説明

デクスメデトミジンの舌下組成物およびその使用方法

デクスメデトミジンの鎮痛性舌下製剤およびその使用方法が、疼痛および他の症状の予防、治療および管理における使用のために提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、デクスメデトミジンの鎮痛性舌下スプレー製剤、その薬学的に許容できる塩およびその誘導体、ならびにその使用方法を記述している。
【背景技術】
【0002】
デクスメデトミジン、5-[(1S)-1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]−1H-イミダゾールは鎮静および鎮痛特性を持つ非麻薬性のα−アドレナリン受容体作用薬である。
【化1】

デクスメデトミジン
【0003】
現在、デクスメデトミジンは、唯一の商業的に入手可能な、鎮静を目的とした注射可能な製剤であり、健康管理専門職によって血管内投与されなければならない。デクスメデトミジンは鎮痛特性を有するが、しかしながら、鎮痛剤として有用な製剤は商業的に入手可能ではない。さらに、多様な理由のために、商業的に入手可能で注射可能な製剤は、自己投与することのできる鎮痛剤として用いるためには適切でない。デクスメデトミジンに基づいた鎮痛剤医薬、たとえば、大きな鎮静作用なしに、自己投与して鎮痛作用を生ずる(または、別に、疼痛を治療もしくは予防する)医薬に対する継続的且つ充足されていない必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
ここに、デクスメデトミジンおよび/または薬学的に許容できるその塩、および/またはその誘導体の新規な鎮痛性舌下スプレー製剤、ならびに、疼痛の治療または予防におけるその使用方法が提供される。その様な医薬組成物は、鎮痛(例えば、疼痛の治療または予防)を来すのに十分な量のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはその誘導体(例えば、プロドラッグ)および薬学的に許容できる液体媒体を、随意の賦香剤、圧縮噴射剤、保存剤、不活性成分、乳化剤、緩衝剤、着色剤などと同様に含有する。
【0005】
一つの例において、ヒトの口腔粘膜に、薬学的に許容できる液体媒体中のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩の用量を含有する医薬組成物を適用する工程を含んでなる、疼痛を治療しまたは予防するための方法であって、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩が該口腔粘膜を通して吸収されて、鎮静なしに鎮痛を生ずる方法が提供される。他の例において、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩の用量が、約0.05μg/kgおよび約1.50μg/kgの間である。さらに他の例においては、ヒトが成人であって、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩が、約5μgおよび約50 μgの間である方法が利用される。さらに、該方法は、該ヒト全身循環系中への粘膜吸収によって、約0.30 ng/mLより小さいデクスメデトミジンの血漿中Cmaxを提供することができる。
【0006】
他の例において、疼痛を治療しまたは予防する方法が提供される。この例において、工程は、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはそのプロドラッグを含有する医薬組成物を、投与によって該哺乳類への疼痛を治療しまたは予防するために有効な量でヒトの口腔粘膜に投与する工程を含み、該医薬組成物は、投与から1時間以内に、鎮静なしに鎮痛効果を生ずる速度で該哺乳類の全身循環系中へデクスメデトミジンの生理的に活性な量を提供する。
【0007】
他の例において、薬学的に許容できる液体媒体中のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはプロドラッグを含有する鎮痛剤医薬組成物が提供され、該医薬組成物は、該鎮痛性医薬組成物を哺乳類の粘膜へ適用することによる哺乳類への経粘膜投与用に構成され適用される。さらに、鎮痛性医薬組成物は、該組成物を哺乳類の舌下粘膜へ適用することで、舌下投与用に構成され適用されてよい。
【0008】
他の例示的態様において、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはその誘導体を哺乳類へ投与する方法は、哺乳類の口腔粘膜に、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはその誘導体を、哺乳類の口腔粘膜を通して哺乳類の全身循環系にデクスメデトミジンの薬学的に有効な量の経粘膜吸収を与えるような有効量で薬学的に許容できる液体媒体中に含んでなる噴霧組成物の計量された用量を噴霧する工程を含む。
【0009】
本発明のさらなる特徴は、以下の詳細な説明および実施例を参照することで理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
ここに、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩またはその誘導体の新規な鎮痛性舌下スプレー製剤、ならびに、疼痛の治療、予防および管理におけるその使用方法が提供される。
【0012】
デクスメデトミジンは哺乳類に鎮静、麻酔および鎮痛を生じる特有のα2-アドレナリン受容体作用薬である。ヒトにあっては、デクスメデトミジンは、集中治療室での治療の間、当初から挿管され人工呼吸器を付された患者の鎮静用として、外科的および他の処置に先だつ、またはその間の、挿管されていない患者の鎮静用と同様に、商業的に入手可能である。例えば、U.S. Pat. Nos. 6,716,867および6,313,311を参照のこと。
【0013】
ヒトにおけるデクスメデトミジンの薬物動態が、血管内 (i.v.)、筋肉内(i.m.)および経皮投与後に研究されてきた。平均消失半減期は、i.v.投与およびi.m.投与後でそれぞれ1.5〜3時間、および、経皮投与後で5.6時間である。筋肉内(i.m.)および経皮投与後、血中最高濃度に至る時間は、それぞれ、1.6〜1.7時間および6時間であり、絶対バイオアベイラビリティは、それぞれ、73%および88%と推定されてきた。例えば、以下を参照のこと:“Pharmacodynamics and pharmacokinetics of intramuscular dexmedetomidine(筋肉内デクスメデトミジンの薬物動力学および薬物動態学)”、Scheinin et al., Clin. Pharmacol. Ther. 52, 53-46 (1992);“The pharmacokinetics and hemodynamic effects of intravenous and intramuscular dexmedetomidine hydrochloride in adult human volunteers(ヒト成人ボランティアにおける、血管内および筋肉内デクスメデトミジン塩酸塩の薬物動態学および血行力学効果)”、 Dyck et al., Anesthesiology 78, 813-20 (1993);および“Pharmacokinetics and pharmacodynamics of transdermal dexmedetomidine(経皮デクスメデトミジンの薬物動態学および薬物動力学)”; Kivistoe et al., Eur. J. Clin. Pharmacol. 46, 345-49 (1994)。
【0014】
デクスメデトミジンは口腔からも吸収される。ヒト被検体がデクスメデトミジン溶液を飲み込まずに口内に保持する口腔投与後に、平均口腔バイオアベイラビリティが81.8%で測定され、ほぼ1.5時間での最高濃度と1.9時間の見かけの消失半減期とを有していた。 例えば、“Bioavailability of dexmedetomidine after extravascular doses in healthy subjects(健常被験者における血管外投与後のデクスメデトミジンのバイオアベイラビリティ)”、 Anttila et al., Br. J. Clin. Pharmacol. 56, 691-93 (2003)。
【0015】
本発明によれば、デクスメデトミジンは疼痛の、改善、管理、治癒、または他の処置の目的で被検動物またはヒトに投与することができる。例示的態様において、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくは誘導体をヒトに投与する方法は、哺乳類の口腔粘膜に、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはその誘導体を、哺乳類の口腔粘膜を通して哺乳類の全身循環系にデクスメデトミジンの薬学的に有効な量の経粘膜吸収を与えるような有効量で薬学的に許容できる液体媒体中に含んでなる噴霧組成物の計量された用量を噴霧する工程を含む。
【0016】
例えば、癌および他の病気をもった多くの患者が慢性の鎮痛治療にも拘わらず穏やかな疼痛から激しい疼痛を経験し続け、このことは、患者の活動レベルの増加に由来して、しばしば間歇的な激痛となって現れる。鎮痛剤の長時間作用性製剤の用量を増加させてこれに対抗しようとする試みは、しばしば鎮痛の発現が遅くなり、特に麻薬鎮痛剤の場合に、望まざる鎮静、便秘または吐き気および嘔吐という副作用を生じる。しかしながら、本明細書に記載のデクスメデトミジンの鎮痛性舌下スプレー製剤は、その様な疼痛を改善し、管理し、治癒し、予防しまたは別に治療する、穏やかから急激な作用性で、非麻薬性の強力な鎮痛剤を選択的に提供する。
【0017】
本明細書に記載のデクスメデトミジン製品は、疼痛治療用の薬学的製剤である。本明細書で用いる用語“薬学的に許容できる”は、健全な医学的判断の範囲内にあり、過剰の毒性、刺激、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症が無く、人間および動物の組織との接触使用に適している化合物、物質、組成物投与形態、およびそれらの使用方法を含み、一方、合理的な利益/危険性比と釣り合いがとれており、所望の薬学的対応を誘発する。
【0018】
デクスメデトミジンは、薬学的に許容できる酸と薬学的に許容できる塩を形成することができる塩基性窒素原子を含んでいる。この関係での“薬学的に許容できる塩”とは、デクスメデトミジンの比較的非毒性の無機および有機酸との付加塩を意味する。これらの塩は、デクスメデトミジンの最終単離および精製工程中にその場で(in situ)調製するか、または別途、その遊離塩基形として精製されたデクスメデトミジンを適当な有機もしくは無機酸と反応させ、その後に、生成した塩を単離することによって調製することができる。さらに、塩は、噴霧製剤を製造する製造工程中でも形成することができる。代表的な薬学的に許容できる塩には、ハロゲン化水素酸塩(臭化水素および塩化水素を含む)、硫酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、2-ヒドロキシエチル硫酸塩、およびラウリルスルホン酸塩等が含まれる。例えば、“Pharmaceutical Salts(医薬品塩)”、 Berge et al., J. Pharm. Sci. 66, 1-19 (1977)を参照のこと。デクスメデトミジン塩酸塩は薬学的に許容できる塩の一例である。デクスメデトミジン塩酸塩の使用は、本明細書で記載した噴霧製剤中でのデクスメデトミジン自体の使用に適しているであろう、なぜならば、いくつかの場合、塩酸塩は大きな水溶解度と雰囲気酸素による酸化に対する安定性を有するからである。
【0019】
デクスメデトミジン誘導体はプロドラッグを生み出す共有結合性改変を含んでよい。投与に際して、プロドラッグ誘導体は哺乳類によってデクスメデトミジンを生じる化学修飾を受ける。プロドラッグはデクスメデトミジンの生体内分布もしくは薬物動態を好ましい方向に変えるために、または他の望ましい特徴を生み出すために用いることがでる。例えば、デクスメデトミジンの反応性窒素は、酵素的にもしくは非酵素的に、還元的に、酸化的にもしくは加水分解的に解裂されて活性な薬学的構成要素を発現させる様な官能基によって誘導体化されてよい。一定のタイプのプロドラッグが知られている(例えば、 R.B. Silverman, 1992, “The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action(医薬設計と医薬作用の有機化学)” Academic Press, Chp. 8を参照のこと)。例えば、化合物の最終単離および精製の間に、または精製された遊離塩基の形態にある化合物を別途、適当な誘導体化試薬と反応させて、プロドラッグをその場で(in situ)調製することができる。
【0020】
デクスメデトミジン噴霧組成物は1以上の薬学的に許容できる液体(約30%〜約 99.995% 重量基準)を含有する。これらの液体は、デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容できる塩またはその誘導体に対する溶媒、共溶媒または非溶媒であってよい。適切な物質は室温で液体であって、好ましくは、高められた圧力と同様に常圧でも室温で液体状態を保つ。有用な液体は、それが噴霧組成物の望ましい医薬用途を妨げず、且つ、それが治療的に有用な量のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できる塩もしくはその誘導体(例えば、デクスメデトミジン塩酸塩)を運ぶ限り、特に限定されるものではない。薬学的に許容できる液体の例としては、水、エタノール、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンカーボネート、薬学的に許容できる油(例えば、大豆、ヒマワリ、ピーナツなど)などを含む。薬学的に許容できる液体は医薬品有効成分を溶解するため、その安定な均一懸濁液を作成するため、または懸濁液もしくは溶液の何らかの組合せを形成するために選択される。
【0021】
上記の構成成分に加えて、デクスメデトミジンの舌下噴霧製剤は薬理学的に活性な医薬以外の1以上の不活性成分を含んでよく、不活性成分は製造工程に含まれるか、または完成した医薬製品投与形態に含まれる。不活性成分の例としては、粘度調節物質(例えば、ポリマー、糖、糖アルコール、ガム、粘度、シリカ、および同様なもの(例えば、ポリビニルピロリドン(PVP))(重量基準で、約0.01%〜約65%)を含む。不活性成分の他の例としては、保存剤(例えば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピルパラベン、およびメチルパラベン)(重量基準で、約0.001%〜約10%)が含まれる。不活性成分は、着香成分、甘味料(例えば、砂糖類(サッカロース、グルコース、デキストロース、マルトース、フラクトース、等)、人工甘味料(サッカリン、アスパルテーム、アセサルフェーム、シュクラロース)または糖アルコール(マンニトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトールシロップ)(重量基準で、約0.001%〜約65%)などであってもよい。不活性成分のさらに他の例としては、緩衝剤およびpH-調整剤(例えば、水酸化ナトリウム、クエン酸塩およびクエン酸)(重量基準で約0.01%〜約5%)が含まれる。着色剤(重量基準で、約0.001%〜約5%)、香料(重量基準で約0.001%〜約1%)、キレート化剤(例えば、EDTA)(重量基準で約0.001%〜約1%)、UV吸収剤(重量基準で約0.001%〜約10%)および消泡剤(例えば、低分子量アルコール類、ジメチコーン、シメチコーン)(重量基準で約0.001%〜約5%)が、中でも適切な不活性成分としての追加的な例である。
【0022】
デクスメデトミジン舌下製剤(噴霧剤、ドロップ剤等の様な)は、標準的な良き慣例に従い、前述の構成成分を適切な量で混合することにより作製することができる。その様な不活性成分は、患者もしくは被験者の受容性または味を改良するために、バイオアベイラビリティを改良するために、保存期間を長くするために、製造および包装コストを削減するために、政府規制機関の要求に対応するために、およびその他の目的のために製剤中に含有することが出来る。各構成成分の相対量は、得られる製剤の望ましい薬理的および薬物動態学的特性を妨げてはならない。
【0023】
本明細書に記載のデクスメデトミジンの鎮痛性舌下製剤は、 粘膜(例えば、哺乳類の口腔粘膜)への直接投与を目的としている。薬剤の送達は実質的に口腔粘膜経由で生じ、嚥下および引続いての胃腸管吸収経由によるのでない。用語“粘膜経由”は、粘膜を横切ってまたは通過しての送達を意味する。特に、薬物の“口腔粘膜経由”送達は、口、咽頭、喉頭、気管または上部胃腸管の如何なる組織、特に舌下、口腔、歯肉および口蓋面の粘膜組織を通っての送達を含む。
【0024】
用語 “舌下”は元来“舌の下”を意味し、消化管を経由して、と云うよりは、舌の下の血管を経由して物質が迅速に吸収される様に、口を経由して物質を投与する方法を指す。 舌下吸収は高度に血管が発達した舌下粘膜を経由して生じ、そのことは物質が血液循環に直接アクセスできるようにし、それによって、胃腸管の影響から独立し、且つ、望ましくない初回通過肝代謝を回避して直接全身投与を可能にする。他の投与と比較して、本製剤におけるデクスメデトミジンの経粘膜吸収は、高いバイオアベイラビリティを伴った著しく早い発現を生じることができる。従って、製剤中における医薬品有効成分の全量を減らすことができ、それによって有害な副作用の可能性を減らし、製造業者へのコストメリットを提供する。
【0025】
本製剤は、ヒトを含め、ヒトのペット動物(例えば、猫、犬)、農業用家畜および他の必要な動物も同様に、哺乳類に投与することができる。ヒト以外の動物への、錠剤、カプセル、シロップなどの、または注射可能な鎮痛製剤の通常の剤形での投与がしばしば問題となり、本明細書に記載の舌下噴霧製剤がその様な動物において特に有用であることが評価されるであろう。
【0026】
“鎮痛”は疼痛感覚の緩和または除去である。本明細書において、“疼痛”は広範な臨床症状を包含し、広い意味を有する。疼痛の知覚は高度に主体的であり、異なるヒト毎に異なった態様と大きく異なった強さで疼痛を経験する。国際疼痛研究学会は“疼痛”を、“現実のもしくは潜在的組織損傷を伴った、または、その様な損傷の用語で記述された、感覚的もしくは感情的な不快体験”と定義する。より単純に云えば、疼痛は、苦痛を生じ、自己の身体について不快な自覚を伴う何らかの知覚体験を包含する。疼痛の非限定的な形と原因には、神経痛、筋肉痛、感覚過敏、痛感過敏、神経炎および神経障害が含まれる。 疼痛はしばしば、内在する癌や関節炎の様な生理学的異常の兆候である。幾つかのタイプの疼痛には偏頭痛の様に、明確に特定された原因を持たないものがある。疼痛はまた火傷や手術の様な身体的外傷によって生ずることもある。ヘルペス帯状疱疹(水疱瘡および帯状疱疹)の様なウイルス感染もまた疼痛を生じることがある。アルコール依存症や薬物濫用からの撤退もまたしばしば疼痛の兆候を伴う。従って、本明細書に於いて、“疼痛”は非常に広範な意味を持つと理解され、その請求された用途が特定の疾病または状態に限定されると解釈されるべきではない。
【0027】
本明細書で用いる“鎮静”は、患者または被験者が独立して連続的に気道確保および規則的呼吸パターンを維持し、身体的刺激および言語命令に適切に且つ合理的に応答できる能力を保持している、低下した意識を意味する。本明細書で用いる“顕著な鎮静無しに”は、ラムゼイ鎮静等級(Ramsay Sedation Scale)上のレベル3より大きくない鎮静レベルを患者が経験することを意味し、換言すれば、患者はいずれかのレベル、即ち、レベル1= 心配な、興奮し、または落ち着きが無い;レベル2=協力的で、見当識があり、静謐である;またはレベル3=鎮静だが、命令には従う、のいずれかのレベルに在る。本明細書で用いる“顕著な鎮静”は、患者または被験者がラムゼイ鎮静スケールでレベル4以上の鎮静を経験することを意味し、ここで、レベル4=睡眠状態;光による眉間へのタップまたは大きな聴覚的刺激に対して瞬く応答;レベル5=睡眠状態;光による眉間へのタップまたは大きな聴覚的刺激に対して緩慢な応答;レベル6=睡眠状態;疼痛を伴う刺激に対して無応答。本明細書で用いる“顕著な鎮静”はまた、スタンフォード眠気等級(Stanford Sleepiness Scale)での患者の自己評価、即ち、被験者患者の鎮静度度合いがレベル3以上であるとの対象患者のランク付けとも整合性がある。ここで、レベル1=やる気がある、活発、頭がすっきりしている、はっきり目ざめている;レベル2=よく目ざめているが最良の状態ではない、物事に集中することができる;レベル3=ゆったりくつろいでいる、まあまあ目ざめており、物事に集中できる;レベル4=やや頭がボーっとして気がぬけている、横になりたい気分;レベル5=頭がボーっとしていて気が散りやすい、目ざめているのがむずかしい;レベル6=眠い、横になりたい、頭がぼんやりしている;レベル7=起きていられない、すぐに眠ってしまいそうだ、まどろんでいる。
【0028】
本明細書に記載のデクスメデトミジン舌下製剤は、他の疼痛治療薬と共投与されてよい。他の疼痛治療剤としては、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ、アセトアミノフェンおよび他のシクロオキシゲナーゼ阻害剤のような非ステロイド性
抗炎症薬(NSAIDS);コデイン、オキシコデイン、モルフィン、メタドンおよびフェンタニルの様なオピオイド;フェニトインおよびカルバマゼピンの様な鎮痙剤および抗不整脈剤;およびアミトリプチリン、イミプラミン、ベンラファクシン、クロニジンおよび他の活性α-2受容体作用性化合物のような抗鬱剤などである。その様な共投与は同時投与であってよく、デクスメデトミジンおよび他の疼痛治療薬は同時に投与される。それに代えて、本明細書に記載の舌下組成物の選択的に穏やか〜迅速に作用する性質である故に、患者はより長時間作用性の疼痛治療剤を規則的計画に乗って投与され、舌下噴霧デクスメデトミジンは日中、必要に応じて投与されまたは要求される時間毎に投与される。幾つかの場合、デクスメデトミジンによってもたらされる有益な相乗効果の故に、長時間作用性の疼痛治療剤の用量は減じられ、デクスメデトミジンは主要な薬理学的治療を補完する。特に、デクスメデトミジンはオピオイドの有効性を大いに強化することができ、同等の治療有用性を被持しつつ、必要とされるオピオイドの用量の削減を可能とする。
【0029】
デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容できる塩もしくはその誘導体の沈痛性舌下噴霧製剤(本明細書において、または他の舌下および/または口腔製剤)は、医薬品有効成分の予め設定された量が薬学的に有効な量で対象に投与することができるように、好ましくは計量された用量で提供される。例えば、舌下噴霧製剤は、計量ポンプが密着し、封止されている容器を有してなるポンプ噴霧システム中の多数回投与量を含有する原液としてパッケージされてよい。典型的には、ヒト患者は、噴霧ポンプからの1回以上の作動による様な舌下自己投与で治療することができる。本明細書における舌下噴霧送達例の利点は、単一で別々の作動を通して、必要とされる単一用量で患者を滴定する能力である。この利点は、全適応型(one-size-fits-all)用量が標準レジメンで投与される他の薬剤送達製剤(例えば、貼付剤、トローチ剤、錠剤および座剤)には典型的に欠けている。舌下噴霧製剤のさらなる利点は、その使用の容易性、特にヘルスケア専門家の不在時に自己投与する際の使用容易性である。
【0030】
ポンプ噴霧は作動用に外部圧力、例えば、手動、機械的または電気的に始動された圧力の適用、を必要とする点が特徴である。この点は圧縮系、例えば噴射剤駆動エアゾールまたは圧縮ガス噴霧とは対照的である。この圧縮系では、典型的には圧力の制御された解放、例えば、弁の制御された解放によって作動が達成される。或る態様において、本明細書において小さな平均直径および液滴の制御可能寸法分布を有する製剤の液滴または微粒子の投与用として認めるポンプ噴霧の使用としてポンプ噴霧は好ましい。他の態様において、圧縮噴射ガス(例えば、二酸化炭素、窒素、クロロフルオロカーボン、水素化フルオロアルカン、等)の貯蔵器を含む圧縮系が、非常に小さな直径を有していて投与によりヒトの肺に入り込む潜在力を持つ適切な微粒子または液滴を生成することができる。或る好ましい態様において、送達された液滴寸法は、例えば滴下器によって舌下に置かれたのとは反対に舌下に噴霧されることによって、さらに表面積の増加を来す。噴霧粒子の寸法および噴霧パターンの形状もまた、口腔粘膜以外の身体系(例えば、肺)中で活性医薬成分が吸収されるか否かに寄与し得る。
【0031】
噴霧ポンプデバイスは予め計量されているか、またはそれに代えて、デバイスがデバイス自身で計量(device-metered)されてよい。予備計量されたデバイスは、好ましくは予め測定された或るタイプの単位(例えば、溶液の単一単位用量、単一もしくは多重の水泡、または他の空洞)での用量または用量断片を含み、該単位は製造工程中で、または患者によって使用前にデバイス中に含めることができる。典型的なデバイス自身で計量された単位は、患者自身によって活性化された際に、デバイス自身による計量された噴霧として送達される多重回用量に十分な製剤を含有する容器を持つ。デバイスは、送達された医薬物質の量(即ち、作動単位あたりの用量)としても、各用量間の時間の長さとしても同様に、計量されてよい。各用量間の時間の制限は、どの位の頻度で用量が患者に送達されるかを制限することによって、過剰使用を防ぐことができる。
【0032】
製造上の配慮としては、用量の再現性、噴霧煙および微粒子/液滴寸法分布を含み、それはデクスメデトミジン、薬学的に許容できるその塩もしくはその誘導体の舌下での送達に影響を及ぼし得る。これらの因子の再現性を保持すること、および有効期間の期限を通して、患者の使用状態での寿命を通してデバイスの機能性(例えば、噴霧機構、電子的特徴、センサ、など)を保証することは重要なことである。と云うのは、これらの因子のいかなる変更も用量および吸収のばらつきを生じ、潜在的な副作用および減少した治療的有用性を導き得る可能性があるからである。
【0033】
噴霧製剤の投与された用量は、容器閉鎖系の構造、再現性および性能特性に依存し得る。所望の液滴/微粒子寸法分布を提供する適切なデバイスは、デクスメデトミジン製品の正しい性能のために重要な因子である。作動因子(例えば、力、速度、保持および戻り回数)もまた、デバイスに関して考慮されるべきである。さらに、デバイスは製剤化合物と両立すべきである。さらに、デバイスは、患者使用指針に従って使用されるときに、デクスメデトミジン、薬学的に許容できるその塩、もしくはその誘導体を含むデクスメデトミジン製剤の不完全計量を、過剰計量と同様に防止する様に設計されるべきである。
【0034】
典型的な噴霧送達デバイスは、基本ユニット、放出作動器、製剤がデバイスから放出されるオリフィス、および容器を含む。好ましくは、容器は患者へ配布する前に、例えば、製造場所で、医薬物質および他の不活性成分(例えば、本明細書の他の箇所で説明したように、液体媒体、香料、甘味料等)で充填されている。容器は、活性化によって放出されるべきデクスメデトミジン、薬学的に許容できるその塩またはその誘導体の測定された量を規定することが好ましい。容器本体は如何なる受容可能な材料であってよく、その製造が非常に簡単にできる様に、例えば、プラスチック、ステンレススチールの様なスチール、透明な材料または同様なものの筒状の空洞を仕切ることによって単純に形成されるものでよい。作動器は、放出を活性化するオリフィスに対して相対的に可動であるが、デバイス上に、またはデバイスと共に提供されてよい。作動作業の流れの中で、容器は、例えば、貫通によって開き、オリフィスを通して単一の用量を投与する。出発地点からの作動工程の一部の間に、上昇した圧力が形成される。同じ方向への引き続く作動作業の一部の中で、媒体が端部の一端で圧力から解放されてオリフィスへと連通する。そんな風に、媒体は圧力の作用によって、容器から押し出され、オリフィスを通過する。
【0035】
典型的には、液体製剤がオリフィスを離れるときに、液滴が、加える圧力によると同様に、オリフィス形状の影響を受ける軌道に従う。幾つかの態様において、液滴寸法、噴霧の幾何学的形状、および噴霧パターンが、ポンプの設計および/または製剤の特性に依存する。幾つかの態様において、作動器配列、ポンプ設計および製剤特性が噴霧の対称性および形状に影響するであろう。噴霧パターンはまたより広い通路上に分散させるべく最適化することができて、それによって表面積を増加させ、それを通して化合物が吸収されることができ、嚥下反射を低減することができる。噴霧デバイスはさら患者使用の容易さおよび投与された噴霧を口腔粘膜上の特定の領域へ配置することを促進するように設計することができる。
【0036】
前述の好ましい噴霧態様は、限定する目的ではない。本発明の実施において、デクスメデトミジン含有製剤は代替的にまたは追加的に、他の舌下および/または口腔用の両立し得る投与形態として提供することができる。例えば、滴下器または同様なデバイスでの投与と互換性のある液体として提供される舌下用液体が本発明者によって熟慮された。他の例としては、舌下製剤を、開封されたアンプルを患者の舌下で傾けて製剤の単一用量を送達できるようにした切り離し可能な(スナップオフ)頂点を持った薬学的に許容できる単位用量アンプルに充填することができる。
【実施例】
【0037】
以下のデクスメデトミジン舌下製剤は、表1に記載した成分を混合して調製した。各成分の相対量を、重量基準で記載した。
表1
【表1】

【0038】
表1に記載した製剤を、以下に記載したように哺乳類で試験した。表1中の3つの製剤の物理的特性を以下の表2に示した。
表2
【表2】

【0039】
研究目的は、5匹のビーグル犬(雄、各月齢は5〜8ヶ月および体重は7.5〜9.2 kg)の群において、表1および2に記載の異なる製剤の舌下噴霧投与に引き続き、デクスメデトミジンの薬物動態および絶対的バイオアベイラビリティの評価をすることである。動物に対する倫理的待遇は、米国農務省動物保護法(USDA Animal Welfare Act)(9 C.F.R., 第1、2および3章)の原則概要および実験動物に対する留意および使用のガイド(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals (ILAR publication, 1996, National Academy Press)に規定された条件に従い、動物および人類の健康管理への可能性とのバランスにおいて対象の福祉に当然の尊敬を払って行った。
【0040】
舌下投与には、噴霧適用を舌下の口腔中へポンプデバイスの一押し下げによって投与した。ポンプの適切な起動を確保するために、投与前に2回の作動を実施した。用量投与に続き、各対象動物から頸静脈の静脈穿刺によって以下のように連続的血液サンプルを採取した:舌下投与から 0 (前用量)、0.083、0.167、0.25、0.33、0.5、1、2および6時間経過後。全ての舌下投与量は何ら有害事象を示さなかった。舌下用量投与に引き続き、動物は全ての投与後の時間において正常な外観を呈した。K2EDTAを抗凝固剤として含むバキュティナ(vacutainer)チューブに血液サンプルを採取し、誘導された血漿サンプルを分析まで凍結保存した。
【0041】
対象重量、投与用量、臨床観察および血液サンプリング時間に基づくデータ解析の結果、デクスメデトミジンの舌下投与は、Cmax = 0.914 ng/mLおよびTmax = 20 分を有することが明らかになった。
【0042】
100μL当たり50μgのデクスメデトミジンを与える様に表3に記載の成分を混合することにより、デクスメデトミジンの以下の舌下製剤を調製した。各成分の量を重量 (g)により表す。得られた製剤はデクスメデトミジン0.05% (w/w)であった。
表3
【表3】

【0043】
表3中の2つの製剤の物理特性を、下記の表4に記載した。
表4
【表4】

【0044】
製剤は全て、医薬分野で周知の設備を用いて製造した。例示すれば、製剤試験 No.“33B”の製造には、以下の方法を用いた。各成分は雰囲気条件下で重量を測った(67°F〜72°F、相対湿度41%〜56%)。メチルパラベンおよびプロピルパラベンをアルコールに溶解し、得られた溶液を水の第一部に添加した。混合物をポビドンと一緒に、完全に溶解するまで攪拌した。デクスメデトミジン塩酸塩(粉末)を溶液に添加し、全ての粉末が溶解するまで攪拌した。次に、マルチトールシロップを添加し、溶液が見かけ上均一になるまで攪拌した。当初3.53であったpHを苛性ソーダを滴下してpHが6.99になるまで調製した。全部で5.7 gの苛性ソーダ溶液を添加した。十分な量の水、38.8 gを添加し、全量を1000 gとした。
【0045】
本明細書に記載した方法および組成物を評価するために、ヒト臨床試験を実施した。本明細書で、REC-09-001として言及した一つの実施例において、フェーズI、単回投与、3ウエイ交差試験を、24人の健常な男性および女性の対象(または、「被験者」)を含んで実施した。被験者を以下の製剤および用量を含む4つの治療群に分けた:1) 製剤 DEX-SL.01 = 50 μg (1 回のポンプ作動);2) 製剤 DEX-SL.01 = 100 μg (2回のポンプ作動); 3) 製剤 DEX-SL.02 = 50 μg* (1回のポンプ作動;および、4) 市販品 I.V. - 50 μg/10分間にわたり。
表5
【表5】

【0046】
上記表5はDEX-SL.03/.04に対する製剤を表し、DEX-SL.03 は投与のための50 μL噴霧ポンプを備えたこの製剤であり、DEX-SL.04はドロップとして全量100 μL(即ち 50 μg用量)を投与するこの製剤である。
【0047】
試験結果は、試験の第1期(交差前)において、かなりの数の被験者が投与後低血圧を経験した。以下の通りである:被験者R006 (100 μg) = およそ2分間の失神/めまい症状の発現;被験者R008 (50 μg IV) = 投与後およそ4時間の起立性低血圧;被験者R018 (50 μg IV) - IV(静注)生理食塩水治療を要した進行性の起立性低血圧、投与後5時間で解消;および被験者R021 (100 μg) =投与後1.25時間で低血圧発症、および、投与後4.5 hrsでIV(静注)生理食塩水治療を要した。全ての治療群で鎮静が観察され、50 μg舌下群に比べて、100 μg舌下群ではより高いレベルの鎮静が観察された。
【0048】
副作用および望ましくない程高いレベルの鎮静を含むこれらの観察を考慮して、本発明者らは第2期およびそれに続く試験期間の100 μg用量を削除した。さらに、50 μg i.v.用量を25 μg用量まで減らした。本発明者らはまた、係属中の1st 4時間における生命兆候測定を取り止め、各被験者に対する投与前グルコースアセスメントを追加した。3被験者を第2期前に除外した。以下の通りである:被験者R002は個人的理由から;被験者R003は第1期から経験した後遺症(AE)のため;および、被験者R024は、第2期での投与前徐脈ため。残りの被験者を次に、再ランダム化して全ての被験者が両方の50 μg製剤(舌下噴霧)を経験するようにした。第2期において、低血圧症が再度観察されたが、第1期より弱い程度であった。全ての治療群で鎮静もまた観察された。研究REC-09-001から得られた他の観察全てが、図1〜6と同様に、表中で説明されている。
【0049】
とりわけ図1〜6に示すように、研究REC-09-001においては、50 μg舌下製剤が約0.130〜約0.245 ng/mLの間のCmaxを達成し、100 μg舌下製剤(約0.299〜約0.574 ng/mLの間のCmax)より低い鎮静を示し、並びに、50 μgおよび25 μg I.V.製剤(それぞれ、1.14〜約1.72 ng/mLの間、および約0.496〜0.844 ng/mLの間のCmax)より低い鎮静を示した。さらに、全ての舌下製剤のTmaxは約60分の平均値を示し、一方、I.V.製剤は平均、約10分であった。
【0050】
他の実施例において、ヒト・フェーズ1臨床研究を実施したが、これをREC-09-004として参照する。この研究は、12健常被験者を含む、単回投与、3-ウエイ完全交差試験であった。デクスメデトミジンを含有する3製剤が含まれ、以下の通りである: 1) 古い製剤:DEX-SL.01 = 50 μg (噴霧 − 2作動が50 μg用量を送達するように、50 μLポンプで投与した); 2) 新製剤: DEX-SL.03 − 50 μg(噴霧 −2作動が50 μg用量を送達するように、50 μLポンプで投与した); および 3) 新製剤: DEX-SL.04 − 50 μg (ドロップ − 舌下に投与した)。しかしながら、この患者母集団からの薬物動態(“PK”)の結果は、研究REC-09-001の結果と比べて、整合性がないことが分かった。そこで、2つの追加的治療を加えて、追加データを提供し、2つの疑わしい変動因子、即ち、100 μL 対 50 μLポンプの使用、および口内pH、の可能性のある効果を評価した。この様にして、8 被験者が2つの追加的期間に試験を受けることができるようになった。:4) DEX-SL.01 − 50 μg(1作動で50 μg用量を与える様に、100 μLポンプで投与した);ならびに 5) DEX-SL.01 − 50 μg(口内pHの約8.0への緩衝に従った)。試験結果を図7〜14で説明する。図に示されているように、各製剤に対して、デクスメデトミジンの濃度は2時間以内にピークに至り、0.15 ng/mL未満のピークCmaxに達し、それから徐々に、しかしながら0.05を超えるCmaxを維持しながら、少なくとも5時間の時間を通じて低下した。
【0051】
他の実施例において、他のヒト・フェーズ1 臨床研究を実施した。これを本明細書では、 REC-09-003として参照する。この研究は、24人の慢性腰痛 (CLBP)患者を含んでいた; 12人は非オピオイド服用者で、他の9人はオピオイド服用者であった。研究を2部に分けた。第1部は疼痛状態における血圧、心拍数および鎮静効果を評価するべく計画し、また、腰痛の評価も含んでいた。第1部では、投与した製剤はDEX-SL.01 50 μg (50 μLポンプで投与した(2作動 = 50 μg用量))であった;プラセボと比較した。第2部は多数回投与(q. 6時間)の安全性、および付随的オピオイドとデクスメデトミジンの効果をも評価するために計画した。ここでも、投与した製剤はDEX-SL.01 50 μg (50 μLポンプで投与した(2作動 = 50 μg用量))であった。鎮痛効果は以下の様にして測定した: 1)視認可能なアナログスケール(範囲:0〜100)を含む疼痛強度スコア、ここで、0 は疼痛ナシを表し、100は想像し得る最悪の疼痛を表す;および 2) 疼痛緩和スコア、ここで、0は緩和ナシを表し、1は僅かな緩和を表し、2は穏やかな緩和を表し、3は多くの緩和を表し、4は完全な緩和を表す。
【0052】
研究REC-09-003の結果を図7〜20にグラフを使って説明する。これらの図は単回投与および多数回投与の薬物動態を集約的に説明する。図7は第1部での単回投与の薬物動力学を説明し、そこではオピオイドおよび非オピオイド患者群間の対応に何の相違も見られなかった。図8〜10に見られるように、疼痛強度の大きな相違が医薬製剤およびプラセボ製剤間に観察された。第1部にとって、図7は疼痛強度、鎮痛および疼痛緩和の観察された結果を説明している。図11は鎮痛に関して観察された結果を説明し、一方、図12〜14は安静時心拍数、安静時の収縮期血圧、および安静時の拡張期血圧をそれぞれに対する第1部観察を説明する。
【0053】
研究REC-09-003における鎮静に関しては、測定は研究者および患者の双方によって行われた。研究者の場合は、ラムゼイ(Ramsay)鎮静等級が以下の通り適用された:レベル1= 心配な、興奮し、または落ち着きが無い;レベル2=協力的で、見当識があり、静謐である;またはレベル3=鎮静だが、命令には従う;レベル4=睡眠状態;
光による眉間へのタップまたは大きな聴覚的刺激に対して瞬く応答;レベル5=睡眠状態;光による眉間へのタップまたは大きな聴覚的刺激に対して緩慢な応答;レベル6=睡眠状態;疼痛を伴う刺激に対して無応答。
【0054】
研究REC-09-003における被験患者に関しては、スタンフォード眠気等級が適用され、被験患者が自己の鎮静度合いを以下のように等級づけた:レベル1=やる気がある、活発、頭がすっきりしている、はっきり目ざめている;レベル2=よく目ざめているが最良の状態ではない、物事に集中することができる;レベル3=ゆったりくつろいでいる、まあまあ目ざめており、物事に集中できる;レベル4=やや頭がボーっとして気がぬけている、横になりたい気分;レベル5=頭がボーっとしていて気が散りやすい、目ざめているのがむずかしい;レベル6=眠い、横になりたい、頭がぼんやりしている;レベル7=まどろんでいる、起きていられない、すぐに眠ってしまいそうだ、夢見心地だ。
【0055】
とりわけ、ラムゼイ鎮静等級上、全ての被験者がベースラインおよび12時間で“2”と等級付けされ、達成されたピーク鎮静では、DEX-SL.01被験者の43%が2時間でレベル3とランク付けされた。特に、ただ一人のDEX-SL.01被験者がどんな時にもレベル3を超えてランク付けされた。スタンフォード眠気等級上での被験者の自己アセスメントに関しては、全ての被験者がベースラインでレベル3以下にランク付けした。2時間で3以上の自己ランク付けで表される様に、DEX-SL.01患者の69%にピーク眠気が体験された。
【0056】
研究REC-09-003の第2部において、製剤の多数回投与の効果が評価された。図15〜19で説明されているように、q.6時間での製剤DEX-SL.01の薬物動態および多数回投与の効果は、オピオイドおよび非オピオイド患者被験者間で同様であって、ピーク血中濃度が約1〜約2時間の間および約7〜約7.5時間の間で再び生じた。特に、血中濃度は、投与後約5時間、0.05 ng/mLより高く保持され、単回投与薬物動態のプロファイルに強い類似性を示すプロファイルを伴った。図16に示されるように、q. 6時間の多数回投与レジメンの疼痛強度も評価された。疼痛強度のピーク減少が、各投与後おおよそ2時間で起こり、図15の薬物動態に示されたCmaxピークと本質的に整合した。同様に、図17〜19に示された様に、安静時心拍数、安静時の収縮期血圧および安静時の拡張期血圧に及ぼす多数回投与の効果が評価され、ピーク変化は各投与のピークCmaxと一致して起こっていた。血圧パターン/スパイクの回復は、図17に示すように、第二投与(q. 6時間後直ぐに)と時々関連していた。
【0057】
本明細書は例示的態様を参照して記述されているが、本発明の範囲から外れることなく、多様な変化が可能であり、且つ、等価物は変化の要素で置換することができると云うことが、当業者には理解し得るであろう。加えて、本発明の本質的範囲から離れることなく、 特定の状況や物質を本明細書の教示に適用するべく多くの改変を加えることができる。また、明細書には例示的態様が開示され、および、特有の用語が適用されたにも拘わらず、その用語は、他に記述されない限り、一般的および記述的意味でのみ用いられており、限定的目的ではなく、特許請求の範囲は、それ故に、限定されたものではない。さらに、本明細書で議論された方法の幾つかの工程は交互に連続していてもよく、または工程が結合されていてもよいと云うことを当業者なら理解するであろう。従って、本願の請求項は、本明細書で開示された特定の態様に限定されないということを意図している。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛を治療または予防する方法であって、
ヒトの口腔粘膜に、薬学的に許容できる液体媒体中のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩の用量を含有する医薬組成物を適用する工程を含んでなり、
該デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩が該口腔粘膜を通して吸収されて、鎮静なしに鎮痛を生ずる方法。
【請求項2】
該デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩の該用量が約0.05μg/kgおよび約1.50μg/kgの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ヒトが成人であり、該デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩の該用量が約5μgおよび約50μgの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
経粘膜吸収による該ヒトの全身循環系中のデクスメデトミジンの血漿中Cmaxが約0.30ng/ML未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該適用工程が該ヒトの口腔へ該医薬組成物を舌下的にまたは口内的に適用することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該適用工程が該医薬組成物のドロップを該ヒトの該口腔粘膜へ適用することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該医薬組成物を該ヒトの口腔中へ噴霧することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該医薬組成物を適用直後の1時間の間、安静時平均動脈血圧が約20 mmHgを超えない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該医薬組成物を適用直後の1時間の間、該ヒトは目覚めており、命令に従うことができ、該ヒトは機敏で見当識がある、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩が1以上の他の鎮痛剤と一緒に共投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該1以上の他の鎮痛剤では制御不十分な激痛を、該医薬組成物が間欠的に治療するものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該医薬組成物が、該ヒトによって自己投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該医薬組成物が介護人によって該ヒトに投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該疼痛が突発性疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
該突発性疼痛が、神経痛、筋肉痛、痛感過敏、神経炎および神経障害からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(原文に記載なし)
【請求項17】
該疼痛が、癌、ウイルス感染、身体外傷、関節炎、頭痛または腰痛と関連し若しくは引き起こされたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
該身体外傷が、手術、火傷または鈍器損傷と関連し若しくは引き起こされたものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
疼痛を治療または予防する方法であって、
薬学的に許容できる液体媒体中のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはプロドラッグを含有する医薬組成物を哺乳類の粘膜に適用する工程を含んでなり、
該デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはプロドラッグは該粘膜を経由して吸収され、および鎮静なしに鎮痛を生ずる方法。
【請求項20】
疼痛を治療または予防する方法であって、
デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはプロドラッグを含有する全身的に吸収される医薬組成物を、投与によって該哺乳類の疼痛を治療または予防するために有効な量で哺乳類の口腔粘膜に投与する工程を含んでなり、
該医薬組成物は、投与から1時間以内に、鎮静なしに鎮痛効果を生ずる速度で該哺乳類の全身循環系中へデクスメデトミジンの生理的に活性な量を提供する方法。
【請求項21】
薬学的に許容できる液体媒体中のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはプロドラッグを含んでなる鎮痛剤医薬組成物であって、該医薬組成物は、該鎮痛剤医薬組成物を該哺乳類の粘膜へ適用することによって哺乳類への経粘膜投与用に構成され適合されている、鎮痛剤医薬組成物。
【請求項22】
該鎮痛剤医薬組成物は、該哺乳類の舌の下方粘膜へ該組成物を適用することによって舌下投与用に構成され適合されている、請求項21に記載の鎮痛剤医薬組成物。
【請求項23】
該鎮痛剤医薬組成物は、該組成物を該哺乳類の口腔粘膜へ適用することによって口腔投与用に構成され適合されている、請求項21に記載の鎮痛剤医薬組成物。
【請求項24】
該鎮痛剤医薬組成物は、該組成物のドロップを該哺乳類の口腔粘膜へ適用することによって経粘膜投与用に構成され適合されている、請求項21に記載の鎮痛剤医薬組成物。
【請求項25】
該鎮痛剤医薬組成物は、該組成物の噴霧を該哺乳類の口腔粘膜へ適用することによって経粘膜投与用に構成され適合されている、請求項21に記載の鎮痛剤医薬組成物。
【請求項26】
該薬学的に許容できるデクスメデトミジンの塩がデクスメデトミジン塩酸塩であり、該液体媒体が該デクスメデトミジン塩酸塩の水性溶液である、請求項21に記載の鎮痛剤医薬組成物。
【請求項27】
該鎮痛剤医薬組成物は分配デバイスに収納されている、請求項21に記載の鎮痛剤医薬組成物。
【請求項28】
疼痛を治療しまたは予防する器具であって、該器具が
薬学的に許容できる液体媒体中のデクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩を含有する鎮痛剤医薬組成物、および
該鎮痛剤医薬組成物を収容しおよび分配する分配デバイスを含んでなる器具。
【請求項29】
該鎮痛剤医薬組成物の約25μLおよび約200μLの間の単位用量を分配するように構成されている、請求項28に記載の器具。
【請求項30】
該鎮痛剤医薬組成物の約50μLおよび約100μLの間の単位用量を分配するように構成されている、請求項28に記載の器具。
【請求項31】
該器具が、デクスメデトミジンまたは薬学的に許容できるその塩もしくはプロドラッグの約5μLおよび約50μLの間の単位用量を分配するように構成されている、請求項28に記載の器具。

【公表番号】特表2012−526854(P2012−526854A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511068(P2012−511068)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/035136
【国際公開番号】WO2010/132882
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511276057)レクロ・ファーマ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】RECRO PHARMA, INC.
【Fターム(参考)】