トラクタ
【課題】 副変速が高速位置にあってもHST内の油圧回路の油圧力調節が円滑に行われて、過負荷状態に圧力上昇することを少なくし、安全で、安定したHST1による無段変速走行を行わせる。
【解決手段】 走行用のHST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、第1の手段として、副変速の高速位置(H)でのモータ(4)によるトラニオン軸(2)の回動調節速度を、副変速の中速位置(M)や低速位置(L)での回動調節速度よりも遅く設定する。第2の手段として、トラニオン軸(2)の中立位置(N)近くでの回動調節速度を遅く設定する。
【解決手段】 走行用のHST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、第1の手段として、副変速の高速位置(H)でのモータ(4)によるトラニオン軸(2)の回動調節速度を、副変速の中速位置(M)や低速位置(L)での回動調節速度よりも遅く設定する。第2の手段として、トラニオン軸(2)の中立位置(N)近くでの回動調節速度を遅く設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、HST(油圧無段変速装置)を介して駆動走行するトラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
HSTの変速制御における変速ショックを軽減して、乗車感覚を良くするために、HST油圧回路に絞りを有した切替弁を設けて、このHSTのトラニオン軸が中立位置近くに回動調節されるとき、この切替弁を絞り位置に切替える技術(例えば特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開平5ー106731号公報(第1頁、図2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に副変速が高速位置であるときの走行変速時ないし発進時には、走行輪側からの駆動負荷によってトラニオン軸の回動調節に対して車速の追従が遅れて、HTS内の油圧回路に過負荷がかかり、リリーフが吹く状態となり、HSTの耐久性が低下し易くなることがある。又、異音を発生して不快感を与え易い。更には、中立位置からトラニオン軸をパルス出力によって回動調節して急増速又は急減速回動させると、出力パルスがOFFすると走行が急停止して衝撃を発生して乗り心地を悪くする。そこで、この発明は、このようなHSTの変速操作時に、HST内の油圧回路の油圧力の変化を発生させないようにトラニオン軸の回動速度を制御するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、走行用のHST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、副変速の高速位置(H)でのモータ(4)によるトラニオン軸(2)の回動調節速度を、副変速の中速位置(M)や低速位置(L)での回動調節速度よりも遅く設定したことを特徴とするトラクタの構成とする。
トラクタ走行時は、運転者がペダル3を踏込むことにより、モータ4が駆動し、該モータ4の駆動によってトラニオン軸2に連動される斜盤を回動調節して、HST1を無段変速する。このようなトラニオン軸2の回動調節は、副変速が中立位置M又は低速位置Lにあるときは、通常の回動調節速度で行われるが、副変速が高速位置Hにあるときは、副変速が中立位置M又は低速位置Lにある状態でのトラニオン軸2の回動調節速度よりも遅い速度で回動調節される。このためHST1の斜盤角の変化も緩速で行われてHST内の油圧回路の油圧力が緩やかに上昇する。
【0005】
請求項2に記載の発明は、HST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、該トラニオン軸(2)の中立位置(N)近くでの回動調節速度を遅く設定したことを特徴とするトラクタの構成とする。
トラクタ走行時において、運転者がペダル3を踏込むことにより、モータ4が駆動し、該モータ4の駆動によってトラニオン軸2に連動される斜盤を回動調節してHST1を無段変速する。このときトラニオン軸2が中立位置Nに近い位置にある場合は、このトラニオン軸2の回動調節速度が遅くなる。従って、この中立位置Nの近傍ではトラニオン軸2による斜盤角の変化が緩速に行われて、HST1の変速調節が緩速で行われる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によると、トラニオン軸2及び斜盤の回動調節速度を遅く制御して、副変速が高速位置にあってもHST内の油圧回路の油圧力調節が円滑に行われて、過負荷状態に圧力上昇することを少なくし、安全で、安定したHST1による無段変速走行を行わせることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、HST内の油圧回路の油圧力調節が円滑に行われて、過負荷状態に圧力上昇することは少なくなり、安全で、安定した発進を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図例に基づいて、トラクタの走行連動は、エンジン6、HST1、副変速装置7、フロントデフ8、及びフロントアクスル9等を介して、左右前輪10の前車軸11を駆動するように連動構成し、又、該副変速装置7から、後輪取出軸12、4WDクラッチ13、後輪連動軸14、リヤデフ15、リヤアクスル軸16等を介して左右後輪17の後車軸18を駆動するように連動構成する。又、前記HST1からは、PTOクラッチ19、及びPTO変速ギヤ20を介してフロントPTO軸21、ミッドPTO軸22等を連動する構成としている。前記HST1は、エンジン6から入力する入力軸23と、この入力軸23から無段変速して出力される出力軸24、及び、この入力軸23から直接連動されるPTO出力軸25を有し、各出力軸24から副変速装置7、又はPTOクラッ19へ連動する。このようなトラクタは、運転席26前方のステアリングハンドル28足元部のフロア27に設けられるアクセルペタル(ペダル)3の踏込みによって、トラニオン軸2を回動させて、HST1を無段変速しながら走行することができる。又、この走行の前進F、後進Rの切替は、運転席26横側等に配置されるリニアレバー29の操作によってリニアスイッチ30を前進位置F、後進位置Rに切替て行われる。前記アクセルペダル3の操作によって踏込回動角度を検出するポテンショメータから成るペダルポジションセンサ31を有し、このペダルポジションセンサ31をコントローラ50に入力して、トラニオンモータ(モータ)4を出力して正転、又は逆転駆動する構成とする。このトラニオンモータ4は、ピニオンギヤ32を回動してHST1のトラニオン軸2の扇形ギヤ33を噛合回動する構成としている。又、前記副変速装置7は、運転席26横側に設けられる副変速レバー34によって、高速位置H、中速位置M、及び、低速位置Lの各副変速ギヤの変速切替が行われる構成としている。又、前記トラニオン軸2側には、このトラニオン軸2の回動角度を検出するポテンショメータから成るHSTトラニオンポジションセンサ34が設けられて、前記アクセルペダル3による操作量に応じたトラニオン軸2の回動が行われたことをチェックするフィードバック制御を行う構成としている。
【0009】
前記HST1の油圧回路5は、油圧ポンプ49を有して、PTOクラッチ19を入り切りするためのクラッチシリンダ36、前輪操向クラッチを操作するためのクラッチシリンダ37、及び後輪操向のステアリングハンドル28で作動されるパワステシリンダ38等の各制御バルブ39、40、41等を配置した操作系油圧回路42の一部に連通して、油圧の補給を受けるチャージ回路48を構成している。又、このHST油圧回路5は、入力軸23によって駆動されると共に、トラニオン軸2の回動によって角度調節される斜盤43(この斜盤43に沿ってプランジャピストン及びシリンダを公転させる構成であり、この斜盤43の角度変更によってプランジャピストンのストローク(送油容積)が変更される。)を有する可変容量型のHSTポンプ44の吐出口及び吸入口と、このHSTポンプ44からの送油によって駆動される固定容量型(斜盤角度が変更不能の構成)のHSTモータ45の吸入口及び吐出口とを閉回路形態に接続して構成し、入力軸23の回転を無段変速して出力軸24に出力する構成としている。又、このHST油圧回路5には、ニュートラルバルブ46や、低圧リリーフバルブ、高圧リリーフバルブ47等を配置する。
【0010】
前記HST1は、リニアレバー29によるリニアスイッチ30の切替によって、前記アクセルペダル3操作によるトラニオンモータ4の回転駆動方向を、正転方向と逆転方向に切替られる。リニアレバー29を前進位置F又は後進位置Rに操作して、アクセルペダル3を踏込むと、トラニオンモータ4を中立位置Nから正転方向又は逆転方向へ駆動させて、トラニオン軸2をこのアクセルペダル3の踏込量または踏込位置に応じて中立位置Nから前進位置F側又は後進位置R側へ回動調節することができる。このトラニオン軸2が中立位置Nにあるときは、HSTモータ45の出力軸24は停止状態にあり、走行停止状態となる。このHSTトラニオン軸2(及び斜盤43)を中立位置Nから前進位置F方向へ回動調節すると、HST1のHSTモータ45の出力軸24がこのトラニオン軸2の回動角度に応じて正転方向へ増速して前進増速する。又、トラニオン軸2を、この前進位置Fから中立位置N側へ復帰回動させると、前進減速させることができる。又、このトラニオン軸2を、後進位置R(逆転方向)へ回動調節するときも、略同様にして後進増速ないし減速させることができる。
【0011】
ここにおいて、この発明におけるトラクタは、走行用のHST1のトラニオン軸2をペダル3の操作量ないし操作位置に応じてモータ4を駆動して回動調節するトラクタにおいて、副変速の高速位置Hでのモータ4によるトラニオン軸2の回動調節速度を、副変速の中速位置Mや低速位置Lでの回動調節速度よりも遅く設定したことを特徴とする。このトラクタの走行時は、運転者がアクセルペダル3を踏込むことにより、アクセルモータ4の駆動によってトラニオン軸2及び斜盤を回動調節して、HST1を無段変速する。このようなトラニオン軸2の回動調節は、副変速が中速位置M又は低速位置Lにあるときは、通常の回動調節速度で行われるが、副変速が高速位置Hにあるときは、これら副変速位置が中速位置Mや低速位置Lにあるときのトラニオン軸2の回動調節速度よりも遅い緩速度で回動調節される。このためHST1の斜盤角の変化も緩速度で行われてHST油圧回路5内の油圧力を緩やかに上昇させて無段変速させることとなる。
【0012】
図4〜図6のように、前記コントローラ50の入力側には、ペダルポジションセンサ31や、HSTトラニオンポジションセンサ34、副変速レバー35による各変速位置を切換える副変速低速スイッチ35L、中速スイッチ35M、高速スイッチ35H、及びアクセルモータ4の電流値を検出するモータ電流センサ51等を配置する。又、出力側には、トラニオン軸2を正回転方向へ回動するためのトラニオン正転リレー52、トラニオン軸2を逆回転方向へ回動するためのトラニオン逆転リレー53、及び、トラニオン出力54等を配置する。これらトラニオン正転リレー52、逆転リレー53、及びトラニオン出力54は、前記トラニオンモータ4をパルス出力により電動するもので、このONタイム出力時に駆動されるが、このONタイムとOFFタイムの間のデューティ比は、副変速の高速位置H時を、中速位置Mや、低速位置L時よりも小さく設定している(図4)。特に、リニアレバー29によるHST1が後進位置Rにあるときは、ペダル3位置に対応した目標トラニオン軸2位置算出値が、最高速を前進速の1/2までとして設定している。そして、副変速が高速位置Hにあるときは、パルス出力ONタイムLを標準値よりも小さくして、トラニオン軸2を緩速で回動させて変速する。従って、副変速が高速位置Hの場合は、トラニオン軸2の変位に対して車速の追従が遅れるようなことがないから、HST回路のリリーフが吹いたり、異音を発生することも少なくなる。又、リニアレバー29を後進位置Rに操作していて、副変速を高速位置Hに入れたとしても、トラニオン軸2は緩速回動されるため、安全に走行することができる。
【0013】
次に、この発明におけるトラクタは、HST1のトラニオン軸2をペダル3の操作量ないし操作位置に応じてモータ4を駆動して回動調節するトラクタにおいて、該トラニオン軸2の中立位置N近くでの回動調節速度を遅く設定したことを特徴とするものである。トラクタ走行時において、運転者がアクセルペダル3を踏込むことにより、トラニオンモータ4の駆動によってトラニオン軸2を回動調節してHST1を無段変速させる。このときトラニオン軸2が中立位置Nに近い位置にあるときは、このトラニオン軸2の回動調節速度を遅くする。従って、この中立位置Nの近傍ではトラニオン軸2によるHST斜盤角の変化が緩速に行われて、HST1の変速調節速度が緩速で行われる。
【0014】
図7、図8のように、前記トラニオンモータ4を電動するための出力パルスのデューティ比については、トラニオン軸2の中立位置N近傍での操作域Aにおけるデューティ比が、中立位置N近傍以外の操作域Bにおけるデューティ比よりも小さくなるように設定している。そして、アクセルペダル3操作により増速又は減速する際に、トラニオン軸2が中立位置Nに近い領域A位置にあるときは、標準値Bよりも小さいONパルスによって出力されるため、トラニオン軸2の回動調節速度を緩速にして回動調節する。このため、トラニオン軸2をトラニオンモータ4によって回動するとき、中立位置Nの近傍域での増速ないし減速時に、トラニオン軸2の回動調節速度が遅くなるため、車速が非常に低速であっても、車速に応じたHST1の減速比となって、車体の慣性に抗した急停止よる走行ショックの発生を少なくすることができる。
【0015】
前記のようにトラニオンモータ4でトラニオン軸2を回動調節してHST1を変速制御する形態にあっては、トラニオンモータ4による出力が正常であるか否かを判断するために、トラニオンポジションセンサ34の検出値の変化を見ることができるが、しかし、これだけでは、駆動部や、センサ部等のガタツキを考慮する必要があり、異常検出までに相当の時間を要する。トラクタの走行では、例えば最高40km/hで走行するため、できるだけ早く異常を検出して報知して安全を図る必要がある。そこで、図9〜図11のように、コントローラ50からのパルス出力(図9)によってトラニオンモータ4を駆動する。これによってトラニオンモータ4の電流Eはモータ電流センサ51で検出されており、トラニオン軸2の回動位置(角度)を検出するセンサ34の検出値の状態を示す曲線Dを階段状に描くことができ、この変化をトラニオンポジションセンサ34によって検出している。コントローラ50からトラニオンモータ4への出力中では、図10のフローチャートのメインルーチンR1のように、モータ電流と、トラニオンポジションセンサ34の検出値とによって、モータ電流値が一定値a以下で、かつトラニオンポジションセンサ34値の一定時間当りの変化が一定値α以下の場合は、モータ4や、ドライブ機構ユニット、或いは、関連ハーネスが断線、乃至接触不良の可能性が高いものとして、警報を発すると共に、増速のときはペダル3操作に拘らずモータ4への出力を中止し、減速の場合はペダル3操作に対応してトラニオンモータ4への出力を継続するように構成したものである。
【0016】
又、トラニオンモータ4へ出力したときの、このトラニオンモータ4の電流値が一定値a以上で、無負荷時の電流値bよりも小さく、かつトラニオンポジションセンサ34検出の時間当りの変化が(α+b)以下の場合は、図10のフローチャートのサブルーチンR2のように、ブラシの摩耗、コイルの劣化等、トラニオンモータ4の耐久性に関する影響があるものとして、点検を促すメッセージを表示して警報する。このとき、アクセルペダル3操作に対応するトラニオン制御を継続して行わせる。トラニオンモータ4を停止するような重大な故障に至る前に、点検を促して安全性を図るものである。
【0017】
更に、前記コントローラ50からトラニオンモータ4への出力していないとき、トラニオンポジションセンサ34の検出値を監視して、このセンサ値が一定値β以上変化した場合は、図10のフローチャートのサブルーチンR3のようにクラッチの滑りや、センサ異常等が発生したことCを報知して、アクセルペダル3操作に対応するトラニオン軸2の回動制御は継続するように構成する。異常の兆候を的確にオペレータに報知して安全性を向上できる。
【0018】
又、図11のフローチャートのように、トラニオンモータ4へ出力したときのモータ電流センサ51の検出値が、このトラニオンモータ4の無負荷電流値b以上で、かつトラニオンポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γ以下の場合は、メインルーチンR1のように摩擦板の滑り、センサの故障、センサアクチュエータの脱落、取付不良等に関するものとして警報を発すると共に、増速の場合は、アクセルペダル3操作に拘らずトラニオンモータ4への出力を中止し、減速の場合は、アクセルペダル3操作に対応してトラニオンモータ4への出力を継続する構成とする。該ポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γより大きい一定値δ以下の場合、警報を発すると共に、アクセルペダル3操作に対応したトラニオン軸2の制御は継続するように構成する。このため、故障の詳細を表示できるので、修理を簡単に行うことができる。又、故障に対応して制御の継続、停止を選択できるため安全な走行制御を行うことができる。
【0019】
又、動図11のサブルーチンR2のように、トラニオンモータ4へ出力したときのモータ電流センサ51の検出値が、通常の正常作動時の電流値よりも大きい一定以上で、かつトラニオンポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γ以下の場合は、駆動系のメカロック等が発生したものとして、警報を発すると共に、増速の場合は、アクセルペダル3操作に拘らずトラニオンモータ4への出力を中止し、減速の場合は、アクセルペダル3操作に対応してトラニオンモータ4への出力を継続するように構成している。該トラニオンポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γより大きい一定値δ以下の場合は、警報を発すると共に、アクセルペダル3操作に対応したトラニオン制御を継続するように構成している。
【0020】
次に、主として図12〜図14に基づいて、前記HSTトラニオン制御において、アクセルペダル3の中立位置や、トラニオン軸2の中立位置Nが調整されていないときの制御は、この制御範囲を狭くしたり、副変速位置を変更することによって制御することができる(図14)。アクセルペダル3や、トラニオン軸4等の中立位置Nが調整されていないときは、前記コントローラ50の不揮発メモリ55に記憶されていない。この場合は、予め設定してある標準値で制御するが、トラニオン軸2の作動範囲を通常の調整済みの作動範囲よりも狭くして、車速が出せないようにして制御するように構成したものである。故障したコントローラ50を交換した場合には、トラニオン軸2の中立位置N、最高速位置、アクセルペダル3の中立位置等を調整する必要がある。この調整が済むまでの間にトラクタを運転することがある。このような場合は、通常のアクセルペダル3操作時と同様な動きをしない場合があって危険であるが、このような場合は、低車速しか出ないため危険回避に有効である。
【0021】
又、このトラニオン制御において、副変速位置が低速L、中速M、高速位置Hに応じてトラニオン軸2の作動範囲域を定めて、作動範囲は低速L、中速M、高速位置Hの順に狭くして行く構成としたものである。これら各変速位置L、M、Hでトラニオン軸2の作動範囲を一定にしていると、高速位置Hでは車速が出過ぎて危険であるが、上記のように構成することによってこの危険性を防ぐことができる。
【0022】
このようなHSTトラニオン制御(図15)において、アクセルペダル3の中立位置や、トラニオン軸2の中立位置Nが調整されていない場合、即ち、コントローラ50の不揮発メモリ55に記憶されていない場合に、エンジン6をかけたときには、コントローラ50からエンジン停止リレー56を出力して、エンジン停止を行ってトラクタを走行させないようにすることができ、トラニオン軸2や、アクセルペダル3が未調整状態で走行するのを防止することができる。
【0023】
次に、主として図16〜図18に基づいて、前輪10と後輪17の操向を行う4WS制御を有するトラニオン制御において、故障によりコントローラ50を交換した場合、前輪操舵角センサ57と後輪操舵角センサ58の直進位置を調整する必要があるが、調整を行うまでの間にトラクタを運転することがある。このような場合、ステアリング操作時と同様な動きをしないことがあると危険である。そこで、このように前輪操舵角センサ57と後輪操舵角センサ58の直進位置が調整されていない場合、即ち、コントローラ50の不揮発メモリ55に記憶されてない場合には、予め設定してある標準値で制御を行うが、トラニオン軸2の作動範囲を調整済みの通常域よりも狭くして車速が出ないように構成する。コントローラ50の入力側には、前、後輪操舵角センサ57、58を配置すると共に、これら操舵形態を、前輪10の操舵によるFWSモードと、後輪17の操舵によるRWSモードと、前、後輪10、17の操舵による4WSモードとに選択できるように構成している。これら各モードの選択はFWSスイッチ59、RWSスイッチ60、及び4WSスイッチ61の選択操作によって行うことができる。出力側に配置の4WS切替リレー62、63、64は、4WSスイッチ61に切替られたときの狭く制限されたトラニオン軸2の作動範囲制御の出力を示すもので、A、B、Cの三段階に設定されている。
【0024】
次に、図19に基づいて、トラクタ走行中に、坂道等により負荷が変動して、車速が影響を受けても、トラニオン軸2位置を自動的に駆動することによって、安定した車速を確保し、細かいアクセルペダル3操作を不要とするものである。このため、前記のように変速装置にHST1を用いたトラニオン軸2をモータ4駆動することによって走行制御するトラクタにおいて、副変速装置7が高速位置Hのとき、目標最大車速40km/hを決定して、この目標最大車速とトラニオン位置を連動制御させる。又、副変速が高速位置Hでアクセルペダル3を最大位置まで踏み込んで、それに応じた目標最大車速が確保されている状態にて、トラクタにかかる負荷の変動により車速の増減が生じても、アクセルペダル3が最大位置まで踏み込まれていたら目標最大位置を保つようにトラニオン軸2をモータ駆動する構成としたものである。
【0025】
又、主として図20に基づいて、前記のようにトラニオン制御において、後進時は、速度超過すると危険であるため、その制限値を副変速の各変速位置H、M、L毎に設定することによって安全性を保つものである。前記リニアレバー29を後進位置に入れているときには、副変速を高速位置Hにしてアクセルペダル3を最大位置まで踏み込んだ場合には、前進時の半分の目標最大車速(H速)を出すようにトラニオン軸2を駆動して、又、副変速を中速位置Mで、アクセルペダル3を最大位置まで踏み込んだ場合には、前進時の半分の目標最大車速(M速)を出すようにトラニオン軸2を駆動し、更には、副変速を低速位置Lでアクセルペダル3を最大位置まで踏み込んだ場合には、前進時の半分の目標最大車速(M速)を出すようにトラニオン軸2を駆動制御する構成としたものである。ここに、これら目標最大車速H速を20km/h、M速を10km/h、L速を5km/hとして設定している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】HST制御装置のブロック図。
【図2】トラクタの伝動系を示す伝動機構線図。
【図3】HST油圧回路図。
【図4】そのトラニオンモータの駆動出力のパルスチャート。
【図5】そのトラニオンモータの制御ブロック図。
【図6】そのフローチャート。
【図7】一部別例を示すトラニオンモータ制御の増、減速出力時のタイムチャート。
【図8】そのフローチャート。
【図9】一部別例を示すトラニオンモータ制御の出力タイムチャート。
【図10】そのフローチャート。
【図11】その一部別例を示すトラニオンモータ制御のフローチャート。
【図12】トラニオン軸の回動角域を示す正面図と、コントローラの不揮発メモリのブロック図。
【図13】このトラニオン制御のブロック図。
【図14】その制御フローチャート。
【図15】その制御フローチャート。
【図16】一部別例を示すトラニオン軸の回動角域を示す正面図と、不揮発メモリのブロック図。
【図17】そのトラニオン制御のブロック図。
【図18】その制御フローチャート。
【図19】一部別例を示すトラニオン制御のフローチャート。
【図20】一部別例を示すトラニオン制御のフローチャート。
【符号の説明】
【0027】
1 HST
2 トラニオン軸
3 アクセルペダル(ペダル)
4 トラニオンモータ(モータ)
H 高速位置
L 低速位置
M 中速位置
N 中立位置
【技術分野】
【0001】
この発明は、HST(油圧無段変速装置)を介して駆動走行するトラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
HSTの変速制御における変速ショックを軽減して、乗車感覚を良くするために、HST油圧回路に絞りを有した切替弁を設けて、このHSTのトラニオン軸が中立位置近くに回動調節されるとき、この切替弁を絞り位置に切替える技術(例えば特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開平5ー106731号公報(第1頁、図2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に副変速が高速位置であるときの走行変速時ないし発進時には、走行輪側からの駆動負荷によってトラニオン軸の回動調節に対して車速の追従が遅れて、HTS内の油圧回路に過負荷がかかり、リリーフが吹く状態となり、HSTの耐久性が低下し易くなることがある。又、異音を発生して不快感を与え易い。更には、中立位置からトラニオン軸をパルス出力によって回動調節して急増速又は急減速回動させると、出力パルスがOFFすると走行が急停止して衝撃を発生して乗り心地を悪くする。そこで、この発明は、このようなHSTの変速操作時に、HST内の油圧回路の油圧力の変化を発生させないようにトラニオン軸の回動速度を制御するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、走行用のHST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、副変速の高速位置(H)でのモータ(4)によるトラニオン軸(2)の回動調節速度を、副変速の中速位置(M)や低速位置(L)での回動調節速度よりも遅く設定したことを特徴とするトラクタの構成とする。
トラクタ走行時は、運転者がペダル3を踏込むことにより、モータ4が駆動し、該モータ4の駆動によってトラニオン軸2に連動される斜盤を回動調節して、HST1を無段変速する。このようなトラニオン軸2の回動調節は、副変速が中立位置M又は低速位置Lにあるときは、通常の回動調節速度で行われるが、副変速が高速位置Hにあるときは、副変速が中立位置M又は低速位置Lにある状態でのトラニオン軸2の回動調節速度よりも遅い速度で回動調節される。このためHST1の斜盤角の変化も緩速で行われてHST内の油圧回路の油圧力が緩やかに上昇する。
【0005】
請求項2に記載の発明は、HST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、該トラニオン軸(2)の中立位置(N)近くでの回動調節速度を遅く設定したことを特徴とするトラクタの構成とする。
トラクタ走行時において、運転者がペダル3を踏込むことにより、モータ4が駆動し、該モータ4の駆動によってトラニオン軸2に連動される斜盤を回動調節してHST1を無段変速する。このときトラニオン軸2が中立位置Nに近い位置にある場合は、このトラニオン軸2の回動調節速度が遅くなる。従って、この中立位置Nの近傍ではトラニオン軸2による斜盤角の変化が緩速に行われて、HST1の変速調節が緩速で行われる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によると、トラニオン軸2及び斜盤の回動調節速度を遅く制御して、副変速が高速位置にあってもHST内の油圧回路の油圧力調節が円滑に行われて、過負荷状態に圧力上昇することを少なくし、安全で、安定したHST1による無段変速走行を行わせることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、HST内の油圧回路の油圧力調節が円滑に行われて、過負荷状態に圧力上昇することは少なくなり、安全で、安定した発進を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図例に基づいて、トラクタの走行連動は、エンジン6、HST1、副変速装置7、フロントデフ8、及びフロントアクスル9等を介して、左右前輪10の前車軸11を駆動するように連動構成し、又、該副変速装置7から、後輪取出軸12、4WDクラッチ13、後輪連動軸14、リヤデフ15、リヤアクスル軸16等を介して左右後輪17の後車軸18を駆動するように連動構成する。又、前記HST1からは、PTOクラッチ19、及びPTO変速ギヤ20を介してフロントPTO軸21、ミッドPTO軸22等を連動する構成としている。前記HST1は、エンジン6から入力する入力軸23と、この入力軸23から無段変速して出力される出力軸24、及び、この入力軸23から直接連動されるPTO出力軸25を有し、各出力軸24から副変速装置7、又はPTOクラッ19へ連動する。このようなトラクタは、運転席26前方のステアリングハンドル28足元部のフロア27に設けられるアクセルペタル(ペダル)3の踏込みによって、トラニオン軸2を回動させて、HST1を無段変速しながら走行することができる。又、この走行の前進F、後進Rの切替は、運転席26横側等に配置されるリニアレバー29の操作によってリニアスイッチ30を前進位置F、後進位置Rに切替て行われる。前記アクセルペダル3の操作によって踏込回動角度を検出するポテンショメータから成るペダルポジションセンサ31を有し、このペダルポジションセンサ31をコントローラ50に入力して、トラニオンモータ(モータ)4を出力して正転、又は逆転駆動する構成とする。このトラニオンモータ4は、ピニオンギヤ32を回動してHST1のトラニオン軸2の扇形ギヤ33を噛合回動する構成としている。又、前記副変速装置7は、運転席26横側に設けられる副変速レバー34によって、高速位置H、中速位置M、及び、低速位置Lの各副変速ギヤの変速切替が行われる構成としている。又、前記トラニオン軸2側には、このトラニオン軸2の回動角度を検出するポテンショメータから成るHSTトラニオンポジションセンサ34が設けられて、前記アクセルペダル3による操作量に応じたトラニオン軸2の回動が行われたことをチェックするフィードバック制御を行う構成としている。
【0009】
前記HST1の油圧回路5は、油圧ポンプ49を有して、PTOクラッチ19を入り切りするためのクラッチシリンダ36、前輪操向クラッチを操作するためのクラッチシリンダ37、及び後輪操向のステアリングハンドル28で作動されるパワステシリンダ38等の各制御バルブ39、40、41等を配置した操作系油圧回路42の一部に連通して、油圧の補給を受けるチャージ回路48を構成している。又、このHST油圧回路5は、入力軸23によって駆動されると共に、トラニオン軸2の回動によって角度調節される斜盤43(この斜盤43に沿ってプランジャピストン及びシリンダを公転させる構成であり、この斜盤43の角度変更によってプランジャピストンのストローク(送油容積)が変更される。)を有する可変容量型のHSTポンプ44の吐出口及び吸入口と、このHSTポンプ44からの送油によって駆動される固定容量型(斜盤角度が変更不能の構成)のHSTモータ45の吸入口及び吐出口とを閉回路形態に接続して構成し、入力軸23の回転を無段変速して出力軸24に出力する構成としている。又、このHST油圧回路5には、ニュートラルバルブ46や、低圧リリーフバルブ、高圧リリーフバルブ47等を配置する。
【0010】
前記HST1は、リニアレバー29によるリニアスイッチ30の切替によって、前記アクセルペダル3操作によるトラニオンモータ4の回転駆動方向を、正転方向と逆転方向に切替られる。リニアレバー29を前進位置F又は後進位置Rに操作して、アクセルペダル3を踏込むと、トラニオンモータ4を中立位置Nから正転方向又は逆転方向へ駆動させて、トラニオン軸2をこのアクセルペダル3の踏込量または踏込位置に応じて中立位置Nから前進位置F側又は後進位置R側へ回動調節することができる。このトラニオン軸2が中立位置Nにあるときは、HSTモータ45の出力軸24は停止状態にあり、走行停止状態となる。このHSTトラニオン軸2(及び斜盤43)を中立位置Nから前進位置F方向へ回動調節すると、HST1のHSTモータ45の出力軸24がこのトラニオン軸2の回動角度に応じて正転方向へ増速して前進増速する。又、トラニオン軸2を、この前進位置Fから中立位置N側へ復帰回動させると、前進減速させることができる。又、このトラニオン軸2を、後進位置R(逆転方向)へ回動調節するときも、略同様にして後進増速ないし減速させることができる。
【0011】
ここにおいて、この発明におけるトラクタは、走行用のHST1のトラニオン軸2をペダル3の操作量ないし操作位置に応じてモータ4を駆動して回動調節するトラクタにおいて、副変速の高速位置Hでのモータ4によるトラニオン軸2の回動調節速度を、副変速の中速位置Mや低速位置Lでの回動調節速度よりも遅く設定したことを特徴とする。このトラクタの走行時は、運転者がアクセルペダル3を踏込むことにより、アクセルモータ4の駆動によってトラニオン軸2及び斜盤を回動調節して、HST1を無段変速する。このようなトラニオン軸2の回動調節は、副変速が中速位置M又は低速位置Lにあるときは、通常の回動調節速度で行われるが、副変速が高速位置Hにあるときは、これら副変速位置が中速位置Mや低速位置Lにあるときのトラニオン軸2の回動調節速度よりも遅い緩速度で回動調節される。このためHST1の斜盤角の変化も緩速度で行われてHST油圧回路5内の油圧力を緩やかに上昇させて無段変速させることとなる。
【0012】
図4〜図6のように、前記コントローラ50の入力側には、ペダルポジションセンサ31や、HSTトラニオンポジションセンサ34、副変速レバー35による各変速位置を切換える副変速低速スイッチ35L、中速スイッチ35M、高速スイッチ35H、及びアクセルモータ4の電流値を検出するモータ電流センサ51等を配置する。又、出力側には、トラニオン軸2を正回転方向へ回動するためのトラニオン正転リレー52、トラニオン軸2を逆回転方向へ回動するためのトラニオン逆転リレー53、及び、トラニオン出力54等を配置する。これらトラニオン正転リレー52、逆転リレー53、及びトラニオン出力54は、前記トラニオンモータ4をパルス出力により電動するもので、このONタイム出力時に駆動されるが、このONタイムとOFFタイムの間のデューティ比は、副変速の高速位置H時を、中速位置Mや、低速位置L時よりも小さく設定している(図4)。特に、リニアレバー29によるHST1が後進位置Rにあるときは、ペダル3位置に対応した目標トラニオン軸2位置算出値が、最高速を前進速の1/2までとして設定している。そして、副変速が高速位置Hにあるときは、パルス出力ONタイムLを標準値よりも小さくして、トラニオン軸2を緩速で回動させて変速する。従って、副変速が高速位置Hの場合は、トラニオン軸2の変位に対して車速の追従が遅れるようなことがないから、HST回路のリリーフが吹いたり、異音を発生することも少なくなる。又、リニアレバー29を後進位置Rに操作していて、副変速を高速位置Hに入れたとしても、トラニオン軸2は緩速回動されるため、安全に走行することができる。
【0013】
次に、この発明におけるトラクタは、HST1のトラニオン軸2をペダル3の操作量ないし操作位置に応じてモータ4を駆動して回動調節するトラクタにおいて、該トラニオン軸2の中立位置N近くでの回動調節速度を遅く設定したことを特徴とするものである。トラクタ走行時において、運転者がアクセルペダル3を踏込むことにより、トラニオンモータ4の駆動によってトラニオン軸2を回動調節してHST1を無段変速させる。このときトラニオン軸2が中立位置Nに近い位置にあるときは、このトラニオン軸2の回動調節速度を遅くする。従って、この中立位置Nの近傍ではトラニオン軸2によるHST斜盤角の変化が緩速に行われて、HST1の変速調節速度が緩速で行われる。
【0014】
図7、図8のように、前記トラニオンモータ4を電動するための出力パルスのデューティ比については、トラニオン軸2の中立位置N近傍での操作域Aにおけるデューティ比が、中立位置N近傍以外の操作域Bにおけるデューティ比よりも小さくなるように設定している。そして、アクセルペダル3操作により増速又は減速する際に、トラニオン軸2が中立位置Nに近い領域A位置にあるときは、標準値Bよりも小さいONパルスによって出力されるため、トラニオン軸2の回動調節速度を緩速にして回動調節する。このため、トラニオン軸2をトラニオンモータ4によって回動するとき、中立位置Nの近傍域での増速ないし減速時に、トラニオン軸2の回動調節速度が遅くなるため、車速が非常に低速であっても、車速に応じたHST1の減速比となって、車体の慣性に抗した急停止よる走行ショックの発生を少なくすることができる。
【0015】
前記のようにトラニオンモータ4でトラニオン軸2を回動調節してHST1を変速制御する形態にあっては、トラニオンモータ4による出力が正常であるか否かを判断するために、トラニオンポジションセンサ34の検出値の変化を見ることができるが、しかし、これだけでは、駆動部や、センサ部等のガタツキを考慮する必要があり、異常検出までに相当の時間を要する。トラクタの走行では、例えば最高40km/hで走行するため、できるだけ早く異常を検出して報知して安全を図る必要がある。そこで、図9〜図11のように、コントローラ50からのパルス出力(図9)によってトラニオンモータ4を駆動する。これによってトラニオンモータ4の電流Eはモータ電流センサ51で検出されており、トラニオン軸2の回動位置(角度)を検出するセンサ34の検出値の状態を示す曲線Dを階段状に描くことができ、この変化をトラニオンポジションセンサ34によって検出している。コントローラ50からトラニオンモータ4への出力中では、図10のフローチャートのメインルーチンR1のように、モータ電流と、トラニオンポジションセンサ34の検出値とによって、モータ電流値が一定値a以下で、かつトラニオンポジションセンサ34値の一定時間当りの変化が一定値α以下の場合は、モータ4や、ドライブ機構ユニット、或いは、関連ハーネスが断線、乃至接触不良の可能性が高いものとして、警報を発すると共に、増速のときはペダル3操作に拘らずモータ4への出力を中止し、減速の場合はペダル3操作に対応してトラニオンモータ4への出力を継続するように構成したものである。
【0016】
又、トラニオンモータ4へ出力したときの、このトラニオンモータ4の電流値が一定値a以上で、無負荷時の電流値bよりも小さく、かつトラニオンポジションセンサ34検出の時間当りの変化が(α+b)以下の場合は、図10のフローチャートのサブルーチンR2のように、ブラシの摩耗、コイルの劣化等、トラニオンモータ4の耐久性に関する影響があるものとして、点検を促すメッセージを表示して警報する。このとき、アクセルペダル3操作に対応するトラニオン制御を継続して行わせる。トラニオンモータ4を停止するような重大な故障に至る前に、点検を促して安全性を図るものである。
【0017】
更に、前記コントローラ50からトラニオンモータ4への出力していないとき、トラニオンポジションセンサ34の検出値を監視して、このセンサ値が一定値β以上変化した場合は、図10のフローチャートのサブルーチンR3のようにクラッチの滑りや、センサ異常等が発生したことCを報知して、アクセルペダル3操作に対応するトラニオン軸2の回動制御は継続するように構成する。異常の兆候を的確にオペレータに報知して安全性を向上できる。
【0018】
又、図11のフローチャートのように、トラニオンモータ4へ出力したときのモータ電流センサ51の検出値が、このトラニオンモータ4の無負荷電流値b以上で、かつトラニオンポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γ以下の場合は、メインルーチンR1のように摩擦板の滑り、センサの故障、センサアクチュエータの脱落、取付不良等に関するものとして警報を発すると共に、増速の場合は、アクセルペダル3操作に拘らずトラニオンモータ4への出力を中止し、減速の場合は、アクセルペダル3操作に対応してトラニオンモータ4への出力を継続する構成とする。該ポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γより大きい一定値δ以下の場合、警報を発すると共に、アクセルペダル3操作に対応したトラニオン軸2の制御は継続するように構成する。このため、故障の詳細を表示できるので、修理を簡単に行うことができる。又、故障に対応して制御の継続、停止を選択できるため安全な走行制御を行うことができる。
【0019】
又、動図11のサブルーチンR2のように、トラニオンモータ4へ出力したときのモータ電流センサ51の検出値が、通常の正常作動時の電流値よりも大きい一定以上で、かつトラニオンポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γ以下の場合は、駆動系のメカロック等が発生したものとして、警報を発すると共に、増速の場合は、アクセルペダル3操作に拘らずトラニオンモータ4への出力を中止し、減速の場合は、アクセルペダル3操作に対応してトラニオンモータ4への出力を継続するように構成している。該トラニオンポジションセンサ34の検出値の時間当りの変化が一定値γより大きい一定値δ以下の場合は、警報を発すると共に、アクセルペダル3操作に対応したトラニオン制御を継続するように構成している。
【0020】
次に、主として図12〜図14に基づいて、前記HSTトラニオン制御において、アクセルペダル3の中立位置や、トラニオン軸2の中立位置Nが調整されていないときの制御は、この制御範囲を狭くしたり、副変速位置を変更することによって制御することができる(図14)。アクセルペダル3や、トラニオン軸4等の中立位置Nが調整されていないときは、前記コントローラ50の不揮発メモリ55に記憶されていない。この場合は、予め設定してある標準値で制御するが、トラニオン軸2の作動範囲を通常の調整済みの作動範囲よりも狭くして、車速が出せないようにして制御するように構成したものである。故障したコントローラ50を交換した場合には、トラニオン軸2の中立位置N、最高速位置、アクセルペダル3の中立位置等を調整する必要がある。この調整が済むまでの間にトラクタを運転することがある。このような場合は、通常のアクセルペダル3操作時と同様な動きをしない場合があって危険であるが、このような場合は、低車速しか出ないため危険回避に有効である。
【0021】
又、このトラニオン制御において、副変速位置が低速L、中速M、高速位置Hに応じてトラニオン軸2の作動範囲域を定めて、作動範囲は低速L、中速M、高速位置Hの順に狭くして行く構成としたものである。これら各変速位置L、M、Hでトラニオン軸2の作動範囲を一定にしていると、高速位置Hでは車速が出過ぎて危険であるが、上記のように構成することによってこの危険性を防ぐことができる。
【0022】
このようなHSTトラニオン制御(図15)において、アクセルペダル3の中立位置や、トラニオン軸2の中立位置Nが調整されていない場合、即ち、コントローラ50の不揮発メモリ55に記憶されていない場合に、エンジン6をかけたときには、コントローラ50からエンジン停止リレー56を出力して、エンジン停止を行ってトラクタを走行させないようにすることができ、トラニオン軸2や、アクセルペダル3が未調整状態で走行するのを防止することができる。
【0023】
次に、主として図16〜図18に基づいて、前輪10と後輪17の操向を行う4WS制御を有するトラニオン制御において、故障によりコントローラ50を交換した場合、前輪操舵角センサ57と後輪操舵角センサ58の直進位置を調整する必要があるが、調整を行うまでの間にトラクタを運転することがある。このような場合、ステアリング操作時と同様な動きをしないことがあると危険である。そこで、このように前輪操舵角センサ57と後輪操舵角センサ58の直進位置が調整されていない場合、即ち、コントローラ50の不揮発メモリ55に記憶されてない場合には、予め設定してある標準値で制御を行うが、トラニオン軸2の作動範囲を調整済みの通常域よりも狭くして車速が出ないように構成する。コントローラ50の入力側には、前、後輪操舵角センサ57、58を配置すると共に、これら操舵形態を、前輪10の操舵によるFWSモードと、後輪17の操舵によるRWSモードと、前、後輪10、17の操舵による4WSモードとに選択できるように構成している。これら各モードの選択はFWSスイッチ59、RWSスイッチ60、及び4WSスイッチ61の選択操作によって行うことができる。出力側に配置の4WS切替リレー62、63、64は、4WSスイッチ61に切替られたときの狭く制限されたトラニオン軸2の作動範囲制御の出力を示すもので、A、B、Cの三段階に設定されている。
【0024】
次に、図19に基づいて、トラクタ走行中に、坂道等により負荷が変動して、車速が影響を受けても、トラニオン軸2位置を自動的に駆動することによって、安定した車速を確保し、細かいアクセルペダル3操作を不要とするものである。このため、前記のように変速装置にHST1を用いたトラニオン軸2をモータ4駆動することによって走行制御するトラクタにおいて、副変速装置7が高速位置Hのとき、目標最大車速40km/hを決定して、この目標最大車速とトラニオン位置を連動制御させる。又、副変速が高速位置Hでアクセルペダル3を最大位置まで踏み込んで、それに応じた目標最大車速が確保されている状態にて、トラクタにかかる負荷の変動により車速の増減が生じても、アクセルペダル3が最大位置まで踏み込まれていたら目標最大位置を保つようにトラニオン軸2をモータ駆動する構成としたものである。
【0025】
又、主として図20に基づいて、前記のようにトラニオン制御において、後進時は、速度超過すると危険であるため、その制限値を副変速の各変速位置H、M、L毎に設定することによって安全性を保つものである。前記リニアレバー29を後進位置に入れているときには、副変速を高速位置Hにしてアクセルペダル3を最大位置まで踏み込んだ場合には、前進時の半分の目標最大車速(H速)を出すようにトラニオン軸2を駆動して、又、副変速を中速位置Mで、アクセルペダル3を最大位置まで踏み込んだ場合には、前進時の半分の目標最大車速(M速)を出すようにトラニオン軸2を駆動し、更には、副変速を低速位置Lでアクセルペダル3を最大位置まで踏み込んだ場合には、前進時の半分の目標最大車速(M速)を出すようにトラニオン軸2を駆動制御する構成としたものである。ここに、これら目標最大車速H速を20km/h、M速を10km/h、L速を5km/hとして設定している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】HST制御装置のブロック図。
【図2】トラクタの伝動系を示す伝動機構線図。
【図3】HST油圧回路図。
【図4】そのトラニオンモータの駆動出力のパルスチャート。
【図5】そのトラニオンモータの制御ブロック図。
【図6】そのフローチャート。
【図7】一部別例を示すトラニオンモータ制御の増、減速出力時のタイムチャート。
【図8】そのフローチャート。
【図9】一部別例を示すトラニオンモータ制御の出力タイムチャート。
【図10】そのフローチャート。
【図11】その一部別例を示すトラニオンモータ制御のフローチャート。
【図12】トラニオン軸の回動角域を示す正面図と、コントローラの不揮発メモリのブロック図。
【図13】このトラニオン制御のブロック図。
【図14】その制御フローチャート。
【図15】その制御フローチャート。
【図16】一部別例を示すトラニオン軸の回動角域を示す正面図と、不揮発メモリのブロック図。
【図17】そのトラニオン制御のブロック図。
【図18】その制御フローチャート。
【図19】一部別例を示すトラニオン制御のフローチャート。
【図20】一部別例を示すトラニオン制御のフローチャート。
【符号の説明】
【0027】
1 HST
2 トラニオン軸
3 アクセルペダル(ペダル)
4 トラニオンモータ(モータ)
H 高速位置
L 低速位置
M 中速位置
N 中立位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のHST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、副変速の高速位置(H)でのモータ(4)によるトラニオン軸(2)の回動調節速度を、副変速の中速位置(M)や低速位置(L)での回動調節速度よりも遅く設定したことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
HST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、該トラニオン軸(2)の中立位置(N)近くでの回動調節速度を遅く設定したことを特徴とするトラクタ。
【請求項1】
走行用のHST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、副変速の高速位置(H)でのモータ(4)によるトラニオン軸(2)の回動調節速度を、副変速の中速位置(M)や低速位置(L)での回動調節速度よりも遅く設定したことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
HST(1)のトラニオン軸(2)をペダル(3)の操作量ないし操作位置に応じてモータ(4)を駆動して回動調節するトラクタにおいて、該トラニオン軸(2)の中立位置(N)近くでの回動調節速度を遅く設定したことを特徴とするトラクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−232080(P2007−232080A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54184(P2006−54184)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]