説明

トリクロロトリフルオロ酸化プロピレン及びその製造方法

【課題】本発明は、新規な酸化プロピレン及びその製造方法、並びに、新規な酸化プロピレンを使用する製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンに関する。本発明は、CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンの製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロトリフルオロ酸化プロピレン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、CFClCF=CClを酸化することによってCFClCFClCOCl及びCFClCClCOFが得られることが記載されており、下記式で示される化合物を経由して進行すると推測されている。
【0003】
【化1】

【0004】
特許文献2には、下記式で示されるフルオロカーボンエポキシドが求核剤と反応して酸フッ化物を与えることが記載されている。
【0005】
【化2】

【0006】
(但しX=Cl、I又はBr)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2,549,892号明細書
【特許文献2】特公平1−32808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、上記の化合物は得られておらず、上記の化合物を経由していることも確認されていない。特許文献2では上記フルオロカーボンエポキシドを使用することが記載されているが、このフルオロカーボンエポキシドの合成には複雑な反応経路が必要であったり、金属触媒が不可欠であり廃棄物が発生したりする問題がある。
【0009】
本発明は、新規な酸化プロピレン及びその製造方法、並びに、新規な酸化プロピレンを使用する製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンに関する。
【0011】
【化3】

【0012】
本発明は、CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンの製造方法にも関する。
【0013】
【化4】

【0014】
更に、上記製造方法はCFCl−CF−CHClで示されるフルオロカーボン化合物と塩基とを接触させてCFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を得る工程を含むことが好ましい。
【0015】
本発明は、式(1)
【0016】
【化5】

【0017】
で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンと、
式(2)
FSOCFCFOM (2)
(式中、MはNa又はKである。)で示されるアルコキシドと、
を反応させる工程を含むことを特徴とする、式(3)
FSOCFCFOCF(CFCl)COX (3)
(式中、XはCl又はFである。)で示される酸ハロゲン化物の製造方法にも関する。
【0018】
上記製造方法により得られた式(3)で示される酸ハロゲン化物を、MHCO又はMCO(式中、MはNa又はKである。)で示される塩基と接触させる工程を含むことを特徴とする、式(4)
FSOCFCFOCF(CFCl)COOM (4)
(式中、Mは上記と同じ。)で示されるカルボン酸塩の製造方法にも関する。
【0019】
上記製造方法により得られた式(4)で示されるカルボン酸塩を脱カルボキシル化反応させる工程を含むことを特徴とする、FSOCFCFOCF=CFで示されるビニルエーテルの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンは、有機フッ素化合物の中間体として非常に有用であり、その特異で高い反応性から末端にクロロジフルオロメチル基を有するエーテル化合物やエステル化合物への変換が可能である。また、式CF=CFOCFCFSOFで示されるビニルエーテルの原料化合物として有用である。上記ビニルエーテルは、イオン交換膜材料などの工業原料として有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンである。
【0022】
【化6】

【0023】
本発明の1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンは、CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする製造方法により得ることができる。
【0024】
上記酸化は、CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物と酸化剤とを接触させることによって行うことが好ましい。接触させる時間は、通常3〜72時間である。接触させる温度は、通常40〜80℃であり、生成した1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンの転位反応を抑制し、かつ、適度な反応速度を確保する観点から、50〜70℃であることが好ましい。
【0025】
上記酸化剤としては、例えば、塩素酸及びその塩類、過塩素酸及びその塩類、亜塩素酸及びその塩類、次亜塩素酸及びその塩類、臭素酸及びその塩類、ヨウ素酸及びその塩類、過酸化水素、過酸化水素とフッ素アルコールの混合物などが挙げられる。上記塩類としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。中でも、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素水、及び、過酸化水素水とフッ素アルコールの混合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記酸化剤は、上記ビニル化合物100質量部に対して100〜300質量部添加することが好ましい。
【0026】
上記酸化は、1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンが高い収率で得られることから、CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物、酸化剤及び水を反応容器に添加し、CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物と酸化剤とを接触させることが好ましい。水は、酸化剤の水溶液に由来する水であっても、過酸化水素水に由来する水であってもよい。高い収率が得られる理由は、水を添加すると、反応場が有機相と水相とに分離するので、生成した1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンの転位反応が抑制されるからであると推測される。上記酸化剤の水溶液は、通常、酸化剤の濃度が10〜50質量%である。
【0027】
上記酸化は、相間移動触媒の存在下に行うことが好ましく、相間移動触媒を用いると反応場が有機相と水相とに分離しても円滑に反応を進めることができる。相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウム塩、ベンジルトリメチルホスホニウム塩等の四級ホスホニウム塩;12−クラウン−4、18−クラウン−6、ベンゾ−18−クラウン−6等の大環状ポリエーテル類、等があげられ、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(TOMAC)が好ましい。
【0028】
上記酸化を、触媒量の水溶性有機物の存在下に行ってもよい。水溶性有機物としては、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトニトリル、アセトン、ジグライム、テトラグライム等があげられ、生成物の単離が容易になる点で、ジグライムが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法によれば、式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンの収率を30モル%以上、好ましくは40モル%以上とすることができる。上記収率はガスクロマトグラフィー分析により確認することができる。
【0030】
CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物は、例えば、CFCl−CF−CHClで示されるフルオロカーボン化合物と水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基とを接触させて得ることができる。接触時間は通常2〜10時間であり、接触温度は通常50〜90℃である。
【0031】
本発明の製造方法は、CFCl−CF−CHClで示されるフルオロカーボン化合物と塩基とを接触させてCFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を得る工程を含むことが好ましい。
【0032】
CFCl−CF−CHClで示されるフルオロカーボン化合物は、従来公知の方法により得ることができ、例えば、塩化アルミニウム等の触媒の存在下、テトラフルオロエチレンにクロロホルムを付加させることにより得ることができる。
【0033】
本発明の式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンは、例えば、化学式FSOCFCFOCF=CFで表される含フッ素フルオロスルホニルアルキルビニルエーテルの原料化合物として有用であり、特に以下の本発明の製造方法に好適に利用できる。
【0034】
本発明は、式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンと、
式(2)
FSOCFCFOM (2)
(式中、MはNa又はKである。)で示されるアルコキシドと、
を反応させる工程を含むことを特徴とする、式(3)
FSOCFCFOCF(CFCl)COCl (3)
で示される酸ハロゲン化物の製造方法でもある。
【0035】
式(2)で示されるアルコキシドは、例えば、β−サルトンとアルカリ金属フッ化物MFとの反応により容易に調製できる。ここで、MはNa又はKである。式(2)で示されるアルコキシドは、室温、大気中で不安定な化合物であるため、上記反応を行う系内で調製し、そのまま反応に用いることが好ましい。
【0036】
1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンとアルコキシドとの反応は、特公平1−32808号公報に記載されているハロゲン置換プロピレンオキサイドと求核剤との反応と同様に進行する。
【0037】
本発明は、式(3)で示される酸ハロゲン化物を、MHCO又はMCO(式中、MはNa又はKである。)で示される塩基と接触させる工程を含むことを特徴とする、式(4)
FSOCFCFOCF(CFCl)COOM (4)
(式中、Mは上記と同じ。)で示されるカルボン酸塩の製造方法でもある。
【0038】
MHCO又はMCOで示される塩基としては、NaCO、KCOであることが好ましい。
【0039】
本発明は、式(4)で示されるカルボン酸塩を脱カルボキシル化反応させる工程を含むことを特徴とする、FSOCFCFOCF=CFで示されるビニルエーテルの製造方法でもある。
【0040】
脱カルボキシル化反応は、乾燥させた有機溶媒中で行うことが好ましく、有機溶媒としてはジグライム、グライム、テトラグライム等があげられる。
【0041】
脱カルボキシル化反応は、式(4)で示されるカルボン酸塩を加熱することにより行うことができる。加熱温度は通常100〜200℃である。
【0042】
式(3)で示される酸ハロゲン化物は、また、特公平1−32808号公報に記載されたビニル化合物の製造法にも適用できる。
【0043】
以上の方法によって、FSOCFCFOCF=CFで示されるビニルエーテルを収率良く得ることができる。
【0044】
得られたビニルエーテルは、蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの公知の方法で精製してもよい。
【0045】
上記の方法によって得られたFSOCFCFOCF=CFで示されるビニルエーテルは、電解質膜又はイオン交換膜を構成するポリマーの原料モノマーとして有用な化合物である。
【0046】
電解質膜又はイオン交換膜は、例えば固体高分子電解質型燃料電池の電解質用膜、リチウム電池用膜、食塩電解用膜、水電解用膜、ハロゲン化水素酸電解用膜、酸素濃縮器用膜、湿度センサー用膜、ガスセンサー用膜等として使用される。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
19F−NMR分析の方法
装置:核磁気共鳴装置(日本電子社製)、型番:JEOL JNM−EX270、
測定条件(溶媒:CDCl、内部標準物質:トリクロロフルオロメタン)
【0049】
GC−Mass分析の方法
装置:Clarus 500 GC/MS ガスクロマトグラフ質量分析計(パーキンエルマー社製)
使用カラム:DB−624
【0050】
実施例1
CFCl−CF−CHCl(500g、2.28mol)に30質量%KOH水溶液(570g)と相間移動触媒としてトリオクチルメチルアンモニウムクロライド(TOMAC)(0.5g)とを加えて、撹拌しながら70℃で4時間反応させた。得られた溶液を1時間静置して2相に分離させた後、下層を回収した。回収した下層のガスクロマトグラフィーによる分析では、95%の反応が進行したことが分かった。回収した下層を蒸留により精製し、420gのCFCl−CF=CClを得た。
【0051】
得られたCFCl−CF=CCl(50g、0.25mol)に15質量%NaOCl水溶液(370g)と相間移動触媒としてTOMAC(0.5g)とを加えて、撹拌しながら60℃で6時間反応させた。得られた溶液を1時間静置して2相に分離させた後、下層を回収した。回収した下層のガスクロマトグラフィーによる分析では、42%の反応が進行したことが分かった。下層の成分は、19F−NMR分析及びGC−Mass分析の結果、下記式
【0052】
【化7】

【0053】
で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンであった。19F−NMR分析及びGC−Mass分析の結果を以下に示す。
【0054】
19F−NMR分析の結果
19F−NMR: δ −65.8(d,J = 13.8Hz,2F)、 −148.2 (t,J = 13.8Hz,1F)
【0055】
GC−Mass分析の結果
MS(GC−Mass): (m/z(relative intensity)) 220(M+6,1)、 218(M+4,10)、 216(M+2,30)、 214(M,30)、 198(31)、 163(77)、 144(10)、 116(25)、 85(35)、 82(100)、 50(50)
【0056】
実施例2
(FSOCFCFOCF=CFの製造例)
温度計ホルダー、2本のジムロート冷却管、滴下ロートを装備した100mlの4つ口フラスコに30mlのジグライム、3gのKFを加え、フラスコを0℃に冷却し、攪拌した。滴下ロートよりβ−サルトン(30g、167mmol)を加え、続いて1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレン(35.6g、166mmol)を加えた。滴下後、0℃で1時間攪拌した後、40度で2時間攪拌させた。攪拌を停止させ、30分間静置させ、二層分離した下層(58.2g)を抜き出した。下層の19F−NMR分析を行ったところ、純度88%のFSOCFCFOCF(CFCl)COClであることが分かった(収率78%)。
【0057】
NaCO(17.9g、169mmol)を200mlの水で溶かしたNaCO水溶液に上記で得られたFSOCFCFOCF(CFCl)COClを室温で滴下した。4時間攪拌した後、内溶液をろ過し、ろ液を減圧下で乾燥させた。得られた固体を20mlのクロロホルムで洗浄し、さらに乾燥させた。これにより得られた固体は、FSOCFCFOCF(CFCl)COONaで表されるカルボン酸塩であった。
【0058】
蒸留装置の装備された200mlのフラスコに上記で得られた固体(52g)と100mlのジグライムを入れ、140℃に加熱した。沸点が75〜80度の蒸留分を採りだし、その成分をGC−Mass分析及び19F−NMR分析を行ったところ98%のFSOCFCFOCF=CFと2%のFSOCFCFOCHFCClFであることが分かった。
FSOCFCFOCF=CFの全収率は69%であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンは、特に燃料電池用電解質ポリマーの原料モノマーとして有用な新規の化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレン。
【化1】

【請求項2】
CFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を酸化する工程を含むことを特徴とする式(1)で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンの製造方法。
【化2】

【請求項3】
CFCl−CF−CHClで示されるフルオロカーボン化合物と塩基とを接触させてCFCl−CF=CClで示されるビニル化合物を得る工程を含む請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
式(1)
【化3】

で示される1,1,3−トリクロロ−2,3,3−トリフルオロ酸化プロピレンと、
式(2)
FSOCFCFOM (2)
(式中、MはNa又はKである。)で示されるアルコキシドと、
を反応させる工程を含むことを特徴とする、式(3)
FSOCFCFOCF(CFCl)COX (3)
(式中、XはCl又はFである。)で示される酸ハロゲン化物の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法により得られた式(3)で示される酸ハロゲン化物を、MHCO又はMCO(式中、MはNa又はKである。)で示される塩基と接触させる工程を含むことを特徴とする、式(4)
FSOCFCFOCF(CFCl)COOM (4)
(式中、Mは上記と同じ。)で示されるカルボン酸塩の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により得られた式(4)で示されるカルボン酸塩を脱カルボキシル化反応させる工程を含むことを特徴とする、FSOCFCFOCF=CFで示されるビニルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2010−241807(P2010−241807A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74320(P2010−74320)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】