説明

デキャップの軽減及び画像の耐久性改善のためのインクジェット印刷用染料

【課題】 疎水性用紙及び親水性用紙の両方にインクジェット印刷される染料を提供する。
【解決手段】 本発明の染料は、対イオンにイオン的に結合された発色団を含む。発色団及び対イオンのいずれか1つが親水性部分を含み、他方が疎水性部分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用のインク中に改善された染料を使用することに関し、より詳細には、インク及び印刷特性を改善するためにこれらの染料と共に使用される対イオンの選択に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なインクジェットインクは、Na及び/又はLiなどのカチオンで中和されるアニオン染料を採用している。インクの急速乾燥に対する要求も又、インク中への有機溶媒の使用を増大させている。しかしながら、水ベースのインク中におけるこれら有機溶媒の限定された混和性範囲によって相分離が引き起こされる場合が多々あり、特に比較的高温時に染料の溶解度が低減する結果となる。染料のこの低い溶解度は、ひいてはインクジェットペンのデキャップ性能を悪化させる。加えて、有機溶媒の多くは、対応する水性インクと比較してかなり高い沸点を有する場合が多いため、インクジェット液滴が噴射する間の水分の蒸発による染料の沈殿を引き起こすことにもなる。このことは、インクジェットペンのノズル部分周囲におけるインクの染料濃度を増大することにつながり、それによってインクビヒクルを飽和させることになる。この現象は、インクジェットペンのノズル部分付近で起こるため、それがまたデキャップ性能を悪化させる。短期間のデキャップ性能は、ノズルが連続噴射する間、破損せずに耐え得る期間を意味する。長期間のデキャップ性能は、ノズルが長時間空転(アイドリング)後のノズルの回復レベルを意味する。インク組成物中に、NHなどの対イオンを使用することにより、インクジェット印刷用インクのデキャップ性能を改善することができる。それでも、低減されたデキャップ性能という不利を招くことなく、有機ベースインク中の染料の溶解度を改善することは望ましく、従来技術で開示されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。又、本発明に関連する従来技術もある(例えば、特許文献4〜14、非特許文献1〜14を参照)。
【特許文献1】米国特許第6,221,143号公報
【特許文献2】米国特許第5,830,265号公報
【特許文献3】WO 01/25340号公報
【特許文献4】米国特許第6,221,139号公報
【特許文献5】米国特許第4,514,226号公報
【特許文献6】米国特許第4,725,675号公報
【特許文献7】米国特許第4,767,844号公報
【特許文献8】米国特許第4,189,427号公報
【特許文献9】米国特許第5,102,459号公報
【特許文献10】欧州特許第899 310A号公報
【特許文献11】米国特許第6,056,811号公報
【特許文献12】米国特許第4,028,357号公報
【特許文献13】米国特許第4,725,675号公報
【特許文献14】米国特許第4,248,949号公報
【非特許文献1】S. Warren、"Organic Syntheis:The Disconnection Approach"、英国Chichester、John Wiley & Sons、1982年
【非特許文献2】Borch等、J. Am., Chem. Soc., 93:2897(1971年)
【非特許文献3】Boutique等、Bull. So. Chim. Fr. 2:750(1973年)
【非特許文献4】Lane、"Synthesis"、135(1975年3月)
【非特許文献5】D. L. Pavia等著、"Introduction to Organic Laboratory Techniques"第2版、米国ペンシルバニア州フィラデルフィア、Saunders College Publishing、1982年、第245〜253頁
【非特許文献6】Gregory等in "The Chemistry and Application of Dyes"、Ed. Waring等、米国ニューヨーク州ニューヨーク、Plenum Press、1994年、第2章及び第6章
【非特許文献7】Augustine、"Catalytic Hydrogenation"、米国ニューヨーク州ニューヨーク、Marcel Dekker、1965年、第5章
【非特許文献8】Freifelder、"Practical Catalytic Hydrogenation"、米国ニューヨーク州ニューヨーク、Wiley Interscience、1971年、第10章
【非特許文献9】Rylander、"Hydrogenation Methods"、米国ニューヨーク州ニューヨーク、Academic Press、1985年、第8章
【非特許文献10】Schut等、New J. Chem. 20(1):113(1996年)
【非特許文献11】Walker in "The Chemistry and Application of Dyes"、Ed. Waring等、米国ニューヨーク州ニューヨーク、Plenum Press、1984年、第233頁
【非特許文献12】Morrison等、"Organic Chemistry"第4版第23章、米国マサチューセッツ州ボストン、Allyn and Bacon、1983年
【非特許文献13】Waring in "The Chemistry and Application of Dyes"、Ed. Waring等、米国ニューヨーク州ニューヨーク、Plenum Press、1984年、第3章
【非特許文献14】Lee等、J. Org. Chem. 44:719(1979年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
溶解度は、溶質分子と溶媒分子間における非共有結合分子の相互作用の強さに比例する。有機ベースビヒクルにおける増大されたインク溶解度は、1つには染料とインクビヒクル間の疎水性相互作用における増大に起因する。有機ベースビヒクル中の溶解度を増大させる染料分子の増大された疎水性は又、染料とオフセット被覆紙などの疎水性印刷媒体との間の相互作用を強化する。これらの相互作用によって、そのような媒体上での印刷インクの耐久性が増大される。しかしながら消費者は、疎水性用紙上へのみ使用するという意図でインクを購入することはない。従って、有機ベースビヒクル中では溶解性であるが、親水性媒体(普通紙)又は疎水性媒体(被覆オフセット媒体)上の何れかに印刷される時にかなり高い耐久性特性(耐水堅牢性、耐スミア堅牢性及び耐スマッジ堅牢性など)をもたらす染料を調製することは望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様において、本発明はインクジェット印刷用の染料に関する。この染料は、発色団と、その発色団にイオン結合した第1の相互作用エンハンサーを含む対イオン、及びその発色団に共有結合した第2の相互作用エンハンサーを包含する。第1の相互作用エンハンサー又は第2の相互作用エンハンサーのいずれか一方は親水性部分を含み、一方、他方は疎水性部分である。他の態様においては、本発明はイオン性染料の基体との相互作用を増大させる方法に関する。この方法は、第1の対イオンをイオン性染料と結合させるステップを含む。第1の対イオンは、親水性部分あるいは疎水性部分を含む。第2の対イオンをイオン性染料と結合させてもよい。第2の対イオンは、親水性部分あるいは疎水性部分を含み得る。さらに他の様相において、本発明は、染料の基体との相互作用を増大させる方法に関する。この方法は、親水性部分、疎水性部分、又はその両方を染料に共有的に付着させるステップを含む。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、親水性媒体及び疎水性媒体のいずれかとの相互作用が強化された、デキャップ性能及び耐久性が改善されたインクジェット印刷用の染料、及びイオン性染料の基体との相互作用を増大させる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、多様な媒体の種類に対して高い耐久性を有するプリントを得るのに要するインクの数を低減する方法を提供する。親水性の相互作用エンハンサーを対イオンに、そして疎水性の相互作用エンハンサーを染料に(又はその逆)含有させることによって、普通紙(親水性タイプの媒体)あるいは被覆オフセット紙(疎水性媒体)上で良好な耐久性を得ることができる。普通紙が使用される場合、染料の疎水性部分(発色団又は対イオンのいずれかに組み込まれている)は、水素結合の形成によって媒体と強く相互作用する。被覆紙(典型的には、本質的に疎水性)が使用される場合、染料の疎水性部分が、π−π相互作用又はファンデルワールス相互作用によって強力に相互作用し、その結果、得られるプリントの耐久性が増大される。
【0007】
本発明は又、高(有機)含量の有機ベースビヒクルを使用する場合のインクジェットペンのデキャップ性能を改善する方法も提供する。これは、対イオンの操作を介して得られる染料の溶解度の増大によって達成することができ、それにより、インク滴形成及び噴射中のプリントヘッドノズル近傍の堆積を低減することができる。
【0008】
本発明は、染料と印刷された基体(例えば紙)の表面との間の化学的相互作用を利用することにより、染料と基体の間の親和力を増大させる。例えば、ヒドロキシ染料は、親水性の紙との水素結合の形成によって普通紙と極めてよく相互作用する。しかしながら、ブタンジエン−スチレンポリマーなどの疎水性材料で通常被覆された被覆オフセット媒体とは良好に相互作用しない。疎水性の誘導体又は対イオンを使用することで、これら染料と疎水性紙との相互作用は増大されるが、普通紙媒体上のプリントの安定性はそれほど顕著には増大されない。しかし、これら2つの化学基(即ち、疎水性染料と親水性対イオン、又は親水性染料と疎水性対イオン)を組み合わせることにより、普通紙媒体又は疎水性オフセット媒体のいずれとも相互作用させることが可能となる(図1)。
【0009】
高分子量の染料、典型的には親染料の二量体及び三量体は、ヒドロキシ染料に対して疎水性媒体上での増大された耐水性を示す。おそらくこれは、ノニオンの相互作用部位の数が増えた結果、カチオンの下刷り液(例えば、プロトン化ポリエチレンイミン、即ちPEI)との相互作用を増大させることができるためと考えられる。しかし、そのような染料は、印刷された媒体とは強い相互作用を示さないため、物理的磨耗効果に対する耐性を低下させる。疎水性基の付加又は疎水性対イオンの使用により、疎水性媒体上に印刷される際のこれら染料の機械的安定性が増大される。
【0010】
疎水性染料は、疎水性媒体上に印刷された場合、良好な耐水堅牢性と良好な耐スマッジ堅牢性を示す。典型的に、良好な耐水堅牢性が得られる時には、物理的な磨耗耐性(耐スマッジ堅牢性及び耐スミア堅牢性)が悪くなる。これは、染料が媒体表面に向かって「沈殿」し、物理的磨耗の影響を受けやすくなるためである。しかし、疎水性染料は媒体との増大された相互作用を示し、物理的磨耗に対する影響の受けやすさを低減する。イオン性染料は水に対して極めて溶解性であるため、耐水堅牢性が低い。親水性の及び疎水性の誘導体は、これらイオン性染料と普通紙及び被覆オフセット媒体の両方との相互作用を強化することができる。加えて、Na又はLiなどの対イオンを使用する代わりに、対イオンは有機ベースのビヒクル中への染料の溶解度を増強するか、あるいは印刷媒体との相互作用を増大させる対イオンを選択してもよい。例えば、グルコサミンの対カチオンを負に帯電した疎水性に改質された染料と結合させてもよい。還元グルコースを他の荷電部分と連結させてもよい。あるいは又、グルコネートを正に帯電した疎水性染料に対する対アニオンとして使用してもよい。
【0011】
このように、疎水性基又は親水性基の何れかが共有的に付着された染料は、ある種の媒体(被覆オフセット媒体における疎水性染料、普通紙における親水性染料)と良好に相互作用するであろう。しかし、対照的な性質を有する対イオン(例えば、疎水性染料に対する親水性対イオン又は親水性染料に対する疎水性対イオン)を使用することにより、被覆オフセット媒体及び普通紙媒体のいずれとも染料の相互作用を増大させ得る(図2)。
【0012】
例示的な疎水性対イオンは下記を含む。
【0013】
【化21】

【0014】
式中、AはRN、CO又はSOであり、Rは1〜3個の炭素を有する直鎖である。
【0015】
例示的な親水性対イオンは下記を含む。
【0016】
【化22】

【0017】
式中、Rは1〜3個の炭素を有する直鎖であり、且つn=3〜500である。
【0018】
本発明と共に多様な染料を使用できるよう適合させてよい。市販の染料を疎水性又は親水性の何れかの官能基で改質し、次いでイオン交換に供することにより、所望の対イオンが提供され、染料と印刷媒体及びインクビヒクルとの相互作用が増強され得る。適当な染料は、Avecia、Tricon Colors、Clariant Corporation、Akzo Nobel、PMC Specialities Group, Inc.、BASF Corporation、Ciba Speciality Chemicals Color division、Sun Chemical Corporation及びTokyo Color Americaなどの会社から入手し得る。親水性の又は疎水性の対イオンを選択することに加えて、所望の成分を使用して染料を合成し、続いて、イオン交換により染料−対イオンの対を生成することもできる。合成は、染料の色を変える可能性のある、染料のπ軌道系を変えないような方法で実行すべきである。1つの実施態様においては、親水性部分又は疎水性部分、例えば、グルコース又はヘキシルフェニルを染料に付着させる。
【0019】
窒素などの付加原子を用いて付加基を染料に連結させるか、又は所望の官能基を組み込むために染料の合成を変更してもよい。ポリオールを含む典型的な親水性染料の構造、及び典型的な疎水性染料の構造は次の通りである。
【0020】
【化23】

【0021】
式中、Lは下記の何れかである。
【0022】
【化24】

【0023】
式中、Xは、−Cl、−OH、−N=CH-R'、−NH-CH−R'、−NR'又は発色団の何れかであり、R'はH、1〜4個の炭素を有するアルキル直鎖又は3〜4個の炭素を有するアルキル分枝鎖であり、Yは、下式のいずれかである。
【0024】
【化25】

(式中、n=3〜500である)
【0025】
発色団は、染料に色を付与するために使用され、スルホネート、カルボネート、アンモニウムイオン又はそれらの任意の組合せを含み得る。
【0026】
界面活性剤、緩衝剤、湿潤剤及び抗しわ剤などのその他の成分を本発明の実施において採用してもよい。本発明は、イオン相互作用によって化学的に改質された染料と対イオンとの相互作用を利用するので、適当な界面活性剤は典型的には本質的にノニオン性であり、これにより界面活性剤と化学的に改質された発色団又は対イオンの何れかとの交換相互作用を減少する。適当なノニオン界面活性剤の例には、第2級アルコールエトキシレート(例えば、Union Carbide Co.から市販のTergitolシリーズ)、ノニオンフルオロ界面活性剤(例えば、3Mから市販のFluorad FC-170C)、ノニオン脂肪酸エトキシレート界面活性剤(例えば、Rhone-Poulencから市販のAlkamul PSMO-20)、脂肪族アミドエトキシレート界面活性剤(例えば、Rhone-Poulencから市販のAldamide L-203)、エトキシ化シリコーン界面活性剤(例えば、Witcoから市販のSilwet L-7607)及びアセチレン系ポリエチレンオキシド界面活性剤(例えば、Air Products & Chemicals, Inc.から市販のSurfynol 1465)がある。
【0027】
緩衝剤を用いてpHを調整しても良い。有機ベースの生物学的緩衝剤及びリン酸ナトリウムなどの無機系緩衝剤のいずれも、本発明と共に用いるのに適している。さらに、採用した緩衝剤は、インクに約4〜約9、好ましくは約6〜約8の範囲のpHをもたらすべきである。例示的な有機ベースの緩衝剤には、Aldrich Chemical(米国ウィスコンシン州ミルウォーキー)などの会社から入手可能な、Trizma Base、4−モルホリンエタンスルホン酸(MES)及び4−モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)が包含される。
【0028】
インクジェットインクに通常採用される殺生物剤は、いずれも本発明の実施に際して採用し得る。例えば、Hals America(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)から入手可能な、NUOSEPT 95、Avecia(米国デラウェア州ウィルミントン)から入手可能なProxel GXL、及び商標UCARCIDE 250を付して、Union Carbide Company(米国ニュージャージー州バウンドブルック)から市販のグルタルアルデヒドがある。Proxel GXLは好ましい殺生物剤である。
【0029】
本発明のインクは、約1〜約40重量%の少なくとも1つの有機溶媒を含む。より好ましくは、インクは、約10〜約30重量%、より好ましくは約15〜約30重量%の少なくとも1つの有機溶媒を含む。有機溶媒は、湿潤剤としても抗しわ剤としても用いられる。本発明のインクジェットインク組成物に適切に使用される有機溶媒は、次のような化合物の何れか、あるいは2つ又はより多くの混合物を含む。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、1,3−ジメチルイミダゾリド−2−オン及びオクチル−ピロリジノンなどの含窒素ヘテロ環式ケトン、エタンジオール(例えば、1,2−エタンジオール)、プロパンジオール(例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジオール、エチルヒドロキシ−プロパンジオール(EHPD)、ブタンジオール(例えば、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール)、ペンタンジオール(例えば、1,5−ペンタンジオール)、ヘキサンジオール(例えば、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール)、ヘプタンジオール(例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール)、オクタンジオール(例えば、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール)などのジオール、及びポリエチレングリコール{例えば、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール)、ポリプロピレングリコール(例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール)、高分子グリコール(例えば、PEG 200、PEG 300、PEG 400、PPG 400)などのポリアルキレングリコールを含む、通常インクジェットインクに採用されるグリコールエーテルとチオグリコールエーテル、及びチオジグリコール。さらには、n−ブチルカルビトール、プロピレングリコールn−プロピルエーテル及びフェニルカルビトールなどの様々なグリコールのエーテルを用いてもよい。上述の他に、さらに多数の含窒素ヘテロ環式ケトン、ジオール、グリコール及びグリコールエーテルがあることは、当業者には理解されるであろう。そのような溶媒は、本発明と共に用いるのに適しているが、より高価になる傾向がある。
【0030】
以下の表は、本発明に従って調製された代表的な染料の組成を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
次の実施例は、レトロ合成を介した、市販の染料を本発明との使用に適合させるために採用し得る化学反応のサンプリングを提供する。次の分子及び反応は、単に例示にすぎない。以下に記載される化学反応が様々な各種染料に適用され得ることは、当業者には理解されるであろう。
【実施例】
【0034】
例1 ブラック親水性アニオン染料
この染料は、市販のC.I.(カラーインデックス) Acid Black 200染料をベースとした。D−グルコースのカルボニル基にアミン官能基を付加し、そして、その箇所で、例えば、シアノ水素化ホウ素で還元し、所望の染料を得た。
【0035】
【化26】

【0036】
例2 ブラック疎水性アニオン染料
この染料は、市販のC.I. Acid Black 200染料をベースとしてるが、それに所望の特性を与えるため、異なった置換基で合成されている。6−アミノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸を使って開始し、一つの疎水基を分子に付加するためにアルキル化を行った。その後、もう一つの疎水基を付加すると同時に、ブラック染料の発色団を完了するのに、2つのジアゾ化反応が必要である。
【0037】
【化27】

【0038】
例3 ブラック親水性カチオン染料
N,N−ジメチルアニリンとp−ニトロアニリンで開始し、ジアゾ化を行い、続いて、その分子のジメチルアニリン部分のアルキル化を実行して、このブラック染料のカチオン型を作った。ニトロ基の還元に続いて、還元的アルキル化を行うことにより最終的に親水性カチオン染料を得た。
【0039】
【化28】

【0040】
例4 ブラック疎水性カチオン染料
C.I. Acid Black 180に、対応するピリジン誘導体を付加することによりこの染料の例を作製し得る。2位及び6位におけるメチル基は、ピリジン環を回転させて発色団平面から外させる。これによって発色団のπ−軌道系とピリジン部分の相互作用が制限されて染料の色の変性が防止される。
【0041】
【化29】

【0042】
例5a シアン親水性アニオン染料
この染料は、上述の特許文献9に開示されているようにして作製される。銅フタロシアニンのスルホン酸基の塩素化によってテトラスルホン酸を生成し、続いて、スルホン酸塩化物を還元してスルフィン酸の塩とし得る。D−グルコサミンを銅フタロシアニンテトラスルホン酸上のスルフェート基に付着させる。スルホネート:D−グルコサミンの比は、可変であり且つ反応の条件並びに付加された各反応物の当量に極めて依存する。置換基の位置も可変であり、従って、下記構造は、幾つかの可能な構造の一例にすぎない。
【0043】
【化30】

【0044】
例5b シアン親水性アニオン染料
下記の染料を、還元的アルキル化反応により、C.I. Acid Blue 25(市販染料)の第一級アミノ基にD−グルコースを結合させることにより生成した。
【0045】
【化31】

【0046】
例6 シアン疎水性アニオン染料
例5aのD−グルコサミンと大部分同じ方法で、銅フタロシアニンテトラスルホン酸のスルホン酸基にヘキシルアニリンを付加させる。スルホネート:p−ヘキシルアニリンの比は、可変であり且つ反応の条件並びに付着された各反応物の当量に極めて依存する。置換基の位置も可変であり、下記構造は、幾つかの可能な構造の一例にすぎない。
【0047】
【化32】

【0048】
例7 シアン親水性カチオン染料
例5aで生成した染料の残りのスルホネート基に、例5a及び例6に記述したものと同じ反応を利用して1,2−ジアミノエタンを結合させ、続いてアミンをメチル化することによりカチオン性にし、以下のカチオン染料を生成した。
【0049】
【化33】

【0050】
エチル−トリメチルアンモニウム:D−グルコサミンの比は可変であり、且つ反応の条件並びに付加された各反応物の当量に極めて依存する。置換基の位置も可変であり、上記構造は、幾つかの可能な構造の一例にすぎない。
【0051】
例8 シアン疎水性カチオン染料
例6で生成した染料の残りのスルホネート基に、例5a及び例6に記述したものと同じ反応を利用して1,2−ジアミノエタンを結合させ、続いてアミンをメチル化することによりカチオン性にし、以下のカチオン染料を生成した。
【0052】
【化34】

【0053】
エチル−トリメチルアンモニウム:p−ヘキシルアニリンの比が可変であり、且つ反応の条件並びに付加された各反応物の当量に極めて依存することは留意すべきである。置換基の位置も可変であり、上記構造は、幾つかの可能な構造の一例にすぎない。
【0054】
例9 マゼンタ親水性アニオン染料
例えば、上述の特許文献10及び11に開示されているように、熱水の溶液中でReactive Red 2にD−グルコサミンを付加することによって下記構造を有する染料を生成した。
【0055】
【化35】

【0056】
例10 マゼンタ疎水性アニオン染料
この染料は、4−アミノ−5−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸と、塩化シアヌルと反応させることにより生成し得る。塩化シアヌル誘導体を、次いで、ジアゾ結合(ジアゾカップリング)を介してp−ヘキシルアニリンと結合させて、反応性マゼンタ染料を生成する。この反応性マゼンタ染料を、次いで、p−ヘキシルアニリンと水を添加することによって得られた反応性塩素を介して官能性とし、最終生成物を得る。
【0057】
【化36】

【0058】
例11 マゼンタ親水性カチオン染料
この染料の前駆体として、Reactive Red 2を使用した。(例9に記載のように)D−グルコサミンの還元、続いてピリジンとの反応によって親水性基が付着された下記カチオン染料を生成した。
【0059】
【化37】

【0060】
例12 マゼンタ疎水性カチオン染料
C.I. Acid Red 249の前駆体を使用し、分子のアニリン部分を、後に染料の疎水性部分となる部分における塩化スルフォニルと反応させ、続いてピリジンと反応させてマゼンタ疎水性カチオン染料が与えられる。
【0061】
【化38】

【0062】
例13 イエロー親水性アニオン染料
次の染料は、既知染料であるC.I. Acid Yellow 66に対するD−グルコースの還元的アルキル化によって得られた。
【0063】
【化39】

【0064】
例14 イエロー疎水性アニオン染料
この染料を作る一連のプロセスはジアゾ化で開始される。続いて染料のアニリン部分に塩化シアヌルを付加し、次いでp−ヘキシルアニリンの付加、その後、NaOHの添加によってトリアゾ環を酸化させる。
【0065】
【化40】

【0066】
例15 イエロー親水性カチオン染料
この染料は、開始材料のアニリン部分のD−グルコースとの還元的アルキル化によって製造した。
【0067】
【化41】

【0068】
例16 イエロー疎水性カチオン染料
p−アミノベンズアルデヒドをp−クロロメチルヘキシルベンゼンと反応させて、第一中間体を生成する。次いで、これを1−クロロ−2−トリメチルアンモニウムエタンでアルキル化して第二中間体を生成する。最後に、イリド付加反応を行って最終染料生成物を誘導する。
【0069】
【化42】

【0070】
例17 グリーン親水性アニオン染料
Acid Green 12へのD−グルコースの還元的アルキル化によって下記染料を生成した。
【0071】
【化43】

【0072】
例18 グリーン疎水性アニオン染料
この染料の合成は、対応するアミンのアルキル化により生ずる。
【0073】
【化44】

【0074】
例19 グリーン親水性カチオン染料
アミン開始材料の還元的アルキル化によって下記染料を得た。
【0075】
【化45】

【0076】
例20 グリーン疎水性カチオン染料
この染料は、ピリジンと所望の疎水性成分を、分子(ジクロロトリアジン環誘導体)の反応性染料部分に付加させることによって合成される。次いで、これを2回のジアゾ結合により所望の染料を調製する。
【0077】
【化46】

【0078】
例21 オレンジ親水性アニオン染料
この染料は、Cotton Orange GのD−グルコースとの還元的アルキル化によって調製した。
【0079】
【化47】

【0080】
例22 オレンジ疎水性アニオン染料
下記染料は、開始材料のジアゾ化によって調製した。
【0081】
【化28】

【0082】
例23 オレンジ親水性カチオン染料
C. I. Basic Orange 1を開始材料として使用し、アミンをアルキル化(少量のヒンダードアミンの保護後)することにより、カチオン材料を生成し、続いて(その次点で保護されていない)アミンの還元的アルキル化により下記の染料構造を得る。
【0083】
【化49】

【0084】
例24a オレンジ疎水性カチオン染料
C. I. Acid Orange 100の発色団前駆体上で、ピリジン誘導体(疎水性ヘキシルフェニル基含有)を置換することにより、非金属化染料を調製する。例えば、Coとのさらなる反応により、アセテート水和物として下に示す金属化オレンジ染料が合成される。
【0085】
【化50】

【0086】
例24b オレンジ疎水性カチオン染料
この染料は、2,5−ジクロロアニリンのエチルフェニルアミンとのジアゾ化を経て生成される。次いで、そのアミンをベンジル基でさらに官能性にする。最後に、2つの塩素を疎水性付加物のピリジン誘導体で置換することにより最終生成物を得る。
【0087】
【化51】

【0088】
ここに開示した本発明の仕様もしくは実施について考察すれば、本発明のその他の実施態様も当業者には明らかであろう。その仕様並びに実施例は、例示としてのみ考えられるべきであって、本発明の真の範囲は特許請求の範囲によって示されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1A】染料−対イオンの親水性媒体との相互作用を示す概略図
【図1B】染料−対イオンの疎水性媒体との相互作用を示す概略図
【図2】染料−対イオンの相互作用を示す概略図。(A)は親水性アニオン染料と疎水性対カチオン、(B)は疎水性アニオン染料と親水性対カチオン、(C)は親水性カチオン染料と疎水性対アニオン及び(D)は疎水性カチオン染料と親水性対アニオン、の相互作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色団、
前記発色団にイオン結合した、第1の相互作用エンハンサーを含む対イオン、及び、
前記発色団に共有的に結合した第2の相互作用エンハンサー、
を含み、
前記第1の相互作用エンハンサーと前記第2の相互作用エンハンサーのうちの1つが親水性部分であり、且つ、前記第1の相互作用エンハンサーと前記第2の相互作用エンハンサーのうちの1つが疎水性部分である、インクジェット印刷用染料。
【請求項2】
前記対イオンが、荷電窒素原子、スルホネート又はカルボネートを含む、請求項1に記載の染料。
【請求項3】
前記対イオンが、グルコネート、グルコサミン、
【化1】

(式中、AはRN、CO又はSOからなる群から選択され、Rは1から3個の炭素を有するアルキル直鎖であり、且つ、n=3から500である)
からなる群から選択される、請求項1に記載の染料。
【請求項4】
前記発色団が、スルホネート、カルボネート、アンモニウムイオン及びそれらの任意の組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の染料。
【請求項5】
前記親水性部分が、ポリオール、グルコネート、グルコサミン、
【化2】

(式中、n=3から500である)
及びそれら任意の組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の染料。
【請求項6】
前記疎水性部分が、ジメチルピリジル、
【化3】

及びそれら任意の組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の染料。
【請求項7】
前記第2の相互作用エンハンサーが、アゾ結合、ジアゾ結合、アミノ結合、イミノ結合、アミド結合、アルキル鎖、ケトン結合、スルフォニルアミノ結合、
【化4】

(式中、Xは、クロリド、ヒドロキシド、−N=CH−R'、−NH−CH−R'、−NR'及び発色団部分から成る群から選択され、R'は、1から4個の炭素を有するアルキル直鎖あるいは3又は4個の炭素を有するアルキル分枝鎖から成る群から選択され、Yは、ポリオール、
【化5】

から成る群から選択され、n=3から500である)
から成る群から選択されるものを介して前記発色団に結合される、請求項1に記載の染料。
【請求項8】
結合された前記発色団と前記第2の相互作用エンハンサーが、以下のいずれかを含む、請求項1に記載の染料。
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【請求項9】
結合された前記発色団と前記第2の相互作用エンハンサーが、以下のいずれかを含む、請求項1に記載の染料。
【化10】

【化11】

【請求項10】
結合された前記発色団と前記第2の相互作用エンハンサーが、以下のいずれかを含む、請求項1に記載の染料。
【化12】

【化13】

【請求項11】
結合された前記発色団と前記第2の相互作用エンハンサーが、以下のいずれかを含む、請求項1に記載の染料。
【化14】

【化15】

【請求項12】
請求項1に記載の染料と、
界面活性剤、緩衝剤、湿潤剤、殺生物剤、抗しわ剤及びそれらの任意の組合せら成る群から選択される成分と、
を含むインク。
【請求項13】
前記界面活性剤が、第二級アルコールエトキシレート、ノニオンフルオロ界面活性剤、ノニオン脂肪酸エトキシレート界面活性剤、脂肪族アミドエトキシレート界面活性剤、エトキシ化シリコーン界面活性剤、アセチレン系ポリエチレンオキシド界面活性剤及びそれらの任意の組合せから成る群から選択される、請求項12に記載のインク。
【請求項14】
前記緩衝剤が、有機系の生物緩衝剤と無機系の緩衝剤とから成る群から選択される、請求項12に記載のインク。
【請求項15】
前記湿潤剤及び抗しわ剤が、含窒素ヘテロ環式ケトン、ジオール、グリコールエーテル、チオグリコールエーテル、ポリアルキレングリコール、2つ又はより多くのグリコールのエーテル及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項12に記載のインク。
【請求項16】
第1の対イオンをイオン性染料と結合させることを含み、
前記第1の対イオンは、親水性部分又は疎水性部分を含む、イオン性染料と基体との相互作用を増大させる方法。
【請求項17】
第2の対イオンをイオン性染料と結合させることをさらに含み、
前記第2の対イオンは、親水性部分又は疎水性部分を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の対イオンが、荷電窒素原子、スルホネート又はカルボネートである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の対イオンが、グルコネート、グルコサミン、
【化16】

(式中、AはRN、CO又はSOから成る群から選択され、Rは1から3個の炭素を有するアルキル直鎖であり、且つ、n=3から500である)
から成る群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
親水性部分及び疎水性部分の少なくとも1つの部分を染料に共有的に付着させることを含む、イオン性染料と基体との相互作用を増大させる方法。
【請求項21】
前記親水性部分が、ポリオール、グルコネート、グルコサミン、
【化17】

(式中、n=3から500である)
及びそれらの任意の組合せから成る群から選択されるものを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記疎水性部分が、ジメチルピリジル、
【化18】

及びそれらの任意の組合せから成る群から選択されるものを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの部分が、アゾ結合、ジアゾ結合、アミノ結合、イミノ結合、アミド結合、アルキル鎖、ケトン結合、スルフォニルアミノ結合、
【化19】

(式中、Xは、クロリド、ヒドロキシド、−N=CH−R'、−NH−CH−R'、−NR'及び発色団部分を含む群から選択され、Yは、ポリオール、
【化20】

から成る群から選択され、且つ、R'は、1から4個の炭素を有するアルキル直鎖あるいは3又は4個の炭素を有するアルキル分枝鎖を含む群から選択され、n=3から500である)から成る群から選択されるものを介して染料に結合される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの部分が、2,6−ジメチルピリジンである、請求項20に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−114452(P2009−114452A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317973(P2008−317973)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【分割の表示】特願2002−318161(P2002−318161)の分割
【原出願日】平成14年10月31日(2002.10.31)
【出願人】(398038580)ヒューレット・パッカード・カンパニー (91)
【氏名又は名称原語表記】HEWLETT−PACKARD COMPANY
【Fターム(参考)】