説明

データ通信システム

【課題】リーダ装置からタグに向けて非接触に電力を伝送すると共に、両者間でデータ伝送を行うデータ通信システムにおいて、エネルギー伝送効率を上げて、通信距離を延ばす。
【解決手段】リーダ装置10のコイルアンテナ26は搬送周波数fで送信を行い、タグ12は、コイルアンテナ40で送信信号を受信して、送信信号に応答する返信データを拡散符号系列に対応させ、該拡散符号系列に応じて負荷変調を行ってコイルアンテナ40から返信を行い、リーダ装置10は、コイルアンテナ26で返信信号を受信後、返信信号の相関処理を行う。リーダ装置10のコイルアンテナ26は、送受信兼用となっており、搬送周波数fに同調したLC共振回路を構成する。コイルアンテナ26と40との間には、共鳴コイル38、50を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーダ装置とタグとからなり、リーダ装置からタグに向けて非接触に電力を伝送すると共に、両者間でデータ伝送を行うデータ通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のデータ通信システムとしては、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1においては、リーダ装置から不揮発性メモリを有するタグに非接触で電力を伝送すると共に両者間でデータ伝送を行うようになっており、タグにおいて、不揮発性メモリから読み出した「0」または「1」のデータに対応してスペクトラム拡散波発生器でスペクトラム拡散波を発生させてリーダ装置へ返信し、リーダ装置では、相関回路で受信信号の「0」または「1」のデータを識別するようにしている。
【0003】
これによって、ノイズの影響を受けることなく、長距離伝送を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2610955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のデータ通信システムに対して、リーダ装置とタグ間の通信距離に関し、さらなる改良が要望されている。例えば、このデータ通信システムを物流・輸送管理や鉄道保線用に使用した場合、物流・輸送速度、鉄道車両の速度の高速化は常に望まれていることであり、これらの高速化に伴いリーダ装置とタグの通信距離を延ばす必要がある。
【0006】
また、従来のデータ通信システムでは、リーダ装置がタグからのスペクトル拡散波を受信できるように、リーダ装置のコイルアンテナは広帯域の動作帯域となっており、そのため、返信周波数の近傍付近の干渉の影響を受けてしまう、という問題がある。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、その目的は、エネルギー伝送効率を上げることができ、さらなる長距離通信を行うことができると共に干渉の影響を受けにくいデータ通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、コイルアンテナを備えたリーダ装置と、コイルアンテナを備えたタグとからなり、リーダ装置からタグに向けて非接触に電力を伝送すると共に、両者間でデータ伝送を行うデータ通信システムにおいて、
リーダ装置のコイルアンテナは搬送周波数で送信を行い、タグは、コイルアンテナで送信信号を受信して、送信信号に応答する返信データを拡散符号系列に対応させ、該拡散符号系列に応じて負荷変調または位相変調を行ってコイルアンテナから返信を行い、リーダ装置は、コイルアンテナで返信信号を受信後、前記返信信号の相関処理を行うようになっており、
リーダ装置のコイルアンテナは、送受信兼用となっており、前記搬送周波数に同調したLC共振回路を構成している、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のデータ通信システムにおいて、タグまたはリーダ装置は、コイルアンテナの他に磁気結合のための搬送周波数に同調した共鳴コイルを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のデータ通信システムにおいて、前記搬送周波数は、短波帯域にあることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のデータ通信システムにおいて、前記タグは、搬送周波数の5〜15%の副搬送周波数で変調を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、コイルアンテナを備えたリーダ装置と、コイルアンテナを備えたタグとからなり、リーダ装置からタグに向けて非接触に電力を伝送すると共に、両者間でデータ伝送を行うデータ通信システムにおいて、
リーダ装置は、別々の送信用コイルアンテナと受信用コイルアンテナとを備え、
リーダ装置の送信用コイルアンテナは送信周波数で送信を行い、タグは、コイルアンテナで送信信号を受信して、送信信号に応答する返信データを拡散符号系列に対応させ、該拡散符号系列に応じて負荷変調または位相変調を行ってコイルアンテナから返信周波数で返信を行い、リーダ装置は、受信用コイルアンテナで返信信号を受信後、前記返信信号の相関処理を行うようになっており、
リーダ装置からの送信信号の送信周波数よりも、タグからの返信信号の返信周波数が高く、
送信用コイルアンテナと受信用コイルアンテナは、それぞれ送信周波数及び返信周波数に同調するLC共振回路を構成していることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のデータ通信システムにおいて、タグは、コイルアンテナの他に磁気結合のための共鳴コイルを備え、該共鳴コイルは、リーダ装置送信時には送信周波数に同調し、タグ返信時には返信周波数に同調するように切替えられることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項5または6記載のデータ通信システムにおいて、前記返信周波数は短波帯域にあることを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のデータ通信システムにおいて、前記リーダ装置は、相関処理を行う相関処理手段を備え、該相関処理手段は、
入力データ列の離散フーリエ変換を行うフーリエ変換処理手段と、
離散フーリエ変換後の複素数と、拡散符号系列のフーリエ変換の複素数の共役とのクロスパワースペクトラムを求めるクロスパワースペクトラム計算手段と、
クロスパワースペクトラムデータを逆離散フーリエ変換する逆フーリエ変換処理手段と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項8記載のデータ通信システムにおいて、前記返信データは前記拡散符号系列の前に既定のヘッダを含んでおり、
前記相関処理手段は、さらに、
入力データ列と既定のヘッダとの類似度を計算する類似度計算手段を備え、
類似度が所定値よりも高い場合にそれに続く入力データ列に関するクロスパワースペクトラム計算手段及び逆フーリエ変換処理手段による処理を行い、類似度が所定値よりも低い場合にそれに続く入力データ列に関するクロスパワースペクトラム計算手段及び逆フーリエ変換処理手段による処理を行わないことを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のデータ通信システムにおいて、2ビットの返信データに対して1つの拡散符号系列を割り当てることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エネルギー伝送効率を上げることができ、リーダ装置とタグとの間の通信距離を延ばすことができると共に干渉の影響を受けにくいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による第1実施形態によるデータ通信システムを表すブロック図である。
【図2】拡散符号発生回路の一例を表すブロック図である。
【図3】返信信号を表す波形図である。
【図4】相関計算器の詳細構造を表すブロック図である。
【図5】相関計算器の処理を表すフローチャートである。
【図6】別の返信信号を表す波形図である。
【図7】本発明による第2実施形態によるデータ通信システムを表すブロック図である。
【図8】共鳴コイルの効果を実証する実験条件を表す概略図である。
【図9】図8の実験による伝送効率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるデータ通信システムを表す図である。
【0022】
データ通信システムは、リーダ装置10と、タグ12とから構成される。タグ12は、一般的にICカード、ICタグと呼ばれている情報媒体を含めることができ、データ通信システムは、所謂RID通信システムに適用することができる。リーダ装置10とタグ12とは互いに空間的に離れて、且つ、原則的には、相対的に移動可能である。
【0023】
リーダ装置10は、信号処理回路20、発振器21、D/A変換器22、増幅器24、リーダ側コイルアンテナ26、変調器28、増幅器30、フィルタ32、A/D変換器34、相関計算器36及び共鳴コイル38を備える。
【0024】
リーダ装置10において、発振器21からの発振信号を適宜分周して得られる周波数fのデジタル信号は、信号処理回路20からD/A変換器22を経て、搬送周波数fの信号となり、また、信号処理回路20から出力されるベースバンド信号によって、変調器28によってASK変調されて、コイルアンテナ26から磁界が発生され、これが送信信号となる。変調方式は、ASK変調には限定されないが、ASK変調とすることによって、構成を簡単にすることができる。
【0025】
ここで、リーダ側コイルアンテナ26は、コンデンサCと共にLC並列共振回路を構成しており、搬送周波数fに同調されている。但しLC並列共振回路の代わりにLC直列共振回路を構成してもよい。
【0026】
また、搬送周波数fとしては、従来(特許文献1の実施品の中波帯域)よりも高い1MHz以上、好ましくは短波帯域の3MHz〜10MHzの帯域の波長を使用するとよい。
【0027】
タグ12は、タグ側コイルアンテナ40、制御回路42、不揮発性メモリ44、拡散符号系列発生回路46、負荷変調回路48及び共鳴コイル50を備える。制御回路42はさらに、図示しないが内部に電源発生回路及び復調回路を備える。
【0028】
リーダ側コイルアンテナ26によって発生された磁界によりタグ側コイルアンテナ40に誘導された電圧は、制御回路42中の電源発生回路において、整流、平滑され直流電源となる。同時に、制御回路42の復調回路によって復調が行われ、復調信号に含まれたコマンドに従ったデータが不揮発性メモリ44から読み出される。そして、そのデータに応じて、拡散符号系列発生回路46で発生する拡散符号系列が指定される。負荷変調回路48において、搬送波を分周して搬送波の例えば1/10の周波数の副搬送波を発生し、拡散符号系列発生回路46で発生された拡散符号系列に応じて副搬送波で負荷を変動させて、タグ側コイルアンテナ40によって発生させる磁界を変動させて、それを返信信号とする。副搬送周波数としては、搬送周波数の5%〜15%のものとすることができる。
【0029】
ここで、タグ側コイルアンテナ40においても、コンデンサCと共にLC並列共振回路を構成しており、搬送周波数fに同調されている。
【0030】
拡散符号系列発生回路46で発生する拡散符号系列としては、M系列とすることもできるが、好ましくはGOLD符号系列とする。このGOLD符号系列を発生する拡散符号系列発生回路46の一例を図2に示す。拡散符号系列発生回路46は、2つのM系列発生器M1、M2を備え、該M系列発生器M1、M2の出力の排他的論理和EXORをとることで、GOLD符号系列を発生する。M系列発生器の組み合わせによって、単独のM系列発生器に比較して、多くの種類の符号列を発生させることができる。また、GOLD符号系列は、M系列に比較して、自己相関は悪いが相互相関が良いという性質を持つ。
【0031】
この実施形態では、2ビット分のデータ「00」、「01」、「10」、「11」に対して、種類の異なる4つのGOLD符号1、2、3、4を割り当てることにし、2ビット分を1つの符号系列に対応させることで、伝送速度を上げるようにする。また、2ビットのデータに対して、それぞれヘッダ(H1)を付けて、H1+割り当てられたGOLD符号とする(図3参照)。ヘッダH1は、上記GOLD符号1〜4のいずれかとすることもでき、または別の任意のGOLD符号系列または他の拡散符号系列とすることができる。
【0032】
タグ側コイルアンテナ40からの返信信号は、リーダ側コイルアンテナ26で捉えられると、増幅器30で増幅され、フィルタ32によって搬送周波数と副搬送周波数との差周波数近傍の信号だけが取り出されて、A/D変換器34でデジタル変換されて、相関計算器36に入力される。
【0033】
相関計算器36は、ソフトウエアによって所定の拡散符号系列との相関計算を行い、その相関計算結果を信号処理回路20へと送るものである。この相関計算器36の詳細構造を図4に示す。
【0034】
相関計算器36は、ウインドウ処理部60、フーリエ変換処理部62、スペクトラム距離計算部64、クロスパワースペクトラム処理部68、逆フーリエ変換処理部70及び相関判定部72を備える。
【0035】
ウインドウ処理部60は、入力データに対してウインドウ関数を掛けるもので、これによって、そのリーケージであるサイドローブを減衰させるもので、時系列データX(n)にウインドウ関数W(n)を掛け算する。
【0036】
【数1】

ここで、ウインドウ関数としては、例えばハミング関数とすることができ、
【0037】
【数2】

とすることができる。
【0038】
フーリエ変換処理部62は、時系列データX(n)に離散フーリエ変換(DFT)を施す。離散フーリエ変換は、高速フーリエ変換アルゴリズムにより、高速に行うことができる。
【0039】
【数3】

【0040】
【数4】

【0041】
スペクトラム距離計算部64は、フーリエ変換処理部62でフーリエ変換を行った時系列データと、ヘッダH1のデータとの類似度を計算する。類似度は、フーリエ変換したパワースペクトラムを使用して、次式で示されるユークリッド距離D(x,y)から求めることにし、距離Dが小さければ類似度が高く、距離Dが大きければ類似度が低いものとする。
【0042】
【数5】

【0043】
ここで、|Xi| はデータをフーリエ変換して得られた複素数の絶対値、|Yi| はヘッダ(H1)をフーリエ変換して得られた複素数の絶対値である。
【0044】
クロスパワースペクトラム処理部68は、次式のようにデータをフーリエ変換した得られた複素数と、比較するべきGOLD系列をフーリエ変換して得られた複素数の共役との掛け算をする。
【0045】
【数6】

【0046】
逆フーリエ変換処理部70は、クロスパワースペクトルを逆高速フーリエ変換(IFFT)アルゴリズムを用いて逆離散フーリエ変換し、次式で示される相互相関を求める。
【0047】
【数7】

【0048】
相関判定部72は、逆フーリエ変換処理部70で得られた相互相関から閾値を超える結果が得られたGOLD系列に対応する2ビットのデータを判定するものである。
【0049】
以上のように構成される相関計算器36の処理を図5に示す。
【0050】
ウインドウ処理部60は、A/D変換器34からの入力データに対してウインドウ関数を順次掛けており(ステップS10)、フーリエ変換処理部62は、ウインドウ関数が順次掛けられた時系列データX(n)に対して、離散フーリエ変換を行い(ステップS12)、その結果、得られた複素数の絶対値と、予め決められたヘッダをフーリエ変換して得られた複素数の絶対値との距離D(x,y)を求める(ステップS14)。距離Dが予め決められた閾値以下であるか否かを判定し(ステップS16)、小さい場合、入力されたデータはヘッダであるとして、フーリエ変換処理部62は、次の時系列データに対してフーリエ変換を行い(ステップS18)、クロスパワースペクトラム処理部68がフーリエ変換して得られた複素数と、GOLD系列1〜4をフーリエ変換して得られる複素数の共役とのクロスパワースペクトラムを計算する(ステップS20)。そして、逆フーリエ変換を行って、相互相関値を求め(ステップS22)、相関判定部72は、その相関値からタグ12から送られたデータを決定する(ステップS24)。
【0051】
これに対して、ステップS16の判定により、距離Dが予め決められた閾値よりも大きい場合(ステップS16の「大きい」)には、クロスパワースペクトラムの計算は行わずに、順次、1ビットずれた次の時系列データX(n)に対して処理を繰り返す。
【0052】
以上のように、相関計算を、フーリエ変換処理、クロスパワースペクトラム計算処理及び逆フーリエ変換処理によるソフトウエア処理とすることによって、相関処理の精度と自由度を上げることができる。また、ヘッダH1を設けてヘッダH1の類似度を判定して、類似しているデータ以外は、相関を求めないことで、相関処理を効率化することができる。
【0053】
また、2ビットを1つの拡散符号系列に対応させているため、伝送効率を上げて伝送時間を短くすることができる。
【0054】
リーダ側コイルアンテナ26は送受信兼用となっていて、搬送周波数fに同調しているLC共振回路を構成している。そのため、エネルギー伝送効率を上げて通信距離を延ばすことができ、狭帯域となっているために返信信号以外の干渉波を除去することができる。狭帯域となっている一方で、搬送周波数fが高く、且つ搬送周波数fの10%程度の副搬送周波数による負荷変調によって変調しているため、フィルタ32で選別することで返信信号だけを確実に受信することができる。これによって、拡散符号系列の返信であってもデータの通信が可能となる。
【0055】
また、リーダ装置10は、リーダ側コイルアンテナ26の他に共鳴コイル38を備える。共鳴コイル38は、コイルアンテナ26との磁界結合が可能な程度に近傍に距離をおいて配置される。共鳴コイル38は、コイルとコンデンサまたはコイルとコイルの分布容量によってLC共振回路を構成して、周波数fに同調されており、そのQは100〜200程度の間に設定される。
【0056】
同様に、タグ側コイルアンテナ40は送受信兼用となっており、タグ12は、タグ側コイルアンテナ40の他に共鳴コイル50を備える。共鳴コイル50は、コイルアンテナ40との磁界結合が可能な程度に近傍に距離をおいて配置される。但し、共鳴コイル50は、必ずしもタグ12に対して相対的に固定される必要はない。共鳴コイル50は、コイルとコンデンサまたはコイルとコイルの分布容量によってLC共振回路を構成して、周波数fに同調されており、そのQは100〜200程度の間に設定される。
【0057】
これらの共鳴コイル38、50によっても、エネルギー伝送効率を上げることができて、長距離の通信が可能となる。高い周波数にする程、共鳴コイルによる伝送効率が上がるため、従来(中波帯域)より高い周波数(短波帯域)によって、伝送効率を上げることができる。
【0058】
尚、共鳴コイルとコイルアンテナとの磁界結合の結合係数は、互いの距離が近いときに、共振周波数がスプリットして上下に僅かにずれたところで結合係数が高くなる傾向がある。そして、共振周波数よりも僅かに小さいところでは、コイルアンテナと共鳴コイルの電流の向きが同相となり、共振周波数よりも僅かに大きいところでは、コイルアンテナと共鳴コイルの電流の向きが逆相となるため、共振周波数よりも僅かに小さい方が伝送効率がよい。そのため、LC共振回路を搬送周波数fに同調させるときに、共鳴コイルとコイルアンテナとの間の距離に応じて、その搬送周波数fが伝送効率のよい周波数に合致するように調整されるとよい。
【0059】
また、共鳴コイル38、50間での電力伝送を検討した場合、一方の共鳴コイル38のインダクタンスLが高いと、他方の共鳴コイル50に誘起される電圧が高く、電流が小さくなり、逆にインダクタンスLが低いと、他方の共鳴コイル50に誘起される電圧が低く、電流が大きくなる。その際に、近傍に発生する近磁界強度は変わらないのに対して、電界強度は、共鳴コイル38のインダクタンスLが小さい方がインダクタンスLが大きい場合よりも、高くなる。そのため、近傍に及ぼす影響を考慮すると、各共鳴コイルのインダクタンスLを大きく、キャパシタンスCを小さく設定することが好ましい。
【0060】
本実施形態においては、リーダ装置10において送受信コイルアンテナを兼用としているため、リーダ装置10の小型化を図ることができ、また、リーダ装置側から連続送信を行うことができ、タグ12からの返信時に送信を停止する必要はない。
【0061】
但し、実施形態の変形例として、タグ12に発振器を設けることもできる。発振器を設けた場合、リーダ装置10は、受信時には送信を停止する。タグ12では、電源回路で蓄えた電力を用いて、発振器によって発振された信号をクロック信号として、搬送周波数及び副搬送周波数を生成して変調を行い、変調信号を生成することができる。
【0062】
また、この実施形態の変形例として、タグ12は、負荷変調を行う代わりに図6に示した副搬送周波数で位相変調することもでき、この場合でも、同様に、リーダ装置10においてフィルタ32で搬送周波数を除去し、返信信号を確実に受信することができる。また、リーダ装置10にPLL回路を備えて位相復調することで、返信信号を復調することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に、図7は本発明の第2実施形態を表す。この図において、第1実施形態と同一の部材は、同一の符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0064】
第2実施形態では、第1実施形態と比較して、リーダ装置10において、送信用コイルアンテナ26−1と、受信用コイルアンテナ26−2を備えており、送信周波数f1 と異なる受信周波数f2 で返信が行われるようになっている。送信用コイルアンテナ26−1と受信用コイルアンテナ26−2は、それぞれ送信周波数f1 と受信周波数f2 に同調したLC共振回路を構成している。
【0065】
タグ12は、発振器56を備えている。また、共鳴コイル50には、受信時と返信時とにおいて切り替えるスイッチ52を介してコンデンサ54が接続されている。スイッチ52は、タグ12の制御回路42からの制御により切り替えられて、共鳴コイル50を含むLC共振回路が、受信時及び返信時において、送信周波数f1 及び受信周波数f2 にそれぞれ同調するようになっている。
【0066】
この第2実施形態では、送信時は第1実施形態とほぼ同様に作用するが、返信時は、リーダ装置10が送信を停止し、タグ12では、発振器56からのクロック信号に基づき生成した、送信周波数f1 よりも高い受信周波数f2 で返信を行う。その際に、受信周波数f2 を分周して得られる副搬送波によって変調を行うことは第1実施形態と同じである。
【0067】
送信周波数f1 としては、例えば、中波帯域の周波数を用い、受信周波数f2 としては、例えば短波帯域の周波数を用いて、ビット数の高い拡散符号系列の返信を可能とする。且つ、受信コイルアンテナ26−2が狭帯域のLC共振回路を構成することで、エネルギー伝送効率を上げて干渉波を排除する。
【0068】
この第2実施形態では、リーダ装置10が送信信号を送る送信コイルアンテナ26−1と、タグ12からの返信信号を受ける受信コイルアンテナ26−2とに分かれているため、それぞれのコイルアンテナを送信、受信に適して調整することができるため、効率を上げることができる。
【0069】
尚、図示した例では、タグ12側のみに共鳴コイル50を配置していたが、これに限るものではなく、リーダ装置10の送信コイルアンテナ26−1、受信コイルアンテナ26−2に対応して、それぞれ磁気結合可能な共鳴コイルを配置することも可能である。
【0070】
(実験例)
図8は、共鳴コイルの効果を実証するための実験例を表す図である。図において、リーダ側コイルアンテナ26、共鳴コイル38、共鳴コイル50及びタグ側コイルアンテナ40は、それぞれ以下の条件とした。
【0071】
【表1】

【0072】
リーダ側コイルアンテナ26と共鳴コイル38の距離を150mm、タグ側コイルアンテナ40と共鳴コイル50の距離を100mmとし、共鳴コイル38と共鳴コイル50の距離dと伝送効率との関係を求め、共鳴コイル38、50がない場合と比較したところ、図9に示す結果が得られた。
【0073】
図9から共鳴コイルによって伝送効率が上がること、及び中波帯域よりも短波帯域の伝送効率の方が良いことが示された。
【符号の説明】
【0074】
10 リーダ装置
12 タグ
26 リーダ側コイルアンテナ
26−1 送信用コイルアンテナ
26−2 受信用コイルアンテナ
36 相関計算器
38 共鳴コイル
40 タグ側コイルアンテナ
50 共鳴コイル
62 フーリエ変換処理部(フーリエ変換処理手段)
64 スペクトラム距離計算部(類似度計算手段)
68 クロスパワースペクトラム処理部(クロスパワースペクトラム計算手段)
70 逆フーリエ変換処理部(逆フーリエ変換処理手段)
72 相関判定部(相関処理手段)
H1 ヘッダ
f 搬送周波数
1 送信周波数
2 受信周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルアンテナを備えたリーダ装置と、コイルアンテナを備えたタグとからなり、リーダ装置からタグに向けて非接触に電力を伝送すると共に、両者間でデータ伝送を行うデータ通信システムにおいて、
リーダ装置のコイルアンテナは搬送周波数で送信を行い、タグは、コイルアンテナで送信信号を受信して、送信信号に応答する返信データを拡散符号系列に対応させ、該拡散符号系列に応じて負荷変調または位相変調を行ってコイルアンテナから返信を行い、リーダ装置は、コイルアンテナで返信信号を受信後、前記返信信号の相関処理を行うようになっており、
リーダ装置のコイルアンテナは、送受信兼用となっており、前記搬送周波数に同調したLC共振回路を構成している、ことを特徴とするデータ通信システム。
【請求項2】
タグまたはリーダ装置は、コイルアンテナの他に磁気結合のための搬送周波数に同調した共鳴コイルを備えることを特徴とする請求項1記載のデータ通信システム。
【請求項3】
前記搬送周波数は、短波帯域にあることを特徴とする請求項1または2記載のデータ通信システム。
【請求項4】
前記タグは、搬送周波数の5〜15%の副搬送周波数で変調を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のデータ通信システム。
【請求項5】
コイルアンテナを備えたリーダ装置と、コイルアンテナを備えたタグとからなり、リーダ装置からタグに向けて非接触に電力を伝送すると共に、両者間でデータ伝送を行うデータ通信システムにおいて、
リーダ装置は、別々の送信用コイルアンテナと受信用コイルアンテナとを備え、
リーダ装置の送信用コイルアンテナは送信周波数で送信を行い、タグは、コイルアンテナで送信信号を受信して、送信信号に応答する返信データを拡散符号系列に対応させ、該拡散符号系列に応じて負荷変調または位相変調を行ってコイルアンテナから返信周波数で返信を行い、リーダ装置は、受信用コイルアンテナで返信信号を受信後、前記返信信号の相関処理を行うようになっており、
リーダ装置からの送信信号の送信周波数よりも、タグからの返信信号の返信周波数が高く、
送信用コイルアンテナと受信用コイルアンテナは、それぞれ送信周波数及び返信周波数に同調するLC共振回路を構成していることを特徴とするデータ通信システム。
【請求項6】
タグは、コイルアンテナの他に磁気結合のための共鳴コイルを備え、該共鳴コイルは、リーダ装置送信時には送信周波数に同調し、タグ返信時には返信周波数に同調するように切替えられることを特徴とする請求項5記載のデータ通信システム。
【請求項7】
前記返信周波数は短波帯域にあることを特徴とする請求項5または6記載のデータ通信システム。
【請求項8】
前記リーダ装置は、相関処理を行う相関処理手段を備え、該相関処理手段は、
入力データ列の離散フーリエ変換を行うフーリエ変換処理手段と、
離散フーリエ変換後の複素数と、拡散符号系列のフーリエ変換の複素数の共役とのクロスパワースペクトラムを求めるクロスパワースペクトラム計算手段と、
クロスパワースペクトラムデータを逆離散フーリエ変換する逆フーリエ変換処理手段と、
を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のデータ通信システム。
【請求項9】
前記返信データは前記拡散符号系列の前に既定のヘッダを含んでおり、
前記相関処理手段は、さらに、
入力データ列と既定のヘッダとの類似度を計算する類似度計算手段を備え、
類似度が所定値よりも高い場合にそれに続く入力データ列に関するクロスパワースペクトラム計算手段及び逆フーリエ変換処理手段による処理を行い、類似度が所定値よりも低い場合にそれに続く入力データ列に関するクロスパワースペクトラム計算手段及び逆フーリエ変換処理手段による処理を行わないことを特徴とする請求項8記載のデータ通信システム。
【請求項10】
2ビットの返信データに対して1つの拡散符号系列を割り当てることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のデータ通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−54837(P2012−54837A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197002(P2010−197002)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003388)東京計器株式会社 (103)
【Fターム(参考)】