説明

ディーゼル排ガス粒子トラップ再生に好適な鉄含有ポリマー

トラップ再生を促進するための燃料添加剤としての使用のための鉄含有ポリマーが提供される。ポリマーは、物理的特性の有益なバランスを示し、塩基添加、および続く分岐鎖ポリカルボキシレートリガンドの配位を含む重合プロセスにより鉄塩から調製される。ポリマーは、高濃縮物形態で保存可能であり、また搭載型注入システムへの特段の適合性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料、特にディーゼル燃料用の鉄含有添加剤、および該添加剤の調製方法に関する。添加剤は、特にディーゼル排ガス粒子トラップの再生において、炭素質材料の燃焼を促進し、特にディーゼルエンジンに搭載された注入デバイスにおいて、燃料中での使用に優れた適合性を示す。
【背景技術】
【0002】
鉱物(例えば石油)起源か生体(例えば動物および/または植物)起源かを問わず、炭素質燃料は、随所に見られるエネルギー源である。特に、世界の大部分は、車両の駆動、ならびに家庭および産業用の発電および暖房を、液体炭素質燃料に頼っている。そのような燃料内に含有されるエネルギーの効率的放出は、その効果的な燃焼に依存する。現代的な設計の燃焼デバイスであっても、燃焼の化学工程は、典型的に、完全には達成されず、ある割合の炭素質材料が、二酸化炭素としてではなく1種または複数のより酸化度の低い種として排出される結果となる。特に、固体の炭素過剰な物質を含む粒子排出物が、不完全燃焼の周知の副生成物である。そのような排出物の少量の放出であっても、増加する環境上の精査の対象となっている。
【0003】
燃料に由来する炭素質材料の燃焼を改善するための燃料添加剤として、多くの金属が使用されているか、またはその使用が提案されている。そのような金属の1つは鉄である。このような燃焼改善は、排出、特に粒子排出または煙排出の低減を可能とするが、より低い過剰空気レベルでのデバイスの動作を可能とするために使用して、逃げたガスからの熱損失を低減し、システムの効率を改善することもできる。
【0004】
ディーゼルエンジンは、とりわけ、路上走行車、列車、および船舶等の輸送機関の形態を含む、多くのデバイスの駆動のための一般的な選択肢となっている。エンジン効率に対する高まり続ける重要性は、ディーゼル駆動輸送デバイス、特に路上走行車に対する排出基準を益々厳しいものとした。今日、技術者は、典型的には、現代の法的および社会的排出目標を達成するために、様々な排出制御戦略を展開しなければならない。
【0005】
ディーゼルエンジンからの粒子排出物の制御のための確立されている1つの戦略は、エンジンの排気システム内での粒子トラップ(粒子フィルタとしても知られる)の使用である。トラップは、典型的には、排気ガスの流通は概して許容するが、ディーゼル排出物の「粒子」成分を成す不完全燃焼材料の微小粒子は保持するように選択された細孔サイズを有する濾材を備える。このようにして、現代のディーゼルエンジンの自然の効率は、エンジンによりまだ生成される少量の粒子の大きな割合を捕集する、排気濾過工程により増大される。したがって、排気システムを出るガス(「排出ガス」)は、実質的に粒子を含まず、これにより技術者は非常に低い粒子排出目標を達成することができる。
【0006】
粒子状物質の濾過除去における粒子トラップの作用は、時とともに濾材の閉塞につながる。対応がなされないままだと、大きな逆圧が排気システム中に蓄積してエンジンの動作に影響する程度まで、フィルタを通過するガス流が妨げられるようになる。加えて、さらなる粒子の効果的濾過が阻害される。これらの理由のため、濾材は、一方で、収集された粒子を取り除いて効率的な機能を維持しなければならない。この清浄化プロセスは、当技術分野において典型的に「再生」として知られている。
【0007】
フィルタの再生は、それ自体燃焼行程を通して効果的に達成される。いくつかの代替の手法が開発されている。
【0008】
いわゆる「能動的」システムは、収集された粒子の温度を、トラップ内でその自然発火が生じる点まで上昇させるために、外部エネルギー(熱等)の周期的印加に依存している。ディーゼルエンジンは、希薄な空気:燃料化学量論比で動作し、排気ガスは、発火した粒子をin situで燃焼させるために利用可能な大量の酸素(吸気充填からの残余)を含有する。したがって、そのようなシステムにおいて、トラップは、周期的に第2の燃焼室となり、粒子は、排気管から出る前にガス状生成物までさらに燃焼される。
【0009】
一方、「受動的」システムは、外部エネルギーに依存しないが、代わりに他の手法で、収集された粒子のin situでの燃焼を促進する。これらのシステムのうち、触媒燃料添加剤の使用が、粒子トラップの再生を促進する実用的手法として認められてきている。より低いガス温度での粒子の発火を促進する触媒特性を有する金属をベースとした添加剤が、この目的のために商業的に使用されている。粒子の自然発火は、通常、摂氏約600度の温度でのみ生じる。そのような温度は、典型的には、エンジンの長期間の高速高負荷動作中の排気ガスによってのみ達する(補助なし)。触媒添加剤の存在は、その自然発火温度を大きく低下させ、より広範囲の典型的排気ガス温度にわたる発火を促進する。その結果、外部エネルギー源を必要とすることなく、より広いエンジン動作範囲(engine operating envelope)のもとで再生が達成される。発火促進の程度に依存して、捕集された粒子の発火および燃焼は、周期的(「確率的」)様式で、または連続的に生じ得る。
【0010】
トラップ再生添加剤において、多くの金属が使用されているか、またはその使用が提案されている。これらの金属のうち、鉄が特に好適であることが判明している。一方、鉄は、長期のトラップ動作を可能とするのに十分に再生を促進する。一方、鉄は、環境に優しい。燃焼中、鉄含有化合物中の鉄は、酸化鉄に変換されるが、これは燃焼室内での不完全燃焼により形成される粒子状物質中に取り込まれる。この粒子がその後濾材上に捕集されると、鉄は、発火される炭素質材料の中で理想的にin situに位置付けられることにより、発火促進効果を可能とする。結果生じる排出ガスは、最終的には、天然に存在する物質である酸化鉄を大気中に放出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、鉄含有添加剤の実用には問題が付随し、燃料添加剤としての鉄の使用が制限されていた。
【0012】
まず、ディーゼル燃料への鉄化合物の導入は、エンジンの燃料噴射器上への堆積物の形成と関連していた。ディーゼルエンジンの噴射器は、ディーゼル燃料の天然成分の酸化生成物から形成されると考えられる炭素質堆積物を生じやすいことが長年知られている。しかし、鉄含有添加剤の使用は、さらなる堆積物問題を生じることが認められている。この堆積物形成のメカニズムは完全には理解されていないが、噴射器部品の巧妙に設計された表面上への堆積物の形成が関与する。結果として、噴射時の燃料の噴霧パターンが好ましくない方向に改変され、より不完全な燃焼、また最終的にはより低い排出性能およびエンジン出力の損失へとつながる。さらに、より高度なエンジンは、典型的には、より細かい許容差で作られた、より精巧に設計された噴射器を必要とし、また、より厳しい排出基準にも適合しなければならない。
【0013】
鉄の有益な燃焼改善物質としての特性およびトラップ再生特性をより良く利用するために、燃料噴射器汚損へのより低い傾向を示す鉄含有添加剤が必要である。
【0014】
次に、鉄含有添加剤は、実際に燃焼室に到達するために、十分燃料に溶解または分散可能でなければならない。燃料分配ネットワークは、典型的には複雑であり、中間的な貯蔵所および燃料供給所での保存が関与する。燃料は、数日間、またはさらに数週間、そのような環境に留まる場合がある。同様に、車両またはその他の輸送デバイスに搭載された場合、添加剤は、燃料タンク内の燃料に均一に分布したままでなければならない。沈殿または堆積によりバルク燃料から失われた添加剤は、再生を達成することができず、また燃料システムにおけるフィルタの詰まりの原因ともなり得る。
【0015】
時が経過しても添加剤が燃料内で良好な分布を保つ傾向は、以降、その「安定性」と呼ばれる。鉄の添加剤としての有益な特性をより良く利用するために、特に分配ネットワークおよび燃料タンク内での典型的な保存条件下で燃料中のより大きな安定性を示す鉄含有添加剤が必要である。
【0016】
特に、再生添加剤を燃料から沈殿または堆積させることが知られている他の燃料成分の存在下でより大きな安定性を示す鉄含有添加剤が必要である。現代のディーゼル燃料に配合されているある種の潤滑添加剤は、(鉄を含む各種金属をベースとした)既知の再生添加剤の燃料からの沈殿または堆積を助長することが知られている。
【0017】
トラップ再生添加剤は、分配ネットワークにおいてバルク燃料に添加される場合もあるが、「搭載型」添加剤注入システムにおける応用が徐々に見出されている。これらのシステムは、車両(またはその他のデバイス)に搭載された個別のタンクから燃料システムに添加剤を供給するデバイスを備え、さらに上流側で燃料に添加剤を添加する必要性を回避している。このようにして、特定のエンジンとトラップの組合せを、単一の所定の添加剤との併用のために最適化することができる。したがって、例えば、現在生産中のあるディーゼルエンジン車両に搭載型注入デバイスが装備され、それにより、車両に搭載された別個の貯蔵タンク中に濃縮物形態で保持された添加剤が、好適な手段を介して、車両に搭載された燃料中に注入される。車両管理システムが注入量のレベルを制御し、システム動作を監視する。添加剤タンクは、長期間動作を可能とするのに十分な添加剤を含有し、必要に応じて補充することができる。
【0018】
そのような搭載型注入システムは、同様に、バルク燃料中で安定な添加剤を必要とする。
【0019】
しかし、さらに、搭載型の保存には、添加剤濃縮物が搭載型注入デバイスに適合するように十分低い粘度を有すること、および比較的少容量の濃縮物での長期間の動作を可能とするのに十分な添加剤濃度を保持することが必要である。現代の車両(またはその他の輸送デバイス)上の空間は極めて貴重であり、搭載型添加剤タンクおよび注入デバイスは、ともに小さくなければならない。さらに、複雑性は費用を増大させるため最小限に維持されなければならない。より高圧のデバイス(より粘凋性の液体の効果的注入に必要)も避けなければならない。
【0020】
これらの望ましい物理的特性は、添加剤濃縮物に対する相反する要求を生み出し、実際には満足させることが困難であることが分かっている。より大きな安定性を得るために、鉄は、典型的には、長鎖有機種と作用させることにより安定化されていた。その際、全体の分子または錯体の分子量は増加し、濃縮物粘度がより高くなり、それに比例して鉄含量がより低くなることとなる。この粘度を管理可能なレベルまで低減するには、より高い希釈率をも必要とし、鉄濃度のレベルがより低くなることとなり、これはより大きな添加剤タンクを必要とする。
【0021】
鉄の有益なトラップ再生特性を利用するために、より大きな安定性を示すだけでなく、高濃縮物形態においてより低い粘度を示し、搭載型注入システムの物理的制限をより満足させる鉄含有添加剤が必要である。
【0022】
噴射器汚損および相反する物理的特性の上記問題に対応する上で、得られる鉄含有添加剤が、燃焼改善物質またはトラップ再生添加剤としての主機能における有効性を維持することも不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、以降にも説明されるような方法により得ることができる、特有の鉄含有ポリマー材料の形態で、これらの問題に対する解決策を提供する。ポリマー材料は、予想外にも、低減された燃料噴射器汚損への傾向を示し、燃料中および濃縮物形態の両方において、物理的特性のより有利なバランスを提供する。
【0024】
特に、そのポリマーの性質にもかかわらず、ポリマー材料は、ディーゼル燃料中、特に潤滑添加剤等の不安定化成分の存在下で優れた安定性を示す。燃料に添加した際、ポリマー材料は、噴射システムからの燃料リターンラインを介した過剰の温かい燃料の部分的再循環を通してエンジンの動作中に生じる、特にディーゼル車両の燃料タンクにおいて典型的に見られる高い燃料温度で、長期間バルク燃料内での分布を保つ。燃料内への再生添加剤のより均一な供給が可能である。
【0025】
さらに、そのポリマーの性質にもかかわらず、本発明のポリマー材料は、予想外にも、これまで再生添加剤として使用されていた従来の鉄塩と比較して、濃縮物形態で(同程度の鉄濃度で)より低い粘度を示す。結果として、搭載型注入システムの要件により良く適合する、より高い鉄含量を含有する濃縮物を調製することができる。
【0026】
さらに、本発明のポリマー材料は、ディーゼル排ガス粒子トラップの優れた再生を提供する。
【0027】
これらの利点は、後に示す実施例においてさらに説明および実証される。
【0028】
米国特許第3,551,352号は、ケイ素、酸素、および鉄族金属の触媒無機ポリマー、および該ポリマーの作製方法を記載している。このポリマーは、複数およびランダムのSi−O−Si、Si−O−Fe、およびFe−O−Fe連結を含有する、非晶性無機高分子量ポリマー様材料中の、鉄、酸素、およびケイ素を含む化学結合として説明されている。触媒は、「スイートニング」として知られるプロセスである、ガソリン等の軽質石油蒸留物の処理における、メルカプタンのジスルフィドへの変換における実用が見出されている。そのような組成物におけるケイ素の存在が不可欠であることが、明確に教示されている。
【0029】
欧州特許出願第1344813号は、改善された保存安定性を有するトラップ再生添加剤としてのモノカルボン酸金属塩の使用を記載している。モノカルボン酸塩は、明確な分岐鎖構造を有し、好ましい構造はネオカルボン酸塩である。ネオデカン酸鉄が例示される。同等のものとして、他の単純な鉄化合物、すなわちオレイン酸鉄、2−エチルヘキサン酸鉄、およびフェロセン(ビス(シクロペンタジエニル)鉄)が例示される。
【0030】
上記開示のいずれも、本発明の鉄含有ポリマー材料、およびそれが提供する利点の組合せを指摘していない。
【0031】
ジョージア大学のDonald M.Kurtz,Jr.によるレビュー論文、表題「Oxo− and Hydroxo−Bridged Diiron Complexes:A Chemical Perspective on a Biological Unit」(Chem.Rev.1990、90、585〜606として参照)は、Fe−O−Feの「二鉄」構造単位に基づく錯体の多くの既知の性状を要約している。この論文は、pH>1でのFe(III)(aq)の加水分解から得られる二鉄種の性質が1974年に論議を呼び、その論文の時点ではまだ解明されていなかったことを述べている。基本となるFe−O−Fe単位の様々な異なる架橋構造が仮定および/または証明されている。
【0032】
本発明のポリマー材料は、特定の有機リガンドが配位した交互の鉄原子および酸素原子から本質的になるポリマー骨格を有する。反復(Fe−O−Fe−O−)連結内の可能性のある様々な架橋構造、および重合によりもたらされる付加的な複雑性を鑑みて、この骨格の詳細な構造は決定されていない。したがって、本発明の材料は、その調製方法に関して有効に定義され得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
したがって、第1の態様において、本発明は、
i)1種または複数の鉄(III)塩の水溶液を得る、または調製するステップと、
ii)それに弱塩基を段階的に添加しながら、塩基添加の間、反応媒体を連続的に撹拌するステップであって、
iii)ステップii)の間に添加される塩基の総量は、1:2.5から1:3.5の範囲内で添加される総塩基に対する鉄のモル比を提供し、また湿潤した沈殿物を得るような量であるステップと、
iv)ステップiii)からの湿潤した沈殿物を還流下において有機溶媒中で第三級窒素含有塩基および1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体と反応させるステップであって、該反応の間に発生した水が除去されるステップ、
v)ステップiv)において使用される少なくとも1種のポリカルボン酸および/または誘導体は、少なくとも14個の炭素原子を含有する分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含み、ステップiv)において使用されるすべてのポリカルボン酸および/またはその誘導体の総量は、1:1から3:1の範囲内の総カルボン酸基(その任意の誘導体を含む)に対する鉄のモル比を有する反応混合物を提供するような量であるステップと、
vi)得られた固体ポリマー材料を除去するステップと
を含む、燃料への添加剤としての使用に好適な鉄含有ポリマーの調製方法を提供する。
【0034】
第2の態様において、本発明は、第1の態様の方法により得ることができる、または該方法から得られた鉄含有ポリマーを提供する。
【0035】
特に、本発明は、複数の配位リガンドが支持されるポリマー骨格からなる鉄含有ポリマーであって、鎖状構造となった交互の鉄原子および酸素原子からなる前記骨格は、任意選択でさらにペンダント基または架橋基としてヒドロキシル基を保持し、前記配位リガンドは、ポリカルボキシレートリガンドおよび任意選択でさらに水分子であり、ポリカルボキシレートリガンドは、少なくとも14個の炭素原子を含有する分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するリガンドを含む、鉄含有ポリマーを提供する。
【0036】
第3の態様において、本発明は、第2の態様のポリマーおよびそれに適合する有機溶媒を含む添加剤濃縮物を提供する。
【0037】
本発明のさらなる態様は、以降で説明され請求される様々な燃料組成物、プロセスおよび方法を含む。
【0038】
ここで、本発明の好ましい特徴および実施形態を説明する。
【0039】
方法(本発明の第1の態様)
方法は、ポリマーの鉄含量を提供するための出発材料として、1種もしくは複数の鉄(II)、または、好ましくは、1種または複数の鉄(III)塩(任意選択で1種または複数の鉄(II)塩と組み合わせてもよい)を使用して行うことができる。鉄(II)塩が選択される、または含まれる場合、方法は、後続のステップを行う前に、鉄(II)を鉄(III)に酸化する余分のステップia)を必要とする。この酸化ステップは、好ましくは空気(例えば溶液へのバブリングによる)またはその他の酸化剤への曝露により、水溶液中でin situで行われてもよい。
【0040】
鉄(III)塩の使用は、この酸化ステップia)を不要にし、プロセスの観点から好ましい。にもかかわらず、最適な鉄塩(複数可)は、より実用的にはFe(II)形態で利用可能であり、したがって、追加的な態様において、本発明はまた、第1の態様において概説される方法であるが、ステップi)が1種もしくは複数の鉄(II)塩(複数可)(または鉄(II)塩と鉄(II)塩の混合物)を使用し、追加的なステップia)が、空気および/またはその他の酸化剤への曝露により、鉄(II)イオンの鉄(III)イオンへの酸化を可能にする、またはもたらす方法もまた請求する。それ以外は、方法は、上に概説したように進行する。
【0041】
方法の第1の部分は、水溶液中で行われる。したがって、出発材料として使用される鉄塩(複数可)は、一般に、水に添加した際にすぐに水溶液を形成する鉄塩から選択され得る。塩は、結晶水を含有してもよい。本発明の方法において好ましい塩は、鉄(III)の硝酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩、酢酸塩、アセチルアセトネート、およびシュウ酸塩、ならびにそれらの鉄(II)対応物を含む。より好ましくは、硝酸鉄(II)もしくは硝酸鉄(III)またはハロゲン化鉄(II)もしくはハロゲン化鉄(III)のみがステップi)において使用され、ハロゲン化物塩は、好ましくは、塩化鉄(II)もしくは塩化鉄(III)または臭化鉄(II)もしくは臭化鉄(III)である。最も好ましくは、鉄塩は、硝酸鉄(III)またはハロゲン化鉄(III)、特に塩化鉄(III)または臭化鉄(III)のみである。硝酸鉄(III)が最も好ましい。
【0042】
鉄塩の水溶液は、単に、穏やかに撹拌しながら、また必要に応じて穏やかに加熱しながら、所望の濃度まで水に塩を溶解させることにより調製され得る。そのような作業は、研究室の化学者には日常的である。
【0043】
方法のステップii)は、弱塩基を使用する。弱塩基の本質的な目的は、以降で説明する鉄中間生成物の形成を促進することである。本明細書および特許請求の範囲において、「弱塩基」という用語は、水溶液中での使用に好適であり、水溶液中に存在する場合、以下の平衡方程式に従い、水溶液中で完全にイオン化しない塩基を意味するものとして解釈されたい。
B:(aq)+H2O←→BH+(aq)+OH-(aq)
式中、B:は塩基を表し、BH+(aq)はそのイオン化形態を表す。したがって、弱塩基は、非イオン化塩基(B:)が水溶液中に残留しているものである。
【0044】
好ましくは、弱塩基は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、または第四級アンモニウムカチオンの1種または複数の炭酸塩または炭酸水素塩である。より好ましくは、弱塩基は、炭酸ナトリウムもしくは炭酸水素ナトリウムまたは炭酸カリウムもしくは炭酸水素カリウム、特に炭酸水素ナトリウムであるか、あるいは、炭酸アンモニウムもしくは炭酸水素アンモニウム、特に炭酸アンモニウムである。
【0045】
塩基は、固体形態で、または水溶液として、鉄塩の水溶液に添加され得る。水溶液として添加される場合、溶液はまず、単に、穏やかに撹拌しながら、また必要に応じて穏やかに加熱しながら、所望の濃度まで水に塩基を溶解させることにより調製することができる。そのような作業は、研究室の化学者には日常的である。固体形態で添加される場合、塩基は、水性反応媒体への溶解を補助するために、有用にもまず粉砕または微粉化することができる。
【0046】
重要なことには、弱塩基の添加は、塩基添加の間、反応媒体を連続的に撹拌しながら、段階的に行われなければならない。以降で説明するように、塩基の添加は、特異的な構造の中間生成物を形成する鉄カチオンの反応へとつながる。この構造の形成は、この塩基添加の様式により制御される。
【0047】
弱塩基の段階的添加により、この塩基が漸次的に導入されることが確実となり、連続撹拌と組み合わせたこの漸次的添加により、添加された塩基が連続的に溶液全体に分布することが確実となる。したがって、高塩基濃度(ひいては高pH)の局所領域の形成が回避される。高塩基濃度の局所領域を回避することは、正しい中間生成物を得るのに重要であることが見出されている。
【0048】
したがって、反応機材の組立てにおいて、研究室の化学者は、塩基添加ステップの間反応混合物全体が連続的に撹拌され得るようにする機器を使用するべきである。以下で説明するように、中間生成物の形成は、適正な混合条件の存在を確認する便利な手法を提供する。
【0049】
鉄水溶液と弱塩基との相対的割合も同様に、正しい中間生成物を得るのに重要である。反応のステップii)の間に添加される弱塩基の総量は、1:2.5から1:3.5の範囲内で添加される総塩基に対する鉄のモル比を提供するような量である。好ましくは、この比の範囲は1:2.75から1:3.25、より好ましくは1:2.9から1:3.1である。最適には、この比は1:3である。本明細書および特許請求の範囲において、この比は、「鉄のモル数:添加される総塩基のモル数」を意味し、「鉄のモル数」は、ステップi)において得られるまたは調製される出発溶液中に存在する鉄水溶液の総モル数を指し、「添加される総塩基のモル数」は、ステップii)において添加される塩基のモル当量の総数を指すと理解されるべきである。
【0050】
したがって、例えば、硝酸鉄(III)水溶液と炭酸水素ナトリウムとの間の反応において、1モルの硝酸鉄(III)に対する総添加量3モルの炭酸水素ナトリウムは、鉄水溶液1モル:塩基(炭酸水素アニオン)3モルの比を提供し、硝酸鉄(III)の各モルは、1モルの鉄水溶液を提供し、炭酸水素ナトリウムの各モルは、1モルの一塩基性炭酸水素塩を提供する。同様に、硝酸鉄(III)水溶液と炭酸アンモニウムとの間の反応において、1モルの硝酸鉄(III)に対する総添加量1.5モルの炭酸アンモニウムもまた、鉄水溶液1モル:塩基3モルの比を提供し、炭酸アンモニウムの各モルは、(一塩基性炭酸水素アニオンと比較して)炭酸アニオンの二塩基性を考慮すると、2モル当量の塩基を提供する。他の弱塩基の場合の比も同様に計算することができる。
【0051】
本発明の方法のステップi)からiii)を行う際、出発材料として硝酸鉄(III)またはハロゲン化鉄(III)の水溶液を使用し、それに弱塩基として炭酸水素ナトリウムまたは炭酸アンモニウムを添加することが好ましい。
【0052】
一般に、連続的に撹拌しながら正確な相対量の弱塩基を段階的に添加すると、高発熱反応となる。得られる溶液は発泡し、その後水性媒体から有色沈殿物が生じる。この沈殿物が、鉄を豊富に含む所望の湿潤した中間体である。結果的に、沈殿物の色は、通常の眼には茶褐色(brown)または赤褐色に見える。
【0053】
分光分析によれば、この中間体は、鎖状構造となった交互の鉄原子および酸素原子からなるポリマー骨格を有する、ポリマー構造の水和酸化鉄であることが決定されている。この水和酸化鉄のフーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトルは、721cm-1の吸収の架橋酸素種−(Fe−O−Fe)−の特性信号を示す。加えて、分子間水素結合水分子の存在が、3374cm-1の吸収で同定されている。熱重量分析(TGA)では、「二鉄」(Fe−O−Fe)骨格単位あたり4個から5個の水分子の存在が同定されている。
【0054】
これらの結果は、中間体が、以下の2つの一般化された単位構造に対応するポリマーであることを示している。
【0055】
【化1】

【0056】
特に、FT−IRにより容易に決定される水和物中の水分子の存在が、中間体の構造に重要であり、また後続の反応ステップを達成するのに重要であると思われる。配位水の存在は、中間体のポリマー構造を安定化させ、溶媒和および後続の正しいリガンドとの反応を可能とすると思われる。例えばステップiii)の最後の揮発性物質の乾燥または除去によりもたらされるように、この配位水が存在しない場合、中間体は不溶性となり、所望のリガンドとの適切な反応が不可能となる。水の除去は、ポリマー構造の不可逆的な再構成をもたらし、効果的な再溶媒和および反応を防ぐと思われる。Donald M.Kurtz Jr(上記参照)によるレビュー論文が示すように、連続した鉄原子の間の多数の架橋構造の可能性もまた、適切な中間体構造を維持する上での水分子の重要な役割を説明し得る。
【0057】
さらに、ヒドロキシル基の存在が、架橋構造を生成し得る。
【0058】
このため、ステップii)およびiii)の最後に得られる湿潤した沈殿物は、ステップiv)において湿潤した状態で使用されるべきである。したがって、ステップiii)の最後で、水性反応媒体を単に上澄みとして取り除き、湿潤した沈殿物をステップiv)において直接使用することができるか、または、好ましくは、まず、フィルタ媒体上に支持された状態で、ただし乾燥させずに、水で、例えば連続的な一定分量の水で洗浄することができる。得られる洗浄済沈殿物は、通常の眼には暗赤色または赤褐色の塊(reddish brown mass)またはペーストとして見え、反応のステップiv)において直接使用することができる。
【0059】
方法の第2の部分において、水和鉄中間体は、有機溶媒中で窒素含有塩基および1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体とともに還流され、反応の間に発生した水は除去される。反応のこの部分は、ポリマー中間体への正しいリガンドの配位を達成する。
【0060】
反応ステップiv)の間、水が発生する。好ましくは、この水は、例えば、濃縮して反応混合物から蒸留水を回収するDean−and−Starkアセンブリ等の好適な装置を使用した蒸留により、反応ステップiv)の間連続的に除去される。この好ましい実施形態において、反応は、温度と、発生した水の連続的除去の両方により進行する。
【0061】
しかし、製造上の実用性の理由から、反応の間発生する水は、ステップiv)の最後に除去されるまで、例えば従来の液体分離技術により反応混合物中で収集されるようにしてもよい。この実施形態において、ステップiv)における反応の完了により、2相液体が得られ、一方の相は水性で任意の水性副生成物を含有し、他方の(有機)溶媒相は所望のポリマー材料を含有する。次いで水相の分離を達成することができ、その結果溶媒相からポリマーが回収される。
【0062】
方法のこの部分のための溶媒の選択は、主に実用性で決定される。したがって、除去される水を発生する還流反応に好適な沸騰特性を提供する従来の有機媒体を使用することができる。そのような溶媒は、芳香族溶媒であるトルエン、キシレン、ならびに工業用溶媒のSolvessoおよびShellsolシリーズ等の市販の混合芳香族溶媒、また脂肪族溶媒であるヘキサン、ヘプタン、およびその他のアルカンを含む。トルエンが好ましい溶媒である。代替として、還流反応は、添加剤濃縮物中の最終的な希釈剤となることが意図される芳香族または脂肪族溶媒中で行うことができる。
【0063】
還流は、選択した溶媒の通常の沸点をやや超える温度で行われ、水の共沸除去を進めるために、摂氏100度超で行われる。したがって、例えば、溶媒がトルエンである場合、還流反応は、摂氏120度から130度の間まで加熱することにより有効に行うことができる。その他の溶媒に対する好適な温度は、同様に選択することができる。
【0064】
本発明のステップiv)において使用される1種または複数のポリカルボン酸および/または誘導体は、反応してポリマー骨格上に配位リガンドを形成する。反応において使用されるポリカルボン酸および任意の誘導体のうちの少なくともいくつかが、少なくとも14個、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個の分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含むことが、本発明には不可欠である。必須の置換基がそれらの酸の少なくともいくつかに存在する限り、酸の混合物を使用することができる。
【0065】
本明細書および特許請求の範囲内で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」という用語は、炭化水素の特徴を有し、炭素および水素原子(ならびに任意選択で、酸素、窒素および硫黄等のヘテロ原子、ただしそのようなヘテロ原子の存在は、置換基の炭化水素の特徴に影響しない)からなる一価の化学置換基を意味する。ステップiv)において使用されるポリカルボン酸および/またはその任意の誘導体の好ましい実施形態のそれぞれにおいて、ヒドロカルビル置換基は炭素および水素原子(のみ)からなり、ヒドロカルビル置換基は、好ましくは一価飽和(すなわちアルキル)置換基、またはより好ましくは、モノもしくはポリ不飽和置換基である。
【0066】
ポリマーの最適性能のためには、ステップiv)において使用されるポリカルボン酸およびその任意の誘導体のすべて(または少なくとも本質的にすべて)は、少なくとも14個の炭素原子、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個、好ましくは1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含むことが好ましい。
【0067】
したがって、単一の酸または誘導体が使用される場合、酸または誘導体が、少なくとも14個、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個、好ましくは1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有することが不可欠である。
【0068】
しかし、2種以上の酸または誘導体またはその両方が使用される場合、ステップiv)において使用されるポリカルボン酸または誘導体の混合物(またはその両方の任意の混合物)が、それぞれ、少なくとも14個、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個、好ましくは1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有する酸または誘導体(またはその両方が存在する場合はその両方)から本質的になることが好ましい。
【0069】
したがって、例えば、工業グレードのポリカルボン酸の混合物、例えばオクタデセニル置換基の構造が異なる異性体の酸の混合物を含有するオクタデセニルコハク酸の市販の混合物等が使用される場合、そのような混合物がオクタデセニルコハク酸の分岐鎖異性体から本質的になることが好ましい。しかし、ポリマーの全体的な特性が悪影響を受けない限り、そのような混合物中で少量の直鎖異性体も許容される。
【0070】
そのような分岐鎖置換基の最大サイズは、160個の炭素原子、好ましくは80個の炭素原子である。より好ましくは、分岐鎖置換基は、30個以下の炭素原子を含有し、最も好ましくは、24個以下の炭素原子を含有する。18個の炭素原子を含有する分岐鎖置換基が最も好ましい。
【0071】
反応は、カルボン酸基(またはその誘導体化形態)のカルボキシレート基への変換を介して進行し、該カルボキシレート基は次いで以降で説明するようにポリマー骨格と配位する。したがって、水および第三級窒素含有塩基の存在下で、誘導体がカルボキシレート形態まで反応するまたは戻る限り、使用される任意のカルボン酸誘導体の厳密な性質は重要ではない。したがって、例えば、エステルおよび無水物等の誘導体が、この目的に特に好適である。無水物が最も好ましい。
【0072】
2種以上の誘導体の混合物が使用される場合、その中の誘導体は、異なるポリカルボン酸の同じ化学誘導体であってもよく、または同じポリカルボン酸の異なる化学誘導体であってもよく、またはその両方であってもよい。同様に、少なくとも1種の酸および少なくとも1種の誘導体の混合物が使用される場合、その中の誘導体(複数可)は、同じく混合物中に存在する酸(複数可)とは異なるポリカルボン酸(複数可)から得られるものであってもよく、または混合物中に存在する同じ酸(複数可)の化学誘導体であってもよく、またはその両方であってもよい。
【0073】
好ましくは、ステップiv)において使用されるポリカルボン酸反応物質は、ポリカルボン酸の混合物、またはポリカルボン酸無水物の混合物、またはその両方の混合物である。より好ましくは、ステップiv)において使用されるポリカルボン酸反応物質は、ジカルボン酸の混合物、またはジカルボン酸無水物の混合物、またはその両方である。これらの好ましい実施形態およびより好ましい実施形態と組み合わせて、これらの混合物のそれぞれが、少なくとも14個の炭素原子を含有する、より好ましくは16個から20個の炭素原子を含有する、1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するポリカルボン酸またはポリカルボン酸無水物(特にジカルボン酸またはジカルボン酸無水物)から本質的になる、より好ましくはそれらの物質からなることもまた好ましい。
【0074】
最も好ましくは、ステップiv)において使用されるポリカルボン酸反応物質は、ジカルボン酸の混合物、またはジカルボン酸無水物の混合物、またはその両方の混合物であり、各酸は置換コハク酸であり、各ジカルボン酸無水物は置換無水コハク酸であり、混合物は、少なくとも14個、より好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有する、コハク酸および無水物から本質的になる(好ましくはそれらの物質からなる)。
【0075】
この好ましい実施形態において、各コハク酸または無水コハク酸上の置換基は、重合オレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、または(好ましくは)、ポリイソブテン等のポリブチレンから得ることができる。好ましい置換基は、450から2250、好ましくは750から1300の範囲内の数平均分子量(ポリスチレン標準試料と比較したゲル透過クロマトグラフィー(「GPC」)により測定される)のポリイソブテンから得られる。そのようなポリイソブテンは、当技術分野において知られた従来の重合技術により作製することができ、その後周知の塩素化または熱反応経路により無水マレイン酸に結合させて好ましいポリイソブテニル−コハク酸(複数可)または無水物(複数可)を生成することができる。
【0076】
しかし、上記実施形態における特に有利な特性は、分岐鎖ヒドロカルビル置換基が16個から20個の炭素原子を含有する場合に得られる。好ましい反応物質は、ヘキサデセニルコハク酸および/もしくはその無水物の混合物、またはヘキサデセニル置換コハク酸および/もしくはその無水物、またはその両方の混合物である。好ましくは、無水物の混合物が使用される。オクタデセニル置換無水コハク酸の混合物が最も好ましい。そのような混合物は、無水マレイン酸と、少なくとも1個の内部二重結合を有するオレフィンの市販の混合物との反応から得られるような、分岐鎖構造を有する単一のヘキサデセニル置換基およびオクタデセニル置換基をそれぞれ有する酸または誘導体から本質的になる。したがって、そのような混合物は、異性体化合物の混合物から本質的になり、異性体は、その置換基の分岐鎖構造の実際の性質が異なる。
【0077】
本発明の非常に好ましいさらなる実施形態は、ステップiv)において、構造(I):
【0078】
【化2】

(式中、xおよびyは、その和が9から29、好ましくは11から21、より好ましくは11または13である独立した整数である)の1種または複数のジカルボン酸無水物誘導体を使用することにより得られるものである。そのような材料の混合物もまた、異なる鎖長の内部オレフィンの混合物のマレイン化から、または同じ鎖長の内部オレフィンの異性体混合物のマレイン化から得ることができる。内部オレフィンは、無水マレイン酸との反応の前に、末端オレフィンの酸性触媒異性化によりin situで生成することができる。
【0079】
分岐鎖ヒドロカルビルポリカルボキシレートリガンドの性質は、本発明の重要な特徴である。少なくとも14個(好ましくは少なくとも16個)の炭素原子を有する分岐鎖置換基を有するポリカルボン酸(またはその誘導体)由来のリガンドを有するポリマーのみが、以下の理由から、前述の利点の組合せを提供する。
【0080】
まず、ステップiv)においてより短い分岐鎖置換基を有するカルボン酸または誘導体が使用された場合、本発明の方法は良好に進行しない。したがって、続く実施例において例示されるように、14個未満の炭素原子を有する分岐鎖置換基を有する酸は、本発明の方法において収率が低い。これらの収率は、実用的となるには低すぎ、短い主鎖上の側枝(複数可)に起因する立体因子からもたらされる可能性がある。一方、より長鎖の置換基は、極めて増加された収率をもたらす。
【0081】
次に、直鎖置換基のみを有するモノカルボン酸は、配位リガンドとして使用される場合、必要となる有利な特性をポリマーにもたらさない。したがって、長いヒドロカルビル鎖を有しているにもかかわらず、そのような直鎖リガンドから調製された比較ポリマーは、濃縮物形態において低い溶解度を示し、続く実施例においても例示されているように、急速に沈殿する。そのような材料は、搭載型保存用途にも、さらに、バルク(精製所またはターミナル)燃料ブレンド操作における使用のための濃縮物としての燃料製造者への供給のためにも、添加剤濃縮物における使用には実用的ではない。
【0082】
第三級窒素含有塩基は、反応の促進物質として機能する。第二級または第一級窒素含有塩基は、置換可能な水素原子を有し、したがってポリカルボン酸反応物質(複数可)のカルボン酸基(またはその誘導体)と直接反応してアミドおよび/またはイミドを形成し、この副反応が塩基の反応媒体を使い果たして主反応を妨げる可能性があるため、第三級窒素化合物を使用するのが不可欠である。いかなる第三級窒素含有塩基でも使用可能であるが、好ましい塩基は、トリアルキルアミン等の第三級ヒドロカルビルアミンである。トリエチルアミンが特に好ましい。
【0083】
代替として、N−置換モルホリンまたはピペリジン等の第三級塩基も使用可能である。
【0084】
反応媒体に添加される第三級窒素含有塩基の量は、通常の実験室の慣習に従い選択することができる。しかし、典型的には、第三級窒素含有塩基は、ポリカルボン酸および/またはその誘導体由来の総カルボン酸基(その任意の誘導体を含む)に対するこの塩基のモル比が、1:1から3:1の範囲内、より好ましくは1:1から2:1の範囲内、最も好ましくは2:1であるような量で使用される。
【0085】
還流反応の間、カルボン酸(複数可)(および/またはその誘導体)は、カルボキシレート基の形成によってポリマー骨格に結合し、このカルボキシレート基はその後ポリマー骨格中に存在する鉄原子と配位する。この反応において、中間体構造内に存在する水は、ポリマー鎖を開いた構成に保持して溶媒和および反応を可能とするために重要と思われるだけでなく、カルボキシレート基の形成を可能とするための促進物質または反応物質として機能すると思われる。したがって、例えば、無水コハク酸等のポリカルボン酸無水物が使用される場合、水の存在により、無水物環が開環してジカルボキシレート構造となることができ、それにより両方のカルボキシレート基が多座配位子の様式でポリマー骨格中の鉄原子と錯化することができる。
【0086】
このカルボキシレート形成およびその後の配位の構造的結果は、本質的に、ポリマー骨格に沿った隣接する鉄原子上の一連の架橋(μ−カルボキシラト)基である。したがって、個々のμ−カルボキシラト基はそれぞれ、一般に以下のように表すことができる。
【0087】
【化3】

式中、個々のカルボキシレート基の2つの酸素は、隣接する鉄中心に配位する(すなわち「二鉄」単位)。しかし、さらに、本発明のカルボキシレート基の源としてのポリカルボン酸(または誘導体)の本質的な使用は、隣接(μ−カルボキシラト)基の側鎖(「R」)領域をもたらし、それら自体はポリカルボン酸分子の残りの中に接続されており、これによってより高次の反復単位が形成される。
【0088】
したがって、例えば、一置換無水コハク酸反応物質の使用は、コハク酸ジカルボキシレートの形成をもたらす。各コハク酸ジカルボキシレート分子は、その後、コハク酸部分の残りにより橋渡しされた2個の隣接(μ−カルボキシラト)基の形成を介して4個の隣接する鉄と錯化することができ、これにより4個の鉄の構造「単位」が形成される。
【0089】
本発明のポリマーの特性の有益な組合せを得るのに不可欠と思われるのは、ポリカルボン酸(複数可)の少なくとも一部(好ましくはすべて)における明確な分岐鎖ヒドロカルビル置換基(複数可)の存在とともに、このポリカルボン酸誘導反復構造である。本発明の方法は、そのような材料への特に有利な経路を提供する。
【0090】
本発明のすべての態様において、前記または各ポリカルボキシレートリガンドが、ジカルボキシレートリガンドであることが特に好ましい。ジカルボキシレートリガンドは、本発明において特に有利であることが見出されており、反復する4個の鉄の構造単位の形成によって、特に好ましいポリマーを生成することが見出されている。
【0091】
同様に、各ポリカルボキシレート(好ましくはジカルボキシレート)リガンド内のカルボキシレート基が、互いに対して近接して位置することが特に好ましい。これは、各カルボキシレート基の隣接鉄中心への配位を促進する。本発明のすべての態様において、リガンド分子内に、各カルボキシレート基のカルボニル炭素原子が、最大でも6個、より好ましくは最大でも4個、最も好ましくは2個または3個のみの化学結合により互いに接続されているのが特に好ましい。したがって、コハク酸の例では、2個のカルボニル炭素が3個の化学結合により接続されている。
【0092】
架橋(μ−カルボキシラト)基内において、総カルボキシレート基に対する鉄のモル比は2:1である。したがって、反応のステップiv)において、使用されるすべてのポリカルボン酸および/またはその誘導体の総量(すなわち、反応に寄与するカルボキシレート基のすべての種の総量)は、総カルボキシレート基に対する鉄のモル比が2:1である反応混合物を提供するような量であるのが最適である。この最適条件近傍のある程度の許容範囲、すなわち1:1から3:1の間の範囲が認められる。
【0093】
ポリマー骨格は、追加的なカルボキシレート中心と配位する能力をある程度有しているため、最適な2:1の比を提供するために必要な量を超える適度の量のカルボキシレートの存在が許容され得る。しかし、より多量のカルボキシレートの存在は、最終的には無駄を多くし、反応の最後で混合物内に遊離した酸が存在する結果となり、ポリマーの回収を複雑化する。
【0094】
しかし、より少量のカルボキシレートの存在は、求める構造単位の完全な形成を妨げる。ポリマー上に相当数の架橋(μ−カルボキシラト)基の存在を確保するためには、ステップiv)において使用されるすべてのポリカルボン酸および/またはその誘導体の総量(すなわち、反応に寄与するカルボキシレート基のすべての種の総量)は、総カルボキシレート基に対する鉄のモル比が1:1から2:1、より好ましくは1:1.5から2:1の範囲内の反応混合物を提供するような量である。2:1の比が最も好ましい。
【0095】
還流反応において、遊離酸(FT−IRで1705cm-1の吸収)の架橋(μ−カルボキシラト)基への変換率は、FT−IRにより監視して反応の進行を確認することができる。FT−IRスペクトルにおけるこれらの変化は、中間体における配位していない交互の鉄−酸素骨格が架橋μ−カルボキシラトと配位する際の結合エネルギーのシフトに対応すると思われる。この配位は、それぞれ、Fe−Oおよびカルボニルのピークの波数のシフトをもたらし、それぞれ、約20cm-1から30cm-1および145cm-1の減少を示す。したがって、例えばオクタデセニル無水コハク酸を使用した反応の場合、中間体におけるFe−OのFT−IRピークは、典型的には約721cm-1であるが、約704cm-1に移動し、一方カルボニルピークも同様に、架橋(μ−カルボキシラト)基形態として、約1560cm-1に移動する。ヘキサデセニル無水コハク酸および無水ポリイソブチレニルを用いた同様の反応においては、Fe−Oピークは、それぞれ約699cm-1および692cm-1に移動し、一方カルボニルピークは、この場合も約1560cm-1にシフトする。
【0096】
還流反応後、最終固体ポリマー生成物を反応媒体から除去する。所望により、生成物を含有する媒体をまず濾過してもよく、その後典型的には真空下での溶媒除去により固体生成物を回収する。必要に応じて、例えば任意の不純物を除去するために、材料をさらに溶媒で洗浄してもよい。
【0097】
最終ポリマー生成物の調製後、その金属含量を誘導結合プラズマ(ICP)分光法により決定することもできる。このように実験的に得られた数値を、予想される反復構造から理論的に導出された数値と比較して、所望の生成物の形成を確認することができる。
【0098】
生成物(本発明の第2の態様)
本発明の生成物は、本発明の第1の態様の方法により得ることができる、好ましくはそれにより得られた材料である。
【0099】
特に、生成物は、上で説明された、ポリカルボキシレートリガンドから得られる一般的な反復(μ−カルボキシラト)基構造を含有する。中間生成物の水和した性質を鑑みて、濃縮物形態として有機溶媒内に含有されている場合でも、最終生成物もまたその配位圏内に水和成分を保持している可能性がある。しかし、これは最終ポリマーの性能を阻害するものとは考えられない。
【0100】
したがって、生成物は、複数の配位リガンドが支持されるポリマー骨格からなる鉄含有ポリマーであって、鎖状構造となった交互の鉄原子および酸素原子からなる前記骨格は、任意選択でさらにペンダント基または架橋基としてヒドロキシル基を保持し、前記配位リガンドは、ポリカルボキシレートリガンドおよび任意選択でさらに水分子であり、ポリカルボキシレートリガンドは、少なくとも14個の炭素原子を含有する分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するリガンドを含む、鉄含有ポリマーとして一般に説明される。
【0101】
ポリマー内において、(本発明の方法の態様に関して説明されるように)2種類以上の置換ポリカルボキシレートリガンドが存在し得ることに留意することが重要である。したがって、ポリマーは、ポリカルボン酸および/またはその誘導体の混合物から調製することができ、様々なポリカルボン酸リガンドおよび/または置換基を有するポリマーを生じる。したがって、ポリマー上のポリカルボキシレートリガンドが、少なくとも14個(好ましくは少なくとも16個)の炭素原子を含有する少なくとも1個の分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するいくつかのリガンドを含むことが不可欠であるが、すべてのリガンドがそのような置換基を有することは不可欠ではない。故に、必須の置換基がそれらの酸の少なくともいくつかに存在する限り、リガンドの混合物を使用することができる。
【0102】
しかし、ポリマーの最適性能のためには、ポリカルボキシレートリガンドのすべて(または少なくとも本質的にすべて)は、少なくとも14個の炭素原子、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個、好ましくは1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含むことが好ましい。
【0103】
したがって、1つのポリカルボキシレートリガンドが使用される場合、リガンドが、少なくとも14個、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個、好ましくは1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有することが不可欠である。
【0104】
しかし、2種以上のポリカルボキシレートリガンドが使用される場合、このリガンドの混合物が、少なくとも14個、好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、少なくとも1個、好ましくは1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するリガンドから本質的になることが好ましい。
【0105】
したがって、例えば、反応のステップiv)において、工業グレードのポリカルボン酸の混合物、例えばオクタデセニル置換基の構造が異なる異性体の酸の混合物を含有するオクタデセニルコハク酸の市販の混合物等が使用される場合、リガンド混合物がオクタデセニルスクシナートの分岐鎖異性体から本質的になるように、酸混合物がオクタデセニルコハク酸の分岐鎖異性体から本質的になることが重要である。しかし、ポリマーの全体的な特性が悪影響を受けない限り、そのような混合物中に少量の直鎖異性体も許容される。
【0106】
リガンド(複数可)上の分岐鎖置換基(複数可)の最大サイズは、160個の炭素原子、好ましくは80個の炭素原子である。より好ましくは、分岐鎖置換基は、30個以下の炭素原子、最も好ましくは、24個以下の炭素原子、特に18個の炭素原子を含有する。
【0107】
好ましくは、ポリマー上に存在するポリカルボキシレートリガンドは、少なくとも14個、より好ましくは少なくとも16個、理想的には16個から20個の炭素原子を含有する、1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するジカルボキシレートリガンドから好ましくは本質的になる、より好ましくは該リガンドからなる、ジカルボキシレートリガンドの混合物である。
【0108】
最も好ましくは、ポリマー上に存在するポリカルボキシレートリガンドは、少なくとも14個、より好ましくは少なくとも16個の炭素原子を含有する、1個のみの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するスクシナートリガンドから本質的になる(最も好ましくは該リガンドからなる)、ジカルボキシレートリガンドの混合物である。
【0109】
この好ましいスクシナート実施形態において、各スクシナートリガンド上の置換基は、重合オレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、または(好ましくは)、ポリイソブテン等のポリブチレンから得ることができる。好ましい置換基は、450から2250、好ましくは750から1300の範囲内の数平均分子量(ポリスチレン標準試料を用いたGPCにより測定される)のポリイソブテンから得られる。そのようなポリイソブテンは、当技術分野において知られた従来の重合技術により作製することができ、その後周知の塩素化または熱反応経路により無水マレイン酸に結合させて好ましいポリイソブテニル−コハク酸(複数可)または無水物(複数可)を生成することができる。
【0110】
しかし、上記スクシナート実施形態における特に有利な特性は、リガンド上の分岐鎖ヒドロカルビル置換基が16個から20個の炭素原子を含有する場合に得られる。そのようなリガンド混合物は、好ましくは、無水マレイン酸と、少なくとも1個の内部二重結合を有するオレフィンの市販の混合物との反応から得られるような、分岐鎖構造を有する単一のヘキサデセニル置換基およびオクタデセニル置換基を有するスクシナートから本質的になる。したがって、そのような混合物は、異性体化合物の混合物から本質的になり、異性体は、その置換基の分岐鎖構造の実際の性質が異なる。
【0111】
本発明の非常に好ましいさらなる実施形態は、以下の構造(I)(式中、xおよびyは、その和が9から29、好ましくは11から21、より好ましくは11または13である独立した整数である)の1種または複数のジカルボン酸無水物誘導体から得られるスクシナートリガンドを保持するポリマーである。
【0112】
構造(I):
【0113】
【化4】

【0114】
そのような材料の混合物もまた、異なる鎖長の内部オレフィンの混合物のマレイン化から、または同じ鎖長の内部オレフィンの異性体混合物のマレイン化から得ることができる。内部オレフィンは、無水マレイン酸との反応の前に、末端オレフィンの酸性触媒異性化によりin situで生成することができる。
【0115】
最も好ましくは、各ジカルボン酸リガンドは、分岐鎖置換コハク酸構造、好ましくはオクタデセニルもしくはヘキサデセニルコハク酸、またはポリイソブテニルコハク酸構造のジカルボキシレートである。最も好ましくは、各ジカルボン酸リガンドは、オクタデセニルコハク酸のジカルボキシレートである。これに関して、好ましいコハク酸構造は、第1の態様の方法に関連して上述された構造である。
【0116】
ポリマーは、方法に関連して上述されたFT−IRピークを参照することによりさらに特性決定することができる。
【0117】
上述のように、本発明のポリマーは、支持されるリガンドが配位した、交互の鉄原子および酸素原子のポリマー骨格の形態をとる。したがって、ポリマーは、鉄原子および酸素原子の配列が格子状構造を形成する特定の形態(結晶性粒子等)の酸化鉄とは根本的に異なり、格子内部の多くの鉄原子と酸素原子同士のみが完全に配位している。
【0118】
濃縮物(本発明の第3の態様)
最終生成物は、その後ブレンドして、添加剤としての使用に好適な濃縮物形態とすることができる。
【0119】
したがって、本発明は、さらなる態様において、適合する有機溶媒中の上述のポリマー、または上述の方法により得ることができる、もしくは得られたポリマーを含む、添加剤濃縮物に関する。
【0120】
本発明のポリマー濃縮物は、精製所または燃料ターミナルでのバルク燃料製造またはブレンド操作における使用に好適な濃度レベルに作製することができる。そのような濃縮物において、ポリマーは、典型的には、濃縮物の重量あたり、25重量%まで、好ましくは5重量%から20重量%の間、より好ましくは5重量%から15重量%の鉄を含有する濃度で存在する。
【0121】
さらに、本発明のポリマー濃縮物は、搭載型注入システムにおける長期的使用に好適な高濃度レベルに作製することができる。上記で説明したように、そのような注入システムでは、トラップ再生システムの一貫した動作を可能とするために濃縮物が長期間均質性を保つことが必要である。そのような濃縮物において、ポリマーはまた、典型的には、濃縮物の重量あたり、30重量%まで、好ましくは5重量%から25重量%の間、より好ましくは5重量%から20重量%の鉄を含有する濃度で存在する。
【0122】
本発明の濃縮物に好適な溶媒は、市販の混合芳香族溶媒SolvessoおよびShellsol等の芳香族溶媒、ならびにIsopar Lを含むイソアルカン等の脂肪族溶媒を含む。添加剤の技術分野において知られたその他の好適な溶媒が使用されてもよい。
【0123】
濃縮物は、単に、ワーリングブレンダまたはブレンドプラント等の好適な実験室用または工業用混合デバイス内で、選択された溶媒およびポリマーを混合またはブレンドすることにより調製することができる。
【0124】
本発明の濃縮物の態様において、濃縮物中のヒドロカルビルアルコールの追加的な存在が、濃縮物の安定性、すなわち保存中時が経過しても均質性を維持する濃縮物の能力に、さらに有利な改善をもたらす。これに関して、C1からC20アルカノールが特に好ましい。イソデシルアルコールは、特にIsopar L等の脂肪族溶媒と組み合わせて濃縮物形態のポリマー中に存在する場合、極めて有利であることが見出されている。
【0125】
本発明の他の態様
本発明のポリマー、およびそれを含有する濃縮物は、燃料中において、燃料に由来する炭素質材料の燃焼を促進する添加剤として有用である。
【0126】
したがって、さらなる態様において、本発明は、燃料(石油源から、または動物および/もしくは植物の油もしくは脂肪から得られる、あるいはその両方の混合物である)および本発明の第2の態様のポリマーを含む燃料組成物を提供し、燃料組成物が燃焼デバイス中で使用される際、ポリマーは、燃料に由来する炭素質材料の燃焼を改善するのに有効な量で燃料組成物中に存在する。
【0127】
燃料は、好ましくはディーゼル燃料であるか、または家庭もしくは産業用の発電もしくは暖房における使用のための燃料である。好ましくは、この態様において、ポリマーは、デバイスの主燃焼室内での燃焼の間に生成される粒子排出または煙排出の量を低減するために使用される。一方、この使用は、より低い空気:燃料比でのデバイスの動作を可能にし、送気管からの熱損失を低減し、システム内の有効な熱伝達の効率を増加させる。
【0128】
添加剤としての使用において、ポリマーは、典型的には、取扱いに役立つために濃縮物形態で添加される。単位燃料あたり添加される濃縮物の量は、通常、特定の、または目標となる燃料鉄含量を燃料に提供するような量である。船舶用ディーゼル燃料中の燃焼改善添加剤としての使用では、濃縮物は、例えば、燃料の重量あたり20重量ppmから100重量ppm、より好ましくは30重量ppmから50重量ppmの鉄を燃料に提供するような量で添加され得る。灯油中の燃焼改善物質としての使用では、濃縮物は、例えば、燃料の重量あたり5重量ppmから50重量ppm、より好ましくは10重量ppmから30重量ppmの鉄を燃料に提供するような量で添加され得る。
【0129】
本発明のポリマー、およびそれを含有する濃縮物は、ディーゼル排ガス粒子トラップの再生を促進する添加剤として、ディーゼル燃料中での特段の実用性が見出されている。
【0130】
したがって、さらなる態様において、本発明は、
a.石油源から、または動物および/もしくは植物の油もしくは脂肪から得られる、あるいはその両方の混合物であるディーゼル燃料と、
b.本発明の第2の態様のポリマーと
を含む、排ガス粒子トラップを備えるディーゼルエンジンシステムにおける使用のためのディーゼル燃料組成物を提供し、ポリマーは、エンジンシステムの動作中の粒子トラップの再生を促進するのに有効な量で燃料組成物中に存在する。
【0131】
特に乗用車のディーゼルエンジンにおける再生添加剤としての一般的使用では、濃縮物は、例えば、燃料の重量あたり1重量ppmから20重量ppm、より好ましくは2重量ppmから12重量ppmの鉄を燃料に提供するような量で添加され得る。燃料の重量あたり鉄25重量ppmまたは30重量ppmまでのより高い鉄レベルを使用することができるが、再生にはそれ以上の利点を提供しない可能性がある。
【0132】
濃縮物がバルク燃料製造またはブレンド操作に使用される場合、そのようにして生成された処理後の燃料は、排ガス粒子トラップを備えるディーゼルエンジンシステムにおける主な実用性が見出されている。この態様において、本発明は、ディーゼルエンジン駆動デバイスに装着されたディーゼル排ガス粒子トラップを再生する方法であって、上で定義された燃料組成物で前記エンジンを動作させるステップを含む方法をさらに提供する。
【0133】
添加剤で処理されるディーゼル燃料(a)は、石油系ディーゼル燃料油であってもよい。そのようなディーゼル燃料油は、一般に、110℃から500℃、例えば150℃から400℃の範囲内で沸騰する。燃料油は、大気圧下蒸留物もしくは減圧蒸留物、分解ガスオイル、または、直留ならびに熱および/もしくは精製ストリーム、例えば接触分解および水素化分解蒸留物の任意の割合のブレンドを含み得る。
【0134】
ディーゼル燃料油のその他の例は、フィッシャー−トロプシュ燃料を含む。FT燃料としても知られるフィッシャー−トロプシュ燃料は、ガス液化(GTL)燃料、バイオマス液化(BTL)燃料、および石炭転換燃料として説明されるものを含む。そのような燃料を作製するためには、まず合成ガス(CO+H2)を生成してからフィッシャー−トロプシュ法によりノルマルパラフィンに転換する。次いでノルマルパラフィンを接触分解/改質または異性化、水素化分解および水素化異性化等の方法により改質し、イソ−パラフィン、シクロ−パラフィンおよび芳香族化合物等の各種炭化水素を生成することができる。得られるFT燃料は、単独で、または他の燃料成分および燃料タイプと組み合わせて使用し、ディーゼル燃料としての使用に好適な燃料を達成することができる。
【0135】
動物および/または植物の油または脂肪から得られるディーゼル燃料の好適な例は、菜種油、コリアンダー油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、ヒマシ油、オリーブ油、落花生油、トウモロコシ油、アーモンド油、パーム核油、ココナツ油、カラシ油、ヤトロファ油、牛脂および魚油から得られるものである。さらなる例としては、コーン、ジュート、ゴマ、シアナッツ、挽いたナッツ、および亜麻仁油から得られる油が含まれ、それらは当技術分野で知られた方法により得ることができる。部分的にグリセロールでエステル化された脂肪酸の混合物である菜種油は、大量に利用可能であり、圧搾による単純な方法で菜種から得ることができる。使用済キッチンオイルなどの再生油もまた好適である。
【0136】
また、動物および植物の油および脂肪の脂肪酸構成物質のアルキルエステル誘導体も好適である。そのようなエステルは、従来の手段で、例えばエステル交換により、または鹸化に次ぐ再エステル化により得ることができる。市販の混合物として、例えば、50から150、特に90から125のヨウ素価を有する、12個から22個の炭素原子を有する脂肪酸、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リシノール酸、エレオステアリン酸(elaeostearic acid)、リノール酸、リノレン酸、エイコサン酸、ガドレイン酸、ドコサン酸、またはエルカ酸等の、エチル、プロピル、ブチル、および特にメチルエステルを考慮することができる。特に有利な特性を有する混合物は、主に、すなわち少なくとも50wt%の、16個から22個の炭素原子、および1個、2個、または3個の二重結合を有する脂肪酸のメチルエステルを含有するものである。好ましい脂肪酸の低級アルキルエステルは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、およびエルカ酸のメチルエステルである。
【0137】
上記の種類の市販の混合物は、例えば、動物および植物の脂肪および油の、低級脂肪アルコールとのエステル交換による開裂およびエステル化により得られる。脂肪酸のアルキルエステルの生成には、20%未満の低レベルの飽和酸を含有し、130未満のヨウ素価を有する脂肪および油から開始することが有利である。例えば、菜種、ヒマワリ、コリアンダー、ヒマシ、大豆、落花生、綿実、牛脂等のエステルまたは油のブレンドが好適である。脂肪酸成分が、80wt%を超える濃度まで18個の炭素原子を有する不飽和脂肪酸から得られる、各種菜種油に基づく脂肪酸のアルキルエステルが好ましい。
【0138】
上記油の多くを使用することができるが、好ましいのは植物油誘導体であり、そのうち特に好ましいバイオ燃料は、菜種油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、オリーブ油もしくはパーム油のアルキルエステル誘導体であり、菜種油メチルエステルが特に好ましい。
【0139】
現在、動物および/または植物の油または脂肪から得られる燃料は、最も一般的には石油由来燃料と組み合わされて使用される。本発明は、そのような燃料の任意の比率での混合物に適用される。例えば、少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも25重量%、例えば50重量%を超えるこれらの燃料混合物を、植物源または動物源から得ることができる。
【0140】
ディーゼル燃料は、路上走行車用の燃料であってもよい。そのような燃料は、典型的には、欧州において周知の各種業界標準により分類され、燃料の重量あたり、最大でも50重量ppmの硫黄、またはさらに最大でも10重量ppmの硫黄またはそれ以下といった、低いまたは非常に低い硫黄分を含有し得る。
【0141】
代替として、燃料は、船舶用ディーゼル燃料、特に以下の特性のうちの1つまたは複数を有するものであってもよい。
(i)330℃を超える、好ましくは360℃を超える、より好ましくは400℃を超える、最も好ましくは430℃を超える95%蒸留温度(ASTM D86)、
(ii)55未満、例えば53未満、好ましくは49未満、より好ましくは45未満、最も好ましくは40未満のセタン価(ASTM D613により測定)、
(iii)15重量%を超える、好ましくは25重量%を超える、より好ましくは40重量%を超える芳香族含量、および
(iv)0.01質量%を超える、好ましくは0.15質量%を超える、より好ましくは0.3質量%を超える、例えば1質量%または5質量%、最も好ましくは10質量%を超えるランスボトム残留炭素(ASTM D524による)。
【0142】
前述したように、そのようなディーゼル燃料(および特にそのような船舶用ディーゼル燃料)は、特に、流動式接触分解から生成されるストリーム(そのような材料は、通常、15℃において850kg/m3から970kg/m3、例えば900kg/m3から970kg/m3の密度を有し、典型的には10以下から約30から35の範囲の低いセタン価の値で特徴付けられる);熱分解法、例えばビスブレーキングおよびコーキング等から生成されるストリーム(そのようなストリームは、典型的には15℃において830kg/m3から930kg/m3の密度範囲および20から50のセタン値を有する);ならびに、過酷な条件、例えば400℃を超える温度と130バール以上の圧力の組合せを使用する水素化分解から生成されるストリーム(45から60のセタン価で特徴付けられ、15℃において800kg/m3から860kg/m3の密度範囲を有するストリームを生成)等のストリームを含有し得る。
【0143】
典型的には、船舶用燃料は、標準規格ASTM D−2069に一致し、その規格内に記載されるような蒸留物または残留燃料であってよく、具体的には、特に残留燃料油の場合、0.05重量%を超える、好ましくは0.1重量%を超える、より好ましくは0.2重量%を超える、特に1重量%またはさらに2重量%を超える硫黄分、および40℃で少なくとも1.40の動粘度(cSt)を有してもよい。
【0144】
本発明の燃料組成物はまた、他の添加剤を含有することができる。本発明の組成物の具体的な利点は、燃料組成物が潤滑添加剤を追加で含む場合、特にそのような添加剤が、ポリカルボン酸のモノ−またはビス−グリコール(またはポリグリコール)エステル(および特にジカルボン酸のもの、例えばオレイン酸等の不飽和脂肪酸のダイマー等)である場合にポリマーが提供する、不安定化に対する耐性である。そのような組成物は、改善された安定性を示し、燃料の使用者に、上記の方法の態様におけるより信頼性のある操作を提供する。
【0145】
潤滑添加剤は、典型的には、燃料の重量あたり、25重量ppmから500重量ppm、好ましくは50重量ppmから250重量ppm、より好ましくは100重量ppmから200重量ppmの範囲内の量で存在する。
【0146】
上記の代替として、濃縮物が搭載型注入システムにおいて使用される場合、本発明は追加の態様を提供する。
【0147】
まず、本発明は、添加剤の保存およびそれを燃料に注入するための搭載型手段(on board means)が装着された、ディーゼルエンジン駆動デバイスのディーゼル排ガス粒子トラップを再生する方法であって、保存される添加剤として請求項22に記載の添加剤濃縮物を使用するステップと、エンジンの動作中の粒子トラップの再生を促進するのに有効な量で添加剤濃縮物を燃料に注入するステップとを含む方法を提供する。
【0148】
次に、本発明は、
a.必要に応じて、ディーゼルエンジンシステムにディーゼル排ガス粒子トラップを加えるステップと、
b.添加剤の保存およびそれを燃料に注入するための搭載型手段をデバイスに装着するステップと、
c.それにおいて請求項22に記載の添加剤濃縮物を使用するステップと
を含む、ディーゼルエンジン駆動デバイスのディーゼルエンジンシステムからの粒子排出を低減する方法であって、搭載型手段は、エンジンシステムの動作中の粒子トラップの再生を促進するのに有効な量で添加剤濃縮物を燃料に注入する方法をさらに提供する。
【0149】
これらの態様におけるデバイスは、ディーゼルエンジン出力を使用するいかなるデバイスであってもよい。したがって、そのようなデバイスは、とりわけ、路上走行車、列車、および船舶等の輸送機関の形態を含むが、デバイスはまた、発電器、ポンプ、および牽引機器等の定置エンジンデバイス、特に、鉱山および工場等の制約された、または極めて公害規制された環境において使用されるデバイスも含む。
【0150】
しかし、好ましくは、デバイスは路上走行車、列車、および船舶であり、特に、トラックおよび乗用車等のディーゼルエンジン路上走行車である。
【0151】
保存および添加剤注入のための様々な搭載型手段が、当技術分野で知られている。そのような機器は、注入デバイスと流体連通した添加剤貯蔵容器を備え、一方注入デバイスは、エンジンの燃料システムと流体連通しており、燃料中への添加剤の分注を行うように機能する。注入デバイスは、例えば燃料経路内に連続的に添加剤を分注してもよく、または、例えば定期的な燃料補給事象時にエンジンの燃料タンク内に非連続的に分注してもよい。デバイスは、好適には、燃料に添加した時の添加剤の分散を改善するように適合され得る。注入の頻度、および注入される添加剤の測定量は、車両上の電子システムにより、または機械的手段により制御され得る。
【0152】
代替として、添加剤は、エンジンの排気システム中に、または非燃焼段階中にエンジンの各燃焼室中に直接噴霧されてもよく、そのような添加は、エンジン管理システムおよびエンジンの粒子特性(particulate signature)により加減される。
【0153】
本発明のポリマーの特段の実用性は、単純な注入デバイスにおける適用に好適な粘度を有する高濃縮溶液を形成する能力である。
【0154】
本発明はまた、ディーゼル排ガス粒子トラップを備えたディーゼルエンジン駆動デバイスに搭載された燃料注入システムにおける、エンジンの動作中のトラップの再生を促進するためのポリマー濃縮物の使用を提供する。
【0155】
本発明は、以下の限定されない実施例を用いてさらに説明される。
【実施例】
【0156】
以下の実施例は、鉄含有ポリマーおよび濃縮物の調製方法を例示し、また本発明のポリマーの利点を説明および実証する。これらの実施例は、以下の順で提示される。
【0157】
A.調製例:
実施例1−鉄含有ポリマーの例示的調製(塩化鉄(III)から)
実施例2−塩化鉄(III)から調製される鉄含有ポリマーのさらなる実施例(および比較例)
実施例3−ポリマーを含む添加剤濃縮物の調製
実施例4−鉄含有ポリマーの例示的調製(硝酸鉄(III)から)
【0158】
B.実施例:
実施例5−時が経過してもバルク燃料内での分布を保つポリマーの改善された能力(安定性)の実証
実施例6−ポリマー濃縮物により提供される粘度の利点の実証
実施例7−ポリマーの燃料噴射器堆積物をもたらすより低い傾向の実証
実施例8−ポリマーの粒子トラップ再生能力の実証
【0159】
実施例は、本発明の例示としてのみ提示される。
【0160】
A.調製例
(実施例1)
鉄含有ポリマーの例示的調製(塩化鉄(III)から)
250mlのガラスビーカー内で、添加の間連続的に撹拌しながら、NaHCO3水溶液(H2O30ml中NaHCO316.8g(0.2モル))をFeCl3水溶液(H2O10ml中FeCl310g(0.062モル))に滴下により添加した。高発熱反応により発泡性の橙色溶液が生じ、弱塩基の添加が完了すると不溶性の茶褐色沈殿物が生じた。
【0161】
沈殿物の試料に対するフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)は、二鉄架橋種Fe−O−Feの特性信号(約721cm-1)および分子間水素結合した水分子の特性信号(約3374cm-1)を示した。
【0162】
この中間生成物を、250mlの丸底フラスコに移し、これにトルエン(100ml)、オクタデセニル無水コハク酸(5.43g、0.0155モル)、およびトリエチルアミン(5.72ml、0.031モル)を添加した。Dean−and−Stark装置を取り付け、生成する水がすべて除去されるまで反応混合物を約六(6)時間還流した。ここでトルエンに溶解している反応生成物を焼結漏斗を通して濾過し、溶媒を真空下で除去し、誘導結合プラズマ(ICP)分光法により測定される27質量%の鉄を含有する暗褐色固体材料を得た。この材料をポリマー1と命名する。
【0163】
上記反応において使用されたオクタデセニル無水コハク酸反応物質は、無水マレイン酸と、1個または複数の内部二重結合を有するC18オレフィン異性体混合物との間の市販の反応生成物として得られる、C18分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有する異性体混合物を含有していた。
【0164】
還流反応の間、無水物環は、存在する残留水の作用により開環すると考えられている。第三級窒素含有塩基により促進されるような、得られるカルボン酸基の架橋(μ−カルボキシラト)基への変換は、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)により監視して反応の進行を追跡することができる。酸基の吸収ピーク(1705cm-1)は、1559cm-1の吸収の(μ−カルボキシラト)ピークに転換する。同時に、721cm-1のFe−O−Feピークは、Fe−O骨格がジカルボキシレート種と配位すると、約704cm-1にシフトする。
【0165】
方法の塩基添加段階において、塩化鉄(III)出発材料からの鉄が、約78%の変換率でポリマー鉄中間体に転換された。結果として、還流反応において、総カルボン酸基(0.031モル)に対する鉄(0.062モルの78%)のモル比は、それに比例して2未満であった。
【0166】
(実施例2)
ポリマー1と同様に調製される鉄含有ポリマーのさらなる実施例(および比較例)
上記実施例1の調製方法を8回繰り返したが、ただし、それぞれの場合において、オクタデセニル無水コハク酸反応物質を、以下に列挙する代替のカルボン酸または誘導体のうちの1つで置き換え、それぞれ、実施例1において使用されたのと同じカルボン酸基総モル数を提供するような個々の量で使用した。つまり、リガンド構造のみが異なる一連の類似のポリマー組成物を調製した。以下のポリマーを調製した。
【0167】
【表1】

*ポリイソブチレン標準物質と比較したGPCにより測定される、950の数平均分子量(Mn)を有するポリイソブチレン基
【0168】
表中のv(Fe−O)cm-1およびv(C=O)cm-1値は、各最終ポリマー、すなわちそれぞれのカルボキシレート種と配位した後のポリマーを特徴付けるそれらの吸収(FT−IRにより測定される)を表す。
【0169】
これらの実施例および比較例は、本発明により提供される利点の実証を支援するために、以降の実施例5および7において使用される。
【0170】
ICP分光法により測定されるポリマー鉄含量を比較し、塩化鉄(III)反応物質からポリマー結合鉄への鉄の変換重量パーセントを計算すると、どちらも99%を超えたポリマー7(デカン酸)およびポリマー6(ラウリン酸)の調製における鉄変換率とは対照的に、ポリマー8(ネオデカン酸を使用)の調製において達成された変換率は低く、塩化鉄(III)反応物質中の鉄のわずか20%がポリマーに変換されたことが明らかであった。同様に、ドデセニル無水コハク酸(ポリマー4)は、わずか28%という低い変換率を示した。したがって、(比較の)短分岐鎖カルボン酸反応物質に関しては、本発明の方法ステップは、低い変換率(ひいては低い収率)を示した。この比較は、カルボン酸基(複数可)近傍の置換基による立体障害が、変換プロセスを阻害することを示唆している。ネオデカン酸およびドデセニル無水コハク酸により得られた乏しい結果は、それらの材料を、本方法の出発材料として実現不可能としている。
【0171】
一方、同方法は、本発明の好ましいより長鎖の分岐ポリカルボン酸反応物質に適用された場合、ポリマー1(分岐鎖オクタデセニル無水コハク酸)では78%、ポリマー2(分岐鎖ヘキサデセニル無水コハク酸)では93%という非常に高い鉄変換率を示した。同様に、本発明のより好ましくない分岐鎖ポリカルボン酸反応物質(ポリマー3;ポリイソブテニル無水コハク酸;ICPによると49%鉄変換率)の鉄変換でさえも、より多数の置換側枝の存在にもかかわらず、ネオデカン酸(20%)およびドデセニル無水コハク酸(28%)よりも改善された変換率を示している。
【0172】
(実施例3)
ポリマーを含む添加剤濃縮物の調製
上記ポリマー実施例の相対的安定性を比較するために、各ポリマーを、それぞれ芳香族溶媒(Solvesso(商標)150−ExxonMobil Chemical企業グループから市販されている)中で、1重量%(ポリマー6および8の場合は0.5重量%)のポリマーレベルまでブレンドすることにより、一連の濃縮物を調製した。
【0173】
濃縮物は、一連の容積100mlのフラスコを使用して調製し、これに各ポリマーの必要量を量り入れた。Solvesso 150の大部分を添加し、各フラスコを振盪し、残りの溶媒を標線まで足した。次いで濃縮物試料を密閉ガラス容器に移した。
【0174】
これらの試験は、ポリマー6および7が、これらの比較的低い濃度レベルであっても、濃縮物形態での溶解度が低いことを示した。摂氏60度に加温した後一晩冷却させると、ポリマー6およびポリマー7濃縮物は、ともに溶液から材料を沈殿させ、直鎖飽和モノカルボキシレートリガンドから得られるポリマーは本発明により求められる物理的特性を提供することができないことを実証した。
【0175】
(実施例4)
硝酸鉄(III)からの鉄含有ポリマーの例示的調製
以下の2つの調製は、硝酸鉄(III)と、弱塩基の水溶液または固体形態で添加される弱塩基とを使用した本発明の方法を例示している。
【0176】
実施例4A(塩基水溶液):
適したガラスビーカー内で、添加の間連続的に撹拌しながら、NaHCO3水溶液(H2O150ml中NaHCO384g(1.0モル))をFeNO3水溶液(H2O50ml中FeNO3125g(0.31モル))に滴下により添加した。高発熱反応により発泡性の橙色溶液が生じ、弱塩基の添加が完了すると不溶性の茶褐色沈殿物が生じた。次いで、大型Buchner漏斗内でサイズ5の濾紙を通して沈殿物を水で洗浄し(4×500mlの洗浄)、暗褐色のペーストを得た。
【0177】
この中間生成物を丸底フラスコに移し、これにトルエン(500ml)、実施例1で使用したオクタデセニル無水コハク酸(27.15g、0.0775モル)、およびトリエチルアミン(28.6ml、0.155モル)を添加した。Dean−and−Stark装置を取り付け、生成する水がすべて除去されるまで反応混合物を約五(5)時間還流した。ここでトルエンに溶解している反応生成物を、Buchner漏斗内でサイズ4の濾紙を通して、次いでサイズ5の濾紙を通して濾過し、溶媒を真空下で除去して暗褐色固体を得た。この材料をポリマー10と命名する。
【0178】
実施例1のように、第三級窒素含有塩基により促進されるような、得られるカルボン酸基の架橋(μ−カルボキシラト)基への変換は、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)により監視して反応の進行を追跡することができる。酸基の吸収ピーク(1705cm-1)は、約1559cm-1の吸収の(μ−カルボキシラト)ピークに転換する。同時に、721cm-1のFe−O−Feピークは、Fe−O骨格がジカルボキシレート種と配位すると、約704cm-1にシフトする。
【0179】
実施例4B(固体塩基):
添加の間連続的に撹拌しながら、FeNO3水溶液(H2O250ml中FeNO3・9H2O125g(0.31モル))に、(NH42CO3(24g、0.25モル)を、5gずつの段階的添加により固体形態で添加した。塩基添加により発泡性の橙色溶液が生じ、添加が完了すると不溶性の茶褐色沈殿物が生じた。
【0180】
次いで沈殿物を遠心分離器により水で洗浄した(3×3000ml)。得られた暗褐色ペーストを2リットルの丸底フラスコに移し、これにトルエン(500ml)、実施例1で使用したオクタデセニル無水コハク酸(27.15g、0.0775モル)、およびトリエチルアミン(28.6ml、0.155モル)を添加した。Dean−and−Stark装置を取り付け、水がすべて除去されるまで反応混合物を約10時間還流した。ここでトルエンに溶解している生成物を、Buchner漏斗内で連続的にサイズ4およびサイズ5の濾紙を通して濾過し、その後溶媒を真空下で除去して、収率43.69gで暗褐色固体を得た。
【0181】
この材料をポリマー11と命名する。
【0182】
ポリマー11を、Isopar L(146.3g)中23%m/m濃縮物となるように添加してから、Buchner漏斗内で、サイズGF/Aフィルタ、次いでGF/Fフィルタを使用して濾過した。最終ステップとして、適したシリンジに取り付けられたGF/Fフィルタに濃縮物を通過させた。得られた濾過済濃縮物は、ICPによる鉄含量が7.99%であった。
【0183】
B.実施例
(実施例5)
時が経過してもバルク燃料内での分布を保つポリマーの改善された能力(安定性)の実証
後述の特性を有する一般的なクラスI石油由来ディーゼル燃料を含む7種の一連の試験燃料試料を、ポリマー1から5(これらを含む)、8および9のうちの1つによりそれぞれ処理して調製した。ポリマー6および7は、上記で決定された濃縮物形態におけるその低い溶解度を鑑みて、非実用的として試験から除外した。
【0184】
各ポリマーを、濃縮物形態で、異なる燃料試料にそれぞれ10ppm(燃料の重量あたりの重量百万分率)または25ppmの該燃料試料中の鉄レベルを提供するような量で添加した。このようにして、異なるポリマーの相対的安定性を一定の燃料鉄含量で比較することができた。産業上の用途において、再生添加剤は、典型的には、所定の燃料鉄含量で使用される。10ppmの鉄のレベルは、高いが実行可能な処理割合を示し、一方25ppmの鉄のレベルは、事故または不十分な動作制御によりあまりに多くの添加剤が不注意に添加された場合等、トラップ再生には過剰な処理状況を示す。
【0185】
すべての試料において、エトキシル化脂肪酸ダイマーで構成される200ppm(重量/重量)の市販の潤滑添加剤が追加的に存在することを除き、第1の一連の試料と同一に第2の一連の燃料試料を調製した。これらの試験は、後者の添加剤の種類の、本発明の鉄ポリマーに対する不安定化効果を調査するために行った。
【0186】
9種類の処理済燃料試料の2つの組を、静的な保存条件下で摂氏80℃に加熱し、観察した。この上昇した温度は、使用中のディーゼル車両燃料タンク内の温められた燃料の温度を反映しており、燃料噴射システムとの接触から温められた(過剰の)燃料の再循環が、タンク内のバルク燃料温度を上昇させる。
【0187】
結果を以下の表1に示す。それぞれの場合において、記録された時間は、その実施例におけるそれぞれのポリマーの安定性の損失を示す、沈殿/堆積、相分離またはヘイズが観察されなかった期間である。試料が32日間の安定性に達したら、試験をそれ以上継続しなかった。
【0188】
【表2】

脚注:燃料試料4Aから7A、および4Bから7Bは、比較例である。
【0189】
実施例5 燃料特性:
【0190】
【表3】

【0191】
10ppmの燃料鉄含量では、本発明のポリマーは、(i)高い安定性、および(ii)潤滑添加剤の存在下での低い不安定化の最高の組合せを提供した。これらの実施例のうち、ポリマー1および2は、不安定化に対する最高の耐性を示した。ポリマー3は、未処理燃料においては、すべての中で最高の安定性を示したが、同時に、潤滑添加剤が存在すると、それに比例するようにより大きな不安定化を示した。
【0192】
比較例のうち、10ppm燃料鉄含量において、ポリマー8(ネオデカン酸塩)のみが、潤滑添加剤が存在しない場合に高い安定性を示した。しかし、潤滑添加剤の存在下でこの材料に見られる劣化は、本発明のいずれの実施例よりも大きかった。さらに、実施例2において上で実証されたように、ポリマー8の収率は著しく低く、このポリマーを実用には利用不可能としている。
【0193】
25ppmの燃料鉄含量でも、本発明のポリマーは、(i)高い安定性、および(ii)潤滑添加剤の存在下での低い不安定化の最高の組合せを提供した。
【0194】
ここでも本発明のポリマーは、比較添加剤の1つだけを除くすべてとは対照的に、潤滑添加剤の存在下で顕著な安定性を示した。ポリマー5は、潤滑添加剤の存在下でさらなる劣化を示さず、そのベースラインの安定性はわずか6日間と低かった。
【0195】
(実施例6)
ポリマーにより提供される粘度の利点の実証
例えば搭載型注入システムにおける使用に理想的な、ポリマーの高濃度溶液の調製は、本発明により提供される濃縮物粘度の利点を示す。
【0196】
3種の濃縮物を、従来の実験室におけるブレンドにより調製した。それぞれの場合において、使用した溶媒は、市販の脂肪族溶媒である「Isopar L」であった。
【0197】
第1の濃縮物に、実施例7で使用した従来のネオデカン酸鉄をブレンドした。この鉄塩を、最終的に鉄含量が6%(溶媒の重量あたりの重量%)の濃縮物を提供するのに十分な量で添加した。得られた濃縮物の摂氏−30℃での動粘度(KV)は、1738センチストーク(cSt)であった。この温度は、北欧において冬季に遭遇する可能性のある低い周囲温度を反映している。そのような高い粘度は、精密に測量された一定分量で搭載型注入システム内に投入されなければならない濃縮物に対し、操作上の困難を生み出す。
【0198】
実施例4Aのポリマー10を使用して、第2および第3の濃縮物を、それぞれ鉄含量7.3%および8.5%に調製した。得られた濃縮物のKV値は、摂氏−40℃というより低温であっても、それぞれわずか32.6および79.3であった。従来の鉄塩と比較して、より高い鉄含量およびより低い温度下であっても、本発明の濃縮物の低温粘度が大きく改善された。したがって、そのような濃縮物は、搭載型注入システムに依存するディーゼルエンジンデバイスにおけるトラップ再生に極めて好適な、より濃縮された使用可能な形態の鉄を提供する。
【0199】
(実施例7)
ポリマーの燃料噴射器堆積物をもたらすより低い傾向の実証
Siemens VDO Automotive AGのO.GraupnerおよびT.Klaua、Infineum UKのR.CaprottiおよびA.Breakspear、ならびにAPL Automobil Prueftechnik GmbHのA.SchikおよびC.Rouffによる、「Injector Deposit Test For Modern Diesel Engines」という表題の論文に詳述される既知の試験を使用して、ポリマーのディーゼル燃料噴射器汚損傾向を調査した。この論文は、2005年1月12〜13日に開かれた第5回International Colloquium of the Technische Akademie Esslingenで発表され、その後議事録において出版された。Wilfried J Bartzの編集による出版された議事録は、国際参照番号ISBN3−924813−59−0で入手可能である。この試験方法のこの出版された説明は、参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0200】
要約すると、この試験は(他の噴射器汚損試験と同様に)、開いてディーゼルエンジンの燃焼室に燃料を流入させる噴射器部品の重要表面上への堆積物の蓄積傾向を調べるものである。そのような堆積物は、燃料の噴霧パターンを妨害および/または改変し、それにより空気−燃料混合および燃焼行程に悪影響を与え、ひいてはエンジンからの出力を低減させる。
【0201】
この特定の試験は、特に、現代の高圧噴射システムに適用可能であり、対象となる燃料に対し試験プロトコルを行うことによりもたらされる、エンジンにより生成されるエンジントルクの変化を記録する(該当する場合)。試験の間のトルクの損失は、試験中の噴射器堆積物の有害な蓄積と関連する。比較試験において、トルクに対する相対的効果を使用して、異なる物質が噴射器汚損を引き起こす相対的傾向を導出することができる。
【0202】
ポリマー10および既存の鉄再生添加剤(ネオデカン酸の鉄塩)を、上記試験において、以下の表で特徴付けられる一般的な標準燃料を使用して比較した。現代の標準燃料自体は高品質であり、噴射器汚損を引き起こす傾向はほとんど示さず、20時間の試験の間、トルクの低下は0.5%、すなわちわずか1パーセントの半分であった。
【0203】
実施例7 燃料特性:
【0204】
【表4】

【0205】
標準燃料に6ppm(重量/重量)の鉄含量を提供する量でネオデカン酸鉄塩を使用すると、20時間の試験の間に15.3%のトルクの低下が生じた。優れた燃料ベースラインの結果を考慮して、この著しく増加した噴射器汚損は、明らかに鉄塩の添加が原因とみなすことができる。したがって、鉄塩は、再生添加剤として効果的であることが知られているものの、現代のディーゼル噴射器において汚損傾向をもたらす、または促進するという2次的な問題を示した。
【0206】
一方、鉄塩の代わりに、同じ燃料鉄含量6ppm重量/重量まで本発明のポリマー10を使用したさらなる試験の結果、20時間の試験の間わずか3.5%トルクが低下した。したがって、鉄塩と比較した場合、本発明のポリマーは、同じ燃料鉄濃度で測定して、トルクに対し1/4未満の悪影響を示した。これは、明らかに本発明のポリマーは、噴射器汚損をもたらす、または促進する傾向が大きく低減されていることを指摘している。
【0207】
当業者には、噴射器汚損傾向を実証するために、当技術分野で知られたその他の噴射器汚損試験もまた好適に使用することができることが理解される。したがって、本発明の利益を実証するために、例えば、プジョーXUD−9ディーゼルエンジンに基づく、試験燃料でのエンジン動作期間後の、噴射器を通過する空気の流動損失の評価から直接噴射器上の堆積物の蓄積を測定する、従来の試験も使用可能である。
【0208】
(実施例8)
ポリマーの粒子トラップ再生能力の実証
実施例6において調製されたポリマー濃縮物(濃縮物鉄レベル7.3重量%)を、エンジン試験環境におけるディーゼル排ガス粒子トラップ再生の促進能力について調査した。
【0209】
要約すると、粒子トラップを装着した排気システムを有するフォルクスワーゲン1.9リットルTDi(ターボチャージャ付ディーゼル)エンジンを使用した。将来のエンジン設計の代表とし、比較試験目的で燃料のポスト噴射を可能とするために、コモンレール燃料噴射システムを実装するエンジンヘッドを装着することによりエンジンを実験的に改造した。このエンジンを使用して、既知の再生添加剤ネオデカン酸鉄に対し、7.3重量%のポリマー濃縮物の再生効率を比較した。同等の制御された一連の実験のそれぞれにおいて、エンジンをまず再生添加剤なしで運転して所定レベルの煤をトラップに集積し、その後選択された添加剤とともに運転して、トラップ内に収集された煤の量の燃焼を促進するその添加剤の能力を決定した。各試験ごとに、トラップから煤を取り除き、次の試験燃料試料で燃料経路を事前に洗浄し、確実に実験間の持ち越し効果が生じないようにした。結果は、一貫して、本発明のポリマー実施例が、トラップ再生機能においてネオデカン酸鉄と同等であることを示した。
【0210】
詳細には、炭化ケイ素フィルタ媒体を備える排気システム粒子トラップを試験エンジンに装着した。各実験実施の第1の(煤集積)段階は、目標蓄積粒子密度(トラップ容積1リットルあたり8gの粒子質量)がトラップ内に収集されるまで(煤集積段階にわたるトラップの重量増加により決定される)、2500rpm(毎分回転数)および3バールBMEPの動作条件で、現代の低硫黄ディーゼル燃料(燃料の重量あたり10重量ppm未満の硫黄含量を有する)でエンジンを運転することにより達成した。
【0211】
その後、2組の別の条件下で再生試験を行い、そのそれぞれは、トラップの上流側で450℃の制御可能な排気ガス温度、すなわち触媒のない環境における収集された煤の自然発火温度を十分下回る温度を生成した。1組目の条件は、排気ガス温度(粒子トラップの上流側で測定される)を必要な450℃まで上昇させるための、2500rpmおよび十分高い負荷でのエンジンの運転を含んでいた。第2の別の組の条件は、エンジンサイクルにおける燃焼が生じ得ない点での、燃焼室への燃料の直接的なポスト噴射を含んでいたが、これは局所的燃焼の結果として排気ガス温度の増加へとつながる。このポスト噴射は、トラップの上流側で450℃の排気ガス温度が得られるレベルに制御した。
【0212】
ネオデカン酸鉄または7.3重量%の本発明のポリマー濃縮物を投入した燃料を使用して、各組の条件下で10分間の再生試験を行ったが、それぞれの場合において、燃料の重量あたり3重量ppmまたは10重量ppmの鉄に寄与するレベルまでそれぞれの添加剤を投入した。このようにして、添加剤の性能を、2つの等しい鉄濃度で比較することができた。それぞれの場合において、得られる煤の再生は、煤集積トラップからの重量損失として現れ、これは後に、それぞれの添加剤の効果により450℃で燃焼した集積煤のパーセンテージとして表した。
【0213】
試験の結果を下の表に示す。ネオデカン酸鉄試験は、2回繰り返して行ったが、2つの比較(番号2および4、鉄10ppm)において、ポリマーに対する結果は2回のネオデカン酸塩試験の範囲内に収まっており、一方他の2つの比較(番号1および3、鉄3ppm)では、ポリマーに対する結果は、両方のネオデカン酸塩試験結果を上回っていることが分かる。
【0214】
再生試験結果:
【0215】
【表5】

【0216】
したがって、本発明のポリマーは、有利に、再生性能のための既存の鉄系添加剤に匹敵する一方で、物理的特性(すなわち、より良好な燃料安定性、低減された噴射器汚損傾向、および濃縮物形態でのより低い粘度)の優れたバランスを提供し、バルク燃料および搭載型用途の両方のための添加剤としてのより効果的な使用を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)1種または複数の鉄(III)塩の水溶液を得る、または調製するステップと、
ii)それに弱塩基を段階的に添加しながら、塩基添加の間、反応媒体を連続的に撹拌するステップであって、
iii)ステップii)の間に添加される塩基の総量は、1:2.5から1:3.5の範囲内で添加される総塩基に対する鉄のモル比を提供し、また湿潤した沈殿物を得るような量であるステップと、
iv)ステップiii)からの湿潤した沈殿物を還流下において有機溶媒中で第三級窒素含有塩基および1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体と反応させるステップであって、該反応の間に発生した水が除去されるステップ、
v)ステップiv)において使用される少なくとも1種のポリカルボン酸および/または誘導体は、少なくとも14個の炭素原子を含有する分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含み、ステップiv)において使用されるすべてのポリカルボン酸および/またはその誘導体の総量は、1:1から3:1の範囲内の総カルボン酸基(その任意の誘導体を含む)に対する鉄のモル比を有する反応混合物を提供するような量であるステップと、
vi)得られた固体ポリマー材料を除去するステップと
を含む、燃料への添加剤としての使用に好適な鉄含有ポリマーの調製方法。
【請求項2】
i)1種もしくは複数の鉄(II)塩、または鉄(II)塩および鉄(III)塩の混合物の水溶液を得る、または調製するステップと、
i)(a)空気および/またはその他の酸化剤への曝露により、鉄(II)イオンの鉄(III)イオンへの酸化を可能にする、またはもたらすステップと、
ii)それに弱塩基を段階的に添加しながら、塩基添加の間、反応媒体を連続的に撹拌するステップであって、
iii)ステップii)の間に添加される塩基の総量は、1:2.5から1:3.5の範囲内で添加される総塩基に対する鉄のモル比を提供し、また湿潤した沈殿物を得るような量であるステップと、
iv)ステップiii)からの湿潤した沈殿物を還流下において有機溶媒中で第三級窒素含有塩基および1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体と反応させるステップであって、該反応の間に発生した水が除去されるステップ、
v)ステップiv)において使用される少なくとも1種のポリカルボン酸および/または誘導体は、少なくとも14個の炭素原子を含有する分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含み、ステップiv)において使用されるすべてのポリカルボン酸および/またはその誘導体の総量は、1:1から3:1の範囲内の総カルボン酸基(その任意の誘導体を含む)に対する鉄のモル比を有する反応混合物を提供するような量であるステップと、
vi)得られた固体ポリマー材料を除去するステップと
を含む、燃料への添加剤としての使用に好適な鉄含有ポリマーの調製方法。
【請求項3】
ステップiv)が、総カルボン酸基(その任意の誘導体を含む)に対する窒素含有塩基のモル比が1:1から2:1の範囲内であるような量で、第三級窒素含有塩基および1種または複数のポリカルボン酸および/または誘導体を使用する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップiv)において発生した水が、ステップiv)における反応の間、連続的に除去される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップii)において添加される弱塩基が、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、または第四級アンモニウムカチオンの1種または複数の炭酸塩または炭酸水素塩である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップi)において硝酸鉄またはハロゲン化鉄のみが使用される、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップii)の間に添加される塩基の総量が、1:3のステップii)において添加される総塩基に対する鉄のモル比を提供するような量である、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第三級窒素含有塩基が、トリエチルアミンである、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップiv)において使用される1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体のすべてが、少なくとも14個の炭素原子を含有する少なくとも1種の分岐鎖ヒドロカルビル置換基を含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップiv)において使用される1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体が、ジカルボン酸の混合物、またはジカルボン酸無水物の混合物、またはその両方の混合物である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ステップiv)が、構造(I):
【化1】

(式中、xおよびyは、その和が9から29である独立した整数である)の1種または複数のジカルボン酸無水物誘導体を使用する、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
式(I)中のxとyの和が、11または13である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップii)およびiii)の最後に得られる湿潤した茶褐色沈殿物が、段階iv)において反応させる前に水で洗浄される、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
固体ポリマー材料が、ステップvi)において濾過により除去される、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
弱塩基が炭酸水素ナトリウムであり、鉄(III)塩が存在し、それが水和硝酸鉄(III)であり、第三級窒素含有塩基がトリエチルアミンであり、また1種または複数のポリカルボン酸および/またはその誘導体が、オクタデセニル無水コハク酸の分岐鎖異性体の混合物である、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の方法により得ることができる鉄含有ポリマー。
【請求項17】
請求項1から16のいずれかに記載の方法により得られる鉄含有ポリマー。
【請求項18】
複数の配位リガンドが支持されるポリマー骨格からなる鉄含有ポリマーであって、鎖状構造となった交互の鉄原子および酸素原子からなる前記骨格は、任意選択でさらにペンダント基または架橋基としてヒドロキシル基を保持し、前記配位リガンドは、ポリカルボキシレートリガンドおよび任意選択でさらに水分子であり、ポリカルボキシレートリガンドは、少なくとも14個の炭素原子を含有する分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するリガンドを含む、鉄含有ポリマー。
【請求項19】
ポリカルボキシレートリガンドが、少なくとも14個の炭素原子を含有する1つの分岐鎖ヒドロカルビル置換基を有するジカルボキシレートリガンドからなるジカルボキシレートリガンド混合物である、請求項18に記載のポリマー。
【請求項20】
ポリカルボキシレートリガンドが、構造(I):
【化2】

(式中、xおよびyは、その和が9から29である独立した整数である)の1種または複数のジカルボン酸誘導体から得られるスクシナートリガンド混合物である、請求項18または請求項19に記載の鉄含有ポリマー。
【請求項21】
ポリカルボキシレートアニオンが、xとyの和が11または13である構造(I)から得られる、請求項20に記載の鉄含有ポリマー。
【請求項22】
各ジカルボキシレートリガンドが、分岐鎖オクタデセニル無水コハク酸前駆体から得られる、請求項19から21のいずれかに記載のポリマー。
【請求項23】
好ましくはヒドロカルビルアルコールも存在する、適合する有機溶媒中の請求項16から22のいずれかに記載のポリマー、または請求項1から14のいずれかに記載の方法により得ることができる、もしくは得られたポリマーを含む、添加剤濃縮物。
【請求項24】
a.石油源から、または動物および/もしくは植物の油もしくは脂肪から得られる、あるいはその両方の混合物である燃料と、
b.請求項16から22のいずれかに記載のポリマー、または請求項1から15のいずれかに記載の方法により得ることができる、または得られたポリマーと
を含む燃料組成物であって、燃料組成物が燃焼デバイス中で使用される際、ポリマーbは、燃料aに由来する炭素質材料の燃焼を改善するのに有効な量で燃料組成物中に存在する、燃料組成物。
【請求項25】
燃料aが、ディーゼル燃料であるか、または家庭もしくは産業用の発電もしくは暖房における使用のための燃料である、請求項24に記載の燃料組成物。
【請求項26】
a.石油源から、または動物および/もしくは植物の油もしくは脂肪から得られる、あるいはその両方の混合物であるディーゼル燃料と、
b.請求項16から22のいずれかに記載のポリマー、または請求項1から15のいずれかに記載の方法により得ることができる、または得られたポリマーと
を含む、排ガス粒子トラップを備えるディーゼルエンジンシステムにおける使用のためのディーゼル燃料組成物であって、ポリマーは、エンジンシステムの動作中の粒子トラップの再生を促進するのに有効な量で燃料組成物中に存在する、ディーゼル燃料組成物。
【請求項27】
潤滑添加剤をさらに含む、請求項24から26のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
潤滑添加剤が、ポリカルボン酸のモノ−またはビス−グリコール(またはポリグリコール)エステルである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
ディーゼルエンジン駆動デバイスに装着されたディーゼル排ガス粒子トラップを再生する方法であって、請求項26から28のいずれかに記載の燃料組成物で前記エンジンを動作させるステップを含む方法。
【請求項30】
添加剤の保存およびそれを燃料に注入するための搭載型手段が装着された、ディーゼルエンジン駆動デバイスのディーゼル排ガス粒子トラップを再生する方法であって、保存される添加剤として請求項23に記載の添加剤濃縮物を使用するステップと、エンジンの動作中の粒子トラップの再生を促進するのに有効な量で前記添加剤濃縮物を燃料に注入するステップとを含む方法。
【請求項31】
a.必要に応じて、ディーゼルエンジンシステムにディーゼル排ガス粒子トラップを加えるステップと、
b.添加剤の保存およびそれを燃料に注入するための搭載型手段をデバイスに装着するステップと、
c.それにおいて請求項23に記載の添加剤濃縮物を使用するステップと
を含む、ディーゼルエンジン駆動デバイスのディーゼルエンジンシステムからの粒子排出を低減する方法であって、搭載型手段は、エンジンシステムの動作中の粒子トラップの再生を促進するのに有効な量で添加剤濃縮物を燃料に注入する、方法。

【公表番号】特表2010−522267(P2010−522267A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500104(P2010−500104)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001835
【国際公開番号】WO2008/116553
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】