説明

テンタ用クリップ及びテンタ装置

【課題】クリップの把持滑りを抑える。
【解決手段】クリップテンタはクリップとレールとを備える。対となるレールはフィルムの搬送路の両側に設置される。レールの間隔はフィルムの搬送方向上流側から下流側に向かうに従って広くなる。クリップはレールに沿って移動自在である。クリップはフレーム33とフラッパ34とを備える。フラッパ34は回動軸によりフレーム33に取り付けられる。フレーム33は裏面12bを支持する支持面33aを有する。フラッパ34の一端には表面12fと接触可能な押圧面34aが設けられる。フラッパ34の他端には係合頭部が設けられる。フラッパ34は、支持面33aに支持されたフィルム12に押圧面34aが接する把持位置と、支持面33aに支持されたフィルム12から押圧面34aが離れる離隔位置との間で回動自在となる。押圧面34aには溝34azが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンタ用クリップ及びテンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である位相差フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法は、ポリマーを溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする方法である。
【0004】
得られたフィルムの平面性を向上させるために、またはフィルムの光学特性を調整するために、フィルムを所定の方向へ延伸するテンタ装置が知られている(例えば、特許文献1)。このテンタ装置は、帯状のフィルムの幅方向両側に設けられ、長手方向に向かうに従って間隔が拡がる対のレールと、このレールに沿って移動可能なチェーンと、所定の間隔でチェーンに取り付けられたクリップとを有する。そして、このテンタ装置によれば、クリップを用いてフィルムの幅方向両端部を把持し、レールに沿ってチェーンを走行させることにより、フィルムの幅を拡げる延伸工程を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−90943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の延伸工程を経たフィルムには、遅相軸のばらつきが起こってしまう。遅相軸のばらつきが起こる部分は、実際にクリップに把持されていた両端部のみならず、両端部よりも幅方向中央部側のエリアまでに及ぶ。このため、延伸工程を経たフィルムについては、遅相軸がばらついている両縁部を切り落とし、残った部分を製品用のフィルムとしていた。しかしながら、両縁部の切り落としは、生産効率の点からも好ましくない。このため、両縁部の遅相軸のばらつきを抑えることができるようなテンタ装置が望まれる。
【0007】
発明者の鋭意検討の結果、この両縁部における遅相軸のばらつきの原因は、クリップによって把持された部分が、僅かながら幅方向中央部へ滑ってしまうことにあると突き止めた。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するものであり、クリップにより把持された部分の滑りを抑制するテンタ用クリップ、及びこのテンタ用クリップを有するテンタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ウェブの表面と接触する接触面を有する第1部材と前記ウェブの裏面と接触する第2接触面を有する第2部材とを用いて前記ウェブの幅方向端部を把持し、前記ウェブの長手に沿って設けられたレール上を移動自在なテンタ用クリップにおいて、前記第1部材及び前記第2部材の少なくともいずれか一方には、前記接触面よりも凹むように形成された凹み面が前記接触面よりも前記幅方向端側に設けられ、前記接触面と前記凹み面との境界となる稜が、前記幅方向と交差する方向に形成されたことを特徴とする。
【0010】
前記接触面には前記凹み面を有する溝が形成されたことが好ましい。また、前記第1部材または前記第2部材は、前記接触面が前記ウェブと接する接触位置及び前記接触面が前記ウェブから離れた離隔位置との間で移動自在であることが好ましい。
【0011】
本発明のテンタ装置は、前記ウェブの搬送路の両側に設けられた前記レールと上記のテンタ用クリップとを有し、前記レールの間隔は、前記ウェブの搬送方向に向かうに従って大きくなることを特徴とする。
【0012】
前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブから溶剤を蒸発させる乾燥部、または、前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブを加熱する加熱部の少なくとも一方をを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明のテンタ装置は、前記ウェブの搬送路の両側に設けられた前記レールと上記のテンタ用クリップとを有し、前記レールの間隔は、前記ウェブの搬送方向に向かうに従って小さくなる、又は一定であり、前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブから溶剤を蒸発させる乾燥部、または、前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブを加熱する加熱部の少なくとも一方を有することを特徴とする。
【0014】
前記ウェブの搬送路の両側に設けられた前記レールと上記のテンタ用クリップとを有し、前記レールの間隔は、前記ウェブの搬送方向に向かうに従って小さくなる、又は一定であり、前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブから溶剤を蒸発させる乾燥部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のテンタ用クリップによれば、フィルムを把持する接触面に上記の稜を設けたため、クリップによって把持されたフィルムが幅方向中央部へ滑ってしまうことを確実に防ぐことができる。したがって、本発明によれば、クリップの把持滑りを確実に抑えることが可能となるため、把持滑りに起因する遅相軸のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フィルム延伸設備の概要を示す説明図である。
【図2】クリップテンタの概要を示す平面図である。
【図3】クリップの概要を示す斜視図である。
【図4】把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図5】離隔位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図6】押圧面に第1の溝を有するクリップの概要を示す斜視図である。
【図7】クリップにより把持されたフィルムの耳部の概要を示す断面図である。
【図8】平らな押圧面に溝が設けられたフラッパの概要を示す断面図である。
【図9】フィルムに噛み込み可能な稜の方向とフィルムにはたらく力の方向との関係の概要を示す説明図である。
【図10】フィルムに噛み込み可能な稜の方向とフィルムにはたらく力の方向との関係の概要を示す説明図である。
【図11】フィルムに噛み込み可能な稜の方向とフィルムにはたらく力の方向との関係の概要を示す説明図である。
【図12】押圧面に第2の溝を有するクリップの概要を示す断面図である。
【図13】押圧面に第3の溝を有するクリップの概要を示す断面図である。
【図14】支持面に第1の溝を有するクリップの概要を示す断面図である。
【図15】支持面及び押圧面のそれぞれに溝を有するクリップの概要を示す断面図である。
【図16】押圧面上の溝が支持面上の溝よりもZ2方向中央側に形成されたクリップの概要を示す断面図である。
【図17】凹み面を有するクリップの概要を示す断面図である。
【図18】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図19】フィルムから溶剤を蒸発するための送風ヘッドを有するクリップテンタの概要を示す側面図である。
【図20】実施例に用いたフラッパの概要を示す斜視図である。
【図21】実施例に用いたフラッパの概要を示す斜視図である。
【図22】実施例において延伸工程を経たTACフィルムの概要を示す平面図である。
【図23】実施例における遅相軸のズレ量DZ1の測定結果を示すグラフである。
【図24】実施例における遅相軸のズレ量DZ1の測定結果の一部を拡大したグラフである。
【図25】実験4における第1のラインML1における配向角φZ1及び間隔C2の測定結果を示すグラフである。
【図26】実験4における第2のラインML1における配向角φZ1及び間隔C2の測定結果を示すグラフである。
【図27】実験1における第1のラインML1における配向角φZ1及び間隔C2の測定結果を示すグラフである。
【図28】実験1における第2のラインML1における配向角φZ1及び間隔C2の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、フィルム延伸設備10は、帯状のフィルム12を長手方向(以下、Z1方向と称する)へ送り出すフィルム供給部14と、フィルム供給部14から送り出されたフィルム12について延伸工程を行うクリップテンタ15と、クリップテンタ15から送り出されたフィルム12を巻き芯16aに巻き取る巻取室16とを有する。
【0018】
(クリップテンタ)
図2に示すように、クリップテンタ15はケーシング20を有する。ケーシング20には入口20i及び出口20oが設けられる。ケーシング20内には、フィルム12をZ1方向へ搬送する搬送路が、入口20iから出口20oにかけて形成される。更に、ケーシング20内は、Z1方向の上流側から順に、予熱エリア20a、延伸エリア20b、緩和エリア20c及び冷却エリア20dに区画される。なお、緩和エリア20c及び冷却エリア20dは省略してもよい。
【0019】
ケーシング20に内蔵されるテンタ本体は、クリップ22とレール23とを備える。対となるレール23は、各エリア20a〜20dにかけて、フィルム12の搬送路の両側に設置される。延伸エリア20bにおけるレール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って広くなる。一方、緩和エリア20cにおけるレール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って狭くなる。また、予熱エリア20a及び冷却エリア20dにおけるレール23の間隔は、一定である。また、詳細は後述するが、ケーシング20内に設けられた送風ヘッドを用いて、熱風をフィルム12にあてて、フィルム12の温度を所定の処理に応じたものに調節する。
【0020】
レール23のZ1方向上流側及び下流側には、スプロケット24,25が設けられる。図示しない環状のチェーンは、スプロケット24,25と噛み合い、レール23に沿って移動自在に取り付けられている。このチェーンには、複数のクリップ22が所定の間隔で取り付けられている。なお、図2では、図の煩雑化を避けるため、クリップ22の一部のみを示す。スプロケット24,25が回転することにより、クリップ22はレール23に沿って移動する。予熱エリア20aにおけるレール23上及び冷却エリア20dにおけるレール23上には、クリップ22の一部と接触するクリップオープナ28が設けられる。
【0021】
図3及び図4に示すように、クリップ22は、クリップ本体30とレール取付部31とを有する。クリップ本体30は、略コ字形状のフレーム33とフラッパ34と回動軸35とを備える。フラッパ34は、回動軸35によりフレーム33に回動自在に取り付けられている。
【0022】
図4に示すように、フレーム33は、フィルム12のうち、Z2方向両縁部(以下、耳部と称する)の裏面12bを支持する支持面33aを有する。支持面33aは平らとなっていることが好ましい。
【0023】
フラッパ34の一端には、フィルム12の耳部の表面12fと接触可能な押圧面34aが設けられる。フラッパ34の他端には、クリップオープナ28と係合可能な係合頭部34bが設けられる。押圧面34a及び係合頭部34bは、回動軸35を中心に揺動自在となる。こうして、フラッパ34は、支持面33aに支持されたフィルム12に押圧面34aが接する把持位置と、支持面33aに支持されたフィルム12から押圧面34aが離れる離隔位置(図5参照)との間で回動自在となる。なお、フラッパ34は、付勢部材によって、把持位置となるように付勢されることが好ましい。付勢部材としては、バネなど、公知のものを用いることができる。また、付勢部材を設ける代わりに、係合頭部34bとの係合によりフラッパ34を把持位置に変位させるクリップクローザを設けてもよい。クリップクローザは、同一のレール23上に設けられる1対のクリップオープナ28の間において、Z1方向上流側のクリップオープナ28からZ1方向下流側のクリップオープナ28にかけて形成されることが好ましい。
【0024】
離隔位置にあるフラッパ34が把持位置に向かって移動するに従って、押圧面34a及び支持面33aのクリアランスは次第に小さくなる。そして、フラッパ34が把持位置に到達したときの押圧面34a及び支持面33aのクリアランスは、把持の対象となるフィルム12の厚みよりも小さい。このように、フラッパ34が把持位置に変位することにより、押圧面34aが、支持面33aに支持されるフィルム12の耳部を押圧する。この結果、クリップ22は、フィルム12の両端部を把持することができる。なお、押圧面34aの形状は、揺動軸に直交する面において、円弧状となっていることが好ましい。
【0025】
フラッパ34が離隔位置から把持位置に変位する場合、Z2方向において、押圧面34aが端部から中央部に向かうように、フラッパ34が回動することが好ましい。これにより、クリップ22によって把持されたフィルム12がZ2方向中央部側に滑っても、フィルム12の滑りに伴って押圧面34aがZ2方向中央部側に移動する結果、押圧面34a及び支持面33aによるフィルム12の把持力が大きくなる。このため、フィルム12の把持を確実にすることができる。
【0026】
図6及び図7に示すように、レール23と略平行となるような溝34azが押圧面34aに設けられる。溝34azの形成により、押圧面34aは、第1押圧面34axと、第1押圧面34axよりもZ2方向端部側に位置する第2押圧面34ayとに分割される。
【0027】
V字状の溝34azは、第1押圧面34axから凹むように設けられた第1凹み面51と、第2押圧面34ayから凹むように設けられた第2凹み面52とから形成される。第1押圧面34axと第1凹み面51とにより第1稜53が形成される。第2押圧面34ayと第2凹み面52とにより第2稜54が形成される。
【0028】
フレーム33やフラッパ34の形成材料は、ステンレス等の他、フィルム12よりも硬質な物であることが好ましい。
【0029】
図1に示すように、フィルム供給部14は、フィルム12をクリップテンタ15へ供給する。図2に示すように、チェーンの移動によって、複数のクリップ22はレール23に沿って移動する。この結果、クリップ22は、予熱エリア20a、延伸エリア20b、緩和エリア20c及び冷却エリア20dを順次通過した後、再び予熱エリア20aへ戻る。このように、クリップ22は、各エリア20a〜20dを循環して移動する。
【0030】
図3に示す予熱エリア20aにおいて、係合頭部34bがクリップオープナ28と接触すると、図5に示すように、フラッパ34は離隔位置となる。このように、予熱エリア20aに導入されたフィルム12の耳部は、フレーム33の支持面33aによって支持される。
【0031】
図2に示すように、係合頭部34bがクリップオープナ28から離れる位置Paでは、離隔位置のフラッパ34は把持位置(図7参照)となる。こうして、位置Paにおいて、押圧面34aと支持面33aとによるフィルム12の両端部の把持が開始される。
【0032】
図2に戻って、クリップ22は、フラッパ34が把持位置のまま、各エリア20a〜20dを通過する。このため、クリップ22により両端部を把持されたフィルム12は、各エリア20a〜20dを通過する。
【0033】
予熱エリア20aにおけるフィルム12の幅はW1のままである。延伸エリア20bにおけるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W1からW2へと次第に拡がる。緩和エリア20cにおけるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W2からW3へと次第に狭まる。冷却エリア20dにおけるフィルム12の幅はW3のままである。
【0034】
延伸エリア20bにおいて、両端部を把持したクリップ22を用いてフィルム12をZ2方向端部側へ引っ張ると、押圧面34a及び支持面33aにより把持されているフィルム12の両端部は、フィルム12のZ2方向中央部に向かって滑りやすくなる。本発明では、図7に示すように、押圧面34aに第1稜53を設けた。この第1稜53により、押圧面34aと支持面33aとにより把持されたフィルム12の滑りを抑えることができる。したがって、本発明によれば、フィルムの滑りに起因する遅相軸のずれを抑えることが可能となる。
【0035】
上記実施形態では、断面が円弧状の押圧面34aを設けたが、本発明はこれに限られない。例えば、図8に示すように、押圧面34aの形状を平面状としてもよい。
【0036】
上記実施形態では、レール23と略平行な第1稜53を設けたが、本発明はこれに限られず、Z2方向に交差する第1稜53を設けても良いし、フィルム12にはたらくZ2方向中央部への力T1の方向と交差する第1稜53を設けてもよい。図9〜11に、本発明における、力T1の方向と第1稜53の形成方向との関係の一例を示す。図9〜11における二点鎖線は、フラッパ34が把持位置にあるときの押圧面34a及び第1稜53の位置を示す。
【0037】
張力T1と第1稜53の形成方向との角度θ1は90°であることが最も良いが、本発明はこれに限られず、例えば、70°以上110°以下であることが好ましく、80°以上110°以下であることがより好ましい。なお、隣り合う第1稜53のクリアランスCL1は1mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0038】
なお、溝34azの代わりに、第1凹み面51と第1押圧面34axとのなす角の角度θ2が鋭角となるような溝60(図12参照)を設けても良いし、U字状の溝64(図13参照)を設けても良い。
【0039】
上記実施形態では、押圧面34aに溝34azを設けたが、本発明はこれに限られず、図14に示すように、第1凹み面71及び第2凹み面72を有する溝33azを支持面33aに設けても良い。溝33azにより、支持面33aは、第1支持面33ax及び第2支持面33ayに分割される。第1凹み面71と第1支持面33axとにより第1稜73が形成し、第2凹み面72と第2支持面33ayとにより第2稜74が形成する。溝33azの形状は、溝34az同様に、U字状、V字状等でもよい。また、図15及び図16に示すように、押圧面34aに溝34azを設け、支持面33aに溝33azを設けても良い。溝34azを設ける位置は、溝33azと向き合うような位置(図15参照)でも良いし、溝33azよりもZ2方向中央部側(図16参照)であっても良いし、溝33azよりもZ2方向端部側であっても良い。
【0040】
なお、押圧面34aや支持面33aに設ける溝の数は、1つに限らず、2つ以上でもよい。同一の押圧面34aや同一の支持面33aにおいて、複数の溝を設ける場合には、互いの溝が交差しないことが好ましい。
【0041】
上記実施形態では、押圧面34aに溝34azを形成したが、本発明はこれに限られず、図17に示したような、押圧面34aとにより稜76を形成するような凹み面77を形成してもよい。また、支持面33aとにより稜を形成するような凹み面を形成してもよい。なお、このような凹み面を、押圧面34a及び支持面33aの両方に形成してもよい。支持面33aや押圧面34aとにより稜を形成する凹み面は、平面であっても良いし、曲面であっても良い。
【0042】
上記実施形態では、表面12fと接触するフラッパ34を移動自在とし、裏面12bと接触するフレーム33と固定したが、本発明はこれに限られず、表面12fと接触するフラッパ34を固定し、裏面12bと接触するフレーム33と移動自在としてもよいし、フラッパ34及びフレーム33ともに、移動自在としても良い。
【0043】
上記実施形態では、表面12fと接触するフラッパ34を回動自在としたが、本発明はこれに限られず、フラッパ34をフィルム12の厚み方向に移動させても良いし、方向Z1や方向Z2に移動させてもよい。なお、フレーム33を移動自在とする場合には、フラッパ34をフィルム12の厚み方向に移動させても良いし、方向Z1や方向Z2に移動させてもよい。
【0044】
上記実施形態では、予熱エリア20aにおけるレール23の間隔を一定としたが、本発明はこれに限られず、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って大きくしてもよい。これにより、予熱エリア20aにおけるフィルム12が幅方向に延伸される結果、クリップ22による把持を確実にすることができる。予熱エリア20aの入口におけるフィルム12の幅Wi1、予熱エリア20aの出口におけるフィルム12の幅Wo1の比(=Wo1/Wi1)は、100.5%以上105%であってもよい。
【0045】
上記実施形態では、Z2方向両端部を把持するクリップ22を用いてフィルム12をZ2方向へ延伸したが、本発明はこれに限られず、Z2方向両端部を把持するクリップ22を用いてフィルム12を搬送させながら、フィルム12に乾燥風をあてて、フィルム12から溶剤を蒸発させても良い。フィルム12から溶剤が蒸発するとフィルム12が収縮するが、本発明のクリップ22によれば、収縮による耳部の滑りを抑えることができる。この場合には、レール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って小さくなっても良いし、Z1方向において一定であっても良い。
【0046】
なお、フィルム12からの溶剤の蒸発に代えて、この加熱により収縮するフィルム12を搬送する場合にも、本発明を適用することができる。加熱により収縮するフィルム12としては、例えば、ポリマー分子がZ2方向に配向した状態のフィルム12などがある。ポリマー分子がZ2方向に配向した状態は、フィルム12をZ2方向に延伸することにより得られる。そして、ポリマー分子がZ2方向に配向した状態のフィルム12のZ2方向両端部をクリップ22により把持した状態で、フィルム12を加熱する。加熱によりフィルム12は、Z2方向において収縮するが、クリップ22の把持により、収縮による耳部の滑りを抑えることができる。
【0047】
なお、本発明は、Z2方向での収縮による耳部の滑りを抑えることも可能であり、Z1方向と交差する方向での収縮による耳部の滑りを抑えることも可能である。
【0048】
図18に示すように、溶液製膜設備110は、流延室112とピンテンタ113とクリップテンタ15と乾燥室115と冷却室116と巻取室16とを有する。流延室112には、流延ダイ121、流延ドラム122、減圧チャンバ123及び剥取ローラ124が設けられる。
【0049】
流延ドラム122は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム122は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸を中心に回転する。流延ドラム122の回転により、流延ドラム122の周面は所定の速度で走行する。
【0050】
流延ドラム122には温調装置125が接続する。温調装置125は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置125は、温度調節部及び流延ドラム122内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム122の周面の温度を所望の温度に保つことができる。
【0051】
(流延ダイ)
流延ダイ121は、流延ドラム122の上方に設けられる。流延ダイ121は、先端にドープ127を流出するスリットを有する。流延ダイ121は、スリットが流延ドラム122に近接するように配される。流延ダイ121から流出したドープ127は、移動する流延ドラム122の周面上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜128を形成する。
【0052】
剥取ローラ124は、流延ダイ121よりもA方向の下流側に配される。剥取ローラ124は、周面上に形成された流延膜128を剥ぎ取って、湿潤フィルム130として、流延室112の下流側へ案内する。
【0053】
減圧チャンバ123は、流延ダイ121よりもA方向の上流側、かつ剥取ローラ124よりもA方向の下流側に設けられる。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ123は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して低くなるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0054】
流延室112の下流には、ピンテンタ113、クリップテンタ15、乾燥室115、冷却室116、及び巻取室16が順に設置されている。流延室112とピンテンタ113との間の渡り部133では、複数のローラ134を用いて、流延室112から送り出された帯状の湿潤フィルム130をピンテンタ113へ搬送する。ピンテンタ113は、湿潤フィルム130の幅方向の両端を貫通して保持する多数のピンプレートを有する。ピンプレートは軌道上を移動する。ピンプレートに保持された湿潤フィルム130に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム130は乾燥し、フィルム12となる。
【0055】
ピンテンタ113及びクリップテンタ15の下流にはそれぞれ耳切装置が設けられている。耳切装置136a、136bはフィルム12の耳部を切り離す。この切り離された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0056】
乾燥室115には、多数のローラ140が設けられており、これらにフィルム12が巻き掛けられて搬送される。乾燥室115内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室115の通過によりフィルム12の乾燥処理が行われる。乾燥室115には吸着回収装置141が接続される。吸着回収装置141は、フィルム12から蒸発した溶剤を吸着により回収する。
【0057】
冷却室116では、フィルム12の温度が略室温になるまで、フィルム12が冷却される。冷却室116と巻取室16との間には、Z1方向上流側から下流側に向かって、フィルム12に除電処理を施す除電バー144と、フィルム12の耳部に巻き取り用のナーリングを付与するナーリング付与ローラ145とが順に設置されている。
【0058】
クリップテンタ15に導入されるフィルム12に、溶剤が含まれる場合には、クリップテンタ15内で、フィルム12から溶剤を蒸発する。この場合には、図19に示すように、ケーシング20内に送風ヘッド150を設けてもよい。送風ヘッド150はそれぞれフィルム12の搬送路の上方に設けられ、各エリア20a〜20dにおいて、それぞれZ1方向へ並べられる。なお、送風ヘッド150をフィルム12の搬送路の下方に設けても良いし、フィルム12の搬送路の上方及び下方の両方に設けても良い。また、送風ヘッド150を設けるエリアは、各エリア20a〜20dの全てに限られず、各エリア20a〜20dのうち、一または二以上のエリアであってもよい。
【0059】
送風ヘッド150は、送風ヘッド150の内部に設けられる内部ダクト、及び複数のノズルを有する。ノズルは、Z1方向に所定のピッチで並ぶように配される。ノズルの先端には、内部ダクトと連通するスリット状の開口が設けられる。開口は、方向Z2に長く伸びるように形成される。
【0060】
送風ヘッド150は、温度調節風コントローラ151と接続する。温度調節風コントローラ151は、乾燥空気の温度等の条件を、乾燥空気が供給されるエリアごとに個別に調節し、温度等の条件が所定の範囲内となった乾燥空気を、各送風ヘッド150に送る。各エリアに設けられた送風ヘッド150は、ノズルの開口からフィルム12に向けて乾燥空気を送出す。乾燥空気との接触により、フィルム12に含まれる溶剤が蒸発する。溶剤の蒸発により、フィルム12は収縮する。このため、両端を把持した状態のフィルム12から溶剤が蒸発すると、フィルム12はZ2中央部に向かって収縮しようとするが、本発明によれば、フィルム12の滑りを抑えることができる。したがって、本発明によれば、フィルムの滑りに起因する遅相軸のずれを抑えることが可能となる。
【0061】
(予熱エリア)
予熱エリア20aに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上60重量%以下であることが好ましい。また、予熱エリア20aにおけるフィルム12の温度Tf20aは80℃以上ガラス転移温度Tg未満であることが好ましい。なお、本発明では、流延膜40や各フィルム中に残留する溶剤量を乾量基準で示したものを残留溶剤量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0062】
(延伸エリア)
延伸エリア20bに導入されるフィルム12の残留溶剤量は、0重量%以上40重量%以下であることが好ましい。また、延伸エリア20bにおけるフィルム12の温度Tf20bは60℃以上180℃以下であることが好ましい。延伸率ER(=W2/W1)は、例えば、100%より大きく200%以下であることが好ましい。
【0063】
(緩和エリア)
緩和エリア20cに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上30重量%以下であることが好ましい。また、緩和エリア20cにおけるフィルム12の温度Tf20cは70℃以上160℃以下であることが好ましい。緩和率RR(=W3/W2)は、例えば、90%より大きく100%未満であることが好ましい。
【0064】
(冷却エリア)
冷却エリア20dに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上20重量%以下であることが好ましい。また、冷却エリア20dにおけるフィルム12の温度Tf20dは40℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0065】
本発明により得られるフィルム12は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0066】
フィルム12の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム12の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。また、フィルム12の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0067】
また、フィルム12の面内レターデーションReは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム12の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0068】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0069】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0070】
上記実施形態では、溶液製膜設備にて製造されたフィルムについて本発明を用いたが、溶融製膜設備にて製造されたフィルムについて本発明を用いることもできる。
【0071】
(ポリマー)
本発明に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0072】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0073】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0074】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0075】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0076】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0077】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0078】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0079】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0080】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0081】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0082】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0083】
上記実施形態では、本発明を遅相軸のばらつきの抑制策として用いたが、本発明はこれに限られず、クリップの把持滑りの防止策、又はクリップの把持滑りに起因する別の課題の対策として用いることもできる。
【0084】
上記実施形態は、光透過性を有するフィルムを用いたが、これに限られず、ポリマーフィルムであってもよいし、アルミなどの無機材料からなるフィルムであってもよい。
【実施例】
【0085】
(実験1)
図2に示すクリップテンタ15において、図3に示すフレーム33及び図6に示すフラッパ34を有するクリップ22を用いて、帯状のTACフィルムの両端部を把持した状態で、TACフィルムをZ2方向へ延伸した。TACフィルムは、溶液製膜方法により得られたものであり、幅は1050mmであり、厚みは71μmであった。延伸率ERは120%であった。延伸開始時におけるTACフィルムの残留溶剤量は0質量%であった。延伸におけるTACフィルムの温度は170℃〜175℃であった。隣り合う第1稜53のクリアランスCL1は5mmであった。
【0086】
(実験2)
フラッパ34の代わりに、溝を有さない押圧面172aを有するフラッパ172(図20参照)を用いたこと以外は、実験1と同様にして、TACフィルムをZ2方向へ延伸した。
【0087】
(実験3)
フラッパ34の代わりに、フラッパ173(図21参照)を用いたこと以外は、実験1と同様にして、TACフィルムをZ2方向へ延伸した。フラッパ173の押圧面173aには、Z2方向に伸びるV字状の溝173bを設けた。
【0088】
(実験4)
フラッパ34の代わりに、互いに交差する第1溝及び第2溝を押圧面に有するフラッパを用いたこと以外は、実験1と同様にして、TACフィルムをZ2方向へ延伸した。押圧面に設けられた第1溝は、Z2方向との角度は略45°であり、第1溝と第2溝の交差角度は略直角であった。
【0089】
図22に示すように、実験1〜4で得られたTACフィルム200の把持線HL上には、長さ96mmの把持跡HMが5mmおきに並んでいた。把持線HL上において各把持跡HMの端の位置を、図示のように位置KP0〜KP5とし、把持線HL上の位置KP0及び位置KP1の中点を位置GP0とした。同様にして、把持線HL上の位置KP2及び位置KP3の中点を位置GP1とし、把持線HL上の位置KP4及び位置KP5の中点を位置GP2とした。図示は省略するが、位置GP3〜GP5も、それぞれ、隣り合う把持跡の中点である。
【0090】
(評価)
実験1〜4で得られたTACフィルムについて、次の評価を行った。
【0091】
(遅相軸ズレD)
図22に示すように、延伸工程を経たTACフィルム200について、Z1方向のラインML1をZ2方向に並ぶように複数設けた。各ラインML1上の測定点において、TACフィルム200の配向角φZ1を測定した。ラインML1上におけるTACフィルム200の配向角φZ1のうち、最大値から最小値を減じたものを遅相軸のズレ量DZ1とした。
【0092】
図23及び図24には、遅相軸のズレ量DZ1の測定結果を示す。図23及び図24における横軸は、クリップ22の把持線HL(図22参照)からラインML1までの間隔C1(図22参照)を表す。図22及び図23における縦軸は、各ラインML1における遅相軸のズレ量DZ1を表す。図23〜図24において、実験1の測定データを「×」で表す。同様に、図23〜図24において、実験2の測定データを「◇」で表し、実験3の測定データを「△」で表し、実験4の測定データを「□」で表す。
【0093】
図23及び図24に示すように、フラッパの押圧面の形状により、Z1方向の遅相軸のズレ量DZ1が変わること、特に、実験1のフラッパを用いたときに、Z1方向の遅相軸のズレ量DZ1が小さくなることがわかった。
【0094】
更に、図25〜図28にはラインML1上の各測定点における配向角φZ1及び把持線HL及び端部FEの間隔C2(図22参照)の測定結果の一部を示す。図25及び図26は実験4についてのものであり、図27及び図28は実験1についてのものである。図25及び図27は第1のラインML1(間隔C1=47mm)の測定結果の一部であり、図26及び図28は第2のラインML1(間隔C1=72mm)の測定結果の一部である。図25〜図28における横軸は、図22に示すように、基準位置SPから当該ラインML1上の測定点までの間隔C3を表し、図25〜図28における縦軸は配向角φZ1(シンボルは「△」)及び間隔C2(シンボルは「□」)を表す。ここで、基準位置SPは、位置GP0からZ2方向に伸びる基準線SL及び各ラインML1の各交点である。
【0095】
このように、隣り合う把持跡の間の部分では他の部分に比べ、間隔C2が小さくなっていること、及び配向角φZ1が大きくなっていることから、クリップで把持された耳部の滑り変形量と遅相軸のばらつきとに相関があることがわかる。そして、本発明の実施例である実験1(図27及び図28)は、本発明の比較例である実験4(図25及び図26)によりも、間隔C2及び配向角φZ1のばらつきが小さいことから、実験1では、実験4に比べて耳部の滑りが抑えられていたことがわかる。したがって、本発明によれば、実験1のように、クリップで把持された耳部の滑りを抑えることができるため、耳部の滑りに起因する遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【符号の説明】
【0096】
10 溶液製膜設備
14 クリップテンタ
50 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの表面と接触する接触面を有する第1部材と前記ウェブの裏面と接触する第2接触面を有する第2部材とを用いて前記ウェブの幅方向端部を把持し、前記ウェブの長手に沿って設けられたレール上を移動自在なテンタ用クリップにおいて、
前記第1部材及び前記第2部材の少なくともいずれか一方には、前記接触面よりも凹むように形成された凹み面が前記接触面よりも前記幅方向端側に設けられ、
前記接触面と前記凹み面との境界となる稜が、前記幅方向と交差する方向に形成されたことを特徴とするテンタ用クリップ。
【請求項2】
前記接触面には前記凹み面を有する溝が形成されたことを特徴とする請求項1記載のテンタ用クリップ。
【請求項3】
前記第1部材または前記第2部材は、前記接触面が前記ウェブと接する接触位置及び前記接触面が前記ウェブから離れた離隔位置との間で移動自在であることを特徴とする請求項1または2記載のテンタ用クリップ。
【請求項4】
前記ウェブの搬送路の両側に設けられた前記レールと請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のテンタ用クリップとを有し、
前記レールの間隔は、前記ウェブの搬送方向に向かうに従って大きくなることを特徴とするテンタ装置。
【請求項5】
前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブから溶剤を蒸発させる乾燥部、または、前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブを加熱する加熱部の少なくとも一方を有すること特徴とする請求項4記載のテンタ装置。
【請求項6】
前記ウェブの搬送路の両側に設けられた前記レールと請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のテンタ用クリップとを有し、
前記レールの間隔は、前記ウェブの搬送方向に向かうに従って小さくなる、又は一定であり、
前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブから溶剤を蒸発させる乾燥部、または、前記幅方向両縁部が把持された状態の前記ウェブを加熱する加熱部の少なくとも一方を有することを特徴とするテンタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−194798(P2011−194798A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66032(P2010−66032)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】