説明

チャージポンプ回路及びそれを用いるPLL回路

【課題】電流供給および吸入用の定電流源と、それらの定電流源の間に設けられる2つの直列に接続されたスイッチ素子から成り第1の出力端子を持つ主出力側電流路と、同様に2つのスイッチ素子から成り第2の出力端子を持つ副出力側電流路とを備え、位相比較器からの駆動信号に応答して、主出力側電流路のスイッチと副出力側電流路との各スイッチ素子が開閉し、第1の出力端子から正負の電流パルスが出力される差動スイッチング方式のチャージポンプ回路において、ダイ面積を縮小するとともに、消費電力を削減する。
【解決手段】主出力側電流路のスイッチ素子Q7,Q8間の電位と副出力側電流路のスイッチ素子Q5,Q6間の電位との差に起因して定電流源Q3,Q4の寄生容量の充放電に伴い発生する緩慢なグリッチを補償するために、コンパレータ37と、ラッチ回路38と、コンデンサC1と、充放電器Q9,Q10とを用いてグリッチ補償回路36を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路で好適に用いられるチャージポンプ回路及びそのPLL回路に関し、特にグリッチの補償に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機などで使用されるPLL(Phase Locked Loop)シンセサイザは、たとえば図6で示すように構成されている。それによれば、局部発振器などで使用されるVCO(電圧制御発振器)1の発振周波数を制御するために、PLL IC2に、前記VCO1ならびに基準周波数の発振器3及びループフィルタ4が外付けされて構成されている。
【0003】
前記VCO1の発振信号は、PLL IC2に入力され、プリスケーラ5によって予め定める分周比で分周され、さらに分周器6で分周されて位相比較器7に入力される。一方、前記発振器3からの発振信号は、PLL IC2に入力され、分周器8で分周されて位相比較器7に入力される。3ステート型位相比較器として構成した場合には、位相比較器7は、VCO1からの分周信号と発振器3からの分周信号との位相を比較し、位相差と同じ時間のパルス幅を持つエラー信号を、例えば位相差が正であればUP信号として、負であればDOWN信号として出力する。
【0004】
チャージポンプ回路9は、例えばUP信号が入力されると、その出力端子から所定電流値ICPをUP信号のパルス幅と同じ時間だけ出力し、DOWN信号が入力されると、その出力端子から所定電流値ICPをDOWN信号のパルス幅と同じ時間だけ吸入し、UP、DOWN信号が両方ともOFFの状態である時には、その出力端子をハイインピーダンス状態とする。
【0005】
チャージポンプ回路9から出力された電流パルスはループフィルタにより電圧に変換され、前記VCO1のチューニング電圧を与える。図6のPLLシンセサイザでは位相比較器7からの位相比較出力が零となるように、つまり発振器3の発振信号を分周器8で分周した信号と、VCO1の発振信号を分周器6で分周した信号とが同期するように制御が行われる。分周器6の分周比Nを所望の値に設定することで、分周器8から出力される信号の発振周波数をfrefとした時、N×frefの周波数を持つ安定な発振信号をVCO1から出力させることができる。
【0006】
このような、同じ絶対値の正或いは負の定電流を、UP及びDOWN信号のパルス幅と同じ時間だけ、ある出力電圧範囲について、正確かつ高速に出力することが要求されるPLL用チャージポンプ回路9として、電流供給用と電流吸入用との定電流源の間に、直列接続された2個のスイッチから成り出力端子を持つ主出力側電流路と、同様の構成を持つ副出力側電流路とをそれぞれ設け、供給電流と吸入電流との流れる電流路をスイッチによってそれぞれ選択することで、入力信号により指定される時刻に、正或いは負の定電流を出力開始乃至停止させられる形式の回路が知られている。記述の簡単化のために、ここではこの種類のチャージポンプを、差動スイッチングチャージポンプ(以下、DSCP)と呼ぶ。
【0007】
図7は、そのようなDSCPの典型的な従来技術であるチャージポンプ回路11の回路図である。このチャージポンプ回路11では、電源電圧vdcを発生する直流電源12からの電源ライン13,14間に、ダイオード接続されたPMOSトランジスタq1と、定電流源icと、ダイオード接続されたNMOSトランジスタq2とが直列に接続されている。これらのMOSトランジスタq1,q2のゲートには、それぞれ同型同サイズのMOSトランジスタq3,q4のゲートが接続されてカレントミラー回路を構成する。NMOSトランジスタq4のドレインには、NMOSトランジスタq6のソースと、NMOSトランジスタq8のソースとが接続されている。PMOSトランジスタq3のドレインには、PMOSトランジスタq5のソースと、PMOSトランジスタq7のソースとが接続されている。トランジスタq3は前記電流供給用定電流源を構成し、トランジスタq4は前記電流吸入用定電流源を構成する。トランジスタq7,q8のドレインは該チャージポンプ回路11の出力端子15に接続され、前記主出力側電流路を与える。トランジスタq6のドレインは正電源ライン13に接続され、トランジスタq5のドレインは接地されており、前記副出力側電流路をそれぞれ与える。
【0008】
前記位相比較器7からのUP信号及びDOWN信号が正論理で出力されている場合、トランジスタq7のゲートにはUPを反転したUPBが、トランジスタq5のゲートにはUPが、トランジスタq8のゲートにはDOWNが、トランジスタq6のゲートにはDOWNを反転したDOWNBが、それぞれ印加される。
【0009】
上述のように構成されるチャージポンプ回路11は、以下のように動作する。定電流源icの出力電流値をicとすると、理想的にはトランジスタq3,q4のドレイン電流もicに等しくなる。UP信号が「1」に等しい時には、トランジスタq7がON、トランジスタq5がOFFとなり、UP信号が「0」に等しい時には、トランジスタq5がON、トランジスタq7がOFFとなり、DOWN信号が「1」に等しい時には、トランジスタq8がON、トランジスタq6がOFFとなり、DOWN信号が「0」に等しい時には、トランジスタq6がON、トランジスタq8がOFFとなる。
【0010】
つまり、UP信号が「1」且つDOWN信号が「0」である時には、トランジスタq3のドレイン電流は全て主出力側電流路へ流れ、チャージポンプ出力端子15から電流値icの定電流が供給される。これに対して、UP信号が「0」且つDOWN信号が「1」である時には、トランジスタq4のドレイン電流は全て主出力側電流路から流入し、チャージポンプ出力端子15から電流値icの定電流が吸入される。これに対して、UP信号が「0」且つDOWN信号が「0」である時には、トランジスタq4のドレイン電流は全て副出力側電流路から流入し、トランジスタq3のドレイン電流は全て副出力側電流路へ流れ、チャージポンプ出力端子15はハイインピーダンス状態となる。
【0011】
前述のように、主出力側電流路のトランジスタq7,q8のドレインは前記出力端子15を介してPLLのループフィルタ4に接続されており、したがってトランジスタq7がON、かつトランジスタq5がOFFとなった時にはループフィルタに対してチャージポンプ回路11から電流が供給され、トランジスタq8がON、かつトランジスタq6がOFFとなった時にはループフィルタからチャージポンプ回路11が電流を吸入し、しかもそのチャージポンプ回路11から供給される電流と、チャージポンプ回路11に吸入される電流の値とは、両方とも前記定電流値icとなり、理想的には同一の値となる。
【0012】
このように、PLL用のチャージポンプ回路11には、入力される位相差信号(UP、DOWN)に応じて、一定値(ic)の大きさの正或いは負の電流パルスを高速かつ正確に出力することが要求される。しかしながら、チャージポンプ回路11から出力される電流パルスは、一般に所謂グリッチを伴う歪んだ波形となる。この電流パルス波形が歪む原因は以下のように説明される。
【0013】
前記トランジスタq5〜q8が理想的なスイッチ、すなわちON抵抗が0Ωであるとし、トランジスタq5,q7のソース及びトランジスタq3のドレインが接続された節点p1の電位をv1とし、トランジスタq6,q8のソース及びトランジスタq4のドレインが接続された節点p2の電位をv2とし、トランジスタq7,q8のドレイン及び出力端子15が接続された節点paの電位をvaとする。更にトランジスタq3,q4は理想的な定電流源として振舞い、そのドレイン電流はドレイン−ソース間電圧に依らず一定であると仮定する。
【0014】
先ずDOWN信号が「0」である場合の、ソース電流のスイッチングについて考える。UP信号が「0」である時には、前述の通り、トランジスタq7がOFF、トランジスタq5がONの状態となっており、従って電位v1は接地電位(0V)に等しくなる。次に前記UP信号を「0」から1に切り替えると、前述の通り、トランジスタq7がON、トランジスタq5がOFFの状態に切り替わり、従って電位v1は接地電位から電位vaへと変化する。
【0015】
ここで、トランジスタq3のドレイン−ソース間には寄生容量が存在するが、その容量値をCds3とすると、この寄生容量には、上述のUP信号の切り替り前には、 Vds3=vdc−v1 の電圧が印加されており、Qds3=Cds3×Vds3 の電荷が充電されている。それが、UP信号の状態変化に伴い、寄生容量には、 ΔVds3=va への電圧変化が生じることになる。また同時に、前記寄生容量に充電される電荷量は、 ΔQds3=Cds3×va だけ変化する。これは、通常、va>0(V)であるので、ΔQds3だけの電荷が、UP信号が「0」から「1」に変化した時刻以降に、トランジスタq7及びチャージポンプ出力端子15を通してループフィルタ4へ供給されることを意味する。
【0016】
したがって、上記の電荷移動が起こっている期間中のチャージポンプのソース電流値は、定電流icに上記の電荷移動の速度が加算された値となる。これはチャージポンプの出力電流パルスの立ち上がりエッジ付近でパルス波形が理想的な矩形から歪んだものとなることを意味し、このような電流パルスの局所的な誤差をグリッチと呼ぶ。同様にしてUP信号が「0」である場合の、シンク電流のスイッチングについて考察すると、チャージポンプ回路11ではシンク電流パルスにもグリッチが現れることが分かる。
【0017】
チャージポンプの出力電流パルスに上記のようなグリッチが生じると、PLL発振出力の位相雑音特性が悪化するので、これを抑制することが望ましい。そこで、チャージポンプ出力電流パルス中のグリッチを抑制する手段として、特許文献1が提案されている。その従来技術によるチャージポンプ回路21を、図8で示す。このチャージポンプ回路21において、上述のチャージポンプ回路11に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。
【0018】
このチャージポンプ回路21では、トランジスタq5のドレインとトランジスタq6のドレインとが接続されて節点pbとなっており、その電位をvbとする。注目すべきは、このチャージポンプ回路21では、前記グリッチを補償するためのオペアンプ22が付加されていることである。このオペアンプ22は、負入力端子と出力端子とが前記節点pbに接続され、正入力端子が前記節点paに接続され、電圧フォロワとして動作し、前記電位vbを電位vaと常に同じ電位に保つ。
【0019】
このため、上述のようにUP信号を切換えても、トランジスタq3のドレイン電位v1は変化せず、したがって前述した該トランジスタq3のドレイン−ソース間寄生容量Cds3に充電された電荷の変化量ΔQds3は0となる。こうして、該トランジスタq3のドレイン電流値は常に前記定電流icに保たれ、チャージポンプ回路21から出力されるソース電流パルスの波形も、グリッチの無い、最大電流値がicの矩形波となる。
【0020】
以上が、PMOSトランジスタq5,q7,q3による該チャージポンプ回路21の電流供給に関するグリッチ補償動作の説明であるが、NMOSトランジスタq6,q8,q4による該チャージポンプ回路21の電流吸入に関しても同様にしてグリッチ補償が行われる。
【0021】
なお、上述した電流源トランジスタq3,q4のドレイン−ソース間寄生容量から発生する誤差電流は、緩慢なグリッチの主たる生成要因となっている。ここで言う緩慢なグリッチとは、チャージポンプ回路の出力電流パルスの立ち上がりエッジ以後に、出力電流値が定常電流値(ic)へと移行する際に見られる、緩慢に減衰する誤差電流のことである。しかしながら、チャージポンプ回路の出力電流パルスに生じるグリッチとしては、この緩慢なグリッチ以外に、入力パルスの立上がり・立下りの瞬間に発生するスパイク状のグリッチも存在するが、このタイプのグリッチに関しては、図8の回路では補償を行うことはできず、また本発明においても、特に補償を行う対象とはしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第5101117号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上述の従来技術では、オペアンプ22による電圧フォロワをDSCPに付加することで、グリッチが低減された一定の電流パルスを出力させることを可能としている。しかしながら、このような手法には以下のような短所が伴う。
i.一般的にオペアンプの回路では、発振抑制のために、位相補償コンデンサが設けられており、この位相補償コンデンサの適切な容量値は、たとえば数十pFにもなり、集積回路中に形成するために大きなダイ面積が必要とされ、PLL ICの製造コストを上昇させる一因となる。
ii.DSCPのグリッチ補償回路で用いられているオペアンプは、その最大出力電流値がチャージポンプの出力電流値以上となっていることが望ましい。このため特に大きな出力電流値を持つDSCPに対しては、最大出力電流の大きな出力アンプを備えた、占有ダイ面積の大きなオペアンプによりグリッチ補償を行う必要がある。この点もPLL ICの製造コストを上昇させる一因となる。
iii.一般的には、DSCPに付加されたグリッチ補償回路中のオペアンプは、常時動作状態にある。このため、DSCPの消費電力量は、グリッチ補償回路を付加することにより、オペアンプの消費電力×使用時間だけ増大する。したがって、PLL ICの消費電力量もこれにより増加する。
【0024】
本発明の目的は、低コストかつ省エネルギーなDSCP用グリッチ補償回路を有するチャージポンプ回路及びそれを用いるPLL回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明のチャージポンプ回路は、電流供給用の定電流源と、電流吸入用の定電流源と、第1及び第2のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、該第1及び第2のスイッチ素子の接続点が第1の出力端子となる主出力側電流路と、第3及び第4のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、該第3及び第4のスイッチ素子の接続点が第2の出力端子となる副出力側電流路と、グリッチ補償回路とを備え、前記グリッチ補償回路は、前記第1の出力端子の電位、又は前記第1の出力端子に接続されたループフィルタ中の指定された節点の電位と、前記第2の出力端子の電位とを比較するコンパレータと、外部から任意に指定される第1の時点における前記コンパレータの出力を第1の出力値として記憶し、前記第1の出力値に従って、充電又は放電の命令を出力し、前記第1の時点以降における前記コンパレータの出力と前記第1の出力値とを逐次比較し、それらが同一の値ではなくなった第2の時点で、充放電の停止命令を発行するラッチ回路と、前記第2の出力端子と接地点との間に接続されるコンデンサと、前記ラッチ回路の出力に応答して、前記コンデンサを充放電させる充放電器とを含むことを特徴とする。
【0026】
上記の構成によれば、電流供給用の定電流源と、電流吸入用の定電流源と、第1及び第2のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、それら2つのスイッチ素子の接続点が第1の出力端子となる主出力側電流路と、前記主出力側電流路と並列となり、第3及び第4のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、それら2つのスイッチ素子の接続点が第2の出力端子となる副出力側電流路とを備え、位相比較器などの外部からの駆動信号に応答して前記第1〜第4のスイッチ素子によって、供給電流と吸入電流との流れる電流路をそれぞれ選択することで、正或いは負の定電流を第1の出力端子から出力開始乃至停止させられるようにして構成される差動スイッチング方式のチャージポンプ回路において、前記第1の出力端子の電位、又は前記第1の出力端子に接続されたループフィルタ中の指定された節点の電位と、前記第2の出力端子の電位との電位差に起因して、前記定電流源の寄生容量の充放電に伴い発生する緩慢なグリッチを補償するにあたって、前記電位差を解消する従来のボルテージホロワのオペアンプに代えて、コンパレータと、ラッチ回路と、コンデンサと、充放電器とを用いて、新規なグリッチ補償回路を構成する。
【0027】
詳しくは、コンパレータは、電位の比較を行い、論理出力信号をラッチ回路に与える。ラッチ回路にタイミング入力信号を与えることで、グリッチ補償動作が開始され、ラッチ回路はその時点での前記コンパレータ出力に応じて、充放電器に充電或いは放電動作を指示して、前記コンデンサを充放電させ、前記第2の出力端子の電位を第1の出力端子の電位、又はループフィルタ中の指定された節点の電位に近付ける。具体的には、ラッチ回路は、前記タイミング入力信号により指定される第1の時点における前記コンパレータの出力を第1の出力値として記憶し、前記第1の出力値に従って、充放電器に充電又は放電の命令を出力し、前記第1の時点以降における前記コンパレータの出力と前記第1の出力値とを逐次比較し、それらが同一の値ではなくなった第2の時点で、充放電の停止命令を発行する。
【0028】
前記タイミング入力を適切な時間間隔で繰り返し与えることにより、グリッチ補償動作が離散的に繰り返し行われることになり、前記第2の出力端子の電位と、前記第1の出力端子の電位或いは前記ループフィルタ中の指定された節点の電位とを、ある誤差範囲内で、常に一致させ、グリッチの低減を実現することができる。
【0029】
したがって、コンデンサはオペアンプに内蔵される前記発振(位相)補償コンデンサに比べて極めて小容量にでき、論理回路から成るラッチ回路と合わせて、ダイ面積を縮小し、集積回路の製造コストを抑えることができる。また、コンデンサを充放電する充放電器は、オペアンプの出力段よりも小さなダイ面積で実現可能であり、しかもオペアンプはホロワ動作で常時電流を消費するのに対して、充放電器はPLLのロック状態では充放電動作を行う必要が殆ど無くなるので、消費電力を大幅に削減することができる。
【0030】
また、本発明のチャージポンプ回路では、前記グリッチ補償回路において、前記充放電器は、指定された正電圧を与える電源ラインと前記第2の出力端子との間に相互に並列に接続される複数の充電用スイッチと、接地ラインと前記第2の出力端子との間に相互に並列に接続される複数の放電用スイッチとを備え、前記充放電器が、前記複数の充電用スイッチおよび放電用スイッチの内、少なくとも一部を、前記ラッチ回路から出力される充放電命令に従って制御するのか、又は開放状態とするのかを選択する回路を備えることを特徴とする。
【0031】
上記の構成によれば、前記グリッチ補償回路において、前記充放電器を構成する充電用スイッチと放電用スイッチとを、前記第2の出力端子の電位のスルーレート調整用として、それぞれ並列にN個(Nは2以上の固定された整数)のスイッチから構成し、その内A個(AはA<Nを満たす0以上の整数で可変)を常に開放状態とし、前記スルーレートを上昇させるときにはAを減少させ、前記スルーレートを低下させるときにはAを増加させる。
【0032】
したがって、前記差動スイッチング方式のチャージポンプ回路において、その出力電流値が切換えられるようになっている場合にも、チャージポンプ出力電圧の変動速度の増減に応じて、前記スルーレートを増減させ、適切な速度でグリッチ補償を行うことができる。
【0033】
さらにまた、本発明のチャージポンプ回路では、前記グリッチ補償回路は、前記コンパレータの入力端子の一方又は両方に対して、それぞれ指定された別の入力信号を与えるか、又は前記の電位を与えるかを選択するための回路と、前記コンパレータの出力を取り出す出力端子とをさらに備え、前記コンデンサの充放電が停止されている前記第2の時点以降の期間中に、前記コンパレータを他の目的に利用できるようにしたことを特徴とする。
【0034】
上記の構成によれば、前記グリッチ補償回路において、コンパレータの出力は後段のラッチ回路で取込まれない限りは、その変化は任意である。これを利用して、前記コンパレータの入力端子の一方又は両方に対して、それぞれ指定された別の入力信号を与えるか、又は前記の電位を与えるかを選択するための回路を設けて、前記第1の出力端子及び/又は第2の出力端子から切離し、別途の入力に切換える一方、前記コンパレータの出力を取出す出力端子を設け、前記コンデンサの充放電が停止されている前記第2の時点以降の期間中に、前記コンパレータを他の目的に利用できるようにする。
【0035】
したがって、同じ集積回路内において、他の目的のためにコンパレータを必要としているブロックがあれば、前記グリッチ補償回路で使用されているコンパレータを、そのアイドル期間に転用し、前記他の目的のためのコンパレータを削除し、ダイ面積を節約し、低コスト化を図ることができる。
【0036】
また、本発明のPLL回路は、前記のチャージポンプ回路を用いることを特徴とする。
【0037】
上記の構成によれば、高速に動作し、常に正確な一定値の電流を出力することが要求されるPLL回路のチャージポンプ回路として、上記のチャージポンプ回路は、グリッチによるPLLの性能悪化を抑え、好適である。
【発明の効果】
【0038】
本発明のチャージポンプ回路及びそれを用いるPLL回路は、以上のように、電流供給用の定電流源と、電流吸入用の定電流源と、第1及び第2のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、それら2つのスイッチ素子の接続点が第1の出力端子となる主出力側電流路と、前記主出力側電流路と並列となり、第3及び第4のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、それら2つのスイッチ素子の接続点が第2の出力端子となる副出力側電流路とを備え、位相比較器などの外部からの駆動信号に応答して、前記第1〜第4のスイッチ素子によって、供給電流と吸入電流との流れる電流路をそれぞれ選択することで、正或いは負の定電流を第1の出力端子から出力開始乃至停止させられるようにして構成される差動スイッチング方式のチャージポンプ回路において、前記第1の出力端子の電位、又は前記ループフィルタ中の指定された節点の電位と、前記第2の出力端子の電位との電位差に起因して、前記定電流源の寄生容量の充放電に伴い発生する緩慢なグリッチを補償するにあたって、前記電位差を解消する従来のボルテージホロワのオペアンプに代えて、コンパレータと、ラッチ回路と、コンデンサと、充放電器とを用いて、新規なグリッチ補償回路を構成する。
【0039】
それゆえ、前記オペアンプと異なり、コンパレータはダイ上で大きな面積を占める位相補償容量を必要としないため、集積回路の製造コストを抑制することができる。
【0040】
また、従来のチャージポンプ回路の内で特に大きい出力電流を持つものについては、前記オペアンプを大電流出力可能なものとする必要があり、これによりダイ上での回路面積の増加、消費電力の増加という不利益が生じていた。これに対して本発明では小面積の前記充放電器及び前記ラッチ回路を用いて大出力電流のチャージポンプに対するグリッチ補償を行うことが可能となっている。
【0041】
さらにまた、従来のチャージポンプ回路ではグリッチ補償用オペアンプを連続的に運用していたのに対して、本発明ではコンパレータを間歇的に動作させることで同様の効果を得ることが可能となっている。これにより消費電力量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るチャージポンプ回路の回路図である。
【図2】第1の実施形態に係るチャージポンプ回路のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図3】図2のシミュレーションで観測したチャージポンプ回路からの出力電流波形の一部を拡大して示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るチャージポンプ回路の回路図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るチャージポンプ回路の回路図である。
【図6】PLL回路の一構成例を示すブロック図である。
【図7】典型的な従来技術のチャージポンプ回路の回路図である。
【図8】他の従来技術によるチャージポンプ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るチャージポンプ回路31の回路図である。
【0044】
このチャージポンプ回路31は、図6で示すPLL IC2内のチャージポンプ回路9として使用され、前述の図8で示すチャージポンプ回路21と同様の構成を持つ。またチャージポンプ回路としての動作も同様であり、その説明を省略する。
【0045】
注目すべきは、本実施の形態のチャージポンプ回路31では、新規なグリッチ補償回路36が設けられていることである。このグリッチ補償回路36は、前述のオペアンプ22に代えて、コンパレータ37及び論理回路から成るラッチ回路38と、MOSトランジスタQ9,Q10から成る充放電器と、コンデンサC1とを備えて構成される。PMOSトランジスタQ9のソースが正電源ライン33に、ドレインが節点PBに、NMOSトランジスタQ10のソースが負電源ライン34に、ドレインが節点PBに、コンデンサC1の一端が節点PBに、コンデンサC1の他端が負電源ライン34に、それぞれ接続されている。そして、ラッチ回路38が、トランジスタQ9,Q10をON/OFFさせることで、コンデンサC1の持つ荷電量を調整し、節点PBの電位VBを増減させることが可能となっている。
【0046】
上述のように構成されるチャージポンプ回路31において、コンパレータ37は、チャージポンプ出力端子35の電位VAと、節点PBの電位VBとを比較し、たとえばVA>VBであれば論理値「0」を出力し、VB>VAであれば論理値「1」を出力する。チャージポンプ出力端子35には、PLLのループフィルタ4が、節点VBにはコンデンサC1が接続されており、電位VA,VBの変動速度はコンパレータ37の動作速度に比べて充分遅いものとなる。
【0047】
そして、このコンデンサC1の充電を行うためのPMOSトランジスタQ9と、放電を行うためのNMOSトランジスタQ10とが、前記コンパレータ37の出力に応答して、ラッチ回路38によって制御される。図1には図示されていない外部制御論理回路から、入力端子39にラッチパルス信号LATが印加される。ラッチ回路38は、前記ラッチパルス信号が、例えば「0」から「1」に変化した時刻T1から充放電制御動作を開始する。
【0048】
具体的には、ラッチ回路38は、端子INから入力されるコンパレータ37の出力COの時刻T1における値CO(T1)をレジスタに記録する。次にラッチ回路38は、CO(T1)=0、つまりVA>VBとなっている場合には、PG出力を「0」、NG出力を「0」とする。これによって、前記PG出力がゲートに入力されているPMOSトランジスタQ9がONし、前記NG出力がゲートに入力されているNMOSトランジスタQ10がOFFし、コンデンサC1の充電が開始される。これに対して、CO(T1)=1、つまりVA<VBとなっている場合には、ラッチ回路38は、PG出力を「1」、NG出力を「1」に切換える。これによって、PMOSトランジスタQ9がOFFし、NMOSトランジスタQ10がONし、コンデンサC1の放電が開始される。
【0049】
通常は、コンデンサC1の容量値と、トランジスタQ9,Q10のサイズとを調整し、前述のように電位VBの変動速度が電位VAのそれよりも充分速くなるように設定しておく。この時、時刻T1よりも後のある時刻T2において、充電の場合にはVA>VBの状態からVA<VBの状態への遷移が起こり、これを受けて時刻T2よりも後のある時刻T3においてコンパレータ37の出力値が「0」から「1」に、放電の場合にはVA<VBの状態からVA>VBの状態への遷移が起こり、これを受けて同様に時刻T3においてコンパレータ37の出力値が「1」から「0」に変化する。
【0050】
そこで、ラッチ回路38は、コンパレータ37の出力値がCO(T1)を反転した値と一致するようになると、時刻T3より後のある時刻T4において、PG出力を「1」、NG出力を「0」に切り替え、コンデンサC1の充放電を停止させる。その後は、次のラッチパルス信号LATが印加されるまでラッチ回路38は充放電の停止状態を保持し、電位VAが変化しない限りは、時刻T4以降はVAとVBとがほぼ等しい状態が保たれる。そして、図8の従来技術で述べたように、電位VAと電位VBとが等しい状態でチャージポンプ31回路から電流を出力した時には、理想的には前述した緩慢なグリッチは生じない。したがって、このような新規なグリッチ補償回路36によって、グリッチの低減されたチャージポンプ出力電流パルスが得られることが理解される。
【0051】
なお上述の説明において、T3−T2はコンパレータ37の応答時間に相当し、T4−T3はラッチ回路38のコンパレータ出力に対する応答時間とトランジスタQ9,Q10の応答時間とを加算したものに相当する。実際にVA=VBとなった時刻T2と、コンデンサC1の充放電が停止される時刻T4は有限の時間だけ異なっているため、この間に継続される充放電動作により、VA(T4)≠VB(T4)となり誤差が生じる。また、コンパレータ37は、一般に零ではない入力オフセット電圧を持つため、無限に速い応答時間を仮定した場合においても誤差が生じる。
【0052】
このような2つの誤差要因に対処し、VA(T4)−VB(T4)の値を0に近付けるように改良することは可能であるが、前述の緩慢なグリッチは電位VAとVBとの差が充分小さな時には殆ど生じないため、特にそのような誤差の補正回路は、追加しなくても通常問題とはならない。
【0053】
図2は、図1に示した本発明の第1の実施形態を現実の集積回路として実現した回路例のシミュレーション結果を示すグラフである。このシミュレーションでは、チャージポンプ回路31に、50nsec周期で20nsecのパルス幅のUP信号と、50nsec周期で10nsecのパルス幅のDOWN信号を入力している。更にDOWN信号にはUP信号に対して30nsecの遅延を持たせている。これはPLLがアンロック状態にある場合を想定した入力信号となっている。チャージポンプ回路31の定電流源の電流値ICは、40μAに設定されている。またラッチ回路38の端子LATには、500nsec周期、10nsec幅のラッチパルス信号LATが与えられている。図2には、上から電位VA及び電位VB、ラッチパルス、コンパレータ37からの出力論理値COの過渡応答が、シミュレーション開始後1.0〜4.0μsecの期間についてそれぞれ示されており、横軸は時間、縦軸は電圧を表している。
【0054】
図2を参照して分かるように、チャージポンプ回路31の出力電圧を示す電位VAは約6.7mV/μsecの速さで増加している。これはUP信号パルス幅が、DOWN信号パルス幅よりも10nsecだけ長いために、時間平均するとループフィルタ4中のコンデンサに対する充電電荷量が放電電荷量を上回ることに因る。またチャージポンプ回路31から50nsec周期で電流パルスが出力されているために、電位VAは50nsec周期で微小に振動している。
【0055】
一方、グリッチ補償回路36が停止状態にあり、トランジスタQ9,Q10がOFFとなっている期間、たとえば3.1〜3.5μsecの期間W1について見ると、電位VBは50nsec周期の微小な振動を繰り返しながら減少している。これは、節点PBからの出力電流をスイッチングしているPMOSトランジスタQ5に入力されるUPB信号のパルス幅よりも、NMOSトランジスタQ6に入力されるDOWNB信号のそれが10nsecだけ長くなっているために、時間平均すると充電電荷量よりも放電電荷量の方が大きくなり、コンデンサC1の持つ電荷が減少し、電圧が低下していることを示している。
【0056】
したがって、上述のパルス幅のUP,DOWN信号を与えた時にグリッチ補償動作を行わずに放置し続けると、電位VAの増加と電位VBの減少とによって、VA−VBの誤差が増大し、チャージポンプ回路31の出力に顕著なグリッチが生じる。図2のシミュレーションでは、UP,DOWN信号の周期の10倍、すなわち500nsec周期で、前記ラッチ回路38へのラッチパルスを発生させ、グリッチ補償を行っている。これによって電位VBが、500nsec毎にVB>VAとなるまで急速に増加させられており、その結果、|VA−VB|は常に5mV以下に保たれている。
【0057】
このグリッチ補償動作について、たとえば時刻t1で示す前記3.500μsecからの補償動作に関して、時間を追って詳細に説明する。先ず3.500μsec(t1)の時点において、ラッチパルス信号LATが入力され、グリッチ補償動作の開始が指示されている。これによって、時刻t1におけるコンパレータ37の出力論理値COがラッチ回路38に記憶される。時刻t1において電位VAは約423mV、電位VBは420mVとなっており、VA>VBが成り立つことから、CO(t1)=0となっている。またCO(t1)の値が0であることから、ラッチ回路38は、PG出力を「0」、NG出力を「0」として、コンデンサC1の充電を開始する。
【0058】
コンデンサC1の充電が行われている間は、電位VBが増加し続け、3.534μsecの時点(t2)で、電位VAとVBとは等しくなっている。コンパレータ37は有限の速度で動作し、零ではない入力オフセット電圧を持つので、時刻t2の時点ではその出力値が変化せず、3.545μsecの時刻t3に「0」から「1」へ出力論理値COを反転させている。ラッチ回路38は、コンパレータ37の出力論理値COがCO(t1)と異なる値へ変化したことを検出し、3.546μsecの時点(t4)にPG出力を「1」、NG出力を「0」として、コンデンサC1の充放電を停止させている。時刻t4以降は、ラッチ回路38は次のラッチパルスが入力されるまで充放電停止状態を保ち続け、この間、既述したように時間平均するとコンデンサC1からの放電電荷量が、充電電荷量を上回るため、電位VBは緩慢に減少していく。このため3.727μsecの時点(t5)で再びVA<VBからVA>VBへ状態が遷移し、コンパレータ37の出力論理値COが「1」から「0」に反転している。
【0059】
図3は、図2と同じシミュレーションで観測したチャージポンプ回路31からの出力電流波形を、3.44〜3.55μsecの期間について示したものである。縦軸がチャージポンプの出力電流値を、横軸が時間を表す。出力電流値は正の値がソース電流に、負の値がシンク電流に対応する。50nsec周期で20nsecのパルス幅を持つソース電流パルスと、同じ周期で10nsecのパルス幅を持つシンク電流パルスとが出力され、シンク電流パルスはソース電流パルスに対して30nsec遅れて出力されている。ソース電流のパルスエッジにスパイク状グリッチが認められるが、緩慢なグリッチは殆ど生じておらず、40μAのソース電流パルスと−40μAのシンク電流パルスとが、ほぼ正確な大きさとパルス幅で出力されている。
【0060】
以上のように本実施形態によるグリッチ補償回路36を用いることで、DSCP回路の出力電流パルス中のグリッチを低減することができる。そして、このグリッチ補償回路36の構成ブロックの一つであるコンパレータ37は、一般的にオペアンプ回路中で用いられる位相補償用コンデンサを必要としないため、コンデンサを形成するためのダイ面積を省き、オペアンプ22よりも小面積の回路として実装することができる。
【0061】
更に従来のチャージポンプ回路21の内で特に大きな出力電流を持つものについては、グリッチ補償用オペアンプ22の出力段を強力なもの、即ち大きなダイ面積を占める回路として構成する必要がある。これに対してグリッチ補償回路36中のコンパレータ37は、出力のファンアウトが1以上であれば動作可能であるため、その出力バッファを高速且つ小面積なものとすることができる。
【0062】
また、グリッチ補償回路36にはコンパレータ37の他にラッチ回路38と充放電用スイッチングトランジスタQ9,Q10とコンデンサC1とが含まれる。コンデンサC1は一般の外付け部品として構成されるが、ラッチ回路38は仕様上許容される最小サイズのトランジスタを用いた小規模の高速論理回路として実装することが可能であり、このためコンパレータ37に比べてその占有ダイ面積はごく小さなものとなる。また、通常、トランジスタQ9,Q10を小さなダイ面積の素子としても、充分な大きさの充放電電流をコンデンサC1に与え、グリッチ補償回路36を問題なく動作させることができる。
【0063】
以上に述べた理由から、グリッチ補償回路36全体が占めるダイ面積を、図8に示したオペアンプ22を用いたグリッチ補償回路21のそれよりも小さなものとし、従来よりも低コストで集積回路上に実装することができる。
【0064】
一般的に、PLL回路はロックした状態で利用され、この時チャージポンプ回路から出力される電荷量は時間平均した時にほぼ零となる。PLLから狭帯域変調信号を出力させている場合でも同様であり、チャージポンプ回路の出力電圧は緩慢にしか変化しない。PLLがロック状態にある時の、図8に示したオペアンプ22を用いた従来のグリッチ補償回路の消費電力量を考えると、オペアンプ22は常時ON状態となっており、またオペランプ22はチャージポンプ回路21からの電流出力に逐次応答し、常にある程度の電流がオペアンプ22から出力されることになるため、オペアンプ22の静止状態での消費電力以上の電力が単位時間当りに消費されていることになる。
【0065】
一方、図1のチャージポンプ回路31を用いたPLLがロック状態にある時には、ループフィルタ4とコンデンサC1とに対して出力される電荷量が上述のように時間平均した時にほぼ零となるため、電位VAとVBとはほぼ一定値に保たれるようになる。グリッチ補償回路36は、ラッチパルス信号LATで指定される時間間隔で電位VBがVAと等しくなるように補正する動作を繰り返すが、ロック状態では理想的には補正動作を行う必要が殆ど無くなる。したがってロック状態にある時には、グリッチ補償回路36の補償機能が損なわれない範囲で、補正動作を行う時間間隔を長くすることができる。ロック状態において単位時間当りのグリッチ補償回路36の動作時間を短く、即ち停止時間を長くすることで、コンデンサC1に対する無駄な充放電を省き、グリッチ補償回路36の単位時間当りの消費電力を低減することができる。特にラッチパルス信号LATのパルス間隔を充分長くできる場合には、グリッチ補償回路36が停止状態の時に、コンパレータ37を待機状態として省エネルギー化を図ることができる。
【0066】
以上に述べた理由から、本発明によるチャージポンプ回路31を用いたPLLでは、特にロック状態において単位時間当りの消費電力を、従来の図8に示したチャージポンプ回路21を用いたPLLに比べて、大幅に削減することができる。
【0067】
PLLが非ロック状態にある時には電位VAが時間により顕著に変動するため、コンデンサC1の充放電による電位VBの補正の速度が充分速くない場合には、過渡的に、|VA−VB|が増大し、グリッチが生じることになる。ただし、PLLは通常ロック状態で使用されるため、時間が経過すると非ロック状態から定常状態、即ちロック状態への移行が起こり、電位VBの補正速度が遅い場合でも、|VA−VB|は零に向かって収束していく。このため、仕様によっては、非ロック状態におけるグリッチの発生を特に抑制する必要は無く、電位VBの補正速度を遅く設定しても問題とはならない。
【0068】
一方、電位VAの変動速度はチャージポンプ回路31の出力電流値とループフィルタ4との特性に依存する。電位VBの補正速度は、コンデンサC1の容量値Cbと充放電用トランジスタQ9,Q10のサイズとに依存し、電位VBが希望する速度で電位VAの変動を追従できるように、これらを適切な値に設定すればよい。
【0069】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るDSCPであるチャージポンプ回路41の回路図である。このチャージポンプ回路41は、前述のチャージポンプ回路31に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、本実施の形態のチャージポンプ回路41におけるグリッチ補償回路46では、コンデンサC1の充電用のPMOSトランジスタQ9に対して同じPMOSトランジスタQ11が、放電用のNMOSトランジスタQ10に対して同じNMOSトランジスタQ12がそれぞれ並列に接続され、さらにそれらのMOSトランジスタQ11,Q12のゲートにはスイッチS1,S2がそれぞれ接続されており、対応するMOSトランジスタQ9,Q10と同じ入力をゲートに与えるか、それぞれハイレベル及びローレベルの電源ライン33,34に接続して、OFF状態にするかを選択できるようになっていることである。これらのスイッチS1,S2は、図4に示されていない外部制御回路によって切換え制御され、MOSトランジスタQ9,Q11;Q10,Q12が同サイズのトランジスタであるとすると、グリッチ補償期間中の電位VBのスルーレートを、トランジスタQ9,Q10を充放電に用いて、ある値SVBとするか、トランジスタQ9,Q10及びQ11,Q12の両方を用いて、2SVBとするかを選択することを可能とする。
【0070】
ここで、出力電流値ICを段階的に切り替えられるようになっているDSCPについて本発明を適用しグリッチ補償を行うことを考える。前述のように電位VAの変動速度、及び誤差|VA−VB|は、チャージポンプ回路の出力電流値に比例して増大する。このため、ある定数に固定されたループフィルタ4及びコンデンサC1が用いられているPLLでは、チャージポンプ回路の出力電流値の増加に合わせて、コンデンサC1に対する充放電の電流値も増加させ、電位VBの補正速度を速めることが、特に非ロック状態においてチャージポンプ出力中のグリッチを抑制する必要がある場合に求められる。
【0071】
そこでこの図4の構成のグリッチ補償回路46を用いることで、例えばチャージポンプ回路41の出力電流値がIC或いは2ICに変更できるようになっている場合に、それに合わせて電位VBの補正速度をSVB或いは2SVBに切替え、適切な速度でグリッチ補償を行うことができるようになる。なお、図4のチャージポンプ回路41では、電位VBのスルーレートを2段階に切替えられる回路例を示したが、3段階以上に切替え段数を拡張することも容易である。
【0072】
(実施の形態3)
図5は、本発明の第3の実施形態に係るDSCPであるチャージポンプ回路51の回路図である。このチャージポンプ回路51は、前述のチャージポンプ回路31に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、本実施の形態のチャージポンプ回路51におけるグリッチ補償回路56は、所定の基準電位VTHを与える直流電源52と、コンパレータ37の非反転入力端に、節点PB或いは前記直流電源52の+端子を選択して接続するスイッチ53と、前記コンパレータ37の出力に接続される出力端子54とを備えて構成されることである。
【0073】
上述したように、特にPLLがロック状態にある時には、前記外部制御回路がラッチ回路38に印加するラッチパルス信号LATの周期を長くしても、問題なくグリッチ補償動作を行うことができる。そこで本実施形態では、前記周期が長い場合、すなわちグリッチ補償回路56が充放電を停止させているアイドル状態が長い場合には、この期間を利用して、コンパレータ37を他の目的に転用できるようにしている。具体的には、図5の構成では、該チャージポンプ回路51の出力電圧VAと基準電圧VTHを比較する必要がある場合に、これをグリッチ補償回路56のコンパレータ37の転用により行っている。前記スイッチ53の切換えは、前記外部制御回路からの制御信号により行われる。
【0074】
グリッチ補償回路56がアイドル期間に入った時点で、スイッチ53を切換えて、コンパレータ37の非反転入力端に基準電圧VTHが入力されるようにし、その後コンパレータの出力論理値COを、出力端子54から適切な論理回路によって読取ることで、チャージポンプ回路51の出力電圧VAと基準電圧VTHとの比較を行うことができる。その後、次回のグリッチ補償動作が始まる前に、再びスイッチ53を切換えて、コンパレータ37の非反転入力端子に電位VBが入力されるようにする。このような手順をラッチパルス信号LATの周期で繰返すことで、グリッチ補償動作と、チャージポンプ回路51の出力電圧レベルの判定とを、1個のコンパレータ37を用いて行うことができる。なお図5に示した以外に、コンパレータ37の反転入力端子にもスイッチを設けて入力信号を切換えられるようにしたり、3個以上の信号を切換えて入力できるようにするといった、様々な応用例が考えられる。
【0075】
このように構成することで、PLL回路が搭載されているチップ内において、他の目的のためにコンパレータを必要としているブロックがあれば、グリッチ補償回路56で使用されているコンパレータ37のアイドル期間を利用して、時分割で該コンパレータ37に異なった入力信号を与え、その比較結果を適時参照することで、前記他の目的のためのコンパレータを削除し、ダイ面積を節約し、低コスト化を図ることができる。
【0076】
なお上述した第1、第2、第3の実施形態では、コンパレータの入力端子にチャージポンプ出力端子35の電位VAと節点PBの電位VBとが与えられているが、PLLで用いられるループフィルタ4の形式によっては、ループフィルタ4内の適切な節点の電位VLPと、節点PBの電位VBとをコンパレータに入力するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 VCO
2 PLL IC
3 発振器
4 ループフィルタ
5 プリスケーラ
6,8 分周器
7 位相比較器
9,31,41,51 チャージポンプ回路
32,52 直流電源
33,34 電源ライン
35 出力端子
36,46,56 グリッチ補償回路
37 コンパレータ
38 ラッチ回路
39 入力端子
53 スイッチ
54 出力端子
C1 コンデンサ
Q1〜Q12 MOSトランジスタ
S1,S2 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流供給用の定電流源と、
電流吸入用の定電流源と、
第1及び第2のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、該第1及び第2のスイッチ素子の接続点が第1の出力端子となる主出力側電流路と、
第3及び第4のスイッチ素子が直列に前記2つの定電流源の間に設けられて成り、該第3及び第4のスイッチ素子の接続点が第2の出力端子となる副出力側電流路と、
グリッチ補償回路とを備え、
前記グリッチ補償回路は、
前記第1の出力端子の電位、又は前記第1の出力端子に接続されたループフィルタ中の指定された節点の電位と、前記第2の出力端子の電位とを比較するコンパレータと、
外部から任意に指定される第1の時点における前記コンパレータの出力を第1の出力値として記憶し、前記第1の出力値に従って、充電又は放電の命令を出力し、前記第1の時点以降における前記コンパレータの出力と前記第1の出力値とを逐次比較し、それらが同一の値ではなくなった第2の時点で、充放電の停止命令を発行するラッチ回路と、
前記第2の出力端子と接地点との間に接続されるコンデンサと、
前記ラッチ回路の出力に応答して、前記コンデンサを充放電させる充放電器とを含むことを特徴とするチャージポンプ回路。
【請求項2】
前記グリッチ補償回路において、
前記充放電器は、指定された正電圧を与える電源ラインと前記第2の出力端子との間に相互に並列に接続される複数の充電用スイッチと、接地ラインと前記第2の出力端子との間に相互に並列に接続される複数の放電用スイッチとを備え、
前記充放電器が、前記複数の充電用スイッチおよび放電用スイッチの内、少なくとも一部を、前記ラッチ回路から出力される充放電命令に従って制御するのか、又は開放状態とするのかを選択する回路を備えることを特徴とする請求項1記載のチャージポンプ回路。
【請求項3】
前記グリッチ補償回路は、
前記コンパレータの入力端子の一方又は両方に対して、それぞれ指定された別の入力信号を与えるか、又は前記請求項1に記載の電位を与えるかを選択するための回路と、前記コンパレータの出力を取り出す出力端子とをさらに備え、前記コンデンサの充放電が停止されている前記第2の時点以降の期間中に、前記コンパレータを他の目的に利用できるようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載のチャージポンプ回路。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載のチャージポンプ回路を用いることを特徴とするPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−49736(P2011−49736A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195294(P2009−195294)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】