説明

デバイスウエハの研磨パッド及び研磨装置

【課題】研磨パッドの着脱、交換が容易であり、また、電気的接続の安定性に優れた電気化学的機械的研磨用の研磨パッド及び研磨装置を提供する。
【解決手段】デバイスウエハ(D)の導電体層(D1)に接触した状態で導電体層(D1)に対して、回転移動する機械的研磨層(62)と、機械的研磨層(62)が導電体層(D1)に接触した状態で、導電体層(D1)に当接するアノード電極(63)に電力を伝達し、導電体層(D1)に電解セル(C)のアノードを形成するアノード電力伝達部(63)と、アノード電力伝達部(63)の縁部の一部をこの研磨パッド(60)の側面から突出させて形成され、回転テーブル(51)に設置されたアノード電力中継部(54)に電気的に接続されるアノード電力接続部(63a)とを、デバイスウエハ用の研磨パッドに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスウエハの導電体層を電気化学的機械的に研磨する研磨パッド及び研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置(半導体デバイス)は、高集積化、微細化に伴って、配線の積層化が行われている。配線の積層化の方法としては、半導体ウエハの表面に配線をパターン形成し、この上を酸化シリコン等の絶縁物で覆い、次の配線をパターン形成し、これを順次繰り返すプロセスが採用されている。
配線をパターン形成するプロセスは、反応性イオンエッチング等によってプラグ用ホールと配線溝とを酸化シリコン等の絶縁物(以下、層間絶縁膜)に形成し、この上に銅めっきによってプラグ用ホールと配線溝とを銅配線材で同時に埋め込んで導電体層を形成する。その後、導電体層表面の余分な銅を化学的機械的研磨(CMP)によって除去し平坦化して配線を形成するいわゆるダマシン方法が採用されている。
【0003】
近年、デバイスの低消費電力化及び高速化の目的で、層間絶縁膜に低誘電率材料(いわゆるLow−k材料)の導入が検討されている。この低誘電率材料は、機械的強度や化学的安定性に乏しく、CMPにおける回転数や研磨圧力に依存する摩擦力によって、導電体層が層間絶縁膜から剥離することがあるため、研磨圧力を極端に低下させて研磨する超低圧研磨方法が検討されてきた。
【0004】
ところが、この超低圧CMPは、研磨レートの低下と研磨レートのウエハ面内均一性の劣化の問題があるため、CMPに代わって、電解研磨方法や電気化学的機械的研磨方法及び研磨パッドが提案されている。
【0005】
電解研磨方法や電気化学的機械的研磨方法では、ウエハ基板の導電体層に直流電力を通電する必要があり、ウエハ基板と研磨パッド(プラテン)が共に回転しているため、回転系の外部に設置された電源装置と回転しているウエハ基板との電気的な接続には、摺動接続が利用される。
摺動接続の例として、特許文献1には、ウエハ基板の外周と直接摺動する摺動接続電極を利用する例が示されている。しかし、特許文献1の開示例では、ウエハ基板の外周と回転系の外部の静止した電源電極を直接摺動させるため、全面クリアやウエハ基板周辺の傷の問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、パッド内に電極を分散させてウエハ基板と電極を摺動接続し、パッド内に設置した電極のリードをパッドの外側面に露出させて、直流電源の電極とをパッドの外側面で摺動接続する例が示されている。しかし、特許文献2の開示例では、摺動電極を設置するスペースが小さく、摺動による電気抵抗の変化や火花放電の発生など安定して通電するうえでは問題がある。
【0007】
特許文献3には、パッド内に電極を分散させてウエハ基板と電極を摺動接続し、リード(配線)を回転テーブルの軸を経由してスリップリングを介して直流電源と接続する例が示されている。しかし、特許文献3の開示例は、研磨パッドの交換が容易でない問題がある。
【特許文献1】Patent No.US5911619号公報
【特許文献2】Patent No.US6893328号公報
【特許文献3】PUB.No.US2003/0212703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、研磨パッドの着脱、交換が容易であり、また、電気的接続の安定性に優れた電気化学的機械的研磨用の研磨パッド及び研磨装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施例に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0010】
請求項1の発明は、回転テーブル(51)の上に設置され、電解液(E)を収容する複数の電解液収容部(F)と、前記電解液収容部の底部に形成されたカソード電極(66)と、デバイスウエハ(D)の導電体層(D1)に接触するアノード電極(61)とを有し、前記導電体層を前記電解液収容部の前記電解液の液面に接触させ、前記カソード電極と前記アノード電極とに電圧を印加することにより複数の電解セル(C)を形成し、前記導電体層を電気化学的機械的に研磨する研磨パッド(60)であって、前記導電体層に接触した状態で前記導電体層に対して、回転移動する機械的研磨層(62)と、前記機械的研磨層が前記導電体層に接触した状態で、前記導電体層に当接する前記アノード電極に電力を伝達し、前記導電体層に前記電解セルのアノードを形成するアノード電力伝達部(63)と、前記アノード電力伝達部の縁部の一部をこの研磨パッドの側面から突出させて形成され、前記回転テーブルに設置されたアノード電力中継部(54)に電気的に接続されるアノード電力接続部(63a)と、を備えていること、を特徴とするデバイスウエハ用の研磨パッドである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のデバイスウエハの研磨パッドにおいて、前記電解液収容部(F)の底部の前記カソード電極(64)と一体で形成されるカソード電力伝達部(64)と、前記カソード電力伝達部の縁部の一部をこの研磨パッド(60)の側面から突出させて形成され、前記回転テーブル(51)に設置されたカソード電力中継部(55)に電気的に接続されるカソード電力接続部(66a)とを備えていること、を特徴とするデバイスウエハ用の研磨パッドである。
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のデバイスウエハ用の研磨パッドにおいて、前記アノード電力接続部(63a)及び前記カソード電力接続部(66a)の少なくとの1つは、さらに回転テーブル(51)側に折り曲がるように形成されていること、を特徴とするデバイスウエハ用の研磨パッドである。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のデバイスウエハ用の研磨パッド(60)を載置する回転テーブル(51)を有する研磨装置(50)であって、前記回転テーブル(51)の側面に設けられ、前記研磨パッド(60)の前記アノード電力接続部(63a)と直流電源(53)のアノード用ケーブル(543)とを電気的に接続するアノード電力中継部(54)を備えること、を特徴とするデバイスウエハ用の研磨装置である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4に記載のデバイスウエハ用の研磨装置であって、前記回転テーブル(51)に設けられ、前記研磨パッド(60)の前記カソード電力接続部(63a)と直流電源(50)のカソード用ケーブル(553)とを電気的に接続するカソード電力中継部(55)を備えること、を特徴とするデバイスウエハ用の研磨装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明は、アノード電力接続部が研磨パッドの側面から突出するように設けられ、回転テーブルのアノード電力中継部に電気的に接続されるので、回転テーブルへの着脱が容易であり、パッド交換を簡便に行うことができる。
【0015】
(2)本発明は、カソード電力伝達部が研磨パッドの側面から突出するように設けられているので、回転テーブルが導電性を有さないために、カソード電力伝達部と回転テーブルのアノード電力中継部とを接続する場合にも、パッド交換を簡便に行うことができる。
【0016】
(3)本発明は、アノード電力接続部及びカソード電力接続部の少なくとの1つが回転テーブル側に折り曲がるように形成されているので、例えばねじ止め等により、回転テーブルとの接続を行うことができる。
【0017】
(4)本発明は、アノード電力中継部が回転テーブルの側面の凹部に設けられているので、電解液がアノード電力中継部にかかることを防止して、アノード電力中継部の電気分解等による腐食等を防止することができる。また、アノード電力中継部が回転テーブルと一体で回転するので、電極がパッド外部から導電体層に摺接することがないため、導電体層の損傷を防止することができ、また電気的接続の安定性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、研磨パッドの着脱、交換が容易であり、また、電気的接続の安定性に優れた電気化学的機械的研磨用の研磨パッド及び研磨装置を提供するという目的を、デバイスウエハの導電体層に接触した状態で導電体層に対して、回転移動する機械的研磨層と、機械的研磨層が導電体層に接触した状態で、導電体層に当接するアノード電極に電力を伝達し、導電体層に電解セルのアノードを形成するアノード電力伝達部と、アノード電力伝達部の縁部の一部をこの研磨パッドの側面から突出させて形成され、回転テーブルに設置されたアノード電力中継部に電気的に接続されるアノード電力接続部とを、デバイスウエハ用の研磨パッドに備えることにより実現した。
【実施例】
【0019】
次に、図面等を参照しながら、本発明の実施例を説明する。
最初に、本実施例の研磨装置50の概略について説明する。
図1は、本実施例の研磨装置50及び研磨パッド60の斜視図である。研磨装置50は、プラテン・ロータリ型の一組のプラテン/ヘッドであり、通常は、化学的機械的研磨(CMP)に用いられる装置である。
研磨装置50は、プラテン51と、研磨ヘッド52と、電源53(電力供給部)と、アノード電力中継部54と、カソード電力中継部55と、スリップリング56と、ノズル57とを備えている。
【0020】
プラテン51は、研磨パッド60を載置して、鉛直方向の軸Z1回り(矢印θ1方向)に回転する円盤状の部材である。プラテン51は、導電性を有する金属等や、導電性を有さないセラミック等により形成される。本実施例では、導電性を有さない例を説明する。
研磨ヘッド52は、図中下側の面に、デバイスウエハDを装着し、鉛直方向の軸Z2回り(矢印θ2方向)に回転する円盤状の部材である。研磨ヘッド52には、デバイスウエハDがその導電体層D1が図中下側になるように装着される。
【0021】
電源53は、電気化学的研磨(ECP)を行う電解セル(electrolytic−cell)を形成するための電力を供給する装置である。電源53は、後述する電解セルC(図4参照)に電力を供給する。供給する電力は、一般的には直流電力であるが、電力波形は、パルス状であってもよい。また、供給する電力は、直流成分があればプラスとマイナスに変動する交流電力であってもよい。
【0022】
アノード電力中継部54は、スリップリング56を介して電源53のプラス端子に接続されており、電源53の電力をアノード電極61(図4参照)に供給する。
カソード電力中継部55は、スリップリング56を介して電源53のマイナス端子に接続されており、電源53の電力を導電性シート層66(図4参照)に供給する。
スリップリング56は、プラテン51の回転軸と同軸に回転可能に設置された部品である。スリップリング56は、プラテン51の外部の電源53からプラテン51に、プラテンが回転した状態で電力を伝達することができる。
なお、プラテン51と研磨パット60との電気的接続部分の構成の詳細は後述する。
【0023】
ノズル57は、研磨パッド60よりも上方に配置されている。ノズル57は、研磨時に研磨パッド60の研磨面に電解液Eを放出して、研磨パッド60の電解液収容部F(図2参照)に電解液Eを供給する。
電解液Eには、クエン酸などの有機電解液または、リン酸などの無機酸、硫酸銅などの塩を主成分とした電解質水溶液が使用でき、保護膜形成剤や研磨砥粒、酸化剤などを含ませることができる。
【0024】
上述のような構成によって、研磨装置50は、電解液Eを供給しながら、デバイスウエハDと研磨パッド60とを接触させ、プラテン51及び研磨ヘッド52からなる相対移動部を回転して、デバイスウエハDと研磨パッド60とを相対移動させる。これにより、通常CMPに用いられる研磨装置50は、研磨パッド60を取り付けることにより、導電体層D1の電気化学的機械的研磨(eCMP)を行ない、デバイスウエハDの配線形成を行うことができる(eCMPのプロセスについては後述する)。
【0025】
次に、研磨パッド60の構成等について説明する。
図2は、本実施例の研磨パッド60の平面図(上面図)である。
図3は、本実施例の研磨パッド60の断面図であり、図3(a)は、図2のA−A部矢視断面図、図3(b)は、図2のB−B部矢視断面図である。なお、各図は、研磨パッド60の各層の構成を分かりやすくするために、厚みを強調して示す。
図2、図3に示すように、研磨パッド60は、電解液Eを収容するための複数の電解液収容部Fが設けられた円盤状のパッドである。研磨パッド60は、複数のアノード電極61が設けられ、また、研磨部材層62(機械的研磨層)と、導電性部材層63(アノード電力伝達部)と、絶縁層64と、導電性シート層66(カソード電力伝達部)とが上側からこの順に積層されている。
【0026】
アノード電極61は、デバイスウエハDの導電体層D1に当接することにより、導電体層D1に対して電気的に導通され、導電体層D1にアノードを形成する円柱状の部材である(図4参照)。アノード電極61は、導電体層D1に当接したときに、導電体層D1を損傷しないように、導電体層D1を形成する銅よりも硬度が低い材料から形成される。
アノード電極61は、その表面が研磨部材層62の表面よりも所定量(例えば、0.5mm以下)突出するように設けられ、また、その下面が後述する導電性部材層63にすることにより、導電性部材層63に導通される。アノード電極61は、後述するように弾性材料から形成された絶縁層64により、鉛直方向(導電体層D1に当接する方向)に移動可能に支持される。
【0027】
アノード電極61の材料としては、金属(金、白金、チタン合金、銅、ステンレス鋼等)や、炭素素材(カーボンを主成分とした炭素繊維、黒鉛繊維、黒鉛、アモルファスカーボン、合成樹脂との複合炭素素材、エラストマ材との複合炭素素材、合成樹脂との複合黒鉛の内いずれか1つ、又はそれらの組み合わせ等)等が挙げられる。
【0028】
研磨部材層62は、デバイスウエハDの導電体層D1に押圧した状態で回転移動することにより、導電体層D1の表面に形成された保護膜(後述する)を機械的に除去するための部材である。研磨部材層62は、研磨装置50のプラテン51と研磨ヘッド52(図1参照)とが回転運動することにより、デバイスウエハDに対して回転移動する。研磨部材層62は、円盤状の部材であり、図3に示すように、アノード電極61を設けるための貫通孔62aと、電解液収容部Fを形成するための貫通孔が設けられている。
【0029】
研磨部材層62は、非金属であり絶縁性のあるウレタン系の材料(発泡構造のポリウレタン材、溝付発泡構造のポリウレタン材、クッション層を有する発泡構造のポリウレタン材等)、又は研磨部材がシリカ(酸化シリコン)砥粒が固定された固定砥粒研磨部材等から形成される。研磨部材層62の材料は、前述した非金属材料に熱硬化性樹脂又はエラストマ材を含浸させたものを使用することもできる。この場合、熱硬化性樹脂又はエラストマ材は、研磨砥粒を分散させて使用するのが、導電体層D1の表面粗さを減少させ、鏡面に研磨できることから好ましい。
また、研磨部材層62は、前述した非金属材と研磨砥粒を含有するシートとを、研磨面に垂直に交互に配列するようにしてもよい。この砥粒は、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、炭化ケイ素、炭化ホウ素及び合成ダイヤモンド粉体の単独若しくは二種類以上を使用することができる。
【0030】
導電性部材層63は、研磨装置50のアノード電力中継部54(図1参照)とアノード電極61とを導通させ、電源53(図1参照)の電力を伝達するための部材である。導電性部材層63は、円盤状に形成され、研磨部材層62の下層に積層されている。導電性部材層63は、アノード電極61を下面から支持することにより、アノード電極61に対して電気的に接続される。導電性部材層63は、電解液収容部Fを形成するために、研磨部材層62の貫通孔に連通した貫通孔が設けられている。
【0031】
導電性部材層63は、プラテン51のアノード電力中継部54(図1参照)に電気的に接続される2つのアノード電力接続部63aを有している。
2つのアノード電力接続部63aは、導電性部材層63に均一に電流を流せるように、180度間隔で配置されている。2つのアノード電力接続部63aは、導電性部材層63の外縁部をDカット、すなわち外縁部を外周の接線に平行に切断した辺63dに設けられている。アノード電力接続部63aは、研磨パッド60の外周の側面、すなわち辺63dから突出するように設けられている。
アノード電力接続部63aは、アノード電力中継部54に接続できるように、さらにプラテン51側(図1参照)に90度折り曲がるように形成された折り曲げ部63bを有している。この折り曲げ部63bには、アノード電力中継部54にねじ止めするための2つの貫通孔63c(図5参照)が設けられている。
【0032】
導電性部材層63は、金属等の低抵抗材料(金、銅、白金、チタン合金、ステンレス鋼、カーボン等)、又は炭素素材(カーボンを主成分としたアモルファスカーボン、炭素繊維、黒鉛繊維、黒鉛、合成樹脂との複合炭素材、合成樹脂との複合炭素材等)等から形成される。
【0033】
絶縁層64は、アノード電極61、導電性部材層63と、後述する導電性シート層66との間を電気的に絶縁するための絶縁部材であり、円盤状に形成され、導電性部材層63の下層に積層されている。絶縁層64は、電解液収容部Fを形成するために、導電性部材層63の貫通孔に連通した貫通孔が設けられている。
絶縁層64は、アノード電極61を鉛直方向に移動可能に支持するために、エラストマ材等の弾性材料から形成される。なお、絶縁層64は、研磨パッド60の剛性を向上するために、弾性材料と剛性の高いポリカーボネイト等のシート材との積層構造にしてもよい。
【0034】
導電性シート層66は、研磨装置50のカソード電力中継部55(図1参照)と接触導に電気的に接続されることにより、直流電源53(図1参照)に対して電気的に接続されるシート部材である。これにより、導電性シート層66は、電解液収容部Fに電解液が収容されたときに、アノードであるデバイスウエハDの導電体層D1の対極となるカソードを、電解液収容部Fの底部に形成する。導電性シート層66は、円盤状に形成され、絶縁層64の下層に積層されている。導電性シート層66は、図3に示すように、絶縁層64の貫通孔を下側から塞ぐことにより、電解液Eを収容する電解液収容部Fの底部を形成する。
【0035】
導電性シート層66は、研磨パッド60の外周の側面から突出するように設けられ、プラテン51のカソード電力中継部55(図1参照)に電気的に接続される2つのカソード電力接続部66aを有している。
2つのカソード電力接続部66aは、導電性シート層66に均一に電流を流せるように180度間隔で配置される。また、カソード電力接続部66aは、導電性部材層63のアノード電力接続部63aとは90度離間して配置される。
カソード電力接続部66aは、アノード電力接続部63aと同様な構成であり、辺66dから突出するように設けられている。また、カソード電力接続部66aは、折り曲げ部66bと、カソード電力中継部55にねじ止めするための2つの貫通孔66c(図5参照)が設けられている。
【0036】
導電性シート層66は、導電性を有し、電解液Eに対して不溶性のある材料であれば金属、非金属を問わず使用することができる。このような材料としては、金、白金、チタン合金なども使用できるが、経済的見地から、カーボン、黒鉛、ステンレス、銅等が好ましい。
なお、研磨パッド60のプラテン51への固定は、導電性シート層66とプラテン51とを粘着テープ67等により貼付することにより行う。
【0037】
次に、研磨パット60が電解セルCを形成して、デバイスウエハDの導電体層D1を研磨する原理について説明する。
図4は、本実施例の研磨時において、研磨パッド60とデバイスウエハDとが、電解セルCを形成する状態を拡大して示す縦断面図である。
図4に示すように、研磨時において、電解液収容部Fは、その内部が電解液Eによって満たされ、また、その開口部がデバイスウエハDの導電体層D1によって蓋をされた状態になるので、電解液Eの液面と導電体層D1とが接触する。導電体層D1は、電源53(図1参照)のプラス端子に対して、電気的に接続されているため、電圧が印加されるとアノードとなる。一方、導電性シート層66は、電源53のマイナス端子に対して、電気的に接続されているため、電圧が印加されるとカソードとなる。これにより、アノード及びカソードと、これらに挟まれ電解液Eが満たされた電解液収容部Fとによって、電解セルCが形成される。
導電体層D1がアノードとなることにより、導電体層D1を形成する銅は、「Cu→Cu2++2e」による電気化学反応によって溶解、除去される。導電体層D1の溶解、除去が進行すると、導電体層D1に保護膜、すなわち不働態皮膜が形成されるが、この不働態皮膜は、研磨部材層62により瞬時に機械的に除去される。導電体層D1は、このような表層の溶解、除去と、不働態皮膜の形成と、不働態皮膜の機械的除去とが、瞬時に繰り返し行なわれることにより、電気化学的機械的に研磨される。
【0038】
次に、プラテン51と研磨パット60との電気的接続部分の構成について説明する。
図5は、本実施例のプラテン51の斜視図である。
プラテン51は、外周の側面を窪ませた4つの凹部が90度間隔で設けられている。この4つの凹部に、アノード電力中継部54とカソード電力中継部55とが、交互に配置される。つまり、2つのアノード電力中継部54が180間隔で配置され、2つのカソード電力中継部55が180度間隔で配置され、アノード電力中継部54とカソード電力中継部55とは、90度離間している。
【0039】
アノード電力中継部54は、基台541と導電板542とを備え、アノード用ケーブル543を介してスリップリング56に電気的に接続されている。
基台541は、アノード電力中継部54の基礎となる部品であり、プラテン51に固定されている。なお、プラテン51が導電性の部材である場合には、カソード電力中継部55と電気的に絶縁するために基台541は絶縁材により形成される。
導電板542は、基台541の上に固定された導電性を有する板材である。導電板542は、アノード用ケーブル543の終端に設けられた接続端子543aがねじ止めされており、アノード用ケーブル543に電気的に接続される。
【0040】
基台541及び導電板542には、アノード電力接続部63aの貫通孔63cに挿入された2つのねじ544が螺合する2つのねじ穴542cが設けられている。これにより、基台541及び導電板542と、アノード電力接続部63aとがねじ止めされ、また、導電板542とアノード電力接続部63aとが電気的に接続される(図1参照)。なお、ねじ止めする場合には、アノード電力接続部63aに座金545を重ねてねじ止めすることが望ましい。座金545を用いることにより、アノード電力接続部63aの厚みが薄い場合(例えば0.01mm以下の場合)にも、ねじ544の座面との摩擦によるアノード電力接続部63aの破損を防止することができるからである。
このように、アノード電力接続部63aが研磨パッド60の側面から突出するように設けられ、プラテン51のアノード電力中継部54に対してねじ結合することにより、研磨パッド60のプラテン51への着脱を容易に行うことができる。これにより、パッド交換を簡便に行うことができ、研磨工程における工数削減が可能である。
【0041】
アノード用ケーブル543は、スリップリング56からプラテン51の裏面を這うように配置されている。アノード用ケーブル543は、銅等の導電性の線材を、絶縁材により被覆したケーブルである。前述したようにアノード用ケーブル543の終端には、導電板542に接続するための接続端子543aが設けられている。
【0042】
カソード電力中継部55は、アノード電力中継部54と同様な構成であり、基台551と導電板552とを備え、カソード用ケーブル553を介してスリップリング56に電気的に接続されている。
基台551及び導電板552には、2つのねじ穴552cが設けられ、基台551及び導電板552と、カソード電力接続部66aと、座金555とが、ねじ554によってねじ止めされる。
カソード用ケーブル553の終端には、導電板552に接続するための接続端子553a設けられている。
上記構成により、研磨装置50は、アノード用ケーブル543及びカソード用ケーブル553にねじれを生じさせることなく、プラテン51を回転駆動することができる。
【0043】
以上説明したように、アノード電力中継部54が回転テーブルの凹部に設けられているので、電解液Eがアノード電力中継部54にかかることを防止して、アノード電力中継部54の電気分解等による腐食等を防止することができる。特に、アノード用ケーブル543の終端に露出した銅線の効率的な腐食防止をすることができる。
また、アノード電力中継部54及びカソード電力中継部55が、プラテン51と一体で回転するので、導電体層D1に研磨パッド60の外部から電極等を摺接させる必要がないため、導電体層D1の損傷を防止することができ、さらに、電気的接続の安定性を向上することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例に限定されるものではない。また、実施例に記載した効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施例に記載したものに限定されない。なお、上述した実施例及び後述する変形例は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0045】
(変形例)
以上、説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施例では、接続部は予めプラテン側に折り曲げられている例を示したがこれに限定されず、取り付け時に折り曲げるようにしてもよい。この場合、取り付け前に研磨パッドを運搬する時等に、かさばらないので取り扱いがしやすい。
【0046】
(2)本実施例では、プラテンが絶縁部材により形成される例を示したが、これに限定されない。プラテンは、導電性の金属等により形成されてもよい。この場合、カソード用ケーブルをプラテンに接続し、導電性シート層とプラテンとを導電性を有する粘着テープで貼付することにより、導電性シート層に電源の電力を供給することができる。これにより、研磨装置をより簡単な構成にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施例の研磨装置及び研磨パッドの斜視図である。
【図2】本実施例の研磨パッドの平面図(上面図)である。
【図3】本実施例の研磨パッドの断面図である。
【図4】本実施例の研磨時において、研磨パッドとデバイスウエハとが、電解セルを形成する状態を拡大して示す縦断面図である。
【図5】本実施例のプラテンの斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
50 研磨装置
51 プラテン
53 電源
54 アノード電力中継部
55 カソード電力中継部
56 スリップリング
60 研磨パッド
62 研磨部材層
63 導電性部材層
63a アノード電力接続部
66 導電性シート層
66a カソード電力接続部
541,551 基台
542,552 導電板
543 アノード用ケーブル
543a,553a 接続端子
553 カソード用ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転テーブルの上に設置され、電解液を収容する複数の電解液収容部と、前記電解液収容部の底部に形成されたカソード電極と、デバイスウエハの導電体層に接触するアノード電極とを有し、前記導電体層を前記電解液収容部の前記電解液の液面に接触させ、前記カソード電極と前記アノード電極とに電圧を印加することにより複数の電解セルを形成し、前記導電体層を電気化学的機械的に研磨する研磨パッドであって、
前記導電体層に接触した状態で前記導電体層に対して、回転移動する機械的研磨層と、
前記機械的研磨層が前記導電体層に接触した状態で、前記導電体層に当接する前記アノード電極に電力を伝達し、前記導電体層に前記電解セルのアノードを形成するアノード電力伝達部と、
前記アノード電力伝達部の縁部の一部をこの研磨パッドの側面から突出させて形成され、前記回転テーブルに設置されたアノード電力中継部に電気的に接続されるアノード電力接続部と、
を備えていることを特徴とするデバイスウエハ用の研磨パッド。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスウエハの研磨パッドにおいて、
前記電解液収容部の底部の前記カソード電極と一体で形成されるカソード電力伝達部と、
前記カソード電力伝達部の縁部の一部をこの研磨パッドの側面から突出させて形成され、前記回転テーブルに設置されたカソード電力中継部に電気的に接続されるカソード電力接続部と、
を備えていることを特徴とするデバイスウエハ用の研磨パッド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のデバイスウエハ用の研磨パッドにおいて、
前記アノード電力接続部及び前記カソード電力接続部の少なくとの1つは、さらに回転テーブル側に折り曲がるように形成されていること、
を特徴とするデバイスウエハ用の研磨パッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のデバイスウエハ用の研磨パッドを載置する回転テーブルを有する研磨装置であって、
前記回転テーブルの側面に設けられ、前記研磨パッドの前記アノード電力接続部と直流電源のアノード用ケーブルとを電気的に接続するアノード電力中継部を備えること、
を特徴とするデバイスウエハ用の研磨装置。
【請求項5】
請求項4に記載のデバイスウエハ用の研磨装置において、
前記回転テーブルに設けられ、前記研磨パッドの前記カソード電力接続部と直流電源のカソード用ケーブルとを電気的に接続するカソード電力中継部を備えること、
を特徴とするデバイスウエハ用の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−94205(P2009−94205A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262069(P2007−262069)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(000232885)株式会社ロキテクノ (18)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】