説明

デファレンシャル装置

【課題】 機構を簡単とし、全体として小型、軽量とすることを可能とする。
【解決手段】 回転自在に支持され回転入力を受けるデフケース9と、回転入力をピニオンギヤ29、サイドギヤ31,33を介して一対の出力軸37,39へ差動回転を許容しながら伝達する差動機構11と、各出力軸37,39に同軸心状に設けられた一対の連動制御軸41,43と、デフケース9と各出力軸37,39と各連動制御軸41,43との間にそれぞれ設けられ各出力軸37,39の差動回転により各連動制御軸41,43を出力軸37,39に対してデフケース9を基準に相対的に逆方向へ回転させる一対のギヤ機構45,47と、各連動制御軸41,43の回転を各別に制動制御する一対の電磁誘導機構49,51とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右駆動輪の駆動トルクの制御が可能なデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車輌が旋回走行するとき、例えば左右後輪の旋回走行外輪側の駆動トルクを増大すると、いわゆるオーバーステア傾向にすることができ、ハンドル操作の補助により切れのよい旋回走行を実現することができる。また、直進時に、強い横風を受けても左右駆動輪の駆動トルク制御により、車両の姿勢を安定させることができる。
【0003】
かかる駆動トルクの制御を行うことが可能なデファレンシャル装置として、左右アクスルシャフト及びデフケースの左右側に、一対のサンギヤをそれぞれ設け、各一対のサンギヤに2段のプラネタリーギヤをそれぞれ噛み合わせ、各プラネタリーキャリヤを各別に制動制御するクラッチを左右それぞれ設けたものがある。
【0004】
このデファレンシャル装置では、クラッチにより制動制御した側のアクスルシャフトが反対側のアクスルシャフトよりも早く回転することができ、例えば旋回走行外輪側の駆動トルクを増大して旋回性能を高めることなどができる。
【0005】
しかし、上記のように、クラッチにより制動制御した側のアクスルシャフトを増速回転させる構造であるため、機構が複雑になると共に、全体として大型化して重量増を招きやすいという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許3103779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、機構が複雑になると共に、全体として大型化して重量増を招きやすいという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、機構を簡単とし、全体として小型、軽量とするため、回転自在に支持され回転入力を受ける入力回転部材と、前記回転入力を複数のギヤを介して一対の出力回転部材へ差動回転を許容しながら伝達する差動機構と、前記各出力回転部材に同軸心状に設けられた一対の連動制御部材と、前記入力回転部材と各出力回転部材と各連動制御部材との間にそれぞれ設けられ前記各出力回転部材の差動回転により前記各連動制御部材を前記出力回転部材に対して入力回転部材を基準に相対的に逆方向へ噛み合い回転させる一対のギヤ機構と、前記各連動制御部材の回転を各別に制動制御する一対の制動手段とを備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のデファレンシャル装置は、回転自在に支持され回転入力を受ける入力回転部材と、前記回転入力を複数のギヤを介して一対の出力回転部材へ差動回転を許容しながら伝達する差動機構と、前記各出力回転部材に同軸心状に設けられた一対の連動制御部材と、前記入力回転部材と各出力回転部材と各連動制御部材との間にそれぞれ設けられ前記各出力回転部材の差動回転により前記各連動制御部材を前記出力回転部材に対して入力回転部材を基準に相対的に逆方向へ噛み合い回転させる一対のギヤ機構と、前記各連動制御部材の回転を各別に制動制御する一対の制動手段とを備えたため、何れかの連動制御部材を制動手段により制動制御することによりギヤ機構を介して制動制御した側の出力回転部材に回転抵抗を与え、出力トルクを低減することができる。この出力トルクの低減により、制動制御しない側の出力回転部材の回転が差動機構を介して増速され、例えば旋回走行外輪側の駆動トルクを増大して、旋回走行性能を向上させることができる。
【0010】
しかも、制動制御する側の出力回転部材の出力トルクを低減させる構成であるから、ギヤ機構を簡単とし、全体として小型、軽量とすることができる。
【0011】
前記入力回転部材が、前記差動機構を収容支持するデフケースであり、前記連動制御部材が、前記デフケース内から前記デフケース外へ延設された場合は、ギヤ機構をデフケース内に収容することができ、デファレンシャル装置外部の設計変更を少なくして、組み付けを容易に行わせることができる。
【0012】
前記各ギヤ機構は、インターナルギヤ,該インターナルギヤに噛み合う遊星ギヤ,及び遊星ギヤを回転自在に支持する遊星キャリヤからなり、前記インターナルギヤは、前記入力回転部材側及び出力回転部材側に設けられ、前記各遊星キャリヤが、前記連動制御部材側に設けられた場合は、連動制御部材を介して遊星キャリヤを制動制御することで、制動制御した側の出力回転部材に回転抵抗を与えることができる。
【0013】
前記各出力回転部材側及び入力回転部材側のインターナルギヤは、径が大小二段に形成され、前記遊星ギヤは、前記入力回転部材側の小径のインターナルギヤ及び前記出力回転部材側の大径のインターナルギヤに噛み合う径が大小の二段に形成された場合は、制動制御に対して回転抵抗を増幅することができ、制動制御のエネルギをより小さくすることができ、エネルギ消費を抑制することができる。
【0014】
前記各ギヤ機構は、インターナルギヤ,サンギヤ,該インターナルギヤ及びサンギヤに噛み合う遊星ギヤ,及び遊星ギヤを回転自在に支持する遊星キャリヤからなり、前記インターナルギヤは、前記入力回転部材に設けられ、前記各遊星キャリヤが、前記各出力回転部材側に設けられ、前記サンギヤが、前記連動制御部材に設けられた場合は、連動制御部材を介してサンギヤを制動制御することで、制動制御した側の遊星キャリヤを介して出力回転部材に回転抵抗を与えることができる。
【0015】
前記各ギヤ機構が、前記入力回転部材側に回転自在に支持され前記出力回転部材側及び連動制御部材側に噛み合う径が大小二段のアイドルギヤを備えた場合は、連動制御部材を制動制御することでアイドルギヤを介し制動制御した側の出力回転部材に回転抵抗を与えることができる。
【0016】
前記制動手段が、前記キャリア側及び前記連動制御部材側間に設けられ電流制御により前記連動制御部材に回転抵抗を与える電磁誘導機構である場合は、電流制御により連動制御部材に回転抵抗を与えることができる。
【0017】
前記制動手段が、前記キャリア側及び前記連動制御部材側間に設けられ摩擦力により前記連動制御部材に回転抵抗を与えるディスクブレーキである場合は、ディスクブレーキの制御により連動制御部材に回転抵抗を与えることができる。
【0018】
前記制動手段が、前記キャリア側及び前記連動制御部材側間に設けられ摩擦力により前記連動制御部材に回転抵抗を与える油圧摩擦クラッチであるは、油圧摩擦クラッチの油圧制御により連動制御部材に回転抵抗を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
機構を簡単とし、全体として小型、軽量とするという目的を、各出力回転部材の差動回転により各連動制御部材を出力回転部材に対して入力回転部材を基準に相対的に逆方向へ回転させる一対のギヤ機構を設けることによって実現した。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1を適用したデファレンシャル装置であるリヤデファレンシャル装置及びその周辺の断面図である。リヤデファレンシャル装置1は、キャリヤとしてのデフキャリヤ3に回転自在に支持されている。リヤデファレンシャル装置1には、左右のアクスルシャフトを介して左右の後輪が連動連結されている。
【0021】
前記デフキャリヤ3には、左右にカバー部5,7がボルトなどにより着脱自在に取り付けられている。
【0022】
前記リヤデファレンシャル装置1は、デフケース9内に差動機構11が収容支持されている。
【0023】
前記デフケース9は、本体部13及び側壁部15からなり、一側外周に結合フランジ17を備えている。デフケース9の左右端部には、それぞれボス部19,21が設けられ、ボス部19,21が軸受23,25によりデフキャリア3に回転自在に支持されている。
【0024】
前記デフケース9には、一側の結合フランジ17にリングギヤが取り付けられ、リングギヤは、ドライブピニオンギヤに噛み合い、プロペラシャフト側からの回転入力を受けるようになっている。
【0025】
従って、デフケース9は、回転自在に支持され、回転入力を受ける入力回転部材を構成している。
【0026】
前記差動機構11は、ピニオンシャフト27に回転自在に支持されたピニオンギヤ29に左右サイドギヤ31,33が噛み合うことで構成されている。ピニオンシャフト27は、デフケース9に支持され、ピニオンギヤ29とデフケース9との間には、球面ワッシャ35が介設されている。サイドギヤ31,33には、出力軸37,39が一体に設けられ、出力軸37,39に左右アクスルシャフトが結合されている。
【0027】
従って、デフケース9への回転入力を複数のギヤ(ピニオンギヤ29、左右サイドギヤ31,33)を介して一対の出力回転部材(出力軸37,39)へ差動回転を許容しながら伝達する構成となっている。
【0028】
前記リヤデファレンシャル装置1には、一対の連動制御部材としての連動制御軸41,43と一対のギヤ機構45,47と一対の制動手段としての電磁誘導機構49,51とが設けられている。前記連動制御軸41,43、ギヤ機構45,47、及び電磁誘導機構49,51は、それぞれ左右対称に構成されている。従って、左側の連動制御軸41、ギヤ機構45、及び電磁誘導機構49についてのみ各部にaを付した符号で説明し、右側の連動制御軸43、ギヤ機構47、及び電磁誘導機構51については、対応する各部に符号のaをbに代えて付し、重複した説明は省略する。
【0029】
前記連動制御軸41は、中空に形成され、出力軸37に嵌合して外装配置されている。連動制御軸41は、デフケース9内からデフケース9外へ延設されている。連動制御軸41は、前記デフケース9のボス部19にニードルベアリング53aを介して回転自在に支持され、デフケース9外において出力軸37外周にニードルベアリング55aを介して回転自在に支持されている。ニードルベアリング55aの外周側において、連動制御軸41は、ボールベアリング57aを介して前記カバー部5に回転自在に支持されている。なお、ボールベアリング55aの外側においてカバー部5及び出力軸37間にシール59aが介設されている。
【0030】
前記連動制御軸41には、デフケース9内においてキャリヤプレート61a,63aが一体に設けられ、前記カバー部5内において制御プレート65aが一体に設けられている。制御プレート65aの外周部には筒部67aが設けられている。
【0031】
前記ギヤ機構45は、インターナルギヤ69a,71a、インターナルギヤ69a,71aに噛み合う遊星ギヤ73a、及び遊星ギヤ73aを回転自在に支持する遊星キャリヤ75aからなっている。
【0032】
前記インターナルギヤ69aは、デフケース9の結合フランジ17側内周に設けられている。前記インターナルギヤ71aは、サイドギヤ31の外周に一体に設けられた筒状部77aに設けられている。
【0033】
前記遊星ギヤ73aは、前記インターナルギヤ69a,71Aの双方に噛み合い、キャリヤピン79aに回転自在に支持されている。キャリヤピン79aは、前記キャリヤプレート61a,63aに支持され、キャリヤプレート61a,63a及びキャリヤピン79aにより、前記遊星キャリヤ75aが構成されている。
【0034】
前記電磁誘導機構49は、デフキャリヤ3側及び連動制御軸41側間に設けられ電流制御により連動制御軸41に回転抵抗を与える構成となっている。すなわち、前記制御プレート65a外周部の筒部67a外周面に、永久磁石81aが取り付けられ、この永久磁石81aの外周側に電磁コイル83aが配置されている。電磁コイル83aは、カバー部5の内周に取り付けられている。
【0035】
次に作用を説明する。
【0036】
前記電磁コイル83a,bが、通電制御されないときは、連動制御軸41,43は回転抵抗を受けない。
【0037】
前記デフケース9にエンジンからのトルクが入力されると、差動機構11のピニオンシャフト27、ピニオンギヤ29、サイドギヤ31,33を介して左右の出力軸37,39から左右のアクスルシャフトへ出力される。
【0038】
このトルク出力において、例えば車両の旋回走行により前記左右のアクスルシャフト間に差動回転を生ずると、該差動回転がサイドギヤ31,33に入力される。このとき、ピニオンギヤ29がピニオンシャフト27を回転軸として自転し、サイドギヤ31,33間の差動回転が許容される。
【0039】
前記差動回転により、サイドギヤ31,33のインターナルギヤ71a,71bを介して遊星ギヤ73a,73bが回転駆動され、該遊星ギヤ73a,73bがキャリヤピン79a,79bを中心に自転する。この遊星ギヤ73a,73bの自転により遊星ギヤ73a,73bがデフケース9のインターナルギヤ69a,69bに対して噛み合い移動により公転する。この遊星ギヤ73a,73bの噛み合い移動は、サイドギヤ31,33に対してデフケース9を基準にすると相対的に逆方向へ行われる。
【0040】
この遊星ギヤ73a,73bのデフケース9に対する噛み合い移動によりキャリヤピン79a,79b、キャリヤプレート61a,63a、61b,63bを介して連動制御軸41,43が同方向へ差動回転する。
【0041】
この場合、前記のように、連動制御軸41,43は回転抵抗を受けないから、前記サイドギヤ31,33の差動回転は、そのまま行われ、リヤデファレンシャル装置1は、エンジンからの回転入力を差動回転を許容しつつ左右のアクスルシャフトへ伝達することができる。
【0042】
かかる旋回走行において、例えば左方向旋回走行で旋回方向内輪側となる電磁誘導機構49の電磁コイル83aを通電制御すると、永久磁石81aを介し制御プレート65aに回転抵抗を与えることができる。この回転抵抗により連動制御軸41、キャリヤプレート61a,63a、キャリヤピン79aを介して遊星ギヤ73aのデフケース9に対する公転が制限され、結果的にサイドギヤ31にインターナルギヤ71aを介して回転抵抗を与える。この回転抵抗により旋回方向内輪側の駆動トルクを低減することができる。
【0043】
前記サイドギヤ31に対する回転抵抗によりデフケース9からピニオンシャフト27、ピニオンギヤ25を介して右側のサイドギヤ33側に回転が増幅して伝達され、出力軸39を介し、旋回方向外輪側のアクスルシャフトが上記差動回転時よりも増幅した駆動トルクが伝達される。
【0044】
従って、旋回方向内輪側の駆動トルクが減少すると共に同外輪側の駆動トルクが増大することで、いわゆるオーバーステア傾向のハンドリング特性を得ることができる。このような、オーバーステア傾向のハンドリング特性を旋回走行状態に応じて制御することで旋回走行性能を向上させることができる。
【0045】
前記とは逆に右方向へ旋回走行するときは、逆に電磁誘導機構51の電磁コイル83bを通電制御することで旋回方向内輪側のサイドギヤ33に回転抵抗を与えることができ、同様にオーバーステア傾向のハンドリング特性を制御し、旋回走行性能を向上させることができる。
【0046】
車両の直進走行時に横風を受けたようなときにも、前記電磁誘導機構49,51の電磁コイル83a,83bの何れかを通電制御することで、左右駆動輪間の駆動トルクを増減制御することができ、車両のヨーコントロールにより、走行姿勢を安定させることが可能となる。
【0047】
以上、何れかの連動制御軸41,43を電磁誘導機構49,51により制動制御することによりギヤ機構45,47を介して制動制御した側のサイドギヤ31又はサイドギヤ33に回転抵抗を与え、出力トルクを低減することができる。この出力トルクの低減により、制動制御しない側のサイドギヤ33又はサイドギヤ31の回転が差動機構11を介して増速され、例えば旋回走行外輪側の駆動トルクを内輪側の駆動トルクよりも増大して、旋回走行性能を向上させることができる。
【0048】
しかも、制動制御する側のサイドギヤ31又はサイドギヤ33の駆動トルクを低減させる構成であるから、ギヤ機構45,47を簡単とし、全体として小型、軽量とすることができる。
【0049】
前記入力回転部材が、前記差動機構45,47を収容支持するデフケース9であり、前記連動制御軸41,43が、前記デフケース9内から前記デフケース9外へ延設されたため、ギヤ機構45,47をデフケース9内に収容することができ、リヤデファレンシャル装置1外部の設計変更を少なくして、組み付けを容易に行わせることができる。
【実施例2】
【0050】
図2は、本発明の実施例2に係り、リヤデファレンシャル装置及びその周辺の断面図である。なお、基本的な構成は、実施例1と同様であり、同一又は対応する構成部分には、同符号又は同符号にAを付して説明する。
【0051】
図2のように、本実施例のリヤデファレンシャル装置1Aは、実施例1に対し制動手段を変更した。本実施例の制動手段は、連動制御軸41,43に回転抵抗を与えるディスクブレーキ49A,51Aとした。なお、ディスクブレーキ49A,51Aは、対称に構成されているため、左側のディスクブレーキ49Aについてのみ各部にaを付した符号で説明し、右側のディスクブレーキ51Aについては、対応する各部に符号のaをbに代えて付し、重複した説明は省略する。
【0052】
前記ディスクブレーキ49Aは、ブレーキディスク85a及びブレーキキャリパ87aを有している。ブレーキディスク85aは、内周側のボス部89a前記デフキャリヤ3外に延設された連動制御軸41Aの端部に螺合結合されている。前記連動制御軸41Aの端部には、ナット91aが締結され、ブレーキディスク85aの緩み止めが行われている。ボス部89aには、筒体95aが取り付けられ、筒体95a及び出力軸37間に、シール95aが介設されている。また、デフキャリヤ3及び連動制御軸41A間にもシール97aが介設されている。
【0053】
前記ブレーキキャリパ87aは、前記デフデフキャリヤ3側に支持されている。
【0054】
そして、旋回走行内輪側となるディスクブレーキ49A,51Aのブレーキキャリパ87a,87bの何れかを作動させることでブレーキディスク85a,85bの何れかにより連動制御軸41A,43Aの何れかに回転抵抗を与えることができ、実施例1と同様に旋回走行性能を向上を図ることができる。また、前記同様に走行姿勢の安定を図ることができる。
【実施例3】
【0055】
図3は、本発明の実施例3に係り、リヤデファレンシャル装置及びその周辺の断面図である。なお、基本的な構成は、実施例2と同様であり、同一又は対応する構成部分には、同符号又は同符号にBを付し、或いは同符号のAをBに代えて説明する。
【0056】
図3のように、本実施例のリヤデファレンシャル装置1Bは、実施例2に対しギヤ機構45B,47Bを変更した。なお、ギヤ機構45B,47Bは、対称に構成されているため、左側のギヤ機構45Bについてのみ各部にaを付した符号で説明し、右側のギヤ機構47Bについては、対応する各部に符号のaをbに代えて付し、重複した説明は省略する。
【0057】
前記ギヤ機構45Bの遊星ギヤ73aBは、大径ギヤ部99a及び小径ギヤ部101aを一体に形成し、径が大小二段となっている。大径ギヤ部99aに対応してサイドギヤ31B側のインターナルギヤ71aBは、デフケース9側のインターナルギヤ69aBよりも大径に形成され、径が大小二段に形成されている。なお、サイドギヤ31B,33Bは、左右出力軸37B,39Bにスプライン結合されている。
【0058】
そして、前記サイドギヤ31B,33Bの差動回転により遊星ギヤ73aB,73bBがデフケース9に対して公転するとき、大径ギヤ部99a,99b及びインターナルギヤ71aB,71bBのギヤ比と小径ギヤ部101a,101b及びインターナルギヤ69aB,69bBのギヤ比との関係により、実施例2よりも連動制御軸41B,43Bをより増速することができる。
【0059】
この連動制御軸41B,43Bの増速回転により、ブレーキキャリパ87a,87bを作動させることで旋回外輪側の駆動トルクをより増大して旋回走行性能を向上を図ることができる。また、前記同様に走行姿勢の安定をより確実に図ることができる。
【実施例4】
【0060】
図4は、本発明の実施例4に係り、リヤデファレンシャル装置及びその周辺の断面図である。なお、基本的な構成は、実施例2と同様であり、同一又は対応する構成部分には、同符号又は同符号にCを付し、或いは同符号のAをCに代えて説明する。
【0061】
図4のように、本実施例のリヤデファレンシャル装置1Cは、実施例2に対しギヤ機構45C,47Cを変更した。なお、ギヤ機構45C,47Cは、対称に構成されているため、左側のギヤ機構45Cについてのみ各部にaを付した符号で説明し、右側のギヤ機構47Cについては、対応する各部に符号のaをbに代えて付し、重複した説明は省略する。
【0062】
前記ギヤ機構45Cは、インターナルギヤ69aC,サンギヤ103a,該インターナルギヤ69aC及びサンギヤ103aに噛み合う遊星ギヤ73aC,遊星ギヤ73aCを回転自在に支持する遊星キャリヤ75aCからなっている。前記インターナルギヤ69aCは、前記デフケース9に設けられている。前記遊星キャリヤ75aCは、前記サイドギヤ31C側に設けられている。すなわち、遊星キャリヤ75aCは、キャリヤプレート105aが前記サイドギヤ31C側に結合され、サイドギヤ31C側及びキャリヤプレート105a間にキャリヤピン79aCが支持されている。サイドギヤ31Cに対するキャリヤプレート105aの結合は、各遊星ギヤ73aCの周方向間においてキャリヤプレート105aから延設されたアームをサイドギヤ31Cに溶接することなどにより行われている。前記サンギヤ103aは、連動制御軸41Cに設けられている。なお、サンギヤ103aの内周側で連動制御軸41Cは、ニードルベアリング107aを介して出力軸37の外周面に支持されている。
【0063】
そして、前記サイドギヤ103a,103b間に差動回転が起こると、キャリヤピン79aC,79bCを介して遊星ギヤ73aC,73bCがデフケース9に対して公転し、インターナルギヤ69aC,69bC、遊星ギヤ73aC,73bC、及びサンギヤ103a,103b間のギヤ比により連動制御軸41C,43Cがデフケース9に対して高速で自転する。
【0064】
このため、ブレーキキャリパ87a,87bを作動させることで旋回内輪側の連動制御軸41C又は連動制御軸43Cに回転抵抗を与えることでサンギヤ103a又はサンギヤ103bを介して遊星ギヤ73aC又は遊星ギヤ73bCのデフケース9に対する公転を制限し、旋回内輪側のサイドギヤ31C又はサイドギヤ33Cの差動回転を制限することができる。
【0065】
従って、上記同様に旋回外輪側のサイドギヤ33C又はサイドギヤ31Cの駆動トルクを増大して、旋回走行性能を向上を図ることができる。また、前記同様に走行姿勢の安定を図ることができる。
【実施例5】
【0066】
図5は、本発明の実施例5に係り、リヤデファレンシャル装置及びその周辺の断面図である。なお、基本的な構成は、実施例4と同様であり、同一又は対応する構成部分には、同符号又は同符号にDを付し、或いは同符号のCをDに代えて説明する。
【0067】
図5のように、本実施例のリヤデファレンシャル装置1Dは、実施例4に対し制動手段を変更した。本実施例の制動手段は、デフキャリヤ3側及び連動制御軸41D,43D側間に設けられ摩擦力により連動制御軸41D,43Dに回転抵抗を与える油圧摩擦クラッチ49D,51Dとした。なお、油圧摩擦クラッチ49D,51Dは、対称に構成されているため、左側の油圧摩擦クラッチ49Dについてのみ各部にaを付した符号で説明し、右側の油圧摩擦クラッチ51Dについては、対応する各部に符号のaをbに代えて付し、重複した説明は省略する。
【0068】
前記油圧摩擦クラッチ49Dは、リング状のピストン109aと多板クラッチ111aとを備えている。ピストン109aは、シリンダ部材113aに収容支持されている。シリンダ部材113aは、外周側が前記デフキャリヤ3にボルト等により取り付けられている。シリンダ部材113aの内周側及び出力軸37間には、シール114aが介設されている。前記ピストン109aの押圧部115aは、前記多板クラッチ111aに対向している。多板クラッチ111aは、アウタープレート及びインナープレートが交互に配置されたもので、アウタープレートは、前記シリンダ部材113aの内周にスプライン係合し、インナープレートは、クラッチハブ117aの外周にスプライン係合している。クラッチハブ117aの内周は、連動制御軸41Dにスプライン係合している。
【0069】
そして、シリンダ部材113a,113b及びピストン109a,109b間の圧力室に油圧を作用させると、ピストン109a,109bが移動して押圧部115a,115bとデフキャリヤ3との間で多板クラッチ111a,111bが締結される。多板クラッチ111a,111bが締結されると、クラッチハブ117a,117bを介して連動制御軸41D,43Dがデフキャリヤ3側に対して回転抵抗を受ける。
【0070】
従って、旋回走行内輪側の連動制御軸41D又は連動制御軸43Dに回転抵抗を与えることで、実施例4と同様に、旋回外輪側のサイドギヤ33D又はサイドギヤ31Dの駆動トルクを増大して、旋回走行性能を向上を図ることができる。また、前記同様に走行姿勢の安定を図ることができる。
【実施例6】
【0071】
図6は、本発明の実施例6に係り、リヤデファレンシャル装置及びその周辺の断面図である。なお、基本的な構成は、実施例2と同様であり、同一又は対応する構成部分には、同符号又は同符号にEを付し、或いは同符号のAをEに代えて説明する。
【0072】
図6のように、本実施例のリヤデファレンシャル装置1Eは、実施例2に対しギヤ機構45E,47Eを変更した。なお、ギヤ機構45E,47Eは、支持構造は異なるが、基本的には対称に構成されているため、主な構造は左側のギヤ機構45Eについて各部にaを付した符号で説明し、右側のギヤ機構47Eについては、対応する各部に符号のaをbに代えて付し、重複した説明は省略する。
【0073】
前記ギヤ機構45Eは、径が大小二段のアイドルギヤ119aを備えている。アイドルギヤ119aは、軸部121aがデフケース9Eの側壁部15Eに回転自在に支持されている。アイドルギヤ119aには、小径ギヤ123a及び大径ギヤ125aが一体に設けられている。また、サイドギヤ31E側には、大径ギヤ127aが形成され、連動制御軸41Eには、小径ギヤ129aが設けられている。アイドルギヤ119aの小径ギヤ123aは、サイドギヤ31Eの大径ギヤ127aに噛み合い、アイドルギヤ119aの大径ギヤ125aは、連動制御軸41Eの小径ギヤ129aに噛み合っている。
【0074】
前記ギヤ機構47Eのアイドルギヤ119bは、デフケース9Eの他方の側壁部131Eに回転自在に支持されている。側壁部131Eは、ボルト133により本体部13Eに着脱自在に支持されている。アイドルギヤ119bの一部は、側壁131E及び本体部13E間からデフケース9E外に臨んでいる。従って、アイドルギヤ119bの回転により、デフケース9E内外の潤滑オイルの流通を促進させることができる。
【0075】
なお、前記サイドギヤ31E,33E、ピニオンギヤ29は、本体部13Eに対し、結合フランジ17側から組み込むようになっており、組み込み後、デフケース9E内周にスペーサ135を介してスナップリング137が取り付けられ、サイドギヤ31E,33E等の抜け止めが行われている。
【0076】
そして、前記サイドギヤ31E,33Eの差動回転に際して大径ギヤ127a,127b、小径ギヤ123a,123b、大径ギヤ125a,125b、小径ギヤ129a,129b間のギヤ比により、連動制御軸41E,43Eがデフケース9Eに対し相対的に増速回転される。
【0077】
このため、旋回走行内輪側となるディスクブレーキ49E,51Eの何れかのブレーキキャリパ87a,87bを作動させることでブレーキディスク85a,85bの何れかにより連動制御軸41E,43Eの何れかに回転抵抗を与えることができ、実施例2と同様に旋回走行性能を向上を図ることができる。また、前記同様に走行姿勢の安定を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】リヤデファレンシャル装置及びその周辺を示す断面図である(実施例1)。
【図2】リヤデファレンシャル装置及びその周辺を示す断面図である(実施例2)。
【図3】リヤデファレンシャル装置及びその周辺を示す断面図である(実施例3)。
【図4】リヤデファレンシャル装置及びその周辺を示す断面図である(実施例4)。
【図5】リヤデファレンシャル装置及びその周辺を示す断面図である(実施例5)。
【図6】リヤデファレンシャル装置及びその周辺を示す断面図である(実施例6)。
【符号の説明】
【0079】
1,1A,1B,1C,1D,1E リヤデファレンシャル装置
9,9E デフケース(入力回転部材)
11 作動機構
29 ピニオンギヤ(ギヤ)
31,31B,31C,31D,31E,33,33B,33C,33D,33E サイドギヤ(ギヤ)
37,37B,39,39B 出力軸(出力回転部材)
41,41A,41B,41C,41D,41E,43,43A.43B,43C,43D,43E 連動制御軸(連動制御部材)
45,45B,45C,45D,45E,47,47B,47C,47d、47E ギヤ機構
49,51 電磁誘導機構(制動手段)
49A,49B,49C,49E,51A,51B,51C,51E ディスクブレーキ(制動手段)
49D.51D 油圧摩擦クラッチ(制動手段)
69a,69b,69aB,69aC,69aD,69bB,69bC,69bD,71a,71b,71aB,71bB インターナルギヤ
73a,73b,73aB,73bB,73aC,73bC,73aD,73bD 遊星ギヤ
75a,75b,75aC,75bC,75aD,75bD 遊星キャリヤ
103a,103b サンギヤ
119a,119b アイドルギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持され回転入力を受ける入力回転部材と、
前記回転入力を複数のギヤを介して一対の出力回転部材へ差動回転を許容しながら伝達する差動機構と、
前記各出力回転部材に同軸心状に設けられた一対の連動制御部材と、
前記入力回転部材と各出力回転部材と各連動制御部材との間にそれぞれ設けられ前記各出力回転部材の差動回転により前記各連動制御部材を前記出力回転部材に対して入力回転部材を基準に相対的に逆方向へ噛み合い回転させる一対のギヤ機構と、
前記各連動制御部材の回転を各別に制動制御する一対の制動手段と
を備えたことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項2】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記入力回転部材は、前記差動機構を収容支持するデフケースであり、
前記連動制御部材は、前記デフケース内から前記デフケース外へ延設された
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のデファレンシャル装置であって、
前記各ギヤ機構は、インターナルギヤ,該インターナルギヤに噛み合う遊星ギヤ,及び遊星ギヤを回転自在に支持する遊星キャリヤからなり、
前記インターナルギヤは、前記入力回転部材側及び出力回転部材側に設けられ、
前記各遊星キャリヤが、前記連動制御部材側に設けられた
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項4】
請求項3記載のデファレンシャル装置であって、
前記各出力回転部材側及び入力回転部材側のインターナルギヤは、径が大小二段に形成され、
前記遊星ギヤは、前記入力回転部材側の小径のインターナルギヤ及び前記出力回転部材側の大径のインターナルギヤに噛み合う径が大小の二段に形成された
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載のデファレンシャル装置であって、
前記各ギヤ機構は、インターナルギヤ,サンギヤ,該インターナルギヤ及びサンギヤに噛み合う遊星ギヤ,及び遊星ギヤを回転自在に支持する遊星キャリヤからなり、
前記インターナルギヤは、前記入力回転部材に設けられ、
前記各遊星キャリヤが、前記各出力回転部材側に設けられ、
前記サンギヤが、前記連動制御部材に設けられた
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項6】
請求項1又は2記載のデファレンシャル装置であって、
前記各ギヤ機構は、前記入力回転部材側に回転自在に支持され前記出力回転部材側及び連動制御部材側に噛み合う径が大小二段のアイドルギヤを備えた
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のデファレンシャル装置であって、
前記制動手段は、前記キャリア側及び前記連動制御部材側間に設けられ電流制御により前記連動制御部材に回転抵抗を与える電磁誘導機構である
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載のデファレンシャル装置であって、
前記制動手段は、前記キャリア側及び前記連動制御部材側間に設けられ摩擦力により前記連動制御部材に回転抵抗を与えるディスクブレーキである
ことを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れかに記載のデファレンシャル装置であって、
前記制動手段は、前記キャリア側及び前記連動制御部材側間に設けられ摩擦力により前記連動制御部材に回転抵抗を与える油圧摩擦クラッチである
ことを特徴とするデファレンシャル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−138339(P2006−138339A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326252(P2004−326252)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】