説明

ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関の操作方法、並びに該方法に従い操作可能なディーゼルタイプの二元燃料内燃機関

本発明は、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作する方法に関し、該内燃機関は、ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、該燃焼室及び/又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含む。前記方法は、前記燃焼室及び/又は前記吸込みポートにおいて前記第1燃料を予混合するステップと、前記第1燃料を含む装入材料を、前記第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮するステップと、前記燃焼室への前記第2燃料の第1噴射を実施して、前記第2燃料の自己着火を開始することにより、前記第1燃料を着火し、これによって、前記第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始するステップとを含み、さらに、少なくとも1回の後続噴射を実施するが、該後続噴射によって追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給し、これにより、乱流の強度及び前記火炎の伝播速度を高め、及び/又は燃焼室における後期混合を強化して、燃焼中の後期酸化を改善するステップを含む。さらに本発明は、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関の操作方法、並びに該方法に従い操作可能なディーゼルタイプの二元燃料内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関は、一般に、ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、燃焼室又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含む。
【0003】
前述のように内燃機関を操作する公知の方法は、
− 燃焼室及び/又は吸込みポートにおいて第1燃料を予混合するステップと、
− 第1燃料を含む装入材料を、第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮するステップと、
− 第2燃料の噴射及び自己着火によって、燃焼室内の第1燃料を着火させ、これにより、予混合火炎伝播燃焼の条件を開始するステップとを含む。
【0004】
このような方法は、一般に、予混合火炎伝播燃焼によって識別される操作モードとして記載される。簡潔にするため、以下ではこの方法を「火炎伝播モード」とも呼ぶ。
【0005】
本発明は、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関、特に、高負荷に好適なエンジンに関する。
【0006】
このようなエンジンの適用分野の1つは、トラック、貨物自動車及びバスなどの車両である。他の適用分野としては、船舶及びボート、あるいは、内燃機関を用いた発電がある。
【0007】
大型エンジンには、一般に、燃料としてディーゼル油が用いられている。従って、設計及び機能が高負荷用に最適化された膨大な数のディーゼルエンジンがある。しかし、現在、大型エンジンを別の燃料、例えば天然ガス又はバイオガスで動作させることできるようにすることに大きな関心が寄せられている。
【0008】
本発明は、ディーゼルタイプのエンジンであって、ディーゼル油以外の燃料を用いた使用に適応させたエンジンに関する。従って、ここで、ディーゼルタイプのエンジンとは、より広義に、従来のディーゼル燃料で満足に機能する同タイプのエンジンを意味する。
【0009】
そのため、多数の二元燃料内燃機関が提案されている。例えば、ディーゼルエンジンにおいて主要燃料として天然ガスを用いることが提案されている。天然ガスをディーゼルエンジンに主要燃料として用いる場合には、天然ガスを最初に空気と予混合し、その後、第2燃料のパイロット噴射を用いて着火をトリガする。続いて、燃焼室内で予混合火炎伝播燃焼を実施する。
【0010】
特許文献1は、二元燃料内燃機関が燃料油供給装置及び燃料ガス供給装置を含む、二元燃料内燃機関システムを記載している。燃料油供給装置とエンジンとの間に接続される手段が少量のディーゼル燃料をエンジンに噴射する。ディーゼル燃料の噴射は、パイロット噴射量にのみ限定される。
【0011】
前述したタイプのエンジンに伴う問題は、こうしたエンジンがノックの問題を被りうることである。これは、火炎に先立つ未燃燃料の制御されない自己着火によるものと考えられ、この問題は、小型エンジンと比較して、燃焼室容積が大きく、かつエンジン回転数が低いために、また、予混合操作用に設計されたエンジン(例えば、ガソリンタイプのエンジン)と比較して、局所火炎伝播速度が低いために、大型エンジンにおいて深刻化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,955,326号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、大型車に好適なディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作するための改善された方法を提供することである。
【0014】
好ましくは、本方法は、従来技術のエンジンに見られたようなノックの問題を軽減し、その結果、燃料効率を高め、好ましくは未燃炭化水素及びCOの排出を低減するものである。
【0015】
好ましくは、本方法は、従来のディーゼルエンジンと同等の燃料効率を可能にするものである。
【0016】
本方法は、概して、すす及びNOx排出が低い燃焼を可能にすることが望ましい。
【0017】
以上のことを考慮すると、前述したような方法を実施するためのディーゼルタイプの二元燃料内燃機関も必要であることが理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述した目的は、添付した独立請求項に記載する本発明によって達成される。従属請求項は、本発明の有利な別の形態、実施形態、改良形態及び好ましい別の発展形態を含む。
【0019】
本発明に従い、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作する方法が提供され、該内燃機関は、ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、燃焼室及び/又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含み、
該方法は、
● 燃焼室及び/又は吸込みポートにおいて第1燃料を予混合するステップと、
● 第1燃料を含む装入材料を、第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮するステップと、
● 燃焼室内への第2燃料の第1噴射を実施して、第1燃料を着火させるために第2燃料の自己着火を開始し、これにより、第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始するステップとを含む。
【0020】
さらに、本方法は、少なくとも1回の後続噴射を実施するステップを含み、この後続噴射は、追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給し、これにより、乱流の強度及び火炎の伝播速度を高め、及び/又は燃焼室における後期混合を強化して、残留燃料の燃焼中の後期酸化を改善する、上記ステップを含む。
【0021】
従って、本発明によれば、少なくとも1回の後続噴射を用いて、燃焼過程に運動エネルギーを追加できる。後続噴射により供給される追加の運動エネルギーを用いて、燃焼室内の火炎の領域における追加の小規模乱流を形成することができ、これが、火炎の伝播速度を高めることになる。従って、火炎前面はより迅速に発達し、追加乱流がない場合より短い時間で燃焼室に到達して、所定時間経過後に、より好都合の燃焼室圧力形成を達成し、これによって、エンジンの(燃料)効率を高めると同時に、追加乱流のない従来の二元燃料燃焼過程と比較して、ノックの危険性が低くなる。
【0022】
追加乱流を形成するための後続噴射に代わり、又は加えて、本方法は、燃焼中に最終的酸化を改善するように、燃焼室における後期混合を強化するために、後続噴射を実施する追加のステップを含んでもよい。こうした後続噴射は、「後噴射」と呼ばれることもある。後噴射タイプの後続噴射の目的は、上述の後続噴射の目的と同様に、燃焼過程に運動エネルギーを追加することである。しかし、後噴射によって追加される運動エネルギーは、本来、火炎速度を高めるために使用されるわけではない。そうではなく、後噴射からの運動エネルギーは、燃焼サイクルのより後期の段階で乱流を形成し、これによって燃焼室内に残るガスの後期の全体及び局所混合を強化することによって、残留燃料の燃焼中の後期酸化を改善する。
【0023】
有利には、第1燃料は、例えば、空気及び/又は再利用排気ガスと予混合して、第1燃料を含む装入材料を形成する。
【0024】
燃焼室への第2燃料の第1噴射は、着火を開始するのに十分であり、従って、予混合した火炎伝播燃焼を開始するのに十分である。対照的に、後続噴射(第2燃料の第1噴射後に実施)の目的は、伝播火炎の領域における追加的小規模乱流を開始する運動エネルギー、又は燃料室内での気体の混合を強化する運動エネルギーを追加することである。従って、後続噴射は、必ずしも燃焼過程に燃料を追加することを必要としない。噴射によって運動エネルギーを伝達することができ、しかも燃焼過程を妨害しないものであれば、どんな気体又は液体材料を用いてもよい。
【0025】
供給される運動エネルギーの必要量及び噴射の実施は、一般に、気体材料の噴射より、液体の方が達成しやすいことから、後続噴射の液体を噴射するのが好ましい。このことを考慮すると、燃焼過程を妨害しない任意の液体、例えば、水を噴射できる。しかし、液体の噴射は、該物質が、噴射の正にその瞬間に液相であることを意味する。いったん噴射されると、液体は、一般的な条件の場合、燃焼室の状態、噴射方法及び液体の特性に応じて異なる速度で、気相に移行する。従って、後続噴射が液体噴射である場合でも、運動エネルギーの大きな部分が伝達され、物質が気相にある間は、乱流の大きな部分が噴射物質の衝撃によって形成される。
【0026】
しかし、実用的な目的のためには、後続噴射は燃料の噴射であることが好ましい。最も好ましくは、後続の液体噴射は、第1噴射と同じ燃料、すなわち第2燃料からなる。従って、後続噴射のために追加の構造的又はエンジン設計構成は必要ない。
【0027】
好ましくは、少なくとも1回の後続噴射によって供給される追加の運動エネルギーの量は、可変である。
【0028】
前述したように、少なくとも1回の後続噴射を含む燃焼サイクルを使用することが想定されるが、複数回の後続噴射を用いてもよい。
【0029】
有利には、後続噴射によって供給される追加の運動エネルギーの量は、後続噴射の回数、後続噴射の噴射圧力、後続噴射の持続時間、又は後続噴射同士の間の停止時間のうち少なくとも1つを変更することによって、可変である。これに関して、供給される追加の運動エネルギーの量は、同じ燃焼サイクルの後続噴射同士で変動してもよく、且つ/又は別の燃焼サイクルに属する後続噴射同士の間で変動してもよい。
【0030】
有利には、後続噴射によって供給される運動エネルギーの量は、燃焼過程、燃料、並びにそのパラメーター、例えば温度、圧力、時間、燃料の品質などのうち少なくとも1つを感知する少なくとも1つのセンサーから供給されるフィードバック、及び/又は燃焼過程の結果(限定するものではないが、燃焼過程により生成され、エンジンの排気ガスに含まれる化学化合物)に応じて変動する。次に、入力としてのセンサーからのフィードバックを用いて、少なくとも1つの後続噴射の制御を実施できる。従って、燃焼過程を連続的に観測して、後続噴射を連続的に制御することにより、燃焼過程を改善できる。有利には、始動段階では、後続噴射について選択した開始パラメーターを用いて、1回の第1燃焼サイクル又は複数回の第1燃焼サイクルを運転し、その後、センサーを用いて、1回の第1燃焼サイクル又は複数回の第1燃焼サイクルを評価し、エンジンの正常な操作段階において続く燃焼サイクルについての後続噴射の調節のための入力を提供する。従って、燃焼過程は、特定の状況に合わせて調整できる。さらに、これによって、万一エンジンの連続的操作中に条件が変わった場合でも、それに合わせて後続噴射も調整できるため、より頑健な燃焼過程が可能になる。
【0031】
後続噴射について選択した開始パラメーターを用いて1回の第1燃焼サイクル又は複数回の第1燃焼サイクルを開始する以外にも、始動段階においては、後続噴射を一切実施せずに、1回の第1燃焼サイクル又は複数回の第1燃焼サイクルを運転させることもできる。
【0032】
センサーは、例えば、供給燃料の品質を感知する、好ましくはオクタン価を感知するセンサーであるのが有利である。こうしたセンサーは、例えば、燃料タンク又は燃料供給系に設置できる。
【0033】
あるいは、燃料の品質センサーに加えて、又はこれと組み合わせて、本方法では、燃焼の質を感知するセンサーを用いてもよい。各種のセンサーが適用可能である。公知のタイプのセンサーの1つとして、いわゆるノックセンサーがある。好ましくは、燃焼室圧力を感知する装置を、熱放出の迅速な評価(サイクル対サイクルに基づく)のための方法と組み合わせて用いることができる。
【0034】
好ましくは、第1燃料は、オクタン価が高い、好ましくは90以上の燃料である。有利には、第1燃料は気体燃料、好ましくは天然ガス又はバイオガスである。
【0035】
好ましくは、第2燃料は、セタン価が高い、好ましくは40以上の燃料である。有利には、第2燃料は液体燃料、好ましくはディーゼル油、バイオディーゼル若しくはDME(ジメチルエーテル)である。
【0036】
有利には、第1燃料は、空気及び/又は再利用排気ガスと予混合する。
【0037】
本発明の第2の態様では、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関が提供され、該内燃機関は、
− ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、
− 燃焼室及び/又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、
− 第2燃料の第2燃料供給装置と、
− 燃焼室及び/又は吸込みポートにおいて予混合される第1燃料と、
− 第1燃料を含む装入材料を、第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮する少なくとも1つの装置と、
− 燃焼室内への第2燃料の第1噴射を実施して、第1燃料を着火するために第2燃料の自己着火を開始し、これにより、第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始する少なくとも1つの噴射装置とを含み、
追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給するように、少なくとも1回の後続(好ましくは液体)噴射を実施する少なくとも1つの噴射装置が、乱流の強度及び火炎の伝播速度を高め、及び/又は燃焼室における後期混合を強化して、残留燃料の燃焼中の後期酸化を改善する。
【0038】
好ましくは、二元燃料内燃機関は、燃焼過程からのフィードバックを提供する少なくとも1つのセンサーを含み、該センサーからの出力が、少なくとも1回の後続(好ましくは液体)噴射の制御に用いられる。
【0039】
好ましくは、二元燃料内燃機関は、燃焼の質、又は供給燃料の品質を感知するセンサーを含む。
【0040】
本方法に関して前述したその他の態様及び利点は、本発明の二元燃料内燃機関にも同様に適用される。
【0041】
添付の図面を参照しながら、本発明について以下に記載する非制限的実施例により詳細を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の方法の実施形態の噴射に関して、時間の関数としての熱放出速度曲線を概略的に示す図である。
【図2】予混合火炎伝播燃焼操作モード(「火炎伝播モード」)にある燃焼室における火炎伝播を概略的に示す図である。
【図3】均質着火及び燃焼によって区別される操作モード(「均質燃焼モード」とも呼ばれる)にある燃焼室における燃焼過程を概略的に示す図であり、該モードは、参照として本明細書に含まれる。
【図4】本発明の好ましい実施形態による方法及び二元燃料内燃機関を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
前述のように、本発明に従い、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作する方法が提供され、該内燃機関は、ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、燃焼室又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含み、
該方法は、
− 燃焼室及び/又は吸込みポートにおいて第1燃料を予混合するステップと、
− 第1燃料を含む装入材料を、第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮するステップと、
− 燃焼室への第2燃料の第1噴射を実施して、第2燃料の自己着火を開始することにより、第1燃料を着火し、これによって、第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始するステップとを含み、
本方法はさらに、
− 少なくとも1回の後続噴射を実施するが、これによって、追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給し、これにより、乱流の強度及び火炎の伝播速度を高め、及び/又は燃焼室における後期混合を強化して、残留燃料の燃焼中の後期酸化を改善するステップを含む。
【0044】
図1は、第2燃料の第1噴射のタイミングと、熱放出の速度に関する後続噴射のタイミングを概略的に(簡略化して)示す。図1では、水平次元は、燃焼サイクル中の時間、又はクランク角間隔を表す。垂直次元は、(i)熱放出曲線4の速度に関する場合、燃焼過程の熱放出の速度を、また(ii)噴射1、2、3に関する場合、噴射燃料材料の流量を表している。
【0045】
噴射1、2、3(噴射1)の最初のものは、第2燃料の噴射及び自己着火によって第1燃料を着火させるために用いられる第2燃料の「第1噴射」である。従って、第2燃料の第1噴射1は、火炎の伝播をトリガするのに寄与する。これによって、熱放出の速度は、第1噴射1の後すぐに急速に上昇する。初期熱放出のわずかな部分が第1噴射1で噴射される第2燃料の燃焼に相当する。
【0046】
続く2回の噴射は、「後続噴射」2であり、これらは、乱流の強度及び火炎の伝播速度を高めるように、燃焼過程に追加の運動エネルギーを供給する。従って、後続噴射は、第2燃料からなるものでよいが、必ずしもそうである必要はない。図1に示すように、後続噴射2は、燃焼過程中に起こる。特に、この場合、後続噴射は、熱放出曲線4の速度のピーク前に実施する。「後続」噴射パルスの選択された数n:n=2(図1では2と示す)は一例に過ぎない。すなわち、このような噴射パルスの数は、個々のケースの状況又は個別の状態に応じて変動しうるものであり、1以上の任意の自然数でよく、例えば、n=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10などでよい。
【0047】
後続噴射2の目的は、火炎伝播の速度を高めるように、乱流強度を増大することであるため、一般に、火炎が燃焼室壁まで伝播する前に、後続噴射を実施するのが望ましいであろう。
【0048】
図示の実施例では、もう1回の後続噴射3(後噴射タイプのもの)が、熱放出が低下し始めるとき、熱放出曲線4のピーク後に実施される。後噴射3の目的は、最初に隙き間容積内に閉じ込められた燃料、あるいは、壁冷却若しくはその他の作用のために燃焼室内で部分的にしか酸化していない化合物の後期混合を高め、これによって、燃焼中の後期酸化を改善することである。従って、後噴射の結果、熱放出にわずかな増加が起こるが、これは熱放出曲線4の「こぶ」としてみとめられ、それ以外は下降している。
【0049】
後続噴射の数及び正確なタイミングを変更してもよいことは理解されたい。既に述べたように、少なくとも1回の後続噴射を実施すべきである。有利には、少なくとも2回の後続噴射があってよい。好ましくは、後続噴射の回数は、10以下である。1〜10回、好ましくは2〜5回の後続噴射が特に有用であると考えられる。
【0050】
さらに、図1では、図示した第1噴射1、後続噴射2、3(初期後続噴射2と後噴射3を含む)はすべて、同じ高さ及び時間を有する。すなわち、噴射はすべて同じ量の燃料を含む。これはもちろん必須というわけではない。そうではなく、噴射の外観は、本発明の概要で既述したように変わりうる。初期後続噴射2は、例えば、第1噴射及び/又は最終後続噴射3(後噴射)とは異なる。さらにまた、初期後続噴射2も同じである必要はない。
【0051】
図2a〜図2cは、燃焼室内での燃焼過程の(単純化)概略図である。水平軸は、燃焼室内での空間位置を示し、0は燃焼室の中央軸を示し、また+/−rは、燃焼室の横方向末端壁を示す。鉛直軸は、局所燃焼過程の完全性の度合いを示し、0は、局所燃焼がないことに一致し、1は、完全な局所燃焼に一致する。
【0052】
図2aは、本発明の方法を用いた着火時の状況を示す図である。説明及び簡略化のために、燃焼過程は、1次元で起こるように説明する(実際の燃焼室は、複雑な3次元の形状である)。好ましくは、着火及び初期燃焼は、燃焼室の中央部分で起こる。
【0053】
後続火炎伝播を図2a及び図2bに矢印で示す。火炎が燃焼室内の特定の位置を通って伝播したら、局所燃焼過程の完全度は0(局所燃焼なし)から1(完全な局所燃焼)へと移行する。最終的に、図2cに示すように、燃焼は、火炎が燃焼室の横壁まで伝播を完了すると、燃焼室の全部分において完全となる。
【0054】
従って、図2a〜図2cは、予混合火炎伝播燃焼が、本発明が関連する燃焼方法であることを示す。(予混合火炎伝播燃焼は、ガソリンタイプのエンジンにおける典型的燃焼過程である)。
【0055】
参照のみを目的とするものとして、図3a〜図3cを参照されたい。これらの図は、別のタイプの燃焼、すなわち、第1燃料を含む装入材料が、第1燃料の均質圧縮着火(HCCI)に近い条件まで圧縮される、燃焼を(単純化して)示す。このような燃焼方法は、均質着火及び燃焼とは区別されるものとして記載され、「均質燃焼」タイプの燃焼と呼ばれることもある。水平軸は、燃焼室における空間位置を示すが、0は燃焼室の中央軸を示し、また+/−rは、その横末端壁を示す。鉛直軸は、局所燃焼過程の完全性の度合いを示すものであり、その範囲は、0(局所燃焼なし)から1(完全な局所燃焼)までである。
【0056】
図3aからわかるように、着火時の状況は、図2aにおけるものと類似している。好ましくは、着火と初期燃焼は、燃焼室の中央部分で起こる。しかし、均質燃焼タイプの燃焼では、図3bに示すように、未燃燃料を含む燃焼室の全部分で自己着火が起こるまで、火炎はわずかにしか伝播しない。図3cに示すように、最終的に、燃焼室の全部分で燃焼が完全となる。
【0057】
均質着火及び燃焼は、不都合なノックを引き起こしうる非制御の自己着火とは対照的に、制御される有利な自己着火過程の1タイプとして引用されることがある。典型的には、図3a〜図3cに示すように、均質燃焼タイプの燃焼を用いる場合、燃焼室の全部分での完全燃焼は、図2a〜図2cの予混合火炎伝播燃焼実施例より速く到達する。
【0058】
本発明は、前述した火炎伝播燃焼モードを用いた方法である。しかし、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作する方法であって、ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、燃焼室又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含み、該操作方法は、火炎伝播モードと均質燃焼タイプの燃焼モードの間で切り換えが可能である、上記方法が提供されることは理解されたであろう。
【0059】
操作モード同士の切り換えは、操作モードの選択が達成されるように、第2燃料の自己着火後に燃焼室温度及び圧力を制御すべく、燃焼室への第2燃料の第1噴射中の第2燃料の量及び/又は第2燃料の第1噴射のタイミングを調節することによって達成できる。
【0060】
例えば、火炎伝播モードを維持するために、第2燃料の第1(着火)噴射は、比較的少量の燃料を用いて実施すべきである。第2燃料の第1噴射において第2燃料の量が閾値量まで上昇したり、あるいは、閾値を超えて、第2燃料の量がそれより多くなったりすると、燃焼室内の燃焼過程が変更されて、均質燃焼モードに達する。同様に、均質燃焼モードでエンジンを作動させる場合に、第2燃料の第1噴射中の第2燃料の量が閾値量まで減少したり、あるいは、閾値を超えて第2燃料の量がそれより少なくなったりすると、燃焼室の燃焼過程が変更されて、均質燃焼モードに達する。従って、第1噴射中の第2燃料の量は、両モード間のスイッチとして用いることができる。
【0061】
この機能は、それ自体、上記の適用に関して、前述したような後続噴射(第2燃料又は別の液体若しくは気体材料の噴射であってよい)が存在するかしないかとは無関係である。しかし、このような方法と組み合わせると特に有利であることは理解されよう。
【0062】
これに代わり、あるいは第2燃料の第1噴射中に噴射される燃料の量の変動と組み合わせて、第2燃料の第1噴射のタイミング(すなわち、噴射が開始する時点と、その持続時間)を変更して、2つの燃焼操作モードのうち一方を選択できる。均質燃焼タイプの操作モードの選択は、エンジンのピストンが上死点付近にあるとき第2燃料の自己着火が起こるように設計することによって(すなわち、噴射のタイミングを選択することによって)、実施できる。また、火炎伝播モードの選択は、エンジンのピストンが上死点から離れたとき、第2燃料の自己着火が起こるように設計することによって実施できる。
【0063】
操作モード間の切り換えは、燃焼室のラムダ値(正規化された空気/燃料比)で実施するのが有利であり、この値は1〜3の間、好ましくは1.5〜2.5の間、最も好ましくは約2である。
【0064】
図4は、本発明の方法及び二元燃料内燃機関の機能を概略的に示すブロック図である。
【0065】
制御装置400は、燃焼サイクル開始100、並びに任意で、二元燃料内燃機関の燃焼過程200のためのいずれかの後続噴射500を制御するように設計される。燃焼サイクル開始100は、第2燃料の自己着火を開始するための内燃機関の燃焼室への第1燃料の噴射と第2燃料の第1噴射を含み、これによって、火炎伝播モードの条件を開始するものであり、この開始100と、(任意の)後続噴射500が、燃焼過程200に影響を与える。前述したように、燃焼過程200は、1以上のセンサー300を用いて評価できる。センサー300は、制御装置400にフィードバックを供給し、制御装置400は、フィードバックに応じて、燃焼サイクル開始100及び/又は後続噴射500を調節しうる。
【0066】
図示した例では、燃焼過程の機能の測度を提供するセンサー300の1つが描かれている。しかし、既述したように、1つ又は複数のセンサー300は、燃料が燃焼室に到達する前の燃料の品質、あるいは燃焼過程の他の関連パラメーターを測定するために設置することもできる。
【0067】
さらに、複数のセンサー300を設置して、これらを後続噴射500の制御のために評価してもよいことは理解されよう。
【0068】
燃焼サイクル開始100は、エンジンの火炎伝播モードと均質燃焼モード間の選択を行うために、第2燃料の第1噴射を制御するように任意で設定することもできる。
【0069】
多数の実施形態及び別の態様が、添付の特許請求の範囲に包含されることは理解すべきである。さらに、本方法は、二元燃料を用いたディーゼルタイプの内燃機関を操作する方法に関するが、このような方法は、別の周期中に単一燃料でも動作しうるディーゼルエンジンにおいて周期的に用いてもよいことは理解されよう。単一燃料をエンジンに用いる場合には、本明細書に記載するもの以外の内燃機関を操作するいずれかの方法を用いてもよい。従って、本明細書で提案される方法は、同じエンジンにおいて用いられるいくつかの操作方法のうちの1つであってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関を操作する方法であって、該内燃機関は、ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、該燃焼室及び/又はその吸込みポート内に配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、第2燃料の第2燃料供給装置とを含み、
前記方法は、
● 前記燃焼室及び/又は前記吸込みポートにおいて前記第1燃料を予混合するステップと、
● 前記第1燃料を含む装入材料を、前記第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮するステップと、
● 前記燃焼室への前記第2燃料の第1噴射を実施して、前記第2燃料の自己着火を開始することにより、前記第1燃料を着火し、これによって、前記第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始するステップとを含む、前記方法において、
● 少なくとも1回の後続噴射を実施するが、該後続噴射によって追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給し、これにより、乱流の強度及び前記火炎の伝播速度を高め、及び/又は燃焼室における後期混合を強化して、燃焼中の後期酸化を改善するステップを含む、
ことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記後続噴射が、液体、好ましくは燃料、特に第2燃料の噴射であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
供給される前記追加の運動エネルギーの量が可変であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
供給される前記追加の運動エネルギーの量が、噴射の回数、噴射の噴射圧力、噴射の持続時間、噴射同士の間の停止時間のうち少なくとも1つを変更することによって可変であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
供給される前記追加の運動エネルギーの量が、少なくとも1つのセンサーから供給されるフィードバックに応じて変動することを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記センサーが、供給される第1燃料の品質を感知する、好ましくは、オクタン価を感知するセンサー、又は燃焼の質を感知するセンサーであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1燃料が、好ましくは90以上の高いオクタン価を有する燃料であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1燃料が、気体燃料、好ましくは天然ガス又はバイオガスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第2燃料が、好ましくは40以上の高いセタン価を有する燃料であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第2燃料が、液体燃料、好ましくはディーゼルオイル、バイオディーゼル又はDME(ジメチルエーテル)であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1燃料が、空気及び/又は再利用排気ガスと予混合されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
− ピストンにより少なくとも部分的に画定される燃焼室と、
− 前記燃焼室及び/又はその吸込みポートに配置される第1燃料の第1燃料供給装置と、
− 第2燃料の第2燃料供給装置と、
− 前記燃焼室及び/又は前記吸込みポートにおいて予混合される前記第1燃料と、
− 前記第1燃料を含む装入材料を、前記第2燃料の自己着火を可能にする条件まで圧縮する少なくとも1つの装置と、
− 前記燃焼室内への前記第2燃料の第1噴射を実施して、前記第1燃料を着火するために前記第2燃料の自己着火を開始し、これにより、前記第1燃料の予混合火炎伝播燃焼の条件を開始する少なくとも1つの噴射装置(100)とを含む、ディーゼルタイプの二元燃料内燃機関であって、
− 追加の運動エネルギーを燃焼過程に供給するように、少なくとも1回の後続(好ましくは液体)噴射を実施することにより、乱流の強度及び前記火炎の伝播速度を高め、及び/又は燃焼室における後期混合を強化して、燃焼中の後期酸化を改善する少なくとも1つの噴射装置(500)を含む、
ことを特徴とする、二元燃料内燃機関。
【請求項13】
前記燃焼過程からのフィードバックを提供する少なくとも1つのセンサー(300)を含み、少なくとも1つのセンサー(300)からの出力が、少なくとも1回の後続(好ましくは液体)噴射の制御に用いられることを特徴とする、請求項12に記載の二元燃料内燃機関。
【請求項14】
前記少なくとも1つのセンサー(300)が、燃焼の質、又は供給燃料の品質を感知するセンサーであることを特徴とする、請求項13に記載の二元燃料内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−532273(P2012−532273A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518509(P2012−518509)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000352
【国際公開番号】WO2011/002353
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(502196511)ボルボ テクノロジー コーポレイション (52)
【Fターム(参考)】