説明

ディスプレイユニット

【課題】片方の眼に映像を視認させた場合に生じる視野闘争を防止できるディスプレイユニットを提供すること。
【解決手段】フレーム体12に透明基板22a、22bを配設するとともに、ユーザーの眼にカメラ20の映像データに基づいた映像を認識可能に投影する映像投影部21を透明基板22a側に搭載したディスプレイユニットであって、ユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央からずれた周辺位置がユーザーが映像投影部21から投影された映像を目視する方向であり、映像投影部21が配置されていない側の透明基板22bにユーザーが映像投影部21からの投影を目視する方向に対応する位置に当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域を設定するようにした。これによって視野闘争を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラで撮影した映像あるいは外部データに基づく画像や映像等をディスプレイ装置によって目前に展開させるようにしたディスプレイユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からカメラ等で撮影した映像や映画のような外部データに基づく映像等をユーザーの眼球の近傍あるいは網膜に直接映し出す技術が開発されている。
ホログラム技術を利用したディスプレイ装置の一例として特許文献1及び2を示す。また、透過型ディスプレイ装置としてユーザーの網膜に直接映像を映し出す網膜走査ディスプレイ装置を使用することも可能である。そのような網膜走査ディスプレイ装置の一例として特許文献3を示す。更に、小型の映像モニターを利用したディスプレイ装置の一例として特許文献4を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−85011号公報
【特許文献2】特開2006−98827号公報
【特許文献3】実開2001−281594号公報
【特許文献4】実開平6−87920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらディスプレイ装置の応用の一例として例えば弱視の視覚障害者用に利用することが考えられる。つまり、ユーザーとなる視覚障害者の周囲(特に前方)の景色をカメラで映像化し、ディスプレイ装置によってユーザーの目前に展開させて視覚補助とするものである。このようなディスプレイ装置による視覚補助用の映像は両眼ともに映像投影手段を設けてこれを視認させるようにすることもできないわけではないが、両眼で映像を目視させる場合には映像中の物体が二重にならないように立体視させる必要がある。しかし、そのために左右の撮影映像に対して融像可能なようにユーザーの固有の視差を調整しなければならず、その設定が難しいことから実際には立体視が困難といえる。そのため、現実的には片方の眼のみに映像を視認させざるを得ないといえる。
しかし、片方の眼のみに視覚補助用の映像を視認させるとしても、少なくともその映像が投影されている視野部分については左右の眼で異なる見え方となるためユーザーが混乱していわゆる視野闘争が生じてしまうこととなる。また、視野闘争は視覚補助用のディスプレイ装置でも両眼ともに映像投影手段を設けないケースでは生じる問題である。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、片方の眼に映像を視認させた場合に生じる視野闘争を防止できるディスプレイユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための請求項1の発明では、映像データ出力手段と、前記映像データ出力手段から出力される映像データを映像化し、ユーザーの左右いずれか一方の眼にその映像を認識可能に投影する映像投影手段と、前記映像投影手段が搭載され、ユーザーの鼻背及び耳輪基部を支持部分としてセットされるフレーム体と、同フレーム体に直接的又は間接的に配設され少なくともユーザーの左右いずれか他方の眼の前に配置されるレンズとを備え、ユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央からずれた周辺位置がユーザーが前記映像投影手段から投影された映像を目視する方向であり、同映像投影手段が配置されていない側の前記レンズにはユーザーが前記映像投影手段からの投影を目視する方向に対応する位置に当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域を設定したことをその要旨とする。
また、請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加え、前記当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域は前記レンズに同レンズとは別体の小レンズを取着した部分であることをその要旨とする。
また、請求項3の発明では請求項1の発明の構成に加え、前記当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域は累進屈折力レンズの近用部領域であることをその要旨とする。
【0006】
このような構成では、映像投影手段では映像データ出力手段から出力される映像データに基づいて映像化した映像をユーザーの左右いずれか一方の眼に認識させる。この時、ユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央からずれた視野周辺位置が映像投影手段からの投影を目視する方向となる。つまり、ユーザーは視野中央を見ても映像は視野の上下左右等の周辺側にあるため、通常の両眼による外景の立体視の支障となることはない。そして、ユーザーは外景が分かりにくい場合に補助的に注視方向を映像方向に変更する。その場合に映像投影手段の配置されている側の眼(左右いずれか一方の眼)の視線は映像方向が注視方向となるが、映像投影手段の配置されていない側の眼(左右いずれか他方の眼)の注視方向には当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域を設けているため、ユーザーは当該映像以外に明瞭な像を見ることができないこととなって視野闘争が生じることがない。
【0007】
ここに、ユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央からずれた周辺位置とはユーザーが自然な状態で正面を見た場合の視野の周辺位置である。周辺のどの位置であっても構わないが、好ましいのは下方位置である。
また、当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域はバイフォーカルレンズを使用して実現でき、その場合にはその領域はベースとなるレンズにレンズとは別体の小レンズ(いわゆる小玉レンズ)を取着した部分となる。小レンズは少なくともこの部分を通してユーザーが目視する際に当該ユーザーの視力に適応しないようなレンズ度数を設定するようにする。
また、当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域は累進屈折力レンズを使用して実現でき、その場合にはその領域はベースとなるレンズにおいて設定された累進屈折面の近用部領域となる。累進屈折力レンズとした場合には遠用部領域は当該ユーザーに応じた所定のレンズ度数(S度数:0でもよい)とし、近用部領域を少なくともこの部分を通してユーザーが目視する際に当該ユーザーの視力に適応しないようなレンズ度数を設定するようにする。
【発明の効果】
【0008】
上記各請求項の発明では、映像を一方の眼で視認する際に、映像を見ない側の他方の眼では明瞭な像を結ぶことがないため、視野闘争が生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例のディスプレイユニットの斜視図。
【図2】同じディスプレイユニットの平面図。
【図3】カメラの光学系と電気的構成を説明するブロック図。
【図4】映像投影部の光学的構成を説明する説明図。
【図5】ディスプレイ装置が作動していない状態の左右レンズを通した外景を説明する説明図。
【図6】ディスプレイ装置が作動している状態の左右レンズを通した外景を説明する説明図。
【図7】他の実施例においてディスプレイ装置が作動している状態の左右レンズを通した外景を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のディスプレイユニットの実施例について図面に従って説明をする。
図1及び図2に示すように、ディスプレイユニット(以下、ディスプレイユニット)11はフレーム体12とフレーム体12に搭載された透過型ディスプレイ装置13とにより構成されている。フレーム体12は主フレーム15と主フレームの両端に蝶番16によって連結された一対のテンプル17から構成されている。主フレーム15の中央内面にはブラケット18が取着されている。
透過型ディスプレイ装置13は撮影手段としてのカメラ20と映像投影部21とレンズを兼ねた左右同形状の透明基板22a,22bから構成されている。透明基板22a,22bは主フレーム15から延びるブラケット18に取り付けられている。ブラケット18には鼻当て19が取り付けられている。カメラ20は本実施例では左側の主フレーム15の端寄りに着脱可能に取着されている。映像投影部21は本実施例では右側の透明基板22aの上端に取り付けられているが、左側の透明基板22bに取り付けるようにしてもよい。左側の透明基板22bの下部中央内側(眼球側)位置には横長の小レンズ23が取着されている。小レンズ23はこのディスプレイユニットを使用するユーザーの視力では外景がぼやけてよく見えないようなレンズ度数に設定されている。
カメラ20と映像投影部21とはケーブル24によって接続されている。尚、本実施例ではカメラ20及び映像投影部21への電源は図示を省略している。
【0011】
図3に示すように、本実施例のカメラ20の光学系はビームスプリッター及びプリズムから構成されるRGB分割光学回路25と、RGB分割光学回路25の後方に配置されたRGBの各光に応じて配置された3つの集光レンズ26及び撮像菅27を備えている。撮像菅27はアンプ28及び制御回路29に接続されている。撮影された映像はRGB分割光学回路25においてRGBの3原色に分割されてそれぞれ撮像菅27に導かれて信号化される。そして各撮像菅27で信号化されたRGBの映像はそれぞれアンプ28及び制御回路29によって処理され所定の信号方式に乗っ取って映像投影部21に出力されることとなる。
【0012】
図4に示すように、本実施例の映像投影部21は筐体30に収容された発光ダイオード(LED)31と、集光レンズ32と液晶表示素子(LCD)33から構成されている。本実施例ではLED31はすべて緑色を発光する緑色発光ダイオードとされている。従って、上記RGBの3原色に分割された映像データは緑色で投影されることとなる。カメラ20からケーブル24を介して出力された画像データは映像投影部21においてLED31から集光レンズ32方向に投影され、LCD33によって変調されて映像光束となって透明基板22a上部の補正プリズム34から内部に入射する。透明基板22aは全反射プリズムとなって映像光束を全反射し、透明基板22内のホログラム素子35に導かれ、回析反射されて瞳に入射する。これによってユーザーはLCD33に展開された映像の虚像を目視することとなる。右側の透明基板22a側のホログラム素子35は図5に示すように左側の透明基板22b側の前記小レンズ23の取着位置に対応する下方位置に配置されている。
【0013】
さてこのようなディスプレイユニット11の使用方法について説明する。ユーザーは普通の眼鏡を掛けるようにディスプレイユニット11を装用する。すると自身の右目の前方に透明基板22aが配置され、自身の左目の前方に左側の透明基板22bが配置されることとなる。
このような装用状態でまず、透過型ディスプレイ装置13による視覚補助用の映像をホログラム素子35に投影していない状態では図5に示すような外景が視野に入ることとなる。ユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央及び上方から左右周辺方向にかけた領域はいずれも明視域であって、立体視可能な部分である。
この時、左側の透明基板22bにおいて小レンズ23が配置されている下方周辺領域はこのユーザーの固有の視力から判断して像が明瞭に目視できないぼけが生じる領域であるが、右目側の視野はこのぼけが生じる領域においては像が明瞭な明視域であり、周囲の景色との連続性もあるため、結局人間の脳はぼけた映像を明視域と周辺の像によって補ってしまいそれほどの違和感なく認識することが可能である。
一方、透過型ディスプレイ装置13による視覚補助用の映像をホログラム素子35に投影した状態では図6に示すようにホログラム素子35の配置されている右側の透明基板22aの下方周辺領域は外景がホログラム素子35を透過して見えるものの、周囲とは明らかに連続性のない画像がそこにだけ映しだされることとなる。そのため右目でこの映像を注視すると左目も同じ方向、つまり左側の透明基板22bの下方を注視するような眼球動作を行うこととなる。
しかし、ディスプレイユニット11はこの図6のように左側の透明基板22bの下方において小レンズ23が取着されているため、結局左目側は外景がぼけて見えることとなって、両眼の視野闘争が生じることはない。
【0014】
このような構成とすることで実施例では次のような効果を奏する。
(1)ディスプレイユニットにおいては片方の眼だけに透過型ディスプレイ装置13を使用して映像を視認する場合に他方の眼が見る景色との視野闘争が生じるおそれがあるが、本実施例のような構成では左側の透明基板22bにおいて小レンズ23が配置されており、この小レンズ23は右側の透明基板22aの下方周辺領域に配置されたホログラム素子35と対応する視線位置にあるため左目側がぼけた像を見ることとなって視野闘争が生じないこととなる。
(2)ホログラム素子35は透明基板22aの中心からずれた周辺位置にあるため、通常外景を見るために多用するユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央部分の立体視が損なわれることがない、
【0015】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・図7は左側の透明基板22bにおいて小レンズ23を取着する代わりに、透明基板22b自体を累進屈折力レンズで構成したものである。例えば、ここでは透明基板22bの内面に遠用部領域41と近用部領域42を設けその途中を加入領域43の累進屈折面を設定する(つまり形成する)ものとする。そして、近用部領域42を上記小レンズ23と同様ユーザーのレンズ度数とはかけ離れた度数とすることで透明基板22bを通して見る外景をぼかすことが可能である。この場合には右側の透明基板22aは累進設計をする必要はない。尚、図7では理解を容易にするために近用部領域42を2点鎖線で表現しているが、実際は近用部領域42を含め各領域は明瞭に区画されているわけではない。従って、近用部領域42が完全にホログラム素子35の投影領域と合致するわけではない。、
・上記実施例ではホログラム技術を利用した透過型ディスプレイ装置について例示したが、ホログラム技術以外の透過型ディスプレイ装置や非透過型ディスプレイ装置について応用することももちろん可能である。
・上記実施例では透明基板22a下方周辺位置にホログラム素子35及び小レンズ23を設けるようにしたが、下方以外での方向であっても構わない。これは透明基板22bを累進屈折力レンズで構成した場合も同様であって、本発明においては近用部領域42が下方にある必要は必ずしもない。
・映像投影部21の構成は一例であって、上記以外の光学系を設定することも可能である。また、カメラ20の構成も一例であって、上記以外の手段でG光のみによる虚像を表示するようにしてもよい。
・小型の映像モニターを利用したディスプレイ装置や網膜走査ディスプレイ装置を使用した場合にはホログラム素子35は不要であるため、右側の透明基板22aはなくともよい。
・透明基板22a,22bとは別にサングラス用レンズを配設してもよい。透明基板22a,22b自体を着色してサングラス用レンズとしてもよい。
・カメラ20は必ずしもフレーム体12に取着されていたが、フレーム体12以外の場所にセットするようにしてもよい。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【符号の説明】
【0016】
11…ディスプレイユニット、12…フレーム体、22a,22b…レンズとしての透明基板、20…撮影手段としてのカメラ、21…透過型ディスプレイ装置、35…ホログラム素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像データ出力手段と、
前記映像データ出力手段から出力される映像データを映像化し、ユーザーの左右いずれか一方の眼にその映像を認識可能に投影する映像投影手段と、
前記映像投影手段が搭載され、ユーザーの鼻背及び耳輪基部を支持部分としてセットされるフレーム体と、
同フレーム体に直接的又は間接的に配設され少なくともユーザーの左右いずれか他方の眼の前に配置されるレンズとを備え、
ユーザーが正面を向いて遠用視をした際の視野中央からずれた周辺位置がユーザーが前記映像投影手段から投影された映像を目視する方向であり、同映像投影手段が配置されていない側の前記レンズにはユーザーが前記映像投影手段からの投影を目視する方向に対応する位置に当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域を設定したことを特徴とするディスプレイユニット。
【請求項2】
前記当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域は前記レンズに同レンズとは別体の小レンズを取着した部分であることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイユニット。
【請求項3】
前記当該ユーザーの視力に適応しないレンズ度数を与えた領域は累進屈折力レンズの近用部領域であることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−256658(P2010−256658A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107379(P2009−107379)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】