説明

テラヘルツ波応答測定装置

【課題】従来のラピッドスキャン方式では光路長を等速走査しない場合に測定データの補間処理が必要なため精度が低下するとともに測定時間も掛かる。
【解決手段】レーザ光源1から送信部(テラヘルツ光源)9までの光路の光路長を変化させる光路長走査部6にレーザ干渉計8を付設し、一定変位間隔毎にパルス信号15を発生させるとともに移動方向を示す極性信号16を発生する。両信号15、16は遅延部17、18において受信部12のアナログ電気回路での時間遅れの分だけ遅延されることでタイミングが合わされる。サンプル/ホールド回路20は受信部12の検出信号をパルス信号15’に同期してサンプリングし、A/D変換部21でデジタル値に変換する。これにより、正確に一定変位間隔ΔL毎の測定データが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ(THz)波を用いた分光分析装置や透視装置などに利用可能なテラヘルツ波応答測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、テラヘルツ波を利用した分析方法として、1p秒未満のパルス幅と数十MHzの繰り返し周波数を持ついわゆるフェムト秒レーザを用いたテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)が広く知られており(特許文献1、非特許文献1、2など参照)、さらに、この方法を利用した装置も既に製品化されている(非特許文献4など参照)。また、フェムト秒レーザ光源は高価であることから、主に低コスト化を狙って、テラヘルツ波を発生するためにフェムト秒レーザではなくマルチモードレーザを使用してテラヘルツ時間領域分光法と同様の分析を行うような試みも行われている(非特許文献3など参照)。以下、説明の便宜上、テラヘルツ時間領域分光法を利用した装置について説明する。
【0003】
図4及び図5はそれぞれテラヘルツ時間領域分光法を利用した従来の分析装置の要部の構成図であり、図4はいわゆるステップスキャン方式によるもの、図5はいわゆるラピッドスキャン方式によるものである。また図6及び図7はそれぞれ図4及び図5の分析装置の動作を説明するための図である。まず図4及び図6に基づいて、ステップスキャン方式のテラヘルツ時間領域分光分析装置の構成と動作を説明する。
【0004】
レーザ光源1はフェムト秒レーザ光を出射し、このレーザ光はビームスプリッタ2により2つのレーザ光、即ちポンプ(励起)光3とプローブ光4とに分岐され、ポンプ光3は反射鏡5で反射されて光路長走査部6に導入される。光路長走査部6はモータ等を含む駆動機構7により移動鏡6aの位置が機械的に走査されることで光路長が変化する構成となっており、その光路長の変化を受けたレーザ光(ポンプ光3)は反射鏡5で反射されて送信部9に送り込まれる。送信部9はフェムト秒レーザ光により励起されてテラヘルツ波を発生する発生源であり、非特許文献1、2などに記載されているように、例えば半導体光伝導アンテナを利用する方法、非線形光学結晶を利用する方法など、様々な方法を用いることができる。
【0005】
送信部9から出射されたテラヘルツ波10は放物面鏡などにより構成されるテラヘルツ波光学系11を経て試料Sに照射され、試料Sを透過したテラヘルツ波10’はテラヘルツ波光学系11を経て受信部12に案内される。一方、ビームスプリッタ2で分岐されたプローブ光4は反射鏡13、及び光路長固定の光路長調整部14を経て受信部12に到達する。受信部12はテラヘルツ波10’とフェムト秒レーザ光(プローブ光4)とをそれぞれ受け、該テラヘルツ光10’の電界とプローブ光4の強度の積の時間積分を検出してアナログ検出信号として出力する。具体的には、非特許文献1、2などに記載されているように、光伝導アンテナを利用する方法、電気光学効果サンプリング法によるものなど、様々な方法を用いて上記のような検出信号を生成することができる。
【0006】
テラヘルツ時間領域分光法は、テラヘルツ波の瞬時電界に対応する受信部12の検出信号をテラヘルツ波の伝搬時間に対応する光学遅延距離(光路長の変位量)の関数としてサンプリングする方法であるので、サンプリングの各タイミングにおいて光路長走査部6の光学距離の変位の正確な情報が得られることが必要である。また制御/処理部23において後に行うテラヘルツ波電界の時間変化をフーリエ変換して周波数スペクトルを得る演算処理では、光路長走査部6の光学距離の一定変位間隔毎にサンプリングされた受信部12の検出信号(測定データ)が必要とされる。
【0007】
このような測定データを得るために、ステップスキャン方式では、光路長走査部6の移動鏡6aはかなり遅い速度で(通常1秒以上の時間を掛けて)走査される。即ち、制御/処理部23はそうした走査のための制御信号をサーボ機構30に送ると、サーボ機構30は変位計31により移動鏡6aの変位量や位置を示す変位信号32をモニタし、目標変位量と実際の変位量との誤差がゼロになるように閉ループ制御により駆動機構7の動作を制御する。例えば図6(a)に示すように、光路長の最大可変範囲Lを走査範囲として、一定距離ずつステップ状に光路長が変化するように光路長走査部6は駆動される。即ち、移動鏡6aは所定距離だけ移動し、その位置に一時的に停止される、という動作を繰り返す。全体として、移動鏡6aの走査はゆっくりであるが、停止時の各位置は高精度に制御される。
【0008】
上記のように1回の走査の中で各位置に移動鏡6aが移動する毎に、制御/処理部23はサンプリングパルス信号33をサンプル/ホールド(S/H)回路20及び積算回路34に送る。積算回路34はサンプリングパルス信号33のパルス間隔の間で受信部12から出力されるアナログ検出信号を積算するアンプであり、サンプル/ホールド回路20はこの積算されたアナログ値をサンプリングする。この場合、1回の走査時間が比較的長く、走査範囲内の各位置における移動鏡6aの停止時間も長いので、積算回路34では受信部12から出力されるアナログ検出信号を十分に積算することでSN比を向上させ、これをサンプリングしてA/D変換部21によりデジタル値に変換することができる。そして、このデジタル値に変換した測定データを制御/処理部23に送り、フーリエ変換等の演算処理に供する。
【0009】
上述のようにスキャンステップ方式では、光路長を1回走査する際の各位置において受信部12の検出信号が積算平均されることになるため、これによりSN比を高めることができる。しかしながら、1回の走査時間が長いとフェムト秒レーザの1秒以上の長い時間オーダーでの強度の揺らぎの影響を受け易く、例えば走査前半の位置と走査後半の位置とでは送信部9から出射されるテラヘルツ波の放射電界強度が相違するおそれがある。そのため、試料Sに対するテラヘルツ波応答の周波数スペクトル形状が歪みやすいという欠点がある。
【0010】
従来、上記ステップスキャン方式が主流であったが、上記欠点のため、最近は光路長走査部6を通常2Hz以上の繰返し周期で連続して走査し、複数回の走査で受信部12から出力される検出信号の積算平均をとる、いわゆるラピッドスキャン方式が主流になりつつある。図5及び図7に基づいて、ラピッドスキャン方式のテラヘルツ時間領域分光分析装置の構成と動作を説明する。図4に示したステップスキャン方式の装置と同じ構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0011】
ラピッドスキャン方式ではステップスキャン方式に比べて光路長を高速に変化させるため、正確な位置制御を伴うステップ状の走査は困難であり、図7(a)に示すように、例えばおおよそ等速で移動鏡6aを繰り返し往復移動させるように制御/処理部23は駆動機構7を制御する。一方、制御/処理部23は、スキャンステップ方式のときに比べて遙かに短い一定時間間隔Δt2のサンプリングパルス信号33をサンプル/ホールド回路20に送り、このパルス信号に同期して受信部12による検出信号をサンプリングしてデジタル値に変換するようにしている。また、変位計31により検出された、光路長走査部6での移動鏡6aの変位を示す変位信号32は制御/処理部23に入力されている。
【0012】
ラピッドスキャン方式では、繰り返し走査により同一位置での測定データが多数回得られるから、各位置毎に複数の測定データの積算処理を行うことでSN比を改善することができる。また、フェムト秒レーザの強度に時間経過に伴い揺らぎがあっても、その影響は特定の位置に片寄らないため、そうした揺らぎの影響を受けにくいという利点がある。このようにフェムト秒レーザの揺らぎの影響を殆ど受けずに済むという点で、ラピッドスキャン方式はステップスキャン方式に優る。しかしながら、従来のラピッドスキャン方式では次のような問題がある。
【0013】
即ち、サンプル/ホールド回路20では一定時間間隔Δt2で受信部12による検出信号をサンプリングするが、正確に移動鏡6aを等速移動させることが可能であれば、そのサンプリング間隔は等変位間隔になる筈である。しかしながら、移動鏡6aを高速で繰り返し往復走査する場合、完全な等速移動はかなり困難であって、駆動機構7の負荷が大きくコストも高いものとなる。そのため、一般的な構成では、例えばサーボ機構30を用いて移動鏡6aの移動速度が走査範囲の中央付近ではおおよそ一定となり、折返し位置付近では緩やかに速度がゼロになるような速度制御を行い、走査範囲の中央付近でのみサンプリングを行う方式が採られる。しかしながら、このように走査範囲の中央付近に区間を限定しても、サーボ機構30の性能(例えば追従性など)の限界から厳密な等速運動を実現するのは不可能である。移動鏡6aが等速移動でない場合、一定時間間隔Δt2でのサンプリングは一定変位間隔毎のサンプリングにはならない。そこで、制御/処理部23において変位信号32の情報をもとに測定データを補間処理して一定変位間隔毎の測定データを算出する必要がある。こうした補正処理を行うことにより信号精度の劣化は避けられず、また演算処理に時間が掛かることで測定時間が長くなるという欠点がある。
【0014】
【特許文献1】特開2005−129732号公報
【非特許文献1】萩行正憲、「テラヘルツ・遠赤外分光 III.超高速分光」、日本分光学会、分光研究、第54巻、第3号(2005年)、p.181-198
【非特許文献2】永井正也、田中耕一郎、「テラヘルツ時間領域分光の基礎と応用」、応用物理学会、応用物理、第75巻、第2号(2006年)、p.179-187
【非特許文献3】モリカワ(O. Morikawa)他2名、「インプルーブメント・オブ・シグナル−トゥ−ノイズ・レシオ・オブ・ア・サブテラヘルツ・スペクトロメータ・ユージング・ア・コンティニュアス−ウェイブ・マルチモード・レーザ・ダイオード・バイ・シングル−モード・ファイバ・オプティクス(Improvement of signal-to-noise ratio of a subterahertz spectometer using a continuous-wave multimode laser diode by single-mode fiber optics)」、アプライド・フィジックス・レターズ(Appl. Phys. lett.)、Vol.85、No.6、2004-8-9, p.881-883
【非特許文献4】「テラヘルツパルス分光装置」、[online]、株式会社栃木ニコン、[平成18年7月6日検索]、インターネット<URL : http://www.tochigi-nikon.co.jp/ >
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、ラピッドスキャン方式の利点を活かしつつ、補間処理のような精度低下につながる演算処理を不要とすることで高い信号精度を確保し、測定時間が長引くことも回避できるテラヘルツ波応答測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために成された本発明は、レーザ光源と、該レーザ光源から出射されたレーザ光の照射を受けてテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生手段と、該テラヘルツ波発生手段で発生されたテラヘルツ波を試料に照射して該試料で反射した又は透過したテラヘルツ波を後記検出手段に案内するテラヘルツ波光学系と、該テラヘルツ波光学系により前記試料から到来したテラヘルツ波と前記レーザ光とをそれぞれ受け、該テラヘルツ波の電界と該レーザ光の強度とに基づく検出信号を出力する検出手段と、前記レーザ光源から前記テラヘルツ波発生手段までの第1光路又は該レーザ光源から前記検出手段までの第2光路のいずれか一方の光路長を変化させる光路長走査手段と、を具備し、前記光路長走査手段により光路長を変化させる際の前記検出手段による検出信号に基づいて前記試料に関する情報を取得するテラヘルツ波応答測定装置において、
a)前記第1光路又は第2光路の光路長を繰り返し連続的に走査するべく前記光路長走査手段を制御する制御手段と、
b)該制御手段による繰り返し走査の際に光路長の変位が一定分生じる毎にパルス信号を出力する変位検出手段と、
c)前記検出手段によるアナログ検出信号をサンプリングしてデジタル値に変換する信号変換手段であって、前記変位検出手段によるパルス信号又はそれに由来するパルス信号に同期してサンプリングを行う信号変換手段と、
を備えることを特徴としている。
【0017】
ここで、レーザ光源は、10GHz〜20THzの周波数範囲の一部又は全部の周波数成分を有して強度が変化するレーザ光を出射するものとする。典型的にはいわいるフェムト秒レーザであるが、これと同程度の時間スケールで変動するレーザであれば、例えばモード間の干渉によってピコ秒の時間レベルで強度が変動するCWマルチモードレーザなどを用いてもよい。
【0018】
また、テラヘルツ発生手段によるテラヘルツ波発生方法や検出手段におけるテラヘルツ波の電界変化の検出方法も特に限定されず、一般に提案されている各種の方法を用いることができる。
【0019】
また、例えば非特許文献4において「リアルタイムテラヘルツイメージング」として開示されているように、検出手段としてCCDカメラなどの二次元検出デバイスを利用する構成も考え得る。こうした電荷蓄積型のデバイスではサンプリングのタイミングは検出部での電荷蓄積のタイミングで決まるから、このような検出手段を用いる構成においては、上記信号変換手段における「前記変位検出手段によるパルス信号又はそれに由来するパルス信号に同期してサンプリングを行う」とは、「変位検出手段によるパルス信号又はそれに由来するパルス信号に同期して検出手段での電荷蓄積のタイミングを決める」ものと置き換えることができる。
【0020】
またここで、「それに由来するパルス信号」とは例えば後述するように、変位検出手段によるパルス信号を分周して生成されたパルス信号や変位検出手段によるパルス信号を遅延することで得られるパルス信号を指す。
【0021】
本発明に係るテラヘルツ波応答測定装置では、制御手段による制御の下に光路長走査手段は例えば第1光路(又は第2光路)の光路長を繰り返し連続的に走査する。例えば光路長の可変範囲をLとすると0〜Lの範囲で繰り返し往復走査することになる。その際の走査速度は等速であっても非等速であってもよい。この走査が実行されているときに、変位検出手段は光路長の変位が一定分生じる毎にパルス信号を出力する。即ち、上述のように光路長の可変範囲がLである場合、Lよりも十分に小さい変位間隔ΔLだけ光路長が変化する毎にパルス信号を発生する。そして信号変換手段は、そのパルス信号そのもの又はそれに由来するパルス信号に同期して検出手段によるアナログ検出信号をサンプリングし、そのサンプル値をデジタル値に変換して測定データとする。
【0022】
本発明に係るテラヘルツ波応答測定装置の一態様として、上記変位検出手段によるパルス信号に基づく又は該パルス信号とは別に上記変位検出手段により得られる変位量検出信号に基づく変位位置情報と対応付けて上記測定データを記憶手段に格納する構成とすることができる。ここで変位位置情報とは光路長の可変範囲Lを一定距離毎に区分した位置を示す情報であり、例えば可変範囲の一方の端部から順番に付した番号などとすることができる。
【0023】
こうして測定データを変位位置情報に対応付けて記憶手段に格納しておくことにより、例えば一旦全ての測定データを収集した後に、同じ変位位置情報に対応する複数の測定データに対し積算処理、積算平均化処理などを施すことで、測定データ(検出手段による検出信号)のSN比を向上させ、これに基づいてフーリエ演算により求まる周波数スペクトルの正確性を高めることができる。
【0024】
本発明に係るテラヘルツ波応答測定装置において、変位検出手段としては光路長走査手段により変化する光路長、典型的には機械的に移動される反射鏡の位置、を検出可能な手段であればよく、磁気式リニアスケール、光学式リニアスケール、測距計などを用いることも可能であるが、精度等の点から、好ましくはレーザ干渉計を用いるとよい。レーザ干渉計では、He−Neレーザ光等を2つの光束に分岐して一方の光束を光路長走査手段(例えば移動鏡)に入射させてその反射光を受け、その反射光と他方の光束とを合流させて両光路長の差に応じた干渉信号を検出する。これにより、光路長走査手段(移動鏡)が一定距離移動する毎に干渉の強弱が現れる干渉信号を生成することができるから、このレーザ干渉検出信号をデジタル化したパルス信号又は該パルス信号を分周して得られるパルス信号を、信号変換手段におけるサンプリングのためのパルス信号として供給することができる。
【0025】
なお、検出手段により検出される信号は微弱であるため、通常、検出手段は比較的大きなゲインを持つアンプを含むが、こうしたアンプにおいてゲインを大きくすると時定数も大きくなり信号の遅延が大きくなる。この検出信号の時間遅れがサンプリングの時間間隔に比べて無視できないほど大きくなると、光路長走査手段による変位位置情報と信号変換手段への入力信号との時間ずれが大きくなって両者の対応関係が正確でなくなるおそれがある。検出手段で時間遅れを生じた信号に時間進みを与えることはできないから、上記時間ずれを解消するためには、前記変位検出手段から出力されるパルス信号を前記検出手段での時間遅延に相当する時間だけ遅延させる遅延手段を備える構成とするとよい。これにより、光路長走査手段による変位位置情報に正確に対応付けた測定データを得ることができる。
【0026】
但し、試料の種類や測定目的などの条件に応じて検出手段に含まれるアンプのゲインを変えることが望ましいから、それに合わせて遅延手段における遅延時間も調整できるように遅延時間可変としておくとよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るテラヘルツ波応答測定装置によれば、光路長走査手段による光路長(光学距離)の変位が等速、非等速であるに拘わらず、正確に一定変位間隔毎に得られる検出信号に基づく測定データを収集することができる。これにより、従来のように変位間隔のずれを解消するために測定データを補間する演算処理を行う必要がなくなり、こうした処理に起因する精度の低下を回避することができる。また、無駄な演算処理を省くことで、例えば周波数スペクトル等の本来必要な結果が出るまでの時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明に係るテラヘルツ波応答測定装置の一実施例であるテラヘルツ時間領域分光分析装置について、図面を参照して説明する。図1は本実施例によるテラヘルツ時間領域分光分析装置の要部の構成図であり、既に説明した図4、図5の構成と同一の構成要素には同一符号を付している。図2、図3は本実施例によるテラヘルツ時間領域分光分析装置における光路長の走査とサンプリング動作を説明するための図である。
【0029】
本実施例に係るテラヘルツ時間領域分光分析装置において、光路長走査部6における移動鏡6aの繰り返し往復走査に伴い受信部12で検出信号を得る点は、従来のラピッドスキャン方式の装置(図5の構成)と同様である。しかしながら、受信部12から出力されたアナログ検出信号をサンプリングして、各サンプルをデジタル化した測定データを収集するための動作が大きく異なる。この点について、以下に詳しく説明する。
【0030】
制御/処理部23から出力される振幅/周波数制御信号25に従って、駆動機構7は光路長走査部6の移動鏡6aを駆動し、これによってレーザ光(ポンプ光3)の光路長(本発明における第1光路の光路長)は変化する。ここでは、図2(a)に示すように、正弦波状に速度が変化するように、つまり移動鏡6aを非等速運動させるように走査するものとする。これにより、走査範囲の端部で速度が落ちるから、駆動機構7の負荷も軽くて済む。この移動鏡6aの位置、つまりポンプ光3が送信部9に到達するまでの光路の光路長の変位を検出するために、光路長走査部6にはレーザ干渉計8が付設されている。
【0031】
レーザ干渉計8はHe−Neレーザ光源を備え、該レーザ光源から出射したレーザ光をビームスプリッタで2つの光束に分岐し、一方の光束を移動鏡6aに照射してその反射光を得る。分岐された他方の光束は45°プリズムに導入され、プリズムで180°反射する際にp偏光とs偏光との位相を90°ずらす。そうしてビームスプリッタに戻って来た両光束を合流させると、両光束の光路長の差に応じて干渉により強弱が生じる。光路を適切に設計しておくことにより、移動鏡6aが一定距離だけ移動する毎に信号強度に強弱が生じるようにすることができ、このレーザ干渉検出信号を整形して2値化することで、ポンプ光3の光路長が一定距離だけ変化する毎に立ち上がりエッジ(又は立ち下がりエッジ)を持つパルス信号を生成することができる。ここでは、このパルス信号15がレーザ干渉計8から出力され遅延部17に送られる。また、ビームスプリッタで合流されたレーザ光の中でp偏光とs偏光とを分離して検出し、その位相関係を調べることで移動鏡6aの移動方向(つまり光路長が増加、減少のいずれの方向に変化しているのか)を検出し、これを極性信号16として出力して遅延部18に送る。
【0032】
なお、レーザ干渉計8の代わりに、磁気式リニアスケール、或いは光学式リニアスケールなどを用いてもよいが、位置分解能や精度の高さの点からはレーザ干渉計8が望ましい。
【0033】
上述のようにレーザ干渉計8はポンプ光3の光路長が一定距離変化する毎にパルス信号15を出力するから、図2(a)に示すように、光路長の変化が正弦波状であるとき、つまり移動鏡6aの移動が非等速であるとき、パルス信号15の発生間隔は非一定時間間隔になる。即ち、光路長の走査に対し、空間的には一定変位間隔ΔLでパルス信号15は発生し、時間的にはパルス信号の発生間隔は非一定となる。
【0034】
遅延部17、18はいずれも入力信号を所定の時間だけ遅らせて出力するものであり、その遅延時間は受信部12に含まれるアナログ電気回路(主としてアンプ)での時間遅れに相当するように設定される。なお、この遅延部17、18における遅延時間は所定範囲で任意に設定できるようになっている。これは、受信部12に含まれるアンプの増幅率が可変であり、その増幅率によって時間遅れが相違するためであり、その時間遅れに合わせて遅延部17、18での遅延時間を調整することで後述のサンプリングのタイミングを正確に合わせることができる。遅延部17、18はアナログ遅延回路でもよいが、遅延時間を大きくしたときのパルス信号の波形の鈍りを回避するとともに上述のように遅延時間の調整を容易に行うために、デジタル遅延回路を利用するのが好ましい。
【0035】
遅延部17で所定の時間遅れを付加されたパルス信号15’は、サンプル/ホールド回路20にサンプリングパルス信号として供給される。したがって、サンプル/ホールド回路20は、受信部12から出力されたアナログ検出信号19を図2(b)に示すようなタイミングでサンプリングし、そのサンプル値をA/D変換部21によりデジタル信号に変換して出力する。即ち、非一定時間間隔でアナログ検出信号19はサンプリングされる。この点で、従来のラピッドスキャン方式におけるサンプリングとは全く異なる。サンプル/ホールド回路20にパルス信号15’が入力される毎に、1個のデジタル化された測定データが制御/処理部23に供給される。
【0036】
また、時間遅れを付加されたパルス信号15’及び同じく時間遅れを付加された極性信号16’はカウンタ回路(CNT)22に入力され、ここで、走査範囲L内の位置情報に変換される。例えば光路長が増加する方向に変化している際にはパルス信号15’の入力毎にカウントアップし、光路長が減少する方向に変化している際にはパルス信号15’の入力毎にカウントダウンし、カウント値を位置情報として取り出すようにすることができる。制御/処理部23においては、内部のデータ格納部24に、カウンタ回路22から得られた位置情報に対応付けてA/D変換部21から得られた測定データを順番に格納してゆく。
【0037】
上記処理により、図3(a)に示すように、光路長の走査範囲Lの中で一定変位間隔ΔL毎に位置情報P0、P1、…、Pnが付与され、複数回往復走査が実行される過程で、図3(b)に示すように、位置情報が付与された各位置に対応して測定データが取得されることになる。上記カウンタ回路22のカウント値を位置情報P0、P1、…、Pnとする場合には、位置情報は0、1、2、…、nである。1回の片道走査で得られるn+1個の測定データは正確に一定変位間隔ΔL毎の位置情報を持つものであるから、測定データについてそうした位置のずれを補正することなく、同一位置情報を持つ複数の測定データに対し積算平均処理などを行うことができる。
【0038】
以上のようにして、本実施例に係るテラヘルツ時間領域分光分析装置では、光路長を高速に且つ非等速で走査しながら、正確にフーリエ変換処理に供する測定データを収集することができる。
【0039】
なお、図1に示した構成では、テラヘルツ波10について、平行光束で試料Sに照射され、その透過波を検出するようにしているが、テラヘルツ波10が試料Sに照射される形態は平行光束に限らず収束光束でも可能である。また試料Sの透過波に限らず反射波又は散乱波を検出する光学配置でもよい。
【0040】
また、レーザ干渉計8又はそれに相当する変位計がパルス信号15を出力する光路長の変位間隔ΔLは外部からの設定により可変であることが望ましい。これにより所望の測定条件に応じて、光路長走査部6の走査範囲L及び1走査当たりサンプリング点数を最適化することが可能になる。具体的には、例えばレーザ干渉計8を使用した場合に、レーザ干渉検出信号を分周回路により分周したものをパルス信号15として出力し、その分周回路の分周比を任意に設定できるようにしておくとよい。
【0041】
また、レーザ干渉計8又はそれに相当する変位計から出力される信号に基づいて位置情報を作成する構成(手段)は上記記載のものに限定されない。例えば、変位計は上記のようなパルス信号や極性信号のほかに、変位量を反映した変位信号を出力し、これを受けた制御/処理部23でその変位量を演算処理することで上記と同様の位置情報を算出する構成としてもよい。
【0042】
また上記実施例の構成では、ポンプ光3の光路の光路長を走査しているが、従来技術でも明らかなように、プローブ光4の光路の光路長を走査しても同様の測定が可能である。
【0043】
また上記実施例は本発明の一実施例であり、上述した各種変形のほかにも、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例によるテラヘルツ波時間領域分光分析装置の要部の構成図。
【図2】本実施例によるテラヘルツ時間領域分光分析装置における光路長の走査とサンプリング動作を説明するための図。
【図3】本実施例によるテラヘルツ時間領域分光分析装置における光路長の走査とサンプリング動作を説明するための図。
【図4】従来のステップスキャン方式のテラヘルツ時間領域分光分析装置の要部の構成図。
【図5】従来のラピッドスキャン方式のテラヘルツ時間領域分光分析装置の要部の構成図。
【図6】図4に示したステップスキャン方式のテラヘルツ時間領域分光分析装置の動作を説明するための図。
【図7】図5に示したラピッドスキャン方式のテラヘルツ時間領域分光分析装置の動作を説明するための図。
【符号の説明】
【0045】
1…レーザ光源
2…ビームスプリッタ
3…ポンプ光
4…プローブ光
5…反射鏡
6…光路長走査部
6a…移動鏡
7…駆動機構
8…レーザ干渉計
9…送信部
10、10’…テラヘルツ波
11…テラヘルツ波光学系
12…受信部
13…反射鏡
14…光路長調整部
15、15’…パルス信号
16、16’…極性信号
17、18…遅延部
19…アナログ検出信号
20…サンプル/ホールド回路
21…A/D変換部
22…カウンタ回路
23…制御/処理部
24…データ格納部
25…振幅/周波数制御信号
S…試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、該レーザ光源から出射されたレーザ光の照射を受けてテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生手段と、該テラヘルツ波発生手段で発生されたテラヘルツ波を試料に照射して該試料で反射した又は透過したテラヘルツ波を後記検出手段に案内するテラヘルツ波光学系と、該テラヘルツ波光学系により前記試料から到来したテラヘルツ波と前記レーザ光とをそれぞれ受け、該テラヘルツ波の電界と該レーザ光の強度とに基づく検出信号を出力する検出手段と、前記レーザ光源から前記テラヘルツ波発生手段までの第1光路又は該レーザ光源から前記検出手段までの第2光路のいずれか一方の光路長を変化させる光路長走査手段と、を具備し、前記光路長走査手段により光路長を変化させる際の前記検出手段による検出信号に基づいて前記試料に関する情報を取得するテラヘルツ波応答測定装置において、
a)前記第1光路又は第2光路の光路長を繰り返し連続的に走査するべく前記光路長走査手段を制御する制御手段と、
b)該制御手段による繰り返し走査の際に光路長の変位が一定分生じる毎にパルス信号を出力する変位検出手段と、
c)前記検出手段によるアナログ検出信号をサンプリングしてデジタル値に変換する信号変換手段であって、前記変位検出手段によるパルス信号又はそれに由来するパルス信号に同期してサンプリングを行う信号変換手段と、
を備えることを特徴とするテラヘルツ波応答測定装置。
【請求項2】
前記変位検出手段によるパルス信号に基づく又は該パルス信号とは別に前記変位検出手段により得られる変位量検出信号に基づく変位位置情報と対応付けて、前記信号変換手段により出力されるデータを格納する記憶手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波応答測定装置。
【請求項3】
前記変位検出手段はレーザ干渉計であり、該レーザ干渉計によるレーザ干渉検出信号をデジタル化したパルス信号又は該パルス信号を分周して得られるパルス信号を、前記信号変換手段におけるサンプリングのためのパルス信号として供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のテラヘルツ波応答測定装置。
【請求項4】
前記変位検出手段から出力されるパルス信号を前記検出手段での時間遅延に相当する時間だけ遅延させる遅延手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテラヘルツ波応答測定装置。
【請求項5】
前記遅延手段は遅延時間が可変であることを特徴とする請求項4に記載のテラヘルツ波応答測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−20268(P2008−20268A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191030(P2006−191030)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】