説明

トルク制御装置

【課題】発電機で発電される電力の変動を抑制するトルク制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1により駆動される発電機を備えたハイブリッド車両に用いられるトルク制御装置において、ハイブリッド車両の走行状態に応じて設定された発電機2の目標発電電力に基づいて、エンジントルク指令値及び前記発電機の回転数指令値を演算する指令値演算手段と、回転数演算値を回転数指令値に一致させるための発電機トルク指令値を演算する発電機トルク指令値演算手段と、発電機トルク指令値に基づき発電機2を制御する発電機制御手段と、発電機2の回転数を検出する回転数検出手段と、回転数検出手段により検出された回転数検出値から、エンジン1の脈動による回転数の脈動成分を除去し、回転数演算値を演算する脈動除去フィルタとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と、内燃機関に連結され、内燃機関により回転駆動され、界磁電流による界磁制御に基づいて駆動される回転数に応じた電力を発電する発電機と、発電機により発電される電力を蓄える蓄電装置と、蓄電装置から供給される電力に基づいて回転駆動される走行モータと、内燃機関を最適なトルク特性に基づいて回転駆動させるとともに、その時々の走行状態に基づいて必要とする発電量を演算し、その発電量と内燃機関の最適なトルク特性とに基づいて発電量に対応する発電機を制御する目標とする目標回転数を演算し、その目標回転数に基づいて、発電機を界磁制御し、内燃機関の回転による発生トルクとに対して発電機の駆動トルクがバランスする回転数で発電機を回転駆動する発電制御装置とを備えた電気自動車が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−178705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジンのトルク脈動により、発電機で発電される電力が変動する、という問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、発電機で発電される電力の変動を抑制するトルク制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転検出手段により検出された回転数検出値から、エンジンの脈動による回転数脈動値を除去し、回転数演算値を演算する脈動除去フィルタを備えることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジンのトルク脈動に起因する脈動成分を除去した回転数を回転数指令値に一致させるよう、発電機のトルクを制御するため、発電機のトルク脈動を抑制し、発電機の電力変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係るトルク制御装置を含む車両のブロック図である。
【図2】図1のエンジン、発電機、エンジンコントローラ、発電機コントローラ及び発電制御部のブロック図を示す。
【図3】(a)は図1の発電機2の発電電力の特性を示すグラフであり、(b)は図1の発電機2の回転数の特性を示すグラフであり、(c)は図1の発電機2のトルク特性を示すグラフであり、(d)は図1のエンジン1のトルク特性を示すグラフである。
【図4】本発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる、エンジン、発電機、エンジンコントローラ、発電機コントローラ及び発電制御部のブロック図を示す。
【図5】本発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる、エンジン、発電機、エンジンコントローラ、発電機コントローラ及び発電制御部のブロック図を示す。
【図6】図5のゲイン調整部におけるゲイン特性を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる、エンジン、発電機、エンジンコントローラ、発電機コントローラ及び発電制御部のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
《第1実施形態》
図1は、発明の実施形態に係るトルク制御装置を含む車両の概要を示すブロック図である。以下、本例のトルク制御装置をシリーズ型のハイブリッド車両に提供した例を挙げて説明するが、本例のトルク制御装置は、例えばエンジン及びモータを駆動源とするパラレル型のハイブリッド車両にも適用可能である。
【0011】
図1に示すように、本例のトルク制御装置を含む車両は、エンジン1と、発電機2と、回転角センサ3と、発電機インバータ4と、バッテリ5と、駆動インバータ6と、駆動モータ7と、減速機8と、駆動輪9と、エンジンコントローラ21と、発電機コントローラ22と、バッテリコントローラ23と、駆動モータコントローラ24と、システムコントローラ100とを備えている。
【0012】
エンジン1は、ガソリン、軽油その他の燃料を燃焼させてエネルギを出力軸に出力し、エンジンコントローラ21からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射バルブの燃料噴射量等を制御して駆動する。発電機2は、エンジン1の出力軸に連結され、エンジン1により駆動される。また発電機2はエンジン1の始動時にエンジン1をクランキングしたり、また発電機2の駆動力を利用してエンジン1を力行回転させることで電力を消費させたりする。回転角センサ3は、発電機2のロータの回転角を検出するレゾルバ等で構成され、発電機2の回転数を検出するセンサであり、検出値をシステムコントローラ100に出力する。
【0013】
発電機インバータ4は、IGBT等のスイッチング素子を複数備え、発電機コントローラ22からのスイッチング信号により当該スイッチング素子のオン及びオフを切り替えることで、発電機2から出力される交流電力を直流電力に変換し、または直流電力から交流電力に逆変換する変換回路である。発電機インバータ4は、バッテリ5及び駆動インバータ6に接続されている。また発電機インバータ4には、図示しない電流センサが設けられて、電流センサなどの検出値は発電機コントローラ22に出力される。バッテリ5は、発電機インバータ4と駆動インバータ6との間に接続され、駆動インバータ6に電力を供給し、発電機インバータ4からの電力により充電される二次電池である。駆動インバータ6は、発電機インバータ4あるいはバッテリ5から出力される直流電力を交流電力に変換して、駆動モータ7に当該交流電力を出力する変換回路である。駆動インバータ6は、駆動モータコントローラ24の制御信号に基づき制御される。また駆動インバータ6には、図示しない電流センサが設けられて、電流センサなどの検出値は駆動モータコントローラ24に出力される。
【0014】
駆動モータ7は、駆動インバータ6からの交流電力により駆動し、車両を駆動する駆動源である。また駆動モータ7には、図示しない回転角センサが接続され、当該回転角センサの検出値は駆動モータコントローラ24に出力される。駆動モータ7の出力軸は、減速機8及び左右のドライブシャフトを介して、左右の駆動輪9に連結されている。また駆動モータ7は、駆動輪9の回転により、回生駆動力を発生させることで、エネルギを回生する。
【0015】
エンジンコントローラ21は、システムコントローラ100から送信されるエンジントルク指令値(TeCMD)及びエンジン1に設けられた空燃比センサ(図示しない)、酸素センサ(図示しない)の検出値、温度センサ等に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射バルブの燃料噴射量、点火時期等を設定して、エンジン1を制御するためのコントローラである。発電機コントローラ22は、システムコントローラ100から送信される発電機トルク指令値(TmCMD)及び発電機インバータ4に設けられている電流センサ(図示しない)の検出値に基づいて、発電機インバータ4に含まれるスイッチング素子のスイッチング信号を設定して、発電機インバータ4を制御する。
【0016】
バッテリコントローラ23は、バッテリ5の電圧を検出する電圧センサ、バッテリ5の電流を検出する電流センサ等の検出値から、バッテリ5の充電状態(SOC:State of Charge)を計測して、バッテリ5の出力可能な電力量及び充電可能な充電電力量を管理する。駆動モータコントローラ24は、システムコントローラ100からの制御信号及び駆動モータ7に設けられる電流センサ(図示しない)の検出値や回転数に基づいて、駆動インバータを制御する。
【0017】
システムコントローラ100は、発電制御部10を有し、車両全体を制御するコントローラであって、エンジンコントローラ21、発電機コントローラ22、バッテリコントローラ23及び駆動モータコントローラ24を制御する。システムコントローラ100は、エンジンコントローラ21を介してエンジンの状態を管理し、発電機コントローラ22を介して発電機インバータ4の制御状態を管理し、バッテリコントローラ23を介してバッテリ5の状態を管理し、駆動モータコントローラ24を介して駆動インバータ6及び駆動モータ7を管理する。
【0018】
またシステムコントローラ100は、図示しない車速センサにより検出される車速、図示しないアクセル開度センサにより検出されるアクセルペダル操作量、及び、傾斜センサにより検出される勾配から車両の走行状態を検出して、バッテリコントローラ23で管理され、バッテリ5の入出力可能電力、発電機2の発電電力に応じて、駆動モータ7に電力を供給するために発電機2で発電される発電電力の目標値を設定する。発電制御部10は、発電電力の目標値(P(以下、目標発電電力と称す。))を実現するために、エンジントルク指令値(TeCMD)及び発電トルク指令値(TmCMD)を演算する。
【0019】
次に、図2を用いて、発電制御部10の構成を説明する。図2は、エンジン1、発電機2、エンジンコントローラ21、発電機コントローラ22及び発電制御部10のブロック図を示す。発電制御部10は、運転点演算部11と、回転数制御部12と、脈動除去フィルタ13とを備えている。
【0020】
運転点演算部11は、目標発電電力(P)を発電機2で発電させるために、エンジン1で最適なトルクになるよう、エンジントルク指令値(TeCMD)及び発電機2の回転数指令値(ωCMD)を設定し、エンジンコントローラ21及び回転数制御部12に出力する。運転点演算部11には、目標発電電力(P)に対してエンジン1の最適なトルク特性を示すマップが予め格納されており、運転点演算部11は、目標発電電力(P)を入力として当該マップを参照することで、エンジントルク指令値(TeCMD)及び発電機2の回転数指令値(ωCMD)を演算する。
【0021】
回転数制御部12は、回転数指令値(ωCMD)と後述する脈動除去フィルタ13からの出力される回転数演算値(ω)とを入力して、発電機トルク指令値(TmCMD)を発電機コントローラ22に出力する。回転数制御部12はPID補償器で構成され、以下の式(1)を用いて、発電機トルク指令値(TmCMD)出力する。
【数1】

ただし、Kは比例ゲイン、Kは積分ゲイン、Kは微分ゲイン、Tは近似微分の時定数、sはラプラス演算子である。
【0022】
後述するように、回転数演算値(ω)は発電機2の回転数を脈動除去フィルタ13に通し、フィードバック制御することで演算される値であるため、回転数制御部12は、式(1)を用いることで、回転数演算値(ω)を回転数指令値(ωCMD)に一致させるように、発電機トルク指令値(TmCMD)を演算する。
【0023】
脈動除去フィルタ13は、制御対象モデル(Gp)131と、減算器132、134と、バンドパスフィルタ133とを備えている。制御対象モデル131は、本例における制御対象をモデル化(線形化)した伝達関数によって表され、以下の式(2)で表される。
【数2】

Jは発電機2の出力軸の軸周りイナーシャ、Dは潤滑油の粘性摩擦係数である。
【0024】
制御対象モデル131は、発電機トルク指令値(TmCMD)を入力として、式(2)を用いて、推定値(G・TmCMD)を推定する。
【0025】
減算器132は、回転角センサ3の検出値に相当する、発電機2の回転数検出値(ω)から制御対象モデル131の推定値を減算し、回転数(ω)をバンドパスフィルタ133に出力する。すなわち、回転数(ω)は以下の式(3)により演算される。
【数3】

【0026】
バンドパスフィルタ133は、エンジン1のトルク脈動に起因し、発電機2の回転数に含まれる脈動成分をフィルタリングするためのフィルタであり、少なくともエンジン1の間欠燃焼周波数を通過周波数とするフィルタにより構成され、回転数脈動値(ω)を除去するためのフィードバック要素となる。バンドパスフィルタ133の伝達特性(GBPF)は以下の式(4)により表される。
【数4】

ζは減衰係数である。ωnは固有振動数であり、バンドパスフィルタ133の通過周波数のうち、中心周波数に相当する。固有振動数(ωn)は、エンジン1の間欠燃焼周波数と一致するように調整される周波数である。エンジン1の間欠燃焼周波数は、多気筒のエンジン1の燃焼周期により設定される周波数である。
【0027】
減衰器132の出力値である回転数(ω)がバンドパスフィルタ133を通過し、バンドパスフィルタ133から回転数(ω)が出力される。回転数(ω)は、式(5)により表される。
【数5】

回転数(ω)は、回転数検出値(ω)の脈動量に相当し、回転数脈動値(ω)に相当する。
【0028】
減算器134は、回転数検出値(ω)から回転数(ω)を減算することで、回転数演算値(ω)を算出する。そして、回転数演算値(ω)を回転数制御部12にフィードバックさせる。これにより、脈動除去フィルタ13により回転数検出値(ω)に含まれる脈動成分を除去し、回転数制御部12により、脈動成分を含まない検出値(ω)を回転数指令値(ωCMD)に一致させるための発電機トルク指令値(TmCMD)を演算する。
【0029】
次に、本例のトルク制御装置における、発電電力の特性、回転数の特性及びトルク特性を、シミュレーション結果である図3を用いて説明する。シミュレーションの前提条件として、エンジン1が停止状態で発電機2が一定の回転数で回転している時点から開始し、1秒後の時点でエンジントルク脈動を印加する。また図3のうち、グラフaは本例のトルク制御装置の特性を示し、グラフbは本例に対する比較例であり、脈動除去フィルタ13を用いたフィードバック制御を行わない場合の特性である。またグラフcは回転数演算値(ω)の特性を示す。図3(a)は発電機2の発電電力の時間特性を示し、図3(b)は発電機2の回転数(または、エンジン1の回転数)の時間特性を示し、図3(c)は発電機2のトルクの時間特性を示し、図3(d)はエンジン1のトルクの時間特性を示す。
【0030】
時刻1秒の時点で、図3(d)に示すようなエンジントルク脈動を印加すると、図3(b)及び図3(c)に示すように、比較例では発電機トルク及び回転数に脈動が含まれているため、図3(a)に示すように、発電電力が大きく変動している。一方、本例では、図3(b)及び図3(c)に示すように、発電機トルク及び回転数の脈動が抑制され、図3(a)に示すように、発電電力の変動が抑制されている。また図3(b)に示すように、本例における、エンジントルクの入力に対する回転数のオーバーシュート量は比較例と同等であるため、本例は耐外乱性を損なうことなく発電電力の変動を抑制することができる。
【0031】
上記のように、本例は、回転数演算値(ω)を回転数指令値(ωCMD)に一致させるための発電機トルク指令値(TmCMD)を演算する回転数制御部12と、回転角センサ3により検出される回転数検出値(ω)から、エンジン1の脈動による回転数の脈動を除去し、回転数演算値(ω)を演算する脈動除去フィルタ13とを備える。これにより、エンジントルク脈動に起因する回転数の脈動を除去した値に基づいてトルクを制御することで、発電機2のトルク脈動を抑制し、発電電力の変動を抑制することができる。
【0032】
ところで、本例と異なり脈動除去フィルタ13を用いることなく、回転数指令値と回転数検出値とが一致するように、発電機2のトルクを制御する場合には、エンジン回転数が高い運転領域において、エンジントルク脈動に起因する脈動回転数の周波数が高く、回転数の検出遅れが存在するため、回転数の脈動を抑制することができず、発電機トルクも脈動し、発電電力の変動が大きくなってしまう。このような運転領域では、回転数制御の際のゲインを小さくすることで、発電機トルク脈動を小さくし、発電電力の脈動を抑えることも考えられる。しかし、ゲインを小さくした場合には、耐外乱性が悪化するという問題があった。
【0033】
またエンジン回転数が低い運転領域においても、エンジントルク脈動が発電機2の発生可能な最大トルクより大きい場合には、エンジントルク脈動を抑制することができない。発電機2は、発電時にエンジン1のトルクによって駆動し、目標回転数を維持させつつ、エンジントルクと釣り合うような回生トルクを連続的に発生させる。そのため、発電機2の最大トルクはできる限り小さく設計することが求められる。従って、発電機2によって、過大なエンジントルク脈動を抑制するよう、発電機2を設計した場合には、発電機2のサイズやコストが大きくなってしまう、という問題があった。
【0034】
さらに、内燃機関の出力軸にモータジェネレータを結合し、フィードフォワードで当該モータジェネレータにおける脈動補償トルクを算出し、出力軸で発生するトルク脈動を抑制するハイブリッド原動機のトルク変動制御装置が知られている。当該トルク変動制御装置において、エンジン回転数が高い場合には、モータジェネレータの応答遅れによって、モータジェネレータの出力トルクがエンジンのトルク脈動に追従することができず、トルク脈動を抑制することができない、という問題があった。また、エンジン回転数が低い場合であっても、エンジントルク脈動がモータジェネレータの発生可能な最大トルクより大きい時には、エンジントルク脈動を抑制することができないという問題があった。
【0035】
本例では、脈動除去フィルタ13により、エンジン1の脈動による回転数の脈動を除去し、脈動成分を含まない回転数演算値(ω)と回転数指令値(ωCMD)とを用いて発電機トルク指令値(TmCMD)を演算し、発電機2のトルクを制御する。すなわち、本例では、エンジントルク脈動に起因する脈動回転数の周波数が高い場合であっても、脈動除去フィルタ13により、脈動回転数に含まれる脈動成分が除去されるため、発電機2のトルク脈動を抑制することができる。また、トルク脈動の抑制を目的として、ゲインを下げてフィードバック制御していないため、耐外乱性が悪化することもない。また本例は、発電機2によりエンジントルク脈動を抑制するように、発電機2を設計させる必要がないため、発電機2のサイズを小型化し、発電機2のコストを抑制することができる。
【0036】
また本例は、上記の従来のような、エンジン1の出力トルクに発電機2の出力トルクを追随させる制御を行っておらず、エンジン回転数が高く発電機2の応答遅れなどにより、エンジントルクが脈動し回転数が脈動したとしても、フィードバック制御の際には、脈動除去フィルタ13を用いて、回転数の脈動が除去されるため、発電機2のトルク脈動を抑制し、発電電力の変動を抑制することができる。
【0037】
また本例は、制御対象モデル131により推定される推定値と回転数検出値(ω)との差から回転数脈動値(ω)を演算し、バンドパスフィルタ133の通過周波数とエンジン1の間欠燃焼周波数とが一致しているバンドパスフィルタ133と、回転数検出値(ω)と前記回転数脈動値(ω)との差に基づいて、回転数演算値(ω)を演算する第1の減算器134とを備えている。これにより、本例は制御の安定性及び耐外乱性を悪化させることなく、発電機2のトルク脈動を抑制し、発電電力の変動を押させることができる。
【0038】
すなわち、本例とは異なり、回転数検出値から回転数脈動を除去するために、単純なバンドエリミネーションフィルタ(ノッチフィルタ)を使用した時には、脈動する回転数の周波数帯域と制御周波数帯域が非常に近い場合に、回転数の検出が遅れ、安定性が著しく悪化する問題点があった。一方、本例では、回転数検出値(ω)から脈動成分を含む回転数を演算し、回転数検出値(ω)から演算した回転数を差し引いた演算値をフィードバック要素に用いて制御するため、かかる問題点を解決しつつ、制御の安定性を維持しつつ、耐外乱性の悪化を防ぐことができる。
【0039】
なお、上記運転点演算部11は本発明に係る「指令値演算手段」に相当し、回転数制御部12が本発明の「発電機トルク指令値演算手段」に、回転角センサ3が本発明の「回転数検出手段」に、減算器134が本発明の「第1の減算手段」に、制御モデル131が本発明の「制御モデル推定手段」に相当する。
【0040】
《第2実施形態》
図4は、発明の他の実施形態に係るトルク制御装置のうち、エンジン1、発電機2、エンジンコントローラ21、発電機コントローラ22及び発電制御部10のブロック図を示す。本例では上述した第1実施形態に対して、バンドパスフィルタ133の固有振動数(ωn)を、回転数検出値(ω)または回転数指令値(ωCMD)に基づいて設定する点が異なる。これ以外の構成は上述した第1実施形態と同じであるため、その記載を援用する。
【0041】
図4に示すように、バンドパスフィルタ133には、回転数検出値(ω)が入力され、バンドパスフィルタ133の通過周波数に相当する固有振動数(ωn)が、回転数検出値(ω)に基づいて、設定される。固有振動数(ωn)は、回転数検出値(ω)を用いて、エンジン1が4気筒のエンジンである場合に、以下の式(6)により表される。なお、ωの単位はrad/s、ωまたはωCMDの単位は1/minである。
【数6】

【0042】
エンジン1の間欠燃焼周波数はエンジン1の回転数により変化し、エンジン1の回転数は発電機2の回転数に相当する。そして本例では、発電機2の回転数を用いて、バンドパスフィルタ133の通過周波数を調整するため、エンジン1の回転数が変化しエンジン1の間欠燃焼周波数が変化した場合でも、エンジン1の間欠燃焼周波数をバンドパスフィルタ133の通過周波数の帯域に含めることができる。
【0043】
上記のように、本例はバンドパスフィルタ133の通過周波数を、回転数検出値(ω)に基づいて設定する。エンジン1の間欠燃焼周波数はエンジン1の回転数に応じて変化し、本例ではエンジン1の回転数(回転数検出値(ω)に相当)に応じて、バンドパスフィルタ133の通過周波数が調整されるため、エンジン回転数が変化した場合でも発電機2のトルク脈動を抑制し、発電電力の変動を抑制することができる。
【0044】
なお、本例は、バンドパスフィルタ133の通過周波数を、回転数検出値(ω)に基づいて設定したが、回転数指令値(ωCMD)に基づいて設定してもよい。すなわち、式(6)において、回転数検出値(ω)の代わりに回転数指令値(ωCMD)用いて、固有振動数(ωn)を算出すればよい。
【0045】
《第3実施形態》
図5は、発明の他の実施形態に係るトルク制御装置のうち、エンジン1、発電機2、エンジンコントローラ21、発電機コントローラ22及び発電制御部10のブロック図を示す。図6は、ゲイン調整部135における、回転数検出値(ω)に対するゲイン特性を示すグラフである。本例では上述した第2実施形態に対して、脈動抑制フィルタ13にゲイン調整部135を設ける点が異なる。これ以外の構成は上述した第2実施形態と同じであるため、その記載を援用する。
【0046】
図5に示すように、脈動除去フィルタ13は、制御対象モデル(Gp)131と、減算器132、134と、バンドパスフィルタ133と、ゲイン調整部135を備えている。ゲイン調整部135は、バンドパスフィルタ133と減算器134との間に設けられ、バンドパスフィルタ133から出力される回転数(ω)のゲインを調整し、減算器134に回転数(ω)を出力する。
【0047】
ゲイン調整部135には、回転数の周波数に応じてゲインを調整するための閾値周波数(ω)が設定されている。図6に示すように、回転数検出値(ω)がゼロからωまではゲイン(k)は回転数検出値(ω)に対して比例関係にあり、回転数検出値(ω)がω以上である場合には、ゲイン(k)1となる。すなわち、回転数検出値(ω)がω未満である場合にはゲインを1より低く設定してゲイン調整が行われ、回転数検出値(ω)がω以上である場合にはゲインを1に設定し入力値に対するゲイン調整は行わない。
【0048】
そして、減算器134から出力される回転数演算値(ω)は、以下の式(7)により表される。
【数7】

エンジン1が停止状態で発電機2を力行させて、エンジン1の回転数を上昇させる場合に、エンジン1の回転数は低回転領域となり、回転数検出値(ω)はωより小さくなる。このような低回転数領域では、ゲイン(k)が1より小さい値に設定されているため、回転数検出値(ω)から除去される回転脈動の割合が少なくする。これにより、本例は低回転領域における回転数の脈動を発電機2のトルクにより抑制する。
【0049】
上記のように、本例は、バンドパスフィルタ133の出力値に、発電機2の回転数に基づいて設定されるゲインを乗算するゲイン調整部135を、脈動除去フィルタ135に設ける。これにより、エンジン1が低回転領域で共振点を有する場合であっても、回転数の脈動を抑制しつつ、当該共振点における振動及び騒音を防ぐことができ、その結果として、発電機2の発電電力の変動を抑制することができる。
【0050】
なお、本例ではバンドパスフィルタ133の出力側にゲイン調整部135を設けたが、バンドパスフィルタ133の入力側にゲイン調整部135を設け、回転数(ω)に対して、上記と同様にゲイン調整を行ってもよい。
【0051】
《第4実施形態》
図7は、発明の他の実施形態に係るトルク制御装置のうち、エンジン1、発電機2、エンジンコントローラ21、発電機コントローラ22及び発電制御部10のブロック図を示す。本例では上述した第1実施形態に対して、脈動抑制フィルタ135にハイパスフィルタ136、137を設ける点が異なる。これ以外の構成は上述した第1実施形態と同じであるため、その記載を援用する。
【0052】
図7に示すように、脈動除去フィルタ13は、制御対象モデル(Gp)131と、減算器132、134と、バンドパスフィルタ133と、ハイパスフィルタ136、137と、減算器138と、加算器139とを備えている。ハイパスフィルタ136は、減算器132から出力される回転数(ω)を入力とし、後述するフィルタ特性を有するフィルタを通過させて、回転数(ω)を減算器138に出力する。バンドパスフィルタ133は、演算された回転数(ω)を、ハイパスフィルタ137及び加算器139に出力する。ハイパスフィルタ137は、バンドパスフィルタ133から出力される回転数(ω)を入力とし、後述するフィルタ特性を有するフィルタを通過させて、回転数(ω)を減算器138に出力する。減算器138は、回転数(ω)から回転数(ω)を減算して加算器139に出力する。加算器139は、減算器138により演算された演算値と、回転数(ω)とを加算して、減算器134に出力する。
【0053】
ハイパスフィルタ136、137の伝達特性(GHPF)は以下の式(8)により表される。
【数8】

ωはハイパスフィルタ136、137のカットオフ周波数であり、エンジン1の間欠燃焼周波数より高い周波数に設定され、エンジン1が4気筒のエンジンである場合には、ωは、以下の式(9)で表される。
【数9】

ただし、発電機2で制御される制御周波数帯域が、0以上ωGN以下の周波数帯域である場合には、カットオフ周波数(ω)の下限値をωGNとする。これにより、ハイパスフィルタ136、137のカットオフ周波数(ω)は、エンジン1の間欠燃焼周波数より高く、かつ、発電機2の制御周波数帯域の上限周波数以上の周波数となる。
【0054】
ハイパスフィルタ136は、回転数検出値(ω)から、エンジン1のピストン及びクランク機構の往復動を起因としたトルク脈動によって生じる回転数の脈動成分及び高周波ノイズ成分をフィルタリングするためのフィルタである。当該脈動成分に相当する回転数(ω)は以下の式(10)により算出される。
【数10】

【0055】
ハイパスフィルタ137は、回転数(ω)に含まれ、エンジン1の間欠燃焼を起因としたエンジントルク脈動によって生じる回転数の脈動成分をフィルタリングするフィルタである。当該脈動成分に相当する回転数(ω)は以下の式(11)により算出される。
【数11】

【0056】
そして、減算器134から出力される回転数演算値(ω)は、回転数検出値(ω)から、加算器139の演算値を減算することで算出され、以下の式(12)により算出される。
【数12】

これにより、回転数制御部12にフィードバックされる回転数演算値(ω)は、回転数検出値(ω)から、エンジン1の間欠燃焼に起因する回転数の脈動成分と、エンジン1のピストン及びクランク機構の往復動を起因とする回転数の脈動成分及び高周波ノイズとを除去した値となる。
【0057】
上記のように、制御対象モデル131の推定値と回転数検出値(ω)との差から回転数(ω)を演算するハイパスフィルタ136と、回転数(ω)から回転数(ω)を演算するハイパスフィルタ137と、回転数(ω)と回転数(ω)との差をとる減算器138と、減算器138の演算値と回転数(ω)とを加算する加算器139とを備える。これにより、本例は、回転数検出値(ω)からエンジン1の間欠燃焼に起因する脈動成分と、エンジン1のピストン及びクランク機構の往復動に起因する脈動成分及び高周波ノイズ成分とを除去した上で、フィードバック制御するため、発電機2のトルク脈動を抑制し、発電電力の変動を抑えることができる。
【0058】
また本例において、ハイパスフィルタ136、137のカットオフ周波数は、エンジン1の間欠燃焼周波数より高く、かつ、発電機2の制御周波数帯域の上限周波数以上の周波数に設定される。ハイパスフィルタ136、137のカットオフ周波数を、発電機2の制御周波数帯域内の周波数に設定した場合には、発電機2のトルク応答性が悪くなり、耐外乱性が悪化する場合がある。本例では、ハイパスフィルタ136、137のカットオフ周波数の下限周波数を、当該制御周波数帯域の上限周波数以上に設定しているため、発電機2のトルク応答性をよくし、耐外乱性の悪化を防ぎつつ、回転数の脈動を防ぐことができる。
【0059】
上記のハイパスフィルタ136が本発明に係る「第1のハイパスフィルタ」に相当し、回転数(ω)が本発明の「第1の高周波回転数脈動値」に相当し、ハイパスフィルタ137が本発明の「第2のハイパスフィルタ」に相当し、回転数(ω)が「第2の高周波回転数脈動値」に相当し、減算器138が「第2の減算手段」に、加算器139が「加算手段」に相当する。
【符号の説明】
【0060】
1…エンジン
2…発電機
3…回転角センサ
4…発電機インバータ
5…バッテリ
6…駆動インバータ
7…駆動モータ
8…減速機
9…駆動輪
21…エンジンコントローラ
22…発電機コントローラ
23…バッテリコントローラ
24…駆動モータコントローラ
100…システムコントローラ
10…発電制御部
11…運転点演算部
12…回転数制御部
13…脈動除去フィルタ
131…制御対象モデル
132、134、138…減算器
133…バンドパスフィルタ
135…ゲイン調整部
136、137…ハイパスフィルタ
139…加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される発電機を備えたハイブリッド車両に用いられるトルク制御装置において、
前記ハイブリッド車両の走行状態に応じて設定された前記発電機の目標発電電力に基づいて、エンジントルク指令値及び前記発電機の回転数指令値を演算する指令値演算手段と、
回転数演算値を前記回転数指令値に一致させるための発電機トルク指令値を演算する発電機トルク指令値演算手段と、
前記発電機トルク指令値に基づき前記発電機を制御する発電機制御手段と、
前記発電機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記回転数検出手段により検出された回転数検出値から、前記エンジンの脈動による回転数の脈動成分を除去し、前記回転数演算値を演算する脈動除去フィルタとを備える
ことを特徴とするトルク制御装置。
【請求項2】
前記脈動除去フィルタは、
前記発電機トルク指令値を入力として、制御対象をモデル化した制御対象モデルの出力を推定する制御対象モデル推定手段と、
前記制御対象モデル推定手段により推定される推定値と前記回転数検出値との差から回転数脈動値を演算するバンドパスフィルタと、
前記回転数検出値と前記回転数脈動値との差に基づいて、前記回転数演算値を演算する第1の減算手段とを備え、
前記バンドパスフィルタの通過周波数が前記エンジンの間欠燃焼周波数と一致している
ことを特徴とする請求項1記載のトルク制御装置。
【請求項3】
前記通過周波数は、前記回転数検出値に基づいて設定される
ことを特徴とする請求項2記載のトルク制御装置。
【請求項4】
前記脈動除去フィルタは、
前記バンドパスフィルタへの入力値又は出力値に、前記発電機の回転数に基づいて設定されるゲインを乗算するゲイン調整手段を備え、
前記第1の減算手段は、
前記ゲイン調整手段の出力値に基づいて、前記回転数演算値を演算する
ことを特徴とする請求項2又は3記載のトルク制御装置。
【請求項5】
前記脈動除去フィルタは、
前記推定値と前記回転数検出値との差から第1の高周波回転数脈動値を演算する第1のハイパスフィルタと、
前記回転数脈動値から第2の高周波回転数脈動値を演算する第2のハイパスフィルタと、
前記第1の高周波回転数脈動値と前記第2の高周波回転数脈動値との差をとる第2の減算手段と、
前記回転数脈動値に、前記第2の減算手段により演算された値を加算する加算手段とを備え、
前記第1の減算手段は、
前記加算手段により演算された値に基づいて、前記回転数演算値を演算する
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のトルク制御装置。
【請求項6】
前記第1のハイパスフィルタのカットオフ周波数及び前記第2のハイパスフィルタのカットオフ周波数は、
前記エンジンの間欠燃焼周波数より高い周波数であり、かつ、前記発電機の制御周波数帯域の上限周波数以上の周波数である
ことを特徴とする請求項5記載のトルク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−38868(P2013−38868A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171554(P2011−171554)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】