説明

ツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法

【課題】成形が難しい延伸PET若しくはPPSシートを用いる場合であっても、薄肉で高アスペクト比を可能としたツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】真空ボックス12のパンチ15・真空側ブロック16と、圧空ボックス13の圧空側ブロック17との間に、加熱で軟化させた樹脂シート1´を搬入する。ついで、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、ブロック16,17で挟み付けながら、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、パンチ15で圧空側ブロック17の穴17a内に押し込みつつ、ボックス12,13の開口部12b,13bを閉じる。その後、真空ボックス12内を真空に、圧空ボックス13内を圧空にした状態で、ツバ付きコップ状の樹脂成形品1を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷蔵庫等の家庭用電気機器の外装筐体を加飾する目的から、真空・圧空成形法によって無延伸PETシートを被覆するものがある(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、無延伸PETシートよりも成形が難しい延伸PET若しくはPPSシートを用いて、例えば図6(a)に示すようなツバ部1bを有するコップ状の樹脂成形品1を成形したいという要望がある。この樹脂成形品1は、コップ部1aの厚みt3が0.5mm以下の薄肉で、コップ部1aの深さHと直径Dとのアスペクト比(H/D)は0.5以上の高アスペクト比(深絞り)が要望されている。
【0004】
このような樹脂成形品1は、例えば図7に示すような小型水流ポンプ2のロータ(永久磁石)3とステータ(コイル)4とを水密に分離する分離体としての用途がある。
【0005】
すなわち、ケーシング5内に固定部材6を介してリング状のステータ4が固定され、このステータ4の中心穴4aに分離体(樹脂成形品)1のコップ部1aが挿通され、ツバ部1bは、ステータ4のポンプ室7側の面に水密に接着されている。ポンプ室7に配置される駆動軸8は、一端8aがコップ部1aの底部1cの凹部1dを介して固定部材6の凹部6aで支持され、他端8bがケーシング5の軸受穴5aで支持されて、駆動軸8にロータ3と羽根車9が固定されている。
【0006】
そして、ステータ4に電流を印加することでロータ3が回転し、駆動軸8を介して羽根車9が回転することで、矢印のような水流が発生してポンプ作用が行われるようになる。
【0007】
このような小型水流ポンプ2においては、ロータ3とステータ4との間のギャップgを小さくするほど(例えば0.3〜0.5mm)、ポンプ効率が向上することから、コップ部1aの厚みtが0.5mm以下で、ロータ3が入るコップ部1aのアスペクト比(H/D)が0.5以上の高アスペクト比が要望されるのである。
【特許文献1】特開2003−127216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のような薄肉の樹脂成形品1は、従来の射出成形法では不可能で、従来の真空圧空成形法であっても、特に延伸PET若しくはPPSシートを用いて、前述のような薄肉で高アスペクト比にすることは困難であった。
【0009】
本発明は、前記問題を解消するためになされたもので、成形が難しい延伸PET若しくはPPSシートを用いる場合であっても、薄肉で高アスペクト比を可能としたツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の第1の手段は、樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けながら、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明の第2の手段は、樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、圧空ボックスと真空ボックスの開口部を閉じ、各周縁部で樹脂シートを挟み付け、圧空側ブロックで樹脂シートをパンチ方向にやや押圧した状態で、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けながら、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明の第3の手段は、樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを独立して駆動できるように支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けた後に、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にすることで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【0013】
本発明の第4の手段は、樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、圧空ボックスと真空ボックスの開口部を閉じ、各周縁部で樹脂シートを挟み付け、パンチで樹脂シートを圧空側ブロック方向にやや押圧した状態で、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けながら、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にすることで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【0014】
請求項5のように、請求項1〜4のいずれか一項に記載のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法において、前記圧空ボックス内に収容される圧空側ブロックと真空ボックス内に収容される真空側ブロックとの少なくとも一方は、弾性部材を介して各ボックスにより支持されていることが好ましい。
【0015】
請求項6のように、請求項1〜5のいずれか一項に記載のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法において、前記真空側ブロックと圧空側ブロックの樹脂シートの挟み付け部分に潤滑膜が形成されていることが好ましい。
【0016】
請求項7のように、請求項1〜6のいずれか一項に記載のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂成形品は、小型水流ポンプ用のロータとステータとを分離する分離体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1によれば、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとの駆動で両面から挟み付けるから、ツバ部のシワが抑制されるようになる。また、コップ部に相当する樹脂シートの部分は、パンチで引き延ばしながら、真空・圧空によって、パンチの外形状に沿うように成形されるから、成形が難しい延伸PETシート等を用いる場合であっても、薄肉で高アスペクト比に成形することが可能になる。
【0018】
本発明の請求項2によれば、請求項1の効果に加えて、以下の効果がある。すなわち、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込む前に、樹脂シートの周縁部を両ボックスのフランジ部で挟み付けている。この状態では、樹脂シートは、圧空側ブロックでパンチ方向にやや押圧された状態、つまり、樹脂シートは、弛み無く張られた状態となる。したがって、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとの駆動で両面から挟み付ける前に、圧空側ブロックで弛み無く張るから、ツバ部のシワがより抑制されるようになる。
【0019】
本発明の請求項3によれば、請求項1の効果に加えて、以下の効果がある。すなわち、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込む前に、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けている。その後に、コップ部に相当する樹脂シートの部分をパンチで成形するから、ツバ部のシワがより抑制されるようになる。
【0020】
本発明の請求項4によれば、請求項1の効果に加えて、以下の効果がある。すなわち、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで完全に挟み付ける前に、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込むようになる。したがって、より高アスペクト比に成形することが可能になる。また、樹脂成形品のコップ部の側面と底面との間のコーナーに発生するアール値を低減することができる。
【0021】
請求項5によれば、圧空側ブロック(若しくは真空側ブロック)は、弾性部材を介してボックスにより変位可能に弾性的に支持している。これにより、真空側ブロック(若しくは圧空側ブロック)の傾きに倣うように、圧空側ブロック(若しくは真空側ブロック)が傾くことができ、弾性部材の弾性力と相俟って、圧空側ブロック(若しくは真空側ブロック)の面圧をツバ部に相当する樹脂シートの部分に均一に加えることができる。
【0022】
請求項6によれば、真空側ブロックと圧空側ブロックの樹脂シートの挟み付け部分に潤滑膜を形成することにより、パンチや各ブロックが樹脂シートと接触する面の滑り性が増すようになる。したがって、成形が難しい延伸PETシート等を用いる場合であっても、厚さの均一度が高い、薄肉で高アスペクト比に成形することが可能になる。また、滑り性が増すことで、樹脂成形品のツバ部にシワを発生させることなく、高アスペクト比のコップ部を成形することが可能となる。
【0023】
請求項7によれば、ロータとステータとの間のギャップを小さくするほど(例えば0.3〜0.5mm)、ポンプ効率が向上する。したがって、各請求項の方法で製造されたツバ付きコップ状の樹脂成形品であれば、コップ部の厚みが0.5mm以下で、ロータが入るコップ部のアスペクト比が0.5以上の高アスペクト比が可能となる。そのために、ロータとステータとを分離する分離体として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、背景技術と同一構成・作用の箇所は、同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0025】
図1は、第1実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法である。上向きの開口部12bを有する真空ボックス12と下向きの開口部13bを有する圧空ボックス13とが、開口部12b,13bが対向するように配置されている。真空ボックス12と圧空ボックス13は、開口部12b,13b同士が開閉できるように、図1において、上下方向に駆動されるようになる。
【0026】
真空ボックス12の開口部12bの周縁部には、外向きのフランジ部12aが形成されるとともに、圧空ボックス13の開口部13bの周縁部には、外向きのフランジ部13aが形成されている。
【0027】
真空ボックス12の底部12dには真空用引き穴12cが形成されるとともに、圧空ボックス13の頂部13dには圧空用穴13cが形成されている。
【0028】
真空ボックス12内には、樹脂成形品1のコップ部1aの内面1e〔図6(a)参照〕を成形する軸状のパンチ15と、このパンチ15を中心穴16aで固定状態に支持するとともに、樹脂成形品1のツバ部1bの内面1eに接触可能な真空側ブロック16とが収容されている。この真空側ブロック16の中心穴16aの外周囲には、図5(a)(b)に示すように、真空用引き穴16bが上下方向に貫通して形成されている。なお、パンチ15の中心部にも真空用引き穴15aが上下方向に貫通して形成されている。
【0029】
真空側ブロック16は、真空ボックス12とは独立して上下方向に駆動されるようになる。
【0030】
圧空ボックス13内には、パンチ15よりも大径の中心穴17aを有し、樹脂成形品1のツバ部1bの外面1f〔図6(a)参照〕に接触可能な圧空側ブロック17が収容されている。この圧空側ブロック17の中心穴17aに対して、図5(b)に示すように、円周上等角度間隔で複数個(本例では、90度間隔で4個)の圧空用穴17cが左右方向に貫通して形成されている。
【0031】
圧空側ブロック17は、圧空ボックス13の頂部13dに固定されたばね部材(弾性部材)18を介して圧空ボックス13により変位可能に弾性的に支持されている。
【0032】
第1実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法を図1に基づいて説明する。図1(a)のように、真空ボックス12のパンチ15・真空側ブロック16と、圧空ボックス13の圧空側ブロック17との間に、予備加熱した樹脂シート(本例では、厚さ0.35mmのPETフィルム)1´を搬入する。樹脂シート1´がロール状の場合は、両ボックス12,13のフランジ部12a,13aに対応するサイズに切断する。必要に応じて樹脂シート1´を搬入前の予備加熱温度である軟化温度(例えば120℃)まで均一に加熱する。
【0033】
ついで、図1(b)(c)のように、真空ボックス12の外向きのフランジ部12aと圧空ボックス13の外向きのフランジ部13aとで樹脂シート1´の周縁部を挟み付けるまで、真空ボックス12を上方に駆動し、圧空ボックス13を下方に駆動させる。
【0034】
このとき、図1(b)のように、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで挟み付けながら、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、パンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込む。
【0035】
この挟み付けと押し込みを行いつつ、図1(c)のように、真空ボックス12の外向きのフランジ部12aと圧空ボックス13の外向きのフランジ部13aとで樹脂シート1´の周縁部が挟み付けられることで、真空ボックス12と圧空ボックス13の開口部12b,13bが閉じられるようになる。
【0036】
その後、真空ボックス内を真空(例えば100Pa以下に真空排気)に、圧空ボックス内を圧空(例えば1MPaの圧縮エアー導入)にした状態で、数秒間(例えば2〜3秒)放置する。
【0037】
この真空・圧空作用によって、樹脂成形品1のコップ部1aに相当する部分がパンチ15で引き延ばされながら、パンチ15の外形状に沿うように成形されるようになる。その後、両ボックス12,13を開いて、パンチ15・真空側ブロック16と圧空側ブロック17との間から、成形された樹脂シート1´を取り出し、必要に応じてツバ部1bに相当する部分を適当なサイズに加工することで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品1が完成するようになる。
【0038】
因みに、厚さ0.35mmのPETフィルムを用い、パンチ15の直径が34.5mm、高さが35mmとし、中心穴17aの直径が39mmとした場合の実際の樹脂成形品1は、図6(a)のように、ツバ部1bの厚さt1が0.336mm、コップ部1aの深さHが35mm、内径Dが34.20mm、底面厚さt2が0.188mm、側面厚さt3が0.14〜0.32mmとなったことを確認した。なお、アスペクト比(H/D)は0.5以上である。
【0039】
第1実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法であれば、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17との駆動で両面から挟み付けるから、ツバ部1bのシワが抑制されるようになる。
【0040】
また、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分は、パンチ15で引き延ばしながら、真空・圧空によって、パンチ15の外形状に沿うように成形される。したがって、成形が難しい延伸PETシート等を用いる場合であっても、薄肉(0.5mm以下)で高アスペクト比(0.5以上)に成形することが可能になる。さらに、コップ部1aの側壁は、通常、無延伸PETシート等を用いても7度程度の勾配となるが、延伸PETシート等を用いる場合であっても、1度程度の勾配に押さえることが可能になる。さらに、圧空ボックス13を一旦真空に排気する必要が無いので、タクトタイムの短縮にも効果がある。
【0041】
図2は、第2実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法である。製造装置としての構成は、図1の第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0042】
図2(a)のように、真空ボックス12のパンチ15・真空側ブロック16と、圧空ボックス13の圧空側ブロック17との間に、樹脂シート(本例では、厚さ0.15mmのPPSフィルム)1´を搬入する。必要に応じて樹脂シート1´を搬入前の予備加熱温度である軟化温度(例えば225℃)まで均一に加熱する。
【0043】
ついで、図2(b)のように、真空ボックス12の外向きのフランジ部12aと圧空ボックス13の外向きのフランジ部13aとで樹脂シート1´の周縁部を挟み付けるまで、真空ボックス12を上方に駆動し、圧空ボックス13を下方に駆動させる。これにより、真空ボックス12と圧空ボックス13の開口部12b,13bが閉じられるようになる。
【0044】
このとき、両ボックス12,13のフランジ部12a,13aで周縁部を挟み付けられた樹脂シート1´は、圧空側ブロック17でパンチ15方向にやや押圧された状態となる。
【0045】
その後、数秒間(例えば2〜3秒)遅らせて、図2(c)のように、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで挟み付けながら、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、パンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込む。
【0046】
その後は、第1実施形態と同様に、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で数秒間放置し、両ボックス12,13から取り出した樹脂シート1´のツバ部1bを加工することで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品1が完成するようになる。
【0047】
因みに、厚さ0.15mmのPPSフィルムを用い、パンチ15の直径が34.5mm、高さが35mmとし、中心穴17aの直径が39mmとした場合の実際の樹脂成形品1は、図6(a)のように、ツバ部1bの厚さt1が0.105mm、コップ部1aの深さHが35mm、内径Dが34.28mm、底面厚さt2が0.082mm、側面厚さt3が0.065〜0.098mmとなったことを確認した。なお、アスペクト比(H/D)は0.5以上である。
【0048】
第2実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法であれば、第1実施形態の効果に加えて、以下の効果がある。すなわち、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、パンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込む前に、樹脂シート1´の周縁部を両ボックス12,13のフランジ部12a,13aで挟み付けている。この状態では、樹脂シート1´は、圧空側ブロック17でパンチ15方向にやや押圧された状態、つまり、樹脂シート1´は、伸びない程度に弛み無く張られた状態となる。
【0049】
したがって、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17との駆動で両面から挟み付ける前に、圧空側ブロック17で弛み無く張るから、ツバ部1bのシワがより抑制されるようになる。
【0050】
図3は、第3実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法である。製造装置としての構成は、図1の第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。なお、相違する点は、パンチ15は、真空側ブロック16の中心穴16aで独立して駆動できるように支持されていることである。
【0051】
図3(a)のように、真空ボックス12のパンチ15・真空側ブロック16と、圧空ボックス13の圧空側ブロック17との間に、樹脂シート(本例では、厚さ0.15mmのPPSフィルム)1´を搬入する。必要に応じて樹脂シート1´を搬入前の予備加熱温度である軟化温度(例えば225℃)まで均一に加熱する。
【0052】
ついで、図3(b)のように、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで挟み付ける。
【0053】
その後、数秒間(例えば2〜3秒)遅らせて、図3(c)のように、真空ボックス12の外向きのフランジ部12aと圧空ボックス13の外向きのフランジ部13aとで樹脂シート1´の周縁部を挟み付けるまで、真空ボックス12を上方に駆動し、圧空ボックス13を下方に駆動させる。
【0054】
このとき、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16とは独立して駆動されるパンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込む。
【0055】
その後は、第1実施形態と同様に、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で数秒間放置し、両ボックス12,13から取り出した樹脂シート1´のツバ部1bを加工することで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品1が完成するようになる。
【0056】
第3実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法であれば、第1実施形態の効果に加えて、以下の効果がある。すなわち、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、パンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込む前に、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで挟み付けている。
【0057】
したがって、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで挟み付けた後に、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分をパンチ15で成形するから、ツバ部1bのシワがより抑制されるようになる。
【0058】
図4は、第4実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法である。製造装置としての構成は、図1の第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0059】
図4(a)のように、真空ボックス12のパンチ15・真空側ブロック16と、圧空ボックス13の圧空側ブロック17との間に、樹脂シート(本例では、厚さ0.15mmのPPSフィルム)1´を搬入する。必要に応じて樹脂シート1´を搬入前の予備加熱温度である軟化温度(例えば225℃)まで均一に加熱する。
【0060】
ついで、図4(b)のように、真空ボックス12の外向きのフランジ部12aと圧空ボックス13の外向きのフランジ部13aとで樹脂シート1´の周縁部を挟み付けるまで、真空ボックス12を上方に駆動し、圧空ボックス13を下方に駆動させる。これにより、真空ボックス12と圧空ボックス13の開口部12b,13bが閉じられるようになる。
【0061】
このとき、両ボックス12,13のフランジ部12a,13aで周縁部を挟み付けられた樹脂シート1´は、真空側ブロック16のパンチ15で圧空側ブロック方向にやや押圧された状態となる。
【0062】
その後、数秒間(例えば2〜3秒)遅らせて、図4(c)のように、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分をパンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込みながら、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで挟み付ける。
【0063】
その後は、第1実施形態と同様に、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で数秒間放置し、両ボックス12,13から取り出した樹脂シート1´のツバ部1bを加工することで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品1が完成するようになる。
【0064】
第4実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品1の製造方法であれば、第1実施形態の効果に加えて、以下の効果がある。すなわち、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を、真空側ブロック16と圧空側ブロック17とで完全に挟み付ける前に、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を、パンチ15で圧空側ブロック17の中心穴17a内に押し込むようになる。このように、ツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分を挟み付ける前に、コップ部1aに相当する樹脂シート1´の部分を押し込むから、樹脂シート1´に余裕が生じて、凹凸形状とも転写し易くなる。したがって、より高アスペクト比(0.5以上)に成形することが可能になる。また、樹脂成形品1のコップ部1aの側面と底面との間のコーナーに発生するアール値を低減することができる。
【0065】
前記各実施形態において、圧空側ブロック17は、ばね部材(弾性部材)18を介して圧空ボックス13により変位可能に弾性的に支持されている。
【0066】
これにより、真空側ブロック16の傾きに倣うように、圧空側ブロック17が傾くことができ、ばね部材18の弾性力と相俟って、圧空側ブロック17の面圧をツバ部1bに相当する樹脂シート1´の部分に均一に加えることができる。
【0067】
なお、真空側ブロック16をばね部材(弾性部材)18を介して真空ボックス12により変位可能に弾性的に支持することも可能である。
【0068】
前記各実施形態において、真空側ブロック16と圧空側ブロック17の樹脂シート1´の挟み付け部分に潤滑膜を形成することができる。例えば、MoS等の固定潤滑膜あるいは液状潤滑剤を塗布する。これにより、パンチ15や各ブロック16,17が樹脂シート1´と接触する面の滑り性が増すので、成形が難しい延伸PETシート等を用いる場合であっても、厚さの均一度が高い、薄肉で高アスペクト比に成形することが可能になる。また、滑り性が増すことで、樹脂成形品1のツバ部1bにシワを発生させることなく、高アスペクト比のコップ部1aを成形することが可能となる。
【0069】
前記各実施形態において製造されたツバ付きコップ状の樹脂成形品1であれば、図7の小型水流ポンプ2用のロータ3とステータ4とを分離する分離体として好適に用いることができる。その場合には、図6(b)に示すように、樹脂成形品1のコップ部1aの底部1cに、駆動軸8の一端8aを支持するための凹部1dを形成すれば良い。
【0070】
すなわち、ロータ3とステータ4との間のギャップgを小さくするほど(例えば0.3〜0.5mm)、ポンプ効率が向上することから、コップ部1aの厚みt3〔図6(a)参照〕が0.5mm以下で、ロータ3が入るコップ部1aのアスペクト比(H/D…図6(a)参照)が0.5以上の高アスペクト比が可能だからである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法の工程図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の第2実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法の工程図である。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の第3実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法の工程図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の第4実施形態のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法の工程図である。
【図5】(a)は真空側ブロックの平面図、(b)は真空側ブロックの断面図、(c)は圧空側ブロックの平面図である。
【図6】(a)はツバ付きコップ状の樹脂成形品の断面図、(b)は小型水流ポンプ用分離体の断面図である。
【図7】小型水流ポンプの断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 樹脂成形品
1a コップ部
1b ツバ部
1´ 樹脂シート
12 真空ボックス
12a フランジ部
12b 開口部
13 圧空ボックス
13a フランジ部
13b 開口部
15 パンチ
16 真空側ブロック
17 圧空側ブロック
17a 中心穴(穴)
18 ばね部材(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、
開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、
前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、
前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、
真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、
ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けながら、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、
開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、
前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、
前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、
真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、
圧空ボックスと真空ボックスの開口部を閉じ、各周縁部で樹脂シートを挟み付け、圧空側ブロックで樹脂シートをパンチ方向にやや押圧した状態で、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けながら、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にした状態で、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、
開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、
前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを独立して駆動できるように支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、
前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、
真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、
ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けた後に、
コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にすることで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
樹脂シートからツバ付きコップ状の樹脂成形品を真空圧空成形で製造する方法であって、
開口部同士が開閉できるようにそれぞれ駆動される真空ボックスと圧空ボックスとが配置され、
前記真空ボックス内には、樹脂成形品のコップ部の内面を成形するパンチと、このパンチを支持するとともに、樹脂成形品のツバ部の内面に接触可能な真空側ブロックとが収容され、
前記圧空ボックス内には、前記パンチよりも大径の穴を有し、樹脂成形品のツバ部の外面に接触可能な圧空側ブロックが収容されていて、
真空ボックスのパンチ・真空側ブロックと、圧空ボックスの圧空側ブロックとの間に、加熱で軟化させた樹脂シートを搬入して、
圧空ボックスと真空ボックスの開口部を閉じ、各周縁部で樹脂シートを挟み付け、パンチで樹脂シートを圧空側ブロック方向にやや押圧した状態で、ツバ部に相当する樹脂シートの部分を、真空側ブロックと圧空側ブロックとで挟み付けながら、コップ部に相当する樹脂シートの部分を、パンチで圧空側ブロックの穴内に押し込みつつ、真空ボックスと圧空ボックスの開口部を閉じて、真空ボックス内を真空に、圧空ボックス内を圧空にすることで、ツバ付きコップ状の樹脂成形品を成形することを特徴とするツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記圧空ボックス内に収容される圧空側ブロックと真空ボックス内に収容される真空側ブロックとの少なくとも一方は、弾性部材を介して各ボックスにより支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記真空側ブロックと圧空側ブロックの樹脂シートの挟み付け部分に潤滑膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂成形品は、小型水流ポンプ用のロータとステータとを分離する分離体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のツバ付きコップ状の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−233959(P2009−233959A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81442(P2008−81442)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】