製するための抗原として用いてもよい。本発明の抗体を作製するために有用な組成物には、アセチル化チトクロームcポリペプチド分子が含まれよう。いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcポリペプチドもしくはそのフラグメントは、アセチル化した完全長野生型もしくは変異型チトクロームcポリペプチドであっても、あるいは、野生型もしくは変異型完全長チトクロームcのうちのアセチル化フラグメントである、そのフラグメントであってもよい。
【0123】
本発明の方法は更に、アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する抗体を作製するための、チトクロームcポリペプチドのフラグメントの使用も含んでよい。いくつかの実施態様では、チトクロームcポリペプチドのうち、当該抗体によって特異的に認識されるエピトープ部分であるアセチル化リジン残基は野生型の完全長
チトクロームcポリペプチドのアセチル化残基に相当するリジン残基である。いくつかの実施態様では、アセチル化残基は、野生型の完全長ヒト
チトクロームcポリペプチドの残基K40もしくはK74に相当する。いくつかの実施態様では、抗原性ポリペプチドは5アミノ酸長ほどの小ささであってよい。いくつかの実施態様では、ポリペプチド抗原のサイズが約アミノ酸長未満である場合、ウシ血清アルブミン(BSA)などの第二の担体分子をポリペプチドに付着させて、このポリペプチドの抗原性を増加させてもよい。このように、抗体産生に向けた所望のエピトープを含む、チトクロームcの小さなフラグメントを、アセチル化リジン残基(例えばK40もしくはK74アセチル化リジン残基)を含む該エピトープに特異的に結合する抗体の作製において用いることができる。
【0124】
アセチル化リジン残基を含むいずれかのチトクロームcポリペプチド・フラグメントを、チトクロームcアセチル化ポリペプチドに特異的に結合する抗体を調製するための相手の抗原性ポリペプチドとして、上述した通り、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)又はウシ血清アルブミン(BSA)などの第二分子と関連させて用いてもよい。いくつかの実施態様では、抗原性ポリペプチドは、アセチル化K40 及び/又は K74を含むチトクロームcポリペプチド・フラグメントであってよく、そしてこのような抗原から生じる抗体は、チトクロームcポリペプチドのK40もしくはK74アセチル化エピトープに特異的に結合するであろう。抗チトクロームcポリペプチド抗体又はその抗原結合フラグメントは、当業で公知のアフィニティ精製法及び/又はアフィニティ選抜法を用いて精製できよう。アフィニティ選抜法とは、標的物質(例えばアセチル化チトクロームcポリペプチド)に結合させるための抗体又はその抗原結合フラグメントの選抜法である。
【0125】
当業者であれば、本発明の方法で免疫原性フラグメントとして用いるチトクロームcポリペプチドのフラグメントは少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又はそれ以上のアミノ酸長であることが好ましいことは理解されよう。チトクロームcポリペプチドの一フラグメントが二つ以上のリジン残基を含む場合、いくつかの実施態様では、そのリジン残基の一方のみがアセチル化リジン残基であることが好ましい。当業者であれば、ここで提供する指針を用いることで、本発明の方法で用いることのできるチトクロームcポリペプチドのフラグメントを作製することができるであろう。いくつかの実施態様では、抗体を作製するのに用いられるチトクロームcのフラグメントは、野生型の完全長ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40に相当するアセチル化リジン残基を含有する。いくつかの実施態様では、抗体を作製するのに用いられるチトクロームcのフラグメントは、野生型の完全長ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K74に相当するアセチル化リジン残基を含有する。いくつかの実施態様では、抗体を作製するのに用いられるチトクロームcのフラグメントは二つ以上のアセチル化リジン残基を含有する。
【0126】
ここで用いられる場合の用語「抗体」とは、少なくとも二つの重(H)鎖及び二つの軽(L)鎖をジスルフィド結合で相互に連結して含むであろうタンパク質を言う。各重鎖は、重鎖可変領域(ここではHCVR 又はVHと省略する)及び重鎖定常領域から成る。重鎖定常領域は三つのドメインCH1、CH2 及びCH3から成る。各軽鎖は、軽鎖可変領域(ここではLCVR 又はVLと省略する)及び軽鎖定常領域から成る。軽鎖定常領域は一つのドメインCLから成る。VH 及びVL 領域は更に、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、より保存されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域間に介在する超可変領域に分割することができる。各VH 及びVL は、以下の順: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで並んだ三つのCDR及び四つのFRから成る。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の多様な細胞(例えばエフェクター細胞)及び従来の補体系の第一コンポーネント(C1q)を含め、ホストの組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介すると考えられる。
【0127】
ここで用いられる場合の、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語は、抗原(例えば アセチル化チトクロームcポリペプチド、そしていくつかの実施態様では、前記アセチル化チトクロームcポリペプチドは、チトクロームcポリペプチド・フラグメント中のK40もしくはK74-アセチル化チトクロームcポリペプチド又は対応する残基)への特異的結合能を維持した、抗体の一つ以上の部分を言う。ある抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の数フラグメントが行っていることが示されている。抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)VL、VH、CL 及びCH1ドメインから成る一価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された二つのFabフラグメントを含む二価の負フラグメントであるF(ab’)2 フラグメント;(iii)VH 及びCH1ドメインから成るFdフラグメント;(iv)抗体の一本の腕のVL 及びVH ドメインから成るFvフラグメント、(v)例えばカメリド(原語:camelid)重鎖抗体(例えばVHH)など、重鎖抗体のVH ドメイン又は可変ドメインから成るdAb フラグメント (Ward et al., (1989) Nature 341:544-546) ;(vi)単離された相補性決定領域 (CDR);及び(vii)(i)−(vi)の抗原結合フラグメントを含むポリペプチド・コンストラクト、がある。更に、Fv フラグメントの二つのドメインVL 及びVHは別々の遺伝子にコードされてはいるが、これらは、VL 及びVH
領域が対になって一価の分子を形成する一本のタンパク質の鎖(一本鎖Fv (scFv)として知られる;例えば Bird et
al. (1988) Science 242:423-426; 及びHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)に作製できるようにする合成リンカーによって組換え法を用いて接合することができる。このような一本鎖抗体も、抗体の用語「抗原結合部分」に包含されるものと、意図されている。これらの抗体フラグメントは、言及をもってここに援用することとするJ. Goding, Monoclonal Antibodies:
Principles and Practice, pp 98-118 (N.Y. Academic Press 1983)に解説されるように、タンパク質分解フラグメント化法や、例えば組換え核酸の発現など、当業で公知の他の技術によるなど、従来の手法を用いて得られる。これらのフラグメントはインタクト抗体と同じ態様で実用性についてスクリーニングされる。
【0128】
本発明の単離された抗体は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、IgEなど、多様な抗体アイソタイプを包含する。ここで用いられる場合の「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子にコードされる抗体クラス(例えばIgM 又はIgG1)を言う。本発明の抗体は完全長であってもよく、あるいは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD 又はIgEの抗体定常及び/又は可変ドメインなど、抗原結合フラグメントのみを含んでいてもよく、あるいはFab
フラグメント、F(ab')2
フラグメント、及びFv フラグメントから成るものでもよいかも知れない。
【0129】
本発明の抗体はポリクローナルでも、モノクローナルでも、又はポリクローナル及びモノクローナル抗体の混合物でもよい。本発明の抗体は、ここで開示した方法によっても、又は、当業で公知の多種の技術によっても、作製することができる。いくつかの実施態様では、本発明の抗体によって認識されるエピトープは、完全長の野生型
チトクロームcポリペプチドのK40及び/又はK74に相当するアセチルリジンを含む。いくつかの実施態様では、本発明の抗体によって認識されるエピトープは、野生型の完全長チトクロームcポリペプチドのK40及び/又はK74に相当するアセチル化リジンを含む。
【0130】
ポリクローナル及びモノクローナル抗体は当業で公知の技術を用いて調製してもよい。用語「モノクローナル抗体」は、ここで用いられる場合、単一の分子組成の抗体分子の製剤を言う。モノクローナル抗体は単一の結合特性及び親和性を、特定のエピトープに対して示す。用語「ポリクローナル抗体」とは、特定の抗原に特異的に結合する抗体アクティブ(原語:active)の混合物を含む抗体分子の製剤を言う。
【0131】
モノクローナル抗体の作製プロセスには、予めin vivo又はin vitroで目的に抗原で免疫処置され、B細胞骨髄腫株に融合させるのに適した、抗体産生能を持つ免疫体細胞、特にBリンパ球、を得るステップが含まれよう。哺乳動物リンパ球は典型的には、例えば本発明のアセチル化チトクロームcポリペプチドもしくはそのフラグメント、又はK40もしくはK74-アセチル化チトクロームcもしくはそのフラグメントなど、所望のタンパク質又はポリペプチドで動物をin vivoで免疫処置することによって免疫処置される。いくつかの実施態様では、当該のポリペプチドは、ここで解説するとおりの修飾されたポリペプチドである。このような免疫処置は、充分な抗体価の抗体が得られるように最高数週間、必要に応じて間隔を置きながら繰り返される。免疫処置の済んだ動物は、抗体産生性リンパ球のソースとして用いることができ、このリンパ球を、下に詳述するようにクローニング及び組換え発現させることができる。最後の抗原刺激に続き、動物をと殺し、脾細胞を取り出す。マウスリンパ球は、ここで解説するマウス骨髄腫株と安定な融合を起こす確率が高い。これらのうち、BALB/c マウスが好ましい。しかしながら、他のマウス株、ラット、ウサギ、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ラマ、カエル等も、抗体産生細胞を調製するためのホストとして用いてよい。Goding (in Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 2d ed.,
pp. 60-61, Orlando, Fla., Academic Press, 1986)を参照されたい。ゲノム中にヒト免疫グロブリン遺伝子を挿入した(そしてマウス免疫グロブリンを産生できない)マウス株も用いることができる。例には、Medarex/GenPharm インターナショナル社が製造しているHuMabマウス株や、Abgenixが製造しているXenoMouse株がある。このようなマウスは免疫処置に応答して完全ヒト免疫グロブリン分子を産生する。
【0132】
分裂中の形質芽球段階にある抗体産生細胞は優先的に融合する。体細胞を初回抗原刺激した動物のリンパ節、脾臓及び末梢血から得てもよく、選択されるリンパ系細胞は、大部分、特定の融合系におけるそれらの経験的な有用性に依る。次に、抗体分泌リンパ球を、細胞培養で無限に複製することのできる(マウス)B細胞骨髄腫細胞又は形質転換細胞に融合させることで、不死の、免疫グロブリン分泌細胞株を作製する。その結果できる融合後の細胞、即ちハイブリドーマを培養し、できたコロニーを所望のモノクローナル抗体産生についてスクリーニングする。このような抗体を産生しているコロニーをクローニングし、in vivo 又はin vitro のいずれかで成長させて、大量の抗体を作製する。このような細胞を融合させる理論的基礎及び実際的方法の解説は、言及をもってここに援用することとするKohler and Milstein, Nature
256:495 (1975)に述べられている。
【0133】
ハイブリドーマを作製する融合法で用いるのに適した骨髄腫細胞株は、好ましくは、非抗体産生性であり、融合効率が高く、所望のハイブリドーマの成長を助ける特定の選択培地中で成長ができないようにする酵素欠損を有するものであるとよい。融合細胞株の作製に用いてもよい、このような骨髄腫細胞株の例には、限定はしないが、すべてマウス由来であるAg8、P3-X63/Ag8、X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4.1、Sp2/0-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG 1.7、S194/5XX0 Bul;すべてラット由来である R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F 及び4B210 、及びすべてヒト由来であるU-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、UC729-6 がある(Goding, in
Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 2d ed.,
pp. 65-66, Orlando, Fla., Academic Press, 1986; Campbell, in Monoclonal
Antibody Technology, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular
Biology Vol. 13, Burden and Von Knippenberg, eds. pp. 75-83, Amsterdam, Elsevier, 1984)。当業者であれば、モノクローナル抗体を作製するための数多くの慣例的な方法を知るところであろう。
【0134】
細胞培養で無限に複製することのできる哺乳動物骨髄腫細胞又は他の融合相手との融合は、たとえば、ポリエチレングリコール(「PEG」)又は他の融合剤を用いるなど、標準的かつ公知の技術を用いて行われる(言及をもってここに援用することとするMilstein and Kohler, Eur. J.
Immunol. 6:511 (1976)を参照されたい)。
【0135】
ポリクローナル抗体を作製する方法は当業者に公知である。非限定的な例として、抗アセチル化チトクロームcポリクローナル抗体は、アセチル化チトクローム・ポリペプチドを、最初に免疫前血清を得るために採血しておいたニュージーランド白ウサギに皮下投与することによって生じさせてもよい。当該のアセチル化チトクロームcは、典型的には一種以上のアジュバントと一緒に、異なる6箇所の部位に一部位当り総量100μlを(注射するなどして)接種することができる。その後ウサギを最初の注射から2週間、採血し、6週ごとに3回、同じ抗原で周期的に追加刺激する。各追加刺激から10日後に血清試料を採集する。この血清からポリクローナル抗体を、好ましくはアセチル化チトクロームを用いたアフィニティ・クロマトグラフィーにより、採集することで抗体を捕獲する。ポリクローナル抗体を作製するこれ及び他の手法は、言及をもってここに援用することとするE. Harlow, et al., editors, Antibodies: A Laboratory Manual (1988)に開示されている。当業者であれば、ポリクローナル抗体を作製する数多くの慣例的方法を知るところであろう。いくつかの実施態様では、本発明のポリクローナル抗体が認識するエピトープは、野生型の完全長チトクロームcポリペプチドのK40もしくはK74に相当するアセチル化残基を含む。
【0136】
他の実施態様では、抗体は組換え抗体である。用語「組換え抗体」は、ここで用いられる場合、組換え手段によって調製され、発現させられ、作製され、又は単離された抗体を含むものと意図されており、例えば別の種の免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックになった動物(例えばマウス)から単離された抗体や、遺伝子操作された抗体、ホスト細胞にトランスフェクトする組換え発現ベクターを用いて発現させられた抗体、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、又は、免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含むいずれか他の手段によって調製された、発現させられた、作製された又は単離された抗体である。
【0137】
本発明は、ここに解説する通り、抗アセチル化チトクロームc抗体(例えば抗K40もしくはK74アセチル化チトクロームc抗体)をコードする核酸分子、 及び、前記核酸分子を含むベクターを提供するものである。提供するベクターを用いて、ここで解説する抗体の特異性を持つ抗アセチル化チトクロームc抗体を作製するために、ホスト細胞を形質転換又はトランスフェクトすることができる。いくつかの実施態様では、前記ベクターには、ある核酸分子にコードされた、本発明の抗体の重鎖及び/又は軽鎖をコードする単離された核酸分子を含めることができる。更なる実施態様では、ここで解説する前記抗体又は抗原結合フラグメントを産生するプラスミドを作製する。
【0138】
本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、好ましくは単離されているとよい。抗体及びその抗原結合フラグメントに関してここで用いられる場合の「単離された」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体(又は抗原結合フラグメント)を実質的に含まない抗体(又はその抗原結合フラグメント)を言うものと、意図されている(例えば、アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する単離された抗体は、アセチル化チトクロームcポリペプチド以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、アセチル化ポリペプチド(例えばアセチル化チトクロームcポリペプチド)のエピトープ、アイソフォーム又はバリアントに特異的に結合する単離された抗体は、例えば変異型のチトクロームc又は他の種由来のポリペプチド)(例えばチトクロームcの種ホモログなど)など、他の関連する抗原に対しては交差反応性を有していてもよい。更に、単離された抗体(又はその抗原結合フラグメント)は実質的に他の細胞物質及び/又は化学物質を含まないであろう。
【0139】
本発明の抗体には、限定はしないが、アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する抗体が含まれる。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、完全長の野生型チトクロームcポリペプチドのK40及び/又はK74に相当する残基でアセチル化したチトクロームcに特異的に結合する。ここで用いられる場合の「特異的結合」とは、当該抗原を他のものから識別するために当該抗体を使用可能にするような、ここで解説する診断又は他のアッセイを可能にする程度の、特定の抗原への優先的な抗体結合を言う。K40もしくはK74アセチル化チトクロームcポリペプチドへの特異的結合とは、
当該抗体が他のポリペプチドよりもチトクロームcポリペプチドに優先的に結合するだけでなく、アセチル化していないチトクロームcポリペプチドよりも、アセチル化チトクロームcポリペプチドに優先的に結合することを意味する。典型的には、当該抗体は、所定の抗原以外の抗原へのその結合親和性よりも少なくとも2倍高い親和性で結合する。いくつかの実施態様では、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、K40もしくはK74-アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する。完全長の野生型チトクロームcポリペプチドのアセチル化K40もしくはK74に相当するアセチル化残基を含む当該のチトクロームcポリペプチド又はそのフラグメントは、完全長の野生型チトクロームcポリペプチドのアセチル化K40もしくはK74残基に相当する残基を含むアセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する抗体によって認識されるエピトープが存在する限り、野生型又は変異型のチトクロームcポリペプチドであってよいことは理解されよう。
【0140】
本発明の抗K40もしくはK74アセチル化チトクロームc抗体又はその抗原結合フラグメントは、K40もしくはK74-アセチル化チトクロームcポリペプチドにナノモル以下の親和性で特異的に結合することができる。該結合親和性は約1 x 10-6、1 x 10-7、1 x 10-8、1 x 10-9M 以下、好ましくは約1 x 10-10M以下、より好ましくは1 x 10-11M 以下であってよい。ある具体的な実施態様では、該結合親和性は約5 x 10-10M未満である。
【0141】
本発明のいくつかの局面では、抗体又はその抗原結合フラグメントはアセチル化チトクロームcポリペプチド内のコンホメーション上のエピトープに結合する。選択された抗アセチル化チトクロームc抗体がコンホメーション上のエピトープに結合するかを判定するためには、各抗体を、天然タンパク質(例えば非変性性免疫沈降法、細胞表面結合のフローサイトメトリ分析)及び変性タンパク質(例えばウェスタン・ブロット、変性タンパク質の免疫沈降法)を用いたアッセイで検査することができる。結果を比較すると、その抗体がコンホメーション上のエピトープに結合するかどうかが示されるであろう。天然のタンパク質には結合するが変性タンパク質には結合しない抗体は、コンホメーション上のエピトープに結合する抗体であり、好適な抗体である。
【0142】
本発明のいくつかの実施態様では、抗体は、第二抗体の、アセチル化チトクロームcポリペプチド上でそれの標的であるアセチル化エピトープへの特異的結合を競合的に阻害する。いくつかの実施態様では、標的エピトープは野生型の完全長チトクロームcポリペプチドのK40もしくはK74に相当するアセチル化残基を含む。競合的阻害を判定するためには、当業者に公知の多種のアッセイを利用することができる。例えば、競合アッセイを用いると、ある抗体が、アセチル化チトクロームc(又はK40もしくはK74-アセチル化チトクロームc)への阻害を競合的に結合するかどうかを判定することができる。これらの方法には、フローサイトメトリ又は固相結合分析法を利用した細胞ベースの方法が含まれよう。固相又は液相における、抗体のアセチル化チトクロームcポリペプチド(又はK40もしくはK74アセチル化チトクロームcポリペプチド)分子への交差競合能を評価する他のアッセイも用いることができる。
【0143】
アセチル化チトクロームcポリペプチド(又はK40もしくはK74アセチル化チトクロームcポリペプチド)上のその標的エピトープへの特異的結合を少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%、競合的に阻害する。阻害は多様なモル比又は質量比で評価することができる。例えば競合的結合実験は、第二抗体に対して2倍、3倍、4倍、5倍、7倍、10倍又はそれ以上のモル過剰の第一抗体で行うことができる。
【0144】
本発明の他の抗体には、第二抗体によって定義される、アセチル化チトクロームcポリペプチド上のエピトープに特異的に結合する抗体が含まれよう。当該のエピトープを判定するためには、当業で公知の標準的なエピトープ・マッピング法を用いることができる。例えば、第二抗体に結合するK40もしくはK74アセチル化チトクロームcポリペプチド抗原のフラグメント(ポリペプチド)を用いると、候補抗体が同じエピトープに結合するかどうかを判定することができる。いくつかの実施態様では、エピトープは野生型の完全長チトクロームcポリペプチドのK40もしくはK74に相当するアセチル化残基を含む。線形のエピトープの場合、規定された長さ(例えば5、6、7、8 又はそれ以上のアミノ酸長)の重複するポリペプチドを合成してもよい。該ポリペプチドは、好ましくは1アミノ酸分、オフセットになっているとよく、そのためアセチル化チトクロームcポリペプチド配列の4、5、6、7、又は8アミノ酸フラグメントごと(それぞれ)を網羅する一連のポリペプチドが好ましい。2又は3アミノ酸など、より長いオフセットを用いると、より少ない数のポリペプチドを調製することができる。加えて、より長いポリペプチド(例えば9-、10-、又は11-量体など)を合成することができる。抗体へのポリペプチドの結合は、表面プラズモン共鳴法(BIACORE)及びELISAアッセイを含む標準的な方法を用いて判定することができる。コンホメーション上のエピトープを調べるには、いくつかの実施態様ではK40もしくはK74アセチル化チトクロームcポリペプチドを含む、より大きなアセチル化チトクロームcポリペプチド・フラグメントを用いることができる。コンホメーション上のエピトープを規定するために質量分析法を用いる他の方法が解説されており、用いることができる(例えば Baerga-Ortiz et al., Protein Science 11:1300-1308, 2002 及びそこで引用された参考文献を参照されたい)。例えばCurrent Protocols in
Immunology, Coligan et al.,
eds., John Wiley & Sonsのユニット 6.8 (“Phage Display Selection and
Analysis of B-cell Epitopes”) 及びユニット9.8 (“Identification of Antigenic Determinants Using Syntheticポリペプチド Combinatorial Libraries”) など、エピトープ判定のための更に他の方法が)標準的な研究室用参考書に提供されている。エピトープは、点変異又は欠失を既知のエピトープ中に導入し、一種以上の抗体との結合を検査して、どの変異が抗体結合を減少させるかを判定することで、確認することができる。
【0145】
本発明の抗体又は抗原結合フラグメントを、単独で、又は、当業で公知のいくつかの抗体と組み合わせて、診断法で用いてもよい。公知の抗体には、抗チトクロームc抗体や、アセチル化ポリペプチドに結合する抗アセチル化部分抗体が含まれよう。
【0146】
本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを、検出可能な標識に連結することができる。本発明の検出可能な標識は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントに、当業で公知の標準的なプロトコルによって、結合させられよう。いくつかの実施態様では、検出可能な標識を、本発明の抗アセチル化チトクロームc抗体又はその抗原結合フラグメントに共有結合により結合させてもよい。共有結合は、既存の側鎖の直接的な縮合や、あるいは、外部の架橋部分の導入のいずれかによって、達成することができる。数多くの二価又は多価の薬剤を、タンパク質分子を他のタンパク質、ポリペプチド又はアミン官能基等につながる際に有用である。例えば、カルボジイミド、ジイソシアネート、グルタルアルデヒド、及びジアゾベンゼンなどのカップリング剤について、文献が豊富である。このリストは、当業で公知の多様なカップリング剤を網羅することを意図したものでなく、むしろより一般的なカップリング剤の例である。本発明で有用な検出可能な標識の付加的な解説は、ここの他の箇所で提供されている。
【0147】
本発明は、部分的には、抗体を作成する際に用いられるポリペプチド配列をコードする核酸配列も含む。例えば、本発明は、チトクロームcポリペプチド又はそのフラグメントをコードする核酸配列を含み、そして、アセチル化チトクロームcポリペプチドを認識する抗体を生じさせる抗原として用いることのできるポリペプチドを作製するために用いてもよい核酸配列の使用を含む。
【0148】
本発明のポリペプチド及び/又は核酸を、本発明の方法及び/又は組成物での使用に向けて検出可能に標識してもよい。幅広い検出可能な標識が本発明の方法で利用可能であり、その中には、直接的な検出(例えば蛍光、比色法、又は光学的等)又は間接的な検出(例えば酵素生成性の発光、FLAGエピトープなどのエピトープ・タグ、西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素タグ、標識済み抗体等)を提供する標識がある。標識や他のアッセイ成分の性質に応じて、多種の方法を用いて、検出可能な標識を検出できよう。標識を、光学的又は電子密度、放射線放射、非放射性のエネルギー伝達等を通じて直接的に検出しても、あるいは、抗体結合体、ストレプトアビジン−ビオチン結合体等によって間接的に検出してもよい。標識を用いる方法及び検出する方法は当業者に公知である。本発明の方法は、in vivo、in vitro、及び/又は リアルタイム・イメージングを含む、しかしこれに限定しないex vivo イメージングで用いられよう。対象における標識済み抗体の存在は、標準的な方法を用いたin vivo、ex vivo、又はin vitro イメージングによって検出することができる。検出法の例には、限定はしないが、MRI、機能的MRI、X線検出、PET、CT イメージング、免疫組織化学法、組織又は細胞のウェスタン・ブロット、あるいはいずれか他の適した検出法がある。
【0149】
用語「検出可能な標識」は、ここで用いられる場合、限定はしないが、好ましくは蛍光性、酵素、放射性、金属性、ビオチン、化学発光性、及び生物発光性の分子から選択される分子を意味する。ここで用いられる場合、検出可能な標識は、色基分子などの比色法標識であってもよい。本発明のいくつかの局面では、ポリペプチド又は抗体を、ここで述べた検出可能な標識又は他の当業で公知の検出可能な標識の一つで検出可能に標識しても、又は二つ以上で検出可能に標識してもよい。
【0150】
放射性又は同位体標識は、例えば14C、3H、35S、125I、及び 32Pであってよい。蛍光標識は、入射光を吸収して生じると共に刺激光線が続く限り永続する、好ましくは可視光である電磁線を放出するいずれの化合物であってもよい。
【0151】
本発明のポリペプチド及び/又は抗体や、本発明の方法で用いてもよい蛍光標識の例には、限定はしないが、2,4-ジニトロフェニル、アクリジン、カスケード・ブルー、ローダミン、4-ベンゾイルフェニル、7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-3-インダセン及びフルオレスカミンがある。吸収ベースの標識は、多様な電磁線の吸収のレベルによって検出可能である分子であってもよい。このような分子は、例えば上に示した蛍光標識であろう。
【0152】
本発明の化学発光標識とは、非酵素的な化学反応の結果、光を放出する化合物を言う。本発明の方法に、例えば強調緑色蛍光タンパク質(EGFP)、ルシフェラーゼ (Luc)、又は別の検出可能な発現生成物など、発光性で検出可能な診断分子の使用も含めてもよい。
【0153】
アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼの使用を含め、検出用の酵素法を用いてもよい。更に付加的な酵素を、本発明の方法での検出やキットに用いてもよい。
【0154】
ここで用いられる場合の蛍光体には、限定はしないが、全可視及び近赤外スペクトルを網羅するアミン反応性の蛍光体がある。このような蛍光体の例には、限定はしないが、4-メチルウンベリフェリルホスフェート、フルオレセインイソチオシアネート (FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート (TRITC)、BODIPY 染料;オレゴン・グリーン、ローダミン・グリーン染料;赤色蛍光ローダミンRed-X、テキサス・レッド染料;及び紫外光で励起可能なカスケード・ブルー、カスケード・イエロー、マリナ・ブルー、パシフィック・ブルー及びAMCA-X蛍光体がある。蛍光体には、蛍光共鳴エネルギー伝達(FRET)で用いられる非蛍光染料も含めてもよい。
【0155】
本発明の標識済みポリペプチド又は抗体は当業で公知の標準的部分から調製することができる。当業者に認識されているように、検出可能な標識済みポリペプチド、抗体、又はそのフラグメントを調製するための標識付けプロセスは、当該のポリペプチド又は抗体と検出可能な標識の分子構造に応じて異なるであろう。ポリペプチド及び/又は抗体を一種以上の検出可能な標識で標識付けする方法は慣例的に用いられており、当業者にはよく理解されているところである。
【0156】
本発明の組成物(例えばアセチル化ポリペプチド、アセチル化チトクロームcに対する抗体、及びそれらの誘導体/結合体等)は診断上及び治療上の実用性を有する。ここで詳述するように、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは、例えばチトクロームcポリペプチド及び/又はアセチル化及び/又は非アセチル化アセチル化チトクロームcポリペプチドを同定及び/又は単離するために用いられよう。前記抗体を、変異型及び/又は野生型チトクロームcポリペプチド又はそのフラグメントのイメージングに向けて、特異的な診断用標識剤に結合させてもよい。更に本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを、当業者に公知の標準的な方法を用いた免疫沈降法、チトクロームc及び/又はアセチル化チトクロームcのイムノブロッティングに用いてもよい。
【0157】
いくつかの実施態様では、アセチル化チトクロームcポリペプチドに特異的に結合する本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは溶液中にあっても、あるいは、表面(例えばディップスティック、マイクロタイタ・プレート、マルチウェル・プレート、プラスチック、スライド、カード等)に付着させてもよい。その後、対象から採った試料をこの基質に塗布してよく、次にこの基質を処理して、抗体とポリペプチド又は試料の他の成分との間で特異的結合が起きるかどうかを評価する。ここで用いられる場合の基質はいずれかの合成又は天然の材料を含め、ある材料から成っていてよく。本発明の基質の例には、限定はしないが:ガラス、プラスチック、ナイロン、金属、髪、厚紙、フィルタ紙、フィルま・メンブレン等が含まれるものと思われ、そして限定はしないが、試験管、遠心管、キュベット、カード、スライド、ディップスティック、ビーズ、カバースリップ、マルチウェル・プレート、ペトリ皿等を含む数多くの形であってよい。当業者であれば、数多くの付加的な形の表面を本発明の方法で用いることができることは認識されよう。
【0158】
当業者であれば理解されるように、前記抗体又はその抗原結合フラグメントが96ウェル・プレート、試験管、スライド上のドロップ等にある場合には、本発明の抗体を用いた結合アッセイを、対象由来の試料を本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントに接触させることにより、溶液中で行ってもよい。
【0159】
ここで用いられる場合の用語「表面に付着させる」とは、表面に化学的又は生物学的に結合させ、表面から自由に離れることがないことを意味する。限定を意図するわけではないが、結合の例は、基質及び抗体間の共有結合、特異的生物学的結合を通じた付着等である。例えば、この文脈での「付着させる」には、化学的結合、化学的/生物学的結合等が含まれる。ここで用いられる場合の用語「共有結合させた」とは一つ以上の共有結合を通じて付着させることを意味する。ここで用いられる場合の用語「特異的に付着させた」とは、「付着させる」の定義に関連して上述した通り、しかし全ての非特異的結合を除き、抗体又はそのフラグメントが、表面への化学的又は生化学的に結合していることを意味する。本発明の方法においては、基質に付着させた抗体は、抗体が、特異的な引き剥がし法又は溶解なしでは基質から離れないように、付着している。このような引き剥がし法には、限定はしないが、スクレーピング又は加熱、酵素法、及び化学法などが含まれ、その中には、限定はしないが、該基質及び表面間の結合が壊され、基質が解離するように、付着抗体及び基質を溶液に接触させることが含まれるであろう。
【0160】
本発明のいくつかの実施態様では、抗体又はその抗原結合フラグメントを、例えばディップスティックなどの基質に付着させ、培養株又は対象から採った試料細胞又は組織に接触させる。次に、該基質の表面を当業者に公知の手法を用いて処理することで、抗体と、対象の試料中のポリペプチド(例えばアセチル化チトクロームcポリペプチド)との間で特異的結合が起きたかどうかを評価してよい。例えば、手法には、限定はしないが、二次抗体との接触や、特異的結合の存在を示す他の方法があるであろう。
【0161】
投与
本発明の方法で用いられる薬物は好ましくは無菌であると共に、対象への投与に適した単位重量又は体積で所望の応答を生じるために有効量の一種以上の薬剤を含有するとよい。対象に投与される薬物の用量は、様々なパラメータ、特に、用いる投与形態や対象の状態に応じて、選択することができる。他の因子には、所望の処置期間がある。対象における応答が、適用した最初の用量では不充分である場合、より多量の用量(又は異なる、より局所的な送達経路による、効果的なより多量の用量)を、患者の対薬性が許す程度、用いてもよい。薬物の投薬量は、特にいずれかの合併症の場合には、個々の医師又は獣医が調節してもよい。治療上有効量は、典型的には、一日当り一回又は複数回の投与を一日又はそれ以上の日数にわたって、0.01 mg/kg 乃至約 1000 mg/kg、好ましくは約0.1 mg/kg 乃至約 500 mg/kg、そして最も好ましくは約0.2 mg/kg 乃至約 250 mg/kgで様々である。
【0162】
本発明に関連する薬剤や、選択的には他の治療薬は、それ自体で投与しても、あるいは、薬学的に許容可能な塩の形で投与してもよい。
【0163】
本発明の薬物を所望の組織、細胞又は体液に効果的に送達する多様な投与形態が当業者に公知である。投与方法は本願の他所で論じられている。本発明はここで開示する特定の投与形態に限定されない。当業における標準的な参考文献(例えばRemington’s Pharmaceutical
Sciences, 20th Edition, Lippincott, Williams and
Wilkins, Baltimore MD, 2001)は投与形態や、医薬製剤の送達及び調合物の医薬用担体中への調合物の処方を提供している。用量、投与スケジュール、投与部位、投与形態等がここで提供するものとは異なる、本発明の薬物の投与にとって有用な他のプロトコルが当業者には公知である。
【0164】
投与時、本発明の医薬製剤は薬学的に許容可能な量で、薬学的に許容可能な組成物にして、適用される。用語「薬学的に許容可能な」とは、活性成分の生物学的活性の有効性に干渉しない非毒性の物質を意味する。適した製剤は慣例的に塩類、緩衝剤、保存剤、適合性の担体、及び選択的に他の治療薬を含むであろう。医薬に用いられる場合、前記塩類は、薬学的に許容可能であるべきだが、薬学的に許容できない塩が、薬学的に許容可能なその塩を調製するために便宜上用いられてもよく、また本発明の範囲から除外されるものではない。このような薬理学的及び薬学的に許容可能な塩には、限定はしないが、以下の酸から調製されるものが含まれる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。更に、薬学的に許容可能な塩類を、例えばナトリウム、カリウム又はカルシウム塩など、アルカリ金属又はアルカリ土類塩類として調製することもできる。
【0165】
薬物又は組成物を、必要に応じ、薬学的に許容可能な担体と配合してもよい。用語「薬学的に許容可能な担体」とは、ここで用いられる場合、ヒトへの投与に適した一種以上の適合性ある固体又は液体の充填剤、希釈剤又は封入物質を意味する。用語「担体」は、一緒に活性成分を配合して適用を用意にする有機又は無機の、天然又は合成の成分を指す。医薬組成物の成分はまた、本発明の薬物と、そして相互に、所望の薬学的効験を実質的に損なうような相互作用がないような態様で混合することができる。
【0166】
医薬組成物は、上述したように、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、グリシン、ホウ酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、(水酸化物(及び他の塩基))、並びに前述の化合物の薬学的に許容可能な塩類を含め、適した緩衝剤を含有するであろう。更に医薬組成物は、例えば塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン及びチメロサールなどの適した保存剤を選択的には含有してもよい。
【0167】
医薬組成物は、便利なように単位剤形で提供されてもよく、また、製薬業で公知のいずれの方法によって調製されてもよい。全ての方法が、活性な薬剤を、一種以上の付属成分を構成する担体に結び付けるステップを含む。一般的には、当該の組成物は、活性化合物を液体の担体、微細に分割された固体の担体、又は両者に均質かつ密に結びつけた後、必要に応じてその生成物を成型することによって、調製される。
【0168】
化合物を全身送達することが好ましい場合、それを例えば大量注射又は連続的輸注など、注射による非経口投与用に調合してもよい。注射用の調合物は、例えばアンプル又は複数回分の用量用の容器など、単位剤形で、保存剤を添加した上で提供されてもよい。当該の組成物は例えば油性又は水性の賦形剤に入れた懸濁液、溶液又は乳液などの形を採ってもよく、また、例えば懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの調合用薬剤を含んでもよい。
【0169】
非経口用の医薬調合物には、水溶性の形の活性化合物の水溶液が含まれる。加えて、活性化合物の懸濁液は、適宜、油性の注射用懸濁液として調製されてもよい。適した親油性の溶媒又は賦形剤には、ごま油などの脂肪油、あるいはオレイン酸エチル又はトリグリセリドなどの脂肪酸エステルがある。水性の注射用懸濁液はカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなど、懸濁液の粘性を高める物質を含んでいてもよい。選択的には、当該の懸濁剤は、適した安定化剤や、あるいは、高度に濃縮された溶液の調製が可能なように化合物の可溶性を高める薬剤も含んでいてよい。
【0170】
代替的には、活性化合物は、無菌の賦形剤(例えば生理食塩水、緩衝液又は無菌の無発熱源水など)との使用前の構築に向けて粉末型であってもよい。経口投与に適した組成物は、それぞれが所定の量の活性化合物を含有する、例えばカプセル、錠剤、丸剤、ロゼンジなどの離散した単位として提供してもよい。他の組成物には、例えばシロップ、エリキシル、乳液、又はゲルなど、水性の液体又は非水性の液体に入れた懸濁液がある。
【0171】
経口用途用の医薬製剤は、固体の医薬品添加物として得ることができ、選択的にはできた混合物を粉砕し、必要であれば適した補助成分を加えた後に顆粒の混合物を処理して錠剤又は糖衣錠のコアを得る。適した医薬品添加物は、具体的には、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、例えばとうもろこしでんぷん、小麦でんぷん、こめでんぷん、いもでんぷん、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース製剤を含む糖類などの充填剤である。必要であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸あるいはアルギン酸ナトリウムなど、これらの塩などの崩壊剤も加えてよい。選択によっては、経口用調合物は更に、生理食塩水又は緩衝液、即ち、内部の酸性条件を中和する EDTA中に調合されてもよく、または担体なしで投与されてもよい。
【0172】
更に、上記の一つ又は複数の成分の経口用剤形も具体的に考察されている。前記一つ又は複数の成分を、当該の誘導体の経口送達が効果的であるように化学修飾してもよい。一般的には、考えられる化学修飾は、少なくとも一つの部分の当該成分分子それ以上への結合であり、このとき、前記部分により、(a)タンパク質分解の阻害;及び(b)胃又は腸管からの血中への取り込み、が可能となる。更に、当該の一つ又は複数の成分の全体的安定性の向上や、体内での循環時間の増加も好ましい。このような部分の例には:ポリエチレングリコール、エチレングリコール及びプロピレングリコールのコポリマ、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリプロリンがある。Abuchowski and Davis, 1981, "Soluble Polymer-Enzyme
Adducts" In: Enzymes as
Drugs, Hocenberg and Roberts, eds., Wiley-Interscience, New
York, NY, pp. 367-383; Newmark, et al., 1982, J. Appl.
Biochem. 4:185-189。用いられそうな他のポリマはポリ-1,3-ジオキサン及びポリ-1,3,6-チオキソカンである。上に示した通り、薬学的用途用に好適なのはポリエチレングリコール部分である。
【0173】
成分(又は誘導体)について、放出の場所は胃、小腸(十二指腸、空腸又は回腸)、又は大腸であろう。当業者であれば、胃では溶解しないが、十二指腸や腸管の他の箇所では物質を放出するような調合物を利用可能である。好ましくは、薬剤を保護するか、又は、例えば腸管など、胃の環境を越えてから生物学的に活性な物質を放出させるなどにより、胃の環境の有害な効果を避けるような放出であるとよい。
【0174】
胃への耐性を確実に充分にするには、少なくともpH5.0には不浸透性のコーティングが必須である。腸溶コーティングとして用いられるより通常の不活性成分の例は酢酸トリメリト酸セルロース (CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、HPMCP 50、HPMCP 55、ポリ酢酸ビニルフタレート (PVAP)、Eudragit L30D、Aquateric、セルロースアセテートフタレート(CAP)、Eudragit L、Eudragit S、及びShellacである。これらのコーティングを混合されたフィルムとして用いてもよい。
【0175】
コーティング又はコーティング混合物を、胃に対する保護を意図されていない錠剤上に用いることもできる。これには、糖コーティング、又は、錠剤を飲み込み易くするコーティングを含めることができる。カプセルは、乾燥治療薬、即ち粉末の送達のための硬質シェル(例えばゼラチン)から成っていてもよく、また液体型の場合、軟質のゼラチン・シェルを用いてもよい。丸剤、ロゼンジ、成型錠剤又は倍散錠剤の場合には、湿潤増量技術を用いることができる。
【0176】
治療薬を調合物中に、約1mmの粒子サイズの顆粒又はペレットの形の微細な多微粒子として含めることができる。カプセル投与用の物質の調合はまた、粉末として、軽く圧縮されたプラグとして、あるいは錠剤としてもよいかも知れない。治療薬は圧縮により調製されよう。
【0177】
着色剤又は着香料もすべて含めてよい。例えば薬剤を(例えばリポソーム又はマイクロスフィア封入法により)調合した後、更に、例えば着色剤又は着香料を含有する冷凍飲料など、食品内に含有させてもよい。不活性の物質で治療薬の体積を希釈又は増量してもよい。これらの希釈剤には、糖質、特にマンニトール、乳糖、無水乳糖、セルロース、ショ糖、調製デキストラン及びでんぷんが含まれよう。三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び塩化ナトリウムを含め、いくつかの無機塩類もまた、充填剤して用いてもよい。いくつかの市販の希釈剤はFast-Flo、Emdex、STA-Rx 1500、Emcompress 及びAvicellである。
【0178】
治療薬の調合物中に崩壊剤を含めて固体の剤形としてもよい。崩壊剤として用いられる物質には、限定はしないが、でんぷんをベースにした市販の崩壊剤であるExplotabを含め、でんぷんがある。でんぷんグリコール酸ナトリウム、Amberlite、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラアミロペクチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジピール、酸性カルボキシメチルセルロース、天然の海綿及びベントナイトも、いずれも用いてよい。別の形の崩壊剤は不溶性の陽イオン交換樹脂である。粉末ガムも崩壊剤として、そして結合剤として用いてもよく、そしてこれらには例えば寒天、カラヤ又はトラガカントなどの粉末ゴムを含めることができる。アルギン酸及びそのナトリウム塩も、崩壊剤として有用である。
【0179】
治療剤を固めて硬質錠剤を形成するために結合剤を用いてもよく、その中には、アカシアゴム、トラガカントゴム、でんぷん及びゼラチンなどの天然生成物由来の物質がある。他には、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC) 及びカルボキシメチルセルロース (CMC)がある。ポリビニルピロリドン(PVP) 及びヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC) は両者とも、治療薬を顆粒状にするためにアルコール溶液にして用いられよう。
【0180】
減摩剤を治療薬の調合物中に含めることで、調合プロセスの間の粘着を防いでもよい。治療薬とダイス壁面との間の層として潤滑剤を用いてもよく、これらには、限定はしないが、そのマグネシウム及びカルシウム塩を含むステアリン酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液体パラフィン、植物油及びろうがある。ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、多様な分子量のポリエチレングリコールCarbowax 4000 及び6000などの可溶性の潤滑剤も用いてよい。
【0181】
調合中の流動性を高め、圧縮中の再構成を助けるであろう推進薬も添加してよいかも知れない。推進薬には、でんぷん、タルク、無発熱源性シリカ及び水和シリコアルミネートを含めてよい。
【0182】
治療薬の水性環境中への溶解を助けるために、界面活性剤を湿潤剤として添加してもよいであろう。界面活性剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、及びスルホン酸ジオクチルナトリウムなどの陰イオン性洗剤が含まれよう。陽イオン性の界面活性剤を用いてもよく、その中には塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウムがあるであろう。界面活性剤として調合物中に含めても良いであろう潜在的な非イオン性界面活性剤のリストは、ラウロマクロゴル400、ポリオキシル40 ステアレート、ポリオキシエチレン水和化ひまし油10、50及び60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65 及び80、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースである。これらの界面活性は、薬剤の調合物中に単独で、又は様々な比で混合物として存在してよいであろう。
【0183】
経口使用してもよい医薬製剤には、ゼラチン製のプッシュ・フィット・カプセルや、ゼラチンとグリセロール又はソルビトールなどの可塑剤とから作製された軟質の密封されたカプセルがある。プッシュ・フィット型カプセルには、活性成分を、乳糖などの充填剤、でんぷんなどの結合剤、及び/又は、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤と、選択によっては安定化剤と一緒に組み合わせて含めることができる。軟質カプセルの場合、活性化合物を脂肪油、液体パラフィン又は液体ポリエチレングリコールなどの適した液体中に溶解又は懸濁させてもよい。加えて、安定化剤を加えてもよい。
【0184】
経口投与用に調合されたマイクロスフィアも用いてよい。このようなマイクロスフィアは当業でよく定義されている。経口投与用の調合物はすべて、このような投与に適した投薬量であるべきである。
【0185】
口腔内投与の場合、当該の組成物は、従来の態様で調合された錠剤又はロゼンジの形を採ってもよい。
【0186】
吸入による投与の場合、本発明に従った使用に向けた化合物を、便利なよう、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適した気体など、適した推進剤を使用した、加圧されたパック又はネブライザーからのエーロゾル噴霧による提供の形で送達してもよい。加圧されたエーロゾルの場合、投薬単位は、計量分を送達する弁を提供することにより、決定されよう。吸入器又は注入器での使用するゼラチンなど、当該化合物と、乳糖又はでんぷんなどの適した粉末基剤との混合粉末を含有するカプセル及びカートリッジを調合してもよい。
【0187】
更に肺内送達もここで考察される。吸入中の哺乳動物の肺に薬剤を送達し、肺の上皮内層を横切って血流中に至らせることができる。吸入される分子の報告には、Adjei et al., 1990, Pharmaceutical
Research, 7:565-569; Adjei et al., 1990, International
Journal of Pharmaceutics, 63:135-144(酢酸ロイプロリド); Braquet et al., 1989, Journal of
Cardiovascular Pharmacology, 13(上記. 5):143-146 (エンドセリン−1); Hubbard et al., 1989, Annals of Internal
Medicine, Vol. III, pp. 206-212(a1-アンチトリプシン);Smith et al., 1989, J. Clin. Invest.
84:1145-1146 (a-1-プロティナーゼ); Oswein et al.,
1990, "Aerosolization of Proteins", Proceedings of Symposium on
Respiratory Drug Delivery II, Keystone, Colorado, March, (組換えヒト成長ホルモン);Debs et al.,
1988, J. Immunol. 140:3482-3488(インターフェロン-γ及び腫瘍壊死因子アルファ)及びPlatz et al., 米国特許第5,284,656号(顆粒球コロニー刺激因子)がある。全身効果に向けた、薬物の肺内送達のための方法及び組成物はWong 氏らに1995年9月19日に発行された米国特許第5,451,569号に解説されている。
【0188】
本発明の実施での使用が考察されるのは、限定はしないが、すべて当業者には公知のネブライザー、計量吸入器、及び粉末吸入器を含め、治療用生成物の肺内送達に向けてデザインされた幅広い機械的装置である。
【0189】
本発明の実施に適した市販の装置のいくつかの具体的な例は、ミズーリ州セントルイスのMallinckrodt社製のUltraventネブライザー;コロラド州イングルウッドのMarquest Medical Products社製の Acorn II ネブライザー;ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークのGlaxo 社製のVentolin 計量吸入器;及びマサチューセッツ州ベッドフォードのFisons Fisons Corp.社製のSpinhaler粉末吸入器である。
【0190】
このような装置はすべて、薬剤の投薬に適した調合物の使用が必要である。典型的には、各調合物は、用いる装置の種類に特異的であり、治療法で有用な通常の希釈剤、アジュバント及び/又は担体に加え、適した推進材料の使用を含むであろう。更に、リポソーム、マイクロカプセル又はマイクロスフィア、包接複合体又は他の種類の担体の使用も考察される。
【0191】
噴出型又は超音波型のネブライザーと一緒に用いるのに適した調合物は、典型的には、1mLの溶液当り、生物学的に活性な薬剤を約0.1 乃至25 mg の濃度で水に溶かした薬剤を含む。更に調合物には、緩衝剤及び単一の糖(例えば浸透圧の安定化及び調節のためなど)を含めてもよい。ネブライザー用調合物は更に、エーロゾル形成時に溶液を噴霧化することによって起きる、薬剤の表面凝集を減らす又は防ぐために、界面活性剤を含んでもよい。
【0192】
計量吸入器での使用に向けた調合物は、一般的には、界面活性剤の助けを受けて薬剤を推進薬に懸濁させて含有する微細に分割された粉末を含むであろう。推進薬は、例えばクロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、あるいは、トリクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノール、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン、又はこれらの組合せを含むハイドロカーボンなど、この目的に用いられるいずれの従来の材料であってもよい。適した界面活性剤には、トリオレイン酸ソルビタン及び大豆レシチンがある。オレイン酸も界面活性剤として用いられよう。
【0193】
粉末吸入器から投与される調合物は、薬剤を含有する微細に分割された乾燥粉末を含むであろうが、更に、重量で当該調合物の50乃至90%など、器具からの粉末の投与が容易となるような量の乳糖、ソルビトール、ショ糖、又はマンニトールなど、増量剤を含んでもよい。薬剤は、遠位の肺まで最も効果的に送達するために、10 mm (又はミクロン)未満、最も好ましくは0.5 乃至 5 mmの平均粒子サイズの微粒子方で調製されると、最も有利であろう。
【0194】
本発明の医薬組成物の鼻腔(又は鼻腔内)送達も考察されている。鼻腔送達により、本発明の医薬組成物を、当該治療用生成物を鼻に投与した直後に血流に通過させることができ、肺内にこの生成物を沈着させる必要もない。鼻腔送達用の調合物には、デキストラン又はシクロデキストランを含むものがある。
【0195】
鼻腔投与の場合、有用な器具は、小型の硬質ボトルであり、そこへ計量スプレーが取り付けられる。ある実施態様では、計量された用量は、本発明の医薬組成物の溶液を、規定された容積のチャンバ内に吸引されることで送達され、該チャンバは、エーロゾル化する大きさの孔を有し、チャンバ内の液体が圧縮されたときに噴霧を形成することにより、エーロゾル調合物とする。該チャンバが圧縮されると本発明の医薬組成物が投与される。ある具体的な実施態様では、該チャンバはピストン装置である。このような器具は市販のものを入手可能である。
【0196】
代替的には、握ったときに噴霧を形成することによりエーロゾル調合物をエーロゾル化するような大きさの孔又は開口を持つプラスチック製スクイーズ・ボトルが用いられる。前記の開口は通常、ボトルの上部に見られ、該上部は一般的には先細りになって、エーロゾル調合物を効率的に投与できるよう、鼻腔通路内に部分的に嵌め入れられる。好ましくは、鼻腔吸入器が、計量された用量の薬物を投与できるように、計量された量のエーロゾル調合物を提供するとよい。
【0197】
更に本化合物を、例えばココアバター又は他のグリセリドなどの従来の座薬用基剤を含有するなど、座薬又は滞留浣腸剤などの直腸又は膣用組成物として調合してもよい。
【0198】
前に解説した調合物に加え、更に本化合物をデポー製剤として調合してもよい。このような長期作用性の調合物は、適したポリマ製又は疎水性材料(例えば許容可能な油に溶かした乳液などとして)又はイオン交換樹脂で、あるいは、節約型可溶性の塩など、節約型可溶性の誘導体として、調合されてもよい。
【0199】
本医薬組成物は更に適した固相又はゲル相の担体又は医薬品添加物を含んでもよい。このような担体又は医薬品添加物の例には、限定はしないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖類、でんぷん、セルロース誘導体、ゼラチン、及びポリエチレングリコールなどのポリマがある。
【0200】
適した液体又は固体の医薬製剤型は、例えば、吸入用の水溶液又は生理食塩水溶液をマイクロ封入したもの、エンコキレートした(原語:encochleated)もの、顕微的金粒子上に被覆したもの、リポソームに容れたもの、噴霧化したもの、エーロゾル、皮膚への移植用のペレット、又は、皮膚に擦り付けるように乾燥させて鋭い物体にしたものである。更に医薬組成物には、顆粒、粉末、錠剤、被覆錠剤、(マイクロ)カプセル、座薬、シロップ、乳液、懸濁液、クリーム、活性化合物を遅延放出させる滴下薬又は製剤も含まれ、その調製には、例えば崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨張剤、潤滑剤、着香料、甘味料又は可溶化剤などの調製用医薬品添加物及び添加剤及び/又は補助薬が、上述したように通例、用いられる。医薬組成物は、多種の薬物送達系で用いるのに適する。薬物送達の方法の簡単なレビューには、言及をもってここに援用することとするLanger, Science
249:1527-1533, 1990を参照されたい。
【0201】
治療薬は粒子で提供されてもよい。ここで用いられる場合の粒子とは、全部又は部分的に、ここで解説する治療薬から成すことができるナノ又はマイクロ粒子(あるいは場合によってはそれより大型)を意味する。粒子は、限定はしないが腸溶コーティングを含むコーティングによって取り囲まれたコア内に治療薬を含有してもよい。また治療薬を粒子全体に分散させてもよい。また、治療薬を粒子中に吸着させてもよい。粒子は、ゼロ次放出、一次放出、二次放出、遅延放出、持続放出、即時放出、及びこれらのいずれかの組合せ、等を含め、いずれの次元の放出動態のものでもよい。粒子には、治療薬に加え、限定はしないが、侵食性、非侵食性、生分解性、又は非生分解性の物質あるいはこれらの組合せを含め、製薬業及び医業で慣例的に用いられる物質のいずれをも含めてよい。粒子はここで解説する治療薬を溶液中に、又は半固体状態で含有するマイクロカプセルであってよい。粒子は実質的にいずれの形状のものでもよい。
【0202】
非生分解性及び生分解性ポリマ材料の両者とも、治療薬を送達する粒子の製造時に用いることができる。このようなポリマは天然又は合成ポリマであってよい。ポリマは、放出させた時間に基づいて選択される。特に対象となる生吸着性ポリマには、その教示をここに援用することとするH.S. Sawhney, C.P. Pathak and J.A. Hubell in Macromolecules, (1993) 26:581-587に解説された生侵食性のヒドロゲルがある。これらには、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ無水物、ポリアクリル酸、アルギン酸塩、キトサン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、及びポリ(オクタデシルアクリレート)が含まれる。
【0203】
治療薬を制御放出系内に含めてもよい。用語「制御放出」は、調合物からの薬物放出の態様及びプロファイルが制御される、いずれかの薬物含有調合物を言うものと、意図されている。これは即時や非即時調合物を言い、このときの非即時調合物は、限定はしないが持続的放出及び遅延放出調合物を含む。用語「持続放出」(更に「長時間放出を言う」は、その従来の意味において、薬物を長時間にわたって次第に提供し、そして好ましくは、しかし必ずしもではないが、長時間にわたって薬物の血中レベルを実質的に一定にするような薬物調合物を言うために用いられる。用語「遅延放出」は、その従来の意味において、調合物の投与とそこからの薬物の放出との間に時間的遅れがある薬物調合物を言うために用いられる。「遅延放出」は、長時間にわたった薬物の次第の放出を含む場合も、含まない場合もあり、従って「持続放出」である場合も、でない場合もある。
【0204】
長時間持続放出インプラントの使用は、特に慢性状態の処置に適するであろう。ここで用いられる場合の「長時間」放出とは、インプラントが、治療的レベルの活性成分を少なくとも7日間、そして好ましくは30−70日間にわたって送達するように構築及び構成されていることを意味する。長時間放出インプラントは当業者に公知であり、その中には上述した放出系のいくつかが含まれる。
【0205】
眼、鼻腔粘膜、粘膜、又は皮膚への局所投与の場合、治療薬を軟膏、クリーム又はローションとして調合しても、まるいは、経皮パッチ又は眼内挿入物又はイオン導入法として調合してもよい。例えば、軟膏及びクリームは、水性又は油性の基剤のみで、あるいは適した増粘剤及び/又はゲル化剤と一緒に、調合することができる。ローションは水性又は油性の基剤で調合することができ、典型的には更に一種以上の乳化剤、安定化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、又は着色剤を含む。(薬学的に許容可能なゲル・ベースの局所用担体の解説は、例えばMueller, Dらに発行された標題“Sterile Topical Anesthetic Gel”の米国特許第5,563,153号を参照されたい。)
【0206】
一般的には、治療薬は、組成物の総重量に基づき、重量で約0.01% 乃至約 30.0% の範囲の量、局所用調合物中に存在する。好ましくは、薬剤は重量で約0.5 乃至約 30% 存在するとよく、そして最も好ましくは、薬剤は約0.5 乃至約 10% の量、存在するとよい。ある実施態様では、本発明の組成物は、局所痛表面への接触を最大にさせ、この局所痛を軽減するのに必要な体積及び投薬量を最小にするようなゲル混合物を含む。GELFOAM(R)(Upjohn社製造のメチルセルロース・ベースのゲル)が、好適な薬学的に許容可能な局所用担体である。他の薬学的に許容可能な担体には、経皮薬物送達用のイオン導入法がある。
【0207】
更に本発明はキットの使用も考察する。本発明のいくつかの局面では、本キットには、医薬製剤用バイアル、医薬製剤用希釈剤バイアル、及び一種以上の治療薬を含めることができる。いくつかの実施態様では、本キットは、例えば一種又は複数の抗体など、診断を目的とした薬剤を含む。医薬製剤用の希釈剤を容れるバイアルはオプションである。希釈剤バイアルは、治療薬の濃縮溶液でも又は凍結乾燥粉末でもよいものを希釈するための、生理食塩水などの希釈剤を容れる。指示には、特定の量の希釈剤を、特定の量の濃縮医薬製剤と混合することで、注射又は輸注用の最終的な調合物を調製する指示を含めることができる。指示には、有効量の治療薬で対象を処置するための指示を含めてもよい。指示には、指示には、患者を診断する、ある疾患についての患者のリスクを特徴付ける、あるいは患者にとっての治療法の有効性を評価するための指示を含めてもよい。製剤を容れる容器には、その容器がボトルにしろ、隔壁付きのバイアルにしろ、隔壁付きのアンプルにしろ、輸注バッグ等にしろ、製剤をオートクレーブ又は他の方法で滅菌したときに色を変化させる、従来のマークなどの表示を容れることができることも理解されよう。本発明に関連するキットを図17に挙げる。
【0208】
本発明を更に、以下の実施例で描写するが、該実施例を更に限定的なものとは決してみなされてはならない。本願全体を通じて引用された参考文献(参考文献、発行済み特許、公開済み特許出願、及び同時係属中の特許出願を含む)のすべての全内容を、言及をもってここに援用することを明示しておく。
【0209】
本発明の少なくとも一つの実施態様のいくつかの局面をこのように解説してきたところで、当業者であれば、多様な変更、改良、及び改善に容易に想到されると考えられる。このような変更、改良、及び改善は、本開示の一部として意図されており、本発明の精神及び範囲内にあると意図されている。従って、上記の解説及び図面は例示のみを目的とするものである。
【実施例1】
【0210】
実施例
方法
細胞培養及びトランスフェクション
SH-SY5Y細胞を、10% ウシ胎児血清(FCS)を添加したダルベッコの改良イーグル培地(DMEM) で培養した。SH-SY5Y細胞にリポフェクタミン 2000 (カリフォルニア州カールスバッド、Invitrogen社)をトランスフェクトした。顆粒状の神経細胞株を生後5日目のマウス仔の小脳から調製した。神経細胞をポリオルニチン被覆96ウェル・プレート上に置き、10%ウシ血清(ユタ州ローガン、Hyclone Laboratories社)、25 mM KCl、2 mM グルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシンを添加したイーグルの基礎培地 (BME) (ミズーリ州セントルイス、Sigma社)で成長させた。培養株を調製してから1日後にそれらを10 μMの抗有糸分裂剤シトシン-D-アラビノフラノシド(ミズーリ州セントルイス、Sigma社)で処置して、非神経細胞の増殖を妨げた。
【0211】
プラスミド構築
全ての発現コンストラクトはPCRベースの標準的クローニング戦略を用いて作製され、全ての発現コンストラクトはDNA配列決定法で確証された。マウスチトクロームcコーディング配列を pEGFP-マウスチトクロームc-GFP ベクター(テネシー州メンフィス、St. Jude Children’s Research 病院のD. Green氏から提供)からPCR増幅し、pcDNA3.1+ (Invitrogen社)由来ベクター pcDNAFlag 中にクローニングして、C-末端Flagタグの付いたチトクロームcを作製した。部位指定変異誘発法を用いてpcDNA-マウスチトクロームc
K74R-Flag、pcDNA-マウスチトクロームc K40R-Flag 及びpcDNA-マウスチトクロームc K88R-Flagを構築した。コンストラクトはすべて、DNA配列決定法で確証した。pcDNA-ヒトSIRT3-Flag 及びpcDNA-ヒトSIRT3-HA ベクターはカリフォルニア州サンフランシスコのカリフォルニア大学のB. Schwer氏によって提供された。
【0212】
免疫ブロット法
用いられた抗体は、抗Flag M2、ウサギポリクローナル抗Flag 及び抗FLAG M2 アガロース・アフィニティ・ゲル(ミズーリ州セントルイス、Sigma社)、抗HA モノクローナル抗体(Sigma社)、アセチル化リジンポリクローナル抗体(マサチューセッツ州ビバリー、Cell Signaling Technology社)、抗チトクロームc(Pharmingen 社及びSanta Cruz Biotechnology社)だった。免疫ブロットを強調化学発光(GE Healthcare社)を用いて顕色させた。
【0213】
免疫沈降法
細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roshe社)を含有する氷温の緩衝液IP 緩衝液(1% トリトン X-100、150 mM NaCl、0.5 mM EDTA、50 mM Tris-HCl、pH 7.4)に溶解させた。ライセートを16,000
g で10分間、4°Cで遠心分離し、免疫沈降を4°C で12時間、抗FLAG M2 アガロース・アフィニティ・ゲル(ミズーリ州セントルイス、Sigma社)を用いて行った。抗チトクロームc(Santa Cruz Biotechnology社)抗体を免疫沈降に用いた場合には、試料を4時間、4°Cでインキュベートした。試料を4回、IP 緩衝液で洗浄した。精製後のタンパク質をSDS-PAGE で分離し、免疫ブロット法を行った。
【0214】
タンデム質量分析法後のチトクロームcの大規模精製
pcDNA-マウスチトクロームc-Flag +/- pcDNA- hSIRT3-HA をトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞の10 x15 cm-プレートから出た細胞抽出物を、3X Flag ペプチドで溶離した後、大規模Flag免疫沈降法を行った。精製後のタンパク質をSDS-PAGEで分離し、チトクロームcに相当するバンドを切り出し、MS/MSで分析した。
【0215】
細胞生存率の測定
WT及びSIRT3ヌルマウス由来の初代顆粒状神経細胞のカイニン酸に対する耐性を、50 uM のカイニン酸で処置してから4時間及び24時間後の生存細胞のパーセンテージで定量した。カイニン酸処置で死亡した細胞の定量を、CellTiter 96 非放射性細胞増殖アッセイ・キット(Promega社製)を用いたMTTアッセイを用いて行った。
【0216】
動物実験
同腹仔129/Sv(6乃至8週齢)マウスをこの研究に用いた。SIRT3−/− マウスが129/sv バックグラウンドに居た。マウスを、制御された温度 (25°C) 及び光下に収容し、通常食を与えた。
【0217】
発作を誘発するために、WT メス (n = 6) 及びKO メス (n = 5) マウスの両者、並びに WT オス (n = 5)及び KO オス (n = 6) マウスの両者に30 mg/kg
KAを腹腔内注射した。.この用量のKAは全てのマウスで発作を起こした。
【0218】
恐怖の条件付け実験を、コンピュータ化した恐怖の条件付けシステム(ドイツ、バド・ホンブルグ、TSE社製)を用いて行った。恐怖の条件付けはケージ (36 cm×21 cm×20cm)内で行われた。各試験後に95%エタノールでボックスを清浄にした。
【0219】
文脈依存的な恐怖の条件付け
訓練は、脚部へのショック(2秒、0.7mAの定電流)後に条件付けボックス(文脈)にマウスを3分間、曝露することから成った。該マウスを3分間、条件付けの文脈に再曝露することによって、24時間後に記憶テストを行った。心拍と、屈み込む姿勢を伴った呼吸とを除く、運動の欠如と定義されたフリージングが、3分間の間、二人の訓練された観察者(一人は実験の条件を知らない)によって10秒毎に記録された(合計18回のサンプリング回数)。両方の観察者の平均として得られた、フリージングを示す観察回数を、観察の総回数のパーセンテージで表した。訓練中、コントロール群のマウスを文脈のみ(3分間)か、又は、即時の脚部へのショック(2秒間、0.7mAの定電流)に曝露してから、文脈(3分間)に曝露した。
【0220】
音声依存的な恐怖の条件付け
訓練はマウスを条件付けボックス(文脈)に3分間、曝露した後、音声[30秒間、10kHz、75dBの音圧(SPL)]及び脚部へのショック(2秒間、0.7mAの定電流)へ曝露することから成った。24時間後、マウスを3分間、新規な文脈に曝露した後、更に3分間、音声[10kHz、75dB、SPL]に曝露することで記憶テストを行った。フリージングは、上述したように二人の偏見のない観察者によって10秒毎に記録された。
【0221】
ロタロッド
マウスが当該手法に慣れてから、これらをロタロッド(ドイツ、バド・ホンブルグ、TSE社)に配置し、カイニン酸を注射されたマウスが、当該マウスに与えられた新規なプログラム(18rpm)でロタロッドから転落するまでの時間を測定した。6回の試験が行われた。
【0222】
オープン・フィールド・テスト
マウスをオープン・フィールド装置(44 × 44 × 30 cm)の中央に配置した。この動物の動きを自動観察システム(ドイツ、バド・ホンブルグ、TSEシステムズ社)で10分間、追跡した。
【0223】
水迷路テスト
水迷路パラダイムを不透明な水で満たした円形のタンクで行った。標的の4分円の水面下にプラットホーム (11 × 11 cm) を沈めた。マウスの遊泳路をビデオカメラで記録し、Videomot 2 ソフトウェア (TSE)で分析した。各訓練回毎にマウスを迷路内でタンクの4箇所のランダムな点のすぐ傍に配置した。マウスにプラットホームを60秒間、探させた。マウスが60秒以内にプラットホームを見つけられない場合、これらを優しくそれに向かって案内した。マウスをプラットホームに30秒間、留まらせた。記憶テスト(プローブ・テスト)の間、プラットホームをタンクから取り去り、マウスを迷路内で60秒間、泳がせた。
【0224】
結果
質量分析法による分析では、チトクロームcタンパク質の残基K40及びK74はSH-SY5Y 細胞ではアセチル化していることが判明した(図4)。SH-SY5Y 細胞に前記チトクロームcタンパク質をhSIRT3の非存在下でトランスフェクトすると、チトクロームcの残基K40及びK74のアセチル化が検出された(図2)が、hSIRT3 をチトクロームcと一緒に同時トランスフェクトすると、チトクロームcのK40及びK74のアセチル化は検出されなかった(図3)ことから、SIRT3はチトクロームcタンパク質を脱アセチル化することが示唆された。チトクロームcタンパク質は多様な種で保存されている(図4)。
【0225】
残基K40、K73 及びK88 を、各残基をアルギニン残基に置換することで変異させた。抗PAN 抗体(アセチル化リジンポリクローナル 抗体)(マサチューセッツ州ビバリー、Cell Signaling Technology社)を用いた免疫沈降実験で、K74のアセチル化を検出することができる(図5)。
【0226】
SIRT3 がチトクロームcと相互作用してこれを脱アセチル化するかどうかを調べるために、同時免疫沈降実験及び脱アセチル化実験を行った。図6及び7は、SIRT3 及びチトクロームc間の相互作用と、SIRT3によるチトクロームcの脱アセチル化を実証するものである。
【0227】
SIRT3の機能を調べるために、SIRT3ノックアウト・マウスを作製した(T3-/-)。図8では、T3-/- マウスを用いて行われた実験手法の概略を挙げる。図9は、初代小脳顆粒状神経細胞に対するカイニン酸の影響を明らかにしている。T3-/- マウスは、カイニン酸注射後の細胞生存率の低下を示す。図10は、カイニン酸注射を含む実験中の野生型及びT3-/- マウス間の体重の比較を示す。
【0228】
マウスに恐怖の実験付けを行い、学習時間を野生型及びT3-/- マウス間で比較した。図11及び12は、学習時間に対するT3-/- 変異の影響を示す。恐怖の実験付け実験を実証した概略図を図13に挙げる。
【0229】
記憶機能に対するカイニン酸注射の影響も、海馬及び扁桃体神経細胞を検査することで、調べた。図14は、T3-/- マウスの海馬及び扁桃体神経細胞の消失を示す。
【0230】
文脈のある恐怖の実験付け実験では、T3-/- マウスは、恐怖の実験付けを行った野生型よりもフリージン活動が低率であることがされた。恐怖の条件付け実験における活動レベルを示すグラフを図16に挙げる。
【0231】
行動におけるSIRT3の役割を調べるために、T3-/- マウスに、移動活動を検査するオープン・フィールド・テストを含む行動分析を行った。移動活動を評価するために用いた実験手法を示すフローチャートを図17に挙げる。移動活動実験で用いられたT3-/- 及び野生型マウスの体重を図18に挙げる。T3-/- 及び野生型マウスの移動した距離と運動速度とを検査した。オープン・フィールド・テストでは、T3-/- マウスは、野生型マウスよりも僅かに長い距離、移動し、僅かに速い速度で動いたことが見出された(図19−20)。
【0232】
次にマウスを水迷路テストで移動能力についてテストした。1日目の馴化段階の間、T3-/- マウスは野生型マウスよりも水迷路から脱出する能力が僅かに低いことが見出された(図21)。数日間の訓練後、水迷路中でのマウスの運動を追跡した(図22−23)。試験1では、T3-/- マウスは野生型マウスよりも標的の4分円内で過ごす時間が短く、反対側の4分円で過ごす時間が野生型マウスよりも長かったことが見出された(図24−25)。同じ結果は試験2でも観察された(図26−27)。これらの結果は、野生型マウスに比較して、移動活動テストでのT3-/- マウスの学習能力低下を示すものである。
【0233】
T3-/- マウスの海馬におけるタンパク質のアセチル化状態を判定するために、野生型
及びT3-/- マウスから採った海馬ライセートで、PAN 抗体(マサチューセッツ州ビバリー、Cell Signaling Technology社)を用いた免疫沈降実験を行った。これらの実験で、T3-/- マウスの海馬におけるタンパク質の超アセチル化が明らかになった(図28)。
【0234】
本発明に関連するキットの概略図を図29に挙げる。
【0235】
均等物
当業者であれば、ごく慣例的な実験を用いるのみで、ここに解説する本発明の具体的な実施態様に均等物を数多く認識され、又は確認できることであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の包含するところと意図されている。ここで開示された、特許文献を含む全ての参考文献を、言及をもってここに援用する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルを検出するステップを含み、
但しこの場合、対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが所定値に比較して高いことは、神経変性障害のリスク上昇の指標である、
前記対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法。
【請求項2】
試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体を用いることで検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが、質量分析法によって検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象由来の試料中で完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40に相当するリジン残基のアセチル化を検出するステップを含み、
但しこの場合、前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40に相当するリジン残基にアセチル化が存在することは、前記対象が神経変性障害のリスク上昇を有することの指標である、
前記対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法。
【請求項5】
前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40に相当するリジン残基のアセチル化が質量分析法により検出される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象由来の試料中で完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K74に相当するリジン残基のアセチル化を検出するステップを含み、
但しこの場合、前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K74に相当するリジン残基にアセチル化が存在することは、前記対象が神経変性障害のリスク上昇を有することの指標である、
前記対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法。
【請求項7】
前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K74に相当するリジン残基のアセチル化が質量分析法により検出される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象由来の試料中で完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基のアセチル化を検出するステップを含み、
但しこの場合、前記対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基にアセチル化が存在することは、前記対象が神経変性障害のリスク上昇を有することの指標である、
前記対象の神経変性障害のリスクを特徴付ける方法。
【請求項9】
対象由来の試料中の完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基のアセチル化が質量分析法により検出される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルを検出するステップを含み
但しこの場合、対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが所定値に比較して高いことは、神経変性障害の指標である、
前記対象の神経変性障害を診断する方法。
【請求項11】
対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体を用いることで検出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが質量分析法によって検出される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
対象由来の試料中のチトクロームcのアセチル化のレベルを検出するステップを含み、
但しこの場合、所定値と比較したときの、該対象由来の試料中のチトクロームcのアセチル化のレベルは、前記治療法に効験があるかどうかの指標である、
神経変性障害のある対象における治療法の効験を評価する方法。
【請求項14】
前記対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが、アセチル化チトクロームcに特異的に結合する抗体を用いることで検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象由来の試料中のアセチル化チトクロームcのレベルが、質量分析法によって検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
対象のアセチル化チトクロームcのレベルを所定値未満に減少させるために、このような処置を必要とする対象に有効量の化合物を投与するステップを含み、
但しこの場合、前記化合物は、サーチュインを活性化する化合物である、
神経変性障害を有する対象を処置する方法。
【請求項17】
チトクロームcを脱アセチル化する作用物質に細胞を接触させることにより、前記細胞のアポトーシスを阻害するステップを含む、
中でチトクロームcがアセチル化した細胞のアポトーシスを阻害する方法。
【請求項18】
チトクロームcを脱アセチル化する作用物質が、脱アセチル化酵素タンパク質である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記脱アセチル化酵素がSIRT3である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記当該のサーチュインがSIRT3である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ある患者が、完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基の脱アセチル化を示す癌を有するかどうかを判定する検定を行うステップを含み、
但しこの場合、前記患者が、完全長の野生型チトクロームcポリペプチド中の残基K40及びK74に相当するリジン残基の脱アセチル化を示す癌を有するのであれば、前記患者は、チトクロームcをアセチル化する組成物による処置の候補である、
ある癌患者をチトクロームcをアセチル化する作用物質で処置すべきかどうかを判定する方法。
【請求項22】
細胞を、チトクロームcをアセチル化する作用物質に接触させて前記細胞のアポトーシスを誘導するステップを含む、
中のチトクロームcが脱アセチル化されている細胞において、アポトーシスを誘導する方法。
【請求項23】
前記細胞がin vivoであり、前記方法が、付加的な治療薬に前記細胞を接触させるステップを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
癌細胞の生存率を低下させるのに有効量の、チトクロームcをアセチル化する作用物質に、チトクロームcの脱アセチル化を示す癌細胞を接触させるステップを含む、チトクロームcの脱アセチル化を示す癌細胞の生存率を下げる方法。
【請求項25】
前記細胞がin vivoであり、前記方法が、付加的な治療薬に前記細胞を接触させるステップを更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
アセチル化チトクロームcポリペプチドのエピトープに特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合フラグメントであって、但しこの場合、前記エピトープは、完全長の野生型ヒトチトクロームcアミノ酸配列中の残基K40に相当するアセチル化残基を含む、単離抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項27】
前記抗体が前記エピトープに約1
x 10-6 M、1 x 10-7
M、1 x 10-8 M、1 x 10-9 M、1 x 10-10 M、5 x 10-10 M、又は1 x 10-11 M 以下の結合親和性で特異的に結合する、請求項26に記載の単離抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項28】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、検出可能な標識に付着させてある、請求項26に記載の単離抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項29】
請求項26に記載の抗体をコードする核酸分子。
【請求項30】
請求項29に記載の核酸分子を含有するハイブリドーマ。
【請求項31】
請求項26に記載の抗体を産生するハイブリドーマ細胞株。
【請求項32】
請求項26に記載の抗体又は抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項33】
請求項32の発現ベクターで形質転換させた又は前記発現ベクターをトランスフェクトしたホスト細胞。
【請求項34】
請求項26に記載の抗体又はその抗原結合部分産生するプラスミド。
【請求項35】
請求項26乃至34のいずれかに記載の抗体又は抗原結合フラグメントを含む組成物。
【請求項36】
アセチル化チトクロームcポリペプチドのエピトープに特異的に結合する単離抗体又はその抗原結合フラグメントであって、但しこの場合、前記エピトープが、完全長の野生型ヒトチトクロームcアミノ酸配列中の残基K74に相当するアセチル化残基を含む、単離抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項37】
前記抗体が前記エピトープに約1
x 10-6 M、1 x 10-7
M、1 x 10-8 M、1 x 10-9 M、1 x 10-10 M、5 x 10-10 M、又は1 x 10-11 M以下の結合親和性で特異的に結合する、請求項36に記載の単離抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項38】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、検出可能な標識に付着させてある、請求項36に記載の単離抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項39】
請求項36に記載の抗体をコードする核酸分子。
【請求項40】
請求項39に記載の核酸分子を含むハイブリドーマ。
【請求項41】
請求項36に記載の抗体を産生するハイブリドーマ細胞株。
【請求項42】
請求項36に記載の抗体又は抗原結合フラグメントをコードする単離核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項43】
請求項42に記載の発現ベクターで形質転換させた又はこのような発現ベクターをトランスフェクトしたホスト細胞。
【請求項44】
請求項36に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを産生するプラスミド。
【請求項45】
請求項36乃至44のいずれかに記載の抗体又は抗原結合フラグメントを含む組成物。
【請求項47】
SIRT3の脱アセチル化酵素活性を調節する化合物を同定する方法であって、
アセチル化チトクロームcポリペプチド基質及び SIRT3脱アセチル化酵素を検査化合物の存在下で接触させるステップと、
前記検査化合物の存在下における前記チトクロームcポリペプチド基質のアセチル化のレベルを判定するステップと
を含み、この場合、コントロールに比較したときの、前記検査化合物の存在下での前記チトクロームcポリペプチド基質のアセチル化のレベルの低下は、SIRT3脱アセチル化酵素活性を増加させる化合物の指標であり、そしてコントロールに比較したときの、前記検査化合物の存在下での前記チトクロームcポリペプチド基質のアセチル化のレベルの上昇は、SIRT3脱アセチル化酵素活性を減少させる化合物の指標である、
方法。
【請求項48】
前記チトクロームcポリペプチド基質が、完全長の野生型チトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する、少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記チトクロームcポリペプチド基質プールのアセチル化のレベルが、質量分析法を用いて判定される、請求項47又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記質量分析法が、エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析法又はマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI) 質量分析法である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記チトクロームcポリペプチド基質が単一のポリペプチド種を含む、請求項47乃至50のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記チトクロームcポリペプチド基質が完全長チトクロームcポリペプチドを含む、請求項47乃至51のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記チトクロームcポリペプチド基質が二種以上のポリペプチド種の混合を含む、請求項47乃至50のいずれかに記載の方法。
【請求項54】
前記チトクロームcポリペプチド基質が、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する少なくとも一つのリジン残基を含むチトクロームcのフラグメントである、請求項47乃至53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記チトクロームcポリペプチド基質が、完全長の野生型ヒト
チトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する少なくとも一つのリジン残基を含むチトクロームcの断片の融合体である、請求項47乃至53のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記検査化合物が低分子である、請求項47乃至55のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記検査化合物が分子ライブラリーである、請求項47乃至55のいずれかに記載の方法。
【請求項58】
前記ライブラリーが低分子を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記SIRT3脱アセチル化酵素が細胞又は組織ライセート由来である、請求項47乃至58のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記チトクロームcポリペプチド基質が細胞中にある、請求項47乃至59のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記SIRT3が、アセチル化K40及び/又はK74を含むチトクロームc基質をNAD+ 又はNAD+ 類似体の存在下で脱アセチル化することのできる、完全長(ヒト)SIRT3の触媒活性フラグメントである、請求項47乃至60のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
SIRT3の活性を判定する際に用いられるアセチル化ポリペプチド基質であって、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK70に相当する少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含むチトクロームcのフラグメントを含む、ポリペプチド基質。
【請求項63】
前記ポリペプチド基質が、完全長の野生型ヒトチトクロームcポリペプチドの残基K40及び/又はK74に相当する少なくとも一つのアセチル化リジン残基を含むチトクロームcのフラグメントの融合体である、請求項64に記載のポリペプチド基質。
【請求項64】
請求項62又は請求項63に記載のアセチル化ポリペプチド基質を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図16−4】
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【図16−5】
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【図16−6】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2012−507003(P2012−507003A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533184(P2011−533184)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/005778
【国際公開番号】WO2010/047823
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】