説明

トナー用スチレンアクリル系樹脂を製造する方法

【課題】本発明は、懸濁重合法にて、反応容器内のカレットや二次凝集物の生成を防ぎ、工程安定性、生産性が向上するトナー用スチレンアクリル系バインダー樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体混合物を、シリコーン型消泡剤やポリアルキレングリコール系やポリエーテル系、高級アルコール、界面活性剤等の有機系消泡剤の存在下で懸濁重合させる、トナー用スチレンアクリル系樹脂を製造する方法にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーのバインダー樹脂として好適に使用することができるトナー用スチレンアクリル系樹脂を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等は印刷の高速化が進み、それに伴いトナー及びバインダーレジンも改良が進められてきている。たとえば、定着工程では定着温度の低温化にともないトナーおよびトナー用バインダー樹脂は低温定着性の改良が進められている。定着温度を下げ、定着性を向上させるためにはバインダー樹脂の分子量を低くすることが考えられる。スチレンアクリル系樹脂の場合、分子量を低くするためには、重合温度を高くする方法があげられる。
【0003】
しかしながら、スチレンアクリル系樹脂を懸濁重合により得ようとする場合、分子量を下げるため重合温度を高くすると、ポリマーが反応液面に浮かび上がる、いわゆる、浮きポリマーや二次凝集したポリマーが生成しやすくなる。このため、二次凝集物の生成を防止するために分散剤を多量に用いる方法が検討されているが、分散剤を多量に用いると重合反応中の発泡が激しくなり二次凝集物や反応容器に付着するカレットが増加し工程安定性、生産性が低下しやすく、また得られたポリマー表面の分散剤の除去が難しいためトナーの画像安定性が不十分となりやすかった。
【0004】
このため、例えば特許文献1には、反応容器内の圧力を制御して懸濁重合を行い、二次凝集物の生成を防ぐ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−27229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、加圧可能な反応容器を用いる必要があり、また、生産性向上のために分散媒に対する単量体の比率を上げた場合の、反応容器内のカレットや二次凝集物の生成を防ぐには十分ではなかった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するものであり、反応容器内のカレットや二次凝集物の生成を防ぎ、工程安定性、生産性が向上するトナー用バインダー樹脂を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体混合物を、消泡剤の存在下で懸濁重合させる、トナー用スチレンアクリル系樹脂を製造する方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、反応容器内のカレットや二次凝集物の生成を防ぎ、トナー用スチレンアクリル樹脂の生産性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体混合物を、消泡剤の存在下で懸濁重合させる。
【0011】
スチレン系単量体を含むことにより、本発明により得られる樹脂をバインダー樹脂として用いたトナーの耐ブロッキング性や定着性、帯電性が良好となり、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含むことにより、定着性が良好となる。
【0012】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン,oーメチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、αーメチルスチレン、p−エチルスチレン、2、4ージメチルスチレン、pーnーブチルスチレン、p−tertーブチルスチレン、pーnーヘキシルスチレン、pーnーオクチルスチレン、pーn−ノニルスチレン、p−n−テンシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−フェニルスチレン、3、4ージシクロシルスチレン等が挙げられ、中でも、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
スチレン系単量体の使用量は、単量体混合物100質量部に対し、50〜92質量部が好ましい。50質量部未満であると耐ブロッキング性と定着性が低下する傾向にあり、92質量部を超えると定着性が低下する傾向にある。なお、スチレン系単量体の使用量の下限値は、耐ブロッキング性と定着性の点で60質量部以上がより好ましく、65質量部以上が特に好ましい。また上限値は、定着性の点で88質量部以下が好ましく、84質量部以下が特に好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でもn−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが、定着性と非オフセット性のバランスから好ましい。なお、「(メタ)アクリル」とは、「メタクリル」または「アクリル」を表す。
【0015】
また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の使用量は、単量体混合物100質量部に対し5〜49質量部が好ましい。5質量部未満の場合は定着性が悪化する傾向にあり、49質量部を超えると耐ブロッキング性が悪化する傾向にある。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の使用量の下限値は、定着性の点で10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が特に好ましい。上限値は、耐ブロッキング性の点で39質量部以下がより好ましく、34質量部以下が特に好ましい。
【0016】
さらに本発明では、前記単量体混合物中に、その他のビニル系単量体を含んでいてもよい。その他のビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、ケイヒ酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル等の不飽和モノカルボン酸モノエステル等のカルボン酸含基ビニル単量体、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ビスフェノールA誘導体のジ(メタ)アクリル酸、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能ビニル系単量体が挙げられる。
【0017】
多官能ビニル系単量体を用いることにより、樹脂を高粘度化することが可能となり、トナーとしての耐ホットオフセット性を向上させることができる。
本発明では、消泡剤の存在下で単量体混合物を懸濁重合させることにより、重合反応中の発泡現象を抑制し、反応容器に付着するカレットや、二次凝集物の生成を大幅に低減できる。
【0018】
消泡剤は、重合反応を開始する前の反応容器内へ投入しても、重合反応中の反応容器内へ投入してもよい。
【0019】
消泡剤としては、例えばシリコーン型消泡剤やポリアルキレングリコール系やポリエーテル系、高級アルコール、界面活性剤等の有機系消泡剤を使用することができる。シリコーン型消泡剤としてはエマルション型が好ましい。シリコーン型消泡剤としては、オイル型、オイルコンパウンド型、溶液型、粉末型、固形型、エマルジョン型、自己乳化型が挙げられ、例えば信越化学工業社製のKF−96、KS−66、KM−88P、KM−73、KM−90、KS−558等が挙げられる。
【0020】
また有機系消泡剤としては、少量で消泡性を発現できることから、ポリアルキレングリコール系が好ましく、例えば、日本油脂社製ディスフォームBC−51Y、CA−123、CE−120R、CE−457、CK140が挙げられる。
【0021】
消泡剤の添加量は、単量体混合物100質量部に対し0.01〜1質量部の範囲が好ましい。0.01質量部以上あれば分散安定性が良好となり、1質量部以下であればトナーの帯電性が良好となる。
【0022】
さらに、分散媒の質量/単量体混合物の質量で表される質量比Rが小さいほど、懸濁重合で得られる樹脂が増加し生産性は向上するが、カレットや二次凝集物が生成しやすく工程安定性が低下する傾向にある。
【0023】
本発明では、消泡剤の存在下で重合することにより、質量比Rが小さい場合であっても二次凝集物やカレットの生成を低減でき生産性が向上する。生産性向上の点から質量比Rは1.5以下であることが好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0024】
懸濁重合は公知の方法で行えばよく、例えば、水性媒体中に単量体混合物、重合開始剤、分散剤などを添加して重合を開始させ、重合後の懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することにより樹脂を得ることができる。
【0025】
重合開始剤としては、例えば、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカンノエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオカーボネート、t−ブチルパーオキシネオカーボネート、t−ブチルパーオキシネオヘプタネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3テトラメチルブチルー2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物。2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’‐アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(2−(カルボアモイルアゾ)イソブチルニトリル)等のアゾ系重合開始剤が挙げられる。
【0026】
また、分散剤としては、例えば、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体等のノニオン系高分子化合物、ポリアクリル酸及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸及びその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物などが使用できる。その中でも、アニオン系高分子化合物は、少量で分散安定性を保持でき、樹脂中に残存する量が極めて少ないため好ましい。
【0027】
さらに重合温度は100℃以上が好ましい。100℃以上で重合することにより、反応速度が向上し短時間で重合可能であり低分子量ポリマーを重合し易いためである。重合温度は120℃以上が更に好ましい。また室温から重合温度に達するまでに昇温時間は、30分から90分の範囲とすることが好ましい。これは、20分未満の場合、懸濁分散状態が低下し易いためであり、90分を超えると樹脂の分子量を低下させることができなくなり、定着性が低下するためである。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示す。なお、評価は以下の方法に従った。
【0029】
(1)工程安定性
懸濁重合中の反応容器中のカレット、二次凝集物の発生を観察した。
○:付着するカレット、二次凝集物が殆ど無い。
△:釜一面にカレットが付着し、二次凝集物が発生する。
×:固化する。
【0030】
(2)樹脂収率(wt%)
樹脂収率(wt%)=A/B×100
A;単量体混合物の仕込み重量(質量部)
B;乾燥して得られたトナー用スチレンアクリル樹脂重量(質量部)
【0031】
(3)生産速度
一日辺りの生産速度を下記式にて算出した。
生産速度(質量部/日) = C / D ×24
C;乾燥して得られたトナー用スチレンアクリル樹脂重量(質量部)
D;トナー用スチレンアクリル樹脂の製造時間(時間)
(アニオン系高分子化合物(分散剤A))
メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム1.65kg、メタクリル酸カリウム0.25kg、メタクリル酸メチル0.3kg、脱イオン水22.5kgを内容積30Lのコンデンサーを備えた反応釜中で窒素雰囲気下に攪拌しながら50℃に昇温した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム2.5gを添加して60℃に昇温した。一方、重合開始剤の添加と同時に、メタクリル酸メチルを4g/分の速度で75分間連続的に滴下した。60℃で6時間攪拌を続けたところ、1000mPa・sの粘度を有する透明な重合体溶液を得た。これを脱イオン水で固形分10%に調整し、分散剤Aとした。
【0032】
(実施例1)
撹拌機及び温度計を備えた100Lの反応釜に、脱イオン水50580質量部、分散剤A 220質量部、硫酸ナトリウム140質量部、消泡剤としてポリオキシアルキレンペンタエリスリトールエーテル(日本油脂社製;商品名「ディスホームCE−457」)60質量部(単量体混合物100質量部に対し0.1質量部)を仕込み、次いで単量体としてスチレン21360質量部、n−ブチルアクリレート6740質量部、ジビニルベンゼン(純度56.5%品)100質量部及び重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド750質量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(化薬アクゾ社製;商品名「トリゴノックス117」)140質量部を添加した。質量比Rは1.80であった。
【0033】
内容物を攪拌しながら40℃から130℃まで65分間で昇温し、130℃到達後さらに2時間攪拌した後、冷却し、重合体粒子を含む懸濁液を得た。
【0034】
得られた懸濁液を目開き2mmの金属メッシュでろ過し、更に45μmのナイロン製ろ過布でろ過し微粉を除去した後、洗浄、乾燥し、トナー用スチレンアクリル樹脂を27500質量部得た。重合工程の評価結果を表1に示す。
【0035】
(実施例2〜4、比較例1、2)
表1に示す原料組成で、実施例1と同様に重合を行い、トナー用バインダー樹脂を得た。評価結果を表2に示す。
【0036】
【表1】

なお、表1に記載した略号は、以下のものを表す。
St:スチレン
n−BA:n−ブチルアクリレート
MAA:メタクリル酸
DVB:ジビニルベンゼン
DFX:脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルミニウム塩の混合物(東邦化学社製;商品名「デフォマックス520」)
CE−457:ポリオキシアルキレンペンタエリスリトールエーテル(日本油脂社製;商品名「ディスホームCE−457」)
BPO:ベンゾイルパーオキサイド(純度75%品)
AMBN:2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)
TRX117:t−ブチルパーキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート(化薬アクゾ社製;商品名「トリゴノックス117」)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体混合物を、消泡剤の存在下で懸濁重合させる、トナー用スチレンアクリル系樹脂を製造する方法。

【公開番号】特開2011−246541(P2011−246541A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119144(P2010−119144)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】