説明

トルク制御装置

【課題】発電機で発電される電力の変動を抑制するトルク制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1により駆動される発電機2を備えたハイブリッド車両に用いられるトルク制御装置において、ハイブリッド車両の走行状態に応じて設定された発電機2の目標発電電力に基づいて、エンジントルク指令値及び前記発電機の回転数指令値を演算する指令値演算手段と、発電機2の回転数を検出する回転数検出手段と、回転数検出手段により検出された回転数検出値と回転数指令値とに基づいて、発電機トルク指令値を演算する発電機トルク指令値演算手段と、発電機トルク指令値に基づき、発電機2の電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、発電機2の入力電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段により検出された電流検出値を電流指令値と一致させるよう発電機2を制御する電流制御手段とを備え、電流制御手段は、エンジン1の脈動による前記発電機の電圧脈動を抑制する電圧脈動抑止フィルタを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と、内燃機関に連結され、内燃機関により回転駆動され、界磁電流による界磁制御に基づいて駆動される回転数に応じた電力を発電する発電機と、発電機により発電される電力を蓄える蓄電装置と、蓄電装置から供給される電力に基づいて回転駆動される走行モータと、内燃機関を最適なトルク特性に基づいて回転駆動させるとともに、その時々の走行状態に基づいて必要とする発電量を演算し、その発電量と内燃機関の最適なトルク特性とに基づいて発電量に対応する発電機を制御する目標とする目標回転数を演算し、その目標回転数に基づいて、発電機を界磁制御し、内燃機関の回転による発生トルクとに対して発電機の駆動トルクがバランスする回転数で発電機を回転駆動する発電制御装置とを備えた電気自動車が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開10−178705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジンのトルク脈動により、発電機で発電される電力が変動する、という問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、発電機で発電される電力の変動を抑制するトルク制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電流検出手段により検出された電流検出値を電流指令値と一致させるよう発電機を制御する電流制御手段に、エンジンの脈動による発電機の電圧脈動を抑制する電圧脈動抑止フィルタを設けることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジンのトルク脈動に起因して、発電機の回転数が脈動した場合に、回転数の脈動により発電機で誘起される電圧の脈動が抑制されるため、その結果として、発電機の電力変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係るトルク制御装置を含む車両のブロック図である。
【図2】図1の発電機、発電機インバータ及び発電機コントローラのブロック図を示す。
【図3】図2の回転数制御器のブロック図である。
【図4】図2の電流制御器のブロック図である。
【図5】図2の発電機、発電機インバータ及び発電機コントローラにおける、dq軸電流の時間特性を示すグラフである。
【図6】本発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる、電流制御器のブロック図である。
【図7】図6のバンドパスフィルタ(GBPF’(s))のボード線図であり、(a)はゲイン特性を、(b)は位相特性を示すグラフである。
【図8】本発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる、電流制御器のブロック図である。
【図9】図8のフィルタ、ハイパスフィルタ及びゲイン調整器により形成されるフィルタのボード線図であり、(a)はバンドパスフィルタのゲイン特性及び位相特性を、(b)はハイパスフィルタのゲイン特性及び位相特性を、(c)はフィルタ、ハイパスフィルタ及びゲイン調整器により形成されるフィルタのゲイン特性及び位相特性を示すグラフである。
【図10】本発明の他の実施形態に係るトルク制御装置における、dq軸電流の時間特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
《第1実施形態》
図1は、発明の実施形態に係るトルク制御装置を含む車両の概要を示すブロック図である。以下、本例のトルク制御装置をシリーズ型のハイブリッド車両に提供した例を挙げて説明するが、本例のトルク制御装置は、例えばエンジン及びモータを駆動源とするパラレル型のハイブリッド車両にも適用可能である。
【0011】
図1に示すように、本例のトルク制御装置を含む車両は、エンジン1と、発電機2と、回転角センサ3と、発電機インバータ4と、バッテリ5と、駆動インバータ6と、駆動モータ7と、減速機8と、駆動輪9と、エンジンコントローラ21と、発電機コントローラ30と、バッテリコントローラ23と、駆動モータコントローラ24と、システムコントローラ100とを備えている。
【0012】
エンジン1は、ガソリン、軽油その他の燃料を燃焼させてエネルギを出力軸に出力し、エンジンコントローラ21からの制御信号に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射バルブの燃料噴射量等を制御して駆動する。発電機2は、モータであり、エンジン1の出力軸に連結され、エンジン1により駆動される。また発電機2はエンジン1の始動時にエンジン1をクランキングしたり、また発電機2の駆動力を利用してエンジン1を力行回転させることで電力を消費させたりする。回転角センサ3は、発電機2のロータの回転角を検出するレゾルバ等で構成され、発電機2の回転数を検出するセンサであり、検出値を発電機コントローラ30に出力する。
【0013】
発電機インバータ4は、IGBT等のスイッチング素子を複数備え、発電機コントローラ30からのスイッチング信号により当該スイッチング素子のオン及びオフを切り替えることで、発電機2から出力される交流電力を直流電力に変換し、または直流電力から交流電力に逆変換する変換回路である。発電機インバータ4は、バッテリ5及び駆動インバータ6に接続されている。また発電機インバータ4には、後述する電流センサ37が設けられて、電流センサ37の検出値は発電機コントローラ30に出力される。バッテリ5は、発電機インバータ4と駆動インバータ6との間に接続され、駆動インバータ6に電力を供給し、発電機インバータ4からの電力により充電される二次電池である。駆動インバータ6は、発電機インバータ4あるいはバッテリ5から出力される直流電力を交流電力に変換して、駆動モータ7に当該交流電力を出力する変換回路である。駆動インバータ6は、駆動モータコントローラ24の制御信号に基づき制御される。また駆動インバータ6には、図示しない電流センサが設けられて、電流センサなどの検出値は駆動モータコントローラ24に出力される。
【0014】
駆動モータ7は、駆動インバータ6からの交流電力により駆動し、車両を駆動する駆動源である。また駆動モータ7には、図示しない回転角センサが接続され、当該回転角センサの検出値は駆動モータコントローラ24に出力される。駆動モータ7の出力軸は、減速機8及び左右のドライブシャフトを介して、左右の駆動輪9に連結されている。また駆動モータ7は、駆動輪9の回転により、回生駆動力を発生させることで、エネルギを回生する。
【0015】
エンジンコントローラ21は、システムコントローラ100から送信されるエンジントルク指令値及びエンジン1に設けられた空燃比センサ(図示しない)、酸素センサ(図示しない)の検出値、温度センサ等に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度や燃料噴射バルブの燃料噴射量、点火時期等を設定して、エンジン1を制御するためのコントローラである。発電機コントローラ30は、システムコントローラ100から送信される回転数指令値(ωCMD)、回転角センサ3の検出値及び発電機インバータ4に設けられている電流センサ37の検出値に基づいて、発電機インバータ4に含まれるスイッチング素子のスイッチング信号を設定して、発電機インバータ4を制御する。
【0016】
バッテリコントローラ23は、バッテリ5の電圧を検出する電圧センサ、バッテリ5の電流を検出する電流センサ等の検出値から、バッテリ5の充電状態(SOC:State of Charge)を計測して、バッテリ5の出力可能な電力量及び充電可能な充電電力量を管理する。駆動モータコントローラ24は、システムコントローラ100からの制御信号及び駆動モータ7に設けられる電流センサ(図示しない)の検出値や回転数に基づいて、駆動インバータを制御する。
【0017】
システムコントローラ100は、発電制御部10を有し、車両全体を制御するコントローラであって、エンジンコントローラ21、発電機コントローラ30、バッテリコントローラ23及び駆動モータコントローラ24を制御する。システムコントローラ100は、エンジンコントローラ21を介してエンジンの状態を管理し、発電機コントローラ30を介して発電機インバータ4の制御状態を管理し、バッテリコントローラ23を介してバッテリ5の状態を管理し、駆動モータコントローラ24を介して駆動インバータ6及び駆動モータ7を管理する。
【0018】
システムコントローラ100は、図示しない車速センサにより検出される車速、図示しないアクセル開度センサにより検出されるアクセルペダル操作量、及び、傾斜センサにより検出される勾配から車両の走行状態を検出して、バッテリ5の入出力可能電力、発電機2の発電電力等に応じて、駆動モータ7に電力を供給するために発電機2で発電される発電電力の目標値を設定する。
【0019】
発電制御部10は、発電電力の目標値(P(以下、目標発電電力と称す。))を実現するために、エンジントルク指令値及び発電トルク指令値(TCMD)を演算する。発電制御部10は、目標発電電力(P)を発電機2で発電させるために、エンジン1で最適なトルクになるよう、エンジントルク指令値及び発電機2の回転数指令値(ωCMD)を設定し、エンジンコントローラ21及び発電機コントローラ30にそれぞれ出力する。発電制御部10には、目標発電電力(P)に対してエンジン1の最適なトルク特性を示すマップが予め格納されており、発電制御部10は、目標発電電力(P)を入力として当該マップを参照することで、エンジントルク指令値及び発電機2の回転数指令値(ωCMD)を演算する。
【0020】
次に、図2を用いて、発電機コントローラ30の構成を説明する。図2は発電機コントローラ30、発電機モータ2及び回転角センサ3のブロック図である。発電機コントローラ30は、回転数制御器31、電流指令値演算器32、電流制御器33、非干渉化制御器34、三相二相電流変換器35、二相三相電圧変換器36とを備えている。
【0021】
回転数制御部31は、発電制御部10から送信される回転数指令値(ωCMD)と回転角センサ3の検出値に相当する、発電機2の回転数検出値(ω)とに基づいて、回転数検出値(ω)を回転数指令値(ωCMD)と一致させるための発電機2のトルク指令値(TCMD)を演算し、当該トルク指令値(TCMD)を電流指令値演算器32に出力する。なお、回転数制御部31の具体的な構成は後述する。
【0022】
電流指令値演算器32は、トルク指令値(TCMD)、回転数検出値(ω)、及び、バッテリ5から発電機インバータ4に入力される電圧(Vdc)に基づいて、dp軸電流指令値(i、i)を演算し、当該dp軸電流指令値(i、i)を出力する。電圧(Vdc)は、バッテリ5と発電機インバータ4との間に接続されている電圧センサ(図示しない)により検出される。電流指令値演算器32には、トルク指令値(TCMD)、回転数検出値(ω)、電圧(Vdc)を指標として、dq軸電流指令値(i、i)を出力するためのマップが格納されている。当該マップは、トルク指令値(TCMD)、回転数検出値(ω)及び電圧(Vdc)の入力に対して、発電機インバータ4の損失及び発電機モータ2の損失を最小限に抑える最適な指令値を出力するよう対応づけられている。電流指令値演算器32は、当該マップを参照することにより、入力されたトルク指令値(TCMD)、回転数検出値(ω)及び電圧(Vdc)に対応する、dq軸電流指令値(i、i)を演算し、出力する。ここで、dq軸は、回転座標系の成分を示している。
【0023】
電流制御器33は、dq軸電流指令値(i、i)、回転数検出値(ω)及びdq軸電流(i、i)を入力として、制御演算を行い、dq軸電圧指令値(V、V)を出力する。なお、電流制御器33の具体的構成は後述する。
【0024】
非干渉化制御器34は、dq軸電圧指令値(V、V)に含まれる干渉電圧を打ち消すための非干渉化電圧を算出する。ここで、発電機2として、IPMモータ(Interior Permament Magnet Motor)を用いた場合に、発電機2の電圧方程式をdp座標で表現すると、以下の式(1)により表される。
【数1】

はd軸インダクタンス、Lはq軸インダクタンス、Rは巻線抵抗、ωreは電気角速度、φは磁束密度、pは微分演算子である。
【0025】
式(1)を各成分に分けてラプラス変換して変形すると、次式で表される。
【数2】

【0026】
ただし、制御対象モデルGpd、Gpqはそれぞれ次式で表される。
【数3】

【0027】
式(2)に示されるように、d軸及びq軸に電流が流れると、d軸とq軸との間で干渉し合う速度起電力が発生するため、当該速度起電力を打ち消す非干渉化電圧(Vddcpl、Vqdcpl)を、以下の式(4)により算出する。
【数4】

【0028】
非干渉化制御器34は、式(4)を用いて、非干渉化電圧(Vddcpl、Vqdcpl)を算出して、d軸の減算器341及びq軸の加算器342に出力する。そして、d軸の減算器341により、電流制御器33から出力されるd軸電圧指令値(V)からd軸非干渉化電圧(Vddcpl)を減算し、q軸の加算器342により、電流制御器33から出力されるq軸電圧指令値(V)からq軸非干渉化電圧(Vqdcpl)を加算することで、式(2)の干渉項が打ち消され、次式が導出される。
【数5】

【0029】
これにより、d軸とq軸との間で干渉し合うことで発生した速度起電力が打ち消され、d軸の減算器341及びq軸の加算器342により算出されたdp軸電圧指令値(V’、V’)が二相三相電圧変換器36に出力される。
【0030】
電流センサ37は、U相及びV相にそれぞれ設けられ、相電流(i、i)を検出し、三相二相電流変換器35に出力する。三相二相電流変換器35は、入力された相電流(i、i)からw相の相電流(i)を算出した上で、固定座標系の相電流(i、i、i)を回転座標系のdp軸電流(i、i)に変換し、当該dp軸電流(i、i)を電流制御器33及び非干渉化制御器34に出力する。
【0031】
二相三相電圧変換器36は、回転座標系のdq軸電圧指令値(V’、V’)を固定座標系のu、v、w軸の電圧指令値(V、V、V)に変換し、発電機インバータ4に出力する。
【0032】
発電機インバータ4は、入力される電圧指令値(V、V、V)に基づき、発電機インバータ4に含まれるインバータ回路のスイッチング素子のスイッチング信号を生成し、当該スイッチング素子のPWM制御を行う。そして、当該スイッチング素子のスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧(V、V、V)に変換し、電動機モータ2に出力する。
【0033】
次に、図3を用いて、回転数制御器31の具体的な構成を説明する。図3は回転数制御器31のブロック図である。回転数制御器31は、補償器311と、回転脈動除去フィルタ312とを備えている。
【0034】
補償器311はPID補償器で構成され、以下の式(6)を用いて、発電機トルク指令値(TCMD)出力する。
【数6】

ただし、Kは比例ゲイン、Kは積分ゲイン、Kは微分ゲイン、Tは近似微分の時定数、sはラプラス演算子である。また回転数指令値(ωCMD)は目標発電電力に応じて変化する。
【0035】
後述するように、回転数演算値(ω)は発電機2の回転数を回転脈動除去フィルタ312に通し、フィードバック制御することで演算される値であり、補償器311は、式(6)を用いることで、回転数演算値(ω)を回転数指令値(ωCMD)に一致させるように、発電機トルク指令値(TCMD)を演算する。
【0036】
回転脈動除去フィルタ312は、エンジン1のトルク脈動に起因する回転数の脈動成分を除去するためのフィルタであり、回転数検出値(ω)から回転数脈動成分を除去した回転数演算値(ω)を演算する。回転脈動除去フィルタ312は、制御対象モデル(Gp)312a、減算器312b、312f、312hと、バンドパスフィルタ312cと、ハイパスフィルタ312d、312eと、加算器312gとを備えている。
制御対象モデル312aは、本例における制御対象をモデル化(線形化)した伝達関数によって表され、以下の式2で表される。
【数7】

Jは発電機2、エンジンクランクシャフト系の合計イナーシャ、Dは潤滑油の粘性摩擦係数である。
【0037】
制御対象モデル312aは、発電機トルク指令値(TCMD)を入力として、式(7)を用いて、推定値(G・TCMD)を推定する。
【0038】
減算器312bは、回転角センサ3の検出値に相当する、発電機2の回転数検出値(ω)から制御対象モデル312aの推定値を減算し、回転数(ω)をバンドパスフィルタ312c及びハイパスフィルタ312dに出力する。すなわち、回転数(ω)は以下の式(8)により演算される。
【数8】

【0039】
バンドパスフィルタ312cは、エンジン1のトルク脈動に起因し、発電機2の回転数に含まれる脈動成分をフィルタリングするためのフィルタであり、少なくともエンジン1の間欠燃焼周波数を通過周波数とするフィルタにより構成され、回転数の脈動値成分を除去するためのフィードバック要素となる。バンドパスフィルタ312cの伝達特性(GBPF)は以下の式(9)により表される。
【数9】

ζは減衰係数である。ωnは固有振動数であり、バンドパスフィルタ312cの通過周波数のうち、中心周波数に相当する。固有振動数(ωn)は、エンジン1の間欠燃焼周波数と一致するように調整される周波数である。エンジン1の間欠燃焼周波数は、多気筒のエンジン1の燃焼周期により設定される周波数である。
【0040】
固有振動数(ωn)は、エンジン1が4気筒のエンジンである場合に、回転数検出値(ω)を用いて以下の式(10)により表される。なお、ωの単位はrad/s、ωまたはωCMDの単位はrad/sである。
【数10】

【0041】
そして、減衰器312bの出力値である回転数(ω)がバンドパスフィルタ312cを通過し、バンドパスフィルタ312cから出力される回転数(ω)が出力される。回転数(ω)は、式(11)により表される。
【数11】

回転数(ω)は、回転数検出値(ω)の脈動量に相当し、回転数脈動値(ω)に相当する。
【0042】
ハイパスフィルタ312dは、回転数検出値(ω)から、エンジン1のピストン及びクランク機構の往復動を起因としたトルク脈動によって生じる回転数の脈動成分及び高周波ノイズ成分をフィルタリングするためのフィルタであり、回転数(ω)を入力として、伝達関数(GHPF)で示されるフィルタを通して、回転数(ω)を出力する。
【数12】

ωはハイパスフィルタ136のカットオフ周波数であり、エンジン1の間欠燃焼周波数より高い周波数に設定される。
【0043】
そして、ピストン及びクランク機構の往復動を起因としたトルク脈動に起因する回転数脈動及び高周波ノイズに相当する回転数(ω)は以下の式(13)により算出される。
【数13】

【0044】
ハイパスフィルタ312eは、回転数(ω)に含まれ、エンジン1の間欠燃焼を起因としたエンジントルク脈動によって生じる回転数の脈動成分をフィルタリングするフィルタである。フィルタの伝達関数は、ハイパスフィルタ312dの伝達関数(GHPF)と同様である。当該脈動成分に相当する回転数(ω)は以下の式(14)により算出される。
【数14】

【0045】
減算器312fは回転数(ω)から回転数(ω)を減算し、加算器312gは回転数(ω)に減算器312fの演算値を加算する。そして、減算器312hにより、回転数検出値(ω)から、加算器312gの演算値を減算することで、回転数検出値(ω)から、エンジン間欠燃焼に起因する回転数脈動と、ピストン・クランク機構の往復慣性力に起因する回転数脈動や高周波ノイズ成分とが減算され、回転数演算値(ω)が式(15)により算出される。
【数15】

【0046】
次に、図4を用いて、電流制御器33の具体的な制御構成を説明する。図4は電流制御器33のブロック図であり、式(5)の等価モデルを示す。電流制御器33は、PI制御器331と電圧脈動抑止フィルタ332とを備えている。図4に示すように、電流制御器33で演算された電圧指令値(V、V)に、外部から入力された脈動外乱dを加算した指令値に基づいて、制御対象モデル(G(s))により示される発電機2及びエンジン1が駆動され、駆動時の発電機2の電流が電流センサ37により検出される。そして、電流検出値(i、i)が電流演算器33にフィードバックされる。
【0047】
PI制御器331は、dp軸電流指令値(i、i)と、電流センサ37の検出値に相当するdp軸電流(i、i)とに基づいて、次式(16)を用いて、dp軸電流(i、i)をdp軸電流指令値(i、i)に一致させるための第1の電圧指令値(V**、V**)を演算する。
【数16】

ただし、KPd、KPqは比例ゲイン、Kid、Kiqは積分ゲインである。PI制御器331により演算された第1の電圧指令値(V**、V**)は電圧脈動抑止フィルタ332に出力される。
【0048】
電圧脈動抑止フィルタ332は、減算器332b、332dと、制御対象モデル332aと、フィルタ332cとを有している。制御対象モデル332aは、式(7)で示される伝達関数Gp(s)を有し、後述する第2の電圧指令値(V、V)を入力として、制御対象モデルGp(s)からの出力電流を推定する。減算器332bは、電流検出値(i、i)から制御対象モデル332aの推定値を減算し、演算値をフィルタ332cに出力する。
【0049】
フィルタ332cは、制御対象モデルGp(s)と、バンドパスフィルタの伝達関数GBPF(s)で示されるモデルとを用いたモデルGBPF(s)/Gp(s)をフィルタ特性にもつフィルタである。バンドパスフィルタ(GBPF(s))は次式の伝達特性を有する。
【数17】

ζは減衰係数である。ωnは固有振動数であり、バンドパスフィルタの通過周波数のうち、中心周波数に相当する。固有振動数(ωn)は、エンジン1の間欠燃焼周波数と一致するように調整される周波数である。
【0050】
固有振動数(ωn)は、エンジン1が4気筒のエンジンである場合に、回転数検出値(ω)を用いて以下の式(18)により表される。なお、ωの単位はrad/s、ωまたはωCMDの単位はrad/sである。
【数18】

すなわち、式(18)に示すように、フィルタ332cに含まれるバンドパスフィルタの通過周波数(固有振動数(ωn)に相当)は、回転数検出値(ω)に基づいて設定される。
【0051】
そして、減算器332bの演算値を伝達関数GBPF(s)/Gp(s)で示されるフィルタ332cを通すことで、次式のように脈動外乱推定値を演算する。
【数19】

ただし、、は脈動外乱推定値である。脈動外乱推定値は、エンジンのトルク脈動に起因して、発電機2で誘起される電圧の脈動成分に相当する。
【0052】
そして、減算器332dにより、第1の電圧指令値(V**、V**)から脈動外乱推定値を減算することで、次式(20)で示されるように、第2の電圧指令値(V、V)を演算する。
【数20】

第2の電圧指令値(V、V)は、dq軸電流指令値(V、V)に相当し、二相三相電圧変換器36に出力され、発電機インバータ4を制御するための指令値となる。これにより、フィルタ332cによって、エンジンのトルク脈動に起因して、発電機2で誘起される電圧の脈動が抽出され、減算器332dによって電圧指令値(V**、V**)から電圧脈動を除去することで、電圧脈動が抑制される。
【0053】
次に、本例のトルク制御装置において、電圧脈動外乱(d)を印加した場合のdq軸電流(i、i)の特性を、シミュレーション結果である図5を用いて説明する。図5はdq軸電流(i、i)の時間特性を示すグラフである。図5のうち、グラフaは本例のトルク制御装置の特性を示し、グラフbは本例に対する比較例であり、電圧脈動抑止フィルタ332を用いたトルク制御を行わない場合の特性である。
【0054】
図5に示すように、比較例では、脈動外乱に伴ってdq軸電流が脈動している。一方、本例ではdq軸電流の脈動が抑制されている。
【0055】
上記のように、本例において、電流検出値(i、i)を電流指令値(i、i)と一致させるよう発電機2を制御する電流制御器33は、エンジン1の脈動による発電機2の電圧脈動を抑制する電圧脈動フィルタ332を有している。これにより、エンジントルク脈動に起因する電圧の脈動を抑制した上でトルクを制御するため、発電機2の発電電力の変動を抑制することができる。
【0056】
本例と異なり回転脈動除去フィルタ312を用いることなく、回転数指令値と回転数検出値とが一致するように、発電機2のトルクを制御した場合には、発電機トルクの応答遅れやセンサの検出遅れが存在するため、通常の発電領域では回転数の脈動を抑制することができない。そのため、回転数脈動により、発電機モータに発生する誘起電圧が脈動し、発電電力が変動してしまう。
【0057】
また本例とは異なる比較例として、トルク制御装置に、エンジンの脈動を起因とした回転数の脈動成分を除去するフィルタのみを設けた場合には、回転数の脈動が抑制されるため、発電機2のトルク脈動は発生しない。しかし、エンジンのトルク脈動に起因して、発電機モータで発生する誘起電圧が脈動するため、発電電力の脈動が発生してしまう。
【0058】
本例では、上記のように、エンジン1のトルク脈動により発電機2の誘起電圧が脈動したとしても、電圧脈動抑止フィルタ332により電圧脈動が抑制されるため、発電機2における発電電力の変動を防ぐことができる。
【0059】
また本例において、電圧脈動抑止フィルタ332は、伝達関数GBPF(s)/G(s)で表されるフィルタを有し、第2の電圧指令値(V、V)を入力として制御対象モデルG(s)の出力電流の推定値を推定し、当該推定値と電流検出値(i、i)との差から当該フィルタを用いて、脈動外乱推定値を演算し、第1の電圧指令値(V**、V**)と脈動外乱推定値との差から第2の電圧指令値(V、V)を演算する。これにより、伝達関数GBPF(s)で表されるバンドパスフィルタは、エンジン1の間欠燃焼周波数を通過周波数としているため、フィルタ(GBPF(s)/G(s))により、エンジン1のトルク脈動に起因する電圧脈動を推定することができる。そして、電圧指令値から推定した電圧脈動を減算することで、電圧脈動が除去され、電流脈動の発生を抑制することでき、その結果として、発電電力の変動を抑制することができる。
【0060】
また本例において、フィルタ332cに含まれるバンドパスフィルタの通過周波数(固有振動数(ωn)に相当)は、回転数検出値(ω)に基づいて設定される。これにより、エンジン1の回転数に応じてエンジン1の間欠燃焼周波数が変化した場合でも、回転数検出値に応じてバンドパスフィルタの中心周波数が調整されるため、エンジン1の回転数に応じて電圧脈動を抑制することができ、発電電力の変動を抑制することができる。
【0061】
なお、本例は回転数制御器31に回転脈動除去フィルタ312を設けたが、必ず回転脈動除去フィルタ312を設ける必要はなく、少なくとも電流制御器33に電圧脈動抑止フィルタ332を設ければよい。
【0062】
上記発電制御部10が本発明に係る「指令値演算手段」に相当し、回転角センサ3が本発明の「回転数検出手段」に、回転数制御器31が本発明の「発電機トルク指令値演算手段」に、電流指令値演算器32が本発明の「電流指令値演算手段」に、電流センサ37が本発明の「電流検出手段」に、少なくとも電流制御器33を含む制御部分が本発明の「電流制御手段」に、PI制御器331が「電圧指令値演算手段」に、発電機インバータ4が本発明の「インバータ」に、制御対象モデルGp(s)332aが本発明の「制御対象モデル推定手段」に相当し、脈動外乱推定値が「電圧脈動推定値」に相当する。
【0063】
《第2実施形態》
図6は、発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる電流制御器33のブロック図を示す。本例では上述した第1実施形態に対して、バンドパスフィルタの通過周波数を補正する点が異なる。これ以外の構成は上述した第1実施形態と同じであるため、その記載を援用する。
【0064】
図6に示される遅れ時間(e−st1)は、発電機インバータ4に電圧指令値が入力されてから、発電機インバータ4が実際にモータ2を制御するための電圧指令値を出力するまでの応答時間による遅れ時間を示している。また遅れ時間(e−st2)は電流センサ37における検出遅れによる遅れ時間を示している。以下、発電機インバータ4における電圧出力応答の無駄時間をtとし、電流センサ37の電流検出に伴う時間遅れをtとし、エンジン1の間欠燃焼周波数をωnとし、位相補正後のバンドパスフィルタの中心周波数(ω)を算出する。
【0065】
まずωnにおける無駄時間分の位相補正量(φ)は式(21)により算出される。
【数21】

【0066】
フィルタ332cに含まれるバンドパスフィルタ(GBPF’(s))は式(22)で表される。
【数22】

【0067】
式(22)にs=jωを代入すると、式(23)のように整理される。
【数23】

【0068】
【数24】

【0069】
そして、式(24)の二次方程式を解くと、位相補正後のバンドパスフィルタの中心周波数(ω)は式(25)で表される。
【数25】

【0070】
フィルタ322cにおいて、バンドパスフィルタの中心周波数を式(25)に基づいてシフトさせた場合に、バンドパスフィルタ(GBPF’(s))からの出力ゲインが、間欠燃焼周波数(ω)において減少する。そのため、本例では、フィルタ332cの出力側に、ゲイン調整器332fを設けている。ゲイン調整器332fに、ゲイン(K’)を設定することで、バンドパスフィルタ(GBPF’(s))の中心周波数の補正によるゲイン減少を補正する。バンドパスフィルタ(GBPF’(s))の間欠燃焼周波数(ω)におけるゲインは、式(23)及び式(25)により、式(26)で表される。
【数26】

【0071】
そして式(26)から、ゲイン調整部332fのゲイン(K’)は式(27)により表される。
【数27】

【0072】
次に、図7を用いて、バンドパスフィルタ(GBPF’(s))のゲイン特性及び位相特性を説明する。図7はバンドパスフィルタ(GBPF’(s))のボード線図であって、(a)はゲイン特性を(b)は位相特性を示す。またグラフGBPFは位相補正前の特性を、グラフGBPF’は位相補正後の特性を、グラフ(K’・GBPF’)はゲイン調整後の特性を示す。
【0073】
図7に示すように、バンドパスフィルタ(GBPF(s))の中心周波数(ω)を、位相補正量(φ)で補正して、中心周波数(ω)とすると、バンドパスフィルタ(GBPF’(s))の特性はシフトされる。この時、バンドパスフィルタ(GBPF’(s))のゲイン特性について、周波数(ω)に対応するゲインは、補正前と比較して減少している。そのため、ゲイン減少分に相当するゲイン(K’)を、バンドパスフィルタ(GBPF’(s))のゲイン特性に乗算することで、周波数(ω)に対応するゲインは、位相補正前のゲインと等しくなる。
【0074】
これにより、本例は、発電機インバータ4の応答時間による時間遅れ及び電流センサ37の電流検出による時間遅れによって、実際の電圧脈動の位相がずれた場合に、フィルタ332cに含まれるバンドパスフィルタ(GBPF’(s))の通過周波数を補正することで、電圧脈動の位相と、フィルタ332cから出力される脈動外乱推定値の位相とを一致させることができる。また、本例は、ゲイン調整部332fによりゲイン調整することで、上記の位相補正により、間欠燃焼周波数(ω)のゲイン減少を補正する。
【0075】
上記のように、本例の電圧脈動抑止フィルタ332において、バンドパスフィルタの通過周波数は、発電機インバータ4へ電圧指令値を入力してから発電機インバータ4により発電機2の制御電圧(V、V、V)を出力するまでの無駄時間(t)及び電流センサ37の検出遅れによる無駄時間(t)に基づいて設定された補正量(φ)により補正されている。これにより、無駄時間(t、t)によって生じる位相遅れが補正されるため、脈動外乱推定値の位相と電圧脈動の位相を一致させることができ、発電電力の変動を抑制することができる。
【0076】
また、本例において、電圧脈動抑止フィルタ332は、バンドパスフィルタの通過周波数を補正することで減少した脈動外乱推定値のゲインを調整するゲイン調整器332fを有している。これにより、脈動外乱推定値の振幅と電圧脈動の振幅とを一致させることができ、発電電力の変動を抑制することができる。
【0077】
なお本例において、位相補正量(φ)は、無駄時間(t)及び無駄時間(t)に基づいて設定されたが、無駄時間(t)又は無駄時間(t)の少なくともいずれか一方の無駄時間に基づいて設定すればよい。
【0078】
上記のゲイン調整器332fが本発明の「ゲイン調整手段」に相当する。
【0079】
《第3実施形態》
図8は、発明の他の実施形態に係るトルク制御装置に含まれる電流制御器33のブロック図を示す。本例では上述した第2実施形態に対して、電圧脈動抑止フィルタ332にハイパスフィルタ332h及びゲイン調整器332hを設ける点が異なる。これ以外の構成は上述した第1実施形態と同じであるため、第1又は第2実施形態の記載を適宜、援用する。
【0080】
ハイパスフィルタ332gはフィルタ332cの出力側に設けられ、ゲイン調整部332hはハイパスフィルタ332gの出力側に設けられる。そして、ゲイン調整部332hの出力値が減算器332dに出力される。無駄時間(t、t)によって、実際の電圧脈動の位相がずれた場合には、フィルタ332cから出力される脈動外乱推定値の位相と電圧脈動の位相とが不一致になってしまい、位相がずれた推定値に基づいてフィードバック制御を行ったとしても、脈動電圧が十分に抑制できない可能性がある。そのため、本例では、フィルタ332cの出力を、ハイパスフィルタ332に通すことで、位相補正を行う。
【0081】
ハイパスフィルタ332gのフィルタ特性(GHPF(s))は式(28)で表される。
【数28】

ただし、ωはハイパスフィルタ332gのカットオフ周波数である。
【0082】
式(28)にs=jωを代入すると、式(29)のように整理される。
【数29】

【0083】
【数30】

【0084】
そして、式(29)に式(30)を代入し、ハイパスフィルタ(GHPF(s))の周波数ωにおけるゲインは、式(31)により表される。
【数31】

【0085】
式(31)で示されるように、フィルタ332cの出力側にハイパスフィルタ332gを設けることで位相補正を行った場合には、周波数ωにおけるゲインが減少する。そのため、本例ではゲイン調整器332hを設けて、位相補正によるゲイン減少を補正する。ゲイン調整器332hのゲイン(K)は式(32)により表される。
【数32】

【0086】
次に、図9を用いて、フィルタ332c、ハイパスフィルタ332g及びゲイン調整器332hにより形成されるフィルタのゲイン特性及び位相特性を説明する。図9はフィルタ332c、ハイパスフィルタ332g及びゲイン調整器332hにより形成されるフィルタのボード線図であって、(a)はバンドパスフィルタ332cのゲイン特性及び位相特性を、(b)はハイパスフィルタ332gのゲイン特性及び位相特性を、(c)はフィルタ332c、ハイパスフィルタ332g及びゲイン調整器332hにより形成されるフィルタのゲイン特性及び位相特性を示す。また図7(c)において、グラフ(GHPF・GBPF)はゲイン調整前の特性を、グラフ(K・GHPF・GBPF)はゲイン調整後の特性を示す。
【0087】
図9(b)に示すように、バンドパスフィルタの中心周波数(ω)において、ハイパスフィルタ332gのゲインは、ゲイン(K)分、減少している。そして、図9(c)に示すように、バンドパスフィルタのゲインとハイパスフィルタ332gのゲインとを積算したゲイン特性(GHPF・GBPF)は、バンドパスフィルタの中心周波数(ω)において、0dBより小さくなっているが、ゲイン調整部332hによりゲイン調整したゲイン特性(K・GHPF・GBPF)では、周波数(ω)のゲインが0dBになっている。
【0088】
次に、本例のトルク制御装置において、電圧脈動外乱(d)を印加した場合のdq軸電流(i、i)の特性を、シミュレーション結果である図10を用いて説明する。図10はdq軸電流(i、i)の時間特性を示すグラフである。図5のうち、グラフaは本例のトルク制御装置の特性を示し、グラフbは本例に対する比較例であり、電圧脈動抑止フィルタ332を用いたトルク制御を行わない場合の特性である。
【0089】
図10に示すように、比較例では、脈動外乱に伴ってdq軸電流が脈動している。一方、本例ではdq軸電流の脈動が抑制されている。
【0090】
上記のように、本例において、脈動電圧抑止フィルタ332は、発電機インバータ4へ電圧指令値を入力してから発電機インバータ4により発電機2の制御電圧(V、V、V)を出力するまでの無駄時間(t)及び電流センサ37の検出遅れによる無駄時間(t)に基づいて設定された補正量(φ)により脈動外乱推定値の位相を補正するハイパスフィルタ332gを有する。これにより、無駄時間(t、t)によって生じる位相遅れが補正されるため、脈動外乱推定値の位相と電圧脈動の位相を一致させることができ、発電電力の変動を抑制することができる。
【0091】
また、第2の実施形態に係る脈動電圧抑止フィルタ332では、フィルタ332cに含まれるバンドパスフィルタの減衰係数を小さくした場合に、エンジン1の間欠燃焼周波数(ω)におけるゲインの減少幅が大きくなってしまう。一方、本例では、第2の実施形態に係るフィルタ332cと比較して、エンジン1の間欠燃焼周波数(ω)におけるゲインの減少幅を小さくすることができるため、バンドパスフィルタの減衰係数に依存することなく位相を補正することができる。
【0092】
本例において、電圧脈動抑止フィルタ332は、ハイパスフィルタ332gにより脈動外乱推定値の位相を補正することで減少したゲインを調整するゲイン調整器332hを有している。これにより、脈動外乱推定値の振幅と電圧脈動の振幅とを一致させることができ、発電電力の変動を抑制することができる。
【0093】
また、第2の実施形態に係る脈動電圧抑止フィルタ332では、位相補正後の中心周波数(ω)におけるバンドパスフィルタのゲインが0dBより高くなり、中心周波数(ω)の信号が増幅される。かかる状態で、エンジン1の回転数が変化した場合には、回転角センサ3の検出遅れにより、回転数の変化に対してバンドパスフィルタの中心周波数の補正が遅れる可能性がある。そのため、バンドパスフィルタの中心周波数と電圧脈動周波数とがずれてしまい、電圧脈動を推定することができない可能性がある。
【0094】
一方、本例では、ゲイン調整器332hによるゲイン調整によって、エンジン間欠燃焼周波数(ω)付近でゲインが0dBより大きくならないため、脈動外乱推定値が増幅せず、発電電力の変動を抑制することができる。
【0095】
なお本例において、位相補正量(φ)は、無駄時間(t)及び無駄時間(t)に基づいて設定されたが、無駄時間(t)又は無駄時間(t)の少なくともいずれか一方の無駄時間に基づいて設定すればよい。
【0096】
上記のゲイン調整器332hが本発明の「ゲイン調整手段」に相当する。
【符号の説明】
【0097】
1…エンジン
2…発電機
3…回転角センサ
4…発電機インバータ
5…バッテリ
6…駆動インバータ
7…駆動モータ
8…減速機
9…駆動輪
21…エンジンコントローラ
30…発電機コントローラ
31…回転数制御部
311…補償器
312…回転脈動除去フィルタ
312a…制御対象モデル
312b、312f…減算器
312c…バンドパスフィルタ
312d、312e…ハイパスフィルタ
312g…加算器
32…電流指令値演算器
33…電流演算器
331…PI制御器
332…電圧脈動抑止フィルタ
332a…制御対象モデル
332b、332d…減算器
332c…フィルタ
332f…調整器
332g…ハイパスフィルタ
332f、332h…ゲイン調整器
34…非干渉化制御器
341…減算器
342…加算器
35…三相二相電流変換器
36…二相三相電圧変換器
37…電流センサ
23…バッテリコントローラ
24…駆動モータコントローラ
100…システムコントローラ
10…発電制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される発電機を備えたハイブリッド車両に用いられるトルク制御装置において、
前記ハイブリッド車両の走行状態に応じて設定された前記発電機の目標発電電力に基づいて、エンジントルク指令値及び前記発電機の回転数指令値を演算する指令値演算手段と、
前記発電機の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記回転数検出手段により検出された回転数検出値と前記回転数指令値とに基づいて、発電機トルク指令値を演算する発電機トルク指令値演算手段と、
前記発電機トルク指令値に基づき、前記発電機の電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、
前記発電機の入力電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出された電流検出値を前記電流指令値と一致させるよう前記発電機を制御する電流制御手段とを備え、
前記電流制御手段は、
前記エンジンの脈動による前記発電機の電圧脈動を抑制する電圧脈動抑止フィルタを有する
ことを特徴とするトルク制御装置。
【請求項2】
第2の電圧指令値に基づいて、前記発電機を駆動させるインバータをさらに備え、
前記電流制御手段は、
前記電流指令値と前記電流検出値に基づいて、第1の電圧指令値を演算する電圧指令値演算手段を有し、
前記電圧脈動抑止フィルタは、
前記第2の電圧指令値を入力として、制御対象をモデル化した制御対象モデルGp(s)の出力電流を推定する制御対象モデル推定手段と、
前記G(s)と、前記エンジンの間欠燃焼周波数を通過周波数とするバンドパスフィルタのモデルGBPF(s)とを用いたモデルGBPF(s)/G(s)を含むフィルタとを有し、
前記制御対象モデル推定手段により推定された推定値と前記電流検出値との差から前記フィルタを用いて、前記電圧脈動の推定値である電圧脈動推定値を演算し、
前記第1の電圧指令値と前記電圧脈動推定値との差から前記第2の電圧指令値を演算する
ことを特徴とする請求項1記載のトルク制御装置。
【請求項3】
前記通過周波数は、前記回転数検出値に基づいて設定される
ことを特徴とする請求項2記載のトルク制御装置。
【請求項4】
前記バンドパスフィルタの通過周波数は、
前記インバータへ前記第2の電圧指令値を入力してから前記インバータにより前記発電機の制御電圧を出力するまでの無駄時間、又は、前記電流検出手段の検出遅れによる無駄時間の少なくとも一方の無駄時間に基づいて設定された補正量により、補正される
ことを特徴とする請求項2又は3記載のトルク制御装置。
【請求項5】
前記電圧脈動抑止フィルタは、
前記バンドパスフィルタの通過周波数を補正することで減少した前記電圧脈動推定値のゲインを調整するゲイン調整手段を有する
ことを特徴とする請求項4記載のトルク制御装置。
【請求項6】
前記電圧脈動抑止フィルタは、
前記インバータへ前記第2の電圧指令値を入力してから前記インバータにより前記発電機の制御電圧を出力するまでの無駄時間、又は、前記電流検出手段の検出遅れによる無駄時間の少なくとも一方の無駄時間に基づいて設定された補正量により、前記電圧脈動推定値の位相を補正するハイパスフィルタを有する
ことを特徴とする請求項2または3に記載のトルク制御装置。
【請求項7】
前記電圧脈動抑止フィルタは、
前記ハイパスフィルタにより前記電圧脈動推定値の位相を補正することで減少した前記電圧脈動推定値のゲインを調整するゲイン調整手段を有する
ことを特徴とする請求項6記載のトルク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−90349(P2013−90349A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225531(P2011−225531)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】