デュアルクラッチ式自動変速機
【課題】変速機構の選択機構を作動させるモータや当該モータに駆動電流を供給するモータドライバの過熱を防止することができるデュアルクラッチ式自動変速機を提供する。
【解決手段】デュアルクラッチ式自動変速機の制御部は、変速機構を作動させる各モータに供給される駆動電流に基づき、所定の「演算期間」の「駆動電流量」を演算し、当該「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合には、「プレシフト禁止制御」に切り替え、プレシフトを禁止し、各モータドライバや各モータの過熱を防止する。
【解決手段】デュアルクラッチ式自動変速機の制御部は、変速機構を作動させる各モータに供給される駆動電流に基づき、所定の「演算期間」の「駆動電流量」を演算し、当該「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合には、「プレシフト禁止制御」に切り替え、プレシフトを禁止し、各モータドライバや各モータの過熱を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのクラッチを備えるデュアルクラッチ式自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動変速機の1つに、奇数段と偶数段の2系統に分かれた変速機構を有し、それぞれの変速機構に原動機からの回転駆動力を離脱係合するクラッチを有するいわゆるデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)が注目されている。このデュアルクラッチ式自動変速機では、車両の走行中に、回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速段を予め成立(プレシフト)させておき、変速指令が発せられた場合に、前記変速機構側のクラッチに繋ぎ替えることにより高速な変速を実現している。例えば第2速で走行している場合には、車両の走行状況に応じて第1速段又は第3速段が成立して待機している。プレシフトにより成立させるべき変速段は、特許文献1に示されるように、車速とアクセル開度の関係を表した複数段のプレシフト線を有するマップデータにより決定され、車両の走行状態が、前記プレシフト線を越えた場合に、前記プレシフト線の変速段に決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236634号公報(第7頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したようなプレシフトを行うことにより、変速指令に対して変速を速やかに完了できる反面、車両の走行状態によっては、実際に変速指令が発せられる前に、頻繁にプレシフトが繰り返され、変速機構のギヤ選択機構を作動させるモータや、このモータに駆動電流を供給するモータドライバが過熱してしまうという問題があった。モータやモータドライバが過熱すると、モータやモータドライバの動作不良が生じるおそれや、モータやモータドライバの寿命が縮まるおそれがあるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、変速機構の選択機構を作動させるモータや当該モータに駆動電流を供給するモータドライバの過熱を防止することができるデュアルクラッチ式自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、原動機の回転駆動力が伝達される駆動軸と、同軸に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、前記駆動軸の回転駆動力を前記第1入力軸に離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸の回転駆動力を前記第2入力軸に離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うデュアルクラッチアクチュエータと、出力部材と、前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材と、これら複数の奇数段変速部材から一つの奇数段変速部材を選択する第1選択機構とを有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記選択された奇数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材と、これら複数の偶数段変速部材から一つの偶数段変速部材を選択する第2選択機構とを有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記選択された偶数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、前記第1選択機構を作動させる第1モータと、前記第2選択機構を作動させる第2モータと、前記第1モータに駆動電流を供給する第1モータドライバと、前記第2モータに駆動電流を供給する第2モータドライバと、前記第1モータドライバから前記第1モータに供給される駆動電流を検出する第1電流検出手段と、前記第2モータドライバから前記第2モータに供給される駆動電流を検出する第2電流検出手段と、プレシフト指令が発せられると、前記第1モータドライバ又は前記第2モータドライバに前記第1モータ又は前記第2モータに駆動電流を供給させるモータドライバ制御信号を出力し、前記第1選択機構又は前記第2選択機構を作動させて、前記第1変速機構と前記第2変速機構のうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速部材を選択させるプレシフトを実行し、変速指令が発せられると、前記デュアルクラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1クラッチと前記第2クラッチのうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する制御部と、を備え、前記制御部に、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流に基づき、所定の演算期間の間における駆動電流の量である駆動電流量をそれぞれ演算する駆動電流量演算手段と、前記駆動電流量演算手段が演算した駆動電流量が、上限値を越えたか否かを判定する駆動電流量上限判定手段と、前記駆動電流量上限判定手段が、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合に、前記プレシフトを禁止するプレシフト禁止手段と、を設けたことである。
【0007】
請求項2に係る発明によると、請求項1に係る発明において、前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流を積算することにより駆動電流量をそれぞれ演算することである。
【0008】
請求項3に係る発明によると、請求項1に係る発明において、前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流値が、所定の電流値以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより駆動電流量を演算することである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によると、駆動電流量演算手段は、第1電流検出手段及び第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流に基づき、所定の演算期間の間における駆動電流の量である駆動電流量をそれぞれ演算し、駆動電流量上限判定手段は、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合に、プレシフト禁止手段は、プレシフトを禁止する。従って、それぞれのモータの前記駆動電流量が上限値を越えた場合には、プレシフトが禁止される。このように、各モータドライバから各モータに供給される駆動電流の駆動電流量と、各モータドライバと各モータの発熱との相関性に基づき、演算期間における駆動電流量の多寡によって、各モータドライバと各モータの過熱を事前に検出することしている。そして、駆動電流量上限判定手段が、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合には、プレシフト禁止手段によって、プレシフトが禁止される。これにより、変速機構の選択機構を作動させるモータや当該モータに駆動電流を供給するモータドライバの過熱を防止することができる。
【0010】
請求項2に係る発明によると、駆動電流量演算手段は、第1電流検出手段及び第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流を積算することにより駆動電流量をそれぞれ演算する。これにより、精度高く、駆動電流量を演算することができ、より精度高く、モータドライバやモータの過熱を事前に検知することができ、より確実に、モータドライバやモータの過熱を防止することができる。
【0011】
請求項3に係る発明によると、駆動電流量演算手段は、第1電流検出手段及び第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流値が、所定の電流値以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより駆動電流量を演算する。これにより、制御部の演算の負荷が過大とならずに、モータドライバやモータの過熱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】デュアルクラッチ式自動変速機1の全体構造を示すスケルトン図である。
【図2】選択機構の示す軸方向断面図である。
【図3】シフトアクチュエータ機構40を示す図である。
【図4】デュアルクラッチ式自動変速機の制御ブロック図である。
【図5】モータドライバの構成を示す図である。
【図6】デュアルクラッチ式自動変速機1の変速マップデータを表した図である。
【図7】車両が第2速段で走行中のデュアルクラッチ式自動変速機1の変速マップデータを表した図である。
【図8】本発明の概要を表した説明図である。
【図9】図4に示した制御部にて実行される制御プログラムであるプレシフト許可・禁止切替処理のフローチャートである。
【図10】駆動電流量の演算方法を表した説明図である。
【図11】駆動電流量の演算方法を表した説明図である。
【図12】駆動電流量演算手段による駆動電流の移動演算を表した説明図である。
【図13】図4に示した制御部にて実行される制御プログラムであるプレシフト・変速制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(デュアルクラッチ式自動変速機の構成)
以下、本発明のデュアルクラッチ式自動変速機を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示されるデュアルクラッチ式自動変速機1は、前進7段、後進1段のFR(フロントエンジン・リアドライブ方式)用の自動変速機である。このデュアルクラッチ式自動変速機1は、図1に示されるように、軸として、第1入力軸15、第2入力軸16、第1副軸17、第2副軸18、後進アイドル軸27e、及び、出力軸19を有している。なお、第1入力軸15や第2入力軸16に対して、出力軸19側を後方とする。
【0014】
第2入力軸16は、筒状に形成されており、第1入力軸15を同軸的に囲んで、第1入力軸15に対して相対回転可能に同心に配置されている。ただし、第1入力軸15の後端は、第2入力軸16の後端よりも突出する長さに形成されている。第1副軸17及び第2副軸18は、両入力軸15,16に対して平行に配置されている。後進アイドル軸27eは、第2副軸18に対して平行に配置されている。出力軸19(出力部材)は、第1入力軸15に対して後方に同軸(同心)に配置されている。出力軸19は、デファレンシャルギヤ(図示省略)に回転駆動力を伝達する。
【0015】
デュアルクラッチ式自動変速機1は、エンジンなどの原動機10により回転駆動されるデュアルクラッチCを有している。このデュアルクラッチCは、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを備えている。第1クラッチC1の入力側と第2クラッチC2の入力側は、それぞれ原動機10の回転駆動力が伝達される駆動軸11と連結されている。そして、第1クラッチC1の出力側は、第1入力軸15に連結されており、第2クラッチC2の出力側は、第2入力軸16に連結されている。第1クラッチC1は、デュアルクラッチアクチュエータ75(図4に示す)の動作により、その入力側と出力側が係合離脱され、駆動軸11の回転駆動力を第1入力軸15に離脱係合する。第2クラッチC2は、デュアルクラッチアクチュエータ75の動作により、その入力側と出力側が係合離脱され、駆動軸11の回転駆動力を第2入力軸16に離脱係合する。
【0016】
また、デュアルクラッチ式自動変速機1は、第1入力軸15と出力軸19との間に設けられた第1変速機構A20−1、B20−2、第2入力軸16と出力軸19との間に設けられた第2変速機構A20−3、B20−4、第1副軸17と出力軸19とを連結する第1リダクション変速ギヤ列28a,28bと、第2副軸18と出力軸19とを連結する第2リダクション変速ギヤ列29a,29bとを備えている。
【0017】
第1変速機構A20−1、B20−2は、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速ギヤ列(奇数段変速部材)21a、21b、23a、23b、26a、26bと、これら複数の奇数段ギヤ列から1つの奇数段ギヤ列を選択する第1選択機構A30−1、B30−2とから構成されている。第1変速機構A20−1、B20−2は、第1入力軸15の回転駆動力を選択された奇数段ギヤ列を介して出力軸19に伝達する。なお、本実施形態では、第5速段は、第1入力軸15と出力軸19とが直結されることにより形成される。つまり、第5速段の変速比は、”1”である。
【0018】
第1変速機構A20−1は、第1速変速ギヤ列21a,21bと、第3速変速ギヤ列23a,23bと、第1選択機構A30−1とから構成されている。第1速変速ギヤ列21a,21bは、第1入力軸15に固定された駆動ギヤ21a(後進段駆動ギヤ27aと共用)と、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ21bとから構成されている。第3速変速ギヤ列23a,23bは、第1入力軸15に固定された駆動ギヤ23aと、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ23bとから構成されている。
【0019】
第1選択機構A30−1は、図1及び図2に示されるように、クラッチハブLと、第1速係合部材S1と、第3速係合部材S3と、シンクロナイザリングOと、スリーブMとから構成されている。クラッチハブLは、第1速従動ギヤ21bと第3速従動ギヤ23bとの軸方向間となる第1副軸17にスプライン固定される。第1速係合部材S1及び第3速係合部材S3は、第1速ギヤ21b及び第3速従動ギヤ23bのそれぞれに、例えば圧入などにより固定される部材である。シンクロナイザリングOは、クラッチハブLと軸方向両側の各係合部材S1,S3との間にそれぞれ介在される。スリーブMは、クラッチハブLの外周に軸方向移動自在にスプライン係合される。
【0020】
この第1選択機構A30−1は、第1速従動ギヤ21b及び第3速従動ギヤ23bの一方と第1副軸17との係合を可能とし、かつ、第1速従動ギヤ21b及び第3速従動ギヤ23bの両者を第1副軸17に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0021】
第1選択機構A30−1のスリーブMは、図2に示す中立位置では係合部材S1,S3の何れにも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第1速従動ギヤ21b側にシフトされれば、スリーブMは先ずそちら側のシンクロナイザリングOにスプライン係合して第1副軸17と第1速従動ギヤ21bの回転を同期させ、次いで第1速係合部材S1の外周の外歯スプラインと係合し、第1速従動ギヤ21bを第1副軸17に相対回転不能に連結して第1速段を形成する。また、シフトフォークNによりスリーブMが第3速従動ギヤ23b側にシフトされれば、同様にして第1副軸17と第3速従動ギヤ23bの回転を同期させた後に、この両者を相対回転不能に連結して第3速段を形成する。
【0022】
第1変速機構B20−2は、第7速変速ギヤ列26a,26bと、第1選択機構B30−2とから構成されている。第7速変速ギヤ列26a,26bは、第1入力軸15の後部に遊転可能に設けられた駆動ギヤ26aと第2副軸18に固定された従動ギヤ26bとから構成されている。第1選択機構B30−2は、第1入力軸15の後部に遊転可能に設けられた第7速変速ギヤ列の駆動ギヤ26aと、これと同軸的に出力軸19の前端に固定された第1及び第2リダクション変速ギヤ列に共通な1個の従動ギヤ28b,29bの間に設けられている。
【0023】
第1選択機構B30−2は、第1選択機構A30−1と同一のシンクロメッシュ機構であり、クラッチハブLが第1入力軸15の後端に固定され、第5速係合部材S5と第7速係合部材S7がそれぞれ共通従動ギヤ28b,29bと第7速駆動ギヤ26aに固定されている点が異なっているだけである。第1選択機構B30−2は、中立位置では何れの係合部材S5,S7とも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第7速駆動ギヤ26a側にシフトされれば、第1入力軸15と第7速駆動ギヤ26aの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて第7速段が形成される。また、シフトフォークNによりスリーブMが共通従動ギヤ28b,29b側にシフトされれば、第1入力軸15と出力軸19の回転が同期された後に、この両者が直結されて第5速段が形成される。
【0024】
第2変速機構A20−3、B20−4は、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速ギヤ列(偶数段変速部材)22a、22b、24a、24b、25a、25bと、これら複数の偶数段ギヤ列から1つの偶数段ギヤ列を選択する第2選択機構A30−3、B30−4とから構成されている。第2変速機構A20−3、B20−4は、第2入力軸16の回転駆動力を選択された偶数段ギヤ列を介して出力軸19に伝達する。
【0025】
第2変速機構A20−3は、第2速変速ギヤ列22a,22bと、第4速変速ギヤ列24a,24bと、第2選択機構A30−3とから構成されている。第2速変速ギヤ列22a,22bは、第1変速機構A20−1の場合とほぼ同様、第2入力軸16に固定された駆動ギヤ22aと、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ22bとから構成されている。第4速変速ギヤ列24a,24bは、第2入力軸16に固定された駆動ギヤ24aと、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ24bとから構成されている。
【0026】
第2選択機構A30−3は、第2速従動ギヤ22b及び第4速従動ギヤ24bの一方と第1副軸17との係合を可能とし、かつ、第2速従動ギヤ22b及び第4速従動ギヤ24bの両者を第1副軸17に対して離脱する状態にすることができるシンクロメッシュ機構を構成している。
【0027】
第2選択機構A30−3は、第1選択機構A30−1とほぼ同じである。第1選択機構A30−1においては、第1速係合部材S1と第3速係合部材S3がそれぞれ第1速従動ギヤ21b及び第3速従動ギヤ21cに固定されているのに対して、第2選択機構A30−3においては、第2速係合部材S2と第4速係合部材S4がそれぞれ第2速従動ギヤ22b及び第4速従動ギヤ24bに固定されている点が相違する。
【0028】
この第2選択機構A30−3のスリーブMは、中立位置では何れの係合部材S2,S4とも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第2速従動ギヤ22b側にシフトされれば、スリーブMは第1副軸17と第2速従動ギヤ22bの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて第2速段が形成される。また、シフトフォークNによりスリーブMが第4速従動ギヤ24b側にシフトされれば、第1副軸17と第4速従動ギヤ24bの回転を同期させた後に、この両者を一体的に連結して第4速段を形成する。
【0029】
第2変速機構B20−4は、第6速変速ギヤ列25a,25bと、後進段変速ギヤ列27a,27b,27c,27dと、第2選択機構B30−4とから構成されている。第6速変速ギヤ列25a,25bは、第2入力軸16に固定された駆動ギヤ25aと、第2副軸18に遊転可能に設けられた従動ギヤ25bとから構成されている。後進段変速ギヤ列27a,27b,27c,27dは、第1入力軸15に固定された駆動ギヤ27a(第1速駆動ギヤ21aと共用)と、第2副軸18に遊転可能に設けられた従動ギヤ27dと、互いに一体形成され後進アイドル軸27eに遊転可能に設けられて駆動ギヤ27aと従動ギヤ27dを連結する1対のアイドルギヤ27b,27cとから構成されている。
【0030】
第2選択機構B30−4は、実質的に第1選択機構A30−1と同じ構造で、第6速従動ギヤ25b及び後進段従動ギヤ27dの一方と第2副軸18との係合を可能とし、かつ、第6速従動ギヤ25b及び後進段従動ギヤ27dの両者を第2副軸18に対して離脱する状態にすることができるシンクロメッシュ機構を構成している。
【0031】
第2選択機構B30−4のスリーブMは、中立位置では何れの係合部材S6,SRとも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第6速従動ギヤ25b側にシフトされれば、スリーブMは第2副軸18と第6速従動ギヤ25bの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて第6速段が形成される。また、シフトフォークNによりスリーブMが後進段従動ギヤ27d側にシフトされれば、第2副軸18と後進段従動ギヤ27dの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて後進段が形成される。
【0032】
シフトフォークNを軸方向に移動させるシフトアクチュエータ機構40は、図3に示されるように、回転軸にウォームギヤ42が形成されたモータ70、ウォームギヤ42に噛合するウォームホイール43、ウォームホイール43に同心に一体的に形成されたピニオンギヤ44、ピニオンギヤ44に噛合するラック軸45を備えている。このラック軸45には、各シフトフォークNが一体に設けられている。つまり、それぞれのシフトアクチュエータ機構40のそれぞれのモータ70(図4に示されるモータ71〜74)が回転することで、そのモータ70に連結されているシフトフォークNが軸方向に移動する。このシフトアクチュエータ機構40は、ウォームギヤ42とウォームホイール43を用いているため、ウォームギヤ42からウォームホイール43への駆動力の伝達は行われるが、その逆は行われない。つまり、シフトアクチュエータ機構40は、逆戻り防止機能を有する。
【0033】
(デュアルクラッチ式自動変速機の制御ブロック)
図4を用いて、デュアルクラッチ式自動変速機1の制御ブロックについて説明する。デュアルクラッチ式自動変速機1は、当該デュアルクラッチ式自動変速機1を統括制御する制御部50(トランスミッションコントロールユニット(TCU)ともいう)を備えている。
【0034】
制御部50には、アクセル開度センサー55、車速センサー56、第1モータドライバA61、第1モータドライバB62、第2モータドライバA63、第2モータドライバB64、デュアルクラッチアクチュエータ75、第1電流検出部A91、第1電流検出部B92、第2電流検出部A93、第2電流検出部B94が接続されている。なお、アクセル開度センサー55は、制御部50とCAN(Controller Area Network)通信によって接続されたECU(Engine Control Unit)に接続されていても差し支え無い。この場合には、アクセル開度センサー55で検出された「アクセル開度情報」は、ECUを介して、制御部50に入力される。
【0035】
図4に示されるように、制御部50は、CPU51、記憶装置52、入出力インターフェース53を有している。なお、制御部50は、特許請求の範囲に記載の「駆動電流量演算手段」、「駆動電流量上限判定手段」「プレシフト禁止手段」に相当し得るものである。CPU51は、制御部50を制御する中央演算処理装置で、図略のシステムバスを介して記憶装置52や入出力インターフェース53に接続されている。記憶装置52は、いわゆるRAM、ROM、不揮発性メモリ等の記憶装置で、図略のシステムバスを介してCPU51に接続されている。ROMや不揮発性メモリには、CPU51を制御するシステムプログラムのほかに、後述する「プレシフト許可・禁止切替処理」、「プレシフト・変速制御」の処理を可能にする各種制御プログラムや、図6に示される後述の「変速マップデータ」が格納されている。RAMは前記プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。入出力インターフェース53は、アクセル開度センサー55、車速センサー56、第1モータドライバA61、B62、第2モータドライバA63、B64とCPU51とのデータのやり取りを仲介する装置で、システムバスに接続されている。
【0036】
アクセル開度センサー55は、原動機10の出力を調整するアクセル開度を検出するセンサーである。制御部50は、アクセル開度センサー55で検出されたアクセル開度を、「アクセル開度情報」として、記憶装置52に記憶させる。車速センサー56(車速検出部)は、出力軸19やタイヤホイール(図示省略)の回転速度を検出するセンサーである。この車速センサー56が検出した情報に基づき、制御部50は車両の車速を演算する。或いは、原動機10や駆動軸11の回転速度を検出する回転速度センサー及び選択されている変速段を検出する変速段検出センサーとから車速を検出するための車速検出部を構成し、これらセンサーが検出した情報に基づき、制御部50が車両の車速を演算することにしても差し支え無い。制御部50は、演算した車速を、「車速情報」として記憶装置52に記憶させる。
【0037】
第1モータA71、第1モータB72、第2モータ73A、第2モータB74は、上述した図3に示されるそれぞれのシフトアクチュエータ機構40を構成するそれぞれのモータ70である。第1モータA71は、第1モータドライバA61から供給される駆動電流により作動し、第1選択機構A30−1を作動させる。第1モータB72は、第1モータドライバB62から供給される駆動電流により作動し、第1選択機構B30−2を作動させる。第2モータA73は、第2モータドライバA63から供給される駆動電流により作動し、第2選択機構A30−3を作動させる。第2モータB74は、第2モータドライバB64から供給される駆動電流により作動し、第2選択機構B30−4を作動させる。
【0038】
後述する「プレシフト指令」が発せられた場合には、制御部50は、モータドライバ61〜64のいずれかに「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74のいずれかを作動(回転)させて、選択機構30−1〜30−4のいずれかを作動させることにより、第1変速機構A20−1、B20−2と第2変速機構A20−3、B20−4のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されていない側(待機側)の変速機構20−1〜20−4のギヤ列(変速部材)を選択させ、変速段を形成する「プレシフト」を実行する。なお、「プレシフト指令」とは、車両の走行状態が、図6に示される「プレシフト線」を越えた場合になされる指令であり、「プレシフト線」の変速段を形成させるための指令である。
【0039】
第1電流検出部A91、B92(第1電流検出手段)、第2電流検出部A93、B94(第2電流検出手段)は、それぞれ各モータドライバ61〜64から各モータ71〜74に供給される駆動電流を検出するものである。
【0040】
デュアルクラッチアクチュエータ75は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合離脱動作を行うものである。デュアルクラッチアクチュエータ75には、油圧式及び電気式の両方のアクチュエータ形式が含まれる。
【0041】
制御部50において「変速指令」が発せられると、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力して、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する。なお、「変速指令」とは、後述の車両の走行状態が、図6に示される「変速線」を越えた場合になされる指令であり、前記「変速線」の変速段に変更させるための指令である。なお、ユーザが、所望の変速段を選択するために、シフトレバー(不図示)を操作した場合にも「変速指令」が発せられる。
【0042】
(モータドライバの構成)
図5を用いて、図4に示される、第1モータドライバA61、第1モータドライバB62、第2モータドライバA63、第2モータドライバB64の構成について説明する。なお、第1モータドライバA61、第1モータドライバB62、第2モータドライバA63、第2モータドライバB64は、同一の構造であり、図5においてモータドライバ60と表されている。また、図4に示される、第1モータA71、第1モータB72、第2モータA73、第2モータB74もまた、同一の構造であり、図5においてモータ70と表されている。また、第1電流検出部A91、B92、第2電流検出部A93、B94もまた、同一の構造であり、図5において電流検出部90と表されている。なお、本実施形態では、モータ70は、直流ブラシモータである。
【0043】
本実施形態では、モータドライバ60は、4つのスイッチSW1〜SW4からなる周知のHブリッジ回路である。本実施形態では、スイッチSW1〜SW4は、電界効果トランジスター(FET)である。モータドライバ60は、上述のスイッチSW1〜SW4を備え、このうちハイサイド側の各スイッチSW1、SW2のソースは電源81に接続され、ローサイド側の各スイッチSW3、SW4のドレインはグランド電位82に接続されている。また、ハイサイド側のスイッチSW1のドレインはローサイド側のスイッチSW3のドレインと接続されるとともに、その接続点(即ちHブリッジ回路の一方の中点60a)は、モータ70における一方の端子(ブラシ)70aに接続されている。同様に、ハイサイド側における他方のスイッチSW2のドレインはローサイド側における他方のスイッチSW4のソースに接続されるとともに、その接続点(即ちHブリッジ回路の他方の中点60b)は、モータ70における他方の端子(ブラシ)70bに接続されている。
【0044】
そして、各スイッチSW1〜SW4のゲートには、それぞれ、制御部50から「モータドライバ制御信号」(ゲート信号)ST1〜ST4が入力され、各スイッチSW1〜SW4は、それぞれ自身のゲートに入力される「モータドライバ制御信号」によってON・OFFされる。具体的には、各スイッチSW1〜SW4は、「モータドライバ制御信号」がHレベルの時にONされ、Lレベルの時にOFFされる。上述の実施形態では、スイッチSW1〜SW4は、電界効果トランジスターであるが、バイポーラトランジスタ等のトランジスター等やリレーで構成しても差し支え無い。
【0045】
モータドライバ60からモータ70に入力される電流を検出する電流検出部90が設けられている。本実施形態では、電流検出部90は、モータ70のいずれかの端子70a、70bと、Hブリッジ回路のいずれかの中点60a、60b間に直列に接続されたシャント抵抗90aと、シャント抵抗90aの両端電位を検出する電位検出部90bとから構成されている。電位検出部90bで検出されたシャント抵抗90aの両端電位は制御部50に出力され、当該両端電位に基づいて、制御部50がモータドライバ60からモータ70に入力される電流を常時演算する。なお、電流検出部90が配設されている位置は、上述した位置に限定されず、例えば、モータドライバ60とグランド電位82の間や、電源81とモータドライバ60との間であっても差し支え無い。
【0046】
制御部50は、Hレベル信号とLレベル信号からなる「モータドライバ制御信号」をモータドライバ60のスイッチSW1〜SW4に出力することにより、モータドライバ60からモータ70に駆動電流を供給させ、モータ70を正転又は逆転させる。具体的には、制御部50が、スイッチSW1及びスイッチSW4にHレベル信号を出力するとともに、制御部50がスイッチSW2及びSW3にLレベル信号を出力すると、スイッチSW1及びスイッチSW4がONされ、電源81からの駆動電流がモータドライバ60を介してモータ70の端子70aに供給され、モータ70は正転する。なお、モータ70の正転時には、端子70aに供給された駆動電流は、端子70bからグランド電位82に流れる。この際に、電流検出部90において、正(+)方向の電流値が検出される。
【0047】
一方で、制御部50が、スイッチSW2及びスイッチSW3にHレベル信号を出力するとともに、制御部50からスイッチSW1及びSW4にLレベル信号を出力すると、スイッチSW2及びスイッチSW3がONされ、電源81からの駆動電流がモータドライバ60を介してモータ70の端子70bに供給され、モータ70は逆転する。モータ70の逆転時には、端子70bに供給された駆動電流は、端子70aからグランド電位82に流れる。この際に、電流検出部90において、負(−)方向の電流値が検出される。
【0048】
(デュアルクラッチ式自動変速機のプレシフト動作及び変速動作)
図1及び図6を用いて、デュアルクラッチ式自動変速機1のプレシフト動作及び変速動作の説明をする。図6は、デュアルクラッチ式自動変速機1の「変速マップデータ」を表した図である。図6に示されるように、「変速マップデータ」は、アクセル開度と車速との関係を表した線である「プレシフト線」及び「変速線」を複数有している。車両の走行状態が「プレシフト線」を越えると、「プレシフト指令」が発せられ、プレシフトが実行される。また、車両の走行状態が「変速線」を越えると、「変速指令」が発せられ、変速が実行される。図6に示されるように、増速方向に向かって(速度が低い方から速度が高い方に向かって)順に、第2速アッププレシフト線、第2速アップ変速線、第3速アッププレシフト線、第3速アップ変速線が設定されている。また、減速方向に向かって(速度が高い方から低い方に向かって)順に、第2速ダウンプレシフト線、第2速ダウン変速線、第1速ダウンプレシフト線、第1速ダウン変速線が設定されている。これ以上の変速段(第3速〜第7速)についても、同様に、「変速線」及び「プレシフト線」が設定されている。
【0049】
「プレシフト線」は、プレシフトが実行される際に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段へのプレシフトの要否を判断するための基準線である。図6に示されるように、「アッププレシフト線」は増速方向に向かってこれに対応する「アップ変速線」の手前側に存在する。一方で、「ダウンプレシフト線」は減速方向に向かってこれに対応する「ダウン変速線」の手前側に存在する。制御部50が、記憶装置52に記憶されている「アクセル開度情報」と「車速情報」を参照し、当該「アクセル開度情報」と「車速情報」からなる車両の走行状態から「プレシフト線」を越えたと判断した場合には、制御部50は「プレシフト指令」を発し、プレシフトを実行する。具体的には、「プレシフト指令」が発せられると、制御部50は、モータドライバ61〜64のいずれかに、これに対応するモータ71〜74に駆動電流を供給させる「モータドライバ制御信号」を出力し、第1選択機構A30−1、B30−2、第2選択機構A30−3、B30−4のいずれかを作動させ、第1変速機構A20−1、B20−2及び第2変速機構A20−3、B20−4のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の「変速部材」を選択させることにより変速段を形成し、プレシフトを実行する。例えば、車両が第2速段で走行中に、第3速アッププレシフト線を越えた場合には(図6のjの領域からkの領域に遷移した場合に)、第3速段への「プレシフト指令」が発せられ、第3速段が形成される。
【0050】
「変速線」は車両の変速時に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段への変速の要否を判断するための基準線である。制御部50が、記憶装置52に記憶されている「アクセル開度情報」と「車速情報」を参照し、当該「アクセル開度情報」と「車速情報」からなる車両の走行状態から「変速線」を越えたと判断した場合には、制御部50は「変速指令」を発し、変速を実行する。具体的には、「変速指令」が発せられると、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて、変速する。例えば、車両が第1速段で走行中に、第2速アップ変速線を越えた場合には(図6のhの領域からiの領域に遷移した場合)、第1速段から第2速段への「変速指令」が発せられ、第1クラッチC1から第2クラッチC2に繋ぎ替えられ、変速し、車両は第2速段で走行する。
【0051】
<不作動状態→第1速段>
不作動状態ではデュアルクラッチCの第1,第2クラッチC1,C2はともに解除されており、各選択機構30−1〜30−4は中立位置にある。
停車状態において原動機10を始動させた場合にも、上記不作動状態と同様の状態を維持する。そして、停車状態において原動機10を始動させた後に、デュアルクラッチ式自動変速機1のシフトレバー(図示省略)を前進位置とすれば、制御部50は第1モータドライバA61に、「モータドライバ制御信号」を出力して、第1モータA71を回転させて、第1選択機構A30−1の第1速係合部材S1を係合させて第1速段を形成する。この状態でアクセル開度が増大して原動機10が所定の低回転速度を越えれば、制御部50はアクセル開度に合わせて、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、デュアルクラッチCの第1クラッチC1の係合力を徐々に増加させる。これにより駆動軸11の回転駆動力は第1クラッチC1から第1入力軸15、第1速変速ギヤ列21a,21b、第1選択機構A30−1の第1速係合部材S1、第1副軸17、第1リダクション変速ギヤ列28a,28bを介して出力軸19に伝達され、自動車は第1速段で走行し始める。
【0052】
<第2速段へのアッププレシフト>
車両の車速が増大する等して、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、図6に示される第2速アッププレシフト線を越えたと判断した場合には(mの領域からnの領域に遷移したと判断した場合には)、制御部50は、第2モータドライバA63に「モータドライバ制御信号」を出力し、第2モータA73を回転させ、第2選択機構A30−3の第2速係合部材S2を係合させて第2速段を形成する。
【0053】
<第1速段→第2速段へのアップ変速>
車両の車速が増大する等して、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、図6に示される第2速アップ変速線を越えたと判断した場合には(hの領域からiの領域に遷移したと判断した場合には)、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力し、デュアルクラッチCを第1クラッチC1から第2クラッチC2側に繋ぎ替えて、第2速段にアップ変速する。
【0054】
同様にして、制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「変速マップデータ」の「第3速〜4速アッププレシフト線」「第4速〜第1速ダウンプレシフト線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、第1モータドライバA61や第2モータドライバA63に「モータドライバ制御信号」を出力して、第1速段〜第4速段を形成する。
また、制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「変速マップデータ」の「第3速〜第4速アップ変速線」、「第4速〜第1速ダウン変速線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、第1クラッチC1と第2クラッチC2を交互に繋ぎ替えて、第1速段〜第4速段での走行が行われるようにする。
【0055】
<第5速へのアッププレシフト又はダウンプレシフト>
「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、第5速アッププレシフト線又は第5速ダウンプレシフト線を越えたと判断した場合には、制御部50は、第1モータドライバB62に「モータドライバ制御信号」を出力して、第1モータB72を回転させ、第1選択機構B30−2の第5速係合部材S5を係合させ第1入力軸15と出力軸19を直結してアッププレシフト又はダウンプレシフトを実行し、第5速段を形成する。
【0056】
<第5速へのアップ変速>
「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、「第5速アップ変速線」又は「第5速ダウン変速線」を越えたと判断した場合には、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力し、デュアルクラッチCを第2クラッチC2から第1クラッチC1に繋ぎ替えて、第5速段に変速する。この場合は駆動軸11の回転駆動力は第1クラッチC1から第1入力軸15、第1選択機構B30−2の第5速係合部材S5を介して出力軸19に伝達される。
【0057】
<第4速段→第6速へのアッププレシフト>
車速が増大する等して、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、「第6速アッププレシフト線」を越えたと判断した場合には、制御部50は、第2モータドライバA63に「モータドライバ制御信号」を出力して、第2モータA73を回転させ、第2選択機構A30−3を中立状態にする。そして、制御部50は、第2モータドライバB64に「モータドライバ制御信号」を出力して、第2モータB74を回転させ、第2選択機構B30−4の第6速係合部材S6を係合させてアッププレシフトを実行し、第6速段を形成する。
【0058】
同様にして制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「第7速アッププレシフト線」「第6速ダウンプレシフト線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、第2モータドライバA63や第1モータドライバB62に「モータドライバ制御信号」を出力して、第6速段〜第7速段を形成する。
そして、制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「変速マップデータ」の「第6速、第7速アップ変速線」、「第6速ダウン変速線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、第1クラッチC1と第2クラッチC2を交互に繋ぎ替えて、第6速段や第7速段での走行が行われるようにする。なお、第6速段及び第7速段においては、出力軸19の回転速度は駆動軸11よりも増速される。
【0059】
(本発明の概要)
以下、本発明によるデュアルクラッチ式自動変速機1について詳細に説明する。ある変速段で走行中に、実際に変速が実行されないにも関わらず、プレシフトが繰り返される場合がある。例えば、図7に示されるように、車両が第2速段で走行中に、アクセル開度や車速に基づく車両の走行状態が、第1速ダウン変速線や第3速アップ変速線を越えること無く、第1速プレシフト線や第3速プレシフト線を繰り返し越える場合に、プレシフトが繰り返される。このようなプレシフトが繰り返される現象は、車両の車速の変化により第1速ダウンプレシフト線や第3速アッププレシフト線を越える場合(図7のα)や、アクセル開度の変化により第1速ダウンプレシフト線や第3速アッププレシフト線を越える場合(図7のβ)や、或いは、これらの組み合わせにより発生する。
【0060】
このようなプレシフトの繰り返しによるモータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止するために、本発明では、図8に示されるように、制御部50は、各モータ71〜74に供給される駆動電流に基づき、例えば前記駆動電流を積算することにより、所定の演算期間の駆動電流の量である「駆動電流量」をそれぞれ移動演算し、「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合に、「プレシフト禁止制御」に切り替える。「プレシフト禁止制御」に切り替えられた場合には、例え「プレシフト指令」が発せられたとしても、「プレシフト」の実行が禁止され、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱が防止される。一方で、「プレシフト」が禁止されることにより、「駆動電流量」が上限値を下回った場合には、「プレシフト許可制御」切り替えられ、「プレシフト指令」が発せられた場合に、「プレシフト」が実行される。
【0061】
(プレシフト許可・禁止切替処理の説明)
次に、上述した本発明のデュアルクラッチ式自動変速機1の作動について図9〜図13を参照して説明する。デュアルクラッチ式自動変速機1は作動状態となると、図9に示される「プレシフト許可・禁止切替処理」を順次実行する。まず、ステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50が、各電流検出部91〜94でそれぞれ検出された信号に基づき、各モータドライバ61〜64から各モータ71〜74に供給される「駆動電流」を算出する。そして、制御部50は、算出された「駆動電流」に基づき、所定の「演算期間」の間における駆動電流の量である「駆動電流量」をそれぞれ演算する。本実施形態では、図10に示されるように、制御部50は、負方向の駆動電流を正方向に反転させ(図10の(B))、所定の「演算期間」の間で、駆動電流を積算して(駆動電流の電流値を前記「演算期間」の間で時間積分して)「駆動電流量」を演算する(図10の(C))。或いは、図11に示されるように、制御部50は、駆動電流の電流値が所定の電流値(判定電流値)以上となっている時間(T1〜T8)を、所定の「演算期間」の間で、計測し(図11の(A))、当該時間(T1〜T8)を積算することにより(図11の(B))、「駆動電流量」を演算(図11の(C))することにしても差し支え無い。本実施形態では、所定の期間である「演算期間」を経過した場合には、それ以降は、図12の(B)に示されるように、ある時刻に到る直前の「演算期間」の駆動電流に基づき、上記した演算方法で移動演算(移動積算)することにより、「駆動電流量」を演算する。このため、図12の(B)に示されるように、各モータ71〜74に駆動電流が供給されなかった場合には、演算されている「駆動電流量」から、一番昔の時刻に積算された「駆動電流量」が順次除かれ、結果として、「駆動電流量」が減少する。
【0062】
次に、ステップ104において、「駆動電流量上限判定手段」である制御部50は、ステップ102において演算された「駆動電流量」が、上限値を越えているか否かを判定する。この上限値は、各モータドライバ61〜64や各モータ71〜74が昇温により許容される温度上限に相当する「駆動電流量」である。制御部50が、「駆動電流量」が上限値を越えている判定した場合には(ステップ104で「YES」と判定)、プログラムをステップ108に進め、一方で、「駆動電流量」が上限値を越えていない判定した場合には(ステップ104で「NO」と判定)、プログラムをステップ106に進める。
【0063】
ステップ106において、制御部50は、プレシフト許可フラグFに値1を設定して記憶装置52に記憶させ、「プレシフト許可制御」に切り替え、プログラムをステップ102に戻す。
ステップ108において、制御部50は、プレシフト許可フラグFに値0を設定して記憶装置52に記憶させ、「プレシフト禁止制御」に切り替え、プログラムをステップ102に戻す。
【0064】
(プレシフト・変速制御)
「プレシフト・変速制御」について、図13を用いて説明する。デュアルクラッチ式自動変速機1は作動状態となると、まず、ステップ111において、「プレシフト禁止手段」である制御部50は、記憶装置52に記憶されているプレシフト許可フラグFを参照し、プレシフトが許可されているか、禁止されているかのいずれかを判断する。制御部50が、プレシフト許可フラグFが1であると判断し、プレシフトが許可されていると判断した場合には(ステップ111で「YES」と判断)、プログラムをステップ112に進め、順次「プレシフト許可制御」(ステップ1112〜117)を実行する。一方で、制御部50が、プレシフト許可フラグFが0であると判断し、プレシフトが禁止されていると判断した場合には(ステップ111で「NO」と判断)、プログラムをステップ121に進め、順次「プレシフト禁止制御」(ステップ121〜124)を実行する。
【0065】
ステップ112において、制御部50は、「プレシフト指令」が発せられたか否かを判断する。「プレシフト指令」は、上述したように、車両の走行状態が「プレシフト線」(図6に示す)を越えたと制御部50が判断した場合に発せられる。制御部50が、「プレシフト指令」が発せられたと判断した場合には(ステップ112で「YES」と判断)、プログラムをステップ113に進め、一方で、「プレシフト指令」が発せられていないと判断した場合には(ステップ112で「NO」と判断)、プログラムをステップ114に進める。
【0066】
ステップ113において、制御部50は、モータドライバ61〜64のいずれかに「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74のいずれかを作動させ、「プレシフト」を実行し、プログラムをステップ114に進める。なお、このステップ113において、電流検出部91〜94のいずれかにおいてモータ71〜74に供給される駆動電流が検出され、この検出信号が制御部50に出力される。
【0067】
ステップ114において、制御部50は、「変速指令」が発せられたか否かを判断する。なお、「変速指令」は、上述したように、車両の走行状態が「変速線」(図6に示す)を越えたと制御部50が判断した場合に発せられる。また、ユーザが、所望の変速段を選択するために、シフトレバー(不図示)を操作した場合にも「変速指令」が発せられる。制御部50が、「変速指令」が発せられたと判断した場合には(ステップ114で「YES」と判断)、プログラムをステップ115に進める。一方で、制御部50が、「変速指令」が発せられていないと判断した場合には(ステップ114で「NO」と判断)、プログラムをステップ111に戻す。
【0068】
ステップ115において、制御部50は、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致しているか否かを判断し、「シフト」する必要が有るか否かを判断する。なお、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致していない例としては、ステップ114の変速指令が、ユーザがシフトレバー(不図示)の操作によるものであって、ユーザが選択した変速段と、「プレシフト」により成立している変速段が一致していない場合が含まれる。制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致し、「シフト」する必要が無いと判断した場合には(ステップ115で「NO」と判断)、プログラムをステップ117に進める。一方で、制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致していない判断し、「シフト」する必要があると判断した場合には(ステップ115で「YES」と判断)、プログラムをステップ116に進める。
【0069】
ステップ116において、制御部50は待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段を「変速指令」の変速段と一致させるように、モータドライバ61〜64に「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74を作動させて、選択機構30−1〜30−4に変速段を形成させる「シフト」を実行する。ステップ116が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ117に進める。
【0070】
ステップ117において、制御部50は、変速を実行する。具体的には、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力して、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する。ステップ117が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ111に戻す。
【0071】
ステップ121において、制御部50は、「変速指令」が発せられたか否かを判断し、「変速指令」が発せられたと判断した場合には(ステップ121で「YES」と判断)、プログラムをステップ122に進める。一方で、制御部50が、「変速指令」が発せられていないと判断した場合には(ステップ121で「NO」と判断)、プログラムをステップ111に戻す。
【0072】
ステップ122において、制御部50は、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致しているか否かを判断し、「シフト」する必要が有るか否かを判断する。制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致し、「シフト」する必要が無いと判断した場合には(ステップ122で「NO」と判断)、プログラムをステップ124に進める。一方で、制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致していない判断し、「シフト」する必要があると判断した場合には(ステップ122で「YES」と判断)、プログラムをステップ123に進める。
【0073】
ステップ123において、制御部50は待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段を「変速指令」の変速段と一致させるように、モータドライバ61〜64に「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74を作動させて、選択機構30−1〜30−4に変速段を形成させる「シフト」を実行する。ステップ123が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ124に進める。
【0074】
ステップ124において、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力して、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する。ステップ124の処理が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ111に戻す。
【0075】
上述した説明から明らかなように、本発明のデュアルクラッチ式自動変速機1には、図4に示されるように、第1モータA71、B72と第2モータA73、B74に供給される駆動電流をそれぞれ検出する第1電流検出部91、92(第2電流検出手段)と第2電流検出部93、94(第1電流検出手段)が設けられている。そして、図9のステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、第1電流検出部91、92及び第2電流検出部93、94でそれぞれ検出された「駆動電流」に基づき、所定の演算期間の間における「駆動電流」の量である「駆動電流量」をそれぞれ演算する。次に、図9に示されるステップ104において、「駆動電流量上限判定手段」である制御部50は、「駆動電流量」が上限値を越えたか否かを判定し、前記「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合には(ステップ104で「YES」と判定)、ステップ108において制御部50は「プレシフト禁止制御」に切り替え、「プレシフト禁止手段」である制御部50は、図13のステップ111、121〜124の処理を実行することにより、「プレシフト」を禁止する。従って、それぞれのモータ71〜74の「駆動電流量」が上限値を越えた場合には、「プレシフト」が禁止される。このように、各モータドライバ61〜64から各モータ71〜74に供給される「駆動電流」の「駆動電流量」と、各モータドライバ61〜64と各モータ71〜74の発熱との相関性に基づき、演算期間における「駆動電流量」の多寡によって、各モータドライバ61〜64と各モータ71〜74の過熱を事前に検出することしている。そして、「駆動電流量上限判定手段」である制御部50が、「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合には、「プレシフト禁止手段」である制御部50によって、「プレシフト」が禁止される。これにより、変速機構20−1〜20−4の選択機構30−1〜30−4を作動させるモータ71〜74や当該モータ71〜74に「駆動電流」を供給するモータドライバ61〜64の過熱を防止することができるデュアルクラッチ式自動変速機1を提供することができる。
【0076】
また、図9に示されるステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、第1電流検出部A91、B92(第1電流検出手段)、及び第2電流検出部A93、B94(第2電流検出部)でそれぞれ検出された「駆動電流」を積算することによりそれぞれ「駆動電流量」を演算する。これにより、精度高く、「駆動電流量」を演算することができ、より精度高く、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を事前に検知することができ、より確実に、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止することができる。
【0077】
或いは、図9に示されるステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、第1電流検出部A91、B92(第1電流検出手段)、及び第2電流検出部A93、B94(第2電流検出部)でそれぞれ検出された「駆動電流値」が、所定の電流値(判定電流値)以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより「駆動電流量」を演算する。これにより、制御部50による演算の負荷が過大とならずに、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止することができる。
【0078】
また、図9に示されるステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、図12に示されるように、ある時刻に到る直前の「演算期間」の「駆動電流」を移動演算(移動積算)することにより、「駆動電流量」を演算する。ここで、一番昔の時刻にモータドライバ61〜64からモータ71〜74に供給された「駆動電流」によるモータドライバ61〜64やモータ71〜74の発熱は順次放熱され、最新時刻にモータドライバ61〜64からモータ71〜74に供給された「駆動電流」によるモータドライバ61〜64やモータ71〜74の発熱は順次蓄熱される。上述したように、ステップ102において、制御部50は、検出された「駆動電流」を移動演算するので、一番昔の時刻に加えられた「駆動電流量」は積算されている「駆動電流量」から順次削除されるとともに、最新時刻の「駆動電流量」が積算されている「駆動電流量」に順次加算される。これにより、上述したように、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の放熱分と蓄熱分に相当する「駆動電流量」が、積算されている「駆動電流量」にリアルタイムで反映される。このため、より精度高く、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を事前に検知することができ、より確実に、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止することができる。
【0079】
上述した実施形態では、待機側の変速機構20−1〜20−4において、常時変速段が形成されている実施形態について本発明を説明したが、待機側の変速機構20−1〜20−4において、通常は中立状態で、「プレシフト線」を越えてはじめて、変速段が形成される実施形態にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。この実施形態の場合には、車両の走行状態がある特定の「プレシフト線」を繰り返し越え、待機側の変速機構20−1〜20−4が変速段の形成と中立状態の形成を頻繁に繰り返してしまう状況において、「駆動電流量」が上限値を越えたと判定された場合(ステップ104で「YES」と判定)は、「プレシフト禁止制御」に切り替わる。このため、この実施形態の場合にも、ある特定のモータ71〜74やこれに駆動電流を供給するモータドライバ61〜64の過熱が防止される。
【0080】
また、上述した実施形態では、電流検出部90(電流検出手段)は、モータ70のいずれかの端子70a、70bと、Hブリッジ回路のいずれかの中点60a、60b間に直列に接続されたシャント抵抗90aと、シャント抵抗90aの両端電位を検出する電位検出部90bとから構成されている。しかし、モータドライバ60からモータ70に供給される駆動電流を検出する電流検出手段はこれに限定されず、電流検出手段を図5に示される各スイッチSW1〜4のゲートに入力されるゲート信号(「モータドライバ制御信号」)を検出するゲート信号検出部で構成し、ケート信号検出部で検出されたゲート信号に基づき、駆動電流を検出する構成にしても差し支え無い。
【0081】
また、上述した実施形態では、出力部材としてデファレンシャルギヤ(図示省略)に回転駆動力を伝達する出力軸19を有するFR用のデュアルクラッチ式自動変速機1について本発明を説明したが、デファレンシャルギヤが出力部材であるFF用のデュアルクラッチ式自動変速機にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0082】
また、上述した実施形態では、第1選択機構A30−1、B30−2、第2選択機構A30−3、B30−4をそれぞれ作動させる第1モータA71、B72、第2モータA73、B74として、直流ブラシモータを用いた実施形態について本発明のデュアルクラッチ式自動変速機を説明したが、直流ブラシレスモータや交流モータを用いたデュアルクラッチ式自動変速機にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1:デュアルクラッチ式自動変速機
10:原動機、 11:駆動軸
15:第1入力軸、 16:第2入力軸
17:第1副軸、 18:第2副軸、 19:出力軸(出力部材)
20−1:第1変速機構A、 20−2:第1変速機構B
20−3:第2変速機構B、 20−4:第2変速機構B
30−1:第1選択機構A、 30−2:第1選択機構B
30−3:第2選択機構A、 30−4:第2選択機構B
40:シフトアクチュエータ機構
50:制御部(駆動電流量演算手段、駆動電流量上限判定手段、プレシフト禁止手段)
61:第1モータドライバA、 62:第1モータドライバB
63:第2モータドライバA、 64:第2モータドライバB
71:第1モータA、 72:第1モータB
73:第2モータA、 74:第2モータB
75:デュアルクラッチアクチュエータ
91:第1電流検出部A(第1電流検出手段)、 92:第1電流検出部B(第1電流検出手段)
93:第2電流検出部A(第2電流検出手段)、 94:第2電流検出部B(第2電流検出手段)
C:デュアルクラッチ、 C1,C2:クラッチ
L:クラッチハブ、 M:スリーブ、 N:シフトフォーク
O:シンクロナイザリング、 S1〜S7,SR:係合部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのクラッチを備えるデュアルクラッチ式自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動変速機の1つに、奇数段と偶数段の2系統に分かれた変速機構を有し、それぞれの変速機構に原動機からの回転駆動力を離脱係合するクラッチを有するいわゆるデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)が注目されている。このデュアルクラッチ式自動変速機では、車両の走行中に、回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速段を予め成立(プレシフト)させておき、変速指令が発せられた場合に、前記変速機構側のクラッチに繋ぎ替えることにより高速な変速を実現している。例えば第2速で走行している場合には、車両の走行状況に応じて第1速段又は第3速段が成立して待機している。プレシフトにより成立させるべき変速段は、特許文献1に示されるように、車速とアクセル開度の関係を表した複数段のプレシフト線を有するマップデータにより決定され、車両の走行状態が、前記プレシフト線を越えた場合に、前記プレシフト線の変速段に決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236634号公報(第7頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したようなプレシフトを行うことにより、変速指令に対して変速を速やかに完了できる反面、車両の走行状態によっては、実際に変速指令が発せられる前に、頻繁にプレシフトが繰り返され、変速機構のギヤ選択機構を作動させるモータや、このモータに駆動電流を供給するモータドライバが過熱してしまうという問題があった。モータやモータドライバが過熱すると、モータやモータドライバの動作不良が生じるおそれや、モータやモータドライバの寿命が縮まるおそれがあるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、変速機構の選択機構を作動させるモータや当該モータに駆動電流を供給するモータドライバの過熱を防止することができるデュアルクラッチ式自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、原動機の回転駆動力が伝達される駆動軸と、同軸に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、前記駆動軸の回転駆動力を前記第1入力軸に離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸の回転駆動力を前記第2入力軸に離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うデュアルクラッチアクチュエータと、出力部材と、前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材と、これら複数の奇数段変速部材から一つの奇数段変速部材を選択する第1選択機構とを有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記選択された奇数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材と、これら複数の偶数段変速部材から一つの偶数段変速部材を選択する第2選択機構とを有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記選択された偶数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、前記第1選択機構を作動させる第1モータと、前記第2選択機構を作動させる第2モータと、前記第1モータに駆動電流を供給する第1モータドライバと、前記第2モータに駆動電流を供給する第2モータドライバと、前記第1モータドライバから前記第1モータに供給される駆動電流を検出する第1電流検出手段と、前記第2モータドライバから前記第2モータに供給される駆動電流を検出する第2電流検出手段と、プレシフト指令が発せられると、前記第1モータドライバ又は前記第2モータドライバに前記第1モータ又は前記第2モータに駆動電流を供給させるモータドライバ制御信号を出力し、前記第1選択機構又は前記第2選択機構を作動させて、前記第1変速機構と前記第2変速機構のうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速部材を選択させるプレシフトを実行し、変速指令が発せられると、前記デュアルクラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1クラッチと前記第2クラッチのうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する制御部と、を備え、前記制御部に、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流に基づき、所定の演算期間の間における駆動電流の量である駆動電流量をそれぞれ演算する駆動電流量演算手段と、前記駆動電流量演算手段が演算した駆動電流量が、上限値を越えたか否かを判定する駆動電流量上限判定手段と、前記駆動電流量上限判定手段が、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合に、前記プレシフトを禁止するプレシフト禁止手段と、を設けたことである。
【0007】
請求項2に係る発明によると、請求項1に係る発明において、前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流を積算することにより駆動電流量をそれぞれ演算することである。
【0008】
請求項3に係る発明によると、請求項1に係る発明において、前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流値が、所定の電流値以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより駆動電流量を演算することである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によると、駆動電流量演算手段は、第1電流検出手段及び第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流に基づき、所定の演算期間の間における駆動電流の量である駆動電流量をそれぞれ演算し、駆動電流量上限判定手段は、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合に、プレシフト禁止手段は、プレシフトを禁止する。従って、それぞれのモータの前記駆動電流量が上限値を越えた場合には、プレシフトが禁止される。このように、各モータドライバから各モータに供給される駆動電流の駆動電流量と、各モータドライバと各モータの発熱との相関性に基づき、演算期間における駆動電流量の多寡によって、各モータドライバと各モータの過熱を事前に検出することしている。そして、駆動電流量上限判定手段が、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合には、プレシフト禁止手段によって、プレシフトが禁止される。これにより、変速機構の選択機構を作動させるモータや当該モータに駆動電流を供給するモータドライバの過熱を防止することができる。
【0010】
請求項2に係る発明によると、駆動電流量演算手段は、第1電流検出手段及び第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流を積算することにより駆動電流量をそれぞれ演算する。これにより、精度高く、駆動電流量を演算することができ、より精度高く、モータドライバやモータの過熱を事前に検知することができ、より確実に、モータドライバやモータの過熱を防止することができる。
【0011】
請求項3に係る発明によると、駆動電流量演算手段は、第1電流検出手段及び第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流値が、所定の電流値以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより駆動電流量を演算する。これにより、制御部の演算の負荷が過大とならずに、モータドライバやモータの過熱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】デュアルクラッチ式自動変速機1の全体構造を示すスケルトン図である。
【図2】選択機構の示す軸方向断面図である。
【図3】シフトアクチュエータ機構40を示す図である。
【図4】デュアルクラッチ式自動変速機の制御ブロック図である。
【図5】モータドライバの構成を示す図である。
【図6】デュアルクラッチ式自動変速機1の変速マップデータを表した図である。
【図7】車両が第2速段で走行中のデュアルクラッチ式自動変速機1の変速マップデータを表した図である。
【図8】本発明の概要を表した説明図である。
【図9】図4に示した制御部にて実行される制御プログラムであるプレシフト許可・禁止切替処理のフローチャートである。
【図10】駆動電流量の演算方法を表した説明図である。
【図11】駆動電流量の演算方法を表した説明図である。
【図12】駆動電流量演算手段による駆動電流の移動演算を表した説明図である。
【図13】図4に示した制御部にて実行される制御プログラムであるプレシフト・変速制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(デュアルクラッチ式自動変速機の構成)
以下、本発明のデュアルクラッチ式自動変速機を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示されるデュアルクラッチ式自動変速機1は、前進7段、後進1段のFR(フロントエンジン・リアドライブ方式)用の自動変速機である。このデュアルクラッチ式自動変速機1は、図1に示されるように、軸として、第1入力軸15、第2入力軸16、第1副軸17、第2副軸18、後進アイドル軸27e、及び、出力軸19を有している。なお、第1入力軸15や第2入力軸16に対して、出力軸19側を後方とする。
【0014】
第2入力軸16は、筒状に形成されており、第1入力軸15を同軸的に囲んで、第1入力軸15に対して相対回転可能に同心に配置されている。ただし、第1入力軸15の後端は、第2入力軸16の後端よりも突出する長さに形成されている。第1副軸17及び第2副軸18は、両入力軸15,16に対して平行に配置されている。後進アイドル軸27eは、第2副軸18に対して平行に配置されている。出力軸19(出力部材)は、第1入力軸15に対して後方に同軸(同心)に配置されている。出力軸19は、デファレンシャルギヤ(図示省略)に回転駆動力を伝達する。
【0015】
デュアルクラッチ式自動変速機1は、エンジンなどの原動機10により回転駆動されるデュアルクラッチCを有している。このデュアルクラッチCは、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを備えている。第1クラッチC1の入力側と第2クラッチC2の入力側は、それぞれ原動機10の回転駆動力が伝達される駆動軸11と連結されている。そして、第1クラッチC1の出力側は、第1入力軸15に連結されており、第2クラッチC2の出力側は、第2入力軸16に連結されている。第1クラッチC1は、デュアルクラッチアクチュエータ75(図4に示す)の動作により、その入力側と出力側が係合離脱され、駆動軸11の回転駆動力を第1入力軸15に離脱係合する。第2クラッチC2は、デュアルクラッチアクチュエータ75の動作により、その入力側と出力側が係合離脱され、駆動軸11の回転駆動力を第2入力軸16に離脱係合する。
【0016】
また、デュアルクラッチ式自動変速機1は、第1入力軸15と出力軸19との間に設けられた第1変速機構A20−1、B20−2、第2入力軸16と出力軸19との間に設けられた第2変速機構A20−3、B20−4、第1副軸17と出力軸19とを連結する第1リダクション変速ギヤ列28a,28bと、第2副軸18と出力軸19とを連結する第2リダクション変速ギヤ列29a,29bとを備えている。
【0017】
第1変速機構A20−1、B20−2は、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速ギヤ列(奇数段変速部材)21a、21b、23a、23b、26a、26bと、これら複数の奇数段ギヤ列から1つの奇数段ギヤ列を選択する第1選択機構A30−1、B30−2とから構成されている。第1変速機構A20−1、B20−2は、第1入力軸15の回転駆動力を選択された奇数段ギヤ列を介して出力軸19に伝達する。なお、本実施形態では、第5速段は、第1入力軸15と出力軸19とが直結されることにより形成される。つまり、第5速段の変速比は、”1”である。
【0018】
第1変速機構A20−1は、第1速変速ギヤ列21a,21bと、第3速変速ギヤ列23a,23bと、第1選択機構A30−1とから構成されている。第1速変速ギヤ列21a,21bは、第1入力軸15に固定された駆動ギヤ21a(後進段駆動ギヤ27aと共用)と、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ21bとから構成されている。第3速変速ギヤ列23a,23bは、第1入力軸15に固定された駆動ギヤ23aと、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ23bとから構成されている。
【0019】
第1選択機構A30−1は、図1及び図2に示されるように、クラッチハブLと、第1速係合部材S1と、第3速係合部材S3と、シンクロナイザリングOと、スリーブMとから構成されている。クラッチハブLは、第1速従動ギヤ21bと第3速従動ギヤ23bとの軸方向間となる第1副軸17にスプライン固定される。第1速係合部材S1及び第3速係合部材S3は、第1速ギヤ21b及び第3速従動ギヤ23bのそれぞれに、例えば圧入などにより固定される部材である。シンクロナイザリングOは、クラッチハブLと軸方向両側の各係合部材S1,S3との間にそれぞれ介在される。スリーブMは、クラッチハブLの外周に軸方向移動自在にスプライン係合される。
【0020】
この第1選択機構A30−1は、第1速従動ギヤ21b及び第3速従動ギヤ23bの一方と第1副軸17との係合を可能とし、かつ、第1速従動ギヤ21b及び第3速従動ギヤ23bの両者を第1副軸17に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0021】
第1選択機構A30−1のスリーブMは、図2に示す中立位置では係合部材S1,S3の何れにも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第1速従動ギヤ21b側にシフトされれば、スリーブMは先ずそちら側のシンクロナイザリングOにスプライン係合して第1副軸17と第1速従動ギヤ21bの回転を同期させ、次いで第1速係合部材S1の外周の外歯スプラインと係合し、第1速従動ギヤ21bを第1副軸17に相対回転不能に連結して第1速段を形成する。また、シフトフォークNによりスリーブMが第3速従動ギヤ23b側にシフトされれば、同様にして第1副軸17と第3速従動ギヤ23bの回転を同期させた後に、この両者を相対回転不能に連結して第3速段を形成する。
【0022】
第1変速機構B20−2は、第7速変速ギヤ列26a,26bと、第1選択機構B30−2とから構成されている。第7速変速ギヤ列26a,26bは、第1入力軸15の後部に遊転可能に設けられた駆動ギヤ26aと第2副軸18に固定された従動ギヤ26bとから構成されている。第1選択機構B30−2は、第1入力軸15の後部に遊転可能に設けられた第7速変速ギヤ列の駆動ギヤ26aと、これと同軸的に出力軸19の前端に固定された第1及び第2リダクション変速ギヤ列に共通な1個の従動ギヤ28b,29bの間に設けられている。
【0023】
第1選択機構B30−2は、第1選択機構A30−1と同一のシンクロメッシュ機構であり、クラッチハブLが第1入力軸15の後端に固定され、第5速係合部材S5と第7速係合部材S7がそれぞれ共通従動ギヤ28b,29bと第7速駆動ギヤ26aに固定されている点が異なっているだけである。第1選択機構B30−2は、中立位置では何れの係合部材S5,S7とも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第7速駆動ギヤ26a側にシフトされれば、第1入力軸15と第7速駆動ギヤ26aの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて第7速段が形成される。また、シフトフォークNによりスリーブMが共通従動ギヤ28b,29b側にシフトされれば、第1入力軸15と出力軸19の回転が同期された後に、この両者が直結されて第5速段が形成される。
【0024】
第2変速機構A20−3、B20−4は、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速ギヤ列(偶数段変速部材)22a、22b、24a、24b、25a、25bと、これら複数の偶数段ギヤ列から1つの偶数段ギヤ列を選択する第2選択機構A30−3、B30−4とから構成されている。第2変速機構A20−3、B20−4は、第2入力軸16の回転駆動力を選択された偶数段ギヤ列を介して出力軸19に伝達する。
【0025】
第2変速機構A20−3は、第2速変速ギヤ列22a,22bと、第4速変速ギヤ列24a,24bと、第2選択機構A30−3とから構成されている。第2速変速ギヤ列22a,22bは、第1変速機構A20−1の場合とほぼ同様、第2入力軸16に固定された駆動ギヤ22aと、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ22bとから構成されている。第4速変速ギヤ列24a,24bは、第2入力軸16に固定された駆動ギヤ24aと、第1副軸17に遊転可能に設けられた従動ギヤ24bとから構成されている。
【0026】
第2選択機構A30−3は、第2速従動ギヤ22b及び第4速従動ギヤ24bの一方と第1副軸17との係合を可能とし、かつ、第2速従動ギヤ22b及び第4速従動ギヤ24bの両者を第1副軸17に対して離脱する状態にすることができるシンクロメッシュ機構を構成している。
【0027】
第2選択機構A30−3は、第1選択機構A30−1とほぼ同じである。第1選択機構A30−1においては、第1速係合部材S1と第3速係合部材S3がそれぞれ第1速従動ギヤ21b及び第3速従動ギヤ21cに固定されているのに対して、第2選択機構A30−3においては、第2速係合部材S2と第4速係合部材S4がそれぞれ第2速従動ギヤ22b及び第4速従動ギヤ24bに固定されている点が相違する。
【0028】
この第2選択機構A30−3のスリーブMは、中立位置では何れの係合部材S2,S4とも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第2速従動ギヤ22b側にシフトされれば、スリーブMは第1副軸17と第2速従動ギヤ22bの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて第2速段が形成される。また、シフトフォークNによりスリーブMが第4速従動ギヤ24b側にシフトされれば、第1副軸17と第4速従動ギヤ24bの回転を同期させた後に、この両者を一体的に連結して第4速段を形成する。
【0029】
第2変速機構B20−4は、第6速変速ギヤ列25a,25bと、後進段変速ギヤ列27a,27b,27c,27dと、第2選択機構B30−4とから構成されている。第6速変速ギヤ列25a,25bは、第2入力軸16に固定された駆動ギヤ25aと、第2副軸18に遊転可能に設けられた従動ギヤ25bとから構成されている。後進段変速ギヤ列27a,27b,27c,27dは、第1入力軸15に固定された駆動ギヤ27a(第1速駆動ギヤ21aと共用)と、第2副軸18に遊転可能に設けられた従動ギヤ27dと、互いに一体形成され後進アイドル軸27eに遊転可能に設けられて駆動ギヤ27aと従動ギヤ27dを連結する1対のアイドルギヤ27b,27cとから構成されている。
【0030】
第2選択機構B30−4は、実質的に第1選択機構A30−1と同じ構造で、第6速従動ギヤ25b及び後進段従動ギヤ27dの一方と第2副軸18との係合を可能とし、かつ、第6速従動ギヤ25b及び後進段従動ギヤ27dの両者を第2副軸18に対して離脱する状態にすることができるシンクロメッシュ機構を構成している。
【0031】
第2選択機構B30−4のスリーブMは、中立位置では何れの係合部材S6,SRとも係合されていない。外周の環状溝に係合されたシフトフォークNによりスリーブMが第6速従動ギヤ25b側にシフトされれば、スリーブMは第2副軸18と第6速従動ギヤ25bの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて第6速段が形成される。また、シフトフォークNによりスリーブMが後進段従動ギヤ27d側にシフトされれば、第2副軸18と後進段従動ギヤ27dの回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて後進段が形成される。
【0032】
シフトフォークNを軸方向に移動させるシフトアクチュエータ機構40は、図3に示されるように、回転軸にウォームギヤ42が形成されたモータ70、ウォームギヤ42に噛合するウォームホイール43、ウォームホイール43に同心に一体的に形成されたピニオンギヤ44、ピニオンギヤ44に噛合するラック軸45を備えている。このラック軸45には、各シフトフォークNが一体に設けられている。つまり、それぞれのシフトアクチュエータ機構40のそれぞれのモータ70(図4に示されるモータ71〜74)が回転することで、そのモータ70に連結されているシフトフォークNが軸方向に移動する。このシフトアクチュエータ機構40は、ウォームギヤ42とウォームホイール43を用いているため、ウォームギヤ42からウォームホイール43への駆動力の伝達は行われるが、その逆は行われない。つまり、シフトアクチュエータ機構40は、逆戻り防止機能を有する。
【0033】
(デュアルクラッチ式自動変速機の制御ブロック)
図4を用いて、デュアルクラッチ式自動変速機1の制御ブロックについて説明する。デュアルクラッチ式自動変速機1は、当該デュアルクラッチ式自動変速機1を統括制御する制御部50(トランスミッションコントロールユニット(TCU)ともいう)を備えている。
【0034】
制御部50には、アクセル開度センサー55、車速センサー56、第1モータドライバA61、第1モータドライバB62、第2モータドライバA63、第2モータドライバB64、デュアルクラッチアクチュエータ75、第1電流検出部A91、第1電流検出部B92、第2電流検出部A93、第2電流検出部B94が接続されている。なお、アクセル開度センサー55は、制御部50とCAN(Controller Area Network)通信によって接続されたECU(Engine Control Unit)に接続されていても差し支え無い。この場合には、アクセル開度センサー55で検出された「アクセル開度情報」は、ECUを介して、制御部50に入力される。
【0035】
図4に示されるように、制御部50は、CPU51、記憶装置52、入出力インターフェース53を有している。なお、制御部50は、特許請求の範囲に記載の「駆動電流量演算手段」、「駆動電流量上限判定手段」「プレシフト禁止手段」に相当し得るものである。CPU51は、制御部50を制御する中央演算処理装置で、図略のシステムバスを介して記憶装置52や入出力インターフェース53に接続されている。記憶装置52は、いわゆるRAM、ROM、不揮発性メモリ等の記憶装置で、図略のシステムバスを介してCPU51に接続されている。ROMや不揮発性メモリには、CPU51を制御するシステムプログラムのほかに、後述する「プレシフト許可・禁止切替処理」、「プレシフト・変速制御」の処理を可能にする各種制御プログラムや、図6に示される後述の「変速マップデータ」が格納されている。RAMは前記プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。入出力インターフェース53は、アクセル開度センサー55、車速センサー56、第1モータドライバA61、B62、第2モータドライバA63、B64とCPU51とのデータのやり取りを仲介する装置で、システムバスに接続されている。
【0036】
アクセル開度センサー55は、原動機10の出力を調整するアクセル開度を検出するセンサーである。制御部50は、アクセル開度センサー55で検出されたアクセル開度を、「アクセル開度情報」として、記憶装置52に記憶させる。車速センサー56(車速検出部)は、出力軸19やタイヤホイール(図示省略)の回転速度を検出するセンサーである。この車速センサー56が検出した情報に基づき、制御部50は車両の車速を演算する。或いは、原動機10や駆動軸11の回転速度を検出する回転速度センサー及び選択されている変速段を検出する変速段検出センサーとから車速を検出するための車速検出部を構成し、これらセンサーが検出した情報に基づき、制御部50が車両の車速を演算することにしても差し支え無い。制御部50は、演算した車速を、「車速情報」として記憶装置52に記憶させる。
【0037】
第1モータA71、第1モータB72、第2モータ73A、第2モータB74は、上述した図3に示されるそれぞれのシフトアクチュエータ機構40を構成するそれぞれのモータ70である。第1モータA71は、第1モータドライバA61から供給される駆動電流により作動し、第1選択機構A30−1を作動させる。第1モータB72は、第1モータドライバB62から供給される駆動電流により作動し、第1選択機構B30−2を作動させる。第2モータA73は、第2モータドライバA63から供給される駆動電流により作動し、第2選択機構A30−3を作動させる。第2モータB74は、第2モータドライバB64から供給される駆動電流により作動し、第2選択機構B30−4を作動させる。
【0038】
後述する「プレシフト指令」が発せられた場合には、制御部50は、モータドライバ61〜64のいずれかに「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74のいずれかを作動(回転)させて、選択機構30−1〜30−4のいずれかを作動させることにより、第1変速機構A20−1、B20−2と第2変速機構A20−3、B20−4のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されていない側(待機側)の変速機構20−1〜20−4のギヤ列(変速部材)を選択させ、変速段を形成する「プレシフト」を実行する。なお、「プレシフト指令」とは、車両の走行状態が、図6に示される「プレシフト線」を越えた場合になされる指令であり、「プレシフト線」の変速段を形成させるための指令である。
【0039】
第1電流検出部A91、B92(第1電流検出手段)、第2電流検出部A93、B94(第2電流検出手段)は、それぞれ各モータドライバ61〜64から各モータ71〜74に供給される駆動電流を検出するものである。
【0040】
デュアルクラッチアクチュエータ75は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合離脱動作を行うものである。デュアルクラッチアクチュエータ75には、油圧式及び電気式の両方のアクチュエータ形式が含まれる。
【0041】
制御部50において「変速指令」が発せられると、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力して、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する。なお、「変速指令」とは、後述の車両の走行状態が、図6に示される「変速線」を越えた場合になされる指令であり、前記「変速線」の変速段に変更させるための指令である。なお、ユーザが、所望の変速段を選択するために、シフトレバー(不図示)を操作した場合にも「変速指令」が発せられる。
【0042】
(モータドライバの構成)
図5を用いて、図4に示される、第1モータドライバA61、第1モータドライバB62、第2モータドライバA63、第2モータドライバB64の構成について説明する。なお、第1モータドライバA61、第1モータドライバB62、第2モータドライバA63、第2モータドライバB64は、同一の構造であり、図5においてモータドライバ60と表されている。また、図4に示される、第1モータA71、第1モータB72、第2モータA73、第2モータB74もまた、同一の構造であり、図5においてモータ70と表されている。また、第1電流検出部A91、B92、第2電流検出部A93、B94もまた、同一の構造であり、図5において電流検出部90と表されている。なお、本実施形態では、モータ70は、直流ブラシモータである。
【0043】
本実施形態では、モータドライバ60は、4つのスイッチSW1〜SW4からなる周知のHブリッジ回路である。本実施形態では、スイッチSW1〜SW4は、電界効果トランジスター(FET)である。モータドライバ60は、上述のスイッチSW1〜SW4を備え、このうちハイサイド側の各スイッチSW1、SW2のソースは電源81に接続され、ローサイド側の各スイッチSW3、SW4のドレインはグランド電位82に接続されている。また、ハイサイド側のスイッチSW1のドレインはローサイド側のスイッチSW3のドレインと接続されるとともに、その接続点(即ちHブリッジ回路の一方の中点60a)は、モータ70における一方の端子(ブラシ)70aに接続されている。同様に、ハイサイド側における他方のスイッチSW2のドレインはローサイド側における他方のスイッチSW4のソースに接続されるとともに、その接続点(即ちHブリッジ回路の他方の中点60b)は、モータ70における他方の端子(ブラシ)70bに接続されている。
【0044】
そして、各スイッチSW1〜SW4のゲートには、それぞれ、制御部50から「モータドライバ制御信号」(ゲート信号)ST1〜ST4が入力され、各スイッチSW1〜SW4は、それぞれ自身のゲートに入力される「モータドライバ制御信号」によってON・OFFされる。具体的には、各スイッチSW1〜SW4は、「モータドライバ制御信号」がHレベルの時にONされ、Lレベルの時にOFFされる。上述の実施形態では、スイッチSW1〜SW4は、電界効果トランジスターであるが、バイポーラトランジスタ等のトランジスター等やリレーで構成しても差し支え無い。
【0045】
モータドライバ60からモータ70に入力される電流を検出する電流検出部90が設けられている。本実施形態では、電流検出部90は、モータ70のいずれかの端子70a、70bと、Hブリッジ回路のいずれかの中点60a、60b間に直列に接続されたシャント抵抗90aと、シャント抵抗90aの両端電位を検出する電位検出部90bとから構成されている。電位検出部90bで検出されたシャント抵抗90aの両端電位は制御部50に出力され、当該両端電位に基づいて、制御部50がモータドライバ60からモータ70に入力される電流を常時演算する。なお、電流検出部90が配設されている位置は、上述した位置に限定されず、例えば、モータドライバ60とグランド電位82の間や、電源81とモータドライバ60との間であっても差し支え無い。
【0046】
制御部50は、Hレベル信号とLレベル信号からなる「モータドライバ制御信号」をモータドライバ60のスイッチSW1〜SW4に出力することにより、モータドライバ60からモータ70に駆動電流を供給させ、モータ70を正転又は逆転させる。具体的には、制御部50が、スイッチSW1及びスイッチSW4にHレベル信号を出力するとともに、制御部50がスイッチSW2及びSW3にLレベル信号を出力すると、スイッチSW1及びスイッチSW4がONされ、電源81からの駆動電流がモータドライバ60を介してモータ70の端子70aに供給され、モータ70は正転する。なお、モータ70の正転時には、端子70aに供給された駆動電流は、端子70bからグランド電位82に流れる。この際に、電流検出部90において、正(+)方向の電流値が検出される。
【0047】
一方で、制御部50が、スイッチSW2及びスイッチSW3にHレベル信号を出力するとともに、制御部50からスイッチSW1及びSW4にLレベル信号を出力すると、スイッチSW2及びスイッチSW3がONされ、電源81からの駆動電流がモータドライバ60を介してモータ70の端子70bに供給され、モータ70は逆転する。モータ70の逆転時には、端子70bに供給された駆動電流は、端子70aからグランド電位82に流れる。この際に、電流検出部90において、負(−)方向の電流値が検出される。
【0048】
(デュアルクラッチ式自動変速機のプレシフト動作及び変速動作)
図1及び図6を用いて、デュアルクラッチ式自動変速機1のプレシフト動作及び変速動作の説明をする。図6は、デュアルクラッチ式自動変速機1の「変速マップデータ」を表した図である。図6に示されるように、「変速マップデータ」は、アクセル開度と車速との関係を表した線である「プレシフト線」及び「変速線」を複数有している。車両の走行状態が「プレシフト線」を越えると、「プレシフト指令」が発せられ、プレシフトが実行される。また、車両の走行状態が「変速線」を越えると、「変速指令」が発せられ、変速が実行される。図6に示されるように、増速方向に向かって(速度が低い方から速度が高い方に向かって)順に、第2速アッププレシフト線、第2速アップ変速線、第3速アッププレシフト線、第3速アップ変速線が設定されている。また、減速方向に向かって(速度が高い方から低い方に向かって)順に、第2速ダウンプレシフト線、第2速ダウン変速線、第1速ダウンプレシフト線、第1速ダウン変速線が設定されている。これ以上の変速段(第3速〜第7速)についても、同様に、「変速線」及び「プレシフト線」が設定されている。
【0049】
「プレシフト線」は、プレシフトが実行される際に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段へのプレシフトの要否を判断するための基準線である。図6に示されるように、「アッププレシフト線」は増速方向に向かってこれに対応する「アップ変速線」の手前側に存在する。一方で、「ダウンプレシフト線」は減速方向に向かってこれに対応する「ダウン変速線」の手前側に存在する。制御部50が、記憶装置52に記憶されている「アクセル開度情報」と「車速情報」を参照し、当該「アクセル開度情報」と「車速情報」からなる車両の走行状態から「プレシフト線」を越えたと判断した場合には、制御部50は「プレシフト指令」を発し、プレシフトを実行する。具体的には、「プレシフト指令」が発せられると、制御部50は、モータドライバ61〜64のいずれかに、これに対応するモータ71〜74に駆動電流を供給させる「モータドライバ制御信号」を出力し、第1選択機構A30−1、B30−2、第2選択機構A30−3、B30−4のいずれかを作動させ、第1変速機構A20−1、B20−2及び第2変速機構A20−3、B20−4のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の「変速部材」を選択させることにより変速段を形成し、プレシフトを実行する。例えば、車両が第2速段で走行中に、第3速アッププレシフト線を越えた場合には(図6のjの領域からkの領域に遷移した場合に)、第3速段への「プレシフト指令」が発せられ、第3速段が形成される。
【0050】
「変速線」は車両の変速時に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段への変速の要否を判断するための基準線である。制御部50が、記憶装置52に記憶されている「アクセル開度情報」と「車速情報」を参照し、当該「アクセル開度情報」と「車速情報」からなる車両の走行状態から「変速線」を越えたと判断した場合には、制御部50は「変速指令」を発し、変速を実行する。具体的には、「変速指令」が発せられると、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて、変速する。例えば、車両が第1速段で走行中に、第2速アップ変速線を越えた場合には(図6のhの領域からiの領域に遷移した場合)、第1速段から第2速段への「変速指令」が発せられ、第1クラッチC1から第2クラッチC2に繋ぎ替えられ、変速し、車両は第2速段で走行する。
【0051】
<不作動状態→第1速段>
不作動状態ではデュアルクラッチCの第1,第2クラッチC1,C2はともに解除されており、各選択機構30−1〜30−4は中立位置にある。
停車状態において原動機10を始動させた場合にも、上記不作動状態と同様の状態を維持する。そして、停車状態において原動機10を始動させた後に、デュアルクラッチ式自動変速機1のシフトレバー(図示省略)を前進位置とすれば、制御部50は第1モータドライバA61に、「モータドライバ制御信号」を出力して、第1モータA71を回転させて、第1選択機構A30−1の第1速係合部材S1を係合させて第1速段を形成する。この状態でアクセル開度が増大して原動機10が所定の低回転速度を越えれば、制御部50はアクセル開度に合わせて、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、デュアルクラッチCの第1クラッチC1の係合力を徐々に増加させる。これにより駆動軸11の回転駆動力は第1クラッチC1から第1入力軸15、第1速変速ギヤ列21a,21b、第1選択機構A30−1の第1速係合部材S1、第1副軸17、第1リダクション変速ギヤ列28a,28bを介して出力軸19に伝達され、自動車は第1速段で走行し始める。
【0052】
<第2速段へのアッププレシフト>
車両の車速が増大する等して、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、図6に示される第2速アッププレシフト線を越えたと判断した場合には(mの領域からnの領域に遷移したと判断した場合には)、制御部50は、第2モータドライバA63に「モータドライバ制御信号」を出力し、第2モータA73を回転させ、第2選択機構A30−3の第2速係合部材S2を係合させて第2速段を形成する。
【0053】
<第1速段→第2速段へのアップ変速>
車両の車速が増大する等して、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、図6に示される第2速アップ変速線を越えたと判断した場合には(hの領域からiの領域に遷移したと判断した場合には)、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力し、デュアルクラッチCを第1クラッチC1から第2クラッチC2側に繋ぎ替えて、第2速段にアップ変速する。
【0054】
同様にして、制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「変速マップデータ」の「第3速〜4速アッププレシフト線」「第4速〜第1速ダウンプレシフト線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、第1モータドライバA61や第2モータドライバA63に「モータドライバ制御信号」を出力して、第1速段〜第4速段を形成する。
また、制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「変速マップデータ」の「第3速〜第4速アップ変速線」、「第4速〜第1速ダウン変速線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、第1クラッチC1と第2クラッチC2を交互に繋ぎ替えて、第1速段〜第4速段での走行が行われるようにする。
【0055】
<第5速へのアッププレシフト又はダウンプレシフト>
「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、第5速アッププレシフト線又は第5速ダウンプレシフト線を越えたと判断した場合には、制御部50は、第1モータドライバB62に「モータドライバ制御信号」を出力して、第1モータB72を回転させ、第1選択機構B30−2の第5速係合部材S5を係合させ第1入力軸15と出力軸19を直結してアッププレシフト又はダウンプレシフトを実行し、第5速段を形成する。
【0056】
<第5速へのアップ変速>
「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、「第5速アップ変速線」又は「第5速ダウン変速線」を越えたと判断した場合には、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力し、デュアルクラッチCを第2クラッチC2から第1クラッチC1に繋ぎ替えて、第5速段に変速する。この場合は駆動軸11の回転駆動力は第1クラッチC1から第1入力軸15、第1選択機構B30−2の第5速係合部材S5を介して出力軸19に伝達される。
【0057】
<第4速段→第6速へのアッププレシフト>
車速が増大する等して、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、制御部50が、「第6速アッププレシフト線」を越えたと判断した場合には、制御部50は、第2モータドライバA63に「モータドライバ制御信号」を出力して、第2モータA73を回転させ、第2選択機構A30−3を中立状態にする。そして、制御部50は、第2モータドライバB64に「モータドライバ制御信号」を出力して、第2モータB74を回転させ、第2選択機構B30−4の第6速係合部材S6を係合させてアッププレシフトを実行し、第6速段を形成する。
【0058】
同様にして制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「第7速アッププレシフト線」「第6速ダウンプレシフト線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、第2モータドライバA63や第1モータドライバB62に「モータドライバ制御信号」を出力して、第6速段〜第7速段を形成する。
そして、制御部50は、「アクセル開度情報」及び「車速情報」に基づき、「変速マップデータ」の「第6速、第7速アップ変速線」、「第6速ダウン変速線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力することにより、第1クラッチC1と第2クラッチC2を交互に繋ぎ替えて、第6速段や第7速段での走行が行われるようにする。なお、第6速段及び第7速段においては、出力軸19の回転速度は駆動軸11よりも増速される。
【0059】
(本発明の概要)
以下、本発明によるデュアルクラッチ式自動変速機1について詳細に説明する。ある変速段で走行中に、実際に変速が実行されないにも関わらず、プレシフトが繰り返される場合がある。例えば、図7に示されるように、車両が第2速段で走行中に、アクセル開度や車速に基づく車両の走行状態が、第1速ダウン変速線や第3速アップ変速線を越えること無く、第1速プレシフト線や第3速プレシフト線を繰り返し越える場合に、プレシフトが繰り返される。このようなプレシフトが繰り返される現象は、車両の車速の変化により第1速ダウンプレシフト線や第3速アッププレシフト線を越える場合(図7のα)や、アクセル開度の変化により第1速ダウンプレシフト線や第3速アッププレシフト線を越える場合(図7のβ)や、或いは、これらの組み合わせにより発生する。
【0060】
このようなプレシフトの繰り返しによるモータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止するために、本発明では、図8に示されるように、制御部50は、各モータ71〜74に供給される駆動電流に基づき、例えば前記駆動電流を積算することにより、所定の演算期間の駆動電流の量である「駆動電流量」をそれぞれ移動演算し、「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合に、「プレシフト禁止制御」に切り替える。「プレシフト禁止制御」に切り替えられた場合には、例え「プレシフト指令」が発せられたとしても、「プレシフト」の実行が禁止され、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱が防止される。一方で、「プレシフト」が禁止されることにより、「駆動電流量」が上限値を下回った場合には、「プレシフト許可制御」切り替えられ、「プレシフト指令」が発せられた場合に、「プレシフト」が実行される。
【0061】
(プレシフト許可・禁止切替処理の説明)
次に、上述した本発明のデュアルクラッチ式自動変速機1の作動について図9〜図13を参照して説明する。デュアルクラッチ式自動変速機1は作動状態となると、図9に示される「プレシフト許可・禁止切替処理」を順次実行する。まず、ステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50が、各電流検出部91〜94でそれぞれ検出された信号に基づき、各モータドライバ61〜64から各モータ71〜74に供給される「駆動電流」を算出する。そして、制御部50は、算出された「駆動電流」に基づき、所定の「演算期間」の間における駆動電流の量である「駆動電流量」をそれぞれ演算する。本実施形態では、図10に示されるように、制御部50は、負方向の駆動電流を正方向に反転させ(図10の(B))、所定の「演算期間」の間で、駆動電流を積算して(駆動電流の電流値を前記「演算期間」の間で時間積分して)「駆動電流量」を演算する(図10の(C))。或いは、図11に示されるように、制御部50は、駆動電流の電流値が所定の電流値(判定電流値)以上となっている時間(T1〜T8)を、所定の「演算期間」の間で、計測し(図11の(A))、当該時間(T1〜T8)を積算することにより(図11の(B))、「駆動電流量」を演算(図11の(C))することにしても差し支え無い。本実施形態では、所定の期間である「演算期間」を経過した場合には、それ以降は、図12の(B)に示されるように、ある時刻に到る直前の「演算期間」の駆動電流に基づき、上記した演算方法で移動演算(移動積算)することにより、「駆動電流量」を演算する。このため、図12の(B)に示されるように、各モータ71〜74に駆動電流が供給されなかった場合には、演算されている「駆動電流量」から、一番昔の時刻に積算された「駆動電流量」が順次除かれ、結果として、「駆動電流量」が減少する。
【0062】
次に、ステップ104において、「駆動電流量上限判定手段」である制御部50は、ステップ102において演算された「駆動電流量」が、上限値を越えているか否かを判定する。この上限値は、各モータドライバ61〜64や各モータ71〜74が昇温により許容される温度上限に相当する「駆動電流量」である。制御部50が、「駆動電流量」が上限値を越えている判定した場合には(ステップ104で「YES」と判定)、プログラムをステップ108に進め、一方で、「駆動電流量」が上限値を越えていない判定した場合には(ステップ104で「NO」と判定)、プログラムをステップ106に進める。
【0063】
ステップ106において、制御部50は、プレシフト許可フラグFに値1を設定して記憶装置52に記憶させ、「プレシフト許可制御」に切り替え、プログラムをステップ102に戻す。
ステップ108において、制御部50は、プレシフト許可フラグFに値0を設定して記憶装置52に記憶させ、「プレシフト禁止制御」に切り替え、プログラムをステップ102に戻す。
【0064】
(プレシフト・変速制御)
「プレシフト・変速制御」について、図13を用いて説明する。デュアルクラッチ式自動変速機1は作動状態となると、まず、ステップ111において、「プレシフト禁止手段」である制御部50は、記憶装置52に記憶されているプレシフト許可フラグFを参照し、プレシフトが許可されているか、禁止されているかのいずれかを判断する。制御部50が、プレシフト許可フラグFが1であると判断し、プレシフトが許可されていると判断した場合には(ステップ111で「YES」と判断)、プログラムをステップ112に進め、順次「プレシフト許可制御」(ステップ1112〜117)を実行する。一方で、制御部50が、プレシフト許可フラグFが0であると判断し、プレシフトが禁止されていると判断した場合には(ステップ111で「NO」と判断)、プログラムをステップ121に進め、順次「プレシフト禁止制御」(ステップ121〜124)を実行する。
【0065】
ステップ112において、制御部50は、「プレシフト指令」が発せられたか否かを判断する。「プレシフト指令」は、上述したように、車両の走行状態が「プレシフト線」(図6に示す)を越えたと制御部50が判断した場合に発せられる。制御部50が、「プレシフト指令」が発せられたと判断した場合には(ステップ112で「YES」と判断)、プログラムをステップ113に進め、一方で、「プレシフト指令」が発せられていないと判断した場合には(ステップ112で「NO」と判断)、プログラムをステップ114に進める。
【0066】
ステップ113において、制御部50は、モータドライバ61〜64のいずれかに「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74のいずれかを作動させ、「プレシフト」を実行し、プログラムをステップ114に進める。なお、このステップ113において、電流検出部91〜94のいずれかにおいてモータ71〜74に供給される駆動電流が検出され、この検出信号が制御部50に出力される。
【0067】
ステップ114において、制御部50は、「変速指令」が発せられたか否かを判断する。なお、「変速指令」は、上述したように、車両の走行状態が「変速線」(図6に示す)を越えたと制御部50が判断した場合に発せられる。また、ユーザが、所望の変速段を選択するために、シフトレバー(不図示)を操作した場合にも「変速指令」が発せられる。制御部50が、「変速指令」が発せられたと判断した場合には(ステップ114で「YES」と判断)、プログラムをステップ115に進める。一方で、制御部50が、「変速指令」が発せられていないと判断した場合には(ステップ114で「NO」と判断)、プログラムをステップ111に戻す。
【0068】
ステップ115において、制御部50は、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致しているか否かを判断し、「シフト」する必要が有るか否かを判断する。なお、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致していない例としては、ステップ114の変速指令が、ユーザがシフトレバー(不図示)の操作によるものであって、ユーザが選択した変速段と、「プレシフト」により成立している変速段が一致していない場合が含まれる。制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致し、「シフト」する必要が無いと判断した場合には(ステップ115で「NO」と判断)、プログラムをステップ117に進める。一方で、制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致していない判断し、「シフト」する必要があると判断した場合には(ステップ115で「YES」と判断)、プログラムをステップ116に進める。
【0069】
ステップ116において、制御部50は待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段を「変速指令」の変速段と一致させるように、モータドライバ61〜64に「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74を作動させて、選択機構30−1〜30−4に変速段を形成させる「シフト」を実行する。ステップ116が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ117に進める。
【0070】
ステップ117において、制御部50は、変速を実行する。具体的には、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力して、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する。ステップ117が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ111に戻す。
【0071】
ステップ121において、制御部50は、「変速指令」が発せられたか否かを判断し、「変速指令」が発せられたと判断した場合には(ステップ121で「YES」と判断)、プログラムをステップ122に進める。一方で、制御部50が、「変速指令」が発せられていないと判断した場合には(ステップ121で「NO」と判断)、プログラムをステップ111に戻す。
【0072】
ステップ122において、制御部50は、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致しているか否かを判断し、「シフト」する必要が有るか否かを判断する。制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致し、「シフト」する必要が無いと判断した場合には(ステップ122で「NO」と判断)、プログラムをステップ124に進める。一方で、制御部50が、待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段が「変速指令」の変速段と一致していない判断し、「シフト」する必要があると判断した場合には(ステップ122で「YES」と判断)、プログラムをステップ123に進める。
【0073】
ステップ123において、制御部50は待機側の変速機構20−1〜20−4の変速段を「変速指令」の変速段と一致させるように、モータドライバ61〜64に「モータドライバ制御信号」を出力し、モータ71〜74を作動させて、選択機構30−1〜30−4に変速段を形成させる「シフト」を実行する。ステップ123が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ124に進める。
【0074】
ステップ124において、制御部50は、デュアルクラッチアクチュエータ75に「デュアルクラッチ制御信号」を出力して、第1クラッチC1と第2クラッチC2のうち駆動軸11から回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する。ステップ124の処理が終了すると、制御部50は、プログラムをステップ111に戻す。
【0075】
上述した説明から明らかなように、本発明のデュアルクラッチ式自動変速機1には、図4に示されるように、第1モータA71、B72と第2モータA73、B74に供給される駆動電流をそれぞれ検出する第1電流検出部91、92(第2電流検出手段)と第2電流検出部93、94(第1電流検出手段)が設けられている。そして、図9のステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、第1電流検出部91、92及び第2電流検出部93、94でそれぞれ検出された「駆動電流」に基づき、所定の演算期間の間における「駆動電流」の量である「駆動電流量」をそれぞれ演算する。次に、図9に示されるステップ104において、「駆動電流量上限判定手段」である制御部50は、「駆動電流量」が上限値を越えたか否かを判定し、前記「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合には(ステップ104で「YES」と判定)、ステップ108において制御部50は「プレシフト禁止制御」に切り替え、「プレシフト禁止手段」である制御部50は、図13のステップ111、121〜124の処理を実行することにより、「プレシフト」を禁止する。従って、それぞれのモータ71〜74の「駆動電流量」が上限値を越えた場合には、「プレシフト」が禁止される。このように、各モータドライバ61〜64から各モータ71〜74に供給される「駆動電流」の「駆動電流量」と、各モータドライバ61〜64と各モータ71〜74の発熱との相関性に基づき、演算期間における「駆動電流量」の多寡によって、各モータドライバ61〜64と各モータ71〜74の過熱を事前に検出することしている。そして、「駆動電流量上限判定手段」である制御部50が、「駆動電流量」が上限値を越えたと判定した場合には、「プレシフト禁止手段」である制御部50によって、「プレシフト」が禁止される。これにより、変速機構20−1〜20−4の選択機構30−1〜30−4を作動させるモータ71〜74や当該モータ71〜74に「駆動電流」を供給するモータドライバ61〜64の過熱を防止することができるデュアルクラッチ式自動変速機1を提供することができる。
【0076】
また、図9に示されるステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、第1電流検出部A91、B92(第1電流検出手段)、及び第2電流検出部A93、B94(第2電流検出部)でそれぞれ検出された「駆動電流」を積算することによりそれぞれ「駆動電流量」を演算する。これにより、精度高く、「駆動電流量」を演算することができ、より精度高く、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を事前に検知することができ、より確実に、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止することができる。
【0077】
或いは、図9に示されるステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、第1電流検出部A91、B92(第1電流検出手段)、及び第2電流検出部A93、B94(第2電流検出部)でそれぞれ検出された「駆動電流値」が、所定の電流値(判定電流値)以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより「駆動電流量」を演算する。これにより、制御部50による演算の負荷が過大とならずに、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止することができる。
【0078】
また、図9に示されるステップ102において、「駆動電流量演算手段」である制御部50は、図12に示されるように、ある時刻に到る直前の「演算期間」の「駆動電流」を移動演算(移動積算)することにより、「駆動電流量」を演算する。ここで、一番昔の時刻にモータドライバ61〜64からモータ71〜74に供給された「駆動電流」によるモータドライバ61〜64やモータ71〜74の発熱は順次放熱され、最新時刻にモータドライバ61〜64からモータ71〜74に供給された「駆動電流」によるモータドライバ61〜64やモータ71〜74の発熱は順次蓄熱される。上述したように、ステップ102において、制御部50は、検出された「駆動電流」を移動演算するので、一番昔の時刻に加えられた「駆動電流量」は積算されている「駆動電流量」から順次削除されるとともに、最新時刻の「駆動電流量」が積算されている「駆動電流量」に順次加算される。これにより、上述したように、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の放熱分と蓄熱分に相当する「駆動電流量」が、積算されている「駆動電流量」にリアルタイムで反映される。このため、より精度高く、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を事前に検知することができ、より確実に、モータドライバ61〜64やモータ71〜74の過熱を防止することができる。
【0079】
上述した実施形態では、待機側の変速機構20−1〜20−4において、常時変速段が形成されている実施形態について本発明を説明したが、待機側の変速機構20−1〜20−4において、通常は中立状態で、「プレシフト線」を越えてはじめて、変速段が形成される実施形態にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。この実施形態の場合には、車両の走行状態がある特定の「プレシフト線」を繰り返し越え、待機側の変速機構20−1〜20−4が変速段の形成と中立状態の形成を頻繁に繰り返してしまう状況において、「駆動電流量」が上限値を越えたと判定された場合(ステップ104で「YES」と判定)は、「プレシフト禁止制御」に切り替わる。このため、この実施形態の場合にも、ある特定のモータ71〜74やこれに駆動電流を供給するモータドライバ61〜64の過熱が防止される。
【0080】
また、上述した実施形態では、電流検出部90(電流検出手段)は、モータ70のいずれかの端子70a、70bと、Hブリッジ回路のいずれかの中点60a、60b間に直列に接続されたシャント抵抗90aと、シャント抵抗90aの両端電位を検出する電位検出部90bとから構成されている。しかし、モータドライバ60からモータ70に供給される駆動電流を検出する電流検出手段はこれに限定されず、電流検出手段を図5に示される各スイッチSW1〜4のゲートに入力されるゲート信号(「モータドライバ制御信号」)を検出するゲート信号検出部で構成し、ケート信号検出部で検出されたゲート信号に基づき、駆動電流を検出する構成にしても差し支え無い。
【0081】
また、上述した実施形態では、出力部材としてデファレンシャルギヤ(図示省略)に回転駆動力を伝達する出力軸19を有するFR用のデュアルクラッチ式自動変速機1について本発明を説明したが、デファレンシャルギヤが出力部材であるFF用のデュアルクラッチ式自動変速機にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0082】
また、上述した実施形態では、第1選択機構A30−1、B30−2、第2選択機構A30−3、B30−4をそれぞれ作動させる第1モータA71、B72、第2モータA73、B74として、直流ブラシモータを用いた実施形態について本発明のデュアルクラッチ式自動変速機を説明したが、直流ブラシレスモータや交流モータを用いたデュアルクラッチ式自動変速機にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
1:デュアルクラッチ式自動変速機
10:原動機、 11:駆動軸
15:第1入力軸、 16:第2入力軸
17:第1副軸、 18:第2副軸、 19:出力軸(出力部材)
20−1:第1変速機構A、 20−2:第1変速機構B
20−3:第2変速機構B、 20−4:第2変速機構B
30−1:第1選択機構A、 30−2:第1選択機構B
30−3:第2選択機構A、 30−4:第2選択機構B
40:シフトアクチュエータ機構
50:制御部(駆動電流量演算手段、駆動電流量上限判定手段、プレシフト禁止手段)
61:第1モータドライバA、 62:第1モータドライバB
63:第2モータドライバA、 64:第2モータドライバB
71:第1モータA、 72:第1モータB
73:第2モータA、 74:第2モータB
75:デュアルクラッチアクチュエータ
91:第1電流検出部A(第1電流検出手段)、 92:第1電流検出部B(第1電流検出手段)
93:第2電流検出部A(第2電流検出手段)、 94:第2電流検出部B(第2電流検出手段)
C:デュアルクラッチ、 C1,C2:クラッチ
L:クラッチハブ、 M:スリーブ、 N:シフトフォーク
O:シンクロナイザリング、 S1〜S7,SR:係合部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の回転駆動力が伝達される駆動軸と、
同軸に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、
前記駆動軸の回転駆動力を前記第1入力軸に離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸の回転駆動力を前記第2入力軸に離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、
前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うデュアルクラッチアクチュエータと、
出力部材と、
前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材と、これら複数の奇数段変速部材から一つの奇数段変速部材を選択する第1選択機構とを有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記選択された奇数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材と、これら複数の偶数段変速部材から一つの偶数段変速部材を選択する第2選択機構とを有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記選択された偶数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、
前記第1選択機構を作動させる第1モータと、
前記第2選択機構を作動させる第2モータと、
前記第1モータに駆動電流を供給する第1モータドライバと、
前記第2モータに駆動電流を供給する第2モータドライバと、
前記第1モータドライバから前記第1モータに供給される駆動電流を検出する第1電流検出手段と、
前記第2モータドライバから前記第2モータに供給される駆動電流を検出する第2電流検出手段と、
プレシフト指令が発せられると、前記第1モータドライバ又は前記第2モータドライバに前記第1モータ又は前記第2モータに駆動電流を供給させるモータドライバ制御信号を出力し、前記第1選択機構又は前記第2選択機構を作動させて、前記第1変速機構と前記第2変速機構のうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速部材を選択させるプレシフトを実行し、変速指令が発せられると、前記デュアルクラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1クラッチと前記第2クラッチのうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部に、
前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流に基づき、所定の演算期間の間における駆動電流の量である駆動電流量をそれぞれ演算する駆動電流量演算手段と、
前記駆動電流量演算手段が演算した駆動電流量が、上限値を越えたか否かを判定する駆動電流量上限判定手段と、
前記駆動電流量上限判定手段が、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合に、前記プレシフトを禁止するプレシフト禁止手段と、
を設けたことを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流を積算することにより駆動電流量をそれぞれ演算することを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項3】
請求項1において、
前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流値が、所定の電流値以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより駆動電流量を演算することを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項1】
原動機の回転駆動力が伝達される駆動軸と、
同軸に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、
前記駆動軸の回転駆動力を前記第1入力軸に離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸の回転駆動力を前記第2入力軸に離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、
前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うデュアルクラッチアクチュエータと、
出力部材と、
前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材と、これら複数の奇数段変速部材から一つの奇数段変速部材を選択する第1選択機構とを有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記選択された奇数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材と、これら複数の偶数段変速部材から一つの偶数段変速部材を選択する第2選択機構とを有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記選択された偶数段変速部材を介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、
前記第1選択機構を作動させる第1モータと、
前記第2選択機構を作動させる第2モータと、
前記第1モータに駆動電流を供給する第1モータドライバと、
前記第2モータに駆動電流を供給する第2モータドライバと、
前記第1モータドライバから前記第1モータに供給される駆動電流を検出する第1電流検出手段と、
前記第2モータドライバから前記第2モータに供給される駆動電流を検出する第2電流検出手段と、
プレシフト指令が発せられると、前記第1モータドライバ又は前記第2モータドライバに前記第1モータ又は前記第2モータに駆動電流を供給させるモータドライバ制御信号を出力し、前記第1選択機構又は前記第2選択機構を作動させて、前記第1変速機構と前記第2変速機構のうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速部材を選択させるプレシフトを実行し、変速指令が発せられると、前記デュアルクラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1クラッチと前記第2クラッチのうち前記駆動軸からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えて変速を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部に、
前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流に基づき、所定の演算期間の間における駆動電流の量である駆動電流量をそれぞれ演算する駆動電流量演算手段と、
前記駆動電流量演算手段が演算した駆動電流量が、上限値を越えたか否かを判定する駆動電流量上限判定手段と、
前記駆動電流量上限判定手段が、前記駆動電流量が上限値を越えたと判定した場合に、前記プレシフトを禁止するプレシフト禁止手段と、
を設けたことを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流を積算することにより駆動電流量をそれぞれ演算することを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項3】
請求項1において、
前記駆動電流量演算手段は、前記第1電流検出手段及び前記第2電流検出手段でそれぞれ検出された駆動電流値が、所定の電流値以上となっている時間を計測し、当該時間を積算することにより駆動電流量を演算することを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−50128(P2013−50128A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187148(P2011−187148)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】
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