説明

データ通信方法

【課題】無線アドホックネットワークによるマルチキャスト通信において、通常時および中継ノードの異常発生時に、伝送負荷の上昇を抑えると共に送達時間の遅延を低減する。
【解決手段】ノード別にノードを特定する識別子A1,B1,R1を割り当て、送信元ノードAは、マルチキャストデータのデータヘッダ内に、宛先ノードBを特定する識別子B1を指定、および各中継ノードがマルチキャストデータを受信した後にそれを転送するまでの待機時間Tを指定する。中継ノードRは、宛先ノードヘの経路を保有するノードだけが受信したマルチキャストデータを待機時間だけ保持し、隣接する中継ノードから当該データの受信がない場合のみデータを転送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線アドホックネットワークを利用したデータ通信方法に係り、特にマルチキャスト通信で中継ノードに異常が発生した時の通信経路確保とデータ転送に関する。
【背景技術】
【0002】
無線を用いたアドホックネットワークは、無線が直接届かない無線端末同士間で、他の無線端末を経由して通信を可能にする。このネットワークでは、無線端末が無線状況などに適応して自立的にルート構築、障害回避、アドレス解決を可能とし、その研究開発も行われている。
【0003】
例えば、無線を用いたアドホックネットワークの研究においては、無線特有の問題であるノードの移動性からくる接続状態の変化や、無線帯域の効率的な利用などを考慮したさまざまな通信経路探索と維持のためのルーティングプロトコルが提案されている。
【0004】
一方、パソコンとリモートI/Oユニットを組み合わせてデータ収集を行うSCADAシステムは、工場やプラントの運転で主要な役割を担っており、より高い信頼性が求められている。
【0005】
無線を用いたアドホックネットワークの信頼性については、まださまざま検討が進められている段階であり、SCADAシステムに適用できるほどの信頼性が確保されているとは言い難い。
【0006】
無線を用いたアドホックネットワークのルーティングの例として、移動体を含む無線端末間でマルチキャスト通信を行い、この通信に宛先ノードとその隣接ノードを含んだ複数のノードを宛先とすることによって、宛先ノードが移動した場合にも途切れないデータ送信を可能にしている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
他のルーティングの例として、受信ノードが受信完了を送信ノードに返すことによって、限られたノードだけが転送を行うことを実現し、ネットワークの負荷を下げている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−258982号公報
【特許文献2】特開2006−246174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無線アドホックネットワークでは、ルーティングプロトコルの働きによって、送信元から中継ノードを介した宛先までルートが決定されるが、一旦、宛先ノードへのルートが確定すると、宛先が特定の1つのノードに対する要求であれば、送信元ノードから宛先ノードまでの間の中継ノードに対しては基本的にユニキャストを用いた送信が行われる。
【0009】
図5はユニキャストで送信した場合のデータ中継の例を示し、該当の中継ノード以外のノードはそれを感知しないので、特定の中継ノード1つが異常を起こした場合、その送信データは送達失敗の扱いとなり、送信元から改めて再送を行うことになってしまい、送達時間の遅延と伝送負荷の上昇につながる。同図では中継ノード10の異常により、2回の再送が発生した場合である。
【0010】
一方、特許文献1の方法では、特定の1つのノードに対する要求にブロードキャスト(マルチキャストを含む)を用いた場合には、任意の中継ノードの異常に関わらず再送は不要になるが、要求を受信した全ての中継ノードが宛先ノードに対して転送処理を行うことになるため、本来、あるルートで既に正しく届けられたデータが、同時に別の複数のルートをたどって転送されることになり、不必要にネットワークの負荷を高めてしまう。図6はマルチキャストで送信した場合のデータ中継の例を示し、中継ノード6が異常になっても他の中継ノード5などを経由してデータ転送がされる。
【0011】
また、特許文献2にあるように、受信ノードの受信完了を送信ノードに返す方式をとった場合にも、受信の成否を伝えるための余計な通信が必要になる。
【0012】
本発明の目的は、無線アドホックネットワークによるマルチキャスト通信において、通常時および中継ノードの異常発生時に、伝送負荷の上昇を抑えると共に送達時間の遅延を低減できるデータ通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記の課題を解決するため、無線アドホックネットワークを使用したマルチキャストデータ通信において、ノード別にノードを特定する識別子を割り当て、宛先ノードヘの経路を保有するノードだけが受信したマルチキャストデータを待機時間だけ保持し、隣接する中継ノードから当該データの受信がない場合のみデータを転送するデータ通信方法とし、さらにマルチキャストデータを転送するまでの待機時間を中継ノード毎に指定し、この待機時間には、宛先ノードまでの送達時間、ホップ数によってつけられた優先順位が高いノードほど短い時間を指定するようにしたもので、以下の方法を特徴とする。
【0014】
(1)無線アドホックネットワークを利用し、送信元ノードから中継ノードへの送信、および中継ノードから他の中継ノードヘの送信にマルチキャスト通信を行い、宛先ノードへデータ送信を行うデータ通信方法であって、
ノード別にノードを特定する識別子を割り当て、
送信元ノードは、マルチキャストデータのデータヘッダ内に、宛先ノードを特定する識別子を指定、および各中継ノードがマルチキャストデータを受信した後にそれを転送するまでの待機時間を指定する処理手順を有し、
中継ノードは、宛先ノードヘの経路を保有するノードだけが受信したマルチキャストデータを前記待機時間だけ保持し、隣接する中継ノードから当該データの受信がない場合のみデータを転送する処理手順を有する、
ことを特徴とする。
【0015】
(2)ノード毎に固有のマルチキャストアドレスを割り当て、
送信元ノードは、データ送信の際に宛先アドレスとして宛先ノードに対応したマルチキャストアドレスを指定する処理手順を有し、
中継ノードは、宛先ノードへのルートを保持している場合のみ、そのマルチキャストアドレスに対する受信待機を行う処理手順を有する、
ことを特徴とする。
【0016】
(3)マルチキャストアドレスは、アドホックネットワークを構成するノード間で共通としておき、ノード毎に固有のネットワークポート番号を割り当て、
送信元ノードは、データ送信の際に宛先ポート番号として宛先ノードに対応したネットワークポート番号を指定する処理手順を有し、
中継ノードは、宛先ノードヘのルートを保持している場合のみ、そのネットワークポート番号に対する受信待機を行う処理手順を有する、
ことを特徴とする。
【0017】
(4)前記待機時間は、中継ノード毎に指定し、かつ宛先ノードまでの送達時間、ホップ数によってつけられた優先順位が高いノードほど短い時間を指定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によれば、無線アドホックネットワークを使用したマルチキャストデータ通信において、ノード別にノードを特定する識別子を割り当て、宛先ノードヘの経路を保有するノードだけが受信したマルチキャストデータを待機時間だけ保持し、隣接する中継ノードから当該データの受信がない場合のみデータを転送するデータ通信方法とし、さらにマルチキャストデータを転送するまでの待機時間を中継ノード毎に指定し、この待機時間には、宛先ノードまでの送達時間、ホップ数によってつけられた優先順位が高いノードほど短い時間を指定するようにしたため、通常時および中継ノードの異常発生時に、伝送負荷の上昇を抑えると共に送達時間の遅延を低減できる。
【0019】
具体的には、
(1)特定の中継ノードに異常が発生した場合でも、同じデータを別の中継ノードがそのまま転送することにより、伝送負荷の上昇と、送達時間の遅延を低減できる。
【0020】
(2)各中継ノードにおける転送処理に待機時間を設定することで、隣接する中継ノードが別ルートで同じデータを転送するのを防止することにより、ネットワークの伝送負荷を低減する。
【0021】
(3)各中継ノードにおける転送処理の待機時間をノード別に変化させることにより、転送処理に伴うデータの衝突の可能性を低減し、同じデータの不要な転送処理防止策の確実性が向上する。
【0022】
(4)ノード別の待機時間は、優先順位の高いノードほど転送処理に対する待機時間を短くすることにより、送達時間が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(実施形態1)
図1は、本実施形態におけるノード構成とデータ構成図である。各ノードはコンピュータを中枢部とし、送受信機能をもつ電子装置を構成し、送信元ノードAが複数の中継ノードRを経由して宛先ノードBにデータ通信を行うシステムとし、アドホックネットワークの経路探索にはプロアクティブ型(OLSRなど)のルーティングプロトコルを用い、それによって無線アドホックネットワークを構築する。このネットワークにおいて、送信元ノードAから中継ノードRへの送信、および中継ノードRから中継ノードRヘの送信にマルチキャスト通信を行う。
【0024】
マルチキャストアドレスはアドホックネットワークを構成するノード間で共通とし、各ノードには当該ノードを特定する識別子A1,R1,B1を与える。送信元ノードAは、マルチキャストデータのデータヘッダ内に宛先ノードを特定する識別子B1を指定する。また、送信元ノードAはデータヘッダ内に、各中継ノードがマルチキャストデータを受信した後にそれを転送するまでの待機時間Tを指定する。
【0025】
図2は、中継ノードのデータ中継処理フローである。各中継ノードRは、マルチキャストデータを受信したとき(S1)、送信元ノードAが要求する宛先ノードBヘのルートR2を自ノード内に保持していない場合には送信元ノードAから送信されたマルチキャストデータを破棄し(S2、S3)、保持している場合には送信元ノードAから送信されたマルチキャストデータを保持する(S2、S4)。これによって転送を行うノードを限定する。
【0026】
次に、各中継ノードRは、送信元ノードAによって指定される一定時間待機する(S4)。この時間は、送信元ノードAによって指定されたマルチキャストデータ受信からそれを転送するまでの待機時間Tである。各中継ノードRは、待機時間を経過した後、2つ以上のノードから同じデータを受信していないかをチェックし(S5)、受信している場合には別ノードで中継処理済みと判断して保持していたマルチキャストデータを破棄する(S6)。受信していない場合、保持していたマルチキャストデータを宛先ノードへ向けて、ルートR2上の中継ノードに転送する(S7)。
【0027】
図3は、本実施形態によるマルチキャスト通信でのデータ中継の具体例を示す。送信元ノードAはマルチキャスト通信領域M1(マルチキャスト送信データの到達範囲)内に位置する中継ノードに向けてデータ送信する。このうち中継ノード1,4は、宛先ノードへのルート(ルーティングプロトコルによって構成済のルート)を持たないためデータを破棄する。中継ノード2,3は宛先ノードへのルートを保持しているため、データを保持し、一定時間待機する。
【0028】
中継ノード2,3は受信データを宛先ノードへ向けた転送に際し、待機時間後に他からの同一データの受信がないことを確認する。この確認を中継ノード3が行ったとき、中継ノード2の転送が先になされていた場合、中継ノード2からデータを受信しており、データ転送を行わない。
【0029】
これにより中継ノード2からのデータ転送が行われ、同じ通信領域M2に位置して宛先ノードへのルートになる中継ノード5,6にデータを転送する。このデータ転送において、中継ノード6に異常がなければ、中継ノード6から中継ノード9へのデータ転送がなされ、中継ノード5による転送処理は行われない。ただし、中継ノード6に異常があれば、中継ノード9へのデータ転送が行われないため、中継ノード5によるデータ転送が行われる。
【0030】
いずれの場合にも、中継ノード9が宛先ノードBにデータ転送を行って、1つのデータ通信を終了する。
【0031】
以上のように、本実施形態では、宛先ノードヘの経路を保有するノードだけが受信したマルチキャストデータを待機時間だけ保持し、隣接する中継ノードから当該データの受信がない場合のみ当該データを転送することにより、ネットワーク全体の不必要な伝送負荷の上昇を抑えることができる。
【0032】
また、転送ルート上の中継ノードに異常が発生した場合でも、同じデータを別の中継ノードがそのまま転送することにより、送信元から改めて再送を行うことなく、送達時間の遅延を低減できる。
【0033】
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1において、ノード毎に割り当てる識別子をマルチキャストアドレスにする。
【0034】
つまり、ノード毎に固有のマルチキャストアドレスを割り当てる。送信元ノードは、データ送信の際に宛先アドレスとして宛先ノードに対応したマルチキャストアドレスを指定する。各中継ノードでは、宛先ノードへのルートを保持している場合のみ、そのマルチキャストアドレスに対する受信待機を行う。
【0035】
本実施形態によれば、データリンク層でデータの受信または破棄の判断が行われ、CPU負荷の低減を行うことができる。
【0036】
(実施形態3)
本実施形態は、実施形態1において、ノード毎に割り当てる識別子をマルチキャストアドレスのポートにする。
【0037】
つまり、マルチキャストアドレスはアドホックネットワークを構成するノード間で共通としておき、ノード毎に固有のネットワークポート番号を割り当てる。これにより、送信元ノードは、データ送信の際に宛先ポート番号として宛先ノードに対応したネットワークポート番号を指定する。各中継ノードでは、宛先ノードヘのルートを保持している場合のみ、そのネットワークポート番号に対する受信待機を行う。
【0038】
本実施形態によれば、CPU負荷を低減する一方で、マルチキャストアドレスをノード数分用意する必要がないため、マルチキャストアドレスの管理が不要になる。
【0039】
(実施形態4)
実施形態1〜3のデータ通信方法は、不必要な転送処理が防止でき、ネットワーク全体の負荷低減ができる一方、1つの送信元ノードからのマルチキャストデータを受信した複数の中継ノードが一定の待機時間の後に一斉に転送処理を行うと、それぞれの中継処理速度によっては、各々の送信データが衝突する可能性が高くなる。
【0040】
これを防止するために、本実施形態は、送信元ノードはマルチキャストデータ内の各ノードの待機時間をそれぞれ異なる時間に設定する。各中継ノードは、送信元ノードから指定されたノード別の待機時間に従って転送処理を行うことにより転送処理に伴うデータの衝突の可能性を低減できると共に、不要な転送処理の防止策の確実性を向上できる。
【0041】
(実施形態5)
本実施形態は、実施形態4において、隣接する中継ノード毎に、あらかじめ宛先までの送達時間やホップ数により優先順位を付け、優先順位の高いノードほど待機時間を短くすることによって、より早く確実に届くようにする。
【0042】
図4はマルチキャストデータのヘッダ構成の例を示し、ノード番号別に、優先順位を持たせかつ優先順位が高いノードの待機時間も短くしている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態におけるノード構成とデータ構成図。
【図2】中継ノードのデータ中継処理フロー。
【図3】マルチキャスト通信でのデータ中継の具体例。
【図4】マルチキャストデータのヘッダ構成の例。
【図5】ユニキャスト送信でのデータ中継の例(従来)。
【図6】マルチキャスト送信でのデータ中継の例(従来)。
【符号の説明】
【0044】
A 送信元ノード
B 宛先ノード
R 中継ノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線アドホックネットワークを利用し、送信元ノードから中継ノードへの送信、および中継ノードから他の中継ノードヘの送信にマルチキャスト通信を行い、宛先ノードへデータ送信を行うデータ通信方法であって、
ノード別にノードを特定する識別子を割り当て、
送信元ノードは、マルチキャストデータのデータヘッダ内に、宛先ノードを特定する識別子を指定、および各中継ノードがマルチキャストデータを受信した後にそれを転送するまでの待機時間を指定する処理手順を有し、
中継ノードは、宛先ノードヘの経路を保有するノードだけが受信したマルチキャストデータを前記待機時間だけ保持し、隣接する中継ノードから当該データの受信がない場合のみデータを転送する処理手順を有する、
ことを特徴とするデータ通信方法。
【請求項2】
ノード毎に固有のマルチキャストアドレスを割り当て、
送信元ノードは、データ送信の際に宛先アドレスとして宛先ノードに対応したマルチキャストアドレスを指定する処理手順を有し、
中継ノードは、宛先ノードへのルートを保持している場合のみ、そのマルチキャストアドレスに対する受信待機を行う処理手順を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ通信方法。
【請求項3】
マルチキャストアドレスは、アドホックネットワークを構成するノード間で共通としておき、ノード毎に固有のネットワークポート番号を割り当て、
送信元ノードは、データ送信の際に宛先ポート番号として宛先ノードに対応したネットワークポート番号を指定する処理手順を有し、
中継ノードは、宛先ノードヘのルートを保持している場合のみ、そのネットワークポート番号に対する受信待機を行う処理手順を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ通信方法。
【請求項4】
前記待機時間は、中継ノード毎に指定し、かつ宛先ノードまでの送達時間、ホップ数によってつけられた優先順位が高いノードほど短い時間を指定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のデータ通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−260594(P2009−260594A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106381(P2008−106381)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】