説明

ディスクブレーキ装置

【課題】車両走行中に横力を受けても、ブレーキパッド等の姿勢を安定に保持できるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ディスクブレーキ装置においては、キャリパにおけるピストン46および爪部56の押圧面がブレーキパッドを押圧してディスクロータに押し付けることにより、ブレーキパッドとディスクロータ26との間に摩擦による制動力が発生する。ブレーキパッドがピストン46や爪部56の押圧面に対して傾いている場合、可動突起35〜38のいずれかが駆動されてブレーキパッドがディスクロータ26に沿うように変位または保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクブレーキ装置に関し、特にディスクブレーキの作動を安定化させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にディスクブレーキにおいては、キャリパの内側にディスクロータを挟むように一対のブレーキパッドが配設されている。車両の非回転部分にはマウンティングが固定されており、キャリパがそのマウンティングに対して移動可能に支持されている。ブレーキ液圧が高くなってキャリパがディスクロータに向かって移動すると、一対のブレーキパッドによりディスクロータが挟圧され、その摩擦により制動力が発生する。
【0003】
このようなディスクブレーキにおいて、回転するディスクロータをブレーキパッドが挟持すると、ブレーキパッドはディスクロータに引き摺られる状態になりディスクロータから回転方向の摩擦力、つまり連れまわりトルクを受ける。このため、マウンティングがブレーキパッドを係止してその連れまわりトルクを受けることで制動を行っている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−145088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の旋回走行時には、その車輪に旋回半径方向外向きに慣性力が作用する一方、その慣性力に抗した路面からの半径方向内向きの摩擦力が作用する(以下、この旋回半径方向の力を「横力」ともいう)。このため、上述したディスクブレーキを搭載した車両においては、その慣性力と摩擦力とによる回転モーメントにより車輪が傾けられ、それに伴いディスクロータも傾斜する。その結果、そのディスクロータひいてはブレーキパッドの変位によりキャリパ内のピストンがシリンダ内に押し込まれるいわゆるノックバックが発生する。このノックバックが発生すると、そのピストンが押し込まれた分、余分にストロークしなければ制動力は得られない。すなわち、次の制動時におけるピストンの前進ストロークがノックバックのないときと比べて大きくなる(この余分なストロークを「無効ストローク」という)。その結果、ブレーキペダル等の操作ストロークが通常よりも大きくなり、運転者に違和感を与えてしまうことがある。
【0005】
また、旋回後の直進走行によりディスクロータの傾きが解消されても、そのノックバックの影響でブレーキパッドが依然として傾いている場合がある。その場合、ブレーキパッドがディスクロータに片当たり状態となって偏摩耗を生じさせる可能性もある。
【0006】
一方、このようなノックバックとは別に、旋回制動時においてディスクロータとともにブレーキパッドが傾くと、ピストンとブレーキパッドとが片当たり状態となり、ピストンにブレーキパッドからの反力による回転モーメントが作用する場合がある。それによってシリンダ内にてピストンが傾くと、シリンダにいわゆるこじりが発生してピストンとの間の摺動抵抗が増大し、ピストンの作動不良を発生させる可能性がある。また、それによりディスクロータとブレーキパッドとの接触状態が不安定になり、部分的にその接触面圧が高くなってブレーキ鳴きを発生させる可能性もある。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、車両走行中に横力を受けても、ブレーキパッド等の姿勢を安定に保持できるディスクブレーキ装置を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のディスクブレーキ装置は、車両の車輪とともに回転するディスクロータと、ディスクロータの摩擦摺動面に対向配置されるブレーキパッドと、ブレーキパッドの背面側に配置される押圧面を有し、その押圧面によりブレーキパッドを押圧してディスクロータに押し付けるキャリパと、押圧面とブレーキパッドとの間に設けられ、待機位置から駆動されることにより押圧面とブレーキパッドとを局所的に連結し、ブレーキパッドの受圧位置を変化させる複数の可動部材と、押圧面に対するブレーキパッドの傾きを検出する傾き検出部と、予め設定された制御条件の成立により、ブレーキパッドの傾きに応じて各可動部材をそれぞれ進退させ、ブレーキパッドをディスクロータに沿うように変位または保持させる駆動制御部と、を備える。
【0009】
ここで、「ブレーキパッド」は、ディスクロータを挟むように複数設けられていてもよい。「押圧面」は、キャリパを構成するピストンであってもよい。その場合、ピストンがディスクロータの両側に配置されていてもよい。また、「押圧面」は、ピストンにディスクロータおよびブレーキパッドを挟んで対向配置されるキャリパの部分であってもよい。「可動部材」は、押圧面とブレーキパッドとの間に複数設けられ、各可動部材は個別に駆動され得る。「待機位置」は、可動部材が退避するとその可動部材が押圧面とブレーキパッドとの間に機能的には介在しないような位置であってもよい。可動部材は、固定位置に駆動される必要はなく、その待機位置から所望の位置に連続的に変位可能なものであってよい。「制御条件」としては、押圧面やブレーキパッドの姿勢を安定化させるべき所定の車両状態の成立をその条件として設定してもよい。例えば、ブレーキパッドがディスクロータに対して傾きうる車両の制御状態などを、特定のパラメータに基づいて判定するものであってもよい。
【0010】
この態様によると、キャリパの押圧面がブレーキパッドを押圧してディスクロータに押し付けることにより、ブレーキパッドとディスクロータとの間に摩擦による制動力が発生する。ブレーキパッドが押圧面に対して傾いている場合、予め設定された制御条件が成立すると、各可動部材が駆動されてブレーキパッドがディスクロータに沿うように変位または保持される。これにより、ディスクロータに対するブレーキパッドの片当たりを防止または抑制してその姿勢を安定化させることができる。その結果、ブレーキパッドの偏摩耗を抑制することもできる。
【0011】
具体的には、押圧面がキャリパ内に配設されたピストンからなり、可動部材がブレーキパッドのピストンとの対向面に設けられてもよい。逆に、可動部材がピストンのブレーキパッドとの対向面に設けられていてもよい。また、ディスクロータを挟むように一対のブレーキパッドが配置され、ピストンとその一対のブレーキパッドを挟んで対向配置された支持部も押圧面として機能する場合、その支持部とブレーキパッドとの間にも同様に可動部材を設けてよい。その場合、可動部材は、ブレーキパッドの支持部との対向面に設けられていてもよいし、逆に、支持部のブレーキパッドとの対向面に設けられていてもよい。
【0012】
駆動制御部は、ブレーキパッドが押圧面に対して傾斜しており、かつ車両が横力を受けていない場合に、可動部材を駆動してブレーキパッドを押圧面に平行となるように変位させるパッド姿勢矯正制御を実行してもよい。その横力は、横力検出部により検出される。
【0013】
すなわち、例えば旋回走行等により車両が横力を受けると、その回転モーメントによりディスクロータが傾き、ブレーキパッドもこれに追従して傾斜する。その後に車両が直進走行に戻ると、ディスクロータは車輪とともに変位して押圧面と平行な元の状態に復帰する。一方、ノックバックの発生によりブレーキパッドが傾斜したままであると、ブレーキパッドとディスクロータとが相対的に傾いた状態となる。その状態で制動力が加えられると、片当たりによるブレーキパッドの偏摩耗が生じる可能性がある。そこで、この態様では、車両が横力を受けていないにもかかわらず、ブレーキパッドが押圧面に対して傾斜している場合、可動部材の駆動によりブレーキパッドが強制的に押圧面に平行、つまりディスクロータにも平行な状態に変位させる。その結果、ブレーキパッドの傾きによる偏摩耗の発生を防止または抑制することができる。
【0014】
駆動制御部は、予め設定したノックバック判定条件が成立した場合に、次の制動開始に際して可動部材を駆動し、押圧面,可動部材,ブレーキパッドおよびディスクロータを連結して押圧面による均一な押圧力の伝達経路を確保する無効ストローク低減制御を実行してもよい。
【0015】
ここでいう「ノックバック判定条件」とは、ノックバックが発生したことを車両状態から判定するための条件であり、特定の制御パラメータを判定指標とするなどして適宜設定することができる。例えば、車両への横力の発生履歴やブレーキパッドの傾きの有無、傾き量などからその条件成立の有無を判定してもよい。
【0016】
この態様によれば、ノックバックが発生してキャリパ内のピストンがシリンダ内に押し込められたとしても、その押し込められたストローク分を可動部材の変位により補うことができる。つまり、可動部材の介在により無効ストロークを低減することができ、次の制動時に速やかに制動力を得ることができる。その結果、運転者のブレーキフィーリングを良好に保つことができる。
【0017】
駆動制御部は、その無効ストローク低減制御において、その制動過程で可動部材を徐々に退避させて押圧面をブレーキパッドに当接させるようにするとよい。このようにすれば、無効ストロークが徐々に解消され、押圧面によりブレーキパッドを直接押圧する本来の制動制御に違和感なく戻すことができる。その結果、安定した制動制御を継続することができる。
【0018】
駆動制御部は、ブレーキパッドが押圧面に対して傾斜しており、かつ車両が横力を受けつつ制動中である場合に、可動部材を駆動し、押圧面,可動部材,ブレーキパッドおよびディスクロータを連結して押圧面による均一な押圧力の伝達経路を確保しつつ、ブレーキパッドをディスクロータに沿って当接するように保持させるパッド姿勢追従制御を実行してもよい。
【0019】
この態様によれば、例えば車両の旋回制動中などに押圧面とブレーキパッドとが相対的に傾いたとしても、その傾きによって形成される両者の間隙を可動部材が埋めることができる。その結果、押圧面を介した押圧力をブレーキパッドに均一に付与することができ、ブレーキパッドの偏摩耗等を防止することができる。また、ピストンに回転モーメントが作用することを抑制でき、こじりの発生も防止できる。
【0020】
なお、可動部材については、例えばバイメタルにて構成してもよい。そして、駆動制御部の通電制御により可動部材を変形させて所望の受圧位置に駆動させるようにしてもよい。あるいは、可動部材を変位させる圧電素子を設けてもよい。そして、駆動制御部が圧電素子を通電制御することにより、可動部材を変位させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のディスクブレーキ装置によれば、車両走行中に横力を受けても、ブレーキパッド等の姿勢を安定に保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。 図1は、本発明の実施の形態に係るディスクブレーキ装置が適用されるブレーキ装置の液圧回路を表す図である。
【0023】
ブレーキ装置210は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキペダル212の操作量に基づいて車両の4輪のブレーキを独立に制御するものである。右前輪,左前輪,右後輪,左後輪には、ディスクブレーキ10FR,10FL,10RR,10RLがそれぞれ設けられている。各ディスクブレーキ10FR〜10RLは、ホイールシリンダ220FR〜220RLの液圧によって作動させられる。各ディスクブレーキは、車輪とともに回転するディスクロータを備え、車体側に保持されたブレーキパッドがその液圧によって押し付けられることによりその摩擦力によって回転制動がかけられる。以下、適宜、ディスクブレーキ10FR〜10RLを総称して「ディスクブレーキ10」という。ディスクブレーキ10の具体的構成については後に詳述する。
【0024】
ブレーキペダル212は、その踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ214に接続されている。ブレーキペダル212には、そのペダルストロークを検出するためのストロークセンサ246が設けられている。マスタシリンダ214の出力ポートには、ブレーキペダル212の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ224が接続されている。マスタシリンダ214とストロークシミュレータ224とを接続する流路には、シミュレータカット弁223が設けられている。マスタシリンダ214にはまた、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク226が接続されている。
【0025】
マスタシリンダ214の一方の出力ポートには、右前輪用のホイールシリンダ220FRにつながる液圧通路216が接続されている。マスタシリンダ214の他方の出力ポートには、左前輪用のホイールシリンダ220FLにつながる液圧通路218が接続されている。液圧通路216には右電磁開閉弁222FRが設けられており、液圧通路218には左電磁開閉弁222FLが設けられている。これらの電磁開閉弁は、いずれも非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。また、液圧通路216には右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ248FRが設けられており、液圧通路218には左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ248FLが設けられている。
【0026】
一方、リザーバタンク226には、油圧給排管228の一端が接続されている。この油圧給排管228の他端には、モータ232により駆動されるポンプ234の吸込口が接続されている。また、ポンプ234の吐出口は、高圧管230に接続されている。この高圧管230には、アキュムレータ250とリリーフバルブ253とが接続されている。
【0027】
アキュムレータ250は、ポンプ234によって昇圧されたブレーキフルードを蓄える。アキュムレータ250におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まると、リリーフバルブ253が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管228へと戻される。さらに、高圧管230には、アキュムレータ250の出口圧力を検出するアキュムレータ圧センサ251が設けられている。
【0028】
そして、高圧管230は、増圧弁240FR,240FL,240RR,240RLを介してホイールシリンダ220FR、220FL、220RR、220RLにそれぞれ接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ220FR〜220RLを総称して「ホイールシリンダ220」といい、増圧弁240FR〜240RLを総称して「増圧弁240」という。増圧弁240は、いずれも非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ220の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁である。
【0029】
また、前輪用のホイールシリンダ220FRおよび220FLは、それぞれ減圧弁242FRまたは242FLを介して油圧給排管228に接続されている。減圧弁242FRおよび242FLは、必要に応じてホイールシリンダ220FR,220FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁である。一方、後輪用のホイールシリンダ220RRおよび220RLは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁242RRまたは242RLを介して油圧給排管228に接続されている。以下、適宜、減圧弁242FR〜242RLを総称して「減圧弁242」という。各ホイールシリンダ220FR〜220RLの付近には、それぞれのブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ244FR,244FL,244RRおよび244RLが設けられている。
【0030】
上述の電磁開閉弁222FR,222FL、増圧弁240FR〜240RL、減圧弁242FR〜242RL、ポンプ234、アキュムレータ250等は、ブレーキ装置210の油圧アクチュエータ280を構成する。この油圧アクチュエータ280は、ECU200(「駆動制御部」として機能する)によって制御される。
【0031】
ECU200は、ブレーキペダル212のペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度を算出し、算出された目標減速度に応じて各車輪のホイールシリンダ圧の目標値である目標油圧、つまり目標ホイールシリンダ圧を求める。ECU200は、各車輪のホイールシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧になるように増圧弁240および減圧弁242を制御する。アキュムレータ圧が予め設定された制御範囲の下限値未満であるときには、ECU200によりポンプ234が駆動されてアキュムレータ圧が昇圧され、アキュムレータ圧がその制御範囲に入ればポンプ234の駆動が停止される。なお、ECU200には、ブレーキフルードの液圧を検出するセンサのみならず、車輪の回転速度を検出する車輪速センサ、車両の横方向すなわち車幅方向における加速度(横方向加速度)を検出する横Gセンサ(「横力検出部」として機能する)等の各種センサが接続されている。
【0032】
図2は、本実施の形態に係るディスクブレーキ10の概念構成図である。
ディスクブレーキ10は、いわゆる浮動キャリパとして構成され、図示しない車両の非回転部材に固定されたマウンティング12と、マウンティング12に摺動自在に支持されるキャリパ16とを備えている。キャリパ16は、内部にホイールシリンダ220およびピストン46を有するシリンダ部58と、シリンダ部58から伸び出してディスクロータ26を間にしてシリンダ部58と対向する爪部56(「支持部」に該当する)とを有している。シリンダ部58と爪部56との間には、車輪とともに同軸に回転するディスクロータ26を挟んで、インナパッド32とアウタパッド42とが対向して配設されている。インナパッド32およびアウタパッド42のディスクロータ26に対向していない側には、それぞれ裏金30、40が貼着されている。裏金30は、ディスクロータ26のインナ側において、マウンティング12によりディスクロータ26の軸方向に摺動可能に支持されている。また、裏金40は、ディスクロータ26のアウタ側において、マウンティング12によりディスクロータ26の軸方向に摺動可能に支持されている。なお、本実施の形態では、裏金30とインナパッド32を併せてインナブレーキパッド、裏金40とアウタパッド42を併せてアウタブレーキパッドと呼ぶ場合もある。また、インナブレーキパッド、アウタブレーキパッドを単にブレーキパッドと呼ぶ場合もある。
【0033】
裏金30の背部にはピストン46が配設されている。ピストン46が作動して裏金30を押すと、インナパッド32がディスクロータ26のインナ側の摩擦摺動面33に押圧される。裏金30の背面には、ピストン46の押圧面に対して進退可能な一対の可動突起35,36(「可動部材」に該当する)が設けられている。可動突起35と可動突起36は互いに独立して動作可能であり、裏金30におけるピストン46による押圧力の受圧位置を変化させる機能を有する。
【0034】
一方、裏金40の背部には一対の爪部56が配置されている。この爪部56が相対的に移動して裏金40を押すと、アウタパッド42がディスクロータ26のアウタ側の摩擦摺動面34に押圧される。裏金40の背面には、各爪部56の押圧面に対してそれぞれ進退可能な一対の可動突起37,38(「可動部材」に該当する)が設けられている。可動突起37と可動突起38は互いに独立して動作可能であり、裏金40における爪部56による押圧力の受圧位置を変化させる機能を有する。
【0035】
マウンティング12は、内部に互いに平行なガイド孔20が形成された一対のアーム14を備えている。キャリパ16は、シリンダ部58からディスクロータ26の周方向に延在する一対のシリンダアーム18を備えている。このシリンダアーム18には、スライドピン22をシリンダアーム18にボルト締結するための、互いに平行なピンボルト孔44が形成されている。したがって、ディスクロータ26の軸方向に向けて、スライドピン22がそれぞれピンボルト24にて固定される。スライドピン22のガイド孔20に嵌挿される部分の長さは、ガイド孔20の深さよりも長くされている。そして、スライドピン22は、ガイド孔20に所定の間隙を有して摺動自在に嵌挿される。これにより、キャリパ16は、スライドピン22とガイド孔20の摺動によりディスクロータ26の軸方向に摺動可能な状態でマウンティング12に支持される。
【0036】
スライドピン22の基部と、アーム14のガイド孔20の開口端との間には、ゴム等の可撓性部材で作成された筒状のピンブーツ(ダストブーツともいう)50が取り付けられている。ガイド孔20の開口端部内周面には環状溝64が形成されており、この環状溝64内に、ピンブーツ50の一端の取付部52がスライドピン22との間に締め代をもって嵌合されている。また、スライドピン22の基部の外周にも環状溝66が形成されており、この環状溝66内にピンブーツ50の他端の取付部62が嵌合されている。そして、ガイド孔側の取付部52とスライドピン側の取付部62とを連結する蛇腹状の環状連結部60は、両取付部に比して薄肉であり、スライドピン22の摺動変位に追従して伸縮するようになっている。この環状連結部60によって、スライドピン22とガイド孔20の摺動面が被覆され、摺動面に塵や埃等の異物が侵入するのを防止している。
【0037】
図3は、図2のディスクブレーキ10をディスクロータ26と直角に切断したときの断面図である。ピストン46には、裏金30の背面側を押圧するための押圧面73が形成されている。また、爪部56の先端には、裏金40の背面側を押圧するための押圧面74が形成されている。爪部56は図2に示すように二股に分かれ、それぞれの先端に押圧面74を有し、裏金40を2箇所でバランスよく押圧するようになっている。図示しないマスタシリンダなどが動作してホイールシリンダ220内に液圧が供給されると、ピストン46がディスクロータ26の方向に突き出る。その結果、インナパッド32がディスクロータ26のインナ側に押し付けられるとともに、その反力でキャリパ16がピストン46の突き出し方向とは反対の方向へ移動し、爪部56の押圧面74によりアウタパッド42がディスクロータ26のアウタ側に押し付けられる。これにより、ディスクロータ26がインナパッド32およびアウタパッド42により挟圧されて、車輪が制動される。
【0038】
図4は、ディスクブレーキ10を、図2に示す矢印Fの方向から見たときのキャリパ16の爪部56と裏金40の形状を示す側面図である。図示のように、キャリパ16の爪部56は、二股に分かれてそれぞれの先端が裏金40の背面側に配設された可動突起37または38に接触する。裏金40を支持するマウンティング12には、凹状のトルク受け部90、92が形成されている。また、裏金40の両側面には突起94、96が形成されている。この突起94、96がマウンティング12に設けられたトルク受け部90、92と係合することにより、爪部56がディスクロータ26の方向に移動した場合に、アウタパッド42を裏金40と共にディスクロータ26の方向に移動させる。また、前述したように、ディスクロータ26とアウタパッド42が接触した場合、裏金40およびアウタパッド42はディスクロータ26の回転方向に引き摺られる。ディスクロータ26が矢印R方向に回転している場合、裏金40の突起94がトルク受け部90に押しつけられる。その結果、ブレーキ制動中にアウタパッド42がディスクロータ26に引き摺られた場合でも、アウタパッド42をディスクロータ26に対向する位置に留めておくことができる。なお、ピストン46が押圧する裏金30の両端にも突起94、96と同様な突起が形成され、マウンティング12に形成されたトルク受け部90、92と同様な凹部と係合するようになっている。したがって、裏金30およびインナパッド32もディスクロータ26に向かってスムーズに移動できるとともに、ディスクロータ26の回転方向に引き摺られてもインナパッド32をディスクロータ26に対向する位置に留めておくことができる。
【0039】
ところで、前述のように、裏金30、40は、ピストン46、爪部56によって押圧され、ディスクロータ26に向かって移動する。この移動がスムーズにできるように、裏金30、40はマウンティング12のトルク受け部90、92に対して遊嵌状態で係合している。つまり、裏金30、40とトルク受け部90、92の間には隙間100、102が存在する。したがって、ディスクブレーキが制動力を発生する場合、前述した裏金30、40のディスクロータ26の回転方向の移動により、隙間100または隙間102が詰まる。例えば、ディスクロータ26が矢印R方向に回転する場合、裏金40が隙間を詰めるために移動して突起94とトルク受け部90とが十分な力で当接することにより、裏金40はマウンティング12によって安定した状態で係止される。
【0040】
以下、本実施の形態のディスクブレーキの主要部の構造について説明する。図5は、ディスクブレーキの主要部の構成を表す模式図である。同図には、図4を矢印T方向から見た場合の概略構成が示されている。
【0041】
図示のように、インナブレーキパッドの裏金30のピストン46との対向面には、上述した一対の可動突起35,36が配設されている。可動突起35,36は、ピストン46の軸線に対して対象な位置に配設されている。各可動突起は、後述のようにバイメタルにて構成され、図示の実線の待機状態から破線の受圧状態に駆動され得る。また、裏金30のピストン46との対向面には、「傾き検出部」としても機能する一対の変位センサ130,132が埋設されている。これらの変位センサ130,132は、可動突起35,36のやや内側の、ピストン46の軸線に互いに対称な位置に設けられている。
【0042】
各変位センサ130,132は、本実施の形態では渦電流式のセンサとして構成され、ピストン46との距離に応じた出力信号を出力する検出部、その出力信号を増幅してECU200へ出力する増幅部を含んで構成される。検出部は、検出コイル、発振回路、整流回路等を含む。検出コイルは、発振回路から供給される高周波電流により交流磁界を発生させる。検出コイルは、ピストン46が近づくにつれて渦電流損が増大し、これによりインピーダンスが増大して発振回路の発振振幅を減少させる。整流回路は、発振回路の発振振幅を取り出して直流電圧(検出信号)に変換する。ECU200は、変位センサ130,132の出力電圧に基づいて裏金30とピストン46との間隔を判定する。また、ECU200は、両変位センサの出力値が所定値以上異なることによりインナブレーキパッドが傾斜状態にあると判定でき、さらにその出力値の差分からインナブレーキパッドの傾斜角を算出することができる。
【0043】
一方、アウタブレーキパッドの裏金40の爪部56との対向面には、上述のように一対の可動突起37,38が配設されている。可動突起37,38は、爪部56の先端に設けられた一対の押圧面74に対向して配設されている。これらの可動突起もバイメタルにて構成され、図示の実線の待機状態から破線の受圧状態に駆動され得る。
【0044】
図6は、可動突起の構成例を表す概略図である。(A)はその可動突起の斜視図を表し、(B)はそのブレーキパッドにおける設置態様を表している。説明の便宜上、同図には可動突起36のみが示されている。
【0045】
可動突起36は、熱膨張率が異なる2枚の金属板112,114を貼り合わせたバイメタルからなり、裏金30の背面に形成された所定深さの溝部116に配設されている。可動突起36の一端側の側面が溝部116の壁部に固定されており、他端側の側面には通電用のワイヤハーネス118が取り付けられている。ECU200は、図示しない駆動回路およびワイヤハーネス118を介して可動突起36への通電を行う。金属板112よりも金属板114のほうが熱膨張率が大きいため、通電がなされると、可動突起36は、同図(B)に示すように、その固定点を支点に裏金30から突出する方向へ変形する。
【0046】
本実施の形態においては、非通電状態で可動突起36がピストン46から最も退避した待機位置では、可動突起36が溝部116に収容されて裏金30の表面から突出しないように構成されている。そして通電がなされると、可動突起36が連続的に変位し、その通電量に応じた変位量にてピストン46の方向に突出するようになっている。なお、変形例においては、可動突起36が待機位置においても裏金30の表面から所定量突出するように構成されていてもよい。また、溝部116の底部には変位センサ120が埋設されている。この変位センサ120は、裏金30からの可動突起36の突出量を検知し、検知した値を示す信号をECU200に出力する。
【0047】
変位センサ120も、本実施の形態では変位センサ130,132と同様、渦電流式のセンサとして構成され、可動突起36の変位量に応じた出力信号を出力する検出部、その出力信号を増幅してECU200へ出力する増幅部を含んで構成される。検出部は、検出コイル、発振回路、整流回路等を含む。検出コイルは、発振回路から供給される高周波電流により交流磁界を発生させる。検出コイルは、可動突起36が近づくにつれて(つまり、可動突起36が待機位置に近づくにつれて)渦電流損が増大し、これによりインピーダンスが増大して発振回路の発振振幅を減少させる。整流回路は、発振回路の発振振幅を取り出して直流電圧(検出信号)に変換する。ECU200は、この変位センサ120の出力電圧に基づいて可動突起36変位量を算出する。
【0048】
なお、可動突起35も可動突起36と同様の構成および設置態様を有する。また、可動突起37および38については裏金40側に設置されるが、その構成および設置態様は爪部56に対向配置される点を除いて可動突起36と同様であるので、その説明については省略する。
【0049】
図7〜図10は、ディスクブレーキの主要部の動作を説明するための模式図である。図7は、車両の旋回走行前後のブレーキパッド等の動作を表している。図8は、車両が旋回走行から直進走行に復帰したときのブレーキパッド等の動作を表している。図9は、ノックバック発生後の可動部材の駆動制御の例を表している。図10は、旋回制動時の可動部材の駆動制御の例を表している。
【0050】
図7(A)に示す直進状態から車両が旋回すると、同図(B)に示すように、車両に作用する横力によってディスクロータ26が傾斜し、ホイールシリンダ220内のピストン46が押し戻されるノックバックが発生する(図中白抜矢印参照)。その後に車両が直進走行に戻ることでディスクロータ26の傾きが解消されても、制動状態になければピストン46には十分な液圧が作用しない。このため、同図(C)に示すように、インナブレーキパッドおよびアウタブレーキパッドが依然として傾いた状態を保つことがある。その場合、次回の制動時にピストン46を実線位置から点線位置にまでストロークさせなければ、インナパッド32およびアウタパッド42によるディスクロータ26の挟圧力が発生しない。つまり、無効ストロークS0が長くなり、運転者のブレーキ操作時に違和感を与えてしまうことになる。
【0051】
また、次の制動時にホイールシリンダ220内の液圧が高まるにつれ、インナブレーキパッドおよびアウタブレーキパッドとディスクロータ26とが平行な状態に近づいていくが、その間、片当たり状態で接触することになる(図中一点鎖線参照)。その結果、インナパッド32およびアウタパッド42に偏摩耗を生じさせる可能性がある。そこで、本実施の形態では、各可動突起を駆動することにより、各パッド32,42の傾斜角の適正化および安定化を行う。
【0052】
すなわち、本実施の形態においては、ECU200が、インナブレーキパッドおよびアウタブレーキパッドの傾斜状態に基づいて、以下に述べるパッド姿勢矯正制御、無効ストローク低減制御およびパッド姿勢追従制御を実行する。
【0053】
パッド姿勢矯正制御は、車両が旋回状態から直進走行に移行した後に各ブレーキパッドを強制的にディスクロータ26に平行な状態に戻し、偏摩耗等を防止する制御である。すなわち、図8(A)に示すように、車両が旋回状態から直進走行に移行した後に各ブレーキパッドが依然として傾いている場合、インナブレーキパッドにおいては、裏金30におけるピストン46との当接部に近い側(つまりディスクロータ26から離れている側)の可動突起35を駆動して進出させる。一方、アウタブレーキパッドにおいては、裏金40における爪部56との当接部に近い側(ディスクロータ26から離れている側)の可動突起38を駆動して進出させる。
【0054】
これにより、同図(B)に示すように、インナブレーキパッドは、可動突起35がピストン46から受ける反力による回転モーメントを受け、そのインナパッド32がディスクロータ26に近づく方向に変位する。同様に、アウタブレーキパッドは、可動突起38が爪部56から受ける反力による回転モーメントを受け、そのアウタパッド42がディスクロータ26に近づく方向に変位する。その結果、図示のように各ブレーキパッドがディスクロータ26に平行な状態に戻される。このように各ブレーキパッドが平行な状態に戻ったところで可動突起35,38を待機位置に退避させる。このとき、ディスクロータ26には車両直進時においても微少な振れ回りがあるため、図示の状態で放置すると、同図(C)に示すように、インナパッド32およびアウタパッド42とディスクロータ26との間には自ずと隙間CLができる。これにより、ディスクロータ26による各パッド32,42の引き摺りを低減させることができる。ただし、本実施の形態では、次回の制動時の無効ストロークを低減するために、同図に示す状態に留まらず、無効ストローク低減制御を実行する。
【0055】
無効ストローク低減制御は、予め設定したノックバック判定条件が成立したときに、可動突起35〜38を駆動してピストン46,インナブレーキパッド,ディスクロータ26,アウタブレーキパッドおよび爪部56を連結し、次の制動開始時の無効ストロークを低減するものである。
【0056】
すなわち、図8(C)の状態から制動制御に移行する際に、図9(A)に示すように可動突起35〜38を速やかに駆動して進出させる。これにより、インナブレーキパッドおよびアウタブレーキパッドが、それぞれピストン46、爪部56の反力によってディスクロータ26側へ付勢され、隙間CLをなくすように変位する。このとき、ピストン46,インナブレーキパッド,ディスクロータ26,アウタブレーキパッドおよび爪部56が比較的剛に連結される。このため、次の制動開始時にホイールシリンダ220内の液圧が高められると、ピストン46の押圧力が速やかに伝達され、無効ストロークが実質的に解消する。このとき、可動突起35と可動突起36が同じ高さだけ進出し、可動突起37と可動突起38とが同じ高さだけ進出するように制御されるため、インナブレーキパッド、ディスクロータ26およびアウタブレーキパッドが互いに平行となる状態で押圧力が作用する。可動突起35と可動突起36とがピストン46の軸線に対称な位置にあり、また可動突起37と可動突起38とがピストン46の軸線に対称な位置にあるため、ピストン46による均一な押圧力の伝達経路が確保され、各パッド32,42の偏摩耗が低減される。
【0057】
そして、この状態からホイールシリンダ220内の液圧が高まるとともに、同図(B)に示すように可動突起35〜38を徐々に待機位置へ向けて退避させ、同図(C)に示すようにピストン46および爪部56をそれぞれ裏金30,40に当接させる。これにより、ピストン46と爪部56とによりインナブレーキパッドおよびアウタブレーキパッドを直接押圧してディスクロータ26を挟圧することによる本来の制動制御に違和感なく戻すことができる。
【0058】
パッド姿勢追従制御は、車両の旋回制動時にいずれかの可動突起を駆動して、ピストン46,インナブレーキパッド,ディスクロータ26,アウタブレーキパッドおよび爪部56を連結し、液圧の安定した伝達経路を確保するものである。
【0059】
すなわち、車両の旋回走行時にディスクロータ26が傾斜した状態で制動力が加わると、図10(A)に示すように、ピストン46が裏金30に対して、爪部56が裏金40に対してそれぞれ片当たり状態となる。このため、この状態でピストン46が押し込まれると、同図(C)に示すように、各ブレーキパッドにおいて面圧の高い箇所と低い箇所が形成され、裏金30からの反力によりピストン46に回転モーメントが作用することがある。このようにピストン46が傾いた状態でホイールシリンダ220内を摺動すると、こじりが発生する可能性がある。
【0060】
そこで、本実施の形態では、同図(B)に示すように、旋回制動時であることが検知されると、インナブレーキパッドにおいては、裏金30におけるピストン46との当接部に遠い側(つまりピストン46から離れている側)の可動突起36を駆動して進出させる。一方、アウタブレーキパッドにおいては、裏金40における爪部56との当接部に遠い側(爪部56から離れている側)の可動突起37を駆動して進出させる。
【0061】
これにより、ピストン46は、裏金30を均一な状態で押圧することができ、その反力もピストン46の押圧面に均一に作用するようになるので、ピストン46の傾きを抑制し、こじりの発生を防止することができる。また、ピストン46および爪部56が裏金30,40にそれぞれ片当たり状態となるのを抑制でき、偏摩耗を抑制することができる。
【0062】
図11は、ディスクブレーキ装置における可動突起の制御処理を表すフローチャートである。本処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされてから所定の周期で繰り返し実行される。
【0063】
ECU200は、まず、変位センサ130,132の検出値に基づいてブレーキパッドが傾斜状態にあるか否かを判定する(S10)。ここでは、変位センサ130,132によりそれぞれ検出されたピストン46との距離が所定値以上となった場合にブレーキパッドが傾斜していると判定される。「所定値」については、ブレーキパッドの組み付け誤差等を考慮して予め設定される。
【0064】
ブレーキパッドが傾斜状態にあると判定されると(S10のY)、ECU200は、横Gセンサの検出値に基づいて車両に所定値以上の横方向加速度が発生しているか否かを判定する(S12)。ここでは、旋回走行等によりディスクロータ26が傾斜状態にあるか否かを判定する必要がある。このため、「所定値」については、車両に作用する横力によってディスクロータ26が明らかに傾斜していると判定可能な値が予め設定される。このとき、横方向加速度が発生していると判定されると(S12のY)、ECU200は、上述したパッド姿勢追従制御を実行する(S14)。
【0065】
一方、S12において横方向加速度が発生していないと判定されると(S12のN)、ECU200は、上述したパッド姿勢矯正制御を実行する(S16)。なお、このように横方向加速度が発生していない、つまり車両に横力が作用していない状態においてブレーキパッドが傾斜していることにより、ノックバックが発生していることが分かる。また、S10においてブレーキパッドが傾斜状態にないと判定されると(S10のN)、ECU200は、ストロークセンサ246の検出値に基づいて制動が開始されたか否かを判定する(S18)。ここでは、ブレーキペダル212のペダルストロークが所定値以上となった場合に制動開始と判定される。「所定値」については、ブレーキペダル212の遊びを考慮して予め設定される。制動が開始されたと判定されると(S18のY)、ECU200は、上述した無効ストローク低減制御を実行する(S20)。制動が開始されていなければ(S18のN)、一旦処理を終了する。
【0066】
図12は、図11のS14のパッド姿勢追従制御の処理を表すフローチャートである。 このパッド姿勢追従制御において、ECU200は、図10(B)に示したような均一な受圧状態を実現するために必要な可動突起を駆動する(図10(B)の例では可動突起36,37が駆動されている)(S22)。そして、該当する可動突起がピストン46および爪部56のそれぞれの押圧面に当接して均一な液圧の伝達経路が形成されたか否かを判定する(S24)。各可動突起が当接しているか否かは、変位センサ130,132の検出値に基づく各ブレーキパッドの傾斜角と、駆動された可動突起に対応する変位センサ120の検出値に基づく各可動突起の変位量から判定することができる。すなわち、この状態では各ブレーキパッドが片当たりをしている状態であることから、ブレーキパッドの傾斜角が分かれば各可動突起とピストン46または爪部56との距離が算出可能となる。各可動突起がこの距離の分だけ変位していれば、ピストン46および爪部56のそれぞれに当接していると判定できる。
【0067】
このとき、該当する可動突起がピストン46および爪部56のそれぞれに当接していないと判定されると(S24のN)、S22の処理に戻る。このようにして該当する可動突起の当接状態が得られるまでその駆動が継続され、当接状態になったと判定されると(S24のY)、ECU200は、続いて制動中であるか否かを判定する(S26)。制動中であれば(S26のY)、各可動突起の駆動制御が継続される。すなわち、ディスクロータ26の傾斜量の変化に伴って各可動突起の変位量を逐次制御し、当接状態が保持されるようにする。
【0068】
そして、制動状態が解除されると(S26のN)、ECU200は、全ての可動突起を待機位置に退避させる(S28)。これにより、不要な制動力が付与されるのが防止され、各ブレーキパッドの引き摺りが防止される。
【0069】
図13は、図11のS16のパッド姿勢矯正制御の処理を表すフローチャートである。 このパッド姿勢矯正制御において、ECU200は、図8に示したように各ブレーキパッドの傾きを解消するために必要な可動突起を駆動する(図8の例では可動突起35,38が駆動されている)(S30)。そして、ブレーキパッドがピストン46および爪部56のそれぞれの押圧面に対して平行になり、その傾斜が解消されたか否かを判定する(S32)。ブレーキパッドの傾斜状態が解消されたか否かは、変位センサ130,132の検出値の差分が所定値以下であるか否かにより判定することができる。この「所定値」については、ブレーキパッドの組み付け誤差等を考慮して予め設定される。
【0070】
このとき、ブレーキパッドの傾斜状態が解消されていないと判定されると(S32のN)、S30の処理に戻る。このようにしてブレーキパッドの傾斜状態が解消するまで可動突起の駆動が継続され、ブレーキパッドの傾斜状態が解消されたと判定されると(S32のY)、ECU200は、全ての可動突起を待機位置に退避させる(S34)。これにより、図8(C)にも示したように、ディスクロータ26の触れ回りによってインナパッド32およびアウタパッド42とディスクロータ26との間には自ずと隙間ができる。これにより、ディスクロータ26による各パッド32,42の引き摺りが防止される。
【0071】
図14は、図11のS20の無効ストローク低減制御の処理を表すフローチャートである。
この無効ストローク低減制御において、ECU200は、図9に示したように無効ストロークを解消するとともに均一な受圧状態を実現するために必要な可動突起を駆動する(図9の例では可動突起36〜38の全てが駆動されている)。そして、各可動突起がピストン46および爪部56のそれぞれの押圧面に当接して均一な液圧の伝達経路が形成されたか否かを判定する(S42)。各可動突起が当接しているか否かは、変位センサ130,132の検出値に基づいて算出される各ブレーキパッドとピストン46との間隔と、可動突起35,36に対応する変位センサ120の検出値に基づく各可動突起の変位量から判定することができる。すなわち、変位センサ130,132の検出値に基づいて算出される間隔と、変位センサ120の検出値に基づいて算出される各可動突起の変位量との差分が所定値以下であれば、当接状態にあることが判定可能となる。この所定値は、各変位センサの裏金30における位置関係により決まるものである。
【0072】
このとき、各可動突起が当接していない場合(S42のN)、制動中であれば(S44のY)、各可動突起を駆動して速やかに当接させるようにする(S46)。そして、この状態からホイールシリンダ220内の液圧が高まるとともに、可動突起35〜38を徐々に待機位置へ向けて退避させ、それぞれ裏金30,40に当接させる(S48)。これにより、可動突起を用いない本来の制動制御に違和感なく戻すことができる。
【0073】
一方、S42において各可動突起が当接している場合(S42のY)、およびS44において制動中でないと判定された場合には(S44のN)、いずれも処理を終了する。
【0074】
以上に説明したように、本実施の形態のディスクブレーキ装置においては、ブレーキパッドがピストン46や爪部56の押圧面に対して傾いている場合、各可動部材が駆動されてブレーキパッドがディスクロータ26に沿うように変位または保持される。これにより、ディスクロータ26に対するブレーキパッドの姿勢を安定化させることができる。その結果、ブレーキパッドの偏摩耗を抑制することもできる。
【0075】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0076】
上記実施の形態では、可動突起をバイメタルにて構成した一つの例を示したが(図6参照)、これと異なる様々な態様にて構成することも可能である。図15は、このような可動突起の変形例を表す図である。この変形例において、上記実施の形態とほぼ同様の構成部分については同一の符号を付すなどしてその説明を省略する。
【0077】
図15は、変形例にかかる可動突起の構成を表す概略図である。(A)はその可動突起の斜視図を表し、(B)はそのブレーキパッドにおける設置態様を表している。
本変形例の可動突起336は、バイメタルではなく圧電素子を用いて構成されている。すなわち、可動突起336は、フラットな形状の金属板310の裏面に2つの圧電素子312,314を配置して構成されている。これらの圧電素子312,314に通電することにより、金属板310をその一端に設けたヒンジ部311を中心に回動させ、裏金30の溝部116から傾斜状態で隆起させることができる。ECU200は、可動突起336の駆動条件が成立すると、圧電素子312および圧電素子314への通電を実行する。ここでは、圧電素子312よりも圧電素子314への通電電圧を高くすることで、金属板310が受圧位置へスムーズに変位できるようにしている。その変位量は、変位センサ120により検出することができる。
【0078】
なお、本変形例は、裏金30に設置される可動突起の一例として説明したが、裏金40に設置される可動突起として構成してもよいことはもちろんである。また、可動突起の具体的構成については、上記実施の形態および本変形例に例示したものにかぎらず、同様の機能を有するものであれば採用することができるのは言うまでもない。また、ブレーキパッド側ではなく、ピストン46側や爪部56側に可動突起を設けるようにしてもよい。
【0079】
また、上記実施の形態においては、ECU200が可動突起の駆動制御部として機能する例を示したが、ディスクブレーキ装置専用の駆動制御部を設けるようにしてもよい。さらに、例えばICチップのような形式で各ディスクブレーキにそれぞれ組み込まれる駆動制御部として構成してもよい。
【0080】
さらに、上記実施の形態は、ブレーキパッドをピストンと爪部とによってディスクロータを挟圧するいわゆる浮動キャリパ型のディスクブレーキ装置への適用を例示したが、固定キャリパ型のディスクブレーキ装置についても同様に適用することができる。すなわち、ディスクロータの両側のブレーキパッドにそのブレーキパッドを駆動するピストンがそれぞれ配置された固定キャリパ型のディスクブレーキ装置についても、同様の可動突起を設けて駆動制御することができる。また、上記実施の形態では、液圧制御式のディスクブレーキ装置を例示したが、例えば電磁駆動によりピストンを駆動するタイプのディスクブレーキ装置として構成することも可能である。さらに、上記実施の形態では、ピストンを一つ備えたディスクブレーキ装置を例示したが、いわゆるデュアル型のディスクブレーキ装置など、複数のピストンを備えたものについても各ピストンに対応させて可動突起を設けることができる。
【0081】
さらに、上記実施の形態では、ブレーキパッドの幅方向に一対の可動突起を配設した例を示したが、3つ以上の可動突起を配設してもよい。その場合、可動突起によりブレーキパッドをその幅方向だけでなく、これと交わる方向に付勢することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施の形態に係るディスクブレーキ装置が適用されるブレーキ装置の液圧回路を表す図である。
【図2】実施の形態に係るディスクブレーキの概念構成図である。
【図3】図2のディスクブレーキをディスクロータと直角に切断したときの断面図である。
【図4】ディスクブレーキを、図2に示す矢印Fの方向から見たときのキャリパの爪部と裏金の形状を示す側面図である。
【図5】ディスクブレーキの主要部の構成を表す模式図である。
【図6】可動突起の構成例を表す概略図である。
【図7】ディスクブレーキの主要部の動作を説明するための模式図である。
【図8】ディスクブレーキの主要部の動作を説明するための模式図である。
【図9】ディスクブレーキの主要部の動作を説明するための模式図である。
【図10】ディスクブレーキの主要部の動作を説明するための模式図である。
【図11】ディスクブレーキ装置における可動突起の制御処理を表すフローチャートである。
【図12】図11のS14のパッド姿勢追従制御の処理を表すフローチャートである。
【図13】図11のS16のパッド姿勢矯正制御の処理を表すフローチャートである。
【図14】図11のS20の無効ストローク低減制御の処理を表すフローチャートである。
【図15】可動突起の変形例を表す図である。
【符号の説明】
【0083】
10 ディスクブレーキ、 12 マウンティング、 16 キャリパ、 26 ディスクロータ、 30 裏金、 32 インナパッド、 33 摩擦摺動面、 34 摩擦摺動面、 35 可動突起、 36 可動突起、 37 可動突起、 38 可動突起、 40 裏金、 42 アウタパッド、 46 ピストン、 56 爪部、 73 押圧面、 74 押圧面、 112 金属板、 114 金属板、 116 溝部、 118 ワイヤハーネス、 120 変位センサ、 130 変位センサ、 200 ECU、 210 ブレーキ装置、 212 ブレーキペダル、 220 ホイールシリンダ、 240 増圧弁、 242 減圧弁、 246 ストロークセンサ、 250 アキュムレータ、 280 油圧アクチュエータ、 310 金属板、 311 ヒンジ部、 312 圧電素子、 314 圧電素子、 336 可動突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪とともに回転するディスクロータと、
前記ディスクロータの摩擦摺動面に対向配置されるブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドの背面側に配置される押圧面を有し、その押圧面により前記ブレーキパッドを押圧して前記ディスクロータに押し付けるキャリパと、
前記押圧面と前記ブレーキパッドとの間に設けられ、待機位置から駆動されることにより前記押圧面と前記ブレーキパッドとを局所的に連結し、前記ブレーキパッドの受圧位置を変化させる複数の可動部材と、
前記押圧面に対する前記ブレーキパッドの傾きを検出する傾き検出部と、
予め設定された制御条件の成立により、前記ブレーキパッドの傾きに応じて各可動部材をそれぞれ進退させ、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに沿うように変位または保持させる駆動制御部と、
を備えたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記押圧面が、前記キャリパ内に配設されたピストンからなり、
前記可動部材は、前記ブレーキパッドの前記ピストンとの対向面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記ブレーキパッドが、前記ディスクロータを挟むように一対設けられ、
前記押圧面が、前記ピストンと前記一対のブレーキパッドを挟んで対向配置された支持部にも設けられ、
前記可動部材は、前記ブレーキパッドの前記支持部との対向面に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
車両に作用する横力を検出する横力検出部を備え、
前記駆動制御部は、前記ブレーキパッドが前記押圧面に対して傾斜しており、かつ車両が横力を受けていない場合に、前記可動部材を駆動して前記ブレーキパッドを前記押圧面に平行となるように変位させるパッド姿勢矯正制御を実行することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、予め設定したノックバック判定条件が成立した場合に、次の制動開始に際して前記可動部材を駆動し、前記押圧面,前記可動部材,前記ブレーキパッドおよび前記ディスクロータを連結して前記押圧面による均一な押圧力の伝達経路を確保する無効ストローク低減制御を実行することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記無効ストローク低減制御において、その制動過程において前記可動部材を徐々に退避させて前記押圧面を前記ブレーキパッドに当接させることを特徴とする請求項5に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項7】
車両に作用する横力を検出する横力検出部を備え、
前記駆動制御部は、前記ブレーキパッドが前記押圧面に対して傾斜しており、かつ車両が横力を受けつつ制動中である場合に、前記可動部材を駆動し、前記押圧面,前記可動部材,前記ブレーキパッドおよび前記ディスクロータを連結して前記押圧面による均一な押圧力の伝達経路を確保しつつ、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに沿って当接するように保持するパッド姿勢追従制御を実行することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−168121(P2009−168121A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6172(P2008−6172)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】