説明

チューブポンプ及び液体噴射装置

【課題】 液体の蒸発を抑制しつつ、耐久性の高いチューブポンプ及び液体噴射装置を安価に提供する。
【解決手段】 チューブポンプは、可撓性材料よりなる排出チューブ27と、該排出チューブ27の中間部を内周壁に沿って収容するケースと、該ケース内において回動することにより、排出チューブ27の中間部を上流側から下流側へ順次押圧するローラとを備えている。そして、排出チューブ27を、シリコーンゴムよりなる第1の層40とシリコーン変性共重合体エラストマよりなる第2の層41とを少なくとも含む複数層から構成する。この場合、第1の層40と第2の層41とは一体に成型されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブポンプ及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに形成されたノズルから液体をターゲットに対して噴射する液体噴射装置の一つとしてインクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)がある。このプリンタでは、ノズルが記録ヘッドのノズル形成面において開口していることから、ノズル内のインク溶媒の蒸発によりインク粘度が上昇してインクの噴射不良が発生することがある。このため、こうしたプリンタには、通常ヘッドメンテナンス機構が設けられている。すなわち、このヘッドメンテナンス機構は、記録ヘッドのノズル形成面を覆うキャップと、該キャップに連通したインク排出路中に設けられる吸引ポンプとを備え、前記吸引ポンプによりキャップ内に負圧を発生させることで、ノズルから増粘したインクを吸引し、インクの噴射不良の回復を図っている。また、ターゲットに対してインクの噴射を行っていないときには、記録ヘッドのノズル形成面をキャップで封止することで、該キャップ内のインク吸収材に噴射されたインクが保湿成分となり、ノズル内のインクの増粘を抑制している。
【0003】
このような吸引ポンプには、通常、チューブポンプが用いられている。このチューブポンプは、有底円筒形状をなすケース内に、可撓性材料よりなるチューブと、該チューブを押圧可能なローラ(押圧手段)を支持した回転部材とを収容している。チューブは、ケースの内周壁に沿って、例えば半周、あるいは全周に渡って円弧状を描くように配設されている。そして、回転部材が所定方向に回転することにより、ローラがケースの内周壁と協働してチューブの一部を順次押圧しながらケースの内周壁に沿って移動する。この結果、チューブの押圧された部分が順次復元されることで、ケース内に収容された部分よりも上流側のチューブ内が減圧されてキャップ内が負圧状態となり、ノズルから粘度の上昇したインクが吸引される。
【0004】
このようなチューブを構成する材料としては、該チューブがローラによって押圧された後の復元力が高いシリコーンゴムが多用されている。ところが、シリコーンゴムは、水分透過性が高いため、特に上記インクとして顔料インクを用いた場合、該顔料インク中の水等のインク溶媒が蒸発することで、顔料が固化し、チューブ内が詰まり易かった。また、ノズル形成面をキャップで封止しているときには、該キャップが水分透過性の低い材質からなっているため、キャップからのインク溶媒の蒸発は抑えられるが、キャップに接続されたチューブからはインク溶媒が蒸発するため、キャップによる保湿能力が低下してノズル内のインクが増粘し、目詰まりを起こすことがあった。
【0005】
このため、従来は、シリコーンゴムよりなるチューブの表面を、シリコーンゴムよりも水分透過性の低い材料よりなる薄膜で被覆したチューブ(特許文献1)や、シリコーンゴムよりなるチューブの表面に、シリコーンゴムよりも水分透過性の低い材料よりなる塗布物を塗布して塗布層を形成したチューブ(特許文献2)が提案されている。
【特許文献1】特開2004−42573号公報
【特許文献2】特開2004−34525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の薄膜及び特許文献2の塗布層は、いずれも厚さが極めて薄い(50μm以下)ため、チューブがローラによって押圧される際に、これらの薄膜及び塗布層が破損したり剥がれたりするおそれがあり、耐久性が十分であるとは言い難かった。また、特許文献1及び特許文献2のチューブは、いずれもシリコーンチューブの成型後に、薄膜や塗布層の形成処理を必要とするため、製造工程が多くなり、製造コストが高いものとなっていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、液体の蒸発を抑制しつつ、耐久性の高いチューブポンプ及び液体噴射装置を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のチューブポンプは、可撓性材料よりなるチューブと、該チューブの長手方向に沿って移動しながら該チューブを順次押圧する押圧手段とを備え、前記チューブは、シリコーンゴムよりなる第1の層とシリコーン変性共重合体エラストマよりなる第2の層とを少なくとも含む複数層からなり、前記第1の層と前記第2の層とは一体に成型されてなる。
【0009】
この発明によれば、第1の層と第2の層とは、同じシリコーン系のエラストマであるため、第1の層と第2の層とを一体に成型することで、これらが化学的に強固に接合される。このため、チューブ、ひいてはチューブポンプの耐久性を高めることができる。また、前記チューブは、復元力が高いシリコーンゴムよりなる第1の層と水分透過性が比較的低いシリコーン変性共重合体エラストマよりなる第2の層とを備えているため、チューブの復元力を維持しつつ液体の蒸発を好適に抑制することができ、チューブ内の目詰まりを抑制することができる。
【0010】
本発明のチューブポンプは、前記チューブにおける前記第1の層と前記第2の層とが押し出し成型によって形成されている。
この発明によれば、複数層からなるチューブを同時に成型でき、ひいてはチューブポンプの製造が容易となる。
【0011】
本発明のチューブポンプは、前記チューブにおける前記第1の層の内側に前記第2の層が配置されている。
この発明によれば、外部からの物理的な衝撃から第2の層を第1の層によって保護することができる。
【0012】
本発明のチューブポンプは、前記チューブにおける前記第1の層の外側に前記第2の層が配置されている。
この発明によれば、チューブ内を流れる液体から第2の層を第1の層によって保護することができる。
【0013】
本発明のチューブポンプは、前記チューブにおける前記第1の層と前記第2の層とが、JIS K6253 A型で規定される硬度が同一である。
この発明によれば、例えばチューブを曲げる場合に、前記第1の層と前記第2の層とが互いに好適に追従し合って曲がるため、第1の層と第2の層との接合部にかかる負荷を抑制することができる。
【0014】
本発明のチューブポンプは、前記チューブにおける前記第1の層と前記第2の層とが、互いに色が異なる。
この発明によれば、第1の層及び第2の層のそれぞれの厚みの測定が容易となるため、製品の管理がしやすくなる。さらに他の種類のチューブと異なる色を用いることで、他の種類のチューブとの識別を色により目視で確実に行うことができる。
【0015】
本発明の液体噴射装置は、ターゲットに対して液体を噴射するノズルと、該ノズルを封止するキャップと、該キャップと連通した液体排出路中に設けられる請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載のチューブポンプとを備え、該チューブポンプにより前記キャップを介して前記ノズル内の液体を吸引する。
【0016】
この発明によれば、チューブ内の目詰まりを抑制することができるため、チューブポンプによりノズル内の液体を円滑に吸引することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化した実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ11は、フレーム12を備えており、該フレーム12には、プラテン13が架設されている。プラテン13上には、紙送りモータ14を有する紙送り機構によりターゲットとしての記録用紙Pが給送されるようになっている。また、フレーム12には、プラテン13の長手方向と平行に、棒状のガイド部材15が架設されている。
【0018】
ガイド部材15には、キャリッジ16が、該ガイド部材15の軸線方向に往復移動可能に挿通支持されている。キャリッジ16は、フレーム12に設けられたタイミングベルト17を介してキャリッジモータ18に連結されている。そして、キャリッジ16は、キャリッジモータ18の駆動により、ガイド部材15に沿って往復移動されるようになっている。
【0019】
キャリッジ16の下面には、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が搭載されている。記録ヘッド19の下面には、複数のノズル20が設けられている(図2参照)。キャリッジ16における記録ヘッド19の上側には、液体貯留手段としてのインクカートリッジ21が着脱可能に搭載されている。インクカートリッジ21内には、液体としての複数色のインクがそれぞれ記録ヘッド19に供給可能に収容されている。
【0020】
そして、記録ヘッド19に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ21から記録ヘッド19へと各インクが供給され、該各インクが各ノズル20からプラテン13上に給送された記録用紙Pにそれぞれ噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0021】
フレーム12内の右端部に位置する非印刷領域には、非印刷時に記録ヘッド19のノズル20を封止するためのキャッピング手段22と、チューブポンプ23(図2参照)とが設けられている。キャッピング手段22は、キャップ24と、該キャップ24を上下方向に移動させるための昇降装置(図示せず)とを備えている。そして、このキャッピング手段22は、キャリッジ16を非印刷領域に移動させた場合に、キャップ24を昇降装置により上昇させることで、図2に示すように、記録ヘッド19のノズル20(ノズル形成面)をキャップ24により封止するようになっている。
【0022】
図2に示すように、キャップ24は、有底四角箱状をなしており、該キャップ24の周壁の上面全体には、該上面全体と対応するように、可撓性材料からなる四角枠状のシール部材25が設けられている。キャップ24の底壁には、該キャップ24内のインクを排出する排出部26が下方に向かって突設されている。排出部26内には、排出通路26aが形成されている。また、キャップ24の内部には、吸収材37が配置されており、該吸収材37には、記録ヘッド19のノズル20から噴射されたり吸引されたりしたインクが蓄えられるようになっている。そして、インクを蓄えた吸収材37は、キャップ24によりノズル20(ノズル形成面)が封止された際に、キャップ24内を保湿することで、ノズル20からのインクの蒸発を抑制している。なお、キャップ24は、水分透過性の低い材質からなっており、キャップ24からはインク溶媒等が蒸発しないようになっている。
【0023】
排出部26には、可撓性材料よりなるチューブとしての排出チューブ27の一端部が接続されており、該排出チューブ27の他端部は、廃インクタンク28内に挿入されている。そして、キャップ24内と排出チューブ27内とは、排出通路26aを介して連通しており、キャップ24内、排出チューブ27及び排出通路26aにより液体排出路が構成されている。なお、廃インクタンク28内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材29が収容されており、この廃インク吸収材29により回収されたインクが吸収されるようになっている。
【0024】
ここで、キャップ24は、前述したように水分透過性の低い材質からなっているが、キャップ24に接続されている排出チューブ27の水分透過性が高いと、該排出チューブ27からインク溶媒等が蒸発する。このため、キャップ24内の保湿能力が低下したり、吸収材37の排出通路26aに近い部分で目詰まりが発生したり、さらには、ノズル20からもインク溶媒等が蒸発することとなってしまう。
【0025】
キャップ24と廃インクタンク28との間には、チューブポンプ23が配設されている。チューブポンプ23は、フレーム12に固定された円筒状のケース30を有しており、該ケース30内には平面視で円形状をなすポンプホイル32がケース30の軸心に設けられたホイル軸31を中心に回動可能に収容されている。そして、このケース30内に、排出チューブ27の中間部27aがケース30の内周壁30aに沿うようにして収容されている。
【0026】
ポンプホイル32には、一対の外側に膨らむ円弧状をなすローラ案内溝33,34がホイル軸31を挟んで対向するように形成されている。各ローラ案内溝33,34は、一端がポンプホイル32の外周側に位置しており、他端がポンプホイル32の内周側に位置している。すなわち、両ローラ案内溝33,34は、それらの一端から他端に向かうほど、徐々にポンプホイル32の外周部から遠ざかるように延びている。両ローラ案内溝33,34内には、押圧手段としての一対のローラ35,36が、それぞれ回動軸35a,36aを介して挿通支持されている。なお、両回動軸35a,36aは、それぞれ両ローラ案内溝33,34内を摺動自在になっている。
【0027】
そして、ポンプホイル32を、正方向(図2の矢印方向)に回動させると、両ローラ35,36が両ローラ案内溝33,34の一端側(ポンプホイル32の外周側)に移動し、排出チューブ27の中間部27aを上流側から下流側へ順次押し潰しながら(押圧しながら)回動するようになっている。この回動により、チューブポンプ23より上流側の排出チューブ27の内部が減圧されるようになっている。そして、各ノズル20(ノズル形成面)を封止したキャップ24の内部の空気やインクは、ポンプホイル32の正方向の回動動作により、徐々に廃インクタンク28方向へ排出されることで、キャップ24内に負圧が発生するようになっている。
【0028】
また、ポンプホイル32を逆方向(図2の矢印方向と反対方向)に回動させると、両ローラ35,36が両ローラ案内溝33,34の他端側(ポンプホイル32の内周側)に移動するようになっている。この移動により、両ローラ35,36がそれぞれ排出チューブ27の中間部27aに軽く接した状態となり、排出チューブ27の内部の減圧状態が解消されるようになっている。
【0029】
ここで、上記排出チューブ27を図3及び図4に基づいて詳述する。
図3及び図4に示すように、排出チューブ27は、シリコーンゴムよりなる第1の層40と、該第1の層40の外側に配置されたシリコーン変性共重合体エラストマよりなる第2の層41とから構成されている。この排出チューブ27は、第1の層40と第2の層41とが押し出し成型により一体に成型されたものである。なお、第1の層40と第2の層41とは、互いに色が異なっている。
【0030】
第1の層40を構成しているシリコーンゴムとしては、加熱硬化型ミラブルゴムであって、その架橋機構が有機過酸化物系架橋や付加反応系架橋等であるタイプのものが挙げられるが、加熱硬化型ミラブルゴムを付加反応架橋で架橋させるタイプのものを用いることが特に好ましい。また、このシリコーンゴムは、架橋後の硬度(JIS K6253 A型)が40〜70度、反発弾性(JIS K6255)が50〜80%、圧縮永久歪(JIS K6262 70度×25%圧縮試験)が20%以下であることが好ましい。
【0031】
この場合、架橋後の硬度が40度よりも小さい、あるいは反発弾性が50%よりも小さければ、押し潰された後の復元力が不足し、架橋後の硬度が70度よりも大きい、あるいは反発弾性が80%よりも大きければ、排出チューブ27を押し潰すために必要な押圧力が大きくなり、排出チューブ27を押し潰すことが困難となる。また、圧縮永久歪が20%よりも大きければ、チューブの押し潰しと復元とが繰り返し行われるチューブポンプのチューブに用いることには適さない。
【0032】
第2の層41を構成しているシリコーン変性共重合体エラストマとしては、シリコーン変性エチレンプロピレンゴムやシリコーン変性アクリルゴム等が挙げられるが、水分(インク溶媒)の透過性が低いシリコーン変性エチレンプロピレンゴムを用いることが好ましい。このシリコーン変性エチレンプロピレンゴムには、硬度調整用に充填剤として二酸化ケイ素パウダー、架橋剤及び必要に応じて着色のための顔料等が含まれている。
【0033】
なお、耐インク性としては、一般的に、シリコーン変性エチレンプロピレンゴムやシリコーン変性アクリルゴムよりもシリコーンゴムの方が高い。このため、排出チューブ27において、シリコーンゴムよりなる第1の層40を内側に配置することで、インクの組成が変わっても、排出チューブ27をそのまま使用できる可能性が高くなり、シリコーン変性共重合体エラストマよりなる第2の層41を内側に配置する場合に比べて、排出チューブ27の汎用性が高くなる。
【0034】
さて、記録ヘッド19内のインクを吸引するクリーニングを行う場合には、記録ヘッド19の各ノズル20(ノズル形成面)をキャップ24で封止し、該キャップ24に排出チューブ27を介して接続されたチューブポンプ23の駆動によりキャップ24内に負圧を発生させる。すると、この負圧により記録ヘッド19内のインクが吸引され、この吸引されたインクは、フレーム12の下端部に設置された廃インクタンク28に回収される。
【0035】
このとき、排出チューブ27は、第1の層40により十分な復元力が得られ、第2の層41により該排出チューブ27内の水分(インク溶媒)の蒸発が好適に抑制される。このため、排出チューブ27内の目詰まりが抑制され、チューブポンプ23によりノズル20内のインクが円滑に吸引される。
【0036】
以上、詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)第1の層40と第2の層41とは、いずれも同じシリコーン系のエラストマからなっているため、第1の層40と第2の層41とを一体に成型することで、これらを化学的に強固に接合することができる。このため、排出チューブ27、ひいてはチューブポンプ23の耐久性を高めることができる。また、排出チューブ27は、高い復元力を持つ第1の層40と水分(インク溶媒)の透過性が低い第2の層41とを備えているため、高い復元力を維持しつつ水分(インク溶媒)の蒸発を好適に抑制することができ、排出チューブ27内、キャップ24内、及びノズル20の目詰まりを抑制することができる。
【0037】
(2)第1の層40と第2の層41とが押し出し成型によって形成されているため、排出チューブ27、ひいてはチューブポンプ23の製造が容易となり、安価に製造できる。
(3)第1の層40の外側に第2の層41が配置されているため、排出チューブ27内を流れるインクから第2の層41を耐インク性の高い第1の層40によって好適に保護することができる。すなわち、インクによって第2の層41が冒されるおそれをなくすことができる。
【0038】
(4)第1の層40と第2の層41とは、互いに色が異なっているため、第1の層40及び第2の層41のそれぞれの厚みの測定を容易に行うことができ、製品の管理がしやすくなる。さらに、排出チューブ27を他の種類の排出チューブと異なる色に着色することで、他の種類の排出チューブとの識別を色により目視で確実に行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
シリコーンゴムコンパウンド100質量部(SE1185U/東レダウコーニング(株)製)に、硬化触媒0.4質量部(RD201/東レダウコーニング(株)製)、架橋剤0.4質量部(MR91/東レダウコーニング(株)製)、反応抑制剤0.8質量部(RD7/東レダウコーニング(株)製)及び白色顔料0.2質量部を、2本ロールで均一に分散混合して第1の層40を得た。
【0040】
この得られた第1の層40の特性を、厚さ2.0mmの加硫シートを作成して測定したところ、硬度(JIS K6253 A型)が60度、引張り強さ(JIS K6251)が8MPa、伸び率(JIS K6251)が330%、引裂き強さ(JIS K6252 アングル形)が22、圧縮永久歪(JIS K6262 70度×25%圧縮試験)が4.2%、反発弾性(JIS K6255)が60%であった。
【0041】
次に、シリコーン変性エチレンプロピレンゴム(SEP−X−890C−U/信越化学工業(株)製)に、可塑剤として粘度が700Pa・s(23℃)のイソブチレンポリマー10質量部を、2本のロールで均一に混合分散してベースを得た。
【0042】
この得られたベースに、マレイン酸ジメチル0.05質量部、遅延剤、硬化剤(A)1質量部(SH1107/東レダウコーニング(株)製)、硬化剤(B)0.5質量部(X−93−1410A/信越化学工業(株)製)、触媒0.05質量部(SRX212/東レダウコーニング(株)製)を混合して2本ロールで練り、第2の層41を得た。
【0043】
この得られた第2の層41の特性を、厚さ2.0mmの加硫シートを作成して測定したところ、硬度(JIS K6253 A型)が53度、引張り強さ(JIS K6251)が3.8MPa、伸び率(JIS K6251)が220%であった。
【0044】
次に2色押し出し成型装置を用いて、第1の層40の外側に第2の層41が配置されるように、第1の層40と第2の層41とを一体に成型し、内径2.6mm、外径4.6mm、肉厚1.0mmの排出チューブ27を作製した。このとき、第1の層40の厚みを0.8mmとし、第2の層41の厚みを0.2mmとした総厚み1.0mmの排出チューブ27を実施例1とした。
【0045】
(比較例1)
厚みが1.0mmの第1の層40のみからなるようにチューブを作製した以外は実施例1と同様にし、これを比較例1とした。
【0046】
(比較例2)
厚みが1.0mmの第2の層41のみからなるようにチューブを作製した以外は実施例1と同様にし、これを比較例2とした。
【0047】
(比較例3)
従来から使用されているブチルゴムチューブを比較例3とした。
ここで、チューブにしたときの厚みの精度は、±0.05mmとした。これは単に比較評価の精度を向上させるためだけではなく、通常の使用時においてチューブ肉厚のばらつきによるポンプ負荷のばらつきの増大を抑制するためでもある。このため、実施例1では、第1の層40及び第2の層41の双方の厚みを正確に成型する必要があり、排出チューブ27の厚みの測定を容易に行えるよう、第1の層40と第2の層41との厚みを異なるようにすることが望ましい。このようにすれば、チューブポンプ23の組み立て時において、シリコーンゴムのみよりなるチューブを誤って組み込んでしまうのを防止できる。
【0048】
上記実施例1及び比較例1〜3について、硬さ、切断時伸び率、切断時引っ張り強度及び100%応力をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

次に、上記実施例1及び比較例1〜3のチューブをそれぞれ255mmに切断し、それぞれの一方端から10mmの部分をバインダークリップ(No155/ライオン事務器製)で封止した後、それぞれのチューブ内に気泡が混入しないように蒸留水を入れた。引き続き、それぞれのチューブの他方端から10mmの部分を同じくバインダークリップで封止した後、それぞれの試料全体の重量を測定し、これらの重量をW1とした。
【0050】
続いて、重量(W1)を測定したそれぞれの試料を40℃の恒温オーブンで60時間加温した後、それぞれの試料全体の重量を測定し、これらの重量をW2とした。そして、それぞれの試料について、(W1−W2)/100の計算式で求められる水蒸発率を算出した。結果を表2に示す。
【0051】
次に、上記実施例1及び比較例1〜3のチューブ50をそれぞれ50mmに切断し、これらを図5に示すように、厚みが5.0mmで幅が20mmの一対の鉄板51により、厚みが1.28mmの一対のスペーサ52とともに挟んで圧縮保持した。すなわち、各チューブ50を、それぞれ厚みが1.28mmになるように圧縮保持した。この状態で、各チューブ50に対して、マイナス20℃を1時間→プラス60℃を1時間の合計2時間を1サイクルとして繰り返し36サイクル(72時間)の熱ストレスをそれぞれ与えた後、各チューブ50の永久変形度をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

(考察)
表1の結果より、実施例1は、機械的な強度について、比較例1〜3に劣るものではないことが示された。また、表2の結果より、低い水蒸発率(高い目詰まり抑制性能)と低い永久変形度(高い復元性能)との双方の特性が良好であるものは、実施例1のみである。また、比較例1〜3は、低い水蒸発率及び低い永久変形度のうちいずれか一方のみの特性が良好であるだけで、他方の特性は良好ではない。
【0053】
したがって、チューブポンプ23に用いるチューブとしては、目詰まりの抑制性能(水蒸発率が低いほど良い)及び復元性能(永久変形度が低いほど良い)の観点から判断すると、実施例1のものが好適であるということが示された。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0054】
・排出チューブ27は、第1の層40の内側に第2の層41が配置されるように構成してもよい。このようにすれば、外部からの物理的な衝撃等から第2の層41を第1の層40によって保護することができる。また、第2の層41が第1の層40よりも摩擦が大きい場合には、チューブポンプ23の回転時の負荷を低減できる。
【0055】
・第1の層40と第2の層41とのJIS K6253 A型で規定される硬度を同一にしてもよい。このようにすれば、排出チューブ27を曲げる場合に、第1の層40と第2の層41とが互いに好適に追従し合って曲がるため、第1の層40と第2の層41との接合部にかかる負荷を抑制することができる。
【0056】
・排出チューブ27は、第1の層40と第2の層41とが一体に成型された層を含んでさえいれば、3層以上をなすように構成してもよい。
・チューブポンプ23において、押圧手段としてのローラを1つ、あるいは3つ以上としてもよい。
【0057】
・チューブポンプ23は、インクジェット式プリンタ11以外の用途に用いるようにしてもよい。
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンタ11として具体化したが、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造や、有機ELディスプレイ等の画素形成に利用される液体噴射装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンタの斜視図。
【図2】図1の要部簡略断面図。
【図3】実施形態の排出チューブの斜視図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】(a)、(b)はともに、実施例の試験方法を示す断面図。
【符号の説明】
【0059】
11…液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ、23…チューブポンプ、24…キャップ、20…ノズル、26a…液体排出路を構成する排出通路、27…液体排出路を構成するチューブとしての排出チューブ、27a…排出チューブの中間部、30…ケース、30a…ケースの内周壁、35,36…押圧手段としてのローラ、40…第1の層、41…第2の層、P…ターゲットとしての記録用紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性材料よりなるチューブと、該チューブの長手方向に沿って移動しながら該チューブを順次押圧する押圧手段とを備えたチューブポンプにおいて、
前記チューブは、シリコーンゴムよりなる第1の層とシリコーン変性共重合体エラストマよりなる第2の層とを少なくとも含む複数層からなり、前記第1の層と前記第2の層とは一体に成型されてなることを特徴とするチューブポンプ。
【請求項2】
前記第1の層と前記第2の層とが押し出し成型によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチューブポンプ。
【請求項3】
前記第1の層の内側に前記第2の層が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチューブポンプ。
【請求項4】
前記第1の層の外側に前記第2の層が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチューブポンプ。
【請求項5】
前記第1の層と前記第2の層とは、JIS K6253 A型で規定される硬度が同一であることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のチューブポンプ。
【請求項6】
前記第1の層と前記第2の層とは、互いに色が異なることを特徴とする請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載のチューブポンプ。
【請求項7】
ターゲットに対して液体を噴射するノズルと、該ノズルを封止するキャップと、該キャップと連通した液体排出路中に設けられる請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載のチューブポンプとを備え、該チューブポンプにより前記キャップを介して前記ノズル内の液体を吸引することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−224532(P2006−224532A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42593(P2005−42593)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000237422)富士高分子工業株式会社 (15)
【出願人】(000139573)株式会社愛洋産業 (23)
【Fターム(参考)】