説明

ディーゼルエンジン用燃料の製法

【課題】簡便な方法で、酸価および粘度が低いディーゼルエンジン用燃料を製造する方法を提供する。
【解決手段】ROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールと動物油および/または植物油とを、温度150〜600℃、圧力2〜100MPaで反応させて脂肪酸モノエステル化物反応液を得る第一工程、前記脂肪酸モノエステル化物反応液からグリセリン、前記アルコールおよび水を除去して脂肪酸モノエステル画分を得る第二工程、カチオン交換樹脂の存在下に前記脂肪酸モノエステル画分と前記アルコールとを接触および反応させる第三工程、および前記第三工程で得た反応液を蒸留して、脂肪酸モノエステル化物を得る第四工程とからなる。酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物油および/または植物油を原料としてディーゼルエンジン用燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物油や動物油を原料として脂肪酸モノエステルを製造し、これをディーゼルエンジン用燃料として使用する試みが行われている。植物油や動物油は、硫黄分の含有率が低いため、ディーゼルエンジン用の燃料として用いた場合に硫黄酸化物(SOX)がほとんど発生せず、しかも、使用済み植物油や動物油の大部分は焼却廃棄処理されているため、資源の有効利用になる。
【0003】
植物油や動物油の主成分は脂肪族トリグリセライドであり、例えば(1)植物油や動物油をアルカリを触媒としてアルコール溶媒中でエステル交換し、対応する脂肪酸モノエステルを製造する方法、(2)触媒を使用せず、植物油や動物油に水を添加して超臨界または亜臨界条件で加水分解し、次いで加水分解物にアルコールを添加して超臨界または亜臨界条件でエステル化し、脂肪酸モノエステルを製造する方法、更に(3)植物油や動物油にアルコールを添加して超臨界または亜臨界条件でエステル交換し、脂肪酸モノエステルを製造する方法がある。しかしながら、植物油や動物油は一般に遊離脂肪酸を含むため、上記(1)の触媒を添加して行う脂肪酸モノエステルの製造方法は、遊離脂肪酸がアルカリと反応して脂肪酸塩などを副生して収率が低下し、触媒や脂肪酸塩の除去のため工程が複雑化するといった問題がある。一方、上記(2)、(3)の方法は、超臨界または亜臨界条件でエステル交換やエステル化するものであり、触媒を使用せず、脂肪酸塩なども副生されず、工程も簡潔で優れている。
【0004】
このような方法として、例えば、油脂とアルコールから脂肪酸エステルを製造する方法であって、触媒を添加せず、油脂および/またはアルコールが超臨界状態になる条件で反応させることを特徴とする脂肪酸エステルの製造方法がある(特許文献1)。終了後の反応混合物は、脂肪酸エステル、グリセリン、過剰の未反応アルコールを含み、さらに未反応の原料、その他の不純物を含むこともあり、この反応混合物から、それぞれの用途に必要な純度まで、脂肪酸エステルを精製してもよい、とする。実施例では、大豆油を原料油脂として使用し、該大豆油に10〜400モル倍のアルコールを使用した場合に、転化率100%という結果を得ている。
【0005】
同様に、動物油または植物油を、超臨界状態または亜臨界状態のアルコールを溶媒として用いて無触媒下に処理し、選択的かつ短時間のうちに、溶媒として使用したアルコールに対応する脂肪酸モノエステルを得る方法もある(特許文献2)。該公報では、遊離の脂肪酸はエステル化反応によりそれぞれモノエステル化物に変換できるため、脂肪酸トリグリセライドのみならず遊離脂肪酸を含む植物油や動物油もそのモノエステル化物に効率よく変換され、従来法では、分離が必要である遊離脂肪酸も、超臨界状態または亜臨界状態のアルコールにより同時かつ効果的に脂肪酸モノエステルに変換できる、という。
【特許文献1】特開2000−143586号公報
【特許文献2】特開2000−204392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2記載の方法で得られた脂肪酸モノエステル画分は、欧州やアメリカ規格で定められているバイオディーゼルエンジン用燃料の酸価基準を満たさず、酸価0.5を超える場合がある。エステル交換反応では、動物油などに含まれるトリグリセライドが直接アルコールと反応して脂肪酸モノエステルを生成するが、同時に水が存在するとトリグリセライドが加水分解して脂肪酸になり、脂肪酸のエステル化によって更に水を副生する。このため、脂肪酸とアルコールとから脂肪酸モノエステルが生成される反応平衡が、水の存在によって逆反応側に移行する。この傾向は温度が高いほど大きくなり、超臨界条件などではことさらである。酸価を下げるには、反応液中の水分を十分下げることが重要な要素となるが、脂肪酸を含む油脂類を原料にすると水を副生するため、酸価0.5以下を達成することは非常に難しい。原料に水分が含まれる場合も同様である。
【0007】
一方、原料に含まれる遊離脂肪酸や水分など、酸価を増加させ得る原因物質を除去すればよいが、原料油である大量の動物油や植物油から遊離の脂肪酸を除去することは容易でなく、このような前処理は、廃油のリサイクル効率を低下させる一因となる。
【0008】
更に、上記特許文献1のように、転化率を100%とするために、アルコールを原料油脂の400モル倍も使用したのでは、装置や設備が巨大となる。
【0009】
本発明は、こうした状況のもとになされたものであって、その目的は、従来技術における不都合を発生させず、植物油や動物油、さらには使用済天ぷら油などの廃食用油をディーゼルエンジン用燃料として満足できる脂肪酸モノエステル化物に効率良く変換する技術を提供することにある。すなわち、本発明は、低粘度、高揮発性で、悪臭がなく、黒煙やSOX成分の少ない、しかも酸価0.5以下のディーゼルエンジン用燃料を、容易かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
植物油や動物油に含まれる脂肪酸トリグリセライドとアルコールとのエステル交換反応を経てディーゼルエンジン用燃料を製造する方法について詳細に検討した結果、エステル交換反応液からグリセリンとアルコールおよび水を除去すれば脂肪酸モノエステル画分が得られ、該脂肪酸モノエステル画分に遊離脂肪酸が混在する場合でも、前記脂肪酸モノエステル画分を前記アルコールと共にカチオン交換樹脂と接触させると、含まれる遊離脂肪酸がエステル化されるため同画分中の遊離脂肪酸を除去することができかつエステル化率を向上できること、および脂肪酸の除去により酸価の低いディーゼルエンジン用燃料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリグリセライドとアルコールとのエステル交換反応の後、カチオン交換樹脂の存在下に得られた脂肪酸モノエステル画分をアルコールと接触させるという簡便な操作によって遊離脂肪酸の除去とエステル化率の向上とを行うことができ、これによって酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を製造することができる。
【0012】
本発明によれば、原料中の遊離脂肪酸量や水分量に係わらず、酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を製造することができ、広範囲の原料を使用して収率高く酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、ROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールと動物油および/または植物油とを、温度150〜600℃、圧力2〜100MPaで反応させて脂肪酸モノエステル化物反応液を得る第一工程、
前記脂肪酸モノエステル化物反応液からグリセリン、前記アルコールおよび水を除去して脂肪酸モノエステル画分を得る第二工程、
カチオン交換樹脂の存在下に前記脂肪酸モノエステル画分と前記アルコールとを接触および反応させる第三工程、および
前記第三工程で得た反応液を蒸留して、脂肪酸モノエステル化物を得る第四工程とからなる、ディーゼルエンジン用燃料の製造方法である。
【0014】
第一工程のエステル交換によって一段階で脂肪酸エステル化物を生成することができ、第二工程でグリセリンと水とを除去することで脂肪酸モノエステル画分を得ることができ、第三工程を含めることで脂肪酸モノエステル画分に遊離脂肪酸が混在する場合でもこれをエステル化により除去でき、第四工程を行うことで純度の高い脂肪酸モノエステル化物を分取でき、原料油脂に含まれる遊離脂肪酸や水分の含有量を問わずに酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を得ることができる。以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
(1)原料
本発明で使用するアルコールは、ROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示され、Rのうち炭素数1から24の飽和または不飽和の脂肪族基としては、例えば、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基などがあげられる。
【0016】
Rがアルキル基であるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノールなどが例示される。
【0017】
Rがアラルキル基であるアルコールとしてはベンジルアルコール、α−フェネチルアルコール、β−フェネチルアルコールが例示され、ベンジルアルコールが好ましい。
【0018】
Rがアルケニル基であるアルコールとしては、アリルアルコール、1−メチルアリルアルコール、2−メチルアリルアルコール、3−ブテン−1−オ−ル、3−ブテン−2−オ−ルなどが例示され、アリルアルコールが好ましい。
【0019】
Rがアルキニル基であるアルコールとしては、2−プロピン−1−オール、2−ブチン−1−オ−ル、3−ブチン−1−オ−ル、3−ブチン−2−オ−ルなどが例示される。
【0020】
この中で、アルコールとしては、Rが炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のアルキル基であることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、t−ブタノール、アリルアルコールである。より好ましくはメタノール、エタノールであり、さらに好ましくはメタノールである。アルコールは、単独でも、二種以上を混合して用いても良い。また、アルコールは、光学異性体が存在する場合には、光学異性体を含んでもよい。
【0021】
本発明において、「動物油」とは、動物由来の油であり、油脂を含む概念である。本発明で使用できる動物油としては、イワシ油、サバ油、ニシン油、サンマ油、マグロ油、タラ肝油など魚類の体から得られる魚油;ラード脂、ニワトリ脂、バター脂、牛脂、牛骨脂、鹿脂、イルカ脂、馬脂、豚脂、骨油、羊脂、牛脚油、ネズミイルカ油、サメ油、マッコウクジラ油、鯨油などがあり、魚油、牛脂および豚脂からなる群から選択される1以上の油であることが好ましく、これらの油が複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油でもよい。
【0022】
また、本発明において、「植物油」とは、植物由来の油であり、油脂を含む概念である。本発明で使用できる植物油としては、ココアバター脂、トウモロコシ油、ラッカセイ油、棉実油、ダイズ油、ヤシ油、オリーブ油、サフラワー油、アブラギ油、アマニ油、ココナッツ油、カシ油、アーモンド油、アンズの仁油、ヒマシ油、大風子油、シナ脂、綿実油、綿実ステアリン、ゴマ油、パーム油、パーム核油、コメ油、カポック油などがあげられ、より好ましくは、ひまわり油、サフラワー油、桐油、アマニ油、大豆油、菜種油、綿実油、オリーブ油、椿油、ヤシ油およびパーム油から選択される1種以上であるが、これらには限定されない。また、これらの油が複数混合したもの、ジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、一部、酸化、還元等の変性を起こした油でもよい。
【0023】
上記動物油や植物油は、原料動物や植物から直接採取したものであってもよいが、食用油などとして使用した後、廃棄されたものであってもよい。これらには、下記式(1)で示されるトリグリセライドが主成分として含まれるため、エステル交換によって脂肪酸モノエステルを効率的に製造することができるからである。
【0024】
【化1】

(R1、R2およびR3は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)
上記トリグリセライドに含まれるR1、R2およびR3の置換基としては、水酸基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基などがあり、上記トリグリセライドに含まれる脂肪族基としては、原料の動物種や植物種によって適宜選択することができる。
【0025】
上記動物油や植物油には、遊離脂肪酸や水分が含まれていてもよい。後記する第三工程によって酸価を低減できるからである。なお、一般には、動物や植物から採取した動物油や植物油、または食用等に使用された後の廃動物油や廃植物油には、1〜5質量%の遊離脂肪酸および飽和〜50質量%の水分が含まれている。食用油精製工程から副生するダーク油では、50〜100質量%の遊離脂肪酸を含有している。本発明では、このような原料から遊離脂肪酸や水分を除去することなく、脂肪酸モノエステル化物を効率的に製造することができる。
【0026】
また、上記動物油および/または植物油に代えて、予めこれらを加水分解して得た脂肪酸を原料として使用することもできる。本発明によれば、遊離脂肪酸を原料とした場合にはエステル化と同時に水が副生し、この水による加水分解反応によってエステル化物から遊離脂肪酸が生成され酸価を上昇させるが、後記する第三工程によって酸価を低減できる点で、原料として動物油や植物油を使用する場合と共通するからである。このような脂肪酸は、R4COOH(R4は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)で示される。上記脂肪酸に含まれるR4の置換基としては、水酸基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基などがあり、前記したトリグリセライドに含まれる脂肪族基と同じであって、原料の動物種や植物種によって適宜選択することができる。
【0027】
以下、原料として動物油および/または植物油を使用した場合で説明するが、特記しないかぎり、脂肪酸を使用する場合も同様である。
【0028】
(2)第一工程
本発明では、上記アルコールと動物油および/または植物油とを、温度150〜600℃、より好ましくは200〜500℃、特に好ましくは230〜400℃、圧力2〜100MPa、より好ましくは3〜50MPa、特に好ましくは6〜30MPaで反応させる。600℃を超える温度では、植物油や動物油、アルコールの熱分解が著しくなり、製品の収率が低下する場合がある。また、反応圧力が100MPaを越えても製品の収率や反応時間の改善はみられない。より好ましくは、これらの条件の中で、アルコールの亜臨界または超臨界条件でエステル交換することである。なお、本明細書において、亜臨界とは臨界温度をTc、臨界圧力をPcで示し、反応時の圧力、温度をそれぞれP、Tとしたときに、0.5Pc<P<Pc、0.5Tc<Tの状態、または0.5Pc<P、0.5Tc<T<Tcの状態をいう。
【0029】
反応時間は、上記動物油および/または植物油に含まれる脂肪酸トリグリセライドが、上記アルコールとエステル交換を行い、対応する脂肪酸モノエステル化物とグリセリンとを得るに足る時間である。一般には、反応時間は反応条件に応じて1分から5時間、より好ましくは3〜100分である。
【0030】
また、脂肪酸を原料とする場合には、温度150〜600℃、より好ましくは180〜500℃、特に好ましくは220〜380℃、圧力2〜100MPa、より好ましくは3〜50MPa、特に好ましくは5〜30MPaで十分である。なお、脂肪酸を原料とする場合のアルコールとの反応はエステル化反応となる。これらの条件の中で、より好ましくはアルコールの亜臨界または超臨界条件でエステル化することである。また、反応時間は反応条件に応じて1分〜5時間、より好ましくは3〜100分である。なお、脂肪酸を原料とする場合には、グリセリンは副生しないが水が副生する。
【0031】
本発明の製造方法を実施する装置の形式は特に規定しないが、たとえばバッチ式反応器や連続式槽型反応器、ピストンフロー型流通式反応器、塔型流通式反応器などを用いることができる。
【0032】
理論的には、動物油や植物油に含まれるトリグリセライド1モルに対し、3モルのアルコールと反応させると、1モルのグリセリンと3モルの対応する脂肪酸モノエステル化物が生成する。しかしながら本発明では、動物油および植物油の合計量に含まれるトリグリセライド1モルに対し、3〜100モル、より好ましくは5〜80モル、特に好ましくは6〜60モルのアルコールを添加することで効率的に、脂肪酸モノエステル化物を製造することができる。3モルを下回るとエステル化反応が不十分となり、一方、100モルを超えると反応装置が巨大化して不経済である。また、原料が脂肪酸の場合には、1モルのトリグリセライドから3モルの脂肪酸が遊離するため、上記アルコールのモル数を1/3に減じればよい。動物油や植物油に脂肪酸が混在する場合にも、含まれる脂肪酸量に対応してアルコールのモル数を上記範囲で減じればよい。
【0033】
原料である動物油および/または植物油には、一般に遊離脂肪酸が含まれ、アルコールと反応して脂肪酸モノエステル化物と共に水を副生する。したがって、原料が遊離脂肪酸や水分を含む動物油および/または植物油である場合、および脂肪酸が原料である場合には、上記反応により、脂肪酸モノエステル化物と、過剰のアルコール、副生するグリセリンおよび水を含む脂肪酸モノエステル化物反応液が得られる。
【0034】
(3)第二工程
第二工程は、第一工程で得た反応物に含まれる前記脂肪酸モノエステル化物反応液から前記アルコール、グリセリンおよび水を除去して脂肪酸モノエステル画分を得る工程である。
【0035】
このような方法としては、(1)前記第一工程の脂肪酸モノエステル化物反応液を蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水を留出させ、塔中からグリセリンを抜き出し、および塔底から脂肪酸モノエステル化物を回収する方法、(2)前記脂肪酸モノエステル化物反応液を蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水およびグリセリンを留出させ、塔底から脂肪酸モノエステル化物を回収する方法、(3)前記脂肪酸モノエステル化物反応液を第一蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水を留出させ、塔底からグリセリンおよび脂肪酸モノエステルを抜き出し、次いで第二蒸留塔に塔底液を導入してグリセリンと脂肪酸モノエステル化物とを分離回収する方法、(4)脂肪酸モノエステル化物反応液を蒸留塔に導入し、メタノールと水を留出後に、脂肪酸モノエステル化物とグリセリンを液−液分離する方法、その他、いずれの方法を使用してもよい。好ましくは、上記(4)の方法である。なお、本発明では、脂肪酸モノエステル化物反応液から前記グリセリンと水とアルコールとを除去した画分を脂肪酸モノエステル画分とする。
【0036】
(4)第三工程
次いで、カチオン交換樹脂の存在下に前記脂肪酸モノエステル画分と前記アルコールとを接触および反応させる。原料として使用した動物油および/または植物油に遊離脂肪酸が含まれるとアルコールと反応して水を副生し、この副生水によって生成した脂肪酸モノエステル化物が加水分解され遊離脂肪酸が生成する。この遊離脂肪酸は前記第二工程の脂肪酸モノエステル画分に混在し得るが、カチオン交換樹脂の存在下にアルコールを接触させるとエステル化され前記脂肪酸モノエステル画分から遊離脂肪酸が除去され、かつ遊離脂肪酸のエステル化によりエステル化率を向上させることができる。
【0037】
使用するカチオン性交換樹脂は、エステル化の触媒作用を発揮し、エステル化反応時間を短縮することができる。このように使用するカチオン交換樹脂としては、官能基にスルフォン酸基(R−SO3-+)を持つもの強酸性カチオン交換樹脂や、官能基としてカルボン酸基、スルホン酸基、フォスフィン酸基、フェノキシド基、亜ヒ酸基などを有する弱酸性カチオン交換樹脂がある。本発明では、脂肪酸モノエステル画分に含まれる脂肪酸をエステル化できるものであるならばいずれの樹脂でもよい。好ましくは、pK値(25℃)が0〜7、より好ましくは0〜5である。なかでも、官能基にスルフォン酸基(R−SO3-+)を持つもの強酸性カチオン交換樹脂が好ましい。また本発明では、スチレン系架橋重合体または(メタ)アクリル酸エステル系架橋重合体からなるカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。スチレン系架橋重合体としては、例えばスチレン−ジビニルベンゼン(以下、DVBと略す。)の架橋重合体などが挙げられる。その樹脂構造は、スチレンとDVBを単純に重合してできるゲル型でも良いし、多孔性で樹脂の表面積がゲル型よりもはるかに大きいポーラス型、ハイポーラス型でも良い。本発明では、オルガノ株式会社製の商品名「オルガノアンバーリスト15DRY」、「オルガノアンバーリスト15JS−HG/dry」、「オルガノアンバーリスト35Dry」、「アンバーリスト36Dry」、「アンバーリスト70」などを好適に使用することができる。なお、カチオン交換樹脂は、固定床として使用してよく、撹拌させて使用してもよい。
【0038】
本発明において、上記脂肪酸モノエステル画分に対するアルコールの使用量は、脂肪酸モノエステル画分1質量部に対して、アルコール0.007〜2質量部、より好ましくは0.01〜1.5質量部、特に好ましくは0.015〜1質量部である。第二工程で分取した脂肪酸モノエステル画分に混在する遊離脂肪酸はわずかであり、上記範囲で十分に効率的にエステル化することができる。0.007質量部を下回ると、脂肪酸モノエステル画分がわずかに存在する水によって加水分解反応し、脂肪酸が増加する場合がある。一方、2質量部を超えるとアルコールの回収工程で過剰のエネルギーが必要となり不利である。
【0039】
前記脂肪酸モノエステル画分を、前記アルコールと共にカチオン交換樹脂と接触させる際の温度は、25〜200℃、より好ましくは45〜190℃、特に好ましくは50〜180℃、圧力は10〜4000KPa、より好ましくは20〜3500KPa、特に好ましくは20〜3000KPaである。エステル化自体は、200℃を超えても可能であるが、これを超えるとカチオン交換樹脂が劣化する場合がある。一方、25℃を下回ると反応時間が長くなり、不利である。また、反応圧が4000KPaを超えると昇圧のためのエネルギーが多くかかる、一方、10KPaを下回る圧力である大気圧以下に減圧するのはエネルギー消費が多くなるし、設備も巨大化する。また、カチオン交換樹脂と脂肪酸モノエステル画分とアルコールとの混合液の接触は、LHSVが0.1〜30hr-1であることが好ましく、より好ましくは0.2〜20hr-1、特に好ましくは0.5〜15hr-1である。
【0040】
(5)第四工程
本発明では、第三工程で得た反応液から蒸留操作によって脂肪酸モノエステル化物を分離する。前記反応液には脂肪酸モノエステル化物と共にアルコールが含まれ、更にエステル化反応で発生する副生水が含まれ得る。そこで、上記反応液からアルコールを除去すると共に、副生水などを除去することで、より純度の高い脂肪酸モノエステル化物を分取することができ、酸価が低いディーゼルエンジン用燃料を製造することができる。
【0041】
前記反応液の一部からアルコールと水などを分離除去する方法としては、反応液を蒸留塔に導入し、蒸留条件を選択して、塔頂からアルコールと水を留出させおよび塔底から脂肪酸モノエステル化物を回収する方法、その他、いずれの方法を使用してもよい。
【0042】
上記第四工程によって得られる脂肪酸モノエステル化物は、ディーゼルエンジン用燃料として使用することができる。なお、このディーゼルエンジン用燃料は、酸価が0.5以下に低減される。
【0043】
なお、本発明では第一工程で、動物油および/または植物油とアルコールとを前記した亜臨界条件または臨界条件で反応させてエステル交換反応を行った場合には、原料に含まれない高沸点成分が生成する場合がある。この原因の詳細は不明であるが、超臨界または亜臨界条件を経ることで成分の重縮合反応が生ずるため、高沸点物質が副生すると推定される。更に、第三工程で得た脂肪酸モノエステル画分に未反応の動物油および/または植物油や、ジグリセライド、モノグリセライドが少量含まれていることがある。しかしながら、このような場合であっても、第三工程についで得られた反応液を蒸留し、脂肪酸モノエステル化物を分取する第四工程を行うことで高沸点成分や少量含まれていることもある未反応の動物油および/または植物油や、ジグリセライド、モノグリセライドを除去することができ、ディーゼルエンジン用燃料の動粘度を低下させることができる。
【0044】
(6)ディーゼルエンジン用燃料
本発明のディーゼルエンジン用燃料は、上記第一工程から第四工程によって製造される脂肪酸モノエステル化物からなり、好ましくは酸価0.5以下である。ディーゼルエンジン用燃料として使用するには、酸価が0.5以下であることの他、低粘度、高揮発性で、悪臭がなく、黒煙やSOX成分の少ないことが好ましいが、原料が植物油や動物油であるためSOx成分が少なく、エステル化反応の後に、脂肪酸モノエステル画分を単離しているため、悪臭がなく、かつ脂肪酸エステル化物は高揮発性であり、ディーゼルエンジン用燃料として好適に使用することができる。また、ディーゼルエンジン用燃料として用いるほか、軽油、灯油、A重油などに添加して他の燃料等に用いることもできる。
【0045】
本発明によって製造されるディーゼルエンジン用燃料は、地球の循環系に組み込まれたバイオマス資源を原料としたもので、化石資源由来の軽油に比べ環境への負荷の低減に大きく寄与するものである。本発明の製造方法は、調理などに使われた廃食用油などの産業・家庭廃棄物の大量処理技術、特にそれらを有用化合物に選択的かつ効果的に変換する技術としても大いに期待できる。
【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に即して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0047】
実施例1
植物油として菜種油(脂肪酸0.01%、他はトリグリセライド)を用い反応を行った。
【0048】
原料油脂タンクに接続される内径5mm×長さ3.5mの外部電気ヒーター付きステンレス製油脂加熱管から原料油脂を1.114kg/hの流速で供給し、アルコールタンクに接続される内径5mm×長さ3.0mの外部電気ヒーター付きステンレス製アルコール加熱管からメタノールを0.569kg/hの流速で供給した。供給メタノールと油質量量比(供給メタノール/油質量比)は0.51であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は、14.0であった。両加熱管の末端を集合させ、内径21mm×長さ7.3mの外部電気ヒーター付きステンレス製エステル交換反応管内で、温度340℃、圧力20MPaにて40分間反応させた(第一工程)。
【0049】
反応後、反応液を蒸留塔に導入し、塔頂から未反応メタノール及び水分を留出させ、塔底液は静置して2液相分離した。上相液はモノエステル組成物、下相液はグリセリンであった(第二工程)。この画分はモノエステル化率96.9%であり、酸価は3.58であった。
【0050】
次いで、スルフォン酸基(R−SO3-+)を官能基として有するカチオン交換樹脂(オルガノ社製、商品名「オルガノアンバーリスト15JS−HG/dry」:pK=0)17.5mlをジャケット付ガラスカラムに充填した後、ジャケットに温度65℃の温水を流し、カラム内の温度を64℃に保ち、ここに第二工程で得た酸価3.58のモノエステル組成物1質量部に対してメタノールを0.226質量部混合して供給液とし、64℃に予熱した後、前記カラムに30ml/hrの流速(LHSV=1.7hr-1)で通液した(第三工程)。
【0051】
流出液を30mlづつサンプリングし、各サンプルを蒸留して脂肪酸モノエステル化物を得た(第四工程)。各サンプルの脂肪酸モノエステル化物の酸価を測定したところ、酸価は0.34であった。また、流出180ml目のサンプルの酸価は0.42であり、得られた180mlのサンプルの平均酸価は0.4であり、モノエステル化率は98.4%であった。
【0052】
実施例2
実施例1と同じ菜種油を原料油脂として使用し、実施例1と同じエステル交換反応装置を使用して反応を行った。
【0053】
該原料油脂タンクから流速0.47kg/hで原料油脂を供給し、0.72kg/hの流速でメタノールを供給した。供給メタノールと油質量量比(供給メタノール/油質量比)は1.53であり、メタノールと油とのモル比(供給メタノール/油モル比)は、42.0であった。実施例1と同様に、温度340℃、圧力20MPaで40分反応させた(第一工程)。
【0054】
その後、反応液を蒸留塔に導入し、塔頂から未反応メタノール及び水分を留出させ、塔底液は静置して2液相分離した。上相液はモノエステル組成物、下相液はグリセリンであった(第二工程)。モノエステル化率98.8%であり、酸価は2.5であった。
【0055】
次いで、実施例1と同様の装置を使用し、ここに第二工程で得た酸価2.5のモノエステル組成物1質量部に対してメタノールを0.11質量部混合して供給液とし、ジャケットに温度65℃の温水を流し、カラム内の温度を64℃に保ち、前記カラムに30ml/hr(LHSV=1.7hr-1)の流速で通液した(第三工程)。
【0056】
流出液を180mlサンプリングし、サンプルを蒸留して脂肪酸モノエステル化物を得た(第四工程)。サンプルの脂肪酸モノエステル化物の酸価を測定したところ、酸価は0.3であった。
【0057】
実施例3
植物油として菜種油を加水分解して得られた脂肪酸(飽和水分含有)を用い、実施例1と同じエステル交換反応装置を使用して反応を行った。
【0058】
原料油脂タンクから、流速0.343kg/hで原料油脂を供給し、流速0.596kg/hでメタノールを供給した。供給メタノールと油質量量比(供給メタノール/油質量比)は1.74であり、エステル交換反応管では、温度270℃、圧力17MPaにて87分間反応させた(第一工程)。
【0059】
その後、反応液を蒸留塔に導入し、塔頂から未反応メタノール及び水分を留出させ、塔底液から脂肪酸モノエステル組成物を得た(第二工程)。モノエステル組成物のモノエステル化率は96.7%であり、酸価は6.68であった。
【0060】
次いで、実施例1と同様の装置を使用し、ここに第二工程で得た酸価6.68のモノエステル組成物1質量部に対してメタノールを0.43質量部混合して供給液とし、ジャケットに温度65℃の温水を流し、カラム内の温度を64℃に保ち、前記カラムに15ml/hr(LHSV=0.85hr-1)の流速で通液した(第三工程)。
【0061】
流出液をサンプリングし、サンプルを蒸留して脂肪酸モノエステル化物を得た(第四工程)。サンプルの脂肪酸モノエステル化物の酸価を測定したところ、90ml目の酸価は0.46であった。なお、モノエステル化率は99.8%であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、簡便な方法で酸価の低いディーゼルエンジン用燃料を製造することができ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)で示されるアルコールと動物油および/または植物油とを、温度150〜600℃、圧力2〜100MPaで反応させて脂肪酸モノエステル化物反応液を得る第一工程、
前記脂肪酸モノエステル化物反応液からグリセリン、前記アルコールおよび水を除去して脂肪酸モノエステル画分を得る第二工程、
カチオン交換樹脂の存在下に前記脂肪酸モノエステル画分と前記アルコールとを接触および反応させる第三工程、および
前記第三工程で得た反応液を蒸留して、脂肪酸モノエステル化物を得る第四工程とからなる、ディーゼルエンジン用燃料の製造方法。
【請求項2】
前記動物油が、魚油、牛脂および豚脂からなる群から選択される1種以上であり、前記植物油が、ひまわり油、サフラワー油、桐油、アブラギ油、アマニ油、大豆油、菜種油、綿実油、オリーブ油、椿油、ヤシ油およびパーム油からなる群から選択される1種以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記動物油および/または植物油が、下記式(1)で示されるトリグリセライドを含有するものである、請求項1または2記載の製造方法。
【化1】

(R1、R2およびR3は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)
【請求項4】
前記動物油および/または植物油が、遊離脂肪酸および/または水分を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ROH(Rは、炭素数1〜24の飽和または不飽和の脂肪族基を示す。)とR4COOH(R4は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜24の飽和または不飽和の脂肪族基である。)で示される脂肪酸とを、温度150〜600℃、圧力2〜100MPaで反応させて脂肪酸モノエステル化物反応液を得る第一工程、
前記脂肪酸モノエステル化物から前記アルコールおよび水を除去して脂肪酸モノエステル画分を得る第二工程、
カチオン交換樹脂の存在下に前記脂肪酸モノエステル画分と前記アルコールとを接触および反応させる第三工程、および
前記第三工程で得た反応液を蒸留して、脂肪酸モノエステル化物を得る第四工程とからなる、ディーゼルエンジン用燃料の製造方法。
【請求項6】
前記第四工程で得たディーゼルエンジン用燃料の酸価が、0.5以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
第一工程および/または第三工程で使用するアルコールが、メタノールである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記第一工程における動物油および植物油に含まれるトリグリセライドの合計量に対するアルコールのモル比(アルコール/動物油および植物油)が、3〜100である、請求項1〜4、6〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記第三工程において、前記脂肪酸モノエステル画分1質量部に対するアルコールの質量部比(アルコール/脂肪酸モノエステル画分)が0.007〜2である、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−332250(P2007−332250A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164982(P2006−164982)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】