説明

ディジタル信号の位相差検出方法

【課題】比較的低速かつ小規模のディジタル回路により精度の高い位相差検出を行う。
【解決手段】トラッキングサーボ回路10において、入力部のローパスフィルタ(LPF)12〜18および利得制御増幅器(GCA)20〜26はアナログ回路であり、A/D変換器28〜34より後段のオフセット・キャンセル回路36〜42、イコライザ(EQ)44〜50、位相差検出器52,54、加算器56、LPF58、利得制御増幅器(GCA)60およびサーボDSP154はすべてディジタル回路で構成される。両位相差検出器52,54は本発明の位相差検出方法にしたがって両入力信号の位相差を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル信号の位相差検出方法に係り、特に光ディスク装置におけるトラッキングサーボ技術に用いて好適な位相差検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図19に、DPD(Differential Phase Detection)方式による従来のトラッキングサーボ機構の一例を示す。このトラッキングサーボ機構はDVD(Digital Versatile Disc)によく用いられている。
【0003】
光ピックアップ100は、光ディスク102の信号記録面にレーザ光LBを集光照射し、信号記録面からの反射光ビームを検出して光電変換し、ピット列の凹凸パターンに対応した波形を有する高周波の電気信号つまりRF信号を生成する。ここで、光ピックアップ100の光電変換部104は、たとえばフォトダイオードからなる4つの受光領域A,B,C,Dからなり、図示省略するが、これらの受光領域A,B,C,Dを斜め四方から突き合わせるようにして分割配置している。そして、一方の対角線上に位置する受光領域A,Cよりそれぞれ得られるRF信号A,Cは互いにほぼ同相の関係にあり、他方の対角線上に位置する受光領域B,Dよりそれぞれ得られるRF信号B,Dは互いにほぼ同相の関係にあり、RF信号A,CとRF信号B,Dとはトラッキング誤差に応じて相互の位相差が変動する関係にある。なお、光電変換部104は実際には光ピックアップ100の内部にあるが、図19では説明の便宜のために光電変換部104の個々を光ピックアップ100から取り出して図示している。
【0004】
トラッキングサーボ回路は、アナログ回路からなる前段のアナログ・フロントエンド部106と、ディジタル回路からなる後段のディジタル・フロントエンド部108とで構成される。両フロントエンド部106,108は別々の半導体チップ上に形成されることが多い。
【0005】
アナログ・フロントエンド部106において、利得制御増幅器(GCA)110,112,114,116は、光ピックアップ100の光電変換部104からのRF信号A,B、C,Dの振幅をそれぞれ調整する。イコライザ(EQ)118,120,122,124は、それぞれRF信号A,B、C,Dに高域強調による波形成形とノイズカットを施す。オフセット・キャンセル回路126,128,130,132は、それぞれRF信号A,B、C,Dの中心レベル(零レベル)を揃えるようにオフセットを取り除く。ゼロクロス・ディテクタ(ZRC)134,136,138,140は、それぞれ演算増幅器からなるコンパレータで構成され、図20に示すように、RF信号A,B、C,Dの電圧レベルが電圧ゼロの基準レベルを横切るタイミングを検出し、各立ち上がりエッジおよび各立ち下がりエッジが各ゼロクロスのタイミングに対応する二値信号を出力する。
【0006】
一方の位相差検出器142は、RF信号Aに対応するゼロクロス・ディテクタ(ZRC)134からの二値信号(A)とRF信号Bに対応するゼロクロス・ディテクタ(ZRC)136からの二値信号(B)とを入力し、図21に示すように、両二値信号(A),(B)の位相差に相当する可変のパルス幅を有するパルス信号または第1の位相差信号φABを出力する。この第1の位相差信号φABは、二値信号(B)に対して二値信号(A)の位相が進んでいるときは正極性で出力され、二値信号(B)に対して二値信号(A)の位相が遅れているときは負極性で出力される。
【0007】
他方の位相差検出器144は、RF信号Cに対応するゼロクロス・ディテクタ(ZRC)138からの二値信号(C)とRF信号Dに対応するゼロクロス・ディテクタ(ZRC)140からの二値信号(D)とを入力し、両二値信号(C),(D)の位相差に相当する可変のパルス幅を有するパルス信号または第2の位相差信号φCDを出力する。この第2の位相差信号φCDは、二値信号(D)に対して二値信号(C)の位相が進んでいるときは正極性で出力され、二値信号(D)に対して二値信号(C)の位相が遅れているときは負極性で出力される。
【0008】
上記のようにして両位相差検出器142,144よりそれぞれ出力される第1および第2の位相差信号φAB,φCDは、演算増幅器からなる加算器146で足し合わされる。基本的には、この加算器146より出力される和信号φAB/CDをDPD方式のトラッキングエラー信号とすることができる。もっとも、通常は、トラッキングサーボに必要なエラー成分を取り出すために、加算器146の出力信号φAB/CDをローパスフィルタ(LPF)148に通して平均化し(図21)、さらに利得制御増幅器(GCA)150に通してゲイン調整したものをトラッキングエラー信号としてディジタル・フロントエンド部108に与えるようにしている。
【0009】
ディジタル・フロントエンド部108は、アナログ・フロントエンド部106からのアナログのトラッキングエラー信号をディジタルのトラッキングエラー信号に変換するアナログ−ディジタル(A/D)変換器152と、トラッキングエラー信号に応答して送り機構またはアクチエータ156に光ピックアップ100の位置を光ディスク102のラジアル方向で制御するための制御信号を与えるサーボプロセッサ(たとえばDSP:Digital Signal Processor)154とで構成されている。
【0010】
光ディスク102の信号記録面上でレーザ光LBのビームスポットがトラックの中心からラジアル方向にずれると、そのトラッキングずれの大きさに応じてRF信号A,B間の位相差およびRF信号C,D間の位相差がそれぞれ変化し、両位相差検出器142,144の出力信号φAB,φCD、加算器146の出力信号φAB/CDひいてはローパスフィルタ(LPF)148の出力信号に含まれる位相差情報つまりトラッキング誤差情報がサーボDSP154にフィードバックされる。このフィードバックされたトラッキング誤差情報に応じてサーボDSP154が送り機構156を通じてラジアル方向における光ピックアップ100の位置を制御することで、レーザ光LBのビームスポットをトラックに追従させるためのトラッキングサーボがかけられる。なお、サーボDSP154と送り機構156との間にディジタル−アナログ(D/A)変換器(図示せず)が設けられることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような従来のトラッキングサーボ回路は、2チップ(106,108)構成であることと、イコライザ(EQ)118〜124およびローパスフィルタ(LPF)148の面積が特に大きいためにアナログ・フロントエンド部106の回路規模が大きいことが問題になっている。それ故、アナログ・フロントエンド部106のディジタル化によって回路面積の縮小化やトラッキングサーボ回路全体の1チップ化を図ることが希求されている。
【0012】
しかしながら、コンパレータからなるゼロクロス・ディテクタ(ZRC)134〜140の出力より得られるゼロクロスの時刻が時間的に連続する値をとるため、ゼロクロス・ディテクタ(ZRC)134〜140や位相差検出器142,144をそのまま同期式のディジタル回路で構成しようとすれば、ゼロクロス時刻の測定精度はクロック周波数に依存するため、アナログ回路と同等の精度を得るには数万GHz以上のクロック周波数とそのようなクロック周波数で動作する超高速のディジタル回路が必要となり、現在のディジタル技術で実現するのは殆ど不可能である。このようにゼロクロス・ディテクタ(ZRC)134〜140や位相差検出器142,144をディジタル同期回路で実現できない以上、イコライザ(EQ)118〜124やローパスフィルタ(LPF)148のみをディジタル化しても前後の回路とディジタルで接続することが困難である。結局、前段フロントエンド部106内の機能をすべてアナログ回路で実装せざるを得ないのが従来技術の現状である。
【0013】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、比較的低速かつ小規模のディジタル回路によって精度の高いディジタル信号の位相差検出を行える方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明におけるディジタル信号の位相差検出方法は、第1のディジタル信号の第1のディジタル値の第1の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、上記第1のディジタル信号の第2のディジタル値の上記第1の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、第2のディジタル信号の第1のディジタル値の第2の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、上記第2のディジタル信号の第2のディジタル値の上記第2の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性と上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性との関係と、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性との関係と、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性と上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性との関係又は上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性との関係とに基づいて区分けされるパターンに対応する、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値、上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値、上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差に対する演算に基づいて上記第1のディジタル信号と上記第2のディジタル信号との位相差を示す信号を算出するステップとを有する。
【0015】
この位相差検出方法において、好ましい一態様によれば、上記パターンに対応する演算が、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差との除、上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値と、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差との除、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差との除、上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値と、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差との除に基づいて行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のような構成を有することにより、比較的低速かつ小規模のディジタル回路によって精度の高いディジタル信号の位相差検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1〜図18を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0018】
図1に、本発明の一実施形態におけるディジタル信号の位相差検出方法の適用可能なDVD用トラッキングサーボ機構の構成を示す。図中、光ピックアップ100、光ディスク102、光電変換部104、サーボDSP154、送り機構156の構成および機能は図19の各対応するものと共通しているので、それらの詳細な説明は省略する。
【0019】
この実施形態におけるトラッキングサーボ回路10は、アナログ回路とディジタル回路とを1つの半導体チップ上に混載したワンチップ回路として構成可能なものである。この内、アナログ回路は入力部のローパスフィルタ(LPF)12〜18および利得制御増幅器(GCA)20〜26だけであり、アナログ−ディジタル(A/D)変換器28〜34より後段の回路すなわちオフセット・キャンセル回路36〜42、イコライザ(EQ)44〜50、第1および第2位相差検出器52,54、加算器56、ローパスフィルタ(LPF)58、利得制御増幅器(GCA)60およびサーボDSP154はすべてディジタル回路で構成されている。
【0020】
ローパスフィルタ(LPF)12,14,16,18は、アンチ・エイリアシング用のフィルタであり、光ピックアップ100の光電変換部104からの各RF信号A,B、C,Dに含まれる高周波成分の雑音をそれぞれ除去する。利得制御増幅器(GCA)20,22,24,26は、それぞれRF信号A,B、C,Dの振幅を調整する。アナログ−ディジタル(A/D)変換器28,30,32,34は、それぞれRF信号A,B、C,Dを所定のサンプリング周波数(たとえばチャネルクロック周波数が4.36MHzの場合は、その6倍の26.16MHz)でディジタル信号に変換する。オフセット・キャンセル回路36,38,40,42は、それぞれRF信号A,B、C,Dに含まれるオフセットをディジタル演算処理により取り除いて中心レベル(零レベル)を揃える。イコライザ(EQ)44,46,48,50は、それぞれRF信号A,B、C,Dにディジタル演算処理による高域強調を施して波形成形とノイズカットを行う。
【0021】
一方の位相差検出器52は、RF信号Aに対応するイコライザ(EQ)44からのディジタル信号(A)とRF信号Bに対応するイコライザ(EQ)46からのディジタル信号(B)とを入力し、後述するディジタル演算処理により両RF信号A,Bのそれぞれのゼロクロス時点を検出し、両RF信号A,Bの間で対応するゼロクロス同士の時間差を表す第1の位相差信号ΦABを生成する。
【0022】
他方の位相差検出器54は、RF信号Cに対応するイコライザ(EQ)48からのディジタル信号(C)とRF信号Dに対応するイコライザ(EQ)50からのディジタル信号(D)とを入力し、後述するディジタル演算処理により両RF信号C,D間のそれぞれのゼロクロス時点を検出し、両RF信号C,Dの間で対応するゼロクロス同士の時間差を表す第2の位相差信号ΦCDを生成する。
【0023】
両位相差検出器52,54よりそれぞれ出力される第1および第2の位相差信号ΦAB,ΦCDは、加算器56で足し合わされる。基本的には、この加算器56より出力される和信号ΦAB/CD(ΦAB+ΦCD)をDPD方式のトラッキングエラー信号とすることができる。この実施形態では、トラッキングサーボの安定性および応答速度を高めるために、加算器56の出力信号ΦAB/CDをローパスフィルタ(LPF)58に通して平均化し、さらに利得制御増幅器(GCA)60に通してゲイン調整したものをトラッキングエラー信号としてサーボDSP154に与える。
【0024】
この実施形態においても、光ディスク102の信号記録面上でレーザ光LBのビームスポットがトラックの中心からラジアル方向にずれると、そのトラッキングずれの大きさに応じてRF信号A,B間の位相差およびRF信号C,D間の位相差がそれぞれ変化し、両位相差検出器52,54の出力信号ΦAB,ΦCDおよび加算器56の出力信号ΦAB/CDひいてはローパスフィルタ(LPF)58の出力信号に含まれる位相差情報つまりトラッキング誤差情報がサーボDSP154にフィードバックされる。このフィードバックされたトラッキング誤差情報に応じてサーボDSP154が送り機構156を通じてラジアル方向における光ピックアップ100の位置を制御することで、レーザ光LBのビームスポットをトラックに追従させるためのトラッキングサーボがかけられる。
この実施形態における特徴の一つは、両位相差検出器52,54において第1および第2の位相差信号ΦAB,ΦCDをディジタル演算処理により生成するアルゴリズムである。
【0025】
図2に、位相差検出器52の一構成例を示す。この位相差検出器52は、両RF信号A,Bのそれぞれのゼロクロス時点を検出するゼロクロス検出部62,64と、両RF信号A,Bの間で対応するゼロクロス同士の時間差を求める位相差演算部66とを有する。ゼロクロス検出部62は、RF信号Aに対応するイコライザ(EQ)44からのディジタル信号(A)について、サンプリング区間毎にディジタル値の符号を監視し、図3に示すように、符号が変わる前後の複数たとえば2つのディジタル値An-1,Anを基に所定の近似式たとえば下記の一次近似式(1)を演算して、RF信号AにおけるゼロクロスZAの時点tZAを補間して求める。
ZA=tn-1+|An-1|TS/|An-1−An| ‥‥‥(1)
【0026】
ここで、tn-1は符号が変わる直前のサンプリング時点であり、TSはサンプリング周期である。サンプリング周期内の時間を正規化する場合は、TS=1としてよい。
【0027】
同様に、ゼロクロス検出部64は、RF信号Bに対応するイコライザ(EQ)46からのディジタル信号(B)について、サンプリング区間毎にディジタル値の符号を監視し、符号が変わる前後の複数たとえば2つのディジタル値Bn-1,Bnを基に上記の式(1)と同じ近似式を演算し、RF信号BにおけるゼロクロスZBの時点tZBを補間して求める。
【0028】
位相差演算部66は、両RF信号A,Bの間で対応する(時間的に隣接する)補間ゼロクロス同士の時間差(tZA−tZB)を求め、この時間差つまり位相差(tZA−tZB)を表すディジタル信号を第1の位相差信号ΦABとして出力する。
【0029】
他方の位相差検出器54も上記位相差検出器52と同じ構成(図2)を有し、同様の作用(図3)を奏する。したがって、位相差検出器54からは、両RF信号C,Dの間で対応する(時間的に隣接する)補間ゼロクロス同士の時間差つまり位相差(tZC−tZD)を表すディジタル信号が第2の位相差信号ΦCDとして出力される。
【0030】
図4に、実施形態における位相差検出器52の構成を示す。この位相差検出器52は、1サンプル遅延回路または遅延レジスタ(Z-1)70,72、ケース判別部74、位相差演算部76およびマルチプレクサ(MUX)78を有する。
【0031】
ケース判別部74は、両RF信号A,Bに対応するイコライザ(EQ)44,46からのディジタル信号と遅延レジスタ(Z-1)70,72からの1サンプル前のディジタル信号とを入力し、サンプリング区間毎に連続する2つのサンプリング点(tn-1,tn)で得られる一組のディジタル値(An-1,Bn-1,An,Bn)間の符号関係のパターンを判別する。図5〜図14に示すように、これら一組のディジタル値(An,Bn,An-1,Bn-1)間の符号関係パターンには9つのケース0(0−0,0−1)、1,2,3,4,5,6,7がある。
【0032】
ケース0は、図5に示すように、Anの符号とBnの符号が異なり(signAn≠signBn)、An-1の符号とAnの符号が異なり(signAn-1≠signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が異なる(signBn-1≠signBn)場合である。このケース0は、さらに、両RF信号A,BにおけるゼロクロスZA,ZBの前後関係により、図6に示すようにゼロクロスZAがゼロクロスZBの後に来るケース0−0と、図7に示すようにゼロクロスZAがゼロクロスZBの前に来るケース0−1とに場合分けされる。
【0033】
ケース1は、図8に示すように、Anの符号とBnの符号が異なり(signAn≠signBn)、An-1の符号とAnの符号が異なり(signAn-1≠signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が同じ(signBn-1=signBn)場合である。
【0034】
ケース2は、図9に示すように、Anの符号とBnの符号が異なり(signAn≠signBn)、An-1の符号とAnの符号が同じ(signAn-1=signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が異なる(signBn-1≠signBn)場合である。
【0035】
ケース3は、図10に示すように、Anの符号とBnの符号が異なり(signAn≠signBn)、An-1の符号とAnの符号が同じ(signAn-1=signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が同じ(signBn-1=signBn)場合である。
【0036】
ケース4は、図11に示すように、Anの符号とBnの符号が同じ(signAn=signBn)、An-1の符号とAnの符号が異なり(signAn-1≠signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が異なる(signBn-1≠signBn)場合である。
【0037】
ケース5は、図12に示すように、Anの符号とBnの符号が同じ(signAn≠signBn)、An-1の符号とAnの符号が異なり(signAn-1≠signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が同じ(signBn-1=signBn)場合である。
【0038】
ケース6は、図13に示すように、Anの符号とBnの符号が同じ(signAn=signBn)、An-1の符号とAnの符号が同じ(signAn-1=signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が異なる(signBn-1≠signBn)場合である。
【0039】
ケース7は、図14に示すように、Anの符号とBnの符号が同じ(signAn=signBn)、An-1の符号とAnの符号が同じ(signAn-1=signAn)、Bn-1の符号とBnの符号が同じ(signBn-1=signBn)場合である。
【0040】
位相差演算部76も、両RF信号A,Bに対応するイコライザ(EQ)44,46からのディジタル信号と遅延レジスタ(Z-1)70,72からの1サンプル遅延したディジタル信号とを入力する。そして、同時に入力した一組つまり4個のディジタル値(An-1,Bn-1,An,Bn)について9通りの演算式を実行して9個の演算出力Q00n,Q01n,Q1n,Q2n,Q3n,Q4n,Q5n,Q6n,Q7nを生成する。
【0041】
第1の演算出力Q00nは、下記の演算式(2)の演算結果であり、図6に示すようにケース0−0に適合するものである。ここで、TA,TBは当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間である。
Q00n=TA+TB
=|An|/|An-1−An|+|Bn-1|/|Bn-1−Bn| ‥‥(2)
【0042】
第2の演算出力Q01nは、下記の演算式(3)の演算結果であり、図7に示すようにケース0−1に適合するものである。やはり、TA,TBは当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間である。
Q01n=−(TA+TB
=−|An-1|/|An-1−An|−|Bn|/|Bn-1−Bn| ‥‥(3)
【0043】
第3の演算出力Q1nは、下記の演算式(4)の演算結果であり、図8に示すようにケース1に適合するものである。ここで、TAは当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間である。
Q1n=TA
=|An|/|An-1−An| ‥‥(4)
【0044】
第4の演算出力Q2nは、下記の演算式(5)の演算結果であり、図9に示すようにケース2に適合するものである。ここで、TBは当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間である。
Q01n=−TB
=−|Bn|/|Bn-1−Bn| ‥‥(5)
【0045】
第5の演算出力Q3nは、下記の演算式(6)の演算結果であり、図10に示すようにケース3に適合するものである。この場合は、直前の区間(tn-2〜tn-1)のケースに応じてQ3が3通りの中のいずれかの値をとる。
Q3n=TS=1(直前の区間がケース0−0又はケース1)
Q3n=−TS=−1(直前の区間がケース0−1又はケース2)
Q3n=Q3n-1(上記以外のケースの場合) ‥‥(6)
【0046】
第6の演算出力Q4nは、下記の演算式(7)の演算結果であり、図11に示すようにケース4に適合するものである。ここで、(TA−TB)は当該区間(tn-1〜tn)内の一次近似においてRF信号A側の符号とRF信号B側の符号とが相違する期間である。
Q4n=TA−TB
=|An|/|An-1−An|−|Bn|/|Bn-1−Bn| ‥‥(7)
【0047】
第7の演算出力Q5nは、下記の演算式(8)の演算結果であり、図12に示すようにケース5に適合するものである。ここで、TAは単位区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間である。
Q5n=−TA
=−|An-1|/|An-1−An| ‥‥(8)
【0048】
第8の演算出力Q6nは、下記の演算式(9)の演算結果であり、図13に示すようにケース6に適合するものである。ここで、TBは当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間である。
Q6n=TB
=|Bn-1|/|Bn-1−Bn| ‥‥(9)
【0049】
第9の演算出力Q7nは、下記の演算式(10)の演算結果であり、図14に示すようにケース7に適合するものである。この場合、当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間はあり得ない。
Q7n=0 ‥‥(10)
【0050】
上記のようにして位相差演算部76で同時に得られる9個の演算出力Q00n〜Q7nは、一斉にマルチプレクサ(MUX)78に入力される。その中で、有意または有効な演算出力は、現時の入力ディジタル値(An-1,Bn-1,An,Bn)間の符号関係のパターンにマッチングするもの、つまりケース判別部74によって判別されたケースに対応する演算式の演算結果であり、ケース判別部74からの制御信号によりマルチプレクサ(MUX)78で選択される。したがって、任意のサンプリング区間において得られる一組または4個の入力ディジタル値(An-1,Bn-1,An,Bn)間の符号関係のパターンがたとえばケース5のときは、次のサンプリング区間においてマルチプレクサ(MUX)78より第7の演算出力Q5nが出力される。図15に、各ケース0−0,0−1、1,2,3,4,5,6,7と各演算出力Q00n,Q01n,Q1n,Q2n,Q3n,Q4n,Q5n,Q6n,Q7nの対応関係を一覧表で示す。
【0051】
上記のように、各ケースに対応する演算出力Qは、当該区間(tn-1〜tn)内の両RF信号A,Bの一次近似において両信号の符号が相違する期間をディジタル値で表す。これは、従来のアナログ信号処理方式(図21)において両RF信号A,Bの符号が相違する期間を位相差検出器の出力が論理値「1」のパルス幅で表すのに対応している。図16および図17に、この対応関係の理解を助けるための模式的な波形を示す。
【0052】
図16は、RF信号Aの位相がRF信号Bの位相よりも進んでいる場合である。第1の区間(t0〜t1)はケース4のパターンであり、上記演算式(7)が当てはまり、その演算結果である演算出力Q4n(値=0.4)は次の区間(t1〜t2)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0053】
第2の区間(t1〜t2)はケース7のパターンであり、上記演算式(10)が当てはまり、その演算結果である演算出力Q7n(値=0.0)は次の区間(t2〜t3)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0054】
第3の区間(t2〜t3)はケース1のパターンであり、上記演算式(4)が当てはまり、その演算結果である演算出力Q1n(値=0.6)は次の区間(t3〜t4)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0055】
第4の区間(t3〜t4)はケース6のパターンであり、上記演算式(9)が当てはまり、その演算結果である演算出力Q6n(値=0.3)は次の区間(t4〜t5)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0056】
第5の区間(t4〜t5)はケース1のパターンであり、上記演算式(4)が当てはまり、その演算結果である演算出力Q1n(値=0.3)は次の区間(t5〜t6)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0057】
第6の区間(t5〜t6)はケース3のパターンであり、上記演算式(6)が当てはまる。ここで、直前の区間はケース1であるから、演算出力Q3nはQ3n=1で与えられ、次の区間(t6〜t7)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0058】
第7の区間(t6〜t7)はケース6のパターンであり、上記演算式(9)が当てはまり、その演算結果である演算出力Q6n(値=0.4)は次の区間(t7〜t8)にマルチプレクサ(MUX)78より出力される。
【0059】
図16には、比較例として従来のアナログ信号処理方式(図21)において得られる位相差検出器の出力も同一の時間軸上に示している。両RF信号A,B間の位相差を従来方式が時間的に連続したパルスのパルス幅で表すのに対して、本発明は各区間(サンプリング周期)毎の離散的なディジタル値で表す点と、位相差出力のタイミングが従来方式と比べて本発明は略1クロック遅れる点が異なるものの、位相差検出器の出力(位相差信号)を時間積分した値(面積)は実質的に同一または等価である。
【0060】
図17は、RF信号Aの位相がRF信号Bの位相よりも遅れている場合である。位相差検出器の出力の符号が反転する点を除いて図16の場合と同様の作用が奏される。このことは図解から明らかなので、詳細な説明を省略する。
【0061】
図1に戻り、この第2の実施例においても、他方の位相差検出器54は上記位相差検出器52と同じ構成(図4)を有し、両RF信号C,Dについて上記と同様のディジタル演算処理(図5〜図17)を行う。なお、原理的には、両RF信号A,B間の位相差情報ΦABもしくは両RF信号C,D間の位相差情報ΦCDのいずれか一方だけをトラッキング誤差情報とすることも可能である。
【0062】
上記のように、本発明によれば、従来方式がアナログ回路で実装していたゼロクロス時刻検出部を容易に実現可能な速度(MHzオーダ)のディジタル回路に置き換え、しかもアナログ信号処理方式と同等の精度でトラッキングエラーの検出やトラッキングサーボを行うことが可能であり、ゼロクロス時刻検出部だけでなくシステム全体で多くの部分(特に、位相差検出部の前段および後段にそれぞれ設けられるイコライザおよびローパスフィルタ)をアナログ回路からディジタル回路に置き換えることができる。このことにより、システム全体の回路面積を従来の数分の一に縮小化することが可能となり、ワンチップ化も容易に実現できる。さらに、省面積化により消費電力の低減が図れるとともに、ディジタル化により半導体プロセスの変更に伴う回路設計の変更容易性や開発時間の短縮に繋がるという付随的な効果も得られる。
【0063】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形・変更が可能である。たとえば、各RF信号におけるゼロクロスの時刻を補間で求めるために、上記実施形態では符号が変わる前後の2つのディジタル値(An-1,An)を基に一次近似式(1)を用いたが、たとえば符号が変わる前後の3つのディジタル値(An-2,An-1,An)または4つのディジタル値(An-2,An-1,An,An+1)を基に2次近似式または3次近似式を用いることも可能である。また、DPD方式のバリエーションに応じて上記実施形態を変形することができる。たとえば、図18に示すように、RF信号A,B、C,Dからアナログの加算器80,82で2つの和信号(A+C),(B+D)をつくり、両和信号(A+C),(B+D)について上記実施形態の1系統(たとえばA・B系統)と同様の信号処理回路(12〜54)を用いて位相差検出器52より合成トラッキングエラー信号ΦAB/CDを得ることもできる。また、入力部のアンチ・エイリアシング用のローパスフィルタ(LPF)12〜18、利得制御増幅器(GCA)20〜26、A/D変換器28〜34等の回路を他の信号処理(たとえばフォーカシングサーボ)と兼用させることも可能である。本発明は、DVDに限らず、CD(Compact Disc)などの他の光ディスク装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態におけるディジタル信号の位相差検出方法の適用可能なDVD用トラッキングサーボ機構の構成を示すブロック図である。
【図2】位相差検出器の一構成例を示すブロック図である。
【図3】実施例におけるゼロクロス補間のアルゴリズムを示す図である。
【図4】実施形態における位相差検出器の構成を示すブロック図である。
【図5】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(0)を示す図である。
【図6】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(0−0)を示す図である。
【図7】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(0−1)を示す図である。
【図8】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(1)を示す図である。
【図9】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(2)を示す図である。
【図10】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(3)を示す図である。
【図11】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(4)を示す図である。
【図12】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(5)を示す図である。
【図13】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(6)を示す図である。
【図14】一組のディジタル値間の符号関係パターンにおける一ケース(7)を示す図である。
【図15】各ケースと実施例の位相差検出器で得られる各演算出力との対応関係を一覧表で示す図である。
【図16】従来のアナログ信号処理方式と実施例のディジタル信号処理方式との対応関係を示す波形図である。
【図17】従来のアナログ信号処理方式と実施例のディジタル信号処理方式との対応関係を示す波形図である。
【図18】一変形例によるトラッキングサーボ機構の構成を示すブロック図である。
【図19】従来のトラッキングサーボ機構の構成を示すブロック図である。
【図20】従来技術におけるゼロクロス検出方法を示す波形図である。
【図21】従来技術におけるトラッキングエラー信号の生成する信号処理方法を示す波形図である。
【符号の説明】
【0065】
10 トラッキングサーボ回路
12,14,16,18 アンチ・エイリアシング用LPF
20,22,24,26 利得制御増幅器(GCA)
28,30,32,34 A/Dコンバータ
36,38,40,42 オフセット・キャンセル回路
44,46,48,50 イコライザ(EQ)
52,54 位相差検出器
56 加算器
58 平均化用LPF
60 利得制御増幅器(GCA)
62,64 ゼロクロス検出部
66 位相差演算部
70,72 遅延レジスタ
74 ケース判別部
76 位相差演算部
100 光ピックアップ
102 光ディスク
154 サーボDSP
156 送り機構
A,B,C,D 光電変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のディジタル信号の第1のディジタル値の第1の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、
上記第1のディジタル信号の第2のディジタル値の上記第1の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、
第2のディジタル信号の第1のディジタル値の第2の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、
上記第2のディジタル信号の第2のディジタル値の上記第2の基準値に対する極性及び値を保持するステップと、
上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性と上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性との関係と、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性との関係と、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性と上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の極性との関係又は上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の極性との関係とに基づいて区分けされるパターンに対応する、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値、上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値、上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値、上記第1のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第1のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差、上記第2のディジタル信号の上記第1のディジタル値の値と上記第2のディジタル信号の上記第2のディジタル値の値との差に対する演算に基づいて上記第1のディジタル信号と上記第2のディジタル信号との位相差を示す信号を算出するステップと
を有するディジタル信号の位相差検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2008−226432(P2008−226432A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55309(P2008−55309)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【分割の表示】特願2005−74679(P2005−74679)の分割
【原出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(390020248)日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 (219)
【Fターム(参考)】