説明

ディスクが水冷されるディスクブレーキ

【課題】パッドの冷却によるディスクブレーキの冷却或はディスクのパッドに接する表面への直接ミストを噴きつける場合に於ける不都合な問題を回避してディスクブレーキのより適切な冷却を図る。
【解決手段】パッドに係合するディスクの周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されているディスクを有する車輌用ディスクブレーキに於いて、前記ブレード列の半径方向内側から該ブレード列へ向けて水を噴射する手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌用ディスクブレーキに係り、特にブレーキパッドの昇温状態に応じてディスクが水冷されるディスクブレーキに係る。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキのパッドに過熱が生ずると制動力が低下するフェードと称される現象が生ずることに対処して、パッドまたはこれをディスクへ押し付ける押圧部材の少なくとも一方に冷却室を設け、この冷却室に冷却水供給装置により冷却水を供給するようにすることが下記の特許文献1に記載されている。更に下記の特許文献2には、同様のパッド水冷手段を備えたディスクブレーキに於いて、冷却水供給通路の途中にパッドの温度が上昇することにより自動的に開く開閉弁を設けることが記載されている。一方、下記の特許文献3および4には、ディスクブレーキのキャリパにディスクへ向けて開口するノズルを備えた噴霧手段を取付け、かかる噴霧手段により車速やブレーキ温度に応じて冷却水と空気の混合ミストをノズルよりディスクのパッドに接する表面に噴きつけてディスクブレーキの冷却を図ることが記載されている。
【特許文献1】特開平2-159431
【特許文献2】特開平5-187468
【特許文献3】特開平5-215158
【特許文献4】特開平5-215159
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
パッドを構成する摩擦材は一般に多孔構造の材質のものであり、通常の金属材料に比して熱伝導性に劣るので、上記特許文献1または2に記載されている如く、パッドにジグザグ形状や熊手形状の冷却水通路を設けてパッドの冷却を図る場合、パッド全体が一様には冷却されにくく、冷却不足の箇所が生じやすいと懸念される。一方、上記特許文献3および4に記載されている如く、ディスクのパッドに接する表面に直に水を噴き付けたのでは、制動力が不安定になると懸念される。
【0004】
ところで、ディスクブレーキのディスクとしては、パッドに係合するディスクの周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されているものが知られている。本発明は、このように周縁部が二重壁とされ、その間に空冷用ブレード列が形成されているディスクを備えたディスクブレーキに於ける周縁部の二重壁構造とその間に設けられたブレード列を有効に利用して、上記の如きパッドの冷却によるディスクブレーキの冷却或はディスクのパッドに接する表面へ直接ミストを噴きつける場合に於ける不都合な問題を回避してディスクブレーキのより適切な冷却を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、パッドに係合するディスクの周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されているディスクを有する車輌用ディスクブレーキにして、前記ブレード列の半径方向内側から該ブレード列へ向けて水を噴射する手段を有することを特徴とするディスクブレーキを提案するものである。
【0006】
前記水噴射手段は、前記ブレード列の半径方向内側に沿って配置されその外周縁に沿って隔置されて前記ブレード列へ向けて開いた複数のノズル開口を有する環状の管と、該管内へ水を圧送する圧力水源手段とを含んでいてよい。
【0007】
前記圧力水源手段はパッドの温度が所定の限界値を越えたとき作動されるようになっているか、或はディスクブレーキが車輌用であるときには、前記圧力水源手段は車輌の運転状態に基づいて推定されたパッドの温度が所定の限界値を越えたとき作動されるようになっていてよい。
【0008】
ディスクブレーキが車輌用であるときには、前記圧力水源手段はパッドの温度が第一の限界値を越えるかまたは車輌の運転状態に基づいて推定されたパッドの温度が第二の限界値を越えるかの少なくともいずれか一方が生じたとき作動されるようになっていてよく、その場合、前記第二の限界値は前記第一の限界値より低く設定されていてよい。
【発明の効果】
【0009】
従来より公知の、パッドに係合するディスクの周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されているディスクを有する車輌用ディスクブレーキに於けるブレード列は、ディスクの回転に伴って該ブレード列を半径方向内側から半径方向外側へ放射方向に横切る空気流を起こさせてディスクのパッドと係合する周縁部の空気冷却を図るものであるが、かかるブレード列の半径方向内側から該ブレード列へ向けて水を噴射する手段が設けられていれば、このブレード列を横切る空気流に水を含ませ、空気流のみによる冷却に比して格段に冷却効果の高い気水混合流により必要に応じてブレード列を強力に冷却することができ、これによってパッドに接するディスクの表面を冷却し、ディスクによってパッドを冷却することにより、パッドが過熱状態となることを抑えることができる。この場合、水はディスク周縁部の二重壁構造の内側に供給されるので、ディスクとパッドの乾いた接触状態が水によって乱されることはなく、これによって制動が不安定になる恐れはない。またディスクの周縁部は回転しながら水冷されるので一様に冷却され、回転するディスク周縁部に当接するパッドはその全面にわたって一様に冷却され、パッド全体が均一に冷却される。またその冷却はパッドに於いて熱が発生するその表面から行われるので、きわめて効果的である。
【0010】
前記水噴射手段が、ブレード列の半径方向内側に沿って配置されその外周縁に沿って隔置されてブレード列へ向けて開いた複数のノズル開口を有する環状の管と、該管内へ水を圧送する圧力水源手段とを含むものとされば、外周縁に沿って隔置された複数のノズル開口を有する環状の管という簡単な装置の追加的付設により環状のブレード列に対し均一に冷却水を噴きつけることがで、またかかる管内へ水を圧送する圧力水源手段も簡単なポンプと貯水タンクと必要ならばそれに開閉弁を追加した装置により得られる。或いはまた、車輌の場合にはワイパーへ水を送る圧力水源手段が既に設けられており、本発明によるディスクブレーキの水冷は車輌の運転中常時継続して必要とされるものではなく、制動負荷が高く、パッドに過熱を生ずる虞のある時のみ行われればよいものであるので、ディスクブレーキ水冷用の圧力水源手段としては、ワイパー用圧力水源手段を共用することによりこれを賄うことも可能である。
【0011】
パッドの温度は適当な温度センサにより検出されるので、前記圧力水源手段はパッドの温度が所定の限界値を越えたとき作動されるようになっていれば、本発明が意図するパッドの過熱防止は、必要な貯水タンクの容量を最小限度に保って、その効果をフルに得ることができる。
【0012】
一方、ディスクブレーキが車輌用であるときには、パッドの温度は車輌の運転状態に基づいて推定できるので、前記圧力水源手段は車輌の運転状態に基づいて推定されたパッド温度が所定の限界値を越えたとき作動されるようになっていれば、パッド温度センサを設けなくても本発明を実施することができる。またパッド温度を車輌の運転状態に基づいて推定するのであれば、パッドが過熱状態になる恐れがあるとき、それを車輌の運転状態から予測できるので、パッド温度の実測に基づいてパッドの水冷を制御するより、より少量の水を用いてより高いパッド過熱防止効果を得ることができる。
【0013】
ディスクブレーキが車輌用であり、前記圧力水源手段はパッドの温度が第一の限界値を越えるかまたは車輌の運転状態に基づいて推定されたパッドの温度が第二の限界値を越えるかの少なくともいずれか一方が生じたとき作動されるようになっていれば、パッド温度を車輌の運転状態に基づき推定してパッド過熱防止制御を行うことの上記の利点を得つつ、パッド温度の実測に基づく制御により、パッド過熱防止を確実に達成することができる。特にその際、前記第二の限界値が前記第一の限界値より低く設定されれば、車輌の運転状態からパッド温度が或る第一の限界値に近づきつつある状態を推定パッド温度がそれより低い或る二の限界値に達した時点で感知することができ、パッド温度が第一の限界値に近づかないよう事前にパッド温度の上昇を抑えておくよう圧力水源手段を作動させることができ、その上で、それにも拘わらず何らかの推定誤差によりパッド温度が実際に第一の限界値まで上昇したときには、その時点で圧力水源手段を作動させ、パッドの過熱を確実に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明によるディスクブレーキの一つの実施の形態を示す幾分解図的縦断面図である。このディスクブレーキは、パッドに係合するディスクの周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されているディスクを有する車輌用ディスクブレーキである。但し、この点に関する構造はすでにこの技術の分野に於いては公知のものである。即ち、図1に於いて、符号10にて全体的に示されているものがブレーキディスクであり、そのディスク状の主部10aの周縁部10bに並んで環状の周縁部10cが設けられ、環状周縁部10cが環状のブレード列10dにより周縁部10bに連結されることにより、周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されたディスクが構成されている。周縁部10bと10cとは、それらの両外側の面にてパッド12および14と接するようになっている。
【0015】
パッド12は裏金16を伴って車輪懸架装置18よりキャリパ20を介して支持されている。パッド14は裏金22を伴って車輪懸架装置18により担持されたホイールシリンダ24内に摺動するピストン26により支持されている。尚、この車輪懸架装置18は、操舵用ナックル28により操舵される操舵輪用車輪懸架装置である。
【0016】
ディスク10はその主部10aの中心孔の周りにて車輪懸架装置18により担持された車軸30の周りに軸受32および34により回転式に支持された車輪ハブ36にボルト38により取付けられている。40は同じボルト38により車輪ハブに取付けられた車輪のディスク部である。ボルト38に捩じ付けられるナットは省略されている。
【0017】
42はブレード列の半径方向内側から該ブレード列へ向けて水を噴射する手段として作動する環状の管であり、ブレード列10dの半径方向内側に沿って配置され、その外周縁に沿って隔置されてブレード列10dへ向けて開いた複数のノズル開口44を有している。管44はその周縁に沿って配置された複数のステイ46により車輪懸架装置18に取り付けられている。管44には、貯水タンク48、ポンプ50、開閉弁52を含む圧力水源手段により圧力水が送られるようになっており、かかる圧力水源手段が作動されると、ノズル開口44よりブレード列10dへ向けて水が噴射されるようになっている。尚、かかる圧力水源手段のうち、貯水タンク48及びポンプ50は、例えばワイパー用のそれらが共用されてもよい。ポンプ50および開閉弁52の作動はマイクロコンピュータを備えた電子制御装置54により制御されるようになっている。
【0018】
電子制御装置54は、車輌に於けるその他の電子制御をも行う車輌の集中電子制御装置であってよく、上記の圧力水源手段の制御はその制御機能の一部として行われるものであってよい。電子制御装置54にはその全ての制御作動に必要な種々の情報が供給されるようになっているが、特に本発明に係る上記の圧力水源手段の制御のために、一例として、パッド12に組み込まれたパッド温度センサ56よりパッド温度を示す信号が供給されるほか、図には示されていない車速センサより車速を示す信号、ブレーキペダルスイッチよりブレーキペダルの踏み込みを示す信号、制動油圧センサよりホイールシリンダ24へ供給される油圧の値を示す信号、外気温センサより外気温度を示す信号、荷重センサより車輌の積載荷重を示す信号等が供給されるようになっていてよい。
【0019】
電子制御装置54は、これらの信号より得られる情報に基づいてパッド12の温度を直接、またパッド14の温度はパッド12の温度と同じかそれに所定の比にて比例する温度であるとの推定の下に感知し、パッドの温度が所定の限界値を越えたときポンプ50を作動させ、また開閉弁52を開くようになっていてよいが、更に、パッドの温度は、如何なる外気温の中で、如何なる積載荷重を積んだ状態の車輌が、如何なる車速にて、如何なる頻度と強さの制動をかけられるかによって、推定できるので、上記の如き各種センサからの信号に基づきパッド温度を推定し、推定されたパッドの温度が所定の限界値を越えたときにも、ポンプ50を作動させ、また開閉弁52を開くようになっていてよい。この場合、ポンプ50を作動させ、また開閉弁52を開くのは、パッド温度センサ56により検出されたパッド温度が或る所定の第一の限界値を越えるか、または車輌の運転状態に基づいて推定されたパッドの温度が第二の限界値を越えるかの少なくともいずれか一方が生じたときとされてよい。
【0020】
この場合に、パッド温度の実測値に対する第一の限界値より車輌の運転状態に基づく推定値に対する第二の限界値が低く設定されていれば、パッド温度が第一の限界値に近づきつつある状態を推定パッド温度がそれより低い二の限界値に達した時点で感知することができ、この時点でポンプ50と開閉弁52の作動を開始し、パッド温度が第一の限界値に近づかないようにすることができる。
【0021】
図2は、本発明によるディスクブレーキを他の一つの実施の形態に於いて示す図1と同様の幾分解図的縦断面図である。図2に於いて、図1に示す部分に対応する部分は図1に於けると同じ符号により示されている。図2に示すディスクブレーキは、軸受のアウターレース58が車輪懸架装置18により担持され、軸受のインナーレース60が車輪ハブを構成している点に於いてのみ、図1の実施の形態と異なっており、軸受部に於けるそれぞれの構造は図より当業者にとって明瞭であると思われるので、図2に示す実施の形態についてのこれ以上の説明は明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0022】
以上に於いては本発明を二つの実施の形態について詳細に説明したが、これらの実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるディスクブレーキの一つの実施の形態を示す幾分解図的縦断面図。
【図2】本発明によるディスクブレーキの他の一つの実施の形態を示す幾分解図的縦断面図。
【符号の説明】
【0024】
10…ブレーキディスク、10a…ブレーキディスクの主部、10b,10c…ブレーキディスクの周縁部、10d…ブレーキディスクの環状ブレード列、12,14…パッド、16…裏金、18…車輪懸架装置、20…キャリパ、22…裏金、24…ホイールシリンダ、26…ピストン、28…操舵用ナックル、30…車軸、32,34…軸受、36…車輪ハブ、38…ボルト、40…車輪のディスク部、42…環状の管、44…ノズル開口、46…ステイ、48…貯水タンク、50…ポンプ、52…開閉弁、54…電子制御装置、56…パッド温度センサ、58…アウターレース、60…インナーレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッドに係合するディスクの周縁部が二重壁とされ、該二重壁の間に空冷用ブレード列が形成されているディスクを有する車輌用ディスクブレーキにして、前記ブレード列の半径方向内側から該ブレード列へ向けて水を噴射する手段を有することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記水噴射手段は、前記ブレード列の半径方向内側に沿って配置されその外周縁に沿って隔置されて前記ブレード列へ向けて開いた複数のノズル開口を有する環状の管と、該管内へ水を圧送する圧力水源手段とを含んでいることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記圧力水源手段は前記パッドの温度が所定の限界値を越えたとき作動されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車輌用ディスクブレーキ。
【請求項4】
ディスクブレーキは車輌用であり、前記圧力水源手段は車輌の運転状態に基づいて推定された前記パッドの温度が所定の限界値を越えたとき作動されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
ディスクブレーキは車輌用であり、前記圧力水源手段は前記パッドの温度が第一の限界値を越えるかまたは車輌の運転状態に基づいて推定された前記パッドの温度が第二の限界値を越えるかの少なくともいずれか一方が生じたとき作動されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記第二の限界値は前記第一の限界値より低く設定されていることを特徴とする請求項5に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−190559(P2008−190559A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22840(P2007−22840)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】